10

是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

Embed Size (px)

DESCRIPTION

This is a free sample of 是求随筆集ーつれづれなるままにー issue "イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]" Download full version from: Apple App Store: https://itunes.apple.com/us/app/id1062859197?mt=8&at=1l3v4mh Google Play Store: https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.com.ph2c.tsurezurenarumamani Magazine Description: 世界の情勢は日々変化していて、ISによる自爆テロ、北朝鮮による原爆を搭載したミサソイルの実用化、ロシアのウクライナへの勢力拡大、中国の南沙諸島での滑走路建設など日本を取巻く情勢は非常に緊張を増しています。そんな中で世界は太平洋戦争終戦70周年を迎え、世界各地で記念行事が開催されました。日本も世界の変化に対処すべく現憲法に縛られることなく諸策を見直す時期にきていると思われます。そんな思いをしながら「つれづれなるままに」を書いてみました。 You can

Citation preview

Page 1: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]
Page 2: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

2

イスラムの国の坊ち

ん先生

   

   

         

目            

次  

序章

生い立ちから就職まで

6  

第一章

アルジ

リアの工場に赴任

8  

第二章

初めての旅ビスクラ

13  

第三章

フランス語マスタ

への道

23  

第四章

千キロのヒ

チハイク

29  

第五章

花の都パリへ

35  

第六章

ふたたびアルジ

リアへ

44  

第七章

坊ち

ん先生の初授業

49  

第八章

受難の授業

53  

第九章

月後の授業

68  

第十章

テスト

テスト

またテスト

75  

第十一章

帰らされた講師たち

80  

第十二章

同居者・色男講師ヤイ

95  

第十三章

で始まる名前  

101  

ここは地の果てアルジ

リアシリ

ズ  

 

       

第十四章

アルジ

リアの医師事情

103  

第十五章

不審者アミエル

106  

第十六章

ン・ジ

ク&ヤエル

109  

第十七章

ヤイとふたりで泥棒?

113  

第十八章

ぼくを変えた人

117  

第十九章

・ガリ

グの体験談

122  

第二十章

・ガリ

グの愛犬

127  

第二十一章

・ガリ

グとの副業

129  

第二十二章

断食月ラマダン

132  

第二十三章

マルセイユのヤイの家

138  

第二十四章

ロンドンから長崎へ

142  第二十五章

からの出発

147  第二十六章

モロ

コ入国できず(

前編)

154  

第二十七章

モロ

コ入国できず(

後編)

164  

第二十八章

帰国後の初授業

171  

Page 3: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

3

第二十九章

越しラ

177  第三十章

アルジ

リアの車事情

180  

第三十一章

アルジ

リアの女性たち

185  

第三十二章

ふたたび受難の授業

188  

第三十三章

工場見学

193  

第三十四章

ある生徒の招待

197  

第三十五章

胃潰瘍で休養

201  

第三十六章

スペイン領メリリ

204  

第三十七章

クリスマス休暇

210  

第三十八章

オランダ人取締役ドルフ

212  

第三十九章

日本人通訳

214  

第四十章

後の授業

220  

第四十一章

別れの船旅

223  

終章

その後の坊ち

ん先生

228  

                                     

                               

                             

   

                                                                                                 

                                                                     

作/永尾良一  

                             

構成/えだ雀  

     

Page 4: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

4

●この物語の主な舞台  

   

 

 

   

 

 

Page 5: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

5

序章

生い立ちから就職まで

 

   

ぼくは

ナガオリ

ウイチ

 

 

一九五三

昭和二十八

長崎県で4人兄弟の末

として生まれた

 

 

上はすべて姉

自分でいうのも何だが

皆美人だ

友人

からは

かなり羨ましがられた

 

 

彼女たちもた

た一人の弟だから

いつもかわいが

くれた

ぼくが何か頼めば誰かがいうことを聞いてくれた

三人もいるから

いつもぼくを取り合

ていた

 

 

父は菓子問屋を営んでいた

 

 

戦後間もない時代にしては

こう裕福だ

ぼく

がただ一人の息子だ

たので

父は姉たちより断然ぼくを

かわいが

 

 

その結果

しつけはかなり甘か

お菓子屋だけにね

周りは

みんなぼくを甘やかせた

 

   

   

しかし家庭内でただひとり

ぼくに厳しい人がいた

 

 

それは母

 

 

彼女は

玄界灘近くの武士の家から嫁いで来た

高い理

想をも

た女性で  

男たる者

質実剛健でなければならない

 

という考えの持ち主だ

 

 

女だけど“ザ・九州男児  

”とい

た感じ

ぼくは長男な

ので

母はかなり期待していたらしい

いつもこんなこと

ばを口にしていた

 

男だ

たら

一度決めたらあきらめるな!

 

男だ

たら

勝つまで戦え!

 

男だ

たら

群れる羊より一匹狼として生きろ!

 

男だ

たら

狭い井戸より広い海で勝負しろ!

