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6 章 3 v2.2 - 1 -
3 ハイブリッドエンジン(プリウス)による J 直線の例 電気自動車の 近の話題の一つにハイブリッドエンジンがある。1997 年にトヨタがプリ
ウスを発表して一躍有名になった。その後 2003 年に第2世代、2009 年には第 3 世代プリ
ウスを発表し 2009 年現在売り上げ台数 150 万台を超えたと言われている。トヨタは 上
位車種であるレクサスにもハイブリッドバージョンを追加し、エコロジカルなメーカとし
てのトヨタの技術力は世界的にも高く評価されるようになった。
電動・発電機 25kW
遊星歯車機構 一方向クラッチ
駆動電動機 45kW 差動歯車機構
図 6.3-1 エクオスリサーチ/アイシン AW のハイブリッドエンジン
本来電気自動車とエンジン自動車をハイブリッド化する構想は、電気自動車の電池の能
力不足をエンジンと組み合わせることによって、一回の充電あたりの走行距離を伸ばそう
とすることを目的としていた。この構想は 1970 年代に筆者も係わった通産省の電気自動車
開発プロジェクトでも検討されたことがあったが、排ガス対策車としての電気自動車にエ
ンジンを載せることは自己矛盾であるという事から見送られた経緯がある。これをあえて
トヨタが採用したのはエンジンの燃費向上と排ガス対策という観点によるもので、もとも
と電気自動車からの発想ではない。したがってここでのハイブリッドカーでは排気ガスの
発生を押さえ燃費を上げることでなければならない。そのためにはエンジンを小型にする
ことと、効率の良いところで運転することでその目的を達成しょうとしている。また他方
6 章 3 v2.2 - 2 -
では電気自動車の性能アップという目的を満たす必要がある。ハイブリッドカーはこの両
睨みの中で両方の性能を満足しなければならない難しさがある。 ここでハイブリッド方式にはシリーズ方式と、パラレル方式と呼ばれるものがあるが、
プリウスではパラレル方式を採用した1。パラレル方式はエンジンと電動機の動力を重ねて
使うような方式であるために、動力の分配機構が要求される。遊星歯車機構はそのための
仕掛けとして理にかなっているので、遊星歯車機構が採用される。ここではプリウス方式
を閉路型遊星歯車機構の例題として遊星歯車機構がどのように使われているかを述べる。 3.1 構造と特性図 (1) 構造
図 6.3-2 初代プリウスハイブリッドエンジン
初代プリウス方式の構造図は図 6.3-2 に示すとおりであるが、これをスケルトン図で示
1 この方式が発表される前に同じシステムをエクオスリサーチ/アイシンAWが共同開発品として発表し
ている。ただエクオス/アイシンのものはエンジンの出力部分と変速機の間にワンウエイクラッチが設け
られているところが異なる。(図6.3-1参照)。
Yamaguchi, K. Miyaishi, Y. and Kawamoto, M, Dual System- Newly Developed Hybrid System,
EVS-13,Symposium proceedings(1996)、 Vol.1, 603-610
6 章 3 v2.2 - 3 -
すと図 6.3-3 のようになる。すなわちエンジンの出力はキャリア軸 H につながれ、太陽歯
車が発電機 G に、また内歯歯車が電動機(モータ)M と車輪に接続されている。ここで発
電機 G と電動機 M は電気的に接続されていて発電機の電気出力は電池に充電する場合と、
電動機に直接供給する場合がある。逆に電動機は発電機から電力の供給を受ける場合と電
池からもらう場合の 2 通りがある。ハイブリッドエンジンとしての性能評価は電池の電力
供給能力で行われなければならない。しかしここではその部分まで立ち入る余裕がないの
で、発電機と電動機の役割に限って述べることにする。
