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2014沖縄医報 Vol.50 No.2プライマリ・ケア
- 131(253)-
て DPP4 阻害薬の順になっております。これを、以前(2011 年)のものと比べてみますと、SU薬の割合が減少していること、逆に DPP4阻害薬の割合が増加していることが確認できます。(図 2)
現在、経口血糖降下薬としてはビグアナイド薬、チアゾリジン薬、DPP4阻害薬、SU薬、即効型インスリン分泌促進薬、αグルコシターゼ阻害薬(αGI)があり、それぞれ、インスリン抵抗性改善系として、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、
近年、糖尿病治療薬の新規開発は目覚ましく、当院においてもその選択肢は急速に広がっています。先日、一人の若い先生に声をかけられ、外来で患者さんの糖尿病をしばしば発見するのだけれど、運動、食事療法で改善しない場合、薬物療法として最初にどの薬剤から使用してよいのかよくわからないので教えてほしい、と頼まれたことがありました。特に、非専門医の先生方に於いては治療薬の選択に難渋する場合も経験されると思われます。そこで、当院にて、特に外来を初めて間もない先生方向けに新たに診断された2型糖尿病(主にHbA1c8%未満で、ケトーシス、ケトアシドーシスを伴わない)の患者さんに対して最初に薬物療法を開始するにあたり、その経口血糖降下薬の選択に関して1つの提案をさせていただきました。今回は当院(ちばなクリニック)の糖尿病外来患者数、経口血糖降下薬の使用状況なども交えてご紹介します。 当院では約 4,400 人(2012 年 12 月時点)の 2 型糖尿病患者が通院されております。そのうち約 67%が経口血糖降下薬を使用しており(図 1)、その処方内容の内訳としてはスルホニル尿素(SU 薬)が最も多く、続い
2型糖尿病薬物療法開始時
の経口血糖降下薬の選択に
ついて
中頭病院
糖尿病内分泌代謝 内科
湧田 健一郎
食運: 運動食事療法 経イ: 経口血糖降下薬、インスリン併用経口: 経口血糖降下薬 イン: インスリン
図 1 当院における治療群別 2型糖尿病患者症例数
DPP4阻害薬12%
DPP4阻害薬21.2%
チアゾリジン薬15% a-GI
13%
a-GI10.5%
グリニド薬2%
グリニド薬1.3%
チアゾリジン薬10.8%
ビグアナイド薬20.0%
SU薬39%
SU薬34.1%
配合剤2.2%
図 2 当院における経口血糖降下薬使用割合
2014沖縄医報 Vol.50 No.2プライマリ・ケア
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インスリン分泌促進系として、SU 薬、DPP4 阻害薬、食後高血糖改善系として、即効型インスリン分泌促進薬、αグルコシターゼ阻害薬(α GI)に分けられています 1)。(図 3)2012 年に改定された米国糖尿病学会(ADA)/ 欧州糖尿病学会
(EASD)のガイドラインによりますと 2 型糖尿病患者の治療として運動食事療法に加えて、まず、ビグアナイド薬の使用が推奨されています 4)。(図4)一般に欧米人の 2 型糖尿病患者はインスリン抵抗性主体型、日本人の場合、インスリン分泌低下型が多いとされており、このガイドラインをそのまま日本人 2 型糖尿病患者の治療に適応することはできないと思われますが、薬価、低血糖のリスクが少ないことなどを考えると、少なくともインスリン抵抗性主体型の 2 型糖尿病患者に対しては ADA/EASD のガイドラインに沿って治療することもやぶさかではないと思われます。このように薬物治療を開始するにあたってインスリン抵抗性の有無を確認し、薬剤を選択していく方法は 1つの有用な方法であると考えられます。実際、イ
