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- 145 - 2.主要漁業先進国の漁業政策の分析 本節では、漁業制度の整った主要8カ国(EUを含む)を対象とし、これらの国々の社会経済 的な背景を踏まえた上で漁業政策の概要を整理した。 (1)アメリカ合衆国 (United States of America) 1) 社会経済の概要 ①基本的な政治体制:大統領制、連邦制(50 州他) ②主な社会指標 ・海岸線延長 :19.9 千 km ・排他的経済水域:7,620 千 km 2 ・面積 :9,629 千 km 2 ・総人口 :281,422 千人 ・就業人口総数 :145,362 千人 うち、農業、漁業、林業 2,168 千人(2008) ・国内総生産 :14,096,717 百万米ドル(2008) ・自給率 :穀類 130.8%、魚介類 70.4%(2005) (総務省HP) 2)社会的特性 合衆国憲法は、連邦政府の構成と権限を定めているだけでなく、州政府に関する一般的な規定 も含んでいる。各州もまた、それぞれ独自の憲法を持ち、その中に、その州内の地方政府に関す る規定が含まれている。 地方政府には、市、郡、町、学校区、そして地域の天然資源や交通網などを管理する特別目的 区(special-purpose district)などがある。連邦政府の権限と責任は、合衆国憲法で明確に付 与されているものに限定されている。 憲法で定められた権限には、州間の通商の規制、国防への支出、貨幣の鋳造、移住や帰化の規 制、諸外国との条約締結などが含まれる。 しかし、時の経過とともに、憲法は状況の変化に適応するような解釈や修正が行われ、それに 伴い、連邦政府が行使する権限も変わってきた。連邦政府は州政府と協力し、連邦政府が補助金 を出して州政府が執行・運営する形の法律や事業を創り出している。 教育、社会福祉、住宅・栄養補助、国土保全、運輸、緊急対応は、連邦資金を用い、連邦政府 の指針に従って州がサービスを提供する、主要な分野である。 (アメリカ大使館HP) アメリカの自治体は、市(シティ)、町(バラー・タウン)、村(ビレッジ)等であるが、住民 の意思に基づいた手続きを経て、「法人化」をする必要がある。自治体がない場合、州の下部機構 であるカウンティや特別の行政機関が提供している。 (竹下他「世界の地方自治制度」イマジン出版) 3)漁業の概要 米国の北西大西洋海域では、温暖なメキシコ湾流と大陸棚等により、沿岸のニューイングラン ド地方は、古くから漁業が行なわれ、米国漁業の発祥の地と呼ばれている。米国漁業管理の基本

2.主要漁業先進国の漁業政策の分析 - maff.go.jp...- 145 - 2.主要漁業先進国の漁業政策の分析 本節では、漁業制度の整った主要8カ国(EUを含む)を対象とし、これらの国々の社会経済

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2.主要漁業先進国の漁業政策の分析

本節では、漁業制度の整った主要8カ国(EUを含む)を対象とし、これらの国々の社会経済

的な背景を踏まえた上で漁業政策の概要を整理した。

(1)アメリカ合衆国 (United States of America)

1) 社会経済の概要

①基本的な政治体制:大統領制、連邦制(50州他)

②主な社会指標

・海岸線延長 :19.9千 km

・排他的経済水域:7,620 千 km2

・面積 :9,629 千 km2

・総人口 :281,422 千人

・就業人口総数 :145,362千人 うち、農業、漁業、林業 2,168千人(2008)

・国内総生産 :14,096,717百万米ドル(2008)

・自給率 :穀類 130.8%、魚介類 70.4%(2005) (総務省HP)

2)社会的特性

合衆国憲法は、連邦政府の構成と権限を定めているだけでなく、州政府に関する一般的な規定

も含んでいる。各州もまた、それぞれ独自の憲法を持ち、その中に、その州内の地方政府に関す

る規定が含まれている。

地方政府には、市、郡、町、学校区、そして地域の天然資源や交通網などを管理する特別目的

区(special-purpose district)などがある。連邦政府の権限と責任は、合衆国憲法で明確に付

与されているものに限定されている。

憲法で定められた権限には、州間の通商の規制、国防への支出、貨幣の鋳造、移住や帰化の規

制、諸外国との条約締結などが含まれる。

しかし、時の経過とともに、憲法は状況の変化に適応するような解釈や修正が行われ、それに

伴い、連邦政府が行使する権限も変わってきた。連邦政府は州政府と協力し、連邦政府が補助金

を出して州政府が執行・運営する形の法律や事業を創り出している。

教育、社会福祉、住宅・栄養補助、国土保全、運輸、緊急対応は、連邦資金を用い、連邦政府

の指針に従って州がサービスを提供する、主要な分野である。

(アメリカ大使館HP)

アメリカの自治体は、市(シティ)、町(バラー・タウン)、村(ビレッジ)等であるが、住民

の意思に基づいた手続きを経て、「法人化」をする必要がある。自治体がない場合、州の下部機構

であるカウンティや特別の行政機関が提供している。

(竹下他「世界の地方自治制度」イマジン出版)

3)漁業の概要

米国の北西大西洋海域では、温暖なメキシコ湾流と大陸棚等により、沿岸のニューイングラン

ド地方は、古くから漁業が行なわれ、米国漁業の発祥の地と呼ばれている。米国漁業管理の基本

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法である「マグナソン漁業資源保存管理法」(1976)のモデルケースにもなった。漁業種類として

は、スケトウダラ、Menhaden(にしん科の魚)の生産量が多いが、突出して生産量の多い魚種はな

い構造となっている。

漁業就業については、公民権の一部として誰でも漁業ができるというのが制度の基本であり、

平日はオフィスワーカーで週末はタラ漁師というスタイルの人も存在するという点が特徴的であ

る。映画のフォレスト・ガンプでも漁船を買ってエビ漁師となった様に、船を買えば誰でも漁業

ができるのが原則となっている。海は、公共信託法理のスタンス、国民から信託された財産を政

府が管理するということ。(2010 牧野氏)

行政的には、海洋大気庁(National Oceanic and Atomospheric Adoministration(NOAA))

が主な所管となっている。海洋大気庁は、1807年に米国初の沿岸を対象とした行政機関として創

設され、現在は、大気観測、気象データの提供等を行なうと共に、排他的経済水域内の水産資源

の保護についても管轄しており、水産資源管理に知見を有する科学者を多く要し、広く社会的に

影響力を有している。なお、漁獲割当を行なう限定的アクセス権プログラムの中で、プログラム

の申請を受け、認定するのは、商務長官の権限となっている。

海洋大気庁は、6部局からなり、水産業に関わるのは、国家海洋漁業局である。国家海洋漁業

局は、科学的基礎による資源保護や管理を目指し、漁獲量の監視、集計を行なっている。執事(As

a steward)として、資源保護と管理、海洋生態系の持続、経済的機会の提供、アメリカ国民の生

活の質に関わることを組織の目的としている。(2010 NOAA HP)

4)関連する法律

①水産業関連

○Magnuson-Stevens fishery Conservation and Management Act

○Marine Mammal Protection Act

○Endangered Species Act

②その他海洋関連

○Oceans Act 2000

○海洋保護区

1972 年 海洋保護・調査・サンクチュアリ法・行政命令 13158 号(2000 年 5 月 26 日)等

に基づく Marine Sanctuary MPA等

5)水産関連施策

①漁業施策

漁業関連の政策としては、海洋大気庁が、2011年の予算要求の中で、海洋環境の保全や資源保

護のみならず経済開発を進めることも施策の柱としている。具体的には、漁業の再構築と雇用と

地域コミュニティの維持の為に、992.4百万ドル、うち、54 百万ドルを「キャッチ・シェアプロ

グラム」として要求している。政策的には、特定国以外の国からのエビの輸入禁止(ウミガメ混

獲への配慮)等、環境への配慮が政策決定への重要な要因となる特徴がみられる。

2010 年からは、メキシコ湾のハタやアマダイ資源への対応を契機とし、「キャッチ・シェアプ

ログラム」を導入している。(2010 NOAA HP)

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「キャッチ・シェアプログラム」は、TACの一定割合又は特定の漁場での採捕の権利を個別

の漁業者、組合、地域等に割当て、過剰漁獲を防ぎ、漁業と地域の再生を目指すもので、特定の

海域での漁業の権利を付与したことと地域の再生を謳ったことが特徴(2010 大橋)であるが、

権利付与に関して小規模漁業者の懸念もある様である( 2010 The Vermont Journal of

Environmental Law)。

その他水産に関連する分野としては、HACCPのガイドライン作成や指導といった食品の安

全等については、食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)が所管している。

また、水産物のマーケティングを担う業界団体として、アラスカシーフードマーケティング協

会(ASMI)がある。アラスカシーフードマーケティング協会は、米国連邦政府、アラスカ州

政府の補助金、アラスカ州の漁業・加工業者からなる会員の出資金により運営されている、非営

利団体。米国含む 20カ国でアラスカ産シーフードの消費促進に取組んでいる。我が国においても、

アラスカ産サーモンの輸出促進活動を目的に 1986 年より連絡事務所を開設、1997 年より対象品

目をアラスカ産シーフード全般に広げ、日本の輸入業者・取り扱い流通業者・量販店等に対し、

プロモーション活動を行なっている。(2010 ASMI HP)

②資源管理

米国では、資源管理が水産政策の柱となっているが、マグナソン・スティーブンス漁業資源保

存管理法に基づき、全国のEEZを8つの海域に区分し、それぞれの海域に地域漁業管理理事会

を設け、各海域における連邦漁業管理を行なっている。地域漁業管理会(Regional Fisheries

Management Council)には、科学者、生産者等により構成される下部組織があり、漁獲可能量や

資源評価内容に関する質疑等が行なわれている。(2010 船本氏、牧野氏)

2010年の春には、新たな規制対象種の導入をめぐり、漁業が主要な産業となっている地域の漁

業生産関係者(上述の様に幅広い)を中心にワシントンに終結、デモを行なう等、必ずしも、科

学的勧告に沿って整然と資源管理が進められるのではなく、様々な政治的な配慮も行われる様で

ある。

漁獲量の管理については、一部の魚種でITQ制度を導入しているが、全国統一的に行なうの

ではなく、管理の計画の中で決定する形となっている。(2008 三谷氏)

導入魚種は、1982 年の大西洋クロマグロのまき網、90 年に大西洋バカガイ、ホンビノスガイ、

91 年单大西洋アルゼンチンオオハタ、95 年アラスカ州ギンダラ、太平洋オヒョウ、01 年太平洋

ギンダラ、05年ベーリング海キングクラブ・ターナークラブ、07年メキシコ湾レッドスナッパー

となっている。操業の効率化や魚価の向上といったメリットがあった一方、アラスカ湾の事例で

は、資本力のある漁業者への漁獲枠の専有化、それに伴う雇用の減尐等のデメリットも生じ、99

年には小規模漁業者への配慮に関する議会報告がされている。

主な地域別の管理方法は、下記の通り。

○北西大西洋のTAC管理:米国 NEMFC(ニューイングランド漁業管理理事会)は、11種の底

魚の個別ごとにTACを設定(うち5種は複数の海域に分割して設定、計 17 区分)してい

る。TAC算定の手順は、まず、資源評価書(SAFE Stock assessment and fishery evaluation

report)においては、ABCを計算しておらず、ABC計算の一要素である勧告F値を生物

学的参考指標として提示している。(2009 岩崎氏)

○北東太平洋のTAC管理:東部ベーリング海、アリューシャン海域、アラスカ湾の米国 200

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海里内における底魚資源の管理は、ABC→TACという方式を採用している。ただし、州

管理の沿岸漁業では、殆どTAC管理されていないとのこと。なお、TACの配分について

は、漁業者も加わった組織(AP: 北太平洋漁業管理理事会(NPFMC)の下部組織であ

る助言パネル(Advisory Panel)において社会経済学者の助言をもとに決定されている。

漁獲データの監視及び集計において本格的なオブザーバーシステムが組まれている。400

人のオブザーバーが延べ約 35,000 日活動している。人件費は産業が負担している。125ft

以上の漁船には全ての操業に同乗することとなっている。(2010 船本氏、牧野氏)

○その他、California sardineの前回の衰退期の 67年、カルフォルニア州は州法により、マ

イワシの直接漁獲を禁止し、混獲を 15%以内とする規制を実施した。基本的に 86 年までの

18 年間続いた。2000 年から資源管理はカリフォルニア州から、漁業保存法に基づき、連邦

政府の太平洋漁業管理委員会(Pacific fisheries management council)に移管された。そ

して、TACではなく、漁獲ガイドライン(Harvest Guideline)を毎年設定している。ガイ

ドラインは規制を伴わず、漁獲がガイドライン値を超えても、漁獲ストップを強制されない。

ガイドラインの対象魚種は、マイワシ、サバであり、カタクチイワシは漁獲量増減を決めて

いないモニター魚種。(2009 岩崎氏)

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(2)カナダ (Canada)

1) 社会経済の概要

①基本的な政治体制:立憲君主国。元首エリザベス二世女王

②主な社会指標

・海岸線延長 :243.7 千 km(世界一)

・排他的経済水域:4,700千 km2

・面積 :9,985千 km2

・総人口 :31,612千人

・就業人口総数 :17,126千人 うち、農業、漁業、林業 403千人(2008)

・国内総生産 :1,502,198百万米ドル(2008)

・自給率 :穀類 164.2%、魚介類 112.3%(2005) (総務省HP)

2)社会的特性

カナダ政府は連邦制を採用する民主主義政府。連邦制とは、国家共通の目的に関しては一つの

主権の下に統合した連邦政府が対応し、各地域特有のニーズについては各州政府が対応する制度。

カナダには、連邦、州および準州、市町村という 3 つのレベルの政府がある。連邦政府では、

選挙により選出された首相と閣僚が構成する内閣が主要な意思決定を行う。連邦政府は、他の選

挙により選出された州および市町村の議員、カナダ国民との協議により、国家の民主的な統治制

度を統括する。

カナダ連邦政府の主な役割は、国全体の経済の安定を図り支えること。また、国防、外交、国

内外の通商と貿易、移民、銀行および金融制度、刑法、漁業などを管轄し、さらに航空、船舶、

鉄道、通信、原子力エネルギーなどの産業を監督する。

州および準州政府は、連邦政府と同様に省庁を持ち、教育、財産権や公民権、裁判所、病院、

州内の天然資源、社会保障、医療および地方自治体制度などの分野を管轄する。最近、連邦政府

は幾つかのプログラムとサービスについて州政府の管轄を増やす移管作業を進めている。

たとえば、労働市場に対応する職業訓練、鉱業や林業の開発などの分野。地方や地域の政府は、

教育、土地開発、地域の商業規定、市民および文化活動などの分野で大きな役割を果たしていま

す。地方や地域の政府の構造は地域により異なっている。

(以上、カナダ大使館HP)

州は、プリンス・エドワード・アイランド州、ニューファンドランド州、ニューブランズウィ

ック州、ノバスコシア州、ケベック州、オンタリオ州、マニトバ州、サスカチュワン州、アルバ

ータ州、ブリティッシュ・コロンビア州の 10州がある。オンタリオ州がカナダ経済の中心的位置

にあり、漁業と関連の深い州は、プリンス・エドワード・アイランド州、ニューファンドランド

州、ブリティッシュ・コロンビア州となっている。

カナダ諸地域の経済がカナダ全体としての経済同盟を形成しているが、相互の経済交流はそれ

ほど円滑に行なわれているとはいえない。この点が日本のような中央集権国家とのちがいである。

経済発展の速度が地域的に不均等であるだけではなく、それぞれがある意味で独立の卖位として

運営される側面を持っていることから、連邦全体の経済活動がともすれば歪められる。長年、州

間通商障壁の課題があったが、これは、カナダの自然的・歴史的な条件の中で醸成された。州間

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障壁の除去は、連邦政府と州政府とのあいだの管轄問題をいっそう複雑にしている。

