30
データ流通環境整備検討会 AIIoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ 中間とりまとめ 平成 29 年3月 データ流通環境整備検討会 AIIoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ 資料2

AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

データ流通環境整備検討会

AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ

中間とりまとめ

平成 29年3月

データ流通環境整備検討会

AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ

資料2

Page 2: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

1

目次

第1章 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.我が国を取り巻く状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

2.検討の視点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

第2章 データ流通・活用を巡る現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・4

1.技術及び社会の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2.制度の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

3.海外の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

4.データ流通環境整備の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

5.データ流通・活用に向けた課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

6.事業者による取り組み例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

第3章 データの円滑な流通・活用に向けて(具体的提言) ・・・・・・・・・8

1.PDS、情報銀行、データ取引市場の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・8

2.PDS、情報銀行の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

3.PDS、情報銀行と個人情報保護法との関係 ・・・・・・・・・・・・・・11

4.PDS等を通じたデータ流通・活用のユースケース ・・・・・・・・・・・11

5.論点ごとの具体的対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

6.政府における今後の取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

7.本ワーキンググループとしての今後の取り組み ・・・・・・・・・・・・25

(別紙)PDS、情報銀行、データ取引市場の事業を営む者等が取り組むことが望ましい

事項(推奨指針)

Page 3: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

2

第1章 はじめに

1.我が国を取り巻く状況

IoT 機器の普及や AI の進化等により、多種多様かつ大量のデータを効率的かつ

効果的に収集・共有・分析・活用することが可能となってきており、データを活用

することで新規事業・サービスの創出、生産活動の高度化・効率化、国民生活の安

全性及び利便性の向上等が実現すると期待されている。

諸外国においてデータを活用したビジネス・サービスの高度化に向けた取り組み

が進展しつつあるが、我が国では様々な理由からデータの活用が企業内又はグルー

プ内にとどまるなど、データを活用したビジネス展開が十分進んでいるとは言い難

い状況である。

国内でのデータ活用が困難な状況が続けば、データを活用した事業が可能な環境

を求めて我が国企業が海外に出ていかざるを得ない、AIの開発・活用にも支障が生

じるといった指摘もなされているところであり、国際的な競争の観点からも、関係

者の権利・利益に関する適切なバランスがとれたデータ流通・活用環境を整備する

ことが急務である。

個人情報を含め多種多様かつ大量のデータを企業や業界を越えて安全・安心に流

通・活用できる環境が整備されることで、新規事業・サービスの創出を通じた我が

国産業の競争力強化や経済活性化、国民生活の安全性及び利便性の向上等が実現す

るとともに、急速な少子化・高齢化等の我が国が直面する課題の解決につながる。

また、安全・安心にデータを管理・流通・活用できる仕組みが確立されれば、海

外からもデータを日本に預けたいというニーズが高まることが期待されるのでは

ないか。

さらに、多種多様かつ大量のデータの活用が可能となることで AI の潜在能力が

最大限発揮され、第4次産業革命(Society5.0)の実現に貢献することができる。

2.検討の視点

本ワーキンググループは、「個人情報を含むデータ」を中心にしつつ、それ以外を

含めたデータ全般の流通・活用環境の整備に向け、データ流通に関する国民の不安

や不信感を払しょくするとともに、民間企業等による積極的な取り組みを促すため、

以下の視点から検討を開始した。

(1) 個人を中心とした仕組みの実現

・ 個人情報又は創造された情報の主体としての個人の関与を強化することが基

本。

・ 十分な情報に基づく個人の意思決定を可能とする、安全・安心かつ分かりや

すい仕組み(民間企業等から提案されている PDS(Personal Data Store)や情

報銀行等)を実現。

(2) 民間企業等による取り組みの促進

・ 民間企業等により既に適法に提供されているサービスの展開や新たなサービ

ス等の開発・提供を阻害しない。

・ 委縮している民間企業等がデータ流通・活用を通じた新たなサービス提供等

Page 4: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

3

に積極的に取り組める環境を実現。

(3) 技術革新の速さや諸外国の動向を踏まえた柔軟な対応が可能な枠組みの実現

・ セキュリティに関する最新の技術動向等を踏まえ、環境変化に柔軟に対応で

きる枠組みを実現。(短期的には自主的ルールやガイドライン等の整備。)

