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JSGE 1898 JSGE 1898 炎症性 腸疾患 炎症性 腸疾患 (IBD) 日本消化器病学会 編集 協力学会:日本消化管学会,日本大腸肛門病学会 協力機関: さんと のための 患者 ご家族 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班

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JSGE

1898

         

についてお話しします

         

についてお話しします

炎症性腸疾患

JSGE

1898

炎症性腸疾患炎症性腸疾患(IBD)

日本消化器病学会編集

協力学会:日本消化管学会,日本大腸肛門病学会協力機関:

さんと のための患者 ご家族

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班

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Q1 炎症性腸疾患(IBD)はどんな病気ですか?

炎症性腸疾患は、英語ではinflammatory bowel diseaseと呼ばれ、その頭文字をとってIBD(アイビーディー)と略されます。IBDは、広い意味では腸に炎症を起こす全ての病気を指しますが、狭い意味では「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことを意味します。潰瘍性大腸炎もクローン病も今のところ原因がはっきりとはわかっておらず、このため発症すると長期間の治療が必要な慢性の病気です。また、長期的には病状が悪い時期(再燃期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返すのが特徴です。近年、医学の進歩に伴いIBDの病気のしくみが少しずつ解明され、遺伝や環境、腸内細菌の異常などの要因がさまざまに関わり、体内で免疫異常が起こり発症することがわかってきました。衛生状態が整った先進諸国に多い病気で、欧米型の食生活も関与していると考えられています。若い人に発症することが多く、日本では1990年代以降、急激に患者数が増え続けており、潰瘍性大腸炎は20万人(米国に次いで世界で2番目に多い)、クローン病は7万人を超える患者さんがいます。潰瘍性大腸炎、クローン病ともに医療費の一部を国が補助する特定疾患(いわゆる難病)に指定されています。最近では、有効なお薬が数多く出てきたため、症状をコントロールできる患者さんが多くなってきました。IBDが疑われるような症状(下痢、血便、腹痛、体重減少、発熱など)が出現した場合は、医療機関を受診し、早期に診断を受けることが重要です。また、診断後には適正な治療を継続することが必要で、定期的な通院や検査が大切です。患者さんの病状ごとに治療法が異なりますので、必要なときは主治医と相談し、専門施設を受診するようにしてください。

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Q2 IBD になるとどのような症状が出て、生活にどのように影響しますか?

50454035

2530

20151050

(%)50

(%)

腹膜炎症状

イレウス症状

腹部腫瘍

外瘻

浮腫

関節痛

嘔気・嘔吐

便秘

顔面蒼白

肛門部病変

発熱

肛門痛

体重減少

食欲不振

腹部膨満

貧血

腹鳴

腹部圧痛

倦怠感

易疲感

腹痛

腹部不快感

下痢

粘血便

腹膜刺激

浮腫

関節痛

腹部腫瘍

イレウス症状

便秘

外瘻

細小便

瘻孔形成

血便

発熱

体重減少

腹部膨満

痔瘻

肛門部症状

貧血

倦怠感

腹痛

下痢

454035302520151050

腸の炎症は、下痢、腹痛、血便などの症状を惹き起こします。IBDの種類や、腸のどのあたりで炎症が起こっているかによって症状の出かたや強さが異なり、潰瘍性大腸炎では血便を認めることが多いですが、クローン病では血便はあまり多くありません。重症の潰瘍性大腸炎やクローン病で腸が狭くなる(狭窄がある)と、腹痛が起きたり(ただし、同じような状態でも腹痛を感じない患者さんもいます)、発熱や倦怠感などの全身の症状を惹き起こすこともあります。ほかにも、口の粘膜の潰瘍、目の炎症や手足の関節の痛み、皮膚の炎症など、さまざまな症状を惹き起こすことがあります。クローン病の患者さんでは、およそ半数に肛門に炎症を伴う「痔ろう」(膿が出る穴を伴う痔)という合併症が生じ、膿がたまって痛みを感じたり、膿が出てきたりします。

 

多くの患者さんでは、診察やお薬による治療、検査のために定期的な通院が必要です。しかし、症状が落ち着いていれば、健康な人と同じように就学や就労は可能です。また、妊娠や出産も可能です。IBDは、症状が落ち着いていても腸の炎症は続くため、病状が進行することはまれではなく、また、発病してからの期間が長くなると「がん」が生じる可能性もあるため、定期的な診察や検査は欠かせません。

潰瘍性大腸炎(左)とクローン病(右)の主な症状 (難治性炎症性腸管障害に関する調査研究,2007)

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Q3 IBDはどのように診断し、どのような検査が必要ですか?