ンスリン抵抗性が高く、大量にインスリンを使用しておりましたインスリン強化療法中の患者で、チアゾリジン薬の追加投与により必要インスリン量を劇的に減量できた例なども経験しています。そこで、薬物療法開始時の薬剤選択に関して、よりシンプルに説明するために、まず、薬物療法開始前にインスリン抵抗性の有無をチェックして、インスリン抵抗性主体の糖尿病患者に対してはビグアナイド薬、チアゾリジン薬などのインスリン抵抗性改善薬を、インスリン抵抗性がそれほどない患者に対しては SU 薬、DPP4 阻害薬などのインスリン分泌促進薬を使用し、特に食後高血糖が目立ってくるようならα GI、即効型インスリン分泌促進薬などの使用を検討する方法を提案しました。(併用する場合は、組み合わせによって、薬剤の減量、中止または種類の変更を考慮する必要があります。)インスリン抵抗性主体型の特徴としてはメタボリックシンドローム、HOMA-R 2.5以上、空腹時血中インスリン 15 μ U/ml 以上、インスリン分泌低下型の特徴としては空腹時血中 C
図 3 経口血糖降下薬の選択
2型糖尿病の病態に合わせた経口血糖降下薬の選択2型糖尿病の病態 経口血糖降下薬
インスリン抵抗性増大
ビグアナイド薬ビグアナイド薬
種 類種 類 主な作用主な作用
肝臓での糖新生の抑制肝臓での糖新生の抑制
チアゾリジン薬チアゾリジン薬
DPP-4阻害薬DPP-4阻害薬 血糖依存性のインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制血糖依存性のインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制
スルホニル尿素薬スルホニル尿素薬
速効型インスリン分泌促進薬
速効型インスリン分泌促進薬
α-グルコシダーゼ阻害薬
α-グルコシダーゼ阻害薬
より速やかなインスリン分泌の促進・食後高血糖の改善より速やかなインスリン分泌の促進・食後高血糖の改善
炭水化物の吸収遅延・食後高血糖の改善
炭水化物の吸収遅延・食後高血糖の改善
日本糖尿病学会 編.糖尿病治療ガイド2012-2013日本糖尿病学会 編.糖尿病治療ガイド2012-2013
インスリン分泌の促進インスリン分泌の促進
骨格筋・肝臓でのインスリン感受性の改善
骨格筋・肝臓でのインスリン感受性の改善
インスリン分泌能低下
インスリン作用不足インスリン作用不足
食後高血糖食後高血糖
空腹時高血糖空腹時高血糖
高血糖
高血糖
インスリン
抵抗性改善薬
インスリン
抵抗性改善薬
インスリン
分泌促進系
インスリン
分泌促進系
食後高血糖
改善系
食後高血糖
改善系
糖毒性
糖毒性
食事、運動などの生活習慣改善と1種類の薬剤の組み合わせで効果が得られない場合、2種類以上の薬剤の併用を考慮する。作用機序の異なる薬剤の組み合わせは有効と考えられるが、一部の薬剤では有効性および安全性が確立していない組み合わせもある。
詳細は各薬剤の添付文書を参照のこと。
食事、運動などの生活習慣改善と1種類の薬剤の組み合わせで効果が得られない場合、2種類以上の薬剤の併用を考慮する。作用機序の異なる薬剤の組み合わせは有効と考えられるが、一部の薬剤では有効性および安全性が確立していない組み合わせもある。
詳細は各薬剤の添付文書を参照のこと。
2014沖縄医報 Vol.50 No.2プライマリ・ケア
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ペプチド 1.0ng/ml 以下、やせ型、2)などが挙げられます。特に現在の沖縄県の場合、男女問わず、全世代でメタボリックシンドロームが全国平均を超えていること 3)、沖縄県民のインスリンの分泌パターンが欧米人のそれに近いことなどを考慮すると、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬といったインスリン抵抗性改善系薬剤を使用する機会が多くなってくるかもしれません。また、高齢者の割合が高い事(今後全国的に増加していくこと)を考慮すると、GLP-1 のインスリン分泌に対する作用機序として、インスリン分泌の増幅経路を亢進させるという特徴から単独では低血糖のリスクの比較的少ない DPP4 阻害薬が比較的使いやすい薬剤であり、今後その使用がますます増えてくるものと思われます。これは先ほど示した当院のデータと同様の流れにあると思われます。 薬物療法を開始するに当たって、薬剤の使用方法に関して日本のガイドラインでは画一されたものはありません。一方、その選択の幅が年々
