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IEEJ: August 2006 1 インドネシアの石油・天然ガス:その現状と課題 常務理事 兼 清 賢 介 研究主幹 井 上 友 幸 はじめに インドネシアは長年にわたりわが国へのエネルギー供給において重要な役割を果たしてき たが、近年では国内需要の増加を背景に石油輸出は漸減を続け、 2004 年にはついにネットの石 油輸入国となった。また、インドネシアはわが国にとって最大のLNG輸入先だが、ガス田の 枯渇・生産不調や国内需要の増加から、2000 年以降、LNG輸出は波乱含みで推移している。 国内市場では、燃料や電力の供給が不足気味で、財政赤字削減とエネルギー価格の国際化を目 指す石油製品の値上げに対して抗議デモが起きている。このような事態の背景には、同国のエ ネルギー部門が石油・天然ガス資源開発の不振、電力インフラ整備の遅れ、省エネルギーへの 取組みの遅れなど、様々な問題を抱えているという事情がある。 これらの課題の解決を目指して、インドネシアでは 2004 3 月に新「国家エネルギー政策」 が発表された。経済成長による内需の増加、政治改革による民主化の進行とともに「国内優先」 という国民の声が高まり、エネルギー輸出国というこれまでの性格は今後かなり変貌する可能 性がある。新政策の下での施策はまだ軌道に乗ったとはいえないが、今後の動向は注意深くウ オッチする必要があるだろう。本稿では、石油・天然ガス分野を中心にインドネシアの現状と 課題を分析し、新エネルギー政策の下での取組み状況を紹介する。 1. インドネシアの概況 インドネシア共和国の国土面積は日本の約 5 倍の 189 万平方キロで、人口は 2.2 億人(2004 年政府推計)である。インドネシアは、これまで豊富な資源を背景に海外からの直接投資を呼 び込み、開発独裁・資源輸出型の発展を遂げてきた。現在でもインドネシアの輸出の内容は、 石油・天然ガスなどを中心とした資源輸出型である。付加価値の高い加工品の輸出比率はアセ アン諸国のなかでも低く、その引き上げはインドネシア政府の長年の課題でもある。 表 1-1 インドネシア共和国の基本情報 1.面積 約 189 万平方キロ(日本の約 5 倍) 2.人口 約 2.17 億人(2004 年政府推計) 3.首都 ジャカルタ(人口 864 万人:2003 年推計) 4.人種 大半がマレ-系(ジャワ、スンダ等 27 種族に大別) 5.宗教 イスラム教 87%、キリスト教 10%、ヒンズ-教 2% 6.名目 GDP 2002:2,038 億ドル, 2003: 2,433 億ドル, 2004:2,576 億ドル 7.一人当り GDP(名目)2002:930 ドル、2003:1,091 ドル、2004:1,165 ドル 8.経済成長率 2002:4.3%、2003:4.5%、2004:5.1%、2005:5.5%( 9.物価上昇率 2002:10.0%、2003:5.1%、2004:6.4%、2005:10.4 10.為替レート 1 ドル=9,550 ルピア(2005 年第 2 四 半期) 出典:外務省ホームページ

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IEEJ: August 2006

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インドネシアの石油・天然ガス:その現状と課題

常務理事 兼 清 賢 介

研究主幹 井 上 友 幸

はじめに

インドネシアは長年にわたりわが国へのエネルギー供給において重要な役割を果たしてき

たが、近年では国内需要の増加を背景に石油輸出は漸減を続け、2004 年にはついにネットの石

油輸入国となった。また、インドネシアはわが国にとって最大のLNG輸入先だが、ガス田の

枯渇・生産不調や国内需要の増加から、2000 年以降、LNG輸出は波乱含みで推移している。

国内市場では、燃料や電力の供給が不足気味で、財政赤字削減とエネルギー価格の国際化を目

指す石油製品の値上げに対して抗議デモが起きている。このような事態の背景には、同国のエ

ネルギー部門が石油・天然ガス資源開発の不振、電力インフラ整備の遅れ、省エネルギーへの

取組みの遅れなど、様々な問題を抱えているという事情がある。

これらの課題の解決を目指して、インドネシアでは 2004 年 3 月に新「国家エネルギー政策」

が発表された。経済成長による内需の増加、政治改革による民主化の進行とともに「国内優先」

という国民の声が高まり、エネルギー輸出国というこれまでの性格は今後かなり変貌する可能

性がある。新政策の下での施策はまだ軌道に乗ったとはいえないが、今後の動向は注意深くウ

オッチする必要があるだろう。本稿では、石油・天然ガス分野を中心にインドネシアの現状と

課題を分析し、新エネルギー政策の下での取組み状況を紹介する。

1. インドネシアの概況

インドネシア共和国の国土面積は日本の約 5 倍の 189 万平方キロで、人口は 2.2 億人(2004

年政府推計)である。インドネシアは、これまで豊富な資源を背景に海外からの直接投資を呼

び込み、開発独裁・資源輸出型の発展を遂げてきた。現在でもインドネシアの輸出の内容は、

石油・天然ガスなどを中心とした資源輸出型である。付加価値の高い加工品の輸出比率はアセ

アン諸国のなかでも低く、その引き上げはインドネシア政府の長年の課題でもある。

表 1-1 インドネシア共和国の基本情報

1.面積 約 189 万平方キロ(日本の約 5 倍)

2.人口 約 2.17 億人(2004 年政府推計)

3.首都 ジャカルタ(人口 864 万人:2003 年推計)

4.人種 大半がマレ-系(ジャワ、スンダ等 27 種族に大別)

5.宗教 イスラム教 87%、キリスト教 10%、ヒンズ-教 2%

6.名目 GDP 2002:2,038 億ドル, 2003:2,433 億ドル, 2004:2,576 億ドル

7.一人当り GDP(名目)2002:930 ドル、2003:1,091 ドル、2004:1,165 ドル

8.経済成長率 2002:4.3%、2003:4.5%、2004:5.1%、2005:5.5%(推定)

9.物価上昇率 2002:10.0%、2003:5.1%、2004:6.4%、2005:10.4%

10.為替レート 1 ドル=9,550 ルピア(2005 年第 2 四半期)

出典:外務省ホームページ

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経済の近代化が成果を挙げ始めた 1998 年に、インドネシアはアジア金融危機とスハルト政

権崩壊というダブルパンチを受け、経済全体を揺さぶる激震に見舞われた。為替レートは暴落

し、外国投資は 1997 年の 338 億ドルから 2002 年には 100 億ドルに激減した。金融面では国際

資金の中国シフトが起こり、行政改革・労働改革・地方分権政策などの一連の民主化プロセス

は経済活動の混乱を引き起こすことにもなった。1

この時期には、スハルト政権腐敗の温床といわれた石油行政の大幅な改編が実施された。

インドネシアでは 1960 年に「石油ガス鉱業法」が制定され、石油ガス資源は国有化されて、外

国石油会社は国営石油会社のコントラクターとして事業運営にあたるという形態が発足した。2

1968 年には 3 つの国営石油会社がプルタミナに統合され、以後、長期にわたり石油・天然ガス

の探鉱、開発、精製、販売のすべての分野でプルタミナの独占体制が続いてきた。鉱業法の改

正は民主化移行直後から議論の焦点となったが、党派間の意見がなかなかまとまらず、最終的

に新「石油ガス法」が発効したのは 2001 年 11 月である。政治体制が激動するなか、最近に至

るまでインドネシアの石油産業は混乱の嵐に揉まれ、矛盾が噴出し、エネルギー政策の建て直

しは重要な政治課題となった。このような情勢を踏まえ、インドネシア政府は 2004 年 3 月に新

「国家エネルギー政策」を発表したが、総じて、総花的な色彩の濃いものといえる。

インドネシアでは民主化移行後もしばらく政治や経済の混乱が続いたが、2004 年 9 月に誕

生したユドヨノ政権の下でようやく政治・社会情勢は落ち着きに向かい始めたようだ。3 今後、

経済面では為替の安定、インフレ率の低下、低金利の維持などにより、外国直接投資が回復軌

道をたどる公算が強い。アジア経済研究所の見通し「アジア工業圏の経済展望 2006」によれば、

2005 年、2006 年の経済成長率は 5.5%程度と見込まれている。他方、経済成長にともなってエ

ネルギー消費も増加が続き、エネルギー供給問題が中長期的に成長の制約要因になる可能性が

出てきている。そのような情勢のなか、国際エネルギー価格の高騰に国内市場をどのように対

応させていくかも舵取りの難しい政治課題である。

他方、エネルギー供給を全面的に海外に頼るわが国の立場からみれば、資源輸出国として

のインドネシアの姿は今後一段と変貌することが予想される。図 1-1 に示すように、日本のエ

ネルギー輸入量というモノサシで見ると、インドネシアからの原油輸入量は 1980 年代以降減少

を続け、輸入比率では 1981 年の 15.8%をピークに、現在では3%レベルにまで低下している。

1 この時期には、行政権限の地方委譲により中央と地方の許認可権限の仕分けが不透明化したことによる混乱、

地方での汚職の増加、労働改革の結果多くの労働組合が設立されて賃金の上昇、組合間の不協和音などが生

じ、労働生産性が低下した、などの現象が起こったと指摘されている。石油政策面では、2001 年 1 月より、

地方の要求の高まりにより原油収入の 15%、天然ガス収入の 30%が中央政府から地方政府に移管された。

なお、政情不安の高まったアチェ州へは 8 年間の期限付きで 70%が移管された。 2 この新形態のもと、中部スマトラでミナス/デュリ油田を中心に大規模な生産を行っていたカルテックスの権

益の扱いを巡って案出されたのが、現在では世界的に広まっている「生産分与契約(PSC; Production Sharing Contact)」である。

3 1998 年に就任したハビビ大統領、1999 年に就任したワヒド大統領の時代は、まさに政権移行の激動期であ

った。しかし、国民の期待を担って 2001 年に登場したメガワティ政権は経済の混乱や失業率の改善などを

実現できず、なによりもスカルノ時代からの悪習である「汚職、癒着、縁故主義」に対して無能・無策であ

った。2004 年に国民の期待を集めて登場したユドヨノ大統領は、清廉潔白で実直な実務能力を備えた人物

といわれている。なお、経済面では、2003 年には製造業を中心に外国投資が 133 億ドルまで回復し、周辺

国への多国籍企業の生産移転にも漸く歯止めがかかって、インドネシア経済は長い混乱からようやく抜け出

そうとしている。

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最近ではLNG輸入も減少に転じており、唯一、石炭だけが順調な増加を示している。

