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平成 18 年度 修士論文 高分子液晶の分子配向と強度の関係 高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 知能機械システム工学コース 知能流体力学研究室 日野 太一

平成 18 年度 修士論文 - kochi-tech.ac.jp · 平成18 年度. 修士論文. 高分子液晶の分子配向と強度の関係. 高知工科大学大学院. 工学研究科 基盤工学専攻

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平成 18 年度

修士論文

高分子液晶の分子配向と強度の関係

高知工科大学大学院

工学研究科 基盤工学専攻

知能機械システム工学コース

知能流体力学研究室

日野 太一

目次

第1章 緒言 1

1-1. 液晶とは 1

1-2. 高分子液晶 2

1-3. 高分子液晶を用いたプラスチック 3

1-4. 研究目的 4

第2章 押出成形 5

2-1. はじめに 5

2-2. 実験装置の概要 6

2-3. 計算方法 7

2-4. 実験結果 8

第3章 引張り試験 9

3-1. 実験方法 9

3-2. 実験装置 10

3-3. 引張り強度の計算法 11

3-4. 実験結果 12

第4章 HPC の流動実験 19

4-1. はじめに 19

4-2. 使用材料 19

4-3. 実験装置 20

4-4. 偏光 22

4-5. 実験結果 23

第5章 結言 29

参考文献 30

謝辞 31

1

第 1 章 緒言 1-1.液晶とは 物質は温度や圧力の変化に伴い固体,液体,気体のいずれかの状態を示すことが一般

に周知されている.しかしある種の物質はこのいずれの状態とも異なる別の状態を示す.

この別の状態とは固体相と液体相の間で発現する液晶相である.液晶は状態の名前であ

るが液晶状態を示す物質も一般に液晶と呼ばれている. 液晶相を示す物質は分子が棒状またはそれに近い形状をしているために独特の性質

を有する.まず固体相においては分子の重心位置が三次元的に秩序性を持っており,分

子が決まった方向を向いている.次に液体相では分子の重心の位置,分子の向き共に秩

序性が無い.ここで分子の形状が棒状であると,位置の秩序が崩れても分子の向きにあ

る秩序を持った状態が存在する.この状態こそが液晶相であり,固体相の異方性と液体

相の流動性の双方の特性を有するのである(図 1.1).

(a)固体相 (b)液晶相 c)液体相 図 1.1 分子の配列

現在までに液晶に関する研究は盛んに行われてきた.その結果我々の身の周りにも液

晶を応用した製品が数多く存在する.その代表的なものがテレビや携帯電話に使用され

ている液晶ディスプレイである.これは磁場や電場などの外部刺激を与えることにより

液晶分子が一方向に揃う(配向)特性を応用したもので,応答性の良い低分子液晶が一

般に用いられている.一方,高分子液晶の分野では安定なガラス状態の形成,易加工性,

寸法安定性に優れていることから高強度・高弾性率繊維やフィルム,プラスチックへ応

用され,タイヤや防弾チョッキなどに使用されている.

2

1-2.高分子液晶[1] 高分子液晶には大きく分けてリオトロピック液晶とサーモトロピック液晶の 2 種類

がある.まずリオトロピック液晶とは濃度変化に依存して液晶相となる物質で,溶媒に

溶解させた際に形成される多成分系液晶である.リオトロピック液晶を紡糸することに

より得た高強度・高弾性率繊維(ケブラー)が商品化されたことをきっかけに高強度・高

弾性率の高分子材料を目指す研究が始まった.また生態系において形成される組織の多

くもリオトロピック液晶構造をもっており,現在では化粧品の機能化などにも応用され

ている.一方,サーモトロピック液晶は温度変化に依存して液晶相となる物質であり,

結晶相から温度を上げていくとガラス転移を経て液晶相となり,更に温度を上げると液

体相になる.サーモトロピック高分子液晶は構造的に p-フェニレンなどの芳香族原子団

が直鎖状につながった主鎖型高分子液晶と,低分子液晶に似た原子団が高分子鎖の側鎖

に結合した側鎖型高分子液晶に大別される(図 1.2). 主鎖型高分子液晶については次節

で詳しく述べるが,精密機器部品などのスーパーエンプラとして応用されている.一方,

側鎖型高分子液晶は主鎖型高分子液晶に比べて外部刺激に対する応答性が高いことか

ら光,電子・電気機能性材料としての応用が研究されている.

