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政府データを主とした新たな政府情報提供形態であり、市民参加・官民協働に基づく新たな行政・統治形態を促すとされる「オープンガバメント」について、アーカイブズの視点からの考察を試みた。出所の明確化などの「アーカイブズとしての情報管理」の応用可能性、デジタル保存の課題などを提示しつつ、オープンガバメントに「時間軸」「真正性」の観点を盛り込む必要がある、と結論づけた。
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「オープンガバメント」時代の政府情報アクセスとアーカイブズに関する
予備的考察
日本アーカイブズ学会2013年度大会
自由論題研究発表会
(2013年4月21日 学習院大学)
天理大学(人間学部総合教育研究センター) 古賀 崇
Email:
Web: http://researchmap.jp/T_Koga_Govinfo
1Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
発表の概要
• 「オープンガバメント(OG)」について
– 「オープンガバメント」とは何か
– OGの具体的なしくみ
• オープンガバメントの意義と課題:一般的な観点で
• オープンガバメントとアーカイブズ
– ICA(国際アーカイブズ評議会)の活動の中で
– 想定される課題
• まとめと今後の研究課題
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オープンガバメント(Open Government: OG)とは何か
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古賀による、さしあたりの定義
• 政府情報について、刊行物や文書といった「パッケージ」の形態をとらず、CSV、Excel、XML、テキストなどのフォーマットで統計デー
タや議事録データなどを提供し、その分析・加工は利用者に委ねる、という取り組み
• 「機械可読」の(コンピュータによる処理が可能な)データを提供、というのがポイント
• 「情報公開」「市民参画」と「技術の利用」の両立がどれだけ意識されているか
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「オープン」の流れの中で
• ここでの「オープン」:インターネットの技術のもとで、誰もがアクセスでき、活用できる
( 「プロプライエタリ」:誰かの所有物である)
• オープンデータ、オープンサイエンス、オープンアクセス…
• データ処理に適したフォーマットが望ましい
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「オープンガバメント」の具体的なしくみ
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参照できる情報源の例• 『行政&情報システム』誌(隔月刊)
– 刊行元:社団法人行政情報システム研究所(総務省所管特例民法法人)
– 旧名:『行政&ADP』
– OG特集:2010年12月号「オープンガバメント」、2012年6月号「オープンガバメントを支える最新技術動向」
– それ以外にも、行政あるいはシステム開発の立場から、OG関連の論考(海外・日本の事例紹介など)を多数掲載
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米国の事例• オバマ現大統領が就任直後(2009年1月)に提示した、
OGに関する「覚え書」が、OGの先駆とされる
• “Data.gov”(http://www.data.gov)が中心的サイト
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Data.gov上のデータ例:地震情報
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米国の事例(続き)
• 政府データの活用例:
“GovTrack”
– 議会の審議・決議情報を「見える化」
http://www.govtrack.us/
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OGの国際的なネットワーク組織「オープンガバメント・パートナーシップ」• 2013年4月5日現在、加盟48国、加盟検討中10国。日本は未加盟 http://www.opengovpartnership.org/
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日本の動向• 政府の政策文書でOG促進策を提示
– 『電子行政推進に関する基本方針に係る提言』(IT戦略本部「電子行政に関するタスクフォース」、2011年7月4日)→ 「基本方針」として同年8月3日、IT戦略本部が決定
– 『電子行政オープンデータ戦略』(2012年7月4日、IT戦略本部決定)
– 「電子行政オープンデータ実務者会議」(2012年12月~)
• 詳しくはIT戦略本部サイトにて:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/
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具体的事例(1):経済産業省「データボックス」
13http://databox.openlabs.go.jp/Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
具体的事例(2):福井県鯖江市「データシティ鯖江」
14http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=11552
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具体的事例(3):データ分析・加工の例「WHERE DOES MY MONEY GO?」
15http://spending.jp/
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オープンガバメントの意義と課題
一般的な観点で
(アーカイブズの観点からは後述)
16Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
政府情報の位置づけの変化• 加工・編集された刊行物(出版物)や、内部での業務過程に沿って作成される公文書(記録)にとどまらず、機械可読の(コンピュータによって処理・分析が可能な)データが、政府により提供される
• 「情報公開」のあり方の変化– 単なる刊行物・公文書などの読解にとどまらない
– コンピュータを活用しての、政府データの加工・分析・表現につながる
• 「政府データの長期的保存・利用」は想定されているか?
17Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
ガバナンス(統治のあり方)の変化• 「政府の透明性」を志向するOGであれば、多様なアクター(市民、NGO・NPO、研究機関、企業など)による「積極的な政府データの活用」を期待→「情報スキルをもったアクター」(“強い個人”やその集まり)による、能動的な政治参加への期待(「熟議民主主義」とのつながり?)
+政府データの加工・分析・表現を司る新たな産業の創出への期待
• ただし「情報スキルをもたない者」(弱い個人)をどう位置づけるか
• 政府と一線を画すマスメディアのあり方は?
(cf. 遠藤, 2011)18Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
OGの「概念のあいまいさ」への批判(Yu & Robinson, 2012)
• OGは、もともと「政府の透明性・挙証説明責任」を説明する概念– 米国FOIA(情報自由法)制定(1966年)の原動力に
• 「政府によるデータ提供とその活用」の文脈でOGが語られる現状では…– 透明性・挙証説明責任はOGの要素の一部に過ぎない
– 政府の効率性・パフォーマンス向上、経済活性化など、さまざまな要素と結びつけられる
→ 「OGのもたらす可能性」がかえってあいまいに。また、「透明性なきOG」もあり得る
19Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
Yu & Robinsonによる概念整理の提案(図は古賀により一部加工)
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加工が容易なデータ
加工が困難なデータ
サービス提供
公に対する挙証説明責任
乗り換え情報
ビジネス・ライセンシング
政府調達 選挙経費の公開
印刷物 PDF(イメージ)
CSV Excel XML TXT
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オープンガバメントとアーカイブズ(1):ICA(国際アーカイブズ評議会)の
活動の中で
21Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
ICAの活動テーマの中に掲げられるOG• 例:2013年11月年次会合(ブリュッセル)での発表募集告知文より
– “… Current trends such as the Open GovernmentPartnership and the Open Data movement,combined with the on-going challenges andopportunities offered by modern technology meanthat all areas of government and society, whetherthey know it or not, are considering recordkeepingissues. …”
→ OGと「レコードキーピング」(アーカイブズを含む)とを結びつけて捉える
http://www.ica.org/12412/annual-conference-2013/about-annual-conference-2013.html
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2012年ICAブリスベン大会にて• 基調講演(パネルディスカッション)「情報とプライバシーの公民権」
– オーストラリア、米国、カナダのパネリストが参加
– プライバシー、情報公開、「政府情報にかかわる政策」の文脈で、OGがトピックのひとつに
• 「OGとレコードキーピング」にかかわる発表セッション
– オーストラリアの連邦・州政府におけるOGの実践報告(アーカイブズではなくOG担当部局の立場から)
(cf. 古賀, 2012=大会参加報告)
23Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
EASTICAでもすでにOGが語られる
• 2010年EASTICAセミナー(ソウル)にて、ソル・ムンウォン教授(Seol Moon-won 釜山大学)の発表
– アーカイブズのデータのネット上での利用に関して
– 「韓国・国家記録院は「生のデータ」の公開を進め、それへの価値の付与(検索システム向上など)は利用者の側に委ねるべき」
(cf. 古賀, 2010 = セミナー参加報告)
24Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
オープンガバメントとアーカイブズ(2):想定される課題
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OGや「オープンデータ」のもつ危うさ
• 「今ある大量のデータを瞬時に処理」を志向
→ 「過去の蓄積(時間軸)への視点」はどれだけあるか?
• データそのものの「真正性」は保障されているか?
– 「真正なデータ」と「偽のデータ」を見分けられるか?(特に「データの加工・再利用」が推奨される状況において)
– データの改ざん・改変を防止する技術的・制度的手段は適切に運用されているか
• 政府(あるいは政権党)に都合のよいデータのみが出される、という状況も考えられる…
26Copyright (c) 2013 Takashi Koga. All rights reserved.
