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微粉粉体層の付着力に及ぼす凝集性の影響* Effect of Agglomeration Phenomenon on Adhesion Force of Powder Bed 椿 淳 一 郎** 一*** 二** Jun-ichiro TSUBAKI Keichi KATO Genji JIMBO 1.は じめに 一 般 に微 粉 体は凝集 体を形 成 し易 く ,さ まざ まな粉 体 挙 動 に お い て も,この凝集体 を単位 として挙 動す る場合 が 多 い 。 と ころが,こ の凝 集体 の大 きさは,置かれ てい る 力 学 的 条件 に よって比較 的容易 に変化す るた め,凝集 体 が 粉 体 挙動 に及 ぼす影響 を定量 的に把握 す るこ とは, な か なか 難 しい問題で あ る。 粉 体層 の様 々な挙動 につい ては,流 体透 過に 関 して実 験 的 研 究1,2)が な され てい るが,粉 体 層 の付着 力測定 に 及 ぼ す 影 響 につ いて は,よ うや く研究 が開始 された段 階 で あ る3,4)。 われわれは,粉 体の凝集状態 と付着力の関 係 を 知 る 目的 で,一次 粒子径 よ り十分 に大 きい 目開 きの ふ る い を 用い て,凝集 状態 の異 な る粉 体層 を形 成 し,付 着力 の 測定 を行な った。 また,粉体 層へ の予圧 密荷重 を 様 々に 変 え る ことに よ り,充てん時 の凝 集状態 が どの よ うに 変 化 し,凝集状態 の変化 に よって付着力 が どの よ う に 変 化 す るか,につ いて検 討を行 った。 2.実 験方法及び供試粉体 付 着 力 の 測定 にはFig.1に 示す,吊 り下 げ式付 着力測 定 機(コ ヒテス ター)を用いた 。 セル寸法は 内径50mm, Fig.1吊り下げ式 付着力測 定装置 深 さ20mmで ある。 付着力は,ま ず以下に述べ る充て ん方法に よって粉体をセルに充てん し,所定の荷重で10 分 間 予 圧 密 した 後,粉 体 層 上 面 をす り切 り,2mm/min の一定速度で可動 セルを引張 り,層が破断 した時 の引張 り応 力 と して 求 め た 。 粉 体 層 の 空隙 率 は,層 の破 断 後 試 料重量 を秤量 し,こ れ とセル体積か ら求 めた。 また,予 圧 密応 力 は0~200g/cm2と した 。 粉 体試料 には,標 準粉体JIS11種の 関 東 ローム粉 (2.0μm),石 灰 石粉(1.7μm),熔融 アル ミナ粉(ホ ワイ トア ラ ン ダ ム#8000,1.3μm)を 用いた。試料の充 てん に は,ス パ チ ュ ラ ー とふ る い を用 い た 。 ふ る い を 通 して の充 て ん は,1枚 のふるいを通 して凝集粒子径に分 布 を 持 たせ た 場 合 と,目 開 き の異 な る2枚 のふ る い に よ って 凝 集粒 子 径 を そ ろ え た 場 合 の,2通 りの方 法 で 行 っ た 。 試 料 ご と の充 て ん 条 件 は,Fig.3,4,5の 図中にそれ ぞれ示 したが,関 東 ロー ム粉 の場 合は8通 り,石 灰石 Fig.2凝 集粒子 粒径分布(関 東 ローム粉) 昭 和56年7月29日 受付 *1981年7月,粉 体工学 会夏期 シンポ ジウム,函南 **名古 屋 大学 工学 部化学 工学科 〒464名古屋 の市 千種 区不 老町 TEL052-781-5111(内)3379 ***住友 化学 工 業株式会 社 Vol.18No.12(1981) (9) 873

研 究 報 告 微粉粉体層の付着力に及ぼす凝集性の影響*konatsubaki.jhgs.jp/pdf/12.pdf · TARBUCKの 式から求めてみると,Fig.3に 示すよう に,計 算に用いた点の空隙率より小さな空隙率範囲にお

