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220 腎炎症例研究 29 巻 2013 年 症  例 症 例:40 歳代男性 主 訴:呼吸苦,全身浮腫 現病歴:生来健康 2011 4 月半ばに両下腿 浮腫を自覚 5 月初め顔面浮腫出現し,5 9 近医を受診 ネフローゼ症候群の診断で 5 12 日当院入院 既往歴:特記事項なし 生活歴: 喫煙(-)(;以前は 20 本/日× 20 年), アルコール(+家族歴:特記事項なし 入院時現症: 身長 179cm,体重 93kg+8kg/2 週間),体温 36.5℃,血圧 124/68mmHg,脈拍 61 回/分 結膜;貧血(-),黄染(-) 頸部リンパ節腫大(-),扁桃腫大(-) 胸部;呼吸音清,心雑音なし 腹部;平坦・軟,腸蠕動音;亢進・減弱(-), 疼痛(-),圧痛(-) 両下腿浮腫あり(++/++Key WordC1q 腎症,IgM腎症,ステロイド感受性ネフロー ゼ症候群,MCNS 亜型 関東労災病院 腎臓内科 C1q 腎症と IgM 腎症との鑑別に苦慮している ステロイド感受性ネフローゼ症候群の一例 井 上   隆  鎌 田 一 寿  矢 尾   淳 甲 斐 恵 子  足 利 栄 仁  宇 田   晋 血算 WBC 7600 L neu 60.2 % lym 29.4 % mon 5.8 % eos 4.1 % bas 0.5 % RBC 461×10 4 L Hb 15.9 g/dL Ht 44.8 % Plt 21.6×10 4 L 生化学 TP 3.7 g/dL Alb 1.3 g/dL BUN 16 mg/dL Cr 0.77 mg/dL UA 6.7 mg/dL T-bil 0.2 mg/dL D-bil 0.1 mg/dL AST 24 IU/L ALT 19 IU/L LDH 277 IU/L T-chol 428 mg/dL LDL-chol 319 mg/dL TG 378 mg/dL Ca 7.2 mg/dL Na 138 mEq/L K 4.5 mEq/L Cl 109 mEq/L Glu 74 mg/dL eGFR 85.5 mL/min/1.73m 2 入院時検査所見①

C1q腎症とIgM腎症との鑑別に苦慮している ステロイド感受 …...てIgm腎症は,C1q腎症に比べると,さらにあ いまいな点の多い疾患概念と言えます。

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Page 1: C1q腎症とIgM腎症との鑑別に苦慮している ステロイド感受 …...てIgm腎症は,C1q腎症に比べると,さらにあ いまいな点の多い疾患概念と言えます。

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腎炎症例研究 29巻 2013年

症  例症 例:40歳代男性主 訴:呼吸苦,全身浮腫現病歴:生来健康 2011年4月半ばに両下腿

浮腫を自覚 5月初め顔面浮腫出現し,5月9日近医を受診 ネフローゼ症候群の診断で5月12

日当院入院既往歴:特記事項なし生活歴:喫煙(-)(;以前は20本/日×20年),

アルコール(+)

家族歴:特記事項なし入院時現症:身長179cm,体重93kg(+8kg/2週間),体温

36.5℃,血圧124/68mmHg,脈拍61回/分結膜;貧血(-),黄染(-)頸部リンパ節腫大(-),扁桃腫大(-)胸部;呼吸音清,心雑音なし腹部;平坦・軟,腸蠕動音;亢進・減弱(-),

疼痛(-),圧痛(-)両下腿浮腫あり(++/++)

