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1 次元多都市システムにおける 人口集積パターンの創発メカニズム 赤松 隆 1 ・高山 雄貴 2 ・池田 清宏 3 ・菅澤 晶子 4 ・佐藤 慎太郎 5 1 正会員 東北大学大学院教授 情報科学研究科(〒 980-8579 仙台市青葉区荒巻青葉 6-6E-mail: [email protected] 2 学生員 東北大学大学院 情報科学研究科(〒 980-8579 仙台市青葉区荒巻青葉 6-6E-mail: [email protected] 3 正会員 東北大学大学院教授 工学研究科(〒 980-8579 仙台市青葉区荒巻青葉 6-6E-mail: [email protected] 4 正会員 国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所工務第一課(〒 278-0005 千葉県野田市宮崎 134E-mail: [email protected] 5 非会員 株式会社 日本政策投資銀行 アセットファイナンスグループ(〒 100-0004 東京都千代田区大手町 1-9-1E-mail: [email protected] 本研究は,新経済地理学 (NEG) 分野で開発された 2 都市 Core-Periphery (CP) モデルを多都市システムの 枠組に拡張し,その均衡解の分岐 (少数都市への産業・人口集積) 特性を明らかにする.CP モデルに関する従 来研究は,その大半が 2 都市モデルの解析に留まっている.その最大の理由は,多都市モデルで生じる分岐解 析の困難さにある.この問題に対し,本稿は,空間割引行列,離散フーリエ変換,円周都市システムの 3 つの 鍵概念を組合わせたアプローチを提示する.そして,その分析法を用いれば,多都市 CP モデルにおける分岐 の基本的な仕組みは容易に理解できることが示される.さらに,計算分岐理論に基づいた系統的な数値計算に より,より詳細な集積・分散パターンも明らかにされる. Key Words : agglomeration economy, core-periphery model, bifurcation, discrete Fourier transforma- tion 1. はじめに (1) 背景と目的 近年,経済のグローバル化進展に伴い,地域・都市間 の競争が激化している.我国を含む先進諸国では,企 業・工場の国外移転が相継ぎ,また,欧米諸都市では, 高度な知識・技術を持つ人材を惹きつけるための方策 が,重要課題となっている (e.g. “creative class 8) )この様な現象に対して,適切な地域・都市政策を考え るためには,労働力や資本 (生産要素) の都市・地域間 移動と集積のメカニズムに関する理論的基盤が必要で ある. 生産要素の空間的移動と集積を一般均衡の枠組で扱っ た代表的理論は,Krugman 21) Core-Periphery (CP) モデルである.このモデルは,都市間輸送費用減少に 伴う人口集積現象 (e.g. 交通基盤整備による ストロー 効果”) のメカニズムを説明できるという興味深い特徴 がある.そのため,この理論は,非常に多くのモデル・ バリエーションと研究蓄積を生み,基本特性の頑健性 が検証されることとなった.そして,それら一連の研 究は,新経済地理学 (NEG) (または,空間経済学) 呼ばれ,都市経済学・地域経済学・国際経済学・産業組 織論・労働経済学等の諸分野に跨る研究分野を形成し つつある. この NEG の理論は,上述の CP モデルの特徴からも 理解できる様に,社会基盤整備や地域経済政策の長期 的効果を予測・評価する際の基盤となりうるものであ る.しかし,現在の NEG 理論は,土木計画分野で求め られる定量的な予測・評価に用いるには,未だ,幾つ かの本質的な限界・課題を残している.その最大の課 題の一つは,NEG 勃興期に喧伝された 空間経済標語とは裏腹に,大半の研究が空間の退化した 2 都市 モデルの分析に縮退していることである.2 都市モデル は,空間的距離・配置パターンが完全に捨象されたモ デルである.そのため,現実の都市システムで観測さ れる多様な空間的パターンの形成メカニズムを明らか にできない.従って,空間が重要な役割を果たす現実 的な政策課題に適用可能な理論の構築を念頭におくな ら,より一般的な多都市モデルの一般特性を解明して ゆくことが必要である. 本研究は,上記課題解決を目指す研究の一環として, 1 次元空間上の多都市 CP モデルにおける集積パター ン創発メカニズムを明らかにする.そのために,本稿 では,まず,NEG 分野で標準的な Pfl¨ uger 28) Forslid 土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11 442

1次元多都市システムにおける 人口集積パターンの創発メカ …akamatsu/Publications/...1次元多都市システムにおける 人口集積パターンの創発メカニズム

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1次元多都市システムにおける

人口集積パターンの創発メカニズム

赤松 隆1・高山 雄貴2・池田 清宏3・菅澤 晶子4・佐藤 慎太郎5

1正会員 東北大学大学院教授 情報科学研究科(〒 980-8579 仙台市青葉区荒巻青葉 6-6)E-mail: [email protected]

2学生員 東北大学大学院 情報科学研究科(〒 980-8579 仙台市青葉区荒巻青葉 6-6)E-mail: [email protected]

3正会員 東北大学大学院教授 工学研究科(〒 980-8579 仙台市青葉区荒巻青葉 6-6)E-mail: [email protected]

4正会員 国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所工務第一課(〒 278-0005 千葉県野田市宮崎 134)E-mail: [email protected]

5非会員 株式会社 日本政策投資銀行 アセットファイナンスグループ(〒 100-0004 東京都千代田区大手町 1-9-1)E-mail: [email protected]

本研究は,新経済地理学 (NEG) 分野で開発された 2都市 Core-Periphery (CP) モデルを多都市システムの枠組に拡張し,その均衡解の分岐 (少数都市への産業・人口集積) 特性を明らかにする.CPモデルに関する従来研究は,その大半が 2都市モデルの解析に留まっている.その最大の理由は,多都市モデルで生じる分岐解析の困難さにある.この問題に対し,本稿は,空間割引行列,離散フーリエ変換,円周都市システムの 3つの鍵概念を組合わせたアプローチを提示する.そして,その分析法を用いれば,多都市 CPモデルにおける分岐の基本的な仕組みは容易に理解できることが示される.さらに,計算分岐理論に基づいた系統的な数値計算に

より,より詳細な集積・分散パターンも明らかにされる.

Key Words : agglomeration economy, core-periphery model, bifurcation, discrete Fourier transforma-tion

1. はじめに

(1) 背景と目的

近年,経済のグローバル化進展に伴い,地域・都市間

の競争が激化している.我国を含む先進諸国では,企

業・工場の国外移転が相継ぎ,また,欧米諸都市では,

高度な知識・技術を持つ人材を惹きつけるための方策

が,重要課題となっている (e.g. “creative class論”8)).この様な現象に対して,適切な地域・都市政策を考え

るためには,労働力や資本 (生産要素) の都市・地域間移動と集積のメカニズムに関する理論的基盤が必要で

ある.

生産要素の空間的移動と集積を一般均衡の枠組で扱っ

た代表的理論は,Krugman21)の Core-Periphery (CP)モデルである.このモデルは,都市間輸送費用減少に

伴う人口集積現象 (e.g. 交通基盤整備による “ストロー効果”) のメカニズムを説明できるという興味深い特徴がある.そのため,この理論は,非常に多くのモデル・

バリエーションと研究蓄積を生み,基本特性の頑健性

が検証されることとなった.そして,それら一連の研

究は,新経済地理学 (NEG) (または,空間経済学) と呼ばれ,都市経済学・地域経済学・国際経済学・産業組

織論・労働経済学等の諸分野に跨る研究分野を形成し

つつある.

このNEGの理論は,上述のCPモデルの特徴からも理解できる様に,社会基盤整備や地域経済政策の長期

的効果を予測・評価する際の基盤となりうるものであ

る.しかし,現在のNEG理論は,土木計画分野で求められる定量的な予測・評価に用いるには,未だ,幾つ

かの本質的な限界・課題を残している.その最大の課

題の一つは,NEG勃興期に喧伝された “空間経済”の標語とは裏腹に,大半の研究が空間の退化した 2都市モデルの分析に縮退していることである.2都市モデルは,空間的距離・配置パターンが完全に捨象されたモ

デルである.そのため,現実の都市システムで観測さ

れる多様な空間的パターンの形成メカニズムを明らか

にできない.従って,空間が重要な役割を果たす現実

的な政策課題に適用可能な理論の構築を念頭におくな

ら,より一般的な多都市モデルの一般特性を解明して

ゆくことが必要である.

本研究は,上記課題解決を目指す研究の一環として,

1次元空間上の多都市 CP モデルにおける集積パターン創発メカニズムを明らかにする.そのために,本稿

では,まず,NEG分野で標準的な Pfluger28)・Forslid

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

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and Ottaviano7)の 2都市 CPモデルを多都市システムの枠組みに拡張する.そして,その短期均衡状態が解析

的に得られることを示す (第 2, 3章).この多都市 CPモデルの特性を把握する上での最大の難所は,均衡解

の分岐 (集積パターンの創発) 現象にある.すなわち,CPモデルでは,輸送費用パラメータの低下にともない,人口が各都市に分散した均衡状態から少数の都市に集

積した均衡状態へと分岐する.NEG分野の多くの研究が 2都市モデル解析に留まっている最大の理由は,多都市CPモデルにおける分岐解析の困難さ (標準的な解析手法の欠如) にある.その問題に対し,本稿では,この分岐の基本的な仕組みは,以下で説明する分析法を

用いれば,容易に理解できることが示される (第 4, 5,6章).さらに,計算分岐理論に基づいた系統的な数値実験によって,より詳細な集積・分散パターンも明ら

かにされる (第 7章).

(2) 本研究で提示するアプローチの特徴

本稿の基本的な目的は,多都市 CPモデルの一般的な特性を明らかにすることであるが,その眼目は,CPモデルの解析だけにあるのではない.むしろ,本研究

の特徴は,集積経済を扱う様々なモデルの特性を統一

的に理解するための汎用性の高い分析法を (CPモデルの解析を例として) 提示している点にある.

本稿で提示する分析法は,次の 3つの鍵概念:

      A) 空間割引行列,

      B) 離散フーリエ変換,

      C) 円周都市システム,で特徴づけられる.実際,これらを組み合わせれば,CPモデルに限らず,空間的な経済集積現象を表現する様々

なモデルの特性を,極めて単純な方法で統一的に焙り

出すことができる.以下では,3つの概念の意味を追いながら,本研究のアプローチを概観しよう.

A)の “空間割引”は,産業・人口の空間的配置パターンは,経済的な集積力・分散力の各々の効果が空間的

にどのように減衰するかに決定的に依存することを主

張している.より具体的には,本稿で扱う CPモデルでは,ある都市で人口・企業数が増加した場合,その

都市での生産財の多様性増加による集積力と競争激化

による分散力が発生する.そして,集積力・分散力の

各々の影響は,財の輸送費用と空間的不完全競争 (独占的競争) の存在から,当該都市のみならず,他の都市にも漏出 (spillover) する.その spilloverの程度が空間的な広がりとどの様な関係にあるかによって,産業・人

口の集積・分散パターンは決まる.

この spillover効果をモデル中で系統的に表現するための基本部品が,“空間割引行列”である.そして,

a) 空間割引行列Dの特性 (固有値),および,

b) Dと対象モデルの効用関数 Jacobi行列の関係,さえ明らかにすれば,モデルで創発しうる空間的な集

積・分散パターンを完全に把握できる.この事実は,本

稿で具体的な分析例を示す CPモデルに限られたことではなく,集積経済による空間的パターン形成を表現

する一連のモデルで一般的に成立する.