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研 究 報 告

微粉粉体層の付着力に及ぼす凝集性の影響*Effect of Agglomeration Phenomenon on Adhesion Force of

Powder Bed

椿 淳 一 郎**  加 藤 啓 一***  神 保 元 二**

Jun-ichiro TSUBAKI Keichi KATO Genji JIMBO

1.は じ め に

一般に微粉体は凝集体を形成し易く,さ まざまな粉体

挙動においても,こ の凝集体を単位として挙動する場合

が多い。ところが,こ の凝集体の大きさは,置 かれてい

る力学的条件によって比較的容易に変化するため,凝 集

体が粉体挙動に及ぼす影響を定量的に把握することは,

なか なか難しい問題である。

粉体層 の様々な挙動については,流 体透過に関して実

験的研究1,2)がなされているが,粉 体層の付着力測定に

及ぼす影響については,よ うや く研究が開始された段階

であ る3,4)。われわれは,粉 体の凝集状態と付着力の関

係を知る目的で,一 次粒子径より十分に大きい目開きの

ふるいを用いて,凝 集状態の異なる粉体層を形成し,付

着力 の測定を行なった。また,粉 体層への予圧密荷重を

様 々に変えることにより,充 てん時の凝集状態がどのよ

うに変化し,凝 集状態の変化によって付着力がどのよう

に変化するか,に ついて検討を行った。

2.実 験方法及び供試粉体

付着力の測定にはFig.1に 示す,吊 り下げ式付着力測

定機(コ ヒテスター)を用いた。セル寸法は内径50mm,

Fig.1吊 り下げ式付着力測定装置

深 さ20mmで ある。 付着 力は,ま ず以下 に述べ る充 て

ん方法に よって粉体 を セルに充 てん し,所 定 の荷重で10

分 間予圧 密 した後,粉 体層 上面 をす り切 り,2mm/min

の一定 速度で可動 セルを引張 り,層 が破 断 した時 の引張

り応 力 と して求めた。粉 体層 の空隙 率 は,層 の破 断後試

料重量 を秤量 し,こ れ とセル体積か ら求 めた。 また,予

圧 密応 力 は0~200g/cm2と した。

粉 体試料 には,標 準粉体JIS11種 の 関 東 ロ ー ム 粉

(2.0μm),石 灰 石粉(1.7μm),熔 融 アル ミナ粉(ホ

ワイ トア ランダム#8000,1.3μm)を 用いた。試料 の充

てん には,ス パチ ュラー とふ るいを用 い た。ふ るいを通

して の充 てんは,1枚 のふ るい を通 して凝集粒子 径に分

布 を持 たせ た場 合 と,目 開 きの異 な る2枚 のふ るいに よ

って凝 集粒子径 をそ ろえた場合 の,2通 りの方法 で行 っ

た。試料 ごとの充 てん条 件は,Fig.3,4,5の 図 中にそれ

ぞれ示 したが,関 東 ロー ム粉 の場 合は8通 り,石 灰 石

Fig.2凝 集粒子粒径分布(関 東 ローム粉)

昭 和56年7月29日 受付

*1981年7月,粉 体工学会夏期シンポジウム,函 南

**名 古屋大学工学部化学工学科 〒464名 古屋の市千種区不老町

TEL052-781-5111(内)3379***住 友化学工業株式会社

Vol.18No.12(1981) (9) 873

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Fig.3粉 体層空隙率と付着力(関 東 ローム粉)

粉,熔 融 アル ミナ粉 の場合は3通 りに変化 させた。 目開

きの異な る2枚 のふるいを用 いた場合 の,凝 集粒子径分

布の一例 をFig.2に 示 したが,図 か らも明 らか な よ う

に,凝 集粒子 の大 きさは非常に よ くそろ ってい る。凝集

粒子径 は凝集粒子の2次 元影像 より,Feret径 を代表径

として求 めた。測定個数はふ るい 目開きの 組 合 せ が,

500-710,710-1000,1000-1410,2000-2830μmに

お いて,そ れぞれ500,300,200,50個 であ った。

また,以 下 の解析に用いるため凝集粒子 内 の 空 隙 率

εintraを次の方法で求めた。 凝集粒子は ふるい面上で一

種 の転動造粒に よって形成 され,形 が球 に近 い こ とか

ら,凝 集 粒子 を球 と近似 して平均体積 を求 め3こ れ と凝

集粒子数百 ~千個 の秤量か ら求 めた平均重量 よ り,凝 集

粒子 内空隙率 εintraを求めた。

3.実 験 結 果

それぞれ の試料 の付着力 σzと層全 体 の空隙率 εの 関

係を,Fig.3,4.5に 示 した。 われわれは これ まで粉体層

Fig.4粉 体層空隙率と付着力(石 灰石粉)

