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1 AFMによる細胞の局所弾性計測および 液中原子分解能計測 埼玉大学大学院理工学研究科 戦略的研究部門ライフ・ナノバイオ領域 助教 小林成貴 2018年7月12日 JST新技術説明会

AFMによる細胞の局所弾性計測および 液中原子分解能計測3 AFMによる細胞力学(硬さ)計測 フォースカーブ (力vs. カンチレバーの変形量)

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AFMによる細胞の局所弾性計測および液中原子分解能計測

埼玉大学大学院理工学研究科

戦略的研究部門ライフ・ナノバイオ領域

助教 小林成貴

2018年7月12日JST新技術説明会

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AFMによる細胞力学(硬さ)計測

Ramos et al., Beilstein J. Nanotechnol. 5 (2014) 447.

探針を試料に押し込ませると、

細胞は変形し、カンチレバーはたわむ(探針に力がかかる)

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AFMによる細胞力学(硬さ)計測

フォースカーブ(力 vs. カンチレバーの変形量)

ヘルツの接触理論

Etip, Esample: ヤング率(縦弾性係数)νtip, νsample: ポアソン比α: 半頂角

ヘルツ接触式フォースカーブに対して

ヘルツ接触式でフィッティング

試料のヤング率(硬さ)

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がんの転移能と細胞の硬さの関係

Watanabe, Suganuma et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 138 (2012) 859.Watanabe, Suganuma et al., Int. J. Cancer, 134 (2014) 2373.

がんの転移性とがん細胞の硬さの関係

転移性の高いがん細胞ほど柔らかい

緑茶カテキンによる転移抑制

がんの転移性は細胞の硬さと大きく関係している

緑茶カテキンの添加がん細胞の硬化

がんの転移の抑制

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従来法

・ひとつの細胞(フォースカーブ)に対してひとつのヤング率を取得

・ヘルツ理論では試料の硬さを均一と仮定

細胞の種類・状態が違っていても、ヤング率が同じ値を示すと、それらを区別することができない

従来のAFM細胞力学(硬さ)計測の欠点

試料変形方向に対する局所的な硬さの解析が重要

細胞 → 不均一な硬さを持つ物体細胞硬化処理 → 局所的な硬化

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新規硬さ解析方法のアイデア

フォースカーブをある区間ごとに分割し、各区間のヤング率を求めることで、変形方向に対する細胞の硬さの局所的な変化を評価できる。

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新規硬さ解析方法の概要①

・接触点から最も押し込んだ位置までを解析区間

・解析区間を接触点から任意の値( Δd )で等間隔に分割

(※最後の区間は必ずしもΔdとはならない)

・各区間(δi)をヘルツ式でフィッティングし、ヤング率(Ei)を取得

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強度マップ

新規硬さ解析方法の概要②

・複数の細胞上でフォースカーブを取得し、同様の解析を行う

・区間(δi)で得られたヤング率の(相対)度数分布を作成する

・各区間の(相対)度数を強度マップで表示させる

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細胞:ヒト非細胞肺がん(H1299) 細胞処理:

①未処理②AXLの発現を抑制したもの③緑茶カテキン(EGCG)を添加したもの④mβcdを添加したもの⑤クルクミンを添加したもの※②~⑤の処理はH1299細胞を硬化することが既に確認されている。

フォースカーブ測定:・探針に0.5 nNの力がかかるまで細胞を押し付ける・1つの細胞につき、核付近の異なる16箇所で測定・この測定を各種細胞につき、20個の細胞に対して測定(各種細胞につき320本のフォースカーブ測定を取得)

解析:・変形区間を接触点からΔd=50 nmごとに分割・各区間のフォースカーブを接触点を通過するヘルツ接触式でフィッティング・強度マップは相対度数(分母:全フォースカーブ数)で表示

