30
金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 財団法人 日本建築総合試験所 材料部中央試験室 大橋 正治

金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

金属材料の引張り試験における測定の不確かさ評価

財団法人 日本建築総合試験所

材料部中央試験室大橋 正治

Page 2: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

2

適用範囲

• JIS Z 2201 「金属材料引張り試験片」に規定する鋼製で円形断面または長方形断面の試験体

• JIS Z 2241 「金属材料引張り試験方法」に定める引張り強さ,降伏点および破断伸び

Page 3: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

3

JIS Z 2241「金属材料引張り試験方法」

• 試験片;JIS Z 2201による(円形及び長方形断面とする)。標点をパンチ又はけがき針で付す。

• 試験機;JIS B7721による等級1級以上。• 力の加え方;力を加える速度は均一。降伏

点までは3~30N/mm2・s,以後破断までは試験片の平行部のひずみ増加率20~50%/min。

• 試験温度;10~35℃。

Page 4: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

4

対象としている鋼材の種類

・JIS A 5526 H形鋼ぐいSHK 400 SHK 400M SHK 490M

・JIS G 3108 みがき棒鋼用一般鋼材SDG A SDG B

・JIS G 3101 一般構造用圧延鋼材SS330 SS400 SS490 (SS540)

Page 5: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

5

測定手順概要

引張り力の測定

試験片の寸法測定

破断後の伸びの測定

結果

Page 6: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

6

破壊試験における測定の不確かさ

• 破壊試験なので,一つの試験体で繰り返し性が評価できない。

• できる限り均質な試験体を製作し,ばらつきを評価する。

• この評価ではサンプルの性能のばらつきを含む。

• 製品群の性能のばらつきに比べてサンプルの性能のばらつきは小さい。

Page 7: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

7

試験片

Page 8: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

8

試験機

Page 9: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

9

試験状況

Page 10: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

10

試験片の原断面積,標点距離

• 標点間の両端部及び中央部の3ヶ所の断面積の平均値。

• 円形断面の試験片では,現断面積の求めるための直径は,互いに直交する2方向について測定した値の平均値。

• 測定器の精度;規定寸法の少なくとも0.5%の数値まで測定する。

• 標点距離の精度;規定寸法の0.4%以下。

Page 11: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

11

0102030405060708090

100110120

0 5 10 15 20 25 30

伸 び ε(%)

F 

(kN

鋼材の引張試験-SSカーブ

最大荷重

Page 12: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

12

0

10

20

3040

50

60

70

80

90

100

110

120

0 0.4 0.8 1.2 1.6 2

伸 び ε(%)

引 張

 (k

N)

鋼材の引張試験-SSカーブ

下降伏点

降伏伸び

上降伏点

Page 13: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

13

測定の不確かさ評価手順(GUM)

1. 数式モデル2. 不確かさ成分の評価

タイプA評価,タイプB評価3. 合成標準不確かさ

感度係数,成分間の相関4. 拡張不確かさ

包含係数5. 不確かさの報告

Page 14: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

14

数式モデル(1)

引張り強さ;σB = Fmax / A0

σB:引張り強さ(N/mm2)Fmax:最大引張り力(N)A0:原断面積(mm2)

A0=π(d/2)2 or A0=b・t

d:直径(mm),b:幅(mm),t:厚さ(mm)

Page 15: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

15

数式モデル(2)

上降伏点;

σSU = FSU / A0

σSU:上降伏点(N/mm2)FSU:降伏の力(N)A0:原断面積(mm2)

A0=π(d/2)2 or A0=b・ t

d:直径(mm),b:幅(mm),t:厚さ(mm)

Page 16: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

16

数式モデル(3)

• 破断伸び;δ=(L-L0)/L0×100

δ:破断伸び(%)L:破断後の標点距離(mm)L0:原標点距離(mm)

Page 17: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

17

特性要因図

引張り強度σB

降伏点σSU

(破断伸びδ)

長さ測定 L, d, b, t

校正

読み

温度

繰返し

力測定 F

校正

読み

温度 繰返し

加力軸

加力速度

人人

Page 18: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

18

感度係数ci

引張り強さ

( ) 2

4dF

Fcmax

Bmax π

σ=

∂∂

=

( ) 3

8d

Fd

dc maxB

πσ

−=∂

∂=

Page 19: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

19

長さ測定の標準不確かさ(1)

