14
5-1 1.はじめに 香港ストーンカッターズ橋は,増加する都心部・空港間 の交通緩和と新界東側地区から空港へのアクセス向上を 図るため,また世界有数の葵涌コンテナターミナルのシン ボルマークとして,ランブラー水路を跨ぐ地域に建設中の 中央径間1,018m(橋長1,596m),総幅員53.3mの 世界最大級の複合斜張橋である (図-1.1)。 本橋が周辺地域のシンボルになることから,香港特別 行政区 路政署では,プロジェクトに先立ち,デザインコン ペを実施,広く世界から斬新なアイデアを募った。(航路 幅900mと桁下空間73.5mの確保,高さ制限等が条件) 2000年,最終選考に残った5案(応募は27案)の中から 最優秀作品として本橋の原案が採用され,実施に移され ることとなった。その後,詳細設計が行われ,2003年8月 に入札図書発行,同年12月に入札が行われている。 前田・日立・横河・新昌JV(以下,JVと呼ぶ。)では, 2004(平成16年)年4月19日に本工事を受注,同年4月 27日に着工した。 現在,各種設備の据付および試運転,舗装,塗装等外 装工事の最終段階を迎えており,竣工は2009年11月頃 の予定である(実際の全体工程は,表-1.1 参照)。 以下に,工事の概要を示す。 2.工事概要 2.1 橋梁概要 橋梁の諸元は,以下であり,図-2.1 に一般図を示す。 橋梁形式: 複合斜張橋(道路橋) 2@(69.25+70+70+79.75)m+1,018m=1,596m 総幅員: 53.3m 2@(3車線+路側帯+フェアリング)+中央部開口 主桁: 2箱桁 側径間: PC構造(場所打ち) 中央径間: 鋼構造(65セグメント,500~600t/セ グメント) 主塔: 298m(構造高;293m) 175m以下: RC構造 基部断面: 24×18m(長円形) 175m以上: ステンレス鋼・コンクリート合成構 塔頂断面: 7m(円形) ケーブル: PWSタイプ(素線7mm) 基礎: 場所打ち杭 表-1.1 全体工程表 図-1.1 位置図(香港,現地) 5.ストーンカッターズ橋工事報告 ―世界最大級の複合構造斜張橋の製作・架設について― 企画委員会 国際小委員会

5.ストーンカッターズ橋工事報告 ―世界最大級の複合構造 …...詳細設計は,コンペの最優秀作品(Halcrow Groupによ る)に対し,Ove Arup

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Page 1: 5.ストーンカッターズ橋工事報告 ―世界最大級の複合構造 …...詳細設計は,コンペの最優秀作品(Halcrow Groupによ る)に対し,Ove Arup

5-1

1.はじめに

香港ストーンカッターズ橋は,増加する都心部・空港間

の交通緩和と新界東側地区から空港へのアクセス向上を

図るため,また世界有数の葵涌コンテナターミナルのシン

ボルマークとして,ランブラー水路を跨ぐ地域に建設中の

中央径間1,018m(橋長1,596m),総幅員53.3mの

世界 大級の複合斜張橋である (図-1.1)。

本橋が周辺地域のシンボルになることから,香港特別

行政区 路政署では,プロジェクトに先立ち,デザインコン

ペを実施,広く世界から斬新なアイデアを募った。(航路

幅900mと桁下空間73.5mの確保,高さ制限等が条件)

2000年, 終選考に残った5案(応募は27案)の中から

優秀作品として本橋の原案が採用され,実施に移され

ることとなった。その後,詳細設計が行われ,2003年8月

に入札図書発行,同年12月に入札が行われている。

前田・日立・横河・新昌JV(以下,JVと呼ぶ。)では,

2004(平成16年)年4月19日に本工事を受注,同年4月

27日に着工した。

現在,各種設備の据付および試運転,舗装,塗装等外

装工事の 終段階を迎えており,竣工は2009年11月頃

の予定である(実際の全体工程は,表-1.1 参照)。

以下に,工事の概要を示す。

2.工事概要

2.1 橋梁概要

橋梁の諸元は,以下であり,図-2.1に一般図を示す。

・ 橋梁形式: 複合斜張橋(道路橋)

2@(69.25+70+70+79.75)m+1,018m=1,596m

・ 総幅員: 53.3m

2@(3車線+路側帯+フェアリング)+中央部開口

・ 主桁: 2箱桁

側径間: PC構造(場所打ち)

中央径間: 鋼構造(65セグメント,500~600t/セ

グメント)

・ 主塔: 298m(構造高;293m)

175m以下: RC構造

・ 基部断面: 24×18m(長円形)

175m以上: ステンレス鋼・コンクリート合成構

・ 塔頂断面: 7m(円形)

・ ケーブル: PWSタイプ(素線7mm)

・ 基礎: 場所打ち杭

表-1.1 全体工程表

図-1.1 位置図(香港,現地)