社会保障の制度内に、貧困及び低所得者、高齢者、児童福祉、障害者、失業者、労働災害者、

退役軍人、農業労働者、季節労働者、インディアン、イヌイットと並んで、漁業者が含まれてい

る。 (以上、「カナダの経済」 加勢田氏)

3)漁業の概要

カナダの海岸線延長は世界一であり、かつ、世界3大漁場の一つであるグランドバンクス(大

西洋岸)を有し、古くから漁業が盛んであった。大西洋岸では、底引き、カニかご、太平洋側で

はサケ・マス、ニシン漁業が主要漁業種類である。

漁業と関連の深い州は、プリンス・エドワード・アイランド州、ニューファンドランド州、ブ

リティッシュ・コロンビア州であるが、大西洋側のニューファンドランド州は伝統的に最も漁業

が重要な産業であった。漁獲高の中心は、タラであったが、長年の乱獲が祟り、90年代にはいっ

てマダラ資源の危機が生じた。92 年連邦政府はタラ漁の一時禁止宣言をおこなっている。

(「カナダの経済」 加勢田氏)

このタラ漁の禁止宣言は 07 年に一部解除されたが、資源は回復していない。このタラ資源は、

1973年からTACによる漁業管理が行なわれていた。(2010 東村氏)

なお、禁止宣言の実施にあたっては、漁業や関連加工業の従事者に対し、休業補償を行なった

ので、関係者の協力も得られたとのことである。(2009 岩橋氏)

カナダでは、憲法で海面の漁業及び漁業環境の管理には排他的管轄権を付与、内水面は連邦政

府及び州政府が共同責任、また、ニューファンド州のアザラシ捕獲のライセンス取得条件等に言

及している。(2008 水産庁)

行政的には、海洋漁業省(Fisheries and Oceans Canada (DFO))が、カナダ沿岸警備隊を

含め、水路や水産資源の持続的な利用と開発をサポートする目的で設置されている。

4)関連する法律

①漁業関連

○Oceans Act

○Fisheries Act 2007

○Species at Risk Act

②その他海洋関連

○Canada Oceans Act (COA) 1996

- Canadian EnvironmentalProtection Act 1999 (海洋投棄に関する部分)

○海洋保護区

COA 第 35, 36 条に基づく MPA

- National Framework for Establishing and Managing Marine Protected Areas

- 151 -

5)水産関連施策

①漁業施策

カナダ漁業法(C32、2007。139年ぶりの改正)では、下記の6項目のプログラム、プロジェク

トを掲げ、これらを推進するために、助成金や融資等の実施を掲げている。

a)水産会社や漁業者の組合や原住民による組織におけるビジネスマネジメント、生産マネジ

メントの能力改善

b)漁獲技術の改善

c)漁業や養殖業の経済的可能性の改善

d)構造改革を含む漁業調整の促進

e)生態系の保全や修復の促進

f)漁業や生態系の生産性や継続性の促進

連邦政府の施策としては、価格支持や漁船建造への補助から市場拡大、加工品への付加価値向

上、加工施設の再編・統合及び養殖業振興にシフトしている。(2008 水産庁)

具体的には、先住民支援、環境や生態系保全、漁業者への教育支援等が行われている。

○養殖業における市場革新とアクセスプログラム(AIMAP)

養殖業界への民間投資の促進を目標とし、国際競争力の強化や環境改善に資する技術革新

や経営改善、環境やトレーサビリティに基づいた高付加価値化に対し、年間 450 万ドルの支

援を行なうもの。支援対象は、養殖業者や加工業者のほか、NPOやNGOも含まれている。

○大西洋ロブスター支援

世界的な景気後退の影響を受けた、ケベックや大西洋のロブスター漁業(約 10,000のライ

センス企業)を対象に、低所得地域や大きな損失を被った人々への補償を含む、長期にわた

る継続可能な計画の実施への支援を行なうもの。

○太平洋統合漁業イニシアティブ(PICFI)

漁業者グループを対象に、マネジメント能力、漁船のメンテナンス技術取得等広範な能力

開発を行うもの。

○小規模漁港(SCH)の売却プログラム

カナダでは、港の利用、管理は連邦の管轄となっているが、連邦政府は州政府、個人と契

約し、これを行なうことも可能となっている。また、港の利用に関するリース、利用権の付

与も可能である。(Fishing and Recreational Harbours Act 1985 F-24)

小規模漁港(SCH)は、安全でアクセスの良い港の維持管理を目的とし、全国で 5000人

以上のボランティアの参加も得て実施されているプログラムで、985 の漁港と 170 のレクリ

エーション港を対象としている。

拠点港のネットワーク管理、港湾管理者による漁業管理、拠点港以外の漁港やレクリエー

ション港(non-essential harbours and recreational harbours)における売却プログラム

(Divestiture Program)の実施を柱としている。売却プログラムは、州政府、地元NPO、

民間(入札)等を対象に所有権を移転するもので、311 の漁港と 675 のレクリエーション港

で実施されている。

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表2-1 AIMAP実施例①(2009年度)

Project Code Title RecipientTotal Project

Cost Total AIMAP

FundingSustainableProduction

Altern-ativeSpecies

Green techn-ology

AIMAP-2009-N1 Submersion System forOffshore/Exposed Mussel Farms

Cross Bay MusselFarms Ltd

$502,400 $283,950 X

AIMAP-2009-N3 Production of the first F2generation of Newfoundland Codfrom performance evaluated F1generations of cod raisedthrough the Atlantic Cod Genome

Newfoundland CodBroodstockCompany Ltd

$1,522,464 $300,000 X

AIMAP-2009-N6 Completion of the newproduction process for themarket launch of: Ready to eatblanched and frosen whole

NewfoundlandOrganic SeafoodsInc.

$63,700 $30,000 X

AIMAP-2009-N7 Proposal for Newfoundlandcommercial scale Atlantic Codhatchery production technologyproject

NewfoundlandAquacultureIndustryAssociation(NAIA)

$314,863 $50,000 X

AIMAP-2009-M1 Development of Eider DucksElectronic Monitoring andMitigation Technology to AvoidPredation on Mussel Lines 

AquacultureAssociation ofNova Scotia(AANS)

$47,391 $17,950 X

AIMAP-2009-M2 Innovative SustainableSolutions for Canadian FinfishAquaculutre Operations:Devlopment of the AEG ECO-Containment Systems andContinuation of AEG FeederPulse vs. Meal Feding with

AquacultureEngineeringGroup (AEG)

$2,367,346 $199,068 X

AIMAP-2009-M7 Improve Production Efficiencyof Scallop Aquaculture byIntegrating HDPE Salmon CageTechnology  with ExistingLantern Net Culture Methods andthe Addition of Communal

Magellan AquaFarms Inc. 

$46,820 $20,000 X

AIMAP-2008-M7 Development and Assessment ofOptimized Land-Based TankFarming of Atlantic Halibut in

Canaqua $1,615,141 $300,000 X

AIMAP-2009-M14 Evaluation and FurtherDevelopment of the iCage ™ FishContainment System as aTechnology Platform to MeetSustainability and Cost

Admiral FishFarms Ltd. 

$402,000 $126,000 X

AIMAP-2009-M16 Development of a Contact Filterfor the Removal of FineParticulates from RecirculatingAquaculture Facilities

Kelly CoveSalmon

$92,750 $50,000 X

AIMAP-2009-M17 Transport and Dispersal forDeltamethrin Treatment ofAtlantic Salmon

 New BrunswickSalmon GrowersAssociation(NBSGA)

$514,000 $140,000 X

AIMAP-2009-M18 A proposal to study the Growthand Cost Benefits of an All-Female Strain of Halibut forSea Cage Culture in the LowerBay of Fundy, New Brunswick

 CanadianHalibut Inc

$154,060 $80,000 X

AIMAP-2009-M22 Sustainable Mussel Farming Bounty BayShellfish Inc.

$127,847 $15,000 X

AIMAP-2009-G3 Optimisation of the growingtechnique of horizontally gluedoysters

BrantvilleAquaculture

$141,900 $45,000 X

AIMAP-2009-G9 Specialized operating platformfor the husbandry of mussellines and management of

P.E.I. MusselFarms Inc

$432,500 $150,000 X

AIMAP-2009-G13 Development of a Pressure-BasedTechnology for the Purpose ofControlling Biofoulers onOyster Cages and Oysters

King Aquaculture $236,819 $68,000 X

AIMAP-2009-G15 Development and earlycommercialisation of 4innovative tunicate treatmentsystems for mussel aquaculture

Prince EdwardIslandAquacultureAlliance (PEIAA)

$471,561 $265,964 X

AIMAP-2009-G17 Halibut PEI Phase 2 - Determining the feasibility ofraising halibut fingerlings tomarket size using salt waterwells and lobster facilities

Halibut PEI Inc. $1,125,718 $160,000 X

INNOVATION

Newfoundland Region

Maritimes Region

Gulf Region

- 153 -

表2-1 AIMAP実施例②(2009年度)

Project Code Title RecipientTotal Project

Cost Total AIMAP

FundingSustainableProduction

Altern-ativeSpecies

Green techn-ology

AIMAP-2009-Q4 Operations Management of clamsat a commercial scale

Société de développement del'Industriemaricole (SODIM)

$43,480 $22,000 X

AIMAP-2009-Q5 Optimization of productionprocesses of cooked musselflesh

Société de développement del'Industriemaricole (SODIM)

$68,212 $36,000 X

AIMAP-2009-Q6 Phase 1 - Improvingproductivity throughmechanization and automation ofclam spat sorting

Société de développement del'Industriemaricole (SODIM)

$12,203 $8,000 X

AIMAP-2009-Q8 Phase 2 - Improvingproductivity throughmechanization and automation ofclam spat sorting

Société de développement del'Industriemaricole (SODIM)

$45,033 $15,718 X

AIMAP-2009-P11 Mechanical Clam HarvestingTechnology

British ColumbiaShellfishGrowersAssociation

$174,000 $100,000 X

AIMAP-2009-P15 Fully Automated Oyster GradingEquipment

OdysseyShellfish Ltd.

$155,000 $82,500 X

AIMAP-2009-P25 Soft-flesh SuppressionTechnology

Marine HarvestCanada

$270,816 $142,500 X

AIMAP-2009-P26 Piloting Commercial Adaption ofU.V. Sterilization of WaterDischarge from Processing

Walcan SeafoodsLtd.

$293,420 $189,750 X

AIMAP-2009-P33 Aquamex Net Manager: EconomicalGreen Technology forAquaculture Net Management

Shore LinkEnterprises

$760,360 $350,000 X

AIMAP-2009-P34 Use of Industrial FlowCentrifuge to Capture Finfish

AgrimarineIndustries Inc.

$177,400 $73,400 X

AIMAP-2009-P37 Tecnological Innovation andEnvironmental Optimization forReducing Mortality in SablefishBroodstock Production

Sablefish Canada(SFC)

$205,000 $106,000 X

AIMAP-2009-P38  Importation of Fully AutomatedManila Clam Processing

Limberis SeafoodProcessing Ltd.

$80,125 $55,125 X

AIMAP-2009-P39 Adopting Innovative Technolgoyto Develop Canada's WhiteSturgeon Aquaculture Industry

Target MarineHatcheries Ltd.

$183,725 $100,000 X

AIMAP-2009-P40 Phase Two Red Rock CrabPredator Management

Below Sea LevelOyster Co.

$18,400 $10,000 X

$12,666,454 $4,341,925 16 11 5

AIMAP-2009-MA2 Market Research for BC FarmedSalmon Producers

CanadianAquacultureIndustryAlliance (CAIA)

$135,700 $100,000

AIMAP-2009-MA3 Comprehensive Development ofthe Canadian  AquacultureStandards Forum (CASF)

CanadianAquacultureIndustryAlliance (CAIA)

$222,000 $157,000

AIMAP-2009-MA5 Mussel Lease Tracking andManagement System

Coles MusselFarms

$78,044 $38,265

AIMAP-2009-MA8 Advancement of AquacultureStandards and CertificationProgramming Under the CASF:  1.Open Audit Gap Analysis Projectfor Salmonid Operations;  2.National Industry-LevelDevelopment of SustainabilityReporting Framework

CanadianAquacultureIndustryAlliance (CAIA)

$119,500 $75,000

$627,069 $390,265

$13,293,523 $4,732,190 16 11 5

Sub Total Market Access

Total

Quebec Region

Pacific Region

Sub Total Innovation

MARKET ACCESS (NATIONAL)

- 154 -

②資源管理

カナダでは、カナダ漁業法(C32、2007。139年ぶりの改正)において、その目的をカナダの沿

岸と内水面における魚類や生息地の保護及び漁業活動の適切な管理とコントロールを通じた持続

可能な開発を規定することとするほか、前文には、沿岸及び内水面における持続可能な開発の尊

重、現在及び将来に渡るカナダ人民の利益のため、カナダの漁業者は、公的資産として漁業資源

の継続的な管理を行なうということ等、法適用の原則として、生態系アプローチ、科学的な情報

の重視を明記する等、資源管理を重視している。

現在の資源状況は、大西洋岸では、甲殻類、浮魚類は良好、底魚類は低レベル、太平洋岸では、

ヘイク等主要魚種は長期的に安定した状態、サケ・マス類では一部良好であるがほぼ全ての系群

で保護措置が必要な状況となっている。(2008 水産庁)

資源管理は、連邦政府管轄によるライセンス制による入口規制とTACやIQ等による出口規

制の組合せを基本としている。(2008 水産庁)

漁業を、船長 35 フィート未満で自営漁業者に対し、200 海里内にのみ操業を認める小型船と、

35フィート以上の大型船の大きく2つのカテゴリーで捉えている。漁業のライセンスは、個々の

漁業者が毎年、連邦政府の漁業海洋省に給付申請して取得する。ライセンス料はわずかである(ズ

ワイガニ漁業で 100ドル)。現在、ライセンスの新規発給は原則として行なわれておらず、基本的

に同じ漁業者に同じライセンスが発給されている。ライセンスは譲渡、売買が可能であるが頻繁

に行なわれているわけではない。

ライセンスは、漁業を営む者が漁業者として登録を行い、このうち乗組員を除く自営漁業者(法

人を含む)が漁船を登録して得るもので、魚種、漁具、船の大きさ、漁区が指定される。(2010

東村氏)

また、社会保障の制度内に、漁業者が含まれている様に、漁家経営における雇用保険の占める

ウェートは高い。ニューファンドランドの事例では、2004年で漁業者平均 9.3千ドルを受給して

おり、全収入の3割程度を雇用保険に依存している。

しかし、タラ資源崩壊以降、連邦政府は、漁業者の専業化政策を進めており、現在では漁業収

入が全体の 75%以上であることがライセンス発給の条件となっている。この政策の背景として、

かつて見られた尐しだけ漁業に従事して残りを雇用保険に頼って暮らす「パートタイム」漁業者

の存在がある。彼らは政府支出を増やし。資源管理に関心が薄いという点で問題視されていた。

(以上、2010 東村氏他)

- 155 -

(3)オーストラリア (Commonwealth of Australia)

1) 社会経済の概要

①基本的な政治体制:立憲君主国。元首エリザベス二世女王

②主な社会指標

・海岸線延長 : 36.7千 km

・排他的経済水域:7,010千 km2

・面積 :7,692千 km2

・総人口 :20,062千人

・就業人口総数 :10,741千人 うち、農業、漁業、林業 355千人(2008)

・国内総生産 :1,016,897百万米ドル(2008)

・自給率 :穀類 312.9%、魚介類 42.0%(2005) (総務省HP)

