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酸・塩基の定義

酸・塩基反応はなぜ重要か酸の定義:アレニウス

酸の定義:ブレンステッド・ローリー共役酸と共役塩基

Johannes N. Brønsted(1879-1947)

Photo: public domain

Thomas M. Lowry(1874-1936)

Photo: public domain

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酸・塩基反応はなぜ重要か多くの有機反応は「正電荷と負電荷が引き付け合う反応」

(極性反応)

CH3C

O

OHCH3CH2 O+δ+

δ–δ– δ+

H

CH3C

O

OHCH3CH2 O+δ+

δ–δ– δ+

H

H

例:酢酸とエタノールの反応(エステルの合成)

引き付け合う力が弱い

引き付け合う力が強い

酸触媒でH+ をつける

分極が大きくなる

酸・塩基に影響を受ける有機反応の例は非常に多い2

酸・塩基の定義

アレニウスの定義:「水溶液中で H+ を生成するものが酸、 HO‒ を生成するものが塩基」

→ 有機化学ではあまり有用でない

ブレンステッド・ローリーの定義:「H+ を供与するものが酸、 H+ を受け取るものが塩基」

※ 化学では H+ のことを「プロトン」と呼ぶ

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酸・塩基反応の例

NH3 + H2O NH4+ + HO–

「H+ を与える」=酸

「H+ を受け取る」=塩基

注意:有機化学での「酸・塩基反応」は「水溶液中の反応」とは限らない!

(「酸・塩基といえば水溶液の電離」と決めつけないこと)

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共役酸と共役塩基

NH3 + H2O NH4+ + HO–

酸塩基 共役酸 共役塩基

酸が H+ を供与したあとに残る化学種=共役塩基塩基が H+ を受け取ってできる化学種=共役酸

NH3 の共役酸は NH4+

H2O の共役塩基は HO‒

(共役=「きょうやく」)

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【練習問題】(1) H2O の共役酸は何か。(2) NH3 の共役塩基は何か。

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酸塩基平衡

酸塩基平衡

平衡の化学式の書き方

酸解離定数 Ka

pKa

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酸塩基平衡

多くの酸・塩基反応は可逆反応で、速やかに平衡に達する

A–H + B A– + H–B+

可逆反応:右向きと左向きの反応が同時に進行する反応

平衡(平衡状態):右向きと左向きの反応速度が等しくなり、両辺の物質の量(濃度)が一定に保たれている状態

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平衡を表す矢印

平衡反応 可逆反応 共鳴(全く意味が違う)

右辺に偏っている平衡

左辺に偏っている平衡

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強い酸と弱い酸

HCl + H2O Cl– + H3O+

CH3COOH + H2O CH3COO– + H3O+

強い酸(例:塩酸)

平衡は右に偏る

弱い酸(例:酢酸)

平衡は左に偏る

酸の強さを「定量的に」表すにはどうすればいいか?(数値を使って)

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酸解離定数

平衡状態では、両辺の物質の濃度の間に以下の関係が成り立つ

HA + H2O A– + H3O+

[H3O+][A–]Ka =

[HA] 酸解離定数

(ここでは「水溶液中での反応」を仮定)

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なぜ酸解離定数の式が成り立つのか(*)

【化学ポテンシャル(μ)=化学反応を進める推進力】

µ(←) = µ0 (A– )+µ0 (H3O

+)+ RT (ln[A– ]+ ln[H3O+])

µ(→) = µ0 (HA)+ RT ln[HA](μ0は「濃度が 1 mol/L の時の化学ポテンシャル」=物質によって決まっている)

右向きの反応の推進力

HA + H2O A– + H3O+

左向きの反応の推進力

平衡状態では「右向きの推進力=左向きの推進力」だからµ0 (HA)+ RT ln[HA]= µ0 (A

– )+µ0 (H3O+)+ RT (ln[A– ]+ ln[H3O

+])

[タイトルに(*)をつけたスライドは発展内容なので、今は飛ばしても構いません]

[H3O+][A– ]

[HA]= exp µ0 (HA)−µ0 (A

– )−µ0 (H3O+)

RT⎛

⎝⎜

⎠⎟= Ka

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酸解離定数の値の例

HCl + H2O Cl– + H3O+

CH3COOH + H2O CH3COO– + H3O+

Ka = 107

Ka = 1.7×10–5

HCl の方が Ka が大きい=強い酸である

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Ka と pKa

Ka の値は物質によって大きく異なる(10‒60~1010)

普通は pKa を用いる: pKa = –log10 Ka

pKa が小さいほど強い酸である

pKa の値は教科書の表に載っている(必ず見ておくこと)

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【練習問題】下の物質を酸性の強いものから順に並べなさい。

CO

OHH C

O

OHCH3 C

O

OHCF3

pKa = 3.8 pKa = 4.8 pKa = 0.2

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非常に強い酸・非常に弱い酸

塩基の強さも pKa で表す

酸解離定数の拡張

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酸解離定数の拡張:非常に強い酸

HCl + H2O Cl– + H3O+

水がすべての H+ を受け取ってしまうので、HCl の「強さ」がわからない

(相手が弱すぎる)