5.ストーンカッターズ橋工事報告

―世界最大級の複合構造斜張橋の製作・架設について―

企画委員会 国際小委員会

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5-2

2.2 プロジェクト運営

プロジェクトに関係する組織を,図-2.2 に示す。

発注者側は現場には常駐せず,発注者から権限を委

譲された the Engineer の代理人(Resident Engineer)が常

駐し,施工監理に当たる。

JV組織は,PM,各社代表のもと,Technical(設計),

Construction ( 製 作 , 架 設 ) , Commercial ( 契 約 ) ,

Quality/Environment(品証/環境),Safety(安全)および

Administration(総務)の6部門が組織され,総勢300人

(労務者除く),国籍は十数カ国に及んだ。

運営は,原則として合議制で行われ,重要案件は,PM,

各社代表,当該部門長の審議を通じて決定された。

Engineer 側との協議は,毎月の全体会議および工種別

会議(例えば,鋼桁製作,鋼桁架設等),課題ごとのワー

クショップミーティング,パートナリング等を通じて行われ

た。Sub-Contractor とは,管理密度を高めるため,連絡会

議を毎週開催した(JV開催)。

2.3 工程管理

詳細工程表(Detail Works Programme)は,JVで作成,

Engineer の承認を得る。承認されると,この工程表が基準

となり,実工程との差が月次で Engineer に報告される。

工程に影響を与える事象が発生した場合(追加/変更

指示,品質対応,荒天による影響等),速やかにその期間

を見積もり,工期延長を Engineer に申請する。また,これ

図-2.2 プロジェクトの運営組織図

Engineer

Ove Arup & Partners

請負会社

前田・日立・横河・新昌JV

・試験・検査 会社

(政府認可)

・設計・施工照査

コンサルタント(ICE)

Tony Gee and Partners

(Asia) Ltd.

・JV コンサルタント

(設計・技術 協力)

Maunsell Consultant Asia

Ltd.

・施工協力会社

(Engineerの了解)

・材料支給会社

発注者

香港 特別行政区 路政署

西塔

鋼桁 1118m

+298m PD

主径間 1018m 側径間 289m

航路幅 900m

PC桁 239m

東塔 +298m PD+298m PD

側径間 289m

PC桁 239m

図-2.1 一般図

車道(3車線) 非常駐車帯3300 11000 1000 600 7150

24600

26650 CL

CL-ケ

ーブ

ルC

検査車レールガイドベイン

L-ケ

ーブ

車道(3車線)非常駐車帯3300110007150

24600

26650

路肩

横 桁

1000600路肩

(a)側面図

(b)断面図

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5-3

らが大幅な工程の変化をきたす場合,詳細工程表を更新

し,再承認申請した。

工程管理では,工事進捗の確認,工程表の更新,Key

Date(遅延が対外的に影響を与える作業の完了日のこと。

遅延賠償金が規定される。)達成のためのフォローアップ

等が行われるが,工事費を管理する上で重要な作業であ

る。

2.4 契約関係

契約に関する主だった項目を,以下に示す。

・ 発注者 :香港 特別行政区 路政署

・ 設計・施工監理 :Ove Arup & Partners Hong Kong

Limited

・ 請負者 :前田・日立・横河・新昌JV

・ 出資比率 : 40:20:20:20

・ 契約 :施工のみ。数量精算契約

(一部,設計・施工)

・ 履行保証 :契約金額の10%

・ 留保金 :出来高支払いの1%

・ 物価スライド :あり

・ 維持補修期間 :12ヶ月

(Certificate of Completion 発行後)

・ 保険 :労災,輸送(海上,陸上),

第三者賠償〔政庁側が付与〕

・ PI保険,設備保険 :JV側にて付与

・ 工事遅延賠償 :Max. HK$ 251,108/日

香港は,1997年に英国から中国に返還されるまでの

約150年間,英国の統治下にあったことから,商務等は

すべて欧米式の契約書を前提にした運営となっている。

業務では,契約内容と実業務との差異に常に注意をは

らうとともに,普段から業務内容を記録(確認・質問書,手

紙,議事録等)に残すことが求められた。特に,追加費用

や工期に関する記録は重要で,各々のスタッフは毎日,

業務の記録(作業内容と時間)を残すことを義務付けられ

ている。これらも含め,JVが管理する書類は膨大であっ

た。

3.構造概要

詳細設計は,コンペの 優秀作品(Halcrow Group によ

る)に対し,Ove Arup & Partners HK Ltd.(Sub-consultant

としてデンマークのCOWI)により行われた。概要は,以

下のとおりである。

3.1 主桁

(1) 景観上また耐風安定上から,中央部で分離した 2

箱桁で,ケーブル定着位置に横桁が配置されてい

る。図-3.1に,塔回り部の鋼桁の透視図を示すが,

中央径間部の桁には2枚の腹板はない。

(2) 桁は塔位置において,橋軸方向に油圧緩衝装置

で,橋直方向には水平支承で支持されている。鉛

直方向の拘束はない。側径間のPC桁は,橋脚と

剛結されている。

(3) 鋼桁部の長さは,1,118m,65セグメントからなる。

1セグメントの鋼重は500~600t。使用鋼材は,

S420M/ML 材(BS EN 10113-3 ,TMCP鋼)で,

大板厚50mm(塔周り),鋼床版(標準部)のデッ

キ厚は18mm,Uリブは9mmである。総重量は,

約33,500t。

(4) 鋼桁の現場継手は,Uリブ,Tリブを含め,全

断面溶接である。

3.2 主塔

(1) 高さ175mまではRC構造,175mより上(ケーブル

アンカー部)は,景観および防食の面から,20mm

の2相系ステンレス鋼板(1,600t)とコンクリートの

複合構造となっている(図-3.2 参照)。

(2) 厳しい腐食環境を考慮して,コンクリート部外側の

鉄筋にステンレス鉄筋が用いられている。

(3) 塔頂部には,塔外面,ケーブルの維持管理のため

の設備(Tower Maintenance Unit)がガラス張りの建

屋内に据えられている。

図-3.1 鋼桁透視図(側径間)

