10
92 福祉施設における外国人労働者の育成に関 する考察 東京都福祉保健局高齢社会対策部 はじめに 少子高齢社会の進行により、要介護高齢者は増 加する一方、就労人口の減少によって、将来にわ たって介護分野における人材が不足することは、 容易に想像できる。平成20年後半からの不景気で 失業者が増加し、彼らを福祉分野で吸収するとい う意見もあるが、介護福祉士専門学校の定員減や 閉鎖等の状況から見られるとおり、福祉職場への 希望者は減少しており、福祉の人材不足は長期的 には深刻化することは明らかである。 そのような状況の中、既に外国人労働者を受け 入れている諸外国の事例を踏まえ、今後わが国に おいて、外国人労働者が福祉施設で役割を担える ことを目的とした施策について考察していきた い。 介護現場における在日外国人について 平成22年3月に出された東京都社会福祉協議 会の「外国人介護者の受入れに関する検討委員 会」によると、平成21年8月に都内の介護老人 福祉施設389施設を対象に調査を実施し、316施設 から回答を得た結果(回収率81.2%)、在日の配 偶者・子など、日本語を母国語としない方で日本 国内での就労資格がある従事者が、32%にあたる 101の施設に計196人いることがわかった。こうし たことからも、既に外国人が日本における介護事 業の一端を担うようになってきていることが窺え る。ホームヘルパー2級の資格を有している者が 66.3%、介護福祉士は6.6%の13人にとどまり、雇 用形態は19.9%が正規職員である。 また、厚生労働省が実施した、第1回(EPA) インドネシア人介護福祉士候補者の実態調査によ ると、(全53施設を対象に今年1~2月に施設長 や職員、利用者などから意見を聞いた。39施設の 528人が回答した。)介護サービスを受けた利用者 79%は、働きぶりを「高く評価できる」と回答し、 16%は、「概ね評価できる」と回答した。そして、 利用者の45.4%、家族の56.2%は、候補者は元気 が良く、明るいので以前に比べて施設内が明るく なったと答えた しかし、この調査においては、ローテーション 職場で重要な、引き継ぎ、申し送りについては、 来日1年目の段階では、「平易な言葉でゆっくり 話しても一部支障あり」が、2割から4割あった。 諸外国の外国人介護労働者 介護労働者は、看護師と異なり家政婦的な色彩 が濃く、日本側が考えている介護福祉士と実態に 乖離がある(三浦和夫「人材ビジネスVOL20」)が、 介護労働力の不足を解消するための方法として、 外国人を積極的に受け入れることで確保しようと している国として、イタリアとギリシャが顕著で ある。(EUにおける医療従事者・介護労働者の 養成と就業・岡伸一季刊・社会保障研究V45P 253ギリシャは、ギリシャ語という特殊な言語のた め、外国人がギリシャに同化することは難しいと されている。政府は、各種NGOの助言を受け、 外国人にギリシャ語を教え、ギリシャで労働する ことを奨励している。その結果、今では、有能な 外国人介護労働者がギリシャ国内に受け入れられ た。 イタリアは、家族介護が一般的であったが、核 家族化により担い手が減少し、しかも公的なサー

福 祉 運 営 · 2013-03-21 · 1 はじめに 少子高齢社会の進行により、要介護高齢者は増 加する一方、就労人口の減少によって、将来にわ

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福祉施設における外国人労働者の育成に関

する考察

東京都福祉保健局高齢社会対策部

狐 塚 七 重

1 はじめに

 少子高齢社会の進行により、要介護高齢者は増

加する一方、就労人口の減少によって、将来にわ

たって介護分野における人材が不足することは、

容易に想像できる。平成20年後半からの不景気で

失業者が増加し、彼らを福祉分野で吸収するとい

う意見もあるが、介護福祉士専門学校の定員減や

閉鎖等の状況から見られるとおり、福祉職場への

希望者は減少しており、福祉の人材不足は長期的

には深刻化することは明らかである。

 そのような状況の中、既に外国人労働者を受け

入れている諸外国の事例を踏まえ、今後わが国に

おいて、外国人労働者が福祉施設で役割を担える

ことを目的とした施策について考察していきた

い。

2 介護現場における在日外国人について

 平成22年3月に出された東京都社会福祉協議

会の「外国人介護者の受入れに関する検討委員

会」によると、平成21年8月に都内の介護老人

福祉施設389施設を対象に調査を実施し、316施設

から回答を得た結果(回収率81.2%)、在日の配

偶者・子など、日本語を母国語としない方で日本

国内での就労資格がある従事者が、32%にあたる

101の施設に計196人いることがわかった。こうし

たことからも、既に外国人が日本における介護事

業の一端を担うようになってきていることが窺え

る。ホームヘルパー2級の資格を有している者が

66.3%、介護福祉士は6.6%の13人にとどまり、雇

用形態は19.9%が正規職員である。

 また、厚生労働省が実施した、第1回(EPA)