Fig.5粉 体層空隙率と付着力(熔 融アル ミナ粉)

の付着 力測定結 果は,片 対 数紙上 に プ ロッ トし次 の実 験

式で整理 して きた5,6)。

… …(1)

874  (10)  粉体工 学 会誌

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ま た,木 学会 の物性 グル ー プ会で測 定 され た全 デー タも

片 対 数 紙 上 に プ ロッ トされ,よ い直線 性を示 してい る7)。

そ こで 本実 験 にお いて も,測 定結 果を片対 数紙 上に プ ロ

ッ トした が,Fig.3,4,5か ら明 らかな よ うに,い ずれ の

試 料 に お い て も全空隙 率範 囲にわ た って1本 の直線で 測

定 結 果 を代 表 す るこ とはで きず,空 隙 率 と付着 力 の関 係

が 一 つ の 実験 式で は表わ せな い ことを示 して い る。 しか

し,空 隙 率範 囲 ご とに見 てみ る と,初 期 の充 てん方法 の

影 響 が無 くな る範 囲,関 東 ローム粉,熔 融 アル ミナ粉 で

は ε≦0.73,石 灰石粉 で は ε≦0.69,に おい ては測定範

囲 が 狭 い とい う問題 は あるが,測 定結 果は(1)式に よって

整 理 され るこ とを示 してい る。更 に空隙 率 の 大 き い 範

囲,関 東 ロー ム粉 では0.73≦ ε≦0.8,石 灰石粉 では0。69

≦ ε≦0.78,熔 融 アル ミナ粉 で は0.73≦ ε,に おいて は

初 期 の充 て ん方法 に よって(1)式の定a,bの 値 は異 な

る も の の,測 定結果 はや は り(1)式の形で 整理 され る。 し

か し,更 に高 空隙範 囲に おい ては,Fig.3,4か ら明 らか

な よ うに 測定 点は直 線性 を示 さず,(1)式 では整 理 され な

くな っ て い る。 この傾 向は凝集体 の影響 が強 い 程 大 き

く,目 開 きの小 さなふ るいで充 てん した場 合 と熔融 アル

ミナ 粉 の 場合 には,上 述 した 中間 の空隙 率範囲 の実験式

で 整 理 され る ことがわ か る。

以 上 よ り,空 隙 率に対す る付着 力 の測定 結果 は,凝 集

体 の 影 響 が 非常 に強 い場 合を除 けば,(1)式 の形 で整理 さ

れ る こ とが わか る。 またRUMPFの 式 も,Fig.3,4か ら

明 らか な よ うに,片 対数 紙上で ほぼ直線 とな ってい る こ

と か ら,(1)式 はか な り一般 性 のあ る実験式 であ る と思わ

れ る 。

関 東 ロー ム粉 と石灰石粉 の場合 は,凝 集状態 の違い に

よ っ て,と くに高 空隙率域 にお いて,付 着力が著 し く変

化 し て い る。それ に対 して,熔 融 アル ミナ粉 の場 合は他

の 試 料 ほ ど顕 著 な違 いは認 め られ なか った。各試 料 の空

隙 率 に 対 す る付着 力を比 べてみ ると,ほ ぼ等 しいに もか

か わ らず,熔 融 アル ミナ粉 の場 合は凝 集粒子 を作 りに く

か っ た 。 これ は熔 融 アル ミナ粉 の場合,付 着性 は他 の試

料 と ほ ぼ 同 じで も,凝 集性は非 常に小 さい こ とを示 して

い る 。 そ のた め形 成 され た凝集 粒子 の強 度 も小 さ く,他

の 試 料 ほ ど凝集 状態 の違 いが付 着力に影 響を及 ぼ さない

と 考 え られ る。

Fig.3の 関東 ロー ム粉 の結果 で,凝 集 状態 の影 響につ

い て 少 し詳 し く見 てみ る。 まず充 てん方 法 の違 いに よる