図 1-1 日本のインドネシアからのエネルギー輸入

このように、エネルギーを巡るインドネシアの現状は問題含みではあるが、膨大な国土を持

つインドネシアは、上流部門に適切な探鉱・開発投資を呼び込むことが出来れば、新たな資源

開発ブームを招来することも可能であろう。たとえば、2005 年末のインドネシアの石油と天然

ガスの埋蔵量は、国土面積が1/6の隣国マレーシアと肩を並べるレベルにまで落ち込んでいる

が、この数字はエネルギー政策の混乱を強く感じさせる。世界では、原油高価格時代を背景に

高価な新技術による探鉱・開発や下流部門での設備増強などの取組みが始まっている。インド

ネシアでも、このような世界情勢を背景に、国際協力を軸としたエネルギー部門活性化への取

組みが進もうとしている。以下では、石油と天然ガスを中心とするエネルギー部門の現状と新

「国家エネルギー政策」のもとでの取組み状況を概観し、インドネシアが今後進むべき方向に

ついて検討する。

2.インドネシアのエネルギー事情

(1)国内エネルギー事情

東西 5000kmにもおよぶ広い国土と海洋をもつインドネシアは、石油や天然ガスの輸出国

として馴染み深い。しかしながら、ASEAN10 ヶ国中最大の人口を抱えるインドネシアでは、

経済成長にともないエネルギー消費が 1985 年以降の 20 年間に 3 倍以上に増加し、国内のエネ

ルギー事情は大きく変貌した。モータリゼーションが進行し、石油消費が底堅い増加を続ける

一方で、石油生産は 1995 年以降減少に転じている。新エネルギーを除く一次エネルギーの国内

消費は 1990-2005 年の期間では年率 5.3%で増加してきたが、エネルギー国内消費の大半は石

油・天然ガス(2005 年で 78%)が占めている。(図 2-1 参照)

出典:日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」 (経済産業省「資源エネルギー統計年報」、財務省「日本貿易月報」)

0

10

20

30

40

50

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1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 20050%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

百万 KL/t

原油

LNG

石炭

日本の輸入に占めるシェア

LNG (%)

原油(%)

石炭(%)

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図 2-1 一次エネルギーの国内消費

インドネシアでは、一次エネルギー供給の石油依存度は 1985年の 62%から 2003年には 46%

にまで減少し、この間に石炭比率は 2%から 20%に拡大した。1990 年代以降では天然ガスおよ

び石炭の供給が高い伸びを示している。一方、インドネシアの高い石油依存には特有の事情が

あり、炊飯用の灯油と発電用のディーゼル軽油の消費が相対的に多い(図 2-2 および 2-3)。

厨房用には、都市部の富裕層は LPG を利用しているが、一般的には灯油が使われている。近年

では生活の近代化とともにLPGの内需が急拡大しており、供給確保が重要な課題となってい

る。民生部門では都市ガスが余り普及していないのに対し、産業部門では都市ガスがかなり利

用されている。これは比較的使用量の大きい産業部門向けの普及は進んできたものの、建設コ

ストの高い家庭用ガス供給網の整備がまだこれからという事情を示している。産業部門では自

家発用の軽油の消費が大きいのも特徴的である。

図 2-2 民生部門と産業部門のエネルギー消費内訳

出典:BP統計

0

20

40

60

80

100

120

140

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

石油換算116.4百万トン

(2005年)

47.5%

30.5%

20.2%

1.8%

石油

石炭

天然ガス

水力発電

石油換算百万トン

アジア通貨危機

石炭13%

灯油54%

電力26%

LPG6%

都市ガス1%

16.1 百万toe

民生部門

石炭12%

軽油28%

重油15%

LPG1%

都市ガス21%

電力23%

産業部門

24.3 百万toe

出典:日本エネルギー経済研究所「APERC Energy Statistics 2003」

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電力供給をみると、多数の島々からなるインドネシアでは大規模ナショナル・グリッドだ

けでは全国土をカバーできず、地方での電化率は低い。2001 年のジャワ島以外での電化率は

74%(ジャワ島を含む全国の村落電化率は 84%)であった。インドネシア政府は第 10 次 5 カ

年計画(2015~2019 年)で全村落の電化を計画しているが、これはなかなか大変な事業である。

幹線電力網でカバーされない地方での電力供給は「ディーゼル発電+ミニ・グリッド」による

電力システムが主流で、かなりの量の石油を使用している。電力公社(PLN)は「系統電源

では今後石炭火力、ガス火力を優先する」方針を打ち出しているが、同時に、地方や島嶼部で

の電源としてはバイオや太陽光、小水力なども検討されている。

図 2-3 インドネシアの電力用エネルギー構成

インドネシアは火山国であり、地熱発電の導入を熱心に進めてきた。地熱プロジェクトは、

地下の高熱水脈の探査と地熱採取のための坑井掘削という石油開発事業に近い事業特性から、

国営石油会社プルタミナの独自事業もしくは他社との共同事業の形で進められてきた。2005 年

の地熱発電能力は 852 千Kwでわが国4を上回る利用が行われているが、エネルギー価格の高騰

を背景に 2010 年までにさらに能力の 7 割増強が計画されている。

表 2-1 インドネシアの地熱発電計画

地域分布 運営形態 ジャワ スマトラ スラウェシ

合計 プルタミナ JV

2005

千Kw 830

千Kw2

千Kw20

千Kw852

千Kw 162

千Kw690

2010 1110 232 80 1422 512 910出典:Iin Arifin Takhyan(プルタミナ副社長) “Opportunities for Partnership and Cooperation in Pertamina” (Japan

Indonesia Energy Forum でのプレゼンテーション、 2006 年7月)

(2)一次エネルギー需給バランス

1990 年代、インドネシアの一次エネルギーの生産と輸出は、総量で見れば、ともに増加し

た。しかし、原油の生産と輸出は減少トレンドにあり、増加したのは天然ガスや石炭の生産と

4 2003 年のわが国の地熱発電能力は 533.2 千Kw。

石炭 44.0%

軽油 13.3%重油 6.1%

天然ガス

14.8%

水力

2.8%

地熱

19.1%

28.4百万toe(2003)

出典:日本エネルギー経済研究所「APERC Energy Statisctics 2003」

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輸出である。さらに、この時期には国内石油精製向けの原油と軽油・灯油・ガソリンなどの石

油製品の輸入量も増加している。これは、ミナスなど低硫黄良質原油を輸出し、相対的に安価

な中東原油を輸入して価格差を稼いでいたこと、一方で、石油精製能力の総量や高硫黄原油を

処理する二次装置が不足していたことなどがあげられる。今後は国内の石油需要増加を賄うた

め、精製用原油の輸入がますます増加する方向にある。

出典:IEA, “Energy Balances of Non-OECD Countries,”

図 2-2 一次エネルギー供給の推移 (単位:石油換算百万トン)

2000 年以降、一次エネルギーの中でも石炭・天然ガス・地熱の生産量は増加しているが、

原油(NGL を含む)の生産は減少傾向にある。2003 年のエネルギー別生産量のシェアーは石

油(原油と NGL)24 %(1986 年:53%)、ガス 28 %(同年:21%)、石炭 28 %(同年:1%)、

その他 2.5%(同年:0.5%)となっている。2003 年の石油の構成比は 1986 年に較べ 29 ポイン

トも減少しており、一方、石炭は 27 ポイント上昇、天然ガスは 7 ポイント上昇している。この

ようにインドネシアのエネルギー生産は石油が低迷するなか、石炭や天然ガスへのシフトが進

行している。(図 2-3 参照)

出典:IEA, “Energy Balances of Non-OECD Countries,”

図 2-3 一次エネルギー生産量の推移 (単位:石油換算百万トン)

0

50

100

150

200

250

300

1986 1990 1995 2000 2001 2002 2003

百万

 to

e 国内生産

輸入

輸出

供給計

0

10

20

30

40

50

60

70

80

1986 1990 1995 2000 2001 2002 2003

生産

量 

百万

toe

石炭

再生可能

天然ガス

原油

NGL

水力

地熱

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(3)エネルギーの輸出入

インドネシアは石油・天然ガス・石炭いずれのエネルギーも輸出しており、現在でも東南

アジア最大のエネルギー輸出国である。インドネシアの 2005 年の石油輸出量は 26 百万KL程

度であったが、国内需要の増加に伴い 1997 年以降減少傾向にある。また、厨房用需要の伸びが

大きいLPGの輸出は近年急速に減少しており、国内供給を確保するためにボンタン基地のL

PGは輸出禁止処置がとられた。一方、石炭輸出は近年著しい増加を続けている。

表 2-2 エネルギーの輸出量および単価の推移 原油 LPG LNG 石炭

輸出量 (1000kl)

単価 ($/bbl)

輸出量 (千t)

単価 ($/ton

輸出量 (千t)

単価 ($/MMB

tu)

輸出量 (百万ト

ン)

単価(CIF, $/ton)***

1995 47,988 17.1 2,511 187 24,941 3.00 33.3 44.2 1996 45,115 20.1 2,712 202 26,552 3.45 40.2 45.5 1997 45,966 19.0 2,133 242 26,891 3.41 42.5 42.0 1998 44,578 12.3 1,761 146 26,891 2.44 48.3 36.2 1999 45,379 17.3 1,745 260 29,108 2.99 55.2 31.6 2000 35,537 28.1 1,306 301 26,990 4.15 58.0 31.3 2001 38,416 24.1 1,484 262 23,883 4.34 66.8 34.6 2002 34,547 25.6 1,269 324 26,215 4.11 73.6 33.3 2003 30,602 29.5 1,107 26,680 4.58** 90.1 31.3

2004 26,892* 36.9 27,096 4.97** 105.9 43.7

2005 26,496* 53.6 25,454 5.81** 129.0 53.9 注:*は IFS の金額からの推定値、**は日本の輸入価格からの推定値。***石炭の単価は日本への一般炭

