末期腎不全といわれたときに 考える選択肢末期腎不全といわれたときに...

Preview:

Citation preview

末期腎不全といわれたときに考える選択肢

NTT東日本札幌病院 健康セミナー(2019年1月19日)

腎臓内科 眞岡知央

• 末期腎不全(ESKD: end‐stage kidney disease)とは・・・

腎臓の機能が大幅に失われ(eGFR 15ml/min未満)、回復不能な状態

何もせず放置すれば死に至る

心血管死亡リスクがとても高い状態

腹膜透析 血液透析 腎臓移植

末期腎不全に至ってしまった場合は、

次の3つの中から、治療法を選択する必要が生じる

腎代替療法

I. 腎臓について

II. 腎代替療法の解説I. 腎臓移植II. 血液透析III. 腹膜透析

III. 当院での療法選択

腎臓について

腎臓の位置と形

そら豆の形をしたこぶし大の臓器で後腹膜腔に位置

第11胸椎から第3腰椎間の左右に一対存在

肝臓があるため右の方がやや低い位置

1側100~150g

腎臓の構造

外帯

内帯

弓状動脈輸入細動脈

輸出細動脈

髄質

皮質

髄質

皮質

弓状動脈

虚血に弱い

髄質内層

髄質外層

ヘンレ係蹄

直血管

表在糸球体表在ネフロン

中皮質ネフロン

傍髄質糸球体

小葉間動脈

90mmHg

50mmHg

腎臓の構造

ネフロン

皮質 : 腎小体(ボーマン嚢と糸球体)が多数存在

髄質 : 主に尿細管から成り立つ

腎血流 : 約1200mL/分(心臓から出る血流の1/4~1/5)

尿の生成 :ネフロンという基本の単位によって行われる

1つの腎臓には約100万個のネフロンが存在

糸球体

尿細管

尿

尿の生成

腎臓の働き (1)

①老廃物の排泄

②水分の調節

③電解質の調節

④酸塩基平衡の調節

ホルモンの分泌、代謝

①ホルモンによる血圧の調節

②造血ホルモンの分泌

③ビタミンD3の活性化

④インスリンの不活性化

透析で代償できる 透析で代償できない

腎臓の働き (2) (尿の生成)

①濾過 糸球体で血液から尿の原料となる原尿をろ過

②再吸収 一度濾過された水分やアミノ酸・電解質・ブドウ糖・ビタミンなど必要な物質を再吸収

③分泌 濾過しきれなかった酸や老廃物などを分泌

④濃縮 集合管でさらに水分が再吸収され濃縮

糸球体濾過(=GFR)は成人で約100ml/分1日あたり100ml/分(GFR)×1440分(1日)=144L ←原尿

水分の99%は再吸収され、 終的に尿として排泄されるのは1.5L

②③

糸球体濾過値(GFR:glomerular filtration rate)とクレアチニン

•腎臓の機能は、主にGFRで判断する

•糸球体濾過(=GFR)は成人で約100ml/分

• 正確測定するためには、イヌリンクリアランス法や核医学検査が必要 →日常の診療で毎回検査するのは困難

• 血清クレアチニン(Cr、CRE、S‐Crなどと表記)• 筋肉でクレアチンという物質がエネルギーを放出した後にできる代謝産物

• 糸球体で濾過され、ほとんど再吸収されないため腎機能(GFR)が低下する血清クレアチニン濃度(検査結果表の中には尿中クレアチニンも記載されていることがあるので注意してください)が上昇してくる

血清クレアチニンは、値の解釈にコツが必要で、慣れていないと判断を誤ることがあります。

血清クレアチニン濃度 (mg/dl)

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 20 40 60 80 100 120 140GFR (ml/min/1.48m2)

1期

2期

3期

4期

腎不全病期

多い

少ない

筋肉量

• 同じ腎機能でも筋肉量の少ない人(高齢女性など)の方が値が低くなる

• GFRが高いうちはあまり値が上昇しない

• GFRが低くなってくると急に上昇してくる

※多少の範囲であれば薬の影響や体調、水分摂取の状況などで容易に変動します

⽇本⼈のGFR推算式

注意点:

1)GFRが60 (ml/min/1.73m2 ) 未満に関して評価する。

2)クレアチニンは、酵素法で測定したCr値(mg/dl)を用いる。

3)GFR推算式が適応できない状態があることに留意する

●急速に腎機能が変化する状態(急性腎不全)

●年齢(小児、超高齢者)や体格の異常(極端な痩せ又は肥満)

●筋肉量が異常な人(運動選手、栄養失調状態、筋肉疾患を有する人、

下肢切断患者、等)

