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ローランド・ベルガー東京、進化型ピラミッドコミッティ
100 個の能力を見える化し、全社員が加速成長で進化
プリンシパル
徳本直紀
◆ミッションは「ピラミッドの正常化と
拡大」
進化型ピラミッドコミッティでは、人材
が少しでも速く成長し、質量ともに拡大す
るための活動を行っています。
ローランド・ベルガー東京オフィスでは
以前、社内の人材をポジション別に棒グラ
フで人口ピラミッドのような図をつくった
ことがあり、その際、シニアコンサルタント
やプロジェクト・マネジャーなど中間層の
少ない、いびつな形になっていました。その
ため、2000 年代半ばから「ピラミッドの正
常化」に向けて、採用活動だけでなく、内部
昇格にも力を入れてきました。そして今回、
コミッティ活動が始動したのを機に、個々
人が自律的に成長しながらピラミッド全体
を拡大させようという考え方が加わりまし
た。
◆能力ポートフォリオの構築
このミッションを遂行するために、私た
ちが最初に取り組んだのが「能力ポートフ
ォリオ」の構築です。
コンサルティングの仕事では、特に「人」
が重要な資産であり、お客様に価値をもた
らす源泉です。その一方で、価値提供の方法
は 1 つではありません。お客様に寄り添っ
て課題を聞き出すのが得意な人、新しくユ
ニークなアイデアを出すのが得意な人、ビ
ジネス・デューデリジェンス分野が強く複
雑なモデルを組んで数値分析するのが得意
な人、など多種多様なので、いろいろなアプ
ローチが可能であり、全員が紋切り型に同
じ能力を備える必要はありません。
また、苦手なことを克服するよりも、それ
ぞれ得意なことを伸ばしたほうが、楽しく
仕事ができ、高いパフォーマンスも出せま
す。その中で、苦手なことを少しずつ解消し
ていくほうが人材は育ちますし、それが教
育の基本だと考えます。
このような考え方に立ち、コンサルタン
トがお客様に価値を創り出すために不可欠
な能力を抽出し、誰がどのくらいその要素
を備えているかを見える化することにしま
した。
◆どんな能力が見えればいいのか?
しかし、そう簡単な作業ではありません
でした。そもそも、どんな能力を見える化す
ればいいのか。コンサルタント全員が等し
く持つべきロジカルシンキングなどの必須
能力を抽出するだけでは、従来のアプロー
チから抜け出せません。これまで取り出せ
ていなかった能力も含めて、できる限り、多
様な能力を捉えたいと考えていました。
いろいろ議論をした末、「仕事上、お客様
に価値創出にどれだけ役立つか」を基点と
しながら、過去に経験してきた業界(自動
車、ヘルスケアなど)や地域、扱ったテーマ
や機能(製造、調達、マーケティング等)、
必須のハードスキル、経験で培ってきたソ
フトスキル(クライアントの巻き込み力、伴
奏力、仲間企業と協業するスキル等)などの
軸を決め、全体で 100 項目を選び出すこと
にしました。
ただし、業界や地域などは分け方次第で
すぐに何十項目にもなります。どの粒度で
括って管理するかという絞り込みにも苦労
しました。ですが、こうしたことにそもそも
正解があるはずがありません。完璧さや網
羅性を目指すよりも、ある程度、割り切りな
がら作業を進めました。
◆能力の有無やレベルの違いはどう判断す
るか?
能力を選定した後、アンケートの形でコ
ンサルタントに自己申告してもらったので
すが、ここにもハードルがありました。忙し
い業務の合間を縫って、100 項目に回答す
るのはかなり手間がかかります。しかも、何
をもってその能力があると言えるのか。そ
れが高いレベルにあるかどうかもどう判断
すればよいのか。答えにくければ、みんなア
ンケートに協力してくれません。
ここで再び、自社の業務特性についてじ
っくりと考えてみました。コンサルティン
グの仕事では、あるテーマのプロジェクト
を 1 度でも経験したことがあるかどうかは
重要な違いとなります。さらに、その経験が
1 回か複数回かでも、蓄積する知見は大き
く異なります。そこで 0 回、1 回、2 回以上
かの識別を優先させることにしました。そ
のうえで、その能力について講演や書籍な
どで発信できれば、専門家レベルとみなす
ことにしたのです。
自己申告スタイルには、人によって回答
にバラツキが出やすくなるという問題もつ
きまといます。そこで工夫したのが、客観
的、相対的な視点を入れることです。ローラ
ンド・ベルガーにはメンター制度があり、多
数の人を見てきたプロジェクト・マネジャ
ー以上がメンターになります。アンケート
には本人だけでなく、メンターの視点も入
れて、本人が気づいていない部分や過大評
価している部分などを調整できるようにし
ました。本人には現状の能力だけでなく、こ
れから強化したい能力も申告してもらい、
メンターが育成の参考にできる仕掛けも入
れました。
このような方針でアンケートのたたき台
をつくり、コミッティメンバーに何回もサ
ンプルで回答してもらいながら、答えやす
くなるように修正を重ねました。
