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2013.3.23「日本語教育におけるアーティキュレーション(連続性)

―国際的な取り組みと日本における課題―」

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日本語教育は生き残れるのか

―なぜ教えるのかを考える―

當作靖彦(カリフォルニア大学サンディエゴ校)

キーワード:グローバル化、J-GAP、アーティキュレーション、JF 日本語スタンダード、

留学生の日本語教育

1.グローバル化と日本語教育

グローバル化という言葉が使われるようになり久しく、すでに聞き飽きた感がある。

しかし、グローバル化はいろいろな形で日々進行し、それは私たちの生活の中でいろいろ

な形で具現化し、私たちに様々な形で影響を与えている。グローバル化の定義も種々ある

が、グローバル化とは世界の等質化、均一化であるとよく言われる。テクノロジー、イン

ターネットの急速な発展により、情報・知識が一瞬のうちに世界中に拡散し、世界中の人

が同じ情報・知識を瞬く間に共有できる結果、以前のような先進国、開発途上国のような

大きな差がなくなってきた。また、グローバル化により国境が大きな障害とはならなくな

り、人的交流、物流、情報交換・共有、資本流入、経営参加などがより自由に行われるよ

うになってきた。このような状況下、グローバル化の波に乗り、発展してきた国もあれば、

その波に乗れずにグローバル化に後れを取っている国もある。日本はいろいろな面でグロ

ーバル化に乗り遅れている感が否めない。日本の世界における地位は下降線をたどってい

る。世界の動き、日本の国力と密接な関連を持っている世界の日本語教育にもその影響が

出てきている。日本企業が多く進出している中国や東南アジアでは日本語学習者数が増加

している一方、それ以外の地域では、日本語学習者数が急激に、あるいは徐々に減少して

きている。日本語プログラムの縮小、廃止のニュースが頻繁に聞かれる国さえある。80

年代から90年代、日本経済がピークにあった時のように日本語のクラスにウェイトリス

トができたり、日本のポップカルチャーに興味を持つ学生が日本語のクラスに押しかけた

りするような90年代以降の現象は見られなくなってきた。日本経済が停滞し、日本のポ

ップカルチャーの人気にも陰りが見えてきた今、日本語教育は生き残ることができるので

あろうか。海外で日本語を教える者の多くがこの疑問を抱いている。小論では、日本語教

育におけるアーティキュレーションを通して、日本語教育が今後生き残り、さらには盛ん

であり続けるためにはどうすべきなのかを考えてみたい。

2. Japanese Global Articulation Project (J-GAP)

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―国際的な取り組みと日本における課題―」

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J-GAP は世界各地の日本語教育関係学会9つが作る日本語教育グローバルネットワーク

が現在実施中のプロジェクトである。グローバルネットワークは世界各地で日本語教育国

際会議を開催してきたが、2010 年の台湾での国際会議の際に、9つの国・地域でプロジ

ェクトを行うことを決定し、二つのグループに分かれ、一つのグループは日本語教育の中

等レベルと高等レベルのアーティキュレーション達成のプロジェクト、もう一つのグルー

プは日本語教育と日本研究の関係に関するプロジェクトを行うことになった。前者は J-

GAP として 2011 年より日本、韓国、香港、アメリカ、カナダ、ヨーロッパで活動を開始

した。2012 年からは後者に参加していた中国、オーストラリア、台湾も加わり、活動を

拡大した。(J-GAP の詳細は Tohsaku(2012)を参照)

