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ガウスの 2 次形式論とクロネッカー · ウェーバーの定理に ついての考察 三浦 正道 新潟大学大学院自然科学研究科博士前期課程 数理物質科学専攻

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ガウスの2次形式論とクロネッカー ·ウェーバーの定理についての考察

三浦 正道

新潟大学大学院自然科学研究科博士前期課程

数理物質科学専攻

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概要

本論文では, 著者が大学院で学んだ中で, ガウスの 2次形式論とクロネッカー ·ウェーバーの定理に特に興味を持った. ゼミの中でも著者が勉強してきた中で特に苦労し, 時間をかけた主題でもある. 本論文では, この 2つの主題について証明をつけてまとめ, この 2つの主題に関わる考察を行っている.

ガウスの 2次形式論は, 特に整係数 2元 2次形式 ax2 + bxy + cy2における理論である. まず, 1800

年代初頭に, ガウスにより提唱された. 1850年代に入って, デデキントにより, この理論は 2次体の整数論と対応していることがわかり, 2次体のイデアルを 2元 2次形式に簡潔に表現されるようになった. 本論文では, ガウスが提唱した概念を紹介する. さらに 2元 2次形式が実際に 2次体と対応できることも証明していく.

クロネッカー ·ウェーバーの定理は, 任意の Q上のアーベル体は円分体に含まれるという定理である :

アーベル拡大K/Qに対し, K ⊂ Q(ζn)となる n ∈ Nが存在する.

この定理は 1853年にクロネッカーにより述べられたが, 証明の一部が不完全であった. その後, 1886

年にウェーバーが証明を提出したが, ウェーバーによる証明も一部, 誤りを含んでいたという歴史がある. 本論文では, 最初に完全な証明を与えたヒルベルトによる証明を紹介する.

この 2つの主題は, 現在著者が学んでいる, 1920年代に高木貞治とアルティンが構築した類体論の枠組みの中で非常に関係している. 類体論において, アルティンの相互法則という定理がある. この定理は特に, 代数体F に対し, KをF のヒルベルト類体とすると, ガロア群Gal(K/F )とF のイデアル類群ClF は同型であることが知られている :

Gal(K/F ) ≃ ClF .

特に F が類数 2の虚 2次体に対し, ガウスの 2次形式論によりイデアル類群を 2次形式で見ることができ, そのヒルベルト類体はQ上アーベル拡大であるからクロネッカー ·ウェーバーの定理を使って,

F のヒルベルト類体と, F に対応する整係数 2元 2次形式 f(x, y)が実際に対応していることを述べる.

本論文は, Richard A.Mollin著のAlgebraic Number Theoryに従って進められているが, 証明については普段のゼミと同じように, 他の本なども参照し, 自分が完全に納得できるものにしている. 著者が参考にした文献は参考文献に載せている.

本論文は 5つの章からなっている. 第 1章では可換環論, ガロア理論, 代数的整数論の初歩的な定理や, 第 2章以降で必要になってくる定理などを簡単にまとめた. 第 2章では, ガウスの 2次形式論について展開する. この章では 2元 2次形式に対して基本的なものを準備し, そこから 2次体のイデアル類群と対応させている. 第 3章では, 第 1章で準備したこと使って, クロネッカー ·ウェーバーの定理を証明している. 第 4章では, 第 2章や第 3章を利用して著者が考察した, アルティンの相互法則の例である, 虚 2次体上のヒルベルト類体と 2次形式が関わることの具体例を述べている. 最後に, 第 5

章では著者の今後の研究の対象を挙げ, 将来解決したい問題を紹介している.

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謝辞本論文を作成するにあたり, 指導教員の星明考先生から非常に丁寧な指導を頂きました. ここに感

謝の意を表します. また, 私に今後の研究に対する助言を与えてくださった三宅克哉先生と愛知教育大学の岸康弘先生に感謝申し上げます. 更に, この研究に対して様々な意見を出してくれた後輩の金井和貴君と長谷川寿人君にも感謝致します.

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目 次

第 1章 準備 1

1.1 初等整数論から . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 可換環論から . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.3 代数的整数論から . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

1.4 ガロア理論から . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

1.5 ヒルベルトの理論から . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

1.5.1 完全分岐, 完全分解, 惰性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

1.5.2 共役差積と相対判別式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

1.5.3 分解群と惰性群, 高次分岐群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

第 2章 ガウスの 2次形式論 20

2.1 2元 2次形式の基本事項と同値関係の導入 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

2.2 簡約形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

2.2.1 正定値形式の簡約形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

2.2.2 不定形式の簡約形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

2.2.3 2次無理数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

2.3 ディリクレ積と類群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36

2.4 2次体のイデアル類群と 2次形式との対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

第 3章 クロネッカー ·ウェーバーの定理 49

3.1 証明の方針 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

3.2 拡大次数と判別式がともに素数べきのときについて . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50

3.2.1 ヒルベルトの公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51

3.2.2 拡大次数と判別式がともに奇素数べきのときについて . . . . . . . . . . . . . . 54

3.3 クロネッカー ·ウェーバーの定理の証明の完結 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

第 4章 考察と具体例 60

4.1 類数 1の虚 2次体に対応する 2次形式が表現する素数について . . . . . . . . . . . . . 61

4.2 類数 2の虚 2次体に対応する基本形式が表現する素数について . . . . . . . . . . . . . 62

第 5章 今後の研究について 68

5.1 実 2次体の類数とペル方程式について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68

5.2 高次合成則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 69

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第1章 準備

この章では, 第 2章以降に入るための準備を行う. 第 1節で初等整数論のルジャンドル記号と無理数の連分数展開, 第 2節ではイデアルやデデキント整域などの可換環について, 第 3節では代数体の定義や, 類数の有限性などの代数的整数論について, 第 4節ではガロア拡大の定義やガロア理論の基本定理, 第 5節では素イデアル分解におけるヒルベルトの理論について, この章で準備する.

証明はすべて省くが, 参考文献において, 初等整数論は [4], 代数的整数論, ヒルベルトの理論は [1]

から [6]と [16], ガロア理論は [4], [6], [7], [8]にこの内容が載っている.

1.1 初等整数論からこの章では, ルジャンドル記号と無理数の連分数展開について準備する. ルジャンドル記号は第 4

章で取り扱うための道具であり, 連分数展開については第 2章で重要になってくる.

定義 1.1 a ∈ Zをとる. 奇素数 pに対して,

(ap

):=

1 (x2 ≡ a (mod p)となる x ∈ Zが存在するとき),

0 (p | aのとき),

−1 (それ以外)

と定義する. 記号 (ap)をルジャンドル記号 (または平方剰余記号)という.

このルジャンドル記号が満たす大事な定理を述べておく. この定理はルジャンドル記号を計算する際に非常に便利な定理であり, 第 4章で実際に計算するときに利用する.

定理 1.2 a, b ∈ Z, p, qを相異なる奇素数とする. このとき, 以下が成り立つ :

(1) a ≡ b (mod p) ならば(ap

)=( bp

);

(2)(abp

)=(ap

)( bp

);

(3)(qp

)(pq

)= (−1)

p−12

q−12 ;

(4)(−1

p

)= (−1)

p−12 ;

(5)(2p

)= (−1)

p2−18 .

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続いて, 連分数展開について準備する. 第 2章では主に無理数の連分数展開を行うが, ここではまず, 有理数の連分数展開についても述べていく.

まず, a > b かつ b = 0となる a, b ∈ Zをとり, ユークリッドの互除法を行っていく. すなわち,

a = q1b+ r1 (0 < r1 < b),

b = q1r1 + r2 (0 < r2 < r1),...

rn−3 = qn−1rn−2 + rn−1 (0 < rn−1 < rn−2),

rn−2 = qnrn−1 + rn (0 = rn)

というようにかけるとする. これは,

a

b= q1 +

r1b

(0 < r1b< 1),

b

r1= q1 +

r2r1

(0 < r2r1< 1),

...rn−3

rn−2

= qn−1 +rn−1

rn−2

(0 < rn−1

rn−2< 1),

rn−2

rn−1

= qn

となるから,

a

b= q1 +

1

q2 +1

q3 +1

. . .1

qn−1 +1

qn

とかくことができる. つまり, 有理数はユークリッドの互除法で現れた商でかくことができる. この展開のことを有理数 a

bの連分数展開といい,

a

b= [q1, q2, · · · , qn]

とかく.

注意 1.3 ab= [q1, q2, · · · , qn]とかいたときに, q1は a

bの整数部分である. また, q2は b

r1の整数部分で

ある. さらに, i ≥ 3に対して qiはri−1

riの整数部分である. つまり, 小数部分の逆数の整数部分のこと

である.

また, 有理数が与えられたときにその連分数展開は一意であり, 有限に展開される.

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無理数についても整数部分と小数部分があるので, 無理数に対しても連分数展開を拡張することができる. α ∈ R\Qに対して, [α]を αを超えない最大の整数, (α) := α − [α]と表すことにする. つまり, (α)は αの小数部分を表している.

このとき, 注意 1.3のようにすると,α = [α] + (α) (0 < (α) < 1),

(α)−1 = [(α)−1] + ((α)−1)) (0 < ((α)−1)) < 1),...

というように展開できる. 無理数であるから, 無限に続くことに注意する. これが無理数のときの連分数展開である. また, 無理数を連分数展開したときに出てくる無理数のことを中間連分数という.

式ではわかりにくいので, 連分数展開の簡単な例を挙げておく.

例 1.4 (√2の連分数展開) [

√2] = 1であるから, (

√2) =

√2− 1 = 1√

2+1である. つまり,

√2 = 1 +

1√2 + 1

とかける. さらに, [√2 + 1] = 2であるから, (

√2 + 1) =

√2− 1 = 1√

2+1である. つまり,

√2 = 1 +

1

2 +1

√2 + 1

とかける. 分母に同じものが出たため, 以降はこれを繰り返しやっていくことになるので,

√2 = [1, 2, 2, 2, · · · ]

と展開される.

次に, 連分数展開の性質を述べる.

λ1, λ2, · · · と変数とし, [λ1, λ2, · · · ]を考えると, これは λ1, λ2, · · · の有理関数でかくことができる. 2

つ数列 Pn, Qnを, 次のように定義する :{Pn = λnPn−1 + Pn−2 (P0 = 1, P1 = λ1),

Qn = λnQn−1 +Qn−2 (Q0 = 0, Q1 = 1).

この数列に対し, 次のことが成り立つ :

定理 1.5 n ∈ Nに対し,

(1) [λ1, λ2, · · · ] = Pn

Qn.

(2) PnQn−1 − Pn−1Qn = (−1)n.

次に, 無理数に対して同値関係を定義する.

定義 1.6 α, β ∈ R\Qとする.

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(1) α+∼ β

def⇐⇒ β =pα + q

rα + sかつ ps− qr = 1となる p, q, r, s ∈ Zが存在する.

(2) α−∼ β

def⇐⇒ β =pα + q

rα + sかつ ps− qr = −1となる p, q, r, s ∈ Zが存在する.

(1)が成り立つときにαと βは正に同値であるといい, (2)が成り立つときにαと βは負に同値であるという. また, (1)または (2)を満たすときに αと βは同値であるといい, α ∼ βとかく.

この同値に対して成り立つことを 2つ述べておく :

命題 1.7 α ∈ R\Qを連分数展開し, 定理 1.5により,

α =Pnαn + Pn−1

Qnαn +Qn−1

かつ

PnQn−1 − Pn−1Qn = (−1)n

を得る. このとき, nが偶数ならば α+∼ αnであり, nが奇数ならば α

−∼ αn である.

定理 1.8 α, β ∈ R\Qをとり, それぞれを連分数展開を,

α = [a0, a1, · · · , al−1, αl],

β = [b0, b1, · · · , bm−1, βm]

とする.

(1) α ∼ β ならば, αl = βmとなる l,m ∈ Z≥0が存在する.

(2) α+∼ β ならば, (1)の l,mはどちらも奇数になるか偶数になるかのどちらかであり, α

−∼ βならば,

l,mは一方は偶数でもう一方は奇数になる.

1.2 可換環論からこの節では, 可換環論について準備していく. この節での目標はデデキント整域であり, この整域

が非常に重要な概念である.

注意 1.9 環は乗法の単位元 1を含む可換環であることを仮定する.

定義 1.10 Rを環とする. α ∈ Rが単数 (単元ともいう)def⇐⇒ αβ = 1となる β ∈ Rが存在する.

また, Rの単数全体の集合は群をなす. その群をR×とかく.

定義 1.11 環Rが整域 def⇐⇒ αβ = 0となる α, β ∈ Rに対し, α = 0 または β = 0 が成り立つ.

次に, イデアルを定義する.

定義 1.12 Rを環とする. ∅ = I ⊂ RがRのイデアル def⇐⇒ 以下の条件を満たす :

(1) α, β ∈ I ならば α + β ∈ I ;

(2) α ∈ I, r ∈ R ならば rα ∈ I.

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定義 1.13 Rを環とする.

(1) Rのイデアル Iが素イデアル def⇐⇒αβ ∈ I となる α, β ∈ Rに対し, α ∈ P または β ∈ Pが成り立つ.

(2) Dのイデアル Iが極大イデアル def⇐⇒I ⊂ J ⊂ D となるRのイデアル J に対し, J = Dまたは J = Iが成り立つ.

素イデアルと極大イデアルに対し, 次の性質が成り立つ :

命題 1.14 極大イデアルならば素イデアルである.

注意 1.15 命題 1.14の逆は一般には成り立たない. 例えば, Z上の 1変数多項式環 Z[X]のイデアル(X)は素イデアルであるが, 極大イデアルではない例の 1つである.

一般に, イデアルは複数の元で生成されているが, 特にすべてのイデアルが 1つの元で生成される整域を次に定義する.

定義 1.16 イデアルが単項生成となるとき単項イデアルという. また, すべてのイデアルが単項イデアルである整域を単項イデアル整域 (PID)という.

例 1.17 Z,Z[√−1]は PIDだが, Z[

√−5], Z[

√−6]は PIDではない.

次に, デデキント整域を定義する上で重要になる環について述べる.

定義 1.18 環Rがネーター環である def⇐⇒ すべてのRのイデアルの昇鎖

I1 ⊂ I2 ⊂ · · · ⊂ In ⊂ · · ·

が定留的である.

この環について, 次が成り立つ :

命題 1.19 環Rに対し, 以下は同値である :

(1) Rはネーター環である ;

(2) Rのすべてのイデアルが有限生成である.

これから, デデキント整域を定義していく. その前に, 商体を定義する.

定義 1.20 整域Dに対し, 次の集合Q(D)でDの商体を定義する :

Q(D) :={ab

∣∣∣ a, b ∈ D, b = 0}.

デデキント整域を定義する上で重要な概念である, 整閉について定義する.

定義 1.21 Rを環とし, SをRの部分環と仮定する.

(1) α ∈ Rが S上整 def⇐⇒ f(α) = 0となる S上の多項式で最高次係数が 1である f(X)が存在する.

(最高次係数が 1である多項式をモニック多項式という)

(2) SがDにおいて整閉である def⇐⇒ α ∈ SがD上整ならば, α ∈ Dである.

以上, 定義 1.19, 定義 1.21から, デデキント整域が定義できる.

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定義 1.22 整域Dがデデキント整域である def⇐⇒ 以下の 3つの条件を満たす :

(1) Dはネーター整域である ;

(2) (0)でないDの素イデアルは極大イデアルである ;

(3) Dは商体Q(D)内で整閉である.

デデキント整域では, 次が成り立つ :

命題 1.23 Dをデデキント整域とする. 以下は同値である :

(1) Dは PID ;

(2) DはUFD. 1

一般の整域では PIDならばUFDは成り立つが, その逆は成り立たない. しかし, デデキント整域ではその逆も成り立つことを意味している.

次に, このデデキント整域の特徴づけを行う. そのために, 分数イデアルの概念を導入する.

定義 1.24 Dを整域とする. ∅ = I ⊂ Q(D)がDの分数イデアル def⇐⇒ 以下の 3つの条件を満たす :

(1) α, β ∈ Iならば, α+ β ∈ I ;

(2) α ∈ I, r ∈ Dならば, rα ∈ I ;

(3) γI ⊂ Dとなる γ ∈ D\ {0}が存在する.

注意 1.25 分数イデアルは定義 1.12で定義したイデアルにはならない. 区別するために, イデアルを整イデアルとも呼ぶこともある. 一般に整イデアルは分数イデアルである.

定義 1.26 Dを整域とする. Dの分数イデアル Iが可逆 def⇐⇒ IJ = DとなるDの分数イデアル J が存在する.

この可逆の概念を導入することにより, 次の命題が示せる :

命題 1.27 デデキント整域Dの (0)でないすべてのイデアルは可逆である.

この命題を使って, 次のデデキント整域の最大の特徴である定理を示せる :

定理 1.28 デデキント整域Dのすべての真の整イデアルは一意に素イデアル分解できる.

定理 1.28から, デデキント整域の特徴づけが可能になる.

定理 1.29 整域Dに対し, 以下の 5つは同値である :

(1) Dはデデキント整域である ;

(2) すべての真のDの整イデアルは一意に素イデアル分解でき, (0)でないすべてのDの素イデアルは可逆である ;

(3) (0)でないすべてのDの整イデアルは可逆である ;

(4) (0)でないすべてのDの分数イデアルは可逆である ;

(5) (0)でないDの分数イデアル全体の集合はイデアルの乗法に関して, アーベル群をなす.

1UFDとは一意分解整域と呼ばれる整域で, 単数を除く任意の元が既約元で一意に分解される.

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1.3 代数的整数論からこの節では, 代数的整数論について述べていく. 代数体に関する様々な概念の定義や定理を準備し

ていく. 特に, この後で大切になってくるものがイデアル類群とその位数の有限性, ディリクレの単数定理である.

定義 1.30 (1) α ∈ C が代数的数 def⇐⇒ f(α) = 0となるQ上の多項式 f(X)が存在する.

代数的数全体の集合をQとかく.

(2) α ∈ C が代数的整数 def⇐⇒ αは Z上整.

代数的整数全体の集合を Zとかく.

例 1.31 (1) a+ bi (a, b ∈ Q)は代数的数であるが, e, πは代数的数でない.

(2) a+ bi (a, b ∈ Z)は代数的整数であるが, q (q ∈ Q\Z)は代数的整数ではない.

Q, Zについては, 次のことが知られている :

命題 1.32 (1) Qは代数的閉体である.

(2) ZはCの部分環である.

Qと Zを使って代数体とその整数環を定義する.

定義 1.33 F は代数体 def⇐⇒ F はQの部分体でQ上有限次な体.

また, F ∩ Zを代数体 F の整数環といい, OF と表す.

次に, 環論の概念から離れて, ノルムやトレース, 判別式について定義する. これは代数的整数論では重要な概念である. そのために, 埋め込みを導入する.

定義 1.34 F を代数体とする. f : F → CのQ-単射準同型写像のことを F の埋め込みという.

さらに, Imf ⊂ Rとなる F の埋め込みを F の実埋め込みといい, そうでないとき, F の虚埋め込みという.

この埋め込みについて, 次が成り立つ :

命題 1.35 Q上 n次代数体 F の埋め込みは n本ある. また, F の実埋め込みの数を r1, 虚埋め込みの数を r2とすれば, n = r1 + 2r2が成り立つ.

埋め込みが定義できても, どのような写像になっているのかわからない. しかし, 代数体F はQ(α)

となる α ∈ OF が存在するため, この αがどのように写るかによる. 実際, αは恒等写像でなければQ上の最小多項式の別の根に写るしかない. ここで, αのQ上の最小多項式とは, αを根にもつようなQ上既約な最小次数のモニック多項式のことである. Q上の最小多項式は, Qを一般の代数体上の最小多項式に拡張できる.

例 1.36 F = Q( 3√2)とする. F の埋め込みは 3

√2がどのように写るかによる. θを F の埋め込みとす

るとき, θ( 3√2) = 3

√2, 3√2ζ3,

3√2ζ3

2となる.3√2のQ上の最小多項式は x3 − 2であるから, 3

√2の θによる像は 3

√2のQ上の最小多項式の根に

なっている.

埋め込みから, まずは元のノルム, トレースについて定義できる.

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定義 1.37 F をQ上 n次代数体, j = 1, · · · , nに対し θjを F の埋め込みとする. α ∈ F に対し

NF (α) :=n∏

i=1

θi(α)

を αの (絶対)ノルムといい,

TF (α) :=n∑

i=1

θi(α)

を αの (絶対)トレースという.