影 響 に つ い て見 てみ る と,層 全体 の空隙 率が等 しい場合

の 付 着 力 は,凝 集 粒子径 がそ ろ ってい る場 合に最 も小 さ

く,ス パ チ ュラーで充 てん した場 合や凝 集粒子径 が広 い

分 布 を 持 つ場 合は それ よ り大 き くな り,凝 集粒子径 を小

さ ぐして行 くと更 に夫 き くな って くる。 ふ るい目 開 きの

組合 せが,500-710,710-1000,1000-1410μmの 場

合に は形 成 され る凝 集粒 子径 が,Fig.2に 示 した よ うに

明 らか に異 なるに もかか わ らず,3つ の付 着力 は一 致 し

て しまい,凝 集粒子径 の影 響が 表われ て いない 。ふ るい

目開 きを2000-2830μmと 大 き くす ると,形 成 され る

凝 集粒子 も弱 くな り,多 くの ものが充 てん時 に 壊 わ さ

れ,粒 度分 布 のあ る凝 集粒子 を充 てん した揚 合 と同 じに

な ってい る と考 え られ る。

試 料充 てん時 の凝集状 態 の影 響は,予 圧 密荷重 が小 さ

く,凝 集状態 が充 てん時 の状態 に近 い高空隙 域 ほ ど大 き

く,関 東 ロー ム粉 におい ては付着 力 の測定値 に2桁 近 い

差異 があ る ことがわ か る。予 圧密荷 重を 次第 に大 き くし

て空隙 率を小 さ くして行 くと,凝 集 粒子径 がそ ろ ってい

る程 空隙率 の減少 に対 して付 着 力はあ る所 まで急 激 に増

大 し,あ る空隙率 にな る と充 て ん時 の凝 集状態 に よ らず

付 着力 は一 致 して くる。 この付着 力が一 致 して くる点,

関 東 ローム粉で はε=0.725,で の デー タを用 いて 付 着

力 と空隙率 の 関 係 をRUMPFの 式 とRIDGWAY and

TARBUCKの 式か ら求め てみ ると,Fig.3に 示 す よ う

に,計 算 に用いた点 の空隙 率 よ り小 さな空隙率範 囲にお

Fig.6粉 体層予圧密応力と付着力(関 東ローム粉)

Vol.18No.12(1981) (11) 875

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Fig.7粉 体層予圧密応力と付着力(石 灰石粉)

Fig.8粉 体層予圧密応力と付着力(熔 融アル ミナ粉)

いてのみ,実 験結果 とよ く一致 してい る。ただ,測 定 し

ている空隙率範囲が狭いため,こ の点については今後更

に検 討 してい きたい。

Fig.4に 示 した石灰 石粉の結果 については,関 東 ロー

ム粉 の場合 と まった く同様の ことが言 える。

熔融 アル ミナ粉 の場合は,前 述 の ように凝 集性が弱い

ため,目 開 き710と1000μmの ふ るいに よって凝集粒

子径 をそ ろえた場合 も,1000μmの ふるいを通 して分布

を持たせた場合 も,Fig.5に 示 す よ うに付着力は 等 し く

なる。 また,空 隙率を よ り小 さ くす る と付着力 は急激に

減少 して しまった。空隙 率を下げ るため予圧 密荷 重を大

き くす ると,破 断面は固定 セル と可動 セル側の両 方に生

じ,破 断時に両破 断面に挾 まれ たV字 型 の粉体が 抜け落

ち る現 象が観察 された。 これ は予圧密時 に既に層 内に ス

ベ リ面 が生 じてい るため ではないか と考 え られ る。 この

ため低空隙域 での付着力 は測定で きなか った。

次に,そ れ ぞれ の試料 の付着力 σzと予圧 密 応 力Pの

関係を,Fig.6,7,8に 示 した。図か ら明 らかな と うり,

外部応 力Pに 対 す る付着 力 σzは,次 式,

… …(2)

