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18 調査季報 vol.177・2015.12 ■ 使《3》 サンハートあさひ名画座プロジェクト ビブリオ・アパルトマン

⑥ 「つながりづくりは、つながりたい人を見つけて、つながりた … · 利害がなくなれば関係がつながりになってしまいまそうでないと利害関係だけのることが重要だと思います。

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Page 1: ⑥ 「つながりづくりは、つながりたい人を見つけて、つながりた … · 利害がなくなれば関係がつながりになってしまいまそうでないと利害関係だけのることが重要だと思います。

18 調査季報 vol.177・2015.12 ■

は参加者の方に一緒に企画す

る仲間になってもらいたいと

いうねらいもあり、すでにそ

ういう方がいらっしゃいま

す。このように人と人をつな

げる工夫は常に考えています。

 

この活動以外にも、短編映

画づくりを通して地域の魅力

を発見する「映画づくりワー

クショップ」、アパート丸々

一棟を使ったブックイベント

「ビブリオ・アパルトマン」、

今年度の新たな活動として

は、読書愛好者のつながりづ

くりを目指す「読書人ネット

ワークプロジェクト」、ヨコ

ハマアートサイトという助成

事業にも採択された「白根通

り作曲プロジェクト」などが

あります。

 

このように並べて見ると何

をやっているのかよくわから

ないと感じられるかもしれま

せんが、私の中では人と人を

つなげる活動ということで一

貫しています。

強いつながりだけでなく、弱

いつながりも~つながりをつ

くる手法

 

人と人をつなげるといいま

したが、正確には、つながり

たい人を見つけて、つながり

たい人同士をつなげるという

ことですね。無理やりこの人

とこの人をつなげようとする

のではなくて、つながりたい

人同士をつなげているだけで

す。選択権のないつながりも

ありますが、つながりは選び

たいし選んでいいと私は思っ

ています。だから、そういう

中でつながりたいという人同

士をつないであげるというこ

とがより必要とされていると

思います。もう少し具体的に

言うと、社会的地位とか立場

が違うのでつながりにくいと

思っていても、実は少し自己

紹介すると、趣味が一緒で意

気投合することもあります。

ですから、自分で行うワーク

ショップという手法の中では

自己紹介を重視しています。

お互いが何者であるかという

社会的地位以上にその人自身

がどんな人間かということを

お互いに開示する機会をつく

ることが重要だと思います。

そうでないと利害関係だけの

つながりになってしまいま

す。利害がなくなれば関係が

壊れてしまうというのではな

くて、利害を越えてつながり

をつくっていくことを意図し

ている、もしくは工夫してい

旭区に住む理由

~さまざまなつながりづくり

 

私は現在自分が住む旭区を

拠点として「旭区まちづくり

ポット」という団体を立ち上

げ活動しています。なぜ旭区

に住んだのかというと、知り

合いが多く、生活を豊かにで

きる関係がそこにあったから

です。開港150周年を記念

したイベントで、会場がズー

ラシアの現サバンナゾーンに

あったのですが、そこででき

た旭区の方々とのつながりが

人生の中でプラスになると思

えたことが大きな理由です。

 

現在旭区内で私が関わって

いる活動がいくつかありま

す。旭区民文化センター「サ

ンハート」の区民企画委員と

して参加している「サンハー

トあさひ名画座プロジェク

ト」は、映画上映会と交流会

を組み合わせた企画で、好評

をいただきすでに5回実施し

ています。旭区には残念なが

ら映画館は1館もないので、

なければつくればいいじゃな

いかという発想からスタート

しています。実はこの活動に

特集

《3》 

横浜でつながりを創る人々に伺う

⑥ 

映画、音楽、読書…様々な分野からのアプローチ

  「つながりづくりは、つながりたい人を見つけて、つながりたい人同士をつなげること」

地域の中の「コミュニティデザイナー」はいかに生まれるか

サンハートあさひ名画座プロジェクト

ビブリオ・アパルトマン

沼田 

真一

さん

 

旭区まちづくりポット代表、ビッ

グバン・ヌマ株式会社代表取締役、

旭区民文化センター「サンハート」

区民企画委員

 

まちづくりや人のつながりについ

て研究し、勉強会、交流会、実践プ

ロジェクトなどを通して旭区のまち

づくりを進める活動を展開している。

田中 

昭彦

旭区区政推進課地域力推進担当係長

小山 

敬之

旭区区政推進課地域力推進担当

武田 

あすか

旭区区政推進課地域力推進担当

聞き手

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19■ 特集・地域の中の「コミュニティデザイナー」はいかに生まれるか

るのかもしれません。

 

地縁に根ざし生活に密着し

た、いわゆる「強いつながり」

はすでに自治会町内会がつ

くっているのでそれで十分か

と。私は、もう少し「弱いつ

ながり」というものをつくっ

ていくことが求められている

と思っています。「強いつな

がり」は絶対に必要です。特

に防犯という観点からも

「知っている」関係をつくる

ということは安心安全なまち

をつくるためには不可欠で

す。その一方で、新しい未来

をつくっていくということに

なると、開放的でかつ弱い、

要するに「よく知らない人」

かもしれないけど、新しい知

識や技術を持っている人が出

入り可能な環境が必要です。

さもないと、まちは変わら

ず、現状維持で精一杯にな

り、減退し減衰し、滅んでい

くのではという危機感があり

ます。それは震災復興の仕事

で強く感じることでもあるの

です。

まちの映画館を復活させる

~小さくて大きな成功体験

 

