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澱粉の酵素分解 誌名 誌名 応用糖質科学 ISSN ISSN 21856427 著者 著者 殿塚, 隆史 巻/号 巻/号 8巻4号 掲載ページ 掲載ページ p. 267-275 発行年月 発行年月 2018年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

澱粉の酵素分解ミリーは番号がそれぞれGH13, GH14, GH15と連続して おり,これらの酵素の研究で得られた成果は,澱粉分解酵 素のその後の研究の基盤となったことがわかる.

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Page 1: 澱粉の酵素分解ミリーは番号がそれぞれGH13, GH14, GH15と連続して おり,これらの酵素の研究で得られた成果は,澱粉分解酵 素のその後の研究の基盤となったことがわかる.

澱粉の酵素分解

誌名誌名 応用糖質科学

ISSNISSN 21856427

著者著者 殿塚, 隆史

巻/号巻/号 8巻4号

掲載ページ掲載ページ p. 267-275

発行年月発行年月 2018年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 澱粉の酵素分解ミリーは番号がそれぞれGH13, GH14, GH15と連続して おり,これらの酵素の研究で得られた成果は,澱粉分解酵 素のその後の研究の基盤となったことがわかる.

応用糖質科学第 8巻第4号 (2018) ◆ 267◆

流潮<

の2

の研

そ粉≫

。澱粉の酵素分解

ー研究の歴史的背景から

最近の話題まで一

殿塚隆史(とのづかたかし)

東京農工大学大学院農学研究院 教授

1. はじめに

澱粉は, D-グルコースによって構成される多糖であり,

a-1,4—グルコシド結合で重合した鎖の部分,および,とこ

ろどころに存在する a-1,6—グルコシド結合によって枝が分

岐するという構造である.このように澱粉はグルコースの

みで構成されることから,澱粉に作用する酵素の分類は比

較的単純であると思われがちである.また,澱粉を基質と

し加水分解を行う酵素はアミラーゼという名称であるが,

このアミラーゼという酵素名は有名なので,アミラーゼす

なわち澱粉を分解する酵素とも思われがちである. しかし

ながら,実際には澱粉分解酵素は多種多様で,酵素名にア

ミラーゼを含むもの以外にもさまざまな酵素が澱粉を分解

する.

本総説は,谷口による 2011年の総説])の続編として執筆 (a)

したものである.この 2011年の総説は主要な酵素を解説

した大変優れたものであるが, これと同じコンセプトで書

こうとしても,現在では澱粉分解酵素は多様すぎて酵素を

列挙して解説するのは難しくなってしまったそこで,こ

こでは澱粉を分解する酵素の研究において重要な考え方に

ついて解説した日本語の総説には優れたものが多くあり (b) 本総説中に紹介するので,それらとあわせて読んでいただ

ければ,澱粉分解酵素についての理解が一層深まるものと

期段階においては知られている酵素が少なかったため,こ

れらの事象が一緒に扱われていたという経緯がある.保持

型酵素と反転型酵素については,その後分子レベルの研究

手法が発展するにともない,糖質加水分解酵素はアノマー

保持型機構とアノマー反転型機構という 2つの反応機構に

大別され,その違いによるものであることが判明してい

る2-4)_

現在では,澱粉を分解する酵素はさまざまなものが知ら

れているが,主要な酵素として, a-アミラーゼ,~-アミ

ラーゼ,グルコアミラーゼ,枝切り酵素の 4つが挙げられ

る(図 1). これらの酵素は,澱粉分解酵素の研究の初期か

ら知られている酵素である.このうち, a-アミラーゼ,~­

アミラーゼ,グルコアミラーゼはそれぞれEC番号が

考えている.

2. 加水分解酵素のエンド型/エキソ型および反転型/保持型 (c)

反応様式による分類は,最も古くから用いられてきた方

法である.澱粉分解酵素の研究の初期においては,澱粉の

鎖をエンド (endo)型すなわち比較的ランダムに加水分解

するか,エキソ (exo)型すなわち鎖の末端から順々に加

水分解していくかという観点から分類された.これと並び

古くから用いられてきた分類として生成物のアノマーにつ

いて反転型 (inverting)か保持型 (retaining)かというもの

がある.すなわち,澱粉はグルコースが a-1,4—および a-

1,6—グルコシド結合で重合しているので,加水分解産物が

a—アノマーなら保持型, 13-アノマーなら反転型となる.酵

素がエキソ型かエンド型であるかということと,保持型か

反転型かということは,酵素の性質においては全く関係が

ない事象であるが特に 1950年代ぐらいまでの研究の初

(d)

図1. 澱粉に対する a—アミラーゼ(一例) (a), ~-アミラーゼ(b), グルコアミラーゼ(c),枝切り酵素(d)の作用の模式図

0, グルコース単位;ー, a-I,4-グルコシド結合;↓, a-I,6-グルコシド結合.太い矢印は加水分解する部位を示す. (a)は,エンド型酵素なので加水分解様式のあくまで一例である. (b),

(c)では非還元末端側から順々に加水分解が起こる.