 

 

他にも毎日のように名言を発した

 

 

島田洋七の“がばいばあち

ん  

”は佐賀県だが

彼女は

その長崎版だ

 

 

こうして

ぼくの基本的な性格ができてい

 

 子どものころ大好きだ

たストロベリ

キにたとえ

ると

こんな感じだ

 

 

坊ち

ん兼末

子の甘え体質が

スポンジケ

 

 

その上に

九州男児の押しの強い性格がクリ

ムとして

たり塗り込まれている

 

Page 6: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

6

 さらに西の人間特有のラテン的陽気さが

イチゴのよう

に並んでいる

どう

おいしそう?  

   

   

そんなぼくも

やがて青年とな

 

 

大学は

法政大学に進んだ

母の期待に応え

狭い九州

より広い東京に出たか

た  

 

さらに就職も東京

しかも海外勤務のありそうな企業を

選んだ

当時は石油シ

クで就職難だ

たが

みんな無

難な国内勤務の多い会社に入りたが

たので

難なく内定

をもらえた

 

 

ぼくは

これで世界という広い舞台で勝負できると思

できればヨ

パの中心

フランスで仕事をしたか

 

 

ところが

簡単にはうまくいかない

 

 

フランスはフランスでも元植民地

地の果てアルジ

アに向かうことになる

 

       

                                         

Page 7: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

7

第一章

アルジ

リアの工場に赴任

 

   

ぼくが

初に赴任したのは

中国だ

 

 

その三年後

次は東欧諸国に赴任

 

 

アルジ

リアに赴任が決ま

たのは

そのあと

 

 

東部のスキクダでLPG

液化石油ガス

工場の建設の

ためだ

 

   

その一

飛行場で

   

   

ぼくが初めてアルジ

リアにきたのは

一九七八年

 

 

オラン飛行場に降り立

 

 

日本とかなり違うのに驚いた

日本の空港はし

うゆの

匂いがすると

何かで読んだことがある

 

 

どこの空港にもその国独特の匂いが漂い

しかも自国民

には気づかないものらしい

 

 

それにしてもこの飛行場のにおいは

なんとも形容しが

たい

 

 

タラ

プを降り始めた瞬間

鼻にム

と来る

民族が持

つ独特の体臭と

羊脂のすえた臭気が混ざり合

ている

こういえば

少しはわか

てもらえるだろうか

 

 

わからない?  

 

要するに

とにかくクサい!  

 

到着ゲ

トは

どこの国だ

てご

た返している

ぼく

も何カ国かを回

日本よりひどい混雑をいくつも見て

きた

スト3を挙げることもできた

 

 

ところがこの国を知

た時から

スト3はすべてア

ルジ

リアの空港が独占することにな

 

 

空港内荷物引き渡しのベルトコンベア付近は

戦場だ

いや

難民キ

ンプに近い

 

 

子供を四

五人連れた母親が何十人もいる

彼女たちは

必ず両手にカバンを持つ

どのカバンからも衣類や雑貨が

あふれ出ている

さらに肩にもシ

ルダ

グをかけ

クを背負

ている

 

彼らは

全員フランスへ買い出

しにい

た帰りらしい

バカンスを利用したのか

週末の

休みなのか

 

 

いちばんの関門は

税関検査

 

 

とにかく早く抜けようと

税関検査官の前にはすごい人  

だかりだ

散らば

た荷物をまとめ

ツケ

スをかき

Page 8: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

8

集め

走り回

ては大声で怒鳴

ている

どのカバンも

詰め込むだけ詰め込んでいる

その中身を検査するわけだ

 

 

検査官が開けた途端

衣服や箱や何やらがあふれ返る

パンドラの箱から飛び出したかのように

どうや

ても一

度開いたカバンは

元通り閉まりそうにない

 

 

そうした中を

ぼくは必死にな

てくぐり抜けた

 

 

と手の空いてる検査官を探し出す

そうなれば早い

荷物が少ないから

検査を難なく通過

 

 

ぼくは空港玄関口に急いだ

 

 

ここも人でご

た返している

現地社員が待

てくれて

るはずだが

どこにいるのか

 

ナガオさんですね?

 

 

日本人が声をかけてきた

探していた社員だ

 

人が多いのに

よく見つけましたね

 

この国は

東洋人が少ないですから

 

 

周りを見渡すと

アジア系はぼくらふたりだけ

本当に

日本から離れた場所にきたんだと

実感した

 

   

   

その二

赴任地での仕事

 

   

彼の車で工場へ向かう

 

 

アルジ

リアにも都会はあるのだが

ぼくの赴任地は町

のはずれ

小さな港の近くで

周りは砂漠のような土地だ

 

 

そこにエチレンプラント工場を建設する

 

 

プラント建設というものは

大きく分けて2種類ある

 

 

一つ目は

その国にある程度技術力と経験のある建設業者

がいる場合

 

 

