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1 1. エジプト:直近の金融状況とビジネス環境について 1.はじめに アラブとアフリカの主要国であるエジプトは、2011 1 月に始まったアラブの春の動きを受け同年 2 月にムバラク元大統領が退陣して以降、激動の 4 年間を経て政治的な安定を背景に、経済面でも回復の兆 しを見せつつある。14 6 月に得票率 97%と圧倒的な国民の支持を得て就任したシシ大統領は、社会の 安定と経済の建て直しを最優先課題に掲げてリーダシップを発揮、その手腕は内外から高い評価を得てい る。 こうした中、 15 1 月に安倍首相が 8 年ぶりに日本の総理大臣として訪問し、両国関係の強化を確認。 また 3 月のエジプト経済開発会合では内外から 2 千名が参加し、約 30 カ国の代表スピーチがなされる一 方、シシ大統領からは今後 5 年間に年 6%の経済成長を実現するという高い目標が発表され、内外の不安 定な情勢を反映し停滞していたエジプト経済復興への期待感が高まっている。 本邦では不安定な周辺国の情勢と小規模ながら継続的に起きている国内テロ事件が報道の中心となり、 ビジネス機会を窺うにはまだまだという見方が強い様に思われるが、本稿では、報道ではあまり触れられ ない為替管理を始めとする金融の状況、同国の概況、今後注目すべきポイントについて記述し、復権を目 指すエジプトのビジネス環境についてまとめてみる。 15 1 月エジプト訪問時の安倍首相とシシ大統領】 (出所)外務省ホームページ(写真提供:内閣府広報室) 1.エジプト:直近の金融状況とビジネス環境について 2.自動運転(3)-現在の自動車業界を変える革新技術 3ロシア自動車市場の最新動向と見通し May 8, 2015

1. エジプト:直近の金融状況とビジネス環境について1 1. エジプト:直近の金融状況とビジネス環境について 1.はじめに アラブとアフリカの主要国であるエジプトは、2011

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1. エジプト:直近の金融状況とビジネス環境について

1.はじめに

アラブとアフリカの主要国であるエジプトは、2011 年 1 月に始まったアラブの春の動きを受け同年 2

月にムバラク元大統領が退陣して以降、激動の 4 年間を経て政治的な安定を背景に、経済面でも回復の兆

しを見せつつある。14 年 6 月に得票率 97%と圧倒的な国民の支持を得て就任したシシ大統領は、社会の

安定と経済の建て直しを 優先課題に掲げてリーダシップを発揮、その手腕は内外から高い評価を得てい

る。

こうした中、15 年 1 月に安倍首相が 8 年ぶりに日本の総理大臣として訪問し、両国関係の強化を確認。

また 3 月のエジプト経済開発会合では内外から 2 千名が参加し、約 30 カ国の代表スピーチがなされる一

方、シシ大統領からは今後 5 年間に年 6%の経済成長を実現するという高い目標が発表され、内外の不安

定な情勢を反映し停滞していたエジプト経済復興への期待感が高まっている。

本邦では不安定な周辺国の情勢と小規模ながら継続的に起きている国内テロ事件が報道の中心となり、

ビジネス機会を窺うにはまだまだという見方が強い様に思われるが、本稿では、報道ではあまり触れられ

ない為替管理を始めとする金融の状況、同国の概況、今後注目すべきポイントについて記述し、復権を目

指すエジプトのビジネス環境についてまとめてみる。

【15 年 1 月エジプト訪問時の安倍首相とシシ大統領】

(出所)外務省ホームページ(写真提供:内閣府広報室)

1.エジプト:直近の金融状況とビジネス環境について

2.自動運転(3)-現在の自動車業界を変える革新技術

3.ロシア自動車市場の最新動向と見通し

May 8, 2015

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2.金融環境

(1)相場動向(表 1 参照)

アラブの春以降、じりじりと 6 エジプトポンド/米ドル(以下、ポンド、ドルと記載)まで進んだポン

ド安だったが、12 年 12 月のオークション制度導入(次項で説明)と S&P による格下げ実施により、6 ポ

ンド台の後半まで下落。その後、14 年 6 月以降 7.15 ポンド/ドル前後で推移してきたが、本年 1 月中旬

の 0.50%の利下げならびにポンド安への誘導により、現在は 7.5301 に至っている。

一方、過去 5 年間の CDS(クレジット・デリバティブ・スワップ)の推移を見ると、13 年 6 月の軍部

クーデター時をピークに徐々に低下(=信用の改善)してきており、現在はアラブの春以前の水準に戻り

つつあることが分かる。

【表 1:エジプトポンドと CDS(5 年)推移】

(ポンド/ドル) (CDSSY)

(出所)各国中銀ホームページ等より三菱東京 UFJ 銀行国際業務部作成

(2)外貨オークション制度

12 年 12 月に中央銀行により導入された、ポンド売り・ドル(外貨)買いをオークション形式で行う制

度。現在は原則週に 4 回、中銀が市中銀行にドルを供給するシステムで、金額は 1 回のオークション当た

り通常 40 百万ドルに制限されている。同制度を通じドルの供給を受けた市中銀行においては、国家とし

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ての重要性に基づき使途の優先順位が中銀から示されており、エネルギー関連・食料品・医薬品・工業原

