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121 平成24年 3 月20日 血液ならびに胆汁から分離された Klebsiella oxytoca 株の 分子疫学解析と莢膜型および病原因子 1) 椙山女学園大学看護学部, 2) 名古屋大学医学系研究科臨床感染統御学, 3) 名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部, 4) 検査部 石原 由華 八木 哲也 望月まり子 太田美智男 (平成 23 年 9 月 30 日受付) (平成 24 年 1 月 18 日受理) Key words : Klebsiella oxytoca, Klebsiella pneumoniae, capsular typing, pulsed field gel electrophoresis, pili Klebsiella oxytoca Klebsiella 属において Klebsiella pneumoniae に次いで多く分離され,日和見感染の重要 な原因菌と考えられている.K. pneumoniae の病原因子は莢膜が最も重要であり,各種線毛なども知られて いるが,K. oxytoca については報告が無い.我々は 2009 年 5 月~11 月の間に名古屋大学医学部附属病院に おいて収集された K. oxytoca 分離株のうち,血液,胆汁由来株全て(計 21 株)について,PCR による病原 性遺伝子検索,莢膜型別ならびにパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行い疫学解析した.その結果 K. pneumoniae の報告とは異なり K1,K2 型は見られず,K9,K15,K26,K31,K43,K47,K55,K70,K79 などの莢膜型株であった.なお血液由来の K55 型 2 株は PFGE パターンもほぼ同一であることから同一株 であり,院内感染の存在が示唆された.高頻度に分離された莢膜型 K43 の血液由来 3 株と胆汁由来 1 株は, PFGEパターンが全て異なりそれぞれ別の株であった.また血液由来株と胆汁由来株に共通の株は無かった. 病原因子として 1 型ならびに 3 型線毛遺伝子は全ての株が保有していた.尿素分解に関与する ureA も全て 保有していた.しかし鉄取り込みに関与する kfuBC,腸管定着に関与する cf29a を保有する株はそれぞれ 1, 2 株のみであった.莢膜の mucoid 性を高め K. pneumoniae の病原性と強く相関するといわれる magA およ rmpA を持つ株は見られなかった.したがって K. oxytoca による敗血症と胆道感染に関係する病原因子と して,体内定着に関与する 1 型ならびに 3 型線毛の存在が重要であることが示唆された. 〔感染症誌 86:121~126,2012〕 クレブシエラ(Klebsiella)はグラム陰性桿菌で腸内 細菌科に属し,主に病院内感染を起こす.全国の中心 静脈カテーテル挿入患者約 33,900 名の調査によれば, 敗血症の頻度はグラム陰性桿菌の中でクレブシエラが 最も高く,次いで緑膿菌,エンテロバクター,セラチ ア,大腸菌の順である .したがって本菌種は日本に おける病院内感染起炎菌として最も注意を要するグラ ム陰性菌である.クレブシエラは感染抵抗力の低下し た入院患者に敗血症,肺炎,腹膜炎,胆道感染,尿路 感染等を起こし,日和見感染の原因菌としては比較的 病原性が高く,グラム陰性桿菌の中で大腸菌と並んで 重要である Klebsiella 属には K. pneumoniaeK. oxytocaK. plan- ticolaK. granulomatis などが含まれ,臨床分離頻度は K. pneumoniae が最も高く,次いで K. oxytoca の順で ある. Klebsiella 属は菌体周囲に厚い莢膜を持ち,それに よって乾燥に耐えるとともに食細胞による食菌に抵抗 性を付与する.また莢膜は化学構造の違いにより 81 種の血清型に分類されている.莢膜の型によってはバ イオフィルム形成に関与して病原性に関係する可能性 がある .また K2 型の莢膜を有する K. pneumoniae 特に病原性が高いという報告 があるが,ヒトに対し てはそのような傾向が見られない ,とする見解もあ り一定しない.莢膜の血清型は K. oxytoca K. pneu- moniae の菌種に関わらず通し番号で分類されている 別刷請求先:(〒4648662)名古屋市千種区星が丘元町 17 番 地3号 椙山女学園大学看護学部 石原 由華