輸入単価。 出典: Petroleum Report Indonesia (米国大使館編集)、IFS, エネルギー経済統計要覧 2006、石炭年間 2006

インドネシアでは、国内での堅調な石油需要の伸びを背景に原油と石油製品の輸入が 1986

年以降著しく増加している。2003 年の石油輸出入バランスは、原油の輸出量 45.8 万バーレル

/日(22.6 百万 TOE)に対し輸入量は 36.3 万バーレル/日(17.9 百万 TOE)で、一応、原油の純

輸出国であった(図 2-4 参照)。しかし、国内消費の増加と国内生産の減少から原油輸入量が増

図 2-4 一次エネルギー石油製品別輸入 (単位:石油換算千トン)

エネルギーの輸入推移

0

5000

10000

15000

20000

1986 1990 1995 2000 2001 2002 2003

1000to

e

石炭

原油

ジェット油

ガソリン

灯油

軽油

重油

出典:IEA, “Energy Balances of Non-OECD Countries”

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加を続け、2004 年 3 月には輸出 44.8 万バーレル/日 に対し輸入が 48.4 万バーレル/日を記録

し、インドネシアは原油の純輸入国となった。国産原油の減退にブレーキがかからない限り、

今後原油輸出量が先細りとなることは避けられないであろう。

天然ガスについては、1977 年の LNG 生産開始以降順調に輸出が拡大し、インドネシアは

世界最大のLNG輸出国となった。LNG は外貨獲得の主力商品となっているが、1996 年以降

の生産は横ばいで、年間 2,600 万トン程度で推移している。これは北スマトラのアルン・ガス

田が枯渇に向かいLNGの生産が縮小しつつあること、その補填のためにカリマンタンのボン

タンLNG基地のプラント能力が増強されたが、天然ガス生産の不調から思うような増産が出

来ないことに起因している。最近では、ジャワ島の天然ガス需要の増加を賄うため、カリマン

タンからパイプラインでガスを送る計画も発表された。丁度、日本向け長期契約の更改時期に

もあたり、ボンタンLNGの先行きを巡って色々な噂が飛び交っている。なお、2008 年にはイ

リアン・ジャヤのタングーLNGプロジェクト(当初年産 600 万トン)が稼動し、LNG生産

量は 20%程度増加する見込みである。

石炭の輸出量は、日本や韓国、台湾が発電用石炭の輸入を増やした 1990 年代半ば以降急速

に増加してきた。この勢いはなお暫く続きそうであるが、カリマンタンなどの産炭地で輸送イ

ンフラの整備や環境対策を強化することが必要とされている。

(4)石油の供給構造

インドネシアでは近年原油生産が減少傾向にあり、それは既存油田が終焉を迎えつつある

一方で新規発見や開発が進んでいないことに起因している。インドネシアの原油生産量は 1990

年代の 150 万バーレル/日レベルをピークとして、2005 年には 25%減の 114 万バーレル/日にま

で低下した。特に、スハルト体制崩壊後の 2000 年以降の凋落は著しい。一方で、石油消費は堅

調な増加を見せており、インドネシアは 2004 年にネットの石油輸入国に転落している。

図 2-5 原油の生産と消費

ここでインドネシア国内向けの石油製品供給構造をみると、図 2-6 のように、原油、石油

製品ともに輸入依存度がかなり高くなっている。インドネシアの国産原油は軽質低硫黄のもの

が多く、市場では中東原油よりも高価格で販売されるため、伝統的に日本をはじめとするアジ

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

石油生産

石油消費

千バーレル/日

出典:BP統計

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IEEJ: August 2006

9

図 2-6 インドネシアの石油製品供給構造(2005 年)

図 2-7 インドネシアの製油所主要油槽所の配置

ア市場で販売され、国内精製に向けられているのは 55%ほどである。それと引き換えに、2005

年の実績で見ると、国内製油所での処理原油のうち 4 割近くが輸入原油で占められている。ま

た、精製用原油のうち 3 割強がスポットでの手当てになっており、スポット比率はわが国など

出 典 : Burhanuddin Hassan ( Pacific Petroleum Trading 社 顧 問 ) ”Indonesia’s Downstream Sector BusinessOpportunities” (Japan Indonesia Energy Forum 2006、2006 年 7 月でのプレゼンテーション)。原典はプルタミナ

国産原油1113.4

原油輸入368.7

PSC会社504.9

プルタミナ/政府取り分

608.5

ターム契約248.8

スポット119.9

輸出402.1

交換・購入102.8

残り509.4

交換29.9

輸出35.1

BPMIGASによる輸出

34.1

高オクタンガソリン基材の輸入

14.8

612.2(62.4%)

368.7(37.6%)

【燃料油の国内供給】

生産 輸入LPG30.2ガソリン194.2 67.3灯油164.7 163.3軽油266.8 190.8A重油

17.8重油

89.0 29.0合計732.5 450.4

↑(処理原油の74.7%)

その他製品

単位:千バーレル/日

国産原油1113.4

原油輸入368.7

PSC会社504.9

プルタミナ/政府取り分

608.5

ターム契約248.8

スポット119.9

輸出402.1

交換・購入102.8

残り509.4

交換29.9

輸出35.1

BPMIGASによる輸出

34.1

高オクタンガソリン基材の輸入

14.8

612.2(62.4%)

368.7(37.6%)

【燃料油の国内供給】

生産 輸入LPG30.2ガソリン194.2 67.3灯油164.7 163.3軽油266.8 190.8A重油

17.8重油

89.0 29.0合計732.5 450.4

↑(処理原油の74.7%)

その他製品

単位:千バーレル/日

Grissik Palembang

Semarang

Pacific Ocean

AUSTRALIA

Indian Ocean

Phnom Penh

Ho Chi Minh City

VIETNAM

Khanon

Song khl a

Erawan

Bang kot

LawitJerneh

WESTMALAYSIA

Penang

Kerteh

Kuala Lumpur

China

Sea

Natuna Alpha

Kota Kinibal uBRUNEI

Bandara Seri Begawan

BintuluEAST

MALAYSIA

Kuching

Banda Aceh

Lhokseumawe

Medan

Duri

S U M A T R A Jambi

BintanSINGAPORE

Samarinda

Balikpapan

Bontang

AttakaTunu

BekapaiKALIMANTAN

Banj armasi n

Manado

SULAWESI

BURU SERAM

Ternate

Sorong

IRIAN JAYA

JakartaJ A V A

SurabayaBangkalan

BALISUMBAWA

LOMBOK

FLORES

SUMBATIMOR

DuyongWest NatunaMogpu

Dumai

Batam

Guntong

MADURABandung

Yogyakarta

    製油所

    油槽所

    パイプライン

    タンカー・ルート

P. Brandan: 5 MBOPD

Balongan : 125 MBOPD

Kasim : 10 MBOPD

Musi 135.20 MBOPD

Balikpapan : 260 MBOPD

UjungPandang

Pagerungan

HALMAHERA

Jayapura

Merauke

Cepu : 3.80 MBOPD

S.Pakning : 50 MBOPD

Cilacap: 348 MBOPD

Dumai : 120 MBOPD

Padang

Port KlangPort Dickson

I N D O N E S I A

インドネシアの国内精製能力合計は1057千BD

Grissik Palembang

Semarang

Pacific Ocean

AUSTRALIA

Indian Ocean

Phnom Penh

Ho Chi Minh City

VIETNAM

Khanon

Song khl a

Erawan

Bang kot

LawitJerneh

WESTMALAYSIA

Penang

Kerteh

Kuala Lumpur

China

Sea

Natuna Alpha

Kota Kinibal uBRUNEI

Bandara Seri Begawan

BintuluEAST

MALAYSIA

Kuching

Banda Aceh

Lhokseumawe

Medan

Duri

S U M A T R A Jambi

BintanSINGAPORE

Samarinda

Balikpapan

Bontang

AttakaTunu

BekapaiKALIMANTAN

Banj armasi n

Manado

SULAWESI

BURU SERAM

Ternate

Sorong

IRIAN JAYA

JakartaJ A V A

SurabayaBangkalan

BALISUMBAWA

LOMBOK

FLORES

SUMBATIMOR

DuyongWest NatunaMogpu

Dumai

Batam

Guntong

MADURABandung

Yogyakarta

    製油所

    油槽所

    パイプライン

    タンカー・ルート

P. Brandan: 5 MBOPD

Balongan : 125 MBOPD

Kasim : 10 MBOPD

Musi 135.20 MBOPD

Balikpapan : 260 MBOPD

UjungPandang

Pagerungan

HALMAHERA

Jayapura

Merauke

Cepu : 3.80 MBOPD

S.Pakning : 50 MBOPD

Cilacap: 348 MBOPD

Dumai : 120 MBOPD

Padang

Port KlangPort Dickson

I N D O N E S I A

インドネシアの国内精製能力合計は1057千BD

出典:エネルギー鉱物資源省

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IEEJ: August 2006

10

よりも高い。今後、内需の増加にともない輸入原油の処理比率はさらに上昇するものとみられ、

産油国インドネシアにとっても、輸入原油の確保はエネルギー安全保障上の重要な課題となり

つつある。

また、シンガポールという大石油精製基地がすぐそばに控えているため、伝統的に石油製

品の輸入比率が高く、国内向け供給のうち製品輸入が 4 割近くを占めているのもインドネシア

の特徴である。今後国内の石油需要が増加を続けるにつれ、国内石油精製基地の増強と中東高

硫黄原油処理のための脱硫分解設備の拡充、物流体系の整備、高度な 2 次装置運転のための技

術教育などが石油下流分野での重要な検討課題となろう。

(5)石油製品価格と補助金政策

インドネシアの国内エネルギー最終消費に占める石油の割合は、2003 年の実績では 64%と

高く(一次エネルギー供給に占める比率では 46%)、国民の多くがエネルギー源として石油製

品を使用している。そのなかで、これまで長い間、インドネシア政府は低所得者層や僻地住民

保護の観点から補助金によって石油製品価格を国際市場価格より低いレベルに抑えてきた5。し

かし、補助金で石油製品価格を低く抑える政策は財政赤字を招くと同時に、石油消費の増加を

助長し、代替エネルギーなどの開発を遅らせることにもなり、IMF を筆頭にその撤廃を国際社

会から求められてきた。

表 2-3 石油製品価格(1998 ~2005)(単位:セント/リッター)