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5-4

主塔

上部

 (ス

テン

レス

鋼殻

鋼製

アン

カー

ボッ

クス

塔壁

定着

▽298m

▽293m塔頂照明塔維持設備

▽195m

▽175m

主塔

下部

(R

C構

造)

3.3 付帯設備

付帯設備の主だったものを,以下に示す。付帯設備で

は,JV 側で設計・施工を行う項目が多い。

・ 橋梁健全度モニタリングシステム

・ 鋼桁内除湿設備(桁内防食用)

・ 桁内検査車(自走式)

・ 桁下検査車(PC 桁,鋼桁)

・ 塔内エレベーター(ラックピニオン式)

・ 塔外面点検設備(塔頂設置)

・ ケーブル検査車

・ LEDライトアップ設備,等々

4.鋼構造の製作

4.1 鋼材調達

鋼材約38,000t(ロス含む)のうち三分の二を日本から,

残り三分の一をヨーロッパから調達した。主塔の2相系ス

テンレス鋼材1,800t(ロス含む)は,スウェーデンのメー

カーから調達した。

鋼材は,入札直後からの世界的な需給のアンバランス

から,価格の高騰と入手困難に見舞われ,予約が取り付

けられた場合でも,予約から納入までに8ヶ月以上が必要

であった。また,ヨーロッパ材では,板幅,板長について

は一定サイズしか得られず,板継位置の増加,変更を多

く伴うこととなった。

4.2 製作の監理/運営

製作は,パネル製作を中国 河北省 秦皇島市,パネ

ル組立/塗装を中国 広東省 東莞市で行った。主塔のス

テンレススキンおよびアンカーボックスの製作は,同じく広

東 省 中 山 市 , そ の 他 付 属 物 は 東 莞 市 内 4 カ 所 の

Sub-Contractor のヤードで行った。

これら Sub-Contractor の採用は,Engineer の承諾を得

るか,もしくは,路政署の認可業者であることが求められ

た。試験・検査機関は第三者機関とし,香港政庁に資格

認定(HOKLAS 認定。中国においては,国家認定。)を受

けた機関を使うことが義務付けられている。また,試験・検

査結果は,直接それらの機関から Engineer に報告するこ

ととなっている。

中国での製作に当たっては,技術,品質および工程管

理の面から,Sub-Contractor の各ヤードに監理チームを

派遣した(日本人,香港人,中国人,豪州人,英国人等か

ら構成)。

製 作 期 間 中 , Sub-Contractor の 各 ヤ ー ド に は ,

Engineer 側の検査官2~3名(組立ヤードは6~8名)が常

駐,製造手順の監視と製品検査を行った。

品質管理は管理項目が多く,結果として書類も膨大と

なり,各ヤードには2~3名の書類要員を配置する必要が

あった。

4.3 パネル製作

鋼床版パネル製作では,図-4.1 に示すUリブ溶接の

溶込み(板厚の80%以上)と溶接外観(Concave;凹面

状)等に細かな管理を要求された。

図-3.2 塔構造図

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5-5

板厚80%の溶込みには,Uリブの先端部のルートギャ

ップの加工精度を高めるとともに,溶込みを抑えながら溶

接 を 行 っ た ( J V で は “Maximum Bevel & Minimum

Penetration”と呼ぶ)。すなわち,ルートフェースを0.5mm

に仕上げることに注力した。薄すぎると裏側に溶着金属が

突き抜ける Burn Through(大きく抜ける)や Melt Through

(やや抜ける)が発生し,厚すぎると溶込み不足が生じる。

このため開先面を機械切削後,グラインダー掛けを丁寧

に行い,開先精度の確保に努めた。

溶込み量の確認には,UTを適用した(施工試験にて,

マクロ試験とUT結果の対比からUT精度を確認。検査率

は20%)。

中国内での鋼床版Uリブ溶接は,一般的に写真-4.1

の様な回転治具を用い,CO2 半自動溶接で行われている。

この治具により,溶接を下向で行うこととで,溶接外観が

凹形を得るよう試みた。

また,仮付け溶接も本溶接の品質や外観に影響を与え

ることから,仮付け溶接のビードをグラインダー仕上げす

るなど,注意を払った。

秦皇島では,冬季に気温が-15℃を下回ることもあっ

たが,工場内は温水ヒーターが備えられており,溶接時の

施工環境は何とか維持できた。

4.4 鋼桁組立

(1) ヤード選定

パネル組立ヤードは,架設サイクル(計画時,東西交互

に4日サイクル)と輸送台船1隻という条件から,香港から

1日圏内にあるヤードを選ぶ必要があった。いくつかの候

補地の中から,面積,ヤード内輸送,準備工,等の点から,

以前青馬大橋の大ブロック組立が行われた珠江沿いの

東莞市 沙田のヤードとした。

(2)ヤード準備工

組立・塗装の開始に先立ち,積出桟橋の拡幅と補強,

セグメント仮置場所の造成,2本の組立ライン(各145mの

基礎および支保工,ガントリークレーン4基,大屋根2基)

