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※ 《 》内の記載は、山口刑法=山口厚『刑法[第 2 版]』、西田各論=西田典之『刑法各論[第 5 版]』、
山口各論=山口厚『刑法各論[第 2 版]』のそれぞれの該当ページを、( ) 内の数字は、『判例刑法各論[第 5
版]』に収録の判例の通し番号を示している。
これらの記載については、【第 2 回】以降も同様である。
2011 年度秋学期
「刑法 II(各論)」講義
2011 年 9 月 27 日
【第 1 回】ガイダンス
1 刑法各論の意義 《山口刑法 p. 203 /西田各論 pp. 1-4、山口各論 p. 1》
1-1 刑法各論とは?
刑法総論が各犯罪類型共通の成立要件を論ずるのに対し、
刑法各論は個別の犯罪類型に固有の成立要件を検討し明らかにすることをその任務とする。
1-2 検討の対象
a. 刑法典各則
=「刑法」(明治 40 年法律 45 号)のうち、第 2 編「罪」の部分(77 条~ 264 条)
b. 特別刑法
(i) 狭義の特別刑法――刑法典各則の犯罪類型の補充・拡張
[例]「爆発物取締罰則」(明治 17 年太政官布告 32 号)
「暴力行為等処罰ニ関スル法律」(大正 15 年法律 60 号)
「航空機の強取等の処罰に関する法律」(昭和 45 年法律 68 号)
「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」(昭和 45 年法律 142 号)
「人質による強要行為等の処罰に関する法律」(昭和 53 年法律 48 号)、など
(ii) 行政刑法――行政取締法規の実効性の刑罰による担保を目的
[例]「道路交通法」「国家公務員法」「所得税法」「法人税法」「金融商品取引法」
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(=独占禁止法)」
など多数にのぼる
2 刑法各論の体系 《山口刑法 p. 203 /西田各論 p. 4、山口各論 pp. 1-2》
2-1 保護法益による体系化
[保護法益の帰属主体に応じた区分]
(i) 個人的法益に対する罪、(ii) 社会的法益に対する罪、(iii) 国家的法益に対する罪
2-2 検討の順序
刑法典各則は一部の例外を除き、おおむね
2011 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
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(iii) 国家的法益に対する罪→(ii) 社会的法益に対する罪→(i) 個人的法益に対する罪
の順に規定。
しかし、
* 現行憲法下の個人の尊重を重視する価値観(憲法 13 条参照)
* 個人的法益に対する罪が様々な犯罪類型の基本であり、また学問的研究についてもこれ
らの犯罪類型を中心に進展していること(←便宜的理由)
より、現在は一般的に
(i) 個人的法益に対する罪→(ii) 社会的法益に対する罪→(iii) 国家的法益に対する罪
の順に論じられることが多い。
(※ 本科目において指定した教科書はいずれもこの順序で解説されている。他の概説書/体系書の多くもこの
順序による。この講義も基本的にはこの順序にもとづいて進行することにする。)
3 解釈の方法 《山口刑法 p. 203 /西田各論 p. 1、山口各論 p. 1》
上記 1-1 で「刑法各論は個別の犯罪類型に固有の成立要件を検討し明らかにすることをその任務
とする」としたが、ではどうやって「個別の犯罪類型に固有の成立要件を検討し明らかにする」の
か?
もちろん条文上の文言を基礎にすべきことはいうまでもなく、また罪刑法定主義は刑法の重要な
原則であるので、これを無視した解釈([例]類推解釈《山口刑法 pp. 11-12 を参照》)をしてはならな
いことは当然のことである。
しかし、条文の解釈作業はいろいろな要素を考慮する必要があり、条文上の文言から直ちに一義
的な結論が導き出されるわけではない。
* 保護法益の確定
まずこれがその他の犯罪成立要件(客観・主観の両面がある)の解明の前提となる。
[例]「ダンプカー」は刑法 208 条の 3(凶器準備集合罪)にいう「凶器」にあたるか?
判例(69)
「原審認定の具体的事情のもとにおいては、右ダンプカーが人を殺傷する用具として利用さ
れる外観を呈していたものとはいえず、社会通念に照らし、ただちに他人をして危険感をいだ
かせるに足りるものとはいえないのであるから、原判示ダンプカーは、未だ、同条にいう『兇
器』(注:当時は条文上『兇器』と表記されていた)にあたらないと解するのが相当である。」
[凶器準備集合罪の保護法益]
A. 人の生命・身体・財産 ←個人的法益
(※ これらを侵害する罪の予備罪として位置づける。)
B. 公共的な社会生活の平穏 ←社会的法益
(※ 公共危険罪としての位置づけとなる。判例(68)(「…… 社会通念上人をして危険感を抱かせるに足
りる ……」)(65)(「…… 公共的な社会生活の平穏をも同様に保護法益とする ……」)参照。)
このように考えると、エンジンをかけたまま止まっているダンプカーは社会に対して不安を
与えるようなものではないから「凶器」ではない、ということになる。
* 他の条文(犯罪類型)との関係
刑法典は個々の犯罪類型を 1 つずつ規定しているので、条文相互が衝突する場合が生ずる。他
~「個人の学習目的での利用」以外の使用禁止~
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2011 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
方、あるべき条文が抜けている場合も生ずる。
[例]
* 殺人罪(刑法 199 条)・傷害罪(刑法 204 条)・過失致死傷罪(刑法 209 条~ 211 条)な
ど(=人の生命・身体に対する罪)と堕胎罪(刑法 212 条以下)
堕胎罪の規定があることによって、胎児を殺すことは堕胎罪に該当し、殺人罪にはあたら
ないことになる。
他方、母体を通じて胎児に侵害を加えて、その後胎児が出生により人になった段階で傷害
または死亡結果が発生した場合(=「胎児性致死傷」)について、刑法上どのように扱うべき
かが問題となる。
(※ 胎児性致死傷については、最高裁判所は熊本水俣病事件において業務上過失致死罪の成立を肯定
している(判例(22)参照)が、これに対しては学説はおおむね批判的である。)
* 横領罪(刑法 252 条、253 条)と背任罪(刑法 247 条)
他人の事務処理者が自己の占有する他人の物を不法に処分した場合には横領罪と背任罪が
ともに成立するようにみえるが、この場合、法益侵害が 1 個であることから、両罪は法条
競合の関係《山口刑法 pp. 181-182 を参照》に立ち、より重い横領罪のみが成立すると解されて
いる。
→ 横領罪と背任罪の区別(実際には、横領罪の成立の限界)が問題となる。
(※ この問題については、【第 12 回】2-7 において取り扱う予定である。)
《参考文献》
3 について
* 町野朔「定型説と社会的常識」同『犯罪各論の現在』(有斐閣、1996 年)pp. 1-16い ま
《『刑法各論の思考方法[第 3 版]』参照箇所》
3 について: 第 0 講、第 1 講