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12 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの主な変更点 2.1. 議会の審議プロセス 農業法の審議は議会および議会に属する農業分野を扱う委員会が中心になって行う。 米国の連邦議会は上院と下院から構成される。上院議員の任期は 6 年で 2 年ごとの 3 分の 1 が改 選される。下院議員の任期は 2 年間である。この 2 年間が 1 議会期となり、奇数年の 1 3 日に議 会期がはじまり、2 年後の 1 3 日に終了する 9 。新農業法が議論された 2018 年は第 115 議会期 2017 1 3 日-2019 1 3 日)であった。 1 議会期は通常 2 つの会期(session)によって構成され、1 会期は通常 1 年間である(したがっ て、2018 年は第 115 議会期第 2 会期ということになる)。選挙が行われない年は 8 月に少なくとも 30 日間閉会する。なお、選挙がある年の議員の選挙運動は、伝統的に 9 月第一月曜日のレイバー・ デイ(Labor Day)から開始される。 議席数は、下院が 435 議席で、各州の人口比率に応じて議席が配分される。上院は 100 議席で、 各州から 2 名ずつが選ばれる。 米国の議会には、各分野を所管する委員会という制度がある。上院と下院それぞれの本会議に議 案を提出するか否かの採否は委員会が行う。委員会には「常任委員会」(Standing Committee)、「特 別委員会」(Special/Select Committee)、「両院合同委員会」(Joint Committee)がある。議案の有無に かかわらず常設されているのが常任委員会である。審議される法案の数が多いため、委員会に中に は「小委員会」(Subcommittee)が設置されているものもある。 委員会の委員は、多数党と少数党の各院における議員総数に応じて両党に配分され、委員長は多 数党から選ばれる。委員長は、委員会の委員としての年功がもっとも長い委員が就任することが通 常である。上下両院の各委員会で委員会案が策定されるが、特に委員長が委員会案の策定に強い影 響力を持っている 10 審議手順としては、小委員会または委員会で公聴会やマークアップ(Mark up)が開催される。マ ークアップは、委員会が審査した議案を修正なし、または修正して議院に報告するか、もしくは議 案を否決するかを最終的に決定する会議のことである。マークアップを経た後、各議院の本会議に 上程される 11 。法案策定までのプロセスについて、上下両院のいずれかが優先権を持つということ はなく、審議に入る順番も決まりはない。本会議への上程のタイミングは多数党の議会指導部の意 向によって決められる 12 。本会議で法案が審議され、それを踏まえて法案(修正案が提起・採決さ れた場合は、その修正案)の採決が行われる。上院案と下院案が異なる場合は、両案を調整して法 案として統一するために両院協議会が開催される。この場で両院協議会案が策定され、上下両院が 可決すれば法案は議会を通過したということになる。 最後に大統領の署名をもって法律として成立するのだが、大統領には拒否権が認められている。 拒否権が行使された法案は議会に差し戻されるが、議会が三分の二以上で再可決すれば大統領の拒 否権を乗り越えて法律として成立する。 農業法の審議は、米議会の上院の農業・栄養・林業委員会と下院の農業委員会が中心となって行 う。政府は農業法に求める要望を提案することはできるが、議会はそれに拘束されるものではなく、 具体的なプログラムの中身は議会の審議に委ねられる。今回の新農業法審議に際しても、 2018 1 24 日に農務省が新農業法の立法原則「USDA’s Farm Bill and Legislative Principles for 2018」を公 9 古賀豪・高澤美有紀「欧米主要国議会の会期制度」『調査と情報』(国立国会図書館)第 797 号、2013 年、1-2 頁、 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8243575_po_0797.pdf?contentNo=12018 6 1 日アクセス。 10 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農 業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 4 月臨時増刊号)、2014 年、102 頁。 11 国立国会図書館調査及び立法考査局『主要国の議会制度』2010 年、7-846-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成 16 5 月号、2004 年、22-25 頁。 12 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農 業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 4 月臨時増刊号)、2014 年、103 頁。

2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

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Page 1: 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

12

2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの主な変更点

2.1. 議会の審議プロセス 農業法の審議は議会および議会に属する農業分野を扱う委員会が中心になって行う。

米国の連邦議会は上院と下院から構成される。上院議員の任期は 6 年で 2 年ごとの 3 分の 1 が改

選される。下院議員の任期は 2 年間である。この 2 年間が 1 議会期となり、奇数年の 1 月 3 日に議

会期がはじまり、2 年後の 1 月 3 日に終了する9。新農業法が議論された 2018 年は第 115 議会期

(2017 年 1 月 3 日-2019 年 1 月 3 日)であった。 1 議会期は通常 2 つの会期(session)によって構成され、1 会期は通常 1 年間である(したがっ

て、2018 年は第 115 議会期第 2 会期ということになる)。選挙が行われない年は 8 月に少なくとも

30 日間閉会する。なお、選挙がある年の議員の選挙運動は、伝統的に 9 月第一月曜日のレイバー・

デイ(Labor Day)から開始される。 議席数は、下院が 435 議席で、各州の人口比率に応じて議席が配分される。上院は 100 議席で、

各州から 2 名ずつが選ばれる。 米国の議会には、各分野を所管する委員会という制度がある。上院と下院それぞれの本会議に議

案を提出するか否かの採否は委員会が行う。委員会には「常任委員会」(Standing Committee)、「特

別委員会」(Special/Select Committee)、「両院合同委員会」(Joint Committee)がある。議案の有無に

かかわらず常設されているのが常任委員会である。審議される法案の数が多いため、委員会に中に

は「小委員会」(Subcommittee)が設置されているものもある。 委員会の委員は、多数党と少数党の各院における議員総数に応じて両党に配分され、委員長は多

数党から選ばれる。委員長は、委員会の委員としての年功がもっとも長い委員が就任することが通

常である。上下両院の各委員会で委員会案が策定されるが、特に委員長が委員会案の策定に強い影

響力を持っている10。

審議手順としては、小委員会または委員会で公聴会やマークアップ(Mark up)が開催される。マ

ークアップは、委員会が審査した議案を修正なし、または修正して議院に報告するか、もしくは議

案を否決するかを最終的に決定する会議のことである。マークアップを経た後、各議院の本会議に

上程される11。法案策定までのプロセスについて、上下両院のいずれかが優先権を持つということ

はなく、審議に入る順番も決まりはない。本会議への上程のタイミングは多数党の議会指導部の意

向によって決められる12。本会議で法案が審議され、それを踏まえて法案(修正案が提起・採決さ

れた場合は、その修正案)の採決が行われる。上院案と下院案が異なる場合は、両案を調整して法

案として統一するために両院協議会が開催される。この場で両院協議会案が策定され、上下両院が

可決すれば法案は議会を通過したということになる。

最後に大統領の署名をもって法律として成立するのだが、大統領には拒否権が認められている。

拒否権が行使された法案は議会に差し戻されるが、議会が三分の二以上で再可決すれば大統領の拒

否権を乗り越えて法律として成立する。

農業法の審議は、米議会の上院の農業・栄養・林業委員会と下院の農業委員会が中心となって行

う。政府は農業法に求める要望を提案することはできるが、議会はそれに拘束されるものではなく、

具体的なプログラムの中身は議会の審議に委ねられる。今回の新農業法審議に際しても、2018 年 1月 24 日に農務省が新農業法の立法原則「USDA’s Farm Bill and Legislative Principles for 2018」を公

9 古賀豪・高澤美有紀「欧米主要国議会の会期制度」『調査と情報』(国立国会図書館)第 797 号、2013 年、1-2 頁、

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8243575_po_0797.pdf?contentNo=1、2018 年 6 月 1 日アクセス。 10 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農

業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 年 4 月臨時増刊号)、2014 年、102 頁。 11 国立国会図書館調査及び立法考査局『主要国の議会制度』2010 年、7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上

院における立法手続」『レファレンス』平成 16 年 5 月号、2004 年、22-25 頁。 12 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農

業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 年 4 月臨時増刊号)、2014 年、103 頁。

Page 2: 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

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表しているが、その内容は、セーフティネットの提供、多様な革新的な作物保険の促進、農業生産

性と保全の利益のバランスの確保、費用対効果の高い保全プログラム、米国製品の市場競争力の向

上、農業法と国際法の両立、海外市場の開拓、豊富な農作物を利用した必要としている人々への食

料支援といった基本的な諸原則の提示にとどまっている13。 上述のとおり、審議に入る順番に上下両院のいずれかを優先する、という決まりはなく、2018 年

農業法委員会案は下院が最初に策定したが、下院から先に審議しなければならないというルールが

あるためではない。過去には、議会が可決した農業法案に大統領が拒否権を発動したことがある。

1996 年農業法では、農業法が財政均衡法の一部を構成しており、当時のクリントン大統領が財政均

衡法に拒否権を発動したことから、その一部である農業法も拒否権の対象となった。その後、農業

法案を単独で議会で可決し大統領の署名がなされた14。 2008 年農業法においては、ジョージ・W・ブッシュ大統領は市場価格ではなく目標価格を設定す

る収入保障案を提案していたが、議会は市場価格を基準とする「平均作物収入・選択支払い」(ACRE: average crop revenue election payment)を導入する農業法案を策定したため、大統領は「改革が不十

分」であるとして拒否権を行使した。しかし、上下院ともに三分の二以上が賛成したため、ACREを含む 2008 年農業法が成立した15。

13 USDA, “ Perdue Announces USDA’s Farm Bill and Legislative Principles for 2018,” January 24, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/01/24/perdue-announces-usdas-farm-bill-and-legislative-principles-2018, accessed June 1, 2018. 14 もっとも、クリントン大統領は農業法案の署名に前向きだったわけではない。大統領は、1996 年農業法で導入され

た直接固定支払いを、農産物の価格下落時のセーフティネットとしては不十分だが、高価格時はつかみ金であるという

評価であったため、「いやいやながらサインする」として署名したのであった。服部信司「アメリカの農業政策はどう決

まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 年 4 月臨

時増刊号)、2014 年、105 頁。 15 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農

業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 年 4 月臨時増刊号)、2014 年、106 頁。

Page 3: 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

14

図表 14 議会の審議プロセス

出所:国立国会図書館調査及び立法考査局『主要国の議会制度』2010 年等に基づき MURC 作成。

法案提出

-下院- -上院-

(小委員会審査)

委員会審査

・公聴会

・マークアップ

本会議での審議

もう一方の議院での審議

法案提出

(小委員会審査)

委員会審査

・公聴会

・マークアップ

本会議での審議

両院一致 両院不一致

両院協議会

各院での承認

両院の往復

大統領の署名

公布

署名

両議院の出席議員

の2/3の再議決

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【参考】農業法審議の傾向および旧 2014 年農業法の成立経緯 冒頭で述べたとおり、農業法はおよそ 5 年ごとに制定される。しかし、近年は農業法審議に時間

を要し、前農業法失効前に新たな農業法が成立しないこともしばしばである。下院または上院の農

業担当委員会の委員会案が提示されてから本格的な農業法審議はスタートするが、2000 年代に入

ってからは、スタートから同じ暦年以内に審議が終わったことはなく、2008 年農業法と旧 2014 年

農業法は直近の農業法の失効前に成立しなかった。 2018 年農業法は 2000 年代以降で同じ暦年内に成立したはじめての農業法となった。2018 年農業

法も旧 2014 年農業法失効前に成立しなかったとはいえ、近年の傾向を踏まえれば、スムーズに成

立したとも評価できる。

図表 15 2000 年以降の農業法成立までのプロセス

下院 上院 両院協議会

成立 備考 委員会 本会議 委員会 本会議

両院協議

会案 下院 上院

2018 年

農業法 2018/4/18 2018/5/18 2018/6/13 2018/6/28 2018/12/10 2018/12/12 2018/12/11 2018/12/20

2014 年農業

法 失 効

(2018/9/30

)までに成

立せず

2014 年

農業法 2013/5/15 2013/6/20 2013/5/14 2013/6/10 2014/1/27 2014/1/29 2014/2/4 2014/2/7

2008 年農業

法 失 効

( 2012/9/30

)までに成立

せず

2008 年

農業法 2007/7/23 2007/7/27 2007/11/2 2007/12/14 2008/5/13 2008/6/18 2008/6/18 2008/6/18

2002 年農業

法 失 効

( 2007/9/30

)までに成立

せず

2002 年

農業法 2001/8/2 2001/10/5 2001/12/7 2002/2/13 2002/5/1 2002/5/2 2002/5/8 2002/5/13

出所:CRS, Farm Bills: Major Legislative Actions, 1965-2018, December 21, 2018, pp.5-6.

SNAP をめぐって下院農業委員会の審議が難航するという流れは旧 2014 年農業法審議を彷彿と

させるものだった。結果として 2018 年農業法は 2018 年中に成立したが、近年の農業法審議の傾向

の参考となるため、旧 2014 年農業法の成立までの経緯を振り返る16。 旧 2014 年農業法は、非公表の上下両院農業委員会委員長案から数えて審議に 2 年以上を要し、

2014 年 2 月にようやく成立した。2008 年農業法が失効する 2012 年 9 月末までに次の法律の成立が

間に合わず、2008 年農業法を延長する対応がなされた。 旧 2014 年農業法審議当時、上院は民主党が多数派、下院は共和党が多数派、大統領は民主党の

オバマであった。2011 年 11 月に上下両院の農業委員会委員長案が作成された。この委員長案は非

公表ではあったが、この案を踏まえて上院と下院でそれぞれ法案作成が開始され、2012 年 6 月 24日に上院本会議で上院案が可決された。一方、下院農業委員会で作成された法律案は、多数派であ

る共和党が SNAP の支出削減を強く求めており、下院本会議に上程されても否決される公算が高か

ったため、そもそも本会議に上程されなかった。下院本会議に上程されなかった一因として、SNAPをめぐる共和党と民主党の対立に加えて、2012 年 11 月の大統領選挙および議会選挙までは、財政

支出削減という共和党の基本的な主張と矛盾しうる SNAP の支出を認める農業法の採決・成立を避

16 2014 年農業法成立までのプロセスは、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング『平成 25 年度海外農業・貿易事情調

査分析(米州)』(農林水産省委託事業 平成 25 年度海外農業・貿易事情調査分析事業)2014 年、1-3 頁を参照、

http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h25.html、2018 年 6 月 1 日アクセス。

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ける意図があったとの見方もある17。結局、次の農業法が成立しないまま 2008 年農業法が失効する

2012 年 9 月を迎え、議会は 2008 年農業法を 2013 年 9 月 30 日まで延長させる法案を「米国納税者

救済法」の一部に組み込むかたちで可決し、大統領の署名によって成立した。

図表 16 旧 2014 年農業法が成立するまでのプロセス 年月 上院 下院

2011 年 11 月 両農業委員長案(非公表)

2012 年 6 月 上院本会議案、可決

2012 年 7 月 下院農業委員会案、可決 しかし、本会議に上程されず

2012 年 9 月 2008 年農業法失効

2013 年 1 月 「納税者救済法」成立。本法律の中で 2012 年 9 月の失効までさかのぼり、2008 年農

業法を 2013 年 9 月 30 日まで延長することを規定

2013 年 5 月 上院農業・栄養・林業委員会で、委員会

案が可決 下院農業委員会案、可決

2013 年 6 月 上院本会議で可決 下院本会議で、委員会案が否決

2013 年 7 月 SNAP を切り離した法案が可決。

2013 年 9 月 SNAP の支出を 400 億ドル削減する案

が、下院本会議で可決。7 月の法案と統

合し、下院案が成立

2013 年 10 月 両院協議会が開催され、両院協議会案が策定

2014 年 1 月 両院協議会案、策定。2014 年 1 月に下院で可決

2014 年 2 月 上院で可決。大統領の署名により、2 月 7 日に旧 2014 年農業法が成立 出所:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング『海外農業・貿易事情調査分析(米州)(平成 25 年度海外

農業・貿易事情調査分析事業報告書)』2014 年、1-3 頁。

2013 年 5 月 14 日に、上院の農業・栄養・林業委員会でマークアップが開催され、上院農業・栄

養・林業委員会案が可決、上院本会議でも 6 月 10 日に可決された。下院農業委員会でも委員会案

が 5 月 15 日のマークアップで可決され、下院本会議での議論を残すのみとなったが、SNAP をめ

ぐる共和党と民主党の対立により、下院農業委員会案は本会議で否決された。民主党が SNAP の支

出削減幅が大きいと反対しただけでなく、共和党からも削減幅が不十分であるとして反対に回った

議員がいたためである。この法案では SNAP 受給者に就労要件(週 20 時間以上働くか、仕事を探

すこと)が共和党議員の修正動議によって盛り込まれていたために民主党が反発し、法案は否決と

なった18。

17 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農

業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 年 4 月臨時増刊号)、2014 年、108 頁。 18 服部信司「アメリカの農業政策はどう決まるか-農業法の形成プロセスと新(2014 年)農業法成立への経緯-」『農

業と経済』第 80 巻第 3 号(2014 年 4 月臨時増刊号)、2014 年、108-109 頁。

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その後、SNAP を切り離した農業法案が本会議に上程され 7 月に可決された。SNAP については、

下院の共和党主導で支出を 10 年間で 400 億ドル削減する案(上院案は 10 年間で 40 億ドルの削減)

がまとめられ、9 月の下院本会議で可決された。分離された農業法案と SNAP 法案が統合されて下

院案となった。上院と下院で異なる農業法案が作成されたことから、10 月に上下両院の両院協議会

が開催され、両院協議会案が作成された。この両院協議会案が 2014 年 1 月に下院、2 月に上院で可

決し、オバマ大統領の署名をもって 2 月 7 日に旧 2014 年農業法が成立したのであった。懸案の

SNAP 支出削減額は最終的に 10 年間で 80 億ドルとなった19。

2.2. 2018 年超党派予算法 2018 年農業法に向けた本格的な審議がはじまったのは 2018 年 4 月からである。2018 年農業法の

内容については後述するが、その一部は、2018 年 2 月 9 日に成立した 2018 年超党派予算法でなさ

れた旧 2014 年農業法の改正を反映したものであった。そのため、ここで超党派予算法における旧

2014 年農業法の改正を振り返る。 超党派予算法では、2018 年 3 月 23 日までの暫定予算や 2018 年度および 2019 年度の歳出上限を

3,000 億ドル引き上げることなどが盛り込まれ、トランプ大統領が署名して成立したのだが、法律

の中で以下のとおり旧 2014 年農業法改正が行われたのであった。 2018 作物年度より、実綿(seed cotton)が作物プログラム(ARC および PLC)の対象作物

に追加。PLC の参照価格は 1 ポンド当たり 0.367 ドル 一般基準面積(generic base acre)20の実綿の基準面積への再配分を認める 2019 作物年度より実綿で作物プログラムを選択した農家は STAX への加入資格を失う 2018 年(暦年)より DMPP の MPP マージン算出を 2 か月平均から月次にする。また、従

来、生産履歴(production history)の年間 400 万ポンドを基準に、それ以下の生産者の保険

料を低く設定していたが、その基準を年間 500 万ポンドにするとともに保険料を引き下げ 家畜関連支出を対象とした作物保険の保険金支払い上限(2,000 万ドル)の撤廃

実綿を作物プログラムに追加したのは、綿花業界の要望を反映したものであった。綿花農家およ

び業界団体は、「積上所得補償保険」(STAX: Stacked Income Protection Plan)への不満が高く、再三

にわたり綿実(cottonseed21)を作物プログラムの「その他油糧種子」(other oilseed)に含めるよう要

求し、上院歳出法案でもその修正を盛り込ませてきた。綿花業界としては、苦境にあえぐ綿花農家

救済のための施策が必要であると考えており、作物プログラムの修正を実現できる機会をうかがっ

ていたのであった22。 2018 年 1 月に綿花農業団体に行ったヒアリングでは実綿に関する修正が認められれば、2018 年

農業法における綿花へのセーフティネットを議論する際の足掛かりなると綿花業界団体は述べて

いたが、その後超党派予算法で修正は認められ、全米綿花評議会(NCC: National Cotton Council)は

この修正を高く評価していた23。後述するとおり、2018 年農業法でも実綿は作物プログラムに含ま

19 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング『平成 25 年度海外農業・貿易事情調査分析事業海外農業・貿易事情調査分析

(米州)報告書』2014 年 3 月、18 頁。 20 2014 年農業法で綿花が作物プログラムの対象から外されたため、従来の綿花の基準面積は、一般基準面積(generic base acre)として基準面積ではゼロとカウントされるが、当該年度に 2014 年農業法の対象作物が一般基準面積に作付

されている場合は、作付がなされている一般基準面積は当該作物の基準面積としてカウントされる。吉井邦恒「2014 年農業法セーフティネット・プログラムの選択-アメリカの農業者は PLC と ARC のどちらを選んだのか-」『プロジ

ェクト研究[主要国農業戦略]研究資料 第 8 号 平成 26 年度カントリーレポート:米国農業法,ブラジル,韓国,欧

州酪農』2015 年、3 頁。 21 実綿(seed cotton)ではない。 22 米国綿花農業団体へのヒアリング(2018 年 1 月実施)。 23 NCC, “NCC: New Cotton Policy Gives Much Needed Boost,” February 9, 2018, http://www.cotton.org/news/releases/2018/new-cotton-policy180209.cfm, accessed June 1, 2018.