メソゲン基

メソゲン基

屈曲鎖 屈曲鎖

(a) 直鎖型高分子液晶 (b) 側鎖型高分子液晶

図 1.2 高分子液晶の構造図

3

1-3.高分子液晶を用いたプラスチック 現在,我々の身の回りにはプラスチック製品が数多く存在している.プラスチックが

これほどまでに発展してきた理由は,金属に比べ軽量,耐食性,耐薬品性,成形性,美

観に優れるというプラスチックの特質にある.力学的強度に関しては金属に劣るものの,

ガラス繊維やカーボン繊維で補強した繊維強化プラスチックはアルミやチタンに匹敵

する強度を有する.我々の身の回りにあるプラスチック製品の多くは汎用プラスチック

と呼ばれるものであり,汎用プラスチックに比べ強度や耐熱性に優れたものをエンジニ

アリングプラスチックという.そしてエンジニアリングプラスチックの一種として期待

されているのが高分子液晶である[2]. 高分子液晶を用いた高性能素材のうち繊維やフィルムの製造には溶液であるリオト

ロピック液晶が主に用いられている.一方,プラスチックの成形にはサーモトロピック

液晶が用いられている.サーモトロピック液晶は温度転移型であるため液晶形成に溶媒

の必要がなく,分子鎖が剛直であるため成形時にかかるせん断力により流動方向に高配

向する.さらに一般の高分子材料は押出後冷却するまでに分子鎖の配向が緩和してしま

うのに対し,高分子液晶の場合成形後の冷却によって配向したまま固化する.これらの

特性により配向した分子鎖が自己補強の役割をすることから,自己補強型プラスチック

とも呼ばれており,ガラス繊維を充填したプラスチックと同等の強度を得ることが可能

である.これにより高分子液晶を用いたプラスチックは優れた材料特性を有しており,

様々な分野での応用が期待されている.例えば寸法安定性や易流動性は電子関係の精密

コネクタなどの精密部品に生かすことが可能で,耐熱性や耐ガソリン性は自動車,飛行

機の分野への応用が期待されている[3].

せん断

成形前の分子配列 成形後の分子配列

図 1.3 高分子液晶の分子配向

4

1-4.研究目的 すでに述べた通り高分子液晶は剛直な分子鎖を有するため,溶融状態においてわずか

なせん断力により安易に分子鎖が配向し,成形後の冷却によってそのまま固化する.そ

のため高強度・高弾性率繊維やプラスチックを得ることが可能となり,様々な分野での

応用が期待されている.しかし現在実用化されている液晶プラスチックの強度は理論値

の約 10%に留まっている.液晶プラスチックの強度は液晶分子の配向度に対する依存が

大きく,配向度を高めることにより更に強度が向上すると考えられる.しかし高分子液

晶の加工プロセスに関する研究はまだ少なく,その方法は周知されていない.そこで本

研究では高分子液晶の押出成形において流動特性の変化が分子配向および機械的性質

に与える影響について調べ,高分子液晶材料の高強度化を目指す.

5

第2章 押出成形

2-1.はじめに プラスチックの成形加工法としては圧縮成形法や押出成形法,射出成形法などがある.

その中でも押出成形法は均一な成形品を得やすくパイプやフィルムシート,ケーブルな

ど長尺物が成形できるため現在生産されているプラスチック製品の多くに採用されて

いる成形法である.そこで本研究でも押出成形を行う. 成形試料にはサーモトロピック主鎖型高分子液晶であるポリプラスチックス(株)の

Vectra A950 を使用する.図 2.1 にその化学構造式を示す.

