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生物の環境適応 生物進化に必要な三つのしくみ
担当:高見 泰興質問:takami@people.kobe-u.ac.jp
レジュメ:http://www2.kobe-u.ac.jp/~takami/evol/
1
進化のしくみの3要素
1.変異(へんい,variation) 個体の持つ特徴に,ばらつきがあること.
2.遺伝(いでん,inheritance) 個体の持つ特徴が,子に伝わること.
3.淘汰(とうた,selection) 個体の持つ特徴に応じて,残す子の数に差があること.
2
・遺伝のしくみ
・変異を生み出すしくみ
・淘汰のはたらき
2.生物進化に必要な3つのしくみ
3
生物の自己複製
・無性生殖:体細胞を通じた自己複製 分裂(単細胞生物,イソギンチャクなど) 出芽(酵母菌など) 栄養生殖(ジャガイモ,ヤマノイモ(むかご)など)
・有性生殖:生殖細胞を通じた自己複製 配偶子(卵と精子(または花粉)) → 受精 配偶子は減数分裂によって生じる
個体は死ぬが,自己複製を繰り返すことで生物は存在し続ける
4
・種Aの子は必ず種A
・親と子は似ている遺伝子 gene
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遺伝子 gene とは
・自己複製(繁殖)の過程で,親から子へと 伝わる生物の設計図.
・その実体は,DNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列.
・細胞の核に,染色体の形で含まれる.
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染色体・基本的に偶数であり,同じ染色体がペアになっている(相同染色体).
・相同染色体の片方は父親から,残りの片方は母親から受け継いだ染色体である.
ヒトの染色体(男性,46本)
ニラの細胞分裂の際にに見られる染色体
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DNAの立体構造
・非常に大きな分子・ねじれたハシゴ状・二重らせん構造 (double helix)
8
DNAの構造(模式図)
チミン : T
アデニン: A
グアニン: G
シトシン: C
・DNAの単位はヌクレオチドである.・ヌクレオチドは4種類の塩基(T, A, G, C)の いずれかを含む・ヌクレオチドは鎖状につながっており,特定 の塩基配列を形成する → 遺伝子・2本のヌクレオチド鎖が向かい合い, 塩基同士が結合して2本鎖を形成する.・TはAと,GはCとのみ結合する(相補的).
ヌクレオチド
塩基
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DNAの複製のしくみ
個々のヌクレオチド
ヌクレオチド(塩基)の配列を保ったまま,複製できる半保存的複製
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遺伝のしくみ・生物の持つ特徴は,遺伝子(生物の設計図)を通じて次の世代へ伝わる.
・遺伝子の実体はDNAであり,染色体の形で細胞の核に含まれる.
・親と子,同種の個体同士は,同じ遺伝子を共有しやすいので特徴が似る.
・DNAは,半保存的複製により(ほぼ)正確にコピーされる.
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・遺伝のしくみ
・変異を生み出すしくみ
・淘汰のはたらき
2.生物進化に必要な3つのしくみ
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変異とは
同じ種でも,個体によって特徴が異なる親子は似ているが,違いもある.
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変異の要因
(1)遺伝子のちがい(遺伝的変異) ・突然変異 ・組み換え
(2)遺伝子以外のちがい(環境変異) ・成長によるちがい(例:大人と子供) ・栄養状態によるちがい(例:やせと肥満) ・その他いろいろ.
子に伝わる→進化に影響する
子に伝わらない→進化とは無関係
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DNAの塩基配列に生じる突然変異
substitution
insertion
deletion
DNA複製のミスによって生じる
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染色体の乗り換えと遺伝子の組み換え
・2本ある染色分体のうち,1本だけが乗り換えをする.・乗り換えの生じた染色体には,遺伝子の新しい組み合わせができる(組み換え) → 遺伝的変異.
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遺伝的変異が生じるしくみ1.突然変異(1)DNA複製のミス ・半保存的複製の過程で,相補的でないヌクレオチド をつなげてしまうことがある. ・DNAの長い鎖が,もつれたり絡まったりして, ヌクレオチドのつながる順序や方向が変化することがある.(2)外的要因 ・放射線や紫外線,化学物質,ウイルス等の影響でDNAが 破壊される.2.組み換え ・配偶子を形成する過程(減数分裂)における 染色体の乗り換え.
設計図の写しまちがい
設計図のページ順序入れ違い
設計図の一部が紛失
設計図の新たな組み合わせ
遺伝子(生物の設計図)に個体毎の違いが生じる17
・変異を生み出すしくみ
・遺伝のしくみ
・淘汰のはたらき
2.生物進化に必要な3つのしくみ
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個体数の増加ネズミ算
・1ペアが一度に6頭の子ネズミを生むと仮定する(個体数3倍).・体重は30g で,年に1回繁殖すると仮定.・60年後の個体数=4.2 × 1028頭,総重量=1.3 × 1027kg
・ちなみに,地球の重量=6.0 × 1024kg
あり得ない
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個体数
世代
現実の個体数増加
何らかの歯止めがかかる
個体数の増加は,様々な要因によって制限される(例)食物やすみかの量,捕食者,病気や寄生者等
資源の奪い合いや生き残りをめぐって,個体間の競争が生じる
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競争の結果どうなるか
勝者:お腹一杯,マイホーム,健康
敗者:はらぺこ,宿無し,病気
↓繁殖成功
↓繁殖失敗
競争の結果,次世代に残せる子の数に違いが生じる適応度
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淘汰とは生物個体の持つ特徴(形質)がその個体の適応度に影響すること
高い適応度をもたらす形質が世代を重ねるごとに増加する:適応進化
××
適応度=1 適応度=0 適応度=3
限られたハチをめぐる競争
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自然淘汰と適応進化の例:工業暗化
19世紀前半まで,イギリスではオオシモフリエダシャクBiston betulariaは白色型がほとんどだった.→ シラカバBetulaやブナの白い樹皮に 適応していた
しかし,19世紀後半の工業化により,樹皮が黒くなるにつれ,黒色型の頻度が増加した.→ 突然変異で生じた黒色型の適応度が 高まり,黒い樹皮に対する適応進化 が生じた.
