Upload
ngoliem
View
234
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
図214-25 車の価格に占めるエレクトロニクスの割合
図214-26 車載電子システムのソフトウェア量の推移
出所:「第1回情報サービス・ソフトウェアに係る技術に関する施策・事業評価検討会」資料(11年1月)
エレクトロニクス 15%
その他
その他 エレクトロニクス 47%
<一般車> <ハイブリッド車>
出所:「第1回高度情報化社会における情報システム・ソフトウェアの信頼性及びセキュリティに関する研究会」資料(08年11月)
(6)デジタル化・モジュール化する領域の拡大自動車は我が国企業が得意とするすり合わせの典型と
されてきた。しかし、少なくともデジタル化については、省エネ化等の機能拡張へのニーズの高まりにより、車載
組み込みソフトに関しても、高級車では、数十個のECU(エンジン・コントロール・ユニット)が搭載され、ソフトウェアの規模は数百万行に達している(図214-25・26)。
第1節
第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
第1節
第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
75
図214-28 フォルクスワーゲンのモジュールキット戦略
資料:経済産業省作成
図214-29 米国自動車初期品質調査(IQS)における各国ブランド車の初期品質の推移
備考:乗用車およびライト・トラックを新車で購入もしくはリース契約した消費者を対象に、購入後90日間において発生した不具合を指摘するもの。100台当りの不具合指摘件数をスコアとして算出し、スコアが低いほど品質が高いと判断する。
資料:J. D. Power報道資料より経済産業省作成
100
120
140
160
180
200
220
240
260
280
300
98 99 00 01 02 03 04
韓国ブランド車 米国ブランド車 日本ブランド車 欧州ブランド車
(年)
出所:フォルクスワーゲンホームページ
図214-27 フォルクスワーゲンのモジュールキット 戦略「MQB」のイメージ図
ン トフ
Premium Golf A3, TT Octavia
VW Audi
Touareg
A4, A5, A6, Q5
Q7
Leon
Cayenne
Medium
g
Phaeton Continental
R8 G ll d
y
Lower
R8 Gallardo
2000年以前 2000年以降 近年
ボディLowerMedium
PFベースの製品開発推進 モジュールユニット共有化を加速
プラットフォーム
ボディ
同一PFモジュールユニットを共通化
Lower 1990年代後半からグループ基本製品のPFをA~Dの4つに集約。
横置きエンジン、縦置きエンジン搭載、車種でモジュールユニットを共有化、横置きでは部品の約7割を共有。
1990年代後半から主要PF毎に共通モジュールユニットの採用を拡大。同一PFで部品の役割の約6割を共有。
1
また、モジュール化についても、フォルクスワーゲン、現代自動車といったモジュール化を積極的に進める企業群が、近年、新興国市場において躍進している。
例えば、フォルクスワーゲンは、「モジュールキット戦略」において、部品の共通化により、組立時間の短縮化や量産効果の拡大を目指すとしている。2012年2月に発表された新たなモジュールによる共通プラットフォーム「MQB」は、フォルクスワーゲンだけでなく、同社グループが有するブランドのアウディ、セアト、シュコダと共有する。ペダルからホイールセンターまでの距離は一定となるが、ホイールベース、ホイールサイズ、シートポジションなどは、車種に合わせて柔軟に変更が可能となっている(図214-27)。
フォルクスワーゲンは高級車から低価格車までを異なるブランドで差別化した上で、ブランドを跨いだ部品の共通化(プラットフォームの共有化)により低コスト化と高付加価値化を同時実現した。このモジュールの共有化により、フォルクスワーゲンは開発コストの20%減、開発組立時間の30%減を目指すとされる(図214-28)。
また、フォルクスワーゲンと並んでモジュール化への適応を進めている現代自動車においても、多数ある部品のモジュール化の促進を進めるとともに、起亜自動車とプラットフォームの共有化を進め、モジュール部品の組み合わせにより、多品種生産を実現している。