B)は,どのような集積パターンが創発しうるかを判定するための指標が,離散フーリエ変換 (Discrete FourierTransformation (DFT)) によって,極めて単純かつ直接的な形で得られることを意味している.そのより具

体的な意味と重要性は以下のとおりである.

まず,集積パターンの創発可能性を判定するためには,

一般に,均衡条件を満たす複数の集積・分散パターンの

うち,安定的に実現可能な解を抽出する必要がある.例

えば,標準的なNEG研究では,数理生態学や進化ゲーム理論分野でよく知られた “Replicator Dynamics”による均衡解への調整ダイナミクスを仮定し,解の局所的

安定性を考える (本研究では,Replicator Dynamics に代え,最近の進化ゲーム理論研究によってより良い特性

があることが知られている “Perturbed Best ResponseDynamics”を採用する).この考え方で安定性を判定するためには,調整ダイナミクスの Jacobi行列固有値を知る必要がある.すなわち,ある均衡点での全固有値

(実部) が負であれば,その解は安定である; そうでない場合,その解は不安定であり,大きな固有値を持つ固

有ベクトル方向へ向かうことが判る.さらに,この固

有値をモデルの鍵パラメータ (e.g. CP モデルでは輸送費用パラメータ) の関数として表現できれば,パラメータ変化に伴い特定の集積パターンへの “分岐”が発生するか否かを判定できる.

本研究の第 4章で明らかにされるように,CPモデルでは,この Jacobi行列固有値は,空間割引行列D の

固有値の 2次関数となる.従って,Dの固有値さえ得

られれば,CPモデルの持つ本質的特性を,非常に一般的に把握することができる.この固有値を明晰に解析

するための鍵が,離散 Fourier変換 (DFT) である.ただし,DFTがD の固有値解析に威力を発揮できるの

は,次に説明する “円周都市システム”の条件と組合わされた場合である.

C)は,円周上に多数の立地点 (都市)を並べるという理想化 (単純化) された空間条件下での分析の重要性を意味している.このような空間条件の設定は,Salop30),Fujita et al.10)以降の研究では, (一見,非現実的/限定的条件に思われるせいか) その価値が十分には認識・活用されていないようである.しかし,この条件下で

の分析は,その意義が本稿でも具体的に示されるよう

に,空間的な経済集積パターンを表現する各種モデル

の特性を理解する上で,極めて重要である.以下では,

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

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この点をより具体的に説明しておこう.

集積経済現象を扱ったモデルでは,複数均衡や解の

分岐といった複雑な現象が発生しうる.そのため,モ

デルの挙動特性は,一般に,モデル自体が持つ本質的

特性とモデルの置かれた空間的境界条件の両者に依存

する.実際,モデル自体は同一であっても,境界条件

の設定を変えれば,表面上の均衡立地パターンは,一

見,全く異なった挙動を示しうる.にも関わらず,集

積経済モデルを分析した従来研究では,この 2つを必ずしも明確に峻別しないまま分析している (あるいは,この区別ができない (i.e. 空間が退化した) 2都市モデルを分析している) 場合が多い.それに対して,円周都市システムでは,境界条件の影響を取り除き,モデル

自体の持つ本質的特性を純粋な形で見ることができる.

従って,円周都市システムは,CPモデルに限らず,集積経済現象を扱った様々なモデルの挙動特性を統一的

に比較し,モデル間の関係を理解するための理想的な

“Testbed” (モデルの基本特性を試験するための “標準環境”) である.

さらに,円周都市システムでは,様々な空間経済モ

デルの分析が著しく容易になる.すなわち,この条件

下では,空間経済モデルの最重要部品である空間割引

行列Dが “巡回行列”となる.その結果,Dの固有値

は,その行ベクトルのDFTとして解析的かつ容易に得られる.しかも,DFT 行列の各行 (固有ベクトル) のパターンは,各都市への集積パターンと 1対 1対応している.そのため,各固有値を見るだけで,どの集積パ

ターンが,どのような条件下で卓越するかを,極めて簡

単に知ることができる.なお,円周都市システムの数

学的に本質的な点は,空間的条件の設定が “周期境界”となっていることである.このような対称性の高い系

で成立する特性には,群論的分岐理論から保証される

一般性がある (e.g., Golubitsky and Schaeffer13)).このことから,上記の特性は,1次元空間に限られるものではなく,“周期境界条件”であれば,2次元空間でも成立する.従って,本稿で具体的に示す理論は 1次元空間に限定されていても,その考え方自体は,2次元空間 (広大な平野や大陸を表す空間) へも容易に拡張可能である.

(3) 従来研究と本研究の位置づけ

NEG 分野におけるCPモデルに関する研究は膨大である (e.g. Baldwin et al.3) , Combes et al.5), Fujita etal.10), Fujita and Thisse11), Glaeser12), Henderson andThisse16)等の包括的レビューを参照).しかし,NEG勃興期の研究を除く大半の研究が,2都市システムを対象とした解析に終始している.実際,2以上の都市をもつCPモデルを扱った研究は,我々の知る限り,

a) Krugman22),23), Fujita et al.10) (Ch.6),Mossay24), Tabuchi et al.34), Picard andTabuchi27)

b) Tabuchi and Thisse33), Ikeda et al.19)

のみである.

a)の Krugman22)では,Krugman21)のモデルに対し

て,都市数を 12とした場合に対する数値シミュレーション例が示されている.しかし,特定パラメータに対す

る 2つの計算例,すなわち,極めて断片的な (空間的条件すら明記されていない)計算結果を例示しているのみであり,CPモデルの一般的な特性を系統的に提示するものではない.Krugman23), Fujita et al.10)(Ch.6)は,Turing35)による方法を採用し,連続空間・円周都市の

CPモデルにおける均衡解の挙動を解析している.しかし,その解析は,輸送費用の低下に伴い発生する,労

働者が各都市に均等に分散した均衡状態 (分散均衡状態)からの最初の分岐 (人口集積)現象しか示すことができない.そのため,均衡解の大域的な分岐特性につ

いては,全く示されていない.さらに,分散均衡状態

からの分岐点は,無限に広い空間を考える極端なケー

スを除き,解析的に示されておらず,数値計算を併用

して部分的に調べられているのみである.また,近年,

Mossay24), Picard and Tabuchi27) は,連続空間・円周都市の CPモデルにより,Krugmanにより得られた結果の頑健性を再検証している.Mossayは,都市選択に関して労働者に異質性がある場合を,理論的に分析し

ている.Picard and Tabuchiは,輸送費用の関数形が均衡パターンに与える影響を調べている.しかし,こ

れらは,Krugman, Fujita et al.と同様の課題が残されたままとなっている.すなわち,分散均衡状態からの最

初の分岐現象のみの部分的な解析に留まっている.ま

た,Tabuchi et al.34)は,離散空間の多都市 CPモデルにより,輸送費用の減少が都市規模・都市数に与える影

響を分析している.しかし,この分析は,全ての都市

間の輸送費用が同一であるという特殊なケースに限ら

れている.

なお,NEGとはやや異なった都市群システムの枠組で集積経済を扱った研究も存在する (e.g.小林・奥村38),上田・松葉40), Mun25), 奥村ら39)).これらの研究では,Krugman21)の CPモデルでは導入されていない外部経済を考慮したモデルが示されている.しかし,いずれ

の研究も,モデルの挙動に関しては,断片的な数値計

算例しか示されてない.すなわち,これらの都市群シ

ステム研究では,一般的な解の分岐特性やその分析法

については,ほとんど未解明のままと言える.

結局,多都市 CPモデルの枠組みで,均衡解の分岐(人口集積)パターンの一般的規則性を議論しているのは,b) の Tabuchi and Thisse33)と Ikeda et al.19)(著

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者らの研究グループ)のみである.Tabuchi and Thisseは,Ikeda et al.とほぼ並行して独立に,1次元円周都市システムにおいて輸送費用の低下とともに人口集積

の周期倍分岐パターンが存在しうることを示している

(この結果が示す集積パターンの推移は第 6章参照).さらに,複数の産業がある場合に階層構造が創発するこ

とを計算例で示している.Ikeda et al.は,計算分岐理論に基づき,系統的に分岐パターンを明らかにしてい

るものの,解析的な分析法を提示している訳ではない.

以上の関連研究と比較した本研究の第 1の貢献は,(2)節で説明した方法により,集積経済モデルの分岐特性が

簡単に把握できることを明らかにした点にある.むろん,

このアプローチの鍵となる 3つの概念を各々独立に取り出せば,従来からよく知られているものである.しかし,

空間割引行列が集積経済モデルの分岐解析において本

質的役割を果たすことを明らかにし,その特性に基づく

透明性の高い解析法を提示している点は,本研究の独創

である.Tabuchi and Thisse33)においても,空間割引

行列の重要性は (明示的には)認識されておらず,実際,その安定性解析では,CPモデルに特化した機械的な式の展開がなされているのみである (その結果,そこで示されている Jacobi行列は,Mathematica以外には理解不可能な複雑さとなっており,Tabuchi and Thisse33)で

示された “証明”の妥当性を確認することは,ほほ不可能である).それに対して,本研究で示されたアプローチに基づく CPモデルの解析は,単純明快であり,その解析過程や結果の妥当性の確認も容易である.

本研究の第 2の貢献は,多都市CPモデルの一般的な分岐特性を明らかにしている点である.本稿では,まず,

従来研究では 2都市の場合しか示されていない Forslidand Ottaviano7)・Pfluger28)のCPモデルを多都市の枠組みに拡張した上で,その短期均衡解が解析的に表現

できることを示している.その上で,消費者が均質な場

合と異質な場合の両者について,均衡状態の分岐特性

(e.g. 集積創発条件)を解析的に明らかにしている (多都市 CPモデルの一般特性を議論している Tabuchi andThisse33), Ikeda et al.19)は消費者が均質な場合のみを解析している).さらに,本稿では,解析的なアプローチに加え,計算分岐理論に基づいた数値計算も併用し,

(消費者が異質な場合の)複雑な派生的分岐によって生じる集積・分散パターンを系統的に解明しており,これ

も従来研究には無い新たな知見である.

2. 短期均衡状態のモデル

本稿では,Forslid and Ottaviano7), Pfluger28)と全く同一の仮定に基づく多都市 CPモデルの特性を調べる.そのために,本章では,各々のモデルについて,都

市・経済環境の設定を示した後,均衡条件を定式化す

る (モデルのより詳細な点は,Fujita et al.10), Baldwinet al.3), Combes et al.5)などの教科書を参照).ここで,Forslid and Ottavianoモデル(以降,FOモデル)とPflugerモデル (以降,Pfモデル)は,消費者の効用関数が異なる以外,同様の構造をもつ.そのため,以下

では,FOモデルと Pfモデルを併記する.