定理 1.38 F を代数体とすると, α, β ∈ F に対し, 以下が成り立つ :

(1) NF (α), TF (α) ∈ Q ;

(2) NF (αβ) = NF (α)NF (β) ;

(3) TF (α + β) = TF (α) + TF (β).

基礎体であるQを上げ一般の代数体 F 上でも, 同じように埋め込みを考えることができ, ノルム,

トレースを定義できる.

定義 1.39 基礎体を代数体 F とし, Kを F 上 n次代数体とすると, Kは F 不変の埋め込みを n本もつ. それらを θ1, · · · , θnとすると, α ∈ Kに対し,

NK/F (α) :=n∏

i=1

θi(α)

を αの (相対)ノルムといい,

TK/F (α) :=n∑

i=1

θi(α)

を αの (相対)トレースという. 特に, F = Qの時は, 定義 1.37と同じである. 相対ノルム, 相対トレースは F の元であり, 定理 1.38と同じような推移律が成り立つ.

絶対ノルムについては, 元が単数かどうかを判定することができる :

命題 1.40 代数体 F に対し, 以下は同値である :

(1) α ∈ O×F ;

(2) |NF (α)| = 1.

次に, 代数体の判別式について定義する. その前に, 基底の判別式を定義する.

定義 1.41 F をQ上 n次代数体とすると, F はQ上の基底B = {α1, · · · , αn}をもつ.

j = 1, · · · , nに対し, θjを F の埋め込みとするとき,

disc(B) := det

θ1(α1) · · · θ1(αi) · · · θ1(αn)

.... . .

...

θj(α1) · · · θj(αi) · · · θj(αn)...

. . ....

θn(α1) · · · θn(αi) · · · θn(αn)

2

をBの判別式という.

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一般に, Q上 n次代数体 F の整数環 OF は, 階数 nの自由 Z加群である. つまり, Z上の基底B′ = {α′

1, · · · , α′n}をもつ. この基底を整基底という. 整基底により, 代数体の判別式が定義できる.

定義 1.42 代数体 F に対し, F の整基底B′ = {α′1, · · · , α′

n}の判別式 disc(B′)を F の判別式といい,

∆F とかく.

後で述べるが, 素数を代数体に持ち上げたときに, その素数が代数体で分岐するための必要十分条件に判別式が使われる.

一般に, 代数体の判別式については次が成り立つ :

定理 1.43 K, F を代数体とする.

(1) F ⊂ Kならば∆F | ∆K .

(2) ∆F ≡ 0, 1 (mod 4) かつ |∆F | ≥ 1を満たす.

(3) F = Q ⇐⇒ ∆F = 1.

ここで, 様々な代数体の判別式の例を挙げておく.

例 1.44 (1) Q上の 2次体の判別式は第 2章で求めている.

(2) pを素数, a ∈ Nとする. このとき, pa分体 F = Q(ζpa)の判別式∆F は,

∆F = (−1)ϕ(pa)

2 ppa−1(a(p−1)−1)

である. 2

(3) 行列のクロネッカー積を使うことにより, 一般の円分体の判別式を求めることができる. すなわち, n ∈ Nを n =

∏ri=1 p

ajj と素因数分解したときに, F = Q(ζn)の判別式∆F は,

∆F =(−1)

rϕ(n)2 nϕ(n)∏r

i=1 pjϕ(n)pj−1

である.

次に, イデアルのノルムについて定義する.

定義 1.45 F を代数体, Iを F の整数環OF のイデアルとする.

NF (I) := |OF/I|

をイデアル Iのノルムという.

定理 1.46 I, J を代数体 F の整数環OF のイデアルとすると, 以下が成り立つ :

(1) NF (IJ) = NF (I)NF (J) ;

(2) α ∈ OF に対し, I = (α) ならば, NF (I) = |NF (α)|である.

注意 1.47 注意 1.39と同様に, 定義 1.45で定義したノルムは基礎体がQであるが, 基礎体Qを上げ,

一般の代数体 F 上でも同じようにイデアルのノルムを考えることができる. このノルムについては,

ヒルベルトの理論で説明する.

2ζn は 1の原始 n乗根のことである. すなわち n乗してはじめて 1になる数のことである. また, ϕ(n)は, nのオイラー関数を表している.

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イデアルのノルムと判別式には次のような関係がある :

定理 1.48 I = (0)を代数体 F の整数環OF のイデアルで Z上の基底B = {α1, · · · , αn}をもつと仮定すると,

NF (I)2 =disc(B)

∆F

が成り立つ.

話を整数環に戻す. 一般に, 代数体 F の整数環OF について, 次のことがいえる :

定理 1.49 代数体 F の整数環OF はデデキント整域である.

定理 1.49により, (0)でない整数環のイデアルは素イデアルに一意に素イデアル分解されることが分かった. 素イデアル分解についての理論がヒルベルトの理論であり, この後に載っている.

また, 定理 1.29より (0)ではない代数体の整数環の分数イデアル全体の集合はアーベル群をなすことも分かった. 代数体 F が与えられたときに, (0)ではない分数イデアル全体のなすアーベル群を IFとかき, それの部分群である単項分数イデアルからなる群を PF とかく. これで, IF を割ったアーベル群がイデアル類群である. 簡単にいえば, イデアルと数のずれを表す群になっている.

定義 1.50 F を代数体とする. ClF := IF/PF を F のイデアル類群という.

注意 1.51 代数体 F の整数環OF の分数イデアル I, J に対し, 次のような同値関係を導入する :

I ∼ Jdef⇐⇒ (α)I = (β)J となる α, β ∈ OF が存在する.

この同値関係により, IF を割った群をイデアル類群と見ることができ, 上の定義と同じであることがわかる.

次の命題は明らかであるが, PIDであるための必要十分条件になっている :

命題 1.52 代数体 F に対し, ClF = {1} ⇐⇒ F の整数環OF は PID.

イデアル類群の位数が有限かどうかについては, 数の幾何と呼ばれる概念を使えば示すことができる. 次の結果がそれであり, とても重要な結果である :

定理 1.53 代数体 F に対し, |ClF | <∞である.

代数体 F のイデアル類群ClF の位数を F の類数といい, hF とかく. 第 2章では 2次体についてではあるが, それを 2元 2次形式という別の概念を使って求めている.

この節の最後に, ディリクレの単数定理について述べる. これは, 命題 1.40からペル方程式などの方程式の解の構造が分かるという有用な定理である.

定理 1.54 (ディリクレの単数定理) Q上 n次代数体 F に対し, F の実埋め込み, 虚埋め込みの数をそれぞれ r1, r2とする. さらに, 複素数平面の単位円上にある F の整数環OF の単数の位数をmとすると,

O×F ≃ Zr1+r2−1 × ⟨ζm⟩ ≃ ⟨u1⟩ × · · · × ⟨ur1+r2−1⟩ × ⟨ζm⟩

となる u1, · · · , ur1+r2−1 ∈ O×F が存在する. この単数のことを基本単数という.

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1.4 ガロア理論からこの節では, ガロア理論について準備する. これは, 次の節であるヒルベルトの分岐理論を述べる

ためにも重要であり, 数論を勉強していくためには, 必要不可欠な道具の一つでもある.

前の節で代数体F の埋め込みについて定義したが, これの写した先を自分自身に制限する写像を考える. まず, その写像について定義する.

定義 1.55 K/F を体の拡大とする.

(1) f : K → Kとなる準同型写像のことを自己同型写像という. Kの自己同型写像全体の集合は写像の合成に関して群をなす. この群をKの自己同型群といい, Aut(K)とかく.

(2) Aut(K)のうち, F 不変なものを F -自己同型写像という. Kの F -自己同型写像全体の集合もまた写像の合成に関して群をなす. この群を F -自己同型群といい, Aut(K/F )とかく.

ここで,自己同型群で動かない体を考える. この体を不変体という.例 1.36に対しては, Aut(F/Q) =

{id}であるから, 代数体の拡大 F/Qにおける, Aut(F/Q)による不変体は F である.

しかし, F の拡大体K = F (ζ3)を考えると, 代数体の拡大K/QにおけるAut(K/Q)による不変体はQとなる. これがQ上ガロア拡大の例の 1つである.

一般に体の拡大K/F に対し, G = Aut(K/F )とおいたとき, GによるKの不変体をKGとかく.

定義 1.56 K/F を体の有限次拡大, G = Aut(K/F )とする. K/F がガロア拡大 def⇐⇒ KG=F .

このとき, Gをガロア群といい, Gal(K/F )とかく.

体の有限次拡大K/F がガロア拡大のとき, ガロア群の位数は次のようになる :

定理 1.57 体の有限次拡大K/F がガロア拡大のとき, |Gal(K/F )| = |K : F |.

他の本では, 正規拡大や分離拡大を使って定義している. しかし, それらと上の定義が同値であることが次の命題から示される.

命題 1.58 体の有限次拡大K/F に対して, 以下は同値である :

(1) K/F はガロア拡大 ;

(2) K/F は正規拡大かつ分離拡大 ;

(3) K/F は F 上のある分離多項式の最小分解体である.

注意 1.59 (2)において, F の標数が 0の場合は, すべての拡大K/F は分離拡大であることが示される. つまり, 標数が 0の場合はガロア拡大かどうかを調べるには, 正規拡大かどうかを見ればよい.

次から, このガロア群に関する基本的な定理をいくつか述べていく. まずは, ガロアの基本定理について述べる. これは体と群が 1対 1に対応しているという定理である.

定理 1.60 (ガロア理論の基本定理) K/F をガロア拡大とし, G = Gal(K/F )とおく.

(1) K/F の任意の中間体 Lに対して, K/Lはガロア拡大.

(2) FをK/F の中間体全体の集合, GをGの部分群全体の集合とする. ここで, 写像 ϕを,

ϕ : F −→ G

∈ ∈

L 7−→ Gal(K/L)

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と定義し, 写像 ψを

ψ : G −→ F

∈ ∈

H 7−→ KH

と定義する. このとき, 写像 ϕ = ψ−1である.

また, H1, H2 ∈ Gに対して,

ψ(H1) ⊂ ψ(H2) ⇐⇒ ϕ(ψ(H1)) = H1 ⊃ H2 = ϕ(ψ(H2))

が成り立つ. つまり, ガロア群と不変体の包含関係は逆になる.

さらに,

|ψ(H2) : ψ(H1)| = |H1 : H2|

である.

(3) LをK/F の中間体とするとき, L/F はガロア拡大 ⇐⇒ Aut(K/L) ◁ G.

(Aut(K/L)はGの正規部分群であることをいっている)

さらに, L/F がガロア拡大ならば,

Gal(L/F ) ≃ Gal(K/F )/Gal(K/L)

が成り立つ.

主張だけではわからないので, ガロア拡大の例であるQ( 3√2, ζ3)/Qについて考える.

例 1.61 K = Q( 3√2, ζ3), F = Qとおく. K/F はガロア拡大であり. G = Gal(K/F ) = ⟨σ, τ⟩ ≃ S3で

ある. ただし, σ : 3√2 7→ 3

√2ζ3, τ : ζ3 7→ ζ23 のように写すKの F -自己同型写像とする.

よって, これらによる群と体の対応は以下のようになる. このような対応をガロア対応という. 群の包含関係は逆であることに注意する.

F

Q( 3√2) Q( 3

√2ζ3)Q( 3

√2ζ3

2)

Q(ζ3)

K

G

⟨τ⟩ ⟨σ2τ⟩ ⟨στ⟩⟨σ⟩

{1}

すると, 定理 1.60 (2)の写像を使えば, それぞれのハッセ図は対応していることがわかる. 主に, ガロア群が有限群のとき, それに対応する中間体を求めるときに使っていく.

最後に, このガロア群に対する定理を述べておく. この定理は第 3章で述べるクロネッカー · ウェーバーの定理の証明で使う.

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定理 1.62 j = 1, 2に対し, Kj/F を有限次ガロア拡大とすると, 以下が成り立つ :

(1) K1K2/K1, K1K2/K2はガロア拡大であり,

Gal(K1K2/Kj) ≃ Gal(Kj/K1 ∩K2) ;

(2) K1K2/K1 ∩K2はガロア拡大であり,

Gal(K1K2/K1 ∩K2) ≃ Gal(K1/K1 ∩K2)×Gal(K2/K1 ∩K2) ;

(3) K1/F , K2/F がどちらもアーベル拡大 3ならば, K1K2/F もアーベル拡大である.

1.5 ヒルベルトの理論から基礎体がQである代数体の拡大を絶対拡大といい, 基礎体が一般の代数体 F = Qである代数体の

拡大を相対拡大という. この節では, 基礎体がQのときだけではなく, 一般の代数体 F に対して展開させていく理論について述べていく.

代数体の拡大K/F に対し, F の整数環OF の素イデアル pをKの整数環OKに上げて考えることができる. 定理 1.49より, pをOKで素イデアル分解することが可能である. そのときに, pがOKの素イデアルになったりならなかったりする. このことについて簡単な例を挙げる.

例 1.63 代数体の拡大Q(√−1)/Qを考える. (OQ = Z, OQ(

√−1) = Z[

√−1]である)

(a) p1 = (2)は Zの素イデアルであり, Z[√−1]まで上げて分解を考えると, p = (1 +

√−1)2となる.

(b) p2 = (5)については, p2 = (2 +√−1)(2−

√−1)と分解される.

(c) p3 = (7)については, Z[√−1]でも素イデアルのままである.

1.5.1 完全分岐, 完全分解, 惰性

一般に, (a)のようになることを完全分岐, (b)のようになることを完全分解, (c)のようになることを惰性という. 形式的に定義するために, まず, 分岐指数, 分解数, 惰性次数を定義する.

定義 1.64 K/F を代数体の拡大, pを F の整数環OF の素イデアルとする. pをKの整数環OKに上げて分解したとき,

pOK =

g∏j=1

Pjej

と分解したとする.

(1) ejをPjの分岐指数といい, eK/F (Pj)と表す.

(2) gを pの分解数といい, gK/F (p)と表す.

(3) 体の拡大次数 |OK/Pj : OF/p|をPjの相対次数といい, fK/F (Pj)と表す.

3ガロア拡大K/F がアーベル拡大であるとは, そのガロア群 Gal(K/F )がアーベル群であるということである. またガロア群 Gal(K/F )が巡回群になるとき, ガロア拡大K/F は巡回拡大であるという.

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この分岐指数, 分解数, 相対指数を定義できたのでイデアルのノルムを基礎体を一般の代数体にして定義することができる.

注意 1.65 K/F を代数体の拡大, PをKの整数環OKの素イデアルとすると, P∩OF はF の整数環OF の素イデアルである.

定義 1.66 K/F を代数体の拡大, PをKの整数環OK の素イデアルとし, p = P ∩OF とする.

このとき,

NK/F (P) := pfK/F (P)

をPの (相対)ノルムという.

これは, Kの整数環OKの分数イデアルに拡張できる. IをKの整数環OKの分数イデアルとし, I

の素イデアル分解を,

I =n∏

j=1

Pjaj

とすると, Iの相対ノルムは,

NK/F (I) =n∏

j=1

pjajfK/F (Pj)

と拡張できる. 特に F = Qのときは, 定義 1.45をイデアルで表したものになる.

分岐指数, 惰性指数については次の推移律が成り立つ :

命題 1.67 F ⊂ L ⊂ Kとなる代数体の塔をとる. PをKの整数環OKの素イデアルとし, P′ = P∩OL

とおく.

(1) eK/F (P) = eK/L(P)eL/F (P′).

(2) fK/F (P) = fK/L(P)fL/F (P′).

惰性指数により, 分岐について定義できる.

定義 1.68 定義 1.64において, eK/F (Pj) ≥ 2のとき, Pjは分岐するという.

また, eK/F (Pj) = 1のとき, Pjは不分岐であるという.

分岐指数, 分解数, 惰性指数には次のような関係が成り立つ :

定理 1.69 K/F を代数体の拡大とする. F の整数環OF の素イデアル pをKの整数環OK に上げたとき,

pOK =

g∏j=1

Pjej

と分解したとする. 簡単のため, ej = eK/F (Pj), fj = fK/F (Pj), g = gK/F (p)とおくと,

g∑j=1

ejfj = |K : F |

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となる. さらに, K/F がガロア拡大のときは, 分岐指数と相対次数は一定になる. つまり, j = kに対し, ej = ek, fj = fkとなり, ej = e, fj = f とすると,

efg = |K : F |

である.

次に完全分解, 完全分岐, 惰性を定義する.

定義 1.70 K/F を代数体の拡大, pを F の整数環OF の素イデアルとする. pをKの整数環OKに上げたとき,

pOK =

g∏j=1

Pjej

と分解したとする.

(1) pは完全分岐する def⇐⇒ eK/F (Pj) = |K : F |となる jが存在する.

(2) pは完全分解する def⇐⇒ gK/F (p) = |K : F |.(3) pは惰性する def⇐⇒ 任意の 1 ≤ j ≤ gに対し, fK/F (Pj) = |K : F |.

定理 1.69により, 次のことがわかる :

系 1.71 K/F を代数体の素数次ガロア拡大とすると, 定理 1.69より F の整数環OF の素イデアルはKの整数環OKで分解すると, 完全分解するか完全分岐するか惰性するかの 3通りしかない.

1.5.2 共役差積と相対判別式

この節では相対判別式などについて述べていく. 最も重要になってくるものが共役差積と判別式であり, これらは第 3章以降で重要な役割をもつ. まず, 双対集合について述べていく.

定義 1.72 Dを商体Q(D)が代数体F となる整域とし, KをF の拡大体となる代数体とする. M ⊂ K

に対して,

M∗ :={α ∈ K | TK/F (αM) ⊂ D

}をM の双対集合という.

定義より, M1 ⊂M2 ならば M∗1 ⊃M∗

2 が成り立つことがわかる. さらに, Mが次に述べるような特別な場合のときには, M∗が非常に求めやすくなる.

命題 1.73 定義 1.72の仮定の下, f(X) ∈ D[X]を αの F 上の最小多項式とするとき,

M = D[α]ならばM∗ =M

f ′(α).

注意 1.59により分離拡大であるから, 前の命題が適用できる. さらに, M を単なる部分集合ではなく, 分数イデアルにすると定理 1.29により可換性が成り立つから, 次のような性質が得られる :

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命題 1.74 Kを代数体とする.

(1) J がKの整数環OK の分数イデアルならば J∗もOK の分数イデアルで, JJ∗ = OK∗である.

(2) IがKの整数環OK のイデアルならば, (I∗)−1もOK のイデアルである.

上の命題 1.74 (2)により, 相対拡大での共役差積を定義できる.

定義 1.75 K/F を代数体の拡大, J ∈ IK とする. (J∗)−1を F 上 J の共役差積といい, DK/F (J)とかく. 特に, DK/F (OK)を拡大K/F の共役差積といい, 単にDK/F とかく.

この共役差積については, 次のような性質をもつ :

命題 1.76 F ⊂ L ⊂ Kを代数体の塔とする.

(1) J がKの整数環OK の分数イデアルならば, DK/F (J) = JDK/F .

(2) DK/F = DK/LDL/F .

最小多項式の根の差積も共役差積という. 具体的に, 代数体の拡大K/F に対し, α ∈ Kの F 上の最小多項式を f(X)とおくと, その共役差積は f ′(α)である. 拡大K/F の共役差積DK/F と元の共役差積は非常に関係ある. それが次の定理である :

定理 1.77 代数体の拡大K/F に対し, DK/F は任意の α ∈ OK の共役差積から生成されるKの整数環OK のイデアルである.

この共役差積を使って, 相対拡大における判別式を定義する.

定義 1.78 K/F を代数体の拡大とする. NK/F (DK/F )をK/F の相対判別式といい, ∆K/F と表す.

相対判別式には, 次のような性質がある :

命題 1.79 代数体の拡大 F ⊂ L ⊂ Kとする.

(1) ∆F/Q = (∆F ).

(2) ∆K/F = ∆|K:L|L/F NK/F (∆K/L).

命題 1.79 (2)を使って 第 4章で述べる不分岐拡大についてみていくときに, 実際に不分岐拡大かどうかを確かめる. 不分岐拡大についてはこの節の最後に定義する.

この判別式や共役差積により, 前節で述べた分岐する素イデアルがどのような素イデアルか特徴づけできる. それが次の定理である :

定理 1.80 K/F を代数体の拡大とする.