Key Word:C1q腎症,IgM腎症,ステロイド感受性ネフローゼ症候群,MCNS亜型

関東労災病院 腎臓内科

C1q腎症とIgM腎症との鑑別に苦慮しているステロイド感受性ネフローゼ症候群の一例

井 上   隆  鎌 田 一 寿  矢 尾   淳甲 斐 恵 子  足 利 栄 仁  宇 田   晋

血算WBC 7600 /μL

neu 60.2 %

lym 29.4 %

mon 5.8 %

eos 4.1 %

bas 0.5 %

RBC 461 ×104/μL

Hb 15.9 g/dL

Ht 44.8 %

Plt 21.6 ×104/μL

生化学TP 3.7 g/dL

Alb 1.3 g/dL

BUN 16 mg/dL

Cr 0.77 mg/dL

UA 6.7 mg/dL

T-bil 0.2 mg/dL

D-bil 0.1 mg/dL

AST 24 IU/L

ALT 19 IU/L

LDH 277 IU/L

T-chol 428 mg/dL

LDL-chol 319 mg/dL

TG 378 mg/dL

Ca 7.2 mg/dL

Na 138 mEq/L

K 4.5 mEq/L

Cl 109 mEq/L

Glu 74 mg/dL

eGFR 85.5 mL/min/1.73m2

入院時検査所見①

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第58回神奈川腎炎研究会

血清CRP 0.03 mg/dL

IgG 488 mg/dL

IgA 195 mg/dL

IgM 164 mg/dL

C3 121 mg/dL

CH50 27.1 /mL

ASO 51

RF 8.2 IU/mL

抗核抗体 陰性

HBsAg 0.1 S/N

HCVAb 0.1 S/CO

尿検査尿外観 清比重 1.034

pH 6.5蛋白定性 4+

蛋白量 4.65 g/日糖定性 -潜血反応 ±RBC <1 /HPF

WBC <1 /HPF

入院時検査所見②

図 1 図 3

図 2 図 4

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腎炎症例研究 29巻 2013年

図 5

鑑別診断:1.光顕:足突起の癒合所見のみ2.IF:C1q,IgMがmesangial patternで弱陽性3.電顕: paramesangium領 域 にelectron dense

deposit

鑑別診断:C1q腎症,IgM腎症

C1q腎症:・ 1985年に JennetteとHippらにより提唱・ 疾患概念 - 光顕:MCNS,FGSと類似 - IF, 電 顕:C1qが メ サ ン ギ ウ ム 領 域 に

dominantまたはcodominantに沈着.同部位にEDD

 - 臨床的にSLE,MPGNを除外・ 臨床像 - ネフローゼ症候群,持続性蛋白尿・血尿,

腎機能低下など様々 - 組 織 像:MCDやFSGS, 増 殖 性 腎 炎,

MPGN,半月体形成など様々 - ステロイドや免疫抑制薬の反応性も様々で

RPGN様に末期腎不全に至る場合もある

IgM腎症:・ 1978年にCohenとBhasinらにより提唱

・ 疾患概念 - 光顕:正常か軽度のメサンギウム細胞増殖 - IF:IgMがびまん性,全節性にメサンギウ

ム領域に沈着 - 電顕:上記部位にEDD

・ 臨床像 - ステロイド反応性,血尿,予後に関して様々

な報告あり

本例のまとめ・ 病理学的診断:C1q腎症もしくは IgM腎症・ 臨床診断:ステロイド反応性ネフローゼ症候

群・ C1q腎症もしくは IgM腎症の一部はステロイ

ド抵抗性を示すことが知られており,本例は今後厳密な経過観察を要する

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第58回神奈川腎炎研究会

討  論 井上 よろしくお願いします。 症例は40歳代の男性で,主訴は呼吸苦と全身浮腫です。 生来健康,単身赴任で遠方在住の方でしたが,2011年4月半ばに誘因なく突然両下肢の浮腫を自覚。5月初めには顔面の浮腫も認め,5月9日に近医を受診。ネフローゼ症候群の診断で5月11日に当科を紹介受診されました。精査加療目的に5月12日入院しました。 既往歴に特記事項はありません。 体重は93Kgと,この2週間で8Kgの増加を認めておりました。血圧は124/68mmHg,扁桃腫大等は認めず,両下腿浮腫が著明に認められました。 入院時血液検査所見では,著明な低蛋白血症,低アルブミン血症,脂質異常症を認めました。血尿はなく,尿蛋白は1日4.7gでした。 胸部レントゲンでは,少量の胸水を認めるのみでした。 以上よりネフローゼ症候群と診断しました。 経過を示します(図1)。入院当日に腎生検を施行し,臨床経過から微小変化型ネフローゼ症候群を強く疑い,翌5月13日からプレドニゾロン40mgを開始いたしました。プレドニゾロン開始8日目には尿蛋白は陰性化し,プレドニゾロン40mgを4週間継続したところ,血清アルブミンは増加傾向を示しました。LDLコレステロールは入院時,アトルバスタチンを内服開始したところ,徐々に低下しました。経過は良好であり,6月11日からプレドニゾロンを35mgに減量しました。軽度のAST,ALT上昇があり,薬剤性肝障害を疑い,アトルバスタチンを6月15日に中止いたしました。6月20日に退院し,退院後は外来で経過観察をいたしました。尿蛋白は陰性が持続し,6月29日には血清アルブミンは4.0g/dLまで回復し,プレドニゾロン35mgを19日間投与して,6月30日からは30mgに減量しています。その後寛解のまま単