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18

れており、その意味で綿花業界団体の思惑通りに進んだといえる(2018 年農業法の内容について

は、2.5 で後述)。 そもそも予算法の中で農業法の改正がなされるのは一般的なことではない。それでも改正が行わ

れたのは、2018 年農業法の中で一度に酪農業界の要望をすべて反映しようとすると酪農プログラ

ムの政府支出の大幅増につながり議会予算局(CBO: Congressional Budget Office)政府支出予測(ベ

ースライン)を越えてしまう懸念があったためである。特に DMPP は政府支払いがほとんど発生し

ていなかったこともあり、ベースラインが低く見積もられる可能性もあった。そのため、超党派予

算法の中で改正して、ベースラインを引き上げようとしたのである。超党派予算法での改正による

ベースラインの引き上げ額へのインパクトは大したものではなかったが、それでも引き上げにつな

がったと酪農業界は評価していた24。また、綿花生産が盛んな地域と酪農が盛んな地域は異なって

いるので協力が可能であり、酪農業界と綿花業界が連携して超党派予算法での改正を求めたのであ

った25。 なお、超党派予算法では旧 2014 年農業法の災害支援プログラムも一部改正され、補償内容の拡

充や支払額・要件の緩和がなされている。

図表 17 主な災害支援プログラムと 2018 年超党派予算法による改正点 プログラム名 概要 2018 年超党派予算法にお

ける改正内容 畜産補償プログラム

(LIP) 家畜の死亡による損失または家畜の販売価格の下落に

対する支払い 牛および乳牛、豚、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチ

ョウ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、シカ、ヘラジカ、エミュー、馬 通常の死亡率を超える家畜の死亡、または悪天候に起因

する販売価格の低下に基づき発動

悪天候に起因する家畜

を安価で販売することに

よる損失を含める

家畜飼料災害プログラ

ム(LFP) 干ばつ/火災による牧草損失に対する支払い 干ばつによって被害を受けた牧草地と放牧用農地、火災

の被害を受けた連邦政府機関が管理する放牧地 米国干ばつモニター(U.S.Drought Monitor)で発表され

た郡の干ばつ強度レベルに基づき発動

家畜・蜂蜜・養殖魚プロ

グラム(ELAP) LIP/LFP の対象外の損失に対する支払い 家畜、ミツバチ、養殖魚 病気、悪天候、飼料や水の不足、または野火による損失 通常の死亡率を上回るミツバチの損失;飼料および水のコ

ストを含む家畜の特定の損失およびコストに基づき発動

年間支払額の上限の

2,000 万ドルの廃止

樹木支援プログラム

(TAP) 樹木、低木、ブドウの損失に対する支払い 15%を超える樹木/ブドウの死または損傷

個人の上限面積を 500エーカーから 1,000 エー

カーに引き上げ

非保険作物災害支援プ

ログラム(NAP) 作物保険に加入できない作物が対象 50%を超える作物損失

出所:Megan Stubbs (CRS), Agricultural Disaster Assistance, 2018, https://fas.org/sgp/crs/misc/RS21212.pdf, accessed September 13, 2018.

24 米国酪農団体へのヒアリング(2019 年 2 月実施)。 25 米国酪農団体へのヒアリング(2019 年 2 月実施)。

Page 8: 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

19

2.3. CBO ベースライン 2018 年 4 月 9 日公表のベースライン

2018 年 4 月 9 日、CBO は向こう 10 年間の政府支出予測(ベースライン、Baseline)を公表した。

ベースラインは、現在の義務的経費を伴うプログラムがすべて継続するという前提で作成される政

府支出予測である。義務的経費に関連する新しい法律案が提出されると、CBO はその法案が導入さ

れた場合の支出額を推計する(コスト推計、Cost Estimate)26。コスト推計では法案が実現した場合

の支出予測とベースラインとの差が示される。ベースラインは毎年 1 月に公表され、年の半ばに更

新版が公表されるのが通例であるが、2018 年は公表が 4 月まで遅れた。 2018 年農業法の予算枠は 2018 年 4 月 9 日公表のベースラインに依拠している。委員会で義務的

経費を伴うプログラムや政策を検討する際、委員会はプログラムの支出をベースライン以下にして

はならないことになっており、その意味で農業関連支出に関する支出上限としての役割を果たして

いる。したがって、仮にあるプログラムの支出増加により上限を上回ってしまった場合には、他の

プログラムの支出を削減しなければならず、それがプログラム間の予算配分をめぐる対立を引き起

こす。2018 年農業法については、2019 年から 2018 年の会計年度のベースラインが参照される27。 ベースラインにおける各プログラムの支出予測を見ると、作物プログラム、作物保険、保全、SNAP

について、2019 会計年度から 2028 会計年度の支出合計額は 8,672 億ドル(単年度平均で 86.72 億ド

ル)になると予想されている。支出額の 8 割弱は SNAP が占めている。

図表 18 CBO ベースラインの支出予測(Outlay)

出所:CBO ベースラインより MURC 作成。CBO, “USDA’s Mandatory Farm Programs – CBO’s April 2018 Baseline,” https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51317-2018-04-usda.pdf, accessed June 1, 2018.

26 上原啓一「米国の予算編成に係る調査機関の役割~米国における財政及び予算制度に関する実情調査~」『経済のプ

リズム』No.149、2016 年、6-8 頁、

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h28pdf/201614902.pdf、2019 年 3 月 7 日

アクセス。 27 Jonathan Coppess, Gary Schnitkey, and Nick Paulson, “Reviewing the CBO Baseline for 2018 Farm Bill Debate,” farmdoc daily, April 12, 2018, http://farmdocdaily.illinois.edu/2018/04/reviewing-cbo-baseline-for-2018-farm-bill-debate.html, accessed June 1, 2018.

91,317

85,37284,617

85,98985,263 85,221

85,831

86,800

87,938

89,268

90,901

80,000

82,000

84,000

86,000

88,000

90,000

92,000

2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028

※2018 年農業法 対象期間

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20

図表 19 主要農業法プログラムの支出に占める割合(2019 年-2028 年の合計)

出所:CBO ベースラインより MURC 作成。CBO, “USDA’s Mandatory Farm Programs – CBO’s April 2018 Baseline,” https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51317-2018-04-usda.pdf, accessed June 1, 2018.

作物プログラム

図表 20 のとおり、ベースラインでは PLC の支出が ARC のそれを大きく上回ると予測されてい

る。

図表 20 ベースラインにおける PLC と ARC の支出予測(100 万ドル)

出所:CBO ベースラインより MURC 作成。CBO, “USDA’s Mandatory Farm Programs – CBO’s April 2018 Baseline,” https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51317-2018-04-usda.pdf, accessed June 1, 2018.

7.0%6.9%

9.0%

76.5%

0.6%

ARC、PLC、マーケティングローン 保全 作物保険 SNAP その他

2,125

3,8502,727 2,653

5,7425,006 4,574 4,639 4,603 4,854 4,558 4,566

5,955

4,031

2,6042,137

448

413461 413 446 464 487 473

36 23

2318

16

1718 18 17 18 18 19

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028

PLC カウンティARC 農場ARC

※2018 年農業法 対象期間

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21

これは、CBO が主要な農作物の価格が PLC の参照価格を下回ると予測していることと、2018 年

農業法ではカウンティ ARC ではなく PLC を選択する農家が多いと予測していることによる。基準

面積(base acre)ベースで、とうもろこしの 84.6%、小麦の 82.1%が PLC を選択し、大豆の 71.4%がカウンティ ARC を選択すると予測されている。 旧 2014 年農業法の施行期間では、基準面積ベースでとうもろこしの 93%、小麦の 56%がカウン

ティ ARC を選択していた。特にとうもろこしはカウンティ ARC から PLC への切り替えが著しい

といえる。大豆は依然としてカウンティ ARC を選択する農家が多数派ではあるが、旧 2014 年農業

法下では 97%がカウンティ ARC を選択しており、約 25%が PLC に切り替える予測となっている。 ベースラインでは、新たに作物プログラムに追加された実綿の選択割合は示されていないが、作

物別の支出額では 9 割超以上が PLC からの支出とされており、実綿農家の多くは PLC を選択する

と想定されていることが読み取れる。2018 年 1 月に実施した米国での現地調査において、綿花業界

団体から実綿が作物プログラムに追加された場合は PLC を選択する綿花が多いだろうとの見通し

を聞いており28、CBO の予測は綿花業界のニーズと一致している。 ARC から PLC への切り替えが起きるのは、前述のとおり収入ナラシ型の ARC は農作物価格の低

迷が続くと発動価格が下落し、セーフティネットとしての魅力が減るためである。農作物価格は、

2012 作物年度前後のピーク時から下落を続けており、今後も価格は低調に推移すると予測されて

いる。したがって、一定額が保証される不足払いである PLC への切り替えが進むことになる。

図表 21 旧 2014 年農業法で PLC と ARC を選択した基準面積の割合(%) PLC カウンティ ARC 農場 ARC 合計 大麦 75 22 4 100 キャノーラ 97 2 1 100 とうもろこし 7 93 0 100 クランベ 65 34 1 100 乾燥エンドウマメ 44 50 6 100 亜麻仁 63 36 1 100 ソルガム 66 33 0 100 レンズマメ 53 41 7 100 大ヒヨコマメ 23 66 11 100 長粒米 100 0 0 100 中粒米 96 4 0 100 マスタード 56 38 6 100 オーツ麦 32 67 1 100 落花生 100 0 0 100 菜種 44 54 2 100 ベニバナ 63 34 3 100 ゴマ 84 16 0 100 小ヒヨコマメ 23 68 9 100 大豆 3 97 0 100 ヒマワリ 56 43 1 100 ジャポニカ米 62 34 4 100 小麦 42 56 2 100 全米合計 23 76 1 100

四捨五入により合計が必ずしも 100 にならない。 出所:USDA/FSA, “ARC/PLC Election Data,” https://www.fsa.usda.gov/programs-and-services/arcplc_program/index, accessed June 1, 2018.

28 米国綿花農業団体へのヒアリング(2018 年 1 月実施)。

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22

図表 22 は、災害支援プログラムのベースラインである。2018 年は支出の大幅増が予測されてい

るが、これは 2018 年超党派予算法による災害支援プログラム改正の影響と考えられる(災害支援

プログラムの改正内容は 2.2 を参照)。

図表 22 災害支援プログラムの支出(outlay)予測(100 万ドル)

出所:CBO ベースラインより MURC 作成。CBO, “Supplemental Nutrition Assistance Program—CBO’s April 2018 Baseline,” https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51312-2018-04-snap.pdf, accessed September 13, 2018.

SNAP

図表 23 は、SNAP のベースラインである。支出額は 2022 年までは減少傾向にあり、2022 年の

648 億ドルを底に、2028 年まで支出が増加すると予測されている。SNAP の受給者(月次平均)は

2018 年の 4,090 万人から 2028 年には 3,210 万人まで緩やかに減少していくとの予測である。一人

当たりの月次平均受給額は、2018 年の 125 ドルから 2028 年は 158 ドルになると予測されている。

2020 年代中ごろ以降、一人当たり受給額増加の影響が受給者減少の影響を上回り、SNAP 支出額の

増加ペースが強まっている。ベースラインは食料品価格が推計期間中において一貫して上昇すると

の前提を置いており、SNAP は食料品価格に連動しているため一人当たり受給額が増加する想定と

なっている29。なお 2017 年までの過去 20 年間の食料価格指数は、平均で年率 2.1%の上昇となって

おり30、これはベースラインにおける平均受給額の増加率とほぼ一致している。

29 CBO, “The Budget and Economic Outlook: 2018 to 2028,” April 2018, https://www.cbo.gov/system/files/115th-congress-2017-2018/reports/53651-outlook.pdf, accessed July 4th, 2018. 30 USDA ERS, “Changes in Food Price Indexes, 2016 through 2018,” June 25, 2018, https://www.ers.usda.gov/data-products/food-price-outlook/food-price-outlook/#Consumer Price Index, accessed July 4, 2018; USDA ERS, “ Historical CPI data, 1974 through 2016,” January 26, 2017, https://www.ers.usda.gov/data-products/food-price-outlook/food-price-outlook/#Consumer Price Index, accessed July 4, 2018. 価格指数は家での食費(Food at home)と

外食費(Food away from home)が別に算出されており、前者の過去 20 年間の年率平均上昇率が 2.1%である。後者の

場合は 2.7%である。

24 59 37 26 28 29 28 28 28 28 28 31

355

582

275 286 314 312 310 309 311 311 310 345

24

60

40 4040 40 40 40 40 40 40

4015

30

12 99 9 9 9 9 9 9

9

0

100

200

300

400

500

600

700

800

2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028

畜産補償プログラム(LIP) 家畜飼料災害プログラム(LFP)

家畜・蜂蜜・養殖魚プログラム(ELAP) 樹木支援プログラム(TAP)

※2018 年農業法 対象期間

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23

図表 23 ベースラインにおける SNAP 支出額(outlay)および受給者の予測

出所:CBO ベースラインより MURC 作成。CBO, “Supplemental Nutrition Assistance Program—CBO’s April 2018 Baseline,” https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51312-2018-04-snap.pdf, accessed June 1, 2018.

図表 24 ベースラインにおける一人当たり月次平均受給額の予測(ドル)

出所:CBO, “The Budget and Economic Outlook: 2018 to 2028”, April 2018, https://www.cbo.gov/system/files/115th-congress-2017-2018/reports/53651-outlook.pdf, accessed July 4th, 2018.

2.4. 2018 年農業法成立までの経緯 旧 2014 年農業法は 2008 年農業法が失効する約 10 か月前である 2011 年 11 月に両農業委員長案

が示された。それにもかかわらず、2008 年農業法失効前に法律は成立せず、2008 年農業法の延長

69,212

65,81765,268 65,033 64,857 64,947

65,47766,247

67,151

68,720

70,311

40.9 39.2

37.9 36.6 35.4 34.3 33.4 32.8 32.3 32.2 32.1

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

62,000

63,000

64,000

65,000

66,000

67,000

68,000

69,000

70,000

71,000

2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028

SNAP支出額(100万ドル、左軸) 受給者(月次平均、100万人、右軸)

125 124 127 130 134 138 142 146 150 154 158

020406080

100120140160180

2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028

※2018 年農業法 対象期間

※2018 年農業法 対象期間

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24

によってしのいだのであった。今回の 2018 年農業法は、失効半年前を切っても 2018 年農業法の委

員会案は示されず、審議の本格的なスタートはようやく 2018 年 4 月に入ってからであった。最初

に動きがあったのは下院である。 2018 年 4 月 12 日、下院農業委員会は、2018 年農業法の委員会案として農業栄養法案(Agriculture

and Nutrition Act of 2018)を公表し、同案を 18 日に採択した31。投票は、賛成が 26、反対が 20 であ

った。下院農業委員会の構成議員は、共和党が 26 名、民主党が 20 名であることから、すなわち、

賛否は共和党と民主党という党派で分かれたことを意味している(2018 年農業法が審議された大

115 議会期の下院農業委員会のメンバーは図表 25 のとおりである)。

31 House Committee on Agriculture, “ COMMITTEE APPROVED: House Ag Committee Advances Agriculture and Nutrition Act,” Press Releases, April 18, 2018, https://agriculture.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=4297, accessed June 1, 2018.

Page 14: 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

25

図表 25 2018 年農業法審議時(第 115 議会期)の下院農業委員会所属議員一覧 名前 党 州

K.Michael Conaway(委員長) 共和党 テキサス Glenn Thompson 共和党 ペンシルベニア Bob Goodlatte 共和党 バージニア Frank D. Lucas 共和党 オクラホマ Steve King 共和党 アイオワ Mike Rogers 共和党 アラバマ Bob Gibbs 共和党 オハイオ Austin Scott 共和党 ジョージア Rick Crawford 共和党 アーカンソー Scott DesJarlais 共和党 テネシー Vicky Hartzler 共和党 ミズーリ Jeff Denham 共和党 カリフォルニア Doug Lamalfa 共和党 カリフォルニア Rodney Davis 共和党 イリノイ Ted Yoho 共和党 フロリダ Rick Allen 共和党 ジョージア Mike Bost 共和党 イリノイ David Rouzer 共和党 ノースカロライナ Ralph Abraham 共和党 ルイジアナ Trent Kelly 共和党 ミシシッピ James Comer 共和党 ケンタッキー Roger Marshall 共和党 カンザス Don Bacon 共和党 ネブラスカ John Faso 共和党 ニューヨーク Neal Dunn 共和党 フロリダ Jodey Arrington 共和党 テキサス Collin C. Peterson(野党筆頭幹事) 民主党 ミネソタ David Scott 民主党 ジョージア Jim Costa 民主党 カリフォルニア Timothy J. Walz 民主党 ミネソタ Marcia L. Fudge 民主党 オハイオ Jim McGovern 民主党 マサチューセッツ Filemon Vela 民主党 テキサス Michelle Lujan Grisham 民主党 ニューメキシコ Ann Kuster 民主党 ニューハンプシャー Rick Nolan 民主党 ミネソタ Cheri Bustos 民主党 イリノイ Sean Patrick Maloney 民主党 ニューヨーク Stacey Plaskett 民主党 ヴァージン諸島 Alma Adams 民主党 ノースカロライナ Dwight Evans 民主党 ペンシルベニア Al Lawson, Jr. 民主党 フロリダ Jimmy Panetta 民主党 カリフォルニア Tom O'Halleran 民主党 アリゾナ Darren Soto 民主党 フロリダ Lisa Blunt Rochester 民主党 デラウェア

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26

下院農業委員会案は下院本会議に上程され、5 月 18 日に採決にかけられたが、反対多数により否

決された。SNAP への就労要件強化を拒絶する民主党議員の反対に加えて、移民対策強化32を求め

る共和党の保守強硬派「フリーダム・コーカス」(自由議員連盟、Freedom Caucus)33が反対に回っ

たためである。共和党保守強硬派は 6 月に移民対策強化を盛り込んだ法案の採決を予定しており、

共和党指導部にこの法案への支持を求めた。対して共和党指導部は移民法案への支持の見返りに農

業法案への支持を求めた。本来であれば協調関係が成立する両者であったが、共和党指導部が農業

法案採決後に移民法案への支持を撤回するだろうと疑った保守強硬派は、農業法案に賛成票を投じ

なかったのである34。 伝統的に農業法は共和党と民主党の両党の賛成によって成立してきたが、下院議長を務めるライ

アン(Paul Ryan)は、SNAP に就労要件を追加する共和党主導の農業法案に賛成の立場であった35。

トランプ大統領も、共和党保守強硬派に法案可決に同調するよう、ツイッターで SNAP の就労要件

を含む法案を支持していたが、トランプ大統領やライアン議長の働きかけにもかかわらず、共和党

保守強硬派フリーダム・コーカスは農業法案を支持しなかった。下院における SNAP をめぐる共和

党と民主党の対立、保守強硬派の反対による法案否決という流れは旧 2014 年農業法審議時を彷彿

とさせる出来事であった。 法案は再度上程され、6 月 21 日に下院本会議で可決された。

図表 26 下院本会議の採決結果 5 月 18 日(否決) 6 月 21 日(可決)

賛成 反対 棄権 賛成 反対 棄権 共和党 198 30 7 213 20 2 民主党 183 10 191 2 合計 198 213 17 213 211 4

出所:House of Representatives, http://clerk.house.gov/evs/2018/roll205.xml; http://clerk.house.gov/evs/2018/roll284.xml, accessed September 12, 2018.

