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CS メルマガ 2020 年 05 月号
<医薬品> 1)Cell Chemical Biology. Article | Online Now. Published:March 19, 2020 | DOI:
https://doi.org/10.1016/j.chembiol.2020.02.007 ◆結核菌 KasA を標的とする前臨床候補薬 JSF-3285 の開発
多剤耐性結核菌(MDR TB:抗結核薬イソニアシド(INH)とリファンピシン
(RIF)に対する潜在性結核菌の耐性に基づいて定義される)を治療する新しい新
規抗菌薬の開発は、高い医療ニーズのある分野である。現在の結核治療法は、長期
間に渡る多剤併用療法に依存し、副作用と毒性を伴うものである。従い、副作用と
治療期間を短縮する新しい結核薬の開発は、患者の転帰を改善する可能性がある。
結核菌細胞壁の脂質成分であるミコール酸は、結核菌の生存に必須な構造因子であ
り、その合成には結核菌 β-ケトアシル-ACP 合成酵素(KasA)が作用している。従
い、KasA を阻害する多くの薬剤が開発されているが、開発中の KasA 阻害剤は、十
分な効力、及び/又は、薬物動態特性を欠いてるのが実情であった。今回、米国、
Rutgers 大学の研究者らは、200 を超える化合物構造ベースの薬物設計プログラムを
通じて、前臨床候補薬 JSF-3285 を開発したことを報告した。同研究者らは、構造ベ
ース手法を利用して、既存の KasA 阻害剤 DG167(Glaxo 社の開発化合物)を最適
化したものである。最適化により、インダゾール骨格を有する JSF-3285 は、マウス
の血漿曝露を 30 倍増加させたこと、そして、JSF-3285 は、急性マウス感染モデル
と対応する慢性感染モデルで十分な活性を示し、1 日 1 回 5mg / kg という経口低用
量でコロニー形成単位を効果的に減少させ、第一選択薬である INH、又は、RIF の
有効性を凌いだことを報告した。(DG167 のアルキル鎖末端にフッ素を付加しただ
けで、JSF-3285 は、マウス毒性、hERG 阻害、CYP 阻害、Ames 変異原性、マウス/
ヒト血漿安定性、及び、タンパク質結合性といった重大な問題を回避することが可
能になり、臨床候補薬として期待できるとは、フッ素原子の役割は驚きである…)
2)J. Med. Chem., Article ASAP. Publication Date:March 4, 2020 | DOI:https://doi.org/
10.1021/acs.jmedchem.9b01928 ◆再発性、及び、難治性多発性骨髄腫治療の CRBN E3 リガーゼ調節剤 CC-92480 の開発
多発性骨髄腫(MM)の多くの患者は、最初に免疫調節剤(レナリドマイドとポマリド
マイド)とプロテアソーム阻害剤を含む現代の併用療法による治療が行われるが、一部
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の患者は、該併用療法に対する初期応答に欠けており(所謂、難治性多発性骨髄腫であ
り)、MM 患者の平均生存率は、近年、倍以上になっているが、殆どの患者は最終的に
再発する。今回、米国、Celgene Corporation の研究者らは、この再発を防ぐ必要性に対
処するために、再発性、又は、難治性の多発性骨髄腫(RRMM)患者治療のために、新
規のセレブロン E3 リガーゼ修飾因子(CELMoD:サリドマイドや免疫調節薬の主要な
標的タンパク質として同定されたセレブロンは、リガンドの種類に応じて基質の認識が
変わるユビキチンリガーゼ複合体の構成タンパク質であり、多発性骨髄腫治療の主要な
標的タンパク質としてセレブロンが発見されている)に注目し、同研究者らは、分解効
率や反応速度など、分解の効力を超えた最
適化により、レナリドマイド耐性のある環
境で効果が得られる CC-92480 を発見した
ことを報告した。該剤は、新規なタンパク
質分解剤であり、効率的、且つ、迅速タン
パク質分解速度を有するために特異的に設