インドネシア人介護福祉士候補者の実態調査によ

ると、(全53施設を対象に今年1~2月に施設長

や職員、利用者などから意見を聞いた。39施設の

528人が回答した。)介護サービスを受けた利用者

の79%は、働きぶりを「高く評価できる」と回答し、

16%は、「概ね評価できる」と回答した。そして、

利用者の45.4%、家族の56.2%は、候補者は元気

が良く、明るいので以前に比べて施設内が明るく

なったと答えた

 しかし、この調査においては、ローテーション

職場で重要な、引き継ぎ、申し送りについては、

来日1年目の段階では、「平易な言葉でゆっくり

話しても一部支障あり」が、2割から4割あった。

3 諸外国の外国人介護労働者

 介護労働者は、看護師と異なり家政婦的な色彩

が濃く、日本側が考えている介護福祉士と実態に

乖離がある(三浦和夫「人材ビジネスVOL20」)が、

介護労働力の不足を解消するための方法として、

外国人を積極的に受け入れることで確保しようと

している国として、イタリアとギリシャが顕著で

ある。(EUにおける医療従事者・介護労働者の

養成と就業・岡伸一季刊・社会保障研究V45P

253)

 ギリシャは、ギリシャ語という特殊な言語のた

め、外国人がギリシャに同化することは難しいと

されている。政府は、各種NGOの助言を受け、

外国人にギリシャ語を教え、ギリシャで労働する

ことを奨励している。その結果、今では、有能な

外国人介護労働者がギリシャ国内に受け入れられ

た。

 イタリアは、家族介護が一般的であったが、核

家族化により担い手が減少し、しかも公的なサー

福 祉 運 営

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ビスが未熟であるため、個人で介護労働者を雇う

ことが一般的である。

 1991年にイタリア国内の家庭介護労働者の中で

占める外国人比率は、16.5%であったが、2003年

には83.3%となった。北イタリアの特定都市では、

近隣諸国からの移民に技能訓練を施し、その結果

に応じて移民受入れを認める政策を採用した。実

際に介護移民を受け入れるホストファミリーは、

当初、外国人の介護に違和感を示していたが、時

間とともに解消され、概ね評判が良い。特に出身

国での事前の準備訓練が普及してきて、イタリア

での適合化を助けている。(同P254)