他方、上院における 2018 年農業法案づくりは下院より約 2 か月遅れ、2018 年 6 月 8 日に上院農

業・栄養・林業委員会案が公表された36。ただし、法案可決までの流れは順調で、6 月 13 日に委員

32 国境の壁建設費、安全保障・執行の強化、合法移民制限、不法移民子弟強制送還猶予措置(DACA: Deferred Action for Childhood Arrivals)対象者の労働許可の 3 年間の更新に関する処置等を含む。 33 フリーダム・コーカスとは、共和党下院の保守強硬派の議員連盟である。フリーダム・コーカスに所属していると名

言していない議員もいるが、30―40 名程度存在すると推測されている。減税や財政規律を重視し、保守系の市民運動で

ある「ティーパーティ」(茶会)の主張の類似している。海野素央「トランプの天敵、フリーダム・コーカスの正体」

『WEDGE Infinity』2017 年 4 月 10 日、http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9335、2018 年 6 月 1 日アクセス。 34 “Mapping the Fate of the Farm, 2018 House Edition,” farmdoc daily, May 24, 2018, https://farmdocdaily.illinois.edu/2018/05/mapping-the-fate-of-the-farm-2018-house-edition.html, accessed September 5, 2018. 35 “Farm bill goes down as Freedom Caucus votes against it,” Politico, May 18, 2018, https://www.politico.com/story/2018/05/18/farm-bill-fails-597661, accessed June 1, 2018. 36 これに先立ち、2018 年 4 月 25 日、上院の農業・栄養・林業委員会に所属する民主党のブラウン(Sherrod Brown)と共和党のトゥーン(John Thune)が、次期農業法に含められるべきプログラムの法案(農業リスク補償改善革新法

案(Agriculture Risk Coverage Improvement and Innovation Act))を提出していた。法案には、カウンティ ARC の

支払額算定を実際の郡の立地に基づいて行うこと 、PLC の参照価格を現状または 10 年間の作物平均価格を超えない範

囲に設定すること、ARC の補償水準を 2014 年農業法の 86%から 90%に引き上げること、ARC 支払額の決定に際し

て、5 年オリンピック平均全国販売価格ではなく、3 年間の単純平均価格への変更および 10 年間の単純平均価格を最低

価格とすること、農場 ARC を存続させること、2009 年から 2016 作物年度 に対象作物が作付されていない場合、基準

面積は、「非割当面積」(unassigned base acre)となり、ARC または PLC の支払い対象から除外されることなどが含

まれていた。Sherrod Brown, “ Brown, Thune Introduce Bipartisan Legislation to Improve the Agriculture Risk

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会案採択、その後上院本会議に上程され、同月 28 日に本会議で可決された。 内容は、基本的に旧 2014 年農業法を踏襲したものであった。上下院のいずれの委員会案も旧 2014

年農業法から大きな変更が加えられていなかったものの、共和党と民主党の対立の原因となる

SNAP 就労要件の変更を盛り込まれていない点で、上院案のほうが両党の合意を重視しているとい

える。これは、上院では共和党が単独で法案を可決するだけの議決数を有していないことから、共

和党と民主党の協力が必要になるためである37。

図表 27 2018 年農業法審議時(第 115 議会期)の上院農業・栄養・林業委員会所属議員 名前 党 州

Pat Roberts(委員長) 共和党 カンザス Thad Cochran 共和党 ミシシッピ Mitch McConnell 共和党 ケンタッキー John Boozman 共和党 アーカンソー John Hoeven 共和党 ノースダコタ Joni Ernst 共和党 アイオワ Charles Grassley 共和党 アイオワ John Thune 共和党 サウスダコタ Steve Daines 共和党 モンタナ David Perdue 共和党 ジョージア Deb Fischer 共和党 ネブラスカ Debbie Stabenow(野党筆頭幹事) 民主党 ミシガン Patrick Leahy 民主党 バーモント Sherrod Brown 民主党 オハイオ Amy Klobuchar 民主党 ミネソタ Michael Bennet 民主党 コロラド Kirsten Gillibrand 民主党 ニューヨーク Joe Donnelly 民主党 インディアナ Heidi Heitkamp 民主党 ノースダコタ Robert P.Casey, Jr. 民主党 ペンシルベニア Tina Smith 民主党 ミネソタ

図表 28 上院本会議の採決結果 賛成 反対 棄権

共和党 38 11 2 民主党 46 0 1 無所属 2 0 0 合計 86 11 3

出所:Senate, https://www.senate.gov/legislative/LIS/roll_call_lists/roll_call_vote_cfm.cfm?congress=115&session=2&vote=00143, accessed September 12, 2018.

Coverage Program,” April 25, 2018, https://www.brown.senate.gov/newsroom/press/release/brown-thune-introduce-bipartisan-legislation-to-improve-the-agriculture-risk-coverage-program, accessed June 1, 2018. 37 平澤明彦「米国下院の次期農業法案にみる所得支持政策の強化」『調査と情報』(農中総研)第 67 号、2018 年、21頁、https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri1807re9.pdf、2018 年 9 月 19 日アクセス。

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上院案と下院案が出そろい、両案の不一致を調整し一つの法案とするため両院協議会が開催され

ることとなった。両院協議会は 9 名の上院議員と 47 名の下院議員の計 56 名によって構成され、第

1 回会合は 2018 年 9 月 5 日に開催された。上院議員の 9 名は農業・栄養・林業委員会に所属議員で

あり、下院議員は農業委員会以外からも参加している(図表 31)。両院協議会は、基本的に議員の

コンセンサスが目指されるが、コンセンサスが得られない場合は議員の投票によって採決がなされ

る。採決は上院議員および下院議員のそれぞれ過半数の賛成が必要である38。 経済的な苦境に直面する農家を安心させるために農業法を成立させなければならない、と議員た

ちは強調していたが39、SNAP 就労要件強化をめぐる共和党と民主党の対立は解消されず、旧 2014年農業法失効までに新農業法は成立しなかった。

2018 年 11 月 6 日に中間選挙が実施され、上院は共和党が過半数を維持したが、下院は事前の予

想通り民主党が制した。中間選挙後の展開は早かった。両院協議会案が 12 月 10 日に明らかにされ

ると、12 月 11 日に上院、12 日に下院で法案が可決された。その後 12 月 20 日にトランプ大統領が

法案に署名したことで、2018 年中に新たな農業法が成立することとなった。

図表 29 両院本会議案の採決結果 賛成 反対 棄権

上院 87 13 0 下院 369 47 16

出所:Senate, https://www.senate.gov/legislative/LIS/roll_call_lists/roll_call_vote_cfm.cfm?congress=115&session=2&vote=00259; House, http://clerk.house.gov/evs/2018/roll434.xml, accessed February 22, 2019.

中間選挙の結果は農業法審議に大きな影響を与えた40。2019 年 1 月から始まる新議会期では下院

の多数派が民主党となるため、共和党が望む法案審議は難しくなることは確実であった。民主党が

強く反対する SNAP 就労要件強化を含む新農業法が成立する可能性は限りなく低く、選挙結果が下

院共和党議員の妥協を促したといえる。SNAP 就労要件強化以外では両院協議会案に下院案の多く

が取り入れられており、SNAP 就労要件強化が含まれないにしても両院協議会案は受け入れられな

いものではなかった。 農務省は 2018 年農業法が成立した 12 月 20 日に SNAP の免除要件の厳格化を提案したが、こう

した農務省の動きも財政規律を重んじる議員が農業法に賛成することに寄与したとの見方もある41。

現在では、「扶養者のいない健常成人(ABAWD: Able Bodied Adult Without Dependents)」が 36 か月

中 3 か月を超えて SNAP を受給するには、少なくとも週 20 時間の雇用プログラムに参加しなけれ

ばならないが、失業率が 10%を超える地域や「十分な仕事がない」とされる地域(全国平均より 20%失業率が高い地域)ではこの期間の制限を免除できる。農務省は、免除基準を失業率 7%に引き下

38 “ 2018 Farm Bill Updated: Conference Negotiations Begin,” farmdoc daily, August 9, 2018, https://farmdocdaily.illinois.edu/2018/08/2018-farm-bill-updated-conference-negotiations-begin.html?utm_source=farmdoc+daily+and+Farm+Policy+News+Updates&utm_campaign=d5dfac03ce-FDD_RSS_EMAIL_CAMPAIGN&utm_medium=email&utm_term=0_2caf2f9764-d5dfac03ce-175253313, accessed September 19, 2018. 39 “ Farm Bill Conference Committee Convenes,” Farm Policy News, September 6, 2018, https://farmpolicynews.illinois.edu/2018/09/farm-bill-conference-committee-convenes/?utm_source=farmdoc+daily+and+Farm+Policy+News+Updates&utm_campaign=5573cb33e5-FPN_RSS_EMAIL_CAMPAIGN&utm_medium=email&utm_term=0_2caf2f9764-5573cb33e5-175253313, accessed September 19, 2018. 40 “Farm bill headed to Trump after landslide House approval,” Politico, December 13, 2018, https://www.politico.com/story/2018/12/12/house-passes-farm-bill-1060916, accessed February 12, 2019. 41 米国綿花農業団体へのヒアリング(2019 年 1 月実施)。

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げることを提案し、これにより 10 年間で 150 億ドルが節約できるとした42。 民主党のステイブナウ(Debbie Stabenow)上院議員らは農務省の提案に反対する一方、下院農業

委員会の委員長だった共和党のコナウェイ(Michael K. Conaway)が賛成したように43SNAP の就労

要件強化を望む議員は農務省の提案によって 2018 年農業法に賛成しやすくなったといえる。

図表 30 議会の審議プロセスと 2018 年農業法審議プロセス

出所:議会審議プロセスについては、国立国会図書館調査及び立法考査局『主要国の議会制度』2010 年

等を参照。2018 年農業法成立までの日程については、次のウェブサイトを参照。Congress Gov, All Information (Except Text) for H.R.2 - Agriculture Improvement Act of 2018, https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/2/all-info, accessed February 13, 2019.

42 USDA, “ USDA to Restore Original Intent of SNAP: A Second Chance, Not A Way of Life,” December 20, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/12/20/usda-restore-original-intent-snap-second-chance-not-way-life, accessed February 28, 2019. 43 “ Trump administration aims to toughen work requirements for food stamp recipients,” the Washington Post, December 20, 2018, https://www.washingtonpost.com/business/economy/trump-administration-aims-to-toughen-work-requirements-for-food-stamps-recipients/2018/12/20/cf687136-03e6-11e9-b6a9-0aa5c2fcc9e4_story.html?utm_term=.21d2b31f2c85, accessed February 28, 2019.

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図表 31 両院協議会の下院代表議員 名前 党 州 委員会

1 K.Michael Conaway 共 テキサス 農業 2 Glenn Thompson 共 ペンシルベニア 農業 3 Bob Goodlatte 共 バージニア 農業 4 Frank D. Lucas 共 オクラホマ 農業 5 Mike Rogers 共 アラバマ 農業 6 Austin Scott 共 ジョージア 農業 7 Rick Crawford 共 アーカンソー 農業 8 Vicky Hartzler 共 ミズーリ 農業 9 Rodney Davis 共 イリノイ 農業 10 Ted Yoho 共 フロリダ 農業 11 David Rouzer 共 ノースカロライナ 農業 12 Roger Marshall 共 カンザス 農業 13 Jodey Arrington 共 テキサス 農業 14 Collin C. Peterson 民 ミネソタ 農業 15 David Scott 民 ジョージア 農業 16 Jim Costa 民 カリフォルニア 農業 17 Timothy J. Walz 民 ミネソタ 農業 18 Marcia L. Fudge 民 オハイオ 農業 19 Jim McGovern 民 マサチューセッツ 農業 20 Filemon Vela 民 テキサス 農業 21 Michelle Lujan

Grisham 民 ニューメキシコ 農業

22 Ann Kuster 民 ニューハンプシャー 農業 23 Tom O'Halleran 民 アリゾナ 農業 24 Virginia Foxx 共 ノースカロライナ 教育・労働 25 Rick Allen 共 ジョージア 教育・労働 26 Alma Adams 民 ノースカロライナ 教育・労働 27 John Shimkus 共 イリノイ エネルギー・商業 28 Kevin Cramer 共 ノースダコタ エネルギー・商業 29 Paul Tonko 民 ニューヨーク エネルギー・商業 30 Jeb Hensarling 共 テキサス 金融 31 Sean Duffy 共 ウィスコンシン 金融 32 Maxine Waters 民 カリフォルニア 金融 33 Ed Royce 共 カリフォルニア 外交 34 Steve Chabot 共 オハイオ 外交 35 Eliot Engel 民 ニューヨーク 外交 36 Mark Walker 共 ノースカロライナ 監視・政府改革 37 James Comer 共 ケンタッキー 監視・政府改革 38 Stacey Plaskett 民 ヴァージン諸島 監視・政府改革 39 Rob Bishop 共 ユタ 天然資源 40 Bruce Westerman 共 アリゾナ 天然資源 41 Raúl Grijalva 民 アリゾナ 天然資源 42 Ralph Abraham 共 ルイジアナ 科学・宇宙・技術 43 Neal Dunn 共 フロリダ 科学・宇宙・技術 44 Eddie Bernice Johnson 民 テキサス 科学・宇宙・技術 45 Jeff Denham 共 カリフォルニア 運輸・インフラ 46 Bob Gibbs 共 オハイオ 運輸・インフラ 47 Cheri Bustos 民 イリノイ 運輸・インフラ

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31

図表 32 両院協議会の上院代表議員 名前 党 州

1 Pat Roberts 共 カンザス

2 Mitch McConnell 共 ケンタッキー

3 John Boozman 共 アーカンソー

4 John Hoeven 共 ノースダコタ

5 Joni Ernst 共 アイオワ

6 Debbie Stabenow 民 ミシガン

7 Patrick Leahy 民 バーモント

8 Sherrod Brown 民 オハイオ

9 Heidi Heitkamp 民 ノースダコタ

2.5. 2018 年農業法の概要 2018 年農業法は、旧 2014 年農業法の画期的な(revolutionary)な変更ではなく、漸進的な

(evolutionary)な変更にとどまるとの見方が支配的であったが、実際、2018 年農業法の章構成を見

ると、旧 2014 年農業法と同一である。中身についても 2018 年農業法は旧 2014 年農業法を基本的

に踏襲するものである。変更が加えられた点についても農業団体がかねてから求めていた要望の反

映であり、農業団体にとって満足できる内容となっている44。以下、新たな農業法における主要プ

ログラムについて、旧 2014 年農業法からの変更点を中心に整理する。

図表 33 旧 2014 年農業法と 2018 年農業法の章構成 旧 2014 年農業法 2018 年農業法

第 1 章(Title I)作物 第 1 章(Title I)作物 第 2 章 保全 第 2 章 保全 第 3 章 貿易 第 3 章 貿易 第 4 章 栄養 第 4 章 栄養 第 5 章 信用 第 5 章 信用 第 6 章 農村振興 第 6 章 農村振興 第 7 章 研究・普及・関連

事項 第 7 章 研究・普及・関

連事項 第 8 章 森林 第 8 章 森林 第 9 章 エネルギー 第 9 章 エネルギー 第 10 章 園芸 第 10 章 園芸 第 11 章 作物保険 第 11 章 作物保険 第 12 章 その他 第 12 章 その他

44 各種農業団体へのヒアリング(2019 年 1 月~2 月実施)。

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32

図表 34 上下院案および 2018 年農業法の旧 2014 年農業法からの主な特徴・変更点 タイトル 内容 下院案 上院案 2018 年農業法 備考

作物プログラム

ARC/PLC 実綿を対象作物に含む。 実綿を対象作物に含む。 実綿を対象作物に含む。 実綿は 2018 年超党派予算法における旧 2014 年農業法改正によって追加済み。上下院案および 2018 年農業法で上記改正内容を踏襲。

ARC/PLC 未選択の場合、ARC を選択。 ARC/PLC の再選択が認められる(2019-2020 年度、2021 年以降は毎年度変更可)。 未選択の場合は PLC を選択(旧

2014 年農業法を踏襲)。

旧 2014 年農業法では、一度選択すると農業法施行期間中は変更不可。 旧 2014 年農業法では、未選択の場合は PLC を選択。

ARC 農場 ARC 廃止。 カウンティ ARC の単収データとして

RMA のデータを使用。 農地の実際の所在地に基づいて支払額を決定。 2008 年から 2012 年に旱魃の被害を受けた郡は支払単収を更新可。

カウンティ ARC と農場 ARC のいずれもが存続。 単収データを単一のデータソースに変更。 農地の実際の所在地に基づいて支払額を決定。 基準収入額算出に用いる「郡の 5年オリンピック平均単収」が暫定単収(transitional yields)の 75%未満の場合、郡平均単収として暫定単収の 75%の値を使用。

カウンティ ARC と農場 ARC のいずれもが存続。 カウンティ ARC の単収データとして

RMA のデータを最優先に参照 農地の実際の所在地に基づいて支払額を決定。 基準収入額算出に用いる「郡の 5年オリンピック平均単収」が暫定単収 80%未満の場合、郡平均単収として暫定単収の 80%の値を使用。

旧 2014 年農業法では、カウンティARC の単収データを農務省全国農業統計局(NASS)に依拠。 旧 2014 年農業法では、移行単収の 70%。

PLC 「実効参照価格」(effective reference price)を導入。実効参照価格は、法律に規定される参照価格と 5 年オリンピック平均市場年平均価格の 85%のうち、高いほう。ただし、参照価格の 115%を超えない範囲。

「実効参照価格」(effective reference price)を導入。実効参照価格は、法律に規定される参照価格と 5 年オリンピック平均市場年平均価格の 85%のうち、高いほう。ただし、参照価格の 115%を超えない範囲。

