26
7 1次元の固有値問題 7.1 一般的性質 7.1.1 エネルギー固有値の縮退 1次元の束縛状態ではエネルギー固有値に縮退がない. E u 1 , u 2 ˆ Hu 1 = Eu 1 , ˆ Hu 2 = Eu 2 ャル V (x) - ~ 2 2m d 2 dx 2 u 1 (x)+ V (x)u 1 (x)= Eu 1 (x), (7.1.1) - ~ 2 2m d 2 dx 2 u 2 (x)+ V (x)u 2 (x)= Eu 2 (x), (7.1.2) (7.1.1) × u 2 - (7.1.2) × u 1 ャル V (x) E 0 = ~ 2 2m u 1 d 2 u 2 dx 2 - u 2 d 2 u 1 dx 2 = ~ 2 2m d dx u 1 du 2 dx - u 2 du 1 dx (7.1.3) u 1 du 2 dx - u 2 du 1 dx = = a. (7.1.4) a x a x = u 1 , u 2 x = u 1 = u 2 =0 a =0 1 u 1 du 1 dx = 1 u 2 du 2 dx , d ln u 1 dx = d ln u 2 dx (7.1.5) u 1 = cont. × u 2 u 1 u 2 (linearly independent) 118

7章 1次元の固有値問題 - Yamagata Ukscalar.kj.yamagata-u.ac.jp/~endo/kougi/quantum...第7章 1次元の固有値問題 7.1 一般的性質 7.1.1 エネルギー固有値の縮退

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第7章 1次元の固有値問題

7.1 一般的性質

7.1.1 エネルギー固有値の縮退

1次元の束縛状態ではエネルギー固有値に縮退がない.

これは次のようにしてわかる.1つのエネルギー固有値 E に属する固有関数が2つ以上あったと仮定しよう.この固有関数を u1, u2 とする(Hu1 = Eu1, Hu2 = Eu2).ポテンシャルを V (x) とすれば,

− ~2

2m

d2

dx2u1(x) + V (x)u1(x) = Eu1(x), (7.1.1)

− ~2

2m

d2

dx2u2(x) + V (x)u2(x) = Eu2(x), (7.1.2)

が成り立つ.(7.1.1)× u2 − (7.1.2)× u1 を計算すると,ポテンシャル V (x) の項とエネルギー E の項は相殺するので,

0 =~2

2m

(u1

d2u2

dx2− u2

d2u1

dx2

)

=~2

2m

d

dx

(u1

du2

dx− u2

du1

dx

)(7.1.3)

となる.したがって,

u1du2

dx− u2

du1

dx=定数 = a. (7.1.4)

実はこの定数 a はゼロである.なぜなら,左辺に x のどんな値を代入しても結果は定数a になるというのだから,特に x = ∞ を代入してみる.u1, u2 は束縛状態であるからx = ∞では u1 = u2 = 0である.したがって左辺はゼロとなり,a = 0を得る.これより,

1

u1

du1

dx=

1

u2

du2

dx,

あるいは,d ln u1

dx=

d ln u2

dx(7.1.5)

を得る.結局,u1 = cont.× u2 となるので u1 と u2 は1次独立 (linearly independent)でない.つまり,1次元束縛状態では,同じエネルギー固有値に属する固有関数は本質的に1個しかない.ゆえに縮退はない.

118

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 119

Remark 1

W (u1, u2) ≡∣∣∣∣∣∣

u1 u2

du1

dx

du2

dx

∣∣∣∣∣∣= u1

du2

dx− u2

du1

dx(7.1.6)

を u1 と u2 のロンスキアン (Wronskian)という.

u1 と u2 は1次独立 ⇐⇒ W (u1, u2) 6= 0. (7.1.7)

Remark 2 縮退がないというのはあくまでも束縛状態の場合である.非束縛状態では縮退はあり得る.例えば1次元由粒子の系で,x 軸の正の方向に走る状態と,同じ速さで負の方向に走る状態のエネルギーは等しいが状態としては明らかに異なる.つまり,このエネルギー固有値は縮退している.

7.1.2 偶関数ポテンシャル

ポテンシャル V (x) が偶関数なら束縛状態の固有関数は偶関数か奇関数かのどちらかである.

なぜならば,

− ~2

2m

d2

dx2u(x) + V (x)u(x) = Eu(x),

において,x を −x に置き換え,V (−x) = V (x) を使うと,d2/(d(−x))2 = d2/dx2 などより,

− ~2

2m

d2

dx2u(−x) + V (x)u(−x) = Eu(−x), (7.1.8)

となる.すなわち,u(x) がエネルギー固有値 E に属する固有関数であれば,関数 v(x) ≡u(−x) も同じエネルギー固有値 E に属する固有関数である.ところが,1次元の束縛状態ではエネルギーに縮退はないのであるからこの二つの固有関数は1次独立ではない.したがって,v(x) = cu(x) i.e.

u(−x) = cu(x)

となるはず.ここで,c は定数である.この式で x → −x とすると u(x) = cu(−x). この右辺にもう一度上の式を使えば u(x) = cu(−x) = c · cu(x). これが任意の x について成り立つのであるから,c2 = 1, i.e. c = +1 または c = −1 を得る.c = +1 ならば u は偶関数 u(−x) = u(x),c = −1 ならば u は奇関数 u(−x) = −u(x) である.