潰瘍性大腸炎、クローン病は、ともに腸に慢性の炎症をきたし、腸の粘膜の浮腫(むくみ)、潰瘍(炎症による粘膜のはがれ)、出血などを起こします。なお、潰瘍性大腸炎は原則として大腸にのみ起こりますが、クローン病は口から肛門まで消化管(食道、胃、十二指腸を含む小腸、大腸、肛門)のどこにでも起こり、とくに小腸と大腸に発生します。またクローン病では、肛門部に特徴的な炎症による「痔ろう」(膿が出る穴を伴う痔)をしばしば伴います。

潰瘍性大腸炎潰瘍性大腸炎は、血便や下痢、腹痛などの症状が、慢性的に続くのが特徴です。血液検査では、貧血や炎症反応に関する項目の異常を認めることがあります。自覚症状や血液検査の異常が続く場合に潰瘍性大腸炎を疑い、診断には大腸の内視鏡検査を行い、炎症の状態や範囲を調べます。なお、内視鏡検査のときに組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査(生検組織検査)を同時に行うこともあります。その他の検査法として、肛門に挿入した管から大腸にバリウムを注入してX線で見る検査もありますが、最近はあまり行われなくなっています。

クローン病クローン病は、主に若い人で、下痢や腹痛、発熱、体重減少、貧血などの症状が続くのが特徴です。肛門部に痔ろうを伴う患者さんも多くいます。血液検査では、貧血、栄養状態の悪化、炎症に関する項目の悪化などがみられます。自覚症状や血液検査の異常が続く場合にクローン病を疑い、大腸や小腸の内視鏡検査やバリウムを用いたX線検査を行い診断します。小腸の観察には肛門から挿入した内視鏡が大腸を通過してその先にたどり着く必要があるため、以前は観察が困難とされてきました。しかし、近年では先端に風船が付いたバルーン内視鏡を用いることで観察できるようになりました。また、口から飲み込むカプセル型の内視鏡が小腸の診断に役立つ場合がありますが、腸に狭窄があるとカプセルが詰まる危険があるため、カプセル内視鏡を用いるときは事前に同じサイズのダミーのカプセルによる検査で通過可能であるかを確認します。

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クローン病では、腸にさまざまな形や大きさの潰瘍が生じるため、確認のために内視鏡検査や病理検査を行います。また腸に狭窄や瘻孔(腸に深い潰瘍ができて皮膚やほかの臓器との間に通路ができた状態)、膿瘍などを疑う場合は、腹部のCT検査やMRI検査を行うことがあります。

ほかの病気との区別のためにIBDを正確に診断するためには、食中毒の原因になる細菌や結核菌、アメーバ赤痢などの感染による腸炎と区別する必要があります。このため、便の細菌の検査を行ったり、特殊な血液検査、結核に関してツベルクリン反応などを行います。また、お薬(解熱鎮痛薬など)でもIBDに似た腸炎を生じることがあるため、患者さんには現在飲んでいるお薬についてお伺いします。

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Q4 IBDと診断されたら日常生活でどのような注意が必要ですか?

潰瘍性大腸炎、クローン病では多くの場合、症状が悪化した活動期と症状が落ち着いている寛解期を繰り返します。現在、IBDはお薬による治療で良好なコントロールが可能になりつつありますが、寛解のときでも再燃(再発・悪化)しないように治療を継続することが大切です。病状に合わせた治療を行うため、定期的な通院は欠かせません。病状が悪化して外来での治療で十分な効果が得られない場合は、入院治療や外科治療が必要になります。一般的に、生活面を過度に制限する必要はありません。長く病気と付き合ううえで、病状に合わせて患者さん自身で適切な過ごし方を見つけられるとよいでしょう。寛解期にはストレスや疲労をため過ぎない、暴飲暴食をしないといった基本的な注意を行いましょう。活動期には十分な睡眠・休養をとり、食事内容に注意しましょう。食事内容は腸にやさしい食品が望ましいとされ、バランスのよい食事をとることが重要です。外食のときなどは食事内容について細かく制限することは難しいと思われますので、ご自身に合わない食品は避けて、食べられそうなものを選んで食べるようにしましょう。活動期には、消化のよくない繊維質の多い食品や脂肪分や油分の多い食品、香辛料、酒類は避けたほうがよいでしょう。クローン病ではこうした腸の負担になる成分を避けて腸の安静を図る治療法(栄養療法)を行うことがあります。なお、クローン病では喫煙が入院や手術のリスクを高めることがわかっており、禁煙が強く勧められます。