参照価格は旧 2014 年農業法から変更なし。

綿花移行プログラム

廃止。 廃止。 旧 2014 年農業法成立当初、綿花が作物プログラムから除外され積上所得補償保険(STAX)に移行。当初

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33

タイトル 内容 下院案 上院案 2018 年農業法 備考 より移行期(2014 年と 2015 年)のみを対象としたプログラム。

酪農プログラム 「酪農リスク管理プログラム」(Dairy Risk Management Program)に名称変更。 マージン補償水準に 8.50 ドルと

9.00 ドルを追加。 生産履歴 500 万ポンド以下(Tier

1)の生産者の保険料減額。 平均飼料コストの計算で用いられるデータの再検討等を農務省に要求。

「酪農リスク補償」(Dairy Risk Coverage)に名称変更。 マージン補償水準に 8.50 ドルと

9.00 ドルを追加。 保険料引き上げ。小規模生産者の保険料は割引。

「マージン補償プログラム」(DMC: Margin Coverage Program)に名称変更。 マージン補償水準に 8.5 ドル、9 ドル、9.5 ドルを追加(Tier 1 のみ。Tier 2 は 8 ドルが上限) 生産履歴 500 万ポンド以下(Tier

1)の生産者は保険料減額。500 万ポンドを超える生産者(Tier 2)は補償水準 5.5 ドル以上で保険料値上げ。 2018 年農業法施行期間中 DMC に加入し、補償水準を固定する生産者は保険料 25%割引。 マージン算出対象期間は 1 か月。 USDA が飼料コスト等を調査して議会に報告。 DMC と酪農経営収益保険(LGM)の同時加入可能。

旧 2014 年農業法ではマージン補償水準の上限は 8.00 ドル。 旧 2014 年農業法成立当初は、マージン算出対象期間は 2 か月平均。2018 年超党派予算法で 1 か月に改正。 全米生乳生産者連合(NMPF)などは飼料コストが高く計算される(10%)計算方法に改めるよう要求していた。 旧 2014 年農業法では、DMPP 加入者は LGM 加入不可。

マーケティングローン

存続。 存続。 存続。 融資単価を全品目一律引き上げ。

受給条件 受給条件:調整後所得(AGI) 900,000 ドル以下。 融資不足払いとマーケティングローン利得が 1 人当たり支払い上限の125,000 ドルから除外。 農業経営体の類型として「有資格パススルー・エンティティ」(qualified pass through entity)を追加。 家族農家に、いとこ、姪、甥を追加。

受給条件:AGI 700,000 ドル以下。 受給条件:AGI 900,000 ドル以下(不変)。 融資不足払いとマーケティングローン利得が 1 人当たり支払い上限の125,000 ドルから除外。 家族農家に、いとこ、姪、甥を追加。

旧 2014 年農業法では、AGI 900,000 ドル以下。 旧 2014 年農業法の支払い上限は、ARC、PLC、マーケティングローンで合計 125,000 ドル。落花生は別途 125,000 ドル。

災害支援プログラム

非作物保険支援プログラム(NAP)の強化。甚大な損害への補償(catastrophic coverage)の支払い

NAP の強化。甚大な損害への補償の支払い上限 125,000 ドルに加え

旧 2014 年農業法では支払い上限は 125,000 ドル。

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34

タイトル 内容 下院案 上院案 2018 年農業法 備考 上限 125,000 ドルに加えて、300,000 ドルを上限とする追加補償。

て、300,000 ドルを上限とする追加補償。

保全

CRP 対象面積上限を 2023 年度まで毎年 100 万エーカーずつ拡大(2023年度に 2,900 万エーカー)。 初めて登録する土地の支払額上限をカウンティ年間平均地代の 80%、再登録の場合は 65%とする(以降、3 回目の登録の上限は 55%、4 回目は 45%、5 回目は 35%)。

対象面積を 2,500 万エーカーに拡大。 支払額をカウンティ平均地代の

88.5%に削減。 CRP の契約が失効する土地に地役権を設定する「環境保全留保地役プログラム(Conservation Reserve Easement Program)」を開始。

対象面積を 2023 年までに 2,700万エーカーに拡大する。 支払額は推定される地代の 88.5%を上限とする。 再登録される土地では、野生生物保全と水質改善のための再登録を優先する(野生動物保全に 30%を、水質改善に 40%を優先的に充てる)。

2017、2018 年度の対象面積上限は 2,400 万エーカー。 旧 2014 年農業法では、支払額はカウンティ平均地代地(乾燥地)に基づき決定される45。

EQIP 2023 年度までに年間予算(annual funding)を 30 億ドルに増額。 CSP 廃止後に利用可能な選択肢として、地域ごとの懸念に対応した保全活動に対し 5~10 年間契約で支払いを行う「Stewardship Contract」を提供。

減額。 年間予算は 2019 年、2020 年が17 億 5,000 万ドル。2023 年までに約 20 億ドルに増加 優先度の高い自然資源の懸念に対応する「保全インセンティブ契約」を新たに提供 プログラムの半分を家畜関連に、

10%を野生動物保護関連に充てる。

旧 2014 年農業法では年間予算 18億ドル。

CSP 廃止。但し現行契約には影響を与えない(プログラム廃止によって契約期間途中での解約とはならない)。

年間登録面積を約 880 万エーカーに縮小。

EQIP と統合を進め、現行契約が失効する 2025 年に支出がゼロとなる。 年間登録面積の上限は約 880 万エーカー。

旧 2014 年農業法の年間登録面積は 1,000 万エーカー。

ACEP 増額。 増額。 増額。

RCPP 増額。 増額。 増額。

栄養 受給要件(就労要件)

18 歳から 59 歳の成人に対し、受給要件として週 20 時間の就労もしくは就労トレーニング参加を課す。

大きな変更なし(下院案の就労要件追加は行われない)。

45 USDA FSA, “ The Conservation Reserve Program: 49th Signup Results”, October 2016, https://www.fsa.usda.gov/Assets/USDA-FSA-Public/usdafiles/Conservation/PDF/SU49Book_State_final1.pdf, accessed July 12, 2018.

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35

タイトル 内容 下院案 上院案 2018 年農業法 備考 2021 年度より導入。2026 年度には週 25 時間とする。 免除となる場合の例は、高齢者、障害者、6 歳未満の子どもの保護者、妊婦など。

受給要件(金銭的要件)

「広範な自動的受給資格」が取得できる世帯を、月粗収入が連邦貧困水準の 130%以下であり、且つ貧困家庭一時扶助(TANF)からの現金受給(もしくは継続中の実質的サービス受給)がある場合に限る。

大きな変更なし(下院案の需給資格制限は行われない)。

現在は SNAP 受給を条件として学校で無料給食が提供されるが、下院案の広範な自動的受給資格の適用厳格化を想定すると、約 27 万人の子どもが無料給食を食べられなくなるとされる46。

就労トレーニングプログラム

就労トレーニング参加要件に対応するため、2021 年度以降毎年 10 億ドルを支出し、州が実施する研修プログラムを強化(2020 年度は 2 億7,000 万ドル)。

収監中・薬物乱用回復プログラム参加中の 50 歳以上の者を対象とした新たな就労トレーニングのパイロット事業を実施。 連邦予算により州が実施する研修・トレーニングプロラムとして認められる活動の内容を拡大。

就労トレーニングへの予算を追加。成功したパイロット事業や、雇用に向け困難の多い人々向けに予算を重点配分。

受給期間 受給世帯の成人構成員が全員 60歳以上か障害がある場合、24 か月間の受給資格認定を可能とする。

収入のない高齢者世帯・障害者世帯に対して最長 36 か月の受給資格認定を可能とする。

現在 SNAP の受給資格認定期間は12 か月。

作物保険

カウンティリスク補償(Area Risk Coverage47)

任意追加補償(SCO)に加えて、カウンティリスク補償もカウンティARC との併用不可

旧 2014 年農業法では SCO のみが併用不可

産業用ヘンプ

産業用ヘンプを連邦規制対象品目から州管理品目とし、作物保険対象品目に追加(ただし、作物プログラムの適用対象外)

46 CBO, “Cost Estimate: H.R. 2, Agriculture and Nutrition Act of 2018”, May2, 2018. 47 カウンティリスク補償は、郡における収入の低下や広範な生産減少を補償する作物保険の一つである。USDA, “Area Risk Protection Insurance,” https://www.rma.usda.gov/en/Policy-and-Procedure/Insurance-Plans/Area-Risk-Protection-Insurance, accessed March 7, 2019.

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36

作物プログラム

① PLC と ARC

2018 年農業法では、PLC および ARC が維持された。下院案では農場 ARC(ARC-IC)は廃止と

されていたが、最終的には ARC はカウンティ ARC と農場 ARC のいずれも継続となった。旧 2014年農業法施行期間に農場 ARC を選択する農家は少なかったため、下院では不要という判断がなさ

れたものと考えられるが、政府支出へのインパクトは小さく、わずかとはいえ利用者も存在する

ことから継続になった

図表 35 PLC と ARC の選択状況(基準面積の内訳)

出所:USDA データより MURC 作成。USDA/FSA, “ARC/PLC Election Data,” https://www.fsa.usda.gov/programs-and-services/arcplc_program/index, accessed June 1, 2018.

1) 対象作物

作物プログラムの対象農作物は基本的に旧 2014 年農業法のそれを踏襲しているが、超党派予算

法で作物プログラムに追加された実綿が下院案でも対象農作物の一つとして認められている。

PLC23%

カウンティARC76%

農場ARC1%

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37

図表 36 作物プログラムの対象作物 旧 2014 年農業法 下院案

小麦 小麦 オーツ オーツ 大麦 大麦 とうもろこし とうもろこし グレインソルガム グレインソルガム 長粒米 長粒米 中粒米 中粒米 豆類 豆類 大豆 大豆 その他油糧種子 その他油糧種子 落花生 落花生 - 実綿

2) PLC と ARC の再選択制

ARC と PLC の最大の変更といえるのが、選択方式の変更である。生産者が PLC か ARC かのい

ずれかを選択しなければならない点は旧 2014 年農業法と同様である。旧 2014 年農業法では一度選

択すると生産者は農業法施行期間中の 5 年間はプログラムを選択し直すことができなかった。 2018 年農業法では 2019~2020 作物年度で一度選択したのち、2021 年度にも再選択が可能となっ

た。2021 年度以降は毎年度再選択が可能である。旧 2014 年農業法では農作物価格の下落によりカ

ウンティ ARC の受給額が減少したが、それでも生産者はプログラムの再選択はできなかった。生

産者の言い分としては 5 年先の農作物価格の予測は困難であるというもので、2019 年 1 月の米国

現地調査で訪問した農業団体の中には、この変更が生産者にとって最大の勝利であると回答した農

業団体もいた48。 生産者は市況をもとにより支払いを得られると予想するプログラムを選択すると想定されるが、

後述するとおり CBO の政府支出予測はプログラムの変更可能性を織り込んでおらず、保守派のシ

ンクタンクの中には他の変更ともあいまって 2018 年農業法によって政府支出が増加し、2023 年に

予定される次期農業法では政府支出の削減が焦点になりうるとの指摘もあった49。 なお、生産者が PLC も ARC もいずれも選択しなかった場合は PLC を選択したものとみなされ

る。上院案では未選択時は ARC をデフォルトとしたが、最終的には旧 2014 年農業法と同様、PLCがデフォルトとされた。

3) ARC 単収データは RMA データを優先的に使用

単収データをリスク管理局(RMA)のデータソースを最優先で使用すると規定している。これは

旧 2014 年農業法下では NASS データと作物保険データが互換的に使用され、それが郡ごとの支払

額の大きな差を生じさせたとの問題意識に基づいている。これは、下院案と上院案のいずれにも盛

り込まれていた変更点であり、農業団体がかねてから要望していた修正に対処したかたちである。 また、カウンティ ARC について、実際の農地の所在地に基づきベンチマークおよび実際の収入

の計算がなされる。

4) PLC 実効参照価格の新設

下院案で提案された PLC の「実効参照価格」(effective reference price、通称 price escalator)が、

2018 年農業法で取り入れられた。旧 2014 年農業法では「参照価格」(reference price)として基準と

なる価格が法律の中で規定されていたが、2018 年農業法では 2014 年に設定された参照価格を継続

48 米国とうもろこし農業団体へのヒアリング(2019 年 1 月実施)。 49 米国保守系シンクタンクへのヒアリング(2019 年 1 月実施)。

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しつつも市況に応じて基準額が引き上げられるメカニズムとして実効参照価格が導入されている。

実効参照価格とは、参照価格と 5 年間オリンピック市場年平均価格(marketing year average (MYA) price)の 85%のいずれかのうち金額が高いほうとされる。ただし、後者の金額は参照価格の 115%を超えない範囲という上限が設定されている。

なお、PLC 参照価格は旧 2014 年農業法と同額である。実綿は超党派予算法で決められた参照価

格が踏襲されている。 実効参照価格の算定にオリンピック市場年平均価格が用いられることで、農作物価格が高い年が

続くと、金額の上限が設定されているとはいえ、PLC で補償される価格が引き上げられることにな

る。同時に、補償される価格は参照価格以下にはならない。不足払いは本来固定された参照価格に

よる補償であるが、実効参照価格の導入により値上がり時の補償水準引き上げという収入ナラシの

要素が取り込まれたと評価することができる50。市況を反映して参照価格が引き上げられるメカニ

ズムが追加されることで、PLC が値下がりリスクの回避と農作物価格の上昇の利益の両方が得られ

る制度となった。 不足払いと収入ナラシの両方の性格を併せ持つセーフティネットが出来るという意味で画期的

な変更といえるが、近年は農作物価格が下落傾向にあることから実効参照価格によって農家が恩恵

を受ける見込みは小さい。そのためか、農業団体はこの変更を評価しつつも実際のメリットは大き

くないと考えている51。

図表 37 2018 年農業法における PLC の参照価格(ドル/ブッシェル) 品目 参照価格 参照価格の

115%**** 小麦 5.50 6.33 とうもろこし 3.70 4.26 ソルガム 3.95 4.54 大麦 4.95 5.69 オーツ麦 2.40 2.76 長粒米* 14.00 16.10 中粒米* 14.00 16.10 大豆 8.40 9.66 その他油糧種子* 20.15 23.17 落花生** 535.00 615.25 乾燥エンドウマメ* 11.00 12.65 レンズマメ* 19.97 22.97 小さいヒヨコマメ* 19.04 21.90 大きいヒヨコマメ* 21.54 24.77 実綿*** 0.367 0.422

*ハンドレッドウェイト、**トン、***ポンド、****小数点以下第 3 位を四捨五入(実綿を除く)。

5) 暫定単収の引き上げ

カウンティ ARC において、2018 年農業法では基準収入額算出に用いる「郡の 5 年オリンピック

平均単収」が暫定単収 80%未満の場合、郡平均単収として暫定単収(transitional yield、T 単収)の

80%の値を使用することとなった。T 単収とは郡の過去の平均単収に基づき農務省が指定する暫定

的な単収を指す。 旧 2014 年農業法ではある年の郡の単収が T 単収の 70%を下回った場合は、その郡の単収は T 単

50 平澤明彦「米国下院の次期農業法案にみる所得支持政策の強化」『調査と情報』(農中総研)第 67 号、2018 年、21頁、https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri1807re9.pdf、2018 年 9 月 19 日アクセス。 51 米国品目横断的農業団体等へのヒアリング(2019 年 1 月実施)。

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収の 70%に置き換えられることになっていた。T 単収に置き換えることによってカウンティ ARCの支払額の下げ止まりが可能となる。当初、上院案で T 単収を 75%に引き上げることが提案され

ていたが、最終的に T 単収の 80%となり、カウンティ ARC 支払額の減少にさらに歯止めをかける

仕組みが備わったといえる。

② 販売支援融資

販売支援融資(Marketing Assistance Loan)52は継続されているが、融資単価が引き上げられた。融

資単価が引き上げられたとはいえ、基本的に農作物価格は今後も融資単価を上回ると想定されてお

り、CBO も引き上げが支出増に与えるインパクトは小さいと予測している。

図表 38 2018 年農業法の融資単価(ドル/1 ブッシェル)

作物

旧 2014 年農

業法 2018 年農業法

小麦 2.94 3.38

とうもろこし 1.95 2.20

ソルガム 1.95 2.20

大麦 1.95 2.20

綿花(ポンド) 0.45-0.52 0.45-0.52

長粒米(cwt) 6.50 7.00

中粒米(cwt) 6.50 7.00

大豆 5.00 6.20

落花生(トン) 355.00 355.00

52 Marketing Assistance Loan は、マーケティングローン、マーケティング援助ローン、市場取引援助貸付など様々な

訳語が当てられるが、本報告書では、勝又や吉井に従い、Marketing Assistance Loan を「販売支援融資」と訳すこと

とする(たとえば、勝又健太郎・吉井邦恒「米国:農業法に基づく経営安定政策-これまでの変遷と実施状況-」『プロ

ジェクト研究[主要国農業戦略]研究資料 第 9 号 平成 27 年度カントリーレポート:総括編,食料需給分析編』2016年、10 頁、http://www.maff.go.jp/primaff/seika/kokusai/usa.html、2019 年 3 月 7 日アクセス)。販売支援融資とは、

1930 年代に導入された価格支持融資制度を源流とする。価格支持融資では、農家は農作物を担保にして、一定の価格

(融資単価、loan rate)で政府から 9 か月期限の融資を受けられる。担保作物は農場のそのままにしておくことがで

き、農家は期限内に担保作物を市場に売却して融資を返済するか、市場で売らずに質流れとして返済するかを選択でき

る。通常、農作物価格は収穫期が最も低い。価格支持融資によって農家は農作物価格が高くなるまで待つことができ

る。市場価格が融資単価を下回っていれば、農家は質流れを選択できるので、市場価格が融資単価の水準で支えられる

ことになる。 しかし、この仕組みでは市場価格が融資単価を下回ると政府は担保として回収した農作物を積み増すことになる。事

実、1950 年代、60 年代、80 年代は市場価格が融資単価を下回ることが多かったため、政府の在庫が増え、管理に要す

る支出も増加した。また、1970 年代から 80 年代半ばにかけて農産物価格の高騰や生産費の上昇を受けて融資単価が引

き上げられ、米国農産物価格は世界市場において割高となり、米国産農産物輸出が減少した。これらを背景として、米

国政府は 1980 年代に融資単価を国際価格水準まで引き下げるとともに、「販売融資」(Marketing Loan)制度が導入さ

れた。販売融資は、農作物の市場価格が融資単価を下回った場合に、市場価格分を生産者が返済すれば融資の返済を完

了したとみなす制度である。返済単価(市場価格)が融資単価を下回った場合、生産者は差額分の利益を得るが、その

差額分は「販売融資利得」(Marketing Loan Gain)と呼ばれる。また、農作物価格が融資単価を下回った場合に、「融

資単価-融資返済単価」の直接支払い(融資不足払い、LDP: Loan Deficiency Payment)を生産者は受給できる。販売

融資によって農家は融資単価未満の市場価格で販売することが可能となり、融資単価と返済単価の差額分は輸出補助金

としての効果も持つ。2014 年農業法で同制度は「販売支援融資」(Marketing Assistance Loan)として規定された。

服部信司『アメリカ農業・政策史 1776-2010―世界最大の穀物生産・輸出国の農業政策はどう行われてきたのか―』農

林統計協会、2010 年、51 および 126 頁;勝又健太郎・吉井邦恒「米国:農業法に基づく経営安定政策-これまでの変

遷と実施状況-」『プロジェクト研究[主要国農業戦略]研究資料 第 9 号 平成 27 年度カントリーレポート:総括編,

食料需給分析編』2016 年、10-11 頁、http://www.maff.go.jp/primaff/seika/kokusai/usa.html、2019 年 3 月 7 日アクセ

ス;CRS, “Farm Bill Primer: The Marketing Assistance Loan Program,” August 24, 2017, http://nationalaglawcenter.org/wp-content/uploads/assets/crs/IF10714.pdf, accessed March 7, 2019.