2)社会的特性

オーストラリアの政治制度は、宗教上の寛容と言論・結社の自由を保証した、自由民主主義の

伝統に基づいている。その制度や慣行はイギリスとアメリカ、カナダを模範にしているが、さら

にオーストラリア独自の特徴を備えている。

連邦議会は下院(House of Representatives)と上院(Senate)からなる二院制で、国会議員は国

民の投票で選出される。両院は法案の可決に事実上同等の権限をもっている。連邦総督は、憲法

上の慣行として、下院で過半数を獲得した政党、あるいは政党連合の党首を首相に任命しなけれ

ばならない。オーストラリアでは、投票は義務であり、棄権した場合は尐額であるが罰金が課せ

られる。1924年の義務投票制度が導入されてから、投票率が 90パーセントを割ったことがない。

(オーストラリア大使館HP)

オーストラリアは 1992年以来連続 17年にわたって、年平均 3.3%の経済成長を記録してきた。

オーストラリアには健全で、実務的な金融規制や制度があって、ビジネスに確実性を与え、不当

に遅滞することなく自由に投資できる。ビジネス志向の企業規制や破産制度があり、強力で透明

なコーポレート・ガバナンスの土壌が整っている。また、オーストラリアでは貿易や投資の障壁

が低い。

1990 年代以来のミクロ経済改革の波及で、運輸、通信、電力、ガスなど主要な分野を含めて、

競争政策が経済の継続した成功の主要な要因になってきた。 世界銀行によると、新規ビジネス開

始の所要日数がOECD加盟諸国での平均 20日に比べて、オーストラリアでは2日で始められる。

(オーストラリア大使館HP)

1901 年の移民制限法により、いわゆる「白豪主義政策」が 1972 年まで継続されていた。オー

ストラリアにいたイギリス系以外の国民は、自分の出身地にかかわらず、イギリス系中心の社会

とその文化に同化することが求められた。アボリジニには、多くの基本的権利が認められていな

かった。その後の政府は、経済上の必要性から移民政策の制限を徐々にゆるめ、第 2 次世界大戦

後、経済、文化面でのアジアとの結び付きが徐々に強まるにつれ、1972年に撤廃されることとな

った。70 年代以降は、アジア人のオーストラリアへの移住が急激に増加し、その後、現在では、

移民の受け入れが推奨され、全ての国民に平等な権利が法律で保障されている。(オーストラリア

大使館HP)

- 156 -

連邦政府、州政府は平等の立場。地方自治体は、アボリジニの自治団体も含め 730。その権限

は限定的。自治体職員の採用は公募制。地方自治体の権限拡大とともに、経営者主義、NPM と称

される民間企業経営の手法を取り入れた改革が進められ、CEO・GM制度の導入、民間委託の

推進、特に、強制競争入札制度の導入が進められている。(以上、「世界の地方自治制度」 竹下

他による)

3)漁業の概要

オーストラリア漁業は、年間 200 千t程度、2億ドルの生産規模であり、タスマニア、单オー

ストラリア、西オーストラリアが主要な漁業地域となっている。

主要な漁獲物は、イワシ類、サケ類、エビ類、マグロ、イセエビ、アワビ等である。トロール、

刺網、潜水等多様な漁業が行なわれている。また、エビ類、マグロ、サケ類、カキ等を対象とし

た養殖業が盛んで、生産量の 4割を占めている。

イセエビ、エビ類、アワビ等、中国や日本へ輸出している一方、エビ類などでは、タイやベト

ナム等からの輸入も多いほか、近年はオーストラリアドル高の影響も大きく、厳しい競争を強い

られている状況にある。

行政的には、農林水産省(Department of Agriculture Fisheries and Forestry)及び国内外

に渡る資源管理等を所管する漁業管理局(The Australian Fisheries Management Authority A

FMA)が設置されている。

このほか、漁業管理、開発等に関わる調査研究を実施する漁業研究開発機関(The Fisheries

Research and Development Corporation FRDC)が設置されている。漁業研究機関は、92年

より、連邦政府と漁業者からの供出金で運営され、レクリエーションを含む漁業関係に留まらず、

広範なコミュニティに関わる業務に取組んでいる。

オーストラリアには、この様に業界と政府が共同で広い課題に取組む機関が 15設置(綿花関係、

砂糖、ブタ等)されており、国際競争力の強化のための技術革新や戦略プランの策定等、様々な

プロジェクトを実施している。

4)関連する法律

①漁業関連

○Fisheries Management Act 1991

②その他海洋関連

○Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999

○GBR海洋公園法(1975 年)- Ocean Rescue 2000 に基づく National Representative

System of Marine Protected Areas 等

5)水産関連施策

①漁業施策

オーストラリアでは、漁業及び養殖業を地方部における羊毛や小麦等に次ぐ、重要な産業とし

て位置づけ、生産支援、環境保全、IUU漁業対策、レクリエーション支援等幅広く振興を図っ

ているところである。

- 157 -

商業的な漁業は、連邦政府の管轄であり、漁業者は、80年代に設定された魚種、漁業種類、操

業区域が定められたOSC内で漁業活動を行なっている。

05 年に連邦政府は、持続可能な漁業、单東海域における保護地域 (MPAs)を海洋生態系

の多様性保護のため、環境と遺産省による開発とすること、構造改革支援を柱とした政策パッケ

ージ(Securing our Fishing Future)を策定し、10年まで実施された。

構造改革支援(2010 年終了)については、220 百万豪ドルの予算が確保され、漁業からの退出

支援、各種ビジネス支援(再就職等のため)、漁業コミュニティ支援(政策の影響を受けた場合)

等が実施された。退出支援には、全体の7割の 150 百万豪ドルの予算が割り当てられた。

養殖業については、2002年にアジェンダを策定(The Aquaculture Industry Action Agenda A

IAA)市、最大の持続可能な成長を目指し、3.5 百万豪ドルの予算を確保している。現在、先

住民支援、陸上養殖に関する技術開発や商業化支援、統合養殖支援( Integrated

agri-aquaculture)が実施されている。

海洋性レクリエーション産業に対する支援も実施されており、現在 1.1 百万豪ドルの予算を確

保している。

この他、主に農林水産省では、年度により変動があるが、教育プログラム、地域開発支援プロ

グラム、輸出支援プログラム、その他各種財政支援や情報提供等多くの支援施策が講じられてい

る。

○持続的地域開発支援プログラム(Sustainable Regions Program)

所管:Australian Government Department of Transport and Regional Services

支援内容

地域特性の理解促進、将来像の共有、ビジネス創出、持続可能な開発等に関するプロジ

ェクトへの財政支援

○水産食品産業開発ファンド(Seafood Industry Development Fund SIDF)

所管:漁業研究開発機関(FRDC)

支援内容

30,000豪ドルを上限として、専門家の監督、助成対象者の負担等を条件に水産食品産業

開発プロジェクトの調査開発を支援

②資源管理

オーストラリアでは、1991年に漁業管理法(Fisheries Management Act 1991)を定め、

効率的な漁業管理や生態系の持続可能性等を目標として明記し、前文中に、短期長期にわたり生

態的、経済的な効果を総合的に勘案する等生態系に配慮した持続的な開発の定義を示す等、水産

資源管理への積極的な姿勢をとっている。

漁業の許可は、漁業管理局(AFMA)が操業海区や漁業種類を定め、個人(漁船)に対して

付与される。

連邦政府では、漁業管理について、TAC制度や漁船の馬力、船長制限等出口管理と入口管理

の双方を利用することとしている。オーストラリアの漁業者は、ミナミマグロ等多くの魚種でI

TQが導入されており、競争的なTACよりもITQを好む場合が多いとされているが、多様な

魚種を対象とした漁業や漁獲物の廃棄の問題もあり、連邦政府は、組合せの政策を志向している

様である。(2003 Looking to the Future: A Review of Commonwealth Fisheries Policy)

- 158 -

(4) ニュージーランド(New Zealand)

1) 社会経済の概要

①基本的な政治体制:立憲君主国。元首エリザベス二世女王

②主な社会指標

・海岸線延長 : 15.1千 km

・排他的経済水域:4,830千 km2

・面積 : 270千 km2

・総人口 :4,143千人

・就業人口総数 : 2,188千人 うち、農業、漁業、林業 152千人(2008)

・国内総生産 : 126,388百万米ドル(2008)

・自給率 :穀類 73.5%、魚介類 572.3%(2005) (総務省HP)

2)社会的特性

ニュージーランドは、1000 年前の先住民マオリの移住、17 世紀のタスマンによる発見、18 世

紀のジェームズクックの探訪を経て、ヨーロッパ人の入植が始まり、1840年(ワイタンギ条約)

に英国の植民地となった歴史を持っている。第2次世界大戦後は、50年代にオランダ移民、60か

ら 70 年代にかけて单太平洋諸国から、近年はアジア諸国からの移民を多く受入れている。(ニュ

ージーランド観光局HP)

ニュージーランドでは、ドラスティックな地方自治の改革が著名で、89年改革(地方自治体改

革)では、大規模な自治体合併・再編が行われた。これにより、地域自治体と広域自治体のそれ

ぞれの役割がより明確になり、特別目的地方団体の機能の多くは、多目的自治体である地域自治

体と広域自治体に吸収された。その結果、自治体の総数は 741 から 92 に減尐した。また、「外部

委託」の推進により、大幅なコスト削減が達成された。自治体職員数(常勤職員数に換算)は、

43,400人から 35,400人に減尐した 。

また、行政サービス供給の各種の形態(株式会社、パートナーシップ、トラスト、任意団体、

LATE(自治体事業体)外部委託等)のそれぞれの利点と欠点を十分に検討した上で、各種サ

ービスをどのような形態で供給するかを決定すべきことが地方行政法に規定された。

ただし、自治体の経営する公共交通事業については、すべて企業化することとされた。交通事

業の企業化をきっかけに、例えば、エンジニアリング・デザイン、公共工事などの分野の企業化

に踏み切った自治体も多い。そのほか、地方行政改革とは直接関係なく、他の分野の政策方針に

従って企業化された自治体業務もある (例えば、運輸改革の一環として、港湾委員会の企業的活

動が企業化され、港湾公社が設立された)。

(1996 自治体国際化協会)

3)漁業の概要

ニュージーランド漁業は、漁業及び養殖業を合わせ、約 600千tレベルの漁獲量の規模であり、

イカ、ホキ等深海性のものが7割を占めている。水産物は、輸出品目中、常に4から5位の位置

を占め、重要な品目となっている。(Ministry of Fisheries HP)

人口 4 百万人強のニュージーランド国内はとても大きな市場とはいえず、多くのニュージーラ

- 159 -

ンド企業は海外との取り引きによって事業を成長させている。ニュージーランドの輸出企業は規

模の大小にかかわらず、輸出相手国の市場の需要にあわせようと努力し、またあわせる能力を持

っている。また、ニュージーランド貿易経済促進庁は多くの企業の輸出事業を支援している。(ニ

ュージーランド大使館HP)

漁業の制度については、1963 年までのライセンス制、63 年漁業法による参入自由制、78 年に

200 海里排他的経済水域導入と推移し、この時期までには過剰漁獲が問題となり、過剰漁獲努力

努力量の広域的な分散、魚種別・海域別のTAC設定が行なわれた。過剰漁獲「フィッシュフィ

ーバー」を踏まえ、78 年はイセエビ(rock lobster)漁業許可の新規発給停止、80 年にホタテ、

82年に全ての魚種における漁業許可新規発給が中止されている。(2002 大西氏)

83年、大きな転換期を迎えた。83年漁業法が制定され、比較的規模の小さい深海漁業に深海漁

業制度(Deepsea Enterprise allocation DEA制度)を導入した。資源保護重視の立場から、

経済合理性を取り入れた漁業管理へと移行し、漁業規制も漁獲努力量といったインプット規制か

ら漁獲量などアウトプット規制へと徐々に転換を図った。

(2002 大西氏)

漁業者に対して各地で公聴会の開催を行なう一方で、83 年から 84 年にかけていくつかの兼業

漁業者のライセンスを剥奪し漁業者の特定化を進めていった。86年には、ITQ制度が導入され

た。その後、96年漁業法では、ニュージーランド政府の管理下に置かれている全ての魚種にTA

Cが設定された。(2002 大西氏)

行政的には、漁業省(Ministry of Fisheries)が所管している。

なお、MSC認証を受けた漁業もある。イオンでは、認証を受けたホキについて次の様にHP

で紹介している。

「クック海峡の主に 200~800mの深い海で“トロール”という漁法で獲られます。 1年を通じ漁

獲されていますが、漁獲量は毎年政府が定める許容商業漁獲量(TACC)によって厳しく制限されて

います。ニュージーランド政府は最大持続漁獲量(MSY)※という概念を、バイオマス(特定地域に

生物の総量あるいはその中の群毎の総量)の管理基準として用いています。MSYとは漁獲を行なっ

てもバイオマスが永続的に一定量に保たれる最大漁獲量のことで、TACCは MSY以下に設定されま

す。一度 TACC が定められると、水産事業体は一定の漁獲枠(ITQ)の中で漁獲を行なうよう、政府

の厳しい管理下・監視下におかれます。このシステムは QMS(クオーター・マネージメント・シス

テム)と呼ばれ、ニュージーランドの持続可能な漁業管理のもっとも重要な概念です。ほきには身

質がやわらかく、崩れやすいという欠点があります。これを解決し良質な製品を作るためには、

なるべくさかなを傷つけずに新鮮な形で加工することが望まれます。具体的には網にかかるさか

なの重量を通常より減らし、曳網時間を短縮することでさかなの打撲を防いでいます。また水揚

げ後は素早く冷水処理して魚体温度を下げ、船上の冷蔵庫ではさかなに十分氷をかけて保存しま

す。」(イオンHP)

- 160 -

4)関連する法律

①漁業関連

○Fisheries Act 1996

○Treaty of Waitangi(Fisheries Claims)Settlement Act

○Fisheries (Quota Operation Validation)Act

○Maori Fisheries Act 2004

○Maori Commercial Aquaculture Claims Settlement Act 2004

○Aquaculture Reform(Repeals and Transitional Provisions)Act 2004

○Driftnet Prohibition Act 1991

○The Antarctic Marine Living Resources Act 1981

②その他海洋関連

○1971年 海洋保護法(Marin Reserve Act)

5)水産関連施策

①漁業施策

ニュージーランドでは、漁業は漁業省が所管している。漁業省のステートメントによると、(ニ

ュージーランドにおける行政改革を反映し、長期的、短期的視点から、施策の Outcome、VFM

が強調されている点がたいへん特徴的なものとなっている。)水産施策は、商業漁業、遊漁、伝統

漁業等を対象とし、ニュージーランド経済における重要な経済的位置づけを前提に、国際的な競

争力向上や生物多様性の維持等を目標とし、教育、研究、調査等を行なうこととされている。具

体的に一例を挙げれば、長期的な観点からの資源の利用面における水産施策の目標(outcome)と

して、下記の項目が挙げられている。

○長期的な観点からの資源の利用面における施策の目標(Statement of Intent 2010)

・漁業部門が、ニュージーランド経済において国際競争力を持ち、効率的な産業として重要

な位置づけを占めていること。

・質の高い遊漁がニュージーランド国民の社会、文化、経済的に重要な役割を果たす。

・健全な水産資源。

・生物多様性、生態系の保全。

・生息域の保護。

・陸域、大気、水域における諸活動の影響の把握。

養殖業については、25 年までに現在 3 億ドルの規模から 10 億ドルの規模へと拡大させること

を目標とし、下記の 10の施策を掲げ振興を図っている。

○養殖業の戦略(The New Zealand Aquaculture Strategy)

・新たな組織の設立(New Zealand Aquaculture Ltd)

・政府との連携強化

・関係者間の連携強化

・養殖業への投資の促進

・養殖業の一般国民への啓発普及

- 161 -

・マオリ族参入促進

・市場拡大

・技術革新

・持続可能な環境の整備促進

・教育への投資

②資源管理

ニュージーランド政府は、自らの漁業管理制度について、国際的に見ても進んだ制度であると

の自負がある。(Statement of Intent 2010)