計された剤であり、臨床開発に入る初めて
の CELMoD であるとのことである。(CC-
92480 は、CC-885 の後継薬であり、サリド
マイド骨格(フタルイミド+グルタルイミ
ド)をベースに最適化した剤である…)
3)ACS Med. Chem. Lett., Article ASAP. Publication Date:March 23, 2020 | DOI:
https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.9b00591 ◆アロマターゼ酵素のオルソステリック部位とアロステリック部位の両方を標的とするデ
ュアルモード新規アゾール系抗乳癌薬 MCF-7 の開発 乳癌(BC)は、女性で最も頻発する癌種であり、女性の病気の中で 2 番目に多い死因で
ある。全 BC 症例の 70%を占めるエストロゲン受容体(ER)陽性乳癌(ER+BC)は、ネ
オアジュバント化学療法(NAC:術前補助化学療法と言われ、手術前に抗癌剤投与を行
う治療法のこと)に対する反応が悪いことで有名であり、効果的治療法は、アロマター
ゼ酵素(エストロゲン合成酵素)阻害、又は、その同族のエストロゲン受容体の変調を
介してエストロゲンを枯渇させる方法に依存しており、現在の臨床治療は、タモキシフ
ェン(Tamoxifen:アストラゼネカ社によって 1963 年に開発された非ステロイド性の抗
エストロゲン剤)を初めとした抗エストロゲン剤(SERM)投与が有効であり、比較的
治療効果が高く予後の良い乳癌患者の生存期間を大幅に延長しましたが、それにも拘わ
らず、長期治療を受けている転移性 BC 患者における耐性発症は、革新的治療法を緊急
に開発することを必要とし、現在の臨床的課題になっている。今回、イタリア国際先端
研究所の研究者らは、アゾール架橋キサントン類を設計・合成し、in vitro で、アロマタ
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ーゼ酵素と異なる(ER+/ER-) BC 細胞株の阻害テストを実施し、低 μM 範囲で活性があ
り、一つのアクセスチャネルに沿って配置された酵素のオルソステリック部位とアロス
テリック部位の両方を標的とするデュアルモード阻害剤として機能する MCF-7 を開発し
たことを報告した。MCF-7 は、選択されたステロイド系と非ステロイド系の抗エストロ
ゲン剤と比較して、鉄への配位とエストロゲン産生を調節するアクセスチャネルを利用
できる阻害剤となることを報告してい
る。(ER を標的とする抗エストロゲン薬
タモキシフェンは、一部の患者での長期
治療間に効果低減が見られることが問題
となっており、今回、開発された剤は、
デュアルモード阻害剤であり、更なる創
薬開発の一つの指針になるのでは…)
4)J. Med. Chem. Article ASAP. Publication Date:March 23, 2020 | DOI:https://
doi.org/10.1021/acs.jmedchem.0c00045 ◆結腸癌治療の経口的有効なスピロインドリノン系タンキラーゼ阻害剤 RK-582 の開発
タンキラーゼ(TNKS / TNKS2)は、テロメア蛋白質 TRF1 をポリ(ADP-リボシル)化
(RARP)し、これをテロメアから遊離させることにより、テロメラーゼのテロメア伸
長機能を促進することで、癌細胞は無限に増殖することができる。従い、これらの酵素
活性を阻害することは、癌の病因において重要な役割を果たす Wnt /β-カテニンシグナル
伝達を弱めることになる。理研の研究者らは、以前に、スピロインドリン骨格を有した
選択性の高い強力なタンキラーゼ阻害剤である RK-287107 の開発を報告したが、今回、
RK-287107 を最適化することで、経口投与した場合に、COLO-320DM マウス異種移植モ
デル(ヒト大腸癌細胞株移植モデルマウス)で著しく改善された堅牢な腫瘍増殖阻害を
示す RK-582 を見出したことを報告した。バイオマーカーAXIN2 と β-カテニンのレベル
の用量依存的な上昇と減衰に加えて、COLO-320DM マウスの TCF レポーター(Wnt に
