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Agilent Technologies E4991A RFインピーダンス/マテリアル・ アナライザ RFインピーダンス測定の可能性を切り開く 次世代のアナライザ登場 Product Note E4991A-1

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Agilent Technologies E4991ARFインピーダンス/マテリアル・アナライザRFインピーダンス測定の可能性を切り開く次世代のアナライザ登場

Product Note E4991A-1

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はじめに

移動体通信機器やディジタル電子機器などの動作周波数が高周波へと移行している現在、電子部品の開発のみならず機器設計においても、電子部品のインピーダンスを幅広い周波数帯で評価することの重要性がますます高まっています。E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザが提供する3 GHzの測定周波数範囲では、W-CDMA、Bluetooth、そしてワイヤレスLANなど、これからの需要が大きく期待されるアプリケーションがカバーされるため、将来にわたるインピーダンス測定要求を十分に満足させる製品となっています。

本プロダクトノートでは、以下の内容についてご説明いたします。

1. E4991Aの製品概要説明2. RF帯におけるチップ部品評価の

問題点と解決策3. E4991Aが提供する効率的な測

定環境について

E4991Aの概要

3 GHzまでの高確度インピーダンス測定E4991Aでは、RF帯のインピーダンス測定方法として実績の高い、RF I-V法を採用しています。図1に示すように、3 GHzまでの周波数範囲にわたり、広いインピーダンス測定を実現しています。RF I-V法とは、DUTに印加された電圧、および電流値を直接測定してインピーダンスを測定する方法で、ネットワーク・アナライザの反射係数法と比較し、より高確度で広範囲なインピーダンス測定を実現しています。

図1 インピーダンス測定範囲

さらに、E4991Aでは位相測定確度を向上させるために、オープン、ショート、50 Ω標準器に加えて、低損失キャパシタを使用した校正を行うことができます。低損失キャパシタ標準器により、インピーダンス平面上に-90度の位相標準を定義することで位相の測定確度を

向上させています。このため、非常に高いQ値をもつようなインダクタ、あるいは非常に低いESR(等価直列抵抗)値を持つようなキャパシタなどの測定を、高確度に行うことが可能になります。(図2参照)さらに、E4991Aに標準で付属する校正キットに含まれるトルク・レンチを使用することで、各種校正標準器の締め付けを一定トルクで行うことが可能になりました。これにより、エンジニアによる校正のバラツキを最小限にとどめることができます。特に、手で締めた場合と比較して、ショート校正時における標準器とテスト・ヘッドの接触が安定するため、ショート残留分の補正を再現性よく行うことができます。このため、微小インピーダンス測定時の再現性が、従来の方法と比較して向上します。

図2 Qの測定確度(代表値)

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豊富な掃引機能E4991Aは周波数だけでなく、信号レベル(電圧または電流)、およびDCバイアス注)(電圧または電流)を設定範囲内において自由に変化させ、デバイスに印加することが可能です。このため、実際に使用される条件下でのデバイス評価を容易に行うことが可能になります。また、レベル・モニタ機能により、デバイスに実際に印加されている電圧および電流をモニタできるので、最適な印加信号レベルにおけるデバイス評価を行うことが可能です。さらに、より測定効率を高めるための機能として、セグメント掃引機能が標準で搭載されています。セグメント掃引では、1回の掃引を最高で16セグメント(区間)に分割し、各セグメントごとに、周波数範囲、測定ポイント数、DCバイアス・レベル(電圧/電流)、テスト信号レベルなどをそれぞれ独立に設定することができます。これにより、複数の周波数ポイントにおける測定を行う場合、測定の最初に必要な周波数セグメントの設定をするだけで、手間のかかる測定を1回の掃引で行えるため、測定効率が大幅に向上します。

部品選別に最適なマーカ・リミット機能近年、携帯電話やディジタル電子機器に求められる性能もより高度なものとなり、仕様の厳しい回路においては、量産部品の中でも特に性能の良い部品を選別して使用するようなケースも多