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米国の農業団体としてもこの変更によって支払が発動されると考えているわけではないが、1990年代後半の農作物価格の下落を引き合いに、農家所得の最後の砦として融資単価の引き上げを好意

的に評価している53。

③ 酪農リスク管理プログラム

DMPP54は旧 2014 年農業法の中で最も不満をもたれていたプログラムであった。生乳価格と飼料

コストの差(マージン)に基づいて支払いをするという仕組みそれ自体は酪農業界団体から支持さ

れていたが、支払いがほとんど発動されずセーフティネットとして機能していないと評価されてい

たのである。2.2 で述べたとおり 2018 年超党派予算法の中で保険料の引き下げやマージン算出期間

の変更(2 か月から 1 か月に)といった修正がすでに行われていたが、2018 年農業法の中で業界の

要望を受け入れるかたちでさらなる調整が加えられている。

1) プログラム名の変更

酪農プログラムは酪農マージン補償プログラム(DMC: Dairy Margin Coverage Program)と名称が

改められたが、酪農業界の要望を取り入れて一部変更がなされた以外は、基本的に DMPP の継続で

ある。プログラム名は、下院案では「酪農リスク管理プログラム」(Dairy Risk Management Program)、

上院案では「酪農リスク補償」(Dairy Risk Coverage)とされていたが、いずれにせよプログラムの

仕組みそれ自体は DMC とほとんど同じであった。

2) 補償水準の拡大

2018 年農業法では、マージンの補償水準に 8 ドル、8.5 ドル、9 ドル、9.5 ドルが追加された(生

産履歴(production history)500 万ポンド以下の Tier 1 のみ。500 万ドル超の Tier 2 は 8 ドルの上限

が維持されている)。下院案でも上院案でも補償水準の追加が提案されていたから、補償水準の拡

大については両院協議会以前から上下院でコンセンサスが成立したといえるが、いずれも法案でも

補償水準は 9 ドルまでとされていた。法案審議の最終段階でより酪農家に有利な修正が加えられた

ことになる。生産者にとって著しく低い水準のマージンといえる災害的水準に対する補償

(catastrophic coverage)と呼ばれる最低補償水準は 4 ドルのままで維持されている。 補償水準の拡大により、旧 2014 年農業法比で生産者はより保険金を受け取れるようになると想

定されるが、後述のとおり、CBO はこの変更によっても政府支払いは増加しないと予測している。

3) 保険料の変更

DMC の保険料は図表 39 のとおりである。旧 2014 年農業法成立当初、生産履歴を Tier 1 と Tier 2 を分ける基準は 400 万ポンドであったが、2018 年農業法では 500 万ポンドで分けられている55。

これは超党派予算法に伴う旧 2014 年農業法改正を踏襲したものである。生産履歴 500 万ポンド以

下(Tier 1)の生産者の保険料が旧 2014 年農業法から大幅に下げられている。超党派予算法よりは

引き上げられたとはいえ、上下院案よりは下がっており、両院協議会でより酪農家にとって有利な

53 米国品目横断的農業団体等へのヒアリング(2019 年 1 月実施)。 54 酪農利幅保護プログラム(DMPP)は、生乳所得損失補償契約(MILC: Milk Income Loss Contract)に代わって導

入された制度で、酪農利幅(MPP マージン:全国平均牛乳販売価格-全国平均飼料コスト)の補償水準(カバーレベ

ル)が 4 ドル/100 ポンドから 8 ドルまで 0.5 ドル刻みで設定され、生産量に乗じる保証率(カバー率)も 25%から

90%へと 5%刻みで設定されている。2 か月間の平均 MPP マージンが保証水準を下回った場合、生産者(酪農経営体:

dairy operation)は支払いを受けられる。2018 年の超党派予算法によって、2018 年より MPP マージン算出は 2 か月

平均ではなく月次に改められた。 55 400 万ポンドは約 190 頭の牛の平均生産量で、500 万ポンドは約 220 頭に相当する。Andrew M. Novakovic and Mark Stephensen, “Dairy Margin Coverage – the new margin protection plan for dairy producers,” Briefing Paper 18-2 (Dairy Markets and Policy), December 11, 2018, p.5, https://dairymarkets.org/PubPod/Pubs/BP18-02.pdf, accessed March 7, 2019.

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修正がなされたといえる。500 万ポンド以下の生産者の生産履歴は旧 2014 年農業法の 25%~90%から、5%~95%に拡大された。

500 万ポンド以下の生産者の保険料が引き下げられたのとは対照的に、500 万ポンド超(Tier 2)の生産者の保険料は補償水準 5.5 ドル以上では上がっており、全体として中小規模の生産者の利益

をより反映した修正と評価できる。 DMC の対象期間は 2019 年 1 月から 2023 年 12 月までで毎年補償水準は変更可能だが、5 年間

DMC に加入し、補償水準を固定する生産者は、生産履歴の多寡にかかわらず保険料が 25%割り引

かれる。 なお、上院案では、加入者の保険料額は引き上げられていたが、生産履歴が 200 万ポンド以下の

生産者は保険料が 50%割引、生産履歴が 200 万ポンド以上で 1,000 万ポンド以下の生産者は 25%の

保険料割引が適用されるとされていた。

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図表 39 マージン補償水準と保険料(ドル)

マージン補

償水準

旧 2014 年農業

法改正前保険料

2018 年超党派予

算法改正後保険

下院案 上院案 2018 年農業法

400 万ポンド以下 500 万ポンド以下 500 万ポンド以

下 400 万ポンド

以下 400 万ポンド

以上 500 万ポンド以

下 500 万ポンド超

4.00 ドル なし なし なし なし なし なし なし 4.50 ドル 0.010 なし 0.002 0.005 0.048 0.0025 0.0025 5.00 ドル 0.025 なし 0.005 0.01 0.096 0.005 0.005 5.50 ドル 0.040 0.009 0.008 0.02 0.144 0.030 0.100 6.00 ドル 0.055 0.016 0.010 0.04 0.24 0.050 0.310 6.50 ドル 0.090 0.040 0.017 0.07 0.42 0.070 0.650 7.00 ドル 0.217 0.063 0.041 0.10 1.08 0.080 1.107 7.50 ドル 0.300 0.087 0.057 0.12 1.32 0.090 1.413 8.00 ドル 0.475 0.142 0.090 0.14 1.68 0.100 1.813 8.50 ドル - - 0.120 0.16 - 0.105 - 9.00 ドル - - 0.170 0.18 - 0.110 - 9.50 ドル - - - - - 0.150 -

注:小数点以下は法(案)のとおり。

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4) マージン算出対象期間

旧 2014 年農業法成立当初、DMPP のマージン算出対象期間は 2 か月平均であった。2018 年超党

派予算法によりそれが 1 か月に改正され、2018 年農業法でも 1 か月となっている。

5) 飼料コストの調査

酪農業界はマージン(生乳価格―飼料コスト)に基づいて所得保障をする DMPP の仕組みそれ自

体は支持していたが、飼料コストの算出方法には不満を抱いていた。飼料コストが過小評価される

計算方法が採用されてしまい、結果、生乳価格が下がっても支払いが発動されず、セーフティネッ

トとしての有効性が損なわれている、というのがその理由である。 飼料コストの計算方法は 2018 年農業法では修正されていないが、修正されうる含みをもたした

条文が盛り込まれている。それが飼料コスト調査である。USDA は、DMC の cwt 当たりの飼料コ

ストを計算するために用いられる代表的なデータの評価と、とうもろこしサイレージととうもろこ

し飼料とのコスト比較、および生乳生産量上位 5 州のアルファルファの価格に関する月次調査を行

い、調査結果を議会の農業担当委員会に提出しなければならないとされた。調査結果によって、議

会に飼料コストについて何かしらの対応が義務付けられているわけではないが、飼料コスト計算方

法の修正を行うことが否定されるわけでもない。飼料コスト調査は、もともと下院案にのみ盛り込

まれていた項目であったが、最終的に 2018 年農業法でも導入された。 酪農業界としては飼料コスト計算法の修正のほうが他の修正よりも優先度が高かった。しかし、

計算法の修正は政府支払いの大幅増をもたらしかねず、財政規律を重視する議員等からの反発も予

想されたことから、補償水準の拡大など他の修正を優先したとのことであった56。

6) DMPP 保険料の払い戻し

暦年で 2014 年から 2017 年に DMPP に加入していた酪農家に、保険料と酪農家が政府から受け

取った支払額の差額を返金する。金額は、DMC への保険料とみなされる場合は差額の 75%、現金

の場合は差額の 50%が返金される。 DMPP に登録した酪農家は管理費として年 100 ドルと補償水準 4.5 ドル以上を選択した場合は保

険料を支払うことになっていた。しかし、DMPP の保険金支払いはほとんど発動されず酪農家は

DMPP に不満を抱いていた。この酪農家の不満が保険料払い戻しが取り入れられた背景にあるわけ

だが、ファーム・ビューローのエコノミストは払い戻しの対象となる金額は合計で 6,000 万ドルに

達すると試算している57。 当初、酪農業界はさらなる返金を求めるつもりだったとのことで58、旧 2014 年農業法施行期間中

にほとんど保険金を受給できなかったことへの不満の高さがうかがわれる。

7) DMC と酪農経営収益保険の同時加入

生産者は、DMC に参加すると同時に作物保険である酪農経営収益保険(LGM: Livestock Gross Margin of Dairy)に加入することができるようになった。LGM は生乳価格と飼料価格との差(マー

ジン)に基づき保険料が支払われる保険であり旧 2014 年農業法以前から存在し、酪農生産者が利

用してきた収入保険であった59。仕組みとしては DMPP と類似していることから旧 2014 年農業法

では DMPP との同時加入ができなかった。

56 米国酪農団体へのヒアリング(2019 年 2 月実施)。 57 American Farm Bureau Federation, “Reviewing Dairy Margin Coverage,” January 9, 2019, https://www.fb.org/market-intel/reviewing-dairy-margin-coverage, accessed March 7, 2019. 58 米国酪農団体へのヒアリング(2019 年 1 月実施)。 59 ALIC「米国の酪農マージン保護プログラム(MPP)の現状と今後の課題」『海外情報 畜産の情報』2016 年 3 月

号、http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2016/mar/wrepo01.htm#section7、2019 年 2 月 28 日アクセス。

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44

④ 作物プログラムの受給要件の変更

調整後所得(AGI)60の上限 900,000 ドルは維持された。上院案ではこれを 700,000 ドル以下にす

ると提案されていたが、最終的には 900,000 ドルが維持された。 家族農家の定義が拡大されており、いとこ、姪、甥が追加されている。したがって、農家がいと

こ等を雇えば政府からの支払いを増やすことができる道が開かれたことになる61。また、融資不足

払いとマーケティングローン利得が受給上限の 125,000 ドルから除外されている。したがって、農

家は無制限に融資不足払いとマーケティングローンゲインを受給できることになる。 下院案では、農業経営体の一類型として「有資格パススルー事業主体」(qualified pass through entity)

が新設されていた。パススルー事業主体とは、米国内国歳入法(Internal Revenue Code)で定められ

た出資者のみに課税される事業主体を指すが、具体的には、パートナーシップ、有限責任会社(LLC: Limited Liability Companies)や S 法人(S Corporation)62、ジョイント・ベンチャーが該当する。旧

2014 年農業法では AGI900,000 ドル以上の農家は融資不足払いおよびマーケティングローン利得を

受給できなかったが、下院案ではこの制限が撤廃されるとともに、パススルー事業主体もこの要件

から除外されているため、当該事業主体であれば、AGI が 900,000 ドル以上であっても作物プログ

ラムの支払を受給できることになりえた。しかし、パススルー事業主体に関する下院案は 2018 年

農業法には盛り込まれなかった。

保全プログラム

1) プログラムの概要

保全プログラムは旧 2014 年農業法施行当初の支出額見込み(2014~2018 年度)の約 6%を占め

ている63。代表的プログラムとしては、以下が挙げられる64。

60 連邦歳入庁(IRS: Internal Revenue Service)の調整後所得(AGI)とは、給与所得や利子所得などの所得

(income)の総合計から、Above the Line Deduction と呼ばれる控除群を差し引いた金額を指す。 61 Carl Zulauf, “Initial Review of the House 2018 Farm Bill,” farmdoc daily, April 26, 2018, http://farmdocdaily.illinois.edu/2018/04/initial-review-of-the-house-2018-farm-bill.html?utm_source=farmdoc+daily+and+Farm+Policy+News+Updates&utm_campaign=d2c7ae9d78-FDD_RSS_EMAIL_CAMPAIGN&utm_medium=email&utm_term=0_2caf2f9764-d2c7ae9d78-175253313, accessed September 19, 2018. 62 S 法人になると、パススルー課税が適用され、事業体自体では課税されず、配当の有無にかかわらず、株主レベルで

課税される。ジェトロ『米国における事業進出マニュアル―米国連邦・州税制(法人・個人)―』2014 年、7 頁、

https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001726/report_us_tax_201403.pdf、2018 年 6 月 1 日アクセス。 63 USDA ERS, “ Projected Spending Under the 2014 Farm Bill,” January 16, 2018, https://www.ers.usda.gov/topics/farm-economy/farm-commodity-policy/projected-spending-under-the-2014-farm-bill/, accessed May 11, 2018. 64 USDA ERS, “Conservation,” April 18, 2017, https://www.ers.usda.gov/agricultural-act-of-2014-highlights-and-implications/conservation, accessed October 10, 2017. にて主要プログラム(major programs)として紹介されている

プログラムを抽出。

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図表 40 保全プログラム例 プログラム名 内容

土壌保全計画 (CRP:Conservation Reserve Program)

プログラムに参加する農業生産者は 10-15 年間、土壌

侵食されやすい土地を休耕し、土壌品質向上に資する

植物を植えて被覆する。その間、土地の商業的な利用

はできない代わりに地代相当額の支払を受ける65。 環境改善奨励プログラム (EQIP: Environmental Quality Incentives Program)

耕作地(working farm)における土壌、水、大気など

の自然資源の保全活動を農業生産者が実施する際、金

銭的費用を部分的に支援する66

保全励行計画 ( CSP: Conservation Stewardship Program)

耕作地を対象としたプログラムで、農業生産者が既存

の保全活動の強化や新たな活動を実施する際の金銭的

費用を支援する。保全成果が高いほど多くの支払いを

受けることができる67。

農業保全地役プログラム ( ACEP: Agricultural Conservation Easement Program)

大きく農地保全地役プログラムと湿地保全地役プログ

ラムに分けられる。前者は農地(牧草地を含む)を開

発や非農地への転用から保護するために、州・地方政

府等の保全地役権68買い取りを金銭的に支援する。後

者は水源保全や野生動物保護の観点から重要な湿地の

保護・回復を目的として、土地所有者による保全地役

権買い取りを金銭的に支援する69

地域保全パートナープログラム ( RCPP: Regional Conservation Partnership Program)

特定地域における地質・水源・野生動物居住区域の保

全・改善を目的とした地域主体の取り組みの中から、

選抜されたプロジェクトを金銭面で支援する70。 出所:USDA ERS, “Conservation”, April 18, 2017, https://www.ers.usda.gov/agricultural-act-of-2014-highlights-and-implications/conservation, accessed October 10, 2017. 主要プログラム(major programs)として紹介されているプログラムを紹介している。

65 USDA, Farm Service Agency (FSA), “Conservation Reserve Program,” http://www.fsa.usda.gov/programs-and-services/conservation-programs/conservation-reserve-program/, accessed May 14, 2018. 土壌保全留保計画という名

称が示すとおり、土壌(土地)を保全対象としたプログラムであるが、水質改善や生物多様性への配慮といったより広

い範囲の環境上のメリットも対象とされている。 66 USDA, Natural Resources Conservation Service (NRCS), “Environmental Quality Incentives Program,” https://www.nrcs.usda.gov/wps/portal/nrcs/main/national/programs/financial/eqip/#/, accessed May 14, 2018. 67 USDA, Natural Resources Conservation Service (NRCS), “Conservation Stewardship Program,” http://www.nrcs.usda.gov/wps/portal/nrcs/main/national/programs/financial/csp/, accessed May 14, 2018; USDA, Natural Resources Conservation Service (NRCS), “Financial Assistance,” https://www.nrcs.usda.gov/wps/portal/nrcs/main/national/programs/financial/, accessed May 14, 2018. 68 大沼によると、「保全地役権とは、保全すべき価値を守るために、不動産の開発、将来の使用を規制する法的拘束力

のある合意である。(中略)保全地役権は、土地所有者と地役権者との契約により設定され、土地所有権の承継人をも

拘束する。」(大沼友紀恵「文化財の保護のための事業執行型公益信託について」『信託研究奨励金論集』第 34 号、

2013 年 11 月、85 頁。) 69 United States Senate Committee on Agriculture, Nutrition and Forestry, “Agricultural Act of 2014”, https://www.agriculture.senate.gov/imo/media/doc/2014%20Farm%20Bill%20Title%20by%20Title%20Summary.pdf, accessed May 14 2018; USDA ERS, “Conservation,” April 18, 2017, https://www.ers.usda.gov/agricultural-act-of-2014-highlights-and-implications/conservation, accessed May 14, 2018; USDA NRCS, “ Agricultural Conservation Easement Program,” https://www.nrcs.usda.gov/wps/portal/nrcs/main/national/programs/easements/acep, accessed May 14, 2018. 70 United States Senate Committee on Agriculture, Nutrition and Forestry, “Agricultural Act of 2014,” https://www.agriculture.senate.gov/imo/media/doc/2014%20Farm%20Bill%20Title%20by%20Title%20Summary.pdf, accessed May 14 2018; USDA ERS, “Conservation,” April 18, 2017, https://www.ers.usda.gov/agricultural-act-of-2014-highlights-and-implications/conservation, accessed May 14, 2018.

