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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 1.不正競争防止法総論 担当 中村 新 1 不正競争防止法の目的 第1条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際的約束の的確な実施を確保するため、不正 競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与 することを目的とする。 保護法益=①事業者の営業上の利益(私益)と②公正な競争秩序(公益)。最終的には、③消費者利益の 保護等も含めて、国民経済の健全な発展を実現することを目的とする。 条文の構造 (1)「事業者間の公正な競争」及び「これに関する国際的約束の的確な実施」を確保するため(直接 の目的) ア 「事業者」とは「商業、工業、金融業、その他の事業を行うもの」をいう(独占禁止法2条1 項の定義が不正競争防止法にも該当)。民間事業者のほか、行政府や公社・公団もこれに含まれる。 イ 「これに関する国際的約束」とは、日本が批准しているパリ条約、マドリッド協定、TRIPS定、国際取引における外国公務員に対する贈賄防止に関する条約等を指す。不正競争防止法は、こ れらの条約等を遵守するための国内法でもある。 (2)「不正競争の防止」及び「不正競争に係る損害賠償に関する措置等」を講じ(手段) ア 「不正競争」とは、不正競争防止法2条1項各号に列挙された15類型の不正競争行為をいう (制限列挙主義、他国法との比較等は後述)。 イ 「不正競争の防止(に関する措置)」 差止請求権(3条1項) 侵害予防請求権(3条1項) 侵害組成物件の廃棄、侵害供与設備の除去請求権(3条2項) ウ 「不正競争に係る損害賠償に関する措置等」 損害賠償請求権(4条) 損害額の推定(5条) 信用回復請求権(7条) 特定の行為に関する刑事罰(14条、15条) (3)「もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(最終的な目的) 2 不正競争防止法の特色 (1)他の国内法との関係

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Page 1: 1.不正競争防止法総論 1 不正競争防止法の目的平成16 年度実務研究会「不正競争防止法」 1.不正競争防止法総論 担当 中村 新 1 不正競争防止法の目的

平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 1.不正競争防止法総論

担当 中村 新 1 不正競争防止法の目的 第1条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際的約束の的確な実施を確保するため、不正

競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与

することを目的とする。 保護法益=①事業者の営業上の利益(私益)と②公正な競争秩序(公益)。最終的には、③消費者利益の

保護等も含めて、国民経済の健全な発展を実現することを目的とする。 条文の構造 (1)「事業者間の公正な競争」及び「これに関する国際的約束の的確な実施」を確保するため(直接

の目的) ア 「事業者」とは「商業、工業、金融業、その他の事業を行うもの」をいう(独占禁止法2条1

項の定義が不正競争防止法にも該当)。民間事業者のほか、行政府や公社・公団もこれに含まれる。 イ 「これに関する国際的約束」とは、日本が批准しているパリ条約、マドリッド協定、TRIPS協定、国際取引における外国公務員に対する贈賄防止に関する条約等を指す。不正競争防止法は、こ

れらの条約等を遵守するための国内法でもある。 (2)「不正競争の防止」及び「不正競争に係る損害賠償に関する措置等」を講じ(手段)

ア 「不正競争」とは、不正競争防止法2条1項各号に列挙された15類型の不正競争行為をいう

(制限列挙主義、他国法との比較等は後述)。 イ 「不正競争の防止(に関する措置)」

差止請求権(3条1項) 侵害予防請求権(3条1項) 侵害組成物件の廃棄、侵害供与設備の除去請求権(3条2項)

ウ 「不正競争に係る損害賠償に関する措置等」 損害賠償請求権(4条) 損害額の推定(5条) 信用回復請求権(7条) 特定の行為に関する刑事罰(14条、15条)

(3)「もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(最終的な目的) 2 不正競争防止法の特色 (1)他の国内法との関係

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ア 独占禁止法との関係 (ア)公正で自由な市場を守り、国民経済の健全な発展を図るという目的において共通(cf 独

占禁止法第1条)。 (イ)しかし、独占禁止法が私的独占等の自由競争阻害行為を第1次的には行政(公正取引委員会)

の手で規制する公法であるのに対し、不正競争防止法は損害賠償請求と差止請求という手段を用意

して不公正な競争行為を裁判所の手で司法的に規制する私法である点で相違する。 イ 特許権等の知的所有権との関係 (ア)知的成果物を守るという趣旨、及びその手段となりうる点で共通。 特許法等が対象とする諸権利は、第1次的には特許法等による保護を受けるが、これらの諸権利に

関連する不正競争行為の多くは、不正競争防止法に基づく規制にも服することとなる(詳細は各論

参照)。 また、特許法等が直接保護対象としない利益(ドメイン名、営業秘密等)の侵害は、不正競争防止

法により規制される。 (イ)しかし、特許権等の工業所有権や著作権は、絶対的もしくは相対的な独占権と排他性が認め

られる準物権的権利であるのに対し、不正競争防止法が認める権利は、不正競争行為の規制という

目的を達成する上で反射的に認められる債権的な権利に過ぎない点で両者は相違する。不正競争防

止法に債権にはごく例外的にしか認められない差止請求権が規定されているのは、不正競争行為を

規制するためには損害賠償請求権だけでは不十分だという政策的配慮によるものである。 ウ 一般法(民法709条)との関係 (ア)不正競争防止法は、不法行為法の特則として位置づけられる。 (イ)不正競争防止法は、同法が規律する不正競争行為を限定列挙している(制限列挙主義)。 (ウ)上記限定列挙に含まれない行為による損害は、一般法である民法709条による救済の対象

となる。ただし、その場合差止請求は認められない。 また、損害の立証が困難。

(2)外国法との比較 ア ドイツの不正競争防止法(不正競争に対する法律)は、不正競争行為一般を包括的に規制する大

一般条項(1条)と、商品表示等の業務上事項に関する誤認惹起表示を規制する小一般条項(3条)

を置き、不正競争行為を幅広く規制できる体裁をとっている。また、アメリカの連邦商標制度を定め

るランハム法は、虚偽表示による不正競争を防止する一般条項を置いている(43条a)。 cf ドイツ不正競争防止法第1条 業務上の取引において、競争目的で善良な風俗に反する行為を行う

者は、差止請求と損害賠償請求の対象となりうる。 同第3条 業務上の取引において、競争目的で業務上の事項、とりわけ、個々の商品や営業上の給付または供給

する全てのものの性質、由来、製法、価額算定について、もしくは、価格表の内容、商品の仕入方法

と仕入元、表彰の有無、販売の動機と目的、在庫の量について、誤認を惹起する表示を行う者は、表

示の差止を請求されることがある。

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イ これに対して、わが国の不正競争防止法は、前述のような制限列挙主義を取っている。不正競争

防止法の制限列挙に含まれない行為は、民法709条により規制するほかない。 ウ 実効的な救済のニーズvs法的安定性の確保(いずれを重視するか)。

3 主要な改正の経緯 平成2年改正 営業秘密を不正競争行為と明定。 平成5年改正 法の全面改正。不正競争行為に、著名表示冒用行為、商品形態模倣行為を追加。罰金

の引き上げ。 平成10年改正 外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止を規定(11条)。法人に対する罰

金の上限を3億円に引き上げ(現15条)。 平成11年改正(平11.4.23法33) 営業上用いられている技術的制限手段を無効化する機器等の譲渡等を不正競争行為の類型に追加(2

条1項10号、11号)。 平成13年改正 不正競争行為に、ドメイン名の不正取得・使用行為を追加(2条1項12号)。外国

公務員等に対する不正な利益の供与等の禁止の処罰対象類型を拡充(11条)。 平成15年改正 ①民事的救済措置の強化 ア 逸失利益の立証容易化規定の導入(5条1項) イ 使用料相当額の認定規定における「通常」文言の削除(現5条3項、旧5条2項) ウ 被告が原告の主張を否認するときの、自己の行為態様の具体的明示義務を導入(5条の2) エ 侵害行為の立証を容易化するための書類提出命令規定を新設、インカメラ手続の導入(6条) オ 計算鑑定人規定の導入(6条の2) カ 立証が極めて困難である場合の相当な損害額の認定規定を新設(6条の3) ②ネットワーク化への対応 ア 他人の商品等表示を不正使用した商品を「電気通信回線を通じて提供する行為」を不正競争行

為等に追加(2条1項1号等) イ 「物」にプログラムが含まれることを明示(2条8項) ③営業秘密の侵害に対する刑事罰の導入(14条1項3号から6号)

4 現行不正競争防止法の構造 1条 目的規定 2条 定義規定 1項 不正競争行為の定義規定(1号~15号) 1号 周知表示混同惹起行為 2号 著名表示冒用行為 3号 商品形態模倣行為 4-9号 営業秘密に係る不正行為 4号 不正取得・使用・開示行為 5号 不正取得後悪意転得行為

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6号 不正取得善意転得後悪意使用行為 7号 不正目的使用・開示行為 8号 不正開示後悪意転得行為 9号 不正開示善意転得後悪意使用行為 10-11号 技術的制限手段の無効化行為 10号 購入者・所持者すべての無効化行為 11号 契約により特定された者以外の者による無効化行為 12号 ドメイン名の不正取得・使用行為 13号 商品・役務内容等誤認惹起行為 14号 信用毀損行為 15号 代理人等の商標無断使用行為