(4) 事前相談、事後的な対応の仕組みの実現

・ 民間企業や国民・消費者が事前に相談できる窓口を実現。

・ データの不適切な活用等に適切かつ迅速に対応できる、苦情・紛争処理を含

めた事後対応の仕組みを実現。

Page 5: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

4

第2章 データ流通・活用を巡る現状と課題

1.技術及び社会の動向

有線及び無線のブロードバンドネットワークの整備、スマートフォンや IoT機器

(センサー等)の普及、クラウド利用の進展、AIの進化等により、個人の行動履歴

を含めた多種多様かつ大量のデータを効率的かつ効果的に収集・共有・分析・活用

できるインフラ・技術環境が実現している。

インターネットの普及等により情報の瞬時の拡散が可能となる中、サイバー犯

罪・攻撃等のリスクが高まっており、個人に関する情報の管理について国民・消費

者の意識が高まっている。

2.制度の動向

平成 27年の「個人情報の保護に関する法律(平成 15年法律第 57号)」(以下「個

人情報保護法」という)の改正により、匿名加工情報に関する規定が整備されたこ

とで、まちづくり、防災・減災、医療(研究)等、社会全体に裨益する分野におい

て、匿名加工されたデータの活用が進展することが期待される。

平成 28年 12月 14日に公布施行された「官民データ活用推進基本法(平成 28年

法律第 103号)」第 12条に「個人に関する官民データを個人の関与の下で適正に活

用することができるようにするための基盤の整備」が盛り込まれるなど、データの

適正かつ効果的な活用に向けた機運が高まっている。

3.海外の動向

EUでは、データポータビリティ権 1の創設を含めた一般データ保護規則の成立な

ど、個人関連データの保護を強化しつつ、本人の意思を重視したデータ活用を実現

しようとする流れがある(一般データ保護規則は、平成 30 年5月に施行予定であ

り、データポータビリティの導入に関する議論が行われているところ)。このほか、

機械が生成した非個人関連データを含めて EU 域内でのデータの自由な流通・活用

を促進するための政策について検討が進められている。

また、米国の MyDataイニシアティブ(エネルギー分野の Green Buttonや医療分

野の Blue Button 等)や、英国の midata に関わる取り組みをはじめとして、官民

が保有するデータを再利用しやすい形で本人に還元し、本人関与の下でのデータ活

用を拡大するための施策が各国において広がりつつある。

OECD においても、データの経済的及び社会的価値を最大化するといった観点か

らデータポータビリティやデータの相互運用性等について検討がなされている。

1 個人がデータ管理者(事業者)に提供した自らのデータを、一般的に用いられる機

械判読可能な電子的フォーマットで当該データ管理者から受け取る、又は、別の者

(事業者)に移管する権利。

Page 6: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

5

4.データ流通環境整備の必要性

データは「個人情報を含むデータ」、「匿名加工されたデータ」、「個人に関わらな

いデータ(IoT機器からのセンシングデータ等)2」の3つに分類することができる

が、データ流通の便益を個人及び社会全体に還元するために、これら3つのデー

タの流通・活用を全体として活性化することが急務である。

3つの類型のうち、「個人情報を含むデータ(本「中間とりまとめ」において、

以下「パーソナルデータ」という)」については、以下に挙げる理由により、企業

や業界を越えた流通及び活用が十分進んでいるとは言い難い状況である。

一方で、企業がデータ活用をどのように進めるかは競争上の判断として極めて

重要であり、データの「囲い込み」をすること自体を問題とすべきではなく、企業

や業界を越えた活用が必須であるといった見方は誤りだとの指摘もある。

他方、データの「囲い込み」は、企業の間での消費者の流動性を下げ、競争を阻

害するので、データポータビリティを担保することが望ましいとの指摘がある。

このほか、自動走行実現に向けたダイナミック・マップ(高精度3次元デジタル

地図)の構築のように、分野によっては、競争上の優位性を確保するため各社がデ

ータを囲い込むのではなく、データを公開・流通・活用する協調領域を拡大し、官

民が連携して「オープンイノベーション」を推進することで、大きな効果を上げよ

うという取り組みもなされている。

図1. データの類型と流通・活用の便益

5.データ流通・活用に向けた課題

(1) 国民・消費者の視点

・ 自らのデータを把握・制御できない不安

2 個人に関わらないデータであっても、他のデータと組み合わせることによって個人

の特定につながる可能性があることに留意が必要。

※ 個人に関わらないデータであっても他のデータと組み合わせることによって、個人の特定につながる可能性があることに留意が必要

- -- -- -- -

ーーーーーーーー

A社

個人情報を含むデータ例) 移動・行動・購買履歴、属性情報、ウェアラブル機器からのデータ等

本人同意契約等

- -- -- -- -

ーーーーーーーー

・・・社

- -- -- -- -

ーーーーーーーー

・・・社

- -- -- -- -

ーーーーーーーー

X社

個人情報を含むデータの業種・業界を越えた流通により実現する便益(想定) 観光分野 訪日外国人の増加等観光関連産業の活性化 個人ニーズに応じたおもてなしサービス提供

金融・フィンテック分野 金融市場の活性化 資産の一元管理、最適な資産運用

医療・介護・ヘルスケア分野 健康寿命の延伸、医療費の適正化 健康意識の向上、行動変容による健康増進

人材分野 個人の適切な能力評価、最適な人材活用

農業分野 高度な生育管理、戦略的な農産物生産・出荷 ノウハウの継承、戦略的農業経営の展開

防災減災分野 的確な被災者把握 実態を踏まえた支援物資搬送やインフラ復旧計画策定

個人に関わらないデータ例)生産現場のIoT機器データ、橋梁に設置されたIoT機器からのセンシングデータ(歪み、振動、通行車両の形式・重量など) 等

- -- -- -- -

ーーーーーーーー

・・・社

・・・

・・・

メリットの本人への還元

匿名加工データ例)個人を特定できないように加工された人流情報、商品情報等

Page 7: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

6

国民・消費者は、自らのデータがどのように事業者間で共有・活用されてい

るのかを事実上把握・制御できておらず、不安を抱えているのではないか。

・ 便益を実感できない又は享受できない恐れがあることに対する不満や不公平

国民・消費者は、活用の内容について十分な説明がなされない、又は自らの

データが活用される便益を理解・実感等できていないため、事業者によるデー

タ活用について不満や不公平感を抱き、事業者へのデータ提供や、第三者提供

に関する同意に躊躇しているのではないか。

一方で、信頼に足る医師から説明を受けた患者の多くがデータ提供・活用に

同意するといった実態があるなど、自らにとって有益又は社会全体に貢献する

サービス等を提供する事業者等に対しては、積極的にデータを提供する消費者

も存在している。

・ データ互換性等の技術的課題

各個人に関するデータが互換性のないまま様々な事業者によって管理され

ているため、本人が希望する場合であっても長期にわたるデータを名寄せ蓄積

してディープデータとして活用することができず、安全・安心かつ高度なパー

ソナライズド・サービス 3の実現にも限界があるのではないか。

(2) 事業者の視点

・ 取り組み・進展はこれから

一部事業者は、パーソナルデータを適切に保護しつつ、データの活用に積極

的に取り組んでいるが、企業や業界を越えたパーソナルデータの幅広い活用が

十分進展しているとは言い難い状況である。

・ データ活用への躊躇

大多数の事業者は、プライバシー保護に関し国民・消費者が抱く漠然とした

不安や、レピュテーションリスク(風評リスク)、データの流通・活用によって

もたらされる便益に対する国民・消費者の理解が得られていないこと等を背景

に、単一事業者(または資本関係等で結合された強固なグループ)内でのデー

タ活用にとどめ、企業や業界を越えたデータの流通・活用を躊躇している。

一方で、どのような協力関係でデータを活用するかは各事業者の戦略上の判

断によるものであり、「躊躇している」と言い切れるのかは慎重に判断する必

要がある。

・ 個人情報保護の規律適用

病院の設置主体によって適用される個人情報保護に関する規律が異なって

いる 4ため、複数の病院間連携によるデータ活用の際に複雑な調整が必要な場

合があるとの指摘もある。

3 顧客ごとの個別の状況・要望に対応するサービス。 4 個人情報保護法、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成 15年法