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◆ 268◆

3.2.1.1, 3.2.1.2, 3.2.1.3と連続しており,また後述する

CAZyデータベースにおいてもこれらの酵素が属するファ

ミリーは番号がそれぞれ GH13, GH14, GH15と連続して

おり,これらの酵素の研究で得られた成果は,澱粉分解酵

素のその後の研究の基盤となったことがわかる.

1) a-アミラーゼ:多様な生物が生産する酵素であり, a-

1,4—グルコシド結合をエンド型かつアノマー保持型の反

応で加水分解する(図 l(a)).

2) pーアミラーゼ:植物や微生物由来の酵素が知られてお

り,澱粉の a-1,4-グルコシド結合を非還元末端側から

エキソ型で加水分解し,アノマー反転型の反応により

P-マルトースを生成させる. a-1,6-グルコシド結合およ

びその近くの a-1,4—グルコシド結合は分解できないた

め, P-アミラーゼで極限までアミロペクチンを分解す

ると, P-限界デキストリンが生成する5) (図 1(b)).

3)グルコアミラーゼ:糸状菌のものが古くから知られ研

究されてきた酵素で,澱粉の a-1,4—グルコシド結合お

よびa-1,6-グルコシド結合の両方をともに非還元末端

側からエキソ型で加水分解し,アノマー反転型の反応

により P—グルコースを生成させる(図 l(c)). ただし多

くのグルコアミラーゼでは, a-1,6-グルコシド結合に対

する活性は a-1,4—グルコシド結合に対する活性に対し

500~1,000分の 1ほどである列

4) 枝切り酵素:澱粉の分枝点に存在する a-1,6—グルコシ

ド結合を,アノマー保持型で加水分解する酵素である

(図 1(d)). 枝切り酵素は,多糖プルラン(図 2(a))の a-

1,6-グルコシド結合を分解できるプルラナーゼと,分解

できないイソアミラーゼに区別される.

なお,前述した谷口による総説ば),澱粉に作用する主

な酵素について解説している大変優れた総説であり,ぜひ

参照されたい.

3. 糖転移活性と aーアミラーゼファミリーの

概念

アノマー保持型酵素においては,酵素ー基質複合体に水

分子が攻撃すれば加水分解が進行するが,アルコールなど

の分子が攻撃すれば加水分解ではなく転移反応が進行す

る.実際には,酵素反応の際に水酸基を有する物質として

は多くの場合糖なので,糖が転移すなわち糖転移反応が進

行することになる.澱粉を基質とする代表的な糖転移酵素

がシクロデキストリン合成酵素で,通常略称で CGTaseと

呼ばれる.シクロデキストリン (CD) は環状の u-1,4—グ)レ

カンで,グルコース 6個のものを a-CD(図 2(b)), 7個の

ものを ~-CD (固 2(c)), 8個のものを y-CD(固 2(d))と呼

ぶ CGTaseば叫,4-グルカンに作用して CDを生成させ

る酵素である.

澱粉に作用する酵素を糖転移活性を基準に分類すること

は,それほど単純なことではない.なぜなら実際は

CGTaseは, u-1,4-グルカンの環状化反応のほか,アノ

_(ロ{e)

応用糖質科学第8巻第4号 (2018)

9,5§ぬ

(b)

怠 ◎◎(c) {d)

(f)~

図2. この総説に記載したさまざまな糖の構造

0, グルコース単位;—, a-1,4-グルコシド結合;↓, a-1,6-グルコシド結合; /, a-1,3-グルコシド結合. (a)プルラン, (b)a—シクロデキストリン (a-CD), (c)~ —シクロデキストリン(~­CD), (d) y—シクロデキストリン (y-CD), (e)イソマルト/マル卜多糖 (IMMP),(f)ロイテラン様多糖, (g)a-1,3-およびa-1,4—グルコシド結合で構成される分枝グルカン, (h) シクロアミロース.

マー保持型酵素として a—アミラーゼと同様の加水分解活

性を示すからである 7). 逆に aーアミラーゼと称する酵素で

も,糖転移活性の高いものが古くから知られていたま

た,これと似たような例として, a-アミラーゼと称する酵

素でも,例えば放線酋 Thermoactinomycesvulgarisの生産

するプルラン分解 a—アミラーゼのように a-1,6—グルコシド

結合を加水分解するものが報告されていたりこのような

中間的な性質を持つ酵素の位置づけは 1980年代前半に最

大の研究課題とされていたが叫遺伝子工学の普及に従っ

て, a-アミラーゼや CGTaseを始めとするこれら一連の酵

素は互いにアミノ酸配列が類似していることが判明した.

このような背景から,栗木らによって提唱されたのが a-

アミラーゼファミリーという概念である 10). この概念では

a—アミラーゼ, CGTase, プルラナーゼ,イソアミラーゼ

などの酵素は a-アミラーゼファミリーという 1つの酵素

ファミリーに属し,加水分解活性と糖転移活性や a-1,4—グ

ルコシド結合と a-1,6—グルコシド結合に対する活性は,明

確な境界があるのではなく遷移的であると結論された.こ

のaーアミラーゼファミリーの概念は,遺伝子工学が普及

し始めた頃に提唱され,その後の澱粉分解酵素の研究に大

きな影響を与えた画期的なものであるといえる.