2項~8項 他の定義規定 3条 不正競争行為の規制手段(差止請求等) 4条 損害賠償 5条 損害額の推定規定 5条の2 具体的態様の明示義務

6条 侵害行為または損害額立証のための書類提出命令、インカメラ手続 6条の2 損害計算のための鑑定 6条の3 相当な損害額の認定

7条 信用回復措置 8条 営業秘密に関する不正競争行為の消滅時効 9条 外国国旗等の商業上の使用禁止 10条 国際機関の標章の商業上の使用禁止 11条 外国公務員等に対する不正の利益供与の禁止 12条 適用除外等 1項 不正競争防止法に基づく規制の適用除外(1号~7号) 2項 混同防止表示付加請求

13条 経過措置 14条 罰則一般 15条 法人に対する両罰規定

参考文献 青山紘一編著「不正競争防止法(事例・判例)」(経済産業調査会) 金井重彦他編著「不正競争防止法コンメンタール」(雄松堂出版) 「平成15年不正競争防止法改正の概要」(経済産業省HP) 作花文雄著「著作権法講座」(社団法人著作権情報センター) 山田晟著「ドイツ法概論3」(有斐閣)

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 2.商品等主体混同行為

担当 石川 栄司 不正競争防止法第2条1項1号 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又

は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需用者の間に広く認識されているものと同一若しくは

類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、輸入し、若しく

は電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 第 1 商品等主体混同行為の意義及び規制の趣旨 第 2 商品等表示該当性・他人性 表示が「他人」の「商品又は営業」を示す「表示」として需要者の間に広く認識されていなければな

らない。 1 商品等表示該当性

(1) 商品 「商品」該当性に関し、流通性や有体性は要求されるのか?

(2) 営業 営利を目的としていない場合であっても、「経済上その収支計算の上に立って行われる事業」であ

れば足りる。 裁判例 ・ 大阪地判S55.3.18無体集12巻1号65頁(公益法人の拳法の普及事業) ・ 大阪地決S56.3.30無体集13巻1方507頁(日本舞踊の普及事業)

(3) 表示性 特定の者の商品または営業を示す表示として周知であるものは、原則としてすべて商品等表示に

該当する。 営業名、型式番号(大阪地判H8.1.25判時1574号100頁)、商品の容器・包装等も特定の者の商品

や営業を示す表示たりうるとされている。 2 他人性

(1) 特定性 (2) 他人性

第 3 周知性(「需用者の間に広く認識されているもの」)

1 周知性を要求する趣旨・・・商標法との関係 2 周知性の意義

(1) 周知性の範囲

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① 地域的範囲 ア 周知性の地域的範囲は原則的に日本国内 裁判例 ・ 大阪地判H12.8.29【SPARK-S】 原告表示は日本国内では未だ周知でないとして、被告表示の国内での使用に対する差止請

求は棄却しつつ、サウジアラビア等の中近東地域では周知であるとして、被告商品の当該

地域への輸出の差止めを認容した。 ・ 東京地判H4.4.27判タ819号178頁【リッツショップ事件】 国内でホテル営業を行っていない国際的なホテルグループの営業表示の周知性を認めた。

イ 日本国内のどの程度の地域の「需要者の間に」認識されることが必要か?→全国的に周知で

ある必要はない。 裁判例 最判S34.5.20刑集13巻5号755頁【ニューアマモト事件】 愛知県を中心とする数県 東京地判S42.9.27判タ218号236頁【アマンド事件】 東京都及びその隣接地域 東京地判S51.3.31判タ344号【勝れつ庵事件】 横浜市を中心とするその近傍地域

ウ 保護が認められる範囲 エ まとめ 類似表示使用者の営業地域において商品等主体の表示が認定できなければよい。 裁判例 東京地判S62.4.27無体集20巻1号98頁【天一事件】 大阪地判H1.10.9無体集21巻3号776頁【元禄寿司事件】

② 顧客層(人的範囲) ア 取引者及び消費者双方に周知であることが必要か

(ア) 専門業者間でのみ取引が行われ、一般消費者が取引に参加することのないような商品の場

合 (イ) 食品等、生活者を対象とした商品の場合 (ウ) 飲食店等、直接消費者を相手にするような場合 裁判例 ・ 東京地判S42.9.27判タ218号236頁【アマンド事件】 「アマンド」という商号を用いて菓子販売及び喫茶店経営を営む株式会社アマンド洋菓子

店が、同じく「アマンド」という商号を用いて川崎市において洋菓子販売及び喫茶店営業

を行っている被告に対し、同商号の使用差止を求めた事案。判決において、被告の購買者、

顧客が通常一般の大衆であることを考慮すれば、被告の商号や営業が原告の商品と混同さ

れることは当然起きるものと考えられるとして、周知性を肯定した。

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イ 全ての層の消費者に知られている必要があるか 裁判例 ・ 大阪高判H5.11.30【アルミホイールRSワタナベ事件】

8本スポークタイプのタイヤホイールについて、自動車用品取引業者及び自動車愛好家の

間で周知性を獲得していたとして、周知性を肯定した。 ・ 東京地判S37.6.30 東京において、「三愛」などの商標を用いて婦人向きの衣類、服飾品及び雑貨類を販売する

株式会社三愛が、「三愛」などの3表示を用いて東京を中心に繊維商品の販売を行う被告に

対して、同表示の使用差止を求めた事案。判決の中で、株式会社三愛が卒業直前の女子高

校生に対しダイレクトメールを発送し、あるいは女子学校の催物及び学内新聞を利用して

宣伝し、婦人雑誌に広告をしてきたこと等を理由に、東京都を中心とした需用者に広く認

識されていたことを認めた。 ウ まとめ 類似表示の使用者の顧客層において周知でない限り、請求は棄却されるべきである。 裁判例 大阪高判S38.2.28判時335号43頁【松前屋事件】 京都市内において高級昆布の製造販売を営む原告の商号「松前屋」は、一部好事家を除いて

は昆布の販売業を営む被告の営業地域である大阪市において被告の顧客である一般大衆に広

く認識されているとは認められないとして請求は棄却された。 (2) 周知性の程度

(1)で述べた範囲の中でどの程度に他人を示す表示として知られていれば周知となるのか? → 一般には商品表示として使用されていれば、周知性は一定の範囲で認めることは可能。

ア 商品の容器、形態等そもそも商品表示として機能することを予定されていないものであった

り、当該業種にありがちな表示であるために、需用者に識別表示として観念されることを要する

表示 → 周知性が認められるためには、特段の事情が必要。 裁判例

・ 仙台地判H2.10.21【東北大生家庭教師研究会事件】 「東北大生家庭教師会」(原告)と「東北大生家庭教師研究会」(被告)の争いで、原告の周

知性を否定した。 ・ 大阪地決H5.10.15

日本マクドナルドの売上高の高さ等に鑑みて、「M」という一文字から構成されるロゴマーク

につき周知性を認めた。 イ 被告の営業が広い地域で展開されていたり、原告の営業地域から離れている場合 → 宣伝広告費、チラシの枚数、新聞、雑誌、テレビ等での公国回数、これらのメディアで取り

上げられたことなどを主張・立証することが広い範囲での周知性認定に向けて有効。

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(3) 周知性の取得時期 周知性の取得は、差止請求に関しては訴訟の口頭弁論終結時に、損害賠償請求に関しては損害賠

償請求の対象とされている類似の商品表示の使用等をした時点に、それぞれ具備している必要が

あり、かつこれで足りる(最判S63.7.19民集42巻6号489頁【アースベルト事件】)。

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 3.商品等主体混同行為

担当 坂井 真由美 不正競争防止法第2条1項1号 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の

容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認

識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲

渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じ

て提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 第1 類似性 他人の周知商品等表示と「同一若しくは類似」の商品等表示を使用等することが必要。 1 一般的判断基準 混同の要件とは別に独自の意味を認めるか? (1)肯定説「取引の実情のもとにおいて、取引者または需要者が両者の外観・呼称又は観念に基

づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否か」(最判

昭58.10.7「マンパワー事件」上告審、同昭59.5.29「プロフットボール事件」上告審) (2)否定説 表示の類似性は混同発生の主要な原因であり、混同要件の認識根拠としてのみ意味を持つ。

2 判断主体 問題となっている被告の商品等の平均的な取引者・需要者の中で平均的能力を有する者の注意力を

基準とする(前出「マンパワー事件」上告審)。 3 判断対象 表示は人の認識・記憶・連想といった精神作用と関連することから、両者の外観、呼称、観念を対

象として全体的に考察する。 〈例〉・外観:人の視覚を通じての認識を基準として判断(図形を主体とした商標や物の形状等) 「Asahi Benberg」と「Asoni Banbarg」(大阪地判昭59.6.28) ・呼称:表示等の通常の呼称を判断者の語感において判断 「DAIWA」と「ダイワ」(東京高判昭56.7.20) ・観念:ある表示等が意味する観念と他の表示等が意味する観念の間に同一性または類似性がある