●クレアチン摂取異常(クレアチンサプリメント常用、菜食主義、等)

Clin Exp Nephrol 2008

GFR(ml/min/1.73m2)=

194xAge-0.287 x Cr-1.094

女性はこれに x0.739

年を取ると腎臓の働きは低下する

y = ‐0.4217x + 116.560

20

40

60

80

100

120

140

160

0 20 40 60 80 100

腎機能(GFR, ml/min)

年齢 (歳)

腎移植ドナーの年齢とGFRの関係Horio M, et al.  Clin Exp Nephrol. 2012 Jun;16(3):415‐20. doi: 10.1007/s10157‐012‐0586‐6. Epub 2012 Jan 24. より引用、改変

正常

慢性腎臓病

慢性腎臓病について

• 慢性に経過する腎臓病のことを、慢性腎臓病=Chronic Kidney Diseaseの頭文字をとって、CKDといいます。

• 慢性に経過する腎臓病には様々な原因のものがありますが(糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎など)、これらには共通の特徴があるので、CKDとまとめて呼ぶことにしています。

• CKDには段階があり、ステージ1→2→3→4→5と進行していきます。CKDの治療の目的は、この進行を可能な限り遅らせることであり、どのようなケースにも共通して行われる治療と、個別の原因に合わせて行われる治療があります。

• CKDには複数の原因疾患が様々な程度で混在している場合もあります。

慢性腎臓病の進行

eGFR値(ml/分/1.73m2)

G1≧90

G260~89

G3a45~59

G3b30~44

G415~29

G5<15

腎臓の働きの程度

正常 軽度低下軽度~

中等度低下中等度~高度低下

高度低下 末期腎不全

治療の目安

生活改善生活改善

食事療法・薬物療法食事療法・薬物療法

腎代替療法について考える

腎代替療法について考える

腎代替療法の準備

腎代替療法の準備

腎代替療法の解説

腎代替療法の解説腎臓移植について

腎臓移植

腎臓が機能しなくなった患者に他人の腎臓を移植する治療法

• 献腎移植:脳死あるいは心臓死したドナーから摘出した腎臓を移植する方法。

• 生体腎移植:親、子、兄弟などの血縁者、または配偶者から腎臓の提供を受けて移植する方法。

生体腎移植においては血液型ABO式がマッチしていることが理想的だが、現在では、免疫抑制剤および抗体除去技術の進歩により、ABO式不適合であっても腎移植が可能となっている。

近では、透析療法を行う事なく、腎臓移植を行う先行的腎移植(Preemptive Kidney Transplantation=PEKT)も増加している。

移植と透析療法との比較

• QOL

•社会復帰率

•生命予後

•誰でも容易に受けられるか

移植 > 透析

移植 > 透析

移植 > 透析

移植 ? 透析

本邦における透析患者数、移植患者数の推移

日本移植学会 臓器移植ファクトブック2016より

腎代替療法の解説透析療法について

(腹膜透析を中心にお話しします)

我が国の慢性透析患者数の推移

日本の慢性透析患者

慢性透析患者数は年々増加:329,609人

2005年頃までは毎年10,000人増加、近年は5,000人前後と

増加が鈍化

慢性透析導入患者数は横ばい:39,344人

2009年まで増加傾向、2010年以降ほぼ横ばい

導入患者の高齢化

透析導入患者平均年齢:69.4才

治療形態

PD患者数:9,021人(2.7%)、HD・PD併用患者:1,831人

血液透析(HD:hemodialysis)

体外で透析膜(ダイアライザー)を介して血液中の老廃物を除去

シャント手術が必要(透析をしやすくするための血管をつなぐ小手術)

週3回外来通院し、1回3~6時間の透析を受ける

腹膜透析(PD:peritoneal dialysis)

• CAPD =Continuous Ambulatory

Peritoneal Dialysis

• APD =Automated Peritoneal Dialysis

持続(連続) 携行式

腹膜 透析

自動

透析液バッグ

排液バッグ

腹腔内に留置したカテーテルを通じて透析液の注液→貯留→排液を繰り返す

CAPDナースカレッジ基礎コース第2章:2016

腹膜

⽪下トンネル部

外部カフ

カテーテル出⼝部

内部カフ

内部カフ

感染対策として⽪下トンネルを作製

腹膜透析用カテーテル

CAPDナースカレッジ基礎コース第2章:2016

腹膜透析のスケジュール

CAPDナースカレッジ基礎コース第2章:2016

CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal

Dialysis)

APD(Automated Peritoneal Dialysis)