Remark 上のように空間反転 (space inversion) x → −x をしたときに波動関数が

u(x) → u(−x) = εu(x) (ε = ±1)

となる場合には,この定数 ε を状態のパリティ(parity) あるいは偶奇性という.つまり u が偶関数ならパリティは正,奇関数ならパリティは負である.

120

[参考]上では空間反転を考えたが,時間反転 (time reversal)も同じように考えることができる.時間を含むシュレーディンガー方程式

i~∂

∂tψ(x, t) =

[− ~

2

2m

∂2

∂x2+ V (x)

]ψ(x, t), (7.1.9)

に置いて t → −t と置き換えると,∂/∂t → −∂/∂t などより,

−i~∂

∂tψ(x,−t) =

[− ~

2

2m

∂2

∂x2+ V (x)

]ψ(x,−t). (7.1.10)

ここで両辺の複素共役をとると,

i~∂

∂tψ∗(x,−t) =

[− ~

2

2m

∂2

∂x2+ V (x)

]ψ∗(x,−t). (7.1.11)

この式からつぎのことがいえる.すなわち,ψ(x, t) が上の時間を含むシュレーディンガー方程式の解ならば,ϕ(x, t) ≡ ψ∗(x,−t) で定義される波動関数 ϕ(x, t) も全く同じシュレーディンガー方程式の解である.このとき,ϕ(x, t) で表わされる運動状態は ψ(x, t) で表わされる運動状態で時間の向きを逆転(時間反転)したものである.実際,確率密度を考えると

|ϕ(x, t)|2 = |ψ(x,−t)|2 (7.1.12)

なので,粒子の位置の確率分布はもとの ψ(x, t)で表わされるものとは逆の時間発展をする.結局,ポテンシャルが時間に依存しなければ,古典力学と同じように,時間の向きを逆転しても物理法則は同じように働くことがわかった.このようなことを「時間反転のもとで不変である」という:

ポテンシャルが時間を含まなければ,(量子力学でも)系は時間反転のもとで不変である.

7.1.3 波動関数の連続性

シュレーディンガー方程式が意味を持つためには,(運動エネルギーの項に現れる)d2u/dx2

が存在しなければならない.したがって,u(x) は有界なだけではなく,

いたるところ u とdu

dxは連続である. (7.1.13)

有界だけれども不連続な V (x) を持つ系を考えるときこのことが重要になる.シュレーディンガー方程式,

− ~2

2m

d2u(x)

dx2+ V (x)u(x) = Eu(x), (7.1.14)

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 121

O

u

xa O

du/dx

xa OO

d2u/dx2

xa

図 7.1: d2u/dx2 が不連続な関数;uと du/dxは連続

において,V (x) が不連続ならば d2u/dx2 も不連続である.しかしその積分である du/dx

とそのまた積分である u は連続になる.

[注意](7.1.13)の代わりに,

いたるところ u とd ln u

dx

(=

1

u

du

dx

)は連続である. (7.1.15)

としてもよい.この方が計算が簡単になる場合がある.

[例]ポテンシャルが

V (x) =

{0 (x < 0)

V0 (x > 0)(7.1.16)

で与えられるとき,0 < E < V0 として時間を含まないシュレーディンガー方程式を解いてみよう.

V0

x0

E

-?

6

図 7.2: 階段型ポテンシャル

(step 1) 各領域での解を求める.

122

(x < 0 での解)  V = 0 より,シュレーディンガー方程式は

− ~2

2m

d2u

dx2= Eu(x) (7.1.17)

となる.この解は E = ~2k2/2m (i.e. k =√

2mE/~) とおけば,

u(x) = A sin(kx + φ), (x < 0) (7.1.18)

となる.ここで,A, φ は積分定数である.

(x > 0 での解)  V = V0 より,シュレーディンガー方程式は

− ~2

2m

d2u

dx2= −(V0 − E)u(x) (7.1.19)

となる.この解は V0 − E = ~2κ2/2m (i.e. κ =√

2m(V0 − E)/~) とおけば,

u(x) = Be−κx + Ce+κx, (x > 0) (7.1.20)

とかける.ここで,B, C は積分定数.κ > 0 なので,C 6= 0 だと x → +∞で |u(x)| → ∞ となり物理的に許されない.したがって,C = 0 でなければならない:

u(x) = Be−κx. (x > 0) (7.1.21)

(step 2) 連続性の条件で各領域の解をつなぐ.x < 0 の解と x > 0 の解を連続性の条件 (7.1.15)でつなぐ:x = 0 で,

u が連続 ⇒ A sin φ = B,

1

u

du

dxが連続 ⇒ k cot φ = −κ.

(7.1.22)

これより,φ = − tan−1(k/κ)と決まり,Aを決めれば B が決まる.(決まらずに残った A は波動関数を定数倍する不定性.)

(注意) φ には nπ の不定性があるが,その不定性は A の符号に吸収される.