で よ く整理 され るこ とが わか る。一 般に粉体層 の付着 力

測定結果 は,空 隙率 との関係で発 表 され るこ とが多 く,

(2)式の一般 性を裏付け る ことは(1)式の場合 ほ ど容易 では

ないが,高 温 場で の測 定結果9)も 含 めてわれわ れが これ

まで 測定 して きた デー タ10)は,(2)式 が よく成立 してい る

ことを示 してい る。

また,外 部応力 であ る予圧密応 力に対 して付 着 力を整

理 す ると,図 で 明 らかな よ うに,層 構造 を表 わす空 隙率

で整 理 した場合に比 べて,充 てん時 の凝集 状態 の影 響は

小 さ くな って いる。

4.考 察

まず,凝 集粒子径 がそ ろってい る場合 に付着 力 が低下

す る原 因につい て考 えてみ る。粉 体層は凝集粒 子 を単位

と して構成 され,引 張 り破断 され る場合 も,後 で述 べ る

よ うにある空 隙率範囲 におい ては,凝 集 粒子が構 成 単位

に も しくは それ に近 い状態 にな ってい ると考 え られ る。

また,凝 集 粒子径が そろ っている場 合は,凝 集 粒子 を粉

体層構成 粒子 と した 時の空隙 率 εint,rが,凝 集粒子 径 に

分布が ある場合に比 べて大 き くな る。 このため単位 面積

当 りの構 成凝集粒子 同士 の接触 点は少 な くな り,そ れ だ

け付着 力が低下す る と考え られ る。

また,凝 集粒子径 がそ ろってい るほ ど,空 隙率 の変化

に対す る付着力 の変化 割合が大 きい こと,特 に高空 隙率

範 囲におい て顕著 であ る点 について考 察 してみ る。粉体

層 の引張 り破断が 完全に凝集 粒子単位 で行 なわれ る高空

隙 率範 囲お いては,単 位面積 当 りの構成凝 集粒子 の接触

点数 が,一 次粒子 を構 成粒子 とした場合 に比 べ て極 め て

少 な く,付 着力 も非常に小 さ くな る。 この粉 体層 に少 し

予圧 密荷重をかけ圧 密を行 うと,わ ずか の空 隙率 の減小

に よって も各接触 点におけ る接触面積 は急激に増大 す る

ため,付 着 力 も急 激に増大 す ると考 え られ る。 この破断

の状態 をFig.g(a)に 概念 的に示 した。さ らに予圧 密荷重

876  (12)  粉 体工 学会 誌

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Fig.9凝 集粒子接触状態と破断面

を 増 し,空 隙 率 を減小 して行 くとFig.9(b)に 示 した よ う

に,凝 集粒 子 の接 触点で の変形 が進み凝集粒子同士 の接

触 点 は 明確 で な くな り,凝 集 粒子 の内部に も破断面が生

じて くると考 え られ る。 この領域 において凝 集粒 子同士

の 接 触 は,点 接 触 か ら面接触 に移行 し破断 も凝集 粒子単

位 か ら,次 第 に 一次 粒子単位 に移行す るために,空 隙率

変 化 に 対 す る付 着 力の変化割合 も小 さ くなって くる。 さ

らに 予 圧 密加 重 を増 して行 くと,凝 集粒子は完全に潰 さ

れ て し まい,破 断はFig.9(c)に 示 す よ うに,一 次粒子単

位 で 行 な われ る よ うに な り凝集体 の影響は無 くな って く

る 。 凝 集 粒子径 に分布が あ る場合は,充 てん時において

Fig.9(b)の 状態 に よ り近 い状態 にあ るため,高 空隙率域

で わ ず か に空 隙 率が減小 した時に,付 着力が急激 に増大

す る とい う現象 が 顕著で な くな って くる。充 てん時 の凝

集 粒 子 径 が 小 さ くな るに従 って,Fig.9(c)の 状態 は存在

しな くな り,空 隙 率減小に対 して付着 力は 凝集状態 の影

響 が 無 くな る点 まで一様に増加す るこ とになる。

次 に,粉 体 層 全体 の空隙率が ある値 よ り小 さ くな る

と,空 隙 率 に対 す る付着 力は充 てん時 の凝集状態に よら

ず 一 致 して くる点につ いて,考 察を試みてみる。凝集粒

子 を 構 成単 位 とす る粉体層 の空隙率を,Fig.10に 示す

よ うに 凝集 粒子 内空隙 率 εintra,凝 集 粒 子 間 空 隙 率

εinter,粉 体 層全 体 の空 隙率に分けて考え る。この3つ の

空 隙 率 の間 に は,次 の関係式が成立す る。

Fig.10粉 体層 内空隙 モデル

Fig.11予 圧密応力と粉体層内空隙率変化(関 東ローム粉)