料等の支払いから充当されることになっている。

外貨オークションならびに市中銀行における両替の主な手続き内容は以下の通り。

①中銀がオークション実施日、入札額、諸ルール等を公表。

②市中銀行がロイターのシステム上で入札。 低入札単位は 1 百万ドルで百万ドル単位、一つの銀行の

入札上限は入札額の 15%(即ち、40 百万ドルの入札であれば、6 百万ドル)。

③締め切り 30 分後に、各銀行に落札金額と 高・ 低・加重平均入札価格が発表される。

④落札後の銀行間取引においては、平均入札価格±1 ピアストル(=0.01 ポンド)の価格幅が認められて

いる。また、対顧取引では商業目的であれば 0~1 ピアストル、非商業目的であれば 1~2 ピアストル

のマージンが認められている。

⑤両替商との取引は、銀行間取引ではなく対顧取引と看做される。

⑥為替予約取引は中銀の別途許可が無い限り不可。

⑦現金入金による外貨預金作成は、1 日当たり限度額を 1 万ドル、1 ヶ月の限度額を 5 万ドルとする。

なお、以下に示す 5 回*の臨時大口入札が過去行われており、そのタイミングにおいて優先順位の高い

支払いを中心に充当されていると見られる(* 13 年 4 月 6 億ドル、同 5 月 8 億ドル、同 9 月 13 億ドル、

14 年 1 月 15 億ドル、同 5 月 11 億ドル、)。

(3)対外資金決済関連

市中銀行は、オークションで入手した外貨を使って、中銀が示している優先順位に従い対外決済に充当

することとなる。優先順位の詳細については、中銀から市中銀行への直接の指導となっており不明だが、

一例として 14 年 1 月 27 日の臨時オークション(15 億ドル)に関し中銀 HP で示されている品目は、以

下の通り。

【輸入商品】

1.食料、生活必需品(Staple commodities:茶、肉、鶏肉、魚、小麦、油、牛乳、豆、レンズ豆、

バター、コーン)

2.資本財・スペアパーツ(Capital goods and Spare parts)

3.中間材・原料品(Intermediary production components and raw materials)

4.医薬品・ワクチン(Pharmaceutical and vaccine components)

同じく 14 年 5 月 14 日の臨時オークション 11 億ドルでは、食料・生活必需品の輸入未払い総額を申請

することが求められた(…banks are required to apply with the amounts of their clients’ entire

outstanding Staple Food Commodities import backlog.:中銀 HP より)。

なお、対象となる輸入品目に加え、L/C 取引か否か、当該銀行との取引関係なども、各銀行に割当ら

れた外貨の充当順序に影響があると考えられている。また、本章(2)で上述した外貨預金上限規制に関

連し、中東・アフリカの銀行取引では一般的である預金担保見合いでの与信享受について、少なからず影

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響が予想されている。即ち、規制以前に行われていたとされる、市中購入した外貨キャッシュを取引銀行