7.1.4 波動関数の連続性その2 — V (x) = ∞ となる領域がある場合121ページの例で,V0 →∞ とすると

κ =√

2m(V0 − E/~→∞, φ = − tan−1(k/κ) → 0

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 123

となる.したがってこのとき u(x) は,

u(x) =

{A sin kx (x < 0)

0 (x > 0), (7.1.23)

となる.この例から,次のことがわかる:V (x) が有限値から無限大に変化するところでは du/dx はもはや連続ではないが,

いたるところ u は連続であり,V = ∞ の領域では u = 0. (7.1.24)

7.2 階段型ポテンシャルによる散乱

7.2.1 ポテンシャルによる反射

粒子が,x 軸負の側から正方向に飛んできて,

V (x) =

{0 (x < 0)

V0 (x > 0)(7.2.1)

なるポテンシャルの壁にエネルギー E (0 < E < V0) で衝突する場合を考えてみよう.こ

V0

x0

E

-?

6

-入射ビーム

¾ 反射ビーム

図 7.3: 階段型ポテンシャルによる反射 (E < V0)

の系は 121 ページの例で考えたものである.そこで求めた,時間を含まないシュレーディンガー方程式の解は(sin(kx + φ) を指数関数で表わすことにより),

u(x) =

A

2iei(kx+φ) − A

2ie−i(kx+φ) (x < 0)

A sin φ · e−κx (x > 0)

(7.2.2)

と表わすことができる.ただしここで,A は定数であり,k, κ, φ は

~2k2

2m= E,

~2κ2

2m= V0 − E, φ = − tan−1 k

κ, (7.2.3)

124

で与えられる.x < 0 の領域の波動関数で,ei(kx+φ) は p = ~k で x の正方向へ進む波(入射波)を表わし,e−i(kx+φ) は p = −~k で x の負の方向に進む波(反射波)を表わすものと考えることができる.これらの波は(絶対値の二乗を全空間で積分すると無限大になるので)普通の意味では規格化できないが,次のように解釈するとよい.

±A

2ie±i(kx+φ) :単位体積(長さ)当たり | ± A/2i|2 個の粒子がある.

あるいは粒子の速度 v = p/m = ±~k/m を考えて,

+A

2ie+i(kx+φ) : 単位時間当たり |+ A/2i|2 × ~k/m 個の粒子が x の正方向に飛んで来る.

−A

2ie−i(kx+φ) : 単位時間当たり | − A/2i|2 × ~k/m 個の粒子が x の負方向に飛んで行く.

つまり,x < 0 の領域には,定常的にこのような入射ビームと反射ビームが存在する状態を表わすと考えるのである(定常散乱波).

フラックス (flux) 上で考えたような,単位時間当たりに(単位面積を通って)飛んでくる粒子の個数(向きも含める)のことを flux(流速)あるいは流れの密度と呼ぶ.今の場合,波動関数の絶対値の二乗を粒子数密度として解釈しているので,3.1.2 で考えた確率の流れの密度 j が今の場合の flux そのものである.実際,u = (±A/2i)e±i(kx+φ) を使って jx を計算すると,

jx =~

2mi

(u∗

du

dx− du∗

dxu

)= ±

∣∣∣∣±A

2i

∣∣∣∣2 ~k

m, (7.2.4)

が得られる.(7.2.2)の場合,単位時間当たりの入射粒子数と反射粒子数は等しいので,入射してきた粒子はすべて x = 0 のところで反射していることになる.すなわち,反射する確率(反射率, reflection rate)は 1である:

R =反射率 =|反射ビームの flux||入射ビームの flux| =

| − A/2i|2~k/m

|+ A/2i|2~k/m= 1.

[注意]上では波動関数の絶対値の二乗を粒子数密度という便宜的な解釈をした.量子力学ではルール違反のように思うかもしれない.このような散乱問題を量子力学的にきちんと扱うには,入射粒子に対する波束を考え,その(定常状態ではなく)時間発展を考えなければならない.実際に波束に基づいて議論することにより,上の便宜的な解釈で得られる結果の正しさが保証されるのである.(p.131 の<参考>を参照)

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 125

7.2.2 ポテンシャルによる散乱

こんどは,上と同じポテンシャルの壁に,エネルギー E > V0 > 0 で入射粒子が x の負側から正の方向に飛んでくる場合を考えよう.まず,前と同様にシュレーディンガー方

V0

x0

E

-?

6

-入射ビーム

¾ 反射ビーム

- 透過ビーム

図 7.4: 階段型ポテンシャルによる散乱 (E > V0)

程式を解く.

(step 1) 各領域での解を求める.

(x < 0 での解)  V = 0 より,E = ~2k2/2m (k > 0) とおけば,解は

u(x) = eikx + Ae−ikx, (x < 0) (7.2.5)

で与えられる.ただし,簡単のため入射波の fluxを ~k/m とした.

(x > 0 での解)  E − V0 = ~2k′2/2m (k′ > 0) とおけば,

u(x) = Beik′x + Ce−ik′x, (x > 0)

となる.しかし,第2項は x の正側から負の方向に入射してくる波を表すので,今の問題では存在しないはずの項である.すなわち,C = 0. したがって,

u(x) = Beik′x. (x > 0) (7.2.6)

(step 2) x = 0 で滑らかに各領域の解をつなぐ.x = 0 で,

u が連続 ⇒ 1 + A = B,

1

u

du

dxが連続 ⇒ ik(1− A) = ik′B.

