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統合失調症患者の薬物療法に関する処方実態調査
(2014年)~全国127施設の調査から~その②
○青南病院 黒沢雅広
精神科臨床薬学(PCP)研究会
宇野準二、柴田木綿、志田雅彦、谷藤弘淳、高橋結花、加藤 剛、長谷川毅、中川将人、本多智子、宮原佳希、梅田賢太、北川航平、三輪高市、高田憲一、天正雅美、野田幸裕、吉尾 隆
日本精神神経学会利益相反(COI)開示
筆頭発表者:黒沢 雅広
演題発表に関連し、開示すべきCOIはない。
倫理的配慮本調査や解析では個人情報を慎重に取扱い十分な倫理的配慮をおこなった。
目的
精神科臨床薬学研究会(以下、PCP研究会)会員の所属する施設に入院中の統合失調症患者について処方調査を行い、薬物療法の実態を把握する。
本発表(その2)では、特に高齢者層(前期高齢者:65歳以上75歳未満、後期高齢者:75歳
以上)における統合失調症入院患者の薬物治療の実態等について報告する。
方法
• 対象:PCP研究会会員の所属する、全国127施設に入院中の統合失調症患者17,400人
• 調査日:2014年10月31日
• 調査項目:年齢、性別、罹病期間、身長、体重、血圧、心電図、血液検査、生化学検査、服薬回数、服薬指導の有無、抗精神病薬、抗パーキンソン薬、抗不安薬・睡眠薬、気分安定薬の投与剤数および投与量
• 統計解析:t検定およびχ2検定を用い有意水準は5%とした
• 医療制度の定義に基づき、65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と表記した
61.8%26.1%
12.1%
年齢層の割合と変化
28.8% 38.2%
n=17,400
2006年 2014年
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
71.2%
21.1%
7.7%
n=9,325
n=17,400
高齢者男女比
5,892
2,163
764
4,863
2,385
1,333
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
男性 女性
(名)
抗精神病薬のCP換算量と服用剤数
(mg) (剤)
931.4
665.7
422.6
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
0
200
400
600
800
1000
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
CP換算 剤数* P<0.05(t検定 vs 65歳未満)
*
*
抗精神病薬の単剤率
33.4%
42.8%
54.2%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者* P<0.05(χ2検定 vs 65歳未満)
*
*
抗精神病薬の併用状況
10.9 14.3 15.7
63.2 58.6 50.3
25.9 27.1 34.1
0%
20%
40%
60%
80%
100%
65歳未満 前期高齢 後期高齢
1世代+1世代 1世代+2世代 2世代+2世代
各年齢区分における抗精神病薬の処方状況
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
全体 第1世代 第2世代0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
単剤 第1世代 第2世代
(併用含む) (単剤比較)
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
(%) (%)
*
* P<0.05(χ2検定 vs 65歳未満)
*
抗不安薬・睡眠薬の処方率とDAP換算量
(mg )
77.5%
68.4%
54.4%
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
併用率 DAP換算* P<0.05(t検定 vs 65歳未満)
*
*
抗パ剤の処方率とビペリデン換算量
(mg )
50.1% 49.8%
40.6%
2.4
2.5
2.6
2.7
2.8
2.9
3.0
3.1
3.2
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
併用率 BIP換算* P<0.05(t検定 vs 65歳未満)
*
*
CP換算量と抗パ剤併用率の関係
0
20
40
60
80
100
65歳未満 前期高齢者 後期高齢者
<500 <1000 >=1000CP換算量(mg):
抗パーキンソン薬の併用率(%)
検査値の比較
BP TG FPG HbA1C
65歳未満 117±17/74±17N=5907
103.5±64.7N=3799
90.7±22.1N=3988
5.5±0.7N=1618
前期高齢 120±19/71±12N=3530
94.3±53.0N=2316
94.2±26.8N=2331
5.8±0.9N=872
後期高齢 123±20/70±13N=1082
91.6±47.5N=760
93.4±24.9N=732
5.7±0.8N=230
(mean±SD)
* * *
* P<0.05(t検定 vs 高齢)
心電図異常者の割合と平均CP換算量
N=16771(%)
**
* P<0.05(χ2検定 vs 65歳未満)
13.5
17.419.1
931.4
665.7
422.6
0
200
400
600
800
1000
0
5
10
15
20
25
65歳未満 前期高齢 後期高齢
心電図異常 CP換算量
(mg)
各年齢層におけるBMI値の割合
15.1
24.5
29.5
56.5
57.7
57.5
21.2
15.2
11
7.2
2.6
2
0% 20% 40% 60% 80% 100%
65歳未満
前期高齢
後期高齢
<18.5 18.5-25 25-30 30<
結果• 統合失調症高齢患者(高齢患者)の割合は全国調査を開始した2006年では28.8%であったが、2014年には38.2%となり、およそ10%の増加となっていた。また、高齢化が進むと、女性患者の割合が高くなっていた。
• 高齢患者への抗精神病薬の処方は、第1世代薬の割合が低かった。一方、第2世代薬の単剤率は高く、かつ低用量であった。また、抗パ剤、抗不安薬・睡眠薬の使用量も有意に低かった。
• 生化学検査データの比較では、65歳未満と高齢患者との間に統計学的な差は認められたが、どの値も正常域の範囲内であった。
• 心電図異常の割合は、抗精神病薬の平均CP換算量に関わらず、高齢者区分では有意に高かった。
• BMI値は各年齢区分において半数以上が「標準(18.5-25)」であったが、65歳未満では肥満型、高年齢層では痩せ型の割合が高くなっていた。
考察• 対象入院患者数に対する前期高齢者と後期高齢者の割合を合わせると、全体の38.5%を占めていた。高齢者が人口の21%を
超えると超高齢社会と呼ぶが、精神科病院においても入院患者の超高齢化が進んでいることが明らかとなった。
• 抗精神病薬、抗パ剤、抗不安・睡眠薬の使用量は高齢となるにしたがって有意に減少していた。しかし、併用率は抗不安・睡眠薬で54%、抗パ剤で40~50%であり、一度処方されたこれらの薬剤が、長期に渡って処方され続けていることが明らかとなった。
• 高齢患者では検査値の比較で有意差が認められたこと、また抗精神病薬の処方量に関わらず心電図異常の患者が増加していたことから、高齢患者に対する薬物療法は、身体機能の変化を十分に考慮して行うべきと考える。
• 高齢患者のBMIは、「痩せ」が約3割と高かった。これは、加齢に
よる食物摂取量の低下に加え、抗パ剤や抗不安・睡眠薬などの抗コリン作用を有する薬剤の長期投与による影響が疑われた。
まとめ
入院中の高齢統合失調症患者に対する薬物療法は、抗精神病薬の投与量が有意に減少しており、精神症状の改善及び身体機能の低下を考慮したものと考えられた。しかし、抗パーキンソン薬、抗不安・睡眠薬の併用率を見ると、長期に渡って漫然投与されているケースが半数以上存在することが明らかとなっており、身体機能のみならず認知機能への影響も危惧される。今後も身体機能が低下した高齢患者への安全な薬物療法のために、定期的な処方内容の見直しを検討していく必要がある。