に預金し、それを見合いとした(特に外貨の)与信供与を受けると言う手法が実質的に取れなくなったた

め、銀行借入や L/C 発行がスムーズに行かないケースを想定。

3.概況

(1)主要指標

まずは、エジプトの概況を理解するために、アフリカの主要国である南アフリカ、モロッコ、ナイジェ

リアに地中海を挟んだ地域大国であるトルコを加えた 5 カ国について、主要な指標を比較してみた(表 2

参照)。

エジプトは、人口 80 百万人超かつ一人当たり GDP も 3 千ドル超と、国内消費市場を狙う場合には相

応のマーケットである。ちなみに、GDP、一人当たり GDP の水準をアジア地域で当てはめるといずれも

フィリピンに近い数値となっている。次に、外貨準備高はトルコの 9 分の 1、GDP が 4 割強しかないモ

ロッコを下回り、月間輸入額の 3 ヶ月程度まで低下。サウジアラビアを始めアラブ諸国からの資金支援で

一時的に凌いでいる間に、外貨収入の 3 割を占めていたとも言われる観光業他地場産業の回復が望まれる。

【表 2:各国主要指標比較】

単位 エジプト 順位 南アフリカ 順位 モロッコ 順位ナイジェリ

ア順位 トルコ 順位 基準年

人口百万人

82.1 16 50.1 24 32.0 38 158.4 7 72.8 18 2011

GDP億米ドル

2,714 40 3,508 33 1,038 61 5,218 23 8,200 18 2013

一人当たりGDP

ドル 3,226 118 6,620 84 3,199 119 1,692 135 10,816 63 2013

外貨準備高億米ドル

148.8 -- 471.9 -- 193.7 -- 374.4 -- 1,273.1 -- 2014

外部格付 2015Baa3/BB+/BBB-B3/B-/B Baa2/BBB-/BBB Ba3/B+/BB-Ba1/BBB-/BBB-

(出所)UN、IMF、CIA、外部格付(Moody's、S&P、Fitch の順)より三菱東京 UFJ 銀行国際業務部作成

外部格付については、不安定な国内体制と外貨繰りの厳しさを反映し、5 カ国で 下位の格付となって

いるものの、直近 4 月 8 日に Moody's が「マクロ経済の回復、不安定な外部環境の改善、財政・経済改

革の進行等」を背景として 1 段階格上げ(Caa1→Ba3)した他、14 年 12 月には Fitch が 1 段階格上げを

実施(表 3 参照)しており、前ムルシ政権の後半期間である 13 年 2 月の水準まで戻っている現状。

また、本年 2 月にアラブの春以降初めて発表された IMF4 条レポート上でも、楽観視は出来ないものの

現政府の取組について肯定的な評価が示され、今後 5 年間の GDP 成長率も 3.8%~5.0%と予想。外部機関

の評価からは、上向きのトレンドが感じられる。

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【表 3:外部格付推移(外貨建長期債務)】

(出所)各種報道等より三菱東京 UFJ 銀行国際業務部作成

(2)ビジネス環境

続いて、ビジネス環境を、同じく他の 4 カ国と比較してみた(表 4 参照)。

まず、日系企業進出数については、51 拠点とアフリカでは南アについで 2 番目に多く、中東において

も UAE、トルコ、サウジアラビアに次ぐ拠点数(カタールが 47 拠点)。また、現在の 51 拠点は 08 年比

で 6 拠点増加しており、国情不安定な期間を経ての数字であることを鑑みれば、同国市場に対する日系企

業の底堅い関心を示すものと考えられる。

一方、ビジネス環境を示す世界銀行の Doing Business レポートでは、189 カ国中 112 位。内訳を見る

と、信用の享受(71 位)、起業のし易さ(73 位)、対外貿易取引(99 位)については相対的に良好である

が、契約の執行(152 位)、建築認可(142 位)、少数投資家保護(135 位)等の法律・行政面で劣位にあ

ると評価されている。 後に、ビジネスの透明性を示す Corruption Perception Index では、175 カ国中

94 位となっており、ビジネスを展開する上での大きな障害とは考え難い(アジアとの比較ではフィリピ

ン(85 位)と中国(100 位)の間に位置)。

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【表 4:ビジネス関連比較】

単位 エジプト 順位 南アフリカ 順位 モロッコ 順位ナイジェリ

ア順位 トルコ 順位 基準年

拠点 51 56 239 26 37 64 18 78 121 36 2013

拠点 45 49 184 30 20 -- 11 -- 63 44 2008

Doing Business 2014

起業手続き

信用の享受

対外貿易

投資家保護

契約の執行

Corruption

Perception Index

(175カ国中)

2014

17 122 62 13

52 104 52 89

100 31 159 90

38

55

64136

54

81

94 67 80

14046152

43 71

61 129 79

170

日系企業進出数

112

73

71

99

135

(189カ国中)

(出所)外務省、World Bank、Transparency International より三菱東京 UFJ 銀行国際業務部作成

4.今後注目すべきポイント

(1)湾岸三国による経済支援

シシ大統領の就任後のエジプト経済に関し、極めて大きな影響を与えているのがサウジアラビア・UAE・

クウェートの 3 国による経済支援である。13 年 7 月の政権交代以降、サウジアラビア 78 億ドル、UAE79

億ドル、クウェート 27 億ドル、合計 184 億ドルの資金支援・エネルギー製品の援助が実施されており(内、

124 億ドルが無償供与(出所:IMF))、外貨繰りの改善と国内経済の下支えに大きく寄与している。

更に、15 年 3 月のエジプト経済開発会合において、サウジアラビア・UAE・クウェートの 3 国により、

追加で各々40 億ドル合計 120 億ドルの経済支援が発表された。この内、少なくとも 40 億ドルは中銀への

預託となると見られ、2 月末で 154.6 億ドルと発表されている外貨準備高を 26%増加させることになる(表

5 参照。ただし 3 月末は 152.9 億ドルと微減しており、上記資金供給は未実施と見られる)。

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【表 5:外貨準備高推移】

(億ドル)

(出所)政府ホームページ等より三菱東京 UFJ 銀行国際業務部作成

(2)議会選挙

13 年 7 月の解散以降、初の議会選挙が 15 年 3 月下旬と 4 月下旬の 2 回に分けて予定されていたが、3

月 2 日に「選挙区割りが公平ではない」との判断が憲法裁判所で出たことを受け、延期となっている。ま

ずは法改正に取り組んでいると見られるが、現時点では実施の目処が立っていない。

民主化プロセスを進め政権の正当性を固めるというシシ政権にとっての政治的意義に加え、実質的に排

除されているムスリム同胞団の動向や、ムバラク政権下旧勢力の再浮上に対する国民の反応等、予測が困

難な要素も多く、今後の国内情勢の安定化に向け重要な意味を持つと考えられる。

(3)治安面について

エジプト国内では、首都カイロ市内も含め継続的に爆弾テロ事件が発生しており、外国企業にとって出

張者ならびに駐在員の安全確保に関し、引続き慎重な対応が求められている状況は不変。但し、これまで

のテロの標的は、警察署や国軍検問所等の治安当局の施設が中心で、かつ簡易爆弾(IED:Improvised

Explosive Device)による攻撃が多いため、直接の被害は比較的小規模に止まっている(なお、4 月 20 日

時点での外務省の危険情報では、カイロ市内については「十分注意してください」、第二の都市アレクサ

ンドリアを含み、大半の地域は「渡航の是非を検討してください」となっている)。

現政権は国内反体制派のコントロールに注力しており徐々に治安の改善が期待されるものの、北東部シ

ナイ半島を本拠とするイスラム武装勢力「エルサレムの支援者」(ISIL への忠誠を表明)の活動や、対 ISIL

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やサウジアラビア主導のイエメン攻撃に与する事での国内原理主義者の反発等、情勢が悪化する可能性も

