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1 2013 台湾海外研修プログラム報告 文責:吉田、野中、竹内、峠 ■概要 日程 9 1 日(日)〜9 7 日(土)【7 日間】 参加数 10 人(教員 5 名、院生 5 名) 研修地 台湾 花蓮 参加校 国名 大学名 中国 Peking University University of Science and Technology Liaoning Xiamen Medical College Anshan Normal University 台湾 Tzu Chi College of Technology 韓国 Daejin University マレーシア University Tunku Abdul Rahman タイ Loei Rajabhat University Mahidol University Chulalongkorn University 日本 愛知学泉大学 京都外国語大学 大阪大学 今年度 (2013 )は、台湾の花蓮にある Tzu Chi College of Technology (慈濟技術學院)主催の、 Service Learning, Humanity & Transcultural Program に参加した。この研修プ ログラムには、中国、台湾、韓国、マレーシア、タイ、日本な どアジア各国の大学が同研修に参加しており、異文化交流を通 じて国際的な視野を広めることができた。また、現地でシンポ ジウムに参加し、本学の教員および学生も英語で自己の研究に 関する口頭発表を行った。さらに、Tzu Chi University や現地 の病院などを見学し、Tzu Chi University 独自の医学的倫理教 育や、台湾-日本間における医療事情の相違点について知見が得られ、日本における医療の在り方について考察を 深めることができた。

2013 年 台湾海外研修プログラム報告 文責:吉田、野中、竹内、 …sahsagns1/epi/tcct2013/hualien report.pdf · 観光名所・世界遺産などをスライドを用いて紹介した。相撲

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2013 年 台湾海外研修プログラム報告 文責:吉田、野中、竹内、峠

■概要

日程 9 月 1 日(日)〜9 月 7 日(土)【7 日間】

参加数 10 人(教員 5 名、院生 5 名)

研修地 台湾 花蓮

参加校

国名 大学名

中国

Peking University

University of Science and Technology Liaoning

Xiamen Medical College

Anshan Normal University

台湾 Tzu Chi College of Technology

韓国 Daejin University

マレーシア University Tunku Abdul Rahman

タイ

Loei Rajabhat University

Mahidol University

Chulalongkorn University

日本

愛知学泉大学

京都外国語大学

大阪大学

今年度 (2013 年)は、台湾の花蓮にある Tzu Chi College

of Technology(慈濟技術學院)主催の、Service Learning,

Humanity & Transcultural Program に参加した。この研修プ

ログラムには、中国、台湾、韓国、マレーシア、タイ、日本な

どアジア各国の大学が同研修に参加しており、異文化交流を通

じて国際的な視野を広めることができた。また、現地でシンポ

ジウムに参加し、本学の教員および学生も英語で自己の研究に

関する口頭発表を行った。さらに、Tzu Chi University や現地

の病院などを見学し、Tzu Chi University 独自の医学的倫理教

育や、台湾-日本間における医療事情の相違点について知見が得られ、日本における医療の在り方について考察を

深めることができた。

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Day 1 ●台湾桃園国際空港到着 関西国際空港から約3時間かけて台湾桃園国際空港へ到着した。