反応するプロモーター)、及び、細胞増殖研究の結果を報告している。(テロメラーゼ阻
害剤によって、癌細胞のテロメア短縮が加速し、より早期に細胞老化と細胞死が誘導さ
れることから選択性の高い新たなタンキラーゼ阻害剤の開発は進んでおり、様々な癌を
対象とした新薬臨床試験が進行中である…)
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5)Nature Chemistry. Vol. 12, 353-362 (2020) | Published:13 March 2020 | DOI:https://doi.org/10.1038/s41557-020-0433-4
◆次亜ヨウ素酸塩触媒/過酸化水素系によるキノンメチドの化学選択的酸化生成法の開発
オルトキノンメチド類(o-QMs)は、有機合成(医薬品や機能性材料)における有用な
合成中間体と期待されているが、不安定であるために合成が困難であり十分に活用され
ていなかった。一般的な合成方法は、ベンジル位で事前に官能基化されたフェノール類
の酸触媒、又は、塩基触媒による変換によって、又は、対応するオルトアルキルフェノ
ール類の金属酸化剤、又は、遷移金属錯体による生体模倣酸化によって、in situ で生成
されいる。今回、名古屋大学院工学研究科有機・高分子化学専攻の石原 一彰 教授らの
研究チームは、略、中性条件下で次亜ヨウ素酸塩触媒と過酸化水素などの酸化剤を用い
て、オルトアルキルフェノール類から o-QMs を遷移金属なしで、酸化生成する方法を開
発したことを報告した。尚、該方法は、ワンポットタンデム反応(二つ以上の多段階反
応)とのことである。(今回、開発された化学選択的酸化 o-QMs 合成法は、環境問題と
なる金属を全く使用せず、副生成物は水と酸化剤由来のアルコールのみであり環境に優
しく、以前の方法より優れていることは明らかでると共に、各種のタンデム反応に適用
できるのでその応用範囲は広いものがあろう…)
6)Nature Chemical Biology. Article | Published:30 March 2020 | DOI:https://doi.org
/10.1038/s41589-020-0505-1 ◆哺乳類クリプトクロム(概日時計)に選択的に作用する化合物 KL101 と TH301 の発見
時計遺伝子(時計タンパク質)は、概日時計が働くために必要な遺伝子(タンパク質)
であり、哺乳類では 6 種類が知られており、特に、cryptochrome 遺伝子である CRY1 と
CRY2 遺伝子は、睡眠や覚醒など、様々な生理現象にみられる約 1 日の周期をもつ概日
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リズムを制御しており、その機能障害は代謝疾患をはじめ多くの疾患と関連している。
その為、概日時計の機能を制御する薬剤はこれらの疾患を治療する可能性を秘めている
が、現在まで、概日時計の中核を構成する時計タンパク質に直接的に作用する薬剤は殆
ど知られていなかった。今回、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所
(WPI-ITbM)の廣田 毅 特任准教授らの研究チームは、概日時計の周期を延長させる
新たな化合物 KL101 と TH301 を発見し、その作用機序の解明に成功したことを報告し
た。CRY1 と CRY2 は、アイソフォーム(高度に類似したタンパク質)であり、それぞ
れに選択的化合物の開発は困難とされていたが、同研究チームは、概日時計修飾物質の
表現型スクリーニングを実施し、KL101 は CRY1 を、TH301 は CRY2 を選択的に制御す
る KL101 と TH301 を特定したものである。そして、CRY–化合物複合体の結晶構造か
ら、CRY1 と CRY2 の間の化合物結合部位の不変を明らかにした。更に、CRY アイソフ
ォームに対する KL101 と TH301 の異なる効果に要求される結合ポケットの外側に無秩
序 C 末端領域が必要であることが化合物選択性の根底にある独特な機構を見出して報告