否定できず引続き注視が必要である。

5.おわりに

以上、述べてきた通り、経済、政治、治安に関する少なくない課題は残されているものの、IMF や外

部格付機関の高い評価にも表れている通り、多数の国民から引続き支持を得ているシシ政権の下、ビジネ

ス環境の好転に向けて主に欧米企業のエジプトへの関心は高まっている。

日本企業にとっては、まず当面はインフラ関連プロジェクトへの参入と国内市場向けの輸出相手国とし

て、更に情勢が安定した後には中東・北アフリカのみならず東アフリカ諸国から拡がるサブサハラ地域へ

のビジネス拠点として、エジプトでのビジネス機会が増大して行くことを期待したい。

三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

部長 繁田 文貴

1988 年入行。ロンドン、ニューヨーク勤務等を経て、2010 年~2014 年3 月までドバイに駐在。

現在は国際業務部にて中東・アフリカ・北米(メキシコ含)のカントリーアドバイザーを担当、同

地域における日系企業進出・事業展開を支援。

(2015 年 4 月 20 日作成)

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2.自動運転-現在の自動車業界を変える革新技術

-自動車業界に関わる全ての企業は考え、行動に移そう!(3)

前回のレポートは以下の URL をご参照下さい。

http://www.bk.mufg.jp/report/insemeaa/BW20150410

概要

20 年以内に実現するといわれる自動車の自動運転に向けて自動車業界、関連産業への予測を紹介するシ

リーズの 3 回目。今回は自動車業界の「レボリューション(革命)」を解説し、未来の自動車業界に想定

されるシナリオを紹介する。

1. 自動車業界の「レボリューション(革命)」

レボリューション(革命)

2030 年以降に完全自動運転が普及すれば、自動車の所有、利用、デザインに革命的な変化が起こり、

既存企業が対策を講じない場合は自動車業界の力学が一変する。

運は準備ができている者に味方する

新たなビジネスチャンスを生かすには、相手先商標製品の製造(OEM)メーカーとサプライヤーは今

すぐ準備し、行動を起こさなければならない。

OEM メーカーの主な注力分野(図表 6)