および塗装設備の建設,大型トランスポーター(320t積2

台)の導入,等を行った。図-4.2 に組立ヤードのレイア

ウトを示す。

(3)組立

65セグメント(側径間12,中央径間53)を,秦皇島で製

造したパネルから組立てた。1セグメントの鋼重は,500

~600tである。

南北2本の組立ライン上で,6~8セグメントを同時に組

み立てた。組立に先立って,セグメント支持点は各々の組

立ラウンドのキャンバー値に高さ調整される。また,橋軸

方向の通りは,地面に設けた基準線(基準杭間を結ぶ)と,

パネルに記された基準線を合わせながら確認している。

組立ライン 後尾のセグメントは,次ラウンドでは先頭に

据え,重複させる形を取った。

出来形の確認は,3セグメントを1単位として,アンカー

パイプを含む主要ポイントの3次元座標を計測,管理しな

がら行った。 隣接するUリブ,Tリブの通りは,リブごとに

定規を当て,その目違いを計測,許容値(L/100)を上

回る目違いは,不溶接部で調整している。

図-4.1 Uリブの溶込み図

≤ 2mm & ≥ 0mm

≤0.5mm のど厚 a ≥ t

板厚t=9,10mm

写真-4.1 パネル溶接回転治具

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5-6

各セグメントには誤差吸収のため25mmの余長を与え

出来形計測後,不要部分を切断した。閉合ブロックには

200mmの余長を与えたが,閉合長さを確認後,現場に

て長さ調整,切断した。

(4)ブラストと塗装

ブラストおよび塗装は,2棟のブラスト・塗装建屋を用い,

昼夜兼行で行った。当該地域は,亜熱帯の高温多湿地

域にあたり,規定の相対湿度85%以下を確保するため除

湿設備を設けている。1セグメントに要する塗装期間は15

日であった。鋼桁とアンカーボックスに共通の塗装仕様を,

表-4.1 に示す。

部位 素地

調整 塗料

膜厚

(μm)