ここで Tzu Chi College of Technology の学生および教員ら(彼ら

は互いを brother/sister/father と呼んでいた)に迎えられた後、

Tzu Chi 基金会の支部へ招かれ、歓待を受けた。

●Tzu Chi 基金会(台北支部)訪問後、滞在先の Tzu Chi College of Technology へ移動

Tzu Chi 基金会は、(正式名「財団法人 中華民国 仏教慈済慈善事業基金会」)台湾に本部を持つ世界最大の仏

教系 NGO 団体であり、創設者である Master Cheng Yen 氏の「慈悲を抱き、世を助け人を救う」という思想に

基づき、世界中で慈善活動を行っている。2011 年の東日本大震災では、多額の救援金とともに被災者の支援に多

大な貢献をしていただいたようである。私たちは、Tzu Chi 基金会の歴史と祈りの方法について説明を受けた後、

ベジタリアンフードをご馳走になった。その後、台北から新幹線で約 2 時間半後、ようやく深夜近くになって花

蓮に到着した。

花蓮は台湾東部に位置する地域で、風光明媚な地であり、緑に囲まれ素朴な雰囲気漂う観光の拠所となってい

る。滞在先の Tzu Chi College of Technology は、花蓮に本部を置く私立大学である。私達は本校の敷地内にある

ドミトリーで7日間滞在した。ドミトリーは、バスルーム付きの4人部屋であり、学生は他国からの学生とルー

ムシェアして交流を楽しんだ。

Tzu Chi 基金会の聖堂、広い

Tzu Chi名物ベジタリアンフード

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Day 2 ● 歓迎レセプション

こ の 日 の 午 前 は 、 Service Learning, Humanity &

Transcultural Program の Welcome Reception に出席し、各国の

伝統的またはポピュラーな歌やダンスを参観した。

当校は SMAP の「世界にひとつだけの花」を、教員と学生で

振り付けをしながら披露した。曲の説明をほとんど必要としない

ほど、参加者の多くがこの曲を知っており、SMAP はアジア各国

においても人気を博している様子が窺えた。他国の学生とともに

合唱する場面もあり、楽しいひとときを過ごすことができた。

● Mennonite Christian Hospital-Shoufong Branch 訪問 午後からは、Mennonite Christian Hospital-Shoufong Branch(寿豊郷分院)内の認知症高齢者施設を訪問した。

この施設でまず驚いたのは、壁のほぼ全面に、入居者やデイケア参加者の作品や、高齢者の時代背景を物語る生

活品や絵画が飾られていたことだ。日本では、認知症者が施設内の掲示物を持ち帰ることがあるため、異食する

リスクを考慮して掲示物がないことが多い。当施設では、認知症高齢者がそれらを持ち帰ったり、異食したりす

るリスクに十分配慮しながらも、彼らの精神状態が平穏でいられるように工夫しているとのことだった。

また、施設内の目立つ位置には、大きな時計の絵が壁に描かれていた。これは、利用者が「今」の状況を把握

できるようにするために工夫されたもので、大きな文字盤の数字の横に 1 日の生活行動に関する写真が貼られて

いた。また、毎週月曜日にはボランティアによるイベントが開催され、私たちの見学日にはデイルームで音楽会

が行われていた。施設内では、入居者に対する細やかな配慮がハード面・ソフト面から随所に見られた。

台湾の認知症高齢者施設では、日本と比べると施設内の眺めに情緒がある印象をもつものが多かったため、今

回の施設見学を通して、生活者としての認知症高齢者を支援するということについて改めて考えさせられた。

Tzu Chi College of Technology の学生による歓迎

のエキシビション

利用者の時間感覚を把握するための工夫

看護部長さんと

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認知症のデイケアの作りは大きく日本と変わらなかった。しか

し、デイルームの奥には、紙で作られた小さな寺院が設置されて

いた。信仰心の深い患者が参拝し、ストレス発散をはかることが

できる。ストレスを発散するために施設内に寺院を設置するとい

うこの発想には驚嘆した。また、寺院は紙で作られており、安全

面にも配慮されていた。寺院にはおみくじが置かれており、患者

とスタッフが一緒になって楽しめるツールとなっていた。

我が国においても、病院内に小さな寺院を設置している病院は

あるが、私の知る限りでは病棟の外に設置されている。ゆえに、

病棟外への移動が困難な患者は、寺院を参拝することが難しい。

身近にこう言った設備があることは、信仰心の強い国ならでは

のものだと感嘆した。また、ストレスを軽減するためのケアは、

患者個々により大きく異なり、宗教観も考慮する必要のある大

きな要因であることを学んだ。

その後、精神科急性期病棟も見学することができたが、残念

ながら詰所のカウンター越しにしか病棟内を見ることができ

ず、保護室などのハード面を比較することはできなかった。病

院の屋上から見る景色は、空がとても広く見え、自然に囲まれ

た壮観なものであった。

デイケアにある手作り寺院

病院の屋上からの眺め、風光明媚である

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Day 3 ●台湾および諸外国の文化を学ぶ この日の午前は、「Learning about Taiwan and other

countries」に出席した。学生らは学校ごとに、自国の紹介を

プレゼン形式で行った。私たちは、日本の地理、人口、文化、

観光名所・世界遺産などをスライドを用いて紹介した。相撲

について紹介するときは、予め壇上に仕込んでいた土俵に上

がり、実演しながらルールを説明した。デモンストレーショ

ン後、聴衆に参加を呼び掛け、数名の学生・教員に相撲を体

験してもらった。学生・教員ともになりふり構わぬ力強い相

撲を披露し、会場は多いに盛り上がった。相撲のパフォーマ

ンスに使ったカツラは大人気で、多くの学生が「まげ」のカ

ツラをかぶって写真撮影をしていた。

● タロコ国立公園観光 午後には、花蓮のタロコ国立公園を観光した。この公園は世界遺産に登録されている。南北に約 38 キロ、東西

に約 41 キロ、総面積は 9 万 2000 ヘクタールに及ぶ、とても大きな自然公園であった。険しい山々と渓谷の美し

い光景がとても印象的であった。数日前に台風が台湾に上陸していたためか、崖が崩れている箇所もいくつか見

られた。公園へ送迎してくれたスタッフにヘルメットを手渡されたが、そのヘルメットは安心感よりもむしろ恐

怖と緊張感を我々にもたらした。公園内は主に車での移動で散策し、名所では車から降りて写真撮影などをした。

雄大な自然を満喫でき、学生も教員も大いに楽しんだ。

相撲のパフォーマンスにノリノリで参加する各国

の学生 (行司は当研究室院生)