テクノロジーおよび IT 分野から新たな企業が参入する中、OEM メーカーは自動車バリューチェーンに

おける自らの立場を守るため、一層努力しなければならない。

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【図表 6 OEM メーカーの主な注力分野】

出所:ローランド・ベルガー

乗り心地

1 世紀以上にわたり総合的な乗り心地を追求してきた自動車メーカーは、今後もそれを生かすべきであ

る。自動運転の時代においても、乗り心地と操作性は、快適性と安全性を実証するという意味で非常に重

要である。また、自動車が運転手の期待に応えることができるかどうかは、消費者に信頼され、受け入れ

られるために極めて重要である。

予測および意思決定アルゴリズム

予測アルゴリズムの分野に必要な投資の規模を踏まえれば、求められる能力を構築するには大手 OEM

メーカーが も有利な立場にあるだろう。OEM メーカーは、それぞれの規模、利用できる資源、拡大す

る中核能力に応じて、予測アルゴリズムの開発に向けた戦略を策定し、実行しなければならない。その取

り組みを支えるものとして、OEM メーカーはすでに路上を走行している車両のデータを利用することが

できる。また、車両や顧客のアクセス制御により、新たに市場に参入しようとするテクノロジー企業に対

し自らの立場を守ることを考えることも重要である。

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アーキテクチャー

特定の機能ごとに 善のサプライヤーを選び、システムの各要素が急速に進む革新(意思決定アルゴリ

ズム、エレクトロニクスなど)から取り残されないようにするため、OEM メーカーは独自の基準を打ち

立て、明確なインターフェースを持つ集中的なアーキテクチャーを構築しなければならない。これにより、

自動化システムの開発全体で 大とはいわないまでも主要なコスト要素になるとみられる設計の妥当性

確認において重要になる特定機能分野の分離が可能になる。さらに、ハードウエアとソフトウエアを切り

離すことができれば、制御アルゴリズムとハードウエアの派生仕様に対する個々の検証が可能になり、時

間とコストの削減につながる。例えば、模擬環境(バーチャル HIL タイプ)における旧世代と新世代の

ハードウエアの処理時間に関する比較評価などが考えられる。

ビジネスモデル

OEM メーカーは、自動運転車のユーザー層を速やかに拡大し、 大限の価値を引き出すため、早期に

利用開始したユーザーに対し、価格妥当性をめぐる課題と向き合う必要がある。新たなビジネスモデルの

導入の検討が必要である。新たなビジネスモデルに関しては、システムに対する顧客の先行投資を低く抑

える一方、OEM メーカーはデータを活用し、利用回数制のモビリティーサービスを提供したり、自動運

転機能とその他の関連するサービスを抱き合わせたりするなど、他業界から学ぶことができる。

差異化分野

自動車メーカーは直ちに、完全自動運転の世界における差異化分野を見直さなければならない。この段

階になると人間が運転という行為に関わらなくなるため、運転機能に差異が生じにくくなり、重要性も低

くなる。一方、通勤時間は娯楽や仕事、休息といったその他の活動に充てることができるようになる。従

って、生産性/娯楽性に加え、乗り心地や車内の快適性が も重要になると考えられる。

自動車メーカーは、じっくりと余裕を持って完全自動運転の世界における差異化分野を見直さなければな

らない。

サプライヤーの種類別の主な注力分野

先進運転者支援システム(ADAS)には現在、機能ごとに複数の電子制御ユニット(ECU)が使用され

ているが、自動車業界ではアーキテクチャーの集中化と運転機能の自動化が進んでおり、それらがセント

ラル ECU に取って代わられる可能性がある。上述した通り、OEM メーカーは各要素が独立したコアシ

ステムを構築することにより、 良のソリューションのみを選択し、急速に進む他社の革新を利用する方

法を模索することもできる。サプライヤーは、これらの変化を踏まえ、自動運転分野における自らの適性

に従って行動しなければならない。

あらゆるソリューションを提供する大手システムサプライヤー

このカテゴリーに分類されるサプライヤーは、機械学習を含む予測および意思決定アルゴリズム技術に

大々的な投資を行い、買収先として「深層学習」機能に関する確かな経験を持つ専門/スタートアップ企

業を選び出すことを目指すべきである。そうすれば、小規模 OEM メーカーに革新と解決策を提供し、安

全性にとって極めて重要なシステム(自動車安全度水準(ASIL)D レベルの安全性)を実現することに

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よって、自動運転車ビジネスに参入し、存在感を維持することができる。早い段階で小規模 OEM メーカ

ーと提携することで、人工ニューラルネットワーク(ANN)の構築に必要な実際の路上データを利用で

きる可能性もある。

OEM メーカーがバリューチェーンの分解を招かないようにするには、サプライヤーは業界の力学に影

響を及ぼす責任の問題を強調しながら、同時にアーキテクチャーに関する独自の規格に取り組めばよい。

しかし、この分野には巨額の投資が必要であるため、長期的には世界的大手以外が取り組むのは難しいと

思われる。

すでに ADAS および安全性の分野で積極的な取り組みを行っている専門サプライヤー

単独の支援システムを供給しているサプライヤーは、ECU アーキテクチャーの集中化をはじめとする

現在の流れによって大きな圧力をかけられることになる。従って、これらのサプライヤーは、機能の革新

に注力するのではなく、コストを意識した量産/低価格市場に照準を合わせるべきである。

技術革新を中心とするサプライヤー

これらの企業は、自社の技術に注力しながら、それぞれの分野で世界トップ 3 に入るべく必要な投資を

行わなければならない。テクノロジーリーダーとして、また 1 次サプライヤーとしての地位を確保するに

は、これしか方法はないと思われる。例えば、アクチュエーターのさらなる機能統合によりコストを削減

する、あるいはカメラに関しては、ANN 技術を駆使してハードウエアの低コスト化を図るなどの方法が

ある。

2. 未来の自動車業界に想定されるシナリオ

進化の後には革命が起こる

完全自動運転が実現すれば、自動車の所有、利用、デザインが根底から変わることになる。

革命的な変化が起こる

ここまでは漸進的な変化について論じてきたが、完全自動運転は大きな転換点として自動車業界に革命

をもたらす。自動車の個人所有は長期的にも消滅することはないだろうが、自動車の所有構造とデザイン

は劇的に変化するはずだ。

完全自動運転機能を搭載した自動車は、乗客の元に向かい、移動が終われば別の乗客のところに行くか、

自動で駐車する。弊社は、現在のハイヤー、タクシー、相乗り、レンタカーが低コストで無人のオンデマ

ンドによるモビリティーサービスに統合されると考えている。コストが低く、利便性が高いため、このオ

ンデマンドによるモビリティーサービスは市街地や郊外での個人の移動や毎日の通勤の足として定着し、

広く利用される可能性がある。これによって、今まで(1)~(3)*で述べたように自動車を中心とした

現在の交通業界に混乱が生じるだけでなく、自動車業界自体が影響を受けることはほぼ間違いない。

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オンデマンドのモビリティーサービスが広く利用できるようになり、普及が進めば、車両は使用事例と