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就労 就学

就学や就労は、病状や通院によって制限が生じる場合もありますが、寛解期では健康な人と変わりなく行うことが可能です。病状が落ち着いていて、貧血や栄養状態の悪化などがなければ、適度な運動は行ってもよく、実際にスポーツ選手のなかにも潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんがいます。結婚、妊娠、出産も可能です。ただし、妊娠、出産、授乳には服用しているお薬や病状、過去に行った手術が影響する場合もあります。また、妊娠は寛解期にすることが望ましいとされ、妊娠中も寛解の維持が重要とされていますので、妊娠・出産を希望する際は主治医に事前に相談してください。現在は治療法も多く、ライフスタイルに合わせて治療を選択することも可能になってきています。できるだけご自身の望まれる生活が可能になるよう、主治医とよく相談しましょう。

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Q5 IBDと診断されたらどのような治療が必要ですか?ー①潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は症状の強さから「軽症」、「中等症」、「重症」、「劇症」に分類されます。軽症の患者さんが60%以上、中等症はおよそ30%、重症および劇症は5%未満です。また病変の範囲から、炎症が直腸だけの「直腸炎型」、直腸から下行結腸までの「左側大腸炎型」、横行結腸より口側に及ぶ「全大腸炎型」に分類され、治療方針の決定に役立てられています。潰瘍性大腸炎の治療において重要なことは、患者さんを症状が消失する寛解状態に導き、その状態を長く維持することです。お薬は、いずれのタイプの患者さんでも5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が中心となり、ほとんどの患者さんがこのお薬を服用しています。5-ASA製剤は飲み薬が一般的ですが、直腸炎型、左側大腸炎型では、浣腸タイプのお薬や坐薬など肛門から注入する方法(局所投与)もとても有効です。5-ASA製剤の効果が不十分な場合には、ステロイド剤(プレドニゾロンなど)の内服や局所投与が選択されます。ステロイド剤は有効性の高いお薬ですが、長い期間服用するとさまざまな副作用を起こすため、期間を限定して使用します。ステロイド剤を減量すると症状がすぐに悪化するような場合には、潰瘍性大腸炎の免疫異常を落ち着かせる免疫調節薬(アザチオプリン、6-メルカプトプリン)の内服治療を行います。これらのお薬は効果があらわれるまでに時間がかかりますが(8~16週程度)、効き始めると長く効果が維持できるようになります。

直腸炎型 左側大腸炎型 全大腸炎型

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ステロイド剤で症状が改善しないときや、減量ですぐに再発するような場合には、潰瘍性大腸炎の免疫異常に関連する血液中の炎症細胞を取り除く血球成分除去療法(顆粒球除去療法、白血球除去療法)を行うことがあります。この治療法は通常週1回行いますが、症状が強い場合には週2回以上行うことがあります。さらにステロイド剤でも十分な効果がない場合には、速効性の高い免疫調節薬(シクロスポリン、タクロリムス)や、クローン病と同じように腸管の炎症の原因となるTNF-αという物質を抑える抗TNF-α抗体薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)が用いられます。抗TNF-α抗体薬は有効性が高いだけでなく、一度安定した状態になるとその状態を維持する力も有しています。一方で、これらの内科治療で十分に改善しないときには、時機を失することなく外科治療(全大腸の摘出手術)を行います。外科治療は、手術を行わないと生命の危機となる場合(絶対的適応)と、生活の質を考えて選択する場合(相対的適応)があります。

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Q6 IBDと診断されたらどのような治療が必要ですか?ー②クローン病