タロコ国立公園での 1枚

大雨の後だったため、安全のためヘルメットを着用

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Day 4 ● フラワーアレンジメントとベジタリアン料理体験

この日の午前は、フラワーアレンジメントと料理のレクチャ

ーを受けた。どちらも外部から招かれた講師による中国語での

レクチャーであった。一応、英語通訳がされていたが、レクチ

ャーの最後の方では、ほとんど通訳がなされなかったのが残念

であった。

● 国際シンポジウム“Evidence-based Care for Older Adults”

午後は、“Evidence-based Care for Older Adults” (エビデンスに基づいた高齢者ケア)というテーマのシンポジ

ウムに参加した。(プログラムは次ページ参照) 大学教員、大学院生、医師らが口頭で研究内容を発表した。大阪

大学からは、「客観的指標を用いた認知症高齢者の行動」などのテーマについて、学生、教員がそれぞれの研究に

ついて発表した。シンポジウムでは各研究についての質疑応答も行われ、活発な意見交換がなされた。高齢者ケ

アのケア向上を目指した研究者同士、とてもよい刺激になったのではないだろうか。シンポジウムで発表された

演題を、次項に示す。

今回の発表は、私たち学生にとっては初めての英語でのプレゼンであった。発表用資料を作ったり、前日夜遅

くまで発表の練習をしたり、本番ギリギリまで準備に追われていた。発表が終わるまでは非常に緊張していたが、

発表後はその緊張感から解き放たれたためか、夕食の味が格別であった。

フラワーアレンジメントの先生の話をなんとかし

て聞く様子

緊張のプレゼンでしたが、自信もって発表している様子 プレゼン後でプレッシャーから解放された院生一同

(かぶっているのは有名な文旦のようなフルーツで Moon

Festivalの時に被るようである)

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International Symposium: Evidence-based Care for Older Adults Sponsors: Department of Nursing & Taiwanese Center for Evidence-based Health Care, Tzu Chi College of Technology.

Topics Speakers

Early detection of Alzheimer disease Raymond Y. Lo

Buddhist Tzu Chi General Hospital, Taiwan

Use of objective indicators to understand people with dementia Kiyoko Makimoto

Osaka University, Japan

Introduction of Osaka University Eri Yamada & Shiho Takeuchi

Osaka University, Japan

Nursing care for excessive wandering in an early-onset Alzheimer's

patient: Evaluation of care using objective indicators

Yukiko Yoshida

Osaka University, Japan

Changes in clockwatching activity in a semantic dementia patient Takahiro Nonaka

Osaka University, Japan

How do family caregivers make efforts to care for people with

young-onset dementia?

Miyae Yamakawa

Osaka University, Japan

Nursing care for continued therapy of intractable neurological

illness outpatient

Chisono Kameishi

Osaka University, Japan

Pattern of underreporting falls in a general psychiatric hospital

in Japan

Yoko Higami

Osaka University, Japan

Epidemiology of multiple falls in a general psychiatric hospital

in Osaka, Japan

Tomoko Tawa

Osaka University, Japan

Foot care in diabetics people Rungrawee Navicharern

Chulalongkorn, University, Thailand

The effects of an advanced care planning (ACP) program for

older adults in a nursing home

Sheng-Yu Fan

National Cheng Kung University, Taiwan

Progressive resistance exercise program for older adults Hsin-Yann Tsai

Tzu Chi University, Taiwan

Social assistive robot therapy for social interaction among older

adults: a systematic review

Shu-Min Chang

Tzu Chi College of Technology, Taiwan

A group-based Tai-Chi with thera bands exercise program for

older people

Shu-Fen Lin

Tzu Chi University, Taiwan

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Day 5 ● 仏教慈濟綜合病院 (Buddhist Tzu Chi General Hospital) 見学