血液ならびに胆汁から分離された Klebsiella oxytocajournal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0860020121.pdf121 平成24年3月20日 血液ならびに胆汁から分離されたKlebsiella

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平成24年 3 月20日

血液ならびに胆汁から分離された Klebsiella oxytoca株の

分子疫学解析と莢膜型および病原因子

1)椙山女学園大学看護学部,2)名古屋大学医学系研究科臨床感染統御学,3)名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部,4)同 検査部

石原 由華1)2) 八木 哲也3) 望月まり子4) 太田美智男1)

(平成 23 年 9 月 30 日受付)(平成 24 年 1 月 18 日受理)

Key words : Klebsiella oxytoca, Klebsiella pneumoniae, capsular typing, pulsed field gel electrophoresis, pili

要 旨Klebsiella oxytocaは Klebsiella属において Klebsiella pneumoniaeに次いで多く分離され,日和見感染の重要

な原因菌と考えられている.K. pneumoniaeの病原因子は莢膜が最も重要であり,各種線毛なども知られているが,K. oxytocaについては報告が無い.我々は 2009 年 5 月~11 月の間に名古屋大学医学部附属病院において収集された K. oxytoca分離株のうち,血液,胆汁由来株全て(計 21 株)について,PCRによる病原性遺伝子検索,莢膜型別ならびにパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行い疫学解析した.その結果K. pneumoniaeの報告とは異なりK1,K2 型は見られず,K9,K15,K26,K31,K43,K47,K55,K70,K79などの莢膜型株であった.なお血液由来のK55 型 2 株は PFGEパターンもほぼ同一であることから同一株であり,院内感染の存在が示唆された.高頻度に分離された莢膜型K43 の血液由来 3株と胆汁由来 1株は,PFGEパターンが全て異なりそれぞれ別の株であった.また血液由来株と胆汁由来株に共通の株は無かった.病原因子として 1型ならびに 3型線毛遺伝子は全ての株が保有していた.尿素分解に関与する ureAも全て保有していた.しかし鉄取り込みに関与する kfuBC,腸管定着に関与する cf29aを保有する株はそれぞれ 1,2株のみであった.莢膜のmucoid 性を高め K. pneumoniaeの病原性と強く相関するといわれる magAおよび rmpAを持つ株は見られなかった.したがって K. oxytocaによる敗血症と胆道感染に関係する病原因子として,体内定着に関与する 1型ならびに 3型線毛の存在が重要であることが示唆された.

〔感染症誌 86:121~126,2012〕

序 文クレブシエラ(Klebsiella)はグラム陰性桿菌で腸内

細菌科に属し,主に病院内感染を起こす.全国の中心静脈カテーテル挿入患者約 33,900 名の調査によれば,敗血症の頻度はグラム陰性桿菌の中でクレブシエラが最も高く,次いで緑膿菌,エンテロバクター,セラチア,大腸菌の順である1).したがって本菌種は日本における病院内感染起炎菌として最も注意を要するグラム陰性菌である.クレブシエラは感染抵抗力の低下した入院患者に敗血症,肺炎,腹膜炎,胆道感染,尿路感染等を起こし,日和見感染の原因菌としては比較的病原性が高く,グラム陰性桿菌の中で大腸菌と並んで

重要である2).Klebsiella属には K. pneumoniae,K. oxytoca,K. plan-

ticola,K. granulomatisなどが含まれ,臨床分離頻度はK. pneumoniaeが最も高く,次いで K. oxytocaの順である.