CO)x(OCO)y ]

[ (O CO)x(OCO)y ]

[ (O

図 2.1 Vectra A950 化学構造式

Vectra A950 はポリエステル系の材料であるため吸湿性がある.そこで成形に先立ち

予備乾燥を行う必要がある.本研究ではブレンダーを用いて試料を細かく粉砕した後

140℃で 5 時間乾燥させた.図 2.2 に粉砕前・後の試料外観を示す.成形はまず乾燥さ

せた試料を 1.5g計量し,成形機のシリンダに投入した後 1200s の予熱時間を置く.予

熱時間経過後ピストンが下降し,ダイ穴から大気中に溶融した試料を押し出す.

10mm

(a) ペレット状 (b) ブレンダー粉砕後 図 2.2 Vectra A950 外観

6

2-2.実験装置の概要 成形には定荷重押出し形細管式レオメータ(フローテスタ CFT-D 型,(株)島津製作所)

を使用する.フローテスタ CFT-D 型はシリンダに充填した試料を加熱および加圧し,

溶融させた試料をダイから流出し試験する本体と,シリンダ内の温度,ピストン移動量

の測定データからせん断速度や粘度の算出を行う制御ユニットから構成される.図 2.3にその機構図を示す.

図 2.3 島津フローテスタ CFT-500D 型 機構図

試料はシリンダに投入され,シリンダ外側にあるヒータによって加熱溶融される.分銅

によって発生する力は負荷レバーにより増倍され,負荷軸を介してピストンに加わり,

ダイから試料を押出す.ピストンの移動量はポテンショメータで検出し,計測制御装置

で値を読み取り押出し時間とピストン移動量の関係からフローレートを求める.

負荷レバー

バランス分銅

(CPU)

制御ユニット

ポテンショメータ

移動支点 (ストローク検出)

負荷軸

電磁弁

輪軸 分銅昇降

プレスジョイント エアシリンダ

温度検出器 ピストン

シリンダ

ヒータ

ダイ 分銅 ダイ押え

7

2-3.計算方法 図 2.4 にシリンダ部の構造を示す.本試験ではピストン断面積 A=10mm2,ダイ長さ

L=5mm,ダイ穴直径 d=1mm である. ピストン シリンダ

A:ピストン断面積 L:ダイ長さ

φD:ダイ穴直径

図 2.4 島津フローテスタ CFT-500D シリンダ部構造

流量 Q の算出は流動曲線を図 2.5 のように 20 等分し,試験開始時および終了時の区

間を除いた 18 区間の各フローレートを求め,それらの最大値を求める流量 Q とした.

図 2.5 流動曲線

S

試験開始ゾーン

試験終了ゾーン

時間

20S

L

ヒータ

ダイ

試料

A

φD

ピストンストローク

8

2-4.実験結果 成形圧力と流量 Q の関係を図 2.6 に示す.図中の○印はそれぞれの成形圧力における

流量の平均値を表す.成形圧力の増加に伴い流量も増加していることが分かる.このこ

とから試料にかかるせん断力も成形圧力の増加に伴い増加すると考えられる.成形圧力

が 4MPa を超えると流量が急激に増加している.これは粘度の低下によるものと考えら

れる.前述したように本実験における流量の算出は試験開始時と終了時を除いた区間に

おける最大流量を求めている.しかし成形圧力が 3MPa 以下と 4MPa 以上で測定区間に

差が生じていた.このことから測定区間の違いによる流量差が生じている可能性がある.

また,次章に記す引張り試験後の破断面観察において成形物内に気泡の混入が確認され

ている.よって気泡の残留度合いが流量に影響を与えていると考えられる.今後流量の

測定方法と脱気方法について検討すると共に試験回数を増やし試料の正確な流量を求

める必要がある.

