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Tel/Fax81 99 286 4296Emaildu402006ms.kagoshima-u.ac.jp Nippon Suisan Gakkaishi 73(2), 244 249 (2007) 鹿児島県志布志湾における褐藻ヨレモクモドキと シロコモクの季節消長 島 袋 寛 盛, 1 樋 口 福 久, 1 寺 田 竜 太, 2 野呂忠秀 1 (2006 5 26 日受付,2006 10 3 日受理) 1 鹿児島大学水産学部附属海洋資源環境教育研究センター, 2 鹿児島大学水産学部水産学科 Seasonal changes of two Sargassum species: S. yamamotoi and S. kushimotense (Fucales, Phaeophyceae) at Shibushi Bay, Kagoshima, Japan HIROMORI SHIMABUKURO, 1 FUKUHISA HIGUCHI, 1 RYUTA TERADA 2 AND TADAHIDE NORO 1 1 Education and Research Center for Marine Resources and Environment, Faculty of Fisheries, Kagoshima University, Shimoarata, Kagoshima 890 0056, 2 Division of Aquatic Resource Science, Faculty of Fisheries, Kagoshima University, Shimoarata, Kagoshima 890 0056, Japan The seasonal changes in size of two temperate Sargassum species (Phaeophyceae), S. yamamotoi and S. kushimotense, were studied in Shibushi Bay, Kagoshima, Japan. In addition, the line-transect method was conduct- ed to describe their population characteristics and the vertical distribution of the seaweeds. Both species were found on rocky shores in the upper subtidal zone (1.0 m to 2.5 m in depth), and they were never observed in sand and intertidal zones. Maximum lengths were observed in April with 244.0 cm for S. yamamotoi and 194.6 cm for S. kushimotense. They decreased in size from May through August after the reproductive structures matured. Regenerated shoots and newly grown germlings were observed in September and they increased in size from Oc- tober through March. The maximum density of each population was observed in April with 20 shoots m 2 for the former and 90 main branches m 2 for the latter. However, the biomass of each species in that month was almost the same: 1752 g dry weight m 2 for the former and 1782 g dry weight m 2 for the latter. キーワードSargassum kushimotenseSargassum yamamotoi,鹿児島,ガラモ場,季節消長,志布志湾,ホン ダワラ属,藻場 鹿児島県は九州南部から南西諸島の北部に位置してお り,沿岸各地では黒潮暖流の影響を受けることから,温 帯,亜熱帯性のホンダワラ属海藻が混生し,種多様性の 高いガラモ場が形成されている。 1,2) ガラモ場は沿岸生態 系において基礎生産の場として機能し,魚類やベントス の生息,産卵の場としても重要な役割を担っている。 3) しかし,近年,九州南部沿岸において磯焼け等によるガ ラモ場の衰退が各地で指摘され,日本沿岸における種多 様性の低下や,水産有用生物の減少などが,深刻な問題 になっている。そのため,藻場の保全や造成に関する技 術的開発が試みられているが,基礎的な知見である温 帯,亜熱帯性ホンダワラ属の分類や生態に関しては明ら かでない点が多い。 九州南部の藻場は,波浪の穏やかな鹿児島湾や八代 海,また波浪が強く黒潮の影響を受ける鹿児島県薩摩半 島,大隅半島南岸,宮崎県などの九州南部東岸など,波 浪や基質など環境の違いによって,ホンダワラ属の生育 種や群落の構造が多様である。大隅半島北東部沿岸の志 布志湾では各所にガラモ場が見られ,特にヨレモクモド Sargassum yamamotoi とシロコモク S. kushimotense が広い範囲で高密度の群落を形成している。ヨレモクモ ドキは本州中部太平洋岸から本海域まで分布し,シロコ モクの分布は断片的な知見ではあるが,本州南部から九 州の太平洋岸に分布しており,志布志湾は両種にとって 分布の南限に位置している。 4,5) また本海域にはイソモク S. hemiphyllum,ヤツマタモク S. patens など温帯性種

Seasonal changes of two Sargassum species: S. yamamotoi and S. kushimotense (Fucales, Phaeophyceae) at Shibushi Bay, Kagoshima, Japan

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Tel/Fax81992864296.Emaildu402006@ms.kagoshima-u.ac.jp

Nippon Suisan Gakkaishi 73(2), 244249 (2007)