Klebsiella属は菌体周囲に厚い莢膜を持ち,それによって乾燥に耐えるとともに食細胞による食菌に抵抗性を付与する.また莢膜は化学構造の違いにより 81種の血清型に分類されている.莢膜の型によってはバイオフィルム形成に関与して病原性に関係する可能性がある3).またK2型の莢膜を有する K. pneumoniaeは特に病原性が高いという報告4)があるが,ヒトに対してはそのような傾向が見られない2),とする見解もあり一定しない.莢膜の血清型は K. oxytocaと K. pneu-

moniaeの菌種に関わらず通し番号で分類されている

原 著

別刷請求先:(〒464―8662)名古屋市千種区星が丘元町 17 番地 3号椙山女学園大学看護学部 石原 由華

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石原 由華 他122

感染症学雑誌 第86巻 第 2号

が,25 年前の調査によればK43,K54 などの血清型を持つ菌株が日本には比較的多く見られた5).なお,K43 については K. oxytocaと K. pneumoniae両方に高頻度に見られ,K54 については K. pneumoniaeと K.

planticolaに高頻度に見られたが,K. oxytocaには見られなかった.しかし多様な莢膜型の菌株が検出されたので,莢膜型は疫学マーカーとして菌株の分類に用いられている6).さらに莢膜に関連した病原因子として,magA,rmpAなどの遺伝子が明らかとなっている7)8).莢膜以外の病原因子としては大腸菌と同様に 1型,3型などの線毛が報告されている9)10).また鉄取り込み能なども病原因子として報告されている11).しかしこれらの病原関連因子について,K. pneumoniaeとは異なり K. oxytocaの保有状況の報告は世界的にほとんど見られない.

K. pneumoniaeと K. oxytocaの日本における分離割合は,全国的な集計によれば,約 4:1であり K. pneu-

moniaeの方が高頻度に分離される12).我々は,最近名古屋大学医学部附属病院において消化器外科患者,特に胆道系手術後の患者に K. oxytocaの胆道感染が増加していることに気づいた13).そこで今回,これらの胆汁由来 K. oxytoca株ならびに同時期に同病院において血液培養で分離された K. oxytoca株について莢膜型別,PCRによる主要病原遺伝子の検索,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行い,莢膜型および病原性関連遺伝子保有状況に基づいて K. oxytoca株の病原性について検討した.本報告は K. oxytocaに関する我々が知る限り本邦での初めての病原因子解析の報告である.

方 法1.使用菌株と患者の背景菌株は,名古屋大学医学部附属病院(総ベッド数約

1,100)において 2009 年 5 月~11 月の間に入院患者より分離された K. oxytocaのうち,血液由来全株(11株),胆汁由来全株(10 株)を対象とした.ただし同一患者からの重複分離株は,病原性関連遺伝子,および PFGEパターンの結果から除いた.なお 2009 年の当該施設の全細菌検査検体数 20,766 から分離されたK. pneumoniaeと K. oxytocaは重複分離を除いてそれぞれ 362 株と 162 株(2.23:1)であった.患者入院期間などの背景については当該病棟より入手した.なお,患者個人情報は当研究では用いなかった.2.莢膜型別について-80℃保存菌より LB寒天培地に培養し,LB培地

に接種して 37℃で一夜振とう培養後,菌液を遠心し上清に 2倍量のエタノールを加えて遠心後沈殿に滅菌水を加えて溶解し抗原液とした.1%アガロースゲル内沈降反応を行い莢膜型血清により莢膜型を決定し

た.必要に応じて一部は 1%アガロースを用いて免疫電気泳動法によって確認した.莢膜型血清は,K1からK81 までのそれぞれの血清型標準株をEdwardsand Ewing の方法にしたがって家兎に免疫し作成した14).3.PCR法による病原遺伝子検出K. pneumoniae病原性関連遺伝子としてこれまでに

報告された遺伝子のなかで,主要な遺伝子としてmagA,fimH,rmpA,mrKD,kfuBC,cf29a,ureAを検索した6).各遺伝子のプライマーは報告された配列を用いた6).テンプレートDNAはコロニーより蒸留水で菌液を調製し 100℃ 2 分煮沸後遠心した上清を用いた.増幅条件はBrisse ら6)に基づいてそれぞれのプライマーによって条件を設定し,Thermal Cycler(ABI 社)を用いて増幅反応を行った.Taq DNA poly-merase ならびに反応液はAmpliTaq Gold with GeneAmp(ABI 社)を用いた.反応後,定法にしたがってアガロースゲル電気泳動により増幅されたDNAバンドを確認した.4.PFGE法による菌株の比較-80℃保存より K. oxytocaの各菌株を LB寒天培地