この日の午前はリサイクルについての講義を受け、午後は仏

教慈濟綜合病院 (Buddhist Tzu Chi General Hospital)を見学し

た。

仏教慈濟綜合病院は、1986 年に設立された。病床数は約 1000

床、33 の診療科を有し、臓器移植も行っている大規模病院であ

る。病院見学で特に印象的であったのは、1 日に約 200 名のボ

ランティアスタッフが常駐しているということだ。ボランティ

アは 50 時間の研修を受け、患者の介助に必要な基礎知識や技

術を身につけているそうだ。日本でもボランティアスタッフが

院内で活躍しているという話は聞いたことがあるが、この病院

のボランティアの規模の大きさには圧倒された。ボランティア

の活動により、患者の ADL、QOL 向上を測ったり、医療職者

が専門分野に集中して従事することができたり、ボランティア

スタッフも自らの社会的役割を見出すことができたりと、各々

にとってとてもよい関係となっている。日本にもこのように大

規模なボランティア制度が普及すれば、患者の ADL、QOL の

向上に役立つだろう。ボランティア制度を日本でも普及さ

せるには様々な困難はあるだろうが、ぜひ参考にしたい仕

組みであった。

仏教慈濟綜合病院では看護学生の教育も行っている。台

湾での看護師教育制度は 2 つあり、高校を卒業したのち、

大学または専門学校で 4 年の教育を受けるものと、中学卒

業後に 5 年間の専門教育を受けた後、2 年間の大学教育を

受けるものとがある。看護師免許を取得するのに 7 年もの

教育を受ける制度があることを知り、一同驚いた。

「Introduction of TCH nursing Discussion of EBP in clinical practice and nursing education」に参加した。

院内でエビデンスを構築することの紹介を聴いた。検査データだけでなく、QOL も評価も考慮して、治療を総合

的に評価していることがわかった。院内でのエビデンスの構築を図っているとのことだった。また、医師が看護

師の役割について説明する場面があり、職種間での連携ができており、協同してエビデンスに基づくケアを行っ

ていることが伺えた。

TCHの神経難病センターの医師、看護師たちとの 1枚

病院にいる全ボランティア

緩和ケア病棟の入り口

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Day6 ●Jin Si Hall (静思堂) /Abode 訪問 この日の午前は、Tzu Chi 基金会の創設者である Master

Cheng Yen の説法を聞くために、早朝 6 時にバスに乗り、Tzu

Chi の施設の 1 つである、Jin Si Hall (静思堂) /Abode に向か

った。Master Cheng Yen にお会いするにあたり、失礼があ

ってはならない。参拝者は服装や持ち物などを厳格に指定さ

れ、参拝前には参拝マナーについて細かく説明を受けた。大

講堂はとても広く、少なくとも 100 人以上の参拝者がいたよ

うに見えた。大講堂と附属病院間にテレビ電話が繋がってお

り、病院スタッフが病院での体験を語る様子が大講堂の大きなモニターに映し出された。それに対し、Master

Cheng Yen が感想や助言を述べるという対話形式であった。会話は全て中国語であったため、残念ながら内容は

理解できなかったが、約 3 時間に及ぶ説法の最中には時折参拝者から笑い声が起こる場面もあり、想像していた

よりはリラックスして参加することができた。

●Silent Mentor プログラム

午後は、地下の講義室に移動し、Silent Mentor プログラムについて講義を受けた。Silent Mentor とは、解剖

学実習や手術手技の訓練のための献体のドナーを指す。本プログラムでは、医療者にとって最も重要なものは、

解剖学的知識や外科的手技ではなく、献体に対する敬意や感謝の意、および慈悲心であるとし、独自の方法で医

学生らに教育している。手術の技術面での訓練においても素晴らしい成果を上げており、海外の医師の研修や視

察も増えているそうである。

Jin Si Abode

Silent Mentorについて説明するスタッフ

とても英語が流暢 納骨堂には Silent Mentor たちのお骨が眠っている

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Day 7 ● 花蓮観光後、帰国の途へ 最終日の朝、私たちは 1 週間苦楽を共にした仲間たちに別れを告げ、ドミトリーを後にした。そして、Tzu chi

college of technology の教員の方々に、車で 15 分ほどの場所にある海岸に連れて行っていただいた。花蓮の海は

日本の海より蒼色が濃く、真後ろには山が臨んでおり、大変美しかった。映画のワンシーンのような美しい光景

の中で、風邪をひいた学生のマスク姿がやけに浮いていた。美しい海辺での時間を楽しんだ後、私たちは花蓮を

後にした。

さようなら花蓮。ありがとう花蓮。僕たちはきっと忘れないだろう、この日々を。

-完-