(1) Kの整数環OK の素イデアルPがK/F で分岐する ⇐⇒ P | DK/F .

(2) F の整数環OF の素イデアル pがKで分岐する ⇐⇒ p | ∆K/F .

特に, 定理 1.80において, 素数 pが代数体Kで分岐することは pがKの判別式∆K を割ることと同値であることが命題 1.79 (1)からわかる. 最後に, 不分岐拡大を定義する.

定義 1.81 K/F を代数体の拡大とする.

K/F は不分岐拡大 def⇐⇒ F の整数環OF の素イデアルはすべてKで分岐しない.

一般に, 基礎体がQの場合, 定理 1.43 (3)より不分岐拡大は存在しないことがわかる.

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1.5.3 分解群と惰性群, 高次分岐群

この節では, クロネッカー ·ウェーバーの定理を証明する上で重要になる分解群と惰性群, 高次分岐群について述べていく. この概念は前節の分解指数や惰性指数と関わりがある. さらに, 完全分解する素イデアルの特徴づけを様々な観点で見ていく.

定義 1.82 K/F を代数体のガロア拡大, PをK の整数環OK の素イデアルとする. G = Gal(K/F )

とおく.

(1)

DP(K/F ) := {σ ∈ G | σ(P) = P}

をPの分解群という. Pの分解群による不変体KDP(K/F )をP の分解体といい, ZP(K/F )とかく.

(2)

IP(K/F ) := {σ ∈ G | σ(α) ≡ α (modP) (∀α ∈ OK)}

をPの惰性群という. Pの惰性群による不変体KIP(K/F )をP の惰性体といい, TP(K/F )とかく.

注意 1.83 定義 1.82における mod は, イデアルに対するものである. すなわち, Iを環Rのイデアルとする. α, β ∈ Rに対し,

α ≡ β (mod I)def⇐⇒ α− β ∈ I

ということを表している.

分解群, 惰性群の性質は次のようである :

定理 1.84 K/F を代数体のガロア拡大, PをOK の素イデアルとする. p = P ∩OF とおく.

(1) |DP(K/F )| = eK/F (p)fK/F (p).

(2) IP(K/F )◁DP(K/F ).

(3) |IP(K/F )| = eK/F (p).

注意 1.85 DP(K/F )はGal(K/F )の部分群であるが, 正規部分群ではない場合がある.

もしDP(K/F )◁Gal(K/F )ならば, OF の素イデアル p = P ∩OF はKで完全分解する.

また, 分解体, 惰性体の性質も次のように示される :

命題 1.86 K/F を代数体のガロア拡大, PをOK の素イデアルとする. p = P ∩OF とおく.

(1) Pの分解体 ZP(K/F )は, PL = P ∩ OLがOK で分解したときに, 素因子がPしかないようなK/F の最小の中間体 Lである.

(2) Pの分解体ZP(K/F )は, eL/F (PL) = fL/F (PL) = 1となるようなK/F の最大の中間体Lである.

(3) Pの惰性体 TP(K/F )は, eL/F (PL) = 1となるようなK/F の最大の中間体 Lである.

(4) Pの惰性体 TP(K/F )は, eK/L(P) = |K : L|となるようなK/F の最大の中間体 Lである.

(5) π ∈ P\P2となる元をとると, K = TP(K/F )(π)とかける.

さて, 定理 1.84 (2)を示すときに次の群の同型を示すことになる :

DP(K/F )/IP(K/F ) ≃ Gal((OK/P)/(OF/p)).

17

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ここで, K の整数環OK の素イデアルPがK/F で不分岐のとき eK/F (P) = 1であるから, 上の同型は

DP(K/F ) ≃ Gal((OK/P)/(OF/p))

となる. したがって, Pの分解体DP(K/F )は位数 fK/F (P)の巡回群となる. この結果から, 数論で重要なフロベニウス自己同型写像, アルティン写像を定義できる.

定義 1.87 K/F を代数体のガロア拡大, PをK/F で不分岐なOKの素イデアルとすると, DP(K/F )

は巡回群で生成元をもつ. この生成元のことをフロベニウス自己同型写像といい, (K/FP

)とかく. 対応としては, α ∈ OKに対し, (K/F

P

)(α) ≡ αNF (p) (modP)

で与えられる.

特に, K/F がアーベル拡大のとき, フロベニウス自己同型写像は p = P ∩OF のみに依存し,(K/Fp

)(α) ≡ αNF (p) (mod pOK)

となる. (K/Fp

)をアルティン記号という.

このフロベニウス自己同型写像を用いて, 完全分解する素イデアルの特徴づけができる.

定理 1.88 代数体のガロア拡大K/F に対し, PをKの整数環OK の素イデアルとすると, 以下は同値である :

(1) Pは完全分解する ;

(2)(

K/FP

)= 1.

このアルティン記号はアーベル拡大K/F で不分岐なF の整数環OF の素イデアルを素因子にもつ分数イデアルに対して拡張することができる. この条件を満たす分数イデアル aをとり,

a =n∏

j=1

pjcj

と素イデアル分解されたと仮定する. cj ∈ Z, pj はK/F で不分岐なOF の素イデアルである. このとき, (K/F

a

):=

n∏j=1

(K/Fpj

)cjとすれば, 一般のK/F で不分岐なOF の分数イデアルに拡張できる. この写像をアルティン写像という.

K/F がアーベル拡大であるから, (K/Fab

)=(K/F

a

)(K/Fb

)となる. これは, 不分岐な分数イデアル全体の集合からガロア群Gal(K/F )への準同型写像であることを意味している.

最後に, 惰性群をさらに細かく分けた高次分岐群について述べる.

18

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定義 1.89 K/F を代数体のガロア拡大, PをKの整数環OK の素イデアルとする.

j ∈ Z≥0に対し,

vj :={σ ∈ IP(K/F ) | σ(α) ≡ α (modPj+1) (∀α ∈ OK)

}をPの第 j次分岐群という. これの不変体Kvj をP の第 j次分岐体といい, V

(j)P (K/F )とかく.

注意 1.90 v0 = IP(K/F ), V(0)P (K/F ) = TP(K/F )である.

高次分岐群の性質は次のとおりである :

命題 1.91 K/F を代数体のガロア拡大とする. Kの整数環OKの素イデアルPをとり, p = P∩OF ,

(p) = P ∩ Zとする.

(1) i < jに対し, vj ◁ vi.

(2) vn = {1}となる n ∈ Z≥0が存在する.

(3) v0/v1 は (OK/P)×の部分群とみれる.

特に, v0/v1は位数が pで割れない巡回群と同型になる.

(4) j ≥ 2に対し, vj−1/vj は OK/Pを加法群とみた, その部分群とみれる.

特に, vj−1/vjは基本アーベル p群である.

(5) v1は p群である.

(6) Pの分解群DP(K/F )がアーベル群のとき, q = NF (p)とおくと, |v0/v1|∣∣ (q − 1)となる.

第 1章の最後に, 惰性群の元が何次の分岐群に含まれているのかを特徴づける.

命題 1.92 K/F を代数体のガロア拡大とし, Kの整数環OKの素イデアルP をとる. γ ∈ P/P2をとり固定する. σ ∈ IP(K/F )に対し, 以下は同値である :

(1) σ ∈ vm ;

(2) σ(γ) ≡ γ (modPm+1).

19

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第2章 ガウスの2次形式論

この章では 2次体の整数論の中では大変関係のある整係数 2元 2次形式 ax2+ bxy+ cy2 (a, b, c ∈ Z)についてまとめておく. この理論ははガウスが提唱したものである. これを導入することにより, のちに述べるQ上の 2次体のイデアル類群の代表元や構造がとても分かりやすくなる.

第 1節では 2元 2次形式の基本的なことと, 同値関係を導入した後に成り立つことを述べている.

第 2節では第 1節で定義した同値関係による代表元として簡約形式という 2元 2次形式をとることを示す. さらに, その取り方が有限個であることも示し, 簡約形式をまとめた表も載せている. 第 3節では 2元 2次形式に演算を定義し, 2元 2次形式の集合を同値関係で割ったが群になることを示している. 第 4節では, 第 3節で定義した群と 2次体のイデアル類群との関係を述べている.

参考文献において, [3], [6], [9]から [12]と [15]を参考にした.

2.1 2元2次形式の基本事項と同値関係の導入この節では, 2元 2次形式の基本的な事柄について述べ, それから同値関係を導入する.

定義 2.1 f(x, y) = ax2 + bxy + cy2とおく.

(1) f は原始形式 def⇐⇒ gcd(a, b, c) = 1.

(2) f が n ∈ Zを表現する def⇐⇒ f(x, y) = n となる (x, y) ∈ Z2が存在する.

(3) f が n ∈ Zを原始的に表現する def⇐⇒ f(x, y) = n かつ gcd(x, y) = 1となる (x, y) ∈ Z2が存在する.

(4) b2 − 4acを f の判別式という.

(5) f の判別式 b2 − 4ac > 0のとき f を不定形式という. f の判別式 b2 − 4ac < 0 かつ a > 0のとき f

を正定値形式, f の判別式 b2 − 4ac < 0 かつ a < 0のとき f を負定値形式という. 4

注意 2.2 以下の 2つのことに注意する :

(1) f が負定値形式のとき, 各項を−1倍すれば−f という正定値形式を得るので, 負定値形式については考えない.

(2) f の判別式Dは, D ≡ 0, 1 (mod 4)を満たす. 以降, 判別式が平方数でない 2元 2次形式を考えていく.

今後, f(x, y) = ax2 + bxy + cy2を単に f とかいたり, 係数を並べた (a, b, c)というようにかく. また, 2元 2次形式を簡単に 2次形式ということにする.

次に, 2次形式に対して同値関係を導入する.

定義 2.3 2つの 2次形式 f と gに対し,

4判別式が 0の 2次形式については考えない.

20

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f ∼ gdef⇐⇒ f(x, y) = g(px+ qy, rx+ sy) かつ ps− qr = 1となる p, q, r, s ∈ Zが存在する.

注意 2.4 一般に 2次形式 ax2 + bxy + cy2は行列を用いて,

ax2 + bxy + cy2 =(x y

)( a b2

b2

c

)(x

y

)となるので, 定義 2.3の同値関係は f = (a, b, c), g = (A,B,C)と具体的にかくと,(

a b2

b2

c

)= t

(p q

r s

)(A B

2B2

C

)(p q

r s

)となる (

p q

r s

)∈ SL2(Z)

が存在することと同値である. このようにして行列の形にかくことができる.

これらを踏まえると, 次の 3つの基本的な性質が成り立つ :

命題 2.5 f ∼ g ならば f の判別式と gの判別式は一致する.

証明. f = (a, b, c)の判別式Dは行列を使って,

D = b2 − 4ac = −4

∣∣∣∣∣ a b2

b2

b

∣∣∣∣∣とかけるので, 注意 2.4により, f ∼ g ならば f と gの判別式は一致する.

命題 2.6 2次形式 f に対し, 以下は同値である :

(1) f が n ∈ Zを原始的に表現する ;

(2) f ∼ g かつ g = (n,B,C) (B,C ∈ Z) となる gが存在する.

証明. (=⇒) f = (a, b, c)とする. nが f により原始的に表現されるから,

f(x, y) = n かつ gcd(x, y) = 1

となる (x, y) ∈ Z2が存在する. gcd(x, y) = 1であるから,

px+ qy = 1

となる p, q ∈ Zが存在する. よって,

B = −2y(ap+ cq) + b(px− qy),

C = cx2 − bxy + ay2

とすると, (n B

2B2

C

)= t

(p −yq x

)(a b

2b2

c

)(p −yq x

)となるので, 注意 2.4より, f ∼ (n,B,C)である.

(⇐=) g = (n,B,C)とすると f ∼ gより,

21

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g(x, y) = f(px+ qy, rx+ sy) かつ ps− qr = 1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. よって, f(p, r) = g(1, 0) = n かつ gcd(p, r) = 1 より nは f により原始的に表現される.

命題 2.7 原始形式と同値な 2次形式は原始形式である.

証明. f = (a, b, c)とする. g = (A,B,C)が f ∼ gを満たすと仮定すると,

f(x, y) = g(px+ qy, rx+ sy) かつ ps− qr = 1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. ここで, p′ | gcd(A,B,C)となる素数 p′が存在すると仮定すると, 各係数を比較して

a = Ap2 +Bpr + Cr2,

b = 2Apq +B(ps+ qr) + 2Crs,

c = Aq2 +Bqs+ Cs2

であるから, p′ | gcd(a, b, c)である. つまり, この命題の対偶が示されたことになるので, 元の命題も示されたことになる.

注意 2.8 原始形式でないものは, 同値関係の定義により, 同値な 2次形式も係数に同じ素因子をもつ.

D ≡ 0, 1 (mod 4) かつ平方数でないD ∈ Zが与えられたとき, Dを判別式としてもつ原始形式の集合をCDとかく. 命題 2.7により, この集合を考えれば, 全ての 2次形式の様子がわかってくる.

明らかに, CDは無限集合で全く特徴がつかめない. そこで, 次節からCDを同値関係で割った集合CD/ ∼について考えていく. 次の節から 2次形式はすべて原始形式であると仮定する.

2.2 簡約形式この節では, CDを定義 2.3で定義した同値関係で割った集合CD/ ∼の代表元となる元の特徴を見

ていく. 同値類で割ったことにより, CDが分類されたが, その代表元である元が非常に重要になってくる. その代表元が簡約形式と呼ばれる 2次形式である. この節では, 判別式の符号によって場合分けして考えていく.

2.2.1 正定値形式の簡約形式

まずは, 判別式が負の場合について述べていく. この場合については非常に簡単で, 代表元を求めやすい場合になっている.

定義 2.9 f = (a, b, c)を正定値形式とする.

f が簡約形式 def⇐⇒ |b| ≤ a ≤ c かつ「|b| = aまたは a = cならば b ≥ 0」.

実際, この定義が何を意味しているか見た目では分からないが, 次の命題により特徴づけることができる. 証明は省略するが, 2次方程式の解の公式を評価していく.

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命題 2.10 2次形式 f = (a, b, c)に対し, 以下は同値である :

(1) f は簡約形式である ;

(2) f(x, 1) = ax2 + bx+ c = 0 の虚部が正の根 −b+√b2−4ac2a

が基本領域にある.

基本領域というものは, 上半平面H := {z ∈ C | Im(z) ≥ 0}に対し,

F := {z ∈ H∣∣ |z| ≥ 1,−1

2≤ Re(z) < 1

2}

のことである. 話は変わるが, この基本領域は保型形式の分野においても定義されている.

なぜ簡約形式を定義したのか疑問をもつと思われるが, 実は次の性質がある :

定理 2.11 全ての正定値形式 f に対して, f ∼ gとなる簡約形式 gが一意に存在する.

証明. f = (a, b, c)を任意の正定値形式とし, n ∈ Nを f で原始的に表現される最小の自然数とする.

命題 2.6より, f ∼ gかつ g = (n,B,C) (B,C ∈ Z)となる gが存在する. 任意の z ∈ Z に対し, 変数変換 (x, y) 7→ (x− zy, y)を行うと f と同値な新たな 2次形式

g = (n,B − 2nz, nz2 −Bz + C)

を得る. 特に, z ∈ Zを |B − 2nz| ≤ nを満たすようにとると, これは簡約形式になる. (このアルゴリズムを簡約化という)

次に, 一意性について示す. そのために, 2つの簡約形式 f, gをとり, f ∼ gと仮定する. 具体的にf = (a, b, c), g = (A,B,C)とおくと,

|b| ≤ a ≤ c かつ |B| ≤ A ≤ C

を満たしている. 一般性を失うことなく a ≥ A > 0と仮定してよい. f ∼ gであるから,

g(x, y) = f(px+ qy, rx+ sy) かつ ps− qr = 1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. それぞれを代入し, 項を比較すると

A = ap2 + bpr + cr2,

B = 2apq + b(ps+ qr) + 2crs,

C = aq2 + bqs+ cs2

を得る. まずA = aを示す.

A = ap2 + bpr + cr2 ≥ ap2 − |bpr|+ cr2 ≥ a(p2 + r2)− |bpr| ≥ 2a|pr| − a|pr| = a|pr|

であるから, a ≥ Aより a ≥ a|pr| となるので |pr| ≤ 1となる.

|pr| = 1ならば, A ≥ aより, A = aとなる.

|pr| = 0ならば, p = r = 0のとき, 1 = ps− qr = 0となり矛盾するから, p = 0または r = 0である.

p = 0のとき, A = ap2 + bpr+ cr2 = cr2 ≥ ar2 ≥ aより, A = aである. r = 0のときも同様に示せる.

次に, B = b, C = cを示す. A = aより,

a = ap2 + bpr + cr2 = a

(p+

b

2a

)2

+4ac− b2

4ar2 ≥ 4ac− b2

4ar2.

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よって, 4ac− b2 ≥ 4a2 − a2 = 3a2 > 0より,

r2 ≤ 4a2

4ac− b2≤ 4

3

となるから, r = ±1, 0を得る. これらを場合分けしていく.

(i) r = 0のとき, ap2 = aであるから p = ±1であり, ps − qr = 1より, (p, s) = (1, 1), (−1,−1)となる. これから, B = ±2aq + bとなり, |B| = | ± 2aq + b| ≤ A = aより, 2a|q| ≤ a+ |b| ≤ 2aとなるから, |q| ≤ 1となる.

q = ±1ならば, 2a − |b| ≤ aより |b| ≥ aであるから |b| = aとなるので, 簡約形式の定義よりb = aとなる. よって, B = ±2a+ a = 3a,−aとなり, 矛盾する.

実際, B = 3a ならば |B| = 3a = 3A > A,B = −a ならば |B| = Aとなるので, 簡約形式の定義より B > 0となるため矛盾する.

したがって, q = 0よりB = bであるから命題 2.5よりC = cとなるので, f = g.

(ii) r = ±1のとき, |pr| ≤ 1の値の場合分けで調べていく.

(a) |pr| = 1のとき, p = ±1より, A = a ± b + c = a であるから c = ±bとなる. よって,

|b| ≤ a ≤ c ≤ |b|より, |b| = aであるから, 簡約形式の定義より (a, b, c) = (1, 1, 1)となる.

これ以外の判別式−3の簡約形式はないから一致していなければならないので, f = gを得る.

(b) |pr| = 0のとき, p = 0ならば c = aである. また, ps− qr = 1より (q, r) = (1,−1), (−1, 1)

となるから, B = ±2cs− bであり, (i)と同じような議論をすれば s = 0となる.

したがって, B = −bから C = c = a = AよりB, b ≥ 0. したがって, B = b = 0より f = g

となる.

実は, この変数変換は意味がないように思われるが, 2次方程式の解を一次分数変換させている. それが次の命題である :

命題 2.12 f, gを判別式D < 0をもつ 2次形式とし, α1, α2をそれぞれ f(x, 1), g(x, 1)の根で, 虚部が正の根とする. このとき, 以下は同値である :

(1) f ∼ g ;

(2) α1 =pα2+qrα2+s

かつ ps− qr = 1となる p, q, r, s ∈ Zが存在する.

証明. (=⇒) 定義において y = 1を代入すると,

f(x, 1) = g(px+ q, rx+ s) かつ ps− qr = 1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. f(x, 1), g(x, 1)の根で, 虚部が正の根をそれぞれ α1, α2とする.

一般に, α ∈ C, p, q, r, s ∈ Zに対し,

Im

(pα+ q

rα + s

)=

(ps− qr)

|rα + s|2|α|2

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が成り立つから根を比較すると,

α1 =pα2 + q

rα2 + s

となる.

(⇐=) f = (a, b, c), g = (A,B,C)と具体的にかくと α1, α2は,

α1 =−b+

√D

2a, α2 =

−B +√D

2A

とかける. ここで,

A′ = ap2 + bpr + cr2,

B′ = 2apq + b(ps+ qr) + 2crs,

C ′ = aq2 + bqs+ cs2

とおくと, α2 =−B′+

√D

2A′ となる. これを変形すると (A′B − AB′) + (A− A′)√D = 0であるから,

A = A′, B = B′, C = C ′を得る. したがって, f ∼ (A′, B′, C ′) = gとなる.

つまり, 同値は一次分数変換により根を写していることを表していることがわかり, 簡約化するということは, 一次分数変換により根を基本領域に移動させているということである.