以前い

た中国や東欧諸国がそうだ

現場は現地

人  が主体で

ぼくら外国人はアドバイザ

赴任者は三〇人

ほどいればいい

 

 

二つ目は

プロジ

クトをすべて元請け会社がおこなう

 

 

設計・資材調達・建設・試運転・引き渡しまで

すべて

現地人は出来上が

た工場のキ

をもらうだけ

 

 だからこちらは

ンキ

契約と呼ばれている

この

方式は発展途上国に多い

 

 

アルジ

リアもそうだ

 

 

実際鍵をもら

ただけじ

工場は動かせない

Page 9: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

9

ちらが彼らに知識を与え

経験を積んでもらうことになる

 

 こうなると赴任者は三〇人どころじ

済まない

 

 

工場建設の

盛期には

数百人から千人を超す大所帯と

なる

以前はすべて日本人がや

ていたが

時代とともに

人件費が高騰

採算が合わなくな

 

 

安い労働力を求め

韓国人

リピン人

イタリア人

アルジ

リアに近いから

を集めるようにな

 

 

グロ

バルといえば聞こえがいいが

それぞれ国も習慣

も違う者同士

ことばの壁は大きい

細かい意思疎通はで

きない

 

 

しかもそれが全員男ばかり!  

 

 

勤務は十二時間の交代制

何度も昼夜の勤務を交代する

 

 

そのときは十八時間勤務となる

低の人数でおこなう

ため

どの部署も二交代とい

ても二チ

ムしかなか

 

 

タフでなければ勤まらない

 

 

その三

赴任地での生活

 

   

仕事もきついが

ふだんの暮らしもつらい

 

 

宿舎は町から離れている

 

 

個人用の車などないから

移動はむずかしい

たまの休

みでも

宿舎の近くにいるしかない

 

 

もちろん周りに遊べるような場所はない

酒場

歓楽街

映画館

その他

人との交流が必要な活動は無理だ

 

 

食堂は日本人用が準備されている

 

 

みそ汁

ご飯が毎食出る

しかし滞在二週間もすると

味付けにあきてくる

社員食堂と同じだ

しかもここでは

他の食堂を探しにいくわけにもいかない

 

 

メニ

て?  

 

 

そんなものはない

定食が一種類あるだけ

メン

丼物なんてない

毎日全員同じ物を食べる

選択は食べる

食べないかだけだ

 

 

しかもご飯には

虫が混ざ

ている

 

 

コクゾウ虫という

黒いごま粒大の虫だ

そいつが一口

に一匹程度の割合で混じ

ている

一杯につき二

三十匹

とい

たところか

見た目は

黒ごまかけご飯なんだが

 

 それらを一匹ずつ箸でつまみ出して食べる

れるとどうということもない

よそで白いご飯に出会うと  

感激する

 

白いおまんまだ!

 

Page 10: 是求随筆集ーつれづれなるままにー - イスラムの国の坊ちゃん先生 [挿絵無]

10

まるで江戸時代の農民みたいな気持ちになる

 

 ご飯とい

に出される野菜も

問題がある

新鮮な

のはいいが

清潔とはいえない

 

 

かいなのが

カレ

 

 

人参やジ

ガイモは皮をむいていない

しかも米の中に

はコクゾウ虫がいる

初め虫を取出したあとにカレ

をか

けないと

虫まで食べてしまう

 

 

こんなカレ

インド人もび

くりだろう

 

 

朝の卵焼きには

味がついてない

 

 

一度コ

クにこう頼んだ

 

せめて塩かし

う油で下味をつけてほしい

 

だめだ

人それぞれ好みが違う

塩だけの人もいれば

砂糖を入れる人もいる

さらにし

う油やマヨネ

 

とても対応できない

だから何もしない

 

 

何も入れない卵焼きほど

まずいものはない

 

     

食事はまずい

娯楽もない

 

 

友人との交流もできない

電話代が高くつくから

日本

にはめ

たに連絡がとれない

職場の人間は外国人が多く

ことばが通じない

 

 

同じ部署の日本人社員とは何人か仲良くな

しかし

突然辞令が下り

彼らは別の国にい

てしまう

何回かそ

んなことを経験するうち

誰ともあまり親しくならないよ

うにな

てしま

 

   

   

この時期を

どんな気持ちで過ごしたか

 

 

過ごした人でないとわからないだろう

共学出身者に

六年間男子一貫校だ

た人間の気持ちを伝えるより難しい

はずだ

 

 

そんな生活を短くて半年

長ければ二年以上続けさせ

られる

軟禁

という単語がぴ

たり

 

 

楽しみといえば帰国の日を数えることだけ

 

 

まるで

出所日を指折り数える刑務所の囚人だ

仕事が

終わりベ

ドに横にな

ぼくは考えた

 

こんな仕事だけの生活を続けるのは

もうイヤだ

人間

性が失われてしまう

 

 こんな絶望的なつらい気持ち

以前赴任した中国や東欧

では起きなか

 

 

ある映画を思い出した