いようです。こうした部品選別の効率改善に貢献するのが、マーカ・リミット機能です。マーカ・リミット機能とは、図3に示すようにマーカを置いた任意の点(最大9点)において、最大値と最小値を設定することができ、各設定ポイントの測定データが設定範囲に入るか、入らないかで自動的に部品選別の良否判定を行う機能です。この機能を使用することで、自動計測はもとより、手動による部品選別の時間短縮にも大きく貢献します。

高周波でのデバイスモデリングE4991Aに標準機能として内蔵されている等価回路解析機能を使用することで、簡単に電子部品の等価回路パラメータを抽出できます(図4参照)。この機能には、キャパシタ、インダクタ、抵抗、そして振動子など、一般的に使用されている電子部品の代表的な5つの等価回路モデルが用意されています。等価回路解析機能では、測定結果より得られたデバイス・パラメータを使用して選択した等価回路モデルの各素子の値を計算して求め、その値によるシミュレーション特性を実測値に重ねあわせて比較表示することが可能です。また、任意のデバイス・パラメータを選択した等価回路の各素子に入力することで、測定データにカーブ・フィットをかけることもできます。これにより、デバイス設計時に求めた等価回路素子の理論値と、実測値の比較を簡単に行えるので、デバイス設計時におけ

る各素子のパラメータ変更が容易に行えるようになります。

高周波で使用するデバイスのモデリングにおいては、ADS(Advanced DesignSystem)のようなEDA(ElectronicDesign Automation)ツールを使用するケースが一般的になりつつあります。E4991Aは測定データより計算した1ポート、あるいは2ポートのSパラメータをCITIFILEフォーマットで保存できるため、ADSのような各種シミュレーション・ツールに簡単にデータを受け渡すことができます。Sパラメータは、次の計算式に基づきE4991Aの内部で計算され、それぞれのモデル(図5参照)を選択して保存できます。

2ポートモデル:2ポートSパラメータ

Series-throughモデル、またはShunt-throughモデルの選択が可能。

Series-throughモデルS11 = S22 = ( Z ) / ( Z + 2 Z0 )S12 = S21 = ( 2 Z0 ) / ( 2 Z0 + Z )

Shunt-throughモデルS11 = S22 = –( Z0 ) / ( Z0 + 2 Z )S12 = S21 = ( 2 Z ) / ( 2 Z + Z0 )

Z :測定したインピーダンス値Z0 :特性インピーダンス値

注)オプション001が必要となります。

図3 マーカ・リミット機能 図4 チップ・インダクタの等価回路解析

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一般的には、ストリップライン上に乗せたデバイスをネットワーク・アナライザで測定した 2ポートSパラメータが、デバイス・パラメータのライブラリとして提供されるケースが多いのですが、ストリップライン等の特性が影響するため、条件が特定されてしまいます。これに対し、インピーダンスより求めたSパラメータは、部品単体の理想値 に近く、実装状態をユーザがモデル化できるというメリットがあります。

図5 デバイス・モデル

再現性の良いテスト・フィクスチャを用意最近の電子機器の小型軽量化、および低消費電力化に伴い、内部で使用されている電子部品のサイズも年々小型化が進んでいます。そのため、超小型SMD(Surface Mount Device)を高確度に再現性良く測定することが非常に困難になってきています。こうした問題を解決するために、E4991Aにはさまざまな種類のSMD用テスト・フィクスチャが用意されています。具体的な製品に関しては、後ほどご紹介いたします。

RF帯におけるチップ部品評価

最近のチップ部品は、携帯電話やWireless LANなど、RF帯のアプリケーションで使用されることが多くなってきています。そのため、実際の動作周波数や動作状況下でのチップ部品評価の重要性が非常に高まっています。ここまでの説明では、E4991Aの機能を中心に行ってきましたが、これ以降は特にRF帯におけるチップ部品評価の具体例についていくつかご紹介します。

各種チップ部品評価はじめに、各種チップ部品評価における共通したいくつかの問題点と、解決策についてご紹介します。

インピーダンス測定における問題点高周波におけるインピーダンス測定では、ネットワーク・アナライザの反射係数法を用いた測定が一般的に行われています。しかしながら、反射係数法