乗客のニーズに基づき、特定の用途を想定して設計されるようになる。これには、以下のようなものが挙

げられる。

1. 市街地や郊外での移動、公共交通機関などから目的地まで移動するための短距離自動車

2. 郊外と市街地の両方に使用される中長距離自動車

3. 個人所有のための多目的自動車

図表 7 に想定されるデザインの概要、図表 8 に使用事例の見本を示す。

短距離自動車は、オンデマンドによるモビリティーサービスの一環として利用される可能性が高い。通勤

や用事の大半にコストが低く利便性の高い自動運転車が利用され、各家庭におけるセカンドカーの所有が

急激に減少すると予想される。しかし、より個人のニーズに合った移動を実現し、また自動車の所有によ

って個性を表現するという一部の顧客のニーズに応えるものとして、自動車の所有は継続するものとみら

れる。

駐車場では、オンデマンドのモビリティーサービスを提供する完全自動運転車が主体となる。市場構造

は高度に細分化された個人による自動車の所有から、極めて集中的なモビリティーサービス提供者による

所有へと変化し、それに伴い自動車市場は均質化し、自動車に関するビジネスモデルは様変わりする。

全体として、個人向けの自動車に対する需要は減少する。ただし、自動車の所有を通して個性を表現しよ

うとする人々による高級車志向は強まるだろう。

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【図表 7 用途に基づくデザイン】

想定される自動車のデザインの例

出所:ローランド・ベルガー

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【図表 8 使用事例の見本】

出所:ローランド・ベルガー

パワー・バランスのシフト

将来のパワー・バランスは、顧客関係と主要技術の所有者によって決まる。個人の移動手段に対する好

みと主要技術(例えば、新たな状況予測および意思決定アルゴリズム技術)が、将来の自動運転車のエコ

システムを形作る主な要因となる。どのような移動手段が好まれるかによって、移動者の選択と自動車の

所有構造が決まり、主要技術により、バリューチェーンにおいて誰が利益の大部分を獲得するのかが明ら

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かになる。

顧客関係と主要技術の所有者を組み合わせると、 終段階のシナリオを幾つか導き出せる。各シナリオ

では相手先商標製品の製造(OEM)メーカーとサプライヤーそれぞれに固有の課題を示す。分析しやす

くするため、自動車の未来を個人所有とオンデマンドによるモビリティーサービスに分けた(図 9)。

A. 自動車の個人所有

ここでは、状況予測および意思決定アルゴリズムが引き続き権力バランスを左右する要素であり、二つ

のシナリオが想定される。

シナリオ A1:従来通りのビジネス

従来の OEM メーカーとサプライヤーが新たなテクノロジー企業を退け、独自の状況予測および意思決

定アルゴリズムを開発できる。将来のビジネスモデルと自動車の所有者との関係には、ほぼ変化はない。

シナリオ A2:テクノロジーサプライヤーへの権力の移動

第三者であるテクノロジー企業が予測および意思決定アルゴリズムをめぐって優位に立ち、従来の

OEM メーカーおよびサプライヤーは技術の使用を許可され、将来的にこれらの企業に依存せざるを得な

くなる。従来の企業ではなく、第三者であるそれらのテクノロジー企業が新たに創出される価値の大部分

を獲得する。

B. オンデマンドによるモビリティーサービス

ここでは、両方の要素(予測および意思決定アルゴリズムと移動手段)が権力バランスに影響を与え、四

つのシナリオが想定される。

シナリオ B1:従来通りのビジネス

従来の OEM メーカーとサプライヤーが必要な状況予測および意思決定アルゴリズムを開発し、独自の

サービスでオンデマンドによるモビリティーサービスを独占する。このシナリオでは、従来の OEM メー

カーが引き続き自らのブランド価値を生かし、 終顧客との関係を維持する。新たなモビリティーサービ

スが追加される以外は、自動車業界における現在のビジネスモデルにほぼ変化はない。

シナリオ B2:テクノロジーサプライヤーへの権力の移動

モビリティーサービスは OEM メーカーが独占するが、状況予測および意思決定アルゴリズムではテク

ノロジー企業が優位に立つ。このシナリオでは、OEM メーカーは状況予測および意思決定アルゴリズム

を提供する 2、3 社のテクノロジー企業に依存するようになる可能性が高い。従って、OEM メーカーの

利益は比較的少数のテクノロジー企業に脅かされる。

シナリオ B3:車両ビジネス 2.0

新規参入企業がモビリティーサービス市場を独占するが、予測および意思決定アルゴリズムに関しては

OEM メーカーが優位に立つ。このシナリオでは、モビリティーサービス提供者に対する車両の販売に占

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める OEM メーカーのシェアが大幅に拡大し、販売部門の重要性が高まる。しかし、モビリティーサービ

ス提供者は一部の自動車 OEM メーカーが提供する技術に依存することになり、新たな権力バランスが図

られる。将来は自動車販売のかなりの部分を企業間で販売される「標準化された」車両が占めるため、内

部の複雑性と販売およびマーケティングに掛かる費用は大幅に低下する。そのため、車両価格が下落して

も実質的には OEM メーカーにとってプラスの結果となる。また、 終消費者にも移動コストが低下する

というメリットがある。

シナリオ B4:OEM メーカーの 1 次サプライヤーへの変化

第三者である自動車相乗りサービス提供企業がモビリティーサービスを独占し、テクノロジー企業が状

況予測および意思決定アルゴリズムで優位に立つ。この自動車業界にとって「 悪」のシナリオでは、従

来の OEM メーカーとサプライヤーにはモビリティーサービス提供者向けに専用の車両を製造する契約

メーカーとしての役割しか求められなくなり、テクノロジー企業が も大きな利益を得る。従来の OEM

メーカーとサプライヤーの利益が も大きな圧力と危険にさらされるのは、このシナリオである。

【図表 9 最終段階に関するシナリオ】

主要技術の所有者と顧客関係に基づくシナリオ

出所:ローランド・ベルガーの分析

考える:未来のために今すぐ行動する!