0 1 2 3 4 5 60

0.5

1

1.5

2

Cylinder Pressure (MPa)

Flow

Rat

e (m

l/s)

図 2.6 成形圧力と流量の関係

9

第3章 引張り試験

3-1. 実験方法 押出成形によって作成した成形物の材料強度を測定する.強さを表す主な機械的性質

として,引張り強さ,圧縮強さ,曲げ強さ,抗折力,ねじり強さ,せん断強さ,降伏点ま

たは耐力,弾性限度,疲れ強さ,クリープ強さなどがある.そのなかでも機械的強さを知

る必要があるときにまず行われる材料試験が引張り試験である[4].よって本実験でも引張

り試験を行う. 引張り試験を行うにあたり押出成形により得た成形物より試験片を作成する.一回の

成形により得られる成形物は直径約 1 ㎜の円形断面をもつ長尺物である.このうち両端

部分を除いた比較的形状が安定している部分から,長さ 60 ㎜の円柱状試験片を得る.

試験片の直径はマイクロメータを用いて計測する.図 3.1 に示すように 1 本の試験片に

おいて d1~d6 まで計 6 点における直径を計測し平均値をその試料の直径 D とする.引

張り試験にはインストロン型万能試験機(島津オートグラフ AG-100kNG)を使用する.

作成した試験片を試験機の上,下方つかみ具に固定し,毎分 1 ㎜の速度で上方に引っ張

る.ここで試験片の長さ 60 ㎜のうち片側 15 ㎜ずつをつかみ具で固定するため,実際に

引張り試験を行っているのは 30 ㎜である.オートグラフに装備されているロードセル

により最大点荷重,最大点伸び,破断点荷重が得られる.

d1

d2

d3

d6

d5

d4

d1

d2

d3

d6

d5

d4

試料の直径 D

6654321 ddddddD +++++

=

図 3.1 試験片直径の計測

10

3-2. 実験装置 実験に使用したオートグラフ AG-G 型は一般に精密万能試験機と呼ばれており引張

り試験の他に圧縮,曲げなど様々な試験に利用できるよう設計されているが今回の試験

では引張り試験を行う.試験機の機構図を図 3.2 に示す.

ロードセル取付けボルト

ユニバーサルジョイント

固定ピン

上方つかみ具

下方つかみ具

ロックナット(つかみ具) 固定ピン

下部ジョイント

テーブル

センターピン

ロードセル(SFL形)

ロックナット

クロスヘッド

ロードセル取付けボルト

ユニバーサルジョイント

固定ピン

上方つかみ具

下方つかみ具

ロックナット(つかみ具) 固定ピン

下部ジョイント

テーブル

センターピン

ロードセル(SFL形)

ロックナット

クロスヘッド

図 3.2 島津オートグラフ AG-100kNG 型機構図

11

3-3. 引張り強度の計算方法 オートグラフに装備されたロードセルによって与えられた Load(引張荷重)と試験

片の直径 D,長さ L によって張力(kN)を算出する.これら試験時の条件から計測制御装

置によって測定値を算出する

φD LφD L

図 3.3 島津オートグラフ 機構図

引張り応力 σ

DLLoad

πσ ×=

2 (kN)

Load:引張り荷重 D:試験片の直径 L:試験片の長さ

12

3-4. 実験結果 図 3.4 に成形圧力と試験片直径の関係を示す.図中の○印はそれぞれの成形圧力にお

ける試験片直径の平均値を表し,縦棒は標準偏差を表す.全ての成形圧力において試験

片の直径はダイ穴の直径である 1mm よりもやや大きな値を示すことが多かった.これ

はバラス効果によるものと考えられる.バラス効果とはプラスチック成形においてよく

起こる現象で,ダイ入口部とダイ内部での流動によって大きな変形履歴が与えられた試

料がダイから流出し自由表面をもつことによって断面積が増加する現象である[5].また

圧力の増加に伴いわずかながら試験片直径が縮小している.これは流量の増加により粘

度が低下し試料の自重による伸張作用が働いたためと思われる.

