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ゼロからの漆 ”うるし”って、、何? 14228日金曜日

ゼロからの漆

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ゼロからの漆”うるし”って、、何?

14年2月28日金曜日

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うるしって? 漆をご存じでしょうか? 日本の伝統、上等な器、華麗な装飾…さまざまな印象があるにせよ、取りあえずはご存じだと思います。一方で日頃漆器を使っている人はあまり多くありません。つまり生活実感として私たちはあまり「知らない」と言っていいようです。また「漆器」は知っていても「漆」そのものがどんなものなのか、木の樹液であることを知っている人も多くはないでしょう。

「漆器」で画像検索してみました。

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まずは漢字から

漆14画と多いですがまずは書いてみて下さい。

実は常用漢字なのです。

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樹液です。 漆はウルシの木から採れる樹液です。漆の木を傷つけると樹液がしみだしてきます。傷ついた部分を修復しようと樹液が固まります。まさに人の血液がかさぶたを作るように漆も身を守るために樹液を出します。これが漆です。傷回りを清潔に保つため、漆は抗菌作用を持っています。比較的脆弱(ぜいじゃく)な樹種であるために抗菌力を備えたとも言われています。こうした漆の振る舞いを見て、先人はその機能に気づき生活を整える材料として使い始めたのかもしれません。

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固まる 製品としての使用は9000年前にまでさかのぼるとも言われています。固まる性質を利用して糸を固めた装飾品が作られたり、素焼き土器表面に塗装されたりしました。天平時代には麻布を漆で固める乾漆(かんしつ)という技法で仏像も作られました。現代の技術ではFRPですね。中空で軽く運搬が容易なため、度重なる伽藍(がらん)の焼失を経ても興福寺の国宝阿修羅像は、1300年たった今でも当時のみずみずしい姿を現代に伝えています。

奈良 興福寺 国宝 乾漆八部衆立像 阿修羅像 出典:http://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s16.html

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赤い漆  古代の遺跡から出土する赤い漆は弁柄(べんがら)、すなわち酸化鉄、つまりさびですね、これを比較的低温(800~1000度)で焼いて得られる赤い顔料で作られました。昔から赤い漆が多いのは、こうした天然の顔料が手に入りやすかったことが一因です。時代が下ると硫化水銀、天然では辰砂(しんしゃ)という名前の鉱物を原料とした銀朱と呼ばれる朱が使われるようになります。辰砂は丹砂(たんしゃ)や丹朱とも呼ばれます。現在でも「丹」がつく地名が日本各地に見られますが、これは赤い顔料が産出された地域の名残とも言われます。

縄文時代後期新潟県青田遺跡「赤漆塗り糸玉」

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黒い漆 漆は硬化する過程で自然に黒褐色に変色します。鉄粉や油煙(ゆえん)などのすすを添加すると、さらに反応が進んでまさに漆黒と呼ばれる深い黒が得られます。世界にもまれに見るこの「黒さ」は中世ヨーロッパの絵師の心を捉えたといいます。教会の壁面や天井を彩るフレスコ画と呼ばれる障壁画は、白いしっくいを下地とするため、色彩の発色はとても良い一方で、黒の表現は「濃いグレー」に留まらざるを得ず、黒の表現に苦慮していたからです。

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本当はどんな色? 漆には赤と黒しかないのですか?という質問をよく頂きます。確かに赤や黒は漆の色として最もポピュラーですが、樹液としてのそもそもの漆は白濁した茶褐色をしています。そこから不純物と一定の水分を取り除くと、透明感のある飴(あめ)色になります。ここに鉱物系の顔料を混ぜ合わせて色漆を作ります。現在では赤、黄、青の三原色と白の顔料があり、これに黒漆を組み合わせることで、絵の具を混ぜるように原理的にはどんな色も表現することができます。

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抗菌作用も あまり知られていませんが、漆には天然の抗菌作用があります。禅寺では食後のお茶わんにお湯を注いで飲み干したあと、布巾で丁寧に拭いておしまいにしますが、これも漆器の抗菌作用あってのことでしょう。日本の湿潤な気候においても衛生的に保たれるということで、食器が漆塗りであることにはとても意義があります。もちろん耐水性ですから、風呂場などの水回りにも好適です。しかも防腐!