鹿児島県志布志湾における褐藻ヨレモクモドキと

シロコモクの季節消長

島 袋 寛 盛,1樋 口 福 久,1 寺 田 竜 太,2 野 呂 忠 秀1

(2006 年 5 月 26 日受付,2006 年 10 月 3 日受理)

1鹿児島大学水産学部附属海洋資源環境教育研究センター,2鹿児島大学水産学部水産学科

Seasonal changes of two Sargassum species: S. yamamotoi and S. kushimotense(Fucales, Phaeophyceae) at Shibushi Bay, Kagoshima, Japan

HIROMORI SHIMABUKURO,1FUKUHISA HIGUCHI,1

RYUTA TERADA2 AND TADAHIDE NORO1

1Education and Research Center for Marine Resources and Environment, Faculty of Fisheries, Kagoshima

University, Shimoarata, Kagoshima 8900056, 2Division of Aquatic Resource Science, Faculty of Fisheries,

Kagoshima University, Shimoarata, Kagoshima 8900056, Japan

The seasonal changes in size of two temperate Sargassum species (Phaeophyceae), S. yamamotoi and S.

kushimotense, were studied in Shibushi Bay, Kagoshima, Japan. In addition, the line-transect method was conduct-

ed to describe their population characteristics and the vertical distribution of the seaweeds. Both species were

found on rocky shores in the upper subtidal zone (1.0 m to 2.5 m in depth), and they were never observed in sand

and intertidal zones. Maximum lengths were observed in April with 244.0 cm for S. yamamotoi and 194.6 cm for S.

kushimotense. They decreased in size from May through August after the reproductive structures matured.

Regenerated shoots and newly grown germlings were observed in September and they increased in size from Oc-

tober through March. The maximum density of each population was observed in April with 20 shoots m-2 for the

former and 90 main branches m-2 for the latter. However, the biomass of each species in that month was almost

the same: 1752 g dry weight m-2 for the former and 1782 g dry weight m-2 for the latter.

キーワードSargassum kushimotense,Sargassum yamamotoi,鹿児島,ガラモ場,季節消長,志布志湾,ホン

ダワラ属,藻場

鹿児島県は九州南部から南西諸島の北部に位置してお

り,沿岸各地では黒潮暖流の影響を受けることから,温

帯,亜熱帯性のホンダワラ属海藻が混生し,種多様性の

高いガラモ場が形成されている。1,2)ガラモ場は沿岸生態

系において基礎生産の場として機能し,魚類やベントス

の生息,産卵の場としても重要な役割を担っている。3)

しかし,近年,九州南部沿岸において磯焼け等によるガ

ラモ場の衰退が各地で指摘され,日本沿岸における種多

様性の低下や,水産有用生物の減少などが,深刻な問題

になっている。そのため,藻場の保全や造成に関する技

術的開発が試みられているが,基礎的な知見である温

帯,亜熱帯性ホンダワラ属の分類や生態に関しては明ら

かでない点が多い。

九州南部の藻場は,波浪の穏やかな鹿児島湾や八代

海,また波浪が強く黒潮の影響を受ける鹿児島県薩摩半

島,大隅半島南岸,宮崎県などの九州南部東岸など,波

浪や基質など環境の違いによって,ホンダワラ属の生育

種や群落の構造が多様である。大隅半島北東部沿岸の志

布志湾では各所にガラモ場が見られ,特にヨレモクモド

キ Sargassum yamamotoi とシロコモク S. kushimotense

が広い範囲で高密度の群落を形成している。ヨレモクモ

ドキは本州中部太平洋岸から本海域まで分布し,シロコ

モクの分布は断片的な知見ではあるが,本州南部から九

州の太平洋岸に分布しており,志布志湾は両種にとって

分布の南限に位置している。4,5)また本海域にはイソモク

S. hemiphyllum,ヤツマタモク S. patens など温帯性種

245

Fig. 1 Map showing study site (S) at Natsui Beach ofShibushi Bay, Kagoshima, Japan. NCSE indicates Na-tional Center for Stock Enhancement, FisheriesResearch Agency. Arrow indicates the study site ofthe line-transect method.

Fig. 2 Specimen of Sargassum yamamotoi Yoshida col-lected from Natsui, Shibushi City, Kagoshima, Japan(KAGF 1751).