クローン病の治療も潰瘍性大腸炎と同様に、お薬などによる内科治療と手術による外科治療があります。基本的な内科治療の一つが栄養療法で、クローン病ではとくに重要な治療法です。栄養療法は日々の食事をコントロールすることで炎症を抑えます。具体的には、三大栄養素(蛋白質、炭水化物、脂質)のうち、脂質は体内で炎症に関係する物質の合成に使われるため、脂質の多い食事を避けたり、脂質の少ない成分栄養剤(エレンタールなど)を服用したりします。栄養療法は継続するのが難しい場合もありますが、副作用の少ない安全な治療法です。なお、重症や高度な低栄養状態の場合などでは、入院して絶食のうえ点滴だけで栄養を補う治療(中心静脈栄養)を行うことがあります。お薬による治療は、炎症を抑える効果のある5-ASA製剤やステロイド剤が以前から使われてきました。ステロイド剤は長期間使用すると、顔が丸くなったり(満月様顔貌)にきびなどの副作用が問題でしたが、最近は副作用の比較的少ないステロイド剤(ブデソニド)も使用できるようになっています。このほか、潰瘍性大腸炎と同様に血球成分除去療法を行うこともあります。炎症の強い患者さんでは、近年は生物学的製剤と呼ばれる新しいお薬(注射剤)が使用される機会が増えています。クローン病では、抗TNF-α抗体薬や抗IL-12/23抗体薬といわれる炎症に関する物質を抑えるお薬(前者はインフリキシマブやアダリムマブ、後者はウステキヌマブ)の2種類があり、いずれも治療効果の高いお薬です。ただし、定期的・継続的に注射を行わなければならず、病院で点滴を行う場合と、患者さんが自分で皮下注射(自己注射)を行うタイプのお薬もあり、病状や患者さんのライフスタイルに合わせて適切な方法を選びます。外科治療は、クローン病と診断されたときにすでに腸に高度な狭窄や瘻孔(腸に深い潰瘍ができて皮膚やほかの臓器との間に通路ができた状態)などがある場合に必要となり、通常そのような病変が起こった部分を切除する手術を行います。痔ろう(膿が出る穴を伴う痔)などの肛門周囲に症状があるときにも手術が必要となる場合があります。手術を行った患者さんは、術後に再燃を予防するため内科治療を行います。

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活動期クローン病の寛解導入治療

・内科治療

・外科治療

▶栄養療法▶血球成分除去療法▶薬物療法

◉ 5-アミノサリチル酸製剤◉ ステロイド剤◉ 生物学的製剤…抗TNF-α抗体薬         抗IL-12/23抗体薬

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Q7 IBDがよくなってからも治療が必要ですか?

IBDは、お薬の治療によって腹痛や下痢などの自覚症状がよくなって、寛解といわれる状態になっても、体調の変化を契機にまた調子が悪くなってしてしまうことがしばしば起こります。症状がない寛解期でも、きちんと治療を続けることによって再燃を予防し、長期にわたって寛解を維持することを目指します。

再燃を予防するためにー潰瘍性大腸炎の場合潰瘍性大腸炎は、再燃を予防するために長期にわたって5-ASA製剤などによる治療が必要です。炎症が消失した寛解を保つことで、再燃を予防するだけではなく、潰瘍性大腸炎に合併する大腸がんの発症リスクも低下します。また、お薬の飲み忘れが多いときには、1日1回など服用回数をまとめて飲んでみるのも一つの方法です。主治医の先生にご相談ください。ステロイド剤には寛解を維持する効果がありません。ステロイド剤の内服量を少しずつ減らす、あるいは服薬を中止するとすぐ調子が悪くなるからといって、自己判断でステロイド治療を長期間続けたり、調子の悪いときだけ頓服のように飲むのは適切ではありません。このような場合は、炎症に関係する免疫異常を落ち着かせる免疫調節薬(アザチオプリンなど)により寛解を維持する治療法もありますので、主治医に相談してください。なかなか調子がよくならない難治性の潰瘍性大腸炎では、抗TNF-α抗体薬の点滴もしくは注射を継続して寛解を維持します。この治療法も基本的には治療の維持・継続が必要ですが、すべての患者さんが治療を一生続けなければならないわけではありません。

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再燃を予防するためにークローン病の場合クローン病の場合、再燃を頻繁に繰り返すと腸が狭くなったり(狭窄)、腸に深い潰瘍ができて皮膚やほかの臓器との間に通路ができたり(瘻孔)、その場所に膿がたまりやすくなったりして、ひどい腹痛の原因になることがあります。これらの合併症が生じると、お薬で腸を元の正常な状態に戻すことが難しくなるため、寛解の状態を長く維持することが重要です。免疫調節薬は寛解を維持する効果のあるお薬の一つです。また、生物学的製剤(抗TNF-α抗体薬、抗IL-12/23抗体薬)の点滴や注射で症状がよくなった患者さんでは、引き続き同じお薬による定期的な治療を長期間続けて寛解を維持します。症状が不安定になったり血液検査で炎症反応が高くなってきたら、お薬の量を増やしたり、治療の間隔を短くすることで、寛解維持を目指します。喫煙は、治療効果を弱め、再燃の重要な要因といわれています。再燃を防ぐには禁煙が必要です。また、頭痛や生理痛の痛み止め薬や解熱効果のあるかぜ薬が原因で再燃にいたる場合もあるため、これらのお薬を続けて服用する必要がある場合には主治医に相談してください。

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Q8 IBDになると、将来どうなるのでしょうか?

