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6 屋根は瓦や積雪など鉛直荷重を支えるだけで なく、居室階の床構面や壁構面と同様に、水平 構面と鉛直構面で構成して、地震力や風圧力に 抵抗する立体的な構造とする必要がある。水平 構面の役割は、水平力を受け止めて下部の耐力 壁に伝達させると同時に、下層の耐力壁の変形 がバラバラにならないように揃えることである。 水平構面は、天井面または小屋ばり面(図38 ①)と屋根面(同図②)の両方で構成するのが基 本である。ただし、屋根の形状や勾配等によっ ては、①と②のどちらかを主とし、他方は軽微な 構成とすることができる。 屋根は、高さは低くとも、居室階と同様な立体 的空間である。従って、屋根面に作用する地震力 や風圧力を下層の耐力壁に伝達させる鉛直構面 を、梁間方向(図38③)と桁行方向(同図④)に 配置する必要がある。この鉛直構面は、従来、慣 習的に小屋筋かいや雲筋かいで構成されてきた が、構造用合板で構成することが望ましい。施 工例を図39、40に示す。 6.1 屋根構面の考え方 図38. 小屋組の構成に必要な構面 構造用合板を張った屋根 ③梁間構面 (小屋筋方向) ①天井面・小屋ばり面の 水平構面 ②屋根構面 ④桁行構面 (雲筋方向) 小屋裏壁 構造用合板 厚7.5以上 小屋束 小屋裏利用 ネダノン 火打材:構造用合板 厚12以上 耐力壁:構造用合板 厚7.5以上 母屋 垂木 野地板:構造用合板 厚12以上 図39. 小屋裏の施工例

6 構造用合板を張った屋根6 7 既存建物の耐震補強では、構造用合板を利用す るのが効果的である。 ①真壁造りでは補強が容易である。

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Page 1: 6 構造用合板を張った屋根6 7 既存建物の耐震補強では、構造用合板を利用す るのが効果的である。 ①真壁造りでは補強が容易である。

6 屋根は瓦や積雪など鉛直荷重を支えるだけでなく、居室階の床構面や壁構面と同様に、水平構面と鉛直構面で構成して、地震力や風圧力に抵抗する立体的な構造とする必要がある。水平構面の役割は、水平力を受け止めて下部の耐力壁に伝達させると同時に、下層の耐力壁の変形がバラバラにならないように揃えることである。 水平構面は、天井面または小屋ばり面(図38①)と屋根面(同図②)の両方で構成するのが基本である。ただし、屋根の形状や勾配等によっ

ては、①と②のどちらかを主とし、他方は軽微な構成とすることができる。 屋根は、高さは低くとも、居室階と同様な立体的空間である。従って、屋根面に作用する地震力や風圧力を下層の耐力壁に伝達させる鉛直構面を、梁間方向(図38③)と桁行方向(同図④)に配置する必要がある。この鉛直構面は、従来、慣習的に小屋筋かいや雲筋かいで構成されてきたが、構造用合板で構成することが望ましい。施工例を図39、40に示す。

6.1 屋根構面の考え方

図38. 小屋組の構成に必要な構面 各種構造方法による小屋組の水平構面としての耐力は、品確法(建設省告示1654号、平成12年)に、存在床倍率(屋根倍率ではなく、床倍率という)という単位で示されている。それによると、合板を張った屋根の床倍率は屋根勾配によって0.5~0.7で、杉板を張った屋根の0.2または0.1よりはるかに高い値となっている。 合板を張っても、床の場合のような高い倍率が与えられていない理由は、一般的な構造方式では床の場合のようなIビームがしっかりと構成されないからである。 建物のプランに対して存在床倍率が不足する場合は、複数の水平構面の床倍率を足し合わせ

ることができるので、天井面に床の場合と同じ構造方式による合板張り水平構面を構成するか、火打ちばりを設けるなどの方法で対処する。 なお、登りばりを910㎜や1000㎜間隔で設け、これにネダノンを釘打ちした屋根は、登りばりと桁の仕口を、床ばりと胴差の仕口と強度が同等の仕口とすることによって、火打ちばりを省略することができる。また、この場合、断熱方式を外断熱とすれば、屋根面に天井を張る必要がなくなるので、登りばりと屋根下地合板を現しにした小屋組利用階や小屋ばり面を吹き抜けとする居室を設けることができる。

6.2 存在床倍率

構造用合板を張った屋根

③梁間構面 (小屋筋方向)

①天井面・小屋ばり面の 水平構面

②屋根構面 ④桁行構面 (雲筋方向)

 合板張り屋根構面の耐力のメカニズムは、基本的には合板張り床構面と同様にIビームであると考えられるが、屋根の形状が複雑なことなどから、一般には力学的に完全なIビームとはなっていない。その最大の欠点は、構面の外周にフランジとして曲げ応力(曲げによる引張または圧縮応力)を負担する部材がないことである。しかし