(1) 都市・経済環境の設定

a) 労働者

本稿で考える労働者は,知識・技術水準に応じて skilledworker と unskilled worker に分類されると仮定する.skilled workerは,高度な知識・技術を活かして,知識集約的な作業に従事する労働者であり,自らが労働・居

住する都市を選択できる.unskilled workerは,高度な知識・技術を持たず,労働集約的作業に従事する労働者

である.また,すべての都市に一様に分布し,労働・居

住する都市を選択できない.skilled worker,unskilledworkerの総人口は,各々,H, Lであり,全都市に一様

に分布する unskilled workerの各都市の人口が l = 1となるように人口の単位を定義する.

b) 都市経済システム

離散的なK個の都市が存在する都市経済システムを考

える.この経済には,農業部門と工業部門の 2部門が存在する.農業部門は,収穫一定の技術により,unskilledworkerの労働を生産要素として 1種類の同質な財を生産する完全競争的な部門である.工業部門は,収穫逓

増の技術により,skilled 及び unskilled workerの労働を生産要素として,差別化された財を生産する独占競

争的な部門である1.ある都市で生産された財は,隣接

する都市間を結ぶ交通ネットワークにより他の都市へ

輸送することができるため,どの都市でも消費するこ

とができる.

(2) 消費者行動

都市 iの消費者は,効用関数 Ui(CMi , CA

i )を所得制約 Yiの下で最大化するように,工業財と農業財の消費

量 CMi , CA

i を決定する:

maxCM

i ,CAi

Ui(CMi , CA

i ) (1)

s.t. pAi CA

i +∑

j

∫k∈Nj

pij(k)qij(k)dk = Yi, (2)

[FOモデル2]: Ui = µ lnCMi + (1 − µ) ln CA

i

1 「農業」「工業」という言葉は,必ずしも文字通りに解釈する必要はない.各々の部門の特徴である,収穫一定の技術を持つ完全競争的な部門と,収穫逓増の技術を持つ不完全競争的な部門の違いにのみ意味がある.

2 本研究では,以降の解析のために,Forslid and Ottaviano7)の効用関数に対数をとった.ただし,これは単調変換であるため,以降の解析結果の特性には全く影響しない.

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[Pfモデル]: Ui = µ lnCMi + CA

i

ここで,µ ∈ (0, 1)は工業財への支出割合を表す定数,pA

i = 1は都市 iにおける農業財の価格であり,ニュー

メレールとする.kは,工業財の種類を表すインデック

スであり,常に工業財の種類が連続的かつ無限に存在す

ると仮定するため,連続変数とする.pij(k), qij(k)は,都市 j で生産され,都市 iで消費される工業財の種類

毎の価格,消費量を表す.Nj は都市 jで生産された工

業財の種類 k を要素に持つ集合である.また,工業財

の消費量 CMi は,工業財の消費量 qij(k)を代替の弾力

性 σ > 1を用いて集計した,

CMi =

∑j

∫k∈Nj

qij(k)(σ−1)/σdk

σ/(σ−1)

(3)

によって定義される.

上記の効用最大化問題を解くことにより,農業財・工

業財の消費量が価格 pAi , pij(k),所得 Yiの関数として,

次のように導出される:[FOモデル]: CA

i = [(1 − µ)/pAi ]Yi, CM

i = (µ/ρi)Yi

qij(k) = sij(k)Yi, (4)

[Pfモデル]: CAi = Yi/pA

i − µ, CMi = µpA

i /ρi

qij(k) = sij(k) (5)

ここで,sij(k)は,

sij(k) ≡ µpAi {pij(k)}−σ

ρσ−1i (6)

であり,ρi は,都市 iでの工業財の価格指数:

ρi =

∑j

∫k∈Nj

pij(k)1−σdk

1/(1−σ)

(7)

である.導出した工業財の消費量は,所得 Yiの消費者

が消費する量である.そのため,都市 i全体で消費する

都市 j で生産した工業財 kの消費量Qij(k)は,skilledworkerの各都市の人口を h = [h0, h1, ..., hK−1]T とすると,次のように表せる:

  [FOモデル]: Qij(k) = sij(k)(wihi + 1), (8)

  [Pfモデル]: Qij(k) = sij(k)(hi + 1). (9)

(3) 生産者の行動と独占的競争

農業部門では,unskilled workerの労働のみを生産要素とし,同質な財を完全競争のもとで収穫一定の技術に

より生産する.この場合,一般性を失うことなく,1単位の unskilled workerにより,1単位の財が生産されると基準化できる.したがって,限界費用原理から,農業

財の価格 pAi は,unskilled workerの賃金 wL

i と等しく

なる.また,農業財の輸送には費用がかからないと仮定

するため,どの都市においても農業財の価格,unskilledworkerの賃金は等しい:

pAi = wL

i = 1 ∀i. (10)

工業部門では,企業はDixit-Stiglitz型の独占的競争を行う.すなわち,自由に参入・撤退できると仮定した

企業が,収穫逓増の技術により差別化された工業財を

生産する.規模の経済,消費者の多様性の選好,なら

びに供給できる財の種類に制限がないことから,どの

企業も必ず他企業とは異なる種類の財を生産する.そ

のため,生産を行う企業の数 niは,供給される財の種

類に等しい.また,企業が工業財を生産するためには,

skilled worker の労働を α 単位と,生産量 xi(k) に応じて unskilled workerの労働を βxi(k)単位,生産要素として投入する必要があると仮定する.この仮定から,

生産を行う企業の数 ni は,都市 i に居住する skilledworkerの人口 hi と次の関係を持つ:

ni = hi/α. (11)

また,工業財の生産費用関数 c(xi(k))は,skilled workerの賃金を wi とすると,

c(xi(k)) = αwi + βxi(k) (12)

と表現できる.

工業財の輸送には費用がかかると考える.この輸送

費用は,氷塊費用の形をとると仮定する.すなわち,都

市 i, j 間で 1単位の工業財を輸送すると,最初の 1単位のうち 1/ϕij 単位だけが実際に到着し,残りは解け

てしまうと考える.そのため,工業財の需要量 Qji(k)と供給量 xi(k)との間に次の関係が成立する:

xi(k) =∑

j

ϕjiQji(k). (13)

工業部門では,Dixit-Stiglitz型の独占的競争を仮定しているため,企業は価格指数 ρi,消費者の需要関数

(8), (9)を所与として自ら生産する工業財の価格 pji(k)を設定する.そのため,企業の利潤最大化行動は,次

のように定式化できる:

max{pji(k)}

Πi(k) =∑

j

pji(k)Qji(k) − c(xi(k)). (14)

この企業の最適条件と工業財の需要関数 (8), (9)より,工業財の価格 pji(k)が次のように導出される:

pji(k) =σβ

σ − 1ϕji. (15)

この結果から明らかなように,工業財の価格は,財の

種類 k には依存しない.そのため,Qij(k), xi(k)も同様に,財の種類 kには依存しない.そこで,以降では,

kを省略し,pij , Qij , xi と表記する.

(4) 短期均衡条件と均衡解の導出

都市経済システムにおいて,財の生産・消費量と賃

金,財価格は,skilled workerが移住できない程,短期間で均衡すると仮定する.この状態を “短期均衡状態”と呼ぼう.短期均衡状態では,企業の参入・撤退が自由

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

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であることから,企業の利潤が常にゼロとなる3.した

がって,skilled workerの賃金が次のように表せる:

wi =1α

∑j

pjiQji − βxi

. (16)

さらに,短期均衡状態では,工業財の市場清算条件

が成立する.工業財には輸送費用がかかるため,この

市場清算条件は,式 (13) で表わされる.以上の短期均衡条件から得られる短期均衡解を示そ

う.都市 iの価格指数 ρiは,式 (7)に式 (11), (15)を代入することで,また,skilled workerの均衡賃金 wiは,

式 (16)に価格指数 ρi,式 (8), (9), (13), (15) を代入することで,以下のように導出できる:

ρi(h) =σβ

σ − 1

(∆i(h)

α

)1/(1−σ)

, (17)

[FOモデル]

wi(h) =µ

σ

∑j

(dji

∆j(h)

)(wj(h)hj + 1), (18)

[Pfモデル]

wi(h) =µ

σ

∑j

(dji

∆j(h)

)(hj + 1). (19)

ここで,dij は都市 i, j間の交易に関する条件を表わし,

dij ≡ ϕ1−σij , (20)

∆i(h)は都市 iの工業財市場の大きさを表わす指標で

あり,

∆i(h) ≡∑

j

dijhj (21)

と表わされる.そのため,dji/∆j(h)は,都市 iの企業

が都市 j で獲得できる工業財市場のシェアの大きさを

表わす指標と考えられる.

以上の結果は,都市間の交易に関する条件を表す空

間割引行列:

D = [dij ] ≡[ϕ1−σ

ij

](22)

を利用することで,その数学的構造を明確にすること

ができる.そこで,空間割引行列Dと,

∆ ≡ diag[∆0(h),∆1(h), ...] = diag[DTh] (23)

M ≡ ∆−1D, H ≡ diag[h] (24)

を利用して,式 (18), (19)で表わされる均衡賃金w(h)を示す:

[FOモデル]: w(h) = (µ/σ)MT(Hw + 1), (25)

[Pfモデル]: w(h) = (µ/σ)MT(h + 1). (26)

ここで,次章以降の解析の便宜上,間接効用関数 viを

hの陽関数として表現しておく必要がある.そのため

に,FOモデルの均衡賃金w(h)を hの陽関数として表

3 この仮定は,NEG分野で標準的に用いられる仮定である.その詳細は,例えば,Fujita et al.10), Baldwin et al.3), Combes

et al.5) などの教科書を参照.

現しておこう.FOモデルの均衡賃金w(h)は,式 (25)より,

w(h) =µ

σ

[I − µ

σMTH

]−1

MT1

σ

∞∑n=0

σMTH

)n

MT1 (27)

σ

[I +

∞∑n=1

σMTH

)n]

MT1 (28)

となり,hの陽関数として表現できる.ここで,I は単

位行列,1は全ての要素が 1の要素数K のベクトルで

ある.

式 (27)は,FOモデルの skilled workerの賃金に関する波及効果を表している.これは,skilled workerの賃金増加が工業財の消費量の増加をもたらし,さらに,

工業財の消費量の増加が skilled workerの賃金増加をもたらす,といった効果である.この FOモデルの均衡賃金を (28)のように変形すると,FOモデル,Pf モデル共に,均衡賃金 w(h)を次に示す同じ形式でまとめられる:

w(h) =µ

σ

(w(H)(h) + w(L)(h)

), (29)

w(L)(h) = MT1. (30)

[FOモデル]

w(H)(h) =

[ ∞∑n=1

σMTH

)n]

MT1, (31)

[Pfモデル]

w(H)(h) = MTh, (32)

すなわち,両モデルとも,均衡賃金 w(h) を,skilledworker の工業財消費により得られる賃金 w(H)(h) とunskilled worker の工業財消費により得られる賃金w(L)(h)の和で表わすことができる.ここで,Pfモデルに注目すると,式 (32)から,このモデルには,skilledworkerの賃金に関する波及効果が存在しないことがわかる.これは,Pfモデルには,式 (5)で示したように,工業財の消費量に所得効果が存在しないためである.

以上で示したように,skilled workerの賃金が skilledworkerの人口 hの陽関数で表現できることから,次の

命題が得られる:

命題 1 FOモデル, Pfモデルともに,間接効用関数 v

が skilled workerの各都市の人口 hの陽関数とし

て表現できる.