(7.2.7)

126

これより,

A =k − k′

k + k′, B =

2k

k + k′. (7.2.8)

したがって,

R =反射率 =|A|2 · ~k/m

|1|2 · ~k/m=

(k − k′

k + k′

)2

, (7.2.9)

T =透過率 =|B|2 · ~k′/m|1|2 · ~k/m

=4kk′

(k + k′)2. (7.2.10)

特に透過率を求める際には,fluxで計算するため,入射波と透過波の速さの違いに注意しなければならないことがわかるだろう.こうしてはじめて全確率が1となるのである:

R + T = 1. (7.2.11)

7.3 ポテンシャルの山による散乱

7.3.1 トンネル効果

粒子が,x 軸負の側から正方向に飛んできて,

V (x) =

0 (x < 0)

V0 (x > 0)

0 (x > L)

(7.3.1)

なるポテンシャルの山にエネルギー E (0 < E < V0) で入射する場合を考えてみよう.前

V0

x0 L

E

-?

6

-入射ビーム

¾ 反射ビーム

- 透過ビーム

図 7.5: ポテンシャル障壁による散乱 (E < V0) :トンネル効果

と同様にシュレーディンガー方程式を解く.

(step 1) 各領域での解を求める:

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 127

(I) x < 0 での解.V = 0 より ~2k2/2m = E とおけば,解は

uI(x) = eikx + Ae−ikx, (x < 0) (7.3.2)

で与えられる.ただし,簡単のため入射波の fluxを ~k/m とした.

(II) 0 < x < L での解.V0 − E = ~2κ2/2m (κ > 0) とおけば,

uII(x) = Beκx + Ce−κx. (0 < x < L) (7.3.3)

(III) x > L での解.x > 0 のときと同じ k をつかうと,

uIII(x) = Deikx, (x > L) (7.3.4)

となる.ただし,この領域では透過波だけを考えているので,e−ikx の形の項は落としてある.

(step 2) x = 0 と x = L で各領域の解を滑らかにつなぐことにより,積分定数 A, B,

C, D を決定する:

x = 0 で u と du/dx が連続であることから,

1 + A = B + C, (7.3.5)

ik(1− A) = κ(B − C). (7.3.6)

x = L で u と du/dx が連続であることから,

BeκL + C−κL = DeikL, (7.3.7)

κ(BeκL − Ce−κL) = ikDeikL. (7.3.8)

これらの4つの式から A, B, C, D を求めることができる.特に興味あるのは,反射波と透過波の係数 A と D である.(7.3.7), (7.3.8)から B, C を D で表わし,それを (7.3.5), (7.3.6)に使えば A と D が求められる.κ×(7.3.7) ± (7.3.8) より,

2κBeκL = (κ + ik)eikLD,

2κCe−κL = (κ− ik)eikLD,

すなわち,

B =(κ + ik)

2κe−κLeikLD, (7.3.9)

C =(κ− ik)

2κeκLeikLD. (7.3.10)

128

一方,ik×(7.3.5) ± (7.3.6) より

2ik = (κ + ik)B − (κ− ik)C, (7.3.11)

2ikA = −(κ− ik)B + (κ + ik)C, (7.3.12)

であるから,これらに上の (7.3.9), (7.3.10)を代入すれば D および A が求まる:

D =4iκk eκL e−ikL

(κ + ik)2 − (κ− ik)2 e2κL, (7.3.13)

A =κ2 + k2

4iκk(eκL − e−κL) eikLD

=(κ2 + k2)(e2κL − 1)

(κ + ik)2 − (κ− ik)2 e2κL. (7.3.14)

D が求まれば,B, C も直ちに求められる:

B =2ik(κ + ik)

(κ + ik)2 − (κ− ik)2e2κL, (7.3.15)

C =2ik(κ− ik) e2κL

(κ + ik)2 − (κ− ik)2 e2κL. (7.3.16)

(step 3) 透過率,反射率を求める:

T =透過率 =|D|2 · ~k/m

|1|2 · ~k/m= |D|2

=

[1 +

(κ2 + k2)2

16κ2k2(eκL − e−κL)2

]−1

=

[1 +

V02

4(V0 − E)Esinh2 κL

]−1

. (7.3.17)

R =反射率 =|A|2 · ~k/m

|1|2 · ~k/m= |A|2

=

∣∣∣∣κ2 + k2

4iκk(eκL − e−κL) eikL

∣∣∣∣2

· |D|2

=

[1 +

16κ2k2

(κ2 + k2)2(eκL − e−κL)2

]−1

=

[1 +

4(V0 − E)E

V02 sinh2 κL

]−1

. (7.3.18)

(Remark 1) 透過率と反射率を足したものは全確率 1に等しい:

T + R = 1 (全確率). (7.3.19)

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 129

(Remark 2) 透過率の式から以下のことが読み取れる.

• ポテンシャルの山が高ければ高いほど透過率は小さい:

T → 0 as V0 →∞.

• ポテンシャルの壁が厚ければ厚いほど透過率は小さい:

T → 0 as L →∞.

• 特に V0, L ともに V0, L →∞ としたときは,

T ∼ 4E

V0

e−2κL =4E

V0

exp

[−2

~√

2m(V0 − E) L

]→ 0. (7.3.20)

• V0L =一定 として,V0 →∞, L → 0 ととすると(このとき κL → 0, したがって,sinh κL ∼ κL などから),

T ∼ 1V0

4E2mV0

~2 L=

2E~2

m(V0L)2. (7.3.21)

つまりこのときは山の断面積 V0L が T を特徴付けるパラメーターである.