ながら、屋根構面には床構面ほどの外力が加わらないために、通常の建物プランではこれで十分な場合が多い。告示上の床倍率を上げることはできないが、実質的な補強方法としては、構面の外周に鼻隠しなどを設け、合板をこれに釘打ちしてフランジとしての役目を負わせるなどの方法がある。

6.3 合板張り屋根構面の水平力に対するメカニズム

小屋裏壁構造用合板 厚7.5以上

小屋束

小屋裏利用ネダノン

火打材:構造用合板    厚12以上

耐力壁:構造用合板    厚7.5以上

母屋

垂木

野地板:構造用合板    厚12以上

図39. 小屋裏の施工例

小屋裏壁:ネダノンスタッドレス5+

耐力壁:ネダノンスタッドレス5+

母屋

登梁

野地板:ネダノン

小屋裏:ネダノン

図40. ネダノンによる小屋裏の施工例

Page 2: 6 構造用合板を張った屋根6 7 既存建物の耐震補強では、構造用合板を利用す るのが効果的である。 ①真壁造りでは補強が容易である。

6 屋根は瓦や積雪など鉛直荷重を支えるだけでなく、居室階の床構面や壁構面と同様に、水平構面と鉛直構面で構成して、地震力や風圧力に抵抗する立体的な構造とする必要がある。水平構面の役割は、水平力を受け止めて下部の耐力壁に伝達させると同時に、下層の耐力壁の変形がバラバラにならないように揃えることである。 水平構面は、天井面または小屋ばり面(図38①)と屋根面(同図②)の両方で構成するのが基本である。ただし、屋根の形状や勾配等によっ

ては、①と②のどちらかを主とし、他方は軽微な構成とすることができる。 屋根は、高さは低くとも、居室階と同様な立体的空間である。従って、屋根面に作用する地震力や風圧力を下層の耐力壁に伝達させる鉛直構面を、梁間方向(図38③)と桁行方向(同図④)に配置する必要がある。この鉛直構面は、従来、慣習的に小屋筋かいや雲筋かいで構成されてきたが、構造用合板で構成することが望ましい。施工例を図39、40に示す。

6.1 屋根構面の考え方

図38. 小屋組の構成に必要な構面 各種構造方法による小屋組の水平構面としての耐力は、品確法(建設省告示1654号、平成12年)に、存在床倍率(屋根倍率ではなく、床倍率という)という単位で示されている。それによると、合板を張った屋根の床倍率は屋根勾配によって0.5~0.7で、杉板を張った屋根の0.2または0.1よりはるかに高い値となっている。 合板を張っても、床の場合のような高い倍率が与えられていない理由は、一般的な構造方式では床の場合のようなIビームがしっかりと構成されないからである。 建物のプランに対して存在床倍率が不足する場合は、複数の水平構面の床倍率を足し合わせ

ることができるので、天井面に床の場合と同じ構造方式による合板張り水平構面を構成するか、火打ちばりを設けるなどの方法で対処する。 なお、登りばりを910㎜や1000㎜間隔で設け、これにネダノンを釘打ちした屋根は、登りばりと桁の仕口を、床ばりと胴差の仕口と強度が同等の仕口とすることによって、火打ちばりを省略することができる。また、この場合、断熱方式を外断熱とすれば、屋根面に天井を張る必要がなくなるので、登りばりと屋根下地合板を現しにした小屋組利用階や小屋ばり面を吹き抜けとする居室を設けることができる。

6.2 存在床倍率

構造用合板を張った屋根

③梁間構面 (小屋筋方向)

①天井面・小屋ばり面の 水平構面

②屋根構面 ④桁行構面 (雲筋方向)

 合板張り屋根構面の耐力のメカニズムは、基本的には合板張り床構面と同様にIビームであると考えられるが、屋根の形状が複雑なことなどから、一般には力学的に完全なIビームとはなっていない。その最大の欠点は、構面の外周にフランジとして曲げ応力(曲げによる引張または圧縮応力)を負担する部材がないことである。しかし

ながら、屋根構面には床構面ほどの外力が加わらないために、通常の建物プランではこれで十分な場合が多い。告示上の床倍率を上げることはできないが、実質的な補強方法としては、構面の外周に鼻隠しなどを設け、合板をこれに釘打ちしてフランジとしての役目を負わせるなどの方法がある。