[FOモデル]

v(h) = µS(h) + ln[w(H)(h) + w(L)(h)

](33)

[Pfモデル]

v(h) = S(h) + σ−1[w(H)(h) + w(L)(h)

](34)

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ここで,ベクトルの各要素に対数をとる場合,

ln[w] ≡ [lnw0, lnw1, ...]Tと表記した.また,w(H),w(L)は式 (30), (31), (32), S(h)は,次の通り定義される:

S(h) ≡ (σ − 1)−1 ln[Dh]. (35)

(証明: 付録 I参照)

この命題は,多都市システムの枠組みであっても空間

割引行列D を利用することで,FO, Pfモデルの間接効用関数 vが hの陽関数で与えられるという,既存研

究では全く知られていない結果を示している.

3. 長期均衡状態のモデル

(1) 労働者の都市選択行動と長期均衡条件

長期的には,skilled workerは,自らの得る効用を最大化するように労働・居住する都市を選択することがで

きる.そこで,skilled workerの都市選択及び移住行動が長期的に落ち着く状態を “長期均衡状態”と呼ぼう.

本稿で構築するモデルでは,skilled workerの都市選択に対する選好に異質性があり,都市 iの個人 sの効

用が,

v(s)i (h) = vi(h) + ε

(s)i (36)

で与えられると仮定する.ここで,ε(s)i は,個人 sに固有

の確定的効用項である.いま,各都市における skilledworker 集団全体にわたる {ε(s)

i ,∀s} の分布が (skilledworkerが十分多く存在するため,連続分布で近似でき)互いに独立で同一のWeibull分布に従うと仮定すると,都市 iを選択する skilled workerの割合 Pi(n)は,次のLOGIT型の選択確率で与えられる:

Pi(h) =exp(θvi(h))∑j exp(θvj(h))

. (37)

ここで,θ ∈ (0,∞) は,skilled worker の選好異質性(ε(s) の分散) を反映したパラメータである.したがって,都市 iの skilled worker人口 hi を決める長期均衡

条件式は,次のように表わすことができる:

h = HP (h). (38)

ここで,H =∑

j hjは skilled workerの総人口, P (h) =[P0(h), P1(h), · · · , PK−1(h)]T である.

長期均衡条件 (38)は,skilled workerが均質である場合を含んだ,一般的な均衡条件であることに注意が

必要である.実際,θ → ∞とした場合,条件 (38)は,利用者が均質な場合の均衡条件V ∗ − vi(h) = 0 if hi ≥ 0

V ∗ − vi(h) ≥ 0 if hi = 0(39)

に帰着する.ここで,V ∗ は均衡時の効用水準である.

(2) 均衡解の分岐と安定性

CPモデルは,都市数が少ない状況を取り扱った既存研究3),10),11),16) でも明らかなように,安定・不安定な

均衡解が複数創発する.これは,安定 (不安定)均衡解が不安定 (安定)均衡解に切り替わる瞬間に起こる分岐現象によるものである.そこで,本節では,均衡解の

分岐や安定性を調べる方法を示そう.

均衡解の分岐や安定性を考えるためには,skilledworkerの人口分布が均衡状態へ到達するまでの調整過程をモデル化する必要がある.ここでは,時点 tにおけ

る人口パターン hが,以下の常微分方程式に従って変

化すると考える:

h = F (h) = HP (h) − h. (40)

これは,進化・学習ゲーム理論分野でもよく知られてい

る LOGIT型の Perturbed Best Response dynamicsである9),17),29).このとき,均衡点 h∗ は,行列∇F (h∗)の固有値の実部が負であれば,(局所的)安定となる.そのため,Jacobi行列∇F (h):

∇F (h) = HJ(h)∇v(h) − I, (41)

の固有値の実部の符号が変化する際に,均衡解hが分岐

することがわかる.ここで,J(h),∇F (h)は,各々,i, j

要素が ∂Pi(v)/∂vj , ∂vi(h)/∂hj の Jacobi行列である.

4. 円周都市における純集積力

本章では,第 2, 3章で定式化された多都市 CP モデルの特性を解析的に把握する方法を示す.多都市 CPモデルの特性を探る上での最重要ポイントは,均衡解

の分岐 (e.g. 集積状態の創発)メカニズムである.このメカニズムを理解するためには,調整ダイナミクスの

Jacobi行列固有値が分岐パラメータ (e.g. 輸送費用)に対してどのような特性を持つかを把握する必要がある.

この具体的な解析は,一般には非常に複雑で,数値計

算に頼らない限り,ほぼ不可能である.しかし,第 (1)節で定義する円周都市システムと第 (2)節で示す空間割引行列の固有値 f = [f0, f1, ...]Tの特性 (命題 2)を活用すれば,この解析は,著しく容易になる.実際,第 (3)節では,調整ダイナミクスの固有値が f の簡単な関数

として表現できることが示される (命題 3).

なお,命題 3 から得られる分岐臨界値の特性はPfluger28)・Forslid and Ottaviano7)の何れでもほぼ共

通であるため,区別の必要が無い限り,2つのモデルをまとめて CPモデルと呼ぶ.また,以下では,表現の煩雑化を避けるため,都市数 K = 2J(J は任意の自然数)の場合のみを示す4.

4 都市数が 2 の冪乗でなくても,以降と全く同様の方法で分岐解析を行うことができる.

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(1) 都市システム空間の設定と空間割引行列

半径 1の円周上に番号 i = 0, 1, · · · ,K − 1の順に (左回りに)K 個の都市を配置する.2つの都市 i, j 間の距

離は t(i, j)と表される.隣接する都市間の距離は均等であると仮定し,隣接していない都市間の距離は最短

経路距離で定義する,すなわち,

t(i, j) = (2π/K)m(i, j). (42)

ここで,m(i, j) ≡ min{|i − j|,K − |i − j|}である.都市間の工業財の輸送に必要な氷塊費用 ϕij は,この

空間条件 {t(i, j)}に対して定義される.すなわち,氷塊費用 ϕij は,式 (42)で表わされる t(i, j)に対して,

ϕij ≡ exp(τt(i, j)). (43)

と定義される.この ϕijの定義から,空間割引行列D ≡[dij ](2章 (4)節参照)は,

dij ≡ exp[(1 − σ)τt(i, j)] (44)

と定義され,第 j 列ベクトルは,

dj ≡ [d0j , d1j , · · · , dK−1j ]T (j = 0, 1, · · · , K − 1)(45)

で与えられる (i.e. D ≡ [d0, d1, · · · , dK−1]).円周都市システムでは,空間割引行列Dの要素の配

列には,“巡回行列” と呼ばれる規則性がある (巡回行列の定義とその基本特性については付録 IIを参照).すなわち,

r ≡ exp((1 − σ)τ(2π/K)) > 0 (46)

と定義すると,行列Dの (i, j)要素は,dij = rm(i,j)で

与えられる.例えば,K = 4なら,行列Dは,

D =

1 r r2 r

r 1 r r2

r2 r 1 r

r r2 r 1

(47)

である.この例からも明らかなように,円周都市シス

テムにおけるDは,K 次元ベクトル d0から作られる

巡回行列となる.

(2) 空間割引行列の固有値と離散 Fourier変換

空間割引行列Dが巡回行列であることに着目すると,

その固有値は離散 Fourier変換により得られることがわかる.すなわち,Dは離散 Fourier変換行列:

Z = [z0, z1, ...,zK−1]T (48)

zk = [zjk] ≡ [ωjk] (j, k = 0, 1, · · · ,K − 1) (49)

ω ≡ exp(i(2π/K)) (i.e. ωK = 1) (50)

によって対角化される:

Z∗DZ = Λ. (51)

ここで,Λ ≡ diag[λ0, λ1, ..., λK−1], Z∗ は Z の共役転

置行列 (i.e. Z の逆行列).そして,対角行列Λの対角

要素 (i.e. 行列DのK個の固有値) は,ベクトル d0の

離散 Fourier変換:

λ ≡ [λ0, λ1, ..., λK−1]T = Zd0 (52)

により与えられる.ここで,ベクトル d0の要素の並び

がM = K/2番要素 rM を境に反転することに注意す

ると,DのK個の固有値は,M − 1種の 2重根と 2種(k = 0,M)の単根からなることが判る.さらに,上式の右辺は解析的に評価でき,結局,Dの固有値は,rの

簡単な関数として表現される:

補題 1: 円周都市システムにおける空間割引行列Dの

第 k固有値 (k = 0, 1, · · · ,K − 1)は,

λk = ck(r)Rk(r) (53)

で与えられ,さらに,

λm = λK−m (m = 1, 2, ..., M − 1) (54)

が成立する (i.e. 2重根となる).ここで,M ≡ K/2,

cm(r) ≡ 1 − r2

1 − 2r cos(2πm/K) + r2, (55)

Rm(r) ≡ 1 − (−1)mrM (m = 0, 1, · · · , M).(56)

(証明: 付録 III参照)

さて,以降で CPモデルの分岐特性を考察する際には,行列Dをその行和:

d ≡ d0 · 1 = λ0 (57)

で正規化した行列D/dの固有値 f(r)が重要な役割を果たす.そこで,補題 1を用いて f(r)の特性を調べると,以下の結論が得られる:

命題 2: 円周都市システムにおける空間割引行列D/d

の固有値・固有ベクトルは,以下の特性を持つ.

1) 第 k固有ベクトル (k = 0, 1, · · · ,K − 1)は,離散Fourier変換行列の第 k行ベクトル:

zk ≡ [1, ωk, ω2k, · · · , ω(K−1)k] (58)

によって与えられる.ここで,ω ≡ exp(i(2π/K))である.

2) 第 k固有値 (k = 0, 1, · · · ,K − 1)は,

fk =

cM (r)ck(r) k: even

cM (r)ck(r)ϵM (r) k: odd(59)

で与えられ,さらに

fm = fK−m (m = 1, 2, · · · ,M − 1) (60)

が成立する (i.e. 2重根となる).ここで,M ≡ K/2,

ϵM (r) ≡ 1 + rM

1 − rM. (61)

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図–1 円周都市 (K = 8)におけるD/dの固有値と輸送費用パラメータ τ の関係

3) いずれの固有値も 0 ≤ r < 1の rに関する単調減

少関数で,その値域は (0, 1]である (ただし,第 0固有値は rの値によらず常に 1).

4) 任意のK, 0 ≤ r < 1に対して,最大固有値は第 0固有値 (その値は常に 1),最小固有値は第M 固有

値 (その値は c2M )である.

5) 任意のK, 0 ≤ r < 1に対して,偶数番および奇数番の各々の系列の固有値で,以下の大小関係が成

立する:

1 > f0 > f2 > ... > f2k > ... > fM = c2M ,

1 ≥ f1 > f3 > ... > f2k+1 > ... > fM−1 = c2M ϵM .

(62)

  (証明: 付録 IV参照)

図–1は,命題 2で得られた固有値 f の特性をK = 8(M = K/2 = 4)の場合に例示したものである.ただし,以降の分岐解析で用いる輸送費用パラメータ τ と固有

値 f の関係を見るために,グラフの横軸を τ としてい

る.式 (46)の定義から明らかなように,rは τ の単調

減少関数であり,

τ = 0 ⇔ r = 1, (63)

τ → +∞ ⇔ r → 0. (64)

一方,命題 2で示されたように,fm は 0 ≤ r < 1の r

に関して単調減少で,値域は (0, 1]である.従って,fm

は τ の単調増加関数で,

τ = 0 ⇔ fm = 0, (65)

τ → +∞ ⇔ fm → 1. (66)

となる.