律第 58号))、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成 15年

法律第 59号)、地方公共団体における個人情報保護条例等が適用される。

Page 8: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

7

・ API5開放・互換性の確保等の技術的課題

パーソナルデータに限らず、多様な事業者が保有するデータ全般について、

企業や業界を越えた円滑な活用を実現する上で、API 開放、データの互換性確

保、データポータビリティの実現等が課題となっている。

・ 関係者による取り組み

農業分野では、データ形式等の標準化が進められるとともに、農業 IT サー

ビス標準利用規約ガイド(平成 28年3月 31日新戦略推進専門調査会農業分科

会取りまとめ)において、データの帰属について考え方を整理している。

また、金融分野では、金融機関、IT 関係企業、金融行政当局等が参加して、

オープン APIの導入に向けた検討が進められている。

(3) セキュリティの観点

・ エコシステム全体でのセキュリティ課題

様々な機器やシステムがネットワークに接続されるようになってきている

が、パーソナルデータを含め多種多様なデータの流通・活用を進めるためには、

データ流通のエコシステム全体におけるセキュリティ確保がより重要となっ

ている。

6.事業者による取り組み例

本ワーキンググループにおいて、事業者ヒアリングを行った結果、構想又は実証

段階のものを含め、分野横断的なデータ活用に向けた事業が動き出している。具体

的には、地域住民の健康を増進するためのデータ活用、訪日外国人向けのおもてな

しサービスを行うためのデータ活用などの取り組みが検討されており、IoT機器から

収集したデータ等の取引を支援するデータ取引市場を立ち上げる動きもある。

5 Application Programming Interfaceの略。他のハードウェアやソフトウェアが提

供する機能を利用(アプリケーション等を連携)するためのプログラム上の手続き

を定めた規約を指す。

Page 9: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

8

第3章 データの円滑な流通・活用に向けて(具体的提言)

上記のような分野横断的なデータ流通を阻害する課題を解決し、パーソナルデー

タを含めた多種多様かつ大量のデータの円滑な流通を実現するためには、個人の関

与の下でデータの流通・活用を進める仕組みである PDS、情報銀行、データ取引市

場が有効である。

また、パーソナルデータの主体である本人の意向を踏まえたデータ流通・活用を

推進するためには、本人が提供した官民が保有するデータを、再利用しやすい形で

本人に還元又は他者に移管できるデータポータビリティは重要な機能である。

PDS、情報銀行、データ取引市場ともに、現時点では構想又は実証段階のものを含

め、分野横断的なデータ活用に向けた動きが出始めてきた段階であり、今後、事業

者、政府等が連携してその社会実装に向けて積極的に取り組みを推進する必要があ

る。

このような状況を踏まえると、実証の結果等を見ながら、実態にあわせて、分野

横断的なデータ流通・活用を促進するための法制度整備を検討していくことが必要

である。

一方で、国民・消費者の信頼を得ながらデータを流通・活用するビジネスが発展

していくためには、現時点では、関係者による取り組みの参考となるよう、分野横

断的かつ基本的な課題、推奨ルール等を提示することが有効と考えられる。

これらを参考として、政府や消費者を含めた多様な関係者が参画した実証実験や

具体的なビジネスの取り組みが各分野で進められるとともに、自主ガイドラインを

含めたルール作りについての議論が深まることで、国民・消費者の信頼・理解が得

られていくことが期待される。

本ワーキンググループにおいては、このようなマルチステークホルダープロセ

ス 6による実証実験等の取り組みを踏まえ、将来の発展を阻害しないよう留意しつ

つ、現実に即して必要な支援策、制度整備や見直しについて検討を継続していくこ

とが適当である。

1.PDS、情報銀行、データ取引市場の定義

民間企業や諸外国等の先行する取り組みや提案を踏まえ、現時点では以下のよう

に整理するが、今後ビジネスの動向を踏まえ適宜見直す可能性がある。なお、それ

ぞれは排他的なものではなく、同一の者が複数の機能を担うことも想定される。

6 3者以上の利害関係者による平等な立場での議論等を通じて、単体もしくは2者間

では解決の難しい課題解決のために、合意形成などの意思疎通を図るプロセス。

Page 10: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

9

(1) PDS(Personal Data Store)とは、他者保有データの集約を含め、個人が自

らの意思で自らのデータを蓄積・管理するための仕組み(システム)であって、

第三者への提供に係る制御機能(移管を含む)を有するもの。運用形態としては、

個人が自ら保有する端末等でデータを蓄積・管理する(事業者は本人の同意によ

りデータを活用できる)分散型と、事業者が提供するサーバ等でデータを蓄積・

管理する(個人は当該事業者にデータの蓄積・管理を委託する)集中型がある。

(実際にデータをやり取りする形態と、データをやり取りせず必要な時にアクセ

ス権(閲覧のみ可、コピー不可など)を提供・管理する形態もある。)

図2. PDSのイメージ

(2) 情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に

基づき、PDS 等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の

指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第

三者(他の事業者)に提供する事業。(データの提供・活用に関する便益は、デー

タ受領事業者から直接的又は間接的に本人に還元される。)

図3. 情報銀行のイメージ

PDS

個人 預託

情報銀行

便益

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

個人に関するデータ

個人に関するデータ

個人に関するデータ

事業者A

事業者B

事業者C

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

事業者E

事業者F

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

事業者D

AとBのデータを提供

・・・・

■ ■■■■■■■■■■■

・・・

事業者から直接または間接的に本人に還元

※ 本人には便益が還元されず、社会全体にのみ便益が還元される場合もある。

便益

情報銀行

Page 11: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

10

(3) データ取引市場とは、データ保有者と当該データの活用を希望する者を仲介

し、売買等による取引を可能とする仕組み(市場)。(価格形成・提示、需給マッ

チング、取引条件の詳細化、取引対象の標準化、取引の信用保証等の機能を担う

ことが想定される。)

図4. データ取引市場のイメージ

(参考) 諸外国における PDSの定義

・「パーソナルデータストアとは、個人がパーソナルデータを集め、蓄積し、更新

し、修正し、分析し、および/あるいは共有することを可能とする技術である。

特に重要なのは、第三者による自らのデータへのアクセスに対する同意を与え

たり取り下げたりする能力である。」Guillaume Brochot et al. “Personal

Data Stores” University of Cambridge for the European Commission, 2015,

p2.