に 37℃で 15 時間培養後菌をTE-8 溶液(0.5M Trizmabase,0.5M EDTA,pH8.0)に懸濁した.次いで 1.2%Seaken Gold Agarose(Cambrex Bio Science Rock-land, Inc.)と混合してプラグモールドにてゲルブロックを作製し,lysozyme 溶 液(lysozyme 3mg�mL,Trizma base,0.5M EDTA,NaCl,0.2% deoxycholate,0.5% Na-N-dodecylsarcosine)で 37℃,6時 間,pro-teinase K 溶液(proteinase K 1mg�mL,3% Na-N-dodecylsarcosine,0.5M EDTA)で 55℃,15 時間作用させて溶菌した.TE-8 溶液にて 8時間以上洗浄後,XbaI(BIO-RAD)を 35℃で一夜反応させてDNAを切断した.電気泳動は 1%ゲル(BIO-RAD)CHEF-DR II:BIO-RADを用い,50μMチオ尿素を添加した0.5×TEB中で行った.泳動条件は,14℃パルスタイム 12.6~40.1 秒 24 時間で実施し,泳動後アガロースゲルを ethidium bromide 染色した.

結 果1.胆汁ならびに血液由来 K. oxytoca株の莢膜型について

胆汁由来株では,莢膜型は 7種類が検出された.11-7 株と 15-20A 株は,K72(またはK80)で同一であった.K72 と K80 は抗原性が類似しているために判別不能だった.血液由来株には 6種類の莢膜型ならびに同定不能型が 1株見いだされた.血液由来の 6385 株,6398 株,6594 株と胆汁由来の 6-28 株は高頻度型のK43 であった.また,血液由来の 6477 株と胆汁由来の 22-42 株は同一であった(Table 1).さらに,血液

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K. oxytocaの莢膜型・病原因子 123

平成24年 3 月20日

Table 1 K-serotypes of K. oxytoca strains

origin hospital ward strain K-serotype

bile A 11-7 K72 or K80*

A 15-20A K72 or K80*

A 1-13*** K9A 2-6A*** K9A 10-9 ①**** K15A 22-111**** K15A 9-80 K31B 10-26 K79A 22-42 K47A 6-28 K43

blood A 6430 K26 or K21**

C 6383 K26 or K21**

D 6652 K26C 6385 K43E 6398 K43A 6594 K43A 6538 K55A 6543 K55C 6477 K47B 6552 untypableA 6349 K70

*, **; Our typing sera were unable to distinguish these types from each other because of antigenic cross reactions.***, ****; Strains 1-13 and 2-6A, and strains 10-9 ① and 22-111, respectively, were isolated from the same patients, and were found to be identical. We then removed 2-6A and 22-111 in the subsequent results.

Table 2 Virulence gene content of K. oxytoca strains

origins strain magA fimH rmpA mrkD kfuBC cf29a ureA

bile 11-7 - + - + - + +15-20 A - + - + - - +1-13 - + - + - - +10-9 ① - + - + - - +9-80 - + - + - - +10-26 - + - + - - +22-42 - + - + - - +6-28 - + - + - - +

blood 6430 - + - + - - +6383 - + - + - - +6652 - + - + + + +6385 - + - + - - +6398 - + - + - - +6594 - + - + - - +6538 - + - + - - +6543 - + - + - - +6477 - + - + - - +6552 - + - + - - +6349 - + - + - - +

由来株の 6430 株と 6383 株は K26(またはK21)であった.K26 と K21 は抗原性が類似し,今回用いた抗血清では区別できなかった.6385 株,6398 株,6594株は K43 であった.また 6538 株と 6543 株はともに同一莢膜型であった.6552 株は保有型血清全てに反

応しなかったため同定不能で,untypable とした.胆汁由来株,血液由来株ともに K. penumoniaeにおいてよく分離されるK1,K2 型株は見られなかった.胆汁由来株のうち,1-13 と 2-6A,および 10-9 ①と