を用いたインピーダンス測定では、50 Ωから大きく外れた高インピーダンス(200 Ω以上)や、低インピーダンス(10 Ω以下)を約10%以内の確度で測定するのは困難であり、また位相誤差も大きいため、Q値を確度良く測定することができませんでした。

E4991Aによる解決策E4991Aで採用されているRF I-V法を用いたインピーダンス測定技術により、3 GHzまでの周波数範囲において、高確度インピーダンス測定(±0.8%)を実現しています。(図1参照)また、前述のように低損失キャパシタを使用した校正により、Q=50のデバイスを3 GHzにおいて15%の確度(代表値)で測定することが可能です。(図2参照)図6にチップ・キャパシタのESR測定(|Z|-Rs)の結果を、図7にチップ・インダクタのQ測定(Ls-Q)の結果を示します。

図6 チップ・キャパシタのESR特性

図7 チップ・インダクタのLs-Q特性

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テスト・フィクスチャにおける問題チップ部品の小型化の進歩は目覚しく、積層型のチップ・コンデンサ、あるいはチップ・インダクタなどでは、0201(inch)/0603(mm)サイズの超小型SMDが登場してきており、これまで以上にテスト・フィクスチャの周辺におけるインピーダンスの残留成分や、繰り返し測定精度などの問題がクローズアップされています。SMD用テスト・フィクスチャとしては、16191A、16192A、あるいは16193Aといった製品が既に用意されていますが、周波数上限が2 GHzである点や、0201(inch)/0603(mm)サイズの測定が困難などの問題点があり、正しいデバイスの評価を妨げていました。

16197A,16196A/B/C による解決策16197Aおよび16196A/B/Cといった最新のSMD用テスト・フィクスチャを使用することで、こうした問題を解決することができます。新製品の16197Aは、再現性を高めつつ幅広いサイズに対応した電極構造となっており、長さ0.6mm注)から3.2 mmまでのSMDをカバーします。1台のテスト・フィクスチャで複数サイズのSMDに対応しているため、コストパフォーマンスが優れた製品です。16196A/B/Cは、使い勝手をできるだけ簡素化すると同時に、さまざまな工夫により測定再現性を極限まで高めた製品です。特に、SMDサイズを特定することにより、測定再現性に影響する位置決め

精度を飛躍的に向上させています。E4991Aにはフィクスチャ補正機能(オープン、ショート、フィクスチャ電気長補正)が内蔵されています。標準的に使用されるようなテスト・フィクスチャの電気長は事前に登録されているため、ユーザの方はテスト・フィクスチャを選択するだけで自動的に電気長が補正されます。このフィクスチャ補正機能により、テスト・フィクスチャの残留インピーダンス誤差成分を取り除いた測定ができるため、微小なインピーダンス測定においても高確度に測定することが可能です。

注)0201(inch)/0603(mm)サイズには、オプション001で対応します。

図8-1 16197A 底面電極型SMDテスト・フィクスチャ 図8-2 16196B 平行電極型SMDテスト・フィクスチャ

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チップ・インダクタの特性評価

周波数特性評価チップ・インダクタは、一般に図9に示すような等価回路で表現されます。

(a) 高インダクタの等価回路

(b) 低インダクタの等価回路

図9 チップ・インダクタの等価回路

チップ・インダクタは、低周波ではインダクタとして機能しますが、周波数が高くなるにつれて並列容量Cpの影響が大きくなり、反共振を起こします。反共振より高い周波数ではインダクタとしてではなく、コンデンサとして動作してしまいます。この周波数特性の評価項目としては、共振周波数前のインダクタンス値の変動評価、およびQ(クオリティファクタ)またはD(損失係数)などがあります。また、EMI対策用部品として使用される場合には、ノイズ除去効果が得られる周波数範囲を正しく知るために抵抗成分主体のインピーダンス評価を行います。