身赴任先の病院へ転院しました。なお10月に一度感冒で当科を受診した際も,再発はなく経過しておりました。 腎生検結果です(図2)。左側にPAS染色を示します。糸球体は計28個を得られ,硬化糸球体は認めませんでした。明らかなmesangium

細胞の増殖は認めず,半月体形成や癒着も認めませんでした。 右側にPAM染色を示しましたが,糸球体基底膜の肥厚も認めませんでした。また間質,尿細管や血管にも明らかな異常は認められませんでした。 IF所見です(図3)。スライドに示すようにIgM,C1qのみ陽性となりました。そのほかは,全て陰性でした。 電子顕微鏡所見では,足突起の癒合所見に加え,矢印で示したようにparamesangium領域を中心にelectron dense depositが認められました

(図4)。 以上に示した特徴よりネフローゼ症候群の鑑別診断として,C1q腎症,および IgM腎症を考えました。 光顕上,mesangium細胞の増殖はあっても,ごくわずかで,臨床的にネフローゼ症候群を呈する微小変化型ネフローゼ症候群のvaliantとして,C1q腎症,および IgM腎症があることが知られております(図5)。 C1q腎症は,1985年に提唱された疾患概念で,光顕ではMCNS,FGSと類似。IF所見ではC1q

がmesangium領域にdominantに沈着。電子顕微鏡では同部位にelectron dense depositが認められます。臨床的にSLEや,MPGNを除外する必要があります。臨床像としてはネフローゼ症候群,持続性蛋白尿,血尿,腎機能低下などさまざまな様式をとり,その組織像は微小変化型,FSGS,増殖性腎炎,MPGN,半月体形成など,さまざまな糸球体病変を示します。ステロイドや免疫抑制薬で完全寛解が得られる場合や,ステロイド抵抗性,頻回再発型を示すこともあり,さらにはRPGN様に末期腎不全に至る場合もあ

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腎炎症例研究 29巻 2013年

ります。 一方,IgM腎症ですが,1978年に提唱された疾患概念です。その特徴は光顕では,正常か,軽度のmesangium細胞増殖。IFでは,びまん性,全節性に IgMがmesangium領域に沈着。電子顕微鏡所見は同部位にelectron dense deposit

臨床像としての,ステロイド反応性,血尿の有無,程度,予後に関してはさまざまな報告があります。単なる滲出性病変として,また硬化部分には一般的に IgMの染色性を持つことなどから,いろいろな疾患がこの概念の中に含まれてしまっている可能性が高く,この疾患は本当に存在するか否か明確ではありません。したがって Igm腎症は,C1q腎症に比べると,さらにあいまいな点の多い疾患概念と言えます。 以上,本症例のまとめです。光顕ではminor abnormalityであったにもかかわらず,IFではmesangiumパターンでC1qおよび IgMの染色性が認められ,さらに電顕でparamesangium領域にelectron dense depositが認められたことから,C1q腎症もしくは IgM腎症と病理学的に診断しました。ただし,IFでの染色性はC1qで若干強いようにも見え,さらに後者の疾患概念自体が現在もなお議論の余地があることから,われわれはC1q腎症ではないかと考えております。 一方,臨床経過はMCNS同様のステロイド感受性を有しており,短期間で完全寛解に至りました。本症例が,C1q腎症もしくは IgM腎症と考えると,今後頻回再発型の形式を取る可能性や,ステロイド抵抗性となる可能性も十分に考えられ,綿密な経過観察を行う必要があると考えております。以上です。座長 はい。どうもありがとうございました。ただ今のご発表に対しまして,何かご質問,ご意見等はありますでしょうか。 先生,光顕minimalですけれども,しっかりdepositがparamesangiumにあって,IgMが染まっているのですよね。井上 はい。座長 IgM腎症,IgM nephropathyの概念は非常