v
u
①
② ③πR
図 6.3-3 スケルトン図 図 6.3-4 システム図
ここで発電機と電動機の電気的結合は、この間で機械的には速度の無段変速が行われて
いるので、発電機-電動機系は無段変速機 R と見ることができる。したがってこのスケル
トン図をシステム図に描き直すと図 6.3-4 のようになる。ここで端子の配置が図 6.3-3 のス
ケルトン図と右左逆になっているのは、今までの考察との一貫性を保つためのものである。
また端子vは構造図で言えば減速機の入力側に相当し、車輪につながる出力端子である。
vの先に減速機があるが、ここでは減速機部分までの考察は必要ないのでこのようにした。
なおこのシステム図からわかるようにこの系は出力結合型を示している。 ここで初代のプリウスと第 2 世代以後のプリウスの構造を少し解説しておく必要がある
かもしれない。初代の構造は図 6.3-5(a)の写真に示すように遊星歯車機構(動力分割機構)
の出力①は金属ベルトで減速機に繋がっていた。これが第 2 世代以後このベルトがなくな
り、図 6.3-5(b)の写真に遊星歯車機構が 2 個並んでいるような構造に変わっている。しか
しこれの右側の遊星歯車機構はキャリアを固定した遊星歯車機構で通常の減速機の役割を
している。全体の構造が複雑になったわけではない。そして写真の左側の機構が初代でも
使われている動力分割機構である。これをスケルトン図で示したのが図 6.3-6 で、この図
より解るようにベルトを省略した事によって全体の機構はむしろスリムになった。またこ
こでは電動機Mの回転方向が逆になるが、電動機の回転方向は結線を入替えることで対応
6 章 3 v2.2 - 4 -
できることがらであり、このことにより以下の説明の内容が変わるわけではない。
図 6.3-5 初代プリウスと第 2 世代以後の変速機構造
図 6.3-6 第 2 世代以後のスケルトン図 (2)特性図 遊星歯車機構πの端子を図 6.3-4 のように設定して特性図を描く。こ
の場合遊星歯車機構には 2K-H 型を採用していることは図 6.3-2 から分かるが、その歯数関
係が定かでないので、内歯歯車歯数zr と太陽歯車の歯数zs の比(zr/ zs)を便宜的に
3とすると、j H21=-3 より、伝達比の関係から j 12H= j 123= 4、J 直線は X,Y 座標上の
(0、 j 123 )、および(1,1)の 2 点を通過する直線で表される。したがって特性図上
の J 直線は図 6.3-7 のように表される。 この特性図(図 6.3-7)の横軸はω1/ω3 であるので、 出力軸①とエンジンの角速度の
比である。エンジンの回転方向は不変でありその回転方向を正、車が前進しているときの
ω1の回転方向を正方向とするならば、横軸の正座標は車の前進方向をしめす。このように
回転方向を決めれば縦軸ω2/ω3 の正座標は太陽歯車がエンジンと同一方向に回っている
G
M エンジン
制御装置
減速装置
電動機M 発電機G
動力分割機構π
(a) 初代
動力分割機構π
減速機
電動機 M 発電機 G
(b) 第 2 世代以後
6 章 3 v2.2 - 5 -
ことを示している。また発電機 G に関しては通常はω2が正方向回転のとき発電している。
J 直線
2
1
1.0
3
4
0
α 1領域
A
CD
X 1
β領域
領域2α
E
B
ω 2ω 3
ω 1ω 3
図 6.3-7 J 特性図
3.2 車両の運動
プリウスに搭載されているエネルギーモニターには、動力の流れる状態を表示する機能
がある。その画面は第2世代では図 6.3-8(a)の様な構成となっていて、車の状態によって
動力がどのように流れるかがわかる。初代プリウスではもっと簡単に図 6.3-9(b)の様な表
示になっていた。ここではエンジン E、車輪W,電池B,モータmがイラスト表示されていて