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こどもにも安心 一般的に「塗り」と呼ばれる技法のほかにも、木材の表面に擦り込むようにして漆を浸透させる「拭き漆(ふきうるし)」という技法があります。これは植物油などで希釈した漆を刷毛で塗って、染み込み具合をみながら端布などで余分を拭き取る工程を数回繰り返すという、特別な道具の要らない技法です。木目が美しく透けて見えるのが特徴です。室内環境を衛生的に保つことができる、ということでこの拭き漆の床を採用する保育園もあります。手にした物をすぐに口に入れてしまう小さな子どものおもちゃや積み木なども、漆を使えば親御さんも安心ですね。

学生と一緒に園長先生自ら漆塗りをしました

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とても頑丈な乾漆 乾漆とは麻布などを漆で固める造形技法です。繊維強化プラスチック(FRP)が合成繊維を合成樹脂で固めるのに対して、天然繊維を天然樹脂たる漆で固めるという点において、FRPに先立つことはるか千年以上も前に確立された技法です。実験によって木材と同程度の強度が実証されており、乾漆は現代にも十分よみがえる可能性のある天然素材・技法なのです。デジタル技術によって人が座っても平気な、漆と布だけで出来ている椅子がデザインされています。

土岐謙次x東京藝術大学建築科金田充弘研究室  JSPS科研費助成研究23611028

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とても手触りがいい 手触りは漆の最大の魅力かもしれません。ツルツルでもスベスベでもない、なんとも表現のしようのない、手にしっくりくる感じは携帯電話のような手に持つものには最適です。 プラスチックは風合いが失われていく一方ですが、 漆は長く使うと風合いも増すので、ますます手放せなくなります。

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けっこう現代的

写真:(C)KAMIYAMA PHOTO STUDIO

 こうした漆の性質を利用すると、現代の生活でも漆にはまだまだ活躍の余地があります。プラスチックのピカピカした表面は指紋がつくのが難点ですが、漆は人の手脂と相性が良く、手が触れるところがみすぼらしくなりません。色も自在に調整できますからソファーとのコーディネートもバッチリですね。漆は熱にも強いので床暖房仕様の建材に拭き漆(しかもグレーで)することで足触りの良い、快適で衛生的なリビングになります。

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漆xレーザーカッター 漆の表面に彫刻刀で模様を彫り込んで金箔を押し込む沈金(ちんきん)という伝統技法がありますが、レーザーカッターを使えば職人さんでなくても自在に絵柄を彫り込むことができます。漆の板をレーザーカッターで切断することも容易ですから、デジタルデザインを漆で実現することも可能です。職人さんの中にはこうしたデジタル機材の可能性に気づき始めた方も居ます。アイデア次第では漆は新しい可能性に満ちています。

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じつは危機的状況 こんなに多才な漆ですが、現在、国内の漆産業では、原料たる漆の実に99・9パーセントを、中国を中心とする輸入に頼っています。その中国でも経済発展に伴って漆の生産量は減少し、また人件費の高騰により、以前は国産漆の10分の1程度であった価格が、現在では7分の1~5分の1程度となってきています。 一方、国産漆も、従事する職人さんの高齢化や、若年層の後継者不足などによって年々収量が減少しています。国産漆は外国産に比べて、光沢に優れ、硬化した塗膜はとても堅牢・強靱(きょうじん)で、古来、さまざまな建造物にも使われてきました。国宝や重要文化財の修復には国産漆が使われます。しかし、国産漆の減少と価格の高騰がこのまま続けば、文化財の保存もままならなくなるでしょう。

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じつは平野がいい ウルシ(樹木としての漆はウルシと書きます)は人里離れた山間部にひっそり、というイメージがありますが、時折「漆畑」という地名や名字があることからも分かるように、 ウルシは実は畑に植えられていたものです。江戸時代には、茶・桑・楮、三椏(こうぞ、 みつまた:紙漉きの原料)・桐・漆は五木(ごぼく)と称して畑に植えてよい樹木とされていたそうです。山間部に比べて平野部で管理育成することで労力の削減と健全で効率的な栽培が可能です。植栽から漆採取までは 10-15 年を要しますが、今この問題に向き合わないと、漆の文化そのものを失ってしまいます。

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あなたがつくる未来の漆 漆を、工芸としての理解だけでなく、さまざまな機能のある材料とそれを取り扱う技術として、現代的に再解釈すると、新しい漆の姿が見えてくるのではないでしょうか。全国の大学では、さまざまな研究を通して漆の新しい可能性が次々に解明されています。つい先日には、岩手医科大学薬学部創剤学講座の研究グループによって、漆の幹に血圧を低下させる成分が含まれている可能性が示唆されました。宮城大学では東日本大震災で被災して耕作放棄された海岸沿いの南三陸町長清水(ながしず)地区の平野部にウルシを植える活動を行っています。みなさんのアイデアが漆の未来を切り開くかも知れません。さて、あなたなら何に漆を使いますか?

http://kenjitoki.tumblr.com/

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