HCl + CH3CN Cl– + CH3CN–H

H+ を受け取りにくい CH3CN(アセトニトリル)を使って HCl の「強さ」を見積もる

→ 水溶液中の値に換算して pKa を見積もる

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酸解離定数の拡張:非常に弱い酸

C C HH + H2O C CH + H3O+

水が自己解離で H+ を出してしまうので、アセチレンの「弱さ」がわからない(溶媒の酸性度で隠れてしまう)

C C HH + NH2– C CH + NH3DMSO

H+ を出しにくい DMSO 溶媒と、強塩基の NH2‒ を使ってアセチレンの「弱さ」を見積もる

→ 水溶液中の値に換算して pKa を見積もる

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塩基の強さをどのように表すか

B + H2O B+–H + HO–

有機化学では使わない:水に溶けにくい塩基が多いため

塩基の「電離平衡」

B + H3O+ B+–H + H2O

ブレンステッド・ローリーの定義=「H+ を受け取るものが塩基」

「強い塩基」とは、この平衡が「右に偏っている」塩基

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塩基の強さは共役酸の pKa で表す前のスライドの反応を左右逆に書く:

「強い塩基」とは、この平衡が「左に偏っている」塩基

この式は、「B+‒H の酸解離平衡」の式と全く同じ!

B が強い塩基である = B+‒H が弱い酸である

塩基の強さを調べるには、共役酸の pKa を調べればよい

 ↑B の「共役酸」

B+–H + H2O B + H3O+

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【練習問題】次の物質を塩基性の強いものから順に並べなさい。 NH3, HCO3‒, HPO42‒

pKa:NH4+ 9.4, NH3 36 H2CO3 6.4, HCO3‒ 10.2 H3PO4 2.1, H2PO4‒ 7.2, HPO42‒ 12.3

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有機化学における酸塩基反応

有機酸・有機塩基

その酸・塩基反応、進むの?

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有機酸の例

CO

OHCH3 OHH3C構造式 CH3CH2OH

化合物名 酢酸 p-クレゾール エタノール

分類 カルボン酸 フェノール アルコール

pKa 4.8 10.3 15.9

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有機塩基の例

CH3CH2NH

CH3CH2NH2構造式 CH3NH2

化合物名 メチルアミン ジエチルアミン アニリン

分類 脂肪族アミン 脂肪族アミン 芳香族アミン

共役酸の構造式

共役酸のpKa

10.7 10.9 4.6

CH3NH3CH3CH2

NCH3CH2

HH

NH3

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その酸・塩基反応、進むの?

CH3COOH + NH3 CH3COO– + NH4+K ?

pKa = 4.8 pKa = 9.4

K =[CH3COO–][NH4+][CH3COOH][NH3]

[H3O+][CH3COO–][CH3COOH] = 10–4.8

[H3O+][NH3][NH4+]

= 10–9.4,

K =[CH3COO–][NH4+][CH3COOH][NH3]

= 10–4.8

10–9.4= 104.6 = 4.0 x 104

※ 酸塩基反応が「進む」かどうかは、平衡定数で判断できる

(この平衡は右に大きく偏っている: [CH3COO‒]/[CH3COOH] = [NH4+]/[NH3] ~ 200)

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酸の強さは何で決まるのか

電気陰性度

ローンペア軌道の混成状態

ローンペア軌道の大きさ

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酸の強さは何で決まるのか

「酸の強さは pKa で決まる」:これでは不十分!

酸の強さ(pKa)は物質の化学的性質

→ 電子の振る舞いによって決まっているはず

→ 電子配置と酸性度の間にはどういう関係があるのか?

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酸の強さ:基本的な考え方

1.共役塩基が安定なほど、強い酸である。

H–A + B A– + H–B+

A‒ が安定なほど、平衡は右に偏る。

2.共役塩基は「ローンペア電子のエネルギーが低い」ほど安定。

H A A–H+ +ローンペア

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酸の強さを決める要因 (1):電気陰性度

ローンペア電子は「電気陰性度が高い」ほど安定

(原子核がローンペア電子を強く引きつけるため)

※ 水素原子が「同じ周期の原子」に結合しているとき

HFH2ONH3CH4>pKa 3.215.73660 > >

CH3– NH2– HO– F–共役塩基:

共役塩基の安定性: ①②③④

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酸の強さを決める要因 (2):軌道の混成

CH3CH3 H2C CH2 HC CH

pKa 60 44 25> >

sp3 混成 sp2 混成 sp 混成

ローンペア電子は「s 軌道の割合」が多いほど安定

※ 水素原子が「同じ元素だが混成状態が異なる原子」に結合しているとき

(s 軌道の割合が多いほど原子核に近づく確率が高いため)

s 軌道 25% s 軌道 33% s 軌道 50%

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酸の強さを決める要因 (3):原子の大きさ

(他の電子との間の反発が小さくなるため)ローンペアは大きな軌道に入っているほど安定

HI>

HBr>

HCl>

HFpKa –10–9–73.2

※ 電気陰性度の順序とは逆になっていることに注意

※ 水素原子が「異なる周期の原子」に結合しているとき

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