現在の活動のきっかけに

なったのは、大学時代にプロ

ジェクトリーダーとして関

わった「早稲田松竹復活プロ

ジェクト」になると思いま

す。当時から映画が好きだっ

たこともありますが、都市計

画を専攻しており、起業する

仲間のネットワークがありま

した。そんな中、大学近くの

映画館が休館してしまったの

です。映画館があることに

よって地域の人たちが集って

くる機能、個人的体験を共有

する文化を失ってはいけない

と思いました。それをうまく

復活させることはできないか

ということでプロジェクトを

立ち上げました。結果復活

し、メディアにも注目してい

ただき、自分の小さくて大き

な成功体験になりました。自

分の研究領域と趣味領域と実

際にビジネスという領域をつ

なぎながら、一つの目的を達

成していくことがうまくでき

たので、達成感、充実感が非

常に高かったです。そういう

ことをもっとやっていきたい

なとその時思いました。た

だ、応援してくれる人や仲間

がいたのは大きかったです。

是非一緒にやろうという仲間

がいなければ一人ではやらな

かったでしょうね。

ある時は社長、ある時は団体

の代表、ある時は研究者~い

ろいろな立場を越境する

 

私は「旭区まちづくりポッ

ト」というNPO団体の代表

以外に、まちづくりのプラン

ニングなどを行う「ビッグバ

ン・ヌマ株式会社」の社長と

して仕事もしています。会社

の社長だったり団体の代表

だったり大学の研究者であっ

たり、それぞれの肩書きに

よってそれぞれの場面でコ

ミュニケーションが変わって

くるというのは正直ありま

す。いい関係がつくれたり、

あまりいい関係にならなかっ

たり、それぞれです。それぞ

れの場面で一番いい関係にな

るよう立場を使い分けること

もします。

 

ある種いろいろな立場を

行ったり来たりするというこ

とがコミュニティデザイナー

には必要ではないかと思って

います。例えば、防潮堤をつ

くるにも市民、建設業者、行

政と、それぞれの立場がある

と思いますが、ずっと同じ立

場にいるとその立場からしか

物事が見渡せなくなります。

そうなってしまうとコミュニ

ティデザインはできないと思

うので、いろいろな立場を持

つことがコミュニティデザイ

ナーとしては重要だと思いま

す。一言でかっこよく言う

と、コミュニティデザイナー

に必要なのは「越境する力」

ですね。いろいろな人がいろ

いろな立場で仕事や生活をし

ていることを想像し理解した

上で、「じゃあどういうふう

にしていったらいいのか」と

いうことを考える場をつくり

出す力が必要だと思います。

「ソーシャル・キャピタル」

をつくる~活動の方向性を決

めた概念

 

社会の信頼関係、規範、ネッ

トワークの重要性を説明する

「ソーシャル・キャピタル」

という概念があります。この

言葉自体に出会ったのは、2

005年の「愛・地球博」の

企画に携わった時です。ある

文献を読んでいてこの言葉に

出会った時の衝撃が大きかっ

たです。つまり自分がやって

いることや考えていることを

解説してもらった気がしたの

です。この言葉の魅力、概念

の魅力というものにすごく惹

かれました。それで大学院で

研究することにしました。

 

今の自分の活動、仕事を包

括する言葉として非常にしっ

くりくる言葉です。イベント

をしているのではなくてソー

シャル・キャピタルをつくっ

ているということの方が、自

分の仕事、活動に納得できた

のです。ソーシャル・キャピ

タルという言葉自体には、た

くさん論文があります。それ

を信頼だと言う人もいれば、

つながりだと言う人もいる

し、いろいろな言い方がある

訳ですが、どちらかというと

それをどうつくるのかという

ことが私の興味のあるところ

なのです。ソーシャル・キャ

ピタルをどうつくるのかとい

うことが、私の活動そのもの

ですね。

【インタビューを終えて】

 

私の経験からすると、都市

づくりは、まずインフラの整

備からと考えていました。東

日本大震災以降、人と人のつ

ながりの大切さが見直されて

きたように思います。今回も

そのような話が中心になりま

したが、行政も、このような

視点を取り入れていかなけれ

ばと改めて思いました。(田中)

 

つながりは強制的なもので

はなく「選ぶ」もの、コミュ

ニティデザインにはあらゆる

立場の方の考えを理解するこ

とが必要との考え方に感銘を

受けました。聞き手として未

熟でしたが、ひとつひとつの

質問に丁寧にお話いただきあ

りがとうございました。(小山)

 

つながりづくりはまず趣味

や興味から始まり、自分自身

が楽しめ、継続する。「好き」

こそが最大の原動力なのでは

ないでしょうか。(武田)