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2 年前期 生命の基本単位としての細胞(第 13 回) 080718 細胞のがん化:細胞周期と増殖の制御 細胞分裂は制御されている! 生理的再生系------生理的条件下で活発に細胞増殖する 皮膚、消化管粘膜、造血系細胞など (ケラチノサイト、消化管上皮幹細胞、骨髄造血幹細胞:幹細胞が増殖) 非再生系------分裂する能力を(ほぼ)失っている 神経細胞、筋肉細胞、赤血球、好中球など 条件再生系-------普段は増殖しないが、適切な刺激を受けると増殖しうる細胞 肝細胞、リンパ球、その他生理的再生系・非再生系に属さないほとんどの細胞 幹細胞 単能性幹細胞------- 一種類、あるいは極限られた種類の細胞にのみ分化できるもの 皮膚ケラチノサイト、消化管上皮幹細胞など 多能性幹細胞----- 一連の細胞群に分化する能力を持つ、造血幹細胞など 1 全能性幹細胞------ 初期胚の細胞、全ての体細胞に分化する能力を持つ ES 細胞(embryonic stem cell---- 胚盤胞の内部細胞塊の細 胞を人工的に培養し、維持で きるようになった細胞、胎盤 以外の組織になれる iPS 細胞(inducible pluripotent stem cell)---通常の体細胞に 数個の遺伝子導入によって 全能性幹細胞様の性質に改 変したもの リン酸化による細胞周期の制御 体内の大多数の細胞は常に増殖しているわけでない------G0 期(静止期)にある 細胞増殖を開始するチェック点は、G1 期→S 期の間にある。 一旦 DNA 複製開始シグナルが発生すると、細胞はほとんど例外なく DNA 合成を完 了し M 期へと進行する。 がん 細胞周期制御の異常

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2 年前期 生命の基本単位としての細胞(第 13 回) 080718

細胞のがん化:細胞周期と増殖の制御 細胞分裂は制御されている! 生理的再生系------生理的条件下で活発に細胞増殖する 皮膚、消化管粘膜、造血系細胞など (ケラチノサイト、消化管上皮幹細胞、骨髄造血幹細胞:幹細胞が増殖) 非再生系------分裂する能力を(ほぼ)失っている 神経細胞、筋肉細胞、赤血球、好中球など 条件再生系-------普段は増殖しないが、適切な刺激を受けると増殖しうる細胞 肝細胞、リンパ球、その他生理的再生系・非再生系に属さないほとんどの細胞 幹細胞 単能性幹細胞------- 一種類、あるいは極限られた種類の細胞にのみ分化できるもの 皮膚ケラチノサイト、消化管上皮幹細胞など 多能性幹細胞----- 一連の細胞群に分化する能力を持つ、造血幹細胞など

1

全能性幹細胞------ 初期胚の細胞、全ての体細胞に分化する能力を持つ ES 細胞(embryonic stem cell)

----胚盤胞の内部細胞塊の細

胞を人工的に培養し、維持で

きるようになった細胞、胎盤

以外の組織になれる iPS 細胞(inducible pluripotent

stem cell)---通常の体細胞に

数個の遺伝子導入によって

全能性幹細胞様の性質に改

変したもの リン酸化による細胞周期の制御 体内の大多数の細胞は常に増殖しているわけでない------G0 期(静止期)にある 細胞増殖を開始するチェック点は、G1 期→S 期の間にある。 一旦 DNA 複製開始シグナルが発生すると、細胞はほとんど例外なく DNA 合成を完

了し M 期へと進行する。 がん = 細胞周期制御の異常

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2 年前期 生命の基本単位としての細胞(第 13 回) 080718

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細胞周期のエンジン サイクリンと cdcキナーゼという2種類

のタンパク質の複合体が、細胞周期を動か

す働きを持っている。 サイクリン(CycA~CycE など)と cdc キナーゼ(cdk1、cdk2、cdk4/6 ど)は、

それぞれ異なるタイプのタンパク質複合

体が作られ、役割分担している。

G2→M 期の調節を行う cycB/cdk1 複合

体は、核内でリン酸化および脱リン酸化を

受けて活性化型になると、核膜の裏打ちタンパク質であ

るラミンをリン酸化し、脱重合する。それによって、核

膜が分散し有糸分裂が進行する。 細胞周期のブレーキ 細胞周期が回り続けないようにブレーキ役の一群のタ

ンパク質が存在する。 Cdk インヒビター(CKI)----p21、p57、p16 など がん抑制遺伝子(p.125)

細胞の増殖を抑制する(タンパク質の)遺伝子 がん細胞ではしばしばがん抑制遺伝子が変異して その作用が減弱している

p53 Rb (網膜芽細胞種より見つかる)

p53 タンパク質は、cdk インヒビターp21 の発現を促す転写因子であり、p21 の作用

で細胞周期を止めさせている。つまり p53 の作用が発揮されると細胞増殖が止まる。 Rb タンパク質は、S 期関連遺伝子群の発現(転写)を行っている転写因子に結合し

