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国立天文台天文シミュレーションプロジェクト成果報告書
3次元一般相対論的磁気流体シミュレーションによる相対論的ジェット形成の研究
水田晃 (理化学研究所)
利用カテゴリ XT4B
活動銀河核ジェットは銀河中心にある太陽質量の数億倍から数百億倍もの大質量ブラックホールとそれに落ち込むガス円盤(降着円盤)のシステムから噴出する相対論的流速を持ちジェット状に収束したアウトフローのことである。アウトフロー形成には磁場が重要と考えられる。降着円盤の内の活動性においても磁場が重要であり、特に、磁気回転不安定性 (MRI)による短時間での磁場の増幅と、磁気散逸による磁気エネルギーの開放の繰り返しが降着円盤の特性、活動性の鍵となっている。磁場が増幅されると、円盤は低プラズマベータ状態となり、やがて磁気エネルギーが開放されると熱圧が卓越する高プラズマベータ状態となり、両状態間の遷移が繰返しおきる。低プラズマベータ状態から高プラズマベータ状態へ遷移する時に開放された磁気エネルギーを起源として円盤鉛直方向に強いアルフヴェンバーストが生じ、ジェット中を伝搬していき、ジェットのエネルギーとなるというモデルに基づき、Ebisuzaki & Tajima (2014)ではこのアルフヴェン波が相対論的な大振幅であることから、ジェット中を伝搬し、質量密度が下がった所でアルフヴェン波から電磁波モードへの変換がおき、ポンデラモーティブ力で荷電粒子が加速されることを指摘した。中心が 108太陽質量のブラックホールの場合、加速粒子のエネルギーは観測されている最高エネルギー宇宙線を超える 1022eVまで達する。しかし、このモデルでは降着円盤の時間変動は標準降着円盤と近年のMHD数値計算で得られたモデルに基づいており、シミュレーションによる理解が必須である。3次元一般双対論的磁気流体シミュレーションによる解析が重要である。本研究では、この系からどのようなアルフヴェン波が放出されるか、その時間依存性を調べた。中心に回転しているブラックホールを考え、時間的に変化しないカー・メトリックを仮定する。GM = c = 1の単位系を用いる。ここで、Gは重力定数、M は中心ブラックホールの質量、cは光速度である。座標系は極座標を用い、動径方向、極角、変位角それぞれの計算領域は [1.4 ≤ r ≤ 30000], [0 ≤ θ ≤ π], [0 ≤ ϕ ≤ 2π]、変位角方向は周期境界条件、動径方向は自由境界条件を課した。動径方向の内側の境界はブラックホールの事象の地平線よりも内側にとられている。 グリッド数は (Nr = 124, Nθ = 124, Nϕ = 28)と高解像度版 (Nr = 124, Nθ = 252, Nϕ = 60)の 2通りで計算を行った。両者とも極角、変位角方向は等間隔グリッド、降着円盤の内部構造をとらえるため、動径方向は中心にグリッドが集中するように不等間隔にとった。この規模のグリッド数、解像度はこの分野で積極的に研究を行なっているMcKinney らのグループの最近の 3次元計算の計算規模と同程度である。この報告では後者の高解像度計算版をベースに行う。初期条件としては回転するブラックホールの周りで流体力学的に静水圧平衡状態にある Fishbone-Moncrief円盤解を用い、無次元ブラックホールの回転パラメータ a を a = 0.9ととった。この状態に弱い磁場を与えることで平衡状態を崩す。磁場は円盤内部で閉じており、ブラックホールの回転軸方向成分のみを持つ。更に熱的圧力にランダムな振幅 (最大 5%)の擾乱を与えることによって軸対称性を破る。
0
20
40
20000 22000 24000 26000 28000
M. at e
vent
hor
izon
time [GMBH/c3]
(b)
100
101
102
103
<|B
z|>
, <|B
phi|>
at e
quat
or
(a)<|Bz|>
<|Bphi|>
図 1: (a)円盤内縁付近、赤道面で平均した磁場のポロイダル成分とトロイダル成分の時間進化。激しい時間変動が見られる。(b)イベントホライズンでの質量降着率。(a)の磁場の時間進化に伴って質量降着率が増減する。
シミュレーション開始後すぐに方位角方向の磁場が成長し、磁気エネルギーが増幅される、それに伴い質量降着がおきる。図 1(a)はシミュレーション後半の磁場ポロイダル成分、トロイダル成分の平均値の時間進化である。円盤内部では磁場が回転によって拗られているため、トロイダル成分が卓越しているが、両者とも激しい時間変動を示す。図 1(b)