4 EPA(経済連携協定)による介護労働者の

受け入れ

(1)外国人介護福祉士候補者受入れまでの経緯

 経済連携協定に基づく介護福祉士候補者の受入

れは、これまでわが国において外国人労働者の受

入れを認めてこなかった分野において、わが国と

相手国の経済上の連携を強化する観点から、二国

間協定に基づき公的な枠組みで特例的に行うもの

である。それは、経済領域での連携強化であり、

介護分野の労働力対策が目的ではなく、労働市場

への影響を考慮して当初2年間の受入れ最大人数

を600人と設定した。

 そして、看護・介護分野の労働者の受入れを含

む日本・フィリピン経済連携協定、日本・インド

ネシア経済連携協定の発効により、インドネシア

人介護福祉士候補者については平成20年度から、

フィリピン人介護福祉士候補者については平成21

年度から、それぞれ受入れが開始された。

 経済連携協定では、一定の要件を満たすフィリ

ピン人・インドネシア人が「介護福祉士候補者」

として入国し、日本の国家資格を取得するため一

定の要件を満たす施設(受入施設)で就労・研修

し、国家資格の取得後に介護福祉士として継続し

て就労することが認められた。また、フィリピン

人介護福祉士候補者については、日本国内の介護

福祉士養成校に入学し、介護福祉士資格の取得後

に介護福祉士として就労するコースも設定されて

いる。

 さらに、国家資格取得のために滞在していた間

に介護福祉士資格を取得できずに帰国したもの

の、その後、短期滞在等の在留資格で再度入国し

た際にわが国の国家試験に合格し、介護福祉士の

資格を取得したフィリピン人・インドネシア人に

ついての入国及び就労も認められている。

 これまでの介護福祉士候補者受入れでは全国で

平成20年8月にはインドネシアから第1陣104名、

(53施設)21年5月にはフィリピンから188名(92

施設)、同年11月にはインドネシアから第2陣189

名(85施設)が入国した。22年度はインドネシア

は77人(34施設)、フィリピン人は72人(34施設)

である。(資料1)

資料1 受入れ状況(介護福祉士候補者)

国  籍 平成20年度 平成21年度 平成22年度 合  計 合  計

介   

全  

インドネシア104人

(53施設)

189人

(85施設)

77人

(34施設)

370人

(172施設) 630人

(298施設)フ ィ リ ピ ン

188人

(92施設)

72人

(34施設)

260人

(126施設)

都  

インドネシア6人

(5施設)

13人

(6施設)

6人

(3施設)

25人

(14施設) 46人

(25施設)フ ィ リ ピ ン

16人

(10施設)

5人

(1施設)

21人

(11施設)

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(2)EPAに基づく受入れの概要

 EPAにおいて来日した介護福祉士候補者達

は、在留期間は、資格取得前は最大4年間(就労

コースの場合)、資格取得後は在留資格の更新回

数の制限はない。協定上定められた在留期間中に

国家資格を取得できなかった候補者は帰国するこ

とになる。

 候補者の要件は、看護学校卒業者、又は4年制

大学卒業者(インドネシアの場合は3年以上の高

等教育期間卒業者)でかつ母国での介護士資格認

定者、となっている。(就労コースの場合)

 彼らは、6ヶ月間の日本語教育を受けた後、実

習施設に配属される。なお、候補者の受入れを適

正に実施する観点から、国際厚生事業団が唯一の

あっせん機関として位置づけられ、これ以外の職

業紹介事業者や労働者派遣事業者に外国人候補者

のあっせんを依頼することはできない。

(3)EPAにおけるこれからの課題

 一番の課題は、国家試験合格である。同じよう

に入国した看護師は3回のチャンスがあるのに、

介護福祉士は1回である。試験に対してはチャン

スを増やして欲しい、ルビをふって欲しい、専門

用語を分かり易い言葉に代えて欲しい等の要望が

出ている。また、24年度以降は、6ヶ月の養成校

の課程を修了することになっているが、現時点で

は、決定ではないようである。受入れ施設にとっ

て、国家試験に合格しなければ、期待する「安定

した介護福祉士の供給」が実現できないのである。

 二番目は、施設に係る費用である。(資料2)

これ以外に、日本人と同等の給与が必要であるが、

職員定数としてカウントできないことになってい

る。施設にとって、これだけの費用を掛け効果が

あるならば、今後も継続していくだろうが、現時

点においては、この制度の先行きが心配である。

今年度、国の補助金が出ることになったが、研修

費用のみの支援であり、一人当たり、23.5万円以

内相当というものであるが、受入れ施設の負担は、

この数倍もかかっているのである。

5 これからの福祉人材の育成

(1)福祉職場の状況

 福祉の現場は、措置から契約の流れの中で「選

ばれる施設」を目指して、利用者のQOLがよく

なり、設備の改善が図られた。一方、介護に関る

時間は、以前より長くなった。例えば、身体拘束

の抑制から、センサーが多くなり、ベッドから降

りればセンサーがなり、車椅子から立ち上がれば

センサーがなるといった状況は、「日々追いかけ

られるような介護」状況になった。

 また、介護保険請求のために、記録は重要視さ

れ、トラブルも措置時代のように実施機関任せで

はなく、施設で解決しなければならなくなった。

 このことは、介護職員にとって、ストレスが多

くなり、人件費の効率化は、低賃金と不安定な雇

用状況を生み出すことになっていった。このこと

が、日本人の介護職員が減少する一要因となって

いると考えられる。

資料2 受入れ施設の負担金

求人申込手数料 求人申込書の審査・情報の翻訳・提供 31,500円(受入れ機関当たり)