桁外面

塔内面

共通

ISO

8501-1

Sa 2 1/2

プライマー

下塗り第 1 層

下塗り第 2 層

上塗り

エポキシジンク

エポキシ MIO

エポキシ MIO

ポリウレタン

40

150

150

50

桁内面 Sa 2 1/2 プライマー エポキシジンク 50

注1) 主桁外面は,色調統一のため架設後40μmの追加上塗り。

注2)鋼桁内部は,除湿装置が設けられ,相対湿度60%以下に保

たれる。

表-4.2 塗装仕様

図-4.2 組立ヤードレイアウト

①鋼桁保管ヤード

②トランスポーター

⑤ブラスト・塗装工場 ④大組立・仮組ライン

③浜出し用岸壁・バージ停留河床

①鋼桁保管ヤード

②トランスポーター

⑤ブラスト・塗装工場 ④大組立・仮組ライン

③浜出し用岸壁・バージ停留河床

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5-7

(5)台船輸送

台船への積込みは,河底に設けた鋼製フレームに台

船を着底,安定させた上で,2台のトランスポーターにより

行なった。トランスポーター2台は同期作動させている。そ

の後,中国側の通関手続きを取り,タグボートにて香港に

曳航した。香港までの輸送時間は,約7~8時間である。

4.5 塔ステンレススキンとアンカーボックス

それぞれの主塔で,ステンレススキンは32個,アンカ

ーボックスは25個のセグメントからなる。それぞれ上下の

セグメントとはフランジ継手で接合されている。ステンレス

スキンのシェルは,アンカーボックスを据付けたのち,半

割り状態でボックス外側に据えられ,縦方向にステンレス

高力ボルトで添接されている。

(1)ステンレスの溶接

主塔外殻のステンレス材は,2相系ステンレス(BS EN

10088-1 Grade 1.4462)と呼ばれる鋼材で,オーステナイ

ト相とフェライト相が約50%ずつ混ざり合った,耐食性と

強度に優れた材料である。ただし,単相系に比べ高温加

熱による組織変化が複雑で,脆化が起こる恐れもあり,溶

接の入熱管理には十分注意を払った。溶接方法は,TIG

溶接とFCW溶接を採用している。

(2)ステンレスの表面仕上げ

ステンレス表面は,太陽光等の反射を防止するため,

ショットピーニング処理により無反射仕上げとしている。こ

れは,微細なアルミナとガラスビーズの混合粒を高圧でス

テンレス表面に吹付ける表面処理の方法である。このショ

ットピーニングの前処理として,外面は溶接ビードのグライ

ンダー仕上げ,研磨(母材と同じ1K仕上げ)および高圧

蒸気による洗浄を行っている。

(3)ステンレススキンとアンカーボックスの仮組

ステンレススキン,アンカーボックス各3セグメントを段

積みし,高さ,中心位置およびケーブル定着点の確認を

行った(写真-4.2,4.3 参照)。各仮組み段階で塔頂部

で の 中 心 の 誤 差 を 予 測 し , 頂 部 の 誤 差 が 3 0 mm

(H/10,000)を上回ると予測される場合,途中のセグメント

の上縁ラインの角度を調整した。また,アンカーパイプに

は,ステンレススキンとアンカーボックス間をつなぐ現場継

手があり,“通り”を確保するため,スキン側との溶接は仮

組段階で行った。

上段のセグメントは,次回の仮組時には 下段に据

える重複仮組としている。

5.側径間桁と主塔

5.1 側径間コンクリート桁

支間70mのPC連続桁である。高さ60~70mの橋脚と

主桁はすべて剛結構造で,フレキシブルピアーとなって

いる。この桁は,中央径間の架設が進んでケーブルが架

設されるまで,桁の自重だけでも支持することができない。

したがって,支保工式の場所打ち工法を採用した。支保

工反力が1,800tと大きいことと鋼材の需給状況が逼迫し

ていたことから,支柱にはコンクリート構造を採用し,施工

期間短縮のため2m立方体の中空のプレキャストブロック

をプレストレスしながら積み上げていく方法をとった。なお,

写真-4.3 ステンレススキン及びアンカーボックス仮組立

写真-4.2 アンカーボックス仮組立

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5-8

筋交材は鋼構造とした(写真-5.1 参照)。

施工は,まず支保工上の横桁部分を先行施工した後,

横桁間の主桁を施工するという順序を採った。

写真-5.1 コンクリート桁の支保工

5.2 主塔の施工

主塔の高さは298m,その断面寸法は基部で24×18

mの長円形,主桁位置で14m,頂部で7mの円形となっ

ている。高さ175mまで鉄筋コンクリート構造で, 外層に

ステンレス鉄筋を使用し,それ以上の塔頂まで20mm厚

のステンレススキンと鉄筋コンクリートの複合構造で,内部

でケーブル定着用のアンカーボックスがコンクリート壁に

シェアースタッド(ステンレス)により定着されている。図-

5.1 に,ケーブル定着部の構造を示す。

施工には,ジャンプフォームを使用し,高さ4mごとを6

~8日のサイクルで施工した。なお,コンクリートは,タワー

クレーンによるバケット打設を行った。

6.側径間の鋼桁架設

中央径間の 2 セグメント(主塔中心から38.35m)まで

は陸上部に架設されることから,側径間側の49.75mとと

もに側径間鋼桁と呼んでいる。

設計者が考慮したこの部分の架設工法は,ベント工法