にあいまいで,染み込みでトラップされて IgM

が付いてしまう場合もあるというのですけれども,しっかりdepositでも沈着しています。ほかの補体成分は,この IgM nephropathyの場合,今回先生が提示されたのは,C1qと IgMが陽性なのですけど,IgM腎症のときの補体成分の沈着態度というのは,どうなのですか。今回のこのケースは陰性と思いますけども。井上 通常の疾患概念としてということですか。座長 そうです。井上 はっきりわかりません。座長 免疫複合型が沈着しているわけですよね。井上 はい。座長 電顕上でも一応証明されていますので,やはり補体はいろんなパターンで付くのですよね,きっと。井上 この症例以外の経験はないので明白なことは言えません。座長 何かそのへんで,もし先生方コメントをいただければありがたいと思いますけれども。お願いします。宇田 共同演者の宇田です。成書を見ますと,C3は lgM腎症の場合30 ~ 100%に沈着が認められるとされています。 本例の経過の概略ですが,臨床経過は典型的なMCNSでしたので全くほかの疾患を考えず治療を始めました。そうこうするうちに,光顕と IF結果出ました。IFを見てみると,IgMとC1qが非常に faintで(±)かあっても(1+)でしたので,私は falsepositiveかと思っていました。さらに,治療経過はステロイド反応性は良好であり,MCNSとして退院したわけです。大体どこの施設でもそうだと思いますが,1,2

カ月後に電顕が返ってくる。見たら,electron dense depositがありとてもびっくりした。そのような経過が,私には非常に興味深かったのです。以上が今回発表させていただいた理由です。 IgM腎症とC1q腎症は現時点でも非常に疾患

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第58回神奈川腎炎研究会

概念が曖昧でありますので,病理の先生方がどのように普段考えられていらっしゃるのかをお聞きしたくて提示致しました。座長 はい。ありがとうございます。木村先生,どうぞ。木村 聖マリアンナ医科大学の木村ですけど,1点だけちょっと確認させていただきます。 電顕でdepositのあるところを出していただきましたけれども,あれはもう全体ですか。要するにグローバルかということなのですけども。一部ですね。探してやると,ああいうのがある感じなのですかね。そうですね。どうもありがとうございました。座長 そのほか,いかがですか。よろしいですか。それでは病理の先生方のコメントをいただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。重松 最後に非常に難しい症例が出てきました。最終的な結論は出しにくいのですけれども,私の意見だけをとにかく言ってみます。

【スライド01】とにかく組織像がきれいで,本当に尿細管もきれいに保持されています。ルーペ像でも糸球体もちゃんと,ここに糸球体ありというのが分かるぐらい整然と見られます。

【スライド02】動脈はちょっと年齢的には硬化がありますけれども,静脈系はきれい。糸球体はご覧のように,ほとんどminor abnormality と言わざるを得ない。尿細管には特に変化なし。

【スライド03】これは線維性の肥厚が動脈内膜にあることをMassonで証明しています。

【スライド04】糸球体では,輸入動脈壁が硬化をしているというのも,やはり先ほどの動脈の硬化と似たようなもので,糸球体病変とは直接関係のない変化じゃないかと思います。ここでも少しhyalinosisみたいなのが見えます。

【スライド05】ここは血管極から分かれて,そして尿管極まで入ってくるのですけれども,ここにTip Lesionとかを思わせるところもないし,matrixも増えていないということです。