周波数特性評価の問題点移動体通信機器の内部で使用するようなチップ・インダクタの場合、実稼動周波数である2 GHzを越えるような領域での特性評価に対する要求が強く、現状はネットワーク・アナライザの反射係数法による測定が主なソリューションとなっています。しかしながら、前述のように反射係数法では広範囲にわたり確度の良いインピーダンス測定を実現することができないという問題があります。特に、Q測定においてはネットワーク・アナライザの測定誤差が非常に大きいため、測定値の信頼性として問題がありました。

E4991Aによる解決策E4991AのRF I-V法による測定では、3 GHzまでの周波数範囲において、高確度なインピーダンス測定およびQ測定を実現しています。(図1および図2参照)次に、具体的なチップ・インダクタの周波数特性を図10に示します。この例では1.52 GHz以上で共振が発生し、それ以降デバイスがキャパシタとして振る舞っている様子が分かります。また、図11にはEMI対策で使用されるチップ・ビーズの測定例を示します。従来の4291Bでは、最大で2つのパラメータの組み合わせによる測定しか行うことができませんでした。これに対して、E4991Aでは最大で3つのスカラ・パラメータ(|Z|、R、X、C、Lなど)を任意に組み合わせて同時に表示させることが可能なため、EMI部品で重視される|Z|、R、およびX等のパラメータを一度に測定することができま

す。さらに、これら3つのスカラ・パラメータに加え、2つの複素パラメータ(Z、Y、Γ)も含めて、最大で5つのパラメータを同時に測定して表示させることも可能です。

DCバイアス電流依存性評価一般に、チップ・インダクタのインダクタンス値は、コア材料の種類、形状、および巻線回数により決定されますが印加する電流によって変化する場合があります。特に、コアに透磁率の高い材料を用いた場合には、インダクタンス値が大きい反面、DCバイアス電流が大きくなると磁気飽和を起こしやすくなるため、インダクタンス値が下がります。こうしたDCバイアス電流依存性は、変化の大小にかかわらず、実際に回路中で使用することを考慮する際において非常に重要な評価項目となります。

DCバイアス電流依存性評価の問題点チップ・インダクタのDCバイアス電流依存性を評価する場合は、1.8 GHzまでをカバーする4291Bが一般的に使用されていますが、携帯電話等のアプリケーションでは2 GHzを超えるような周波数での評価が必要となる為、十分に対応できていませんでした。

図10 チップ・インダクタの測定 図11 チップ・ビーズの測定

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E4991Aによる解決策オプション001(DCバイアス機能)を追加することにより、DCバイアス電流を最大50 mAまで印加および掃引することが可能になります。この内部電源は、定電流源として使用できるので、設定値と同じDCバイアス電流をインダクタに印加することができます。また、レベル・モニタ機能により、実際に試料に印加されているDCバイアス電流をモニタすることも可能です。この機能によりLs-QのDCバイアス電流依存性が簡単に評価できます。フェライトコアを使用したチップ・ビーズの測定例を図12に示します。DCバイアス電流によりコアが飽和しているために、インダクタンス値が減少している様子が良く分かります。さらに、セグメント掃引機能を使用することで、特定の周波数範囲においてAC電流の信号レベルを変化させた場合の特性の重ね書き表示や、信号レベル毎に並べて表示(図18参照)することができます。これにより、異なるAC電流におけるLs-Qの周波数特性を一度に測定することが可能になりま

す。図13では、3つのセグメントにおいて各セグメントの周波数範囲を同じに設定し、AC電流を2 mAから10 mAまで4 mAステップで変化させた結果を表示しています。インダクタの種類によっては、内部DCバイアス機能では必要とされる電流値が得られない場合があります。こうしたご要求にお応えするために、16200B(外部DCバイアス・アダプタ)をご用意しております。16200B注)と外部DC電源を併用すことで、最大で±5 AまでのDCバイアスをテストポートの7 mmコネクタを通じてDUTに印加することが可能になります。

