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1 Copyright C2005-2018 BUSINESSCOACH Inc. All rights reserved. 楠田 祐の人事放送局 有名企業の人事にズバリ聞く 【テーマ】 次世代経営幹部候補育成 <第1回> プロローグ:戦略的経営人事課題として <出演者> シェフラージャパン株式会社 人事部 シニアディレクター ジャパンエグゼクティブボード 長田 一幸氏 ビジネスコーチ株式会社 エグゼクティブコンサルタント 伊藤 善博 パーソナリティ 楠田 祐氏 楠田:今日から 4 週にわたってお送りするテーマは「次世代経営幹部候補育成」です。1 目のテーマは、「戦略的経営人事課題として」です。 楠田:最初に、伊藤さんにお伺いします。「次世代経営幹部」という言葉が、最近、少し話 題になってきたのはなぜでしょうか? 伊藤:私はいくつかの外資系企業での勤務経験があるのですが、20 年ほど前に GE という 会社に巡り合って入社した当時、欧米企業はすでに、サクセッション・プランニング に取り組んでいました。特にキーポジションの経営幹部や、一般的な会社でいう部長 クラス以上のポジションには、必ず今いる人の後継者がいる、あるいはリストに名前 が上がっている状態を作り出していたんです。それを見た時に、今後は日本の組織も 同じような体制をとっていく必要があると感じました。 楠田:まだ、そういう考えを持っていない企業が圧倒的に多かったですよね。 伊藤:日本は終身雇用で、下から人が上がってくるという考えでしたね。課長、部長、役員 となっていく中で選抜し、その人がいなくなってしまった場合には、外部から人を採 用していましたが、欧米企業はもう少し合理的でした。「備えよ、常に」ではありま せんが、主要ポジションには、後継者候補が必ずいなければならないという考えがあ ったんです。その欧米流の考え方が日本企業にもだんだん浸透していって、自分たち もそういうことをしなくてはならない、「ところてん式」に下から人が上がってくる のではダメだ、という思いに至ってきたのではないかと思います。 楠田:日本の大企業を中心として事業のグローバル化が加速すると、人材のダイバーシティ も進み、外国人と一緒に働くことも増えますし、クロスボーダーの M&A やカーブア

楠田 祐の人事放送局 有名企業の人事にズバリ聞く · 年に1~2 回していると思いますが、ビジネス自体がレガシーのまま の企業もありますよね。もしかしたらそれで上手くいくかも知れませんが、最近は変

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楠田 祐の人事放送局 有名企業の人事にズバリ聞く

【テーマ】 次世代経営幹部候補育成 <第1回> プロローグ:戦略的経営人事課題として

<出演者>

シェフラージャパン株式会社 人事部 シニアディレクター

ジャパンエグゼクティブボード 長田 一幸氏

ビジネスコーチ株式会社 エグゼクティブコンサルタント 伊藤 善博

パーソナリティ 楠田 祐氏

楠田:今日から 4 週にわたってお送りするテーマは「次世代経営幹部候補育成」です。1 回

目のテーマは、「戦略的経営人事課題として」です。

楠田:最初に、伊藤さんにお伺いします。「次世代経営幹部」という言葉が、最近、少し話

題になってきたのはなぜでしょうか?

伊藤:私はいくつかの外資系企業での勤務経験があるのですが、20 年ほど前に GE という

会社に巡り合って入社した当時、欧米企業はすでに、サクセッション・プランニング

に取り組んでいました。特にキーポジションの経営幹部や、一般的な会社でいう部長

クラス以上のポジションには、必ず今いる人の後継者がいる、あるいはリストに名前

が上がっている状態を作り出していたんです。それを見た時に、今後は日本の組織も

同じような体制をとっていく必要があると感じました。

楠田:まだ、そういう考えを持っていない企業が圧倒的に多かったですよね。

伊藤:日本は終身雇用で、下から人が上がってくるという考えでしたね。課長、部長、役員

となっていく中で選抜し、その人がいなくなってしまった場合には、外部から人を採

用していましたが、欧米企業はもう少し合理的でした。「備えよ、常に」ではありま

せんが、主要ポジションには、後継者候補が必ずいなければならないという考えがあ

ったんです。その欧米流の考え方が日本企業にもだんだん浸透していって、自分たち

もそういうことをしなくてはならない、「ところてん式」に下から人が上がってくる

のではダメだ、という思いに至ってきたのではないかと思います。

楠田:日本の大企業を中心として事業のグローバル化が加速すると、人材のダイバーシティ

も進み、外国人と一緒に働くことも増えますし、クロスボーダーの M&A やカーブア

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ウト等をするなら、現地法人の人の後任者もしっかり見極めていかなければなりませ