かにより判断 「Oriental」と「東洋」、「マンパワー」と「ウーマンパワー」

4 判断資料 出所の混同防止という趣旨からは、問題となった商品表示を使用している限り、商品の包装、宣伝

広告物等の一切の資料を考慮できる。 5 判断方法 (1)要部を比較 表示のうち特に自他識別力のある部分とない部分、強い部分と弱い部分があるときは、自他識別

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力のある部分や強い部分(要部)を抽出して比較する。 〈例〉地名や営業の種類を表す部分は需要者の注意を引きにくいから要部とはなりにくく、造語

などは注意を引きやすいため要部となり得る。 ・ 「新阪急ホテル」と「東阪急ホテル」(大阪地判昭46.2.26)→肯定 ・ 「潮見温泉旅館」と「潮見観光ホテル」(松山地判昭40.7.16)→否定

(2)離隔的観察(⇔対比的観察) 商品等表示が現実の取引において観察される程度を基準とする。

(3)全体的観察(⇔部分的観察) 表示が取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察する。

6 類似性の要件を独自に認める意義 普通名称には至らないが、双方の表示に共通する部分が独占を認めるべきではない場合に、排他

権を認めるべき範囲を限定する機能が期待される。 第2 混 同 他人の商品等表示と類似する表示を使用して、他人の商品又は営業と「混同を生じさせる」ことが必要。 1 「混同」の意味 「混同」には広狭2つの意義が考えられる。 (1)狭義 その商品または役務につき出所が同一であると誤認させ、あるいはその営業につき主体が同一で

あると誤認させること(競業関係必要) (2)広義 両者の間に経済的または組織的に何らかの関係があると誤認させること(競業関係不要) →著名企業が多数の関連ないし系列企業を擁し、グループ全体が営業活動の主体と認識されてい

る経済社会の実態をふまえ、「混同」には広義の混同も含むと解すべき。 (3)判例で認められているもの ・ 親子会社・系列会社関係、グループ会社関係 前出「マンパワー事件」上告審 大阪高判昭39.1.30「三菱建設事件」 大阪地判平5.7.27「阪急電機事件」

・ 販売代理店関係、フランチャイズシステムの一員 大阪地判昭37.9.17「ナショナルパネライト事件」 東京地判昭47.11.27「札幌ラーメンどさん子事件」

・ 同一の商品化事業を営むグループに属する関係 前出「プロフットボール事件」上告審

・ その他 東京地判昭59.1.18「ポルノランドディズニー事件」 最判平10.9.20「スナックシャネル事件」等 2 混同の程度

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現実に混同を生じていることまでは要件ではなく、混同のおそれがあれば足りる。ただし、混同

のおそれは単に抽象的に混同の可能性があるというのみでは足りず、混同の具体的危険があるこ

とが必要。 3 混同の認定要素 「混同のおそれ」はそれ自体を直接に証明できるものではないから、種々の間接事実の積み重ねに

より弾力的に判定する。 〈例〉・表示の識別力・周知性の程度

・ 表示の類似性の程度 ・ 競業関係の存否(商品・営業の類似、顧客層の重なり等) ・ 現実の混同の発生の有無 ・ 表示の使用形態・販売方法(店頭と自動販売機、付加的表示の有無)

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 4.著名表示冒用行為

担当 石橋 武征 2条1項2号 自己の商品等表示として他人の著名な商品表示と同一若しくは類似のものを使用し 、又はその商品等表

示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのため展示し、輸出し、若しくは輸入する

行為 1、第2条1項1号(周知表示混同惹起行為)との違い 表示の周知性にとどまらず、表示の著名性を要求する反面、混同のおそれを要件としない点。 2、規定の趣旨 (1) フリーライド(ただ乗り)の防止 フリーライドには2つの形態が考えられる。 ① 他人の著名表示を使用することで、その他人の商品や営業であるかのごとく誤認させるか、その

他人の関連企業の商品や営業であるかのごとく誤認させる行為(広義の混同を生ぜしめる行為) ② 商品主体や営業主体が他人であることまでは欺かないものの、著名な表示を使用することで人の

目を引きつける行為 →フリーライドにより生じるダイリュージョン・ポリューションも防止。 ※ダイリュージョン(希釈化):表示が冒用されることによって、表示の持つ顧客吸引力が拡散してし

まうこと ※ポリューション(汚染化) :高級イメージが定着している商品や表示が低俗・低価値の商品・営

業に冒用されることにより、その高級イメージが損なわれること (2) 旧不正競争防止法からの推移 旧不正競争防止法1条1項1号、2号(周知表示に関する規定)では上記①の形態(広義の混同)し

か規制しておらず、②の形態については規制の枠外にあった。 もっとも、経営の多角化が進行する現代においては、当該著名企業が他の分野に進出したと一般人が

誤認する可能性が認められる場合が多く、結果として広義の混同が認められることが多かった。例え

ば、高級外車の「PORSHE」がサングラスに用いられた事件につき、広義の混同を認めた事案(福

井地判昭和60・ 1・25無体集19巻3号551頁)など。 しかし、旧法下の裁判例では、②の形態のフリーライドを防止するために、①の形態の広義の混同を

無理に認定していると推察される事件も存在した。例えば、電化製品安売り店のヨドバシカメラが、

近隣に店舗を構える「ヨドバシポルノ」に対し名称の使用差止めを求めた事件につき、広義の混同を

認めた事案(東京高判昭57・10・28無体集14巻3号759頁)など。 1993年改正により2条1項2号が新設されたことで、表示の著名性のみを利用する行為も規制対象と

なったため、著名表示の場合には無理に広義の混同を認定しなくてもよくなった。

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(3) 要件 ① 著名性 ア 考慮される事由:売上数、市場シェア、宣伝広告費等 イ 立証方法:(ア)新聞雑誌での取り上げ記事、(イ)辞書・小説・映画等への引用の事実、(ウ)広告の地

域・内容・回数、(エ)商品・表示の使用期間、(オ)アンケート調査 ウ 著名性肯定事例

(ア)「プルデンシャル生命保険」(→「プルデンシャルライフツアー」) (東京地判H10・4・24判不競1162ノ2ノ53頁) (イ)「セイロガン糖衣A」(→「正露丸糖衣錠 AA」) (大阪地判H11・3・11判タ1023号257頁) (ウ)「アリナミンA25」(→「アリナビッグA25」) (大阪地判H11・9・16判タ1044号246頁) (エ)「ジャックス」(→「jaccs.co.jp」) (富山地判H12・12・6判時1734号3頁) (オ)「虎屋」(→「虎屋黒川」) (東京地判H12・12・21判不競874ノ677頁) (カ)「J-PHONE」(→「j-phone.co.jp」) (東京地判H13・4・24判時1755号43頁) (キ)「青山学院」(→「呉青山学院中学校」) (東京地判H13・7・19判不競1162ノ2ノ82頁)

エ 著名性否定例 (ア) 「キューピー」事件(東京地判H11.11.17)「キューピー」が原告ないし米国人ローズ・オニ

ール関係者の商品等表示として著名であることを否定した。 (イ) ジーンズの弓形ステッチの出所がリーバイスであること(15歳から29歳までのジーンズ購

入者の46%、一般消費者だと18.3%というアンケート結果が存在した事案)(東京地判H12・6・28判時1713号115頁)

オ 著名性の場所的範囲(なお、人的範囲についても、全需要者層にとって著名である必要がある

か、一定の需要者層にとって著名で足りるかという議論がある。) 著名性の要件を満足するために、表示が全国的に強く認識されていることを要するか否か。

(ア)肯定説:表示が全国的に著名であることを要する。 ∵同一の標章を全国的に展開しようとする事業者にとって、一定地域に限り著名である表示を迂

回しなければならないというのでは、標章選定の自由が過度に侵害される。 (イ)否定説:全国的に著名であることは要せず、被告が類似表示を使用している地域を含む一定地

域において著名であれば足りる。 ∵ともにA地域で営業している原被告間の紛争において、A地域から遠く離れたB地域における

著名性の存否が影響するのは不合理である。 →この説のように一定の地域において著名であれば足りると解した場合、保護が与えられる範囲

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もこの地域内に限られると解される。 ② 類似性 2条1項1号の議論とほぼ同じである。

③ 営業上の利益の侵害 本号に基づく差止請求(3条1項)、損害賠償請求(4条)が認められるためには、著名表示の主体

が営業上の利益が侵害されることが必要となる。 ④ 自己の商品等表示としての使用 比較広告のように、著名表示を著名表示の主体を示す表示として使用する行為は本号に該当しない。 2条1項1号では混同のおそれがあるか否かの判断の中に取り込まれ、独立した要件として機能す

ることはない。 しかし、混同のおそれの要件のない2条1項2号においては、商品等表示としての使用という要件

が保護範囲を画する機能を有する。 ⑤ 適用除外に該当しないこと 普通名称(12条1項1号)、自己氏名使用(同2号)、先使用(同4号)。2条1項1号における議論

とほぼ同じである。 ただし、2条1項1号の場合に、自己氏名使用、先使用に対して認められている混同防止表示付加

請求が本号にも準用されるかについては議論がある。

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 5.不正競争防止法2条1項3号及び10号ないし15号について