4. CAZyデータベースおよび GHとCBM

遺伝子工学が普及してさまざまな酵素の一次構造が明ら

かになりさらに X線結晶構造解析により立体構造が明

らかになってくると,構造から酵素を分類する試みがなさ

れるようになった.糖質関連酵素において最も標準的な構

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澱粉研究の潮流〉〉その 2〈〈

造による分類は, Henrissatらによる Carbohydrate-Active

enzymes (CAZy; http:/ /www.cazy.org/)というデータベー

スである 3.1り最近の糖関連酵素の論文では,イントロダク

ションにまず CAZyデータベースで分類された番号を記載

することが常識となった本データベースでは,糖質加水

分解酵素で構造が類似した一連の酵素は GlycosideHydro-

lase familyの頭文字である GHとこれに番号が付いたファ

ミリーとして分類される例えば多くの心アミラーゼ,

CGTase, イソアミラーゼ,プルラナーゼは GH13と命名

されたファミリ ーに分類されている .Hemissatらは,当初

セルラーゼとヘミセルラーゼを分類していたが,糖質関連

酵素全体を対象にしたデータベースに拡張した大多数の

a—アミラーゼは GH13 , 大多数の 仕アミラーゼは GH14,

大多数のグルコアミラーゼは GHISに分類されている

その後 21世紀になるとゲノム解析技術は飛躍的に進歩

し,遣伝子工学技術が普及する前には全く知られていな

かった酵素が多数報告された澱粉に作用する酵素は GH

ファミリーの番号で 13, 14, 15, 31, 57, 70, 77, 97,

119, 126に分類されている(表 I). CAZyデータベースで

は各 GHファミリーについて類似したもの同士をグループ

にするものとして clanという概念があり, GH13, GH70,

GH77は互いに類似した CP/a),バレル構造を触媒ドメイ

ンとして有するという特徴から clanGH-Hとしてひとまと

めのグループとされている.a-アミラーゼファミリーの定

義には論争があるが(詳細は栗木による総説'0i),CAZy

データベースにおいてはこの clanGH-H が a—アミラーゼ

ファミリーであるとされている叫

以上に列挙した CAZyの GHファミリーは最も多い 5

万以上のタンパク質が分類されている GHl3から,数十の

タンパク質が分類されている GHll9などさまざまである.

特に GHl3は研究の歴史や数の多さから最も主要なファミ

リーであるので,酵素の構造を紹介する. GH13の標準的

な構造は, ドメイン A, ドメイン B, ドメイン Cと呼ば

れる 3つのドメインから成っている (図 3). ドメイン A

は , (p/a)s バレルとして構成され, P-ストランドと a—ヘ

リックスが交互に 8つ並んだ構造 (Pl, alから ps,a8ま

◆ 269◆

で)であり触媒残基として 2つのアスパラギン酸残基と

1つのグルタミン酸残基 (Taka-amylaseAにおける Asp

206, Glu230, および Asp297に相当する残基)が存在す

る. ドメイン C は C 末端側に存在し, ~-サンドイッチと

して構成される ドメイン Bは, ドメイン A の途中の ~3

から a.3の間に存在する小コンポーネントで, ドメイン A

(a) B

(b) B

(d) B

A

A

図3. GH13に属するいくつかの酵素の立体構造

(a) Aspergillus 0tyzae Taka-amylase A (PDB ID, 2TAA; GH 13 I) (b) B aci/lus circulansンクロデキストリン合成酵素(CGTase) (PDB ID, ICDG; GH13_2), (c) Klebsiella pneumoniae プルラナーゼ (PDBID, 2FHB; GH13_13), (d) Bacillus licheni-formis液化型心アミラーゼ (PDBID, IBLI; GHl3_5), (e) Bacil-!us subtilis糖化型心アミラーゼ (PDBID, !BAG; GH13 28). 各ドメインまたはサブコンポーネントは異なるグレーで示したA, B, C, D, E, NI, N2, N3, L2は,各ドメインまたはサプコンポーネントの名称である

表 1 CAZyデータベースにおけるi殿粉分解酵素 (2018年 6月)

GH/AA番号 主要な酵素の例 Clan 反応機構*触媒ドメイン

CAZy登録数のフォールド

GHl3 心アミラーゼなど多様 GH-H 保持型/異性化酵素 (13/a), 58,438 GHl4 仕アミラーゼ 反転型 (~/ a), 527 GHIS グルコアミラーゼ GH-L 反転型/保持型 (a/a). 4,623 GH31 a—グルコシダーゼなど多様 GH-D 保持型/脱離酵素 (~/ a), 7,991 GH57 4-aーグルカノトランスフェラーゼ 保持型 (~l a), 2,070 GH70 心グルカノトランスフェラーゼ GH-H 保持型 (!3/u), 527 GH77 4ー心グルカノトランスフェラーゼ GH-H 保持型 (Bia), 6,059 GH97 グルコアミラーゼなど 反転型/保持型 (~/ a.), 1,146 GHll9 aごアミラーゼ 保持型 報告なし 16 GHl26 g アミラーゼ? 不明 (a/a), 623 AA13 LPMO 酸化還元酵素 ~-sandwich 18