であり,当JVはベント工法を基本に入札を行った。

工事を着手した時点では,工事用地の引渡し時期が異

なっていて,東側の側径間は西側より約5.5ヶ月先行し

ていたが,工事が進むに従い先行する側の工事の進捗

が思わしくなくなってきた。もともと側径間鋼桁用の支保工

は転用する予定を組んでいたのが困難になった。先行し

ている工事がさらに遅れるリスクもあり,工法の変更を余儀

なくされた。新工法としては,一括架設工法を採用するこ

ととし,主要な架設機材の転用に目処をつけた。

6.1 主桁の地組立

対象は,主塔付近の6セグメントである。海上輸送され

た 大重量300tを超える桁ブロックは,塔に斜吊りで取

付けられた水切りクレーンで荷取りし,スライド設備で横移

動と縦移動をして所定の位置まで移動させた。

主塔の基部が末広がりになっているため,北側,南側

の桁は正規位置より外側へ6mシフトし,側径間コンクリー

ト桁の支保工との干渉から橋軸方向も2m中央径間方に

シフトした位置に組み立てた。3セグメント組立後,現場溶

接を開始し,順次箱桁内部のトラフリブまで完成させた。

横桁は地組立できないため所定位置に仮置きし,主桁の

一括架設後に1本ずつ吊上げ架設した。以下に,地組立

に使用した主要仮設備について説明する。

(1)水切りクレーン

側径間桁の荷取りのため,斜吊り索で支持した

梁を主構造としたクレーンを主塔から海上に向か

って跳ね出し,その梁上にストランドジャッキを設

置して搬入された部材を吊り上げた。水切りクレー

ンを,写真-6.1 に示す。

(2)スライド設備

地上に設置されたレールと主桁,横桁を搭載・

運搬する移動式架台からなる。移動時の滑り面は

ステンレス+テフロンとし,横移動にクレビスジャッ

キ,縦移動にストランドジャッキを使用した。 図-5.1 ケーブル定着部の主塔構

ステンレススタッド

ステンレススキン

アンカーボックス

アンカーパイプ

鉄筋

鉄筋コンクリート

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5-9

写真-6.1 ブロックの水切り状況

写真-6.2 一括吊上げ状況

6.2 一括吊上げ

主桁本体の重量は,1箱桁あたり1,600t,南北合計で

3,200tで,桁の上に中央径間架設用の架設用ガントリ

ーや油圧クレーンなどを搭載したため,総重量約4,000

tとなった。吊上げ設備として,主塔側にタワーブラケット,

コンクリート桁から張出した吊上げ梁上にそれぞれストラ

ンドジャッキを設置した。タワーブラケットと吊上げ梁への

荷重分配は,約80:20で,タワーブラケットは巨大な梁と

なった(写真-6.2 参照)。以下に,吊上げに使用した主

要仮設備について説明する。

(1)タワーブラケット

塔側の吊上げ設備であり,主塔から斜吊りされた長さ

28mの巨大なブラケットを塔の南北に設置した。前述の

桁地組立位置のシフトを吊上げた状態で戻す必要から,

ストランドジャッキはスライド機構付の架台に据付けた。

ジャッキは,330t×550mmストロークを片側に8台,

合計で16台使用した。

(2)リフティング・ビーム

側径間側のコンクリート桁上に長さ24mの架設桁を橋

軸方向に張出し,その上に橋軸直角方向に長さ68mの

ボックス梁を設置した。そのボックス梁上に220tのストラン

ドジャッキを片側2台,計4台を同じくスライド機構の上に

据付けた。

これらの吊上げ設備の使用には,日本で言うクレーン

落成検査と同等な試験が義務付けられ,吊上げに先立ち

載荷試験を行った。吊上げ作業は, 終のスライド作業を

含めて2日間をかけて行い,その後,横桁架設の準備お

よび吊上げを行った。横桁吊上げには,70tのストランド

ジャッキ2台を使用した。

タワーブラケットの吊り点は,一括吊上げ時から 初の

ケーブル2段が架設されるまでの約3.5ヶ月間,荷重を

保持した状態となり,中央径間架設準備のためのクレーン

作業など荷重配分を常に照査しながら行った。

7.中央径間の架設

架設工法は,直下吊りである。キャンティレバー先端に

据付けた架設用ガントリーにより吊上げ,側径間ケーブル

の架設,中央径間ケーブルの架設,架設用ガントリーの

前進の順序で架設の1サイクルとした。主桁の全断面溶

接は,桁架設直後からケーブル架設と並行して行った。

初のサイクルは,1ヶ月以上を要したが,習熟が進ん

でから10日から12日のサイクルで架設が進んだ。当初,

8日サイクルで計画していたが,溶接部のフランジ板の平

面度,トラフリブの通りの調整と,その立会検査に時間を

要し8日サイクルの達成は1回のみであった。

写真-7.1 に架設中の全景を示す。

タワーブラケット

リフティング・ビーム

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5-10

写真-7.1 張出し架設中の全景

7.1 海事関係事項

架設地点の海峡は,世界有数のコンテナターミナルの

入口で大型のコンテナ船が頻繁に行き来する重要航路

であるため,完全な航路閉鎖は認められていない。架設

時の航路占用条件は,

① 占用海域は架設位置を中心に200×200m

② 航路内でのアンカーの使用は禁止

③ 桁輸送にはGPS制御を備えた自航台船

④ 海域使用は日の出から日没まで

⑤ 海域占用中はスタンバイ・タグを用意する

(緊急時に一般船舶を補助するため)