• 長さ測定にノギスを使用した。• 校正の不確かさ(読みの不確かさを含む)

u=U/k=0.014/2=0.0070mm

• 温度変化による不確かさ試験の温度範囲を20±15℃(5~35℃)とし,いずれの温度でも同じ確率で生じるとする。試験体とノギスの熱膨張率の差が誤差として生じる。

(Δα・Δt・L)/√3≒0.00082mmL=25mm

Page 20: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

20

長さ測定の標準不確かさ(2)

• 試験片の寸法測定には,偶然効果の他に人の技能が関係するので,同一試験片を複数人(6人)が2回ずつ測定して,実験標準偏差を求める。

0025.d = mm

sd=0.0040mm

0

1

2

3

4

5

6

7

8

24.96 24.98 25.00 25.02 25.04 25.06

直径 (mm)

頻度

Page 21: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

21

長さ測定の標準不確かさ(3)

成分 ui(mm)校正(読みを含む) 0.0070温度変動 0.00082繰返し 0.0040

( ) ( ) ( ) ( ) mm....du 008100040000082000700 222 =++=

Page 22: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

22

力測定の標準不確かさ(1)

• 校正の不確かさ(読みの不確かさを含む)ucal=0.4%×F ,校正証明書による

• 温度変動による不確かさ力試験機は油圧式であり,圧力に及ぼす温度の影響は小さく無視できる。(粘性に関係し,載荷速度の影響する)→載荷速度は一定に保たれる装置を用いている。

• 繰返しの不確かさは,破壊試験では困難。できる限り均質な試験体による実験標準偏差で求める。加力軸,加力速度の影響も含まれる。

Page 23: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

23

力測定の標準不確かさ(2)

• 繰返しの実験標準偏差均質な試験片2本ずつを異なる6人で測定した結果(教育訓練を兼ねた実験を利用)。

0

1

2

3

4

5

6

214 215 216 217 218 219 220

最大引張り力 (kN)

頻度

sF=1.44kNkNF 217=

Page 24: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

24

力測定の標準不確かさ(3)

成分 ui(kN)

校正(読みを含む) 0.004×217=0.868繰返し 1.44

( ) ( ) ( ) kN...Fu 6814418680 22 =+=

Page 25: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

25

引張り強度σB

降伏点σSU

(破断伸びδ)

長さ測定 L, d, b, t

校正1

(読み)1

温度

繰返し

力測定 F

校正2

(読み)2

温度 繰返し3

(加力軸)3

(加力速度)3

(人)3(人)2

特性要因図(内包する要因)

Page 26: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

26

包含係数と有効自由度

• 合成標準不確かさ

• 包含係数

スチューデントの t 表から,95%信頼の水準で自由度11に対応する値はk=2.20

( )( ) ( )

11311

11433

112870

44344

4

1

4

4

≈=+

==

∑=

...

.

)y(u

)y(un

i i

i

ceff

ν

ν

( ) ( ) ( )[ ] ( ) ( )[ ]22 dudcFuFcu Bc +=σ

Page 27: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

27

引張り強度の不確かさバジェット

113.44 (N/mm2)uc

11

11

11

ν

7.57 (N/mm2)U(k=2.20)

3.430.00204

(1/mm2)1.68(kN)

217(kN)

Fmax

0.287-0.0354

(kN/mm3)0.0081(mm)

25.00(mm)

d

ui(σB)(N/mm2)

ciu(xi)xi成分

Page 28: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

28

結果の報告

• 引張り強度の測定値は,σB=442MPa±7.6MPaであった。その不確かさは,自由度11における包含係数k=2.20を用いた約95%信頼の水準における拡張不確かさで7.6MPaであった。

(1MPa=1N/mm2)

Page 29: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

29

不確かさの概略の見積

• JISでは,力試験機は1等級であるから,u(Fmax)/Fmax≦0.01 (;1%)

• 直径の測定精度は0.5%と決められている。u(d)/d=0.005

• σB=4/π×Fmax・d -2

( ) 22

max

max2

)(2

)(ddu

FFuu

B

B +=σσ

1% 2×0.5%1.4%

Page 30: 金属材料の引張り試験における 測定の不確かさ評価 · PDF file2 適用範囲 • jis z 2201「金属材料引張り試験片」に規 定する鋼製で円形断面または長方形断面

30

相対標準不確かさ

0.06 (%)0.77 (%)0.77 (%)評価

1 (%)1 (%)1.41 (%)JIS条件

( )B

Buσσ ( )

max

max

FFu ( )

ddu

2

•引張り強度の相対標準不確かさの評価値は力測定の不確かさの寄与が大きい。長さ測定の精度が良いことによる。