担当 近森 章宏 1、商品の形態模倣行為の禁止(2条1項3号)について (1)、定義

デッドコピーとは、個別の知的財産権の有無にかかわらず、他人が商品化のために資金、労力を投下

した成果を他に選択肢があるにもかかわらず、ことさら完全に模倣して、何らの改変を加えることな

く自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為をいう (2)、趣旨

他人の商品の形態をそのまま模倣することによって、他人が費用、労力をかけて開発した成果である

商品の形態を許諾なくして利用して、開発のコストを節約する一方で、商品の開発につきものの失敗

の危険を小さく抑えつつ、当該商品を開発した他人と同じ商品について市場で競争しようとすること

は、競争のあり方として不当な行為であるので、そのような行為を不正競争とすることにより商品を

開発して市場においた者の先行利益を一定の期間保護することにある →商品の創作的価値、不正競争の目的等は問わない

(3)、他の法令 実用新案法、意匠法、著作権法及び民法

(4)、要件 ア、商品形態の模倣であること イ、模倣商品を譲渡等すること ウ、保護期間内の侵害行為であること エ、同種の商品が通常有する形態でないこと

(5)、「商品」 完成品の一部である部品が例えば交換部品として、または他社製品あるいは自社の他の製品との互換

性のある部品として市場において独立して取引の対象となっている限りにおいては、部品として取引

されている状態のみならず、完成品に組み込まれた状態においても対象となる 例:自動車のホイール ※ ・商品の一部分の形態保護

・セット商品の形態保護 (6)、「模倣」

「模倣」とは、①主観的には他人の商品に依拠し、②客観的には商品形態が同一又は実質的に同一で

あること 先行商品と模倣商品との実質的同一性の判断は、離隔的観察ではなく、対比観察を行う必要がある

(7)、適用除外 同種商品あるいは機能及び効用が同一又は類似の商品が通常有する商品形態の模倣であるときは、不

正競争には該当しない 通常有する形態」

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・ 同種商品又は類似商品と比べて何の特徴もないありふれた形態 その特定の商品に何の個性も与えない、何の特徴ももたらさない形態のこと(宅配寿司の盛りつ

け等) ・ 同種商品又は類似商品の機能、効用を発揮するためにその形態をとることが避けられないような

形態(VHSテープ) (8)、同条1号との関係 2、技術的制限手段(2条1項10号及び11号)について (1)、10号と11号の差異

10号と11号の制限手段は、ともに音楽、映像等を視聴又は記録することを制限する手段である点

で同様である。 しかし、10号は、媒体あるいは機器の購入所持者に対して一律に生じる技術的制限を対象にしてい

るのに対して、11号は特定の者以外の者に音楽、映像等を視聴又は記録することを制限するための

手段に限定している点で相違している → そのため、衛生放送等におけるスクランブル方式によるアクセス・コントロールは、11号不正

競争行為により、その余の映画等のビデオに施されたコピーコントロールやアクセスコントロールは

10号不正競争行為により保護される 但し、いずれの不正競争行為においても、当該技術的制限手段が「営業上用いられている」ことが要

件となる (2)、行為類型

ア、無効化装置の譲渡等 (ア) 影像若しくは音の視聴 (イ) プログラムの実行 (ウ) 影像若しくは音若しくはプログラムの記録 のいずれか、あるいはこの全てを制限している技術的制限手段のの効果を妨げることによって(ア)ないし(ウ)のいずれかあるいはこの全てを可能にする機能のみを有する装置(無効化装置)を①譲渡、

②引き渡し、③譲渡若しくは引き渡しのための展示、④輸出、⑤輸入する行為 イ、無効化プログラムの提供

(ア) 影像若しくは音の視聴 (イ) プログラムの実行 (ウ) 影像若しくは音若しくはプログラムの記録 のいずれか、あるいはこの全てを制限している技術的制限手段の効果を妨げることによって(ア)ない

し(ウ)のいずれかあるいはこの全てを可能にする機能のみを有するプログラム(無効化プログラム)

を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を①譲渡し、②引き渡し、③譲渡若しくは引き渡しのた

めの展示、④輸出、⑤輸入、⑥当該プログラムを電気通信回線を通じて提供する行為 なお、著作権法と異なり、公衆からの求めに応じて業としてコピーコントロールやアクセスコント

ロールを無効とするサービスを行う行為は不正競争行為とはされていない

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3、ドメイン名使用等行為(2条1項12号)について (1)、趣旨

インターネット上のアドレスとして機能させるためには、同一ドメイン名を重複して登録することは

許されないところ、他者の著名表示や登録商標を、競業目的や妨害目的、さらには譲渡料目当てで先

回りして登録されるという形で紛争が勃発するようになった これらの行為に対しては、2条1項1号、2号や商標法で対処しうる場合もあるが、ドメインネーム

の取得者が純粋な嫌がらせを目的とする場合やそもそも使用すらされていない場合には、商品等表示

若しくは商標としての使用の要件を満たさないので、これらの法律の適用は困難 そこで、平成13年改正により、ビジネス活動において重要性を高めているインターネットにおける

ドメイン名について商品等表示を活用することに支障が生じ、商品等表示に信用を化体する努力に対

するインセンティブが過度に削がれることのないよう、ドメイン名の不正取得等の行為を不正競争行

為とした (2)、訴訟

JACCSドメイン名事件 (3)、図利加害目的

①自己の保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的、②他人の顧客吸引力を不正に利用

して事業を行う目的、③当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ド

メイン名と関連性を推測させる企業に損害を加える目的、を有する場合などが想定される(mp3ド

メイン事件) 4、品質等誤認惹起行為(2条1項13号)について (1)、規制行為類型

ア、商品の原産地の出所地の誤認惹起行為 例:京都で製造・加工されたものではなく、京都産出の材料を含んでいないにもかかわらず、「京の

柿茶」と表示する行為 イ、商品の品質等の誤認惹起行為 例:酒税法上、みりん、本みりんが定義されているところ、みりんでも本みりんでもない液体調味

料を、その容器に「本みりん」の部分が中央に黒色で目立ちやすく大きな書体で記載され、その下

に見えにくく「タイプ」と「調味料」と2行に書き分けて表示して販売した事例 ウ、役務の質、内容等の誤認惹起行為 例:受験指導の通信教育を行う会社が、その入学案内に、「専門の先生が控えております。大学生の

アルバイトが添削をすることはありません」と表示しながら、実際はアルバイトの学生が添削して

いた事例 (2)、他の法令

商品や役務の原産地、品質、内容などについての誤認を生じさせる表示に関しては、不当景品類及び

不当表示防止法によっても規制されている

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5、信用毀損行為(2条1項14号)について (1)、定義

信用毀損行為とは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為を

いう 13号が自己の商品や役務の原産地や品質等を誤認させることによって競争上優位に立とうとするの

に対し、本号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布することによ

って他人の営業上の信用を毀損して相対的に自己が競争上優位に立つ行為を不正競争行為としている (2)、要件

ア、競争関係の存在 イ、誹謗行為 ウ、他人の営業上の信用を害するものであること

(3)、問題となる違反類型 ア、比較広告 例:被告製品は、原告製品よりも50万円ほど安いものの、両者には仕様、材質に差異があるにもか

かわらず、被告製品は原告製品と比べて「優れても劣るところはない。またその価額についても厳し

い合理化によって他社より20%程度安いと思われる」と宣伝したり、低額ながら「性能、品質がよ

い」、被告製品は「成約率も非常に高い」ところ、他社製品は高額なため「販売しにくい」と事実に反

して宣伝する行為 イ、知的財産権侵害の警告 特許権等の権利者が、他社製品を侵害品であるという広告を掲載したり、得意先にその旨の通知を行

った後、当該製品が非侵害品であることが判明したり、特許等が無効とされたりしたという場合 6、代理人等の商標冒用行為(2条1項15号)について (1)、趣旨

パリ条約の同盟国、WTOの加盟国または商標法条約の締約国において「商標に関する権利」を有す

る者の代理人若しくは代表者、さらに行為の日前1年以内に代理人若しくは代表者であったものが正

当な理由なく無断で同一若しくは類似の商品や役務を使用する行為を不正競争行為としたもの → この規定が設けられるまでは、外国企業の表示は、日本国内において周知ないし著名でない限り

は、不競法2条1項1号ないし2号による保護を受けられず、たとえ日本国内において他人が同一若

しくは類似の表示を使用しても、これを差し止めることができなかった そのため、外国の商標にかかる権利を有する者の国際的営業活動を保護するため、同号が新設された

(2)、要件 ア、「商標に関する権利」

外国での商標権者のこと イ、「代理人・代表者」

外国で商標に関する権利を有する者から、その商標に関する商品や役務の取引につき、代理権や代

表権を付与された者 → 商標権者のために国内において商標権に関する商品ないし役務の取引をなす者を指す趣旨

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実務上、「代理店」や「特約店」などと称されている者や、フランチャイズシステムの加盟店が含ま

