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yuichi-kuroki
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製薬会社社員対象の勉強会資料です。以前のものに加え、Toll like receptor, alarmin, PAMPsについてのスライドを追加しました。
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炎症・敗血症・凝固障害 についての理解を深める
中京病院救急科 黒木雄一
本日の目標
• SIRSとsepsisについて説明できる
• Sepsis, severe sepsis, septic shockについて説明できる
• SIRSにおける代表的なリガンドと受容体,細胞内情報伝達系について説明できる
• 凝固因子活性化経路,線溶・線溶阻止経路について説明できる
• 炎症と凝固のクロストークについて説明できる
炎症Inflammationとはなんでしょうか?
身近な例で考えてみましょう
全身の炎症反応 ~「かぜ」を例に考える~
• 熱が出る
–病原体をやっつけるための防御反応
• 脈がはやくなる
–全身の酸素需要増大に対する代償反応
• 呼吸がはやくなる
–全身の酸素需要増大に対する代償反応
局所の炎症反応 ~「キズ」を例に考える~
• 痛む
–疼痛物質:プロスタグランジン,ブラジキニン
• 腫れる
–血管透過性亢進:エラスターゼ,ヒスタミンetc
• 赤くなる
–血管拡張:NO,プロスタグランジンなど
炎症反応=戦争
• 生体侵襲という敵に対して生体(=国家)が戦争を起こしている
• 酸素(=物資)を臓器(=戦地)にできるだけたくさん送ろうとする
• 呼吸↑,脈↑=戦時体制増進
• 体温↑=戦意の高まり
白血球=兵士
• T細胞=隊長
–白血球全体の指揮・命令
• B細胞=小隊長
–抗体を作って敵を弱める&敵を標識する
• 好中球やマクロファージ=兵士
• エラスターゼやプロスタグランジンなどの炎症物質=武器
軍隊
隊長
小隊長?
T細胞(隊長) • ヘルパーT細胞:CD4+
– サイトカインを介し、白血球(軍隊)の指揮命令する
– 好中球やマクロファージのMHCクラスII上で抗原提示され、抗原を認識する
• キラーT細胞:CD8+
– パーフォリン,TNF-αなどを分泌し,ウィルス感染細胞や腫瘍細胞を自ら攻撃する。
– 好中球やマクロファージのMHCクラスI上で抗原提示され,抗原を認識する
B細胞(小隊長)が作る抗体の働き
• オプソニン化:病原体を標識することにより,好中球やマクロファージが病原体を見つけやすくする働き
• 中和:毒素やウィルスに結合することにより毒性を弱める働き
好中球の武器_NETs
Neutrophil Extracellular Traps
ヒストン+DNAからなる網目状構造の物質で細菌を捕獲している
マクロファージは食いしん坊
サイトカイン=通信 • 白血球の増殖・活性化=兵士増員、戦闘力増強を命ずる通信
– TNF-α,IL-1β,IL-2,IL-6,G-CSF,M-CSF
• 走化因子=遠くの兵士を呼び寄せる通信
– IL-8,MIP-1α,MCP-1
• 接着因子=兵士を戦地に密着させる通信
– ICAM-1,VCAM-1,E-selectin
血管=物資の輸送路
• 血管を拡張させる=輸送路を拡げる
• 血管が拡張しすぎて血圧が下がる=輸送路を拡げすぎて物資の供給がおいつかなくなる
• 血管内が凝固する=輸送路を封鎖する
• 臓器不全=物資の輸送が絶たれた状態
全身性炎症反応症候群(SIRS)
Systemic・・・全身性
Inflammatory・・・炎症
Response・・・反応
Syndrome・・・症候群
SIRSの定義 ① 呼吸>20回/分 または PaCO2<32mmHg
② 脈拍>90回/分
③ 体温<36℃ または >38℃
④ 白血球>12000/mm3 または <4000/mm3 または 幼若白血球>10%
以上4項目のうち,2つ以上を満たせばSIRSと診断する
American College of Chest Physicians (ACCP)/ Society of Critical Care Medicine (SCCM) consensus conference
Crit Care Med 20: 864-874, 1992
SIRSの原因
感染症
外傷
熱傷
急性膵炎
など
生体侵襲
SIRSとは生体侵襲に対する戦争である
細胞内情報伝達 リガンド
DNA
RNA
Protein
転写
翻訳
細胞内情報伝達
核 細胞質
SIRSに関わる受容体と細胞内情報伝達系
SIRS
エンドトキシンなど
TLRs
DNA
mRNA
核 炎症細胞
NF-κB
炎症物質 炎症性サイトカイン
HMGB-1
Toll like receptors (TLRs)とリガンド • TLR1:トリアシルリポタンパク
• TLR2:グラム陽性球菌のリポタイコ酸など
• TLR3:二本鎖RNA(ウィルス)
• TLR4:グラム陰性桿菌LPS(エンドトキシン)など
• TLR5:フラジェリン
• TLR6:ジアシルリポタンパク
• TLR7:イミダゾキノリン(抗ウィルス薬)など
• TLR8:一本鎖RNAなど
• TLR9:非メチル化CpGDNA
• TLR10:不明
PAMPs
• Pathogen Associated Molecular Paterns
• グラム陽性菌リポタイコ酸,グラム陰性菌LPS,フラジェリン,細菌DNAなど炎症を惹起する病原体由来のリガンドのことをいう
• PAMPsによる炎症反応の惹起にはToll like receptorが深く関与している
alarmin
SIRSとSepsis
感染症 SIRS
敗血症 (Sepsis)
感染症によるSIRSをSepsisと呼ぶ
これは誤りです!