チップ・インダクタ評価に便利な機能上記解決策のみではなく、E4991Aにはチップ・インダクタ評価に便利な以下の機能を装備しています。

等価回路解析機能E4991Aに搭載されている等価回路解析機能を使用することで、測定結果からインダクタの等価回路パラメータの

近似値を簡単に求めることができます。これにより、面倒な設計値と試作品との比較等に要する時間を短縮できるため、チップ・インダクタの研究開発効率が大幅に向上します。(図4参照)

磁性材料測定解析機能E4991Aは、材料評価機能(オプション002)を追加することができます。磁性体材料測定電極(16454A)と併用することにより、チップ・インダクタに使用されるコア材料の透磁率評価を1 GHzまでの範囲で簡単に行えるので、コア材料の開発から製品の特性評価まで幅広く使うことができます。

図12 DCバイアス電流依存性 図13 セグメント掃引を使用したLs-Q特性

図14 16200B 外部DCバイアス・アダプタ

注)測定周波数範囲は、1 GHzとなりますのでご注意下さい。

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チップ・コンデンサの特性評価

周波数特性評価チップ・コンデンサは、一般に図15に示すような等価回路で表現されます。

図15 チップ・コンデンサの等価回路

チップ・コンデンサは、低周波ではコンデンサとして機能しますが、周波数が高くなるにつれて直列インダクタンスLsの影響が大きくなり、直列共振を起こします。共振より高い周波数ではコンデンサとしてではなく、インダクタとして動作してしまいます。この周波数特性の評価項目としては、共振周波数前のキャパシタンス値の変動評価、およびD(損失係数)などがあります。

周波数特性評価の問題点チップ・コンデンサもチップ・インダクタと同様に、周波数特性評価を行う場合に、そのインピーダンスは周波数に応じて変化するため、広範囲にわたり確度の良いインピーダンス測定ができる測定器が必要になります。

E4991Aによる解決策E4991AのRF I-V法による測定では、3 GHzまでの周波数範囲において、高確度なインピーダンス測定を実現しています。(図1参照)次に、具体的なチップ・コンデンサの周波数特性を図16に示します。この例では、2.35 GHz以上で共振が発生し、それ以降デバイスがインダクタとして振る舞っている様子が分かります。

電圧依存特性評価チップ・コンデンサのキャパシタンス値は、内部電極構造や誘電体材料の種類によって決定されますが、印加する電圧によって変化する場合があります。例えば、低誘電率材料を用いたコンデンサは、温度補償型コンデンサとよばれ、AC電圧やDCバイアス電圧の変動によってキャパシタンス値は殆ど変化しません。これに対し、高誘電体材料を用いたセラミック・コンデンサなどは容量対体積の比率が高いのですが、AC電圧やDCバイアス電圧の変動により値も変化します。このため、実際に使用される状況下で、コンデンサの特性をきちんと把握しておくことは非常に重要です。

電圧依存性評価の問題点チップ・コンデンサの電圧(AC/DCバイアス)依存性を測定可能な周波数範囲は、現状429 1Bでカバーされる1.8 GHzまでが上限となっており、移動体通信機器やワイヤレスLANなど、今後の需要が大きく見込まれる2 GHzを越える周波数での評価ができませんでした。

E4991Aによる解決策(AC電圧特性)E4991Aは、AC電圧を4.47 mVから502 mV(1 GHz以上では447 mV)まで掃引させて測定することができます。具体例として、AC電圧依存性の測定例を図17に示します。この例では、セラミック・コンデンサにAC電圧を150 mVから500 mVまで掃引した時のCp値の変化を測定しています。

図16 チップ・コンデンサの測定例 図17 AC電圧依存性

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さらに、セグメント掃引機能を使用することで、特定の周波数範囲においてAC電圧の信号レベルを変化させた場合の特性を図18のように並べて表示できるだけでなく、重ね書き表示(図13参照)するこもできます。これにより、異なるAC電圧におけるCpの周波数特性を一度に測定することが可能になります。