あ っ せ ん 手 数 料マッチング・雇用契約の締結支援・来日支援とガイダンス等

138,000円(1名当たり)

イ ン ド ネ シ ア・フィリピン手数料

NATIONAL BOARD及びPOEA 35,000円(1名あたり)インドネシア 43,000円(1名あたり)フィリピン

滞 在 管 理 費 21,000円(1名当たり・1年間)

日本語研修機関支払 研修機関への支払 360,000円(1名当たり)

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(2) 人材確保の方法

 高齢社会における介護労働の占める割合は、大

きくなっていく一方、介護労働が魅力のない仕事

で、なり手がいないことプラス少子社会が来る。

 このことは、介護職員の育成を、急務なものと

している。その対策として、①国内の失業対策と

絡み、失業者を介護労働に誘導する。(緊急雇用

対策「働きながら資格を取るプログラム」等)②

介護労働の社会的地位を向上させ、より魅力のあ

る職業と位置づける(介護職員のキャリアアップ

システムの構築・介護職員処遇改善交付金)。③

外国人を介護労働者として積極的に受け入れる

(第4次出入国管理基礎計画検討内容)④介護ロ

ボットを使って前期高齢者でも介護職員として働

くことが出来るようにする。等がある。その他、

潜在的有資格者を掘り起こし、活用する案もある。

 しかし、介護をされる側から見ると、介護は、

介護をすることが好きな人、人間が好きな人でな

ければ哀しいものである。そのためには、接遇面

で明るいといわれる外国人を人材確保の一分野と

して積極的に受け入れる方法を充実させていくべ

きであろう。

(3)外国人の介護労働育成

 日本においては、外国人労働者の受け入れは、

一定の要件を満たす場合に就労を許可する方法を

採用している。それは、専門的・技術的分野の「高

度人材」の受入れに限られており、「単純労働者」

については、実質的に受け入れない基本方針が堅

持されている。このような流れの中で、EPAに

おいても、日本の介護福祉士の国家試験合格を基

準としていると考える。現実には、日本人の多く

は介護福祉士の資格を持っていない職員も大勢働

いている中(名称独占)、外国人にのみ、資格を

メルクマールにしているのは、基本方針に加えて

①文化の違う外国人に、日本の介護の方法の一定

基準をマスターした証明が必要。②資格が無く、

介護の仕事が好きというだけでは、日本人よりも

安い給与で働くので、全体として、低賃金となる。

③仕送りや外国人の家族呼び寄せ等からくる社会

保障費の増大等のため、一定の縛りを掛けている

と思われる。

 しかし、今後介護を魅力的な職業としたところ

で、少子高齢社会においては、外国人の労働力に

期待しなければならない状況が来る。

 そのためには、日本人に囚われることなく、ア

ジア全体で労働政策を考えていくことが必要であ

る。

 まず、①アジアに、日本語の介護労働を育成す

る学校を作る。月謝等は安価とする。(すでに民

間レベルでは実施されている)②福祉職場内に外

国人も日本人も同じ基準のキャリアアップシステ

ムを作る。③国家試験における介護用語の見直し

や、難解な漢字を使用しない。実際的に、ケース

記録記入の際、難解な専門用語はあまり使用して

いない。④職員の宿舎整備に補助金を出す。

 家族呼び寄せの社会保障の負担は、1企業の利

益が後に全国民の負担になるという意見がある

が、これからの社会は、日本の国内だけで考える

のではなく、アジア全体で考えていかねばならな

い。

6 終わりに

 従来の福祉職場は措置制度により、給与は高く

は無かったが、今ほど魅力のない職場ではなかっ

た。

 それは、措置費の枠の中に、管理費と事業費の

区分があり、職員の給与は一定額保障されていた。

 しかしながら、契約制度は、利用者がより良い

サービス内容の施設を選択できるが、施設はサー

ビス内容を充実するために、人件費をできるだけ

効率化する流れになってきた。 人件費の効率化

は運営において、人材の育成を困難にする面もあ

る。一方、外国人が日本で働きたい理由のひとつ

は、自分の国で働くよりも高収入を得られること

である。日本がこのことに応えられるならば、外

国人の労働力に期待すべきである。

 福祉現場は、不景気な時には人がくるが景気が

良くなると、不足すると言われている。しかしな

がら、介護される利用者は、優しく親切で専門知

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識を持った人の援助を求めている。外国人である

事に不快感を持つ利用者が少ないことは、EPAの

介護福祉士候補者が証明している。

 これからは、外国人の介護職員が、日本の施設

でどんどん働けるようなシステムが必要であると

考える。そのためには、日本語や介護福祉士の国

家試験に合格できる学校をアジアの中に作る支援

を充実させていくとともに、介護労働が魅力のあ

るものとしていくようなシステムも構築するべき

である。

児童養護施設における多様性・困難性をふ

まえた施設形態の在り方に関する研究

The availability of facilities' style through a standpoint

of Diversities and difficulties of children in the child

welfare facilities

研究生 院前期 2010 年卒 金     廷

Hyunjung KIM

はじめに

1.研究の背景と目的

 日本の児童養護は戦争による孤児への応急措置

的な集団主義養護から始まった。いわゆる大舎制

であり、大きな建物の中に養育者が2~3人、児

童は20人以上が生活を共にする血の繋がっていな

い大家族である。しかし、この大舎制は、限られ

た養育者と20人以上の児童では児童一人一人と

じっくり接する機会も少ないことや、児童が生活

を営むことの楽しさ、規則ではなく自由意思から

の生活力、児童のプライバシーが守りがたい環境

であるため、最小6人定員の小舎制へとその動き

が展開してきた。大きな建物から家庭に近い一戸

建ての施設形態として小規模化してきた(注1)