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実験:明色型と暗色型を木に止まらせて鳥に食われるかどうかを調べた
・汚れた森では暗色型 (melanic) が,そうでない森では明色型 (typical) が食われにくかった.・どちらの環境でも木の幹 (trunk) よりも枝の付け根 (limb joint) に止まった方が食われにくかった.
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淘汰selectionという言葉について
・自然界において,生物と環境とのかかわり合いで生じる淘汰を,特に「自然淘汰natural selection」と呼ぶ.
・Selectionを「選択」と訳し,「自然選択」と呼ぶ場合も多い(どちらも間違いではないが,choiceと混同しないように注意).
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淘汰のかたち
形質値例)キリンの首の長さ
適応度
首が長い方が適応度が高い
次の世代
首の長さ
キリンの数平均
平均:長くなる方向性淘汰
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淘汰のかたち
形質値例)キリンの首の長さ
適応度
首が適度な長さの時適応度が高い
次の世代
首の長さ
キリンの数平均
平均:変らないばらつき:小さくなる
安定化淘汰
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淘汰のかたち
形質値例)キリンの首の長さ
適応度
首が長い,もしくは短い時適応度が高い
次の世代
首の長さ
キリンの数平均
平均:変らないばらつき:二山型
分断化淘汰
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身近にある淘汰と生物進化:人為選抜(人為淘汰)と品種改良
コメの収穫量に変異がある(遺伝的変異)
よい形質を持つ個体を選抜する(淘汰)
その個体の種をまく(次世代へ遺伝)
収穫量の高いコメの品種を作り出すことができる
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身近にある淘汰と生物進化:薬剤耐性菌の出現
病原菌(薬剤耐性に変異がある) 薬剤を投与
(淘汰)
再び増殖(薬剤耐性が遺伝)
薬剤耐性菌
病原菌を減らそうとしたにも関わらず,結果として薬剤耐性菌が増える
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身近にある淘汰と生物進化:なぜ成人病がなくならないのか成人病(生活習慣病)はヒトの生命を脅かす
自然淘汰によって,それを克服できるようになっても良いのではないか?(薬剤耐性菌のように)しかし,現実には成人病は増え続けている
成人病は,ヒトの繁殖終了後に生じるので,ヒトの適応度(残せる子の数)を低下させない.
→自然淘汰が働かないので,成人病を克服するような進化は起こらない
0歳: 誕生 25歳: 結婚 30歳: 第一子誕生 50歳: 糖尿病発病ある人の一生
子の一生発病の有無は,子が産まれるか否かに影響しない
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自然淘汰と適応進化を 理解する上での注意点
1.自然淘汰に目的は無い
・突然変異は,ランダムに起こる.・自然淘汰は,ランダムな変異の中から, その時点で適応度の高いものを選ぶ.
例えば,黒い樹皮上で暗色型の適応度が高くても・・・ 暗色型の突然変異が優先的に生じるわけではない. 暗色型の突然変異が生じなければ,暗色型は進化しない.
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自然淘汰と適応進化を 理解する上での注意点
2.進化は進歩ではない・現生の生物は,すべて進化の最先端にいる.・進化の方向は, 単純な生物(下等)→ 複雑な生物(高等) とは限らない.
つまり,・進化は枝分かれの過程である.・複雑な構造が単純化する(退化)することもある.
退化も進化の1つの形である. (例)寄生虫,ヒトの尻尾
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動物の進化と系統樹
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自然淘汰と適応進化を 理解する上での注意点
3.適応進化は万能ではない
・生物のデザインは必ずしも完璧ではない.・突然変異によって生じ得ないデザインは, 進化しない.
例えば,ヒトに第3の手があると,きっと便利(適応度が高い)だが,そのような変異は生じなかったので,ヒトに第3の手は進化しなかったと考えられる.
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・生物は自己複製を繰り返し,DNAの塩基配列として記録された遺伝子を次世代へと伝える.
・個体変異は,遺伝子の違いである遺伝的変異と,それ以外の環境変異によって生じる.
・遺伝的変異は進化に寄与するが,環境変異は子へ伝わらないので進化に寄与しない.
・遺伝的変異は,DNAの複製ミスや損傷による突然変異と,減数分裂(配偶子形成)の際の組み換えによって生じる.
・生物の個体数の増加は,様々な要因によって制限されるので,限りある資源や生き残りをめぐって個体間の競争が生じる.
・競争の結果,個体の形質に応じて,次世代に残す子の数(適応度)に差が生じる(=自然淘汰).
・自然淘汰にはさまざまな形があり,その形は環境によって決まる.
・自然淘汰によって,環境に適した特徴を持つ個体が増加する(=適応進化).適応進化が起こるか否かは,遺伝的変異の有無に依存する.
2. 生物進化に必要な3つのしくみ:まとめ
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