E4991Aによる解決策(DCバイアス電圧特性)オプション001(DCバイアス機能)を追加することにより、DCバイアス電圧を最大±40 Vまで印加および掃引することが可能になります。この内部電源は、定電圧源として使用できるので、設定値と同じDCバイアス電圧をコンデンサに印加することができます。また、実際に試料に印加されているDC

バイアス電圧をモニタすることも可能です。図19にセラミック・コンデンサのDCバイアス電圧依存性の測定例を示します。この例では、5 Vから40 VまでDCバイアスを掃引した時のCp-D値の変化を測定しています。バイアス電圧の増加に伴い、Cp値が約1.9 nF程度減少している事が良く分かります。

チップ・コンデンサ評価に便利な機能上記解決策のみではなく、E4991Aにはチップ・コンデンサ評価に便利な以下の機能を装備しています。

等価回路解析機能図20に、等価回路解析機能を使用したコンデンサの等価回路解析の実例を示します。この図のように、測定結果からコンデンサの等価回路パラメータの

近似値を簡単に求めることができるため、チップ・コンデンサの研究開発効率が大幅に向上します。

誘電体材料測定解析機能E4991Aは、材料評価機能(オプション002)を追加することができます。誘電体材料測定電極(16453A)と併用することにより、チップ・コンデンサに使用される材料の誘電率評価を1 GHzまでの範囲で簡単に行えるので、材料の開発から製品の特性評価まで幅広く使うことができます。

図18 セグメント掃引を使用したCp特性 図19 DCバイアス電圧依存性

図20 チップ・コンデンサの等価回路解析

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バリキャップ・ダイオードの特性評価

C-V特性評価バリキャップ・ダイオード(可変容量ダイオード)は、半導体のPN接合に逆電圧を加えることにより、その接合間容量を可変させて使用され、VCO(電圧制御発振器)や電子チューナなどのキーとなる部品です。バリキャップ・ダイオードの主な測定項目としては、逆バイアス電圧に対するキャパシタンス値や、Q値を測定するC-V特性評価があります。

C-V特性評価の問題点一般的には、1 MHzにおける特性評価が行われていますが、実際にデバイスを使用する場合には、実動作状態での評価が重要になります。従来の4291Bでカバーされる1.8 GHzの周波数範囲では、携帯電話用の2 GHzを超えるようなVCOに使用するバリキャップ・ダイオードの評価を十分に行うことができませんでした。また、バリキャップ・ダイオード等の製品サイズはEIAJ/EIAに準拠していないため、デバイスのサイズによっては測定用の治具をデバイスのサイズに合わせて加工する必要があります。

E4991Aによる解決策E4991Aでは、オプション001(DCバイアス機能)を追加することにより、3 GHzまでの周波数において、DCバイアス電圧を最大±40 Vまで印加および掃引することが可能になります。図21に、C-V測定の具体例を示します。この例では、DCバイアス電圧を0 Vから5 Vまで印加し、0.5 Vから4.5 Vまでの電圧変化におけるキャパシタンス値の変化を測定したものです。マーカより、キャパシタンス値が11.27 pF減少していることが読み取れます。治具の加工に関しては、既にご紹介した新型SMD用テスト・フィクスチャの16197Aを使用することで解決できます。16197Aには、標準で特殊なデバイス・サイズに対応するためのデバイス・ガイドが付属しています。このパーツは薄いプラスチック製で、測定対象デバイス・サイズに合わせて加工することで、最大で3.2 mm× 2.5 mmまでのデバイス・サイズに対応することができます。これにより、わずらわしい治具の作成から開放され、測定に専念することができるようになります。

図21 DCバイアス測定

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効率的な測定環境の提供

E4991AはWindowsをベースとしているため、従来の4291Bと比較してPC環境との親和性が非常に向上しています。このため、使いやすいユーザ・インタフェース、大量のデータ管理、そしてVBA(Visual Basic for Applications)による自動計測用プログラミング作成など、測定効率を大幅に向上させる環境をご提供します。