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2) 旧 2014 年農業法からの変更点

CRP の対象面積上限が 2023 年度までに 2,700 万エーカーまで拡大する(2018 年度の上限は 2,400万エーカー)。また、プログラムからの支払額は推定される地代の 88.5%とする上限が設けられる。

CRP については、上院案、下院案とも対象面積拡大と支払額上限設定を提案していた。なお、プロ

グラムに再登録される土地では、野生生物保全と水質改善のための再登録を優先する(野生動物保

全に 30%を、水質改善に 40%を優先的に充てる)。 CSP は EQIP との統合が進められ、2025 年に全ての契約が失効した後、現行の CSP の支出はゼ

ロとなる。EQIP では、プログラムの半分を家畜関連に、10%を野生動物保護関連に充てる。 ACEP、RCPP については、上院案、下院案とも増額を提案しており、2018 年農業法でも増額と

なっている。 下院案では、CSP の廃止(EQIP に後継プログラムを作ることで統合)及び CRP の対象面積上限

の増加を提案していた71。 EQIP と CSP はいずれも耕作地を対象とした保全プログラムであるが、EQIP は土壌、水、大気な

どの自然資源を保全するための特定の活動の導入に要した費用を負担し、環境基準を満たすことを

支援する一方、CSP は包括的手法により優先度の高い自然資源の保全・改善を促すものであり、高

度な管理による大きな環境上のメリットに対して支払いが大きくなる仕組みとなっている72。 CSP の対象面積は、支援対象となる要件を満たす土地面積の割合に応じて州ごとに割り当てられ

ているのに対し、EQIP は州への割当に関する法的規則は存在しない。但し、旧 2014 年農業法では

EQIP の支援金額の 60%は畜産業を対象とすることとなっている。こうした事情から、CSP の廃止

(EQIP への統合)は、環境プログラムの対象州ごとの支出額を変更すると想定され、EQIP、CSPからの支出額が増額となるのはカリフォルニア州やノースカロライナ州、減額となるのはミネソタ

州やノースダコタ州などであるとの試算もある73。 なお持続可能な農業を促進するための生産者によるアドボカシー団体である NSAC(National

Sustainable Agriculture Coalition)は、EQIP 統合後に利用可能とされる新たな契約(stewardship contracts)は、農家の生産活動全体を考慮に入れた包括的な保全アプローチを用いる CSP の中核的特徴が失

われていると指摘している74。 CRP は 2017 年度、2018 年度の対象面積上限を 2,400 万エーカーをとしているが75、下院はこれを

2023 年度までに毎年 100 万エーカーずつ拡大し、2023 年度には 2,900 万エーカーを上限としてい

た76。一方で、プログラムに登録・再登録する際の支払額に制限を設ける。CRP に初めて登録する

71 Carl Zulauf, “Initial Review of the House 2018 Farm Bill,” farmdoc daily, April 26, 2018, http://farmdocdaily.illinois.edu/2018/04/initial-review-of-the-house-2018-farm-bill.html?utm_source=farmdoc+daily+and+Farm+Policy+News+Updates&utm_campaign=d2c7ae9d78-FDD_RSS_EMAIL_CAMPAIGN&utm_medium=email&utm_term=0_2caf2f9764-d2c7ae9d78-175253313, accessed May 14, 2018. 72 Jonathan Coppess, “ Dead Zones & Drinking Water, Part 5: Farm Bill Conservation Policy,” farmdoc daily, April 7, 2016, https://farmdocdaily.illinois.edu/2016/04/dead-zones-drinking-water-part5.html, accessed May 14, 2018; United States Senate Committee On Agriculture, Nutrition, & Forestry, “ Testimony of Dave White, Chief Natural Resources Conservation Service, USDA Before the United States Senate Committee on Agriculture Nutrition, and Forestry,” February 20, 2012, https://www.agriculture.senate.gov/imo/media/doc/Testimony_White1.pdf, accessed July 12, 2018. 73 Coppess, J. and B. Gramig . "Reviewing Directions in Conservation Policy: CSP and EQIP in the House Farm Bill," farmdoc daily, June 7, 2018, https://farmdocdaily.illinois.edu/2018/06/reviewing-directions-in-conservation-policy-html.html, accessed July 12, 2018. 74 National Sustainable Agriculture Coalition, “Get the Facts – H.R. 2 Eliminates Nation’s Largest Conservation Program,” April 2018, http://sustainableagriculture.net/wp-content/uploads/2018/04/csp-fact-sheet-FINAL.pdf, accessed July 12, 2018. 75 USDA FSA, “ USDA Processing Pending Conservation Reserve Program Continuous Enrollment Offers,”

October6, 2017, https://www.fsa.usda.gov/news-room/news-releases/2017/nr_20171006_rel_0133, accessed May 14, 2018; Congressional Research Service, “Agricultural Conservation: A Guide to Programs”, April 17, 2018, p9, https://fas.org/sgp/crs/misc/R40763.pdf, accessed May 24, 2018.

76 House Agriculture Committee, “Farm Bill: Short Summary,” April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_short_summary.pdf, accessed May 14,

Page 36: 2. 2018 年農業法の成立過程と旧 2014 年農業法からの ......2010 年、 7-8、46-47 頁;松橋和夫「アメリカ連邦議会上 院における立法手続」『レファレンス』平成16

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土地の場合はカウンティの年間平均地代の 80%を上限とし、再登録の場合はカウンティ年間平均地

代の 65%としていた(以降、3 回目の登録の上限は 55%、4 回目は 45%、5 回目は 35%)77。 上院案は、CRP の年間登録面積拡大及び CSP の強化(天候不順に対する適合の支援の追加など)

を提案していた。CRPは 2017 年度、2018年度の登録面積上限を 2,400 万エーカーをとしているが 、これを 2,500 万エーカーに引き上げる。面積あたりの支払額をカウンティ平均地代の 88.5%にする

ことで、プログラムとしての支出額は現状どおりとなる。CSP は、登録面積上限を現行農業法の

1,000 万エーカーから約 880 万エーカーに縮小するが、1 エーカーあたりの支払額平均は 18 ドルの

まま据え置く。対象となる活動には、土壌中有機物の増加計画や天候不順への適合、包括的な保全

計画を新に含むとしている。EQIP、ACEP、RCPP は細かな修正を加え継続するとしていた。

栄養プログラム

1) プログラムの概要

栄養プログラムは旧 2014 年農業法の施行当初の支出額見込み(2014~2018 年度)の約 8 割を占

めており、その大部分が補足的栄養支援計画(SNAP: Supplemental Nutrition Assistance Program)に

関する支出である78。SNAP は低所得世帯に対し、認可を受けた小売店で食料品の購入に使える給

付金を支給するプログラムであり、米国のセーフティネットにおける主要な制度である。SNAP の

給付は、Electronic Benefit Transfer (EBT)と呼ばれるシステムにより、受給者が食料品購入に際し給

付金を連邦政府の口座から小売店口座へと振り替えるという形で提供される。米国の豊富な食料を

使った低所得者の栄養状態の改善と国民の福利向上を目的として、1964 年に開始されたフードス

タンププログラムを前身としている。他の福祉プログラムに比べ受給要件が緩やかであるため、他

のプログラムでは受給対象外となる人々も SNAP は受給可能となりうるという特徴を有している79。

2) 現行農業法における SNAP 給付金の受給要件

SNAP 給付金を受給するには金銭的条件に適合した上で、就労要件を満たさなければならない。

a) 金銭的条件

世帯が SNAP の受給資格を得るには大きく二つの手法がある。一つは連邦が定める SNAP プログ

ラムの受給条件を満たす手法、もう一つは SNAP 以外の低所得者向け支援プログラムからの受給を

もってして自動的に SNAP の受給資格が認められる手法である。 前者の手法による場合、粗収入・純収入・資産の面で下記の条件を満たさなければならない80。 粗収入…世帯の月粗収入が連邦貧困水準の 130%以下であること 純収入…世帯の月純収入が連邦貧困水準の 100%以下であること 資産…世帯の資産が 2,250 ドル以下であること(高齢者・障害者のいる家庭は 3,250 ドル。

資産には家屋・車両・退職貯蓄などは含まない) 2018. 77 Carl Zulauf, “Initial Review of the House 2018 Farm Bill,” farmdoc daily, April 26, 2018, http://farmdocdaily.illinois.edu/2018/04/initial-review-of-the-house-2018-farm-bill.html?utm_source=farmdoc+daily+and+Farm+Policy+News+Updates&utm_campaign=d2c7ae9d78-FDD_RSS_EMAIL_CAMPAIGN&utm_medium=email&utm_term=0_2caf2f9764-d2c7ae9d78-175253313, accessed May 14, 2018. 78 Congressional Research Service, “What Is the Farm Bill?,” February 8, 2017, p9, https://fas.org/sgp/crs/misc/RS22131.pdf, accessed May 11, 2018; USDA ERS, “ Projected Spending Under the 2014 Farm Bill”, January 16, 2018, https://www.ers.usda.gov/topics/farm-economy/farm-commodity-policy/projected-spending-under-the-2014-farm-bill/, accessed May 11, 2018. 79 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング『平成 29 年度海外農業・貿易投資環境調査分析委託事業(米国の農業政策・

制度の動向分析)』2017 年 3 月、47-48 頁。 80 K. Michael Conaway, “Past, Present, & Future of SNAP”, December 7, 2016, pp.24-25, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/snap_report_2016.pdf, accessed May 14, 2018.

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後者による受給資格は、他のプログラムへの参加により自動的に SNAP 受給資格が得られること

から「自動的受給資格」81 と呼称されている。この資格については、各州政府が厳格さの異なる以

下の認定範囲を選ぶことができる82。 伝統的な自動的受給資格の認定

貧困家庭一時扶助(TANF)や補足的保障所得(SSI)や州・自治体が行う一般扶助(GA: general assistance)から世帯員全員が現金を受給している場合、世帯員全員の SNAP 受給資格を認め

るもの。TANF、SSI、GA の収入・資産に関する受給条件は概ね SNAP よりも厳しくなって

いる(それぞれの福祉プログラム概要は下表のとおり)。 限定的な自動的受給資格の認定

現金受給に加え、TANF からの特定の非現金サービスの受給(保育サービスやカウンセリ

ングなど)によっても資格を認めるもの。伝統的自動的受給資格よりも基準が緩く、より多

くの世帯が対象となる。 広範な自動的受給資格の認定

現金受給に加え、TANF からの非現金サービス受給、もしくは州の MOE(Maintenance of Effort:継続努力)支出による給付の受給をもって資格を認めるもの。TANF の非現金サービ

スは所得が比較的高い世帯にも利用可能であるため、最も広く SNAP の資格を認めるもので

ある。

81 英語では”categorical eligibility”である。categorical は「定言的な」などと訳されるが、以下に示す文献で

categorical eligibility は他のプログラムからの受給により「自動的に(automatically)」受給資格が得られるとの説明

があり、これを参考に自動的受給資格とした。(Congressional Research Service, “ The Supplemental Nutrition Assistance Program (SNAP): Categorical Eligibility,” January 4, 2019, https://fas.org/sgp/crs/misc/R42054.pdf, accessed March 1, 2019.) 82 K. Michael Conaway, “Past, Present, & Future of SNAP”, December 7, 2016, pp.24-25, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/snap_report_2016.pdf, accessed May 14, 2018; Congressional Research Service, “ SNAP and Related Nutrition Provisions of the 2014 Farm Bill (P.L. 113-79)”, April 24, 2014, http://docs.wixstatic.com/ugd/89d621_c7c306f13a2a4c2dbfe9b7bd94d09f89.pdf, accessed May 14, 2018.

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図表 41 米国福祉プログラム例 補足的栄養支援計画(SNAP: Supplemental Nutrition Assistance Program)

フードスタンプを前身とする福祉プログラム。食料補助を目的とするプログラムは他にも存在

するが、SNAP が最大規模。2008 年以降の不況に対応して、大幅にプログラム規模が拡大され

ており、失業者の貧困対策という側面ももつ。連邦政府(USDA)が給付金を 100%負担し、州政

府がプログラムの実施・管理を行っている(管理費の 50%近くを USDA が負担)。1 か月の受給

額は一人あたり約 125 ドルであり、毎食あたりでは約 1.4 ドルとなる(3 食×30 日間を想定)。 補足的保障所得(SSI: Supplemental Security Income)

低所得者・無所得者に対する連邦の現金給付制度。65 歳以上の高齢者又は障害者のうち資産

及び所得に関する受給資格要件を満たす者が対象となる。連邦が定めた最大 SSI 給付額(月)は、

個人に月額 733 ドル、夫婦二人が対象の場合は 1,100 ドルである(2015 年)。多くの州では、こ

の連邦が保障する所得に州独自の上乗せ支給を行っている。 貧困家庭一時扶助(TANF: Temporary Assistance of Needy Families)

1996 年の福祉改革法によって創設された(前身は「要扶養児童家庭扶助」)。受給者は、受給を

開始してから 2 年以内に就業機会を獲得する、あるいは州の定めた基準に沿って職業訓練と求職

活動に参加することが義務づけられている。これらの条件を満たさない場合、または拒否したと

みなされる場合には、給付が減額・停止される場合がある。 一般扶助(GA: general assistance)

州や自治体が運営する福祉プログラム。非常に困窮しているが TANF や SSI 等他の公的扶助の

対象とならない人々にとっての最後の手段となる。30 の州で運用されている。非常に困窮してお

り、未成年の子がおらず、SSI の対象となるには障害が軽く、さらに高齢でもない人々を対象と

している。 継続努力(MoE: Maintenance of Efforts)

連邦政府が TANF 補助金を交付する条件として、州政府に対し一定額の支出を義務付けている

もので、貧しい家庭に対する現金給付またサービスに充てられる資金。TANF の現金給付に充て

ることも可能だが、それ以外の使途でも構わない。 出所:労働政策研究・研修機構「米国の失業保険制度」 2016 年 5 月 31 日、 36-39 頁、

http://www.jil.go.jp/foreign/report/2016/pdf/0601_06.pdf、2017年 6月 8日アクセス; K. Michael Conaway, “Past, Present, & Future of SNAP”, December 7, 2016, pp.59-64, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/snap_report_2016.pdf, accessed June 10, 2017; 藤原千沙、

江沢あや「アメリカ福祉改革再考-ワークフェアを支える仕組みを日本への示唆-」『季刊社会保障研

究』第 42 巻第 4 号、2007 年 3 月; USDA FNS, “Latest Available Month October 2018, State Level Participation & Benefits”, February 2019, https://www.fns.usda.gov/pd/supplemental-nutrition-assistance-program-snap, accessed February 11, 2019.

b) 就労要件

就労に関する主要な要件は二つあり、一つは 1971 年に設定された一般就労要件(general work requirements)であり、もう一つは 1996 年に追加された「扶養者のいない健常成人(ABAWD: Able Bodied Adult Without Dependents)」が働いてない場合の受給期間制限である。一般的就労要件は下記

のとおりである。これらの要件は 16 歳以下や 59 歳以上、身体的・精神的に就労に適さないといっ

た様々な理由により免除され、SNAP 受給者の多くがいずれかの条件で一般就労要件免除となって

いる。 就労希望の登録をする(register for work) 就労機会の紹介があれば働く 妥当な理由なく自発的に離職しない / 就労時間を週 30 時間未満にしない 働いておらず扶養者のいない健常成人に対する受給期間の制限は、18 歳から 49 歳の成人であり、

身体的・精神的に就労に適さない事由がなく、未成年の子供を扶養していない場合、かつ過去 36 か

月において SNAP を 3 か月受給した場合は、受給資格を持たないというものである(つまり、働い

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ておらず扶養者のいない健常成人の SNAP 受給は 3 年間で 3 か月に限られる)。36 か月以内に 3 か

月の SNAP 受給を受けた場合であっても、週 20 時間以上就労するなどの要件を満たせば受給資格

を得ることができる。 1996 年連邦福祉改革は、失業率が高く雇用機会が十分でない状況では、州が農務省に対しこの受

給期間制限の一時的適用免除(多くは 12 か月の間)を要請できるようにした83。2008 年の経済危機

の後は多くの州が免除を受けていたが、その州の数は下表のとおり次第に減りつつある。

図表 42 ABAWD に対する受給期間制限の一時免除資格のある州・地域 期間 州・地域数 備考

2009 年 4 月~2010 年 9 月 2009 年米国復興・再投資法により期間制限の適用を停止 2011 年度 49 2012 年度 46 2013 年度 46 2014 年度 44 州全域で免除…34、一部地域で免除…10 2015 年度 44 州全域で免除…31、一部地域で免除…13 2016 年度 第 1 四半期 44 州全域で免除…32、一部地域で免除…12 2016 年度 第 2 四半期 39 州全域で免除…11、一部地域で免除…28 2016 年度 第 3 四半期 38 州全域で免除…11、一部地域で免除…27

2016 年度 第 4 四半期 ~2017 年度 第 1 四半期 37 州全域で免除…11、一部地域で免除…26

2017 年度 第 2 ~第 4 四半期 36 州全域で免除…10、一部地域で免除…26 2018 年度第 1 四半期 36 州全域で免除…9、一部地域で免除…27

2018 年度第 2~第 3 四半期 36 州全域で免除…8、一部地域で免除…28 2018 年度第 4 四半期 36 州全域で免除…7、一部地域で免除…29

出所:USDA FNS, "Supplemental Nutrition Assistance Program Able-Bodied Adults Without Dependents” , July 3, 2017, https://www.fns.usda.gov/snap/able-bodied-adults-without-dependents-abawds, accessed June 28, 2018 に基づき作成。州・地域の母数は 50 州に加えワシントン DC や海外領土を含んでいる。

3) 旧 2014 年農業法からの変更点

SNAP については、下院案が受給にあたっての就労関連要件追加や受給資格制限を提案していた

一方、上院は福祉プログラムとしてそれらの変更は適切でないとして反対をしていた。SNAP に関

するこうした上院・下院の相違が両院協議会の大きな争点の一つとされたが、結果としては受給要

件・資格に関する大きな変更は行われず、SNAP は概ね旧 2014 年農業法を維持することとなった。

就労トレーニングへの予算増加や、収入のない高齢者世帯・障害者世帯に対して最長 36 か月の受

給資格認定を可能とする(旧 2014 年農業法では 12 か月まで)といった変更が加えられる。 下院案が SNAP に関して提案していた主要な変更点は三項目に集約できる。一つ目は、新たな就

労要件の設定である。旧 2014 年農業法では一般就労要件に加え、扶養者のいない健常成人が未就

労の場合の受給期間制限が存在している。下院案ではこれらをまとめ、18 歳から 59 歳の成人に対

し週 20時間の就労もしくは就労トレーニング参加を課すとしている。免除となる場合の例として、

高齢者、障害者、6 歳未満の子どもの保護者、妊婦が挙げられている。下院農業委員会は、就労も

しくは無料の就労トレーニングへの参加により、現在の SNAP 給付が失われることはないとしてい

83 K. Michael Conaway, “Past, Present, & Future of SNAP”, December 7, 2016, pp.24-25, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/snap_report_2016.pdf, accessed June 10, 2017

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51

る84。 二つ目は、毎年 10 億ドルの連邦政府支出による、州が実施する教育・就労トレーニングプログ

ラムの強化である。現在の教育・就労トレーニングに関する連邦政府の一人あたり支出規模が約 3倍となる。州は就労要件を負う SNAP 受給者全員にプログラムを提供する義務を負い、これを果た

さない場合、州は警告や連邦政府による管理費負担の停止措置を受けるとしている。州がプログラ

ム提供の拡充に対応するため、2 年間の移行期間が想定されている85。 三つ目は「広範な自動的受給資格の認定」の制限である。「広範な自動的受給資格」が取得できる

世帯を、月粗収入が連邦貧困水準の 130%以下であり、且つ TANF からの現金受給(もしくは継続

中の実質的サービス受給)がある場合に限る。現在は TANF からの非現金サービス受給であっても

「広範な自動的受給資格」が認められる。また世帯の月粗収入の基準は、連邦貧困水準の 200%以

下となっている。下院農業委員会は、この措置により真に必要としている人々への支援を増すこと

ができるとしている86。 上院案は、SNAP を大きな変更なく継続することを提案していた。就労要件については、連邦予

算で州が実施する就労トレーニングとして認められる活動内容が拡充され、収監中や薬物乱用回復

プログラムへ参加中の 50 歳以上の者を対象とした新たな就労トレーニングのパイロット事業を行

う。その他は細かな修正に留まっており、SNAP 受給者・受給額の減少につながるような変更は行

われていない。一方で、受給世帯の成人構成員が全員 60 歳以上か障害者である場合、24 か月間の

受給資格認定を可能という変更が含まれている。旧 2014 年農業法では、SNAP の受給資格認定期間

は 12 か月である。 その他、複数州からの SNAP 受給防止による支出削減や行政機能が優れていた州への報奨減額、

旧 2014 年農業法にも含まれている野菜・果物の購入を促すためのプログラム(食料不安栄養イン

センティブプログラム)の変更などが盛り込まれている。

2.6. 2018 年農業法と旧 2014 年農業法の政府支出増減比較 両院協議会案を受けて、2018 年 12 月 11 日に CBO は 2018 年 4 月ベースラインをもとに旧 2014

年農業法比の政府支出増減推計を公表した。また、CBO は下院案と上院案が可決された後の 7 月

24 日にベースライン修正版を公表していた。これらの推計をもとに旧 2014 年農業法と 2018 年農

業法の支出増減比較を行う。

84 House Agriculture Committee, “Farm Bill: Short Summary”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_short_summary.pdf, accessed May 11, 2018; House Agriculture Committee, “SNAP Overview”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_snap.pdf, accessed May 11, 2018. 85 House Agriculture Committee, “SNAP Overview”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_snap.pdf, accessed May 11, 2018; House Agriculture Committee, “Agriculture and Nutrition Act of 2018 Q&A”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_q_and_a.pdf, accessed May 11, 2018. 86 House Agriculture Committee, “SNAP Overview”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_snap.pdf, accessed May 11, 2018.