*反応機構は,加水分解酵素および転移酵素については保持型機構か反転型機構かについて示し,こ れ以外の酵素が存在する場合は 6大分類のどれにあたるかについて示した

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◆ 270◆ 応用糖質科学第 8巻第4号 (2018)

表2. 澱粉分解酵素の糖結合モジュール (CBM)(2018年6月)

CBM番号 主要な酵素の例 CAZy登録数 PDB登録数

20 シクロデキストリン合成酵素 (CGTase)など 1,379 17 21 グルコアミラーゼ/a-アミラーゼ 677 4 25 環状デキストラン合成酵素/a-アミラーゼ 450 3 26 かアミラーゼ 453 3 34 ネオプルラナーゼ/マルトジェニックアミラーゼ 3,231 6 41 プルラナーゼ45 a-7ミラーゼ(植物)48 プルラナーゼ/イソアミラーゼなど53 スターチシンターゼ III58 ネオプルラナーゼ68 プルラナーゼ69 a-アミラーゼ74 a—アミラーゼ82 マルチドメイン a—アミラーゼ83 マルチドメイン心アミラーゼ

との間に基質結合クレフトを形成する.澱粉分解酵素とし

て最初に立体構造が決定されたのは,松浦らによる麹菌

Aspergillus oかzaeの生産する Taka-amylaseAで ある13.14)

(図 3(a)). この構造決定は,タンパク質の立体構造解析が

まだ一般的でない時代になされた大変先駆的な研究であ

り,酵素科学の基礎研究に対して日本の研究が多大な貢献

をした好例であるといえる.

いくつかの GH13酵素の構造を比較してみると,基本構

造であるドメイン A, ドメイン B, ドメイン Cの他にド

メインが存在する酵素が存在することがわかる(図 2). 例

えばBacilluscirculansのCGTaseはドメイン Cのさらに C

末端側にドメイン Dおよびドメイン Eが存在する(図 3

(b)). ドメイン Eは,マルトオリゴ糖との複合体の立体構

造解析の結果,糖が結合することが判明したこのドメイ

ンEと相同性を有する構造は GH13の酵素のほかに, GH

14 の P—アミラーゼや GH15 のグルコアミラーゼなどにも

見つかり, CAZyにおいて糖結合モジュール (CBM)20に

分類されているりまた, Klebsiellapneumoniaeのプルラ

ナーゼは複雑なドメイン構成であり(図 3(c)), ドメイン

Nlが CBM4116l, ドメイン N3が CBM48に分類されてい

る17).

現在, CAZy において a—アミラーゼなどの構造中に存在

し澱粉結合モジュールであるとされる CBMは,その番号

として 20, 21, 25, 26, 34, 41, 45, 48, 53, 58, 68,

69, 74, 82, 83があげられる(表2). これらの構造で立

体構造が報告されているものは,いずれも Pーサンドイッ

チ様のフォールドである. CAZyの登録数より,若い番号

のCBM20から CBM48の多くは,多様な澱粉分解酵素の

モジュールとなっていることがわかる. CBM53以降の番

号のものについてはかなり限られた酵素にのみ見られる場

合が多く,特に 74, 82, 83は最近報告されたものでこれ

らについては後述する.

5. 脱離酵素と酸化還元酵素

生化学の教科書には,酵素の 6大分類は,酸化還元酵

2,317 8 73 報告なし

20,926 29 133 報告なし17 1

408 2 165 I 15 報告なし7 報告なし4 報告なし

素転移酵素,加水分解酵素,脱離酵素,異性化酵素,合

成酵素であることが記載されている.このうち合成酵素は

ATPなどの分解に共役して分子同士を結合させる酵素で

あり,異性化酵素も分解する酵素とはいえないので,多糖

を分解する可能性のある酵素といえば酸化還元酵素,転移

酵素,加水分解酵素,脱離酵素の 4種類になる.澱粉分解

酵素は,これまで述べたように研究の初期段階では加水分

解酵素として同定されており,研究が進むにつれ転移酵素

が登場した. これらは現在でも澱粉分解の主要な酵素であ

ることに変わりはないが,脱離酵素と酸化還元酵素が存在

することが判明している.また,澱粉分解ではないものの

澱粉を基質とする異性化酵素については,澱粉からトレハ

ロースを生成させる際に重要な酵素で GH13に分類される

マルトオリゴシルトレハロース合成酵素 (MTSase)があげ

られる. MTSase は, a-1,4-グルカンの還元末端の a-1,4—グ

ルコシド結合を a,a-1,1—グルコシド結合に変換する酵素で

ある(図 4(a)). 澱粉からトレハロースを生成させる酵素

反応の詳細については,他の総説を参照されたい18). ここ

では,脱離酵素と酸化還元酵素について述べる.