6.3 合板張り屋根構面の水平力に対するメカニズム

小屋裏壁構造用合板 厚7.5以上

小屋束

小屋裏利用ネダノン

火打材:構造用合板    厚12以上

耐力壁:構造用合板    厚7.5以上

母屋

垂木

野地板:構造用合板    厚12以上

図39. 小屋裏の施工例

小屋裏壁:ネダノンスタッドレス5+

耐力壁:ネダノンスタッドレス5+

母屋

登梁

野地板:ネダノン

小屋裏:ネダノン

図40. ネダノンによる小屋裏の施工例

Page 3: 6 構造用合板を張った屋根6 7 既存建物の耐震補強では、構造用合板を利用す るのが効果的である。 ①真壁造りでは補強が容易である。

6 7 既存建物の耐震補強では、構造用合板を利用するのが効果的である。 ①真壁造りでは補強が容易である。 ②大壁造りや、既に筋かいが入っている場合であっても、構造用合板を張ることにより、さらに強くすることが可能である。

③改修補強した壁の外周部などでは、基礎と柱を金物により固定することが耐震性を確実に高める上で重要である。

7.1 既存建物耐震補強例 構造用合板による耐震補強例

補強例 1 (真壁→真壁) ■計画と仕上がり ・補強しても、内外部の仕上げは既存と同様の仕様とすることができる。 ■施工と構造上のポイント ・内壁側より、壁体内を一度全て取り除く。  (壁体内の木部に劣化や腐朽・蟻害がないか確認すること) ・柱、土台、横架材に沿って受材(45×30㎜以上)を釘N75、@300㎜で釘打ちする。 ・合板を張り継ぎする場合は、その継ぎ目にも胴つなぎ材を設ける。 ・間柱を壁の厚みに合わせて挿入する。  (断熱材の挿入も必要に応じて行う) ・柱の相互間の内法内に構造用合板厚7.5㎜以上を納め、N50、@150㎜以内で釘打ちする。

・できる限り柱・土台・基礎の接合部を補強する。 ・合板の上に仕上げ材を施す。  (仕上げの下地には、出来るだけボード状のものを採用する。仕上げはモルタル壁や土塗り壁でなく、シート状のものを採用すると、建物重量が軽量化され地震に対して有利になる。)

補強例 2(真壁→大壁) ■計画と仕上がり ・補強した部分は、大壁造りとなる。 ・補強例1と比べ、容易な補強工事である。 ■施工と構造上のポイント ・既存の真壁造りの上に、床・天井部に横受材、壁には間柱か横胴縁(@450㎜以内)を設ける。

・柱の見付面に構造用合板7.5㎜以上をN50、  @150㎜以内で釘打ちする。 ・できる限り柱・土台・基礎の接合部を補強する。 ・仕上げは補強1に準拠する。 補強例 3(控壁の増設) ■計画と仕上がり ・上記の補強に加えて控え壁を新たに設ける。  (直交する控え壁を設けると単独壁の場合と比べ、より高い効果が期待できる) ・控え壁を設ける壁の下には土台・基礎、上部には梁があることが必要である。 ■施工と構造上のポイント ・控え壁の部分に新たに柱を設ける。 ・この柱の下部をホールダウン金物などで土台・基礎と緊結する。柱の上部を金物などで横架材と緊結する。 ・壁の施工方法は補強例1及び2に準拠する。

GL ▽

窓 外壁

基礎 補強プレート アンカーボルト

ホールダウン金物 ラグボルト

柱脚部固定例 (外観図・補強後)

 屋根の場合は、形状が様々であるので、場合に応じた工夫が必要である。切妻屋根の場合は、軒先に鼻隠しを設け、これに合板を釘打ちしてフランジの役目を負わせると強くなる。屋根の施工で特に問題となるのは、屋根構面から耐力壁への力の伝達である。桁側では垂木を桁に止め付けているあおり止め金物が水平力を伝達してくれるが、屋根が重い場合は、それだけでは不十分な場合もある。妻側ではさらに

工夫を要する場合が多い。 また、セットバックや下屋の部分などでは、屋根構面と耐力壁との接合が重要である。耐力壁の外側にたる木を沿わせ(図41右側)、あるいは耐力壁に奥桁を設けてたる木を掛け(同図左側)、たる木や奥桁から耐力壁へ釘を打つ等によって、野地合板から耐力壁合板への水平力の伝達を図ることが肝要である。

6.4 合板張り屋根構面の施工方法

間柱 防水シート 折り重ね

防水シート

防水シート

母屋

奥桁(たる木掛け)

受け材 45×30以上 N75@300

たる木

内壁(内装下地ボード) 断熱材

構造用合板 ○7.5以上

※上階の耐力壁と屋根の取合いは壁勝納めとする。

軒桁 たる木

羽子板ボトル V型プレート 小屋裏補強 構造用合板 ○12 N50 @150

構造用合板 ○9以上      N50 @150

防水シート 折り重ね

図41. 下層およびその小屋裏の施工例

壁、構造用合板※ ○7.5以上 ア