245ヨレモクモドキとシロコモクの季節消長

に加えて,フタエモク S. duplicatum などの亜熱帯種が

混生し,種多様性が高い場所である。しかし本海域のガ

ラモ場の群落構造や季節変化についてはほとんど把握さ

れていない。6,7)そこで,本研究では,志布志湾の優占種

として生育するヨレモクモドキとシロコモクの群落構造

と季節的な消長について明らかにすることを目的とした。

材料および方法

調査は,2003 年 3 月から 2004 年 1 月かけて,鹿児

島県志布志市夏井の独立行政法人水産総合研究センター

志布志栽培漁業センターに面した湾内(N31°27.E131°

8.)で,月に一度行った(Fig. 1)。ヨレモクモドキ,シ

ロコモク,それぞれ 30 個体を無作為に選び,各個体の

最大主枝長を水中で直接計測し,平均藻長を算出した。

またその中で 10 個体を付着器ごと採集して研究室に持

ち帰り,付着器部分の湿重量,主枝数を計測すると共

に,外形及び生殖器床を観察し,種の同定を行った。さ

らに採集個体の中から主枝長上位 20 本を選び,主枝ご

との湿重量を計測し,平均湿重量を算出した。調査地に

おける海藻群落の垂直分布構造,底質組成を確認するた

め,2003 年 4 月にライントランセクト調査を行った。

本調査海域では,平均海面時の海岸線を基点として南西

方向へ 200 m のラインを設置し,ライン上の出現海藻

を目視により観察した。また最盛期におけるヨレモクモ

ドキとシロコモクの資源量を推察するため,2003 年 4

月 27 日,同海域でホンダワラ属藻類が生育している範

囲をホンダワラ属群落として定義し,群落内に 50 cm

四方の方形枠を設置した。枠内のホンダワラ属海藻はす

べて採集して研究室に持ち帰り,両種の個体数と湿重

量,乾重量を測定した。本調査での成熟時期は,雌の生

殖器床上に肉眼で卵が確認できる時とした。尚,種の同

定に用いた標本は,鹿児島大学水産学部植物標本庫

(KAGF)に収蔵した。

調査期間中の海水温度は,水産総合研究センター志布

志栽培漁業センターが,本調査海域で毎日計測している

結果を用いた。また 1980 年から 2005 年までの調査地

の水温に関しては,鹿児島県環境管理課の公共用水域及

び地下水の水質測定結果を用いた。8)

結 果

本研究で用いたヨレモクモドキは,原記載その

他4,9,10)と同様の形態を呈したため(Fig. 2),本種と同

定した。またシロコモクは,葉は単純で縁辺に鋸歯を有

し,生殖器床には刺を有するものもある点で,原記載そ

の他4,5,1013)と同様の形態を呈したため(Fig. 3, 4),本

種と同定した。

246

Fig. 3 Specimen of Sargassum kushimotense Yendo col-lected from Natsui, Shibushi City, Kagoshima, Japan(KAGF 1752).

Fig. 4 Close-up of diagnoses of Sargassum kushimotenseYendo collected from Natsui, Shibushi City, Kagoshi-ma, Japan (KAGF 1752, 1755, 1756). A: Lower partof the thallus (KAGF 1752). B: Leaves and vesicles(KAGF 1752). C: Male receptacles (KAGF 1756).D: Female receptacles (KAGF 1755).

Fig. 5 Vertical distribution of Sargassum community at Natsui Beach of Shibushi Bay, Kagoshima, Japan.

246 島袋,樋口,寺田,野呂

群落の分布構造 ライントランセクト調査の結果

(Fig. 5),本海域の底質は砂礫が堆積する岩盤で,起点

から離岸距離約 18 m の範囲(平均海面上 50 cm)は砂

の底質で,固着海藻は見られなかった。離岸距離 18~

60 m の範囲の底質は岩盤であり(平均海水面上 50 cm

~水深 1 m),ウミトラノオ S. thunbergii が点在してい

た。離岸距離 60~80 m の範囲(水深 1 m)は,砂と小

礫が堆積する岩盤で,小礫上にイソモク,キレバモク

S. alternato-pinnatum,フタエモク,シロコモク,ヤツ

マタモク,シマウラモク S. incanum が混生し,5 以

下の被度で点在していた。離岸距離 80~100 m の範囲

(水深 1~1.5 m)は,小礫上にシロコモクが被度 10,

ヨレモクモドキが被度 20 の割合で生育していた。離

岸距離 100~140 m の範囲(水深 1.5 m)は,一部に幅

247

Fig. 6 Seasonal changes in mean length of main branchesfor two Sargassum: S. yamamotoi amd S. kushimotense(n=30, from the randomly observed 30 main bran-ches in the ˆeld). Values are mean±S.E.