(Remark 3) κL À 1 のとき,

|A| ∼ |C| ∼ 1,

|D| ∼ e−κL,

|B| ∼ e−κL|D| ∼ e−2κL,

であり,1 ∼ |A| ∼ |C| À |D| À |B|

が成り立つ.B は x = 0 からトンネル効果で x = L まで抜けた波が,もう一度逆にトンネルを抜けて x = 0 までもどった波の振幅と考えることができる.一回トンネルを抜けるたびに振幅は e−κL 倍になる.

7.3.2 E > V0 の場合の散乱

前と同様,粒子が x 軸負の側から正方向に飛んできて,

V (x) =

0 (x < 0)

V0 (x > 0)

0 (x > L)

(7.3.22)

130

V0

x0 L

E

-?

6

-入射ビーム

¾ 反射ビーム

- 透過ビーム

図 7.6: ポテンシャル障壁による散乱 (E > V0)

なるポテンシャルの山にエネルギーで入射する場合を考える.ただし今度は,粒子のエネルギー E がポテンシャルの山より高いものとする(E > V0).シュレーディンガー方程式は V0 > E のときの場合と全く同様に解ける:~2k2/2m = E とおけば,領域 I (x < 0) と領域 III (x > L) での解は前と全く同じである.~2k′2/2m = E − V0 とおけば,領域 II (0 < x < L) での解は

uII(x) = Beik′x + Ce−ik′x (7.3.23)

と表わされる.これば前の場合の uII(x) (7.3.3)において

κ → ik′ (7.3.24)

という置き換えをしたものに等しい.あとの計算も前と全く同様であるからA, B, C, D

も,トンネル効果の場合のもので上の置き換えを行なうことで答えを得ることができる.したがって,透過率と反射率は(sinh ik′L = i sin k′L などより),

T = |D|2 =

[1 +

{(ik′)2 + k2}2

16(ik′)2k2(eik′L − e−ik′L)2

]−1

=

[1 +

(k2 − k′2)

4k2k′2sin2 k′L

]−1

=

[1 +

V02

4E(E − V0)sin2 k′L

]−1

, (7.3.25)

R = |A|2 =

[1 +

4E(E − V0)

V02 sin2 k′L

]−1

, (7.3.26)

となる.

(Remark 1) V0 が負であっても上の式は成り立つ.

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 131

(Remark 2) 透過率の式から次のことが読み取れる:

• V0 に比べて E を大きくすると透過率は1に近づく.すなわち,E/V0 →∞ のとき T → 1.

• k′L = π, 2π, 3π, · · · のとき T = 1.

波長 λ′ = 2π/k′ を使えばこれは,L が半波長の整数倍のとき透過率=1といえる.(波束を入射させた場合,このような条件のもとではつぎのようになることが知られている:入射波束はポテンシャルのところまで飛んでくると,ポテンシャルの山(V0 > 0 のとき)あるいは谷(V0 < 0 のとき)のところでしばらくのあいだ留まり(共鳴状態),そのあとで x > L の領域にでてくる.)

7.3.3 <参考>波束の散乱

前のセクションで考えた階段型ポテンシャルによる反射を波束で考えてみよう.このときの定常解は (3.4.26)式で与えられた.それを uk(x) と書くことにする:

uk(x) =

A

2iei(kx+φ) − A

2ie−i(kx+φ) (x < 0)

A sin φ · e−κx (x > 0)

(7.3.27)

ただしここで,A は定数であり,k, κ, φ は

~2k2

2m= E,

~2κ2

2m= V0 − E, φ = − tan−1 k

κ, (7.3.28)

であった.uk(x) は時間を含まないシュレーディンガー方程式の解である.波束で考えるためには,時間を含むシュレーディンガー方程式の解を考えなければならない.対応する解は,uk(x) を使って

ψk(x, t) = e−iEt/~uk(x), (E = ~2k2/2m) (7.3.29)

と表される((??)参照).この ψk(x, t) をいろいろな k について重ね合わせたものが波束となる:

ψ(x, t) =

∫ ∞

−∞f(k′) ψk′(x, t) dk′. (7.3.30)

ここで f(k′) は k′ = k 付近(∆k 程度の幅内)でだけ値を持つ関数とする.簡単のためf(k′) は実数値とする.さてここで次の「おおざっぱな公式」を思い出そう(前期演習のプリント 27ページ参照).

132

f(k′) を上の関数として, θ(k′) を実数値関数とするとき,∫ ∞

−∞f(k′)eiθ(k′) dk′ ≈ 0

∣∣∣ ∂θ∂k′

(k) ·∆k∣∣∣ > 1 のとき

6= 0.∣∣∣ ∂θ∂k′

(k) ·∆k∣∣∣ >∼ 1 のとき

(7.3.31)

これは k′ = k 付近で θ(k′) が変動すれば eiθ(k′) が激しく振動して積分が打ち消されるからである.

x < 0 の場合に対して上の波束 (7.3.30)は,

ψ(x, t) =A

2i

∫f(k′) eiθ+(k′,x,t) dk′ − A

2i

∫f(k′) eiθ−(k′,x,t) dk′, (7.3.32)