て、その作用を阻害している。

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2 年前期 生命の基本単位としての細胞(第 13 回) 080718

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練習問題(第 13 回) 次の文の正誤を判定し、また空欄には適当な語を入れなさい。 1. 生きている細胞は常に増殖し続けている。 2. 血球系の細胞は増殖(分裂)出来ないが、( )内の造血幹細胞が分裂して新しい

血球細胞を供給している。 3. 肝細胞は高度に分化した機能を持っているので、刺激を受けても増殖できない。 4. 皮膚のケラチノサイトは全能性幹細胞である。 5. ES 細胞は胎盤以外のべての組織に分化できる全能性幹細胞である。 6. 造血幹細胞は単能性幹細胞である。 7. 細胞の増殖刺激は、水溶性の増殖因子のみによる。 8. 細胞は通常、隣の細胞と接触した状態では増殖しなくなる。 9. ( )は、接触阻止を受けずに、増殖を続ける細胞である。 10. 細胞周期を動かしているしくみは、おもに( )というタンパク

質複合体の働きに拠っている。 11. Cdk インヒビターというタンパク質は、( )に結合して、細胞

周期を止める働きを持つ。 12. がん抑制遺伝子の( )は、p21 を発現させ、細胞周期を停止させている。

正解: 1. ×(休止状態の細胞もある) 2. 骨髄 3. ×(再生できる) 4. ×(単能性幹細胞) 5. ○ 6. ×(多能性幹細胞) 7. × 8. ○ 9. がん細胞 10. サイクリン/cdk 11. cdk キナーゼ 12. p53

復習問題集 次の用語を説明しなさい。

2. リボソーム RNA(rRNA) SBO15 3. 転移 RNA(tRNA) 1. ピリミジンとプリン 4. 核内低分子 RNA(snRNA) 2. DNA と RNA 5. アンチコドン 3. デノボ経路トサルベージ経路 6. ポリ A 配列とキャップ構造 4. 核酸塩基の構造式 7. スプライシング 5. PRPP(ホスホリボシルピロリン酸) 8. 選択的スプライシング(alternative

splicing) 6

. 尿酸

SBO17 SBO19 1. 形質転換

1. 複製、転写、翻訳 2. ホスホジエステル結合 2. 逆転写 3. 塩基対

4. シャルガフ則(Chargaff ’s rule) 3 . 相補鎖

SBO20 SBO18

1. DNA のメチル化 1. メッセンジャーRNA(mRNA)

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2 年前期 生命の基本単位としての細胞(第 13 回) 080718

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2. RNA の不安定性 3. リボザイム 4

. マイクロ RNA

SBO21 1. ゲノム 2. イントロンとエキソン 3. プロセシング 4. テロメア 5. セントロメア 6

. トランスポゾン

SBO22 1. クロマチン 2. ユークロマチンとヘテロクロマチン 3. ヌクレオソーム 4. ヒストン 5. 超らせん構造 6. DNA トポイソメラーゼ

SBO23 1. プロモーター 2. 転写開始点と開始コドンの違いは? 3. SD 配列(シャイン・ダルガーノ配列) 4. ρ因子 5. TATA ボックス(TATA 配列) 6. TATA 結合タンパク質 7

. 転写因子エンハンサー

SBO24 1. コドンの縮重 2. RNA ワールド 3. シグマ因子 4. 転写因子 5

. コアクチベーター

SBO25 1. 核内受容体 2. シャペロン 3. NFκB と IκB 4

. 熱ショックタンパク質

SBO26 1. スプライソソーム 2. 原核細胞と真核細胞のスプライシン

グの違いは? 3

. ヘテロ核 RNA(hnRNA)

SBO27/28 1. 開始コドンとホルミルメチオニン 2. 終止コドン 3. 遺伝暗号 4. アミノアシル tRNA 5. 70S リボソーム 6. ペプチジルトランスフェラーゼ 7

. ポリソーム

SBO29 1. 半保存的複製 2. DNA ポリメラーゼ 3. プライマー 4. 複製開始点(いくつあるの?) 5. DNA ヘリカーゼ 6. 岡崎フラグメント 7. リーディング鎖とラギング鎖 8. DNA リガーゼ 9. 複製フォーク 1

0. テロメラーゼ

SBO30 1. 点突然変異 2. ミスセンス変異、ナンセンス変異、フ

レームシフト変異 3. 欠失と挿入 4. ピリミジン二量体(チミン二量体) 5

. 8-ヒドロキシグアニン

SBO31 1. 塩基除去修復 2. ヌクレオチド除去修復 3. DNA フォトリアーゼ 4. ミスマッチ修復 5

. 色素性乾皮症(XP)

SBO32 1. 遺伝子多型(SNP) 2. PCR 法 3.テーラーメード医療