年月 価格タイプ ガソリン 家庭用

灯油 産業用 灯油

自動車用軽油

産業用 軽油

重油

1998-05 S-prc 12.0 3.5 6.0 5.0 3.5

2001-05 S-prc 11.2 3.4 5.8 5.4 3.9

M-prc50% 11.2 11.4 11.2 10.9 8.0

M-prc100% 19.2 22.7 22.4 21.7 16.1

2002-05 M-prc75% 18.8 15.1 15.0 14.9 12.0

M-prc100% 18.8 20.3 20.4 20.0 16.1

2003-05 Retail prc 21.1 21.0 19.2 19.2 18.4

Check-prc 23.1 22.5 24.3 23.7 18.4

2005-09 Retail prc 24.7 22.7 21.6 22.7 23.7

2005-10 Retail prc 46.4 20.6 63.9 44.3 56.7 36.1 注:S-prc: Subsidy price M-prc : Market price 出典:Petroleum Report Indonesia 2003 (米国大使館編集)、最新データは現地ヒアリングによる

2005 年にインドネシア政府が負担した石油製品への補助金は 89 億ドルであった。同年の

国家予算の赤字は全体で 30 億ドルほどだから、石油製品への補助金支出が無ければ国家財政は

59 億ドル(89 億ドル-30 億ドル)の黒字だったということになる。国際社会の圧力を背景に、

近年、インドネシア政府は補助金削減と石油製品価格の値上げを進めており(表 2-3)、2010 年

頃を目標に補助金の全廃を目指している。しかし、国際的な高油価時代を迎え、補助金削減政

策は低・中所得層に大きな影響を及ぼし、社会的にも舵取りの難しい課題となっている。そう

5従来よりインドネシア政府の財政赤字の原因は各種の補助金にあると指摘され、IMF は補助金カットを強く

要請してきた。近年、エネルギー関係の補助金は徐々にカットされてきている。

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IEEJ: August 2006

11

はいっても、今後大きな増産が期待できない石油を合理的に使っていくため、石油消費の合理

化や省石油・脱石油を図って行くことが重要な政策課題であることに変わりはない。これらの

施策を国際市場のスピードに立ち遅れないよう進めるためにも、国際市場レベルのエネルギー

価格を実現することは至上命令といえよう。

3. 石油を巡る課題

(1)石油埋蔵量

インドネシアの原油確認埋蔵量は 2005 年末時点で 43 億バーレルと推定され、これは世界

全体の 0.4%、アジア・太平洋地域の 10.7%に相当する。(表 3-1) インドネシアは石油、天

然ガス、石炭など豊富なエネルギー資源を有していると考えられてきたが、近年では、既発見

の石油埋蔵量は 10 年程度で枯渇するレベルで推移している。これは米国よりも低く、OPEC

諸国の中では際立って低い水準である。6 この数字はインドネシアの抱えるエネルギー問題の

一面を端的に物語っているといえよう。このままでは世界平均の 40.6 年に較べかなり速いペー

スで既発見資源が枯渇することとなる。

表 3-1 原油の確認埋蔵量

2005年末 億バーレル シェアー R/P 比

インドネシア 43(A) 100.0 % 10.4 アジア太平洋 402(B) 10.7%(A/B) 13.8

世界 12007(C) 0.4 %(A/C) 40.6

図 3-1 東南アジア諸国の石油と天然ガスの埋蔵量

図 3-1 のように、インドネシアの石油と天然ガスの埋蔵量は東南アジア諸国の中では最大

6 BP統計によれば、2005 年末の米国のR/P比は 11.8 年で、インドネシアはこれよりも低い。因みに、OP

EC諸国は 73.1 年、OECD諸国は 11.2 年、非OPEC諸国は 13.6 年である。

出典:BP統計

出典:BP統計

-

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

1990 1995 2000 2005

インドネシア

マレーシア

ベトナム

ブルネイ

タイ

10億バーレル

原油埋蔵量

0

20

40

60

80

100

120

1990 1995 2000 2005

インドネシア

マレーシア

ベトナム

ブルネイ

タイ

Tcf

天然ガス埋蔵量

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IEEJ: August 2006

12

である。しかし、近年では国土面積が約1/6のマレーシアとほぼ同じ水準にとどまり、原油で

はベトナムにも急追されている。これは、ごく普通に考えれば、インドネシアでの石油・ガス

の探鉱が相対的に進んでいないことの証左といえよう。7

インドネシアの石油確認埋蔵量は、古くからの油田地帯でデュリ(Duri)、ミナス(Minas)

などの大油田を抱える中部スマトラ(Sumatra)が全体の 40%を占めて最大で、この地域は現

在でもインドネシアで有数の石油生産地帯である。これにジャワ(Java)北西部、東カリマン

タン(Kalimantan)やナツナ(Natuna)近海などが続いている。このように既存の油田やガス

田の大半が西インドネシア地域に分布しているが、これらの地域は過去に相当量の探鉱が実施

された「成熟地域」である。ただ、これらの地域でも新たな探鉱コンセプトの導入により、最

近でもある程度の新規発見8があるし、原油価格の上昇によって既存油田のリハビリ・EORや

限界油田の生産移行が可能となるだろう。

出典: エネルギー鉱物資源省

図 3-2 代表的な石油探鉱地域

一方、最近では新たなプレイを求めて新規探鉱の対象地域が東部地域や大陸棚スロープ・

大水深海域に移りつつある。例えば、現在の確認埋蔵量がまだ 1.4 億バーレルほどのイリアン・

ジャヤでは第三紀層など新しい層準でのポテンシャルが見込まれることから、インドネシア政

7 この点についてプルタミナは「インドネシアの石油埋蔵量は2P(確認埋蔵量+推定埋蔵量)では90億バ

ーレルで R/P は 18 年、天然ガスは 188Tcf で同じく 62 年である」と指摘している。確かに、埋蔵量の絶対

量については色々な考え方があろうが、1P(確認埋蔵量)での比較では、残存可採年数(R/P)が他の

諸国に較べて低いことに変りはない。 8 たとえば、2001 年 2 月に東ジャワ陸上の Cepu 鉱区で発見された Banyu Urip 油田の埋蔵量は「原油 2.5~3.5

億バーレル+天然ガス 2.5Tcf」もしくは「原油 6 億バーレル+天然ガス 1.25Tcf」と見積もられている。

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IEEJ: August 2006

13

府は今後の探査結果に期待を寄せているようだ9。また、後述のように、色々なインセンティブ

を設けてこれらの地域での探鉱促進を図っている。

(2)石油ガス法の成立と石油事業の管理体制

長らくプルタミナの独占体制のもとにおかれて来たインドネシアの石油産業体制は、2001

年 11 月の新「石油ガス法」の成立により大きく変貌した。新体制の下では、上流部門の事業活

動方針は政府の直轄事項とされ、法律や各種規制に基づく事業活動全般の管理はエネルギー鉱

物資源省(MEMR)、これまでプルタミナが担当してきた上流部門事業の実行、管理および監査は

B.P.MIGAS10が担当する。

また、潤滑油類の販売をのぞいてプルタミナが独占してきた中下流市場も自由化され、新

規事業者はエネルギー鉱物資源省からライセンスを取得して参入できるようになった。すでに

シェルやマレーシアのペトロナスがガソリン・スタンドへの進出を始めている。中下流部門は

Regulatory Body「BPH MIGAS」が管理する。新法のもとでプルタミナは事業会社と位置づけら

れ、これら政府機関の管理監督の下で事業を行うこととなった。11

また、上流と下流の事業部門を同じ会社が保有することが禁止されたので、プルタミナは

これらの事業を管理する企画部門(SBU; Strategic Business Unit)を本体に残し、事業部門は

子会社化した。ただ、プルタミナが持ち株会社として事業全体を経営しているので、各分野の

プロフィット・センターがどこまで独自色をだせるのか、改革の効果を見極めるには少し時間

が必要であろう。

(3)石油開発政策

2003 年、メガワティ政権は石油・天然ガスの探鉱・開発促進のために生産分与契約(PSC)

の条件緩和を実施した。この改訂では生産分与契約における利益原油(Profit Oil)・利益ガス

(Profit Gas)配分比率の改善やインセンティブ対象鉱区の拡大などが図られた。原油については

利益配分比率を大幅に引き上げるとともに、従来、生産量や貯留層層準によっていたインセン

ティブ・ケースに地域特性も盛り込むこととした。また、天然ガスでは従来どおりフロンティ

アや大水深鉱区がインセンティブの対象とされるとともに、通常鉱区であってもケースによっ

9 スマトラ、ジャワ、カリマンタンなどで生産中のインドネシアの主力油田は比較的若い地層である漸新世の

砂岩や石灰岩が中心である。インドネシアで第三紀層からはじめて相当量の炭化水素が発見されたのはイリ

アン・ジャヤのベラウ鉱区で、1989 年の試掘で油ガス徴が確認され、その後の試掘でフォルワタなどの大

ガス田が発見されて、現在、タングーLNG プロジェクトを建設中である。しかしながら、インドネシア全

体で見れば、第三紀層を対象とした探鉱はそれほど進んでいるわけではない。また、世界的に石油探鉱の新

分野として注目を集めている大水深地域での探鉱もインドネシアではさして進展していない。ボルネオ島西

側のマレーシア/ブルネイ海域では大水深での大規模発見が伝えられており、今後はインドネシアにおいて

も第三紀層や大水深海域を対象とした探鉱が進むものと期待される。 10 B.P.MIGAS は石油会社(PSC などの Contractor)が実行する探鉱・開発・生産事業を国の立場から管理、監督

する(作業計画と予算、支出計画、調達計画などの承認や事後の監査を行う)機関で、定訳はないが、「石

油天然ガス事業監督庁」のような官庁である。 11 とはいえ、プルタミナは政府から鉱業権を得た鉱区をOCA(Operation Cooperation Agreement:パートナー

