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8 2008 Vol.236
株式会社ユニオン 代表取締役 植野 哲司さん 工場長 三浦 雄一さん
70年にわたる歴史の中でさまざまなミシンが開発されてきた。なかには、難しさから何度も断念しかけ、そのたびにお客様の「JUKIさん待っているよ!」の声に励まされてやっと完成した製品もある。このスカートファスナー付機もそのひとつである。現役で活躍している㈱ユニオンさんを開発者の営業推進部販売支援課長飛田茂とともに訪ねた。
「ベテランしかできない難作業を高い品質と生産性で実現し、助かりました」代表取締役植野哲司さん(中)、工場長の三浦雄一さん(左)と開発担当者飛田茂(右)。
AZS-270 スカートファスナー付機
20年のときを超えていまなお活躍-- 現役で稼働率40%! ベテラン頼みの難作業を 高速・高品質で処理する名機
特集:JUKI70周年
JUKIがスカートファスナー付機AZS-270を苦心の末に発売
したのは1988年12月。女子学生服を専門に手がけていた㈱ユ
ニオンさんの導入が1990年。
「女子服のスカートの脇のファスナー付けは、ベテランしかで
きない難しい工程でした。どうしても仕上がりがきれいにならず、
生産性も上がらない。何とかしないと、と思っていたところに、い
いミシンがあると聞いて迷わずに導入しました。先代の時代です」
と同社代表取締役の植野哲司さん。
「このミシンは、1984年に名古屋で開かれた第1回JIAM展で、
試作品を展示したのですが、その後、本格的に開発に取り組
んでみると予想以上に大変で、何度も止めようかという話が出ま
した。それくらい難しかったのです。しかも、国内と海外では、ス
カートのファスナー付けはやり方が違うので、開発しても国内し
か販売できない、予想される販売数も少なかったのですが、営
業担当者からは会うたびに『お客さんから“あのスカートファス
ナー付けミシンはまだ?”と聞かれるので早くして』といわれる。
その声に押されて完成させることができました。それだけに、20
年たってもまだ現役で使われているなんてうれしいですね」と当
時、開発を担当したJUKI㈱営業推進部販売支援課長の飛田
茂。大変だっただけに、懐かしさもひとしおのようだ。
㈱ユニオンさんの創業は1970年(昭和45年)。大阪・阿倍野
で女子学生服を手がけていた先代が中心になって、自営業を
営む4社が合同して立ち上げた。ユニオンという名前は4社
の協調のシンボルでもある。
「元々、4社とも家内工業的に同じメーカーさんの女子学生
服の仕事をしていたのですが、それぞれ担当アイテムが違う。
時代が変わって家内工業では限界もあり、合同することで規模
「JUKIさん待ってるよ!」 の声に励まされて完成
4社が合同で立ち上げた㈱ユニオン 女子学生服はイージーオーダーの世界
92008 Vol.236
ファスナーをセットし、スカート身頃をセットして、自動で縫製……、手作業+自動の組み合わせが成功の要因だ。
きれいな縫いあがり。腰位置で曲がるスカートのパターンにも、滑らかにフィットしている。
CAD室。ここからCAMデータが裁断機に送られる。これだけの学校データが用意されている。
も仕事の幅も広げたい、そんなねらいから設立されたようです」
と植野さん。
設立後、会社は順調に成長し、いまでは社員60名、上着、セ
ーラー服で4万着、スカート6万本を生産する有力な工場である。
中高生の制服は1980年頃以降、それまでの標準服から学
校ごとの別注に変わった。かつては量産の代表だった学生服は、
個性化が進み、いまやイージーオーダーの世界である。「1学年
160人の生徒がいると、その中で女子は半分の80名、これを10
サイズで展開しますと1サイズ8着です。しかも、入学が決まる
のが3月ですから、それから受注して4月の入学式に間に合わ
せないといけない。特別な寸法も多く、まさにイージーオーダー
の世界。生地も常備しておかなければ……」(植野さん)という
すさまじい状態なのである。
そんな中で、AZS-270は「ネックだった難作業を解消し、個
性化、短納期化に向けて生産性を高めてくれる貴重な戦力で
した」と工場長の三浦さん。
同社は現在こうした小ロット化のなかで、プリーツセット真空釜、
2台の自動裁断機(積層裁断機/1枚裁断機)などを導入して
短納期化を実現しており、高い信頼性で業界をリードするTO
P企業に成長している。
多くの女子学生服工場で愛用された同機だが、開発は容易
ではなかった。困難さから、何度か挫折しかけてもいる。開発の
難しさの一端をご紹介しよう。
①一部手作業を残す
課題の1つは、左右ともカーブしている身頃を直線のファスナ
ーに縫い付けること。完全自動化を狙い試作・失敗を繰り返し
たが、どうしても不可能。結局は2枚の定規を使用して、手作業
で身頃を直線状にセットする、手作業+自動を採用した。このア
イデアで、機構が単純になり、コストも安く、故障要因も減らせ、
サイクルタイムも短縮化できた。
②ゲージの簡易着脱と自動判定
スカートのファスナー付け仕様には右側、左側、背中心の3種
類と開き/長さの組み合わせがあり、設定変更が不可欠。試
行錯誤の末に、工具を使用しないでゲージ交換できるような機
構を編み出し、ゲージはねじ付のつまみで簡単に着脱できるよ
うにした。これで仕様変更は30秒以下で可能になった。
③フラップ返し
脇ファスナーの縫製は、左右の身頃が2mmほど重なるように
なっているため、縫製の際には上側の身頃をめくって縫う。この
機構も、いろいろと試めした結果、最終的には、針のすぐ後ろ側
で「フラップ返し」と呼ぶ細い棒状の部材が身頃をめくる機構
にして解決した。
④ファスナー仕様の変更
それまで、いろいろなファスナーが使われていたが、機械化
するために規格を統一。縫製の際に、針との干渉を避けるため、
必要長さより、2cm長いファスナーを使用して、縫製後に余った
部分を切断するようにした。これは、市場から抵抗が大きいと心
配したが、予想よりスムーズに市場に受け入れられた。
同機は発売後、国内のスカート工場にほぼ行きつくした人気
機種だったが、飛田は、完成させるとすぐにアメリカに転勤し、
国内での販売状況を知らなかった。「いまでも稼働率40%」(三
浦工場長)と聞いて「こんなにきれいに使っていただいて、元気
なわが子を見るようでうれしい」と飛田。
女子学生服業界は、個性化が進むなかで、短納期化が求め
られ、大きく変わろうとしている。「そのためには、ユーザーであ
る学校と作り手がもっと情報を交換する必要がありますね。協
力することでメリットは大きいはず」と植野社長、三浦工場長は
口をそろえる。
今後の大きな課題といえよう。
いまだから話せる ――開発秘話