と特記仕様書に定められている。

工事を進めるには,海事関係者(マリンデパートメント,

水上警察,パイロット協会,コンテナヤード会社など)との

協議が必要なことは日本と同様であるが,

そのほかに,架設時の部分海域占用

中の大型船舶の出入港をコンピュー

タ・シミュレーションすることが義務付

けられていて,各種ケースについてコ

ンピュータ解析を行い,海事関係者の

合意を取り付けた。実際の架設では,

予定時刻に大型船舶の出入港予定が

あると,架設開始を遅らせるよう要請さ

れたこともあった。

7.2 直下吊り

中央径間は,2箱桁を1本の横桁で

連結したセグメントを1単位として架設

した。その重量は,搭載した仮設備を

含めて525~616tで,長さ18m,幅53.3mである。

4艘の警戒船により作業海域が設定されると,図-7.1

に示す自航台船を進入させGPSによる定点保持を開始

し,同時にガントリーの吊りブロックの降下を開始する。

架設用ガントリーは,重量を軽減するため,梁形式とせ

ずにトラス形式とした。主構造の引張部材にはPCストラン

ドを採用し軽量化を図った。その結果,重量は220t/台と

なり,それぞれの主桁に1台ずつ設置した。吊上げ機構と

して,直引き16tの大型ウィンチを使用した結果,約70m

の高さを40分で吊上げた(写真-7.2 参照)。

各主桁それぞれには,4点の吊金具をPC鋼棒で取付

け,玉掛け索とルーズ孔にピンを挿入する構造とした。ピ

ン径はφ150と太径であったが,ルーズ孔の採用により

短時間で連結することができた。

写真-7.2 主桁セグメントの架設

図-7.1 自航台船

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桁を所定高さまで吊上げた時のジョイント部の隙間は,

0.5~1.0m を確保した。架設用ガントリーにブームの起

伏機能を持たせていないので,吊上げ完了後はガントリ

ーに仕込んだ引寄せワイヤによりジョイントできる位置まで

主桁セグメントを引き寄せた。

7.3 仕口合せと現場溶接

吊上げる桁には,地組立ヤードにて発送前に,図-

7.2 に示す張弦構造の強制変形システムを設置した。

既架設の主桁の横断方向は,両端をケーブルで支持

された単純梁構造となっており,主桁の自重によりたわん

でいる。さらに,キャンティレバー先端部では架設用ガント

リーの自重に加えて,桁吊上げ時の架設用ガントリーの

反力により横断方向に大きなタワミが出ている。これに対

して,架設される桁は,それぞれの箱桁のほぼ重心位置

を吊られていることから,横断方向のタワミはほとんど発生

しない。このタワミ差は65mmに達し,このままでは継手

部の仕口合せができない。こうしたことから,強制変形シス

テムを架設する桁に設置して強制的に変形させ,既設の

桁の変形形状に合わせるという手法をとった。

強制変形システムは,H形鋼からなるポストと水平材お

よびPC鋼棒(φ73)で構成される斜材からなり,ポスト下部

に仕込んだジャッキにより主桁を変形させる。これにより各

主桁の端部を合わせた後は局部的な開先調整を行った。

スペックではフランジ板の平坦度が5/3,800mm以

内,トラフリブおよびTリブのジョイントピース(長さ400m

m)は,軸芯に対して上下,左右ともに1/100の傾き以内

と規定されている。仮組立時にエレクションピースを600

mmから2mの間隔で断面全体に設けたが,基準を満足

するまで調整するには不足で,追加のストロングバックに

クサビを,場合によってはジャッキを使用して調整する必

要があった。

現場での溶接方法は,半自動溶接であるが,フラックス

入りワイヤを使用したノンガス溶接を採用した。

香港ではCO2溶接の経験者がほとんどなく,ノンガス溶

接が一般的に行われている。Vノッチシャルピー値の基

準が厳しく,入熱管理を厳密に行う必要があるので,CO2

溶接を導入しようと試みたが,それをできる業者がおら

ず,ノンガス溶接を採用

せざるを得なかった。

なお,鋼床版溶接部

の上層約50%は,サブ

マージアーク溶接によ

った。

8.スティケーブル

ケーブルの種類は,請負者が選定できることとなってい

た。JVとしては,VSL社とフレシネー社のPSSケーブルと

新日鐵のPWSケーブルについて比較検討を行った。そ

の結果,PWSの方が若干工費がかかるが,ケーブルおよ

びその被覆構造の信頼性が高く,将来にわたる耐久性に

対するリスクが低いとして,PWSケーブルを採用した。

8.1 ケーブルの設計・製作

使用したφ7mmワイヤの引張強度は1,770MPaで,

ソケットはいわゆるHiAm構造である。PE被覆は黒色と白

色の2重被覆とし,被覆表面にはディンプル仕上げを施し

て,レインバイブレイションの対策をとっている。

図-8.1 最大ケーブル断面

大の断面は,図-8.1 に示すPWS-499で, 大長

さ540m, 大重量77tとなった。このケーブルは,中国

の江蘇省江陰市にある新日鐵の関連会社で製作された。

図-7.2 強制変形システム

油圧ジャッキ

白色 HDPE

黒色 HDPE

φ7mm ワイヤ

フィラメントテープ

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使用した材料の内,ワイヤ材とPE被覆材等は日本から,

ソケット材料は中国国内で調達された。

製作完了後,すべてのケーブルはストレッシング・ピット

に移され,設計破断力の約55%の張力でソケットを含め

た強度と,ケーブル長の製作誤差を確認した。製作長さ

の精度基準は⊿L0=±(5+L0/20,000)mm; 大

20mmで,すべてのケーブルが基準を満足した。

ちなみに,揚子江にかかる世界一の斜張橋「蘇通大

橋」のケーブルも同工場で製作された。

8.2 ケーブルの架設

ケーブルは,江陰市から揚子江を経由して香港まで海

上輸送で搬入され,現場スペースの関係から,桁上ある

いは地上に仮置された。長大ケーブルのため,リールを

含んだ 大重量は約85tとなり,ハンドリングには油圧ク

レーンやその他の設備が大型のものとなった。

架設方法は,下から7段まで地上にアンリーラーを設置

して,タワークレーンで塔側ソケットを直接吊上げながら展

開し,引続き塔側ソケットを定着する方法とした。8段目以

降は,アンリーラーを桁上の塔付近に設置して,まず桁側

アンカーに向かって展開した後,桁上のクレーンで展開し

たケーブルを吊上げて余長をとることによって,塔側ソケ

ットまで展開した。引き続き塔側ソケットをタワークレーン

で吊上げて定着した。

それに引き続く桁側アンカーへの引き込み・張力導入

は,次に示す3段階で行った(図-8.2 参照)。