が費用とリスクを負担する契約)によって石油会社に開放しようとしている。2006 年末までに 9 つの油ガ

ス田の開発・生産と 6 つの探鉱鉱区を対外開放する予定である。これはプルタミナが資金不足に陥っている

せいでもあるが、インドネシアの石油開発制度の複雑さは簡単には解消されそうにない。

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IEEJ: August 2006

14

てはインセンティブ・ケースなみの利益配分が適用されることとなった。12 なお、ガスの場

合、2001 年以前のPSCでは国内供給義務(DMO; Domestic Marketing Obligation)は課されなか

ったが、新PSCでは国内ガス需要の増加を反映し国内供給義務が課されることとなった。

表 3-2 生産分与契約における石油会社の利益配分比率(税引き後) 原油 天然ガス

2002 年まで 2003 年以降 2002 年まで 2003 年以降

通常ケース 10% 20% 35% 35~40%

インセンティブ・ケース 20% 35% 40% 40%

注:1.たとえば原油のケースでは、利益原油は政府 37.5%:石油会社(Contractor)67.5%に配分され、所得税

(44%)控除後の石油会社のネット取り分は 35%である。石油会社の実際の収益配分率は、石油会社

に 100%配分されるコスト回収原油比率やDMO(国内販売義務)の一時免除、Contractor Investment Credit(インセンティブ・ファクター)の配分比率などを含めて総合的に決定される。

2.2005 年PSCでは、大水深やフロンティア鉱区などで石油では最大 35%、ガスでは 55%を石油会社

の取り分とする契約が締結されたとのことである。 出典:「インドネシアの上流石油政策と今後」(石油技術協会資源経済委員会資料)など

このようなPSC条件の改善にもかかわらず、インドネシアでは石油探鉱が順調に進んで

いるとはいえない。それは、エネルギー鉱物資源省(MEMR)、石油天然ガス監督庁(BP-MIGAS)、

プルタミナなど石油政策を担当する機関や企業間の不協和音、協力体制の欠如、スハルト体制

崩壊にともなう権力闘争などのためと云われている。13 最近インドネシアでは国内石油企業

の活動が活発化し注目を集めているが、石油探鉱の対象はより難しい地層や大水深海域などに

移りつつあり、高度の技術や大規模投資の必要度は増している。これらの要求に応えうる外資

を効果的に導入することが、長期的に石油・天然ガスを確保してゆく上で重要な政策であろう。

ここで注意しておかねばならないのは、フロンティアや大水深での探鉱は、一定の成果を挙げ

るまでに、さらにはその後の生産移行においても、かなりの時間がかかるということである。14

また、所用資金も巨額である。したがって、石油会社の側でも腰の据わった取組みが必要で、

そのような長いリードタイムを見込んだ「中長期的なロードマップ」に基づいて石油開発政策

の展開を図ることが必要とされる。

エネルギー鉱物資源省石油ガス総局によると、2009 年には東部地区や大水深海域での開発

により、石油生産は現在の 110 万バーレル/日から 130 万バーレル/日にまで回復する見通しと

されている。しかしながら、現在までのところ、そのきっかけとなる探鉱活動活性化の兆候や

新規大発見のニュースはあまり見当たらない。むしろ既発見鉱区の期間延長問題などでのトラ

12 2004 年に就任したユドヨノ大統領も当初1年はこの様な合理化路線を踏襲していたが、最近のエネルギー 価格の上昇が社会に動揺をもたらしており、その影響で政治の流れはやや不鮮明になっている。また、「エ ネルギーは国民のために!外資は不要!」などの論調も起きている。しかし、原油・天然ガスの価格が従来

より大幅に上昇したという事情については再考しなければならないが、状況の改善には供給サイドでの探 鉱・開発の強化やエネルギー使用の合理化が何よりも重要であり、国民の人気取りが先行するだけの議論の 蔓延には注意が必要である。

13 かつてインドネシアの石油天然ガス関係部局は、政界を絡め、癒着と汚職の温床と云われた。その一方で、

政治の民主化により徹底的なクリーン化が進められる過程で、テクノクラートが離散したり責任回避が横行

したりして担当部局の機能が麻痺したことが、今日の石油産業不振の原因といわれている。 14 最近では世界的な掘削リグや作業クルーの不足で、試掘を行うにも何年か待たなければならない状況が現

出しており、この傾向には拍車がかかっている。

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IEEJ: August 2006

15

ブルが目立っている。このような現状を打破するためにも、国民の信頼と国際的な支持を得ら

れるような一貫性のある石油政策の確立、明確でクリーンな行政執行体制の構築が求められて

いるといえよう。

4. 天然ガスを巡る課題

(1)天然ガスの生産と消費

インドネシアの天然ガスの確認埋蔵量は 2005 年末時点で 97.4Tcf と見積もられ、これは世

界全体の 1.5%、アジア・太平洋地域全体の 18.6%に相当する(表4-1)。R/P 比は 36 年で、現

状のペースで今後 40 年程度の生産は可能との見通しである。天然ガス生産量は、1999 年の生

産レベルの 2.5Tcf から 7%増の 2.7Tcf にまで増えている(図4-1)。ただし、天然ガス資源につ

いてはCO2含有量が70%以上のナツナ D-α・ガス田(埋蔵量46Tcf)をどう扱うかなど、

埋蔵量の推計値だけでは判断できない問題も内在している。

表4-1 天然ガスの確認埋蔵量

2005年末 確認埋蔵量 兆立方

メートル TCF シェアー R/P比

インドネシア 2.76 97.4(A) 100% 36.1 アジア太平洋 14.84 523.7(B) 18.6 %(A/B) 41.2

世界 179.83 6348.1(C) 1.5 %(A/C) 65.1

図 4-1 インドネシアの天然ガス埋蔵量分布とパイプライン計画

出典:BP統計

出典:エネルギー鉱物資源省

Grissik Palembang

Semarang

Pacific Ocean

AUSTRALIA

Indian Ocean

Phnom Penh

Ban Mabtapud

Ho Chi Minh City

CAMBODIA

VIETNAM

Khanon

Song khl a

Erawan

Bang kot

LawitJerneh

WESTMALAYSIA

Penang

Kerteh

Kuala Lumpur

Philipines

South

China

Sea

Sing

apor

e G

as

Trun

kline

Natuna Alpha

Kota Kinibal uBRUNEI

Bandara Seri Begawan

BintuluEAST

MALAYSIA

Kuching

Banda Aceh

Lhokseumawe

Medan

Duri

Padang

S U M A T R A Jambi

BintanSINGAPORE

Samarinda

Balikpapan

Bontang LNG Plant& Export Terminal Attaka

TunuBekapai

KALIMANTAN

Banj armasi n

Manado

SULAWESI

UjungPandang

BURU SERAM

Ternate HALMAHERA

Sorong

IRIAN JAYA

JakartaJ A V A Surabaya

Bangkalan

BALI SUMBAWA

Pagerungan

LOMBOK

Cirebon

FLORES

SUMBATIMOR

I N D O N E S I A

DuyongWest Natuna

Port DicksonPort Klang

Mogpu

Dumai

Batam

Guntong

52,081

3,896

728

3,220

14,260

5,190

31,814

3,654

14,782

0,11

3,00Resources

ArdjunaFields

MADURA4,289

既存パイプライン

パイプライン計画

Jayapura

Merauke

下記の埋蔵量は2P(確認埋蔵量+予想埋蔵量)数字は10Bcf。総合計は134.0Tcf

Grissik Palembang

Semarang

Pacific Ocean

AUSTRALIA

Indian Ocean

Phnom Penh

Ban Mabtapud

Ho Chi Minh City

CAMBODIA

VIETNAM

Khanon

Song khl a

Erawan

Bang kot

LawitJerneh

WESTMALAYSIA

Penang

Kerteh

Kuala Lumpur

Philipines

South

China

Sea

Sing

apor

e G

as

Trun

kline

Natuna Alpha

Kota Kinibal uBRUNEI

Bandara Seri Begawan

BintuluEAST

MALAYSIA

Kuching

Banda Aceh

Lhokseumawe

Medan

Duri

Padang

S U M A T R A Jambi

BintanSINGAPORE

Samarinda

Balikpapan

Bontang LNG Plant& Export Terminal Attaka

TunuBekapai

KALIMANTAN

Banj armasi n

Manado

SULAWESI

UjungPandang

BURU SERAM

Ternate HALMAHERA

Sorong

IRIAN JAYA

JakartaJ A V A Surabaya

Bangkalan

BALI SUMBAWA

Pagerungan

LOMBOK

Cirebon

FLORES

SUMBATIMOR

I N D O N E S I A

DuyongWest Natuna

Port DicksonPort Klang

Mogpu

Dumai

Batam

Guntong

52,081

3,896

728

3,220

14,260

5,190

31,814

3,654

14,782

0,11

3,00Resources

ArdjunaFields

MADURA4,289

既存パイプライン

パイプライン計画

Jayapura

Merauke

下記の埋蔵量は2P(確認埋蔵量+予想埋蔵量)数字は10Bcf。総合計は134.0Tcf

Natuna Dα

を含む

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IEEJ: August 2006

16

表 4‐2 インドネシアの主要天然ガス田とLNG基地

主要なガス田 Sumatra: Arun, Alur Siwah, Kuala Langsa, Musi, South Lho Sukon, Wampu East Kalimantan: Attaka, Badak, Bekapai, Handil, Mutiara, Nilam, Semberah, Tunu Natuna Sea: Natuna Java: Pagerungan, Terang/Sirasun Papua: Tangguh

LNG 基地 Aceh:Arun,15 Kalimantan: Bontang16 Papua: Tangguh

出典:PERTAMINA

天然ガスの生産と国内消費は近年順調に増加している。インドネシアにおける天然ガスの

利用は 1977 年に始まったLNG輸出を機に花開き、LNGの生産は 1990 年代には世界最大の

年産 26 百万トンレベルに到達した。一方、国内での本格的な天然ガス利用は西ジャワ沖海上油

田の随伴ガスの有効利用を目的にジャカルタ近郊で始まったが、現在では産業用と発電用を中

心に、国内一次エネルギー消費の 30.5%を占めるまでに増加している。天然ガスの国内需要は

産業用、民生用などを中心に今後も増加を続けると見込まれ、その安定確保が政治的な課題に

もなっている。このため、図 4-1 に示すように、スマトラやカリマンタンなどの遠隔地からパ

イプラインやLNGにより需要の中心地のジャワまで天然ガスを輸送する計画が進み始めてい

る。(パイプライン計画については次項参照)

図 4-2 天然ガスの生産と消費の推移

一方、LNGの生産と輸出は、2000 年以降、北スマトラ・アチェ州での政情不安とガス田

15アルン・ガスの生産減退は予想以上に厳しく、このためアセアン肥料工場の生産が落ちている。今後の探鉱

で天然ガスが発見されても、肥料用が優先され、アルンLNGは現行計画に沿って終了するものと思われる。 16資源量的には、従来の主力地域である浅海のポテンシャルは望み薄で、プルタミナや Total の鉱区での増産