247ヨレモクモドキとシロコモクの季節消長

およそ 30 m,水深 4.5 m の溝があった。この溝は漁港

建設に関わる船道確保のために作澪されたものであり,

溝の両縁にあたる水深 1.5~2.5 m の小礫上には,ヨレ

モクモドキとマジリモク S. carpophyllum がわずかに生

育していた。溝内の水深 2.5~4.5 m の範囲は,砂が堆

積し,ホンダワラ属の生育は確認できなかった。離岸距

離 140~180 m の範囲(水深 1 m)は,砂と小礫が混在

する岩盤上にヨレモクモドキとシロコモクが群落を形成

し,被度 80 以上の割合で高密度に生育していた。ま

た両種以外に,ウミトラノオとイソモクもわずかに点在

していた。方形枠による刈り取り調査もこの地点で行っ

た。離岸距離 180~200 m の範囲(水深 1 m)は,岩盤

上の小礫にヨレモクモドキとシロコモクが約 50 の割

合で生育していた。離岸距離 200 m 以上の底質は砂と

小礫だが,ホンダワラ属はほとんど確認されなかった。

本海域には計 8 種のホンダワラ属が生育し,特にヨレ

モクモドキとシロコモクが優占種だった。

群落の季節消長 ヨレモクモドキは 3 月に主枝長が

236.1 cm,主枝 1 本あたりの湿重量が 249.0 g となり,

4 月には主枝長が 244.0 cm,湿重量が 665.2 g を示して

最大となり,4 月から 5 月にかけて成熟した。成熟後

は,葉や気胞,枝の脱落に伴い,主枝長,主枝の湿重量

共に減少し,8 月にはほとんどの主枝が先端部から枯死

流出し,主枝長 2.3 cm,湿重量が 2.0 g を示し最低とな

った。その後,付着器から新たな主枝が伸長し始め,9

月に主枝長 2.8 cm,湿重量 3.3 g,10 月は主枝長 6.3

cm,湿重量 3.1 g であった。11 月は主枝長 30.1 cm,

湿重量 80.2 g と急速に増加し始め,12 月は主枝長 64.7

cm,湿重量 171.1 g,1 月は主枝長 105.1 cm,湿重量

245.6 g となり,新規の主枝が生じ始めた 9 月から,主

枝長は 3754,湿重量は 7442 増加した。シロコモ

クは,3 月に主枝長が 129.8 cm,主枝 1 本あたりの湿

重量が 254.7 g となり,4 月には主枝長が 194.6 cm,湿

重量が 395.5 g を示して最大となった。シロコモクも 4

月中旬から 5 月中旬にかけて成熟した。成熟後は,各

部位の枯死流失により,主枝長,主枝の湿重量,共に減

少し,7 月に,主枝長 7.7 cm,湿重量が 3.6 g を示し最

低となった。その後,付着器から新たな主枝が伸長し始

め,8 月に主枝長 8.0 cm,湿重量 10.7 g,9 月は,主枝

長 11.4 cm,湿重量 20.8 g であった。10 月,11 月と急

速に増加し始め,12 月は主枝長 71.9 cm,湿重量 106.6

g,1 月は主枝長 127.9 cm,湿重量 266.3 g となり,新

規の主枝が生じ始めた 8 月から,主枝長は 1661,湿

重量は 7392 増加した(Fig. 6, Fig. 7)。

また,調査期間中に,毎月 10 個体ずつ採集した両種

の付着器の重量と,生じる主枝の数を計測したところ,

ヨレモクモドキでは平均 0.90 g で 4.13 本の主枝が生じ