とかける.ここで,

θ±(k, x, t) = ±kx± φ− ~k2

2mt (7.3.33)

である.上のおおざっぱな公式より,(7.3.32)の第一項が値を持つのは

∂θ+

∂k= x− ~k

mt +

∂φ

∂k≈ 0,

すなわち,

x ≈ ~km

t− ∂φ

∂k, (7.3.34)

のときである.同様に,(7.3.32)の第二項が値を持つのは ∂θ−/∂k ≈ 0 より,

x ≈ −~km

t− ∂φ

∂k, (7.3.35)

のときである.ここで ∂φ/∂k は,κ2 = 2mV0/~2 − k2 より ∂κ/∂k = −k/κ となるので,

∂φ

∂k= − ∂

∂ktan−1 k

κ= − 1

1 + k2

κ2

κ− k(−kκ

)

κ2= −1

κ(7.3.36)

であたえられる.これを使えば,結局,波束の中心の運動はつぎのように与えられる.すなわち,v = ~k/m とおくと,

入射波の波束の中心: x = vt +1

κ,

(t < − 1

)(7.3.37)

反射波の波束の中心: x = −vt +1

κ.

(t >

1

)(7.3.38)

ただし,今の場合 x < 0 のところを考えているから,上のように t の範囲が決まってくる.以上より t = 0 の前後をのぞけば, 定常解 (7.3.27) とは異なり,入射波束と反射波束が同時に存在することはない.

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 133

(Remark) 波束が x = 0 のところで反射するとき

∆t =2

vκ=

2m

~kκ

だけ時間がかかる.(1/κ ほどポテンシャルの壁の中に侵入するせい?)V0 →∞ では ∆t → 0 となり,このときは瞬間的に反射する.

7.4 井戸型ポテンシャルにおける束縛状態

7.4.1 無限に深い井戸型ポテンシャル

無限に深いポテンシャル

V (x) =

+∞ (x < 0)

0 (0 < x < L)

+∞ (L < x)

(7.4.1)

での束縛状態を考えよう.

-

∞ ∞

x0 L

図 7.7: 無限に深い井戸型ポテンシャル

(step 1) 各領域の解を求める.

(I) x < 0 のときV (x) = ∞ であるから uI(x) = 0.

(II) 0 < x < L のときV (x) = 0 であるから,E = ~2k2/2m とおくと,解は

uII(x) = A sin kx + B cos kx, (7.4.2)

と表される(A,B は定数).

134

(III) x > L ときV (x) = ∞ であるから uIII(x) = 0.

(step 2) 領域間で解を連続につなぐ.x = 0 で連続より,

uII(0) = 0 ⇒ B = 0.

x = L で連続より,uII(L) = 0 ⇒ sin kL = 0.

結局,許される k は,k =

L, (n = 1, 2, 3, · · · ) (7.4.3)

となる.

したがってエネルギー固有関数は

un(x) =

{A sin nπ

L x (0 < x < L)

0 (otherwise)(7.4.4)

であり,エネルギー固有値は次のような離散スペクトルになる:

En =~2

2m

(nπ

L

)2

. (n = 1, 2, 3, · · · ) (7.4.5)

(Remark) エネルギーの低い方から E1, E2, E3, · · · の固有値に対応する波動関数 un(x)

の節 (node)の数は,0, 1, 2, · · · となることに注意しよう.これは一般のポテンシャルの場合にもいえる.(節の数が多い ⇒ 「波長」が短い ⇒ 運動量が大きい⇒ エネルギーが大きい)

7.4.2 有限の深さの井戸型ポテンシャル

次に,有限の深さのポテンシャル

V (x) =

V0 (x < −L)

0 (−L < x < L)

V0 (L < x)

(7.4.6)

での束縛状態を考えよう.

(step 1) 各領域での解を求める.V (x) が偶関数であることに注目しよう.この場合はエネルギー固有関数は偶関数か奇関数かのどちらかである (p.52 参照).このことに注意してシュレーディンガー方程式を各領域で解くと,

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 135

-

6 V0

x

V

E

0−L L

図 7.8: 井戸型ポテンシャルによる束縛状態 (E < V0)

偶関数のとき:

u(x) =

Aeκx (x < −L)

B cos kx (−L < x < L)

Ae−κx (x > L)

(7.4.7)

奇関数のとき:

u(x) =

Aeκx (x < −L)

B sin kx (−L < x < L)

−Ae−κx (x > L)

(7.4.8)

となる.ここで,k (> 0), κ (> 0) は

E =~2k2

2m, V0 − E =

~2κ2

2m,

で与えられる.また,|x| > L の領域では |x| → ∞ のとき |u(x)| < ∞ となることを考慮した(たとえば, x < −L では x → −∞ で ∞ となる e−κx を捨てて eκx だけとした).

(step 2) x = ±L で解を滑らかにつなぐ.波動関数の対称性(偶 or 奇)より,x = L で滑らかにつなげば十分である( このとき x = −L のところでは自動的に滑らかにつながる).