は難しいといわれている。一方、シェブロン(旧ユノカル)は大水深海域で天然ガスを発見しているが、

投資環境の整備が遅れ、開発着手の見込みはまだ不透明である。

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

生産

消費

10億 CFD

出典:BP統計

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17

の生産減退でアルンLNGの生産が減少に向かっていること、ボンタンLNGの増強が一段落

したことなどで、ほぼ横ばいで推移している。今後は 2008 年にイリアン・ジャヤのタングー

(Tangguh)プロジェクトが生産を開始し、LNG生産量は20%程度増加する見通しである。

出典:BP統計。LNG については BP 統計の取引量より推定

図 4-3 インドネシアの天然ガスと LNG の生産量

このようにインドネシアの天然ガス需要は、今後、国内向け、輸出向けともに増加を続け

ると予想されることから、新規ガス田の探鉱・開発に期待が寄せられている。ただし、フロン

ティア地域や大水深での探鉱、LNG などの大型プロジェクト推進には大規模な資金と技術の投

入が必要で、その促進策として前述のようなPSC条件の見直しなどが実施されてきた。しか

しながら、新規の探鉱対象地域でそれなりの量の天然ガスを発見するきっかけを掴むまでには

相当額のリスク投資とある程度の年月が必要である。また、天然ガス・プロジェクトは、埋蔵

量が発見されても、開発を軌道に乗せるには安定的な需要家の確保やインフラ整備などの課題

が待ち構えている。一方で、国内需要も増加トレンドにあることから、開発分野や販売先につ

いて国内企業優先論や低価格での国内供給義務などが話題に上がり、外資進出の阻害要因とな

っている。投資推進のためにはこれらの議論を整理し、適切なインセンティブやガス価格決定

メカニズムを明確にすることが必要である17。

(2) 国内天然ガスパイプライン計画

インドネシア国内での天然ガスの利用に関しては、西ジャワ近郊のガス田の減退や長距離

パイプラインの未整備から、ジャカルタ近郊ではガス不足状態に陥っている。天然ガス公社

(Perusahaan Gas Negara:PGN)によれば、ジャカルタ近郊だけでも約 600 工場に天然ガスを

販売しているが、2006 年 2 月現在、さらに追加の需要家の申し込みがあるといわれている。そ

のため PGN では 5 本の幹線パイプライン・プロジェクト(South Sumatra-West Java、Duri-Dumai

17最近では民主化進展のなかで外資不要論などが出ているが、国内では技術も資金も不足しているのが現状で

あろう。とくに、プルタミナなどの政府機関はインドネシア債権国会議の規制を受け、大型プロジェクトに 直接乗り出せない。このことは政府主導型エネルギー・プロジェクト推進の大きな足かせとなっている。

2.1

2.2

2.3

2.4

2.5

2.6

2.7

2.8

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

Tcf

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

1000 ton

天然ガス生産量 LNG生産量

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18

―Medan、East Kalimantan - Java、East Java‐West Java)を計画・実施中である。そのうち主要 3

件のプロジェクトの概要は以下の通りである。

①South Sumatra-West Java パイプライン(SSWJ)計画

南スマトラのガス田から需要地の西ジャワへ至るパイプライン計画で、フェーズ 1 とフェー

ズ 2 の建設を平行して進める。わが国からの円借款により既にフェーズ 1 の公示が始まって

いる。フェーズ 1 では、Pagardewa のプルタミナのガス田から Banten 州 Cilegon までの約

450km のパイプラインを敷設する。当初能力は 250 MMCfd だが、将来はコンプレッサーを増

設して 600MMCfd まで送ガス能力を拡張できる。建設コストは 4.24 億ドルと見積もられて

いる。フェーズ 2は、Grissik から Pagardewa までの 196km、Pagardewa から Labuhan Maringgai

までの 195km(この区間はフェーズ 1 と平行して敷設)、Labuhan Maringgai から西 Java の

Muara Bekasi および Rawamaju までの合計 661km のパイプライン敷設計画で、建設コストは

5.42 億ドルと見積もられている。

②Duri-Dumai-Medan パイプライン(DDM)計画

DDM パイプラインは、既存の Grissik-Duri パイプラインを延伸し、合わせて北 Sumatra での

ガス配送網の整備を行うものである。当初能力は 250MMCfd で、建設コストはコンプレッサ

ーなどを含めて 5.74 億ドルと見積もられている。

③East Kalimantan-to-Java パイプライン計画

East Kalimantan-to-Java パイプラインは、Kuala Badak-Balilpapan(100km:陸上)、

Balilpapan -Banjarmasin(519km:陸上)、Banjarmasin-Semarang(600km:海底)を繋ぐ総

延長約 1,200km のパイプライン敷設計画である。当初能力は、700~1,000MMCfd で、建設コ

ストはコンプレッサーなどを含めて 12.2 億ドルと見積もられている。

表 4-3 インドネシアの国内天然ガスパイプライン計画

幹線パイプライン (Transmission)

South Sumatra ---West Java Phase 1: 445km, 250-550MMCfd, 2006 年運転開始 South Sumatra ---West Java Phase 2: 649km, 400-600MMCfd, 2007 年運転開始 Duri---Medan: 521km, 250-350MMCfd, 2008 年運転開始 East Kalimantan ---Central Java: 619km, 700-1100MMCfd, 2011 年運転開始 East Java – West Java: 700km, 500-700MMCfd, 2011 年運転開始

ガス配送網 (Distribution)

Bontan: 120km, 125MMCfd, 2004 年運転開始 Batam: 155km, 300MMCfd, 2009 年運転開始 Pekanbaru: 253km, 50MMCfd, 2009 年運転開始 Jambi: 44km,50MMCfd, 2009 年運転開始 Lampung: 180km,100MMCfd, 2011 年運転開始 Banten/West Java: 660km, 100MMCfd, 2009 年運転開始 Semarang Central Java: 200km,150MMCfd, 2013 年運転開始

出典:インドネシア国営ガス公社(PGN)

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19

また、地域ガス供給網の整備では、6 件のプロジェクト(Batam、Pekanbaru、Jambi、Lampung、

Banten/West Java、Semarang Central Java)が実施されている。インドネシアにとっては、早急に

完成させたいプロジェクトである。

(出所)BP MIGAS ホームページの資料をもとに作成

図 4-3 幹線ガスパイプライン計画

ガス公社(PGN)の株式は政府が61%、民間が 39%を保有し、その運営は事業利益追求

や株主優先といった経営合理主義的方針をとっている。また、天然ガスの託送も引き受けてい

るが、プルタミナが PGN のパイプラインで大口消費者へ託送する場合、ガス田から遠い地域で

は託送料金が上積みされ、ガス料金も割高になるシステムになっている。昨年から今年始めに

かけてのプルタミナと PGN との交渉では両者の提示価格に大きな開きがあり18、2006 年 3 月時

点ではまだ契約締結に至っていない。PGN は高い料金を提示する民間会社19を優先していると

も言われている。また、PGN はパイプラインを自ら運用するとともに地域ガス供給も行ってお

り、他のガスサプライヤーと比べると市場支配力が強い。このため、公共性の高い電力事業な

どへの供給については法的あるいは自主的な配慮が必要と思われる。

5.石油ガス政策の課題と対策

(1)インドネシアのエネルギー政策の評価

2004 年 3 月に発表されたインドネシアの新「国家エネルギー計画(National Energy Plan)」

は、同国経済の安定と発展の基本ともなるべきエネルギー安全保障の確立を目標とし、

① 国内エネルギー供給の保証、

② 国内エネルギー資源の付加価値向上、

18 PLN 提示価格は$3-4/MMBtu であるが、PGN は応じられないとしている。 19 PGN の話では 2006 年3月時点で、$8/MMBtu を提示する民間企業もあるという。

South Sumatra-West Java

Duri-Dumai-Medan

East Kalimantan-to-Java

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IEEJ: August 2006

20

③ 環境保護と持続可能なエネルギー管理、

④ 貧困層や後進地域の手の届くエネルギー供給の実現、

⑤ 自立に向けた資金・技術・人材などの国内能力の開発

をそのミッションとしている。このミッションを実行するための政策として、供給サイドでは

エネルギー供給能力の向上、エネルギー生産の最適化、省エネルギー、消費サイドではエネル

ギー利用の効率化、エネルギー資源の多角化を図るものとし、同時に環境問題や貧困層への配

慮を行うとしている。さらに、これを補強する政策として、消費者のアクセスを便利にするエ

ネルギー・インフラの拡充、政府と産業界の連携、国民の能力向上、研究開発と能力開発の振

興、政府の調整機能の強化などがあげられている。また、具体的戦略としては次の事項をあげ

ている。

① エネルギー部門の市場経済化

② 環境に配慮したエネルギー安全保障の強化

③ エネルギー部門への Rule of Good Governance and Transparency の導入

④ エネルギー開発のための民間(海外)投資の促進

⑤ エネルギー管理における国民の能力向上

さらに 2025 年に達成すべき具体的な目標として、次のような数値があげられている。

① 一人当たり最低エネルギー消費を年間石油換算 1 万バーレル(1.3 トン)とする

② 2025 年のエネルギー弾性値を 1 以下にする

③ 電化率を 95%に引き上げる

④ エネルギー・ミックスでは石油の比率を大幅に引き下げる

⑤ 化石燃料の輸出を段階的に引き下げ、国内供給に振り向ける

表 5-1 国家エネルギー計画における 2025 年のエネルギー構成

2003 年 2025 年 実績 BAUケース 最適シナリオ

石油

54.4

41.7

% 26.2

天然ガス 26.5 20.6 30.6 石炭 14.1 34.6 32.7 水力 3.4 1.9 2.4 地熱 1.4 1.1 3.8 その他再生可能エネなど 0.2 0.1 4.4 注:最適シナリオの 2025 年のその他には原子力(1.993%)を含む。 出典:エネルギー鉱物資源省