【スライド06】これはPAS染色で先ほどのところを見たのですけれども,血管極のところで硬

化がある程度です。【スライド07】IFのパターンなのですけれども,これはC1q。糸球体がここにあるのかな。確かに局在がはっきり見えます。IgMのほうは,Clg

も弱いけど,さらに弱い感じがします。Clgのほうが有意の所見じゃないかなと思いました。

【スライド08】EMではdepositionがはっきりしているというのが特徴です。例えば,もしIgAが染まっていたとすれば,IgA腎症がminor abnormalityの形で出てくると言えるかもしれない。ただ,IgMのdepositionは,私たちも IgM

腎症といわれる症例を何例か集めて報告したのですけれども,depositionについては,こんなにdensityがしっかりしたのはないのです。先ほど,染み込み病変が多いとおっしゃったのですけれども,確かに染み込み病変と変わらないといわれるぐらいdensityの薄いdepositionが見られるというのが IgMでした。だから,私自身は IgM腎症というのは,便利な名前なのですけれども,あれはやはり染み込みがどうしても除外できないから,独立したものにしていいのかどうかという疑問を持っています。 そういう点で,このdepositionはいわゆるC1q

の報告に出ている高電子密度のあるdepositsとほぼ一致するようなdepositionです。

【スライド09】ここも,かなり強いdepositionが見えます。末梢のほうにはない。

【スライド10】ここでも,interpositionがあるところにdepositionが見えます。だから,軽いmesangiumの増殖が,これにはあるわけです。ここにもdepositionがあります。

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腎炎症例研究 29巻 2013年

ということで,糸球体病変は微小糸球体変化で,鑑別診断に IgA-,C1q-,IgM腎症なんかが入ってくる可能性があります。本例では蛍光は弱いけれども,C1qが弱いけれどびまん性と,IgM

は非常に弱くて分節性というふうに私は見ました。 電顕ではっきりとした,高電子密度のmesan-

gium沈着物が見られた。これが一番,C1qを応援したいものなのです。C1qの報告を見ると,C1q腎症はFGSと似て,ステロイド治療によく反応しない。Clq腎症はFGSに近い病態ではないかという捉え方が,臨床のほうであるようです。今回は,初めてステロイドをやったら非常によく効いたというのです。FGSでも早期には,ステロイド反応性がある場合がありますから,やはり演者がおっしゃるように,もしC1q腎症を念頭に入れるとすれば,再発がないかをしっかり見る必要があるかと思います。 ということで,結論的には,私はC1q腎症を応援したいということでございます。座長 はい。では山口先生お願いいたします。山口 どうなんでしょうか。ちょっと IFがC1q,IgMにしても,あまりにも弱すぎるので,大体C1q腎症は,IgAのmesangialパターンと同じぐらいに2(+)でmesangiumにdiffuse,global

に出ないと,C1q腎症と言わないのです。それから,大体 IgGも一緒に付いてくるとか,もっとはっきり出てきます。ですから,重松先生はちょっとこちらに傾きましたけれども,私はもうMCNSでいいんじゃないかと。paramesan-

giumの沈着は,いろいろなときに出てきますので,たまたま出てしまったということで,あまり問題がないんじゃないかなというふうに,私は考えます。

【スライド01】非常に糸球体は全体に展開が大きくなっています。尿細管間質にはあまり病変がなくて,細動脈はちょっと硝子化が一部見られています。

【スライド02】massonで,少し高血圧とか,細動脈病変があるので,そうすると移植腎なんか

を見ていると,もう IgMなんてもうしょっちゅう出てくるので,われわれは無視しています,大体は。あまり病的な意味はないというふうにしています。

【スライド03】それで,PAMを見ますと,確かに毛細血管が比較的細かいです。体の大きい方だったかどうかは覚えていませんけれども,少しgranularがあって,IgA cellが増えているとは言えないように思います。

【スライド04】この壁のはっきりした血管が周囲に増えているので,pola vascular,糖尿病じゃないですが,そういうものもちょっとあるのかな。糖尿病というか,insulinに抵抗性の状態が示唆される。ただ,mesangiumにはあまりはっきりしたdepositはないです。