動力が流れている方向を矢印で示す。ここでmは図 6.3-3 の電動機Mではなく図 6.3-4 の
システム図におけるRとπを含めた部分を示している。以下この図で説明する。
(a)
図 6.3-8 エネルギーモニター
(1)停車状態 図 6.3-7 において無段変速機Rの変速領域を J 直線上のA点からE点の
領域で表すと、車の前進状態は B-E の領域で表される。ここで B 点は車が停止している状
態を示すが、この時エンジンは必ずしも回転している必要はない。つまり B 点ではエンジ
ンは特定の角速度を要求されていないが実際には省エネルギの観点から停車時にはエンジ
ンは止めている。
E
B m W
(b)
6 章 3 v2.2 - 6 -
いま B 点でエンジンが回転していると(ω3≠0)、B 点の Y 軸の値は正の値を持ってい
るので、太陽歯車の角速度ω2はエンジンと同方向に回転していることになる。この状態で
は太陽歯車につながれた発電機Gが回転しているので、停車状態でエンジンが回転してい
るということは電池の充電に対するスタンバイ状態にある。プリウスではエンジンキーを
入れればいつでも電動機Mで車をスタートできる状態になるが、このとき電池の充電状態
が良くないときはエンジンが始動して充電を始める((6)i)項で述べる)。
(2) 前進状態
i) エンジン停止 通常はエンジンキーを入れてもエンジンは止まっているので、こ
の状態で発進するためには電動機 M を電池で駆動するモードが作動する(図 6.3-9)。こ
の時発電機を空転(回転方向は負方向)させておくと、電動機 M の反力はキャリアに加わ
る。しかしキャリアにつながれたエンジンは逆転できない2ので、エンジン静止状態では電
動機 M の回転はそのまま車両の駆動に使える。この運転状態は完全な電気自動車モードで
通常はこの状態で発進する。このようにエンジンを
始動しないまま電動機モードで走行する場合はJ特
性図とは全く関係のないところで動いている。
ii) エンジン稼動状態(ハイブリッドモード) エンジンが動いていて車が前進してい
る状態では(エンジン始動については(6)ii)項に述べる)、発電機も正方向に回転して
いる。ここで車が加速するには発電機Gの負荷を増してその角速度ω2を減少させるか、あ
るいはエンジンの角速度ω3をあげてJ特性図上のω2/ω3の値(Y)を減少させると、運
動状態は J 直線上を B 点から右下の方向に移動する。この時、車全体の動作点(ω1/ω3)は
横軸を右方向に移動する。すなわちハイブリッドモードでの前進走行が実現される。ここ
では動力流の形態はα1型(図 6.3-10(a))であり、動力流の大きさは変速機に流れる
ほうがエンジンから遊星歯車を経由して車輪(出力)に向かうより大きい。そして縦軸(Y)
の値、つまりω2/ω3が減少していくにしたがって、この二つの動力の配分比率は減少して
2 この動作を確実にするために、図6.3-1のシステムでは一方向クラッチをもうけていた。
図 6.3-9 電気自動車モード 図 6.3-10 前進状態の動力図 (ハイブリッドモード)
6 章 3 v2.2 - 7 -
行き、図 6.3-7 の C 点に達すると動力流の大きさは等しくなる。
この時の値 X1 は 2.2 節で述べた動力分
配の次式(5.2-10)において動力分配係数
j 3v21v=1として与えられる。したがって
132
3
1
21 j=
ωω
ここで、先に定めたように j 213=4/3を
考慮すれば、この場合ω1/ω3=2/3が
得られる。ここから先では動力は機械動力
に変えられるほうが大きくなる(図
6.3-10(b))。
vu
1
2 3
α2 型
(b')
vu
12 3
α1型
(a')
図 6.3-12 電池の関わるハイブリッドモード
図 6.3-13 電池の関わるハイブリッドモード(モニター画面)
このα型の動力流状態のとき(図 9.3-11)は発電機から電力を受け取って電動機は駆動