・「パーソナルデータストアは、あなたが自らの生活をより良くするための情報

を収集し、保存し、管理し、利用し、そして共有することを手助けする。それ

はどの情報をいつ・どのような人や組織と共有するかをコントロールするツー

ルを提供する。」What is a Personal Data Store? | Mydex

・「パーソナルデータストアは、個人が自らのデータのコピーを保存するための

場所を提供し、どのように利用されるかをコントロールすることを可能にす

る。」World Economic Forum [2013] “Unlocking the Value of Personal Data:

From Collection to Usage”, Industry Agenda, February 2013, p.13.

PDS

個人 預託

データ取引市場

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

個人に関するデータ

IoTデータ

事業者A

事業者B

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

事業者D

- -- -- -- -

ー ーー ーー ーー ー

事業者C・・・・

■ ■ ■■■■■■■■■■

・・・

データ取引市場

情報銀行

便益

対価

※ データ取引市場におけるデータ提供主体としては、事業者、個人、情報銀行が想定される。

便益

Page 12: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

11

2.PDS、情報銀行の意義

PDS の意義は、他者が管理しているものを含め本人に由来(起源)するデータを

自らの意思で本人もしくは指定する者に集約し、第三者(他の事業者)へのデータ

の提供について自らが個別に判断・制御(自己情報コントロール)できるというと

ころにある。

一方で、個人側から見た情報銀行の意義は、自らが示した一定の範囲内で第三者

(他の事業者)へデータ提供するよう信頼できる者に委託することで、自ら個別に

判断する必要なく、データ活用の便益を享受できるというところにある。また、信

頼に足る情報銀行が関与することで、データホルダーから個人へデータを戻しやす

くなるとともに、個人にとって第三者へのデータ提供の障壁が低くなるなど、より

多くのデータの流通・活用が進むことが期待される。

3.PDS、情報銀行と個人情報保護法との関係

個人情報保護法の個人データの第三者提供に係る規定との関係について、個人が

自らのデータの第三者への提供に係る制御を行う PDSの場合は、分散型、集中型と

もに第三者提供について当該個人の決定に従って行われていると考えられるため、

本人同意に基づく第三者提供と整理できる。

また、情報銀行についても、自らの指示又は予め指定した条件(例えば、第三者

におけるデータの活用目的・公益性、本人又は社会に還元される便益、情報の機微

性等を勘案したもの)の範囲で情報銀行が個別の第三者提供を行うことに本人が同

意している場合には、本人同意に基づく第三者提供と整理することができる。

なお、PDS 及び情報銀行は、第三者提供に係る有効な本人同意を確保する観点か

ら、パーソナルデータの第三者提供の条件等についてあらかじめ分かりやすく明確

に説明するほか、第三者提供の状況について定期的に本人に報告・対話するなど本

人の意向の把握・確認・反映に努め、本人が希望する場合には第三者提供を停止す

るといった措置を講ずることが望ましい。

4.PDS等を通じたデータ流通・活用のユースケース

企業や業界を越えたデータの流通・活用を促進するためには、データ活用による

便益を個人及び社会全体が享受できるユースケースを、国民・消費者が理解しやす

いような形で示すことが重要との考えに立ち、以下に6分野のユースケースを整理

した。

なお、ユースケースごとに取り扱うデータの機微性、利用形態(常時か一時的か)、

関係主体の広がり等が異なる。

したがって、ユースケースの実現に向けて政府や消費者を含めた多様な関係者が

参画した実証実験等に取り組む際には、本中間とりまとめで示した推奨指針(別紙)