している。又、同研究チームは、CRY1 と CRY2 の代謝疾患関係に注目し、CRY1 と
CRY2 の両方を失ったマウスは、褐色脂肪細胞分化が起こりにくいが、KL101 と TH301
が、褐色脂肪細胞の分化
を促進する新しい役割を
発見したことを報告し
た。(今回の発見は、概日
時計変調による睡眠障害
を初めとする様々な疾患
や肥満の治療に向けた薬
剤開発のベースを提供す
るものであろう…)
7)C&EN, Vol,98, Issue 13, pp. 8 | April 6, 2020 / Nature. Vol. 580, Issue 7801, p. 76-80 (2020)
| Article | Published:01 April 2020 ◆アクリジンラジカル光還元触媒の発見と特性化
近年、温和な条件下での光触媒的ラジカル生成方法が数多く開発され、2 電子経路への
新しい合成手段が得られている。多くの酸化的 1 電子移動経路がこの目的で利用されて
いるが、還元的変換はあまり一般的ではない。光誘起電子移動(PET)は、電子移動反
応にエネルギー駆動力を使用する化学種による光の吸収による現象である。この機構
は、自然光合成と人工光合成、太陽光発電、感光性材料の研究を含む、多くの化学分野
に関連している。近年、光レドックス触媒分野での研究により、中性、及び、荷電有機
フリーラジカル種の両方の触媒的生成のための PET の使用が可能になった。該技術は、
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以前にはアクセスできなかった化学変換を可能にし、学術的、及び、工業的分野の両面
で広く使用されている。該反応は、しばしば、可視光を吸収する有機分子、又は、ルテ
ニウム、イリジウム、クロム、銅の遷移金属錯体によって触媒される。様々な閉殻有機
分子は、光レドックス反応において有能な電子移動触媒として振る舞うことが示されて
いるが、励起状態の供与体、又は、受容体として有機中性ラジカルを含む PET 反応の報
告は限られている。今回、米国、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者らは、
アクリジン光触媒が、光で励起されると元素状リチウムと同等の還元力を示すことを見
いだし、アクリジン光触媒の特性を評価すると共に、芳香族化合物の光脱ハロゲン化や
N-トシル化合物の脱保護(通常は溶解金属を要する反応)によってその還元力を実証し
たことを報告した。尚、この強力な還元力は、捩じれた分子内電荷移動種の形成によっ
て、高エネルギーの二重項励起状態を示すことによると報告している。(今回、発見さ
れた中性アクリジンラジカルの還元力は、元素リチウムと同等の還元力を示すもので、
最も強力な化学還元剤のラジカル種であり、この触媒的生成 PET 触媒は、通常、アルカ
リ金属還元剤を必要とする幾つかの化学反応を促進し、金属還元剤の溶解を必要とする
他の有機変換反応で使用できると共に、様々な電子材料としての応用が考えられるので
は…)
8)ACS Med. Chem. Lett., Article ASAP. Publication Date:March 31, 2020 | DOI:
https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.0c00063 ◆臨床的に実行可能で強力な選択的 RORγt 受容体逆作動薬 BMS-986251 の発見
米国、BMS 社の研究者らは、新規な三環類似体を設計・合成して、RORγt 受容体逆作動
薬(レチノイン酸受容体関連オーファン受容体 γt:インターロイキン 17(IL-17)を産
生するヘルパーT 細胞である TH17 細胞の分化に不可欠であり、該受容体に結合し恒常的
活性を減弱させる薬)として評価した結果、これらの化合物の幾つかは、IL-17 ヒト全
血アッセイ(最も広く使用されているサイトカイン放出アッセイ(CRA) のひとつで、健
康な被験者から採取した免疫細胞を利用した in vitro 評価で、サイトカインストームを誘
発するかどうかを見極める評価法)で有効であり、そして、マウスの薬物動態研究で優