されるが、発電機からの電力が不足するときは電池から供給されるモードもある。特に加
速状態のときはこのモードが使われる。なかでもα2 型のときは無段変速機への動力は機械
動力よりも少ないので電池からの補助電力は効果があると思われる(図 6.3-12 (b’)、図
6.3-13(b’))。逆に発電機の発電量に余裕のある時は電池に充電するモードがある。α1 型
のときがその状態である(図 6.3-12 (a’)、図 6.3-13(a’))。
ハイブリッドモードのまま運転状態が図 6.4-7 の C 点から D 点に達したとすると、ここ
では太陽歯車、キャリア、内歯歯車のすべてが同一回転速度になり、共回り状態になる。
ここから先(D-E)はオーバドライブ状態であり、発電機Gの負荷を増して太陽歯車の
E
B m W
図 6.3-11 ハイブリッドモードのモニタ画面
6 章 3 v2.2 - 8 -
角速度を下げることによって実現できる。このモードでも動力状態はα2 型であるので電池
の補助があれば運転可能であるが、この領域まで使われているかどうかは不明である。し
かし例えば高速状態での加速が必要なときに使うことはできる。
(3) エンジン駆動状態(図 6.3-14)
車両の速度がある程度大きくなるとエン
ジンの単独運転でも燃費の良い領域があり、
エンジンのみでも有利な走行モードに切り
替わる。それには電動機Mの回路を遮断し
て、発電機Gは正回転状態で負荷として電
池に充電しながら走行する。このときはハ
イブリッドモードではなく J 特性は使われ
ていない。
(4)制動状態 自動車を制動状態にした場合、この閉路型遊星歯車機構システムをそ
のまま使うと、この時は動力は車輪のほうから入ってくる。つまりシステムとしては入力
結合型になり、車輪から入ってくる動力の出力はエンジンである。また運転状態はJ 特性
線の右方から左上りにB点に向かい、その動力流の状態は図 6.3-15 のようになる。このよ
うな状態は無段変速機部分で電動機と発電機の役割が反転し動力が逆流することで実現さ
れる。すなわちスケルトン図で言えば駆動状態では電動機であったMが制動状態では発電
機になり、発電機であったGが電動機になることである。そして J 特性図から前進状態(E
-B)での制動はα型の動力流になる。このときはエンジンを出力端としているのでエンジ
ンブレーキがかかる。
vu
1
2 3
α2型
(a)
v u1
2 3
α1型
(b)
図 6.3-15 制動状態の動力流
ところで電気自動車には回生ブレーキという機能がある。これは車の運動エネルギーを
電気エネルギーに変換して電池に戻す方式であるが、この機構で言えば無段変速機構で発
生する電気動力を電池に返すことを意味する。しかしこの系では変換された電気エネルギ
のすべてを電池に戻すことはできない。なぜならば車輪につながれている内歯歯車が減速
していく( ω1→0)ときには、エンジンが止まらない限り、太陽歯車を増速(ω3→大)
していかないとB点に到達できない。そのために減速時には発電機Gを電動機に切り替え
図 6.3-14 エンジンによる駆動モード (モニター画面)
6 章 3 v2.2 - 9 -
て太陽歯車を駆動しつづけるため、エネルギの補給を必要とする。 つまりこのような状態
で無段変速機を動作させる方式では制動時の回生電力量の多くを期待できないといえる。
v
u
1
2 3
図 6.3-16 回生時の動力流 図 6.3-17 回生制動時のモニター画面
そこで実際には制動時にはこの遊星歯車機構系は完全には使われず、無段変速機の電気
回路を遮断し、その機能を止めて発電機Gを空転状態とする。さらにエンジンを停止し、
電動機Mを発電機に切り替える。そしてここで発生した電力はそのまま電池の充電にまわ
す(図 6.3-16、図 6.3-17)。このときの遊星歯車機構は太陽歯車が無負荷状態のために自