◆変化を楽しめる仕掛け
ところで、社内の知見を見える化する活
動は、過去にもナレッジ・マネジメントとし
て一世風靡しました。その流れで社内のナ
レッジ・データベースを作ったものの、次第
に使われなくなり、下火になったという企
業も多いのではないでしょうか。その一因
は、一回入力した後、データが更新されない
ことにあります。
私たちは日々の仕事の中で新しい経験を
どんどん積み、能力が向上していきます。特
に「進化型」を名乗る以上、静的なデータベ
ースではなく、動的に変化を捉えることが
大切です。そこで、私たちの能力ポートフォ
リオでは、レベルアップした能力について
差分更新し、常に社員の能力の現状が反映
される設計にしました。
ビジュアル面にもこだわりました。100
個の能力を一覧表にし、色の濃淡でレベル
感を表して、自分の現状を把握し変化を追
跡できるようにしたのです。色が濃くなれ
ば、その能力が高まった証であり、成長を実
感できるというわけです。
なお、能力ポートフォリオは評価に直接
的に結びつけないことも宣言しました。100
個のうち 40 個がレベル 3 になると評価が
高まるというようなやり方をとると、自己
申告を歪めたり、苦手なものを埋めようと
したりしがちになります。それでは、「得意
な能力を認識し伸ばす」という当初の思想
とは離れてしまうので、この点には細心の
注意を払いました。
その結果、回答率は順調で、「能力ポート
フォリオの活用」という次のフェーズに入
る準備が整いつつあります。
◆能力ポートフォリオを活用した人事施策
と加速成長
コミッティでは現在、採用、アサイン、社
内教育、メンタリングなどのサブコミッテ
ィに分かれて活動中です。そして、能力ポー
トフォリオがチーム活動のコアとなってい
ます。
採用活動では、社内の人に足りない能力
や、オフィスとして強化すべき能力の把握
に使います。もちろん、面接だけで 100 個
の能力を見極めるのは不可能ですが、必要
なバックグラウンドや経験を考えるときの
1 つの目安になります。
仕事のアサインでは、適所適材に役立ち
ます。ある仕事に必要な能力を持っている
人は、能力データベースを見ればすぐに探
し出せます。
教育関連では、強化したい能力を集計す
れば、みんなが学びたいと思っている能力
やニーズが把握できます。その能力に長け
た人も探せるので、講師になってもらい、全
体のレベルアップを図ることができます。
メンタリングでは、メンティのスキル開
発を支援するときに、何が強みか、弱みかと
いう点で、相互の意識をすり合わせる土台
として活用できます。
現状はまだ道半ばですが、各チームで試
行錯誤しながら、より良い活動を目指して
います。
◆能力を流通させる
私たちの社内では、能力を「流通」させる
という表現をよく用います。これは、ある人
の能力を別の場所に持っていって活用した
り、別の人に移転したりすることで、それぞ
れの仕事の質が高まることを意味します。
たとえば、会議でみんなの意見を引き出し
ながら、ある方向にまとめていくファシリ
テーションは重要なスキルですが、全員が
上手なわけではありません。そこで、上手な
人がコツやポイントを教えて、苦手だった
人も一通りこなせるようになれば、ファシ
リテーション能力が流通したということに
なります。
能力の流通を促進するために、100 項目
のそれぞれについて、社内で一番優れてい
る人をスキルマイスターに認定する制度を
設けました。「社内で相対的に見て、あなた
はこれが得意です。ぜひこのスキルを流通
させて活躍してください」というメッセー
ジは、当人にとって嬉しいことですし、自信
にもなります。他の人から相談されたり、頼
りにされる機会が増えることで、プロジェ
クトに関係なく、もっと詳しくなろうと自
己研鑽を始めます。こうした仕組みを入れ
た結果、実際に、新しい能力を身に着け、自
律的に成長しようとするポジティブな動き
が少しずつ出始めています。
◆加速成長で進化していく
成長スピードを加速させる施策もとり始
めました。たとえば特例昇進は、定例の昇進
賞与の時期とは関係なく、きわめてパフォ
ーマンスの高い人を速やかに次のポジショ
ンに抜擢し、経験を積ませようというもの
です。ローランド・ベルガーには昔から「ポ
ジションが人をつくる」というカルチャー
があったのですが、スピード感を高めてそ
れを実施しようとする試みと言えます。
加速成長で重要なのは、PDCA サイクル
をどれだけ高速で回すかです。まずはいろ
いろ試して、うまくいけば、その良さを伝え
て、みんなにも広める。個人としても、コミ
ッティとしても、「進化」にこだわりながら、
取り組んでいきたいと思っています。
プリンシパル
徳本 直紀
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、ローランド・ ベルガーに参
画。 製薬、医療機器のヘルスケア領域および、自動車の分野を中心に幅広
いクライアントにおいて、全社戦略、マーケティング、デジタル化、オペ
レーション改革のプロジェクトを多く有する。