等を踏まえ、データの流通・活用が実現していないことで現に生じている各分野の

問題や PDS等の実装に関する課題の解決を図るとともに、データ流通・活用による

メリットを国民・消費者が実感できるように努めることが必要である。

Page 13: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

12

(1) 観光分野

個人が自身に関する位置情報や生活情報、趣味嗜好情報等を収集・登録し、サー

ビスに応じて必要な情報を提供することで、観光拠点の軸となる事業者が付加価値

の高い観光案内を個人に提供可能となる。また、観光拠点における各サービス事業

者等と連携することで、観光地全体での「おもてなしサービス」の実現が期待され

る。

<観光分野のユースケース実現に向けた課題>

・ 第三者への一時的なデータ提供の場合について、受領側におけるデータの確

実な削除の担保が必要。

・ 訪日外国人のデータを扱う場合について、諸外国の制度との調和が求められ

る。

・ 一般の観光客が、多様なデータ提供先について個別に判断するのは困難であ

るため、予め指定した条件に従いデータを提供する情報銀行の機能が有効であ

る。

図5. 観光分野のイメージ

Page 14: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

13

(2) 金融・フィンテック分野

個人が自身に関する資産情報、IoT 機器から得られる決済情報等を収集すること

で、複数金融機関に分散した資産状況の一元管理が可能となる。さらに家族構成情

報等をあわせて流通させることで、多様な金融機関から個人のニーズに合わせた資

産運用やサービスパッケージの提案を受けることが可能となる。

<金融・フィンテック分野のユースケース実現に向けた課題>

・ 金融機関等によるオープン APIの速やかな導入が求められる。

図6. 金融・フィンテック分野のイメージ

Page 15: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

14

(3) 医療・介護・ヘルスケア分野

ア 全体像

個人が自身に関する健診情報や生活情報等を収集することで、生涯に渡って医

療・健康情報を管理できるようになる。また、各種情報を流通させることで、他の

医療機関や事業者は個人の健康状態や生活環境に適した、診療や健康増進サービス

の提供、保険サービス等を提案・提供することが可能になり、「重複検査・投薬の抑

制」、「医療費の適正化」、「社会全体の健康寿命の延伸」の実現が期待される。

<医療・介護・ヘルスケア分野のユースケース実現に向けた課題>

・ 機微な情報を扱うだけでなく、長期間にわたったデータの蓄積が有用である

ことから、他の分野に比べて、セキュリティの確保及び消費者の信頼獲得が強

く求められる。

・ 生活関連データを含め、多様なデータを組み合わせて分析・活用することが

できるよう、事前のデータ構造の設計が重要。

図7. 医療・介護・ヘルスケア分野(全体像)のイメージ

Page 16: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

15

イ 母子健康手帳及び健診情報の電子化一元化

妊産婦の健診情報あるいは乳幼児の健診情報やアレルギー等の情報を個人が管

理することで、救急時や里帰り先医療機関等、かかりつけ医以外の医療機関におい

て、同様の診療を享受することが可能となる。乳幼児健診や乳幼児の予防接種の履

歴が登録されることで、次回の健診予定日の通知を受けることが可能(母子健康情

報サービス)となる。(予防接種のプッシュ型通知や予防接種履歴の閲覧等を実現

する機能を備えたマイナポータルが平成 29年夏頃から本格稼働予定。)

図8. 医療・介護・ヘルスケア分野(母子健康手帳及び健診情報の電子化一元化)のイメージ

Page 17: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

16

ウ 生活習慣病の疾病管理

① 保険者・企業は、データヘルス事業者に対し健診・レセプト情報を提供し、生活

習慣病予備群の対象者の抽出と健康指導を依頼。

② データヘルス事業者は、保険者・企業からの依頼に基づき生活習慣病予備群の

対象者を抽出し、当該対象者に生活情報・診療情報等の提供を依頼。

③ 当該個人は、PDSを通じて生活情報・健康情報等をデータヘルス事業者等に提供。

④ データヘルス事業者は、個人から提供される情報に基づき生活習慣改善等をア

ドバイスし、行動変容を促すとともに、重症化を予防。

⑤ 保険者・企業では、地域、職域の健康増進、重症化の防止等による医療費の適正

化が期待される。

図9. 医療・介護・ヘルスケア分野(生活習慣病の疾病管理)のイメージ

Page 18: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

17

エ 被介護者・在宅患者等の見守り

被介護者や在宅患者の医療情報や介護記録等の健康状態を PDS経由で介護事業者

や医療機関等に提供することで、救急時の適切な処置や、介護事業者や医療機関等

と患者家族とが連携して手厚い介護・在宅診療が実現する。また、蓄積情報に基づ

く自動問診等のシステムを活用することで適切な診療を受けることができ、医療費

の適正化が期待される。

図10. 医療・介護・ヘルスケア分野(被介護者・在宅患者等の見守り)のイメージ

Page 19: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

18

(4) 人材分野

個人が自身に関する就学履歴や就業履歴、資格等の情報を収集し、流通させるこ

とで、個人の能力の適切な評価、キャリアアップとともに、適切な人材配置が可能

となる。転職や再雇用の支援、クラウドソーシング、個人の意欲に適した職の提案

等により、「社会全体での最適な人材活用」が期待される。

図11. 人材分野のイメージ

Page 20: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

19

(5) 農業分野

農業者が環境情報、生育情報、農作業記録、収穫情報等を収集・管理し、提供す

ることで、高度な生育管理による高品質化、収量の向上・最適化、戦略的な農産物生

産・出荷が可能となる。また、自治体・支援団体、農機・ロボット事業者等と連携

することで、「ノウハウの継承、省力化、戦略的農業経営の展開」が期待される。

<農業分野のユースケース実現に向けた課題>

・ 異なるシステム間の連携や多様なデータの共有・活用等を実現するため、標

準化や基盤整備が必要。

・ 政府や公的機関が保有するデータをオープンデータとして活用できるように

することが必要。

図12. 農業分野のイメージ

Page 21: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

20

(6) 防災減災分野(災害発生時)

個人が自身に関する位置情報や医療情報等を収集・提供することで、災害発生時

に最寄りの避難所までのルート指示や病院での適切な治療を受けることが可能と

なる。また、人流データ等を含めた情報の活用により、避難者の的確な把握、被災

や避難の実態を踏まえた「支援物資搬送やインフラ復旧計画策定」が期待される。

<防災減災分野のユースケース実現に向けた課題>

・防災訓練等を通じデータ活用の重要性について啓発するとともに、日常的に活

用されるシステム及びデータを災害発生時に有効活用できるようにすること

が重要である。

図13. 防災減災分野(災害発生時)のイメージ

Page 22: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

21

5.論点ごとの具体的対応

(1) セキュリティ

パーソナルデータという重要な情報を扱う PDS、情報銀行、データ取引市場の事

業を営む者(以下「情報銀行等」という)においては、消費者の信頼を得るために

も高いセキュリティ確保が求められる。

情報銀行等においては、安全性・信頼性を確保するための本人認証、通信や保存

データの暗号化、バックアップ措置等について、最新の技術的動向やインシデント

の発生状況等を踏まえて、対応を検討する必要がある。

その際、データを個人の端末等で蓄積管理する分散型、事業者のサーバ等でデー

タを一括管理する集中型、実際にデータをやり取りせず必要な時にアクセス(閲覧)

権のみを提供するアクセスコントロール型といった形態によって、リスク等に差異

があると考えられるため、それぞれの特性に応じた適切な措置を検討する必要があ

る。

情報銀行等からデータの提供を受ける第三者のセキュリティレベルをどう確保

するのかという点も重要であるが、情報銀行等に第三者のセキュリティレベルを保

証等させるのは不可能であり、過度な負担ではないかといった意見がある一方で、

データ主体たる消費者が第三者のセキュリティレベルを確認することは困難では

ないかといった指摘もあった。

他機関による情報セキュリティ評価結果の活用を含め情報銀行等が第三者のセ

キュリティレベルを確認することが、消費者へのアピール(付加価値)になると考

えられる。情報銀行等は、第三者のセキュリティレベルをどの程度確認・保証して

いるかといった情報を消費者に分かりやすく明示することが望ましい。

なお、漏えいを完全に防止することは困難なので、サイバーセキュリティ保険等

を活用し、漏えいの影響の分析・追跡調査及び損害の補償等に対応することで、消

費者の安心感を高めることも有効である。国においては、サイバーセキュリティ保

険に加え、安全管理措置として高度な暗号化や秘密分散、テンプレート保護技術(暗

号化等の技術的措置を講じた生体情報を復号することなく本人認証に用いる技術)