腹膜について

長沼信治:CAPD療法Ⅱ. CAPDの原理とシステム

腹膜の総面積≒体表面積

腹膜の働き腹腔内にある約50~100mLの漿液により腹膜を滑らかにする。このことで腹膜でおおわ

れている内部臓器の動きを滑らかにしたり保護したりする。

生体膜として浸出、漏出、分泌などの生理作用ももつ。

腹膜の血液供給臓側腹膜は腹腔動脈と腸間膜動脈から血液供給を受け、静脈系は 終的には門脈

に収束する。壁側腹膜は腹壁の血管から血液供給を受けており、その血流の大部分

は下大静脈へ流入する。

腹膜の物質吸収腹膜からの物質の吸収は、血行性とリンパ行性に二分され、水・電解質・ブドウ糖など

は血行性に、脂肪・膠質・不溶物質等はリンパ行性に吸収される。

透析液

腹膜お腹の毛細血管 腹腔内

血液

物質は濃度の濃い方から薄い方へ移動する

老廃物

カリウム

リン

透析膜としての腹膜:物質移動

透析液

腹膜お腹の毛細血管 腹腔内

血液

ブドウ糖の濃度を均一にしょうとする力が働き、水が移動する

余分な水

透析膜としての腹膜:除水

ブドウ糖

ブドウ糖

ブドウ糖

ブドウ糖

透析会誌 50(11):673~676,2017

1984年日本でPDが保険適応

1966年 Tenckhoffカテーテル実用化

被嚢性腹膜硬化症(Encapsulating Peritoneal Sclerosis)

長期PDの深刻な合併症の一つ

腹膜劣化により変性した腸管同士が癒着し、イレウスを起こす

析出したフィブリンが被膜となり臓側腹膜から壁側腹膜までを覆う

1980年代から報告が出始め腹膜透析導入の阻害因子ともなった(死亡率 26~57%)近年は中性透析液の開発により発症率は1%以下

腹膜透析歴5年以下での発症率はきわめて低い

治療は手術、ステロイド投与など

腹膜透析のメリット (血液透析との比較)

医学的メリット 日常生活上のメリット

1. 体液の恒常性が保たれる

2. 溶質・水分除去がゆっくりであり、体内での変

動が少ない/不均衡症候群が少ない

3. 心血管系への影響が少ない

4. バスキュラーアクセスや抗凝固剤が不要

5. 穿刺痛がない

6. 血液の喪失がない

7. 急激な体液量の変化がないため残存腎機能

が保持に有利である

8. 透析液から吸収されるグルコースはエネル

ギー源として利用される

1. 在宅医療であり自由度の高い生

活が可能である(透析液を何時に

交換するかなどは、ある程度自分

で決めることができる)

2. 社会復帰が容易である

3. 通院に要する時間、回数が少ない

腹膜透析のデメリット (血液透析との比較)

医学的デメリット 日常生活上のデメリット

1. 腹膜炎・出口部感染などの感染症の合併

2. ヘルニア・腰痛など腹圧上昇に伴う合併症

3. 蛋白質・アミノ酸喪失

4. 生体膜である腹膜の劣化(5年~8年くらいで、 終的には血液透析や移植に移行する)

1. 基本的に(高齢者の場合には隔日に行うこともある)連日透析なのでバッグ交換の煩わしさがある

2. 職場などでバッグ交換を実施する場合、隔離された交換スペースが必要となる

3. 透析液の保管スペースが必要となる

腹膜透析は、透析導入前の保存期腎不全の状態を延長するイメージ

新百合ヶ丘総合病院 篠崎倫哉先生 「そうだったのか!PD」より引用・改変 : 2017/9/2 北海道APES

HD(血液透析)HD(血液透析)

HD(血液透析)HD(血液透析)PD(腹膜透析)PD(腹膜透析)

残存腎機能

残存腎機能

残存腎機能がもたらす利益

Perl J, Bargman JM. Am J Kidney Dis. 2009 Jun;53(6):1068‐81 より引用・改変

生存率の向上QOLの向上

β2ミクログロブリンクリアランス↑中分子クリアランス↑

蛋白に結合した尿毒素の除去↑

β2ミクログロブリンクリアランス↑中分子クリアランス↑

蛋白に結合した尿毒素の除去↑

正常な体液量の維持正常な体液量の維持

血圧コントロールの改善心肥大の改善

血圧コントロールの改善心肥大の改善

より良いリンコントロールより良いリンコントロール

栄養状態の改善栄養状態の改善

炎症の改善炎症の改善

J Am Soc Nephrol 11: 116–125, 2000

生存率

血液透析

腹膜透析 → 血液透析

北海道胆振東部地震

9/6未明に地震発生→北海道全域の停電30施設近くが自施設での透析が不可能停電は48時間でほぼ解消

腹膜透析患者については全員が在宅で治療を継続

世界の現況 2013年報告 (56か国 USRDS* )