 養護内容にも変化は見られ、命を守る保護的養

護から、退所後の自立を支援する支援的養護へ、

内的、外的な問題を持つ児童のための治療的養護

へと変わり、地域の子育てを共に担っていく相

談・支援的養護としてその機能も多様に展開して

きた。

 こういった児童養護施設をめぐる変遷の中心は

入所児童の質的変化によるものであった。入所期

間の長期化や何らかの虐待をうけてきた被虐待児

の増加、知的障害、発達障害を持つ児童等、特別

な支援が要する児童の割合が6割前後と報告され

ている等、本来の養護施設の機能より専門的な支

援が必要とする機関としての変革が迫られてきて

いる。必要に応じた変換の中、国は平成12年、地

域小規模児童養護施設(以下、地域小規模施設と

記す)の制度化により、被虐待児や家庭復帰が不

明の児童を中心として、より家庭に近い家庭的養

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護を実現するための施設小規模化への道を開い

た。

 小規模化は規模が小さくなったことにより、子

ども一人一人の個がよく見え(高橋、2006)、児

童のより多様なニーズへの対応に応えるように

なったが、それを担っていく職員のストレスと負

担により、バーンアウトにもなりかねない環境と

して懸念の声もあげている。しかも、小規模化は

ケアの質の向上のため、職員への専門的な援助ス

キルにもその重要性を呼びかけているが、実際に

1人の勤務で6人の子どもを受け持つ環境の中で

のケア(生活の中での治療等)は実現できるもの

か、むしろ職員の意欲を潰すことにもなり得ると

思われる。被虐待児の増加、質的ケアの向上など

による家庭的養護の拡充を提唱している中、小規

模化により生じた問題の解決に直面する必要があ

ると思われる。

 上記の児童養護施設の現状をふまえて本研究は

今後、日本における児童養護施設の小規模化に関

する研究の一環として、小規模化と共に浮上して

きた多様性のある児童とその児童の生活支援を担

当している職員の困難の実態と課題を明らかにす

ることにより多様性と困難性両方をふまえた上で

の求められる施設形態のあり方を提言し、今後の

児童養護施設の各施設形態をふまえての小規模化

計画の一助となることを目的とする。

2.「多様性 」、「困難性 」の定義とそのとらえ方

 「多様」は「いろいろ異なるさま、異なるものの

多いさま」(広辞苑 岩波書店)という二つの側

面を持っている。浅倉と峰島(1996)は「児童の

多問題化」とし、「登校拒否、初期的な非行、その

他情諸障害などの問題があり、家族と地域の学校

での養護が困難である児童」といっている。「多様」

というのは困難にまつわる側面を持つと考えられ

ている。これをもとに本論文では、「多様性」を捉

えるにあたって、現児童養護施設で課題の入所児

童の多様化の現状も踏まえて「既存の施設入所児

童の対象を含めての被虐待児や発達障害児、知的

障害などの特別な養護が必要とする児童の状況」

と定義づける。

 養護施設における困難は「処遇困難児童」とい

う言葉にし、浅倉ら(1996)はこれを「職員側か

らみた処遇の困難さであって、職員の通常勤務の

中では解決しきれない問題・困難を指している」

と説明している。入所児童の困難ということを職

員側からみていく困難という視点で、捉えている

ことを参考とし、ここでの入所児童の多様な課題

を基にし、困難性を捉えた。「困難性」とは「入所

児童の施設での生活と職員の職務を危うくし、支

援への難しさを表す児童の状況」と定義づける。

調査概要

1.調査対象

 全国の地域小規模児童養護施設(2008年6月長

谷川ゼミナールにより)の担当職員(常勤職員)