• 「Sepsis=菌血症である」→×
– Sepsisの診断に血液培養陽性は必須ではありません。
• 「Sepsisには真菌感染やウィルス感染は含まれない」→×
–真菌感染やウィルス感染でも,あるいは寄生虫感染でも,SIRSを伴えばSepsisに含めます。
– SIRSを呈していれば,たとえ風邪であってもSepsisに含まれます。
風邪で会社を休みたいときの連絡 (Sepsis勉強前)
「風邪っぽいんで会社休みま~す」
→これでは休ませてもらえない
風邪で会社を休みたいときの連絡 (Sepsis勉強後)
「熱が38.1℃あり,呼吸も20回以上です(ハァハァ)。脈は100回です。まだ病院には行ってないので白血球数はわかりませんが,少なくとも,SIRSの項目3/4を満たしてます。ウィルス感染に起因するSepsisと考えられるので会社を休ませてください!」
Severe sepsisとSeptic shock
• 臓器障害を伴った敗血症=重症敗血症(Severe sepsis)
• 重症敗血症のうち,十分な補液にもかかわらず低血圧が続き,臓器血流が不十分な状態=敗血症性ショック(Septic shock)
Septic shock
Severe sepsis
Sepsis
血液凝固
出血・炎症による刺激
血小板 血小板
血小板 血小板
血小板
血小板
フィブリン
血管 血栓形成
凝固経路
II(プロトロンビン) IIa(トロンビン)
組織因子(III)
VIIa←VII
XII→XIIa
XI→XIa
IX→IXa
VIII→VIIIa
↓
↓
↓ ↓
X
V→Va ↓
Xa
フィブリノゲン フィブリン
共通系
外因系
内因系
↓
凝固経路(暗記用)
2
7
3
10
5
+
=
×
外因系
内因系 ゴットは共通,ウルトラセブンは外から来た
5,10 7
=トロンビン
=組織因子(TF)
Anastasiya Luppova
凝固と炎症のクロストーク
PC
APC
TM
ダナパロイド
AT III
炎症
EPCR
抗炎症
PAR
2
7
3
10
5
=トロンビン
TAFI
TAFIa
C3a↓
C5a↓
bradykinin↓
線溶系と線溶阻止系
フィブリン
プラスミノゲン
プラスミン
tPA
α2PI
FDP
PAI-1
阻害
阻害
FDP:Fibrin & Fibrinogen degradation products
tPA: tissue plasminogen activator
PAI-1: plasminogen activator inhibitor-1
α2PI: α2 plasmin inhibitor
線溶
凝固・線溶マーカー
• D-dimer:安定型フィブリンの分解産物
• FDP:安定型フィブリン+不安定型フィブリン分解産物
• TAT:トロンビン・アンチトロンビン複合体
–凝固亢進状態を反映
• PIC:プラスミン・α2PI複合体
–線溶亢進状態を反映
• PIC/TAT比:凝固と線溶のバランス
敗血症と凝固・線溶
• 凝固亢進
–組織因子↑によるトロンビン合成↑
– PAI-1↑による線溶↓
• 血小板・凝固因子の消費
–結果として血小板数↓,プロトロンビン時間延長
• SAC: SIRS Associated Coagulopathy
眠くなってきました?
あともう少しです!
Surviving Sepsis Campain Guideline 2008
• 初期蘇生
• 診断
• 抗生物質療法
• 感染巣の特定と管理
• 輸液療法
• 血管収縮薬
• 強心療法
• ステロイド
• プロテインC
• 血液製剤
• 人工呼吸
• 鎮静・鎮痛・筋弛緩
• 血糖コントロール
• 腎代替療法
• 重炭酸塩療法
• 深部静脈血栓予防
• ストレス潰瘍予防
• 支持療法の限界に対する配慮
SSCガイドライン=五輪書
こんな五輪書も
SSC Guideline 2008
• 初期蘇生
• 診断
• 抗生物質療法
• 感染巣の特定と管理
• 輸液療法
• 血管収縮薬
• 強心療法
• ステロイド
•プロテインC
•血液製剤 • 人工呼吸
• 鎮静・鎮痛・筋弛緩
• 血糖コントロール
• 腎代替療法
• 重炭酸塩療法
• 深部静脈血栓予防
• ストレス潰瘍予防
• 支持療法の限界に対する配慮
遺伝子組み換え型活性化プロテインC(rhAPC)
◇ セプシス由来の臓器機能障害のある成人患者で、
死亡リスクが高いと臨床的に評価される場合(一般的にはAPACHEⅡ≧25 か、多臓器不全)、禁忌がなければ、rhAPC の投与を考慮せよ。(2B、術後患者では2C)
◆ 重症セプシスだが死亡リスクが低い場合(例えば、APACHEⅡ<20 か、単臓器不全)には、rhAPC を投与するべきででない。(1A)
Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. (PROWESS study) N Engl J Med. 2001; 344: 699-709.