現時点での行動計画を定め、明るい未来を手に入れるためには、将来のシナリオをしっかりと分析する

ことが必要である。今後 15 年にわたる自動運転の進化の段階では、OEM メーカーとサプライヤーは利益

を得ながら、その後の革命的な変化に備えなければならない。幸いなことに、その電車はまだ完全に駅を

出発してはいない。シナリオ分析と綿密な計画、具体的な行動によって、自動車業界には明るい未来のた

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めに考え、行動するチャンスが残されている。

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記事提供:ローランド・ベルガー

(2014 年 12 月 25 日作成)

ローランド・ベルガーは、欧州を起点に世界中で皆さまに貢献するグローバル

戦略コンサルティングファームとして、日米欧をはじめ、アジア、南米、中東、

北アフリカなど世界 36 カ国に 51 オフィスを展開しています。

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3.ロシア自動車市場の最新動向と見通し

要旨

欧州ビジネス協会(AEB)は毎月ロシアの乗用車販売データを提供しているが、2015 年1月 15 日には 2014 年

通年のそれを発表したので、今号ではそのデータを基に同年のロシアにおける自動車販売市場について報告す

る。なお、本稿はロシア NIS 貿易会の定期刊行物である『ロシア NIS 経済速報』(2015 年1月 25 日号「2014

年のロシアの乗用車販売動向」)、『ロシア NIS 調査月報』(2015 年4月号「2014 年のロシア乗用車市場の総括 ―

年末に出現した駆け込み需要」)をベースとしていることを予めお断りしておく。

2014年の動き 2014年のロシアにおける新車(乗用車+小型商用車)の販売台数は249万台、前年比10.3%減であり(図表1)、

2012年のピーク(294万台)から2年連続で前年割れとなった。

同年は年初からロシア国内で生産される自動車もリサイクル税の対象になったこともあって、1月から前年同月

比マイナスが続いた。さらには欧米の対ロ制裁発動を受け、消費者の間で高価な耐久消費財の買い控え傾向が生

まれ、夏以降の原油価格の下落とルーブル安というマイナス要因が加わって、8~9月は連続で前年同月よりも

20%以上落ち込んだ。

しかしながら、10月以降は同じ状況がプラスへと働いた。「(ルーブル安が販売価格にほぼ全面的に反映される

ことになる2015年1月までに)比較的安価な2014年製の乗用車を購入しておこう」「ルーブルの価値が下がるのは

不可避なので、乗用車のような資産価値の高い耐久消費財に代えておいた方が無難」という消費者心理が働いた

ことで、12月にはついに過去2年間の実績すら上回ったのである(図表2)。

ブランド別/モデル別販売台数

図表3~4は、ブランド別ならびに主要モデルの販売台数である。これらのデータを見ると、日系ブランドの

数字は必ずしも悪くないことがわかる。

国内 大手のAvtoVAZとルノー・日産自動車は合わせて76万4,245台と前年比で7%減少したものの、日産(アル

メーラ除く)に限れば、16万2,010台(同10.7%増)を記録している(2014年にロシアで市場投入されたダットサ

ンの販売台数は通年で1万1,414台であった)。日産以外の日系自動車メーカーでも、マツダ:4万3,1791台(同

7.5%増)、トヨタ自動車(レクサスを除く):16万1,954台(同6.2%増)、スバル:1万7,557台(同4.3%増)、

三菱自動車:8万134台(同1.8%増)となっている。一方、スズキは1万9,931台(同28.1%減)と大幅に下落、ホ

ンダも2万655台(同15.5%減)のマイナスだった。

モデル別に見ると、首位はAvtoVAZが手掛ける「ラーダ」ブランドの「グランタ」(15万2,810台/前年比8.5%

減)、2位は韓国・現代自動車の「ソラリス」(11万4,644台/同0.6%増)、3位には韓国・起亜自動車の「ニュ

ー・リオ」(9万3,648台/同4.3%増)がつけている。なお、日系自動車メーカーでは、日産の「アルメーラ」(4

万6,225台/94.4%増)が10位であった。

今後の見通し

2014年12月単月の販売台数は27万653台(前年同月比2.4%増)まで増えたが、上述のとおり、その主な要因は駆

け込み需要であり、AEBは景気低迷を受け、2015年は約189万台(前年比24%減)とみている。乗用車市場を取り

巻く環境は厳しいといわざるをえず、ロシア経済の屋台骨を支える石油ガス分野を取り巻く環境の厳しさを勘案

すると、市場の停滞傾向が長期的に続く可能性も視野に入れておく必要があるだろう。

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図表 1 ロシアにおける乗用車販売台数の推移 (1,000台)