れる ウ、「正当な理由」

例えば、外国権利者が権利取得の意思がないことを代理人等に信じさせた場合ないし外国権利者が

権利を放棄した場合あるいは長年にわたり権利を取得せずに放置していて、権利取得の意思がない

と推定される状況があった場合 エ、無断使用行為

(ア) 外国商標権者の所有する外国商標と同一・類似の商標をその権利の対象と同一・類似の商品ま

たは役務に使用する行為 (イ) 外国商標権者の所有する外国商標と同一・類似の商標を使用した権利対象と同一・類似の商品

を①譲渡し、②引き渡し、③譲渡若しくは引き渡しのために展示し、④輸出し、⑤輸入する行為 (ウ) 外国商標権者の所有する外国商標と同一・類似の商標を使用してその権利の対象と同一・類似

の役務を提供する行為 →これらの各行為は、不競法2条1項1号で規定している行為と同じ

(参照条文) 第2条(定義) この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 3号 他人の商品(最初に販売された日から起算して3年を経過したものを除く)の形態(当該他人の

商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は

類似の商品)が通常有する形態を除く)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのた

めに展示し、輸出し、若しくは輸入する行為 10号 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若し

くはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く)

により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラ

ムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置

を組み込んだ機器を含む)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラ

ムと組み合わされたものを含む)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡

若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電

気通信回線を通じて提供する行為 11号 他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若し

くはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若

しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手

段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む)若

しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含

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む)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若し

くは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通

信回線を通じて提供する行為 12号 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務

に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう)と同一若しくは類似のド

メイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為 13号 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産

地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量につい

て誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのた

めに展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を

提供する行為 14号 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為 15号 パリ条約(商標法(昭和34年法律第127号)第4条第1項第2号に規定するパリ条約をい

う)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相

当する権利に限る。以下この号において単に「権利」という)を有する者の代理人若しくは代表者又は

その行為の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者が、正当な理由がないのに、その権利を有

する者の承諾を得ないでその権利に係る商標と同一若しくは類似の商標をその権利に係る商品若しくは

役務と同一若しくは類似の商品若しくは役務に使用し、又は当該商標を使用したその権利に係る商品と

同一若しくは類似の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、

若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは当該商標を使用してその権利に係る役務と同一若しく

は類似の役務を提供する行為

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 6.営業秘密不正利用行為

担当 西川 久貴 第2条1項4号 窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取

得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を

保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。) 同条項5号 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により

知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為 同条項6号 その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したを知って、又は重大な過

失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為 同条項7号 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合に

おいて、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営

業秘密を使用し、又は開示する行為 同条項8号 その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的で

その営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をい

う。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若し

くは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開

示する行為 同条項9号 その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密

について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘

密を使用し、又は開示する行為 第2条4項 この法律において、「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その

他の事業活動に有用な技術上の又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。 1 営業秘密(2条4項) ・ 要件

① 秘密管理性 ② 有用性 ③ 非公知性

・ 秘密管理性 ア 趣旨:保護されるべき情報とそうでない情報と区別して明示させる。

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イ 秘密管理の程度:秘密であると客観的に認識しうる程度に管理されているか否か(相対的な基準)。 ウ 具体的基準 ① 当該情報にアクセスすることができる者が制限されている。 ② 当該情報にアクセスした者に秘密保持の義務が課されている。 ③ 当該情報にアクセスした者にそれが営業秘密であることが認識できるような措置が講じられて

いる。 ④ 秘密管理に関する規準を設けてある。 ⑤ 営業秘密の意義等について適切な社員教育がなされていること。 ⑥ 退職時に営業秘密を化体した媒体の返還を確認すること。 ※裁判例 ・ 「墓石」事件(東京地判H12.11.13) ・ 「男性用かつら」事件(大阪地判H8.4.16) ・ 「放射線測定機械器具」事件(東京地判H12.10.31) ・ 「美術工芸品」事件(東京地判H11.7.23) ・ 「計算事務受託業務」事件(大阪地判H11.9.14)

・ 有用性 ア 趣旨:収入の増大、費用の節約により、他の事業者よりも競争上有利な地位に立つことを可能な

らしめる情報の保護。 イ 具体的基準:保有者の事業活動の効率化や収益の改善に役立つか否か。 【有用性肯定】 ・ 「放射線測定機械器具」事件(東京地判H12.10.31) ・ 「男性用かつら」事件(大阪地判H8.4.16) ・ 「墓石」事件(東京地判H12.11.13) 【有用性否定】 ・ 不正競争営業行為差止請求事件(東京地判H12.12.7) ・ バーキン形態模倣事件(東京地判H13.8.31)

ウ 問題点: ①ネガティブ・インフォメーション(いわゆる「失敗データ」) ②スキャンダル情報(脱税、贈賄の情報) 「公共工事単価表」事件(東京地判H14.2.14)

・ 非公知性 ア 趣旨:公正な競争秩序・取引秩序を維持するために保護の限界を画する。 イ 非公知の程度 秘密管理者の他の競業者に対する優位性が失われているか否か。 ウ 問題点 ①公知情報の組み合わせ ・ 「通信販売カタログ2審」事件(大阪高判s58.3.3)

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・ 「中小工務店顧客目録」事件(大阪地判H9.8.28) ②第三者の秘密保持 ③リヴァース・エンジニアリング(市販の製品からその製造方法等を分析・再現すること) ・ 「フォセコ・ジャパン」事件(奈良地判s45.10.23) ・ 「アイ・シー・エス」事件(東京地判s62.3.10)

2 不正利用行為(2条1項4号~9号)(別紙資料) ・ 不正取得者の不正利用行為(2条1項4号) ア 要件 ①窃盗、詐欺、強迫その他の不正手段により営業秘密を取得(不正取得行為)。 又は ②不正取得行為により取得した営業秘密を使用・開始

イ ①不正取得行為 ※「カートクレーン設計図」事件(東京高判H14.1.24) ※詐欺事案 「美術工芸品」事件(東京地判H11.7.23) ※リヴァース・エンジニアリング

ウ ②使用行為:事業活動の実施のために直接使用する行為、営業秘密が有する効果を加味して従来

のものを改良して事業活動に資する行為。 ②開示行為:営業秘密を不特定多数の第三者の見聞にさらすこと。不可逆的に見聞できる状態にお

くこと及び非公知性を失わない状態で特定の第三者に媒体の移転ないし口授等の方法で通知するこ

とを含む。 ・ 正当取得者の不正利用行為(2条1項7号) ア 要件 ①保有者から営業秘密を示された者 ②図利加害目的 ③営業秘密を使用・開示

イ ①保有者から「示された」営業秘密 ・ 「原価セール」事件(東京地判H14.2.5) ※従業者が在職中に開発したノウハウや自ら収集した顧客情報は、本要件にあたらない。 ※営業秘密の「帰属」論

ウ ②図利加害目的 ※元労働者による競業行為 【図利加害目的否定】 ・ 「コメット」事件(仙台地判H7.12.22) ・ 「中小工務店顧客目録」事件(大阪地判H9.8.28) 【信義則上の義務肯定】 ・ 「ポリエチレンの二段発泡法」事件(大阪高判H6.12.26)

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・ 悪意重過失転得者の不正利用行為(2条1項5号、8号) ア 「秘密を守る法律上の義務」(8号括弧書)の意義 イ 転得者の範囲 ⇒転々流通した結果営業秘密を取得した者も含む。 【悪意重過失の否定】 「美術工芸品」事件(東京地判H11.7.23)

・ 事後的悪意重過失者の不正利用行為(2条1項6号、9号) 趣旨:情報取引の安全及び営業活動の自由の確保。 ⇒事後的悪意者の利用行為は不正競争行為となる(2条1項6号、9号)。 但し、取引の権原内でこれを使用する場合はこの限りでない(適用除外(12条1項6号))=契約締

結時の合理的期待の保護。 引用文献 ・ 不正競争法概説[第2版] 田村善之(有斐閣) ・ 判例タイムズ793号54頁「営業秘密の保護」 鎌田薫 ・ 判例不正競業法・不正競業法判例研究会編(新日本法規出版株式会社) ・ 不正競争防止法コンメンタール 金井重彦、山口三惠子、小倉秀夫編著(株式会社雄松堂出版)

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 7.不正競争防止法・効果論

担当 西 岳郎 第1 はじめに 不正競争行為についての効果論として,①差止請求,②損害賠償請求,③信用回復措置請求について,

概説する。なお,④刑事罰については,条文を参照されたい。 第2 差止請求 1 意義 不正競争によって営業上の利益を侵害される場合(または侵害されるおそれがある場合)は,その営

業上の利益を侵害するもの(または侵害されるおそれがある者)に対し,その侵害の停止または予防

を請求することができ(3条1項,狭義の差止請求権・予防請求権),侵害の行為を組成した物や侵害

の行為により生じた物の除去を請求することもできる(3条2項,除去請求権)。 3条1項の規定は,不正競争行為の特殊性にかんがみて,民法の特別規定として設けられているもの