(3) 調整ダイナミクス Jacobi行列の固有値

第 3 章で示したように,CP モデル均衡解の安定性や分岐現象の有無は,調整ダイナミクスの Jacobi 行列 ∇F (h) の K 個の固有値 g = [g0, g1, ..., gK−1]T によって判定できる.以下では,この g が,空間割引行

列D/dの固有値 f の簡単な関数として得られることを

示そう.そのためには,まず,P (h), v(h)の Jacobi行列 J(h),∇v(h)が必要である.J(h)は,式 (37)を間接効用関数 vで微分することで,次のように得られる:

J(h) = θ(diag[P (h)] − P (h)P (h)T). (67)

∇v(h) は,第 2 章の命題 1 で示した間接効用関数をskilled人口 hで微分すれば,

∇v(h) =∇S(h) + σ−1[∇w(L)(h) + ∇w(H)(h)

],

(68)

と得られる (ただし,この式はPfモデルの間接効用 Ja-cobi行列である.FOモデルの Jacobi行列については,付録 VIを参照).ここで,式 (68)右辺の 3つの Jacobi行列は,3章で定義した行列M , H を用いれば,各々,

∇S(h) ≡ (σ − 1)−1MT (69)

∇w(L)(h) ≡ −MMT (70)

∇w(H)(h) ≡ M − MHMT (71)

と表現される.

次に,CPモデルが持つ本質的特性を調べるために,skilledが円周上の各都市に h = H/K 人ずつ均等に分

散した人口分布 h (i.e., 全ての都市の条件が均質となる状況) を考える.このとき,∇F (h)が巡回行列となることを示そう.人口分布 h = hである場合,

M = (hd)−1D, H = hI (72)

であるから,間接効用 Jacobi行列は,

∇v(h) = h−1[b(D/d) − a(D/d)2

](73)

に帰着する.ここで,

a ≡ σ−1(1 + h−1), (74)

b ≡ (σ − 1)−1 + σ−1. (75)

この Jacobi行列の式 (73)右辺に現れる行列D とD2

は巡回行列であるから,∇v(h)もまた巡回行列である.さらに,選択確率関数P (h)の Jacobi行列J(h)は,人口分布 hでは,

J(h) = hθ(I − E/K), (76)

であるから,調整ダイナミクスの Jacobi行列:

∇F (h) = HJ(h)∇v(h) − I (77)

も巡回行列であることがわかる.ここで,E は全要素

が 1のK × K 行列である.

以上より,Jacobi行列∇F (h)の固有値 gは,∇F (h)が巡回行列であるため,以下の命題に示されるように,

行列D/dの固有値・固有ベクトルによって特徴づけら

れることが判る.

命題 3: 円周都市システムのK個の都市に skilledが均等に分散した均衡人口分布 hを考える.このとき,

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Page 10: 1次元多都市システムにおける 人口集積パターンの創発メカ …akamatsu/Publications/...1次元多都市システムにおける 人口集積パターンの創発メカニズム

CPモデル調整ダイナミクスの Jacobi行列∇F (h)は以下の特性を持つ:

1) 第 k固有ベクトル (k = 0, 1,K − 1)は,行列D/d

の固有ベクトルと同様,離散 Fourier変換行列 Z

の第 k行ベクトル zk で与えられる.

2) 第 0固有値は常に −1である.第 k固有値 gk(k =1, 2, · · · ,K − 1)は,行列D/dの第 k固有値 fkの

2次関数:

gk = G(fk) (78)

G(x) ≡ θ[bx − ax2] − 1 (79)

で与えられ,さらに,

gm = gK−m (m = 1, 2, · · · ,M − 1) (80)

が成立する (証明は,付録 V参照).ここで,a, b

は CP モデルの効用関数パラメータと h, θから決

まる定数で,式 (74), (75)によって与えられる (なお,FOモデルでも,同様の結論が得られる.詳細については付録 VIを参照).

命題 3の 1)で示された調整ダイナミクスの固有ベクトル zkは,その要素の配列パターン (i.e. 1が現れる周期)によって,各都市への skilled人口集積パターンを表現している.例えば,z0は,全要素が 1であり,skilledが均等に分散した状態に対応する; 2要素毎に 1と −1が交互に現れる zM は,一つ飛びのM(= K/2)個の都市に skilledが集積したパターンを表している; 同様に,4要素毎に 1と−1が現れる zM/2は,M/2(= K/4)極集積パターンである.

2)で示された調整ダイナミクスの固有値 gmは,分散

均衡状態から第m集積パターン (第m固有ベクトル)方向へ導く “純集積力”を意味している.ここで,純集積力とは,集積状態で発生する “集積効果”から “分散効果”を差し引いた効果である.より具体的には,式 (78)が fk に関する 2つの項から成ることに注目しよう.第1項は,∇v(h)の導出からも明らかなように,集積によって財多様性が増加することによる “集積効果”を意味している.一方,第 2項は,集積によって市場競争条件が厳しくなる (分散状態での空間的市場独占による利益が消える)ことによる “分散効果”を意味している.

ここで注意すべきは,集積効果は fk の 1次関数であるのに対して,分散効果は fk の 2次関数となっている点である.この相違により,2つの力は,fk の変化に

対して大きく異なる反応を示す.さらに,fk は,輸送

費用パラメータ τ に応じて,集積パターン k ごとに異

なった値をとる (図–1参照).そのため,各集積パターンの純集積力と分散状態の安定性は,τ のレベルに応じ

て,複雑に変化 (i.e. τ の変化に伴い均衡解が分岐)する.そこで,以降の章では,τ が変化した場合に起こる

均衡解の分岐挙動を,命題 2 と命題 3を用いて,明らかにしてゆく.

5. 分散状態で発生する分岐のメカニズム

(1) 分岐の発生条件

CPモデルにおいて分散均衡状態から分岐が発生 (i.e.何らかの集積パターンが創発)するためには,命題 3の式 (78)で与えられる K 個の純集積力 (固有値 g)のいずれかがゼロとなる必要がある.ここで,輸送費用パ

ラメータ τ の変化によって純集積力に影響を与える変

数は,D/dの固有値 f のみである.従って,τ の変化

にともなう分岐が発生するためには,fk に関する 2次方程式:

G(fk) = 0 (81)

に実数根が存在する必要がある.さらに,その根は,命

題 2で示された fkの値域 (0, 1]に含まれねばならない.この条件から,以下の命題が直ちに得られる:

命題 4: CPモデルにおいて,skilledが円周都市システムのK個の都市に均等に分散した均衡状態を考

える.このとき,輸送費用パラメータ τ の変化に

よって,skilledが少数の都市へ集積した均衡状態へ分岐するためには,CPモデルのパラメータが,

Θ ≡ b2 − 4aθ−1 ≥ 0, (82)

and 0 < b +√

Θ ≤ 2a (83)

を満たしている必要がある.

命題 4の集積パターン創発条件 (82)は,式 (81)を満たす解 f∗

k が存在する条件を表している.そのため,消

費者の立地選択に関する異質性が非常に大きい (i.e. θが

非常に小さい)と,任意の (h, σ)に対して条件 (82)が満たされず,集積状態が発生しないことがあり得る.もう

一方の命題 4の集積パターン創発条件 (83)は,式 (81)を満たす解 f∗

k の最大値が値域 (0, 1]に含まれる条件である.f∗

k の最大値が 0より大きくなる条件 (b+√

Θ > 0)が満たされない場合,固有値 gk が常に負となること

から,分散均衡状態が常に安定的となり,均衡解の分

岐が起こらない.ただし,本稿で考える CPモデルでは,常に b > 0が成立するため,この条件は自動的に満足している.一方,f∗

k の最大値が 1以下となる条件(b +

√Θ ≤ 2a) は,既存研究でもよく知られている,

black-holeの非存在条件である.この条件が満たされない場合,輸送費用パラメータ τ が高い状況でも,固有

値 gk が常に正となり,分散均衡状態が不安定的 (集積均衡解が安定的)となる.すなわち,輸送費用パラメータ τ の変化に伴う均等分散パターンからの均衡解の分

岐は起こらない.

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

451

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消費者が立地選択に関して均質な場合 (i.e. θ → ∞)には,Θ = b2 > 0となるため,命題 4の集積パターン創発条件が,black-hole 非存在条件のみの極めて単純な条件 (b ≤ a)に帰着する.この条件は,例えば Pfモデルなら, 1− σ−1 ≥ hである.すなわち,輸送費用パ

ラメータ τ が大きい場合に分散均衡状態が安定的とな

るためには,skilled人口 (unkilled人口に対する相対比h)が一定の閾値 (1 − σ−1)以下となる必要があり,その閾値は,財多様性に対する選好が強い (σ が小さい)ほど,低くなることを意味している.

(2) 分散均衡状態からの分岐: 集積の創発

前節で示した分岐の発生条件 (82), (83)が満たされた状況において発生する,分散均衡状態からの分岐挙動

を調べよう.均衡解の分岐は,純集積力 gk の符号が変

化する際に発生するため,fk に関する 2次方程式 (81)の実数根:

x∗± ≡ b ±

√Θ

2a(84)

は,分岐が発生する fk の臨界値を意味している.この

臨界値 (84)と fkの関係から,分散均衡状態の安定性が

確認できる.第 3章で示したように,均衡状態は,全ての k について純集積力が負 (gk < 0 ∀k = 0)であれば安定,そうでなければ (gk > 0 ∃k) 不安定である.また,図–2に示すように,純集積力 gk は,fk の 2次方程式 (78)で表わされる.そのため,分散均衡状態の安定性は,以下の 3つの状態毎に決定される.

Case a) fk > x∗+ ∀k = 0 ⇔ gk < 0 ∀k = 0 (85)

Case b) x∗− < fk ≤ x∗

+ ∃k ⇔ gk > 0 ∃k (86)

Case c) fk ≤ x∗− ∀k = 0 ⇔ gk < 0 ∀k = 0 (87)

すなわち,分散均衡状態は,Case a), c)において安定,b)では不安定となり,何らかの集積パターンが創発する.

以上で得られた fkの分岐臨界値 (84)を利用して,輸送費用パラメータ τ を低下させた場合に生じる均衡解

の分岐の特性を示そう.そのために,まず,固有値 fk(·)を τ の関数と考え,その逆関数を τk(·)と書く:

τ∗ = τk(x∗) ⇔ x∗ = fk(τ∗). (88)

ここで,fk(·)は τ の単調増加関数である (命題 2と図–

1参照)から,その逆関数 τk(·)も fkの単調増加関数で

ある.

初期状態では,輸送費用が大きく,τ > τk(x∗+) ∀k =

0, が成立しているとしよう.逆関数 (88)の定義から,この条件は,Case a)の条件 (85)と等価であるため,分散状態が安定的である.輸送費用 τ が低下すると,あ

る集積パターン k∗ に対して,τ ≤ τk∗(x∗+), が成立す

る.この条件は,Case b)と同じ条件 (86)を表現しているため,分散パターンが不安定化することがわかる.