商業漁業の主要対象魚種については、1986 年より導入された、数量管理システム(The Quota

Management System (QMS))による管理を実施している。QMSにより、管理水域における魚種の

直接的なコントロールを通じて水産資源の持続可能な利用を確保するとされている。(Ministry

of Fisheries HP)

ニュージーランド政府の管理下に置かれている全ての魚種にはTACが設定されている。

TACは資源のMSYの水準または、それ以上に設定される。未開発であったり、過剰漁獲によ

ってその資源量が低下している魚種は、まずその回復に努められる。また、このTACは漁獲期

間中であっても、豊度の状況次第ではその量を増やすことができる。ただし、この場合、その漁

獲期間が終了すると元のTAC量に戻る。なお、このTAC量はゼロにすることもできる。この

TACから商業漁業に割当てられる漁獲上限がTACCである。

TACCから個別漁業者に何らかの方法で配分されたものが割当である(一般的には過去の実

績に基づく)。この割当は該当する管理水域にて該当する魚種の年間漁獲権を永久に付与するもの

であり、定められた範囲で自由に売買・賃貸を行なうことができる。

これは一種の財産権でもある。そのため、銀行から融資を受ける際の担保とすることができる。

この割当は年間漁獲権でもあり、混獲した漁獲量分として譲渡による支払いや、超過漁獲分の支

払いに当てることもできる。

割当から許可されている年間漁獲量の 10%まで超過漁獲することができるが、超過分は次年度

の割当から差し引かれる。逆に年間漁獲量が割当分を越えない範囲で次年度に繰越すことができ

る。また、年間漁獲量が割当分を越えた漁獲量は、事後的に割当の購入やレンタルによる調整、

罰金を支払うことにより販売、もしくは保有している他の割当と相殺といった選択が可能である。

割当の保有資格として、まずニュージーランド人であり操業許可が必要である。また、割当保

有に際して、保有下限と保有上限が必要となる。

(以上 2002 大西氏)

表2-2 TACCの設定状況の例(一部)

HOK HOK1 Hoki 1,2,3,4,5,6,7,8, and 9 (C... 5,514,452 120,000,000JMA JMA1 Jack mackerel Auckland (East),... 2,745,105 10,000,451JMA JMA7 Jack mackerel 7, 8 & 9 (Combin... 1,771,201 32,536,763SBW! SBW6I Southern Blue Whiting Campbell... 1,270,271 23,000,000BAR BAR1 Barracouta Auckland (East) 1,111,233 11,000,456OEO OEO3A Oreo South-East (Cook Strait/K... 1,090,721 3,350,000WAR WAR3 Blue Warehou South East (Coast... 1,009,715 2,530,800OEO OEO4 Oreo South-East (Chatham Rise) 898,233 7,000,000

TACC (kg)Speciescode

Code Name Reported comm.catch (kg)

- 162 -

(5)ノルウェー (Kingdom of Norway)

1)社会経済の概要

①基本的な政治体制:立憲君主制。元首ハラルド 5世国王

②主な社会指標

・海岸線延長 : 25.1千 km

・面積 : 324千 km2

・総人口 :4,521千人

・就業人口総数 :2,524 千人 うち、農業、漁業、林業 70千人(2008)

・国内総生産 :451,830 百万米ドル(2008)

・自給率 :穀類 73.8%、魚介類 154.0%(2005) (総務省HP)

2)社会的特性

ノルウェーはヨーロッパ大陸の北西部、スカンジナビア半島の西側にあり、東の大半をスウェ

ーデン、北部でフィンランドやロシアと国境を接し、西はノルウェー海、北はバレンツ海、单は

北海に囲まれている。单北に長い国土の面積は約 38万平方 kmと、ほぼ日本と同じで、およそ 30%

強が森林や川、湖、50%が山岳地帯というように、豊かな自然に恵まれている。なかでも世界有

数を誇る「フィヨルド」が特徴的な景観を形成している。

ノルウェーに人が住み始めたのは、およそ1万年前(石器時代初期)。統一国家が出来たのは

900 年頃。8世紀末から 11世紀にかけて有名なヴァイキングが活躍し、卓越した航海技術で、東

はカスピ海、西はアイルランド、また大西洋を越えて北米大陸やコンスタンティノープル(現イ

スタンブール)まで遠征していた。

1380年、ノルウェーはデンマークの支配下に入り、デンマーク・ノルウェー王国が誕生。1814

年、キール条約により、デンマークはスウェーデンにノルウェーを移譲。ノルウェーに独立の気

運が高まり、同年5月 17日に独自憲法を成立させたものの、結局、スウェーデンとの同君連合と

なり、その後、1905年に連合は解消され、ホーコン7世のもとに再び独立国家となった。

その後、第2次世界大戦中にドイツに占領されていた時期を除き、ノルウェー王国として独立

した国家の立場を守っている。戦後、経済復興は順調に進み、社会福祉や環境を重視した高度経

済社会として成長を続けている。国民投票の結果、EUには加盟していないが、EU諸国や北欧

諸国とは密接な関係を保っている。

(ノルウェー水産物輸出審議会HP)

政治や企業の意思決定過程において女性の比率が高い。閣僚の 40%は女性。ノルウェーは、西

ヨーロッパ諸国のなかでも出生率が高い。差別をなくすため雇用や進学のときに女性や尐数民族

に対して一定枠を割り当てる制度(クオータ制)がある。

UNDP 「人間開発指数(HDI)」では、「長寿を全うできる健康的な生活」「知識」および

「生活水準」の 3 つの側面の達成度がもっとも高い国。先進国における貧困の尐なさを示す人間

貧困指数(HPI-2)についても 2位。

2008 年現在、ノルウェーには 19 の県に相当する広域自治体フュルケ(Fylke)、及び 430 の基

礎自治体コミューネ(Kommune) が存在する。フュルケとコミューネは、ともに 4 年ごとに行われ

る選挙で選ばれた議員によって構成される議会が統治している。

現在、もっとも重要な行政卖位はコミューネで、保健・社会事業、小・中学校教育と文化事業、

- 163 -

都市開発、交通・環境事業、上下水道・廃棄物処理などを担当している。フュルケは、高等学校

教育と多くの専門的サービスを担当している。2006 年、さらなる地方自治体への権限委譲に向け

た政府案が国会に提出された。

(Scandinavian Tourist Board資料)

フリーコミューン:ノルウェーは、中央集権国家であったが、80 年代に政府の財政が逼迫し、

自治体へ期待が高まり、86年よりフリーコミューンの実験を開始した。自治体自身の法令を制定

し、自治体を自由に運営した。第 1次産業振興、特に農業振興の業務への意欲が高かった。92年

に終了、成果を踏まえ、地方自治法を改正した。自治能力が増したとの評価となっている。

(「世界の地方自治制度」 竹下他による)

地域協力の推進:北欧諸国、バルト三国及びロシア等の周辺諸国を含む、多分野かつ緊密な地

域協力(北欧協力、環バルト海協力、バレンツ協力等)を重視している。

また、196㎞にわたり国境を接し、近隣のコラ半島に北洋艦隊基地を擁するロシアとの間では、

上記地域協力に加えて、経済、エネルギー、原子力安全、漁業、環境、海事、入国管理、教育、

文化等の様々な分野で二国間協力を推進している。 (外務省HP)

3)漁業の概要

ノルウェーの漁業は、北海とバレンツ海が主要漁場で、高緯度に位置していることもあり、北

方系の魚介類が多く、魚種構成は比較的卖純である。(2010 大橋氏)

漁獲量の上位5種(2009)は、ニシン(herring)、タラ(cod)、シシャモ(capelin)、ブルー

ホワイティング(kolmule)、セイス(saithe)であり、この5種で全漁獲量の8割近くを占めて

いる。

地域的には、モーレ・ロムスダール県が生産額大。同県オーレスン港は成果最大級の水産物輸

出港。ノールラン県、トロムス県、中部のソグン・フィヨルダーネ県が続く。養殖業では、ホル

ダラン県、ノールラン県、モーレ・ロムスダール県が続いている。

(「ノルウェーの経済」2004 松村氏)

養殖業については、1969年にベルゲン近郊のフィヨルドでアトランティック・サーモンの養殖

が開始され、しばらくは、付加的産業の位置づけ、貿易における重要性も皆無とされていた。そ

の後、養殖技術、資本、市場開拓に加え、政府の振興策がかみ合い 90年代に飛躍的に拡大したも

のである。2000年には、それまで世界最大の養殖企業であったハイドロ・シーフーズ社がオラン

ダ資本のヌレトコ社に売却、国民的議論になった。現在、ノルウェー資本のバイオ・マール社は

養殖業界で世界第 3位の位置にある。

(「ノルウェーの経済」2004 岡本氏)

主要対象種は、アトランティック・サーモン(atlantic salmon)やニジマス(rainbow trout)

であり、近年は、タラ、オヒョウ(halibut)等、対象種を拡大している。

水産業は輸出金額においては、全体の約6%(2009)を占める。原油、ガスに次ぐ、第3位を

占める主要な産業である。また、ノルウェー西部及び北部の沿岸域にとって、漁業・養殖業は定

住化と雇用確保の手段として位置づけられており、地場の魚介類は沿岸域の地方色豊かな文化を

形成していると言われている。

(2010 大橋氏。数値のみ最新年に差し替え)

- 164 -

ノルウェーは漁獲量のうち、約 20%を領海内(12 海里以内)、残り約 80%を領海外で捕獲してい

る。漁業水域は、大きく分けて①北海・スカーゲラック海域、②ノルウェー海(ロフォーテン沿岸)、

③バレンツ海、④スヴァルバール諸島周辺海域、⑤ヤン・マイエン諸島周辺海域の5つに分類され

る。領海内での漁獲量のうちの約 94%、領海外での漁獲量のうちの約 48%が、上記①から③の海域

で捕獲されている。

主な魚種の漁期は次のとおり。

①タラ:ノルウェー海・ロフォーテン沿岸で1~5月、バレンツ海、スヴァルバール諸島周辺海

域で通年

②ニシン:北海・スカーゲラック海域で5~12 月、ノルウェー海・ロフォーテン沿岸で 10~3

③セイス:全海域で通年

④サバ:ノルウェー海で8~10 月、北海で5~11 月

(2010 ノルウェー大使館)

行政的には、ノルウェー漁業省 (Norwegian Ministry of Fisheries and Coastal Affairs)が

所管している。ノルウェー漁業省は、1946年に世界で初めて設置された漁業省である。

漁業省では、組織の管轄として、漁業、養殖業、水産物の安全性、魚の健康、漁港や海上交通

の基盤、汚染対策を掲げている。

また、特に重要な領域として、長期にわたる海洋資源の最適な開発、海洋環境の管理、効率的

で自立的な水産業の確立、養殖業の向上、ノルウェー産水産物の市場アクセスの改善、水産食品

の安全性、満足のいく安全な就労環境の実現、航行と安全性の向上、海上運送の効率性の向上、

海洋汚染への適切な対応を挙げている。

漁業省の組織は次図の通りとなっている。

図2-1 ノルウェー漁業省組織図

- 165 -

4)関連する法律

○Marine Resources Act

○The Raw Fish Act

○Aquaculture Act

○Food Act

○Animal Welfare Act

5)水産関連施策

①漁業施策

現在のノルウェー漁業の基本政策は、水産資源を通じた利潤の最大化を柱としつつ、沿岸コミ

ュニティの社会経済的な利益を確保することとされている。

(2010 大橋氏。Marine Resources Actの目的に明記。)

ノルウェーの水産業は、1970年代の後半までは、順調ではなく、資源の減尐、高騰する人件費、

老朽化した漁船と漁労機器などの問題を抱えていた。この時期には、ノルウェー漁業銀行が倒産、

国有化されている。こうしたこともあり、79年に水産物輸出促進事業を督励し、水産関連業者を

日本、アメリカ、EU等へ派遣して海外マーケットの調査を行ない、今日の様な地位を築いた。

近年では、各種の助成金ついて段階的撤廃を行っている。 (2007 丹羽氏)

1964 年以来、漁業省とノルウェー漁業組合(Norges Fiskarlag:漁業者の自主的で全国的な

会員組織、地域別に下部組織がある。)と主要協定を結び、漁業従事者の収入安定を目的とした国

家補助金等について取決めを行っている。

1953 年には、国家漁具専売所(Statens Fiskeredskapsmonopol)を設立し、ノルウェーの漁具

メーカーを海外との競争から保護する措置をとった。

水産物の安定的な価格を確保するために、漁業団体、個人の漁業従事者、船員等からなる販売

組合(Salgslag:The Raw Fish Act を根拠とし、全国に 6 つの組織)が買い手と交渉して産地市

場価格の決定ができる。

(「ノルウェーの経済」2004 松村氏)

青魚を取り扱う販売組合「NOFGESSILDE SALGSLAG」。ノルウェーの漁船、同国海域に入る外国漁

船が漁獲するニシン、サバ、シシャモなどの青魚すべての販売を管理する。目的は「漁師の立場

を守り、マーケットの価格を安定させるため」(ヤーレ・ハンセンマーケティングディレクター)。

販売組合は 1927年に組織。法律「The Raw Fish Act」に基づき、青魚の販売を一手に引き受け

る。組合は全国の漁業者の代表らがボードメンバーに入り、運営に当たる。もともとはニシンの

取り扱いが主体だったが、さまざまな魚種に拡大。取扱数量は年間 200 万トン。1 万 5000 から 2

万件の取引が成立する。「世界の青魚の2%。世界最大の売買システム」と胸を張る規模だ。「魚

が船にいる間に、価格と売り先が決まる」とトルグネス販売ディレクター。漁師は漁獲した魚種、

サイズ、グレードや水揚げ時間などを組合に通知。

組合はオークションの漁獲対象時間内に集まった全情報をホームページに掲載するオークショ

ンは1日に8~10回。販売先は国内に限らず英国、デンマーク、ドイツ、アイスランドに至るた

めすべてネットを使いオークションを行う。基本は1船売り。漁船は売り先が決まった時点で、

売り先指定の漁港に直接水揚げする。

- 166 -

組合は「漁師の立場を守り、マーケットの値段を安定させること」が最大の使命。販売価格に

は魚種によって最低価格を規定するなど、さまざまな取り組みがある。「漁獲割当量のコントロー

ルも仕事の一つ」とトルグネス販売ディレクター。漁獲物のすべてを一括管理するため、漁獲枠

の消化状況などを把握し、オーバーキャッチを防ぐ重要な役割を持つ。

(2008 みなと新聞 磯崎氏)

図2-2 Sunnmøre og Romsdal Fiskesalgslag におけるオークション画面

現在までに、ノルウェー水産物輸出企業は、末端小売店まで流通経路がわかる履歴追跡システ

ムを整備している。(「フィヨルドからフォーク」まで)

(2007 丹羽氏)

漁業者に対する所得保障は、2005 年に廃止され、現在はない。また、燃料高騰時や世界金融危

機時の際にも、政府からの金融支援は実施されず。漁船のスクラップを進めるための減船支援策

が行われていたが、2008 年に終了。ただし、一層の減船・合理化を促進するため、TAC の譲

渡禁止の例外として同種の漁業許可を受けた 2 隻以上の漁船を所有する漁業者が 1 隻を減船す

る場合には TAC を他船に移動するSQS 制度(Structural Quota System)は認めている。

ノルウェー政府は、2006 年にトロムソ以北のノルウェー海及びバレンツ海における沿岸 50 キ

ロメートル以内での新規石油開発を凍結。また、ロフォーテン沖合の石油開発は、石油開発推進

派と漁業者・環境保護団体等の反対派で政治問題となっている。2009 年、政府はロフォーテン沖

の石油開発のための地震探査に伴い、関係漁業者に対して漁業補償を実施した。

(2010 ノルウェー大使館)