であり,同2項は,1項の請求権の行使の態様が規定されたものである。 2 要件

(1) 請求権者 不正競争に対し差止等を請求することができるのは,当該不正競争によって「営業上の利益を侵害

され,又は侵害されるおそれがある者」である。 輸入・販売業者,ライセンシー,フランチャイザー,グループ企業の一員等も含まれ得るし,判例

上,国,特殊法人,病院等の公益法人も請求権者として認められている。 (2) 営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者 「営業」とは,利潤を得る目的の営利事情だけでなく,利潤獲得を図らないまでも収支相償を目的

とした事業を反復継続して行っている事業であれば,同様に不正行為からの保護の必要性が認めら

れることから,広く経済上その収支計算のうえに立って行われるべき事業を含む。 「利益」とは,終始計算上の利益が中心となるが,事業活動における信用等の事実上の利益を含む。 「おそれ」とは,現実に利益を侵害されることまでは必要でなく,不正行為により自己の営業上の

利益が侵害される相当の可能性があれば足りる。

(3) 侵害行為組成物等 「侵害の行為を組成したもの」とは,他人の商品等表示の付された看板,営業秘密を化体した媒体

等をいう。 「侵害の行為により生じたもの」とは,営業秘密を用いて製造された製品等をいう。 「侵害の行為に供した設備」とは,他人の商品形態を模倣するための製造機械や営業秘密を使用す

るための装置等をいう。

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「その他の侵害の停止又は予防に必要な行為」とは,将来,侵害行為を行わない保障として担保を

提供させること等をいう。 3 差止めの諸類型 判例で認容された事例につき,以下の12類型に分類することができる。 (1) 表示の使用禁止 「被告はその営業に関し,別紙目録記載の表示及び『j-phone.co.jp』のドメイン名を使用してはなら

ない」(東京地判平13.4.24〔J-PHONE事件〕) (2) 標章の展示,広告への掲載禁止 「被告は,別紙標章目録…記載の標章を付した時計,財布,ベルト,キーホルダーを…販売のため

に展示してはならない」(東京地判平12.12.26〔FIFAグッズ事件〕) (3) 商品の製造・販売禁止 「被告…は,別紙『物件目録2』記載の装置を製造し,販売してはならない(東京地判平12.12.26〔大型天体望遠鏡付属装置事件〕)」

(4) 輸入・譲渡の禁止 「被告らは,前記記載の各標章を記載した取引書類を用いて注文を受けた前項記載の錠剤を輸入し,

前記記載の各標章を記載した取引書類を添付して前項記載の錠剤を引き渡し,又は郵便若しくは宅

配便業者をして引き渡させてはならない」(東京地判平14.3.26〔バイアグラ事件〕) (5) 不正商品・不正表示の付された物等の廃棄,撤去 「第2事件被告は,別紙目録Ⅱ?ないし?記載のレトルト食品もしくは冷凍食品を廃棄せよ」(大阪地

判平16.2.19〔自由軒事件〕) (6) 原版・金属の廃棄 「被告は,前項記載の伝票及び右伝票の製造に使用する原版を廃棄せよ」(東京地判昭61.1.24〔伝票

会計用伝票事件〕) (7) 表示の抹消 「被告は,インターネット上のアドレス『http:www.j-phone.co.jp』において解説するウェブサイト

から,別紙目録記載の表示を抹消せよ」(東京地判平13.4.24〔J-PHONE事件〕) (8) 包装容器の使用禁止・廃棄 「被告は,『アリナビッグA25』の文字を付したビタミン製剤の包装箱・ラベルを廃棄せよ」(大

阪地判平11.9.16〔アリナビッグ事件〕) (9) 営業秘密の使用禁止・廃棄

「被告は,別紙営業秘密目録記載の原告の顧客使用に登録された入力情報又は原告の顧客資料の写

しを廃棄せよ」 (10) 営業行為の禁止 「被告は,男性用かつらの請負若しくは売買契約の締結をしようとし又は理髪等どう契約に付随す

るサービスの提供を求めて被告宛来店あるいは電話連絡をしてくる別紙顧客目録記載の者に対し,

男性用かつらの請負若しくは売買契約の締結,締結方の勧誘又は理髪等同契約に付随する営業行為

をしてはならない」(大阪地判平8.4.16〔男性用かつら顧客名簿事件〕)

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(11) 虚偽事実の陳述の禁止 「原告らは,被告が製造販売する別紙物件目録1ないし5記載のパチンコ台の表示装置が,原告らの

別紙特許権目録記載の特許権を侵害するという事実を,文書又は口頭で,告知し又は流布してはな

らない」(大阪地判平14.1.17〔パチンコ台表示装置事件〕) (12) 商号登記の抹消,変更 「被告アザレ東京株式会社は,東京法務局渋谷出張所平成14年9月5日受付をもってした同被告

の設立登記中,『アザレ東京株式会社』なる商号の抹消登記手続きをせよ」(東京地判平16.3.11〔ア

ザレ化粧品事件〕) ※ 学説・判例上,許否が分かれるが,①商号登記の存在が商号の一態様である,②商号登記の抹消

が差止請求の効果を完全あらしめるために不可欠である,③使用を禁止された商号を残しておくこ

とが商号登記制度の精神に反する,④抹消登記請求が法律上許されなければ,使用を禁止された商

号が登記上永久に残るおそれがある等を理由に,肯定説が有力である。 4 民事保全 不正競争に関する訴訟では,侵害差止請求が提起されることが多いが,本訴の提起と同時にまたは本

訴の提起前に保全命令の申立を同時にすることができる。 債権者の申立から1か月程度で差止めの決定が出されるケース(東京地決平11.9.20〔iMac事件〕)な

ど,一般に審理が迅速化されている。 5 消滅時効 2条1項4号ないし9号の不正競争の内,営業秘密を使用する行為に対する3条1項の規定による侵

害の停止または予防を請求する権利は,その侵害を知ったときから3年間行わないか(消滅時効),侵

害行為の開始から10年間経過すると(除斥期間),消滅する(8条)。 営業秘密を使用した事業活動が長期間継続されている段階で差止請求権の行使を認めると,その事業

者に対して著しい影響を与えることになり,他方,長期にわたる不正行為の継続を放置しているよう

な保有者に対しては法的保護の必要性は少ないとの趣旨である。 第3 損害賠償請求 1 民法709条との関係 一般不法行為法である民法709条は,法文上「権利」侵害を要件としているが,右要件は厳密な意

味での権利に限らず,法律上保護に値する「利益」が侵害されれば足りるものとされている(大判大

14.11.28〔大学湯事件〕)。したがって,不正競争防止法4条は,不正競争による営業上の利益の保護が

右要件を充足することを確認的に規定したものである。 2 損害額の算定

(1) 損害額の立証軽減化のための規定 損害額の立証責任はその請求を行う被害者の側にあるのが原則である。しかし,不正競争により発

生した損害額の立証の困難性に鑑み,被害者の立証の負担を軽減して,被害者の救済手続きの充実

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を図るため,特許法等の知的財産法に倣って,平成5年,平成13年及び平成15年の各改正時に

設けられた。 ア 譲渡数量の立証による損害額の認定(5条1項) 権利者が侵害者の譲渡した数量を立証した場合には,これに権利者の単位当たりの利益額を乗じ

た額を,権利者の実施能力を超えない程度において,損害額と認定することができる。ただし,

侵害者の営業努力や代替品の存在等,権利者が侵害者と同数量売り得ないとする事情があること

を侵害者が立証した場合は,その数量に応じた額が控除される。 ただし,5条1項が対象としているのは,2条1号から9号及び15号の不正競争であり,4号

ないし9号の営業秘密にあっては,技術上の秘密によって営業上の利益を侵害された場合に限っ

ている。これは,対象を,産業財産権に相当するような,一義的に因果関係が成立しえると考え

られる行為類型に限定するためである。 イ 損害額の推定(5条2項) 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額をその請求するものが立証すれば,その利益の額を損

害の額と推定するものである。 なお,ここにおける「利益」につき,粗利益の額(販売価格から製造原価を差し引いたもの)で

あるとする判例(東京地判昭48.3.9〔ナイロール眼鏡枠事件〕)と,純利益の額(粗利益の額から

さらに管理費,広告宣伝費等の諸経費を差し引いたもの)であるとする判例(東京地判昭53.10.30〔投げ釣り用天秤事件〕)とがある。

ウ 使用許諾料相当額の請求(5条3項) 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額を立証することが困難な場合や,侵害者の利益が些少

または赤字である等の場合は,損害額を,商品等表示の使用(1号),商品形態の使用(2号),

営業秘密の使用(3号),ドメイン名の使用(4号),商標の使用(5号)に対し通常受け取るべ

き金額の額に相当する額(使用許諾料相当額)と推定して損害賠償を請求することができること

としたものである。 フランチャイズチェーンの営業表示に類似する表示が用いられた不正競争事例において,加盟金

とロイヤリティー相当額の損害賠償の請求が認容されている(東京地判昭59.5.30〔こがねちゃん

弁当事件〕)。 なお,使用許諾料相当額は損害額の 小限を示すものであって,権利者がそれ以上の損害の額を

立証して賠償を請求する事を何ら妨げるものではなく(5条4項前段),また,侵害行為が軽過失

によるときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるについて,この点を参酌することができる(5

条4項後段)。 エ 具体的態様の明示義務(5条の2)