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れた経口投与可能性を示した。この事は、マウス IL-2 / IL-23 刺激薬力学モデル(IL-2 /
IL-23 は、炎症性反応を惹起する IL17F を産生する)で IL-17F 産生の用量依存的阻害を
示す化合物として BMS-986251 の同定に繋がったと報告した。更に、BMS-986251 は、
マウスの表皮肥厚症(表皮角化細胞の増殖によると表皮肥厚)皮膚炎症のイミキモド
(IMQ:ウイルス増殖抑制剤として開発された塗り薬であるが、マウス背部皮膚への
IMQ 連日外用により、乾癬様皮膚炎が誘導される)誘発乾癬モデルマウスで研究され、
陽性対照(すでに陽性の結果が出ること
が分かっている群)に匹敵する強力な効
果を示したと報告している。この優れた
全体的なプロファイルの結果として、
BMS-986251 が、臨床的に実行可能な開発
候補薬として選択されたと述べている。
(RORγt 拮抗薬の開発は各製薬会社で行
われており、どの薬剤が抜き出るかに関
心が集まっている。又、これら薬剤は自
己免疫疾患の治療に使える可能性がある
ので注目したい…)
9)Nature Chemical Biology. Article | Published:06 April 2020 | DOI:https://doi.org/
10.1038/s41589-020-0506-0 ◆ダブルコルチン(Doublecortin Like Kinase:DCLK1)遺伝子の選択的阻害剤 DCLK1-
IN-1 の発見 腫瘍(癌)には正常な組織の幹細胞と類似した性質を有する腫瘍幹細胞が存在し、腫瘍
幹細胞を供給し続けるモデルが提唱されている。これまで、腫瘍幹細胞のマーカーとし
て多数の候補が報告されてきたが、その多くは同時に正常な組織の幹細胞のマーカーで
もあり、癌治療に際し、これらのマーカーを標的として場合、腫瘍(癌)のみならず正
常組織にも重大な障害をもたらすことが予想されるため、腫瘍幹細胞を標的とする治療
は困難であった。最近、ダブルコルチン(Doublecortin:DCX)ファミリー遺伝子である
DCLK1 遺伝子が、膵管腺癌(PDAC)を含む様々な癌で上方制御されることが明らかに
されてきているが、治療標的としての可能性については殆ど知られていなかった。今
回、米国、ハーバード医科大学とダナ・ファーバー癌研究所の研究者チームは、DCLK1
に着目し正常な腸管と腸腫瘍において幹細胞マーカーになりうるかを細胞系譜解析によ
り DCLK1 は、正常腸管において幹細胞マーカーとはならず、腸腫瘍においてのみ幹細
胞マーカーとなることを明らかにし、化学プロテオミクスプロファイリング(薬剤の結
合タンパク質を同定する方法)と SBDD(タンパク質立体構造情報に基づく薬剤設計)
を使用して、DCLK1 キナーゼドメインの選択的で生体内互換性のある化学プローブ
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DCLK1-IN-1 を開発したことを報告した。同研究者チームは、臨床的に関連する患者由
来の PDAC オルガノイドモデル(3 次元的に試験管内で
作られた臓器)に対する DCLK1-IN-1 の活性を明らかに
し、そして、RNA 配列解析、プロテオミクス解析、及
び、リン酸化プロテオミクス解析の組み合わせを使用し
て、DCLK1 阻害作用が、タンパク質と細胞運動に関連す
る経路を調節することを明らかにした。(DCLK1-IN-1
は、DCLK1 が正常な腸管と腸腫瘍におけるそれぞれの幹
細胞を区別するマーカーであることを示しており、
DCLlK1 に陽性を示す腫瘍幹細胞を標的とすることが、
今後の癌治療において極めて有効な方法である可能性が
示されたものでる…)
10)大学ジャーナル ONLINE. 2020 年 04 月 21 日 / PNAS first published April 10, 2020 |
DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.2000278117 ◆名古屋大学、冬季鬱様行動を改善する薬剤セラストロールを発見