を対象とした。全国141か所に郵送し、回収数は

55 ヵ所回収され、そのうち集計対象となったの

は職員103枚(有効回収率38.3%)である。

2.調査内容

 ①運営状況10項目②運営指針4項目(自由記述)

と職員の個人属性③ホーム概要10項目④入所児童

の状況4項目(自由記述1項目)⑤勤務上、生じ

る困難及び満足28項目⑥日本版バーンアウト尺度

(田尾・久保1996)17項目(藤岡(2002)により

一部用語を変更したものを使用)にて調査を実行

した。

3.調査方法

 調査票は自記式質問紙調査で、2009年9月から

10月までに実施した。郵送にて行い、質問紙の中

には、職員のプライベートな内容も考慮したこと

から調査票と一緒に同封した封筒に封じ、郵送し

てもらうようにした。

4.分析方法

 ①インタビュー調査や文献調査により分類分け

をした「多様性児童」の実態を把握するために、

多様性の定義に従い、記述統計表を作成した。

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spss14

 ②困難感による施設の困難性の実態を明らかに

するため、施設ごとの常勤職員の困難感の合計か

ら平均を求め、平均を基準とし、グループ分けを

した。「困難感高施設」と「困難感低施設」とし、

各多様性児童の分布を示した。

 ③それから困難性による施設内の職員の困難感

の関連を明らかにするため、各困難性が影響する

困難感をしるために、困難性の各項目に任意の数

字5をかけ、それを出した合計の平均を求めた。

求められた平均から「困難性多」と「困難性少」に

グループをわけ、職員の困難感との相関とt検定

を行った。

 ④最後に現施設形態に合わないと思われる児童

及び、その理由を調べ、対応をカテゴリー分析に

て行った。

結果

1.�地域小規模施設における多様性のある児童の

実態調査<表1>

 地域小規模施設には312名の児童が入所してお

り、そのうち155名(49.7%)が多様性児童だと

答えた。その中で、診断名のある児童が30施設

で36.8%、 障害の疑いのある児童は27施設で13.8%

だった。この二つの項目に関しては重複を認めて

ないので、6割近くの児童が何らかの障害の兆し

があるということとなる。

 内向的問題を持っている児童は20施設で155人

のうち、23.9%の児童が、外向的行動に関しては

30施設がそういった児童を抱えており、多様性児

童中、31.6%だった。被虐待の児童は68.4%が虐

待を経験していることとなる。

2.地域小規模施設の職員の困難感による施設内

の多様性児童の実態調査

1)職員の困難感・満足感・バーンアウト

(常勤職員103名の回答を得、男性職員32名、女性

職員70名(無1))

困難感と満足感に関しては、分類分けができない

ことから平均から高群と低群にわけ、その傾向を

試みた。まず、地域小規模施設で勤務する常勤職

員の困難項目に関しては「児童の対応」、「他への

影響」、「勤務体制」、「近所との関係」、「職員間の

理解」の五つの困難項目の合計を得点化した。そ

の平均から高群を「困難感高施設」、低群を「困

難感低施設」とした。(満足項目も同様)

 地域小規模施設職員のバーンアウト尺度の3つ

の尺度の結果は、ここでは注意と要注意、危険の

項目に絞り、見ていくと情緒的消耗感の注意、要

注意を占めている職員が全体の中、15%、脱人格

化の注意、要注意を占めている職員が全体の中、

19%で個人的達成感の注意、要注意、危険を占め

ている職員は全体中、46%で半分近くの職員が個

人的達成感を感じにくい環境で勤務をしているこ

ととなる。

5

表1.多様性のある児童(複数回答可)