経過・予後IBDはまだ原因が明らかではないため、原因そのものを取り除く完全な治療法(根治療法)はありません。しかし、その病気の状態は徐々に解明されつつあります。治療も進歩してきており、患者さんの生活の質を高めることができるようになっています。これまでの研究から、IBD患者さんの寿命は一般の方と差はありません。現在の治療は、まず腸の炎症を抑えて、腹痛、下痢、下血、発熱などの症状を和らげ、正常な社会生活を送るために行います。一方で、お薬による治療だけではなく、日ごろの食生活にも注意を払う必要があります。いたずらに食事を制限する必要はありません。バランスのよい食生活を行うこと、暴飲暴食などを避けることが大事です。定期的に受診して、お薬による治療効果と健康状態を把握しましょう。

合併症すべてのIBD患者さんが腸のがんになるわけではありません。しかし、罹病期間が長い人では炎症に関連したがんが発生することがあります。そのため定期的に内視鏡検査を行うことが大事です。IBD患者さんでは、消化管以外の場所にも炎症が起こることがあります。関節の痛み、皮膚症状また肝臓の異常などを伴うことがあります。

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統括委員会 委員長 三輪 洋人 兵庫医科大学内科学消化管科

副委員長 荒川 哲男 大阪市立大学

委員 上野 文昭 大船中央病院

木下 芳一 製鉄記念広畑病院

西原 利治 高知大学消化器内科

坂本 長逸 日本医科大学,医療法人福慈会

下瀬川 徹 みやぎ県南中核病院企業団

白鳥 敬子 健康医学協会東都クリニック

杉原 健一 光仁会第一病院

田妻 進 JA 尾道総合病院

田中 信治 広島大学内視鏡診療科

坪内 博仁 鹿児島市立病院

中山 健夫 京都大学健康情報学

二村 雄次 愛知県がんセンター

野口 善令 名古屋第二赤十字病院

福井 博 奈良県立医科大学

福土 審 東北大学大学院行動医学分野・東北大学病院心療内科

本郷 道夫 公立黒川病院

松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器内科

森實 敏夫 日本医療機能評価機構

山口直比古 日本医学図書館協会個人会員

吉田 雅博 国際医療福祉大学化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科

芳野 純治 藤田医科大学

渡辺 純夫 順天堂大学消化器内科

渡辺 守 東京医科歯科大学消化器内科

オブザーバー 菅野健太郎 自治医科大学

炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン委員会 作成委員長 上野 文昭 大船中央病院

副委員長 渡邉 聡明 元東京大学医学部腫瘍外科・血管外科

委員 井上 詠 慶應義塾大学予防医療センター

小俣富美雄 聖路加国際病院消化器内科

加藤 順 千葉大学医学部附属病院内視鏡センター

国崎 玲子 横浜市立大学市民総合医療センター炎症性腸疾患(IBD)センター

小金井一隆 横浜市立市民病院外科

小林 清典 北里大学医学部新世紀医療開発センター

小林 健二 亀田京橋クリニック消化器内科

猿田 雅之 東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科

田中 敏明 東京大学医学部腫瘍外科

仲瀬 裕志 札幌医科大学消化器内科学講座

長堀 正和 東京医科歯科大学消化器内科

平井 郁仁 福岡大学消化器内科

本谷 聡 JA 北海道厚生連札幌厚生病院 IBD センター

オブザーバー 鈴木 康夫 東邦大学医療センター佐倉病院消化器内科

評価委員長 松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器内科

副委員長 金井 隆典 慶應義塾大学消化器内科

委員 高橋 賢一 東北労災病院大腸肛門外科

野口 善令 名古屋第二赤十字病院

渡辺 憲治 兵庫医科大学炎症性腸疾患内科

患者さんとご家族のための 炎症性腸疾患(IBD)ガイド 2020 年 1 月 25 日発行

編集 一般財団法人日本消化器病学会

ⒸTheJapaneseSocietyofGastroenterology,2020