Case c) Case b) Case a)

図–2 固有値 g と f の関係と均等分散パターンの安定性

ここで,最初に τ ≤ τk∗(x∗+)となる集積パターン は,

命題 2 より,

k∗+ = arg . min

k{fk(τ)} = M (89)

である.従って,τ が臨界値:

τ∗+ ≡ max

k{τk(x∗

+)} = τM (x∗+) (90)

となったときに集積パターン k∗+ への分岐が発生する.

なお,以上で示した分岐臨界値を得るための手順は,

図–1によっても説明できる.輸送費用パラメータ τ を

徐々に下げてゆく場合,分散状態から集積状態への分

岐は,ある τ に対応した f のうちいずれかの固有値が

最初に x∗+以下の値をとる点で発生する.すなわち,臨

界値 x∗+ に対応した水平な直線 l+ と f4 の交点 C+ で

発生する.これは,直線 l+上で τ が最大値をとる固有

値であるから,逆関数 τk(·)を用いて τ の臨界値を表現

すれば,式 (90)のように書ける.

上記の例からも明らかな様に,分散状態から集積状

態への分岐臨界値 τ∗+ は,D/dの固有値 f と τ の関係

(i.e. 命題 2と図–1 )と x∗+ さえ与えられれば,式 (90)

により容易に求められる.ここで,x∗+ は,式 (84)に

よって容易に与えることができるから,CPモデルのパラメータと分岐臨界値 τ∗

+ の関係も簡単に把握できる.

この点も含め,CPモデルにおいて最初に発生する分散状態から集積状態への分岐の特性を命題としてまとめ

ておこう.

命題 5: CPモデルにおいて,命題 4の条件が成立しているものとする.輸送費用が十分に大きく,skilledが各都市に分散した均衡状態を考える.この状態

から,輸送費用パラメータ τ を徐々に下げると,

1) 任意の集積パターン (固有ベクトル z)に対する純集積力 (固有値 g)は増加し,式 (90)と式 (84)で与えられる臨界値 τ∗

+で集積状態への分岐が必ず発

生する.

2) この臨界値 τ∗+ は,a) skilledの立地選択の異質性

が小さく (θ 大),b) skilled 人口比率が大きく (h大),c) skilledの財消費代替の弾力性が小さい (σ小),ほど高い.

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

452

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(3) 分散均衡状態への分岐: 集積の崩壊

前節 (2)では,fk の分岐臨界値 x∗+, x∗

− のうち,x∗+

での分岐についてのみ議論した.そこで,次に,x∗−に

対応する輸送費用パラメータ τ の分岐挙動を調べよう.

輸送費用 τ が τ∗+からさらに低下し,全集積パターンに

対して,τ ≤ τk(x∗−)となる状況を考える.このとき,

Case c)の条件 (87)が成立するため,分散状態が再び安定化する.ここで,最後に τ ≤ τk(x∗

−)となる集積パターン k∗

− は,命題 2 より,

k∗− = arg .max

k =0{fk(τ)} = 1 (91)

である.従って,τ が臨界値:

τ∗− ≡ min

k{τk(x∗

−)} = τ1(x∗−) (92)

に達すれば,集積状態から分散状態への分岐が発生す

る (ただし,分散状態への分岐は,式 (92)の臨界値以外でも生じうる.この点は,(5)節で議論する).

この輸送費用 τ の臨界値 τ∗− に関わる (i.e. 集積状態

から分散状態への)分岐の特性は,消費者が均質な場合(i.e. θ → ∞)と異質な場合 (i.e. θ有限)で,大きく異なる.まず,消費者が均質な場合には,式 (84)で得られる臨界値は,より単純な表現:

limθ→+∞

x∗±(θ) = b/a or 0 (93)

に帰着する (図–2参照).これを τk(·) の定義 (fk と τ

の関数関係)と組み合わせれば,任意の集積パターン k

で,τk(x∗−) = τk(0) = 0であることがわかる.従って,

集積状態から分散状態への分岐臨界値は,

limθ→+∞

τ∗− = min

k{τk(0)} = 0 (94)

である.すなわち,消費者が均質な場合には,輸送費

用がどれだけ低下しても,ゼロにならない限り,集積

状態から分散状態には戻らない.

消費者が異質な場合には,パラメータ値によらず,常

に x∗− > 0であるから,任意の kに対して,τk(x∗

−) > 0である (図–2参照).これは,τ が一定値以下になれば,

市場競争激化により分散力が集積力を凌駕し,純集積

力が必ず負となることを意味している.すなわち,分

散状態への分岐臨界値は,

τ∗− = min

k{τk(x∗

−)} > 0 (95)

である.従って,消費者が異質な場合には,(分散状態から集積状態へ移行した後に)輸送費用がある程度以下に低下すれば,集積状態から分散状態へ必ず分岐 (i.e.“再分散”が発生)することがわかる.これは,消費者の異質性を考慮した 2都市CPモデルによりTabuchi andThisse32),Murata26)が示した再分散の発生を一般化し

た結果である.

なお,以上の議論から明らかなように,“再分散”が発生するためには,x∗

− > 0でさえあればよい.これは,

消費者が均質であっても,臨界値 x∗± を決定する (79)

の関数 G(·)に,θ → ∞でも効果の消えない新たな定数項が追加されれば実現する.従って,人口集積によっ

て増大する地代や外部不経済といった τ に依存しない

分散力を CPモデルに新たに導入すれば,やはり再分散が発生する.これは,2都市CPモデルに地代を導入した Tabuchi31), Helpman15)などが示した再分散の発

生に,理論的な説明を与えている.以上の議論は,次

の命題にまとめられる.

命題 6: CPモデルでは,skilledが各都市に分散した均衡状態から,輸送費用パラメータ τ を徐々に下

げると,

1) どの集積パターン (固有ベクトル z) に対する純集積力 (固有値 g)も,τ の減少にともない,増加の

後,必ず減少する.

2) 消費者が均質な場合 (i.e. θ → ∞)には,どの集積パターンに対する純集積力も,τ = 0の極限でのみ,ゼロとなる.従って,分散状態から集積状態

に分岐した後に,再び分散状態に戻ることはない.

3) 消費者が異質な場合 (i.e. θが有限) には,どの集積パターンに対する純集積力も正の τ で必ず負と

なる.従って,式 (92)と式 (84)で与えられる臨界値 τ∗

−で集積状態から分散状態への分岐 (“再分散”)が必ず発生する.

6. 集積分散パターンの進展

前章では,分散均衡状態からの局所的解析によって

わかる分岐現象のみを議論した.また,どのような集

積パターンが発生するかについても具体的には言及し

ていない.多数の都市を持つ CPモデルでは,輸送費用パラメータ τ を下げてゆくと,上記の分岐臨界値 τ∗

+

と τ∗−の間においても,最初に創発した集積パターンか

ら繰り返し分岐が生じ,さらに複雑な集積・分散の進展

が生じうる.以下では,これらの点を,消費者が均質・

異質な場合の各々について,簡潔に議論しておこう.

(1) 消費者が均質な場合

消費者が均質な場合,τ を低下させる過程で生じる

最初の分岐では,式 (89)(or 図–1 )で見たように,均衡解は,固有値 {fk}が最小値をとる固有ベクトル方向へ向かう.この方向は,命題 2により,必ず,第M 固有

図–3 最初に創発する集積パターン: K = 8の場合

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

453

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ベクトル zM,すなわち,1 と-1が交互に現れるベクトルである.従って,最初に創発する集積状態は,偶数

番,奇数番系列の都市が各々等しい skilled人口 h + δ,

h − δを持つパターン

h = (h + δ, h − δ, h + δ, h − δ, ...) (h > δ > 0) (96)

となる (図–3参照).すなわち,一つ飛びのM = K/2個の都市に skilled人口が集積した状態が現れる5.これ

は,都市間の輸送費用の改善に伴い周辺都市から 1つの都市への人口移動が生じる “ストロー効果”に対応する現象である.このパターンにおける人口分布の偏り

を表す xは,Pfモデルでは,τ に関して連続な単調減

少関数である6.すなわち,分岐臨界値からの τ の低下

に伴い x (人口分布の偏り)は増加し,やがて,一つ飛びのM = K/2個の都市にのみ skilledが均等に存在する “M極集中” パターン

h = (2h, 0, 2h, 0, 2h, ...) (97)

が現れる.そして,さらに τ を低下させても,しばら

くは,このM 極集中パターンが維持される.消費者が

均質なモデルでは,この様な端点解が安定的均衡状態

となりうることに注意しよう.

この集積状態から,さらに τ を低下させると,さら

なる分岐が発生する.このとき,どのようなパターン

へ分岐するかを具体的に知るためには,一般には,こ

の集積状態における調整ダイナミクスの Jacobi行列の固有値・固有ベクトルを求める必要がある.しかし,消

費者が均質なら,その具体的な計算をすることなく,ど

のような分岐が起こるかを容易に予想できる.ここで,

“M 極集中”状態は,M 個の都市から成る都市システ

ムに skilled人口が均等に分布した状態とほぼ同じ7 と

みなせることに注意しよう.これは,K 都市システム

におけるこれまでの議論と全く同様の方法で,M 極集

中状態で最初に生じる分岐を把握できることを意味し

ている.より具体的には,M 都市システムにおける空

間割引行列の最小固有値を持つ第M/2固有ベクトル方向への分岐が最初に発生する.そして,skilledがM/2個の都市にのみ均等に存在するM/2極集中パターンとなる.ただし,この分岐が発生するためには,上記の

第M/2固有値が,第M 固有値よりも大きい必要があ

る.これは,任意のM について命題 2と同様の議論に5 ここでは,偶数番系列の都市に集積したパターンを書いたが,奇数番都市に集積する均衡状態も全く同様に生じうる.

6 FO モデルあるいは Krugman21)モデルでは,この連続的な推移過程を経ずに,均等人口分布から “M極集中”パターンにジャンプする.

7 ただし,上記の議論では,skilledがいない都市における unskilledの影響を無視している.この点を考慮した厳密な証明については,紙面の制約もあるため,Akamatsu et al.1), Akamatsu and

Takayama2)参照.また,都市数 K によっては,集積都市数の半減が不可能な場合もあり,一般には,周期倍分岐過程が崩れた複雑な分岐経路もある.その例については,池田ら36), Ikeda

et al.19)を参照.

より保証できる.従って,上と同様の論法を再帰的に

繰返すことによって,τ の低下にともない “空間的周期倍分岐”が発生すると結論できる.すなわち,τ を低下

させるにつれ,

M = K/2極→K/4極 →K/8極→ · · · → 2極→ 1極

と skilledが住む都市数が半減しながら集積が進行することがわかる.斯くして,以下の命題が得られる.

命題 7: 消費者が均質な CPモデルでは,輸送費用係数 τ を徐々に減少させると,

1) 最初の (分散状態が最初に崩壊する)分岐で現れる集積状態は,必ず,skilledが一つ飛びのK/2個の都市にのみ集積したパターンである.

2) さらに τ を減少させてゆくと,必ず,skilledが集積した都市数が減少するパターンへ進化し,最後

に 1極集中化する (ただし,τ = 0の極限では,任意の人口パターンが均衡解となる).