定理 2.11により, D < 0のとき CD/ ∼の代表元を簡約形式でとることができる. 次の命題はその簡約形式の個数についてである :

命題 2.13 判別式Dをもつ正定値形式の簡約形式は有限個である.

証明. f = (a, b, c)を判別式Dの簡約形式とすると, b2 − 4ac = D, |b| ≤ a ≤ cであるから, −D =

4ac− b2 ≥ 4a2 − a2 = 3a2 より 0 < a ≤√

−D3.

よって, aのとりうる値は有限個となるので自動的に b, cも有限個になる.

具体的に簡約形式を求める場合は, 定理 2.13の証明にある計算をするだけで求めることができる.

実際に求めた結果は, 34ページの表でまとめている.

2.2.2 不定形式の簡約形式

次に判別式が正かつ平方数でない場合を述べていく. この場合は, 負の場合に比べ非常に難しい.

簡約形式を求めても, その中で同値な簡約形式があることが正の場合の特徴である.

定義 2.14 f = (a, b, c)を判別式Dをもつ不定形式とする.

f = (a, b, c)が簡約形式 def⇐⇒ 0 <√D − b < 2|a| <

√D + b.

正定値形式の簡約形式と同様に, 次のように特徴づけすることができる :

命題 2.15 判別式Dをもつ不定形式 f = (a, b, c)に対し, 以下は同値である :

(1) f は簡約形式 ;

(2) f(x, 1) = 0の根をそれぞれ α1 =−b+

√D

2a, α2 =

−b−√D

2aとすると, 0 < | − α1| < 1 < | − α2|である.

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注意 2.16 不定形式に対して, 正定値形式と同じように根をどのように動かしているのかを疑問にもつと思われる. そのことについては, 後で述べる定理 2.55の証明で述べる.

不定形式に対しても, 簡約形式に関する定理がある. 証明するために, 補題を用意する.

補題 2.17 判別式Dをもつ任意の不定形式 f に対して, f と同値な 2次形式 g = (A,B,C)の中で,

|B| ≤ |A| ≤√

D3を満たすものが存在する.

証明. まず, |A| ≤√

D3を示す.

|A| >√

D3ならば, f = (a, b, c)に対し, 変数変換 (x, y) 7→ (hx+ y,−x) (h ∈ Z)を行い, それで得た 2

次形式を (a1, b1, c1)とする. (それぞれ計算すると a1 = ah2 − bh+ c, b1 = 2ah− b, c1 = aである)

特に, hを |b1| ≤ |a|となる整数をとると

4a1a = b21 −D < b21 ≤ a2

かつ

−4a1a = D − b21 ≤ D < 3a2

となる. よって, |4a1a| < 3a2 より |a1| < 34|a|となる.

さらに, |a1| >√

D3ならば, 上記のアルゴリズムをもう一度行えば, f と同値な形式 (a2, b2, a1)を得

られ,

|a2| <3

4|a1| <

(34

)2|a|

を満たしている. これを繰り返していくと,

0 ≤ · · · < |an+1| < |an| < · · · < |a1| < |a|

となるが,√

D3は定数より,

|ai| ≤√D

3

となる iが存在する. 次に, |B| ≤ |A|となることを示す.

上のアルゴリズムで得た f ′ = (a′, b′, c′)に対し, 変数変換 (x, y) 7→ (x + ky, y) (k ∈ Z)を行い, それで得た 2次形式を (a′, B′, C ′)とする. このとき, x2の変数が動かないことに注意する. 特に kを|B′| ≤ |a′|となるようにとればよい.

補題 2.17により, 次の定理を証明する準備ができた.

定理 2.18 任意の不定形式 f に対して, f ∼ gとなる簡約形式 gが存在する.

証明. f は判別式Dをもつと仮定する.

補題 2.17より, f = (a, b, c)は b2 ≤√

D3を満たしていると仮定してよい. このとき, b2 = D であるか

ら a = 0または c = 0である.

このとき, 4|ac| = D− b2 ≤ Dであるから, 2|a|, 2|c| <√Dだから, 変数変換 (x, y) 7→ (y,−x)により,

a = 0と仮定してよい.

さらに, 変数変換 (x, y) 7→ (x − ky, y) (k ∈ Z)により, 2次形式 (a, b′, c′)を得たとする. kを 0 <

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√D − 2|a| < b′ <

√Dとなるようにとると, 0 <

√D − b′ < 2|a| <

√D + b′となるから, (a, b′, c′)は

簡約形式である.

また, 不定形式の簡約形式に対しても, 簡約形式の個数の有限性がいえる.

命題 2.19 判別式Dをもつ不定形式の簡約形式は有限個である.

証明. f = (a, b, c)を判別式Dの簡約形式とすると, 0 < b <√Dより bのとりうる値は有限個である.

よって, 定義から aのとりうる値も有限個であるから, 自動的に cも有限個である.

このように, 不定形式のときは, 正定値形式のときよりも計算量が多くなることもあり, 求めることが非常に困難になっている.

さらに簡約形式と簡約形式が同値になる場合もあるため, 代表元を簡単に求めることができない.

ここで簡約形式と同値な簡約形式の例を挙げておく.

例 2.20 f = (2, 3,−1), g = (−2, 1, 2)は判別式 17をもつ簡約形式で(2 3

232

−1

)= t

(0 1

−1 −1

)(−2 1

212

2

)(0 1

−1 −1

)

であるから, f ∼ gである.

実は, 簡約形式が同値であるかどうかを調べるために, 非常に有用な手法がある. Q上の最小多項式が 2次であるような無理数, いわゆる 2次無理数の理論を使って調べていく. ここで, 定義しておくものがある.

定義 2.21 正の判別式をもつ 2次形式 f(x, y)において, f(x, 1) = 0の解 αを f に対応する 2次無理数といい, f を αに対応する 2次形式という.

2.2.3 2次無理数

この節では, 2次形式の議論とは離れて, 初等整数論的な議論になる. まず, 簡約 2次無理数について定義する. 2次無理数αに対し, αは αの共役, つまりαを根にもつ 2次多項式のαとは異なる根のことを表すことにする.

定義 2.22 2次無理数 αは簡約 2次無理数 def⇐⇒ α > 1 かつ −1 < α < 0.

注意 2.23 判別式は正ではあるが平方数ではないと仮定しているので, 重根をもつ 2次形式については考えていない.

さらに αが簡約 2次無理数のとき, αの連分数展開の時に出てくる無理数, いわゆる中間連分数も簡約 2次無理数になる.

簡約 2次無理数の特徴づけを 2次形式の係数を使って示す. 次の命題の証明は放物線のグラフを書けば明らかであるから, 証明は省略する.

27

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命題 2.24 f(x, y) = ax2 + bxy + cy2を判別式Dをもつ 2次形式とする. 以下は同値である :

(1) f が簡約 2次無理数と対応する ;

(2) a > 0, b < 0, c < 0, a+ b+ c < 0, a− b+ c > 0 ;

(3) f(1, 0) > 0, f(0, 1) < 0, f(1, 1) < 0, f(−1, 1) > 0.

ここで連分数展開について, 新たな定義をする. これは 2次無理数, 簡約 2次無理数と非常に関係している連分数展開の種類である.

定義 2.25 α ∈ R\Qの連分数展開を

α = [a0, · · · , an, · · · ]

とする. このとき,

an+km = an (k ∈ N)

となるm ∈ Nが存在するとき, この連分数を周期mの循環連分数という. 簡単に,

α = [a0, · · · , al, b1, · · · bm]

と表す.また, この条件を満たすmの中で最小のものを最小周期という.

さらに,

α = [b1, · · · bm]

と表せるとき, この連分数を純循環連分数という.

2次無理数とこれらの連分数には次のような関係がある :

定理 2.26 α ∈ R\Qとする.

(1) αは 2次無理数 ⇐⇒ αの連分数展開が循環連分数になる.

(2) αは簡約 2次無理数 ⇐⇒ αの連分数展開が純循環連分数になる.

証明. (1) (⇐=) αの連分数展開が循環連分数であることから,

α = [a0, · · · , al, b1, · · · , bm]

となる l,m ∈ Nが存在する. β = [b1, · · · , bm]とおくと, 命題 1.7より α ∼ β である. また, β =

[b1, · · · , bm, β]であるから,

β =pβ + q

rβ + sかつ ps− qr = ±1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. このとき,

rβ2 + (s− p)β − q = 0

となり, これは αが無理数であることから既約 2次式である.

したがって, βは 2次無理数であるから, αも 2次無理数である.

(=⇒) αを 2次無理数とすると,

aα2 + bα + c = 0

28

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となる a, b, c ∈ Zが存在する. ただし a = 0である. また, αの中間連分数 αnを

α = [a0, · · · , an−1, αn] =pnαn−1 + pn−1

qnαn−1 + qn−1

と表すと,

Anαn2 +Bnα + Cn = 0.

ただし,

An = apn2 + bpnqn + cqn

2,

Bn = 2apnpn−1 + b(pnqn−1 + pn−1qn) + 2cqnqn−1,

Cn = apn−12 + bpn−1qn−1 + cqn−1

2.

また, |α− pnqn| < 1

qn2 であるから, |ϵn| < 1に対し, pn = αqn +ϵnqnと表すことができるので, An, Bn, Cn

の評価をすると,

|An| < 2|aα|+ |b|+ |a|,Bn

2 ≤ 4(2|aα|+ |a|+ |b|) + |b2 − 4ac|,|Cn| < 2|aα|+ |b|+ |a|

となり, この 3つの整数は有界になる. よって,

(Al, Bl, Cl) = (Am, Bm, Cm) = (An, Bn, Cn)

となる l,m, n ∈ Z≥0が存在する. したがって, 3つの中間連分数αl, αm, αnは同じ 2次方程式の解であるから, このうち 2つは一致しなければならない. それを αl, αm (l > m)とすると αの連分数展開は,

α = [a0, · · · , al−1, αl] = [a0, · · · , al−1, · · · , am−1, αl]

となり, 循環連分数になっている.

(2) (=⇒) αが循環連分数で表されているから, (1)より αは 2次無理数であるので, 簡約性を示せばよい. さらに αが純循環連分数で表されているから,

α = [a0, · · · , an−1, α] =pnα + pn−1

qnα + qn−1

となる n ∈ Nが存在する. 変形すると, qnα2 + (qn−1 − pn)α− pn−1 = 0となる.

f(x) = qnx2 + (qn−1 − pn)x − pn−1とおく. すると, f(1) < 0, f(0) < 0, f(−1) > 0がいえる. αは f

の根であるから, 命題 2.24より αは簡約 2次無理数である.

(⇐=) αの連分数展開を

α = [a0, · · · , an−1, αn]

とする. αは 2次無理数であるから (1)より, 循環連分数により表すことができるので,

αm = αn かつ m > n

となるm,n ∈ Z≥0が存在する. ここで, n = 0であれば, αは純循環連分数で表すことができるので,

n ≥ 1と仮定する.

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αm−1 = am−1 +1

αm

, αn−1 = an−1 +1

αn

が成り立つから, αm−1 − αn−1 = am−1 − an−1 ∈ Zである. 次に, この 2つの元を具体的に,

αm−1 =−bm−1 +

√D

2am−1

, αn−1 =−bn−1 +

√D

2an−1

とかく. すると,√Dの係数が 0であることがわかる. このとき, これらの共役である αm−1, αn−1を

考え, 上と同じようにして引けば, αm−1 − αn−1 ∈ Zであることがわかる.

ここで, αが簡約 2次無理数より, 注意 2.23から, αm−1, αn−1も簡約 2次無理数であるから, −1 <

αm−1, αn−1 < 0である. よって, |αm−1 − αn−1| < 1であるが, αm−1 − αn−1 ∈ Zより, αm−1 = αn−1を得る. したがって, αm−1 = αn−1となる.

以上により, αm = αn ならば αm−1 = αn−1がいえたので,上の議論を繰り返していけば, αm−n = α0

を得るので, αは純循環連分数により表される.

この定理により無理数が与えられたとき, 連分数展開すれば 2次無理数であるか, 簡約 2次無理数であるかを判定することができる. 例えば, 例 1.4で挙げた

√2は連分数展開すれば

√2 = [1, 2]とな

るので, 循環連分数であるが純循環連分数はないので, 2次無理数であるが簡約 2次無理数でないことがわかる.

実は簡約 2次無理数は 2次無理数と関係しており, 次が成り立つ :

定理 2.27 αを 2次無理数とすると, α+∼ βとなる簡約 2次無理数 βが存在する.

証明. αの中間連分数を αnとし, 連分数展開を

α = [a0, · · · , an−1, αn]

とする. 定理 2.26 (1)より,

αm = αn かつ m > n

となるm,n ∈ Zが存在する. このとき,

α = [a0, · · · , an−1, αn] = [a0, · · · , am−1, αm] = [a0, · · · , am−1, αn]

であるから,

αn = [an, · · · , am−1, αn]

となるので, αnは循環連分数で展開されるから, 定理 2.26 (2)より, αnは簡約 2次無理数である.

ここで, nが奇数のときは, n+ 1に変えても αn+1も簡約 2次無理数であるから, nは偶数としてよい. 以上により, 定理 1.5から,

α =pnαn + pn−1

qnαn + qn−1

かつ

pnqn−1 − pn−1qn = (−1)n = 1

となるので, 命題 1.7より, α+∼ αnである.

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次に, 簡約 2次無理数 αを連分数展開したとき, 中間連分数はすべて簡約 2次無理数であるが, αと同値な簡約 2次無理数がどのぐらいあるのかが気になると思われる. それについてまとめたものが次の定理である :

定理 2.28 αを簡約 2次無理数とする. その中間連分数を αnとし, α = [a0, · · · , an−1, αn]と連分数展開されたとする. また, この連分数展開の最小周期をmとする. このとき, 以下が成り立つ :

(1) αと同値な簡約 2次無理数は, α0 = α, α1, · · · , αm−1しかない ;

(2) mが奇数ならば, α0 = α, α1, · · · , αm−1は互いに正に同値である ;

(3) mが偶数ならば, α0 = α, α2, · · · , αm−2は互いに正に同値であり, α1, α3, · · · , αm−1は負に同値で

ある. さらに, 任意の奇数 nに対し α+

∼ αnである.

証明する前に, 次のことに注意する :

注意 2.29 αの最小周期がmであるから, α0 = α, α1, · · · , αm−1は相異なる.

定理 2.28の証明. (1) βを αと同値な簡約 2次無理数とする. その中間連分数を βlとすると,

β = [b0, · · · , bl−1, βl]

と連分数展開される. 定理 1.8 (1)より,

αr = βs

となる r, s ∈ Z≥0が存在する. βは簡約 2次無理数であるから, βsの中間連分数が βになるが, αr = βsより, β = α, · · · , αm−1のいずれかに一致することになるので, 結局, αと同値な簡約 2次無理数は,

α0 = α, α1, · · · , αm−1しかない.

(2), (3)を証明する前に命題 1.7より, α+∼ α2nであることに注意する.

(2) mが奇数のとき, αn = αm+nであるから nが奇数であってもm + nが偶数である. 結局, α+∼

αm+n = αnである.

したがって, α0 = α, α1, · · · , αm−1は互いに正に同値である.

(3) mが偶数のとき, 命題 1.7より,

α+∼ α2

+∼ · · · +∼ αm−2,

α1−∼ α3

−∼ · · · −∼ αm−1

である. ここで, α+∼ αnとなる奇数 nが存在すると仮定すると, 定理 1.8より,

αr = αn+s かつ r + sが偶数

となる r, s ∈ Z≥0が存在する. このとき n + s − rは奇数になるから, これは最小周期mが偶数であ

ることに矛盾するので, 任意の奇数 nに対し α+

∼ αnである.

ここで, 話を 2次形式に戻す. なぜ, 2次無理数の理論を取り上げたかというと, 次のことが知られているからである :

定理 2.30 Dを平方数ではない正の整数とする. 判別式Dをもつ 2次形式 f, gに対して, αf , αgをそれぞれ f, gに対応する 2次無理数で

√Dの係数は正である根とする.このとき, 以下は同値である :

(1) f ∼ g ;

(2) αf+∼ αg.

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証明については, 定理 2.55を証明するときに同時に証明する.

この定理により, 不定値形式の簡約形式を完全に判別することができる. 結局は簡約 2次無理数に対応する 2次形式を命題 2.24によって求め, 同値な可能性があるのでそれを解消するために連分数展開し定理 2.28を使って判別すればよい.

また, 簡約形式の数が無限個あるかもしれないと思われるが, そのようなことはない. 次にそれを証明する.

命題 2.31 簡約 2次無理数に対応する 2次形式の同値類は有限個しかない.

証明. f = (a, b, c)を簡約 2次無理数に対応する判別式Dの 2次形式とし, 根をそれぞれ,

α =−b+

√D

2a, α =

−b−√D

2a

とおくと, αが簡約 2次無理数より, D = |b2|+ 4a|c| ≥ b2 だから bは有限個しかない.

よって, −4ac = D − b2であるから, a, cも有限個しかない.

実際に, 平方数でない正の整数Dが与えられたとき, 判別式Dをもつ簡約形式をどのように計算すべきかをまとめる.

Step 1. 命題 2.31の証明と同じようにして, 3つの整数の組 (a, b, c)を全て求める.

Step 2. Step 1で求めた (a, b, c)に対し, 対応する簡約 2次無理数をすべて求め. 連分数展開する.

Step 3. 定理 2.28を利用して. 正に同値なものがあるかを調べる.

具体例を挙げておく. D = b2 − 4acにより, Dと bの偶奇は一致していることに注意すれば, 余計な計算をしなくて済む.

例 2.32 (1) 判別式 5のときを考える. このときの簡約 2次無理数を解にもつ 2次形式を求める. 命題2.31の証明により, b2 ≤ 5と命題 2.24より b < 0であるから, b = −1が得られる. よって, −4ac = 4

となるから, 命題 2.24より a > 0, c < 0であるから (a, c) = (1,−1)を得る.

実際, f = (1,−1,−1)に対応する 2次無理数は 1+√5

2であり,連分数展開すると 1+

√5

2= [1]であるか

ら, 簡約 2次無理数である.

したがって, 判別式 5の簡約形式は f の 1つだけである.

(2) 判別式 60のときを考える. (1)と同じような方法で, b2 ≤ 60より, b = −2,−4,−6が得られる. 判別式が偶数より, b = −1,−3,−5,−7は考えなくてもよい.

よって, −4ac = 56, 44, 24となる, 命題 2.24より a > 0, c < 0であるから

(a, b, c) = (1,−2,−14), (14, 2,−1), (2,−2,−7), (7,−2,−2), (1,−4,−11),

(11,−4,−1), (2,−6,−3), (3,−6,−2), (1,−6,−6), (6,−6, 1)

となる. 命題 2.24より a+ b+ c < 0, a− b+ c > 0であるから, これらの中では,

(a, b, c) = (2,−6,−3), (3,−6,−2), (1,−6,−6), (6,−6, 1)

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のみが満たすことがわかる. f1 = (1,−6,−6), f2 = (3,−6,−2), f3 = (3,−6,−2), f4 = (6,−6, 1)とおく. これらに対する 2次無理数は,

αf1 = 3 +√15 , αf2 =

3 +√15

2,

αf3 =3 +

√15

3, αf4 =

3 +√15

6

である. それぞれを連分数展開すると,

αf1 = [6, 1], αf2 = [3, 2], αf3 = [2, 3], αf4 = [1, 6]

となるから, 定理 2.26 (2)より, これらは全て簡約 2次無理数である. 最小周期はすべて偶数であるから,定理 2.28 (3)より, 正に同値なものは存在しない.

したがって, 判別式 60の簡約形式は f1, f2, f3, f4の 4つである.

本によっては, 簡約 2次無理数を解にもつような 2次形式を簡約形式と定義する本もある. 結局, 簡約 2次無理数を解にもつ 2次形式を求めることになるので, 後で簡約形式をまとめている表を載せているが, 簡約 2次無理数に対応する 2次形式を挙げていることに注意する.

結局, 集合 CDを同値関係で割った集合 CD/ ∼は, 有限集合になることが分かり, 代表元として簡約形式をとればよいことが分かり, いくらかCD/ ∼の構造がいくらかわかった.

次の節では, CD/ ∼が群にするために, 演算を導入していく. この演算はとても重要な演算で, 2次体イデアル類群の構造を知るためには欠かせないものである.