a-1,4—グルカンリアーゼは, a-1,4-グルカンを脱離反応

で分解し 1,5-D-アンヒドロフルクトースを生成させる4,19)

(図 4(b)). a-1,4—グルカンリアーゼは, 1993 年に Yu らが

紅藻から見つけたのが最初で20), 真菌由来のものも報告さ

れている.糖リアーゼは酸l祖糖から構成される多糖を分解

するものが多<, CAZyデータベースにおいては加水分解

酵素ファミリーすなわち GHではなく,多糖リアーゼ

(Polysaccharide Lyase)すなわち PLファミリーに分類され

るものがほとんどである.解析の結果, a-1,4-グルカンリ

アーゼは PLに属する構造ではな<. GH31すなわち多く

の¢グルコシダーゼが属しているファミリーに分類され,

GH31 の a—グルコシダーゼの触媒残基である 2 つのアスパ

ラギン酸残甚が保存されており,これらが触媒残基として

機能することが判明したり

澱粉分解酵素に関する最近の話題といえば澱粉を分解

する酸化還元酵素であろう.これは溶解性多糖モノオキシ

ゲナーゼ (Lyticpolysaccharide monooxygenase), 略称で

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◆ 271◆ . . 澱粉研究の潮流〉〉その 2〈〈

(a)

ー一迄。~~迄H→ __ "t心。~~。こ

OH OH OH

(b) HO

心。H心→:口十:t

(c'. ー一迄。H互゚予゚ 迄ーバ:c<t図4. 澱粉に作用する異性化酵素,脱離酵素,酸化還元酵素の反応

(a) マルトオリゴシルトレハロース合成酵素 (MTSase) が触媒する反応,基質の還元末端は a—アノマーのみ示した. (b) a-1,4-グルカンリアーゼが触媒する反応, (c)溶解性澱粉モノオキシゲナーゼの推定される酵素反応 (c)において,反応の途中でCl位に付加する水酸基は太字で表した.