0 1 2 3 4 5 60

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Cylinder Pressure (MPa)

Dia

met

er (m

m)

図 3.4 成形圧力と試験片直径の関係

13

次に引張り試験の結果を述べる.装置により得られる引張り力(N)より引張り強さ(Pa)を算出した.引張り強さは単位面積当たりの引張り力より求まる.実際には局部収縮が

起こっているため,その時々の荷重をその瞬間の試験片の断面積で除した値(真応力)になるが,本実験では局部収縮を無視し,引張りの最大荷重をもとの断面積で除した値を

用いた. 図 3.5 に成形圧力と引張り強さの関係を示す.図中の○印はそれぞれの成形圧力にお

ける引張り強さの平均値を表し,縦棒は標準偏差を表す.引張り強さは成形圧力の増加

と共に増加している.これは成形圧力の増加にともない試料にかかるせん断力も増加し,

分子鎖の配向度が高まっているためと考えられる.特に成形圧力 4MPa 以上では 200MPa を超える強い引張り強さを示しており,これは繊維強化プラスチックに匹敵する引

張り強さである.参考として表1に代表的な熱可塑性強化プラスチックの引張り強さを

示す.成形圧力が 1MPa と 6MPa において引張り強さの値にばらつきが目立つ.ここで

図 3.4 のグラフに注目すると,直径も同じく成形圧力 1MPa と 6MPa においてばらつき

が目立っている.これより直径と引張り強さに関連性があると思われるため確認した.

成形圧力 1MPa と 6MPa における直径と引張り強さをまとめたグラフを図 3.6 に示す.

グラフより直径が小さいほど引張り強さは強く,直径が大きいほど引張り強さは弱くな

っていることが分かる.これは直径が細い試料ほど伸張応力が強く働いており配向度が

高くなっているためと考えられる.また,成形圧力が低すぎる,または高すぎると流動

が不安定になり,一様な配向が得られていない可能性がある. 次に引張り試験後の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を図 3.6に示す.いずれの破断面にも表面部に配向層が形成されているが中心部までは到達して

いないことが分かる.表面部の配向層はダイ穴の壁面から受けるせん断により配向した

と考えられる.また,成形圧力が増加するに従い,試験片内部にフィブリル構造がよく

観察されるようになった.これより成形圧力の増加に伴う引張り強さの増加は,流量の

増加により流動方向への伸張作用が強くなりフィブリル化が促進されたことによると

考えられる.本試験で観察した全ての破断面において気泡の混入が確認された.押出成

形の予熱過程においてピストンの加圧により脱気作業を行っているが十分に脱気がで

きていないと思われる.この気泡を除去すれば引張り強さは更に向上すると考えられる

ため,気泡を除去する別の方法を検討する必要がある.

14

0 1 2 3 4 5 60

50

100

150

200

250

300

350

Cylinder Pressure (MPa)

Tens

ile S

treng

th (M

Pa)

図 3.5 成形圧力と引張り強さの関係

材料 引張り強さ(MPa)

ナイロン 66 30%ガラス繊維充填 172

ナイロン 66 30%炭素繊維充填 227

ポリカーボネート 30%ガラス繊維充填 131

ポリカーボネート 30%炭素繊維充填 152

ポリエステル(PBT)30%ガラス繊維充填 121

ポリエステル(PET)30%ガラス繊維充填 158

表 1 熱可塑性強化プラスチックの強度[6]

15

1 60.8

0.9

1

1.1

1.2

Cylinder Pressure (MPa)

Dia

met

er (m

m)

sample1

1 60.8

0.9

1

1.1

1.2sample2

1 60.8

0.9

1

1.1

1.2

sample3

1 60.8

0.9

1

1.1

1.2

sample4

1 60.8

0.9

1

1.1

1.2

sample5

1 60.8

0.9

1

1.1

1.2

sample6

1 650

100

150

200

250

300

350

Cylinder Pressure (MPa)