漁村の振興に関する施策は漁業省ではなく、他省庁や市町村レベルの所管である。生活環境の

厳しい北部地域には定住策として、所得税の減免、児童手当、学校の分散、授業料の減免、学資

ローンの優遇、雇用に対する事業主への補助などが行われている。生活インフラについても「国

民はどこに住もうとも道路、電気、温水、汚水整備などのサービスを享受する権利を有する。」と

の原則が貫かれている。 (2010 大橋氏)

- 167 -

ノルウェー漁業省では、雇用や付加価値を生み出し、輸出産業としても重要な養殖業について、

2007 年に、特に環境面に配慮した戦略「Strategy for Environmentally Sustainable Norwegian

Aquaculture Industry」を公表している。この戦略は下記の 5本柱から構成されている。

・Genetic interaction and escapes

・Pollution and Discharges

・Disease,including parasites

・Zoning

・Feed and feed Resources

②資源管理

ノルウェーの漁業管理は、TAC管理を基本とし、漁業生産者組合別に割り当てられていた魚

が、漁船サイズ毎のグループを経て最終的に個別の漁船毎に割り当てられる。個別漁船割当

(Individual Vessel Quota)と呼ばれる。 (2010 大橋氏)

ノルウェー漁業省では、ノルウェーにおける海洋生物資源の持続的利用の為の資源管理の概念

を下図の様に整理している。割当のほか、資源動向のデータ把握や国際海洋開発理事会(ICE

S)にも重要な位置づけを与えている。

(2007 Norwegian fisheries Management)

図2-3 ノルウェー資源管理の考え方

ノルウェーにおけるITQ導入を巡る議論については、ハンネソン氏(Hannesson、ノルウェー

の漁業経済学者)に詳しい(巻末参考資料)。ハンネソン氏によれば、ITQ(当然、現行の個別

漁船割当(Individual Vessel Quota)を含んでいると考えられる)は、経済効率性達成のための

基本的な仕組みであるとし、ノルウェーにおいても小規模漁業者や北部地域で強く反対がある等、

様々な議論はあるものの、結果的には、他の補助金が減尐しても漁家経営の効率性(1漁業者あ

たり漁獲金額)が上昇する等、過剰な漁船の削減等を通じて政策効果があったとしている。

(2007、2009 Hannesson)

- 168 -

図2-4 漁業者の推移と漁獲金額の推移 図2-5 漁業者1人当たりの漁獲金額

(何れも Hannesson(2009)による)

ノルウェー政府は、近年漁船隻数削減に力を注ぎ始めた。既存漁業者も競争相手が減るし、1

船当りの割当量が増えるから歓迎する人もいるだろう。もっぱら、輸出という供給政策において

も、供給量を人為的に下げるというカルテル的行為によって、価格を上げ経済余剰の増大を図る

政策はありうる。しかし、それを資源管理の美名の下にやるのは問題であろう。

ノルウェー政府は資源に比し過剰との認識の下に、TACを必要以上に絞るほか減船への助成、

違反の摘発、04年から高額の漁船登録料等の徴収などにより一層の減船を進めている。

(2009 岩橋氏)

○漁業許可、制限(インプット・コントロール等)

ノルウェーのインプット・コントロールは次のとおり。

①漁業免許制度:トロール、まき網等比較的大型の特定漁業に対する免許制度。有効期限は

無期限。

②漁業許可制度:魚倉 500 立方メートル以下(以前は船長 28 メートル未満)の漁船を主対

象とした特定漁業に対する許可制度。有効期間は 1 年、毎年一定条件下に更新可。

③漁船登録制度:漁船の登録義務。登録済漁船を取得する場合は当局の許可が必要。

④漁業者登録制度:漁船所有の権利を得るためには、過去5年間のうち3年以上漁業従事の

履歴が必要。

また、テクニカル・コントロールは次のとおり。

⑤操業水域・期間等の規制

⑥網目サイズ、長さ等漁具の規制

⑦漁船の魚倉容積規制

⑧24 メートル以上の全ての漁船に対する衛星追跡装置の搭載義務(ノルウェーでは、24 メ

ートル以上の大きさの全ての漁船の航海及び操業が監視・記録され、インターネットで閲

覧可能)。

○魚種別漁獲割当制度(アウトプット・コントロール)

①ノルウェーと他国の漁獲割当

他国と共有している魚種の漁獲可能割当は、各水域、魚種等に応じて関連する協定等に従

い、国際海洋探査委員会(ICES)による資源調査結果に基づく持続可能な漁獲可能量の

勧告に基づき、ノルウェーの漁獲割当が決定する。2010 年の主な割当は次のとおり。

0

20000

40000

60000

80000

100000

1950 1960 1970 1980 1990 2000

Fis

herm

en

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

Catc

h v

alu

e (

Mil

l. 2

008-

kro

ner)

Fishermen Catch value

Catch value per fisherman

0

200

400

600

800

1000

1950 1960 1970 1980 1990 2000

Th

s 2

008-k

ron

er

- 169 -

・ノルウェー・ロシア共有魚種(ノルウェー・ロシア漁業協定、分配割合は近年変更なし)

ア)北緯 62 度以北(バレンツ海含む)のタラ:第三国への割当の残りをロシアと等分

イ)北緯 62 度以北(バレンツ海含む)のハドック:①に同じ

ウ)バレンツ海のししゃも:ノルウェー60%、ロシア 40%

・ノルウェー・EU 共有魚種(ノルウェー・EU漁業協定)

ア)タラ:ノルウェー17%、残りEU

イ)ハドック:ノルウェー23%、残りEU

ウ)セイス:ノルウェー53%、残りEU

エ)ニシン:ノルウェー29%、残りEU

オ)サバ:ノルウェー65%、残りEU

・ノルウェー・EU・フェロー諸島・アイスランド・ロシア共有魚種(関係国漁業協定)

春産卵のニシン(北大西洋最大の魚資源):ノルウェー61%

②ノルウェー国内での漁獲割当

ノルウェーの漁獲量の調整は、努力量規制に加え 1952 年に最初の漁獲量割当制度が導入

され、現在水揚高の 95%が漁獲可能割当制度(TAC)により決定されている。ノルウェー

の漁獲割当の国内配分は、漁業庁長官が、漁業組合代表、船員組合、食品産業組合、自然管

理庁、海洋研究所、サーミ議会(尐数民族サーミ人の議会)等からなる漁獲割当評議会の勧

告を受け、最終割当案を漁業沿岸省へ提案、同省が承認し公示する。

魚種別に定められる割当量は、グループ別に配分され、管理される。2010 年のサバの場合、

71.3%が大型まき網、19.1%が沿岸漁船、6.4%が小型まき網、3.2%がトロールに割当てら

れている。直、TACは漁船ごとに定められており、漁船を売買した場合、TACも同時に

譲渡され、TACのみの売買は不可。

③ノルウェーにおける漁獲割当のコントロール

ノルウェー国内では、鮮魚法(1951 年)に基づき、全ての漁獲物は地域、魚種別に組織さ

れた販売組合を通して流通(第一次販売)することが義務付けられており、漁業者は漁獲物

を自由に販売することが出来ない。また、衛星追跡装置が搭載された漁船は、漁獲場所、漁

獲量、販売先等が一元的に管理・記録され、インターネットで閲覧可能。

漁獲割当は、資源状況の変化があった場合漁期中でも見直される。また、違反操業等の取

締は、沿岸警備隊、漁業庁の漁業取締船が行っており、漁獲量オーバー等の違反があった場

合には野生資源管理法(2008 年)に基づき罰金または懲役刑が定められている。

○漁業に関する協定等、関係国際機関

ノルウェーの漁業水域における漁獲規制に関する協定等及び関係国際機関は次の通り。

①他国との協定

・ノルウェー・ロシア漁業協定:バレンツ海のタラ、ハドック、ししゃも、タラバガニに

ついては、共有魚種として共同資源管理を行なっている。1975 年締結の「水産業におけ

る協力協定」の基づき、両国間で「ノルウェー・ロシア合同漁業委員会」を設置し、年

- 170 -

1 回の会合で、共有魚種の総許容漁獲量(TAC)の設定、両国及び第三国への漁獲割

当量の決定、両国水域への相互入漁等を決定。他方、バレンツ海が両国の係争水域であ

ったことから 1978 年に「バレンツ海の係争水域における漁業に関する暫定協定(グレ

ーゾーン協定)」を締結、以後毎年更新され続けている。係争水域の境界線確定後も、現

状を維持させることで両国は合意している。

・ノルウェー・EU漁業協定

・ノルウェー・グリーンランド漁業協定

・ノルウェー・フェロー諸島漁業協定

・ノルウェー・アイスランド漁業協定

②ノルウェーが関係する漁業管理国際機関

・北東大西洋漁業委員会(North East Atlantic Fisheries Commission(NEAFC))

・北西大西洋漁業機関(Northwest Atlantic Fisheries Organization(NAFO))

・大西洋まぐろ類保存国際委員会(The International Commission for the Conservation of

Atlantic Tunas(ICCAT))

・单東大西洋漁業機関(South East Atlantic Fisheries Organization(SEAFO))

・单極海海洋生物資源保存委員会(Commission for the Conservation of Antarctic Marine

Living Resources(CCAMLR))

(以上、2010 ノルウェー大使館)

- 171 -

(6)アイスランド共和国 (Republic of Iceland)

1) 社会経済の概要

①基本的な政治体制:共和制

②主な社会指標

・海岸線延長 : 4.9千 km

・面積 : 103千 km2

・総人口 : 281千人

・就業人口総数 : 156千人 うち、農業、漁業、林業 5千人(2008)

・国内総生産 :16,559百万米ドル(2008) (総務省HP)

2)社会的特性

アイスランドは、アイスランド島、漁業基地であるヴェストマン諸島、グリムセイ島等島嶼か

らなり、地理的位置、自然環境、地勢により、古くから海洋からの影響を受けてきた歴史を有し

ている。

古くは無人島であったが、アイルランドから、900年ごろより、移住が進められてきた。930年

には、世界最古の民主議会「アルシング」(現在でもアルシングと呼称)が開催されている。11

世紀以降はノルウェー及びデンマークの支配下に置かれてきたが。1944年にデンマークから独立。

第 2 次大戦後は、漁業を中心に急速な経済成長を遂げた。捕鯨賛成国。

2000 年代には、金融を中心に経済成長し、国民 1 人当たりのGDPで 06 年には世界第5位と

なったが、2008年の世界金融危機以降は厳しい状況が続いている。漁業規制への懸念から国民は、

EUへの加盟には慎重であったが、金融危機を契機として政府によりEU加盟が検討されている

状況である。

地方行政区分は、26県、県の下に 98の自治体と 14の市 (kaupstaðir) がある。

3)漁業の概要

アイスランドは、1800年代までは、ヨーロッパ最貧国であったが、1900年代のトロール船の導

入以降、漁業を核として経済発展を図ってきた経緯があり、かつ、今日においても水産物は重要

な輸出産品である様に、漁業は、国の経済成長、雇用に重要な役割を果たしている。古くから漁

業が行われてきたことから、歴史、文化における重要性も高い。

主な漁業種類は、ニシン(herring)、タラ(cod)、シシャモ(capelin)、ハドック(haddock)、セ

イス(saithe)、レッドフィッシュ(redfish)等であり、この6種で全漁獲量の7割近くを占めて

いる。漁獲量は、近年、概ね 1,300千tから 2,000 千tのレベルで推移している。

養殖業は、1980年代にサーモンの養殖を開始したが、ノルウェー、スコットランド、フェロー

諸島等周辺諸国との競合が厳しい状況に置かれてきた。近年は、大手の漁業会社の養殖業への進

出やタラ、カレイ等新たな養殖種の導入により、新たな展開が図られているところである。

イギリスとのタラ戦争(58年、72年、76年)、最近でも、アイスランド船籍の漁船が捕獲した

サバに関して、EU諸国への陸揚げ禁止等、周辺諸国との調整や競合が常に課題となっている。

水産物の流通については、1987年以降の Auction fish marketsの制度が特徴的である。Auction

fish marketsは、水産物取引市場法(Fish Auction Market law)に基づき運用されており、年

- 172 -

間 100,000tの取引規模で、水産物価格の安定化に寄与している。オークションはコンピュータ

ーネットワーク上で毎日リアルタイムに 200 から 300 のバイヤーの参加により実施されている。

行政的には、アイスランド漁業農業省 (Icelandic Fisheries Ministry of Agriculture)が所

管している。漁業農業省は、それまでの農業省と漁業省を廃止し、2007年に設立されたものであ

る。

漁業農業省は、①漁業生産、②漁業資源の利用と保全等調査活動、③漁業資源の利用と保全等

管理活動、④生産や輸入水産物の管理と調査、⑤海洋生物の養殖、⑥水産分野の研究、開発、技

術革新支援の 6つを組織の役割としている。

また、調査研究機関(The Marine Research Institute)等 8つの下部組織を有している。

4)関連する法律

○The Fisheries Management Act of 1990

○Act on Fisheries Management

○Fish Auction Market law

5)水産関連施策

①漁業施策

アイスランドでは、長い歴史的経緯、経済の要であることから、EU加盟反対や捕鯨賛成とい

ったことからも明白である通り、漁業は国民的にも重要な政策分野であると考えられる。

現在の水産施策は、1990 年の The Fisheries Management Act では、水産資源を国家の共有財

産として規定し、雇用の安定や定住促進等が目標として掲げられ、その後、2004 年「The Ocean

(Iceland′s Policy)」(当時の漁業省、環境省、外務省の連名で公表)で、広く海洋政策として、

科学的知見に基づいた、生物多様性、生態系の持続可能性等環境面への配慮が示され、2005 年

「Close to the sea(The Icelandic policy)」でも同様に持続可能性、生物多様性、漁業管理に

触れており、環境、雇用、漁業管理が基本的な柱となっていると考えられる。

また、「The Ocean iceland′s Policy」では、海洋汚染や気候変動、海洋の生物多様性や持続可

能な開発等につき政策の基本方針が示されているが、漁獲可能量の削減、地域レベルの管理組織、

ツーリズムの振興といった点が特徴的となっている。

○AVS:Special Research Fund

2002年に設立されたもので、アイスランドの海洋関連産業や漁業活動に対して、調査や技術

開発への支援を行なう制度。

○漁業関連団体

・アイスランド水産協会

1911年に設立された、漁船所有者団体、加工団体、水産技師組合等により構成された団体

で、経営改善や政府等利害関係者に対する要請等を行っている。

・Promote Iceland (Íslandsstofa)

Promote Iceland は、海外市場への販売促進、海外からの旅行者や投資の促進を目的とし

たプロジェクト。

- 173 -

②資源管理

アイスランドの資源管理制度は、70 年代(第 2 次タラ戦争後)におけるタラ(cod)資源の消滅

を契機に、1983年には、船ごとの漁獲割当(Vessel Quota: VQ)の導入を経て、現在では、1990

年の The Fisheries Management Actに基づき、TAC、ITQ制度を採用している。政府は、現

在のシステムに対しては、加工・流通分野まで広い範囲に渡り、市場や労働市場が効率良く整理

され、経済的な効果は大きいとの評価をしている。

しかし、制度導入以降の社会経済的影響については、上位 10企業がTACに占める割合が 1990

年に 21.9%、2000 年には 48.1%にまで上昇する等漁獲割当の集中と漁船の大型化が課題とされ

ている。船主が漁獲割当を買受人にリースし、漁業従事者たちは買受人の指示に従って操業する

という現象が生じ、その結果、水揚げはその買受人に買い叩かれるという問題も多く報告されて

いる。1994年と 1995年には漁業従事者らによるストライキが実施され、さらに 2001年には 8週

間という大規模なストライキが行われる等大きな社会問題となった。また、大型船による海上加

工・輸出を行う大企業が増え、地上の加工工場が減尐したため、地方漁港の雇用力も低下したと

されている。(2008 三谷氏)