LPMOと呼ばれる一群の酵素の一種である. LPMOの多

くは,セルロースやキチンを分解する酸化還元酵素であ

り, CAZyデータベースにおいては GHファミリーではな

< Auxiliary Activities (AA)ファミリーに分類されてい

る叫 LPMOの研究の過程において, a-アミラーゼやグル

コアミラーゼを構成するドメインとして代表的な澱粉吸着

モジュールである CBM20を持っているタンパク質が多数

見つかり,これらは澱粉を酸化還元反応により分解する活

性を持っており AA13というファミリーに分類されるに

至った22,23),

AA13タンパク質は, Aspergillus属のような菌類が生産

していることが報告されており,溶解性澱粉モノオキシゲ

ナーゼ (Lyticstarch monooxygenase)という名称が与えら

れている.構造解析により, N末端にメチル化されたヒス

チジン残基を有し,これは銅イオンと結合していることが

判明している四また活性発現にはシステインのような還

元剤が必要である.酵素反応としては a-1,4-およびa-1,6-

グルコシド結合を形成している Cl炭素に水酸基を付加し

た後アルドン酸を生成させる過程が提唱されている(図

4(c)). この図では a-1,4—グルコシド結合に対する反応を示

したが, a-1,6-グルコシドに対しても似たような反応で分

解すると推定されている"l. AA13タンパク質は単独では

それほど活性を示さないが,老化澱粉を Pーアミラーゼで

分解させるというような場合では, AA13酵素の存在下で

条件を最適化させると約 100倍も分解が速くなることがわ

かった22,23),

6. GH13のサブファミリー

GH13は他の GHと比較して巨大なファミリーであるこ

とから,さらにサブファミリーに分類されている四これ

らのサブファミリーは, 1番且の GH13_1には Taka-amy-

lase A を含む糸状菌の a—アミラーゼ, 2 番目の GH13_2 に

は多くの CGTase, というように分類がなされており,

2006年の時点のサブファミリーの数は 35であったが,こ

の原稿を書いている現在は 42となっている(表 3). まだ

すべての GH13がサブファミリーに分類されているわけで

はないので,今後さらにその数は増えるものと予想され

る.サブファミリー全体を見わたしてみると, GH13は当

初 a—アミラーゼが分類されるファミリーというような位

置づけであったが, トレハロースすなわち a-1,1—グルコシ

ド結合の生成に関係するもの (GH13_16や GH13_26な

ど),および糸状菌の細胞壁に存在する a-1,3—グルカンを

生成させる酵素 (GH13_22)などが分類され,今や GH13

は澱粉を構成する結合である a-1,牛および a-1,6—グルコシ

ド結合に作用する酵素のみが分類されるファミリーと呼べ

るようなものではなくなった

澱粉からトレハロースを生成させる酵素の研究は, 1980

年代から 90年代にかけて行われた林原生物化学研究所の

グループのものが有名である'り当時はこのような酵素系

が存在するとは予想されておらず,衝撃的な報告であっ

たり しかしながら細菌のゲノム解析技術が格段に進歩し

た現在 もちろんタンパク質の構造と機能は必ずしも一致

するわけではないが, トレハロース代謝に関する細菌の酵

素が分類されているサブファミリーである GH13_10, GH

13_16, GH13_26, GH13_29では数千ものタンパク質が登

録されているので, トレハロース代謝系は特殊なものでな

く多くの細菌が持っているものであると思われる.結核菌

Mycobacterium tuberculosisの細胞壁の研究では, トレハ

ロースを構成糖とする糖脂質が豊富に存在し,病原性に重

要な役割を果たしていることが報告されている25)_ 本菌の

トレハロース代謝系が調べられた結果,グリコーゲンから

トレハロースが生成し,その後 a-1,4—グルカンが生成する

というような複雑な代謝系であることが報告されている.

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◆ 272◆ 応用糖質科学第 8巻第4号 (2018)

表3. GH13のサブファミリー (2018年6月)

サブファミリー 主要な酵素の例 CAZy登録数 PDB登録数

1 心アミラーゼ(麹菌) 204 5 2 シクロデキストリン合成酵素 (CGTase) 259 , 3 a-I,4—グルカン:マルトース -1- リン酸転移酵素 2,202 3 4 アミロスクラーゼ 469 6 5 a—アミラーゼ(細菌液化型) 2,512 8 6 a—アミラーゼ(植物) 259 3 7 a-アミラーゼ(好熱性アーキア) 138 2 8 分枝酵素(真核生物) 912 2 , 分枝酵素(細菌) 6,700 4 10 マルトオリゴシルトレハロース分解酵素 (MTHase) 2,695 3 11 イソアミラーゼ 6,919 4 12 アミロプルラナーゼ(細苗) 339 2 13 プルラナーゼ((K枯le草bs菌iellなa属および植物など) 922 3 14 プルラナーゼ ど) 1,568 4 15 aーアミラーゼ(昆虫) 706 I 16 トレハロース合成酵素 2,633 5 17 a—グルコシダーゼ(昆虫) 141 報告なし18 スクロースホスホリラーゼ(細菌) 1,904 1 19 マルトオリゴ糖生成アミラーゼ(細菌) 1,988 報告なし20 ネオプルラナーゼ/マルトジェニックアミラーゼ 1,649 , 21 プルラン分解 a—アミラーゼ (TVA Iなど) 1,843 2 22 a-1,3—グルカン合成酵素(菌類) 54 報告なし23 オリゴ-1,6-グルコシダーゼ (Thermus属など) 1,079 1 24 心アミラーゼ(動物) 155 4 25 グリコーゲン脱分枝酵素(真核生物) 204 I 26 マルトオリゴシルトレハロース合成酵素 (MTSase) 2,592 2 27 a—アミラーゼ((X細a菌nth湘omonas属など) 360 報告なし28 a—アミラーゼ( 糖化型) 303 2 29 トレハロース-6-リン酸分解酵素 3,747 I 30 a—グルコシダーゼ(細菌) 1430 報告なし31 オリゴ-1,6-グルコシダーゼ(枯草菌など) 4,322 11 32 451 1 33

a—アミラーゼ(切S成tre酵ptomyces属など)トレハロース合酵素 (Pseudomonas属など) 246 報告なし

34 アミノ酸トランスポーター(動物) 29 1 35 アミノ酸トランスポーター(動物) 19 報告なし36 a—アミラーゼ(細菌) 241 1 37 生澱粉分解←アミラーゼ(細菌など) 185 1 38 機能未知(細菌)39 アミラーゼ—プルラナーゼ(細菌)40 a—グルコシダーゼ(菌類)41 a-アミラーゼ(細菌)42 a-アミラーゼ(細菌など)

また, GH13のサブファミリーを分類し始めた 2006年で

はGH13_3はUnknownactivityとして記述されていたが呵

その後の研究で GH13_3 酵素は aーマルトース—lーリン酸の

マルトース残基を a-1,4ーグルカンに転移しグルカン鎖を伸

長する酵素であることが判明しており,このトレハロース

代謝系と関連しているとされている翌最近, トレハロー

スがある種の病原菌の生育を促進するという報告27)がなさ

れ議論を呼んでいるが,細菌のトレハロース代謝系の普遍

性を考えると慎重に議論すべきものであると考えられる.

サブファミリーのうち,最近確立した GH13_41および

GH13_42 は,大変多くのドメインで構成される a—アミ

ラーゼが分類されるファミリーとして報告された.腸内細

菌 Eubacteriumrectale由来の GH13_41に分類された細胞

壁結合 a—アミラーゼ Amy13K は, GH13 に共通して見ら

れる構造に加え,最近ファミリーとして確立した CBM82

とCBM83, 2つの CBM26, CBM41, 機能未知ドメイン,

そして細胞壁アンカードメインより構成される複雑な構造

を持つ28)_ また, GH13_42に分類された Microbacterium

378 報告なし390 報告なし398 1 92 報告なし63 報告なし

aurumの a-7ミラーゼ MaAmyAは, GH13に共通して見

られる構造のほかに, CBM74と番号付けられた澱粉結合

ドメイン, 4つのフィブロネクチン III型ドメイン, 2つの

CBM25で構成され, こちらも複雑な構造を有している29)_

特に CBM74, CBM82, CBM83は前述したとおり報告例

が少なく新規性に富んでいる. GH13にはまだサブファミ

リーに分類されていない酵素が多数あるので,今後も新規

なCBMが発見されるかもしれない.