22-111 は同一患者から短期間に分離された菌株であった.したがって以下の検討からは 2-6A,および 22-111の 2 株を除外した.2.K. oxytoca分離株の病原性関連遺伝子Table 2に示すように,胆汁由来株ならびに血液由

来株の全てが fimHおよび mrkD陽性だった.したがってこれらの K. oxytoca株は 1型線毛遺伝子および 3型線毛遺伝子の両方を有していた.腸管定着に関与するcf29a遺伝子は 11-7,6652 の 2 株が陽性だった.Hyper-viscosity 型莢膜多糖の生成に関与するといわれるmagAならびに rmpAについては,全ての株がどちらの遺伝子についても陰性だった.鉄取り込みに関与する kfuBCは血液由来 6652 株のみが陽性であった.尿素分解遺伝子である ureAは K. oxytocaの同定にも用いられる性質であり,当然ながら全ての株が陽性だった.3.K. oxytoca分離株の PFGEパターンについて胆汁由来株の PFGEのパターンでは,11-7 株と 15-

20A 株では,莢膜型がK72 またはK80 で同一であったが,PFGEのパターンは異なっていた.他の菌株のPFGEのパターンは全て異なっていた(Fig. 1A).血液由来株の PFGEのパターンでは,6538 株と

6543 株のバンドパターンが 1つのバンドを除いてほぼ同じであった.他の菌株のバンドパターンは全て異なっていた(Fig. 1B).同一株と思われる莢膜型K55

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石原 由華 他124

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Fig. 1 PFGE of K. oxytoca strains isolated from bile (A) and blood (B), and the PFGE of the same K-sero-type strains (C). (A) M: S. cerevisiae DNA size marker, 1, 11-7; 2, 15-20A; 3, 1-13; 4, 10-9① ; 5, 9-80; 6, 10-26; 7, 22-42; 8, 6-28. (B) M: S. cerevisiae DNA size marker, 1, 6538; 2, 6543; 3, 6398; 4, 6385; 5, 6383; 6, 6430; 7, 6652; 8, 6594; 9, 6477; 10, 6552; 11, 6349. (C) M: S. cerevisiae DNA size marker, 1, 6398; 2, 6385; 3, 6594; isolaed from blood, 4, 6-28 isolaed from bile, 5, 6477 isolated from blood; 6, 22-42 isolated from bile. 1 ~ 4: K43, 5 ~ 6: K47.

の 6538 株,6543 株のそれぞれの保菌患者が同じA病棟に入院してため,これらの保菌患者の入院時期について調べたところ,6543 株の保菌患者は 2009 年 8月 2 日~9月 20 日まで入院していたのに対して,6538株の患者は 2009 年 9 月 1 日~18 日まで入院していた.両者の入院期間は重なっていたことがわかった.血液由来株について,莢膜型が同一であった 6383

株と 6430 株は,PFGEのバンドパターンは異なっていた.また莢膜型がK43 であった 6398 株,6385 株,6594 株についても PFGEのバンドパターンは全て異なっていた(Fig. 1B).莢膜型がK43 の血液由来 6398 株,6385 株,6594

株と胆汁由来 6-28 株では,PFGEのバンドパターンは全て異なっていた.また,K47 の血液由来 6477 株と胆汁由来 22-42 株も PFGEのバンドパターンは異なっていた(Fig. 1C).

考 察今回の研究では,K. oxytocaの胆汁由来 10 株と血

液由来 11 株について,莢膜型別を定法の莢膜膨化反応ではなくゲル内沈降反応および一部は確認のために免疫電気泳動法によって決定した.莢膜膨化反応は手技が簡便ではあるが,ときに膨化反応が弱く判別が難しい株もある.また,莢膜の抗原性が一部共通で交差反応を起こすことがある.今回我々が用いたゲル内沈降反応による莢膜型別は,沈降線が形成されるために

は一夜必要であるが明確に区別でき,交差反応の判別も容易である.さらに,O抗原による沈降線は免疫電気泳動によって区別できる15).今回用いた K. oxytoca臨床分離株は敗血症および胆