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この節の最後に, 判別式Dが与えれられたときのいくつかの簡約形式を具体的に求めたものを表にまとめた. まず, 判別式Dが負のときの簡約形式について−60 ≤ D ≤ −3までまとめる. hDは判別式Dに対する簡約形式の個数である.

D 判別式Dの簡約形式 hD

−3 x2 + xy + y2 1

−4 x2 + y2 1

−7 x2 + xy + 2y2 1

−8 x2 + 2y2 1

−11 x2 + xy + 3y2 1

−12 x2 + 3y2 1

−15 x2 + xy + 4y2, 2x2 + xy + 2y2 2

−16 x2 + 4y2 1

−19 x2 + xy + 5y2 1

−20 x2 + 5y2, 2x2 + 2xy + 3y2 2

−23 x2 + xy + 6y2, 2x2 ± xy + 3y2 3

−24 x2 + 6y2, 2x2 + 3y2 2

−27 x2 + xy + 7y2 1

−28 x2 + 7y2 1

−31 x2 + xy + 8y2, 2x2 ± xy + 4y2 3

−32 x2 + 8y2, 3x2 + 2xy + 3y3 2

−35 x2 + xy + 9y2, 3x2 + xy + 3y2 2

−36 x2 + 9y2, 2x2 + 2xy + 5y2 2

−39 x2 + xy + 10y2, 2x2 ± xy + 5y2, 3x2 + 3xy + 4y2 4

−40 x2 + 10y2, 2x2 + 5y2 2

−43 x2 + xy + 11y2 1

−44 x2 + 11y2, 3x2 ± 2xy + 4y2 3

−47 x2 + xy + 12y2, 2x2 ± xy + 6y2, 3x2 ± xy + 4y2 5

−48 x2 + 12y2, 3x2 + 4y2 2

−51 x2 + xy + 13y2, 3x2 + 3xy + 5y2 2

−52 x2 + 13y2, 2x2 + 2xy + 7y2 2

−55 x2 + xy + 14y2, 2x2 ± xy + 7y2, 4x2 + 3xy + 4y2 4

−56 x2 + 14y2, 2x2 + 7y2, 3x2 ± 2xy + 5y2 4

−59 x2 + xy + 15y2, 3x2 ± xy + 5y2 3

−60 x2 + 15y2, 3x2 + 5y2 2

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次に, 判別式Dが正かつ平方数でないときの簡約形式について 5 ≤ D ≤ 76までまとめる. hDは判別式Dに対する簡約形式の個数である.

D 判別式Dの簡約形式 hD

5 x2 − xy − y2 1

8 x2 − 2xy − y2 1

12 x2 − 2xy − 2y2, 2x2 − 2xy − y2 2

13 x2 − 3xy − y2 1

17 x2 − 3xy − 2y2 1

20 x2 − 4xy − y2, 2x2 − 2xy + 2y2 2

21 x2 − 3xy − 3y2, 3x2 − 3xy − y2 2

24 x2 − 4xy − 2y2, 2x2 − 4xy − y2 2

28 x2 − 4xy − 3y2, 3x2 − 2xy − 2y2 2

29 x2 − 5xy − y2 1

32 x2 − 4xy − 4y2, 4x2 − 4xy − y2 2

33 x2 − 5xy − 2y2, 2x2 − 5xy − y2 2

37 x2 − 5xy − 3y2 1

40 x2 − 6xy − y2, 2x2 − 4xy − 3y2 2

41 x2 − 5xy − 4y2 1

44 x2 − 6xy − 2y2, 2x2 − 6xy − y2 2

45 x2 − 5xy − 5y2, 5x2 − 5xy − y2 2

48 x2 − 6xy − 3y2, 3x2 − 6xy − y2 2

52 x2 − 6xy − 4y2 1

53 x2 − 7xy − y2 1

56 x2 − 6xy − 5y2, 5x2 − 4xy − 2y2 2

57 x2 − 7xy − 2y2, 2x2 − 7xy − y2 2

60 x2 − 6xy − 6y2, 2x2 − 6xy − 3y2, 3x2 − 6xy − 2y2, 6x2 − 6xy − y2 4

61 x2 − 7xy − 3y2 1

65 x2 − 7xy − 4y2, 2x2 − 5xy − 5y2 2

68 x2 − 8xy − y2, 2x2 − 6xy − 4y2 2

69 x2 − 7xy − 5y2, 3x2 − 3xy − 5y2 2

72 x2 − 8xy − 2y2 1

73 x2 − 7xy − 6y2 1

76 x2 − 8xy − 3y2, 3x2 − 8xy − y2 2

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2.3 ディリクレ積と類群この節では, 2次形式の演算を導入し, 実際にCD/ ∼が群になるかどうかを調べていく. また, 本論

文の最後のほうに, この演算を拡張して, 2元 3次形式などさらに高次な形式に適用できる考えを第 5

章に紹介しているので, そちらも参照してほしい.

命題 2.33 D ∈ ZをD ≡ 0, 1 (mod 4)かつ平方数ではない整数とする a1, b1, c1, a2, b2, c2は{b21 − 4a1c1 = b22 − 4a2c2 = D,

gcd(a1, a2,b1+b2

2) = 1

を満たすと仮定すると, j = 1, 2に対し,

(1) b3 ≡ bj (mod 2aj),

(2) b23 ≡ D (mod 4a1a2)

となる b3 ∈ Zがmod 2a1a2で一意に存在する.

注意 2.34 i = 1, 2に対し, b2i ≡ D (mod 4)より, biとDの偶奇は同じである.

命題 2.33の証明. 主張の連立合同式は, i = 1, 2に対し,

(1′) aib3 ≡ a2bi (mod 2a1a2),

(2′)b1 + b2

2b3 ≡

b1b2 +D

2(mod 2a1a2)

といい換えられることを示す. まず, ((1), (2) ならば (1′), (2′))を示す.

(1) より, b23 − (b1 + b2)b3 + b1b2 = (b3 − b1)(b3 − b2) ≡ 0 (mod 4a1a2)であり(2) より, b23 − (b1 + b2)b3 + b1b2 ≡ (b1b2 +D)− (b1 + b2)b3 (mod 4a1a2)である.

ここで, 注意 2.34より 2 | b1 + b2より, 2 | b1(b1 + b2) − 4a1c1 = b1b2 +Dであるから, 両辺を 2で割り

b1 + b22

b3 ≡b1b2 +D

2(mod 2a1a2)

を得るので, (2′)が示せた. (1′)については, (1)の両辺に aiをかければよい.

次に, ((1′), (2′) ならば (1), (2))を示す. 判別式は正のときは平方数でないから, a1, a2 = 0と仮定してよいので, (1)については両辺を aiで割ればよい.

(2)については, (2’)より (b1 + b2)b3 ≡ b1b2 + D (mod 4a1a2)であるから, 上と同様に, b23 + b1b2 ≡(b1 + b2)b3 (mod 4a1a2)を得る.

よって,

b23 ≡ D (mod 4a1a2)

である. これから, (1′), (2′)を満たす整数 b3がmod 2a1a2で一意に存在することを示していく.

まず, 存在性について示していく. gcd(a1, a2,b1+b2

2) = 1より,

a1n1 + a2n2 +b1 + b2

2n3 = 1

36

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となる n1, n2, n3 ∈ Zが存在し, これらを固定する. b21 − 4a1c1 = b22 − 4a2c2 = Dであるから,

a1D ≡ a1b22 (mod 2a1a2),

a1D ≡ a1b22 (mod 2a1a2).

さらに, b1 ≡ b2 (mod 2) であるから a1a2b1 ≡ a1a2b2 (mod 2a1a2)である. この 3つのことに注意する. 具体的に,

b3 ≡ a1b2n1 + a2b1n2 +b1b2 +D

2n3 (mod 2a1a2)

とすると, (1′), (2′)を満たすことがわかる.

次に一意性について示す. b3, b′3が (1′), (2′)を満たすと仮定すると

2a1a2 | a1(b3 − b′3), a2(b3 − b′3),b1 + b2

2(b3 − b′3)

であり, gcd(a1, a2,b1+b2

2) = 1であるから, 2a1a2 | b3 − b′3より b3 ≡ b′3 (mod 2a1a2)となりmod 2a1a2

で一意である.

注意 2.35 上の定理は gcd(a1, a2,b1+b2

2) = 1のときでも, その最大公約数で割れば命題 2.33の条件を

満たす.

この結果により, 2次形式の二項演算を定義できる.

定義 2.36 D ∈ ZをD ≡ 0, 1 (mod 4)かつ平方数でない整数とする. f = (a1, b1, c1), g = (a2, b2, c2)

を判別式Dをもつ 2次形式で, gcd(a1, a2,b1+b2

2) = 1を満たすと仮定する.

このとき演算 ◦を, 次のように定義する :

f ◦ g = (a3, b3, c3)

ただし, a3 = a1a2, b3は命題 2.33の連立合同式の根, c3 =b23−D

4a3.

この演算 ◦をディリクレ積という.

注意 2.37 gcd(a1, a2,b1+b2

2) = 1ではなくでも, 前の注意により定義ができる.

この演算によりに 2つの 2次形式の合成を計算することができるが, 結果が一意でない可能性がある. 次にそれについて証明していく.

その前に 2次形式の調和について定義する. 以降, この節ではDは平方数でないD ≡ 0, 1 (mod 4)

を満たす整数と仮定する.

定義 2.38 f = (a, b, c), g = (A,B,C)を判別式Dをもつ 2次形式とする.

f と gは調和している def⇐⇒ 以下の 3つを満たす :

(1) aA = 0 ;

(2) b = B ;

(3) a | C かつ A | c.

注意 2.39 定義 2.36の演算は, 2つの 2次形式を調和している 2つの 2次形式に変換して合成している. 実際, (a1, b1, c1) ∼ (a1, b3, a2c3), (a2, b2, c2) ∼ (a2, b3, a1c3)である.

37

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演算の結果が一意であることを示すために, まずいくつか補題を用意する.

補題 2.40 0 = M ∈ Zとする. 原始形式 f = (a, b, c)に対して, f はM と互いに素になる整数を原始的に表現する.

証明. fが原始的に表現する整数を割る素数は a, b, cのいずれかと互いに素であることに注意する. ここで,

Sa := {pa :素数∣∣ pa |M かつ pa |/a},

Sc := {pc :素数∣∣ pc |M かつ pa |/cかつ pc | a},

Sb := {pb :素数∣∣ pb |M かつ pb |/bかつ「pb | aまたは pb | c」}

とする. さらに,

X =∏p∈Sc

p, Y =∏p∈Sa

p

と定める. すると, p ∈ Saは p | Y であり, p |/X かつ p |/aであるから, p |/f(X,Y )である. 同様にして, p ∈ Scのときも p |/f(X, Y )である.

さらに, p ∈ Sbに対し, p | a, p | cであるが p |/X, Y または p |/bであるから, p |/f(X, Y )であるので,

f(X, Y )はM と互いに素である.

補題 2.41 任意のDに対し, C1 = C2となるC1, C2 ∈ CD/ ∼をとる. 0 =M ∈ Zをとったとき,

gcd(a1, a2) = 1, gcd(a1a2,M) = 1

となる調和している 2つの 2次形式 fj = (aj, b, ∗) ∈ Cjが存在する.

注意 2.42 補題 2.41において, y2の係数は判別式の定義により x2の係数と xyの係数が分かれば求めることができるので, 省略するために ∗を用いた.

補題 2.41の証明. 任意の f1 ∈ C1に対し, 補題 2.40により gcd(p, q) = 1となる (p, q) ∈ Z2を

0 = a1 = f(p, q) かつ gcd(a1,M) = 1

となるようにとることができる. さらに, (r, s) ∈ Z2を(p q

r s

)∈ SL2(Z)

となるようにとる. その行列を f に作用させると, F1 = (a1, b1, ∗) ∈ C1を得る. 同様にして, F2 =

(a2, b2, ∗) ∈ C2を a2 = 0, gcd(a2, a1M) = 1となるようにとれる.

また gcd(a1, a2) = 1であるから, n1, n2 ∈ Zを

b1 + 2a1n1 = b2 + 2a2n2

となるようにとれる. これを bとおく. ここで,(1 0

nj 1

)∈ SL2(Z)

を Fiに作用させ, fi = (ai, b, ∗)とする. これらは調和しており, 主張を満たしている.

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この補題により, 次が示せる :

命題 2.43 f1, f2, g1, g2を判別式Dをもつ原始形式とする. このとき, i = 1, 2に対し fi ∼ giならば,

f1 ◦ g1 ∼ f2 ◦ g2である.

証明. i = 1, 2に対し, fj = (aj, b, cj), gj = (Aj, B, Cj)とおく. 注意 2.39より f1と g1, f2と g2はそれぞれ調和していると仮定してよい. この証明に対しては, いくつかの場合を用意してから, それを使って一般の場合に応用させていく.

(i) f1 = g1かつ gcd(a1, A2) = 1のとき, f1は f2, g2と調和しているから, f1 ◦ f2 ∼ f1 ◦ g2を示せばよい.

γ =

(p q

r s

)∈ SL2(Z)

を, f2に作用させ g2となるような行列とすると,

(a2

b2

b2

c2

)=

(A2

b2

b2

C2

)γ−1

であるから, −A2q = c2rである. f1と f2が調和しているから a1 | c2となるので, gcd(a1, A2) = 1

より, a1 | qである. よって,

γ′ =

(p q

a1

a1r s

)∈ SL2(Z)

とすると, この γ′を f1 ◦ f2に作用させると f1 ◦ g2となる.

(ii) b = B かつ gcd(a1, A2) = 1のとき, f1と g2の判別式の関係からこれらは調和しているから, (i)

により,

f1 ◦ f2 ∼ f1 ◦ g2 ∼ g1 ◦ g2

となる.

(iii) gcd(a1a1, A1A2) = 1のとき, n, n′ ∈ Zを

b+ 2a1a2n = B + 2A1A2n′

となるように定め, これをB′とおく. ここで,

γi =

(1 0

ain 1

)∈ SL2(Z)

とおき, f1に γ2, f2に γ1を作用させて得た 2次形式を F1, F2とおくと,

F1 = (a1, B′, ∗), F2 = (a2, B

′, ∗)

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となる. さらに, 行列 (1 0

n 1

)∈ SL2(Z)

を f1 ◦ f2に作用させて得た 2次形式をH1とすると,

H1 = (a1a2, B, ∗)

である. 判別式の定義から,

a1a2

∣∣∣ B2 −D

4

であるから F1と F2の判別式の関係により, これらは調和している.

同様にして, gjに γjを作用させて得た 2次形式Gj = (Aj, B′, ∗)についても調和しており,

H1 = (A1A2, B, ∗) ∼ g1 ◦ g2

となる. よって (ii)により,

f1 ◦ f2 ∼ H1 ∼ H2 ∼ g1 ◦ g2

となる.

(iv) 一般のとき, 補題 2.40により,

gcd(A′1A

′2, a1a2A1A2) = 1

かつ, fjと同値な Fj = (A′j, B, ∗)が存在する. (iii)により, f1 ◦ f2 ∼ F1 ◦ F2 ∼ g1 ◦ g2となる.

命題 2.43により, この演算の結果は同値関係を除いて一意に決まることがわかる. そして, 次の定理がいえる :

定理 2.44 CD/ ∼は有限アーベル群になる.

証明. まず, 演算で閉じていることを背理法で示す. 任意の f = (a1, b1, c1), g = (a2, b2, c2) ∈ CD/ ∼をとったときに, f ◦ g = (a3, b3, c3)とする. このとき,

p | gcd(a3, b3, c3)

となる素数pが存在すると仮定する. 注意2.39より (a1, b1, c1) ∼ (a1, b3, a2c3), (a2, b2, c2) ∼ (a2, b3, a1c3)

であることに注意する. 背理法の仮定より, p | a1a2, p | b3, p | c3 であるから, p | a1 ならばp | gcd(a1, b3, a2c3)となる. これは, 命題 2.7より, (a1, b1, c1)が原始形式であることに矛盾するので, (a3, b3, c3)は原始形式である. また, f ◦ gの判別式がDであることは, 演算の定義より明らかである.

結合法則, 可換性については演算の定義より明らかであり, 有限性については簡約形式の有限性により明らかである.

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単位元は

e =

{(1, 0,−D

4) (D ≡ 0 (mod 4)),

(1, 1, 1−D4

) (D ≡ 1 (mod 4))

である. 実際に, D ≡ 0 (mod 4)のとき, (a, b, c) ◦ (1, 0,−D4)を計算していく. 命題 2.33 (1), (2) の連

立合同式に当てはめると, (a3, b3, c3) ∼ (a, b, c)であるから,

(a, b, c) ◦ (1, 0,−D4) = (a, b, c)

となる. D ≡ 1 (mod 4)のときも同様にして示すことができる.

逆元については, f = (a, b, c)に対して, f−1 = (a,−b, c) ∼ (c, b, a)である. 実際, D ≡ 0 (mod 4)のとき, (a, b, c) ◦ (c, b, a)を計算してみると, 単位元のときと同じようにして, (a3, b3, c3) ∼ (ac, b, 1)となるので,

(a, b, c) ◦ (c, b, a) = (ac, b, 1)

となる. ここで bが偶数であることに注意して,(ac b

2b2

1

)= t

(b2

1

−1 0

)(1 0

0 −D4

)(b2

1

−1 0

)

であるから, (ac, b, 1) ∼ (1, 0,−D4)となるので,

(a, b, c) ◦ (c, b, a) = (1, 0,−D4)

である. D ≡ 1 (mod 4)のときも同様に示すことができる.

以上のことから, CD/ ∼は有限アーベル群であることが示された.

定理 2.44をうけて, 次のことを定義する :

定義 2.45 (1) 任意のDに対し, 有限アーベル群CD/ ∼を判別式Dの 2次形式に対する類群という.

(2) hD := |CD/ ∼ | <∞を判別式Dに対する類数という.

(3) 判別式Dの 2次形式に対する類群の単位元

e =

{(1, 0,−D

4) (D ≡ 0 (mod 4)),

(1, 1, 1−D4

) (D ≡ 1 (mod 4))

を判別式Dの基本形式という.

簡約形式と類数の表は 34ページから 35ページに載せている.

以上により, 2次形式の類数を定義することができた. 次の節では 2次体について述べていく. そして, 2次形式と 2次体が対応することを示していく.

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2.4 2次体のイデアル類群と2次形式との対応この節では, まず 2次体に関するイデアル類群について述べていく. その後, 2次形式との対応を示

していく.

一般に, Q上の 2次体はQ(√D) (Dは平方因子をもたない)という形になっている. 実際, 2次体 F

の生成元を αとし, αのQ上の最小多項式を x2 + bx+ c (b, c ∈ Q)とすると, これの根は

α =−b±

√b2 − 4c

2

であるから, 2次体 F は

F = Q(α) = Q(−b±√b2−4c2

) = Q(√b2 − 4c) = Q(

√D)

である. 一般にD > 0のとき F を実 2次体といい, D < 0のとき F を虚 2次体という.

次に, 2次体の整数環について述べていく. 証明については省略する.

定理 2.46 2次体 F を F = Q(√D)とするとき, F の整数環OF は以下のようにかける :

OF =

{Z[1+

√D

2] (D ≡ 1 (mod 4)),

Z[√D] (D ≡ 1 (mod 4)).

定理 2.46により, 2次体の判別式を求めることができる.

命題 2.47 2次体 F に対し, F = Q(√D)とかけるとき, F の判別式∆F は以下のようにかける :

∆F =

{D (D ≡ 1 (mod 4)),

4D (D ≡ 1 (mod 4)).

注意 2.48 判別式の表し方により, 2次体 F は F = Q(√∆F )とかけることになる.

2次体 F = Q(√D)の整数環OF がどのような形をしているかわかったので, それからノルムも定

式的に求めることができる. つまり, α ∈ OF に対して,

NF (α) =

x2 + xy +1−D

4y2 (D ≡ 1 (mod 4)),

x2 −Dy2 (D ≡ 1 (mod 4))

という形になっている. ただし, x, y ∈ Zである.

次に, 2次体と 2次形式を関連させていく. 実際には 2次体 F に対して, 判別式∆F をもつ 2次形式の類群C∆F

/ ∼を対応させていく.

注意 2.49 逆はできない. 例えば判別式 32の 2次体は存在しない.