アーカイブズとして対処すべき点• 「新たな情報形態」への対処
• 「アーカイブズとしての情報管理」の応用
– 出所、フォンド、原秩序
• デジタル保存
• アーカイブズ自身による目録等のデータ発信
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真正性をいかに保証するか
• 科学データをめぐる研究より(Fear & Donaldson,2012)
– データと関連資料とのリンク付けが、「メタデータ」とあいまって、「出所の明確化を通じた真正性保証」につながる
• 著作権の扱い(生貝, 2011)
– 「クリエイティブ・コモンズ」の活用(政府の権利をある程度まで留保)
→ 誤用・改ざんに対する法的対抗の余地を残しつつ、データの加工・活用を促す
• 適切な記録管理こそがOGの真正性を支える(Thurston, 2012)
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「デジタル保存」の現状と課題
• さまざまな取り組みはあるが、「電子公文書」を前提としている
– 例:米国NARAのERA、アリゾナ州などのPeDALS
• 「機械可読」の状態を保ったまま、データの保存はできるか?
• InterPARESの方法論の応用はどこまでできるか?(cf. デュランチ, 2013)
– 「情報」というより「情報を管理する者」の信用性の担保、ログの管理など
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アーカイブズの目録等のデータをOGの流れに合流させる
• 「過去の蓄積への視点」に意識を向けさせる効果
↓
• 「政府や社会の活動の長期的・遡及的検証」につなげる!
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おわりに
まとめと今後の研究課題
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今回の発表のまとめ
• OGが示す可能性と危惧
– よりよい「挙証説明責任」・市民参加か
– 逆に、政府による、より巧妙なコントロールが進むか
• OGひいてはオープンデータに、アーカイブズの視点を
– カギは“時間軸”と“真正性”
→ アーカイブズ自身の目録等のデータで、それを示す道もあるはず
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今後の研究の枠組み(科研(※)のもとで)
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電子化・情報技術の影響
「オープンガバメント」がもたらす効果と課題
国民・住民
政府機関制度・政策
(情報公開、知的財産権など)
従来の政府情報(刊行物、公文書など)
図書館・文書館等<管理・保存・アクセス提供>
「オープンガバメント」のもとでの役割
は?
「オープンガバメント」のもとでの政府データ
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(※)平成25~27年度科学研究費若手研究(B)「オープン・ガバメント時代の政府情報アクセス制度・政策と図書館・文書館等の役割」(課題番号25730191, 研究代表者:古賀崇)
主要参考文献(1)• 生貝直人「オープンガバメントと著作権:欧米の取り組みと日本への示唆」、
西田亮介・塚越健司編著『「統治(ガバナンス)」を創造する:新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』、春秋社、2011年、255-281頁。
• 遠藤薫「権力の監視機能、一層の強化を:オープンガバメント時代におけるマスメディアの役割」、『新聞研究』718号、2011年、60-64頁。
• 古賀崇「韓国・国際アーカイブズ文化展覧会(IACE)に参加して:EASTICAセミナー・IACE国際セミナーの模様を中心に」、『アーカイブズ学研究』13号、2010年、60-65頁。
• 古賀崇「国際アーカイブズ評議会(ICA)2012年ブリスベン大会に参加して」、『アーカイブズ学研究』17号、2012年、110-117頁。
• デュランチ, ルチアナ(古賀崇訳)「デジタル記録の信用性:インターパレス・プロジェクトの成果」、『京都大学大学文書館研究紀要』11号、2013年、1-13頁。
• 「特集:オープンガバメント」、『行政&情報システム』2010年12月号、6-24頁。
• 「特集:オープンガバメントを支える最新技術動向」、『行政&情報システム』2012年6月号、6-30頁。
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主要参考文献(2)• Fear, Kathleen and Devan Ray Donaldson, ‘Provenance and
Credibility in Scientific Data Repositories’, Archival Science, vol.12, no. 3, 2012, pp.319–339.
• Lathrop, Daniel and Laurel Ruma (eds.), Open Government:Collaboration, Transparency, and Participation in Practice,Sebastopol: O’Reilly Media, 2010, 402p.
• Thurston, Anne Catherine, ‘Trustworthy Records and Open Data’,Journal of Community Informatics, vol.8, no.2, 2012. http://ci-journal.net/index.php/ciej/article/view/951/952
• Yu, Harlan and David G. Robinson, ‘The New Ambiguity of “OpenGovernment”’, UCLA Law Review Discourse, vol.59, 2012,pp.178-208. http://ssrn.com/abstract=2012489
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