なお、モジュール化を進めつつも、現代自動車・起亜自動車の製品品質は向上しており、米国自動車初期品質調査(IQS)において、2004年には韓国ブランド車が日米欧のブランド車と拮抗するようになった(図214-29)。
76
図214-30 モジュール化による OEMの外注化とサプライヤーの巨大化
米 国
欧州
日本
ボーイング、エアバス (インテグレーション)
素材
部品
コンポーネント (エンジン、装備品等)
ボーイング、エアバス
素材
部品
コンポーネント
ボーイング、エアバス
素材
部品、コンポーネント
資料:経済産業省作成
また、デジタル化・モジュール化は、航空機産業にも産業構造の変化をもたらしている。
従来、航空機の内部において、飛行計器(速度・高度・姿勢等を検知)、航法計器(位置・針路・方位等を検知)、エンジン計器(回転数・圧力比・排気ガス温度・燃料流量等を検知)などの検知装置は、信号ごとに発信源から受信部に専用の伝送ラインが必要であり、検知装置と表示装置が1対1で対応した。しかし、こうしたアナログ式検知装置は次第に電子化され、検知されたデータは自動的に測定・補正され、アナログデータがデジタルデータに変換されるようになった。また、機械部品の介在が減り、精度や応答性が改善された。
また、航空機の大型化が検知装置により取得されたデータの表示装置の数を急激に増加させ、パイロットが重要な情報を正確に読み取るのに支障を来すようになったこと、機種によって表示装置の配置が異なることが問題
になったため、表示装置も次第に電子化されるようになった。これにより、重要な情報が優先的に電子表示されるようになった。
さらに、伝達機構(ケーブル)も電子化された。従来、パイロットが計器類を確認して操縦桿やペダルを手動で操作すると、ケーブルを介して機械的に力が伝わり、油圧装置によって動翼が制御された。伝達機構の電子化によって、電線として利用するケーブルを介して電子信号が伝えられ、動翼を動かす際にデジタル情報がアナログ情報に変換されて駆動装置を制御するようになった。(この方式を、FBW(Fly By Wire)と呼ぶ。)注6
こうした航空機のデジタル化と歩調を合わせながら、ボーイングやエアバスといった機体メーカーは、コア技術を確保しながら、モジュール単位で外注して内外の優れた技術や生産基盤を自陣営に取り込んできた(図214-30)。
注6 山崎文徳「民間航空機の市場構造の変化と技術展開」(「社会システム研究」(10年9月))
第1節
第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
第1節
第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
77
図214-31 システムインテグレーターとして存在感を増す米 UTC、仏 SAFRAN
資料:経済産業省作成
他方、航空機のモジュール化を背景に、欧米ではサプライヤー同士の M& Aが進み、サプライヤーが航空機全体のシステムインテグレーターとしての能力を兼ね備えつつある。米国では、主にボーイングのサプライヤーである UTC(United Technology Co.)グループが、2011年9月に大手装備品メーカーのグッドリッチ(米)を買収して巨大化し、エンジン、アビオニクス、空調、電源などの全体システムを提供できるシステムインテグレーターとして、航空機メーカーに対して大きな力を持ち始めている。また、フランスでも、同様に、エンジンメーカーの SNECMAと防衛装備品メーカーの SAGEMが合併し、2005年に SAFRANが誕生している(図214-31)。
このように、ものづくりにおいてデジタル化・モジュール化する領域が拡大する中、むしろ積極的にデジタル化・モジュール化への適応を図るゲームチェンジャーが現れると、従来の競争ルールや産業構造が一変する。モ
ジュール化した製品設計を積極的に採用することで、自動車産業では、これらのゲームチェンジャーは、①(モジュール化それ自体による)開発コスト・生産コストの低減、②国際分業・グローバル調達の推進による生産コストの低減、③(モジュール化それ自体による)開発スピードの加速、④現地開発・現地生産の推進による市場ニーズと開発・生産の同期などのメリットを享受することが可能になる。また、航空機産業では、一定の品質を安く大量に作ることのできるよう、サプライヤーが巨大化し、同時に取引相手との関係で交渉力を強化することにも成功したのである。
これまですり合わせの典型といわれるようなものづくり分野においてもデジタル化・モジュール化を積極的に取り入れて競争力の向上を狙う海外の競合企業が拡大する中、我が国の産業政策・企業戦略には、こうした構造変化に何らかの形で適応することが強く求められている。
78