その前に, 狭義イデアル類群を定義する. これはイデアル類群を定義した際に F の整数環OF の分数イデアルのなすアーベル群 IF を単項分数イデアルのなすアーベル群PF で割って定義したが, 狭義イデアル類群は PF の部分群で IF を割る群のことである.

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定義 2.50 F を代数体とする. P+F := {(α) ∈ PF | NF (α) > 0}とするとき, Cl+F := IF/P

+F を F の狭

義イデアル類群という. また, |Cl+F |を狭義類数といい, h+F とかく.

注意 2.51 狭義イデアル類群についても同値関係を導入して定義することができる.

代数体 F の整数環OF の分数イデアル I, J に対し, 次のような同値関係を導入する :

I+∼ J

def⇐⇒ (α)I = (β)J,NF (αβ) > 0となる α, β ∈ OF が存在する.

この同値関係により IF を割った群を狭義イデアル類群ともみることができ, 上の定義と同じである.

2次体においては狭義イデアル類群と普通のイデアル類群の位数の差は以下の場合によって異なってくる.

命題 2.52 2次体 F の狭義類数 h+F と類数 hF の関係は, 次のように与えられる :

h+F =

hF (∆F < 0のとき),

hF (∆F > 0かつNF (u) = −1となる u ∈ OF×が存在するとき),

2hF (その他).

証明. それぞれについて, 場合分けして考える.

(i) ∆F < 0のときは, すべての元のノルムは正より P+F = PF であるからCl+F = ClF である.

(ii) ∆F > 0 かつ NF (u) = −1となる u ∈ OF×が存在するときは, NF (α) < 0となる (α) ∈ PF に対

し, (α) = (uα) ∈ P+F より P+

F = PF であるからCl+F = ClF である.

(iii) それ以外のとき, 写像 ϕを次のように定義する :

ϕ : PF −→ {±1}

∈ ∈

(α) 7−→ sgn(NF (α))

すると, この写像は全射準同型写像であり, Ker(ϕ) = P+F である.

したがって準同型定理より, h+F = 2hF である.

まずは 2次形式と虚 2次体を関連づける. その前にいくつか補題を用意する.

補題 2.53 F を 2次体とする. I = [α1, α2]を整数環OF の分数イデアルとしたとき,

fI =NF (α1x+ α2y)

NF (I)

は判別式∆F の 2次形式である.

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証明. fI を実際に計算すると, σを F からCへの埋め込みで恒等でないものとすると,

fI =NF (α1)x

2 + TF (α1α2σ)xy +NF (α2)y

2

NF (I)

となるから判別式は, 定理 1.48より,

∆fI =TF (α1α2

σ)− 4NF (α1)NF (α2)

NF (I)2

=(α1α2

σ − α1σα2)

2

NF (I)2

= ∆F

となる.

補題 2.54 判別式∆F をもつ 2次体 F に対し, 判別式∆F となる原始形式 f = (a, b, c) ∈ C∆Fをと

ると,

I =(a,

−b+√∆F

2

)は F の整数環OF のイデアルである.

証明. ω = ∆F+√∆F

2とおくと, OF = Z[1, ω]であるから,

ωI ⊂ I

を示せばよいので, aω, −b+√∆F

2· ω ∈ Iを示せばよい.

まず, ∆F = b2 − 4ac ≡ b2 ≡ b ≡ −b (mod 2)であるから,

Z[1, ω] = Z[1, −b+√∆F

2]

より, aω ∈ Iである.

また, ∆F = b2 − 4ac ≡ b2 (mod 4a)であるから,

−b+√∆F

2· ω =

∆F

2· −b+

√∆F

2+

√∆F

2· −b+

√∆F

2

=∆F

2· −b+

√∆F

2+

−b√∆F +∆F

4

≡ ∆F

2· −b+

√∆F

2− b

2· −b+

√∆F

2(mod a)

≡ ∆F − b

2· −b+

√∆F

2(mod a)

となるから, −b+√∆F

2· ω ∈ Iである.

補題 2.53, 補題 2.54を使って, 次の定理を示す :

定理 2.55 (虚 2次体の整数環のイデアルと 2次形式との対応) 判別式∆F をもつ虚 2次体 F に対し,

ClF = Cl+F ≃ C∆F/ ∼

が成り立つ. 特に, hF = h∆Fである.

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証明. 写像 ϕを

ϕ : C∆F−→ ClF

∈ ∈

f = (a, b, c) 7−→ [a, −b+√∆F

2]

と定義する. この写像は補題 2.54により定義できる.

まず, f ∼ g ならば ϕ(f) ∼ ϕ(g)を示す. f(x, 1) = 0と g(x, 1) = 0の虚部が正の根をそれぞれα1, α2

とすると命題 2.12により,

α1 =pα2 + q

rα2 + sかつ ps− qr = 1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. また, [a, −b+√∆F

2] = a[1, −b+

√∆F

2a]とであるから,

ϕ(f) = a[1, −b+√∆F

2a] = a[1, α1]

= a[1, pα2+qrα2+s

]

∼ [rα2 + s, pα2 + q]

= [1, α2] ∼ ϕ(g)

となっている. 次に, ϕが全単射であることを示す.

単射については,

ϕ(f) ∼ ϕ(g)ならば f ∼ g

を示せばよい. f(x, 1) = 0と g(x, 1) = 0の虚部が正の根をそれぞれ α1, α2とすると, ϕ(f) ∼ ϕ(g)

より,

λ[1, α1] = [1, α2]

となる λ ∈ F×が存在する. これをZ上の加群として基底変換しているというように見れば,

λ

(α1

1

)=

(p q

r s

)(α2

1

)

となる (p q

r s

)∈ GL2(Z)

が存在する. これを変形すると,

α1 =pα2 + q

rα2 + s

となるが, α1, α2の決め方と命題 2.12により, ps − qr = 1 かつ f(x, 1)と g(px + q, rx + s)の虚部が正の根は一致することになるから, f ∼ gである.

全射については, I = [α, β] ∈ IF をとり, τ = βαとおく. (NF (α) > 0であることに注意する. )

すると, I = [α, β] = α[1, τ ] ∼ [1, τ ]であるので, I = [1, τ ]と仮定してよい. Iに対応する 2次形式を

fI =NF (x+ τy)

NF (I)

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とすると, 補題 2.53により fI の判別式は∆F である. τ のQ上の最小多項式を ax2 + bx + cとする.

ただし, a, b, c ∈ Z, a > 0, gcd(a, b, c) = 1である. fI = (a, b, c)であるから ϕは全射である.

最後に ϕが準同型写像であることを示す. gcd(a, a′, b+b′

2) = 1を満たす f = (a, b, c), g = (a′, b′, c′) ∈

C∆Fに対して, 定義 2.36により

f ◦ g = (aa′, B, B2−∆F

4aa′)

とかける. ただし, Bは, B ≡ b (mod 2a),

B ≡ b′ (mod 2a′),

B2 ≡ ∆F (mod 4aa′)

を満たす. よって,

ϕ(f) = [a, −b+√∆F

2], ϕ(g) = [a′, −b′+

√∆F

2], ϕ(f ◦ g) = [aa′, −B+

√∆F

2]

となる. 簡単のために∆ = −B+√∆F

2とおくと, これら 3つのイデアルは,

ϕ(f) = [a,∆], ϕ(g) = [a′,∆], ϕ(f ◦ g) = [aa′,∆]

とかけるから, 結局は [a,∆] · [a′,∆] = [aa′,∆]となることを示せばよい.

実際, ∆2 ≡ −B∆ (mod aa′)であるから,

[a,∆] · [a′,∆] = [aa′, a∆, a′∆,∆2] = [aa′, a∆, a′∆,−B∆].

しかし, gcd(a, a′, B) = 1より, [a,∆] · [a′,∆] = [aa′,∆]となるから, ϕ(f ◦ g) = ϕ(f) · ϕ(g)である.

次に, 実 2次体について議論する. 実 2次体に注意すべきことはノルムが常に正になるとは限らないということである. 大まかな方針は虚 2次体の証明とほぼ同じであるが, それにもう少しだけ追加させて議論していく. その前に, この証明で必要になる写像を 1つ定義する. 写像 πを

π : F −→ Q

∈ ∈

τ 7−→ τ−τ√∆F

と定義する. この写像の意味としては√∆F の係数の符号を表している.

定理 2.56 (実 2次体の整数環のイデアルと 2次形式との対応) 判別式∆F をもつ実 2次体 F に対し,

Cl+F ≃ C∆F/ ∼

が成り立つ. 特に, h+F = h∆Fである.

証明. 写像 ϕを

ϕ : C∆F−→ ClF

∈ ∈

f = (a, b, c) 7−→ [a, −b+√∆F

2] (a > 0のとき)

46

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ϕ : C∆F−→ ClF

∈ ∈

f = (a, b, c) 7−→ (√∆F )[a,

−b+√∆F

2] (a < 0のとき)

と定義する. この写像は補題 2.54により定義できる.

まず, f ∼ g ならば ϕ(f)+∼ ϕ(g)を示す. f = (a, b, c), g = (A,B,C)とすると,

f(x, y) = g(px+ qy, rx+ sy)かつ ps− qr = 1

となる p, q, r, s ∈ Zが存在する. ここで, α1を f(x, 1) = 0の根で π(α1)の符号が aの符号と同じになるもので, α2を g(x, 1) = 0の根で π(α2)の符号がAの符号と同じになるものとする. 一般性を失うことなく a > 0と仮定できる. このときに α1と α2の関係がどのようになっているのかを見ていく.

0 = f(α1, 1) = g(pα1 + q, rα1 + s) = (rα1 + s)2g(pα1 + q

rα1 + s, 1)

となっており,

π(pα1 + q

rα1 + s

)=

π(α1)

NF (rα1 + s)

と計算することができる. NF (rα1 + s) = r2 − bars + c

a= A

aであるから, 次の 2つの場合に分けて考

える :

(i) NF (rα1 + s) > 0のとき, aとAの符号は同じであるから,

α2 =pα1 + q

rα1 + s

である. λ = rα + sとおくと, NF (λ) > 0であり, λ[1, α2] = [1, α1]となる.

よって,

ϕ(g)+∼ [1, α2]

+∼ [1, α1]+∼ ϕ(f)

となる.

(ii) NF (rα1 + s) < 0のとき, aとAの符号は異なるから,

α2 =pα1 + q

rα1 + s

である. λ = rα1+sとおくと, NF (λ) < 0であり, λ[1, α2] = [1, α1]となるから, λ(√∆F )[1, α2] =

(√∆F )[1, α1]であり, NF (λ

√∆F ) > 0に注意すると, (

√∆F )[1, α2]

+∼ [1, α1]である.

よって, この場合は

ϕ(g)+∼ (

√∆F )[1, α2]

+∼ [1, α1]+∼ ϕ(f)

となる.

以上によりどちらの場合でも, ϕ(f)+∼ ϕ(g)である.

次に, ϕが全単射であることを示す. 単射については, まず α1を f(x, 1) = 0の根で π(α1)の符号がaの符号と同じになるもので, α2を g(x, 1) = 0の根で π(α2)の符号がAの符号と同じになるものとする.

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λ[1, α2] = [1, α1]

となるNF (λ) > 0を満たす λ ∈ F×が存在すると仮定できるので,

λ

(α2

1

)=

(p q

r s

)(α1

1

)

となる (p q

r s

)∈ GL2(Z)

が存在する. これを変形すると,

α2 =pα1 + q

rα1 + s, λ = rα1 + s

となる. ここで,π(α1)

π(α2)NF (λ) = ps− qr

であり, NF (λ) > 0であるから, (i)の証明中の計算により, π(α1)と π(α2)の符号が同じになる. よって, ps− qr = 1になるから, 命題 2.12を同じような方法で f ∼ gであることがわかる.

全射, 準同型については, 虚 2次体のときと同じように証明できる.

注意 2.57 実は, 2次形式の判別式が体の判別式でなくても対応させることができる. 例えば注意 2.49

において, 判別式 32の 2次体は存在しないが, 判別式 32となる基底をもつ整域は存在する. (実際はZ[2

√2]がそうである)

このような整域は整環と呼ばれ, 一般にはデデキント整域にはならない. (詳しくは, [11]を参照)

以上により, 狭義イデアル類群の元は同じ判別式をもつ 2次形式に対応することができるため, 非常に簡単にきれいな形で代表元を求めることができる. さらに, 次も同時に証明されたことになる.

系 2.58 2次体 F に対し, F の類数 hF は有限である. つまり, F のイデアル類群ClF は有限アーベル群である.

第 1章で述べたように, 一般には数の幾何と呼ばれる概念を使って証明するが, 2次体の場合には類数の有限性は 2次形式を使って証明されたことになる.

注意すべき点としては実 2次体のときはノルムが−1の単数をもつかどうかで変わってしまうことである. それについては第 5章で述べるペル方程式で今後の課題として述べる.

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第3章 クロネッカー ·ウェーバーの定理

この章では, アーベル拡大に関する重要な定理であるクロネッカー ·ウェーバーの定理について述べ, 実際に証明していく. 証明には, 第 1章で述べたガロア理論や分解群, 惰性群, 高次分岐群などさまざまな概念を総動員する. この章は, 第 1節で, 証明の方針を 3つ述べ, 最初の 1つを示している.

第 2節, 第 3節では, 残りの 2つを順に示し, 証明を完了させている.

参考文献において, [1], [2], [3](下), [5], [6]を参考にした.

3.1 証明の方針まず,クロネッカー ·ウェーバーの定理がどのようなものかを述べておく. 次のクロネッカー ·ウェー

バーの定理は, すべてのアーベル体が必ず円分体に含まれることを表している.

定理 3.1 (クロネッカー ·ウェーバーの定理) Q上アーベル拡大となる代数体 F は円分体に含まれる.

この定理の有用なところとしては, 円分体に含まれることにより, より広い視点でアーベル体を見ることができる. 例えば, 定理 1.43 (1)によりどのような円分体に含まれるかが分かれば, 判別式の素因子を見つけることができる.

証明するにあたって, 次のような方針に沿って示していく :

Step 1. 拡大次数が素数べきのときに定理 3.1が成り立てば, 一般の拡大次数に対しても定理 3.1

は成り立つ.

Step 2. 拡大次数と判別式が素数べきのときに定理 3.1は成り立つ.

Step 3. 拡大次数と判別式がどちらも素数べきのときに定理 3.1が成り立てば, 拡大次数が素数べきかつ判別式が一般のとき, 定理 3.1は成り立つ.

この節では, Step 1を示していく. それ以降はかなり準備が必要なので次節で示していく. Step 1

については群論の有限アーベル群の基本定理が必要となる.

命題 3.2 (Step 1) 定理 3.1が拡大次数が素数べきのときに成り立てば, 一般の拡大次数にも定理 3.1

は成り立つ.

証明. この定理の証明に対しては, 有限アーベル群の基本定理を使う. つまり, 有限位数のアーベル群は巡回群の直積で表せるという定理である.

F/Qをアーベル拡大とすると pjを相異なる素数, aj ∈ Nとしたときに,

Gal(F/Q) =∏n

i=1Gj, Gj ≃ Cpjaj

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というようになる. Hi =∏

j =iGjとおき, Fi = FHiとすると, 定理 1.60 (2)より |F : Q| = paii であるから, |

∏ni=1 Fi : Q| = |F : Q|となる.

よって,

F =n∏

i=1

Fi

となる. 仮定より, 素数べきの次数のときに成り立っているから,

Fi ⊂ Q(ζmi)

となるmi ∈ Nが存在する. l = lcm(m1, · · · ,mn)とすれば,

F =n∏

i=1

Fi ⊂ Q(ζn1 , · · · , ζmn) ⊂ Q(ζl)

となる.

3.2 拡大次数と判別式がともに素数べきのときについて前節の命題により, 拡大次数が素数べきのときに成り立つことを証明できれば一般の場合も成り立

つことがわかった. この節では, Step 2である拡大次数と判別式がともに素数べきのときに成り立つことを示していく. これは 2べきのときはそこまで難しくないが, 奇素数べきの場合がとても難しい.

命題 3.3 (Step 2) 拡大次数 |F : Q|と判別式∆F がどちらも素数べきであるアーベル体F は円分体に含まれる.

まず素数が 2のときについて, この命題を示していく. まず次の補題が必要である :

補題 3.4 (Step 2-1) 拡大次数 |F : Q|と判別式∆F がどちらも 2のべきかつ実数体Rに含まれるアーベル体 F は円分体に含まれる.

証明. |F : Q| = 2mとおき, K = Q(ζ2m+2), K ′ = Q(ζ2m+2 + ζ−12m+2)とする. (K ′ = K ∩ Rである. )

L = FK ′とすると, L/Qは巡回拡大である. 実際, 巡回拡大でなければ定理 1.62 (3)により. L/Qはアーベル拡大であるから, 2次の部分体を 2つもたなければならない.

しかし, ∆Lは 2べきかつ L ⊂ Rより, 判別式が 2べきの実 2次体はQ(√2)のみだけであるから矛

盾するので, L/Qは巡回拡大である.

よって, 定理 1.60 (2)により, ただ 1つの次数 2mの部分体として, F = K ′となるから, F ⊂ Kとなる.

補題 3.4により, 実数体Rに含まれない場合も示すことができる.

命題 3.5 (Step 2-2) 拡大次数 |F : Q|と判別式∆F がどちらも 2のべきで, 実数体Rに含まれないアーベル体 F は円分体に含まれる.

証明. F/Q,Q(√−1)/Qはともにアーベル拡大であるから, 定理 1.62 (3)により, F (

√−1)/Qはアー

ベル拡大であり, |F (√−1) : Q|, ∆F (

√−1)はともに 2べきである. K = F (

√−1) ∩ Rとおくと, 補題

3.4により,

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K ⊂ Q(ζn)

となる n ∈ Nが存在する. a, b ∈ Rに対し F (√−1) = K(a + b

√−1)とおくと a − b

√−1 ∈ F (

√−1)

であるから, a, b2 ∈ Kである. つまり, a+ b√−1のK上の最小多項式はX2 − 2aX + (a2 + b2)とな

るので, |F (√−1) : K| = 2である.

したがって, n′ = lcm(n, 4)とおくと,

F ⊂ F (√−1) = K(

√−1) ⊂ Q(ζn,

√−1) ⊂ Q(ζn′)

となる.

補題 3.5により, 命題 3.3の拡大次数と判別式がともに 2べきのときは示すことができた. 次に奇素数べきに対して成り立つのかを示していく. 考え方は基本的に 2べきのときと同様である. つまり,

次の命題が重要になってくる :

命題 3.6 拡大次数 |F : Q|と判別式∆F がともに奇素数べきとなるアーベル拡大 F/Qは巡回拡大である.

命題 3.6を示すためには, 整数環を広げたものを用いて証明する必要があるので, まずその環について定義する. その後, 第 1章で定義した共役差積の素イデアルの指数を高次分岐群の位数を使って表すことができるヒルベルトの公式を証明する.

3.2.1 ヒルベルトの公式

定義 3.7 F を代数体, Iを F の整数環OF のイデアルとする.

OF,I :=

β

∣∣∣ α, β ∈ OF , (β, I) = 1

}を F の I整数環という. これは整域であり, 商体は F である.

これからはOF を少し広げて考えた整域OF,Iについて考えていく. 環論の用語を使うと, 局所化したようなものである.

本論文では I 整数環の性質については簡単に述べるが, 証明については省略する. (詳しくは [1](下),

[3](II)を参照)

まず, 環論的立場からの性質を述べる.

補題 3.8 代数体 F の整数環OF のイデアル Iをとったときに, Iの素イデアル分解を,

I =s∏

i=1

pjej

とすると, OF,I の素イデアルは i = 1, · · · , nに対し, p′i = piOF,I の有限個であり, それ以外は全てOF,I になる.

この補題により, 次の命題が示される :

補題 3.9 代数体 F に対し, F の整数環OF のイデアル Iをとると, OF,I は PIDである.

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よって, この 2つの補題から, PIDはデデキント整域であるからOF,Iのイデアルは素イデアル分解可能で, さらにその素イデアルは有限個しかない.

次に, 第 1章で行った相対拡大について考えていく. 相対拡大K/F に対し, IをOF のイデアルとすると, 2つの I整数環OK,I とOF,I を考えることができる. これら 2つの差は次の命題によりわかる :

補題 3.10 K/F を代数体の相対拡大とする. F の整数環OF のイデアル Iに対し,

OK,I = OKOF,I .