などの新技術を事業者が積極的に活用するようなインセンティブを付与すること

を検討すべきである。

さらに、情報銀行等に限定される話ではないが、サイバーセキュリティ対策とし

て、社会全体でインシデント情報を共有・分析し、適切に対応する体制の整備が必

要である。

(2) データの標準化、互換性の確保、データに関する権限の扱い

データの標準化・互換性の確保や APIの公開等については、農業分野におけるこ

れまでの取り組みや金融分野におけるオープン API に向けた検討状況等を参考に、

各分野で関係者が連携して、技術進歩やサービス提供形態の進展等に柔軟に対応で

きるような仕組みづくりに取り組む必要がある。

AI が生成するものを含めデータの所有・利用に関する権利の制度的整理が課題

となっており、知的財産としての新たな権利の創設、不正競争防止法の営業秘密と

しての保護、モデル契約条項による整理等が検討されている。

Page 23: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

22

データの流通・活用を速やかに実現するためには、まずは利用規約等において消

費者と情報銀行等と第三者の権限や義務をあらかじめ明示しておくことが適当で

はないか。権限や義務を整理する際には、データの重要性、データ活用による成果

物への貢献度等を勘案する必要がある。

(3) 事前相談窓口

分野横断的なデータ流通を促進するため、事業者に対する事前相談、消費者に対

する質問回答・情報提供を一元的に行う窓口機能を IT 総合戦略室が担うことが望

ましい。複数省庁間にまたがる論点についても、関係省庁が連携して早期回答に努

めるべきである。

民間企業等が個人情報保護法に関し個人情報保護委員会に対して問い合わせを

行った結果や認定個人情報保護団体等において検討された結果等について整理し

て、問題ないビジネス形態等(ホワイト事例・ベストプラクティス等)を他者も参

照できるよう、事例集のような形で公開することも有用である。

例えば、IoT 推進コンソーシアムのデータ流通促進ワーキンググループの取り組

みのように、IoT 機器からのセンシングデータ等が個人情報に該当するかどうか、

該当した場合の適正な取扱いといったことについて、有識者や関係省庁が事前相談

に応じることで、事業者等による積極的なデータ流通・活用が期待される。

また、検査・健診結果や、投薬データが含まれる医療のレセプトデータを本人に

電子的手段により提供することは問題がないとの整理を政府が示すことで、事業者

等による積極的な対応を促進すべきである。本人にレセプトデータや健診データ等

を提供する際には、マイナポータルで自身のデータにアクセスできるようにするこ

とが望ましいとの指摘もあった。

なお、病院の設置主体によって適用される個人情報保護に関する規律が異なって

いることについては、設置主体の相違に関わらず医療情報を統一的な仕組みにより

収集し、一体的に管理・匿名化を行い、利用につなげていく新たな基盤(「医療情報

匿名加工・提供機関(仮称)」)に関する検討が進められている。

こうした事例も踏まえつつ、分野を越えて多様な主体が連携して一体的にデータ

を流通・活用できるよう検討を行う必要がある。

(4) 苦情・紛争処理手段

データの不適切な活用等の問題解決を全て裁判に委ねることは消費者だけでな

く事業者にとっても負担が大きいことから、適切かつ迅速に対応できる苦情・紛争

処理を含めた事後対応の仕組みについて、情報銀行等のビジネスの発展動向を踏ま

えつつ検討を進めるべきである。

情報銀行等を含めた個人情報取扱事業者は、個人情報保護法第 31 条により自身

による個人情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理及びそのために必要

な体制の整備に努めることが求められているが、消費者の信頼を高めるためには、

情報銀行等からデータの提供を受けた第三者に対する苦情を第一次窓口として受

けることが望ましい。

事業者又は業界団体等に設置する相談窓口に関しては、事業者と消費者の両方の

Page 24: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

23

目を持つ相談員の育成が必要である。

ADR(裁判外紛争解決手続)の機能については、本人、情報銀行等、情報銀行等か

らデータの提供を受けた第三者、の間の事案について、相談・助言に加えあっせん・

調停を担うものを中心に、金融 ADRを参考に検討すべきではないか。紛争への対応

についても、情報銀行がサービス提供する上で生じ得る常識的リスクについては、

情報銀行が第一次的に引き受ける方が、消費者の信頼を得やすいのではないか。

(5) データ流通・活用に関する透明性の確保

データ活用に関し消費者が抱く不安を踏まえると、情報銀行等はサービス利用規

約等において、データの流通・活用状況の見える化を推進することが望ましい。

具体的には、データの提供先、活用目的等を消費者に明示し、メリット等を消費

者が理解した上でデータ流通・活用に同意できるような分かりやすい仕組み・説明

とアプリのユーザーインターフェースが必要である。

スマートフォンのアプリで実現されるものについては、これまでのスマートフォ

ンプライバシーイニシアティブに基づく取り組みを参考にすることができる。

(6) トレーサビリティ、データポータビリティ、データ削除の確保

消費者視点からは、自らのデータがどの事業者に提供されているか、どのように

活用されているかを確認でき、希望する場合には、利用を停止したり、データを他

の事業者に移管したり、データを削除したりできることが望ましい。

多様なデータの流通・活用に向けて、情報銀行等のみならず、パーソナルデータ

を管理する事業者を含め幅広い関係者が取り組むことが望ましいが、情報銀行等が

まずは自主的にトレーサビリティ、データポータビリティ、データ削除の確保に取

り組むべきである。

当面は情報銀行等による自主的な取り組みや諸外国における検討状況等を注視

しつつ、自主的な取り組みでは対応できない問題が顕在化するなど必要性が高まっ

た場合には、法制度整備について検討すべきである。

なお、公的調達によるシステム開発等であって、収集・管理するデータのコピー

を本人に対し電子フォーマットで提供することが有益なものについては、調達仕様

書において応札の要件とするなど、データポータビリティへの対応を推奨すべきで

ある。

例えば、平成 29 年夏頃から本格稼働するマイナポータルにおいては、乳幼児健

康診査や予防接種のプッシュ型通知、予防接種履歴等の自己情報の閲覧を含めた