7. GH13の触媒残基および各ドメインの機能

GH13の基本となるドメイン構成は,前述したとおりド

メイン A, ドメイン B, ドメイン Cであり,触媒残基は

Taka-amylase Aにおける Asp206, Glu230, およびAsp297

に相当する残基が,それぞれ求核触媒,酸塩基触媒,およ

び遷移状態の安定化に機能しているとされる砂各ドメイ

ンの機能や触媒残基に関することについても,新しい知見

が得られている.

Page 8: 澱粉の酵素分解ミリーは番号がそれぞれGH13, GH14, GH15と連続して おり,これらの酵素の研究で得られた成果は,澱粉分解酵 素のその後の研究の基盤となったことがわかる.

.. 澱粉研究の潮流〉〉その 2〈〈

触媒残基については,インドネシアで単離された Bacil-

!us megaterium NL3株の cアミラーゼは, Taka-amylaseA

のAsp297に相当する残基がヒスチジン残基であることが

判明した呵本酵素は可溶性澱粉を分解し, 55℃, 0.5%

可溶性澱粉に対する比活性は 8.4U/mgであった. a-アミ

ラーゼの比活性をいくつか調べてみると,典型的な a—ア

ミラーゼでは 40℃前後で同程度の濃度の可溶性澱粉に対

して 200-500U/mgぐらいであるが呵多糖プルランやシ

クロデキストリンを分解する a—アミラーゼ TVA IIのよう

な場合,比活性は 13.8U/mg (40℃, 0.4%可溶性澱粉に

対する値)32)なので,極端に低い値という訳ではないといえ

る.この論文においては,相同性検索により本酵素と同様

の特徴を有するアミラーゼを見出しており,これらの酵素

とGH13の新しいサブファミリーを構成していると述べら

れている最近, GH13以外にも多数の糖質加水分解酵素

において例外的な触媒残基を有する酵素の報告がなされて

おり,詳細は他の総説”を参照されたい.

ドメイン A・B・Cの機能については,澱粉に結合する

機能は CBMだけではなく, ドメイン Aやドメイン Cに

もあることが報告されている.大麦 a—アミラーゼ 1 (GH

13_6)およびヒト唾液 a-アミラーゼ (GH13_24)はいずれ

もドメイン A・B・Cのみから構成される酵素であるが,

大麦 aーアミラーゼ lでは酵素分子表面に存在する糖結合

サイト (Surfacebinding site, SBS)がドメイン Aおよびド

メイン C に各 l 力所ずつ計 2 カ所,ヒト唾液 a—アミラー

ゼではドメイン Aおよびドメイン A とドメイン Bの境界

にあわせて 4ヶ所 SBSが存在する呵また,海洋のメタゲ

ノムから単離された GH13_37の aーアミラーゼはドメイン

A・B・Cの 3つのみから構成される酵素であるが,タン

パク質表面に存在する芳香族アミノ酸残基の改変により活

性が低下することから,タンパク質表面に澱粉を結合させ

る機能があることがわかった呵

ブタおよびヒト膵臓の a—アミラーゼ (GH13_24) もドメ

イン A・B・Cの3つのみから構成される酵素であるが,

小川らのグループは,膵臓 a—アミラーゼは N 結合型糖鎖

と結合する機能があることを明らかにした呵さらに,膵

臓 a—アミラーゼは糖鎖を介して腸の表面に結合すると活

性が増強するとともに腸による糖の取り込みを阻害するこ

と,腸の表面に結合した後,約 30分後に腸の細胞に取り

込まれて分解されることを明らかにした呵膵臓 a—アミ

ラーゼはドメイン A・B・Cのみで構成されており,アミ

ラーゼとしては単純な構造であり,このような複雑な機能

があることは驚きである.