次に, 相対拡大K/F とOF のイデアル I に対し, 共役差積 (O∗K,I)

−1を考える. O∗K,I の定義を確認

すると,

O∗K,I :=

{α ∈ K | TK/F (αOK,I) ⊂ OF,I

}である. これに対しては, 次のことがいえる :

補題 3.11 K/F を代数体の相対拡大とする. F の整数環OF のイデアル Iに対し,

(O∗K,I)

−1 = DK/FOK,I .

補題 3.11において, イデアル I をOF の素イデアル pとして考え. これをOK に上げて分解したとき,

pOK =

g∏j=1

Pjej

と分解されたとすると, OK,pの素イデアルは 1 ≤ i ≤ gに対しP′i = PiOK,pである.

今, K/F の共役差積DK/F の素イデアル分解を,

DK/F =∏P

Pd(P)

とすると, 命題 3.8により,

DK/FOK,p =

g∏i=1

P′

i

d(Pi)

というように分解される. したがって, 次のことがいえる :

命題 3.12 相対拡大K/F に対し, OF の素イデアル pをとり, PをOK の素イデアルでP | pとなるものとする.

このとき, K/F の共役差積DK/F のP指数と (O∗K,p)

−1のP′ = POK,pの指数は一致する.

命題 3.12を使って, ヒルベルトの公式を示していく. その前に, 1つ補題を用意する.

補題 3.13 ガロア拡大K/Fに対し, PをKの整数環OKの素イデアルとし, TをPの惰性体TP(K/F )

とする. さらに, π ∈ OK で, π ∈ P\P2となるものをとると,

OK,P = OK,p = OT,pT +OT,pTπ + · · ·+OT,pTπe−1

である. ただし, e = eK/F (P), pT = P ∩OT である.

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次の定理がヒルベルトの公式である. この証明は整数環そのままだと証明するのが難しいため, この節で定義した少し広げた整数環を導入する.

定理 3.14 (ヒルベルトの公式) K/F をガロア拡大とする. K の整数環OK の素イデアルPに対し,

このPに関する高次分岐群の降鎖を

v0 ⊋ v1 ⊋ · · · ⊋ vm ⊋ vm+1 = {1}

とする. このとき, K/F の共役差積DK/F のP指数 sは,

s =m∑i=0

|vi| − 1

となる.

証明. 命題 1.76 (2)と命題 1.86 (3)により, K/T に関してだけ考えればよい.

命題3.12により,DK/TのP指数と (O∗K,p)

−1のP′ = POK,Pの指数は一致するから, (O∗K,p)

−1=DK/TOK,P

のP′指数がm∑i=0

|vi| − 1

と等しくなることを示していく. 簡単のために, vP(I)を IのP指数とかくことにする.

補題 3.13から, π ∈ P\P2となるものをとると,

OK,P = OK,p = OT,pT +OT,pTπ + · · ·+OT,pTπe−1である.

とかくことができる. ただし, e = eK/F (P), pT = P ∩OT である. 命題 1.73から, f(X)を πの T 上の最小多項式とすると

O∗K,p =

OK,P

f ′(π)

となるから,

(O∗K,p)

−1 = DK/FOK,P = f ′(π)OK,P.

よって, 命題 3.12より,

vP(DK/T ) = vP′(DK/TOK,P) = vP′(f ′(π)OK,P) = vP(f′(π))

となるから, vP(f′(π))についてみていく.

f ′(π) =∏

τ∈v0\{1}

(π − πτ )

とかける. これをさらに細かく分けていくと,

f ′(π) =∏

τ∈v0\v1

(π − πτ )∏

τ∈v1\v2

(π − πτ ) · · ·∏

τ∈vm\vm+1

(π − πτ )

となる.

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ここで, 命題 1.92より, τ ∈ vn\vn+1 ⇐⇒ vP(π − πτ ) = n+ 1であるから,

vP

∏τ∈v0\v1

(π − πτ )

= |v0| − |v1|,

vP

∏τ∈v1\v2

(π − πτ )

= 2(|v1| − |v2|),

...

vP

∏τ∈vm\vm+1

(π − πτ )

= (m+ 1)(|vm| − |vm+1|)

と計算できるので, 結局, vm+1 = {1}に注意すると

vP(f′(π)) = (|v0| − |v1|) + 2(|v1| − |v2|) + · · ·+ (m+ 1)(|vm| − |vm+1|) =

m∑i=0

|vi| − 1

となる.

ヒルベルトの公式を示せたので, 次では本格的に命題 3.6を示していく.

3.2.2 拡大次数と判別式がともに奇素数べきのときについて

この節ではまず, 命題 3.6を示す. この命題を示せれば拡大次数と判別式がとも奇素数べきのときに定理 3.1が成り立つことも示すことができる.

そのために, 2つ補題を用意する.

補題 3.15 pを奇素数とする. 代数体の拡大F/Qを判別式∆F が pべきである p次巡回拡大と仮定し,

Gal(F/Q)=⟨σ⟩とする. また, F の整数環OF の素イデアルPはP | pを満たすとする.

このとき, π ∈ P\P2となる元をとると, πσ − πを割るPの指数は 2である.

証明. πσ − πを割るPの指数を簡単のために vσとおく.

定理 1.80, 命題 1.86 (3), 命題 1.91 (3)より, Gal(F/Q) = IP(F/Q) = v1である. よって命題 1.92より, vσ ≥ 2であるから, vσ ≤ 2を示していく.

命題 1.86 (5)より, F = Q(π)とかける. f(X)を πのQ上の最小多項式とすると, F/Qが p次巡回拡大より,

f(X) = Xp + a1Xp−1 + · · ·+ ap =

p−1∏i=0

(X − πσi

)

とかける. f(X) ∈ Z[X]であり, 惰性群は分解群の部分群より πσi ∈ Pσi= Pであるから, ai ∈

P ∩ Z = (p)である.

ここで,

f ′(X) =

p−1∏i=1

(π − πσi

)

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を考える. a ∈ Zに対し, πσ−π ∈ Pa より任意の jに対し, πσj+1 −πσj ∈ Pa であるから, πσj −π ∈ Pa

となる.

1 ≤ j ≤ p−1に対しσjもGal(F/Q)の生成元であるから逆も成り立つので,任意の jに対しvσ = vσj

であるからPvσ(p−1) ∥ 5f ′(π)となる.

一方,

f ′(π) = pπp−1 + (p− 1)a1πp−2 + · · ·+ ap−1

とかけ, 任意の iに対しPp | aiより各項のP指数はmod pでそれぞれ, p− 1, p− 2, · · · , 0に等しいため, それぞれ異なっていることになる. したがって, f ′(π)のP指数はこの中の最小値に等しい. 特に第 1項目を考えると, p+ (p− 1) ≥ vσ(p− 1) より 2p− 1 ≥ vσ(p− 1)を得る. もし vσ > 2ならば,

p ≤ vσ − 1

vσ − 2= 1 +

1

vσ − 2≤ 2

となり, pが奇素数であることに矛盾するから vσ ≤ 2となるので, vσ = 2になる.

この補題を用いて, 次の補題を示す :

補題 3.16 pを奇素数とする. 代数体の拡大 F/Qが p2次アーベル拡大かつ F の判別式∆F が pべきならば, 巡回拡大である.

証明. 仮定より, pは F で完全分解することがわかる. G = Gal(F/Q)が巡回拡大でないと仮定すると, G ≃ Cp × Cpであるから, 任意の σ ∈ Gal(F/Q)\{id}に対して,

H = ⟨σ⟩かつ |G : H| = p

となるGの部分群Hをとることができる. K = FHとおく. PをOF の素イデアルでP | pを満たすとする.

ここで, π ∈ OF を π ∈ P\P2となるような元をとる. π − πσのP指数を vσとおくと, 定理 3.14により,

DF/K = Pvσ(p−1)

とかける. またK/Qについては, 定理 3.14と補題 3.15により,

DK/Q = P2p(p−1)

とかける. したがって命題 1.76 (2)より,

DF/Q = DF/KDK/Q = P(vσ−2p)(p−1)

となるが, これは一定のイデアルとなるので vσは一定の値 nをとることになる.

しかし, 命題 1.92により, vn−1 = G, vn = {1}となるが, 命題 1.91 (4)と pはF で完全分解することから,

p2 = |vn−1/vn| ≤ NF (P) = p

に矛盾するから, F/Qは巡回拡大である.

5b ∥ aとは, bが aをきっちり割ることである, つまり, aの b指数を vとすると, bv | aだが, bv+1 |/aとなることである.

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後はこの議論を拡大次数が p3, p4, · · · と繰り返していけば, 次の命題 3.6が示せたことになる.

話を戻してクロネッカー · ウェーバーの定理の証明に戻る. 命題 3.3を完全に示していくために, 次の補題を示す :

命題 3.17 (Step 2-3) 拡大次数 |F : Q|と判別式∆F がともに奇素数べきであるアーベル体 F は円分体に含まれる.

証明. pを奇素数とする. |F : Q| = pm, K = Q(ζpm+1)とおく.

Gal(K/Q) ≃ (Z/pm+1Z)× ≃ Cpm(p−1)

であるから, |H| = p− 1となるGal(K/Q)の部分群Hがとれるので, L = KH とおくと, 以下のハッセ図より |FL : Q|,∆FLはともに pべきになる.

Q

F ∩ L

F L

FL

命題 3.6により, Gal(FL/Q)は巡回群になる. |L : Q| = |F : Q| = pmであるから, 定理 1.60 (2)により F = Lを得るので, F = L ⊂ Kとなる.

この命題により命題 3.3が完全に証明でき, Step 2が完了した. 次節から Step 3に入っていく.

3.3 クロネッカー ·ウェーバーの定理の証明の完結この節では Step 3に入っていく. Step 3が完了すればクロネッカー ·ウェーバーの定理を完全に証

明できたことになる. そのためには, 次の補題が必要になる :

補題 3.18 F/Qを n次アーベル拡大とする. p | ∆F かつ p |/nとなる任意の素数 pに対して, 以下の(1)から (4)を満たすQ上アーベル拡大Kが存在する :

(1) |K : Q|∣∣ n ;

(2) F ⊆ K(ζp) ;

(3) p |/∆K ;

(4) ∆K | ∆F .

証明. この命題の証明は F を 2つの場合にわけて考えていく. pを pを割るOF の素イデアルとする.

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(i) ζp ∈ F のとき, まず, この場合に起こることを確認する.

命題 1.91 (5)より |F : V(1)p (F/Q)|は pべきになるが, |F : V

(1)p (F/Q)|

∣∣ nであることと p |/nより, F = V

(1)p (F/Q)となる. つまり, v1 = {1}である.

命題 1.91 (6)より, eF/Q(p) = |Ip(F/Q)|∣∣ (p − 1)であるが命題 1.67より, p′ = p ∩OQ(ζp)とお

くと,

eF/Q(p) = eF/Q(ζp)(p)eQ(ζp)/Q(p′)

であり, eQ(ζp)/Q(p′) = p− 1であるから, eF/Q(ζp)(p) = 1となる. これに注意してK = Tp(F/Q)

が (1)から (4)の条件を満たすことを示していく.

この場合のハッセ図は以下のようである.

Q

Q(ζp) K

F

Kは F の部分体より, K/Qはアーベル拡大で |K : Q|∣∣ n, ∆K | ∆F である. また,

Ip(F/Q(ζp)) = Ip(F/Q) ∩Gal(F/Q(ζp))

であるから, この群による不変体はK(ζp)であり, eF/Q(ζp)(p) = 1より F = K(ζp)である.

さらに, 命題 1.86 (3)より p |/∆K である.

(ii) ζp ∈ F のとき, まず F (ζp)に対し p | ∆F (ζp), p∣∣/ |F (ζp) : Q|を満たすことを示す.

F (ζp)は F の拡大体であるから定理 1.43 (1)より, p | ∆F より p | ∆F (ζp)である.

L = F ∩Q(ζp)とし, ハッセ図をかくと以下のようになる.

L

Q(ζp) F

F (ζp)

F (ζp) = F ·Q(ζp)であるから, 定理 1.62 (2)より,

|F (ζp) : Q| = |F (ζp) : L| · |L : Q| = |F : L| · |Q(ζp) : L| · |L : Q|

57

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となるので, {|F (ζp) : Q| = |F : L| · (p− 1),

|F (ζp) : Q| = |Q(ζp) : L| · n

となる. よって,

|F (ζp) : Q|2 = |F : L| · (p− 1) · |Q(ζp) : L| · n

を得る. 定理 1.62 (1)より,

|F (ζp) : F | = |Q(ζp) : L|

であるから,

|F (ζp) : Q|∣∣ (p− 1) · n

となる. p |/nより, |F (ζp) : Q|∣∣/ nである.

このことから, (i)の結果を適用できる. K = Tp(F (ζp)/Q)とする. このとき F の部分体ではないことに注意する.

ハッセ図をかくと以下のようになる. 定理 1.43 (1), (3) と命題 1.86 (3)より, K ∩Q(ζp) = Qである.

Q

Q(ζp) K

F (ζp)

まず, F ⊂ F (ζp) = K(ζp)である. |F (ζp) : Q| = nであるから, 拡大次数については少し議論が必要になる. 定理 1.62 (1)より,

|F (ζp) : K| = |Q(ζp) : Q| = p− 1

であるから,

|F (ζp) : Q| = |F (ζp) : K| · |K : Q| = (p− 1) · |K : Q|.

よって, |K : Q|∣∣ nであり, Kの定義より, 命題 1.86 (3)から p |/ ∆K である.

最後に q = pとなる素数 qに対し, 定理 1.80により, q | ∆K より, qはK で分岐するが, K =

F ·Q(ζp)であるから, qは F で分岐するしかないので q | ∆F である.

この命題は文章だけでは何もわからないが, 実は F の判別式∆F を pべきにするために, ∆F とは等しくはないが, 割るような数を判別式としてもつ代数体Kをとれるというものである. さらにこの代数体Kの判別式∆K が pべきでない場合はもう一度同じことを行う.

この議論を繰り返し行えば最終的に判別式が pべきの代数体が取れることになる. よって, 次の命題が示される :

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命題 3.19 (Step 3) アーベル体の拡大次数と判別式がともに奇素数べきのときに定理 3.1が成り立てば, 拡大次数が素数べきかつ一般の判別式で定理 3.1が成り立つ.

以上, Step 1, Step 2, Step 3により, クロネッカー ·ウェーバーの定理が完全に証明されたことになる. 第 4章ではこの定理と第 3章で説明した 2次体の整数論を展開してその中で自分が考えたことを述べていく. その前に, 簡単な例を述べておく.

例 3.20 pを奇素数とする. F = Q(

√(−1)

p−12 p)のとき, F ⊂ Q(ζp)である.

このことについては, ガウス和と呼ばれる概念や, 例 1.44で挙げた, 特に p分体Q(ζp)の判別式が平方数でないことから示すことができる.

このことを使って, すべての 2次体がどのような円分体に含まれるのか具体的に計算することができる. 例えば, F = Q(

√−5)に対しては, 上の式からでは求めることができないが,

F ⊂ Q(√5,√−1) ⊂ Q(ζ20, ζ4) = Q(ζ20)

と計算できる.

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第4章 考察と具体例

この章では, 第 2章, 第 3章を踏まえて, 著者が考察したことを紹介する. 2次形式が表現する奇素数と 2次体との対応についての問題である. この問題は類体論により証明が完了しているが, それの具体例を述べている. 第 1節では, 類数が 1の虚 2次体では 2次形式はどのような素数を表現し, さらに虚 2次体の上ではそのような働きを行うのかをまとめた. 第 2節では, 類数 2の虚 2次体について,

第 1節と同じ問題について考察した. この場合は, 簡約形式が 2つあるが, 特に, 基本形式が表現する素数について考え, ヒルベルト類体との対応について考えた.

この章で, 重要になるものが次の定理である :

定理 4.1 2次体 F = Q(√D)と奇素数 pに対し,

pOF =

p1p2 (

(Dp

)= 1のとき),

p2 ((Dp

)= 0のとき),

p ((Dp

)= −1のとき).

この定理と 2次体の判別式の表し方から次がわかる :

系 4.2 2次体 F と素数 pにおいて, 以下は同値である :

(1) pは F で完全分解 ;

(2) (∆F

p) = 1.

この系により, 2次体において完全分解する素数はルジャンドル記号を計算すればよいということがわかる. 例えば, Q(

√−1)で完全分解する素数は定理 1.2 (4)より, p ≡ 1 (mod 4)である. もう 1つ

少し複雑になるが別の例を挙げておく.

例 4.3 F = Q(√−5)で完全分解する素数を求める. ∆F = −20であるから系 4.2により,(−20

p

)= 1

となる素数 pを求めればよい. (−20p) = (−1

p)(5

p)であるから,(−1

p

)=(5p

)= 1,

または (−1

p

)=(5p

)= −1

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となる.

(−1

p

)=

{1 (p ≡ 1 (mod 4)),

−1 (p ≡ 3 (mod 4)),(5p

)=

{1 (p ≡ 1, 4 (mod 5)),

−1 (p ≡ 2, 3 (mod 5))

となるから, 連立合同式により F で完全分解する素数は p ≡ 1, 3, 7, 9 (mod 20)である.

4.1 類数1の虚2次体に対応する2次形式が表現する素数についてここで, 次の問題を提起する :

2元 2次形式で表現される奇素数はどのような奇素数か. また, その奇素数はどのような意味があるのか.

この問題に対し, 特に次の問題が有名である :

定理 4.4 整数の 2つの平方和で表現される奇素数は 4で割って 1余る素数で, 逆も成り立つ.

証明についてはQ(√−1)の整数環 Z[

√−1]が PIDであることを使って証明していく. 環論を用い

てイデアルによる証明や素元と既約元による証明で示される. 実際, 前章までで見たようにQ(√−1)

の類数は 1である. ここで注目してほしいことは, それのイデアル類群に対応する簡約形式である. この場合は x2 + y2だけである. 素数 pが簡約形式で表現できるとき, そのようなことが起きているのだろうか.

この節では 2次形式で表現される素数の性質について述べていく.

命題 4.5 D ≡ 0, 1 (mod 4), n ∈ ZをDと互いに素とする.

(1) nが判別式Dの原始形式で原始的に表現されるならば, Dはmod |n|で平方剰余である.

(2) nが偶数かつDが mod |n|で平方剰余または, nが奇数かつDが mod 4|n|で平方剰余ならば, n

は判別式Dの原始形式で原始的に表現される.

この命題により, 次の系が示される :

系 4.6 n ∈ Z, 奇素数 pに対し, 以下は同値である :

(1) pが判別式−4nの原始形式で表現される ;

(2) (−np) = 1.

ここで, (−np) = (−4n

p)であることと, 2次形式はある簡約形式に同値であることに注意すると, 特定

の 2次体で完全分解する奇素数は 2次形式で次にように特徴づけできる.

定理 4.7 4 | ∆F となる 2次体 F と, 奇素数 pに対して, 以下は同値である :

(1) pが F で完全分解する ;

(2) pは判別式∆F の簡約形式で原始的に表現される.

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ここで重要になってくるものは類数が 1であることである. 類数が 1であれば, 簡約形式の個数は1個しかないので, 完全分解する素数が決まればそれにより表現される簡約形式は簡単に求まってしまう. 他にも判別式が 4で割れるときの虚 2次体で類数が 1の判別式は次のようになる. 証明については 2次形式を使って簡単に証明できる.

定理 4.8 4 | ∆F となる虚 2次体 F に対し, hF = 1 ⇐⇒ F = Q(√−1),Q(

√−2).

また, 類数 1の虚 2次体は次のものしかないことが知られている :

定理 4.9 (H. M. Stark, 1964) 虚 2次体 F に対し,

hF = 1 ⇐⇒ F = Q(√−1),Q(

√−2),Q(

√−7),Q(

√−11),Q(

√−19),Q(

√−43),Q(

√−67),Q(

√−163).

判別式が 4で割って 1余るときの証明については現在考察中である.

では, 虚 2次体の類数が 2以上の場合はどのようになるのであろうか. この場合は簡約形式の個数が 2以上になり, どの簡約形式がどの素数を表現するのか簡単に判別できない. 例えば, 例 4.3で挙げた F = Q(

√−5)のときを考えると, 完全分解する素数は p ≡ 1, 3, 7, 9 (mod 20)であることを示して

いる. また, ∆F = −20であるから, 判別式が−20の簡約形式は x2 + 5y2, 2x2 + 2xy+ 3y2であることがわかっているが, この 2次形式がどの素数を表現するかという問題は判別式が−4のときよりも難しい.次節では, 特に類数が 2である判別式に関する考察を行っていく.