J-GAP が扱っているアーティキュレーションは日本語では、「連続性、連関、連携」な

どと訳されている。言語教育におけるアーティキュレーションには大きく3つのタイプが

ある。一つは「縦のアーティキュレーション」である。例えば、中等教育で4年間の日本

語教育を終えた学習者が、高等教育でも日本語教育を続ける場合に、中等レベルで終えた

レベルから高等教育で教育を続けられる場合には、「縦のアーティキュレーション」が達

成されていると言える。二つ目のタイプは「横のアーティキュレーション」である。例え

ば、ある学年の日本語を複数の教師で教えている場合に、ほぼ同じレベルでほぼ同じ内容

を教えている場合には、「横のアーティキュレーション」が達成されていると言える。三

つ目は、「科目間のアーティキュレーション」である。日本語を学習している学習者が、

日本の歴史、文学などの関連科目を同時に履修している場合に、日本語のクラスの内容と

これらのクラスの間に関連性がある場合には、「科目間のアーティキュレーション」が達

成されていると言える。

世界の日本語教育を見てみるならば、以上の3つのアーティキュレーションが達成され

ていないことが多く、教育の効果を著しく下げている。何年日本語を学習しても、達成さ

れるレベルは低いままで、それによる時間的、財政的損失は膨大なものであるばかりでな

く、世界の日本語教育の質を向上させる大きな妨げになっている。J-GAP は世界各地でこ

のような障害を取り除き、日本語教育の質を上げることにより、より高い能力を持った日

本語学習者を生み出すとともに、生涯日本語を学習し続け、日本に関係していく人材を作

り出そうというプロジェクトである。

具体的には各国で一地域を選び、そこで教える初等・中等・高等レベルの日本語教師を

集め、アーティキュレーション達成のための様々な活動を行っている。アーティキュレー

ション達成の第一歩は、学習者によってつながるプログラムを教える教師がお互いのプロ

グラムについてよく知ることである。自分のプログラムのフィーダーとなるプログラムを

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出た学習者が日本語でどのような能力を持っていて、自分のプログラムに入って来た時に

どのレベルにプレースすべきなのか、アーティキュレーション達成のために自分のプログ

ラムを変える必要があるのか、また、フィーダーとなるプログラムの教師は後続のプログ

ラムに合わせて、自分のプログラムを変える必要があるのかを教師同士で時間をかけて話

し合い、つながりのある一連の日本語プログラムを地域で作りあげていくことになる。こ

の際、自分たちのプログラムが作り出す学習者の能力、すなわち、プログラムのゴールを

同一の基準で比較することが重要となる。すでに、外国語教育の達成基準がある地域はそ

れを使っているが、それがまだないところでは、国際交流基金の日本語教育スタンダード

(JF 日本語教育スタンダード)を使い、アーティキュレーション達成活動を行っている。

プログラムの比較に JF 日本語教育スタンダードを使ったり、このスタンダードをもとに

地域独自のスタンダードを作り、アーティキュレーション達成の基準にしようという地域

もある。

3. J-GAP の役割: つながることの意義

当初単にアーティキュレーション達成のみが目標であった J-GAP であったが、日本語

学習減少という危機に直面した地域では、J-GAP の活動をする中で、日本語教育を維持・

発展させていくために、日本語教育の質を上げていくことの重要性が明らかになってきた。

また、J-GAP を通してレベルを超えて教師が集まり、連携して活動していくことにより、

地域で日本語教育を普及、推進していく力が強まり、プログラム廃縮小、廃止の動きに対

応する力が付いていくことがわかった。

世界各地の日本語教育は、各地の日本語教育が独立して動いているわけではなく、各地

から日本に来る留学生を通して、日本の日本語教育と密接に結びついている。日本語教育

の質を世界レベルで上げ、日本語教育を盛んにするためには、留学生のための日本語教育

の(上述の3つのタイプ全てに関わる)アーティキュレーションの確立が重要であること

は火を見るより明らかである。J-GAP では世界各地のアーティキュレーション達成プロジ

ェクトの他に、日本と香港、日本と中国の留学生の日本語教育のアーティキュレーション

達成プロジェクトも行っている。留学生は日本に来た時、日本から本国に戻った時の2回

アーティキュレーションの問題に直面するが、日本に行った時にどのような日本語のプロ

グラムに入るかもよくわからないまま日本語の学習を続けることになったり、留学を終え

て帰国後自分のレベルに合ったプログラムがないため、留学中に身につけた日本語能力を

さらに向上させることができなかったりすることが多く、貴重な日本留学の機会を十分に

活かせないことが少なくない。このような問題を解決するためには、留学生を送り出す側

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と受け入れる側が話し合い、連携する必要がある。J-GAP はこの連携のモデルを示そうと