ドメイン Bはドメイン Aや Cよりずっと小さなコン

ポーネントであるが,そのフォールドは多様である例え

ば細菌の液化型アミラーゼ (GH13_5)(図 3(d))と糖化型

アミラーゼ (GH13_28)(図 3(e))は,ともにドメイン A・

B・Cのみで構成されているアミラーゼであるが, ドメイ

ンBの構造は大きく異なっている叫 ドメイン Bの役割で

あるが, GH27においては aーガラクトシダーゼのような小

◆ 273●

さい糖を加水分解する酵素ではドメイン Bはほぽ存在し

ないが,同じ GH27でも多糖デキストランを分解するイソ

マルトデキストラナーゼにおいては GH13と同様のドメイ

ンBが存在することが判明しており呵 ドメイン Bは多糖

の結合や分解に重要であると考えられる. ドメイン Bは

柔軟に動いていると予想されているが, どのように動いて

いるのかあまりよくわかっていない.我々は GH13_21の

プルラン分解 aーアミラーゼの改変酵素の解析の結果, ド

メイン Bの動きにより基質結合クレフトが開いた状態や

閉じた状態になることを示した38)_ 澱粉はグルコースのホ

モポリマーというような一見単純な物質ではあるものの,

実際は澱粉粒から糊化澱粉まで多様な形態が存在し,二重

らせんがクラスターとなっている部分からそうではない部

分まで複雑な構造がある39)_ ドメイン Bも澱粉の多様な構

造に対応するように分子進化したものと想像されるが,こ

のような澱粉の構造と酵素反応の関係を調べるのは難し

く,今後の課題の 1つであるといえる.

8. GH70とGH77

GH70とGH77は,前述したとおり GH13とともに clan

GH-Hに分類されているファミリーである(表 1). GH70

およびGH77に属する酵素はいずれも主に糖転移を触媒す

る酵素なので澱粉分解酵素ではないかもしれないが,澱粉

による糖の生産に有用な酵素であり以下に概要を述べる.

GH70の酵素はすべて細菌由来で, Lactobacillus属や

Leuconostoc属のものがよく研究されている. GH70の酵

素は,スクロースに作用し多糖を生成するグルカンスク

ラーゼと,澱粉に作用し a-1,3-とa-1,4-グルコシド結合あ

るいは a-1,4—グルコシド結合と a-1,6—グルコシド結合から

構成される多糖を生成する a—グルカノトランスフェラー

ゼ (GTF)に大別される呵澱粉に作用する GTFについて

は,生成される多糖として以下のようなものが知られてい

る(図 2(e)-(g)の糖の構造は,文献40)をもとにしてその

概要を描いた.)

1) a-1,4および a-1,6—グルコシド結合から構成される直鎖

のイソマルト/マルト多糖 (IsoMalto-/Malto Polysac-

charide; IMMP) (図 2(e))

2) 主鎖が a-1,4-および a-1,6—グルコシド結合で構成され,

ところどころに (a1→ 4,6)の分枝点が存在するロイテ

ラン様多糖 (Reuteran-likepolysaccharide) (図 2(f))

3) 主鎖が a-1,3—および a-1,4—グルコシド結合で構成され,

ところどころに (a1→ 3,4)の分枝点が存在する分枝グ

ルカン(図 2(g))

GTFは,そのドメイン構成から GtfB, GtfC, GtfDとい

う3つのサブファミリーに分類されるが,この構造上の分

類と a-1,4ー/a-1,6-グルコシド結合の生成比あるいは a-

1,3ー/a-1,4-グ)レコシド結合の生成比にはある程度の相関

はあるものの,構造機能相関は複雑である.

GH77の酵素は,多くは細菌由来であるが植物やアーケ

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◆ 274◆

ア由来のものも存在する.現在までに知られている活性と

しては,唯一 4-a—グルカノトランスフェラーゼのみであ

り叫研究の歴史から,細菌由来のものはアミロマルター

ゼ,植物由来のものは不均化 (Disproportionation)を触媒

する酵素ということから D-酵素と呼ばれる.アミロマル

ターゼを用いた研究として有名なのは,江崎グリコのグ

ループによって行われた大環状グルカン(シクロアミロー

ス)(図 2(h))の生成であろう叫本研究で,同じ GH77に

属する酵素でも,環状グルカンの大きさはさまざまな生物

種由来の酵素によって異なることが明らかにされた.最近

報告された Thermusaquaticusアミロマルターゼとシクロ

アミロースとの複合体の解析では,酵素 1分子に結合した

グルカンを構成しているグルコースが 17個同定されてお

り,これは X線結晶構造解析によって決定された酵素一

基質の複合体において酵素に結合しているグルカン鎖とし

ては異例に長い43).

9. おわりに

本総説は,澱粉分解酵素の研究小史および主に clanGH-

Hの酵素に関する話題について述べたが,これ以外のファ

ミリーについても多数の報告がなされている. GH31およ

びGH97については他の総説を参照されたいり澱粉分解

酵素は昔から研究されているので研究し尽されているイ

メージを抱かれがちであるが最近のゲノム解析技術の進

歩により次々と新しい酵素が報告されている. 日本の研究

は,古くは高峰譲吉のタカジアスターゼから,数々の新し

い酵素の発見そして澱粉分解酵素の立体構造として世界

で初めて決定された Taka-amylaseAの研究など,澱粉分

解酵素の基礎研究の発展に多大な貢献をしてきた. しかし

ながら,最近のこの分野における AA13や GH13の新しい

サブファミリーに属する酵素などの研究はほとんど海外で

なされたものであり,何か時代に取り残されているような

気がする.以上,自戒を込めて述べるとともに,本総説が

日本における澱粉分解酵素の研究のさらなる発展につなが

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〇嘔鬱澱粉研究の潮流〉〉その 2〈〈

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