ていた。シロコモクの付着器の湿重量は平均 1.78 g で,

34.97 本の主枝が生じていた。

ヨレモクモドキ,シロコモクの生育量が最大となる 4

月に,方形枠内の全ての両種を採集した結果,同一の 1

m2 あたりに,ヨレモクモドキは 20 個体生育してお

り,湿重量は 8204 g,乾重量は 1752 g であった。シロ

コモクは 90 個体生育しており,湿重量は 7222 g,乾重

量は 1782 g であった。

藻場の水温環境 調査期間中(2003 年 3 月~2004 年

2 月)の海水面温度は,9 月 7 日に最高 27.5°C,2 月 7

日に最低 12.5°C を示し,年間平均水温は 19.5°C であっ

た(Fig. 8)。

また同海域の 1980 年から 2005 年までの 25 年間の水

温は,通年平均が 21.2°C,冬季(12 月,1 月,2 月)水

温の平均が 15.6°C であった。年間,冬季の各年の水温

を比較したところ,年間水温は 19.5°C から 22.6°C,冬

季水温は 13.4°C から 17.5°C の間で増減を繰り返した。

それぞれの水温に近似する直線を引いたところ,年間水

248

Fig. 7 Seasonal changes in mean wet weight of mainbranches for two Sargassum: S. yamamotoi amd S.kushimotense (n=20, from the longest 20 main bran-ches in the collected 10 plants). Values are mean±S.E.

Fig. 8 Surface seawater temperature from May 2003 toFebruary 2004 at Natsui Beach of Shibushi Bay,Kagoshima, Japan.

Fig. 9 Annual and winter surface seawater temperaturefrom 1980 to 2005 at Natsui Beach of Shibushi Bay,Kagoshima, Japan.

248 島袋,樋口,寺田,野呂

温に関しては大きな上昇傾向は認められなかったが,冬

季水温は,傾き 0.0255 の割合で上昇の傾向にあった

(Fig. 9)。

考 察

本研究で観察したヨレモクモドキは,1)付着器が仮

盤状で茎が短い,2)主枝は 2 稜形で下部から生じる側

枝が反曲して生じる,3)葉は楕円形から披針形で,藻

体上部の葉は細長い線形を呈する,4)気胞は球形から

卵形で藻体上部の気胞は細く紡錘形になる点で吉田の記

載4,9)と一致し,基準標本(SAP 43447)とも形態が類

似することから,本種と同定した。シロコモクは,串本

産の不完全な材料で原記載されており,吉田は形態につ

いて再検討する必要性を指摘している。4)本研究で観察

した材料は,1)付着器は仮盤状を呈する,2)主枝は扁

圧で,縁辺に刺を有するものもある,3)葉は披針形

で,縁辺には鋭い鋸歯を有する,4)生殖器床はやや扁

圧した線形で,縁辺は滑らか,まれに刺を有するものも

ある点で,遠藤や岡村,山田,吉田によるシロコモクの

記載4,5,1013)に一致し,選定基準標本(TI herb. Yendo)