高緯度地域(北欧やカナダ)では、人口の約 10%が冬季鬱病(冬になると気分が落ち込
む病)に苦しんでおり、深刻な社会問題になっているが、その根本的な機構は不明のま
まであった。興味深いことに、動物も冬になると鬱病様行動を示し、小さな硬骨魚(例
えば、メダカ)は、夏のメダカは社交性(他個体に興味を示し集団行動をとる)を示す
が、冬のメダカは社交性が低下してランダムに泳ぐので、複雑な脳障害研究のための強
力なモデルとして浮上していた。今回、名古屋大学、藤田医科大学、及び、マンチェス
ター大学の研究者チームは、メダカの全脳メタボローム解析(生体内に存在する代謝産
物を網羅的に解析する方法)によって、鬱病に関連する神経伝達物質や抗酸化物質を含
む 68 種類の代謝産物の季節変化が明らかにすると共に、トランスクリプトーム解析
(シークエンス解析によって DNA 配列上で遺伝子と推定された部分について細胞レベ
ルで mRNA 量を測定・解析して生体細胞内における遺伝子の発現状況を網羅的に把握す
る方法)によって炎症マーカー、メラノプシン、概日時計遺伝子など、3,306 種類の異
なる転写産物を特定し、更なる分析により、核因子赤血球由来 2 関連因子(NRF2)抗酸
化経路を含む、鬱病に関与する複数のシグナル伝達経路の季節変化を明らかにした。そ
して、既存薬ライブラリーのスクリーニングにより、メダカの冬季社会性低下を回復さ
せる薬として漢方薬(タイワンクロヅルの根を加工した生薬である雷公藤)の有効成分
であるセラストロールを見出したことを報告した。(セラストロールは、抗炎症作用や
抗癌作用を持つことが知られている薬であったが、今回、該薬が中枢神経系にも効果を
有することを見出したものである。脳の高次機能はヒトとメダカでは大きく異なってい
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るので、今回の結果が直ぐに適用できるかは疑問である
が、少なくとも今回の成果は、冬季鬱病の機構の理解と
創薬開発に繋がる可能性を秘めていよう…)
11)Organometallics. Vol. 39, Issue 6, p. 856-861 (2020) | Publication Date:February 24,
2020 | DOI:https://doi.org/10.1021/acs.organomet.0c00028 ◆単純なフッ化アシルをフッ素化試薬として複雑なフッ化アシル類を得る方法の開発
フッ素を含む有機化合物は医薬や農薬などの幅広い機能性材料に活用されているが、現
在フッ素源として用いられる化合物は毒性や腐食性が強いため、取り扱い易く反応性の
高いフッ素化剤の開発が要望されていた。今回、東京理科大学理工学部先端化学科の坂
井教郎教授らの研究チームは、単純なフッ化アシルと酸無水物間のパラジウム触媒
(Pd(dba)2/DPPB)によるアシル交換反応によって複雑で付加価値の高いフッ化アシル類
を生成する方法を開発したことを報告した。該方法では、単純で市販のフッ化アシルと
フッ化ベンゾイルをフッ化物源として使用することで、より複雑な各種のフッ化アシル
化合物類を簡単、且つ、効率的に調製することができる。尚、該反応は、パラジウム中
心での可逆的なアシル C–F 結合開裂/形成を介して進行するとのことである。(今回、開
発された方法は、フッ化アシルをフッ素源として利用でき、酸無水物との間にアシル交
換が可能になったことで、酸無水物を選択することで、より付加価値の高いフッ化アシ
ル化合物類が合成可能になるので、創薬開発に威力を発揮することが期待できるのでは
…)
12)日本経済新聞. 2020 年 04 月 16 日/ JACS. Articles ASAP. Publication Date:April 11,
2020 |https://doi.org/10.1021/jacs.0c02839 ◆早大、エステル化合物の脱酸素型カップリング反応の開発に成功
早稲田大学理工学術院の山口潤一郎 教授らの研究グループは、芳香族エステルと有機