偶関数のとき: x = L で

u(x) が連続 ⇒ B cos kL = Ae−κL, (7.4.9)

u′(x) が連続 ⇒ −kB sin kL = −κAe−κL. (7.4.10)

下の式 ÷ 上の式より(or (ln u)′ = u′/u の連続性より)

−k tan kL = −κ,

136

すなわち,(κL) = (kL) tan(kL). (7.4.11)

奇関数のとき: x = L で

u(x) が連続 ⇒ B sin kL = −Ae−κL, (7.4.12)

u′(x) が連続 ⇒ kB cos kL = κAe−κL. (7.4.13)

下の式 ÷ 上の式より(or (ln u)′ = u′/u の連続性より)

k cot kL = −κ,

すなわち,(κL) = −(kL) cot(kL). (7.4.14)

(7.4.11), (7.4.14) によって k の許される値が決まる.k と κ は定義から k-κ 平面での円の式

(kL)2 + (κL)2 =2mL2

~2V0, (7.4.15)

を満たすことに注意すると,k の取り得る値は (7.4.11) および (7.4.14) のグラフと円 (7.4.15) との交点から読み取ることができる.

O

κL

kL

L√

2mV0

~

κL = kL tan kL κL = kL cot kL

π/2 π 3π/2 2π図 7.9: とびとびの固有値をグラフで求める

グラフから次のことがわかる:

(i) 少なくとも一個は kL の許される値がある.その値を k1L とし,対応するエネルギーを E1 とすると,0 < k1L < π/2 より

0 < E1 <~2

2m

( π

2L

)2

. (7.4.16)

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 137

(ii) V0 が大きくなると(円の半径が大きくなって)交点の数が増える.したがって束縛状態の数も増える.

(iii) kL の値が離散的なので,エネルギー固有値も離散的.

(iv) V0が大きくて,交点が複数個あるとする.そのときのkLの値を下から順に,k1L, k2L, k3L, · · ·とすると,

(n− 1)π

2< kn <

2, (n = 1, 2, 3, · · · ) (7.4.17)

が成りたつ.したがって,n 番めの状態の節の数は n− 1 個であり,波動関数は n

が奇数のとき偶関数,偶数のとき奇関数である.特に,基底状態 (n = 1)は節の数が0個であり,偶関数である.

7.4.3 [例題]

ポテンシャルが

V (x) =

+∞ (x < 0)

0 (0 < x < L)

V0 (L < x)

(7.4.18)

での束縛状態を考えよう.x = 0 で波動関数がゼロということから,解は

-

V0

x

E

0 L

図 7.10: 左右非対称な井戸型ポテンシャル

u(x) =

0 (x < 0)

A sin kx (0 < x < L)

Be−κx (x > L)

(7.4.19)

の形をしていることがわかる.ただし,k (> 0), κ (> 0) は

E =~2k2

2m, V0 − E =

~2κ2

2m,

138

である.x = L での波動関数の連続性を考えると:

u が x = L で連続 ⇒ A sin kL = Be−κL, (7.4.20)

(ln u)′ が x = L で連続 ⇒ k cot kL = −κ. (7.4.21)

これは,左右対称な井戸型ポテンシャルの問題で,波動関数が奇関数となる場合に等しい. 特に, (2mL2/~2)V0 ≥ (π/2)2 のときは,束縛状態は存在しない.V0 が十分に大きいときはm 番目の状態の k の値は

(2m− 1)π

2< kL < mπ (7.4.22)

を満たす.

7.4.4 [例題]デルタ関数型ポテンシャル

ポテンシャルV (x) = −aδ(x) (a > 0) (7.4.23)

内での束縛状態を考えよう.これは有限の深さの左右対称井戸型ポテンシャル (pp.66–69)

で,深さ×幅を一定として,深さ無限大の極限をとったものと考えることができる.この時,2LV0 = a =const. V0 →∞, L → 0 であるから,円の方程式 (3.4.88)における円の半径は,

√2mL2V0/~ ∼

√maL/~→ 0 となる.したがって,p.68の図の交点は一個だけ

となり基底状態だけが束縛状態として許されることがわかる.この極限をとることによって,解を求めることができるが,ここでは,以下のように直接求めてみよう.シュレーディンガー方程式は,(E < 0として)

− ~2

2m

d2u

dx2− aδ(x)u(x) = Eu(x). (7.4.24)

である.x 6= 0ではポテンシャルはゼロである.そこで,x < 0 と x > 0 の各領域で解を求めよう.波動関数は偶関数であるので,~2κ2/2m = −E (κ > 0) とおくと,

u(x) =

{Aeκx (x < 0)

Ae−κx (x > 0)(7.4.25)

と書ける.ここで,符号関数 ε(x)を導入しよう:

ε(x) =

{−1 (x < 0)

+1 (x > 0)(7.4.26)

ε(x)は x = 0 で 2だけジャンプする階段型の関数であるから,その導関数は 2倍のデル

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 139

−1

0

1

x

ε(x)

-

6

図 7.11: 符号関数 ε(x)

タ関数になる:dε(x)

dx= 2δ(x). (7.4.27)

この階段型関数を使うと上の u(x)は全領域で

u(x) = Ae−κε(x)x (7.4.28)

と表すことができる.このとき,

du

dx=

d

dx{−κε(x)x}Ae−ε(x)x

= {−κ 2δ(x) x− κε(x)}Ae−ε(x)x

= −κε(x)Ae−ε(x)x

= −κε(x)u(x).