3) 上記 2)の過程では,その典型例として,“空間的な周期倍分岐”型の集積進展経路が存在する.

(2) 消費者が異質な場合

消費者が異質な場合,最初の分岐では,消費者が均

質な場合と全く同様に,均衡解は,固有値が最小値を

とる第M 固有ベクトル方向へ向かう.その結果,最初

に現れる集積状態は,skilledが一つ飛びのK/2個の都市に h1 人ずつ住み,残りの K/2個の都市に h2 < h1

人ずつ住む (i.e. skilled人口が多い都市と少ない都市が交互に現れる)パターンとなる.このパターンは,消費者が均質な場合に生じるM 極集中パターンと類似して

いるが,やや異なる.これは,消費者が異質な場合の均

衡状態は,有限の θに対して必ず内点解となり,M 極

集中パターン (端点)は均衡解となり得ない (立地選択シェアを決める logit関数は,全選択肢に非ゼロのシェアを与える)ためである.従って,異質性が小さい (θが大きい)ほど h1 と h2 の差は大きくなり,θ → +∞の極限では h2 → 0となる.さらに τ を低下させると,さらなる分岐が発生する.

異質性が小さければ,その集積パターンは,均質な場

合と類似する.ただし,その分岐経路は,均衡状態が内

点解のみであるため,均質な場合とは異なり,滑らか

な曲線となる.異質性が大きい場合には,粗い傾向と

しては,τ の低下に伴い,集積が進むと言えるものの,

必ず skilled が集積する都市数が減少したり周期倍分岐が発生するわけではない.実際,命題 6の 3)でも見たように,消費者の異質性がある場合,τ が一定値以上ま

で減少すれば,集積パターンが必ず崩壊する.

消費者が異質な場合に発生する再分散は,(4)節で示した臨界値 τ∗

−においてのみならず,分散状態から分岐

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454

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(A)(B)(C)(D)

図–4 “再分散”が繰返し発生する分岐過程

を繰り返して集積が進んでゆく途中過程でも発生しうる

(τ∗− は,最後に発生する再分散に対応している).そのような複数回の再分散が発生するメカニズムは,K = 8とした図–4の例を見れば容易に理解できる.この図で

は,図–1と同様,横軸を τ として固有値 {fk(τ)}と臨界値 x∗

+が描かれている.集積状態から分散状態への分

岐は,ある τ に対応した全ての純集積力 gが負となれ

ば発生する.これは,f の全ての要素が,x∗− 以下か,

または,x∗+以上の値をとる場合である.図–4では,τ

を下げてゆくと,この条件が満たされる状態が 2回発生する:

• 領域 (A): 集積パターン 2~8のいずれかの固有値が正ゆえ,分散状態は不安定で,集積状態となっ

ている.

• 領域 (B): f1を除く全固有値が臨界値 x∗−以下ゆえ,

集積パターン 2~8の純集積力は負.また,f1 > x∗+

ゆえ,集積パターン 1の純集積力も負.従って,領域 (B)では分散状態が安定均衡解となり,(A)と(B)の境界点 τ = τ∗∗

− で,集積状態から分散状態

への分岐が発生する.

• 領域 (C): x∗− < f1 ≤ x∗

+ となり,集積パターン 1の純集積力が正となる.従って,分散状態が不安

定化し,(B)と (C)の境界点 τ = τ∗∗+ で集積状態

への分岐が発生する.

• 領域 (D): f1 < x∗− となり,全集積パターンの純

集積力が負となる.従って,分散状態が安定化し,

(C)と (D)の境界点 τ = τ∗−で集積状態から分散状

態への分岐が発生する.

このように,各集積パターンの固有値 f と臨界値 x∗±に

対応する τ の区間の組み合わせパターンによって,一

般的には,再分散が何度も起こり得ることがわかる.以

上の議論は,次の命題にまとめられる.

命題 8: 消費者に異質性がある CPモデルでは,輸送費用係数 τ を徐々に減少させると,

1) 最初の (分散状態が最初に崩壊する)分岐で現れる集積状態は,必ず,skilled人口が多い都市と少ない都市が交互に現れるパターンである.

2) さらに τ を減少させてゆくと,θ がある程度大き

ければ,消費者が均質な場合の分岐曲線を滑らか

にした経路に沿って集積パターンが進化する.

3) τ が一定値以下になれば,必ず再分散が発生する.

これは,1極集中後の再分散のみならず,1極集中に至る途中過程でも再分散が発生しうる.

以上では,分岐の大域的特性の概略を述べたが,よ

り詳細な点については,計算分岐理論に基づく数値計

算によって調べるのが賢明である.そこで,第 7章では,数値計算によって,CPモデルにおける分岐の大域的特性の詳細を確認する.

7. 大域的な分岐特性の数値実験による確認

(1) 数値実験方法

本章では,円周 8都市システムを例にして,CPモデルの分岐の大域的特性を数値実験により調べる.これ

までの解析から明らかなように,CPモデルは,輸送費用の変化に伴い,分岐が繰返し発生する.そのため,本

章で行う数値実験においては,非常に複雑な均衡解の

分岐経路を導出する必要がある.そこで,本章では,均

衡解の分岐解析に,Ikeda et al.19),池田ら36)と同様,

計算分岐理論と群論的分岐理論を適切に組み合わせた

方法を採用する (計算分岐理論・群論的分岐理論の詳細は,Ikeda and Murota20), 藤井ら41)参照).

(2) 数値実験条件

本稿で議論した 2種類の CPモデルのうち,本章では,紙面に制約があることから,FOモデルのみの数値実験結果を示す.ただし,我々は,本章で議論する,τ

の変化に伴う集積進展経路が,FOモデル・Pfモデルで共通となることを確認している.そのため,以降で

得られる結果は,FOモデルに限定されるものではないことに注意が必要である.

また,次節以降で示す数値実験結果は,パラメータ

を H = 2, L = K = 8, µ = 0.4, σ = 2.0, α = 1, β = 1とした場合の結果である.その数値実験結果は,縦軸

に skilled workerの人口割合 hi/H,横軸に 1−rを取っ

た図により示す.ここで,1− rは,τ ∈ [1,∞)を [0, 1)の範囲で表現するために用いる.

(3) 消費者が均質な場合

まず,消費者が均質に近い状況について考える.具

体的には,skilled workerの選好異質性パラメータ θ =

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455

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A

B

C2

E2

A

大 → τ → 小

図–8 消費者が異質な場合の人口集積パターンの推移

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

輸送費用

人口比率

city 0

city 1

city 2

city 3

city 4

city 5

city 6

city 7

図–5 消費者が均質な場合の均衡状態

A

B-0

C-0

E-0

大 →     τ     → 小

図–6 消費者が均質な場合の人口集積パターンの推移

5000とした場合について,数値実験により安定的な均衡解を調べる.この結果は,図–5に示すとおりである.

また,輸送費用パラメータ τ が徐々に減少していく過

程での人口集積パターンの変化は,図–6に示した.こ

の結果から,均衡解が輸送費用の低下に伴い,

分散 → 4極集中 → 2極集中 → 1極集中

と推移していることがわかる.これは,前章の命題 7と整合的な周期倍分岐型の集積進展経路となる結果であ

る.以上より,消費者が均質な場合について,CPモデルの集積進展経路が周期倍分岐型であることが明らか

となった.

図–5 , 図–6では,周期倍分岐型の集積進展経路のみ

を示したが,それ以外にも,Ikeda et al.19)で示されている安定的な均衡解が存在する.しかし,周期倍分岐

型の集積パターンは,任意の τ で安定的な均衡解とな

る一方で,それ以外の集積パターンは,τ のある範囲で

しか均衡解にならない.そのため,本稿では,紙面の

制約もあることから,典型的な (i.e. 周期倍型の) 集積進展経路のみを示すこととする.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

輸送費用

人口比率

図–7 消費者が異質な場合の均衡状態

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

輸送費用

人口比率

図–9 消費者が異質な場合の均衡状態: σ = 2.3

(4) 消費者が異質な場合

次に,消費者に異質性を導入した場合を考えよう.パ

ラメータ θ = 20とした場合について,数値実験により得られた安定的な均衡解を図–7に示す.さらに,その

際の人口集積パターンの推移は,図–8 のとおりであ

る.この結果は,消費者が均質な場合と同様,均衡解が

分散 → 4極集中 → 2極集中 → 1極集中 → 分散

と推移している.これは,前章の命題 8の 1), 2), 3)と対応の取れた周期倍分岐型の集積進展経路である.た

だし,この結果では,1極集中に至る途中過程では,再分散が発生していない.

そこで,上記の設定の分散力を強くするために σ =2.3とした場合の均衡解である,図–9を見てみよう.こ

の場合の人口集積パターンは,図–10のとおりである.

土木学会論文集D Vol.66 No.4,442-460,2010.11

456

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A

B

C2

A

E2

A

大 → τ → 小

図–10 一極集中となる直前に再分散が起こる場合の人口集積パターンの推移

この結果から,均衡解が

分散 → 4極 → 2極 → 分散 → 1極 → 分散

と推移していることがわかる.これは,明らかに命題

8の 3)の 1極集中に至る途中過程で再分散が発生する,ことと整合的な結果である.以上より,分岐の大域的特

性を数値実験により調べた場合でも,前章の命題 8と同様の結論が得られた.

8. おわりに

本研究は,新経済地理学 (NEG)分野で開発された 2都市Core-Periphery(CP)モデルを多都市システムの枠組に拡張し,その均衡解の分岐 (少数都市への産業・人口集積)特性を明らかにした.CPモデルに関する従来研究は,その大半が 2都市モデルの解析に留まっている.その最大の理由は,多都市モデルで生じる分岐解

析の困難さにある.この問題に対し,本稿では,空間割

引行列,離散フーリエ変換,円周都市システムの 3つの鍵概念を組合わせたアプローチを提示した.そして,

その分析法を用いれば,この分岐の基本的な仕組みは

容易に理解できることが示された.

本稿で解析対象とした CPモデルに限らず,空間的な経済集積現象を扱った多くのモデル (e.g. Fujita andThisse11)参照)は,均衡解の分岐現象をともなう.しかし,従来研究では,その分岐 (空間的な集積・分散パターンの創発)特性は,標準的な解析手法の欠如から,十分には理解されていない.本稿で示されたアプローチは,

移動(立地)主体の種類が単一であり,間接効用関数

の Jacobi行列が空間割引行列と skilled workerの人口分布により表現される CPモデル以外の集積経済モデル8に対して,そのまま応用できる.従って,本研究か

ら生み出される重要な課題の一つとして,従来研究で

構築されてきた多くの集積経済モデルを系統的に見直

し,理論的に体系化してゆくことが挙げられよう.さ

らに,このアプローチを直接適用できない,複数種類

の移動主体が存在する集積経済モデルや,2次元空間上で創発する集積パターンを分析できる分岐解析手法の

提示も重要な課題である.これらの方向の研究につい

ては,追って,報告する予定である.

8 都市や立地点間の距離に依存した集積パターンが創発する集積経済モデルの多くは,この条件を満足する.

謝辞: 本論文は,日本学術振興会・科学研究費補助金・

基盤研究 (B) (課題番号 19360227および 21360240)の助成金を受けた研究の一部である.ここに記し,感謝

の意を表します.