クォータは、毎年魚種ごとに大臣が設定したTAC内で漁船ごと配分されている。全ての主要

な商業対象種 (25 種)で適用され、年間漁獲量の約 95から 97 %を占めている。クォータは、毎

年のクォータの 50%を超えない範囲で交換でき、魚種あるいは総クォータとも大きなシェアを占

める個人や法人等に対する交換には制限が設けられている。また、クォータの 20%は翌年に持ち

越すことができる。

なお、科学的知見に基づいた漁業管理を強調しており、65年に設立された、調査研究機関(The

Marine Research Institute)がTAC設定のアドバイスを行っている他、ICESとの連携も重

視されている。

図2-6 TACの設定状況

- 174 -

(7)欧州連合 (European Union)

1)社会経済の概要

経済的な統合を中心に発展してきた欧州共同体(EC)を基礎に、経済通貨統合を進めるとと

もに、欧州連合条約に従い、共通外交・安全保障政策、警察・刑事司法協力等のより幅広い協力

も進展する政治・経済統合体。国家主権の一部を委譲して、域外に対する統一的な通商政策を実

施する世界最大の卖一市場を形成し、政治的にも「一つの声」で発言しつつある。加盟国 27か国。

(外務省HP)

EUの予算規模(EU諸機関が執行する予算。加盟国政府の執行する予算とは別)は、2005 年

は、116,554百万ユーロ(前年比 6.2%増)。(≒約 15兆 1520億円。)

EU予算の財源は、主に以下の3収入源より成り立つ。伝統的固有財源及び付加価値税(VAT)

に基づく財源への依存度は減尐してきており、各加盟国のGNI比に基づく分担金の比重が大き

くなってきている。歳入には、共同体GNIの 1.24%という上限が定められている(1999年の決

定による)

①伝統的固有財源:関税、農業課徴金、砂糖課徴金(砂糖・グルコースにかかる税)

②付加価値税(加盟国の付加価値税課税ベースの約1%)

③各加盟国の分担金(GNI比に基づく):分担率は、他の2つの財源からの歳入額および当該

財政年度の歳出見通し額に照らして、財政手続きの下で毎年定められる。

予算案は欧州委員会の提案に基づき理事会が作成し、欧州議会の承認を得て決定される。この

際、義務的支出(関連諸条約から必然的に生じる経費、共通農業政策等)については理事会が最

終決定権を持ち、非義務的支出(それ以外の経費であり、例えば構造基金等の地域政策(構造政

策)に関する支出)については欧州議会が最終決定権を持つ(義務的支出は全体の約 4 割、非義

務的支出は約 6 割)。 歳出の約 8 割は共通農業政策(CAP)予算と構造政策予算が占めている。

(2005年予算では共通農業政策予算が 42.6%、構造政策予算が 36.4% )

(以上 外務省HP)

農業部門への支出が多いことから、農業部門の小さい英国には分担金払戻制度が認められてき

た。(2007 比沢氏)

各年毎の予算とは別に、予算の項目別の上限などを定めた中期財政計画があり、現在はアジェ

ンダ 2000(2000年から 2006年まで)に基づき運営されている。

アジェンダ 2000では、EUの拡大を睨み、予算枠組全体の効率化、特に農業分野と構造政策分

野の一層の効率性の確保が大きな目標に据えられた。農業分野では共通農業政策(CAP)の改革

を推進すること、また肥大化した構造政策の効率化を拡大後も維持することが目標とされた。(外

務省HP)

2)域内漁業の概要

EUの漁業は、世界の漁獲量の約 4.6%を占め、中国、インド、ペルーに次いで約 640万トン、

世界第4位の漁獲量(2007)となっている。加盟国では、スペイン、フランス、英国、デンマー

クの漁獲量が多い。漁場は全世界に及ぶが、主要生産海域は、大西洋北東部、地中海、大西洋中

東部となっている。

- 175 -

漁業就業者(フルタイム)は、14万人で、うちスペインが 3万人と全体の2割強を占め、次い

でイタリア、ギリシアの順となっている。この上位3カ国でEU全体の6割に達している。また、

水産加工業は、生産金額 230 億ユーロで、スペイン、イタリア、フランス、英国で多くなってい

る。就業者は、約 13万人の規模となっている。

(上記、EU “Fact and Figures on the Common Fisheries Policy 2010”)

経済全体に占める割合は小さいものの、沿岸域では漁業に対する依存度が高く、地域維持の観

点から重要な産業とされている。(2010 大橋氏)

EUの共通漁業政策(CFP:Common Fisheries Policy)は、当初、共通農業政策(CAP)

の一部として扱われていたが、1983 年より加盟国の排他的経済水域(EEZ)をEUの共通漁業水域

として管理すると共に、域内国の漁業構造改革を進めるために独立して策定される様になったも

ので、10年毎に見直しが行われている。現在、2013 年からの新たなCFPの実施に向けグリーン

ペーパー(たたき台)が示されている。(2010 大橋氏)

3)水産関連施策

①産業政策・地域政策の特徴

EUは、本来、欧州における卖一市場を目指し組織されてきた経緯もあり広義には、その組織

の活動そのものが産業政策的な性格を持っていると考えられる。狭義には、共通農業政策(CA

P)の存在が大きいが、行政的なイニシアチィブによる産業政策についても、リスボンサミット

(2000)におけるIT革命への対応を軸とした「欧州社会モデル」とリスボン戦略の提示(2007

経産省)、産業競争力の強化について「グローバル時代の統合的産業政策(2010“An integrated

industrial policy for the globalisation era” 中小企業の国際化支援、交通・エネルギー・

情報インフラ等の向上、宇宙産業の振興等」の提示等総合的な政策提言がなされている。

農業分野では、加盟 27カ国共通して共通農業政策(CAP)が講じられている。CAPは、共通

市場の設立、生産の増強を図るためには、域内での調整が必要であるとの考え方から 1962年に導

入された。その後、財政負担の増大、WTOルールへの対応等の観点から、1992 年、2000年、2003

年、2009年に政策の見直しが行われている。

CAPは、(ア)農業者の所得を保証するための価格・所得政策(主に直接支払い)、(イ)EU加

盟国間・地域間の経済力や生産条件等の格差を是正するための農村開発政策、の二本の柱と輸出

補助金、共通関税等から構成されている。(2010 農水省HP)

価格・所得政策がEU全域にほぼ等しく適用されているのに対して、農村開発政策は加盟国の

裁量が広く認められ、その国・地域の実情に応じた施策が実施されている。(2007 比沢氏)

EU諸国においては、当該地域の条件不利性に応じて、直接支払いの卖価を設定している。E

Uは、各国が行う直接支払いの卖価の上限を自然条件に応じて定めている。(2010 農水省HP)

この直接支払い制度は、農産物の過剰生産対策を発端とし、03年の農政改革で、生産要素と切

り離した卖一支払制度が導入(「デカップリング」型直接支払い)した。政策の効果や効率の点か

ら見直しの議論も始まっており、特に、条件不利地域の指定基準や環境支払いの遵守要件のチェ

ック体制について問題が指摘されている。(2007 石井氏)

農業環境政策として、環境負荷の軽減、景観の保護等に資する農法を推進する目的でため、以

下の農法を最低5年間行う農業者に対し、補助金の支給を行なっている。

- 176 -

○環境、景観・自然環境、土壌等の保護や向上と両立するような農地の利用法

○環境に好ましい粗放的な農法、集約度の低い牧草経営システム

○高度な自然的価値が脅かされている農業環境の保全

○農地の景観及び歴史的特徴の維持

○環境保全的農法(環境計画)の利用 (2010 農水省HP)

条件不利地域対策としては、山岳地帯を対象とし、農業の存続を確保し、最低限の人口水準の

維持と景観の保全を図るため、農地面積に応じた補助金を支給している。

○対象地域:山岳地域、普通条件不利地域、特殊ハンディキャップ地域

○対象農家:3ha(单欧諸国は2ha)以上の農地を有し、5年間以上農業活動を継続してい

る農家 (2010 農水省HP)

②共通漁業政策(Common Fisheries Policy:CFP)

現 行 の欧 州連 合 共通 漁 業 政策 (C F P) の 法 的根 拠は 、 理事 会 規 則 (Council

Regulation)2371/2002 である。CFPの目的は、「持続可能な経済的・環境的及び社会的条件を

提供するような水産資源の開発を確保すること」とされている。漁業管理については、

回復計画(RP)、管理計画(MP)、持続可能な開発の目標の設定、漁獲量制限、漁船数及び漁

船タイプの固定、努力量制限、技術的施策(漁具漁法、漁場、漁獲サイズ等)、インセンティブ施

策、その他パイロット・プロジェクトの9種が列記されている。(2010 船本氏、牧野氏)

また、CFPは、2002年改正以降、地域助言理事会(RACS)を始め多くの利害関係者によ

り施策を進めること、漁船の能力や産業支援を減らし沿岸地域への生活支援を行なうこと、毎年

のTACや割当を長期的な戦略に基づいて決定すること等を原則として進めている。(EU The

Common Fisheries Policy A User’s Guide)

上記のうち、利害関係者の参画を拡大する点については、2002 年当時、EU内で地方レベル、

国家レベル、欧州レベルといった「マルチレベル」の団体・組織による国家の枠組みを超えたE

Uの意思決定への関与の増加、地域政策における欧州地方自治体と欧州委員会の国家を超えたパ

ートナーシップ形成等が背景にあると考えられる。(2008 稲本氏)

また、2001年度までCFPで採用されていた卖年度ごとのTAC制度では、TACの年変動が

大きくなり、産業にとって計画が立てにくいこと、時間的制約により利害関係者との協議に十分

な時間がとれないこと等の欠点があったによる。(2010 船本氏、牧野氏)

漁船に関しては、長年、減船施策を優先してきたが、2002年の基本規制改正においても漁船能

力等について、漁船の能力を適正に保つこと、漁船の漁獲能力や漁獲効率を高める近代化、第三

国への輸出に対する公的支援は行なわない(但し、2004 年までFIFG下で補助対象) 等の新

たな規制を導入している。(EU The Common Fisheries Policy A User’s Guide)

現在、2009グリーンペーパーが示され、次期リフォームに関する検討が行なわれているところ

である。2009グリーンペーパーでは、従前の政策について、根深い過剰な漁獲能力、産業界の責

任が不明確、短期的な視点の意思決定システム等の構造的失敗を挙げると共に、次期リフォーム

の方向性として、IUU漁業への規制強化、生態系保全への新たな取組、統合的海洋政策(IM

P)との結合、漁獲努力量削減に向けた長期管理計画の遂行、トレーサビリティの改善等を示し

- 177 -

ている。(GREEN PAPER Reform of the Common Fisheries Policy)

IMPは、2008年に海洋政策の基本的枠組みとして Marine Strategy Framework Directiveを

採択し、統合的海洋政策(IMP:Integrate Marine Policy)として開始されたものである。(2010

船本氏、牧野氏)

2009 グリーンペーパーでは、IMPは、EUの政策全般、海事政策全般に広く関わっており、

将来のCFPもそうした統合的な視点から構築されるべきとし、沿岸域の持続的な発展を重視す

る観点から、沿岸域のコミュニティでは、CFPだけでなくIMPや他の地域政策と幅広く関連

性を持たせていく必要があるとしている。(GREEN PAPER Reform of the Common Fisheries Policy)

これは、結果として政治的に発言力の大きいエネルギー産業が、海上風力発電の大規模展開を

図り水産業が追い出されるといった懸念を産んでいるとのことである。(2010 船本氏、牧野氏)

CFPの基本施策は、大きく分けて以下の7つに分類できる。(以下、2010 船本氏、牧野氏)

a)資源の保全施策(Conservation Measures):我が国の資源管理に相当。2002 年より long-term

approachが採用され、複数年の計画制度としての Recovery Plan(RP)及び Management Plan

(MP)制度が設立された。また、卖一種管理から生態的に連関した複数種管理へと拡張を

志向している。具体的な管理ツールは、TAC、Technical Measures(目合・漁具漁法・禁

漁区・最小サイズ等)、努力量制限等。

b)環境施策(Environment Measures):ウミガメや海鳥・絶滅危惧種の混獲回避、漁具による物

理的な環境改変の防止、ゴーストフィッシィングの防止、Non-target種の採捕と投棄の防止

等。基本的方針は選択的な漁具・漁法の推進。養殖の環境汚染管理。

c)構造改善施策(Structural Measures):減船や漁村振興、加工・流通施策振興、組織整備等

の補助金による構造改善施策が実施されている。

CFPの目的の 1 つとして、EU内の水産資源の管理と共に、EU内の社会的・経済的一

体性を高めることを明記しており、様々なファンドが存在する。主なものは、European

Regional Development Fund(ERDF )、 European Social Fund(ESF )、 European

Agricultural Fund for Rural Development(EAFRD)及び漁業専門の European Fisheries

Fund(EFF)がある。

d) 市場施策(Market Policy):1970 年に欧州の共通水産市場を創出する目的でつくられた

Common Organization of the Market(COM)を中心とした施策。法的根拠は理事会規則

104/2000 。市場規格の整備・統一、生産者組織(Producers’Organizations: PO)の設立、

水産物の最低価格を設定する価格支持制度(Price support scheme)の運用等。

このうち生産者組織(PO)は、市場需要の急な変化から漁業者を守るとともに消費者に

妥当な価格で安定的に供給するために活動する、日本の漁協に近い組織。2005年現在、16の

加盟国に 203 のPOが設立されている。このうち 74%は、スペイン、フランス、イタリア、

ドイツ、UKの5カ国で設立。

e)対外関係(External relations):EU加盟国以外の国・地域との協定や条約(ノルウェー・

アイスランドやNEAFC等)。

f)ガバナンス(Governance):理事会規則 2371/2002 の第 2 条第 2 項において、良いガバナン

スの 4つの原則が以下のように定義されている。

- 178 -

a) 共同体・国・地域のそれぞれのレベルでの責任の明確な定義

b) 時機にあった成果をもたらす適切な科学的助言に基づく意思決定過程

c) 構想から執行まですべての段階における幅広い利害関係者の参画

d) 特に環境・社会・地域・開発・保健・消費者保護に関する共同体政策との整合性

g)定期的レビューとリフォーム(Periodical reviews and reforms)

【European Fisheries Fund(EFF)】

(基本的に COUNCIL REGURATION(EC)No1198/2006 of 27 July 2006 on the European Fisheries

Fund による)

従前より、EUには、生産に関わる基本的な設備等を対象とした構造改善施策

(Structural fund)として知られる施策があり、漁業分野でも地域振興、環境変化や近代化へ

の課題への対応のために活用されていた。

その後、2000年からは、漁業分野に特化して、競争力や携わる企業の経営強化を図る観点か

ら共通漁業政策を支えていくため、Regulation on the Financial Instrument for Fisheries

Guidance (FIFG)が創設され、2006年まで運用されることとなった。総額 60億ユーロの規

模。漁船近代化補助、減船補助、新造船補助があった。

FIFGの具体的な活用事例としては、コルシカ島における漁業資源の枯渇に対する地域の

漁業者等が行った資源管理のプロジェクトへの支援があるが、総額 300百ユーロの経費に対し、

FIFGが5割、地元自治体(2つの自治体。)が5割の資金援助を行なったものがある。

この事例をはじめ、持続的で競争的な漁業の実現に効果を発揮したとの評価がある一方、手

続きの複雑化や施策の優先順位に混乱がみられるといったことあり、制度の改正の必要性が生

じ、2007年より、European Fisheries Fund(EFF)が創設された。

EFFは、7年間の運用予定で、当初予算で 38億ユーロ規模を予定している。

EFFの法的根拠、補助金・使途については、理事会規則 1198/2006及び委員会規則 498/2007

に規定されている。使途は、5つの軸(Main Priorities)が設定されているが、EU加盟国

は、それぞれの国の政策の優先順位を考慮して、資金をどの様に使用するかを決めることがで

きる仕組みとなっている。

それぞれの概要は下記の通り。

◇Axis 1(measures to adapt the EU fishing fleet)