道感染に由来する株であったが,全 21 株中に少なくとも 11 の異なった莢膜型を見いだした.したがって今回の 1施設由来菌株の解析においてさえも,K. oxy-

tocaは多様な莢膜型を示した.K43 の株は 4株あり,全て異なる菌株であった.PFGE解析によれば,別々の患者血液由来のK55 型 6538 株と 6543 株は,PFGEのバンドパターン一つを除いて等しく,Tenover ら16)

のガイドラインに基づけば同一株であることが強く示唆された.これらの菌株の感染患者は同じ病棟(A外科病棟)の別の病室に同時期に入院していたことから,院内感染の存在が疑われた.感染経路は医療従事者を介してか,あるいは病棟トイレ,水回りなどに本菌株が汚染していたことなどが推測される.血液由来 6398 株,6385 株,6594 株ならびに胆汁由

来 6-28 株は莢膜型がK43 と同一であったが,PFGEのバンドパターンが全て異なっていたため別々の株であることが示された.なおK43 型株は,日本では K.

pneumoniaeにも分離頻度が多いことが以前に報告されている5).他に同一の莢膜型を示す菌株は 6430 株と6383 株,11-7 株と 15-20A 株,6477 株と 22-42 株などだが,PFGEのバンドパターンが異なっていたため互

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K. oxytocaの莢膜型・病原因子 125

平成24年 3 月20日

いに別々の株であった.結果には示さないが,胆汁由来の 1-13 株と同一の

莢膜型および PFGE型を持つ株が 7日間の間隔を置いて同一患者の胆汁から分離された.また 10-9 ①株と同じ莢膜型ならびに PFGE型を示す株が同一患者から 12 日間の間隔を置いて分離された.したがってこれらの患者は同一菌株の持続感染であることが明らかとなり,治療による効果があまり見られなかったことを示している.

Klebsiella属の病原性に関与する遺伝子の研究報告はこれまでに多くない.また主に K. pneumoniae株について解析が行われてきた.今回我々は K. oxytocaの臨床分離株について,これまで報告されたなかの主要な病原性関連遺伝子のスクリーニングを PCR法によって行った.その結果全ての株に共通に見られたのは fimHならびに mrkDであり,それぞれ 1型および3型線毛の遺伝子の一部である.1型ならびに 3型線毛は生体内の定着(colonization)に関与することが大腸菌において報告されている17).したがってこれらの線毛は K. oxytocaの生体内定着において重要な役割を果たしていることが考えられる.興味深いことには莢膜の粘性増強に関係する magAおよび rmpAは全ての株に検出されなかった.これらの遺伝子は K. pneu-

moniaeの重症感染に関係する18)と言われている.magA

は K1-cps遺伝子領域中に見いだされた遺伝子である6)

が,今回の K. oxytocaの莢膜型株には見いだされなかった.なお,11-7 株(K72�80)ならびに 6652 株(K26)は cf29aを保有していた.しかしこれらの株は莢膜型が異なり,PFGEパターンも異なっていた.また多くの腸内細菌科菌種で病原性に関与するといわれる鉄取り込みに関係する kfuBCは 6652 株のみに見いだされた.6652 株は PFGEパターン,莢膜型がこの菌株のみに特徴的であり,類似の株は見られなかった.鉄取り込みについては他の輸送系遺伝子も働いているので,それらの輸送系の関与についてはさらなる解析が必要と考えられる.今回の解析から K. oxytocaの敗血症ならびに胆道感染の主要な病原因子として 1型ならびに 3型線毛が示唆された.しかし今回スクリーニングしなかった他の未知の病原因子の関与も否定することはできない.K. oxytocaの重症感染の発症には菌側だけではなく宿主側の要因が重要であることも当然である.今回胆汁より K. oxytoca株が分離された患者のほとんどは肝・胆・膵の侵襲性の高い手術後であった.菌側の要因と宿主側の要因が複雑に関連しあって本菌による重症感染が発症すると考えるのが妥当であろう.最後に,Klebsiella属の莢膜型別は PFGEと並んで