2005 年に入ると、国家エネルギー計画の実行プランとして「Detail Blueprint」が作成され

た。この新「国家エネルギー政策」およびブループリントには多くの具体的方策が盛り込まれ

ており、そのうち石油と天然ガスに関係する事項を表 5-2 に整理した。本計画では、前述のよ

うな課題を認識し、エネルギー安全保障の確保とエネルギー消費の合理化、効率化に向けてさ

まざまな対策が検討されている。しかし、色々なプランが網羅的に羅列されてはいても、実行

可能性や優先順位を考慮した政策整理が出来ているとはいえないのが実情であろう。関係省庁

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21

や関係企業などでのインタビューから得た印象でも、「新政策」はまだ関係者の間で十分な認知

を得ていないように感じられた。さらに、電力の発送電分離・民営化に対する違憲審査委員会

の違憲判決にみられるように、エネルギーに関係する公益事業のありかたについて国内の議論

がある程度収斂するまでには少し時間がかかりそうである。

今後は、この国家エネルギー政策に基づいて各分野での実行プログラムが検討されること

になる。そこでは、国民経済的視点から見た優先順位と実行に必要な資金や時間などを考慮し

た実行計画としての「Energy Master Plan」と「Roadmap」を策定すること、政策実行にあたる

諸官庁の機能と責任を整理し、明確にすることが必要とされよう。このような点について国民

的な合意と認知を早期に確立し、新エネルギー政策が一日も早く実行に移されることを期待し

たい。

表 5-2 国家エネルギー政策における石油・天然ガスに関する事項

項目

内容

目標

・経済の効率的運用に向けて市場経済化をリードするビジネスの役割の増進 ・輸出向けエネルギー開発、国内消費者向けエネルギー利用基盤の増強 ・国内外で戦略的パートナーシップを強化 ・外国依存の低減とローカルコンテントの増強

戦略 ・国内/輸出間の価格差是正

・エネルギーマスタープラン策定の支援

・生産者から消費者までの市場メカニズム導入

・大規模開発における民間と政府の役割分担

・民間によるエネルギー開発への支援

・技術開発・人材育成の推進

・エネルギー関係者の協調体制の確立

・エネルギー関連部門における経営管理能力の育成

行動計画 石油

・一次エネルギーの埋蔵量・生産量増強

・二次、三次回収拡大による石油の増産

・生産分与契約の調整やインセンティブ付与による限界石油鉱区の開発促進

・石油埋蔵量の可能な限りの維持

行動計画 ガス

・エネルギー供給確保のための国内・海外ガス資源へのアクセスの強化

・インセンティブ付与によるガスの埋蔵量・生産量の増強

・LNG 基地、CNG 輸送設備、ガス配送網の建設によるガス供給量の増加

・小規模 LNG、液化技術などの新分野における研究・技術開発

・ガス供給システム建設に見合う経済価値を実現するガス価格の適用

・国内企業による国内市場への供給義務

・ガスの国内供給優先順位(肥料用、発電用、国営ガス会社、工業用)の最適化。

・小規模 LNG/LPG によるフレアーガスの最適利用

行動計画 石油製品

・国内需要を充足する石油精製能力の増強

・市場メカニズムによる石油製品価格の決定

・下流分野における発電機能の増強と透明な競争の実現

・生産部門と物流部門での市場メカニズムによる取引

行動計画 ガ ス パ イ プ

ライン

・国内ガス輸送システム確立のためパイプライン建設の継続

・LNG 基地、CNG 輸送設備、ガス配送網の建設によるガス供給量の増加

・パイプラインが建設できない地域には CNG で対応

・経済原則に沿ってパイプラインによるガス輸送・託送料金を決定

・LNG と LNG 受け入れ基地をジャワのガス需要の高い地域に建設

・ASEAN ガスパイプライン計画の推進

行動計画 天 然 ガ ス ・

・天然ガスが供給できない地域での LPG 供給の増強

・政府は LPG の品質管理体制を確立

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22

項目

内容

LPG

・LPG、DME、GTL 製品等の推進

・輸送部門での石油消費の抑制と LPG、ガスの利用促進

・製品ガスの規格を整備し、ガス、LPG 取引の競争を加速

行動計画 電気・電化

・パイプラインネットワークによる天然ガス・LPG 利用の発電所の増強

・再生可能エネルギーによる発電の増強、発電燃料の多様化と石油消費の削減。

・低品位炭を利用した山元発電の増強

・遠隔地での発電電力の近隣諸国への輸出

・小規模ガス発電機器の開発

・コージェネレーション、燃料電池などの新しい発電技術利用の開発

・環境保護を目的とした発電オペレーション手法の確立

行動計画 民 生 商 業 部

・天然ガスと石炭の利用促進

・石炭やブリケットを輸送する道路や貯蔵所の建設

・省エネタイプの機器の推奨

・省エネ機器情報の消費者への伝達

・ 天然ガス消費への転換推進のための輸送技術や小規模貯蔵施設などの開発

行動計画 工業部門

・自家発電から電気事業者から買電への切り替え促進

・ガス利用工場への支援

・石油代替を目的とするガス利用の研究、開拓、促進

・コージェネレーションタイプの発電装置の利用促進

・無電化地域でのローカルエネルギーの利用促進

・茶製造、ゴム工場、温室農園などの小規模工場でのブリケットの利用

行動計画 運輸部門

・CNG、LPG を利用した陸上交通システムの促進

・LNG、DME、ガス・ハイドレートなどの石油代替エネルギーの利用促進

・バイオディーゼル燃料の開発。

・都市での公共交通機関用に電気自動車システムを開発

・自動車の燃費基準の設定

出典: インドネシア共和国新「国家エネルギー政策」より抜粋

(2) 石油部門の課題と取組み

インドネシアにおける原油生産減少の原因は、既存油田の枯渇と新規油田開発の停滞であ

る。原油価格の高騰により、新規の探鉱や既存油田のリハビリに期待がかかるが、大規模な探

鉱・開発投資が進む兆候がみえない。現状を打開するには一段の投資環境の整備が必要である。

そのためには、総合エネルギー計画(Energy Master Plan)に基づく中長期エネルギー政策の確

立、一部違憲判決の出ている石油ガス法の扱いの早期決着、上流部門における PSC 条件・優遇

税制等の投資枠組みの総合的再検討、行政運営の合理化、明確化などが検討対象として上げら

れよう。

従来よりインドネシアの PSC は世界の石油開発契約のなかでも極めて厳しい(石油会社に

とって不利な)条件を課しているといわれてきた。ここ数年PSC条件が緩和され、原油価格

が大幅に上昇したことによって石油開発の経済性が大きく改善動したことは事実だが、資機材

や技術サービスの値上がりにより、石油探鉱に必要なリスクマネーの額も巨大化している。こ

れらの点を総合的に勘案して適切な条件を設定することに加え、国内需要の増加により国内向

け供給確保の声が今後さらに高まると予想されるが、外資が安心して投資できるような環境を

保証することも探鉱投資促進には必要であろう。

インドネシアでは民主化の進行とともに石油行政のクリーン化が大幅に進んだといわれて

いるが、石油上流行政にかかわる 2002 年以降の機構改革について、石油企業からは「従来はプ

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23

ルタミナに説明すれば済んだことが、今ではプルタミナ, BP MIGAS、エネルギー鉱物資源省

のそれぞれに同じことを説明しなければならない」といった不満も出ている。このような非効

率な業務を改善するためにも、監督官庁の業務内容を再整理する必要があるだろう。

下流部門では大量の石油製品輸入が行われていることも検討すべき事項である。今後、国

内の精製能力をどのように整備・拡充するかについて、周辺諸国を含めた石油製品別需要動向

を的確に把握しつつ、必要に応じ新規製油所の建設も検討する必要があろう。

国際石油価格が高騰するなか、政府は段階的に石油価格を引き上げ、2010 年頃をめどに補

助金を解消する方針である。この政策による低所得者層の生計への打撃は大きいが、エネルギ

ー使用の合理化を図るためには、エネルギー問題とは一線を画した低所得者支援の枠組みを構

築するなど、最終的な補助金廃止に向けたプログラムを明確に設定し、国民的な合意を形成す

ることが必要であろう。

■ 石油関連プロジェクト

石油の開発・生産・販売あるいは省石油・脱石油などの分野で最近計画されているプロジ

ェクトは表 5-3 の通りである。その内容は①石油探鉱・開発事業、②中国・日本などからの資

源開発投資の誘致、③製油所建設、④地熱発電などの非石油系発電計画、⑤合成軽油、エタノ

ール、バイオ燃料などへの投資計画などである。

表 5-3 石油関連プロジェクト

プロジェクト分類

プロジェクト 内 容 時 期

油田開発 政府は、原油生産回復のため、東 Java の Cepu 鉱区の原油開発をはじめとする 6 箇所の鉱区の開発に乗り出した。これにより 2009 年にインドネシアの石油生産は100 万バーレル/日から 130 万バーレル/日に増加する。

2005 年後半

ガソリン販売自由化 2005 年 11 月より国内のガソリン販売が自由化され、内外企業 100 社が参入の見込み。シェル、Exxon Mobil, BP などの外国企業以外にも Elnusa など国内企業 9 社の進出が見込まれている。

2005 年後半

中央スラウェシから原油出荷 Medco Energi International は 2006 年 1 月 14 日から中央スラウェシの Tiaka 油田より原油の出荷を開始した。原油は 1 万トン級タンカーで南スマトラのプルタミナの製油所に送られる。

2006 年 1 月

Chevron の地熱発電計画 Chevron は、110MW の地熱発電を西 Java の Garut で実施する計画(Dradjat 3 project)。2006 年半ばから発電を開始し、電気は PLN に販売する。

2006 年央

自家発電から公共の石炭火力への切り替え

三菱マテリアルでは、ガス火力発電からの電力購入を停止し、2006 年からは PLN の石炭火力からの電力を購入することにした。これにより、原油価格の高騰で生じた電気代の高騰が 30%ほど削減される。

2006 年

製油所建設 プルタミナと Sinopec は東ジャワ州 Tuban での製油所建設を協議。能力 20 万バーレル/日、投資額 10 億ドル。

2007 年完成

石油備蓄基地建設 Oiltanking は、Banten の Cilegon に石油備蓄基地を建設の予定。能力は 30 万トン。他の企業も同様な石油備蓄基地の建設を希望している。

2007 年 操業開始

エタノール生産 Medco Energi International は南スマトラの Lampung 県に エ タ ノ ー ル プ ラ ン ト を 建 設 の 予 定 。 金 額 は$34.1milion、能力は 6 万 kl、原料はキャッサバで、2006年の後半に建設開始。