Fleetサイズを資源にあわせる;減船補償・休漁補償・漁船近代化

乱獲対策や公衆衛生対策の影響を短期的あるいは長期的を受ける漁業者や船主に対し、

職業訓練や早期退職への支援を行なうもの。全体の 28%が配分(2010)

◇Axis 2 (aquaculture、inland fishing、processing and marketing)

養殖・内水面漁業・加工業・流通業の振興;エコ配慮・アニマルヘルス・品質安全向

上等主に小規模・中小企業を対象とし、環境への影響の抑制した養殖生産や製品の品質

向上等に対して支援を行なう。全体の 28%が配分(2010)

◇Axis 3 (collective action)

共通の利益の実現;組織運営・環境保全・漁港整備・市場整備・マーケティング・漁

船転用

- 179 -

持続可能な開発、資源保護、漁港の改善、水産製品の強化等への支援を行なう。具体

的には、地域、国等の漁業者や養殖業者の為の販促キャンペーン(特定の企業のもので

ない)、イメージアップキャンペーン、市場調査等への支援を行なうもの。全体の 26%

が配分(2010)

◇Axis 4 (sustainable development of fishing areas)

漁業地域の持続的発展;離島や遠隔地漁村の保護・地域開発

共通漁業政策に基づき、持続可能な開発、漁村地域における生活の質の改善の支援を

行なうもの。

全体の 13%が配分(2010)

◇Axis 5 (technical assistance)

EFFを実施するための技術的支援。全体の 3%が配分(2010)

表2-3 国別・施策別金額配分(2010)

(in thousands of EUR)

Axis 1 Axis 2 Axis 3 Axis 4 Axis 5Total per country

% per country

BE 7,562 5,000 9,488 2,900 1,312 26,262 0.61%

BG 8,001 36,004 20,002 12,001 4,000 80,010 1.86%

CZ 0 11,927 13,824 0 1,355 27,107 0.63%

DK 40,365 37,650 36,515 12,461 6,684 133,675 3.11%

DE 8,145 57,560 68,688 19,438 2,034 155,865 3.62%

EE 15,265 24,584 21,210 19,282 4,228 84,568 1.96%

IE 34,766 0 6,000 1,501 0 42,267 0.98%

EL 77,272 59,690 32,320 33,300 5,250 207,832 4.83%

ES 442,907 322,048 298,756 49,212 18,967 1,131,891 26.29%

FR 59,621 63,029 85,049 5,700 2,653 216,053 5.02%

IT 161,250 106,086 106,086 16,974 33,947 424,343 9.86%

CY 2,200 3,250 12,924 1,000 350 19,724 0.46%

LT 13,668 22,431 9,249 6,694 2,672 54,713 1.27%

LV 20,861 46,129 24,153 28,911 4,961 125,016 2.90%

HU 0 24,164 8,944 0 1,743 34,851 0.81%

MT 2,175 1,760 4,095 0 342 8,372 0.19%

NL 16,913 7,379 16,903 4,987 2,395 48,578 1.13%

AT 0 5,164 50 0 45 5,259 0.12%

PL 168,841 146,819 146,819 234,910 36,705 734,093 17.05%

PT 62,865 74,187 83,408 17,403 8,622 246,485 5.73%

RO 9,975 105,000 30,000 75,000 10,739 230,714 5.36%

SI 2,164 7,141 7,574 2,164 2,597 21,640 0.50%

SK 0 10,468 2,536 0 684 13,689 0.32%

FI 3,445 16,990 14,784 3,606 624 39,449 0.92%

SE 13,666 10,933 19,133 8,200 2,733 54,665 1.27%

UK 39,635 33,590 49,621 11,598 3,384 137,828 3.20%

Total per axis 1,211,563 1,238,983 1,128,133 567,242 159,028 4,304,949 100.00%

Total in % 28.14% 28.78% 26.21% 13.18% 3.69% 100.0%

- 180 -

※Axis 1:measure for the adaptation of the Community fishing fleet

○支援の対象:2002 年に示された"Council Regulation NO 2371/2002”に基づいて

“Recovery Plan”“Management Plan”等を策定する必要がある。

○漁獲努力量の調整:各国は、上記同様 NO 2371/2002に基づき、それぞれ戦略プランを

策定する必要がある。

○長期的な休漁補償

・漁船のスクラップ

・欧州連合内における再割当(Reassignment)

・人工礁設置(環境への影響を評価した上で)目的の再割当(Reassignment)

○短期的な休漁補償(1年、8ヶ月、6ヶ月、3ヶ月、災害時等のケース)

○漁船近代化

・操業の安全、就労環境、衛生、品質向上、省エネ等に資する漁船近代化

・漁船の新造、及び、魚倉の増強は援助しない。

・エンジン交換

・交換前と同じかそれ以下の馬力

・船長 24m以上の漁船は、新しいエンジンは交換前の 20%以下の馬力

・船長 24m以上のトロール船は、新しいエンジンは交換前の 20%以下の馬力

(但し、“Rescue and restructuring Plan”の策定、省エネが条件)

・エンジンの馬力の削減

・装備の近代化(商業対象とならない魚種や生態系への影響を減らす技術)

・選択的漁具の導入

・漁具の交換(商業対象とならない魚種への影響を減らすもの等)

○小規模沿岸漁業支援

船長 12m以下であり、引き網の方法が、EUの規制(Table3 in annexⅠof Commission

Regulation NO 26/2002)に適合するものを小規模沿岸漁業とし支援対象とする。なお、

上記の漁船近代化の適用を受けている場合には、自己負担比率を規定より 20%削減す

る。

また、小規模沿岸漁業者や船主に対して、資源管理方法の改善、生産、加工、流通

の組織化、漁獲努力量の削減、技術革新、専門性や安全のスキル向上への支援を行な

う。

○社会経済的な補償

若い漁業者への専門的スキル獲得の支援、早期退職を含む漁業分野から他分野への転

職の支援等を行なう。

- 181 -

※Axis 4:sustainable development of fishing areas

支援の対象地域は、NUT3レベル以下とする。なお、NUTは、EUにおける地域開

発の政策的卖位。このうち、人口密度が低く、漁獲が減尐し、小規模な漁村地域を施策対

象とする。

NUTS 1: major socio-economic regions

NUTS 2: basic regions for the application of regional policies

NUTS 3: as small regions for specific diagnoses

図2-7 NUTの構成

施策の基本的な考え方は次の4点となっている。

○漁村地域の社会的経済的な価値の保全と漁業や養殖業の価値向上への支援

○漁村地域における雇用の確保

漁業分野の変化に伴い社会経済的な困難を抱える地域に対する経済的、社会的な再

構築、多様性の確保について雇用の確保を通じて支援を行なう。

○沿岸域環境の保全の促進

○漁村地域の広域的な連携促進

具体的な支援内容は下記の通り。専門的技術の向上や雇用の改善(特に女性)の促進や、

持続的開発戦略と結びつく内容の場合には、15%を上限として財政支援を上乗せすること

ができる。

○漁村地域の競争力強化

○漁獲努力量の増加とならない形のエコツーリズムといった経済活動

○漁業分野以外への雇用といった漁業者の雇用の多様化

○漁獲物の付加価値化

○小規模な漁村共同体の利益となる様な小規模漁業やツーリズムの支援

○漁村地域の環境保全(自然や伝統的建築景観保護等を含む)

- 182 -

○災害復旧

○広域的な漁業地域の連携(ネットワーク形成とベストプラクティスの普及)

○地域開発戦略を策定、実行する能力の習得

○維持管理費(漁村地域への総予算の 10%を超えない範囲)

上記の施策へのEEFからの財政支援は、EUで補助の上限率、上限額を定め、5つの軸

(Main Priorities)毎に配分される。上限は、地域によって総額の 75%、50%、5つの軸

毎では総額に対し 20%を最低限としている。このほか、Axis 1による漁獲調整を行なう場合、

GDPがEU平均の 75%に満たない新規加盟国等が対象となる場合(Convergence)には、

10%から 35%まで上乗せがある。

具体的な補助率(Aid intensity)は下表の通り。(ANNEXⅡ)

表2-4 補助率

A:財政支援上限、B:自己負担

Group1:漁獲努力量の削減、小規模沿岸漁業者への補償等

Group2:漁船近代化等

Group3:漁港整備、漁村地域の持続的開発等

Group4:販促キャンペーンや市場開発支援等

Group1 Group2 Group3 Group4A≦100% A≦40% A≦80% A≦60%B≧0% B≧60% B≧20% B≧40%A≦100% A≦40% A≦60% A≦40%B≧0% B≧60% B≧40% B≧60%A≦100% A≦50% A≦80% A≦75%B≧0% B≧50% B≧20% B≧25%

Regions covered by the Convergenceobjective and outlying Greek islandsRegions not covered by theconvergence objectiveOutermost regions

- 183 -

【Common Organization of the Market(COM)】

COMは、共通農業政策(CAP)をモデルとして生鮮及び冷凍魚介類を対象として、

予め設定されている最低価格となった場合に価格支持を行う制度で、1970 年に創設され、1998

年に大きな改革を経て今日に至ったもの。現在、燃油高騰、生産者価格の下落、大手小売店の

力の増大、消費者の多様化等を念頭に更なる改革が検討されている。

制度の運用主体は、EUにより承認され財政的援助も受けることのできる生産者組織

(Producers’ Organizations)となっている。具体的な制度は、EU内の魚市場や水産業者の

経営状況を勘案して定めた基準に基づき、最善を尽くしたにも関わらず、価格水準が基準を下

回る場合や関税自主権の発動時に、漁業者がPOから補償金を受け取る形で運用されている。

(EU The Common Fisheries Policy A User’s Guide)

なお、加盟国は、補償金の限度について、下表の通り、指定漁獲物毎に定めている。

表2-5 補償金の計算方法

○基準価格

基準価格は、漁期の始まる前に、生鮮やチルドの指定漁獲物(ツノガレイ、マコガレイ、ニ

シン等 19種)や加熱処理をした指定漁獲物(エビ、シタビラメ等4種)毎、冷凍漁獲物(イカ、

タコ等 10種)は製品毎に定めることとなっている。なお、これらの基準価格は、EU全域で適

用される。

基準価格は、直近3ヵ年の漁期における産地価格に基づき、供給過剰とならない点、漁業者

や製造業者の収入を援助する点、消費者の利益を勘案し、決定されることとなっている。また、

基本的には、基準価格に上下 10%の幅を持たせている。

○制度運用

EUの買取価格は、基準価格の 90%を超えないこととし、財政的援助は、平年の生産量の4%

を限度として、POで買取る価格の 85%を原則としている。また、売却価格についても買取価

格と同様に決定している。

(in euro per member vessel)Annual amount during the first threeyears

Annual amount during the twosubsequent years

当初3年間総額 次期2年間総額fromt the 1st to the 50th 600 300fromt the 51st to the 100th 200 100fromt the 101st to the 500th 100 50fromt the 501st 0 0

B:活魚、生鮮、チルドの指定漁獲物(コイ、アトランティックサーモン、マス、カキ等10種)(in euro per producer organisation)

Annual amount during the first threeyears

Annual amount during the twosubsequent years

当初3年間総額 次期2年間総額

up to and including 50% 20,000 15,000between 50% and 75% 25,000 20,000over and including 75% 30,000 25,000

Menber vessels

A:生鮮やチルドの指定漁獲物(ツノガレイ、マコガレイ、ニシン等19種)や加熱処理をした指定漁獲物(エビ、シタビラメ等4種)毎、冷凍漁獲物(イカ、タコ等10種)

Percentage of productiondisposed of through a producerorganisation within a specifiedproduction area

- 184 -

・在庫支援(Carry-over aid)

生鮮やチルドの指定漁獲物や加熱処理をした指定漁獲物については、品質等の条件を満た

しことを条件に、例年の生産量の 18%について在庫支援を受けることができる。

・価格均衡支援(flat-rate aid)

生鮮やチルドの指定漁獲物(シタビラメ、マグロ、アナゴ等 18種)については、直近3ヵ

年の平均価格の 80%を上限として、補償価格を設定できる。

・売却支援(Private-storage aid)

冷凍漁獲物(イカ、タコ等 10 種)について、基準価格の 90%を超えないこととし、尐な

くとも 70%の水準で売却価格を設定できる。

③資源管理

EUの共通漁業政策(CFP)の中で、最も重要な政策分野は資源管理である。(なお、EU自

身も、持続可能な漁業がEU以外の国を含め国際的に重要な関心事であると認識している。(EU

The Common Fisheries Policy A User’s Guide))資源管理の基本は、許容漁獲量割当(TAC)

制度であり、共通漁業水域の漁獲対象魚種毎にTACが設定されている。(2010 大橋氏)

TACは、毎年の国際海洋開発理事会(ICES)の勧告に基づき、漁業閣僚理事会において

決定される。TACの加盟国への配分は、各国の漁獲実績を基本としている。配分された魚種別

TACは各国の管理に委ねられているが、国により管理方式は異なっている。

(2010 大橋氏)

2003年の改革以降、資源の保全管理を強化する観点から、漁船の建造補助金の廃止、2003年を

基準として漁船トン数の能力を増加させない(入口/出口スキーム)に基づいた漁船隻数の管理

を実施している。

こうした政策の評価については、現状でも各国の漁獲割当の形骸化等による乱獲状態が続いて

いるとされている一方、「資源変動に対応する生産体制の構築が、ノルウェーに比し著しく遅れて

おり、競争に負けた。EUは、資源の危機をあおり、過剰漁船の整理(つまり、経営の整理と雇

用の縮小)を共通漁業政策の殆ど唯一の柱にしている。しかし、共通漁業政策の目標には、漁民

所得の増加や生産性の向上もうたっているのだから、EU漁業の衰退に歯止めをかけるには、次

の 2 つの政策を行う必要があると考える。第 1 はEU域外でノルウェー船に匹敵できるような競

争力のある漁船隊の構築、第 2 にEU域内操業の中小型船の維持が地方産業、地方の雇用の安定

にとって重要なら、漁船数の整理と併せ中小漁業者への所得補償的な支援が必要である。」といっ

た意見もみられる。(2009 岩橋氏)

(資源評価制度)

欧州共通漁業政策の施策立案に際しては、漁業科学技術経済委員会(STECF)による生物・

技術・経済に関する専門的助言や、漁業・養殖業助言委員会(ACFA)、地域助言理事会(RAC)

による各地域の利害関係者からの助言を考慮すべきことが明記されている。ICESが提出する

助言は今のところ生物学的助言に限られ、欧州委員会とICESの契約に基づいてSTECFへ

提出されるという位置づけになっている。STECFは底に社会・経済学的な側面も考慮して、

欧州委員会に総合的な科学的助言を出すことになる。(2010 船本氏、牧野氏)

- 185 -

漁業科学技術経済委員会(STECF)は、政策決定の質やスピードの改善、政治的な諮問へ

の素早い対応、政策分野への科学者の意見活用の促進を目的とし、1993年に設立された組織であ

る。STECFの助言に基づいてTACや割当の決定が行なわれている。なお、STECFに所

属する科学者や技術者の一部は、ICESにも所属しており、完全に独立している訳ではない。

(EU The Common Fisheries Policy A User’s Guide)