2,897

1,466

1,913

2,653

2,9392,778

2,491

0

1,000

2,000

3,000

4,000

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年

(注)新車のみ。小型商用車を含む。以下の図表も同様。

(出所)欧州ビジネス協会(AEB)。以下の図表も同様。

図表2 ロシアにおける月別の乗用車販売台数の推移

(台)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

2012年 154,613 207,304 253,100 266,597 261,461 272,600 255,926 259,051 259,962 254,020 240,577 253,579

2013年 162,077 210,663 244,030 245,265 229,506 241,072 234,365 231,915 246,895 234,481 232,059 264,307

2014年 152,662 206,476 243,335 226,526 201,487 199,398 180,767 172,015 197,233 211,365 229,439 270,653

0

100,000

200,000

300,000

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図表3 ロシアにおけるブランド別の乗用車販売台数 (台)

順位 ブランド 2013 2014 前年比増減率(%)

1 Lada 456,309 387,307 ▲ 15.12 KIA 198,018 195,691 ▲ 1.23 Renault 210,099 194,531 ▲ 7.44 Hyundai 181,153 179,631 ▲ 0.85 Nissan 146,319 162,010 10.76 Toyota 154,812 161,954 4.67 VW 156,247 128,071 ▲ 18.08 Chevrolet 174,649 123,175 ▲ 29.59 Škoda 87,456 84,437 ▲ 3.510 Mitsubishi 78,747 80,134 1.811 GAZ LCV 82,395 69,388 ▲ 15.812 Ford 106,734 65,966 ▲ 38.213 Opel 81,421 64,985 ▲ 20.214 Mazda 43,179 50,716 17.515 UAZ 51,624 49,844 ▲ 3.416 Mercedes-Benz 44,376 49,165 10.817 Daewoo 60,829 37,695 ▲ 38.018 BMW 42,071 35,504 ▲ 15.619 Audi 36,150 34,014 ▲ 5.920 SsangYong 34,055 25,010 ▲ 26.621 Lifan 27,467 23,619 ▲ 14.022 Land Rover 21,030 21,148 0.623 Peugeot 33,862 21,102 ▲ 37.724 Honda 25,741 20,655 ▲ 19.825 Citroёn 28,961 20,075 ▲ 30.726 Suzuki 27,724 19,931 ▲ 28.127 Lexus 15,768 19,149 21.428 Geely 27,263 18,828 ▲ 30.929 Chery 19,855 18,139 ▲ 8.630 Subaru 16,831 17,557 4.331 Volvo 15,017 15,421 2.732 Great Wall 19,954 15,005 ▲ 24.833 VW vans 15,915 12,612 ▲ 20.834 Datsun - 11,414 -35 Mercedes-Benz Vans 5,247 11,020 110.036 Infiniti 8,677 8,983 3.537 Jeep 5,250 8,221 56.638 FIAT 8,001 8,102 1.339 Porsche 3,790 4,707 24.240 FAW 4,838 2,164 ▲ 55.341 MINI 2,800 1,750 ▲ 37.542 SEAT 3,375 1,641 ▲ 51.443 Jaguar 1,710 1,628 ▲ 4.844 Cadillac 1,513 1,324 ▲ 12.545 Changan - 1,144 -46 Acura - 1,106 -47 BAW 1,594 1,082 ▲ 32.148 Haima 401 1,009 151.649 Brilliance - 955 -50 Isuzu 213 766 259.6- Total 2,777,547 2,491,404 ▲ 10.3

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図表 4 ロシアにおける主要モデルの販売台数 (台)

順位 モデル ブランド 2013 2014 前年比増減率(%)

1 Granta Lada 166,951 152,810 ▲ 8.5

2 Solaris Hyundai 113,991 114,644 0.6

3 New Rio KIA 89,788 93,648 4.3

4 Duster Renault 83,702 76,138 ▲ 9.0

5 Kalina Lada 67,960 65,609 ▲ 3.5

6 Largus Lada 57,641 65,156 13.0

7 Logan Renault 50,894 60,434 18.7

8 Polo VW 72,565 58,953 ▲ 18.8

9 Priora Lada 57,683 47,818 ▲ 17.1

10 Almera Nissan 15,704 46,225 194.4

11 Niva Chevrolet 53,344 43,441 ▲ 18.6

12 4x4 Lada 51,693 42,932 ▲ 16.9

13 RAV 4 Toyota 39,885 38,919 ▲ 2.4

14 Sandero Renault 43,737 36,849 ▲ 15.7

15 Octavia A7 Skoda 13,663 35,292 158.3

16 ix35 Hyundai 31,706 34,814 9.8

17 Camry Toyota 32,895 34,117 3.7

18 Qashqai Nissan 40,739 31,710 ▲ 22.2

19 Sportage KIA 33,451 30,606 ▲ 8.5

20 New Cee'd KIA 34,981 29,758 ▲ 14.9

21 Cruze Chevrolet 54,367 29,640 ▲ 45.5

22 Outlander Mitsubishi 26,542 28,969 9.1

23 Focus Ford 67,142 27,860 ▲ 58.5

24 Corolla Toyota 30,644 27,704 ▲ 9.6

25 CX-5 Mazda 19,725 24,953 26.5

記事提供:一般社団法人ロシア NIS 貿易会

ロシア NIS 経済研究所 次長

芳地 隆之

(2015 年 4 月 15 日作成)

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(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

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