• 対象:1,690例の敗血症患者(うち75%の症例は多臓器不全)
• 介入:遺伝子組み換えヒトAPC(rhAPC)の投与
• 結果:診断後24時間以内にrhAPCが投与されたところ、28日後の時点における死亡率はrhAPC群24.7%(プラセボ群30.8%)(p=0.005)
プロテインCにまつわる問題
• SSCガイドラインのメインスポンサーがイーライリリー社であった→利害関係の存在
• 出血性合併症が多い
• その後のPROWESS SHOCK study( N Engl J Med 2012;366:2055-64.)で効果がないことが証明
• 2011年10月に市場撤退
遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(rTM)
• トロンボモジュリンはトロンビンと結合し,プロテインCを活性化する→プロテインCよりも上流で凝固と炎症を制御する
• プロテインCよりも高い効果が期待されている
• AT III製剤との併用でさらに効果が高まることが示唆されている
• プロテインCよりも出血性合併症が少ない
血液製剤 ◆ 成人ではヘモグロビン値が7g/dl 未満に低下した場合、7.0~9.0g/dl を目標に赤血球輸血を行え。(1B)
特殊な状況では、より高いヘモグロビン値が必要となる(例えば、心筋虚血、重症低酸素血症、急性出血、チアノーゼ性心疾患、乳酸アシドーシス) ◆ セプシス関連貧血の治療にエリトロポエチンを使用するな。他の許容できる理由があるならエリトロポエチンを使用してもよい。(1B) ◇ 出血や侵襲的処置の予定がない限り、検査上の凝固異常を是正するために新鮮凍結血漿を使用してはいけない。(2D)
◆ アンチトロンビン療法は行うな。(1B) ◇ 以下の場合には血小板を投与せよ:(2D) ・出血の有無にかかわらず血小板数<5000/mm3 ・血小板数が5000~30000/mm3 で出血のリスクが大きい場合 ・外科手術や侵襲的処置のためには、一般的には50000/mm3 以上の血小板数が必要である。
High-Dose Antithrombin III in Severe Sepsis. A Randamized Controlled Trial (the Kybersept Trial) JAMA 2001; 286: 1869-1878.
• 対象:2314人の重症敗血症患者
• 介入:30000単位のAT III製剤を4日間かけて投与(1157人)。プラセボには1%アルブミン液を使用(1157人)。
• 結果:28日死亡率に有意差なし。ヘパリン併用群では出血性合併症が有意に増加
High-dose antithrombin III in the treatment of severe sepsis in patients with a high risk of death: Efficacy and safety Crit Care Med 2006; 34:285–292
• 対象:Kyberseptの対象患者から,SAPS IIスコアにより死亡率30-60%と予測された患者のみを抽出(1008人)
• 介入: 30000単位のAT III製剤を4日間かけて投与(490人)。プラセボには1%アルブミン液を使用(518人)。
• 結果:90日死亡率に有意差あり。ヘパリンが投与され
てない群ではさらに死亡率の差が広がった。ヘパリンを投与してない場合は出血性副作用発現率にも有意差なし。
Treatment effects of high-dose antithrombin without concomitant heparin in patients with severe sepsis with or without disseminated intravascular coagulation. J Tromb Haemost 2006; 4: 90-7.
• 対象:Kybersept studyの対象患者のなかで,ヘパリンを併用していない患者563人
• 介入:30000単位のAT III製剤を4日間かけて投与(286人)。プラセボには1%アルブミン液を使用(277人)。
• 結果:国際血栓止血学会(ISTH)スコアでDICと診断された患者(229/563人)においては,AT IIIの投与が死亡率を有意に減少させた
AT IIIにまつわる問題
• 日本と欧米の違い
– DICに対する認識
– AT IIIの使用量
• 併用薬の問題
–未分画ヘパリン
–低分子ヘパリン
–蛋白分解酵素阻害薬
今後の期待
• 層別化研究
–日本でもっと大規模多施設研究を!
• 日本のお家芸であるDIC研究
–急性期DICスコア
–新規マーカー
• 抗HMGB-1薬?
ご清聴ありがとうございました!