Tens

ile S

treng

th (M

Pa)

1 650

100

150

200

250

300

350

1 650

100

150

200

250

300

350

1 650

100

150

200

250

300

350

1 650

100

150

200

250

300

350

1 650

100

150

200

250

300

350

図 3.6 直径と引張り強さの関係

16

(a) 成形圧力 1MPa

(b) 成形圧力 2MPa

図 3.6 破断面画像

17

(c) 成形圧力 3MPa

(d) 成形圧力 4MPa

図 3.6 破断面画像

18

(e) 成形圧力 5MPa

(f) 成形圧力 6MPa

図 3.6 破断面画像

19

第 4 章 HPCの流動実験 4-1.はじめに 高分子液晶を用いたプラスチックの成形において分子配向度を更に高めるためには,

流動状態における液晶分子の挙動について理解を深める必要がある.しかし高分子液晶

の流動状態における配向プロセスに関する研究はまだ少ない.Vectra A950 は 280℃で溶

融状態になり液晶相となるため,流動状態における配向プロセスを観察するのは困難で

ある.よって前章においても成形物を評価,観察することにより配向プロセスを考察し

ている.そこで常温で液晶相となる高分子液晶を用いて急縮小流れにおける流動配向を

観察することにより,配高度を高める方法を模索する.

4-2.使用材料 流動観察の液晶材料として,ヒドロキシプロピルセルロース(以下 HPC)を使用す

る.HPC 水溶液は一般に医薬用錠剤のコーティング剤や食品添加物として使用される

物質である.この HPC 水溶液の濃度を上げていくと 40wt%を越えたあたりでコレステ

リック液晶となる.コレステリック液晶は図 4.1 のように層状構造をとっており,各層

において一様に配向している.更に隣接する層の配向方向はわずかずつねじれており全

体で螺旋構造となっている.本実験では蒸留水と HPC 粉末を濃度 50wt%で溶解した

HPC 水溶液を用いた.HPC 粉末は日本曹達株式会社の NISSO HPC-L を使用する.HPC-L水溶液は 2wt%でも水の 6 倍以上の粘度があり,実験で使用する濃度 50wt%水溶液では

更に粘度が高くなるため,脱気を行うために溶解後 1500rpm で約 5 時間遠心分離機にか

けた.

図 4.1 コレステリック液晶の分子配向

20

4-3.実験装置 図 4.2 に実験装置の概略を示す.試料が入った容器には 2 本の耐圧ホースがつながっ

ており一方が窒素ガスボンベ,もう一方は流路へとつながっている.容器内の試料は窒

素ガスの圧力により耐圧ホースを通じ流路へと流れる.流路を通過した試料は耐圧ホー

スを通じもう一方の容器へと流出する.試料の流量は窒素ガスの圧力を調整することで

変化させる.圧力は装置の耐圧強度の問題から 0.5MPa 以下とし実験を行った.電子天

秤からパソコンへ流出側の容器の質量データが転送され,1g 増加する経過時間より流

量を求める.図 4.3 に流路の構成図を示す.流路はスペーサーを 2 枚の石英ガラスで挟

みステンレスプレートで補強したものをシャコ万力で固定する形式で構成される.一方

の石英ガラスには二つの穴が開いており流体の出入り口となる.これによりスペーサー

の形状がそのまま流路となる.スペーサーの形状を図 4.4 に示す.また石英ガラスの外

側には偏光フィルムを取り付けており,流路の光源側と観察側とで偏光方向が 90 度回

転した状態になっている.