不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあると主張する者が侵害の

行為を組成したものとして主張するもの又は方法の具体的態様を否認するときは,相手方は,自

己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし,相手方において明らかにするこ

とができない相当の理由がるときは,この限りでない。 オ 書類の提出等(6条) 不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において,裁判所は,当事者の申立により,損害

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の計算をするために必要な書類の提出を命ずることができる。ただし,文書の所持者においてそ

の提出を拒むことについて相当の理由がるときは,この限りでない。 カ 損害計算のための鑑定(6条の2) 不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において,当事者の申立により,裁判所が当該侵

害の行為による損害の計算をするため必要な事項について鑑定を命じたときは,当事者は,鑑定

人に対し,当該鑑定をするため必要な事項について説明しなければならない。 不正競争訴訟は,①提出される文書が膨大であり,経理・会計の専門ではない裁判官,弁護士に

とっては文書を正確かつ迅速に理解することが困難,②提出された文書が略語等を用いており,

部外者には理解できないことも多い,③提出された文書に対して,民事訴訟法の当事者照会や鑑

定人の発問等の制度を活用しても相手方が説明に応じないため,文書の内容を理解できないおそ

れがある,ということから導入されたものである。 キ 裁判所による相当な損害額の認定(6条の3) 不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において,損害が生じたことが認められる場合に

おいて,損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であ

るときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定する

ことができる (2) 弁護士費用 不正競争訴訟では,不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用を,損害額の一部として認め

られる事例が多い。20万円から200万円の範囲で認められるケースが大半だが,東京地判平1

1.12.28(アーゼオン事件),東京地判平15.11.13(人材派遣名簿事件)では,それ

ぞれ300万円,600万円の弁護士費用が認容された。また,東京地判昭59.1.18(ポル

ノランドディズニー事件)では,擬制自白の事案ではあるが,総額700万円中400万円の弁護

士費用が,直近の裁判例である東京地判平16.3.11(アザレ化粧品事件)では,被告7者に

対する損害賠償額中総額22億円余中7000万円の弁護士費用が,それぞれ認容されている。 3 短期消滅時効と除斥期間

(1) 損害賠償請求は,不法行為に基づく請求であり,民法724条が適用される。 (2) 営業秘密に係る不正行為については,社会関係又は法律関係の早期確定の必要性等から,8条に

おいて差止請求の短期消滅時効と10年間の除斥期間が規定されており,損害賠償請求権についても,

右趣旨を踏まえ,権利消滅後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については損害賠償

請求ができないとの特例を定めている(4条ただし書)。 この規定は,損害賠償請求権が発生する期間を制限するに過ぎないもであるから,8条に規定された

権利が消滅した後に,当該期間中に発生した損害賠償の請求が妨げられることはない。 第4 信用回復措置請求 1 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害したものに対しては,裁判所は,そ

の営業上の信用を害されたものの請求により,損害の賠償に代え,又は損害の賠償とともに,その者の

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営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる(7条)。 なお,不正競争とは,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為(2

条1項14号)をいう。 営業上の信用を害する行為としては,虚偽の事実を陳述または流布して,競業者の営業を誹謗する行為,

粗悪な模倣品により,本物の評価を損なわせるような行為等が想定される。 2 営業上の信用を回復するのに必要な措置として,新聞紙上への謝罪広告の掲載を認容した複数の判

例がある。 ※東京高判平15.7.10(コンクリート型枠事件) 被告は,別紙(本控訴審判決別紙広告)記載のとおりの謝罪広告を全国の建通新聞及び日本経済新聞の

全国判に12ポイントの活字で1回掲載せよ。

広 告 当社は,平成11年9月ころから,多数の土木業者に対し,貴社の製造販売する残存型枠(商品

名:プロテックメーク)及びその工法が日本建築学会制定の建築工事標準仕様書にある張り石工

事工法の基準違反であるとか,工事基準以前の技術的常識を逸脱しているとし,このため製造物

責任や瑕疵担保責任に問われる可能性がるなどと記述した書面を配布又は送付しましたが,これ

は当社の誤った認識によるものでした。 当社は,ここに前記書面による記述を撤回するとともに,貴社の信用を害したことを謝罪しま

す。 平成 月 日 株式会社○○代表取締役○○ ○○株式会社 殿

第5 刑事罰(14条,15条) 【参考文献】 『不正競争防止法』(青山紘一,法学書院) 『逐条解説不正競争防止法』(経済産業省知的財産制作室,有斐閣) 『不正競業の事例・判例 新不正競争防止法』(青山紘一,通商産業調査会) 『不正競争の法律相談』(小野昌延・山上和則,青林書院)

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営業秘密不正利用行為の類型 不正競争法概説[第2版]・田村善之(有斐閣)

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平成 16 年度実務研究会「不正競争防止法」 8.適用除外等

担当 中村 新 1 総論 (1)形式的に2条1項各号に該当する行為も、12条1項各号の要件を充たせば、例外的に差止請求

権、損害賠償、刑事罰等の規定の適用を免れる。 (2) 2条1項各号に基づく差止等の請求がなされた場合の抗弁として機能。 2 適用除外 (1) 普通名称等の使用(12条1項1号) ア 要件 ① 商品もしくは営業の「普通名称等」を ②「普通に用いられる方法」で使用・表示等すること

イ 効果 周知表示混同惹起行為(2条1項1号)、原産地等誤認惹起行為(同13号)、代理人等の商標冒

用行為(同15号)の要件を形式的に充たす行為について、差止、損害賠償、刑事罰等の規定の適

用が除外される。 ウ 要件論その1・・・「普通名称等」の意義

(ア)普通名称および慣用表示の総称。 (イ)普通名称とは、取引界で、当該商品または営業の一般的名称として通用いるものをいう(鹿

児島地決昭61.10.14参照)。いわゆる普通名詞にとどまらず、商品又は営業の略称・愛称として一般

に使用されているものも含まれる(例:商品について赤チン、板チョコ、ナイロン、ドライアイス

など。営業については、理髪、コインランドリーなど)。 慣用表示とは、未だ普通名称とはなっていないが、取引者間で、慣習上一般的に自由に使用されて

いる商品又は営業の表示をいう(商品表示の例として、酒の「正宗」、弁当の「幕の内」。営業表示

の例として、理髪店の渦巻きマークや銭湯の温泉マーク)。 (ウ)普通名称等に当たるか否かの判断基準 ・ 普通名称等に該当するか否かは、名称等自体だけでなく、その商品・営業の取引の実情も勘案

して判断される。 ・ 裁判例で普通名称等と認定された例 「つゆの素」(名古屋地判昭40.8.6)、「つきたて」(京都地判昭57.4.23)「バルーンテープ」(大阪

地判平7.11.30)、「黒酢(くろず)」(福高決昭62.9.7)、「ユーザー車検」(東京地判平12.5.30)、「Dフラクション」(大阪高判平13.9.27)

・ 裁判例で普通名称等と認定されなかった例 長崎タンメン」(前橋地判昭41.3.8)、「アマンド」(東京地判昭42.9.27)、「ほっかほか弁当」(福岡

高裁宮崎支判昭59.1.30)、「メガネセンター」(山形地判平7.6.27) (エ)判断基準についての私見

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普通名称等の使用が適用除外とされた趣旨は、①普通名称等には自他識別力がないのでその使用

を妨げる理由がないこと、②普通名称等は公共のものであり、特定のものに独占させることは不

適当であること、の2点にある。 そうであるならば、名称等自体の性質と、商品・営業の取引実情を勘案して、①当該名称等に自

他識別力があるか、②当該名称等を特定のものに独占させることが適当か、といった見地から判

断されるべきと考えられる(前掲山形地判平7.6.27は、「メガネセンター」という名称は一見一般

的であるが、東北5県における「メガネセンター」の名称はほとんど債権者を含む一団のグルー

プによって使用されているという事情に鑑みて、これを普通名称とは認めなかった。東北5県に

おいては同名称に自他識別力があり、債権者等に独占させることが不適当ではないという判断に

基づく結論と思われる)。 エ 要件論その2・・・「普通に用いられる方法」

(ア)普通名称等の使用形態が、一般取引上普通に行われる程度のものであること(前掲名古屋地

判昭40.8.6)。極めて特殊な字体で表したり、特別の図案を施したりして、特定の商品を指示するに

足るよう技巧を施して使用することは、「普通に用いられる方法」に当たらない(大阪地判平12.12.14)。 (イ) 裁判例によって「普通に用いられる方法」と認められた例

・ 「黒酢」「くろず」といった普通名称を、黒味を帯びた食酢の呼称として使用した例(前掲福

高決昭62.9.7)。 ・ 「ユーザー車検受付中」、「ユーザー車検¥15,000受付中」との看板を掲げて車検代行業を行

った例(前掲東京地判平12.5.30)。 (ウ) 裁判例によって、「普通に用いられる方法」に該当しないとされた例

・ 普通名称であるDフラクションについて、筆描き状にデフォルメした赤字の「D」の下に、

黒字の細ゴシック体の「FRACTION」及び下線を配置して看者の注意を惹くロゴ化を施した

例(前掲大阪地判平12.12.14)。 オ 「ぶどうを原料又は原材料とする物」についての例外 ぶどうを原料又は原材料とするものの原産地の名称であって、普通名称となったものについては、