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リン化合物とをパラジウム触媒と温和な還元剤(蟻酸ナトリウム)と共に反応させるこ
とで対応するベンジルホスフィン化合物を得る“脱酸素型カップリング反応”の開発に
世界で初めて成功したことを報告した。該反応は、芳香族エステルをベンジル化試薬と
して機能させるもので、全く、新規な反応であり、フェニルエステル類、配位子として
電子リッチなジホスフィン(dcype:1,2-Bis(dicyclohexylphosphino)ethane)を、水素源と
しての蟻酸ナトリウムを使用することがこの反応の鍵である。又、アリールカルボン酸
類は、(Boc)2O を添加剤として使用することでこの反応に適用できること、Pd/dcype 触
媒は、エステルのアシル C–O 結合を活性化し、蟻酸ナトリウムによる還元を促進する働
きを示すことを報告している。(今回、開発された方法は、従来のベンジル化剤である
ハロゲン化合物と比較して環境負荷が少ないというメリットはあるが、今の所、有機リ
ン化合物との反応に限定されていること、反応温度が 150℃と高く、又、反応時間が
12h と長いのが欠点とも云えるので、これらの欠点を無くす手法が更に開発されること
を期待したい…)
13)New England J Medicine. Vol. 382, No. 16, p. 1497-1506 (2020) | DOI:10.1056/
NEJMoa1911772 / Science. Latest News. April 15, 2020 ◆統合失調症の治療のための D2 受容体に結合しない薬剤 SEP-363856 の同定と評価
統合失調症の生物学的根拠は依然として謎のままですが、研究者たちは患者の幻覚と妄
想を過剰な化学的メッセンジャーであるドーパミンに関連付け、ドーパミンシグナル伝
達を阻害するために、既存の抗精神病薬は、D2 と呼ばれるニューロンのドーパミン受容
体の一種に結合することで、統合失調症の陽性症状である異常な知覚や思考の制御に有
効であるが、これらの薬剤は、認知障害、又は、モチベーション欠如、鈍感情、及び、引
き籠り等の社会的離脱に対処するために多く服用することができない。これらの陰性症
状は、しばしば最も壊滅的なものになり、最も極端な場合、患者はロボットのようになる
と言われている。第二世代の薬も一部のリスクを軽減したが、多くは体重増加やその他の
代謝問題を引き起こすものであった。今回、大日本住友製薬株式会社の完全子会社である
サノビオン社(Sunovion Pharmaceuticals Inc.)は、D2 受容体に作用しない新世代の統合失
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調症薬の開発を目指し、何百万もの候補化合物を投与されたマウスの行動を人工知能で
分析する薬物スクリーニング法を駆使して、SEP-363856 を同定したと報告した。臨床試
験において、統合失調症の初期経過患者を対象に SEP-363856 の効果を試験した結果、急
性精神病の症状で 2 回以上入院した人はおらず、PANSS 評価尺度(陽性・陰性症状尺度:
30 項目の症状において、その重症度を 1~7 で評価する方法)を使用して、統合失調症の
幅広い症状を評価した結果、研究に参加した参加者の
平均スコアは約 100(合計点は 30~210 点の範囲とな
り、点数が高くなるほど重症度が高いこと示す)でし
たが、4 週間後、薬剤群の平均スコアはプラセボ群の
9.7 に対して 17.2 ポイント低下したとのことである。
(今回の試験結果での PANSS 尺度の低下は、既存薬
の結果と略同等であり、懸念された副作用も低く、体
重増加も認められなかったことから、D2 受容体結合
回避薬として期待したい…)
<電材関係> 1)J. Am. Chem. Soc., Vol. 142, Issue 10, p. 4714-4722 (2020) | Publication Date:February