ここで,公式δ(x) x = 0 (7.4.29)

を使った.そこで,{ε(x)}2 = 1 (7.4.30)

に注意してもう一回微分すると,

d2u

dx2= −κ

dxu(x)− κε(x)

du

dx= −κ 2δ(x)u(x)− κε(x){−κε(x)u(x)}= −2κδ(x)u(x) + κ2u(x).

これを,シュレーディンガー方程式に代入すると,

−~2κ2

2mu(x) +

(− ~

2

2m(−2κ)− a

)δ(x)u(x) = Eu(x) (7.4.31)

140

となる.デルタ関数の項の係数をゼロとおくことにより,κ が

κ =ma

~2(7.4.32)

と決まる.したがって束縛状態の波動関数は

u(x) = A exp[−ma

~2ε(x)x

](7.4.33)

であり,エネルギーは

E = −~2κ2

2m= −ma2

2~2(7.4.34)

で与えられる.

7.4.5 <参考>WKB近似 (準古典近似)

ポテンシャル V (x)内をエネルギーEの粒子が運動している場合を考える.古典的には,粒子の運動量 pは,例えば正方向に進むとすれば, p(x) =

√2m(E − V (x)) で与えられる.

この p(x)を使って時間を含まないシュレーディンガー方程式を書けば,

−~2d2u

dx2= {p(x)}2u(x) (7.4.35)

となる.V =一定 のときは pも一定で,解は簡単に求まる:

u = Ae±ipx/~.

これはド・ブロイ波そのものである.V が一定でなくしたがって pも一定でないときはどうであろうか.このときに,強引にド・ブロイの関係を使えばド・ブロイ波長自身が xに依存することになる.(このようなややこしい場合でも扱えるようにしたのがシュレーディンガー方程式であった.)しかし,V の変化が非常にゆるやかであるとすれば,pもほぼ一定(したがって,ド・ブロイ波長もほぼ一定)と考えてよい.このときは近似的な解として,

u(x) = A(x) exp

[± i

~

∫ x

x0

p(x′) dx′]

, (7.4.36)

が期待される.ここで,振幅Aも緩やかに変化するものとした.A(x)を決めるには,flux=

一定,すなわち,|u|2 p

m= |A|2 p

m= const.

と考えることにより,

A(x) ∝ 1√p(x)

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 141

と決まる.まとめると,(7.4.35)式の独立な二つの近似解は,

u(x) =const.√

p(x)exp

[± i

~

∫ x

x0

√2m(E − V (x′)) dx′

](7.4.37)

となる (WKB近似,Wentzel-Kramers-Brillouin or WKB approximation).上ではE > V (x)の場合を考えたが,WKB近似は E < V (x)のときにも使える.(7.4.37)

式において,p(x) = i

√2m(V (x)− E) = i|p(x)|

とすればよい.したがって,このときは

u(x) =const.√|p(x)| exp

[± 1

~

∫ x

x0

√2m(V (x′)− E) dx′

](7.4.38)

となる.これら (7.4.37), (7.4.38)が本当に近似解であるかどうかを確かめるには,これらの式を

(7.4.35)に代入してみればよい.実際,~2のオーダーを無視すれば解であることがわかる.このことからWKB近似は (~を小さいとして)~の 1次までの近似であり,準古典近似といえる (~の 0次は古典論に対応する).

WKB近似が成り立つにはド・ブロイ波長 λ = h/p程度の範囲で V がほとんど一定であることが必要である.したがって特にE = V (x)となる点 (回帰点, turning point)付近では (λ = ∞であり)WKB近似は適用できない.

7.4.6 <WKB近似の応用>

(1) トンネル効果

x

E

a b

I II III

図 7.12: トンネル効果

142

図のようなポテンシャルの山を透過する場合を考える.入射ビームの振幅は領域 IIにおけるWKB解,

u ∼ exp

[−1

~

∫ x

a

|p(x′)| dx′]

(7.4.39)

にしたがって急激に減少する.ポテンシャルの山をぬけた点では,振幅はほぼ

exp

[−1

~

∫ b

a

|p(x)| dx

](7.4.40)

倍に減少していると考えられる.透過率 T は |振幅 |2に比例するから,

T ∼ exp

[−2

~

∫ b

a

|p(x)| dx

]= exp

[−2

~

∫ b

a

√2m(V (x)− E) dx

]. (7.4.41)

(2) 束縛状態図のようなポテンシャルによる束縛状態を考える.領域 IIのWKB解は (7.4.38)式の二

x

E

a b

I II III

図 7.13: 束縛状態

つの解の重ね合わせである.領域 Iと IIIでは急激に減少するので,簡単のためそこでは0としよう.したがって領域 IIでの近似解も x = a, bで 0になるとする.x = aで 0となるWKB解は,

u(x) =const.√

p(x)sin

[1

~

∫ x

a

p(x′) dx′]

(7.4.42)

である.これが x = bでも u = 0となるためには,

1

~

∫ b

a

p dx = nπ, (n = 1, 2, 3, · · · ) (7.4.43)

量子力学A演習 (2004年度前期のつづき) 143

でなければならない.あるいは,この積分を往復で行うと,∮

p dx = 2π~ · n = nh, (n = 1, 2, 3, · · · ) (7.4.44)

となる.これはBohr-Sommerfeld の量子化条件にほかならない.(7.4.42)からわかるように量子数 nに対応する波動関数 uの節の数は n− 1であることがわかる.