疫学解析の方法として有効であることが以前に報告さ

れている19)が,今回行った K. oxytocaの莢膜型別も疫学解析の方法として一定の有効性を示したと考えられる.院内感染の存在を調べる方法として PFGEはゴールデンスタンダードであるが,一般病院検査室で行うことが可能な簡便な莢膜型別をまず行うことで迅速に菌株の感染傾向等を知ることができると思われる.これまで K. oxytocaは K. pneumoniaeに比べてそれほど注意されてこなかったが,K. pneumoniaeと同様に胆道感染,敗血症など重症感染を入院患者に引き起こし,詳細に調べれば院内感染も引き起こしていること20)が考えられるので,我々はこの菌にもっと注目する必要がある.また本菌による院内感染の経路は全く不明であり,今後詳細な疫学解析を行うことによって感染経路を明らかにしていかなければならない.

謝 辞本研究は文部科学省科学研究費補助金「基盤研究:課題番号 20350076」ならびに椙山女学園大学学園研究助成研究助成Cによって行われた.

文 献1)太田美智男:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.日内会誌 2002;91(10):130―8.

2)Podschun R, Ullmann U:Klebsiella spp. as Noso-comial Pathogens : Epidemiology, Taxonomy,Typing Methods, and Pathogenicity Factors.Clin Microbiol Rev 1998;11:589―603.

3)石原由華,太田美智男:Klebsiella K抗原血清型標準株におけるバイオフィルム形成能と莢膜多糖および菌体表面タンパク質との関連性に関する検討.日本臨床微生物学雑誌 2010;20(4):225―32.

4)Mizuta K, Ohta M, Mori M, Hasegawa T, Naka-shima I, Kato N:Virulence for mice of Klebsiellastrains belonging to the O1 group : relationshipto their capsula(K)types. Infect Immun1983;40(1):56―61.

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石原 由華 他126

感染症学雑誌 第86巻 第 2号

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Capsular Types, Virulence Factors and DNA Types of Klebsiella oxytoca Strains Isolated from Blood and Bile

Yuka ISHIHARA1)2), Tetsuya YAGI3), Mariko MOCHIZUKI4)& Michio OHTA1)1)Sugiyama Jogakuen University School of Nursing,

2)Department of Infectious Diseases, Nagoya University Graduate School of Medicine,3)Department of Infectious Diseases and Center of National University Hospital for Infection Control

and 4)Department of Clinical Laboratory, Nagoya University Hospital

Klebsiella oxytoca is an opportunistic pathogen and is isolated at the second highest frequency among ge-nus Klebsiella from hospitalized patients. According to previous reports, the major virulence factors of K.pneumoniae include capsules and several kinds of pili, whereas the virulence factors of K. oxytoca have notbeen well investigated.

We noticed an increased frequency of K. oxytoca isolates from patients who had undergone a biliarytract operation in a general hospital from May through November, 2009. We then performed a PCR analysisof the virulence factors and an epidemiological analysis with capsular typing(serotyping)and pulsed fieldgel electrophoresis(PFGE)for K. oxytoca of 11 blood isolates and 10 bile isolates. As a result, serotypes ofK9, K15, K26, K31, K43, K47, K55, K70, and K79 were identified in these strains, and K1 and K2 which arefrequent serotypes in K. pneumoniae strains were not observed. Two blood isolates of the K55 serotypeshowed almost the same PFGE pattern, suggesting that these isolates were very closely related and causedcross-infection in a hospital ward. Strains of the K43 serotype were three blood isolates and 1 bile isolate, allof which showed different PFGE patterns. There were no common isolates among the blood and bile iso-lates. A PCR search revealed that fimH and mrkD genes which are relevant to type 1 and type 2 pili, respec-tively, were present in all strains, whereas kfuBC, an iron uptake gene, and cf29a were detected in only afew strains. Neither of the mucoid phenotype-related genes magA and rmpA was present in any strains.These results strongly suggest that type 1 and�or type 3 pili would have important roles in the pathogene-sis of blood infection and bile infection caused by K. oxytoca.