している。

また、J-GAP の活動を実施する中で、アーティキュレーションは学校教育にとどまるも

のではないことが明らかになってきた。学校教育を終えた学習者はグローバル社会に出て、

そこで日本語を使用するわけであるが、刻々変化するグローバル社会での日本語使用を念

頭において留学生教育を含む学校教育における日本語教育を考えなければ、社会活動に必

要な日本語能力を与えることはできず、現実社会における日本語教育・使用の意義を主張

することは難しい。

4. J-GAP を通して学んだこと: なぜ日本語を教えるのか

J-GAP 活動を通してわかってきたことは、日本語教育を世界レベルで維持、発展させて

いくためには、世界全体の様々な日本語教育がアーティキュレーションを持ち、一つのシ

ステムとして動いていく必要があることである。例えば、日本における日本語教育、海外

における日本語教育というような二項対立的な考えをやめ、いかにこの二つを連携させ、

そのアーティキュレーションを考える必要があるかということである。同様に、学校教育

における日本語教育対(広義の)ビジネス日本語教育、学生に対する日本語教育対居住者

の日本語教育、日本語学校における日本語教育対大学における日本語教育、学校における

日本語教師対地域のボランティア教師などの二項対立的見方も見直し、それぞれの日本語

教育、それに関わる関係者の連携を確立する必要があるし、日本語教師養成と現実の日本

語教育、日本語使用との連携によるシステムの確立も必要となろう。

私たち日本語教師は、これまで何(文法・語彙)を教えるか、どう(教授法)教えるか

に多くの注意を払ってきたが、グローバル化の中、日本語教育をさらに発展させていくた

めにはこれまでとは違うグローバル社会の中で、「なぜ」日本語を教える必要があるのか

をまず考えることが重要である。さらに、その「なぜ」を達成する日本語教育はどのよう

なものなのかを考え、ほかの日本語教育関係者と連携して、世界、日本、地域を一体化し

た日本語教育のシステムを作り上げていく必要がある。

参考文献

Tohsaku, Y.-H. 2012 J-GAP: Global Efforts to Achieve Curricular Articulation of

Japanese Language Education. 『日本語教育』151 号、8-20.

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アーティキュレーションにおける JF 日本語教育スタンダードの活用

横山紀子(国際交流基金)

キーワード:JF 日本語教育スタンダード、パフォーマンス重視の言語能力観、CEFR、Can-do、

ポートフォリオ

1.JF 日本語教育スタンダードの特徴

(1)パフォーマンス重視の言語能力観

Can-do(現実世界における課題遂行能力の記述)による学習目標/学習評価

(2)CEFR*に基づくレベル設定

他言語と共通の 6レベル

A 基礎段階の言語使用者:A1 A2

B 自立した言語使用者:B1 B2

C 熟達した言語使用者:C1 C2

*Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment

(3)ポートフォリオの提案

学習の自己管理・自己評価

テストで測りにくい能力の評価

2.アーティキュレーションにおける JF 日本語教育スタンダードの意義

(1) 機関・地域・国を超えた言語能力観の共有

(2) 機関・地域・国を超えて「みんなの Can-do サイト」により Can-do を共有

(3) 機関・地域・国を超えて移動する学習者の学習連続性をポートフォリオで支援

3.JF 日本語教育スタンダードの課題

(1) JF Can-do の追加開発

(2) JF 日本語教育スタンダードに基づいた客観的評価の開発

(3) 「コミュニケーション言語能力」の整理

(4) 異文化理解能力を含めた理念の整理

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グローバル人財育成のためのアーティキュレーション

―J-GAP 中国からの留学生を例として―

堀井惠子(武蔵野大学)

