View
223
Download
5
Category
Preview:
Citation preview
15
5.鉄心のB-H特性測定
1.目的
磁性材料の特性を表す重要な目安の一つであるB-H曲線を測定し,磁性材料の磁気特性についての理解を深める。
2.解説
(1)磁性体の磁化
鉄心(磁性材料)の内部は,図1に示すように,微少な磁石(分子磁石)の集合と考えられる。鉄心の外部から磁界が加え
られない場合には,図1(a)のように分子磁石が無秩序に配置されているため,外部に磁気的な性質が現れない。一方,外
部磁界が加えられると分子磁石は力を受けて磁界の方向にそろうように次第に動きだす。この分子磁石が磁界の方向にそ
ろう程度を磁化の強さといい,これをMで表す。図1(b)に示すように,全ての分子磁石が同一方向にそろうことを磁気飽和と
いう。磁化の強さMは,外部磁界Hにより生ずるため,M=χHで表される。ただし,χは磁化率といい,Hの大きさにより変化
する材料固有の値である。このHとMの関係を磁化特性(M-H特性)という。
しかし,実用的は磁性材料の磁気的特性を表すために,B-H曲線が使われる。すなわち,真空中(空気中)の磁界の強
さH(A/m)と磁束密度B(Wb/m2)の関係は,真空の透磁率をμ0(=4π×10-7)としてB=μ0Hと表される。この磁界中に磁性材
料を置くと,磁性材料中の磁束密度は分子磁石から発生する磁気の影響を受けて変化し,次式のように表される。
(1)
(1)式を,上記M=χHの関係を用いて変形すると,
(2)
ここで、μS=1+(χ/μ0) を比透磁率といい、磁界の強さHにより変化する磁性材料固有の値である。この磁界の強さHと磁性
材料内部の磁束密度Bの関係を表す曲線をB-H曲線という。
(2)B-H曲線の測定原理
図2にB-H曲線測定のための基本回路を示す。磁心の有効断面積はS(m2),平均磁路長はL(m)である。磁心内の磁界の
強さはH(A/m),磁束はφ(Wb)である。磁束密度B(Wb/m2)はφ/Sで得られる。巻線N1には交流電源,N2には積分回路が接
続される。この回路において,H及びBは次のように求めることができる。
(a)磁界の強さH(A/m)
巻線N1に交流電圧を加えたとき,N1及びN2を流れる電流を各々i1及びi2とすると,磁界の強さHと電流i1,i2にはアンペアタ
ーンの法則が成り立ち,H×L=N1i1-N2i2の式が成り立つ。積分回路の入力抵抗の大きな値に選ぶと,i2の大きさはi1に比べ
て無視できる程度に小さくなる。従って,磁界の強さH(A/m)は,近似的に次式で表すことができる。
(3)
(3)式より,電流i1の大きさは磁界の強さのHに比例することがわかる。
(b)磁束密度B(Wb/m2)
磁心内部の磁束φは時間とともに変化するため,巻線N2には誘導電圧e2が発生する。
従って,誘導電圧e2及び積分回路の入力電圧e2と出力電圧v2の関係は,各々次式で表すことができる。
(4)
MHµB 0 +=
HµµHµχ1µB S00
0 =
+=
11 iLNH ×
=
=dtdNe 22φ dteKv 22 ×⋅= ∫
N S
N
S
N
SN
S
N
S
N
S
N
S
S
N
(a) (b)
H
図1 磁性体内の磁化
S
S
S
S
S
S
S
S
N
N
N
N
N
N
N
N
微小磁石金属
磁界
16
(4)式で,Kは積分回路のゲインである。(4)式より磁束φ(Wb)及び磁束密度B(Wb/m2)は,次式で得られる。
(5)
(5)式より,積分回路の出力電圧v2の値は磁束密度Bに比例して変化することがわかる。
従って,磁心のB-H曲線は,図2の回路において電流i1と電圧v2の瞬時的関係を観測することにより求めることができる。
図3は,B-H曲線の概略図を示したものである。図中,0~6の数字はB-H曲線のたどる順番を示したものである。
点線で示した0~1の曲線は,図2の回路において,電源を加えた瞬間に得られるBとHの関係であり,初磁化曲線と呼ばれ
る。以後の軌跡は1~6の順である。
このようにB-H曲線は,H値の増加と減少に対して同じ軌跡を通らないヒステリシス現象と,磁界の強さを大きくしても磁