PCとの容易な接続性E4991Aには、Windowsをベースとしたユーザ・インタフェースが採用されています。これにより、従来のハード・キーだけでなく、マウスを使用した操作環境を提供します。マウスを使用することにより、ダイレクトに各種メニューにアクセスすることができるようになるだけでなく、測定画面のズームやショート・カット・メニューによる設定変更などが簡単に行えるようになります。

図22 ショート・カット・メニュー

ショート・カット・メニューは、測定画面上でマウスを右クリックすることで表示され、頻繁に使用される各種設定メニューに直接アクセスできます。

E4991Aには、10 Base-T/100 Base-TXの自動切換え機能を有したLANインタフェースが標準で搭載されています。従来の4291Bでは、実験現場と研究室が離れているような場合のデータ受渡しにおいては、フロッピー・ディスクが一般的に使用されています。しかしながら、EDAツールへのデータ受渡しなどによるデータ量の増加にたいし、フロッピー・ディスクではその容量の制限から何枚ものディスクが必要となるため、データ管理に時間を取られているのが現状です。LANを使用することで、研究室のPCから実験現場のE4991Aの内部ディスクにアクセスし、大量のデータを一度に取り込むことができるようになります。さらに、E4991Aに標準で添付されているリモート・ユーザ・インタフェース・ソフトウエアを使用することで、PCとの親和性をより高める事ができます。リモート・ユーザ・インタフェー

ス・ソフトウエアとは、PC画面上にE4991Aのコントロール・パネルを表示させ、LANを通じて離れた場所にあるE4991Aを、測定器を操作する感覚でコントロールすることを可能にするソフトウエアです。このソフトウエアを使用することで、PC上の表計算アプリケーション・ソフトウェア等に測定データをファイルとしてだけでなく、コピー・アンド・ペーストで簡単に受渡しができるようになります。測定データは、全てのデータを選択することもできますし、必要なパラメータや必要な測定点のみを取り出すことも簡単にできます。また、レポート作成に必要な画面データ等も各種フォーマットでPCにファイルとして受け渡すことも可能です。LANおよびリモート・ユーザ・インタフェース・ソフトウエアを上手に活用することで測定効率を飛躍的に改善することができます。

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図24 リモート・ユーザ・インタフェース

図23 統合測定環境

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June 11, 2000

5988-0200JA000002-H

VBAを使用した自動化プログラムE4991Aには、標準でVBAプログラミング機能が搭載されています。VBAとは、Microsoft社製品のVisual Basic forApplicationsの略で、Microsoft社のOffice製品と共通のマクロ言語によるプログラミングが行えます。従来の4291Bに搭載されているIBASICによるプログラミング機能と比較して、エディタやデバッグ等の環境が整っているIDE(Integrated Development Environment)という環境下でプログラムを作成することができるため、開発効率を大幅に向上させることが可能になります。VBAを使用することで、従来のIBASICと同様に、オートメーション・テストやユーザ・インタフェースのカスタマイズ、およびGPIBによる外部機器のコントロールなどを行うことができます。GPIBを使用して外部機器をコントロールする場合には、従来と同様にSCPIを使用して行います。SCPI用に用意されたCOM(Component Object Model)を通じて実行メソッドを送ることで外部機器をコントロールします。次に、VBAを使用したユーザ・インタフェースのカスタマイズの具体例を図26に示します。この図からも分かるように、IBASICと比較してより柔軟で、インタラクティブなユーザ・インタフェースを構築することが可能なため、詳細で解りやすい作業手順を指示することができるようになります。これにより、作業者によるミスを防ぎ、測定効率を改善することが可能になります。

おわりに

このように、E4991AはRF I-V法を使用した3 GHzまでの高確度インピーダンス測定技術をベースに、各種部品測定のアプリケーションに柔軟に対応できる製品となっています。また、便利な測定機能だけでなく、計測環境も含めたトータル・ソリューションをご提供いたします。

図25 VBA開発環境画面

図26 VBAを使用した画面のカスタマイズ例

Windows®はMicrosoft社の米国における登録商標です。

Visual Basic® for ApplicationsはMicrosoft社の米国における

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