キーワード:アーティキュレーション、グローバル人財、留学生、JF スタンダード、

1.はじめに

近年 J-GAP の取り組みを始めアーティキュレーションが注目され始めている。ここでの

アーティキュレーションとは「習得目標達成のためのカリキュラム、インストラクション、

評価の異なるレベル間の連続性、連携、同じプログラム内のクラスの連続性、一貫性」を

いい、日本語教育においても海外の中等・高等教育におけるアーティキュレーションの研

究と実践が進みつつあるが、留学生に関わるアーティキュレーションについてはまだあま

り研究もされていない。

海外の日本語学習者が母国での学習に加え留学をすることによる日本語習得効果は高い

が、その際のアーティキュレーション上の課題を把握することは、留学効果を高めるため

にも、ひいては留学生を増やすためにも重要であり、また、日本語教師が学習者を介して

世界の中の日本語教育に目を向ける機会ともなる。

2.J-GAP 中日プロジェクト

本発表では、J-GAP 中日留学生アーティキュレーションプロジェクトの取り組みを紹介し、

留学生における日本語学習/習得のアーティキュレーション上の課題を考察する。

留学生の大学学部への入学は、日本語学校や予備教育を経て 1 年生に入学をし、身に着

けた日本語を使って専門教育を学び学位を取る正規留学が多いが、海外の協定校などから

半年または 1年日本に留学し帰国して学位を取る交換留学も少なくない。また、近年は 2+2

のように編入をし日本で、またはダブル・デグリーで学位を取る編入留学も増えている。

中日プロジェクトではまずこの 2+2 で編入、卒業後日本の大学院、または、日本・日系

企業への就職を希望する留学生をモデルとし、送り出し側と受け入れ側のアーティキュレ

ーション上の課題を探ることで、他への応用の可能性も図りたいと考えた。

なお、留学生のアーティキュレーションとしては、留学生 30 万人計画骨子でもあげられ

ているように、送り出し側における日本留学の動機づけ、積極的留学情報の発信、留学相

談機能強化、受け入れ側における留学生等への生活支援、ダブル・ディグリー・短期留学

等の推進、卒業後の進路支援(就職・進学)などの項目も並行して進めていく必要がある。

また、留学生の留学目的は日本語教育ではない場合も多いが、本発表では主に日本語教育

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に関する部分を扱う。

3.アーティキュレーションのゴール

近年の学習者の日本語学習動機や留学生の卒業後希望する進路が日本語を使って日本と

関係のある企業に就職することが多いこと、また、グローバル化の進む社会や日本企業の

ニーズから、中日プロジェクトではアーティキュレーションのゴールをグローバル人財の

育成とし、その観点からの送り出し側、受け入れ側のカリキュラムのリ・デザインを試み

ることとした。

また、その際、双方の物差しとして JF スタンダーズの Can-do をカスタマイズした CJ

Can-do を作成し、その妥当性を測っている。

4.活動から

2012 年度のプロジェクトの活動として行った、編入留学生へのインタビュー、並びに、

11 月に天津外国語大学で行った授業見学と現場教師とのワークショップからは、送り出し

側の課題として、学習者の日本語によるコミュニケーション力不足、専門分野の基礎力の

不足、留学目的の弱さ、自律学習力の不足、自国文化についての理解の必要性などがあが

った。また、受け入れ側への要望として、ゼミなどを中心とした専門教育で役立つための

アカデミック・ジャパニーズ教育や、ビジネス日本語教育があげられた。

アンケート調査として行った留学前後の日本語能力、日本語使用に対する意識の変化に

ついては結果の分析中である。

5.おわりに

アーティキュレーションプロジェクトを実施することで、改めて、双方の国の大学文化、

教育文化に留意する必要があることもわかった。長年、協定校として連携はしていても、

留学生に必要な日本語教育の連続性の実現に視点を置くと、大学教育文化の違いに留意し

ながら、一歩踏み込んで、送り出し側、受け入れ側双方の現場の教師間、また、相互の教

師研修が必要であることもわかった。さらに、ゴールを念頭に置いた Outcome-based

Learning 教材の開発も視野に入れる必要があることも見えてきた。

これらの実施は、簡単なことではないが、日本語教育の質の向上には、このような試み

の積み重ねが必要な時期に来ていると考える。中日プロジェクトはまだその途に就いたば

かりであるが、拡がりのあるものとなることを期待する。

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一体化する世界のなかで日本語はどう変わりうるのか

―暮らしの設計とアーティキュレーション―(連携)―

春原憲一郎(海外産業人材育成協会)