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2)困難感高低施設の多様性児童の実態

 「困難感高施設」と「困難感低施設」の多様性児

童の分布を<表2>に示した。

 「困難感高施設」と「困難感低施設」が抱えてい

る多様性児童は前者が92名、後者が63名であった。

<表2>の多様性児童の分布から項目間のパーセ

ントを見ていくと、「困難感高施設」が「困難感低

施設」より、上回っている項目は、「診断名のある

児童」、「内向的問題」、「外向的問題」を持つ困難

性の項目であり、「障害の疑いのある児童」、「被

虐待児」の場合は「困難感低施設」の方の比重が高

いことがわかる。

 この結果から職員の困難感は「診断名のある児

童」と「内向的問題」、「外向的問題」を抱えている

児童の困難性に影響されている傾向があることが

示唆される。

3.困難性による職員の困難感との関連 

1)児童の困難性と職員の困難感の相関

 児童の5つの困難性の項目と職員との困難感の

中での変数同士の関連を知るため、Pearsonの相

関係数を用いて結果を出した。

 「内向的問題」と「困難感」、「満足感」、「情緒的

消耗感」の間にはある程度の相関があり、「外向的

問題」と「困難感」、「情緒的消耗感」、「脱人格化」

の間には中程度の相関があった。「診断名のある」

と「被虐待児」は「脱人格化」の間に弱い相関があ

るが、「疑いのある」はほとんど相関がない。

2)児童の困難性によるt検定

 上位の内容をふまえ、児童の困難性によるt検

定を行った。「内向的問題」を持つ児童の多い施設

に対して職員の困難感、情緒的消耗感が高いが、

満足感に関しては低いことがわかる。それは、「内

向的問題」の児童が多いほど、職員の満足感が低

くなることとなる。<表3>

 <表4>にも同じように、「外向的問題」による

困難性に関しても職員の困難感と情緒的消耗感、

脱人格化の群間で有意を示した。それは、「外向

的問題」の困難性の児童が多い施設に関して職員

が感じる困難感、情緒的消耗感、脱人格化も同じ

く高いことが考えられる。

5

24723440

118

525

23 25.0 14 22.269 75.0 49 77.892 100.0 63 100.0

33 35.9 16 25.459 64.1 47 74.692 100.0 63 100.0

59 64.1 47 74.633 35.9 16 25.492 100.0 63 100.0

1

表2.困難感高低ホーム児童

5

24723440

118

525

23 25.0 14 22.269 75.0 49 77.892 100.0 63 100.0

33 35.9 16 25.459 64.1 47 74.692 100.0 63 100.0

59 64.1 47 74.633 35.9 16 25.492 100.0 63 100.0

1

5

t

20 1.25 0.444 44.10434 1.56 0.50420 1.60 0.503 5234 1.32 0.47520 1.25 0.444 44.10434 1.56 0.50420 1.65 0.489 5234 1.41 0.50020 1.45 0.510 5234 1.68 0.475

表3.内向的問題(多、少)による困難感

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4.現地域小規模施設に合わない児童の実態

 地域小規模施設の54施設中、17施設(31.5%)

に施設形態に適していない児童がいると答え、

児童の人数で見ると多様性児童155名中、20名

(12.9%)となっている。職員との関連で満足感・

バーンアウト尺度のt検定を行った結果、「困難

感」、「満足感」、「情緒的消耗感」が有意であった。

(*p<.05)

 その児童の困難性に関しても「内向的問題」、「外

向的問題」の項目から相関・有意であった。(**p

<.01) 