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図表 43 旧 2014 年農業法比支出増減予測(プログラム別、100 万ドル) プログラム

2019-2023

2019-2028

全体

2018 年農業法 1,820 70 下院案 2,344 -1,320 上院案 1,573 68

作物プログラム

2018 年農業法 101 263 下院案 198 284 上院案 -23 -408

保全プログラム

2018 年農業法 555 -6 下院案 656 -795 上院案 290 0

貿易プログラム

2018 年農業法 235 470 下院案 235 470 上院案 258 515

栄養プログラム

2018 年農業法 98 0 下院案 862 -1,426 上院案 224 94

信用プログラム

2018 年農業法 0 0 下院案 0 0 上院案 0 0

農村振興プログラム

2018 年農業法 -530 -2,530 下院案 -267 -517 上院案 -832 -2,340

研究・改良普及プログラム

2018 年農業法 365 615 下院案 168 250 上院案 426 685

森林プログラム

2018 年農業法 0 0 下院案 0 0 上院案 5 5

エネルギープログラム

2018 年農業法 109 125 下院案 - - 上院案 311 375

園芸プログラム

2018 年農業法 250 500 下院案 10 10 上院案 323 626

作物保険

2018 年農業法 -47 -104 下院案 -70 -161 上院案 -1 -2

その他

2018 年農業法 685 738 下院案 553 566 上院案 594 517

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, Direct Spending and Revenue Effects of the Conference Agreement for H.R. 2, the Agriculture Improvement Act of 2018, December 11, 2018, https://www.cbo.gov/system/files/2018-12/hr2conf_0.pdf, accessed February 15, 2019; CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018.

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図表 44 旧 2014 年農業法比支出増減予測(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, Direct Spending and Revenue Effects of the Conference Agreement for H.R. 2, the Agriculture Improvement Act of 2018, December 11, 2018, https://www.cbo.gov/system/files/2018-12/hr2conf_0.pdf, accessed February 15, 2019; CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018.

作物プログラム

① 下院案

タイトル 1 の作物プログラムのうち、下院案の支出額の変更のほとんどは PLC の支出増とカウ

ンティ ARC の支出減、および農場 ARC 廃止による支出減によるものである。PLC の支出額は、

2019 年から 2023 年にかけて 2 億 3,500 万ドル、2019 年から 2028 年にかけて 4 億 800 万ドル増え

る。対照的に、カウンティ ARC はそれぞれ 3,700 万ドルと 1 億 1,100 万ドルの支出減、農場 ARC廃止によってそれぞれ 5,100 万ドルと 1 億 4,300 万ドルの支出減になると推計されている。酪農プ

ログラム等を含めた作物プログラム全体で見ると、2019 年から 2023 年はベースラインよりも 1 億

9,800 万ドル、2019 年から 2028 年までは 2 億 8,400 万ドルの増加になると予測されている。 下院案では、融資不足払いとマーケティングローン利得が 125,000 ドルの支払い上限から除外さ

れている。したがって、農家は無制限に融資不足払いとマーケティングローン利得を受給できるこ

とになるが、CBO はマーケティングローンの支出額を変更しておらず、この変更が実際に支出増を

もたらすとは想定されていない87。

87 CBO, ”Cost Estimate: H.R.2 Agriculture and Nutrition Act of 2018,” May 2, 2018, p.12, https://www.cbo.gov/publication/53819, accessed June 1, 2018.

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図表 45 作物プログラムの対ベースライン増減(下院案、100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018.

② 上院案

上院案は、2019 年から 2023 年は対ベースライン比で 2,300 万ドル減、2019 年から 2028 年は 4 億

800 万ドル減と推計されている。ARC と酪農リスク補償は対ベースライン比で増額が予想されてい

るが、AGI の制限を厳しくすることで 2019 年から 2023 年で 1 億 700 万ドル、2019 年から 2028 年

で 2 億 6,300 万ドルの支出減になるとされる。

図表 46 作物プログラムの対ベースライン増減(上院案、100 万ドル)

198235

-37 -51 -41

035 20

284

408

-111-143

-20

062 40

-200

-100

0

100

200

300

400

500

FY2019-2023 FY2019-2028

-23

61 596

-107

-408

172

97

11

-263

-500

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

作物プログラム計 ARC 酪農リスク補償 災害支援 AGI制限

FY2019-2023 FY2019-2028

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出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018.

③ 2018 年農業法

2018 年 4 月版ベースラインと 2018 年農業法との政府支出の差額の予測を見ると、2018 年農業法

対象期間の 2019 年から 2023 年では 1 億 100 万ドルの支出増になるとされる。支出増予測とはいえ

増加額は小さく、基本的に旧 2014 年農業法と支出額に差はないといえる。プログラム支払額では、

融資単価が引き上げられたマーケティングローンが 5 年間で旧 2014 年農業法比 8,100 万ドルの支

出増となる。 PLC と ARC の再選択に伴って 5 年間で 2,500 万ドルの支出増になるとされるが、再選択制度に

よる政府支出へのインパクトはほとんどないといえる。2018 年 12 月予測では生産者がどう再選択

をするか CBO の前提は明らかとなっていないが、2019 年 1 月 28 日に公表されたベースラインで

は、2018 年 4 月ベースラインから PLC と ARC の基準面積の配分が変更されていないことから、

2018 年 4 月ベースラインから前提は修正されていないものと想定される。補償水準補償水準が

DMPP から引き上げられた DMC であるが、支払額は旧 2014 年農業法比で減少すると予測されて

いる。

図表 47 作物プログラムの対ベースライン増減(2018 年農業法、100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, Direct Spending and Revenue Effects of the Conference Agreement for H.R. 2, the Agriculture Improvement Act of 2018, December 11, 2018, https://www.cbo.gov/system/files/2018-12/hr2conf_0.pdf, accessed February 15, 2019.

2019 年 1 月版ベースラインで、CBO は基準面積のうち約 85%で PLC が選択されると想定してい

る。旧 2014 年農業法では 9 割以上がカウンティ ARC を選択していたから、ほぼ真逆になる。昨年

度および今年度事業の米国でのヒアリングでもほぼ同様の予測であり、また、この予測値は 2018 年

4 月に公表されたベースラインから変更されておらず、ほとんどの生産者が PLC を選択することに

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ついては確実視されているといえる。 ただし、前述のとおり 2018 年農業法では PLC と ARC が再選択可能となった。農産物価格は当

面大幅な値上がりが見込まれていないことから、この選択状況に大きな変更は生じない可能性は高

い。しかし、生産者はより支払いを得られると予想するプログラムを選択するであろうから、基準

面積の多くで再選択がなされると政府支出が大きく上振れることが否定できず、PLC と ARC の支

出が当初想定よりも増加すると、次の農業法でプログラムの修正や支出削減の対象となる可能性も

ある。

図表 48 CBO ベースラインにおける PLC/ARC 基準面積の内訳(%) ベースライン プログラム 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029

2018 年 4 月

ベースライン PLC 6.6 6.6 6.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 -

カウンティ ARC 93.1 93.1 93.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 -

農場 ARC 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 -

2019 年 1 月

ベースライン PLC - 6.6 6.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6 84.6

カウンティ ARC - 93.1 93.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1 15.1

農場 ARC - 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3

出所:CBO ベースラインより MURC 作成。CBO, “USDA’s Mandatory Farm Programs – CBO’s April 2018 Baseline,” https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51317-2018-04-usda.pdf, accessed June 1, 2018; CBO, “USDA’s Mandatory Farm Programs—CBO’s January 2019 Baseline,” https://www.cbo.gov/system/files?file=2019-01/51317-2019-01-usda.pdf, accessed February 18, 2019.

保全プログラム

① 下院案

CBO は下院案による予算上の影響を試算しており、CSP が統合される EQIP は 2019 年度からの

新たな農業法(2018 年農業法)が対象とする 2023 年度までの 5 年間で約 20 億ドル(2028 年度ま

での 10 年間では約 77 億ドル)の経費増加を見込んでいる。一方、CSP の EQIP への統合による影

響は 5 年間で 37 億ドル(10 年間では 126 億ドル)の経費減少と予測している88。下院農業委員会

は、既存の CSP プログラムは契約期間終了まで次期農業法の影響を受けず継続可能としており、既

存契約終了後は、EQIP プログラム内で新たな保全活動に対する 5~10 年間の支払の契約

(stewardship program)が利用可能としている89。 CRP の変更の影響について CBO は、2019 年度から 2023 年度までの 5 年間で約 3 億ドルの経費

増加(2028 年までの 10 年間では約 2,000 万ドルの経費減少)と推計している90。 ACEP、RCPP は維持される91。保全タイトル全体では 2019 年度からの 5 年間で 7 億ドルの経費

増加、10 年間では 8 億ドルの経費減少と見込まれている92。 これらのプログラムごとの対ベースライン増減をまとめたのが下表である。増減額が大きいのは

EQIP の増額(CSP の統合)であるが、保全タイトル全体への影響は相殺されている。現行農業法

の保全タイトルは、2014~2018 年度の 5 年間における支出額が約 280 億ドルと 2014 年 2 月時点で

88 Congressional Budget Office, “H.R. 2, Agriculture and Nutrition Act of 2018”, April 13, 2018, https://www.cbo.gov/system/files/115th-congress-2017-2018/costestimate/hr2.pdf, accessed May 14, 2018. 89 House Agriculture Committee, “Farm Bill: Question & Answers”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_q_and_a.pdf, accessed May 14, 2018. 90 Congressional Budget Office, “H.R. 2, Agriculture and Nutrition Act of 2018”, April 13, 2018, https://www.cbo.gov/system/files/115th-congress-2017-2018/costestimate/hr2.pdf, accessed May 14, 2018. 91 House Agriculture Committee, “Farm Bill: Short Summary”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_short_summary.pdf, accessed May 14, 2018. 92 Congressional Budget Office, “H.R. 2, Agriculture and Nutrition Act of 2018”, April 13, 2018, https://www.cbo.gov/system/files/115th-congress-2017-2018/costestimate/hr2.pdf, accessed May 14, 2018.

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見込まれていたことを考慮すると、保全プログラム全体としての規模は概ね維持されているといえ

る。

図表 49 保全タイトルの各プログラムの対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018.

② 上院案

対ベースラインでの増減では、2019 年度から 2023 年度の 5 年間では保全プログラム全体で 2 億

9,000 万ドルの増加となっているが、2029 年度までの 10 年間では増減なしとなっている。

図表 50 保全タイトルの各プログラムの対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018.

656 326 2,092

979 558

-3,653

354

-795 -23

7,693

2,221 1,308

-12,618

624

-15,000

-10,000

-5,000

0

5,000

10,000

保全計 CRP EQIP ACEP RCPP CSP その他

FY2019-2023 FY2019-2028

290 142

-229-626

629374

0 0

-1,000

-1,481

1,607

874

-2,000

-1,500

-1,000

-500

0

500

1,000

1,500

2,000

保全計 CRP CSP EQIP ACEP RCPP

FY2019-2023 FY2019-2028

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③ 2018 年農業法

プログラム対象面積に基づく管理を行う CSP は、現行の 5 年契約が終了する 2025 年以降支出が

ゼロとなり(2019 年に契約を終えるものは移行措置として 1 年間の延長を認める)、年度ごとの支

出額に基づく管理を行う EQIP に統合される。2018 年農業法の対象となる 2023 年度までの増減を

見ると、CSP の漸減による対ベースライン減額が約 37 億ドル、一方で EQIP の対ベースライン増額

は 27 億ドルである。このほか、ACEP、RCPP 合わせて約 15 億ドルの対ベースライン増額となって

おり、保全タイトル合計で約 6 億ドルの対ベースライン増額となっている。

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図表 51 保全タイトルの各プログラムの対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, “Direct Spending and Revenue Effects for the Conference Agreement on H.R. 2”, December 11, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54880, accessed February 11, 2019.

栄養プログラム

① 下院案

まず、新たな就労要件の設定による増減見込みのみを抽出すると、下表のとおりとなる。CBO は

新たな就労要件の設定及び就労トレーニングの強化により 2023 年度までの 5 年間で約 22 億ドルの

経費減少、2028 年度までの 10 年間では約 68 億ドルの経費減少を見込んでいる。内訳は、SNAP 支

給額が 2019 年から 2023 年に 43 億ドル、2019 年から 2028 年に 141 億ドル削減される。他方、行政

管理コスト(州で実施する教育・就労トレーニングへの補助金を含む)93は同期間でそれぞれ 22 億

ドル、73 億ドル増加するとされる。

93 この管理費は新就労要件の設定に伴う変動のみに言及している(SNAP 全体の管理費ではない)。

555

-189

-3,669

2,660 786 742 225

-6

0

-12,426

8,451

1,779 1,742 447

-15,000

-10,000

-5,000

0

5,000

10,000

保全計 CRP CSP EQIP ACEP RCPP その他

FY2019-2023 FY2019-2028

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図表 52 新就労要件に伴う支給額・管理費の対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018. 新就労要件…新就労要件の設定に伴う対ベースライン増減。

次に、栄養タイトル全体での対ベースライン増減は下表のとおりとなっている。新就労要件(以

下では受給額減と管理費増の相殺後の額を示している)以外に影響の大きな変更を抽出しているが、 「広範な自動的受給資格の認定」の廃止による影響は、5 年間で 12 億ドル、10 年間で 40 億ドルの

経費減少と推計している。広範な自動的受給資格の廃止と並んで大きな減額要因となっているのが、

標準ユーティリティ補助(SUA: Standard Utility Allowance)として SNAP 受給額が増加となる仕組

みについての変更である。現在、SNAP 受給世帯が光熱費を支払っている、または低所得家計への

光熱費補助プログラム(LIHEAP: Low Income Home Energy Assistance Program)から 20 ドルを超え

る額を受け取っている場合、標準ユーティリティ補助が追加され、SNAP 受給額が増額されること

となっている。この仕組みに基づき、いくつかの州では LIHEAP として SNAP 受給者に 21 ドルを

支給し、これにより自動的に SNAP 受給額を増加させているとされる。今後はこのような増額を禁

止し、受給者は実際の光熱費を証明することが求められる(下表では「標準ユーティリティ補助」

と表記)94。 このほか、SNAP 受給額を算定する際に控除できる勤労所得が増額される、18 歳未満の子どもが

いる SNAP 受給世帯に子ども支援実施機関との協働を全州で義務付けるなどの項目による増減の

影響が大きくなっている(下表ではそれぞれ「所得控除」、「子ども支援」と表記)。18 歳未満の子

供がいる世帯に対する義務は現在 5 州及びグアムでのみ導入されているが、CBO は全州での義務

化によって SNAP 参加世帯減少による受給額減少と協働義務化に伴う管理費増加の双方の影響を

予測している。栄養タイトル全体では 5 年間で約 9 億ドルの経費増加、10 年間で約 14 億ドルの経

費減少が見込まれている95。なお、トランプ政権は 2019 会計年度の予算教書に含まれていた、SNAP支給の詰め合わせ食料の現物支給による一部代替は、下院案には含まれていない96。

94 CBO, “Cost Estimate: H.R. 2, Agriculture and Nutrition Act of 2018”, May2, 2018, pp. 14-15. 95 CBO, “Cost Estimate: H.R. 2, Agriculture and Nutrition Act of 2018,” April 13, 2018, https://www.cbo.gov/publication/53760, accessed June 1, 2018. 96 House Agriculture Committee, “Agriculture and Nutrition Act of 2018 Q&A”, April 2018, https://agriculture.house.gov/uploadedfiles/agriculture_and_nutrition_act_q_and_a.pdf, accessed May 11, 2018.

-2,160-4,320

2,160

-6,800

-14,100

7,300

-20,000

-15,000

-10,000

-5,000

0

5,000

10,000

新就労要件計 支給額 管理費

FY2019-2023 FY2019-2028

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61

図表 53 栄養タイトルの対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018. 新就労要件…追加的就労要件の設定。自動的資格…広範な自動的受給資格の廃止。標準ユーティ

リティ補助…光熱費証明を求めることによる対ベースライン増減。所得控除…所得控除対象所得の増額。

子ども支援…18 歳未満の子どもがいる SNAP 受給世帯と子ども支援機関の協働を義務付け。

5 月 2 日に公表された CBO のベースライン修正では、就労要件の変更による SNAP の受給者へ

の影響が試算されている。それによると 2028 年には SNAP 受給者は 120 万人減少すると予測され

ている。2028 年の SNAP 月次受給者が 3,210 万人と予測されていることから、全受給者の 3.7%程

度が SNAP 受給資格要件を失うという勘定である。受給資格を失う 120 万人の内訳は下図表のとお

りで、最も大きな影響を受けるのは、18 歳から 59 歳の健常成人で 6 歳未満でない子供のいる世帯

である。

図表 54 就労要件の変更により受給資格を失う人の割合 資格を失う人の属性 割合(%)

扶養者のいない 18-49 歳の健常成人 11 扶養者のいない 50-59 歳の健常成人 27 18 歳から 59 歳の健常成人で子供のいる世帯(ただし、6 歳未満の子供ではない) 62 出所: CBO, ”Cost Estimate: H.R.2 Agriculture and Nutrition Act of 2018,” May 2, 2018, p.12, https://www.cbo.gov/publication/53819, accessed June 1, 2018.