キーワード:2008 年、終わりなき学習と果てしなき就活、おひとりさま、宝の山豊饒の海

1. はじめに

日本・日本語・日本語教育を<図>と考えると、その<地>はどのような風景をしてい

るのかをあぶりだすことによって、日本語教育の連携のあり方に関する問題提起をする。

まず都市人口が 70億人の過半を越えたことによる、人類の人生行路と生活様式に及ぼす影

響に着いて素描し、さらに世帯構成の変化に伴う、再生産労働者の移動と地域連携の必要

性についてふれる。最後に日本語教育が人類共通の豊潤なテーマを持ち、論争的なプラッ

トフォームを提供できることに言及する。それぞれ、要旨とキーポイントを記述する。

2. 2008 年以降の世界

人類が1万5千年前に農耕を開始して初めて、2008 年に都市人口が農村人口を上回った。

それは、人類の生活の基本形が「移動」と「消費」に力点が置かれたことを意味する。グ

ローバルな資源にアクセスできることが移動の自由を保証する。そして言語の学習はグロ

ーバル資源へのアクセス可能性を左右する。

1)移動:移動可能(容易)性とグローバルな資源へのアクセス可能性

2)消費:言語の学習可能(容易)性の保証

3. 人生行路の変化

定着と生産をもっぱらとし、幼児から学生へ、労働者から年金生活者へ、という単線型

人生から、移動と消費を基本とし、終わりなき学習と果てしなき就活を続ける螺旋型人生

へと人生行路が変わりつつある。そこでは人生の諸段階で多様に生起するニーズに対応で

きる言語学習の環境が求められる。そのためには、日本語そのもの、教育体制や試験制度、

社会編成などを学習可能性と社会への参加可能性を高められるよう再構築する必要がある。

1)単線型人生:一夫一婦制と家父長制度

2)螺旋型人生:流動・拡散する世帯、終わりなき学習と果てしなき就活

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4. 暮らしの設計の変化

日本では 2011 年に一人世帯が(核)家族世帯を越えた。一人親世帯も含め、育児と介護の

課題が家族から社会へ、さらにケアの担い手も受け手も国境を越えて移動する可能性が現

実のものとなってきている。結婚や同棲、育児や養育、介護や医療などの再生産過程に関

わる人たちのグローバルな移動を可能にする教育や資格、評価やキャリアパスについての

地域間連携が喫緊の課題としてある。

1)世帯構成の変化:おひとりさま

2)セーフティネットの再設計:家族介護から社会介護へ

3)再生産関係者の越境:EPA、日系人、配偶者、中国帰国者、留学生等々

5. 宝の山:豊饒たる矛盾の海、混沌の渦

三度にわたる核被爆を体験し(続け)、人類史上前例のない超高齢化社会、高度消費社会

を実現し、長寿や消費主体としての女性の存在と国際ジェンダー指数の大きな乖離を示す

等、日本という社会は今後人類が共通して直面するテーマをヴィヴィッドに集約的に抱え

ている。つまり、現代日本は学習・研究・論争する内容に満ち溢れている世界である。

1)人類共通のテーマの宝庫として学習・論争可能なプラットフォームの構築

2)「フクシマテーマパーク」構想(東浩紀、開沼博、津田大介等)、ミナマタ、浦河

3)少子高齢化の第一走者

4)「元気な」女子と国際ジェンダー指数

5)非核三原則と原子力政策等々

6. まとめ

1) 日本語を学ぶことや、日本で学ぶことが、日本や母国への囲い込みではなく、第

三国等へのグローバルな移動可能性を保証する継続学習の環境と普遍的な内容

(例 公的介護システム、防災システム)の連携

2) 学生時代だけではなく、人生の諸段階で多様に生起するニーズに対応できる言語

学習の環境の構築。そのために日本語そのもの、教育体制や資格制度などを学習

可能性と社会への参加可能性を高められるよう連動させること

3) 育児や養育、介護や医療などの再生産過程に関わる人たちのグローバルな移動を

可能にする教育や資格、評価やキャリアパスについての地域間連携

4) 人類共通のテーマの宝庫として日本を論争的なプラットフォームとしていくこと

を可能とする言語とテーマと当該地域の連携

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=================================== 日本語教育学会・国際交流基金公開シンポジウム

日本語教育におけるアーティキュレーション(連続性) -国際的な取り組みと日本における課題-

発 行 2013 年 3 月 23 日 発行者 社団法人日本語教育学会

〒101-0065 東京都千代田区西神田 2-4-1 東方学会新館 TEL 03-3262-4291 FAX 03-5216-7552 E-mail [email protected]

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