透析患者数(人口100万人あたり)

第1位:台湾 3,138人

第2位:日本 2,411人

第3位:米国 2,043人

PDの割合

第1位:香港 71.8%

第2位:メキシコ 44.8%

第3位:アイスランド 34.2%

(米国 9.5% 日本 2.9%)

* USRDS =United States Data System 米国腎臓データシステム

米国のPD患者数の動向

J Am Soc Nephrol. 2016 Nov;27(11):3238‐3252

血液透析(HD)・腹膜透析(PD)の診療報酬の推移

末期腎不全の腎代替療法

• 公共政策の影響を受けやすいため、国や地域により様相が異なる

• ほとんどの先進国と多くの途上国では、PDがHDに比べてコストが低い

• PD療法を受けるESRDの患者の割合は、非医学的な要因によって主に決まる傾向にある

道内の透析施設(⽇本透析医学会施設会員)196施設の分布

74

13

10

9

97

7

市町村に2施設以上市町村に1施設

旭川⾚⼗字病院腎臓内科 和⽥篤志(⽇本透析医学会 統計解析⼩委員)

北海道は透析施設が⾜りない

上川圏2013(8.3%)123/1356

釧路圏 2013(8.1%)58/656

空知圏2013(6.4%)48/704

⼗勝圏 2013(6.7%)46/637

渡島圏 2013(6.0%)65/1015

札幌圏 2013(1.7%)96/5599

上川圏2015(8.3%)122/1356

釧路圏 2015(5.8%)38/656

空知圏2015(4.7%)35/747

⼗勝圏 2015(5.5%)46/637

渡島圏 2015(7.4%)75/1034

札幌圏 2015(2.3%)127/5536

道内全体

HD数︓2013年 13126名 →2015年13214名

PD数︓2013年 473名(3.6%)→446名(3.3%)

患者さんが各治療法について知識を得たのはいつか?

2008年 社団法人全国腎臓病協議会・バクスター株式会社 共同調査

2008年 社団法人全国腎臓病協議会・バクスター株式会社 共同調査

当院での療法選択

当院の腹膜透析患者数

• 2018年11月現在

• 血液透析患者数 112 名

• 腹膜透析患者数 25 名 (全透析患者の18%)• 腹膜透析のみ 19 名

• 腹膜透析+血液透析併用 6 名

• カテーテル挿入済み未導入 2 名

• 2010年4月

• 血液透析患者数 110 名• 腹膜透析患者数 0 名

0

1

1

2

2

1

3

9

12

0 10 20 30 40 50 60 70

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

近年の透析導入件数(当院)

血液透析 腹膜透析

全導入患者の約19%がPD

2018年5月より、腎代替療法の療法選択外来を開設しました

• 末期腎不全で、治療法の選択に迷っている患者さんが対象

• 医師からの依頼で、腎臓病療養指導士の資格を持つ看護師が、各治療法の特徴をわかりやすく説明します

• アンケート用紙などを活用して、患者さんの腎不全に対する捉え方、治療に対する理解、生活スタイルに合わせた治療法などの情報を共有し、治療法を一緒に決定していきます

療法選択外来開設後の変化

46.2 

79.1 

42.3 

17.9 

3.8 

3.0 

7.7 療法選択外来経由

全体

血液透析 腹膜透析 腎移植 未定

いまのところ移植療法の選択率はあまり変化していませんが、腹膜透析の選択率が増えています

• 末期腎不全(ESKD: end‐stage kidney disease)とは・・・

腎臓の機能が大幅に失われ(eGFR 15ml/min未満)、回復不能な状態

何もせず放置すれば死に至る

心血管死亡リスクがとても高い状態

腹膜透析 血液透析 腎臓移植

末期腎不全に至ってしまった場合は、

次の3つの中から、治療法を選択する必要が生じる

腹膜透析、腎臓移植についても知識を得て、自分にあった治療法を選択して行きましょう

関連リンク(一般の方向けのページがある団体)

• 腎臓病全般について• 日本腎臓学会 https://www.jsn.or.jp/• 全腎協(腎臓病の患者会組織) http://www.zjk.or.jp/

• 透析について• 日本透析医学会 https://www.jsdt.or.jp/

• 移植について• 日本移植学会 http://www.asas.or.jp/jst/

• 療法選択について• 腎臓病SDM推進協会 http://www.ckdsdm.jp/

• 腹膜透析液メーカー• バクスター http://www.baxter.co.jp/• テルモ http://www.terumo.co.jp/

Recommended