大きくなっていく近年の状況を考えますと、最初にどの薬剤を使用するかを決定することが困難になってくるのではないかと思われます。内服薬の選択に関しては基本的にはそれぞれの患者さんに合った適切な治療が必要であり、薬剤の選択方法はそれぞれかと思いますが、その 1つの選択基準として少しでも参考となればと考えご報告しました。今後新たな経口血糖降下薬が登場することが予想されますが、その使用方法に関しても、より一層検討を重ねていきたいと考えております。
【参考文献】 1) 日本糖尿病学会編 糖尿病治療ガイド 2012-2013. 文
光堂 2) 糖尿病診療ハンドブック 岩岡 英明 , 栗林 伸一 3) 琉球新報 2013 年 1 月 24 日朝刊 4) Inzucchi SE et al.Diabetes Care 2012:35(6):
1364-1379
図 4 米国糖尿病学会(ADA)欧州糖尿病学会(EASD)ガイドラインにおける治療指針
2型糖尿病に対する高血糖管理:
健康的な食事、体重コントロール、身体活動量の増加初期単剤療法
2剤併用療法1)
3剤併用療法
より複雑なインスリン療法
HbA1c低下効果低血糖体重
HbA1c低下効果低血糖体重
副作用
主要な副作用薬価
薬剤費
高いメトホルミン
メトホルミン+
メトホルミン+
インスリン4)(多様な投与量の組み合わせ)
1)HbA1cが高い患者で治療開始を考慮(例:HbA1c≧9%) 2)食事が不規則な患者、もしくはSU薬で後発性食後低血糖を発症する患者では、速効型インスリン分泌促進薬の使用を考慮する。 3)通常は、非インスリン製剤と基礎インスリン(NPH、グラルギン、テテミル)の併用 4)非インスリン製剤を継続投与。重度の高血糖患者での治療開始を考慮する【血糖値≧16.7-19.4mmol/L(≧300-350mg/dL);HbA1c≧10.0-12.0%】。体重減少、ケトーシスなどのカタボリック(異化)症状の有無は問わない。
Inzucchi SE et al. Diabetes Care 2012:35(6):1364-1379
低リスク中間的(neutral)/減少
消化器症状/乳酸アシドーシス底価
高い
スルホニル尿素薬2)
スルホニル尿素薬2)
GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬
中等度リスク増加低血糖安価
+TZD
又はDPP-4-1又はGLP-1-RA又はインスリン3)
+SU2)
又はTZD又はインスリン3)
高い低リスク減少
消化器症状高価
高い
スルホニル尿素薬2)
スルホニル尿素薬2) チアゾリジン薬
チアゾリジン薬 DPP-4阻害薬 GLP-1受容体作動薬 インスリン製剤(通常は基礎インスリン)
DPP-4阻害薬 GLP-1受容体作動薬 インスリン製剤(通常は基礎インスリン)
中等度リスク増加低血糖安価
+TZD
又はDPP-4-1又はGLP-1-RA又はインスリン3)
+SU2)
又はDPP-4-1又はGLP-1-RA又はインスリン3)
+SU2)
又はTZD又はインスリン3)
+SU2)
又はTZD又はインスリン3)
+TZD
又はDPP-4-1又はGLP-1-RA
高い低リスク増加
高い低リスク減少
浮腫、心不全、骨折高価
中等度低リスク不変まれ高価
消化器症状高価
最も高い高リスク増加低血糖さまざま
投与開始3ヵ月以内に、各自のHbA1c目標値に達しない場合には、2剤併用療法に移行(表記順序は特異的な優先順位を示すものではない)
投与開始3ヵ月以内に、各自のHbA1c目標値に達しない場合には、3剤併用療法に移行(表記順序は特異的な優先順位を示すものではない)
基礎インスリンを含む併用療法でも3~6ヶ月で目標HbA1cに達しない場合、より複雑なインスリン療法に移行する。通常はインスリン以外の薬剤を1~2剤併用する。
一般的推奨治療
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