① ウィンチの繰込みで50t程度まで引く

② ワイヤ・クランプ・ジャッキで150tまで引く

③ 張力導入ジャッキで所定の定着位置まで引く

④ アンカーブロックとシム板で定着する

比較的短いケーブルは,①や②を省略して緊張作業を

行うことができた。張力導入に使うセンターホールジャッキ

は能力1,400t,350mmストロークのものを日本から調

達した。ケーブルの管理は,長さ管理を基本とし,各サイ

クルごとの成果として主桁と主塔のタワミおよびケーブル

張力を測定した。その手順を,下記に示す。

① 各ケーブルを所定シム厚で定着直後に,ジャッキと

振動法により張力を測定し,振動法測定値をキャリブ

レーションする。

② 中央径間ケーブルを架設後に,上3段のケーブル

張力(振動法)と桁・塔のタワミを計測する(夜間)。

③ ②のデータをもとにJVのコンサルタントはシム調整

の必要性を判断するとともに,次サイクルに架設され,

ケーブルのシム厚を決定する。

④ 架設用ガントリーを前進させて,次の主桁ブロック

を架設する。

ケーブルの架設は,決して順調ではなかった。悪天候

下の輸送中の損傷,現場での展開中の損傷および工場

製作時に見逃されていた損傷があった。いずれの損傷も

PE被覆だけにとどまらずワイヤまで損傷がおよんでいた

ため,3本のケーブルは取り替えざるを得なかった。しかし,

ケーブルの再製作には 低でも3ヶ月かかり,サイクル架

設を止めてまで待つことはできないので,損傷したケーブ

ルをそのまま架設して,中央径間閉合後に一本ずつ取替

えることとした。取替えに際しては,当該ケーブルの上側

にすでに別のケーブルが架設されており,塔側へのソケ

ット吊り込みに工夫を要した。

図-8.2 ケーブルの桁側引き込み

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9.中央径間閉合

2007年12月19日に,中央径間の架設を開始してから

15ヶ月,2009年3月18日に閉合桁を架設した。仕口合

せ,現場溶接を行い,4月5日には溶接などのすべての

閉合作業が完了した。

9.1 セットバック

前述のように,本橋には可動沓はなく側径間の橋脚と

主桁はすべて剛結である。つまり,セットバックするために

は橋脚をすべて曲げ変形させなければならない。

セットバックは,両サイドの桁先端部にある横桁(間隔

16.5m)を押し広げる方法をとることとした。写真-9.1 に

示すオフセット・ビームと名付けた箱断面の梁の片端にジ

ャッキを仕込んだ構造で,それを横桁間に4本設置した。

写真-9.1 閉合用設備

主桁の温度上昇による桁間距離すなわち閉合桁スペ

ースは15mm/℃短縮する。オフセット・ビームの設計条

件は標準温度20℃に対して+30℃を考慮して,設計荷

重は1本当り400t,合計で1,600tとした。

閉合桁架設後のセットバック開放は,オフセット・ビーム

の除荷だけでは不足する低温時を考慮して,オフセット・

ビームの上下にφ73のPC鋼棒に200tセンターホール

ジャッキ8台を設置して,閉合ジョイントの攻めを行った。

追加の処置として,閉合桁架設直前からジョイント部溶

接が終了するまで,鋼床版全域に水を散布して主桁の過

度な温度上昇を防止して,オフセット・ビームの発生応力

を低減させた。

9.2 閉合桁の架設

閉合桁は,長さ5.3mで横桁がなく,2つの箱桁をそれ

ぞれ分離した状態で架設する。重量は,57t/Boxであ

る。

閉合桁の吊上げには,サイクル架設で使用した西側の

架設用ガントリーを使うこととし,閉合桁の条件に合わせて

改造した。東側の架設用ガントリーは,解体のため約100

m後退させたが,キャンティレバー先端の変位を大略合

わせるため,東側の桁先端には約300t/Boxのカウンタ

ーウェイトを載荷した。

写真-9.2 閉合桁の架設

吊上げ時の閉合桁は,1点吊となることから横断方向の

バランスが悪く,12tのカウンターウェイトを載荷してバラ

ンスさせた (写真-9.2 参照) 。

所定高さまで吊上げられた閉合桁は,写真-9.1 に示

したハンガー・ビームに盛り替えられ,その状態で東側の

ジョイントを先行して溶接した。

9.3 閉合ジョイント

終閉合は,西側のジョイントで行った。当然のことで

あるが,閉合時には閉合桁の長さ,両方の桁の高さおよ

びタワミ角を合わせなければならない。今回は,次の方法

をとった。

(1) 桁の長さ

閉合桁は,製作時にその西側を200mm長く製作して

おき,完成時に主塔部での桁が正規位置に来るよう余長

を切断することを計画していた。まず,桁架設直前の測量

結果により15mmの余裕を残して切断し,架設および東

側ジョイントを溶接し,その後に,再度測量し 終切断長

ハンガー・ビーム

オフセット・ビーム

カウンター

ウェイト

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さを決定した。この2段階切断により,桁の位置関係は,

大きな誤差もなく収めることができた。

(2) 桁先端の相対高さ

東側の主桁先端に固定し,閉合部を超えて跳ね出す

梁材(ハンガー・ビーム)の先端を西側主桁で受け,その

受け点をジャッキ調整することにより東西の主桁の高さを

合わせた(写真-9.1 参照)。

ハンガー・ビームは,仮設材であり,その耐力も限定的

であったため,各作業段階において東側主桁先端にカウ

ンターウェイトを設置・撤去することにより,ハンガー・ビー

ムがその耐力内に収まるようにコントロールした。

(3) 桁のタワミ角

閉合ジョイント部のタワミ角を合わせるため,架設用ガン

トリーなど不要となった仮設備はすべて解体あるいは後退

させたが,移動防護工,ハンガー・ビームやオフセット・ビ

ームなどの重量で,閉合部の仕口は若干の「下開き」とな

った。これを調整するには閉合部から約100m後方にウェ

イトをかければ改善することがわかり,実施した。タワミ角

を調整した時点でのカウンターウェイトの重量は,東側で

550t/Box,西側で300t/Boxとなった。

写真-9.3 に,閉合後の全景を示す。

10.おわりに

2009年7月現在,ケーブル・ダンパー,維持管理設備

の据付・試運転,舗装工,塗装工など工事の 終段階を

迎えており,竣工は2009年11月頃の予定である。契約

当初の工期2008年6月に対して17ヶ月遅れている。

この原因は,西側主塔の支持地盤が予想より深く,杭

長が100mを超えたことのほかに,Engineer からの指示の

遅れや施工計画書に対する過大な要求により新工種を開

始する際に着手が遅れるなど,ソフト面での遅れも大きく

影響している。

写真-9.3 塔頂からの全景(閉合後)