【スライド05】それから,近位尿細管にこういうhyalineの沈着が見られています。

【スライド06】電顕で,ほかの先生に見てもらったらnegativeでいいんじゃないですかと言っていましたから,私もこういうものは全部nega-

tiveと最近は解釈を。なんでもかんでも取るときりがないので,明らかなもの以外はなるべく取らないようにしないと迷ってしまうということはあると思います。

【スライド07】確かに全体にpodocyteのefface-

mentは,意外と広範にあるように思います。FGSですと,podocyteの剥離像があるわけですが,あまりはっきりしたものはないように思います。mesangiumの拡大は,あまり際立っていないように思います。

【スライド08】depositがpparamesangial主体に少量見られる。どこでも見られるというわけではないわけですね。ですから,一つは血管局部に近いところのparamesangiumのところですと,いろいろな二次的な染み込み病変というのが起きやすいわけで,これがどのへんに近い場所なのかが一つは問題になると思います。

【スライド09】そういうようなことで,minimal change diseaseということで,年齢が40歳ぐらいですけど,hyalinosisがある。蛍光は一応±

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第58回神奈川腎炎研究会

書いてあるのですが,ほぼnegativeでいいと思いますので,私はMCNSで問題ないんじゃないでしょうか。以上です。座長 はい。ありがとうございました。お二人の病理の先生方のご判断が少し割れているところがあるようでございますけれども,会場の先生方いかがでしょうか。何かご意見,ご質問等ありますでしょうか。C1qの沈着の態度をどう捉えるかというところで,C1q腎症と取っていいか。あるいはminimalと取るかというところでしょうか。いかがですか。演者の先生も何かどうですか。ご質問はありますか。先生,どうぞ。重松 山口先生にたてつくわけじゃないですけども,やはり一番問題になるのは,parame-

sangium領域に単なる染み込み病変のようなdensityの薄いのじゃなくて,がっちりとしたdepositが多数見えることです。これを,例えば,minimal changeでも,こういうdepositがあると言い始めたら,それこそMCNSはどこへ行くかということになりますね。だから,先生も可能性としては少ないけれども,C1q腎症も除外できないでしょうというぐらいにしてもらえませんか。座長 いかがでしょうか。山口 結局,電顕で見ている糸球体の数とか,IFも確かに1個とか2個ぐらいしか,われわれは観察はできていないですよね。ですから,本当に代表的な糸球体がそこで出ているかどうか分かりませんから,それはC1qの染まりがあんなに薄くては,まず基本的にあれはもう無理だと思います。だから,それが代表として考えれば,IFの染まり方からいうと,C1q腎症とは言えない。明らかにそれは言えると思います。定義的にも無理だと思います。 電顕のpparamesangial depositというのは,われわれはいろいろ幅広く移植腎とか何かで見ていますと,いろいろなかたちで非常によく見られるのです。MCNSでも時々出てきます,もちろん。それは,どの segmentを見ているかにもよりますし,IgAでもいわゆる silentは IgA沈

着症というのもありまして,ああいうのを見ますと,pparamesangial depositは,いろいろなかたちで出ているのです。実際に IgAを染めますと,±ぐらいなのです。だけど,電顕的には,pparamesangial dense depositは明らかにある。そうすると,そういう IFの所見と電顕のdiscrepancyといいますか。極端にいうと,Aが2(+)でも,paramesangial depositがない糸球体に出合ってしまうこともあるのです。電顕で,100例に1例ぐらいはあります,IgA腎症でも。ですから,どうしても,IFと電顕の,どっちを重く捉えるかによって意見が違ってきてしまうと思うので,やはり電顕も必ずしも代表的なものがうまく出ているとは限らないですし,強調されて出てしまうということもあるように思います。座長 分かりました。ありがとうございます。そのへんの読み方をよく考えてということですね。いかがですか。ほかにご意見等ありますでしょうか。演者の先生よろしいですか。C1q腎症,IgM nephropathy,minimalというところで,よろしいですか。

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重松先生 _01 重松先生 _04

重松先生 _02 重松先生 _05

重松先生 _03 重松先生 _06

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第58回神奈川腎炎研究会

重松先生 _07 重松先生 _10

重松先生 _08 山口先生 _01

重松先生 _09 山口先生 _02

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山口先生 _04

山口先生 _05

山口先生 _06

山口先生 _07

山口先生 _03

山口先生 _08

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山口先生 _09