2007 年 操業開始

石炭を原料とした合成軽油製 プルタミナとカナダ石油化学会社(アクセロン)。投資 2008 年

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24

プロジェクト分類

プロジェクト 内 容 時 期

造工場 額 60 億ドル、能力 2,800 万バーレル/年、低品位炭からトラック用の軽油製造。

操業開始

11 社がバイオ燃料のライセンスを受ける

各社は 5,000kl~15,000kl のバイオディーゼル、エタノールを生産する。Lampung 県では、キャッサバや砂糖キビからのエタノールやガソリン混入用ヤシ油を生産する。

日本商社が資源開発に投資 伊藤忠商事は、石炭開発、製油所建設や地熱発電所建設に投資の予定。$2.7bil、期間 2005 年から 2010 年。三菱商事、三井物産、住友商事なども同様の投資を検討中の模様。

出典: Jakarta Post および日経産業新聞等による

これらのプロジェクトは最近の国際エネルギー情勢、地球環境問題などを背景に出てきた

もので、①CDM による再生可能エネルギーの活用、②原油価格高騰下での原油代替製品の開

発、③国内石油製品価格の引き上げを踏まえた石油製品供給能力の増強、④エネルギー消費国

からの資源開発投資、などに分類される。また、石油産業の自由化が進みつつあるなか、上流、

ガソリン・スタンド、潤滑油販売などの分野でペトロナス、シェル、Sinopec などの外資の進出

が始まっており、インドネシアの新しいエネルギー政策が動き始めたことを示している。

(3) 天然ガス部門の課題と取組み

天然ガスは省石油・脱石油の柱として活用が期待されているが、最大需要地であるジャカ

ルタ周辺のガス田(西ジャワ海上)が枯渇に向かい、短期的には供給不足に陥っている。遠隔

地のスマトラやカリマンタンなどからの幹線パイプラインが未整備で、現在、その整備や LNG

受入基地の建設が急がれている。

国内市場は旺盛な需要を反映して売手市場の様相を呈し、ガス価格は国際市場価格を反映

した高いものになっている。ガスパイプラインによる配送業務はガス公社(PGN)が独占的に実

施していて、PGN は収益を強く意識した経営をしている。ただ、輸送部門が余り大きな権限を

持つと市場の開拓や上流部門の探鉱、開発意欲にマイナスの影響を与えるおそれもある。将来

は託送ルールの公平化、幹線パイプライン分野での利益率制限やガスの末端販売業務との棲み

分け(Unbundling)などを検討する必要があろう。

LNG 輸出はインドネシアにとって重要な外貨獲得手段であるが、国内のエネルギー供給不

足のため、今後は国内向けを優先すべしとの声があちこちで上がり始めている20。たとえば、

東 Kalimantan-Java ガスパイプライン・プロジェクトが実現した場合には、ボンタンLNG向

けの原料ガスを削減すべしとの議論も出ている。そのため、パイプライン・プロジェクトの実

20 ボンタンLNGを国内向けに振り向けるという議論が出ているが、最近の石油製品価格の上昇に対するデ

モ騒ぎの矛先を変えるために出てきた議論と見る向きもある。ただ、経済成長によってインドネシアの産業

部門や民生部門は天然ガスなどの高価な商業エネルギーを利用できる実力を確実につけてきている。したが

って、インドネシアのLNG輸出の先行きについては、天然ガス探鉱の進展と国内市場の展開の両面を注意

深くウオッチしていくことが必要であろう。筆者のインタビューで、プルタミナの関係者は「日本勢がイン

ドネシアでの探鉱活動を強化して更なる天然ガスの発見をもたらし、かつての日イLNG黄金時代が再来す

るのを望んでいる」と語っていた。

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施について BP-MIGAS は政府に再検討を求めた。しかし、2006 年 2 月、ユドヨノ大統領が国内

消費を優先する新大統領令を発出したため、2010 年までに現行契約の満了が予定されているプ

ルタミナと日本の既存LNG契約の更改交渉は暗礁に乗り上げている。インドネシア側は国内

エネルギー動向を考慮しつつ再契約交渉に応じるとしているが、買い手側としては明確なエネ

ルギー政策に裏打ちされた安定供給保証がなければ、なかなか安心は出来ない話である。問題

解決の一番の切り札は、既に新発見がみられた大水深海域などでの探鉱活動を活発化し、埋蔵

量を積み増すことであろう。その意味でも、新国家エネルギー政策による探鉱・開発の促進が

プラスの方向に歯車を回転させ始めることに期待したい。

■ 天然ガス関連プロジェクト

天然ガス田の開発、パイプラインや LNG プラントの建設など、最近計画されているプロ

ジェクトは、表 5-4 から表 5-6 に整理したとおりである。これをみると①インドネシア内外の

企業によるガス田の開発、②輸出用と国内輸送用のガスパイプライン建設、③輸出用 LNG 基

地、④CNG 供給など、さまざまな天然ガス利用計画が推進されている。天然ガス分野でも販売

価格の高騰が進み、輸出向けのガス田開発/LNG プラント建設のほか、ASEAN域内や国内

での利用のための幹線ガスパイプライン計画、都市ガス配給網の建設、CNG 普及計画などが展

開され始めたのが最近の特徴といえよう。

ここに集計した新規プロジェクトは、従来型の枠組みに基づく計画がほとんどだが、今後

は京都議定書に基づくCDM計画なども本格化するであろう。また、エネルギー安全保障のも

たらす社会的ベネフィット(=外部経済)に着目すれば、すでにパイプラインの発達している

西ジャワやスマトラでは、Public Private Partnership(PPP)などの仕組みをとりいれて中小ガ

ス田利用のためのインフラ整備を図るなどの活動も、国内向け天然ガスの供給増加に役立つと

思われる。このような視点に立った新たな取組み方式についても日イ両国の協議を活発化する

ことが望まれる。

表 5-4 天然ガス田プロジェクト関連プロジェクトの例

区間 供給量 完成 メドコ・エナジー・インターナショナルはオーストラリア

のノバス・ペトロリアムを買収。 2004 年

メドコ・エナジー・インターナショナルはエクソン・モー

ビルが保有するスマトラ・アチェのガス田を買収。 2005 年

インドネシア企業によるガ

ス田開発

メドコ・エナジー・インターナショナルはナツナ天然ガス

開発に参入。Exxon の発見したナツナD-αの埋蔵量は

46Tcf。

2005 年

中国によるガス田開発 石油・天然ガス部門に関する探鉱・開発計画で中国とイン

ドネシアが MOU 締結 2005 年

国際石油開発は、北西 Java 沖で新規ガス田(ジャカルタ

北東 70km、水深 40m)から 8 月 17 日より生産開始。2006年には 1 億 cf を生産の予定。

2005 年半ば 日本企業のガス田開発

三井石油開発は、南スマトラのメラギン-1 鉱区の開発権

益 20%をメドコ・エナジー・インターナショナルから取

得。

2005 年

出典: Jakarta Post および日経産業新聞等による

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表 5-5 パイプライン関連プロジェクト・プロジェクト例

プロジェクト 内容 時期 西ナツナ海域(計 3 ガス田)~ジュロン島(シンガポール):

現行の 2.5Tcf を1~2 年以内に 7~8Tscf に増強 2001 年 1 月

プルタミナは東ナツナ(Natuna)ガス田を開発してマレー

シア、シンガポール、タイ、インドネシア国内に供給する。

うちマレーシア向けは 1.5Tcf、

2002 年 8 月

輸出用ガスパイプライン

南スマトラ(グリシクガス田)~ジュロン島沖サクラ島(シ

ンガポール):0.5Tscf(当初)~1.3Tscf(2009 年) 2003 年 9 月

国内用長距離幹線ガスパ

イプライン ガス公社(PGN)が東カリマンタンと西ジャワを結ぶ天然

ガスパイプラインを計画、ガスの不足している西ジャワで

の消費に向ける予定。

2010~2011 年

完成

アジア諸国がガスグリッ

ド建設に同意

2005 年 11 月アジア諸国のエネルギー担当大臣は、地域内

の天然ガス輸送パイプアライン建設に同意した。参加国

は、インド、中国、日本、韓国、中央アジア諸国など

2020 年

出典: Jakarta Post および日経産業新聞等による

表 5-6 LNG・CNG 関連プロジェクト例

プロジェクト 内容 時期 米国がガス利用研究のため

の資金を無償提供 インドネシア政府はガス配送システムの拡充と CNG の普

及により、石油使用量の減少を目指す。 2005 年 10 月

輸出用 LNG 工場の建設 PERTAMINA とメドコ・エナジー・インターナショナルは

2007 年に、スラウェシ島に年産 70 万トンの LNG プラン

トを建設する。投資額は 2 億 4,000 万ドル。

2007 年完成

出典: Jakarta Post および日経産業新聞等による

(4)おわりに

インドネシアのエネルギー政策は、アジア近隣諸国にさまざまな影響を与えよう。これまで

エネルギー輸出国という性格の強かったインドネシアは、いまやエネルギー消費国と化しつつ

あり、国内供給と輸出との難しい舵取りが求められている。わが国の立場からすれば、第一義

的には、インドネシアが今後もわが国エネルギー供給の一翼を担う良きパートナーであって欲

しい。そして、もう一段高い視点から見れば、ASEAN10 ヶ国のなかで最大の国土と人口を

抱えるインドネシアの安定的発展は、FTAの進展などにより東南アジア経済との連携・一体

化がますますすすむなか、わが国にとっても重要な関心事である。

今後もインドネシアからのエネルギー輸出は継続されようが、経済発展とともに国内向け

供給が優先されることは覚悟しなければなるまい。ただし、石油・天然ガス資源の探査が近年

停滞気味に推移してきたのは事実で、その活性化は最重要課題である。さらに、エネルギー使

用の合理化推進は、地球温暖化問題への配慮という点でも、いまや全地球規模の命題である。

インドネシア政府当局の最大の関心事は「資源開発と省エネルギーを車の両輪とするエネルギ

ー政策の展開」とされているが、わが国としてもその両面で協力を強化し、同国エネルギー経

済の安定的な発展と、わが国へのエネルギー供給の安定確保を目指したいところである。

以上

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