② 上院案

栄養プログラム全体では、2019 年~2023 年度の 5 年間で約 2 億ドルの増額、2028 年までの 10 年

間では約 1 億ドルの増額となっており、下院案と比べて小さな変更に留まっていることが窺える。

862

-2,160 -1,245 -1,360

2,230 1,446 1,952

-1,426

-6,800

-3,965 -2,930

4,640 3,494

4,135

-8,000

-6,000

-4,000

-2,000

0

2,000

4,000

6,000

栄養計 新就労要件 自動的資格 標準ユーティリティ補助 所得控除 子ども支援 その他

FY2019-2023 FY2019-2028

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62

図表 55 栄養タイトルの対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, H.R. 2, as passed by the House of Representatives and as passed by the Senate, July 24, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54284, accessed September 12, 2018. 認定期間…受給世帯の成人構成員が全員 60 歳以上か障害者である場合、24 か月間の受給資格認

定を可能とする(旧 2014 年農業法では 12 か月)。就労要件…収監中や薬物乱用回復プログラムへ参加

中の 50 歳以上の者を対象とした新たな就労トレーニングのパイロット事業など。複数州受給…複数州

からの SNAP 受給防止による支出削減。州報奨…行政機能が優れていた州への報奨を現行より減額。野

菜等奨励…野菜・果物の購入を促すためのプログラム。

③ 2018 年農業法

下院農業法案に含まれていた就労要件追加や受給資格の厳格化は見送られ、上院が提案していた

就労トレーニング強化が含まれている。その他の項目の対ベースライン増減も、概ね上院案に沿っ

た規模となっており、下院が栄養プログラムについては譲歩した形となっている。

図表 56 栄養タイトルの対ベースライン増減(100 万ドル)

出所:CBO 支出予測より MURC 作成。CBO, “Direct Spending and Revenue Effects for the Conference Agreement on H.R. 2”, December 11, 2018, https://www.cbo.gov/publication/54880, accessed February 11, 2019.

224

55

210

-138-210

151 15694

205 235

-588

-420

401261

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

栄養計 認定期間 就労要件 複数州受給 州報奨 野菜等奨励 その他

FY2019-2023 FY2019-2028

98 115

-131-240

143211

0

234

-576-480

417 405

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

栄養計 就労トレ 複数州受給 州報奨 野菜等奨励 その他

FY2019-2023 FY2019-2028

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63

2.7. その他 バイオ工学食品表示

2016 年 7 月 29 日、オバマ前大統領は、バイオ工学食品の義務的表示に関する基準・規則の作成

を農務長官に命じる「米国バイオ工学食品表示義務化法」(The National Bioengineered Food Disclosure Law)に署名した。バイオ工学で作られた食品(bioengineered food、以降バイオ工学食品)の表示を

連邦レベルで求める初の法律である97。この法律は、バイオ工学食品に係る定義と表示義務が適用

される範囲を示している。また、法律の制定から 2 年以内に農務長官がバイオ工学食品の表示義務

に関する基準、及び基準を施行する上で必要となる要件・手続きを定めることとしており、実質的

な検討は USDA 農業マーケティング局(AMS: Agricultural Marketing Service)が行っている。この

他、州及び州に属する地方自治体が、同法の内容と異なるバイオ工学食品表示義務を設定・継続す

ることを禁じている 。 2018 年 5 月 3 日、USDA はバイオ工学食品に関する表示義務ルール案を示し、7 月 3 日を期日と

して広くコメントを募ったところ、14,000 件のコメントが寄せられた98。そして 2018 年 12 月、

USDA は「米国バイオ工学食品表示義務化法」に基づく表示基準規則「全米バイオ工学食品情報開

示基準(National Bioengineered Food Disclosure Standard)」を公表した99。この基準は、以下のポイン

トを含んでいる。 表示義務の対象となるバイオ工学食品(bioengineered food)とは、試験管内で DNA 技術によ

り改変された遺伝的物質を含む食品(且つ、その改変は伝統的な育種では得られず、また自

然界には見られない)とする。 次の場合、表示義務対象とならない。

精製過程で改変された遺伝的物質が特定不可能となった場合 意図しない、もしくは技術的に回避不能な場合で、各成分に含まれる改変された遺伝的

物質が重量 5%以下の場合(意図的な場合は表示義務対象から除外されない) 原材料表示手法は、①文章、②シンボル、③電子的・デジタルなリンクから選択する。小規

模食品生産者向は、URL や電話番号を情報入手先として示すことが認められる。 基準は 2020 年 1 月 1 日施行だが、2021 年 12 月 31 日までは自主的に基準に従ってもよい期間と

され、2022 年 1 月 1 日以降、基準が義務化される100。 なお、ゲノム編集技術101を使った農作物やそれを含む食品については、バイオ工学食品情報開示

の対象とならないと考えられる。表示基準規則ではこの点に直接触れてはいないが、表示義務ルー

97 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング『平成 28 年度海外農業・貿易事情調査分析委託事業報告書』2017 年 3 月、

47 頁; Informa Economics, “Senate GMO Food Labeling Bill,” Issue Monitor, March 19, 2016. 98 USDA, “ USDA Seeks Comments on Proposed Rule for National Bioengineered Food Disclosure Standard”, May 3, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/05/03/usda-seeks-comments-proposed-rule-national-bioengineered-food, accessed June 4, 2018; Gregory Jaffe, “ Forecasting the USDA’s Final Bioengineered Disclosure Rule”, August 7, 2018, https://cspinet.org/news/forecasting-usda%E2%80%99s-final-bioengineered-disclosure-rule-20180807, accessed September 13, 2018. 99 規則名は「全米バイオ工学食品情報開示基準(National Bioengineered Food Disclosure Standard)」であるが、対

象となるのは従来のいわゆる遺伝子組換え(GM: genetically modified)食品である(「米国農務省、遺伝子組み換え表

示基準の最終規則を公表『ビジネス短信』2018 年 12 月 26 日」)。 100 Federal Register, “National Bioengineered Food Disclosure Standard”, December 21, 2018, https://www.federalregister.gov/documents/2018/12/21/2018-27283/national-bioengineered-food-disclosure-standard, accessed February 11, 2019; USDA AMS,” BE Disclosure,” https://www.ams.usda.gov/rules-regulations/be, accessed February 11, 2019. 101 ゲノム編集技術では狙った遺伝子を改変できる。遺伝子を改変する「遺伝子組換え技術」は以前から研究に用いら

れてきたが、自由度や正確性が限定的であった。ゲノム編集技術は従来の技術よりも速く効率的な遺伝子操作を可能と

する。(大阪大学微生物病研究所「『ゲノム編集』ってなに?」『微研 Newsletter』2018 年 5 月、

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/about/publications/pdf/biken_newsletter_2018winter.pdf、2019 年 2 月 25 日アクセ

ス。)

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ル案の公表に先立つ 2018 年 3 月、USDA のパーデュー長官は、伝統的な育種技術でも開発可能な

作物をバイオ技術規制で規制しない、また規制する計画もないと明らかにした。そして、ゲノム編

集は、伝統的な育種手法を拡張するもので、短期間で正確な品種改良にあたるとの考えを示してい

る102。この声明により、USDA はゲノム編集を規制しないとの方針を示している。なお、EU の欧州

司法裁判所は 2018 年 7 月に、ゲノム編集で開発した作物も、原則として従来の遺伝子組換え作物

の規制の対象とすべきだとの判断を示している103。 この規則について、精製過程で改変された遺伝的物質が特定不可能となった場合に該当するため、

高度精製品が開示対象から除外されたことを AFBF や全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)は高

く評価している。一方で、消費者団体などからは、QR コードなど消費者が一目で確認できない表

示方法や、高度精製品の適用除外など、「生産者に有利な抜け穴が多い」との批判の声もあがってい

る104。 遺伝子組換えを巡る社会的変化として、焦点が従来の生産現場から加工・消費の当事者にシフト

してきている点が指摘されている105が、米国における高度精製品への表示義務適用除外に消費者団

体が反対の声を高めているのは、そのシフトの一事例といえるだろう。食品企業には、遺伝子組換

え作物・食品に関し、表示が不正確・不適切であれば訴訟ターゲットとなるリスクも生じている。

こうした状況への米国食品企業の立場・対応は、遺伝子組換え作物の安全性を主張する、遺伝子組

換えでない作物・食品を支持する、原材料由来を含む消費者向け食品情報を改善するなど、さまざ

まである106。今後はそれぞれの立場からの政策提言の動向が注目される。

図表 57 バイオ工学食品の表示例

出所:USDA AMS,” BE Disclosure,” https://www.ams.usda.gov/rules-regulations/be, accessed February 11, 2019.

貿易戦争に伴う農業貿易被害への補償をめぐる動向

2018 年 7 月 24 日、パーデュー農務長官は中国等による貿易報復措置で打撃を被る農家を支援す

102 USDA, “Secretary Perdue Issues USDA Statement on Plant Breeding Innovation”, March 28, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/03/28/secretary-perdue-issues-usda-statement-plant-breeding-innovation, accessed February 25, 2019: 「ゲノム編集作物 表示義務課さず」『日本経済新聞』2018 年 5 月 27 日、朝

刊。 103 「欧州司法裁 ゲノム編集は遺伝子組み換え 規制対象と判断」『毎日新聞』2018 年 7 月 26 日、

https://mainichi.jp/articles/20180726/k00/00m/040/186000c、2019 年 2 月 25 日アクセス。 104 「米国農務省、遺伝子組み換え表示基準の最終規則を公表」『ビジネス短信』2018 年 12 月 26 日。 105 三石誠司「遺伝子組み換えの焦点:農家から食品企業へ」『Agrio』第 246 号、2019 年 3 月 5 日、9-10 頁。 106 同書。

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る意向を表明107、8 月 27 日に支援策の具体的内容を公表した108。支援策は、商品信用公社(CCC: Commodity Credit Corporation)109の、①市場促進プログラム(MFP: Market Facilitation Program)、②

食料購入・配給プログラム(Food Purchase and Distribution Program)、③農業貿易促進プログラム(ATP: Agricultural Trade Promotion Program)を活用するもので、支援規模は最大 120 億ドルとされた(こ

れは中国の報復措置の 110 億ドルにほぼ相当する額)。2017 年の政府直接支払いは、約 115 億ドル

であったから、それに匹敵する金額の補助が発動されるということになる。 8 月 27 日に公表された支援額は約 63 億ドル(食料購入・配給プログラムのアーモンドとチェリ

ーを含む)であった。支援額の内訳は、市場促進プログラムが約 47 億ドル、食料購入・配給プログ

ラムが約 12 億ドル、農業貿易促進プログラムが 2 億ドルとなっており、市場促進プログラムが全

体の 4 分の 3 程度を占めている。市場促進プログラムの 8 割程度が中国の報復措置によって最も影

響を受けると見込まれる大豆農家に支払われる。 食料購入・配給プログラムでは豚肉の買い上げ目標金額が最も多く、全体の 45%を占めている。

USDA は報復関税によって受けた影響に基づいて買い上げ規模を決めているとしている110。農業貿

易促進プログラムは 2 億ドル程度で 3 つのプログラムの中で最も小規模であるが、類似する内容の

農業法の貿易関連プログラムの年間支出額が 2 億ドル程度であることを考慮すると、この手のプロ

グラムの支援額としては小さくない金額であるともいえる。 その後、12 月 17 日にパーデュー長官は市場促進プログラムの第 2 弾の支出額が 48 億ドルと発

表した111。支払いの申請期限は 2019 年 1 月 15 日までであったが、メキシコ国境の壁建設費をめぐ

ってトランプ大統領と民主党が対立、新予算が成立しないことによる政府閉鎖(2018 年 12 月 22 日

から 2019 年 1 月 25 日)のため、申請期限は 2 月 14 日まで延長された。 なお、CCC 憲章法(CCC Charter Act)に基づき CCC は最大 300 億ドルを財務省から借りること

ができ、それに際して議会の承認は必要ない。

図表 58 農務省公表の農家支援策 プログラム名 概要

市場促進プログラム(MFP: Market Facilitation Program)

プログラム概要:参入を妨害されている市場の管理、余剰作物の取引、国内外の新市場開拓・市場拡大を支援する。CCC 憲章法のもと農場サービス局が管轄

対象品目:大豆、綿花、ソルガム、大豆、小麦、生乳、豚 農作物の支払い対象:実際の生産実績に基づく。収穫が完了し、2018 年の生産量

が確定した生産者が申請できる 生乳の支払い対象:DMPP 用の生産履歴(2011 年~2013 年(暦年))。2018 年 6

月 1 日時点で経営していること 豚の支払い対象:2018 年 8 月 1 日時点の豚の飼育頭数に基づく

107 USDA, “ USDA Assists Farmers Impacted by Unjustified Retaliation,” July 24, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/07/24/usda-assists-farmers-impacted-unjustified-retaliation, accessed August 24, 2018. 108 USDA, “USDA Announces Details of Assistance for Farmers Impacted by Unjustified Retaliation,” August 27, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/08/27/usda-announces-details-assistance-farmers-impacted-unjustified, accessed August 29, 2018. 109 CCC は 1933 年に設立された連邦公社である。CCC 憲章法により農務省の所管となる。農家の所得および農産物価

格の安定・支持・保護を目的とする。CCC は農務省職員である理事から構成される理事会によって運営される。理事は

米国大統領により任命される。CCC は、組織上は企業法人の形態を備えるが、実態は、農務省によって運営されている

といえる。CCC は財務省から最大 300 億ドルの資金を借りることができる。須長昭治「米国農業政策の担い手 CCC の

組織とその活動」『農政調査時報』第 330 号、1984 年;USDA, “Commodity Credit Corporation,” 2015, https://www.fsa.usda.gov/Assets/USDA-FSA-Public/usdafiles/FactSheets/2015/ccc_fact_sheet_oct2015.pdf, accessed August 26, 2018. 110 CRS, Farm Policy: USDA’s Trade Aid Package, January 10, 2019, p. 9. 111 USDA, “ USDA Launches Second Round of Trade Mitigation Payments,” December 17, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/12/17/usda-launches-second-round-trade-mitigation-payments, accessed February 22, 2019.

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プログラム名 概要 受給資格:2014 年から 2016 年の AGI の平均が 900,000 ドル未満。著しく浸食を

受けやすい土地および湿地の保全(Highly Erodible Land and Wetland Conservation)規定を満たしていること

初回支払いの申請は 9 月 4 日から。 初回支払額の算出:[2018 年の生産実績] × 「初回支払いレート」 × 1/2

(50%)。残りの 50%は第 2 回支払いレートによって算出される予定 支払い上限額:とうもろこし・綿花・ソルガム・大豆・小麦で合計 125,000 ドル。生乳・

豚で合計 125,000 ドル(いずれも 1 人・法人当たり)

支払いレートと支払い額推計

品目 支払いレート(ドル) 支払い額推計(1,000 ドル)

アーモンド(殻付き) 0.03 / ポンド 63,300 綿花 0.06 / ポンド 553,800 とうもろこし 0.01 / ブッシェル 192,000 生乳 0.12 / ハンドレッドウェイト 254,800 豚肉 8.00 / 頭 580,600 大豆 1.65 /ブッシェル 7,259,400 ソルガム 0.86 / ブッシェル 313,600 チェリー 0.16 / ポンド 111,500 小麦 0.14 / ブッシェル 238,400 合計 - 9,567,400

作物別受給割合

食料購入・配給プログラム(Food Purchase and Distribution Program)

プログラム概要:生乳余剰の産物を買い上げ、緊急食品援助プログラム(TEFAP: The Emergency Food Assistance Program)や児童栄養プログラム等に配給する。CCC 憲章法のもと農業市場局が管轄

対象品目:果物、ナッツ類、コメ、豆、牛肉、豚肉 買い上げ規模は 12 億ドル。買い上げは 4 段階行われる。買い上げ対象は、生産

状況や生産品の入手可能性、市場動向、貿易交渉の状況、プログラムの余力によって変更されうる

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プログラム名 概要 買い上げ目標額

品目 目標金額(1,000 ドル) リンゴ 93,400 アプリコット 200 牛肉 14,800 ブルーベリー 1,700 クランベリー 32,800 酪農 84,900 イチジク 15 グレープフルーツ 700 グレープ 48,200 ヘーゼルナッツ 2,100 インゲンマメ 14,200 レモン/ライム 3,400 レンズマメ 1,800 マカダミアナッツ 7,700 白インゲンマメ 18,000 オレンジ(生鮮) 55,600 オレンジジュース 24,000 ピーナッツバター 12,300 洋ナシ 1,400 エンドウマメ 11,800 ピーカン 16,000 ピスタチオ 85,200 プラム/プルーン 18,700 豚肉 558,800 ジャガイモ 44,500 コメ 48,100 イチゴ 1,500 スイートコーン 2,400 クルミ 34,600 合計 1,238,800

作物別受給割合

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68

プログラム名 概要

農業貿易促進プログラム(ATP: Agricultural Trade Promotion Program)

プログラム概要:民間セクターと協力して新たな輸出市場の開拓を支援する。開拓のための活動の費用分担。CCC 憲章法のもと外国農業局が管轄

対象活動:消費者向け広告、PR、売り場での実演、貿易フェアや展示会等への出展、市場調査、技術支援等

支援規模は 2 億ドル 対象期間:2018 年 11 月 2 日まで。または予算が消化されるまで

出所:USDA, “USDA Announces Details of Assistance for Farmers Impacted by Unjustified Retaliation,” August 27, 2018, https://www.usda.gov/media/press-releases/2018/08/27/usda-announces-details-assistance-farmers-impacted-unjustified, accessed August 29, 2018

農業州選出議員や農業団体は、救済策に一定の謝意は示しつつも、貿易戦争の早期終結と、外国

政府が課した追加関税の撤回および輸出市場の回復がより優先度が高いとの考えである。たとえば、

上院農業・栄養・林業委員会委員長のロバーツは、トランプ大統領の支援策の中身を注視しつつも、

(農産物価格の下落と収入減少によって)苦しい状況に置かれている農家にとって貿易こそが最善

の措置と述べた112。農業団体もロバーツとほぼ同様の立場で、ファーム・ビューローは、農家にと

って貿易と市場回復がより重要で、貿易戦争と米国農産品に対する関税引き上げの早期終了を求め

ていた113。

そもそも貿易救済措置は農業団体が政権に求めたものではなかった。それゆえ、パーデュー農務

長官は、貿易救済措置は 2018年に限定した一回限りの支援であるとの意向を明らかにしているが、

米中貿易戦争の行方が不透明なこともあり、農業団体としても 2019 年 1 月現在ではさらなる支援

を求めるかどうか態度を決定していない。豚肉の業界団体のように補助金は市場歪曲的で望ましい

支援策ではないという立場から(買い上げは相対的に市場歪曲的ではないという立場)114、米国政

府は農家の要望を完全に拒否することは少ないため、パーデュー長官が 1 回限りの支援といっても

農家がさらなる支援を求めれば政府は支援を検討するだろうと予測する立場115まで、今後の救済措

置については様々な意見が存在している。

112 Pat Roberts, “ Chairman Roberts’ Statement on USDA Trade Assistance,” July 25, 2018, https://www.roberts.senate.gov/public/index.cfm?p=PressReleases&ContentRecord_id=AD0C96F6-23E6-4524-AC5A-DA6B5E9BE8B9&ContentType_id=3F3AE205-D90C-46C5-B01F-1384C66087B9&5FB5B58B-28F7-4B2F-8355-C1CD481E9229&AE7A6475-A01F-4DA5-AA94-0A98973DE620&6ACBBD86-FC7F-4E91-8F41-DA1BDD069775&1B187249-09AD-4B26-BA9F-DDA2D37DBE23&0A8D0D43-B58A-44F0-B4BB-53E2EFFE1022&7B960111-E7A3-45B9-B67D-A265A23C1108&FD960925-D1F3-4731-9B0E-14CE85FA968A&Group_id=805c1438-4705-4127-aff5-98ce4c6999e0, accessed August 26, 2018. 113 AFBF, “ American Farm Bureau Statement on Trade Assistance Package,” July 24, 2018, https://www.fb.org/newsroom/american-farm-bureau-statement-on-trade-assistance-package, accessed August 26, 2018. 114 米国豚肉業界団体へのヒアリング(2019 年 1 月実施)。 115 米国品目横断的農業団体へのヒアリング(2019 年 2 月実施)。