Fig.12圧 密応力と粉体届内空隙率変化(石 灰石粉)

… …(3)

凝集粒子はふるい面上 で,一 種 の転動造粒に よって形成

され るので,凝 集体 は相 当密 に充 てんされ てい るもの と

考え られ る。そ こで,圧 密 に よる粉体 層全体 の空隙率減

Vol.18No.12(1981) (13) 877

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Fig.13粉 体層空隙率 と付着力(ブ ライ ア ッシュ)

小は,層 全体の空隙率 εが凝集粒子内空隙率 εintraより

も大 きい範囲においては,凝 集粒子間空隙率 εinterの減

小のみに よって起 る と考 えることは妥当で あ る。 そ こ

で,凝 集粒子 内空隙率 εintraに,Fig.11,12の 図中に示

した実測値を用い,(3)式 よ り凝集粒子間空隙率 εinterと

予圧密応力 の関係を求めてみ ると,Fig.11,12と なる。

図か らも明 らかな とうり,関 東 ロー ム粉,石 灰石粉 どち

らの試料 においても,予 圧密応力が約150g/cm2で 凝

集粒子間空隙率 εintorがゼ ロとな り,凝 集粒 子が完 全に

潰 され,Fig.9(c)の 状態に達 してい ると考 え られ る。

Fig.3で 関東 ローム粉 の場合の,充 てん時 の凝集状態 の

影響 がな くな る層全体の空隙率を求めてみ ると0.72と な

り,Fig.11の 図中に示 した凝集粒子内空隙率 εintraの

値 にほぼ一致 してお り,層 中の凝集 粒子 が完全に潰 され

た時に,始 めて充てん時 の凝集状態 の影響 が無 くな るこ

とを示 してい る。 また,石 灰石粉 において も,Fig.12

の図中に示 した凝集粒子内空隙率 εintraの値にほぼ等 し

い周全体 の空隙率 εにおいて,充 てん時の凝集状態 の影

響 が無 くな ってい る ことをFig.4は 示 してい る。

Fig.13に は参考 の意味で,フ ライア ッシ ュ(JIS14

種,3.7μm)を 試料 と し,付 着水 分量を変 えた場 合 の付

着力測 定結果8)を 示 した 。図か ら明 らかな と うり,測 定

デ ータは付着水分量 に よ らず(1)式で整理 され,直 線 の傾

きaの 値 は,付 着 水分量 の増 加 とと もに大 き くな って い

る。 また,高 空隙率 側に おいては,空 隙 率 の増 加 に対 し

て付着力 は急激 に減 少 し,Fig.3,4に 示 した 関東 ローム

粉,石 灰 石粉 の結果 と同様 の傾 向 を示 して い る。一 方,

観 察に よって付着水分 量が増大 す ると,凝 集粒 子 がで き

易 くな るこ とを確か めてお り,こ れ まで 述べ て きた凝集

状態 と粉体層 付着力 の関係は,か な り一般 性 を持 ってい

る と思われ る。

5.結 言

一 次粒子径 よ り十分 に大 きい 目開 きのふ る い を 用 い

て,凝 集状態 の異 な る粉 体層 を形 成 し,さ まざ まな予圧

密荷 重条件で付 着力測定 を行 ない,次 の結果一を 得た 。

1)凝 集体 の影響 が少 ない場合,粉 体層 の 付 着 力 σz,

は,層 の空隙率 εに対 して,

の形で整理され,予 圧密応力Pに 対 しては,

の形 で整理 され ることを確めた 。 但 しa,a',b,b'

は定数 。

2)凝 集粒 子 の存在 に よ って,空 隙 率に対 す る付 着 力は

低下 し,特 に 高空 隙率範 囲にお いて著 る し く 低 下 す

る。 また,凝 集 粒子径 がそろ っているほ ど,凝 集粒子

の影響 が顕著 であ ることが わか った。

3)付 着 力の低 下機構 に対 して,考 察 を加 えた。

4)粉 体層 を圧密 し,粉 体層全 体 の空隙 率 を充 て ん時 の

凝 集粒子 内空隙率 よ りも小 さ くす る と,充 てん時 の凝

集状態に よらず付 着力は一致 して くる こと が わ か っ

た 。

(謝 辞)