付録 I 命題 1の証明

FOモデル,Pfモデルの skilled workerの間接効用関数は,2章 (2)節で示した結果から,定数項を除くと,次のように表せる:

[FOモデル]

vi = µ(lnµ − ln ρi) + (1 − µ) ln(1 − µ) + lnwi

[Pfモデル]

vi = µ(lnµ − ln ρi − 1) + wi

得られた間接効用関数に式 (17), wi = µσ−1(w(H)i +

w(L)i )を代入し,定数項を除くと,

[FOモデル]

vi = µ(σ − 1)−1 ln∆i(h) + ln[w

(H)i (h) + w

(L)i (h)

][Pfモデル]

vi = (σ − 1)−1 ln∆i(h) + σ−1[w

(H)i (h) + w

(L)i (h)

]となり,これをベクトル表記することで,式 (33), (34)が得られる.また,w(H), w(L)共に hの陽関数である

ため,間接効用関数 (33), (34)が,hの陽関数となるこ

とは,明らかである.

付録 II 巡回行列の定義と基本特性

要素の並び方に以下の規則性がある (第m行は,第

m − 1行の要素の並びを巡回的に 1つずらしたものとなっている) K × K 行列:

A ≡

a0 a1 a2 · · · aK−2 aK−1

aK−1 a0 a1 a2 · · · aK−2

......

...a2 a3 · · · a0 a1

a1 a2 · · · aK−1 a0

(II.1)

は,K 次元ベクトル a = [a0, a1, · · · , aK−1]から作られる “巡回行列 (circulant matrix)”と呼ばれる.

巡回行列には,よく知られた (様々な分野で頻繁に応用される)以下の特性がある:

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(1) 任意のK 次元ベクトル a = [a0, a1, a2, · · · , aK−1]から作られる巡回行列Aは,固有ベクトル:

zk ≡ [1, ωk, ω2k, · · · , ω(K−1)k] (II.2)

ω ≡ exp(i(2π/K)) k = 0, 1, · · · ,K − 1 (II.3)

を持ち,対応する固有値は,

λk =K−1∑l=0

alωkl (II.4)

で与えられる.すなわち,任意の巡回行列 Aは,

離散 Fourier変換行列 Z を用いて,

A = ZΛZ∗ (II.5)

と表現される.ここで,Λ ≡ diag[λ0, λ1, ..., λK−1].(2) 任意の巡回行列の和・積・逆行列は,再び巡回行列となる:

1)A ∈ C, B ∈ C ⇒ A + B ∈ C

2)A ∈ C, B ∈ C ⇒ AB = BA ∈ C

3)A ∈ C ⇒ A−1 ∈ C

ここで,Cは巡回行列の集合である.これらの特性

の証明は容易であるため,伊理37), Gray14), Hornand Johnson18) 等を参照されたい.

付録 III 補題 1の証明

行列Dの固有値 λは,以下の式で与えられる:

λm = 1 + (−1)mrM + Sm (III.1)

ここで,

Sm ≡M−1∑k=1

(wmk + w−mk)rk

= 2M−1∑k=1

[exp(i{2π(m/K)})]k rk

= 2r exp(i{2π(m/K)}) − rM (−1)m

1 − r exp(i{2π(m/K)}). (III.2)

したがって,右辺の実部をとり,cosm ≡ cos(2π(m/K))と書くと,

Sm

2=

r cosm −r2 − (1 − r cosm)(−1)mrM

1 − 2r cosm +r2. (III.3)

これを式 (III.1)に代入し整理すれば,補題 1の式 (54)が得られる.

付録 IV 命題 2の証明

1) 行列 (D/d)が巡回行列であることから明らか.

2) 行列 (D/d)の固有値は,fm = λm/d = λm/λ0で

ある.これに,補題 1で得られた λm の関数形を代入

すれば,式 (59)が得られる.

3) 偶数番系列の固有値では,

d

drfm =

d

dr(cMcm)

= −2(1 − r2)(1 − cosm)(1 − 2r cosm +r2)2

(IV.1)

ここで,−1 ≤ cosm ≤ 1ゆえ,0 ≤ r < 1に対して,dfm/dr < 0,すなわち,単調減少である.

奇数番系列の固有値では,

d

drfm =

d

dr(cMcmϵM ) (IV.2)

この式を計算し整理すると,dfm/dr < 0は,

cosm <x − yMrM

x − 2MrM(IV.3)

x ≡ (1 − r2)(1 − r2M ) (IV.4)

y ≡ r(1 − r)2(1 + r2) (IV.5)

と同値であることが示される.ここで,0 ≤ r < 1では,2 > y ≥ 0, x > 0であるから,不等式 (IV.3)の右辺は 1以上,左辺は 1以下,すなわち,不等式 (IV.3)が常に成立する.よって,0 ≤ r < 1に対して,dfm/dr < 0,すなわち,単調減少である.

4) 以下の 5)の証明から明らかである.

5) 偶数番系列の固有値は f2k = cMc2k で与えられ,

任意の 0 ≤ r < 1に対して,0 < cM ≤ 1,

c−1M = c0 > c2 > · · · > cM ≥ 0 (IV.6)

であるから,

1 = f0 > f2 > · · · > f2k > · · · > fM = c2M (IV.7)

が成立する.

奇数番系列の固有値は f2k+1 = cMc2k+1ϵM で与えら

れ,任意の 0 ≤ r < 1に対して,0 < cM ≤ 1,

c−1M > c1 > c3 > · · · > cM−1 > cM > 0 (IV.8)

であるから,

f1 > f3 > · · · > f2k+1 > · · · > fM−1 > c2M ϵM (IV.9)

が成立する.また,上記 3) により,fk は任意の 0 ≤r < 1に対して単調減少関数ゆえ,

f1(r) ≤ cM (0)c1(0)ϵM (0) = 1 = f0 (IV.10)

(等号は r = 0の場合のみ)である.

付録 V 命題 3の 2)の証明

CPモデル調整ダイナミクスの Jacobi行列∇F (h)の固有値は,巡回行列であるため,その固有値は,∇vの

第 k固有値を f(v)k とすると,

gk =

hθ[f

(v)0 − h−1 (b − a)

]− 1 if k = 0

hθf(v)k − 1 if k = 0

(V.1)

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となる.∇v は,式 (73)で表わされる巡回行列であるため,

f(v)k = h−1

(bfk − af2

k

). (V.2)

したがって,gk は,次のように表せる:

gk =

−1 if k = 0

θ(bfk − af2

k

)− 1 if k = 0

. (V.3)

付録 VI FOモデルの Jacobi行列

紙面の制約により,以下では,命題 3の証明に必要な均等人口分布下での間接効用 Jacobi行列のみを示す.FOモデルの間接効用関数は,3章の式 (33)で与えられる.従って, Jacobi行列∇v(h)の (i, j)要素は,

∂vi(h)∂hj

σ − 1dij

∆j(h)+

1wi(h)

∂wi(h)∂hj

(VI.1)

と与えられる.この右辺第二項に現れる賃金変化率

∂wi(h)/∂hj は,以下に示す様に,均衡賃金方程式か

ら評価できる.

FOモデルでは,人口分布 h∗ における均衡賃金 w∗

は,2章の式 (25)で示した賃金方程式:

F (w∗, h∗) = [I − A(h∗)]w∗ − b(h∗) = 0 (VI.2)

を満たす.ここで,

A(h) = κMTH (VI.3)

b(h) ≡ κMT1, κ ≡ µ/σ. (VI.4)

いま,人口分布の変化 δhに対する各都市の名目賃金変

化を δwと書くと,均衡状態では,

F (w∗ + δw, h∗ + δh) = 0 (VI.5)

が成立する.これを 1次の項まで展開し,(VI.2)と組み合わせれば,

δw = B(h)∇ψ(h∗)δh (VI.6)

を得る.ここで,

ψ ≡ A(h)w + b(h) (VI.7)

B(h) ≡ [I − A(h)]−1 (VI.8)

skilledが各都市に h ≡ H/K 人ずつ均等に分布した

均衡状態 h∗ では,各都市における名目賃金は,wi =w ≡ κ/[(1 − κ)h]と与えられる.このとき,式 (VI.7),式 (VI.8)は,各々,空間割引行列 D を用いた簡単な

表現:

∇ψ(h∗) = κw

(D

hd

)− κ(wh + 1)

(D

hd

)2

(VI.9)

B(h∗) = [I − (κ/d)D]−1 (VI.10)

に帰着する.これらを式 (VI.6)に代入すれば,均等人口条件下での人口変化 δh に対する賃金変化 δw の関

係,すなわち,∂wi(h)/∂hj が陽に得られる.さらに,

これを式 (VI.1)に代入すれば,

∇v(h∗)

=1h

[κ−

D

d+

(I − κ

D

d

)−1D

d

(κI − D

d

)](VI.11)

ここで,κ− ≡ µ/(σ − 1) < 1.

この式 (VI.11) 右辺は,全て巡回行列で構成されているから,Jacobi 行列∇v(h)も巡回行列である.従って,その固有値は,行列D/dの固有値 f を用いて表現

できる:

f(v)k = h−1

[κ−fk + [1 − κfk]−1fk[κ − fk]

](VI.12)

さらに,4章 (3)節と全く同様の議論により,調整ダイナミクス Jacobi行列 ∇F (h)も巡回行列であり,その固有値 gは,以下の式で与えられる:

gk = hθf(v)k − 1 (VI.13)

従って,gk(fk) = 0となる臨界値 x∗± は,Pfモデルと

同様に,以下の 2次方程式:

G(x) ≡ θ{bx − ax2} − 1 = 0 (VI.14)

の実数根として与えられる.ここで,

a ≡ κκ− + 1 (VI.15)

b ≡ κ− + κ + θ−1κ (VI.16)

である.

参考文献1) Akamatsu, T., Takayama, Y. and Ikeda, K.: Spa-

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BIFURCATION MECHANISM OF THE CORE-PERIPHERY SYSTEM OF

CITIES MODEL

Takashi AKAMATSU, Yuki TAKAYAMA, Kiyohiro IKEDA, Akiko SUGASAWAand Shintaro SATO

This paper shows the bifurcation (emergence of agglomeration) properties of multi-regional core-periphery(CP) models that extend two-regional CP models developed in the New Economic Geography (NEG).Theoretical studies in the NEG have been almost exclusively limited to the two-regional models, which isa direct result of technical difficulties that inevitably arises in examining a bifurcation of a multi-regionalmodel. In order to overcome these difficulties, we provide an analytical approach that is characterized by aspatial discounting matrix, discrete Fourier transformation, and a system of regions on a circumference. It isshown that the proposed method allows us to readily understand the bifurcation mechanism. Furthermore,we present the detailed evolutionary process of spatial patterns by systematic numerical experiments whichis based on the computational bifurcation theory.

27) Picard, P.M. and Tabuchi, T.: Self-Organized Ag-glomerations and Transport Costs, Economic Theory,Vol.42, pp.565-589, 2010.

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集, No.604/IV-41, pp.23-34 1998.40) 上田孝行, 松葉保孝: 都市群システムにおける構造の

安定性と変化に関するモデル分析, 土木学会論文集,No.542/IV-32, pp.33-44, 1996.

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(2009.11.17 受付)

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