適用除外の対象とはならない(例:シャンパン、コニャック、ポルト)。マドリッド協定第4条に基

づいて導入された規定。 (2) 自己氏名の善意使用(12条1項2号) ア 要件 ①「自己の氏名」を ②「不正の目的でなく」使用等すること

イ 効果 周知表示混同惹起行為(2条1項1号)、著名表示冒用行為(同2号)、代理人等の商標冒用行為(同

15条)の要件を形式的に充たす行為について、差止、損害賠償、刑事罰等の規定の適用が除外さ

れる。 ウ 要件論その1……「自己の氏名」 自然人の氏名をいい、法人の商号は含まれない。自己氏名の善意使用が適用除外とされる趣旨は自

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己氏名を使用することの人格的側面に配慮する点にあるからである(和田八事件:大阪高判平

13.9.27)。 エ 要件論その2 ……「不正の目的でなく」 「不正の目的」とは、不正の利益を得る目的(図利目的)、他人に損害を加える目的(加害目的)等

を意味する(12条1項2号)。 例えば、他人の周知表示の有する名声・信用等にただ乗りするような使用は「不正の目的(図利目

的)」があるものとされ、適用除外の対象とならない。 ・ 適用除外の対象と認められた事例 日本舞踊の花柳流から独立して新流派を創設した新宗家が、自己の戸籍上の氏名である「花柳」

の名称使用を門弟に許諾し、その門弟が「花柳」の芸名で芸能活動を行った例(花柳流事件:大

阪地決昭56.3.30)。 ・ 適用除外の対象と認められなかった事例 「メガネの竹林」の経営から退いた「竹林」姓の者が、その標章と同一の書体・図柄を用い、「ニ

ューメガネの竹林」の名称でメガネ店を営業した例(福岡高判昭61.11.27)。 (3) 周知性獲得以前(12条1項3号)、著名性獲得以前(同4号)からの先使用 ア 要件 ① 他人等の商品等表示が周知性(著名性)を獲得する以前からその名称等を使用していること ② 名称等を使用するに当たり「不正の目的」がないこと

イ 効果 周知表示混同惹起行為(4号の場合は著名表示冒用行為)の要件を形式的に充たす行為について、

差止、損害賠償、刑事罰等の規定の適用が除外される。 ウ 要件論その1 ……名称等の使用 周知性表示出現以前から使用していた名称が、周知表示出現後に変更された場合でも、その変更に

よっても先使用表示との同一性が識別でき、かつ、不正競争防止法が意図する周知表示保護の原則

を害しない限り、なお先使用権が認められる(はざま湖畔三田屋総本家事件:大阪高判平13.6.28)。 エ 要件論その2………「不正の目的」 (ア)意義は12条1項2号の場合と同じ。 (イ)「不正の目的」の具体例

先使用が適用除外とされた趣旨は、特定の商品等表示が周知性を獲得する以前からそれと同一ま

たは類似の商品等表示を使用しているものに対して、その表示の周知性獲得を理由として表示の

使用を禁止すると、法的安定性を欠くとともに公平を害するという点にある。長期にわたり自己

の商品等表示を使用しなかったにもかかわらず、周知表示の存在を知りながら、これと類似する

自己の表示を使用するものには上記趣旨が該当しないので、「不正の目的」ありとして適用除外の

対象から外される(前掲和田八事件裁判例参照)。 (4)模造商品の善意取得者保護(12条1項5号)

ア デッドコピーを譲渡等する行為(2条1項3号)についての適用除外。

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イ 要件 デッドコピーであることについて善意・無重過失でデッドコピー商品を譲り受けたこと。

ウ 趣旨 善意の第三者の取引安全保護。

(5)営業秘密の善意取得者保護(12条1項6号) ア 2条1項6号、同9号についての適用除外。 イ 要件 ① 取引によって営業秘密を取得したこと ② 取得時に、当該営業秘密について不正開示行為であること、もしくは不正取得行為・不正開示行

為が介在したことについて善意無重過失であること ③ 取引によって取得した権限の範囲内で当該営業秘密を使用または開示すること

ウ 趣旨 正当な取引によって営業秘密を取得した善意の第三者保護。

(6) 試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡等(12条1項7号)

ア 2条1項10号、11号についての適用除外。 イ 要件 技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡等であること。

(7)工業所有権の行使 ア 旧法には、特許法、実用新案法、意匠法または商標法による権利行使と認められるものには、

不正競争防止法の規定のうち一定のものを適用しない旨の条文があったが(旧6条)、平成5年改正

により削除された。 イ 現在でも、工業所有権の行使は不正競争行為とはならないという一般原則は妥当するが、工業

所有権行使の体裁を取っていても、それが権利の濫用ないし信義則違反となる場合には不正競争行

為となる。 ウ 工業所有権の行使が権利濫用ないし信義則違反とされた事例 (ア) 三国鉄鋼事件(大阪地判昭32.8.31) Xの登記された商号(「三国重工業株式会社」)と類似の商号(「三国鉄工株式会社」)をYが使

用し、Xによる類似商号使用の差止請求を免れるために、類似商号をYの商標として登録して、

登録商標権行使名義の下に同名称を使用した事例。 (イ) 本家峰屋本陣事件(福岡地決昭57.5.31) Xがすでに「有限会社新天町峰屋」なる商号を登記しており、「峰屋」の呼称がXを指し示すも

のとしてすでに周知性を有しているという状況でXの代表取締役であったAが商標登録した

「峰屋」という表示を、AがXを退職した後に設立したYが使用して同種営業(かまぼこ店)

を行った事例。 (ウ) ホテルゴーフルリッツ事件(神戸地判平8.11.25、大阪高判平11,12,16)

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Yの商標登録出願前すでに周知性を獲得していたXの営業表示(「RITZ」)と類似する表示

(「HOTEL GAUFRES RITZ」)をYが商標登録して使用し、同種営業(ホテル

経営)を行った事例。 3 混同防止表示付加請求(12条2項) (1)自己氏名の使用(12条1項2号)または周知性獲得前の先使用(12条1項3号)に当たる場

合でも、当該表示の使用により自己の営業上の利益が侵害され、または侵害されるおそれがある者は、

自己の商品または営業との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。 著名性獲得前の先使用(12条1項4号)にも準用ないし類推適用されるという説が有力(田村等)。 (2)趣旨 周知表示保有者と先使用権者等との利害調整。

(3)混同防止表示付加請求の方法、具体例など ア 周知表示の保有者は、当該表示の使用者に対して差止請求等を行うとともに、自己氏名使用・先

使用の抗弁が認められることを条件として、混同防止表示付加請求を予備的に行うのが本来の形。 ただし、周知表示の保有者は、混同防止付加表示の具体的内容を特定して請求することはできない、

という説(消極説)が有力(具体的内容の特定は先使用権者等の判断に委ねられる。ただし、周知表

示保有者側が例示を行うことは可能という説もあり:渋谷等)。 請求の趣旨の記載例 「被告は、混同を防ぐのに適当な表示を付さなければならない」(田村概説p94) 「被告は、何某製造なる文字の付加又は混同を防止するに適当なその他の表示を付さなければなら

ない」(豊崎・松尾・渋谷コンメンタールp343) 上記消極説によれば、先使用権者等に対する法律上の強制手段(執行方法)は、間接強制によるほ

かない。 イ このような使い勝手の悪さから、混同防止表示付加請求は実務上請求段階ではほぼ活用されてい

ない。和解交渉の際の駆け引きの手段や合意条項の一内容として活用されることが多い。 ウ 表示の具体例 図形付記、商号の付記、「○○製造品」、「当社の製品は○○のマークが付されたものに限る」等の文

字の付記。 (4)事例 前掲花柳流事件判決は、「(被侵害者は)混同防止表示付加請求を請求するのが至当」と判示したが、

表示の具体的内容については触れていない。

参考文献 青山紘一編著「不正競争防止法(事例・判例)」(経済産業調査会) 金井重彦他編著「不正競争防止法コンメンタール」(雄松堂出版) 出澤秀二他共著「不正競争防止法の実務」(社団法人商亊法務研究会) 田村善之著「不正競争法概説 第2版」(有斐閣) 外川英明「混同防止表示1 不正競争防止法上の混同防止表示について」(日本弁理士会中央知的財産研

Page 37: 1.不正競争防止法総論 1 不正競争防止法の目的平成16 年度実務研究会「不正競争防止法」 1.不正競争防止法総論 担当 中村 新 1 不正競争防止法の目的

究所研究報告第12号、p79-88) 中村知公「混同防止表示2 不正競争防止法における混同防止表示のあり方等について」(同上、p89

-92) 豊崎光衛・松尾和子・渋谷達紀「特別法コンメンタール 不正競争防止法」(第一法規)