図 4.2 実験装置

窒素ガスボンベ

試料

流路

カメラ

三方向弁

光源

圧力調節弁

電子天秤

21

スペーサー

石英ガラスプレート

石英ガラスプレート

ステンレスフレーム

ステンレスフレーム

偏光フィルムB

偏光フィルムA

スペーサー

石英ガラスプレート

石英ガラスプレート

ステンレスフレーム

ステンレスフレーム

偏光フィルムB

偏光フィルムA

図 4.3 流路構成図

120 4020

200

20

5

50

120 4020

200

20

5

50

図 4.4 スペーサー形状

22

4-4.偏光 流路には偏光フィルム A,B が貼られており,お互いに偏光方向が 90 度回転した状態

になっている.光源から発せられる光はあらゆる振動方向をもっているが偏光フィルム

A を通過することができるのは,偏光方向と同じ振動方向の光のみである.ここで流路

中の液体が等方性であった場合,透過光の振動方向は変わらず通過し偏光フィルム Bによって遮られる.しかし流路中の液体が光学的に異方性であった場合,透過光は複屈

折することにより振動方向が変化する.そのうち偏光フィルム B の偏光方向と同じ振

動方向を有する光のみがカメラに写しだされる.よって流路中の液晶が偏光フィルム Aの偏光方向に垂直または平行に配向している場合,透過光は偏光フィルム B により遮

られカメラには暗影となって写しだされる.

流路偏光フィルムA 偏光フィルムB

カメラ光源

流路偏光フィルムA 偏光フィルムB

カメラ光源

図 4.5 偏光

23

4-5. 実験結果 図 4.6 に HPC50wt%を窒素ガス圧力 0.05MPa~0.5MPa で変化させた際の流量の変化を

示す.図中の○印は各圧力における流量の平均値を表し,縦棒は標準偏差を表す.流量

はガス圧力に比例し増加していることから流速も同様に増加していると考えられる.図

4.7 に各ガス圧力における流路透過光観察の結果を示す.全てのガス圧力において流路

壁面部に暗影が観察された.これは流路中央部に比べて壁面部ではせん断が強く働くた

め,壁面に沿って配向しているためと考えられる.ガス圧力が 0.1MPa になると流路縮

小部の上方に縞模様が現れはじめ,流量が増加するに従いこの縞模様は明確に見られる

ようになった.この縞模様には周期性が見られるため液晶分子がなんらかの周期運動を

していると思われる.高分子液晶は低せん断領域において液晶分子の主配向方向が回転

するタンブリング挙動を生じることがある [7].本実験で見られた縞模様は液晶分子の周

期運動によると考えられることからタンブリング挙動によるものと考えられる.この縞

模様は流量が増加するに従い間隔が狭くなっている.図 4.8 に縞模様の間隔とガス圧力

の関係を示す.グラフの○印は縞模様の間隔の平均値を表し,縦棒は標準偏差を表す.

これはせん断の増加と共に回転周期が短くなるというタンブリング挙動の性質による

と考えられる.また,この縞模様はガス圧力が増加するにつれて流路の上流部から現れ

るようになった.図 4.9 にガス圧力と縞模様が出始める位置の関係を示す.グラフの

Length は縮小部から縞模様が出始める位置までの距離であり○印はその平均値,縦棒は

標準偏差を表す.流路上流部では縮小部付近に比べ流速は遅くなる.よってガス圧力が

低い場合,流路上流部ではタンブリング挙動を生じる流速に達しておらず,ガス圧力の

増加に伴いタンブリング挙動を示す領域が上流部へと広がっていると考えられる.流路

縮小部及び縮小部入り口においては縞模様が消え暗影となっている.これは縮小部の伸

張流動により分子の回転運動が消され流動方向に配向したためと思われる.タンブリン

グ挙動は低せん断領域において生じる挙動であり高せん断領域になると液晶分子の主

配向方向は定常に至る.よって更にガス圧力を上げることによりこの縞模様は消えると

予想されるが,本実験では実験装置の耐圧強度問題により観察することは出来なかった.