とも形態が類似することから,本種と同定した。

ヨレモクモドキとシロコモクは水深 1 m 前後の潮間

帯下部に藻場を形成しており,起点から 150~180 m の

範囲で最も高密度に生育していた。一般に海藻の群落は

水深,潮汐,波浪,他の生物との競争等,さまざまな物

理的,化学的,生物的要因で分布が制限されている。調

査では,ウミトラノオ,キレバモク,ヨレモクモドキ,

シロコモクの群落が上部より順に帯状分布しており,こ

の分布の特性は,潮汐による干出への耐性や光の強さが

影響を与えているものと推察された。また作澪された溝

の縁にもホンダワラ属藻類が生育しているが,底部には

ほとんど生育していなかった。この地点は深い溝状の地

形をしており,干満により海水の流れも速くなることか

ら,既出の条件に加えて海水流動も影響している可能性

がある。14)この点に関しては,流動と生育制限に関する

249249ヨレモクモドキとシロコモクの季節消長

さらなる調査が必要であると考える。

ヨレモクモドキとシロコモクは,両種とも 8 月まで

に枯死流出し,9 月には付着器から新規の主枝が伸長し

始めた。その後 12 月から 1 月にかけて,湿重量がおよ

そ 7 倍以上に急速に生長し,翌年の 4 月に藻長,湿重

量共に最大となった。また 4 月における両種の 1 m2 あ

たりの生育密度は,ヨレモクモドキが 20 個体,シロコ

モクが 90 個体だった。シロコモクの生育密度の方が

4.5 倍も多かったが,全体の湿重量はヨレモクモドキの

方が多く,ヨレモクモドキは主枝の生長と共に,分枝も

多く形成されていることが示唆された。両種の形態を比

較すると,シロコモクよりもヨレモクモドキの方が密に

分枝する傾向にあり,この違いが両種の主枝あたりの湿

重量の差に起因すると考えられた。これらの点からヨレ

モクモドキは分枝が密に出る大形の個体が疎生して群落

を形成するのに対し,シロコモクは小形の個体が密生す

る群落構造を示した。よって同所的に生育し,ガラモ場

を構成するホンダワラ属藻類でも,種によって生育の特

性が異なることが示唆された。

ヨレモクモドキは 1983 年に高知県野見湾の材料に基

づいて記載され,本州中部太平洋沿岸から九州にかけて

分布する温帯性の海藻である。原記載では,宮崎県門川

産の材料が南限の標本として用いられており,本種は過

去に志布志湾やそれ以南の海域から報告されていない。

よって本研究で調査した志布志湾の群落は分布の南限に

位置すると考えられる。9)しかし田中は 1976 年にヨレ

モクモドキと形態的に近縁なヨレモクが生育していたこ

とを報告しており,6)現在ヨレモクと同定できる種が本

湾で確認されないことから,田中の材料はヨレモクモド

キであった可能性が考えられ,本種は以前からこの海域

に生育していたと推察される。

調査期間中の平均水温は 19.5°C であり(Fig. 8),新

規の主枝が伸長する 10 月から 3 月の間は平均 17.4°C を

示し,成熟する 4 月の平均海水温は 16.7°C を示した。

また成熟後枯死流出し始める 5 月は平均 20.0°C を示し

たことから,ヨレモクモドキ,シロコモク両種の生長と

成熟に適した水温は 16°C から 17°C 前後であることが

推察された。一方,1980 年から 2005 年までの志布志

湾の年間平均水温と,冬季の平均水温を比較したところ

(Fig. 9),年間水温はほとんど変化がなかったが,冬季

水温は,近似する直線の傾きが 0.0255 であり,本海域

の水温は上昇の傾向にあった。

志布志湾は九州の南西部に位置し,黒潮の影響を強く

受けることから,温帯性の海藻と亜熱帯性の海藻の混生

域となっている。本海域はヨレモクモドキの分布の南限

に位置することから,群落は水温環境の変動による影響

を受けやすい可能性が考えられる。近年,本種群落は湾

内で拡大傾向にあり,2002 年から 2003 年にかけての

水温の低下との関連が示唆されている。しかし 1980 年

以降の長期的な水温変化では上昇傾向にあることから,

今後の水温変化によっては本種群落の消失等も危惧され

る。地球温暖化に関連すると考えられる生物相の変動が

様々な分類群で指摘されているが,分布の南限や北限に

位置する固着生物群集は分布の変動を把握しやすいこと

から,長期的なモニタリングに適した材料であると考え

る。志布志湾は温帯性,亜熱帯性の混生域として種多様

性が高く,上記の観点から,今後も個々の種の季節消長

や海藻相について明らかにしていく必要があると考える。

謝 辞

本調査において便宜をはかっていただいた独立行政法

人水産総合研究センター志布志栽培漁業センターの職員

の方々に謝意を表します。また原稿を取りまとめるにあ

たりご助言をいただきました,鹿児島大学大学院連合農

学研究科の Alcantara Lota Baluate 氏に感謝いたします。

文 献

1) 田中 剛.櫻島佐多開聞海域に於ける水産生物相.

鹿児島国立公園候補地学術調査報告前編,鹿児島県,鹿

児島.1950; 108122.2) 大野正夫.概論ガラモ場―その環境と水産資源的効用

―.月刊海洋科学 1985; 17: 410.3) 寺田竜太,田中敏博,島袋寛盛,野呂忠秀.温帯亜熱

帯境界域におけるガラモ場の特性.月刊海洋 2004; 36:784790.

4) 吉田忠生.「新日本海藻誌」内田老鶴圃,東京.1998;389: 411413.

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6) 田中 剛.志布志湾地域の生態学的基礎調査昭和 50 年度

報告.株地域開発コンサルタンツ,東京.1976; 524.7) 田中 剛.志布志湾地域の生態学的基礎調査昭和 5051

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8) 公共用水域及び地下水の水質測地結果.鹿児島県環境生

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10) Yendo K. The Fucaceae of Japan. Journal of the Collegeof Science. Imperial University of Tokyo. 1907; 21(12): 1174.

11) 岡村金太郎.「日本藻類名彙」成美堂,東京.1916; 207.12) 岡村金太郎.「日本海藻誌」内田老鶴圃,東京.1936;

345346.13) 山田幸男.南日本産ほんだわら属の種類に就いて.植物

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