由に回転できるので、電動機Mは直接車輪から動力をとることができる。すなわち電気自
動車モードでの回生制動である。この状態もまたJ特性と無関係である。
(5) 後退過程 車両が後退することはω1が負になることであるから、J 直線上の A-B
で表される領域が対象になる。この領域はβ領域であるのでその動力流状態は図 6.3-18(a)
のようにβ型の動力循環が発生し、電気動力のほうが機械動力よりも大きくなる。しかし
これを実現するためには静止状態B点からA点へ動作点を移動させω2/ω3 を大きくしな
ければならない。このためには発電機Gは電動機Mへの動力供給を行いながら角速度を増
す必要がある。 しかし発電機は電力負担が大きくなれば減速するので、ここでの増速機能
を発電機に期待することはできない。つまり後退領域(J特性線上のA-B)をこのよう
な無段変速機で実現することは出来ない。
この領域を使うためには電池の助けを借りる方法がある。この場合はβ型の動力が流れ
ているところに系の外から動力を電動機に付け加えると、付け加わった動力は車輪に供給
され、後退させることができる(図 6.3-18(b))。しかしこの場合は動力循環はそのまま維持
されるので全体としての効率は良いとは言えない。電池の残存容量が少なくなった場合に
は使えない。
効率よく後退させるためにはエンジンを停止したまま、電動機Mを逆転させて電池の電
力で後退をさせる(図 6.3-19)。実際上の問題として後退時の動力状態はそれほど大きい
動力を要求されないので、電池のみで後退をしても電池への負担は大きくないのでこのモ
ードは不自然ではない。
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v
u
1
2 3
β型
(a)
v
u
1
2 3
(b)
v
u
1
2 3
図 6.3-18 後退時の動力流 図 6.3-19 電池による後退
(6)エンジン始動 このシステムでエンジンを始動する必要のある局面としては二つ
の場合が想定される。一つは完全に車が停止している状態でエンジンをスタートさせる場
合であり、他の一つはエンジンを停止させ電動機のみで車が走行している電気自動車モー
ドの途中で、エンジンをスタートさせる場合である。
i) 停車状態でのエンジンスタート 車が止まっていてエンジンを始動する必要の
ある場面は、エンジンキーを入れたときに電池の充電量が足らないときである。この場合、
発電機Gで電池に充電しなければならないが、その前にエンジンを始動する必要がある。
ここでは発電機Gを電動機に変え。スタータとして電池の動力によりエンジンを始動する
(図 6.3-20(a))。この時の回転は正方向にまわす必要がある。つまり発電機Gは正回転方
向で電動機と発電機を使い分けなければならない。そしてエンジンを始動させるときには
車は駐車ブレーキをかけ、電動機と内歯歯車は制動がかかっていることが前提である。も
し駐車ブレーキが作用していないと車は後退するので危険なことになる。
ii) 走行中のエンジンスタート 電気自動車モードだけでは急加速とか高速運転には対
応できないので、走行中にエンジンをスタートさせる必要がある。この場合は負方向に空
転していた発電機にブレーキを掛ければよい。そのためには発電機に電気負荷を加えるこ
とによってキャリアに繋がれたエンジンに始動回転を与えることができる。 このようにす
れば発電機の反力によってエンジンが始動する。しかし発電機に回転を与える電動機Mの
動力は電池から与えられるので、このエンジンスタートの状態では電池からの動力は瞬間
的に過大となる3。その動力流の状態を図 6.3-20(b)に示す。ここで一旦エンジンが起動し
てその動力が確立すると図 6.3-10(a)の状態に移行し、ハイブリッドモードに変わる。
vu
1
2 3
(a)
vu
1
2 3
(b)
図 6.3-20 エンジン始動時の動力流