24

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.50

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

Pressure (MPa)

Flow

Rat

e (m

l/s)

図 4.6 ガス圧力と流量の関係

(a) 0.05MPa (b) 0.1MPa

図 4.7 透過光観察

25

(c) 0.15MPa (d) 0.2MPa

(e) 0.25MPa (f) 0.3MPa

図 4.7 透過光観察

26

(g) 0.35MPa (h) 0.4MPa

(i) 0.45MPa (j) 0.5MPa

図 4.7 透過光観察

27

0.1 0.2 0.3 0.4 0.50

0.5

1

1.5

2

2.5

Pressure (MPa)

Wid

th (m

m)

図 4.8 縞の間隔とガス圧力の関係

0.1 0.2 0.3 0.4 0.50

10

20

30

40

50

60

Pressure (MPa)

Leng

th (m

m)

図 4.9 縞の出現位置とガス圧力の関係

28

第 5 章 結言

本実験では高分子液晶材料の高強度化を目指し,高分子液晶の成形における流動特性

が分子配向および材料強度に与える影響について調べた.以下に結果をまとめる.

実験1 サーモトロピック液晶 Vectra A950 の押出成形と引張り試験 ・ 成形圧力の増加により流量は増加する. ・ 成形物の直径はバラス効果によりダイ穴直径よりわずかに大きくなる. ・ 引張り強さは流量の増加に伴い増加し,成形圧力 4MPa以上において 200MPa

を越える強い引張り強さを示す. ・ 成形物の表面には配向層が形成されているが中心部まで到達していない. ・ 流量の増加に伴い成形物内部にフィブリル構造が形成され,引張り強さに強

く影響していると思われる. ・ 成形物の内部に気泡の混入が確認された.

実験 2 HPC 水溶液の流動配向観察 ・ 流量はベクトラと同様に圧力の増加に伴い増加する. ・ 流路壁面においてせん断によると思われる配向が観察された. ・ 流路収縮部において伸張によると思われる配向が観察された. ・ 流量の増加に伴いタンブリング挙動と思われる縞模様が観察された. ・ 縞模様の間隔は流量が増加するにつれて狭くなっている. ・ 縞模様は流量が増加するほど流路上流部から現れる.

タンブリング挙動は低せん断領域で発生し,せん断速度の増加により配向方向は定常に至

る.Vectra A950 の押出成形においても成形圧力が低い場合,試料中の液晶分子がタンブリ

ング挙動を生じていると考えられる.そして成形圧力が増加するとせん断速度の増加によ

りタンブリング領域が狭くなり配向度が上がっていると考えられる.よって更にタンブリ

ング領域を狭めることにより強度の向上が期待できる.その方法の一つとして液晶が磁場

により配向する性質が利用できると考えられる.低分子液晶に比べると応答性は低いが高

分子液晶も磁場により配向する.そこで溶融試料に磁場をかけることによりタンブリング

挙動を抑制できれば配向度が高まる可能性がある.今後の流動観察実験において磁場によ

るタンブリング挙動の抑制が確認されれば成形加工への応用も可能であると考えられ

る.

29

参考文献

[1] 液晶便覧編集委員会, 液晶便覧, 丸善株式会社, (2000), [2] 松岡信一, 図解 プラスチック成形加工, コロナ社, (2002) [3] 小出直之, 坂本国輔, 液晶ポリマー pp59 [4] 田中,朝倉, 機械材料, 共立出版, (1993) [5] 成形加工における移動現象 株式会社シグマ出版 (1997), pp28-38 [6] 鈴木信夫, 高分子大辞典, 丸善株式会社, (1994), pp.280 [7] 寺田一秋, 2 階テンソルを用いたネマティック液晶の構成方程式の検討,

高知工科大学, 学士論文, (2001)

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謝辞

本研究を行うにあたり,多大なるご指導を賜りました高知工科大学知能機械システム

工学科蝶野成臣教授,ならびに辻知宏助教授に対しまして深く感謝致します.また,楠

川量啓教授をはじめ材料強度学研究室の皆様には装置の提供のみならず多大なるご指

導,ご協力を賜りあわせて感謝致します.さらに高知工科大学知能機械システム工学科

知能流体力学研究室の皆様には日々ご協力を賜りましたこと深く感謝致します.