表2-6 EU内の資源管理方法

国名 IQ ITQ その他 備考

スペイン ● LL、TURF

ITQは、北東大西洋漁業委員会水域の底魚、大西洋まぐろ類保存国際委員会水域のメカジキ、地中海・ジブラルタル海峡のクロマグロに適用

ポルトガル ● CQITQは、北西大西洋漁業機関水域の底魚、大西洋まぐろ類保存国際委員会水域のメカジキに適用

マルタ LL、TURF

イタリア ● LL、TURF IQは、地中海のクロマグロに適用

スロベニア ライセンス供与

英国 ● ● ITE、TURF

アイルランド VC

フランス ● CQ、LL

オランダ ● ITE、LTL

ベルギー ● CQ、LL

ギリシア LL

キプロス ● CQ、LL IQは、公海(地中海)のクロマグロ、CQは沿岸と公海(地中海)のクロマグロにデンマーク ● ⅤTQ、LL

スウェーデン ● LL、TURF ITQは、アセスメント中

フィンランド LL、TURF

ドイツ ●

エストニア ● ITE

ラトビア ● IE

リトアニア ●

ポーランド ● ブロック割当2009 衆議院調査局 農林水産調査室

※管理類型

2009 衆議院調査局 農林水産調査室

限定的ライセンスに譲渡性を付与したもの。

漁業者が一定期間に使用可能な漁獲努力の単位数(操業日数・時間、カニ籠の数など)の割当。定着性資源に用いられる傾向。

個別漁獲努力割当に譲渡性を付与したもの。

VC:漁船漁獲制限

IQ:譲渡不能個別漁獲割当

ITQ:譲渡可能個別漁獲割当

LL:譲渡不能限定的ライセンス供与

LTL:譲渡可能限定的ライセンス供与

IE:譲渡不能個別漁獲努力割当

ITE:譲渡可能個別漁獲努力割当

各漁船の一定期間(週間、月間若しくは年間)又は一航海における水揚げ可能な漁獲量を制限。

特定の漁業資源についての、一定量の魚を漁獲する権利。又は、T ACの一定割合を漁獲する権利。

IQに譲渡性を付与したもの。

漁船、船主又はその両方に付与される、発行数が限定されたライセンス。

TURF:漁業に関する地域利用権

CQ:コミュニティ漁獲割当

単一の利用者(通常はグループ)に対する、海洋の特定の領域の割当。権利は、さらに、グループ内で割当てられる。

「漁業コミュニティ」に対する漁獲割当。コミュニティ内における権利の割当の決定は協同組合ベースで実施。しばしば、小規模漁業の伝統的アクセス権を公的なものにする形で用いられる。

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漁業・養殖業助言委員会(ACFA)は、1971年にEU委員会に対して漁業分野に関わる助言や

対話を促進する目的で設立され、現在は、生産や加工、貿易のみならず消費者、環境等について

対象としている。漁業資源へのアクセスと管理、養殖業、市場と貿易政策、経済分析の4つのワ

ーキンググループがある。

国際海洋開発理事会(ICES)は、1902年に創設され、デンマークのコペンハーゲンを拠点

とし、現在、世界 20 カ国から 1600 名の海洋科学者が参加し、北大西洋の生態系の調査を行なっ

ている。(EU The Common Fisheries Policy A User’s Guide)

資源対象魚種は、現在 150 系群でEUの主要魚種は全てカバーしている。ICESの資源評価

および科学的助言は、ベンチマーク・ワークショップにおいて、資源評価に用いるデータ、生物

学的仮説、分析モデル、分析内容などの意思決定を行うことから開始される。

このベンチマーク・ワークショップには、ICESのクライアントであるEU当局等のほか、

産業代表、ICES加盟各国の研究者、ICES以外の国の専門家(議長を務める)などが参加

している。ここで、資源評価に使用するデータの信頼性(漁場利用、投棄情報など)については

漁業者の意見を参考にしている。(2010 船本氏、牧野氏)

資源評価の方法は、評価方法は我が国で行われている方法と大差はない。ABC(期待漁獲量)

野算定も同様である。1)資源状態の評価、2)管理目標の設定、3)管理基準の設定(Blim、

Bpa、Flim、Fpa、Ftarget、Fmax、F0.1、Fmed 等)、4)推奨するFとそれに対応する期

待漁獲量(ABC)、およびFのオプションの提示、という流れになる。これらは Short-term

implicationsとして数年のスケールでの管理目標として使用されるが、中長期および気候変動に

対応した長期の管理方策が提示される場合もある。

通常の資源解析の他に、環境変動との関係、生態系の中での評価、データと解析手法の改善法、

漁業者からの情報の質についても、各魚種の報告書の中で議論されている。

関係者によれば資源診断結果から期待漁獲量(ABC)を導くための書かれた規則はないという。

ただし、ガイドラインはある。1)寿命の短い資源:十分な産卵親魚量を確保できるような予防

的措置を考慮した期待漁獲量を設定する。音響調査の結果を重視する。2)寿命の長い資源:M

SYやエコシステム・アプローチが参考となる。MSYは混合魚種を獲る漁業の管理には問題が

あるという点が最近認識されるようになった。評価結果については、HP、地域助言理事会(RA

C)への説明会を通じて公開されている。(2010 船本氏、牧野氏)

なお、上記の点について、「ICESは、一般にBlim(資源量がそれ以下に下がるのは望まし

くないある水準の閾値)の数値を絶対基準(いかなる費用がかかっても或いは便益の現時点の喪

失がいかに大きくとも資源水準をこの水準以下にならないように管理することが要請される基

準)として考えているようである。また、ICESは、不確実性に対する予防的措置と称してB

lim の 1.5から 2倍の資源量の水準をBpaとし、管理基準としている。しかし、Bpaなるものは

本来要注意点であって規制基準ではない。」という批判もある。(2009 岩橋氏)

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④加盟国の施策 スペイン(Spain)

EU加盟国のうち、漁業生産量、漁業就業者数等面で最大の漁業を持つことから、スペインに

ついて概観する。

a)主な社会指標

・海岸線延長 :4.9千 km

・面積 :506千 km2

・総人口 :40,847千人

・就業人口総数 :20,258千人 うち、農業、漁業、林業 48千人(2008)

・国内総生産 :1,604,223百万米ドル(2008)

・自給率 :穀類 50.6%、魚介類 48.8%(2005)

b)社会的特性

スペインは立憲君主国。国王が国家元首であり、その主要な役割はスペイン憲法に従い各機構

が万全に機能することを総覧し調整することにある。同様に、行政、立法、司法権の主要な役職

者の任命を承認することである。1978年のスペイン憲法は基本人権と自由権を確立し、国会(Las

Cortes Generales)に立法権を、政府(el Gobierno de la nación)に行政権をそして裁判官と司

法官に司法権を委任している。

スペインには 17の自治州があり、各自治州はひとつあるいは複数の県から成り立っている。そ

れに加えてきたアフリカにあるセウタとメリアの両自治都市がある。県の総数は 50に上る。各自

治州は憲法により与えられた権限を執行するが、具体的には自治憲章に謳われている。この自治

憲章には更に自治州の制度の機能が明確化されている。

具体的には、通常は自治州議会、これは自治州に適用される条例を決める権限をもち議員は普

通選挙で選出される。自治州政府は行政執行機関であり、自治州議会で選出される州知事が司り

自治州の最高代表権限者である。上級裁判所が自治州の司法権を司る。各自治州には中央政府に

より任命される政府代表者がおり中央政府を各自治州ごとに代表し各自治州との調整を行う。各

自治州は財政面から見ると独立しているが、中央政府の予算から交付金も受領している。

(以上、スペイン大使館HP)

c)漁業の概要

スペインでは伝統的に漁業生産も盛んであり、著名なパエリアを始め、水産物消費もポルトガ

ルに次いで 41.2 kg/年(2005 FAO。世界平均 16.4kg、日本平均 61.2kg)と高い。

産業面においても漁業は常に最も重要な活動の一つ。EU諸国の中で最大の漁業人口を誇り、

世界でも最も主要なスペインの漁業界は、漁業製品の質はもとより、安全性や競争力を高めるた

めに、漁法や技術の面において常に改良を進めており、その一方で漁業資源や環境の保護にも取

り組んでいる。16,000隻以上の漁船と 80,000人以上の漁師は1万トンを超える魚介類を捕獲し、

その内の大半は、そのままであるいは冷蔵、冷凍されて数々の国に輸出される。

豊かで海水の暖かい海岸線沿いでは、沿岸漁業が数々の小さな村落の主要財源となっている。

ここでは、長年に渡る伝統と経験が最新の技術や品質管理分配システムと結び付いている。遠洋

漁業は、EUの最も主要な漁場やアフリカの大西洋沿岸、单アフリカの单端、および大西洋北東

部でもみられる。スペインは約 50万トンの魚介類を輸出しており、その半分以上は冷凍魚介類で

ある。

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水産加工業については、INE(国家統計庁)のデータによると、魚介類および魚介類をベー

スにした製品の加工および缶詰業務に従事する企業は、合計 782 社存在している。但し、その中

のかなりの割合が、自営業もしくは零細企業である。 そのため実質的な業務を行っている企業は

(加工のみの業者を含め)、147 社。 まだ企業統合の余地は残されているものの、細分化された

業界ではない。大手缶詰製造グループは、原料供給との垂直的統合を行っており、養殖マーケッ

トに参入している。最大手企業 3社が、スペインにおけるこの分野の生産量の 90%を占めている。

魚介類缶詰加工品産業は、ガリシア州に集中している。

(以上、スペイン大使館HP)

d)水産施策

行政的には、農水食料省(Spanish Ministry of Agriculture, Fisheries and Food)が所管し

ている。

○海洋保護関連

海洋保護法が 2011 年より発効され、水産資源の持続可能な開発を目指し海洋保護区を設置し、

調査研究、取締船による監視等を行っているほか、タラ(cod)漁に対する検査官による査察やモ

ニタリング、ICCAT(大西洋マグロ)の保全のための復旧計画への協力等、水産資源保護や

海洋環境保全に対して積極的な姿勢を持っていることが伺える。

なお、この様な保護活動だけではなく、人工漁礁の設置による積極的な水産資源と生態系の保

護を図る施策を掲げている点は特徴的である。

図2-8 スペイン国内の海洋保護区

○養殖業振興

養殖業振興についても積極的で、養殖のための国立諮問委員会は(JACUMAR)を 1984年

より設置し、中央政府と自治コミュニティ間の連携を図りながら、多くの国家プロジェクトに取

組んでいる。

プロジェクトは、対象地域において共通の課題があり、尐なくとも 3 つの自治区の参加が見込

まれることが条件となっている。採用後、作業部会を設置、大学、研究機関、民間企業の協力を

得ながらの活動し、年次進捗報告書及び最終報告書による評価を受ける流れとなっている。最近

(2005年以降)では、タコ、ウニ、ムール貝、アワビ等における生息環境等の解明や養殖の効率

化、統合された養殖システム、養殖魚の品質評価等 23のプロジェクトが計画、実施されている。

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○水産加工業振興

スペインの水産加工業は、マグロ、イワシ、サバ等の缶詰加工品を中心とし、2007 年で 33 万

6,292 トン(金額にして 12 億 5,470 万ユーロ)、合計 782 社(多くは自営業もしくは零細企業)

の規模となっている。生産量の半数がイタリア等EU諸国を中心に輸出されている。また、最大

手企業 3 社が、生産量の 90%を占めている状況となっている。

こうした水産加工業に対しては、スペイン貿易庁(ICEX)が、「ガリシア・ムール貝産業プ

ラン」、「ガリシア養殖産業プラン」、「カナリア諸島養殖産業プラン」といった産業支援を実施し

ている。

○資金援助

水産業への資金援助については、EFFの活用のほか、07年に漁業や養殖業の多様化支援資金

(Fondo de Apoyo a la Diversificación del Sector 10 年までに総額 21 百万ユーロ)等も活

用されている。多様化支援基金は、漁業と養殖業に関連して、多様化、加工、マーケティング、

改善および革新のためのプロジェクトを提出する企業となっている。

○水産分野の女性ネットワーク

漁業分野における機会均等の達成を目指し、女性の役割の強化をサポートするため、ベストプ

ラクティスの交換や様々な活動の支援を行っている。

○水産物の品質管理

EU諸国への輸出を念頭に水産物の品質管理(養殖業における認証制度、加工業におけるHA

CCP、トレーサビリティ等)に対し、ガイドラインの策定等積極的な支援を実施している。

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(主な参考文献)

1)全般

・新版 世界の地方自治制度 竹下譲監修 イマジン出版(2002)

・総務省統計局 世界の統計 http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.html

・各国の海洋政策の調査研究報告書 シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所(2004)

・日本と欧米における漁業政策の動向 衆議院調査局農林水産調査室(2009)

・世界の水産資源の動向と資源管理 岩崎寿男 水産社(2009)

・水産振興 第 510号 担当者が語る水産の動向 大橋貴則 財団法人 東京水産振興会(2010)

・世界の料理 http://www.e-food.jp/

・各国漁業担当省HP、基本法関係

・各国大使館HP

2)各国別

①アメリカ合衆国

・海洋大気庁(NOAA)HP http://www.noaa.gov/fisheries.html

・アラスカシーフードマーケティング協会(ASMI)HP

http://japanese.alaskaseafood.org/

②カナダ

・カナダの経済 加勢田博編 昭和堂(2001)

・水産振興 第 513 号 カナダ・ニューファンドランドの漁業と漁業管理 東村玲子 財団法人

東京水産振興会(2010)

③オーストラリア

・Looking to the Future: A Review of Commonwealth Fisheries Policy

Department of Agriculture Fisheries and Forestry(2003)

・The FishBookⅡ Department of Agriculture Fisheries and Forestry(2006)

④ニュージーランド

・ニュージーランドの地方行政改革 自治体国際化協会(1996)

‘COMPARATIVE STUDY ON LOCAL GOVERNMENT REFORM IN JAPAN,AUSTRALIA AND NEW ZEALAND’の

うち、オークランド大学公共経営研究センターのブルース・アンダーソン(地方行政担当ディ

レクター)及びオークランド市のケルビン・ノーグロブ(戦略政策アナリスト)の両氏が共同

執筆した‘LOCAL GOVERNMENT REFORM IN NEW ZEALAND 1987-1996’の部分を翻訳・監修したも

の。

・ITQ制度導入後のニュージーランド漁業界の変遷 大西学 政策科学(2002)

・Statement of Intent Ministry of Fisheries (2010)

・イオンHP http://www.aeon.jp/kodawari/osakana/fishfile/natural/hoki_001.html

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⑤ノルウェー

・ノルウェーの経済 岡沢憲芙・奥島孝康編 早稲田大学出版部(2004)

※漁業については、松村氏、岡本氏

・ノルウェー水産物輸出審議会HP http://www.seafoodfromnorway.jp/

・ノルウェー政府の漁業管理制度に伴う漁業改革の実効性 丹羽弘吉(2009)

・ノルウェーの漁業 在ノルウェー日本国大使館(2010)

・Norway’s experience with ITQs Rögnvaldur Hannesson (2009)

・The Long and Winding Road:Norway’s Approach to ITQs Rögnvaldur Hannesson (2007)

・Norwegian fisheries management

Norwegian Ministry of Fisheries and Coastal Affairs(2007)

・Strategy for Environmentally Sustainable Norwegian Aquaculture Industry

Norwegian Ministry of Fisheries and Coastal Affairs(2007)

⑥アイスランド共和国

・The Ocean Ministry for the Enivironment

Ministry of Fisheries

Ministry for Foreign Affairs (2004)

・Close to the sea Ministry of Fisheries (2005)

⑦欧州連合

・拡大EU : 機構・政策・課題 岩城他 国立国会図書館調査及び立法考査局(2007)

・EC共通漁業政策の政治的問題点と今後の展望 稲本守(2008)

・The Common Fisheries Policy A User’s Guide(2009)

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