束密度Bの変化が小さくなる磁気飽和現象が見られる。
3.実験方法
[使用器具]
1) ヒューズ付きスイッチ(S1) 2) スライダック(S.D) 3) 交流電流計(5A) 4) 被測定用磁心
5) CR積分回路 6) シンクロスコープ
A.磁心定数の算出
[手順]
磁心各部の寸法を計測し,有効断面積S(m2)と平均磁路長L(m)を算出せよ。
S= (m2), L= (m)
B.磁心のB-H曲線測定
図4にB-H曲線測定のための実験回路を示す。
[手順]
① 図4の回路を構成せよ。
あらかじめ抵抗R1の値を正確に測定し記録しておくこと。また,シンクロスコープをXYモードに設定せよ。
スイッチS2を1側に倒し,v2が観測できる状態にする。
R1= (Ω)
② スイッチS1を閉じ,スライダックSDを調整してシンクロスコープのブラウン管上に曲線(この曲線がB-H曲線に対応)を描
かせる。(図3に示すように磁心が飽和することを確認せよ)
③ ブラウン管上の曲線をグラフ用紙(方眼紙)に写し取れ。
この曲線の,X軸方向の最大値をVXMとして記録せよ。
VXM= (V)
④ スライダックSDを調整して,磁心が飽和しない状態での曲線をグラフ用紙(方眼紙)に写し取れ。
磁心が飽和しない状態では,曲線が小さくなるが,シンクロスコープの電圧感度を変更してはいけない。
⑤ 上記⑤の曲線を写し取った後,直ちに,スイッチS2を2側に倒し,誘導電圧e2の最大値をE2Mとして読みとれ。
この期間中,スライダックSDを変更してはいけない。
E2M= (V)
SBv
NK1
22
φφ =×
⋅
=
0
12
3
45
6
初磁化曲線
N1
i1
図2 B-H曲線の測定原理
B (Wb/m2)
H (A/m)
積分回路磁心
N2
HS L
φ
v2e2
i2
図3 B-H曲線の概略図
B
K
17
[結果整理]
① 上記[手順]⑤で写し取った曲線の最大磁束密度B2Mは,測定したE2M値を用いて次式のように得られる。
(6)
[手順]④と⑤で描いた曲線は同一の目盛りであるので,[手順]④で描いた曲線のY軸に目盛り(Wb/m2)を記入するこ
とができる。
② [手順]④で写し取った曲線の最大磁界の強さHMは,測定したVXM値を用いて次式のように得られる。
(7)
③ 上記の[結果整理]①及び②より,[手順]④で写し取った曲線をB-H曲線として完成させよ。
図5は,本実験で写し取った曲線をB-H曲線として目盛りを付加する過程を示したものである。同図(a)は[手順]④で写
し取った曲線である。(b)は[手順]⑤で写し取った磁心が未飽和時の曲線であり,この場合の誘導電圧e2を(c)に示す。
磁心が未飽和の場合は,誘導電圧e2の波形が正弦波で近似できるため,(4)式左の関係よりe2の最大値E2Mから磁束φ
の最大値,すなわち磁束密度の最大値B2Mが(6)式を用いて算出できる。従って,図5(a)と(b)は同一のスケールで描かれ
ているため,図5(a)のB2M値が決定でき,この値を用いて磁束密度Bの目盛りを付加することができる。
一方,磁界の強さHと電流i1が,(3)式に示すように比例関係にあるため,図5(a)のVXM値より(7)式を用いて磁界の強さ
の最大値HMが決定でき,この値を用いて磁界の強さHの目盛りを付加することができる。
4.検討課題
① B-H曲線にはヒステリシスと磁気飽和が見られるが,この理由を説明せよ。
② (6)式及び(7)式を証明せよ。
③ 交流電源の周波数を高くすると,B-H曲線はどのように変化するか考察せよ。
SωNEB
2
2M2M = (Wb/m2)
1
XM1M R
VLNH ×= (A/m)
CH1(X)
シンクロスコープ
CH2(Y)
図4 B-H曲線測定回路
AC100V
磁心
N1
N2
H
φ
v2C
S.D
R2
R1
i1
S1
e2S2
21A1
(a)飽和曲線 (b)未飽和時の曲線 (b)未飽和時の誘導電圧
i1R1
v2 v2
i1R1VXM
E2M
HM
B2M
図5 B-H曲線としての目盛り付加過程図
B2Me2
Recommended