実施例:測定条件

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従来法:1.35 kPa

実施例:未処理のH1299細胞

500 nm ~ 1 μmの変形領域に、硬さ1.2 ~ 1.6 kPaの細胞が多く分布している。

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従来法:2.91 kPa

実施例:緑茶カテキンを添加したH1299細胞

600 nm ~ 800 nmの変形領域に、硬さ2.8 ~ 3.2 kPaの細胞が多く分布している。

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実施例:siAXL処理したH1299細胞

300 nm ~ 600 nmの間に、硬さ4.0 kPa前後の細胞が多く分布している。

従来法では、EGCG添加した細胞とsiAXL処理した細胞の硬さは同じであるが、硬さ分布だと大きな違いがみられる。

従来法:2.91 kPa

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従来法:3.76 kPa

実施例:mβcd処理したH1299細胞

500 nm ~ 700 nmの間に、硬さ4.0 kPa前後の細胞が多く分布している。

細胞の硬さのばらつきが少なく、同じ力でもせいぜい1.3 μmの変形しか起こらない。

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従来法:1.84 kPa

実施例:クルクミンを添加したH1299細胞

500 nm ~ 800 nmの変形領域に、硬さ2.4 kPaの細胞が多く分布している。

未処理に比べて硬く、mβcdを添加した細胞と同様、硬さのばらつきが少ない。

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液中周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)

AFMの原理 FM-AFMの原理

・高い力検出感度

・精密な探針-試料間距離制御

⇒液中での原子分解能イメージング

マイカの液中原子像

1 nm

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10 nm

FM-AFMによるバイオイメージング

脂質二重膜(モデル細胞膜) コラーゲン三重らせん

コラーゲンの構造モデル

5 nm

化学品メーカーとの共同研究

2 nm

リン脂質分子の個々の頭部を分解して観察

リン脂質の頭部

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FM-AFMによる3次元力分布計測

探針

従来のAFM

Fukuma et al. PRL 104 (2010) 016101.

3次元走査型力顕微鏡

探針を3次元に走査し、各位置における探針-試料間相互作用力を記録することで、相互作用力の3次元空間分布を可視化できる。

FM-AFMと組み合わせることで、サブナノスケールでの力分布計測が可能となる。

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サブナノスケール水和構造計測

炭酸カルシウム結晶-水界面

局在した水分子の層を明瞭に直接可視化できる。

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まとめ:新技術の特徴・従来技術との比較

新規細胞力学計測

従来:細胞全体の平均的な硬さを測定

新規:細胞の変形方向に対する局所的な硬さを測定

→従来法では区別できない細胞の種類・内部状態を区別できる。

原子分解能計測

・従来の液中ナノ計測技術と比べて非常に高い空間分解能をもち、単

一原子・分子レベルでの表面構造観察が可能

・固液界面に形成される水和構造のサブナノスケール直接観察も可能

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想定される用途

新規細胞力学計測

・正常細胞との比較によるがん細胞の状態の詳細解析や悪性度診断

・がんの転移を抑制する薬剤・細胞処理法の効果検証

・細胞に限らず、不均一な弾性体の構造解析

原子分解能計測

・脂質膜やタンパク質など各種バイオ試料の高分解能イメージング

・タンパク質表面の水和構造計測と構造・機能との相関

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新規細胞力学計測

・細胞の状態や細胞のどの部分を詳細に調べたいか、など状況に応じ

た測定方法・解析プログラムの検討

・検証事例数の増大(データベース化)

・細胞以外の不均一弾性体への応用

原子分解能計測

・バイオ試料を対象とした水和構造計測法の確立

実用化に向けた課題

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新規細胞力学計測に関しては、検証事例をさらに増やし、本技術を

改善していきたいと思っています。「硬さ」という物理指標を観点

としたアプローチによる細胞の研究に興味のある企業との共同研究

を希望します。

原子分解能計測に関しては、基礎研究・応用研究に限らず、原子・

分子レベルでの生体分子構造・生体機能の解析に興味のある企業と

の共同研究を希望します。

企業の方々への期待

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発明の名称

細胞の弾性特性を解析する方法,解析システム,細胞の弾性特性を可視化する方法およびプログラム

出願番号

特願2017-179265

出願人

埼玉大学

発明者

小林成貴,吉川洋史,菅沼雅美,中林誠一郎

本技術に関する知的財産権

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産学連携の経歴

2010年-2014年

博士研究員として各種企業様との共同研究に参加

2017年-現在

化学品メーカー(1社)と共同研究実施中

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埼玉大学

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FAX: 048-858-9419

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