3 プリウスの開発でもっとも難しかったのはこの時のショックを如何に滑らかにするかであったといわれ
ている。
6 章 3 v2.2 - 11 -
このようにエンジンスタート状態での発電機Gの役割は停車中では正回転方向での電動
機モード、走行中では逆方向回転での発電機モードにする。しかしエンジンが始動すれば
直ちに正転方向で発電機モードに切り替える必要がある。
(7) 運動状態のまとめ ハイブリッド機構を構成する要素、すなわちエンジンE、発
電機G、モータM、電池Bの動作状態を車が動くための車輪Wに対応して見やすく示した
のが表 6.3-1 である。この表は図 6.3.-7 の特性図から起こりうる状態を示しているが、実
際にこの通りに動いているかどうかは設計者に直接確かめたわけではないので、その可能
性を示唆したに過ぎない。ここでは遊星歯車機構の役割を説明するのにプリウスの動作を
取り上げた迄である。
表 6.3-1 車輪の動きに対する機構各要素の運動状態表 W E G M B Mode
停止 停止 停止 ― 停車 始動 電動 空転 放電 エンジンスタート
停車
駆動 発電 停止 充電 充電 停止 空転 電動 放電 EVモード 始動 発電(逆転) 電動 放電 エンジンスタート 駆動 発電 電動 ― HV モード 駆動 発電 電動 放電 HV(加速)モード 駆動 発電 電動 充電 HV(充電)モード
前進
駆動 発電 空転 充電 エンジン走行 制動 電動 発電 ― エンジンブレーキ 制動 停止 空転 発電 充電 回生制動 停止 空転 電動(逆転) 放電 EV モード 後退 駆動 発電 電動(逆転) 放電 HV モード
3.3 他の遊星歯車機構による構成 この機構は J 直線で示される動作領域がα領域にあることから実現できた。しかしこの
領域をとれる遊星歯車機構は図 6.3-2 の 2K-H 型が唯一の解ではない。たとえば図 6.3-21に示すラビニヨウ型の 3 端子を図のように選ぶとその J 直線は同じ領域を通過する。すな
わちこの機構では基準伝達比 j H32= j 132は正で1より小さい。このことから伝達比の関係
を用いることにより j 123、j 213はそれぞれ次のような値を持つ。 j 123>1、 j 213>1
6 章 3 v2.2 - 12 -
Mエンジン
③①②
π
図 6.3-21 ラビニオウ型による構成例
ここで j 123は特性図において J 直線が横軸を横切る座標であり、 j 213は縦軸を横切る座
標を示している。つまりこの J 直線は第 1 象限ではα領域を通過し、プリウス方式と同じ
特性を持つ機構を構成することができる。同じように 2 枚の外歯太陽歯車からなる 2K-H型、あるいは 2 枚の内歯歯車からなる 2K-H 型、さらには 3K 型でもこれと同じ特性を持
つ機構を構成することができる。どの機構を採用するかは周辺の条件で決まってくるもの
と考えられる。
発電機 モータ 2段変速式減速機構
モータ単体 最大出力:165kW 最大トルク:300Nm
動力分割機構
図 6.3-22 レクサス用ハイブリッドシステム
6 章 3 v2.2 - 13 -
プリウスの上位機種であるレクサスに搭載されたハイブリッドシステムを図 6.3-22 に示
す。このシステムの基本構成はプリウスと替わらないが、プリウスがフロントエンジン/
フロントドライブ(FF方式)を採用しているために、スペース上の関係から電動機Mの
出力は初代ではベルトで減速機につながれていた。しかしレクサスではスペースに余裕が
あるのでフロントエンジン/リアドライブ(FR方式)を採用し、電動機は両軸構造とし
て同軸上に減速機が接続されている。その減速機は 2 段になっているが、本来の機能から
云えばハイブリッドシステムには2段の減速機は必要としないはずである。その構成図を
図 6.3-23 に示す。
図 6.3-23 レクサス用ハイブリッドシステム構成図
制御装置
G
エンジン
π
② ③ ①
減速機
M