本研究 の実験 装置 につい てご援助いた だいた,細 川粉

体工 学研究所 お よび粉体 技術談 話会 に謝意 を表 します 。

使 用 記 号

a,a':定 数[-]

b,b':定 数[-]

dp;一 次粒子 径[μm]

daε:凝 集粒 子径[μm]

P:粉 体層予圧 密応力[g/cm2]

U:ふ るい下積算分布[%]

W:付 着水分量:[wt.%]

ε:粉 体層全体の空隙率[-]

εinter:凝集粒子を粉体層構成粒子とした場合の空隙

率,凝 集粒子間空隙率[-]

878  (14)  粉体工 学会誌

Page 7: 研 究 報 告 微粉粉体層の付着力に及ぼす凝集性の影響*konatsubaki.jhgs.jp/pdf/12.pdf · TARBUCKの 式から求めてみると,Fig.3に 示すよう に,計 算に用いた点の空隙率より小さな空隙率範囲にお

εintra:凝集粒子内空隙率[-] σz:粉体層付着力[g/cm2]

引 用 文 献

1)山 崎量 平,神 保 元二:化 学 工学,38,4,299(1974)

2)大 平 治,工 藤寿 美子:薬 剤 学,32,70(1972)

3)堤 香津雄,山 本英夫,菅 沼彰,青 木 隆一:化 学工 学協会 第

14回 秋季 大会,1105,(1980横 浜)

4)荒 川正文:第18回 粉 体 に関す る討論 会,34(1980豊 橋)

5)Jimbo,GandR.Yamazaki:European Symposium

Particle Technology,B(1980Amsterdam)

6)今 井康夫,神 保元二,山 崎量平:化 学工学協会第14回秋季

大会,1106,(1980横 浜)

7)大 塚昭信,檀 上和美:粉 体工学会誌,18,8,591(1981)

8)神 保元二,椿 淳一郎,柏 木誠,曾 我和文:粉 体工学会昭和

56年春期研究発表会,17,(1981大 阪)

9)柏 木誠:名 古屋大学大学院修士論文(1980年 度)

10)例 えば,曾 我和文:名 古屋大学卒業論文(1980年 度)

Authors' Abstract

It in known that the method of feeding powder into split cell affects the adhesion forces

of powder beds, especially in fine particle powders. But the effect of the agglomeration

phenomenon on the adhesion forces has not been investigated systematically. The adhesion forces of powder beds have been measured by a split cell type tensile

strength meter. The powder beds consisted of several size agglomerations which were

prepared with sieves having a larger opening size than the primary particle diameter. The void fractions of powder beds were prepared with compression. Kanto loam powder,

limestone powder and fused almina powder were used as samples and their primary diameter

are several gym. It is found from these measurements that the adhesion forces of powder

beds are decreased by the effect of the agglomeration phenomenon, especially in high voidage,

and the adhesion forces have constant values when the void fractions of the powder bed

is equal to the void fractions of the agglomerations in the powder bed. The mechanisms of

the effect of agglomeration phenomenon are tentatively analysed.

List of Figures

Fig. 1 Sprit cell type tensile strength meter ada-

pted the hanging strips

Fig. 2 Agglomerates diameter distribution of Kanto loam powder

Fig. 3 Relationships between adhesion force and void fraction of powder bed (Kanto loam

powder)

Fig. 4 Relationships between adhesion force and void fraction of powder bed (Limestone

powder)

Fig. 5 Relationships between adhesion force and void fraction of powder bed (Fused almina

powder)

Fig. 6 Relationships between adhesion force and compression force (Kanto loam powder)

Fig. 7 Relationships between adhesion force and compression force (Limestone powder)

Fig. 3 Relationships between adhesion force and

compression force (Fused almina powder)

Fig. 9 Model of void in powder bed consisted of agglomerates

Fig. 10 Relationships between void fractions and compression force (Kanto loam powder)

Fig. 11 Relationships between void fractions and compression force (Limestone powder)

Fig. 12 Contacting state of agglomerates and frac-ture surface

Fig. 13 Relationships between adhesion force and

void fraction of powder bed (Fly ash)

Vol,18No.12(1981) (15) 879