 現施設形態に合わないと思われる児童に関して

その理由を自由記述として記入してもらった結果

 「攻撃的行動が目立つため、指導に限界を感じ

る」、「職員との対立、対物・対人問わず、暴力行

為を行う。そのため1人泊まりのGHでは対応困難、

独占欲も強く、他児に手厚い対応ができない」な

ど、職員の待遇の面での苦労や一人体制がほとん

どである小規模施設での児童との関係を一旦整理

し、考える場としての逃げ場のない環境による対

人関係の修復の困難や一人勤務の職員の不安等が

見られた。

 地域小規模施設での困難性の対応に関して、本

体施設に移動してもらい、複数の職員によりケア

をする、あるいは小規模施設に応援職員を配置す

るとの取り組みをとっているのがわかる。地域小

規模施設は職員一人にはまかなうことができない

現状にまで児童の困難性は深刻になってきたと思

われる。

考察

1.子どもの生活の営みにふさわしい環境の整備

 これまで地域小規模児童養護施設で入所児童の

多様性・困難性を明らかにしてきた。これらの結

果を踏まえ、困難性が多い児童の場合、同様に職

員の困難感が高かったが、実際、問題化されてい

るケアの対象である被虐待児への職員の困難感は

有意ではなかった。もしかしたらそこには潜在的

要因がある可能性があると思われる。

高橋は「家庭の中で傷を受けた児童にはその過程

の環境尾の中でこそ、癒される。」と「生活の中

での治療」つまり小規模化を出張している。

家庭とは、児童の本来の姿が出せる環境であり、

それはある意味、児童が養育者に対し、自分から

自分の状態の信号を出せる場所でもある。その

チャンスをタイミングよく掴むことが職員の専門

性にもつながることでもある。信号を思うまま、

自由に出せる環境を形成することも大事であり、

まだ表に出ていない要因を見つけ、それを自らわ

かり、解決できるように支援するためにも子ども

の生活の営みにふさわしい環境の整備が必要とさ

れよう。

2.�継続・安定した施設運営のための職員支援

(スーパービジョン実施の強化とコンサル

テーション実施の体系化)

 原田(2003)19は職員が感じる処遇ストレスは

「子どもへのネガティブな感情」と「セルフエス

ティームの低下」に影響していると指摘している。

小規模化による互いの影響が拡大されることによ

り、処遇ストレスが職員自身にも養育に対する自

信への低下を招いてしまう可能性は大きくあると

思われる。

 継続・安定した施設運営のためにも職員支援(コ

ンサルテーション実施の強化)が必要とされ、児

童の困難性を生活の中で直面している職員に対し

て困難性の理解や接し方を習得するためのコンサ

ルテーションを行う機会を増やす必要があると思

われる。

5

表4.困難感高低ホーム児童

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3.施設形態を踏まえての考察

 内向的問題・外向的問題を持つ児童に対して特

に職員の困難感が最も関連していたことからも,

一人勤務という不安・負担の改善案としても,養

育環境を維持するための施設のシステム的な支援

の必要性は大きいと思われる。

 第一は、本体施設のバックアップ体制による役

割分担の機能である。地域小規模施設において児

童の問題行動の対応として「本体施設への移動」

の項目が多かった。本体施設では複数の職員が対

応することもでき、危険な場目に遭遇したとして

も,どこかで必ず職員の助けが来る。しかし、危

機条件において地域分散型による小規模施設は頼

れるところがないともいえよう。そのため、本体

施設におけるバックアップ体制や難しい児童の対

応に専門的に関わる専門的支援職員が必要である

と考えられる。

 第二に地域の中にもう一つの仲介的役割を果た

す施設の設置である。地域小規模施設は地域密接

型であり、本体施設との距離で最小5分から最大1

時間といった距離にて生活を営んでいる。 

 本体施設の基でしか運営が難しい地域小規模施

設にとっては遠ければ遠いほど、本体施設からの

バックアップ支援の提供範囲から遠ざかり、児童

の困難性による危険もより大きくなると思われ

る。

 そのため、本体施設とは別の小規模施設への支

援を中心とする仲介的役割の性格を持つ施設が必

要である。緊急時の対応、地域小規模職員へのサ

ポート的な機関、地域との仲介的役割を果たす機

関、本体施設と連絡、連携を伴う機関として位置

づけられよう。

 小規模施設の増加に伴い、援助する側をさらに

援助していく体制の拡充はより活発に行われる余

地がある。

結論

 施設環境に合わせた支援ではなく、特別な支援

を必要とする児童に対してもその特性に合わせて

支援できる体制として児童養護施設は変化して行

かねばならないと改めて思わせた。

地域小規模施設の多様性と困難性の現状と課題を

知ることは重要であり,今後、小規模化により問

われていく児童と職員の両方の福利を踏まえての

施設形態のあり方の基本的資料としてはその価値

は大きいと思う。施設形態の特徴からの現状の研

究も実証的に進めていきたいと思う。