は同じ時期でのイベントホライズンでの質量降着率を示したものである。磁場の時間進化とほぼ同様の時間変動を示す。磁場の増幅期に質量降着も増幅しており、磁場増幅が角運動量交換を促し、質量降着が実現している。磁場の増幅時間は典型的に 50GM/c3であり、これは、円盤内縁付近のアルフヴェン速度で見積もられる、MRIの成長率の逆数程度となっており、その波長が 10メッシュ弱で捕獲されている。しかし、最大のMRI成長率に対しては、もう一桁程度解像度を上げる必要があり、今後の課題である。図 2は赤道面上でのプラズマベータの逆数を隣接する 2つの時間で示したものである。右の図では左の図で低プラズマベータであった領域が高プラズマベータとなっており、両者の間で磁気エネルギーの開放がおきたことを示している。図 3(b)は、半径 r=14, 極軸周り 20度のジェット成分の電磁光度の時間進化を示したものである。図 1で示した磁場増幅、質量降着率と同様の時間変動を示している。図 3(a)は (b)を平均フラックスに直したものと、円盤内縁付近での鉛直方向のアルフヴェンフラックスの時間進化を比較したものである。(b)で示した電磁光度が大きくなるフェーズで両者のレベルが同等となり、ジェットの電磁光度が大きい時期に効率良くアルフヴェンフラックスがジェットに伝搬していることがわかる。図 3(c)は、(b)のジェット中の電磁光度を拡大したもので、電磁光度が高
x [GM/c^2]
y [G
M/c
^2]
-15 -10 -5 0 5 10 15
-10
0
10
1
0
-1
-2
-3
-4
Log10( ) t = 27140 [GM/c^3]
x [GM/c^2]
y [G
M/c
^2]
-15 -10 -5 0 5 10 15
-10
0
10
1
0
-1
-2
-3
-4
Log10( ) t = 27360 [GM/c^3]
図 2: 赤道面上でのプラズマベータ値の逆数の等高線。直近する二つの時刻、27140[GM/c3]
(左)と、27360[GM/c3](右)。前者では円盤内縁付近全体的に磁気圧が熱圧に匹敵しているが、後者では半径 6付近で熱圧が優勢となっており、両者の間で磁場が蓄えられているフェーズから、磁場が解放されているフェーズへ状態遷移が起きている。ことがわかる。図中の中心での斜線部分がブラックホール内部。
いフェーズのものである。は、(b)のジェット中の電磁光度を拡大したもので、電磁光度が高いフェーズ 典型的な増加時間が 50GM/c3、典型的なピークからピークまでの時間が300GM/c3となっている。Ebisuzaki & Tajima (2014)では、この電磁フレア中で、荷電粒子が加速される。陽子は宇宙線となり、電子は磁場との相互作用によってシンクロトロン放射に寄与し、更に逆コンプトン放射をおこす。このような放射はブレーザーの高エネルギーガンマ線放射として観測される。実際に、ガンマ線フレアの放射の増光時間繰り返し時間と比較するとよい一致をしめしている。降着円盤中で重要な過程である磁気回転不安定性の最大成長波長を捕獲するには、あと一桁ほどよい解像度計算が必要であると見込まれる。磁場増幅は降着円盤内部の粘性の役割を果たし、質量降着の物理を決定するものであり、より大規模な高解像度計算によって検証すべき問題である。また、初期磁場形状や、ブラックホールスピンパラメータの依存性も重要な問題である。
0
0.005
0.01
0.015
20000 22000 24000 26000 28000
jet E
le-M
ag p
ower
time [GMBH/c3]
(b)10-8
10-7
10-6
10-5
10-4
ave.
Ele
-Mag
flux
(a)
jet averaged EM flux (ave. Alfven ene. flux)D
0
0.005
0.01
0.015
0.02
22500 23000 23500 24000 24500elec
tric
-mag
netic
lum
inos
ity
time [GMBH/c3]
300 GM/c3
400 GM/c3
80 GM/c3
60 GM/c3
200 GM/c3
(c)
図 3: (a)半径 15で評価した極軸付近 (θ < 20◦)での動径方向の電磁平均フラックスと、円盤内縁付近での赤道面での鉛直方向のアルフヴェンフラックス。(b)(a)のジェット成分を光度にしたもの。質量降着率などと同様に激しい時間変動を示す。(c)(b)の時間スケールを拡大し、増加、繰り返しを見やすくしたもの。