「子育てワンストップサービス」を実現するための機能が利用可能となるが、マイ

ナポータルで閲覧可能な自己情報を本人の関与の下で PDSや情報銀行に保存可能と

するといったマイナポータルとのデータ連携について検討すべきである。

(7) PDS、情報銀行、データ取引市場による適正な業務遂行の確保

情報銀行等が適正に業務を遂行しているかを消費者自身が確認することは容易

ではないため、データの流通・活用の促進に向けて、事業者の業務遂行に対する消

費者の信頼を得られるような仕組みが必要である。

Page 25: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

24

具体的には、業務運営の中立性や透明性を示すための情報開示や、適正な業務運

営が行われていることに対する第三者認証の仕組みが考えられる。

(8) 国民が自らのデータを管理することについての普及・啓発・教育

自らに由来するデータを管理すること(自己情報コントロール)の重要性や責任、

管理するための仕組み、活用によるメリット等について、若い世代の教育等を通じ

て、国民・消費者の理解を深めることが重要である。

このような普及・啓発・教育の推進においては、具体的なアプリケーション、ユ

ースケースを示すことが極めて重要であり、マルチステークホルダーによる取り組

みが期待される。

(9) データの囲い込みの問題、オープンデータの推進

データを保有する事業者には、データを公開・流通させるモチベーション、イン

センティブがあまりないとの指摘があるが、プラットフォームとなる情報銀行等の

中立性や透明性を確保するとともに、データの公開・流通によるメリットを示すこ

とで、データを保有する事業者の経営判断に基づいたデータ公開・流通が促進され

るのではないか。

さらには、データ流通環境の整備により、幅広い関係者によるデータを活用した

ビジネスが活発化することで、データを公開・流通・活用し、他事業者等と連携(オ

ープンイノベーション)しないと競争上不利又は生き残れないような状況となる可

能性があるのではないか。

一方で、データの公開・流通・活用は市場競争の中で各事業者が判断するべきも

のであり、データの公開を前提とした行き過ぎた制度設計は、事業者にとって過度

な負担となり、かえって市場競争をいびつにする可能性があるとの主張もある。

他方、データを保有する事業者に対し一定期間(製品やサービスの開発に要した

費用等を勘案して設定)先行して独占的な活用を認めた上で公開を促すとか、デー

タポータビリティを満たす事業者のみに PDSや情報銀行からのデータの取得を認め

るといった方策も考えられる。

まずは国及び地方公共団体がオープンデータに率先して積極的に取り組むべき

であるが、民間企業にデータを公開・流通させるインセンティブを与えるような環

境実現に取り組む必要がある。その際には、公開・非公開の二分論だけでなく、関

係者間での共有を進めつつ影響等を検証した上で、一般への公開に移行するといっ

た手法についても検討すべきである。

(10) 流通するデータの正確性、質の高いデータを流通させる必要性

正確かつ質の高いデータの流通を実現するという観点からも、データ流通・活用

に対する本人関与を強化することは有効ではないか。

データ取引市場は、取引されるデータの質・信頼性を担保することが求められる。

多様なデータを組み合わせて分析・活用することでデータの価値・有用性が高ま

るが、組み合わせるためには、データ構造の設計や標準化が必要である。一方で、

多様なデータを組み合わせることで個人識別性や機微性が高まるため、慎重な取扱

Page 26: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

25

いが求められる。

6.政府における今後の取り組み

PDS、情報銀行、データ取引市場が信頼される社会基盤として機能を果たし、分野

横断的なデータの流通・活用が早期に実現するよう、政府は、官民が連携した実証

実験の実施等を通じ、本中間とりまとめに示された課題の解決に努めるべきである。

具体的には、情報銀行等の実装に向けて以下の事項に取り組むべきである。

(1) 各分野における官民の関係者によるデータの標準化・互換性確保を支援する

とともに、データの利用権限に関するガイドラインの策定等を通じ、データの円

滑な流通を図る。

特に、医療・介護・ヘルスケア分野におけるデータ流通・活用を促す観点から、

医療データを含む多様なデータの本人への提供の在り方 7について検討する。

(2) 一元的な事前相談窓口を IT総合戦略室に設置するなど、関係省庁等と連携し

て、分野横断的なデータの流通・活用の実現に向けて施策間の整合性の確保を図

る。

(3) 苦情・紛争処理を含む事後対応の仕組みについて、ビジネスの発展動向を踏

まえつつ、金融 ADRを参考に引き続き検討する。

(4) トレーサビリティ、データポータビリティ、データ削除の確保の在り方につ

いて、事業者による自主的取り組みや諸外国の検討状況等を注視しつつ、引き続

き検討する。

(5) 公的調達によるシステム開発のうち有益なものについては、データポータビ

リティへの対応を推奨する。PDS や情報銀行とマイナポータルとの連携について

検討する。

(6) 情報銀行等に関する国民・消費者の理解を深めるため、関係者と連携して普

及・啓発・教育等を推進する。

(7) 国及び地方公共団体によるオープンデータに率先して取り組む。

7.本ワーキンググループとしての今後の取り組み

データを活用した具体的な新ビジネスの創出や安全・安心・快適な国民生活の早

期実現を図る観点から、推奨指針(別紙)を含む本中間とりまとめを踏まえた関係

主体による取り組みや諸外国における検討状況等を注視しつつ、「個人情報を含む

データ」、「匿名加工されたデータ」、「個人に関わらないデータ(IoT 機器からのセン

シングデータ等)」が流通・活用される将来の社会像を念頭に、今回抽出した論点に

ついて関係省庁と連携して必要な支援策、制度整備の検討を継続すべきである。

なお、新たな規律を設ける場合には、国内外の事業者に対し、執行を含めて同等

の規律が適用されるよう検討すべきである。

7 データホルダーが蓄積しているデータの多くは、本人に由来するものであり、本

人へのデータ提供は、本人の意思に基づき本人にデータを戻しているだけとの指摘

もある。

Page 27: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

26

別紙

PDS、情報銀行、データ取引市場の事業を営む者等が取り組むことが望ましい事項

(推奨指針)