4.2 類数2の虚2次体に対応する基本形式が表現する素数について私が, クンマーによるフェルマーの最終定理 6の証明を勉強している中で, 次の定理が鍵になった :

定理 4.10 [アルティンの相互法則] 代数体 F に対し, Kを F のヒルベルト類体とすると

Gal(K/F ) ≃ ClF

が成り立つ.

注意 4.11 アルティンの相互法則は, より一般のイデアル類群において証明されている. 定理 4.10の主張はその中でも最も簡単なものである. (詳しくは, [13], [14], [17]を参照)

この定理の証明は, 第 1章で定義したアルティン写像を使って証明するが, 現在学んでいる. ヒルベルト類体とは, 代数体F を基礎体としたとき, 最大不分岐アーベル拡大となるF の拡大体のことであると特徴づけできる. 簡単な例を挙げておく.

例 4.12 (1) Q(√−1)のヒルベルト類体は自分自身である.

(2) Q(√−5)のヒルベルト類体はQ(

√−5,

√−1)である.

(3) Q(√−6)のヒルベルト類体はQ(

√−6,

√2)である.

6p |/hQ(ζp)となる奇素数 pに対して, xp + yp = zpとなる自明でない x, y, z ∈ Zは存在しないことを証明した. この証明に対しては, クンマー拡大や円分体の理論などを使う.

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実際不分岐拡大となっているかについては, 命題 1.79, 定理 1.80を使って確かめることができる.

例えば, (2)については, K = Q(√−5,

√−1), F = Q(

√−5)とおくと, ∆K = 400,∆F = −20であるか

ら, (∆K については, 行列のクロネッカー積を用いれば求められる. ) 命題 1.79より,

∆K/Q = ∆|K:F |F/Q NF/Q(∆K/F ),

400 = 202NF/Q(∆K/F ),

∆K/F = OF

となる. したがって定理 1.80より, Kで分岐するOF の素イデアルは存在しないことになるので, K/F

は不分岐拡大である.同じようにして (3)も不分岐拡大であることが確かめることができる. さらに,

ヒルベルト類体は類体論を使えば, 次の性質が成り立つことがわかる :

命題 4.13 代数体 F に対し, Kを F のヒルベルト類体とすると, 以下は同値である :

(1) F の整数環OF の素イデアル pがKで完全分解 ;

(2) pは単項イデアルである.

では,例4.12 (2)のとき,ガロア理論を用いてヒルベルト類体について見ていく. K = Q(√−5,

√−1), F =

Q(√−5)とおく. このとき,

Gal(K/Q) ≃ V4 ≃ C2 × C2

であるから, アーベル拡大である. V4はクラインの四元群と呼ばれる群である. よって, クロネッカー·ウェーバーの定理により, Kは円分体に含まれることになる. 実際, K ⊂ Q(ζ20)である.

また,

Gal(Q(ζ20)/Q) ≃ (Z/20Z)× = {1, 3, 7, 9, 11, 13, 17, 19}

であるから, ガロア対応をかくと以下のようになる.

Q

Q(√−5)

Q(√−5,

√−1)

Q(ζ20)

(Z/20Z)×

{1, 3, 7, 9}

{1, 9}

{1}

つまり,この {1, 9} というものがどのような特徴をもっているのかを見ればよい. まず簡単にわかるものとして, (Z/20Z)×の位数 2の唯一の部分群となっていることである. 実際, (Z/20Z)×の部分群 {1, 3, 7, 9} をみると, {1, 3, 7, 9} は F で完全分解する素数を表していて, {1, 3, 7, 9} ≃ C4であるから, この群の自明でない部分群は {1, 9} しかないことがわかる. この性質が後で重要になってくる. では, 他の例でも適用できるかというとそうではない. 例えば, 例 4.12 (3)を同じようにガロア対応を考えると,

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Q

Q(√−6)

Q(√−6,

√2)

Q(ζ24)

(Z/24Z)×

{1, 5, 7, 11}

{1, 7}

{1}

となる. しかし {1, 5, 7, 11} ≃ V4であるから, 自明でない部分群としては {1, 5}, {1, 7}, {1, 11}の 3

つがあるので, 必ず唯一になっているとは限らないことに注意する.

そこで重要になってくるものが, 定理 4.10のイデアル類群と同型であるということである. 現在は虚 2次体の場合であるから,狭義イデアル類群はイデアル類群と同じであるから完全に 2次形式の形にいい直すことができる. 著者は, このガロア対応と 2次形式の表現する奇素数は対応すると考えた.

まず, 判別式が−20の場合をみていく. p ≡ 1, 3, 7, 9 (mod 20)と仮定する. このとき, 命題 4.5 (2)

により, 判別式−20の簡約形式により表現される.

判別式−20の簡約形式は x2 + 5y2, 2x2 + 2xy + 3y2であるから, それぞれの 2次形式がその素数を表現するのかを決めていく.

x2 + 5y2 = pとなる x, y ∈ Zが存在するならば, x2 ≡ p (mod 5)であるから,(p5

)= 1

となる. よって, p ≡ 1, 3, 7, 9 (mod 20)の中では, p ≡ 1, 9 (mod 20)である.

また, 2x2 + 2xy + 3y2 = pとなる x, y ∈ Zが存在するならば, (2x+ y)2 ≡ 2p (mod 5)であるから,(p5

)= −1

となる. よって, p ≡ 1, 3, 7, 9 (mod 20)の中では, p ≡ 3, 7 (mod 20)である.

また, 同じ方法を判別式−24に対しては適用できない. なぜならば, ルジャンドル記号を適用できないからである.

そのために, 2次形式論の種の定理を用いる. 現在, 学んでいる途中であり, この理論を学ぶことは今後の課題の 1つである.

命題 4.14 D ≡ 0, 1 (mod 4)とする. Dを割らない素数 pに対し,

χ : (Z/DZ)× −→ {±1}

∈ ∈

p 7−→(Dp

)さらに, χ(1) = 1, χ(−1) = −1となる準同型写像が一意に存在する.

注意 4.15 この記号はルジャンドル記号を拡張させたヤコビ記号と呼ばれるものである. つまり, ルジャンドル記号では分母の部分が奇素数であったが, それを拡張させ一般の合成数の場合にしたものである.

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この写像を使って, 基本形式が表現する素数を求めることができる.

命題 4.16 D ≡ 0, 1 (mod 4), f を判別式Dの 2次形式とする. このとき, 以下が成り立つ :

(1) Dを割らない奇素数 pに対して, p ∈ Ker(χ)ならば, pは判別式Dの簡約形式で表現される ;

(2) 基本形式で表現される (Z/DZ)×の値の集合HはKer(χ)の部分群である ;

(3) 判別式Dの 2次形式 f より表現される (Z/DZ)×の値はKer(χ)におけるHの剰余類をなす.

この命題により, 判別式が−20のときを完全に示せる. 写像 χを

χ : (Z/20Z)× −→ {±1}

∈ ∈

p 7−→(−20

p

)となる準同型写像とすると,

Ker(χ) = {p | p ≡ 1, 3, 7, 9 (mod 20)}

であることがわかる. Ker(χ)の部分群は {1, 9} のみであるから, 命題 4.16により, x2 +5y2が表現する奇素数は p ≡ 1, 9 (mod 20)である. したがって,

x2 + 5y2 = p⇐⇒ p ≡ 1, 9 (mod 20)

が示された.

判別式−24の場合は, χを

χ : (Z/24Z)× −→ {±1}

∈ ∈

p 7−→(−24

p

)となる準同型写像とすると,

Ker(χ) = {p | p ≡ 1, 5, 7, 11 (mod 24)}

であることがわかる.

また, 判別式が −24の簡約形式は x2 + 6y2, 2x2 + 3y2の 2つであり, x2 + 6y2が表現する奇素数は,

p ≡ 1, 7 (mod 24)である. 必要十分条件であることを示すために, もう少し考えなければならない. 2

次形式の種を定義する.

定義 4.17 D ≡ 0, 1 (mod 4), H ⊂ Ker(χ)を定理 4.16の通りとし, H ′をKer(χ)におけるHの剰余類とする.

このとき, mod DでH ′を表現する, 判別式Dの 2次形式全ての集合をH ′の種という.

2次形式の種を定義したとき, 次の定理を証明することができる :

定理 4.18 D ≡ 0, 1 (mod 4)に対し, H とH ′を定義 4.17と同じ集合, pをDを割らない奇素数とする. このとき, 以下は同値である :

(1) pがH ′の種にある簡約形式で表現される ;

(2) p ∈ H ′.

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この定理を使えば,判別式−24の場合がわかってくる. 判別式が−24の簡約形式はx2+6y2, 2x2+3y2

の 2つであり, x2 + 6y2が表現する奇素数は, p ≡ 1, 7 (mod 24)である. H = {1, 7} とおくと, これはKer(χ) の部分群である.

一方, 2x2 + 3y2が表現する奇素数は p ≡ 5, 11 (mod 24)であるから, 2x2 + 3y2はHの種にはなりえない. 実際, 定理 4.18により, Hの種は x2 + 6y2と同値な 2次形式だけであり, 2x2 + 3y2とは同値でないからである.

したがって,

p ≡ 1, 7 (mod 24) ⇐⇒ p = x2 + 6y2

となる. つまり, 例 4.12 (3)の場合でも, 基本形式によりヒルベルト類体が構成されることがわかる.

このことを他の類数 2の虚 2次体に対して行えば, 次のことを考えた :

類数 2の虚 2次体 F に対し, Q上アーベル拡大である F のヒルベルト類体は具体的に構成可能で, 基本形式を使って構成できる.

また, 類数 2の虚 2次体は, 次のものしかないことが示されている :

定理 4.19 (A. Baker, H. M. Stark, 1971) 虚 2次体 F に対し,

hF = 2 ⇐⇒ F = Q(√−5),Q(

√−6),Q(

√−10),Q(

√−13),Q(

√−15),Q(

√−22),Q(

√−35),Q(

√−37),

Q(√−51),Q(

√−58),Q(

√−91),Q(

√−115),Q(

√−123),Q(

√−187),Q(

√−235),

Q(√−267),Q(

√−403),Q(

√−427).

これらすべてのヒルベルト類体を, 次のページで表にしてまとめている.

ここまでで, 類数が 2の場合を調べてきた. その次に類数が 3の場合を考えたが, この方法は使えない. なぜなら, Q上アーベルでないヒルベルト類体が存在するからである.

例 4.20 Q(√−23)のヒルベルト類体はQ(

√−23, α)である. ただし, αはX3 −X + 1 = 0の根であ

る. 実際, Gal(K/Q) = S3で S3はアーベル群ではない.

つまり, どの円分体にも含まれていないことになるので, 同じような議論をすることができない.

また, 実 2次体については基本単数を考える必要があるので, 虚 2次体よりさらに難しくなる.

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以下の表は, 類数 2の虚 2次体に対するヒルベルト類体である.

虚 2次体 ヒルベルト類体 ヒルベルト類体の判別式Q(

√−5) Q(

√−1,

√5) 400

Q(√−6) Q(

√−3,

√2) 576

Q(√−10) Q(

√−2,

√5) 1600

Q(√−13) Q(

√−1,

√13) 2704

Q(√−15) Q(

√−3,

√5) 225

Q(√−22) Q(

√−11,

√2) 7744

Q(√−35) Q(

√−7,

√5) 1225

Q(√−37) Q(

√−1,

√37) 21904

Q(√−51) Q(

√−3,

√17) 2601

Q(√−58) Q(

√−2,

√29) 53824

Q(√−91) Q(

√−7,

√13) 8281

Q(√−115) Q(

√−23,

√5) 13225

Q(√−123) Q(

√−3,

√41) 15129

Q(√−187) Q(

√−11,

√17) 34969

Q(√−235) Q(

√−47,

√5) 55225

Q(√−267) Q(

√−3,

√89) 71289

Q(√−403) Q(

√−31,

√13) 162409

Q(√−427) Q(

√−7,

√61) 182329

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第5章 今後の研究について

この章では, 著者が今後の研究の対象をいくつか述べていく. 第 1節では実 2次体と関わりのあるペル方程式について述べている. 第 4章で虚 2次体について議論したが, 実 2次体ではこのペル方程式の議論も必要になる. そのペル方程式が解ける必要十分条件や, 実 2次体の類数問題について述べている. 第 2節では, 第 2章で定義した, 2元 2次形式の演算であるディリクレ積を 2元 3次形式に拡張させる方法について紹介している.

5.1 実2次体の類数とペル方程式について次にペル方程式について述べる. ペル方程式は実 2次体の基本単数を求めることに使われる. m ∈ Z

を平方数でない整数としたとき, ペル方程式は

X2 −mY 2 = ±1,±4

という形の方程式である. 解の構造は命題 1.40により実 2次体 F の単数群の構造と同じであるから,

定理 1.54により,

O×F ≃ Z× ⟨±1⟩ ≃ ⟨u1⟩ × ⟨±1⟩

という構造をもっているので, この u1を具体的に求めることが重要になっている.

著者が非常に関心をもっているのは

X2 −mY 2 = −1,−4

が整数解をもっているかどうかである. これは, 命題 2.52の狭義類数と一般的な類数との差が 2倍異なるか, 全く同じかをいうために必要なことである. [KW86]の X2 −mY 2 = −1が解をもつために必要十分条件を紹介する.

2次無理数 αに対して, l(α)を αを連分数展開したときの循環節の長さを表すことにする.

定理 5.1 以下は同値である :

(1) ペル方程式X2 −mY 2 = −1が整数解 (X,Y )をもつ ;

(2) l(√m)は奇数である.

著者はペル方程式について詳しく勉強していないため, 現在は証明できていないが, 有用な定理である.

問題になってくるものがX2 −mY 2 = −4が整数解をもつ必要十分条件である. まだ論文を詳しく読んでいないが, 次のことを論文内でいっている :

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定理 5.2 (P. Kaplan and K. S. Williams, [KW86], THEOREM 1) X2 −mY 2 = −1が整数解 (X, Y )

をもつと仮定する. このとき, 以下は同値である :

(1) X2 −mY 2 = −4が整数解 (X, Y )をもつ ;

(2) l(√m) ≡ l(1+

√m

2) (mod 4).

つまり, 条件を付け足すことによりX2 −mY 2 = −4が整数解をもつ必要十分条件を与えることができている. しかし, 私はこの条件がなくても整数解をもつ条件を特徴づけできると考えているので,

今後頑張っていきたい.

また, 実 2次体では次の問題が未解決である :

予想 5.3 (ガウスの予想) 実 2次体 F に対し, 類数 hF が 1になる F は無限個存在する.

この問題は, ノルムが−1の単数をもつかもたないかにより, 類数と狭義類数が異なるため, まずはノルムが−1の単数をもつ実 2次体の必要十分条件を与えてから解析していきたい.

5.2 高次合成則この節で紹介する結果は, 2014年にフィールズ賞を受賞したマンジュル ·バルガヴァ氏の結果であ

る. 論文は, [Bha04I], [Bha04II], [Bha04III], [Bha08IV]であり 200年もの間知られていなかった, 2次形式の高次合成則を発見した.

本論文では, [Bha04I]の結果の一部を紹介する. まず, [Bha04I]で学んだことを紹介する.

A = (a, b, c, d, e, f, g, h) ∈ Z8に対し, それらからなる立方体CAを

c d

a b

g

e

h

f

とし, この立方体に対する 3つの行列 7,

M1 =

(a b

c d

), N1 =

(e f

g h

)

M2 =

(a c

e g

), N2 =

(b d

f h

)

M3 =

(a e

b f

), N3 =

(c g

d h

)

に対して 3つの 2次形式を

QAi (x, y) = −det(Mix−Niy)

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と定義する. 簡単のために, Qi = QAi とかく.

これら 3つの 2次形式は,第 3章で述べたように SL2(Z)で同値関係を導入していたので, この立方体に対しては SL2(Z)× SL2(Z)× SL2(Z)に対して同値関係∼′を導入することができる. この立方体を定義して分かることを述べておく.

定理 5.4 Q1, Q2, Q3の判別式は全て等しい.

この判別式を立方体の判別式という. さらに, Q1, Q2, Q3がすべて原始形式になるような立方体を原始立方体という. 2次形式と同じ理由により, 各係数が互いに素であるときに, 原始立方体の集合を同値関係∼で割った集合の構造を見ていく. すると, 次の結果が分かる :

定理 5.5 A = (a, b, c, d, e, f, g, h) ∈ Z8に対し, CAが判別式Dの原始立方体のとき, Q1 ◦ Q2 ◦ Q3は判別式Dの基本形式になる.

定理 5.5を簡単に見ていく. 判別式Dの原始立方体は,

0 d

1 0

g

0

h

f

と同値になることが示される. この立方体に対する 3つの 2次形式は,

Q1(x, y) = −dx2 + hxy − fgy2, Q2(x, y) = −gx2 + hxy − dfy2, Q3(x, y) = −fx2 + hxy + dgy2

である. よって, Q1が原始形式より gcd(d, h, fg) = 1であるから gcd(d, h, g) = 1であるので, 定義2.36より,

Q1 ◦Q2 = dgx2 + hxy − fy2

である. 変数変換 (x, y) 7→ (y,−x)により,

Q1 ◦Q2 ∼ −fx2 − hxy + dgy2 = Q3−1

であるから, Q1 ◦Q2 ◦Q3は判別式Dの基本形式になる.

ここから, [Bha04I]の結果を紹介する. 判別式Dの原始立方体の集合をCbDとかく.

定理 5.6 (バルガヴァ, [Bha04I], THEOREM 1) D ≡ 0, 1 (mod 4)となる整数Dをとる.

QA01 = QA0

2 = QA03 = Qid,Dを満たす立方体A0が存在すると仮定し, その原始形式をQid,Dとおく.

このとき, CD/ ∼に対し, 以下の 2つを満たすような群の演算が一意に存在する :

(1) Qid,Dは, 単位元である ;

(2) QA1 , Q

A2 , Q

A3 がすべて原始形式となる任意の判別式Dの立方体に対し, QA

1 ◦QA2 ◦QA

3 = Qid,Dとなる ;

(3) Q1 ◦Q2 ◦Q3 = Qid,Dとなる, Q1, Q2, Q3に対し, QA1 = Q1, Q

A2 = Q2, Q

A3 = Q3となる判別式Dの

立方体Aが同値関係∼′を除いて一意に存在する.

7それぞれ立方体を回転させて正面,左,真上から見たときの前後の行列のことである.

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この定理において, Qid,Dを定義 2.45で定義した基本形式とする. すると, これは, 定理の条件を満たしている. 実際, D ≡ 0 (mod 4) のとき,

1 0

0 1

0

1

D4

0

さらに, D ≡ 1 (mod 4)のとき,

1 1

0 1

0

1

D+34

1

とすれば, この立方体に対応する 3つの 2次形式は, すべて判別式Dの基本形式である. この立方体を基本立方体という. このような立方体をとれば, 定義 2.36の演算が定理 5.6の条件をすべて満たしていることが示される. この定理は, 2次形式の演算を立方体の中で考えるということをいっている.

次に, 立方体に対する演算の結果を紹介する.

定理 5.7 (バルガヴァ, [Bha04I], THEOREM 2) D ≡ 0, 1 (mod 4)となる整数Dをとる.

Aid,Dを判別式Dの基本立方体とする. このとき, CbD/ ∼′に対し, 以下の 2つを満たすような群の演算が一意に存在する :

(1) Aid,Dは単位元である ;

(2) i = 1, 2, 3に対し, A 7→ QAi という写像は, CD/ ∼への群準同型写像である.

この定理は, 2次形式の演算により, 立方体の演算を定義できることをいっている.

この主張の後に, 2元 3次形式に対する演算を定義できると論文にある. 立方体を,

b c

a b

c

b

d

c

に対して考えていく. 詳しくは学んでいる途中である.

2次形式の議論により 2次体のイデアル類群の位数や構造を見ることができるが, 3次体のイデアル類群の位数や構造に関しては PARI-GPなどのパソコンのソフトを使えば求めることができるが,

実際に計算で求めることは現在できない. 私は, 2次体と同じように 3次体のイデアルを 2元 3次形式と対応させることにより求めることができると考えている. それから, 3次体のイデアル類群やヒルベルト類体などを考えていきたい.

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