12, 2020 | DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.9b12205 ◆優れた発光特性を有する軸性不斉多環芳香族炭化水素(PAH)の触媒的エナンチオ選択的合成法の開発 不斉多環式芳香族炭化水素(PAH:polycyclic aromatic hydrocarbons)は、そのキラリテ
ィーと拡張 π共役系により、通常とは異なる物理的性質(光学特性である円偏光発光特
性)を持つことから不斉認識剤や有機半導体(次世代 3D ディスプレイへの応用)とし
て有望な化合物である。従って、軸性不斉 PAH 合成の効率的な方法が強く望まれてい
た。不斉触媒を用いて不斉 PAH を合成する方法が開発されているが、この合成法では、
螺旋状不斉 PAH のみに限られいた。今回、早稲田大学大学院先進理工学術院の柴田 高
範 教授と近畿大学大学院総合理工学研究科の今井 喜胤 准教授らの研究チームは、軸
性不斉を有する PAH のエナンチオ選択的合成法を開発したことを報告した。具体的に
は、ビフェニレンの置換基部位に金属と相互作用をするアルキン部位を導入することで
C–C 結合の位置選択的開裂による、ベンゾ[b]フルオランテンベースの軸方向キラル PAH
の触媒的エナンチオ選択的合成を優れた収率とエナンチオ選択性(> 99%、> 99%ee)
を報告した。 連続的な環化は、2 つの不斉軸を持つ多環式 PAH を提供でき、得られた
不斉 PAH は、高ε値(最大ε= 8.9×104)、量子収量(最大Φ= 0.67)、円偏光発光
(CPL)特性(| ɡllum | =最大 3.5×10–3)を持っているとのことである。(今回、開発された合成分子は優れた発光特性を有するものであり、次世代の 3D ディスプレイなどへ
の応用が期待されてる他、新規な有機反応への展開や、更なる PAH の研究に発展を齎す
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ものと言えよう…)
2)Chem. Article | Online Now | Published:April 17, 2020 | DOI:https://doi.org/10.1016/
j.chempr.2020.03.021 ◆非常に安定したアントラキノン系負電界質の開発
電力事業者規模のエネルギー貯蔵用のレドックスフロー電池(RF:二次電池の一種で、
イオンの酸化還元反応を溶液のポンプ循環によって進行させて、充電・放電を行う電池
で、送電網で利用可能)において、レドックス活性有機分子を利用するには最も挑戦的
な 2 つの障壁(合成コストと長期安定性)があった。今回、米国、ハーバード大学工学
応用科学の研究者らは、潜在的に安価な 9,10-ジヒドロアントラセンから、2 つの非常に
安定したアントラキノン負電解質、DPivOHAQ (3,3 '-(9,10-アントラキノン-ジイル)ビ
ス(3-メチルブタン酸)と DBAQ(4,4 '-(9,10-アントラキノン-ジイル)ジブタン酸を開発した
ことを報告した。pH 12 で、フェロシアン化物陽電解質と組み合わせることで、
DPivOHAQ と DBAQ は、各々、1 日当たり 0.014%と 0.0084%の容量損失速度で 1.4M と
2M 電子を輸送することが可能で、1.0 V の開路電圧を示したことを報告した。支持電解
質を pH 14 に調整することにより、DPivOHAQ は、年間 1%未満という記録的な低容量
損失速度を示しました。これらのフロー電池の容量損失は、主に、電解質の pH を上げ
ることで抑制でき、空気に晒すことで元に戻せるアンスロン(Anthrone)の形成による
ものであることを明らかにした。(電解液は、起電力、溶解度が大きく、安価で、水素
発生や酸素発生といった副反応がすくない安定性が望まれてた。レドックス系としては
金属イオン系の代わりに有機系化合物であるアントラキノン類を負極電解液に用いる研
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究が盛んに行われており、TEMPO やメチルビオローゲンを使用する例も報告されてい
る。今回、開発されたアントラキノン系化合物は安定性が一段と優れており、この系は
電位制御などの分子設計自由度が大きいので、更なる発展が望めるのでは…)
以上