消費者の信頼を得つつ、円滑なデータ流通・活用を実現するためには、PDS、情報銀

行、データ取引市場の事業を営む者(以下「情報銀行等」という)や、PDS の仕組み

を活用した実証実験等を実施する者は、以下のような事項に取り組むことが望ましい

と考えられる。

(1) セキュリティ

最新の技術動向、インシデント発生状況、取り扱うデータの重要性やリスク等

を踏まえ、本人認証、通信や保存データの暗号化、バックアップ措置等の十分な対

策を講ずること。

また、消費者の安心感を高めるため、データの漏えいに対する備え、データ提供

先のセキュリティレベルの把握状況等を消費者に分かりやすく示すこと。

(2) データの標準化、互換性の確保、データに関する権限の扱い

各分野で関係者が連携して技術進歩やサービス提供形態の進展等に柔軟に対応

できるような仕組み作りに努めること。

利用規約等において、データの活用等に関する消費者、情報銀行等及びデータ

提供先の権限や義務を予め明示すること。

(3) 苦情・紛争処理手段

個人情報を含めた多様なデータの取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理及

びそのための体制の整備に努めること。

その際、消費者の信頼を高めるため、データ提供先に対する苦情についても第

一次窓口として受けることを検討すること。

(4) データ流通・活用に関する透明性の確保

サービス利用規約等において提供先、活用目的等を明示するなど、メリット等

を消費者が理解した上でデータ流通・活用に同意できるような分かり易い仕組み・

説明とインターフェースの整備に努めること。

(5) トレーサビリティ、データポータビリティ、データ削除の確保

消費者が、自らのデータがどの事業者に提供され、どのように活用されている

かを確認でき、希望する場合には、利用を停止したり、データを他の事業者に移転

したり、データを削除したりできる仕組みの提供に努めること。

Page 28: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

27

(6) 適正な業務遂行の確保

適正な業務遂行を消費者に対して保証するような仕組み(基準とそれに基づく

第三者認証等)の整備について、関係者で検討を進めること。

(7) 国民が自らのデータを管理することについての普及・啓発・教育

自らのデータを管理することの重要性や責任、活用によるメリット等について

国民・消費者の理解が深まるよう、マルチステークホルダーによる取り組みを推

進すること。

(8) 流通するデータの正確性、質の高いデータを流通させる必要性

データ取引市場においては、取引されるデータの質・信頼性の確保に努めること。

Page 29: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

28

参考1

データ流通環境整備検討会

AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ 名簿

◎は主査

【有識者】

◎安念あ ん ね ん

潤司じ ゅ ん じ

中央大学大学院 法務研究科 教授

大橋 E

お お は し

A AE弘 E

ひ ろ し

A 東京大学大学院 経済学研究科 教授

AE越塚 E

こ し づ か

A AE登 E

の ぼ る

A 東京大学大学院 情報学環 教授

AE宍戸 E

し し ど

A AE常寿 E

じ ょ う じ

A 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授

AE柴崎 E

し ば さ き

A AE亮介 E

りょうすけ

A 東京大学 空間情報科学研究センター 教授

AE新保 E

し ん ぽ

A AE史生 E

ふ み お

A 慶應義塾大学 総合政策学部 教授

AE関 E

せ き

A AE聡司 E

さ と し

A 一般社団法人 新経済連盟 事務局長

AE根本 E

ね も と

A AE勝則 E

か つ の り

A 一般社団法人 日本経済団体連合会 常務理事

AE橋田 E

は し だ

A AE浩一 E

こ う い ち

A 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授

AE林 E

は や し

A いづみ 桜坂法律事務所 弁護士

AE原 E

は ら

A AE辰 E

た つ

AAE徳 E

の り

A 東京大学 人工物工学研究センター 准教授

AE松岡 E

ま つ お か

A AE萬 E

AAE里 E

AAE野 E

A 一般財団法人 日本消費者協会 理事長

AE松本 E

ま つ も と

A AE純夫 E

す み お

A 独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター 名誉院長

AE森 E

も り

A AE亮二 E

り ょ う じ

A 英知法律事務所 弁護士

AE矢作 E

や は ぎ

A AE尚 E

な お

AAE久 E

ひ さ

A 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授

【オブザーバー】

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 参事官

内閣府 知的財産戦略推進事務局 参事官

個人情報保護委員会事務局 参事官

金融庁 総務企画局 参事官

総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課 課長

経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長

観光庁 観光戦略課長

※事 務 局 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室

Page 30: AI IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ · 2017-03-15 · データ流通環境整備検討会. ai 、 iot時代におけるデータ活用ワーキンググループ

29

参考2

データ流通環境整備検討会

AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ 開催状況

回 開催年月日 主な議事

第1回 平成 28 年 9 月 30 日 ① ワーキンググループの運営と今後の進め方

について

② 意見交換

③ 加藤様からプレゼンテーション

第2回 平成 28 年 10 月 14 日 ① PDS、情報銀行等に関係するサービス等につ

いて

② 砂原様からプレゼンテーション

第3回 平成 28 年 10 月 28 日 ① 第 1回、第 2回 WGの指摘事項と今後の進め

方について

② 事業者ヒアリング

・PDSの社会実装の課題と取組み

(株式会社富士通研究所 石垣様)

・VRM(Idp+PDS)社会実装に向けて~課題認識

~(大日本印刷株式会社 勝島様)

第4回 平成 28 年 11 月 11 日 ① 生貝様からプレゼンテーション

② 宍戸構成員からプレゼンテーション

第5回 平成 28 年 11 月 25 日 ① 森下様からプレゼンテーション

② 高口様からプレゼンテーション

③ 川上様からプレゼンテーション

第6回 平成 28 年 12 月 9 日 ① 総務省からプレゼンテーション

② 経済産業省からプレゼンテーション

③ 情報通信技術(IT)総合戦略室からプレゼン

テーション

第7回 平成 28 年 12 月 22 日 ① 中間とりまとめに向けた論点の整理

第8回 平成 29 年 1 月 27 日 ① 伊藤様からプレゼンテーション

② 金融庁からプレゼンテーション

③ 中間とりまとめ(案)について

第9回 平成 29 年 2 月 24 日 ① 中間とりまとめ(案)について