ん。ある日、突然人がいなくなってしまったら、大変ですからね。そのような背景も

あって、日本企業もやらなくては!という状態になってきた、ということもあるかも

知れませんね。

伊藤:人材そのもの、人の価値観、場合によってはライフスタイルまでもが多様化している

中で、今までの杓子定規的な人の選び方では限界がある、ということに気がつく企業

が増えたのだと思います。

楠田:長田さんは、なぜ、いま「次世代経営幹部」という言葉が話題になっていると思いま

すか?

長田:キーワードは「グローバライズ」という言葉なのですが、多くの社員は「グルーバラ

イゼーション」の説明ができません。「インターナショナルとグローバルはどう違う

の?」「マルチナショナルとグローバルはどう違うの?」と、社員に尋ねても、説明

できないんです。でも、この中身の理解の仕方によって、どのような人を採用しなく

てはいけないのかが、全く違ってきます。市場に求められる需要に対して、どうやっ

て供給をするのか。国内だけ、同じ文化の中だけで起こるのであれば、さほど心配は

しませんが、違う文化の中で違うものやサービスが求められ、その中で日本企業が成

長していくためには、違う人を採用しなくてはなりません。しかも、資本もグローバ

ライズしています。人と物と金が国境を越えて自由に動かせるというのが、グローバ

ルです。日本だけで通用するということであれば、グローバルでは通用しないのです。

楠田:わかりやすいですね。

長田:それは、社員とオリエンテーションをするときに、必ず聞く点です。なぜなら、自分

のキャリアデベロップメントを考えたときに、シェフラーの日本国内だけでのキャリ

アのピークを考えて、キャリアパスと言う人がいるからです。会社はすでにグローバ

ライズ、つまり世界中どこにでも行って、会社を動かすんだ!というタレントを求め

ているのに、もう言葉が違ってくるんです。しかも、その経営をするとなれば、世界

中で変わった動きをするビジネスを統合的に見て、方向性を示せる、そういう能力を

持っている、もしくは様々なところのリーダーたちを、ある方向にとりまとめていけ

る能力を持っているという観点で見ることになります。グローバライズ化されたビジ

ネスにおける次世代の幹部の見方には、今までとは全く違った物差しを当てないと、

間違ってしまうと思います。

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楠田:お二人の話を聞いて、私自身もとても良く分かったような気がしてきました。例えば

戦略的人事の課題となっている次世代経営幹部を見極めていこうとなると、ポテンシ

ャルを見ていく一方で、コンピテンシーのようなものを作っていくと思うのですが、

ポテンシャルとコンピテンシーは何が違うのでしょうか?

伊藤:おそらく、大部分の会社は、1 年に 1~2 回の評価をしていると思います。そこで問

われるのは、楠田さんが今おっしゃったコンピテンシーとポテンシャルです。コンピ

テンシーは、行動やマインド、仕事のスキル、能力等、日々あるいは年度ごとに、コ

ンピテンシーという言葉を使っても使わなくても、行動評価、能力評価、仕事の評価

という形で成果評価されていると思います。それに対してポテンシャルは、日々の仕

事では見えないような潜在的な力のことです。長田さんがさっきおっしゃった、グロ

ーバル企業で国境や境界線等の枠を超えても働ける、仕事をしたいというようなこと

も、ポテンシャルのひとつの例ではないかと思います。

楠田:地球上、どこでもいいよ、という人ですね。

伊藤:自分は、日本のこのオフィスでこの仕事だけをしていたい、というような専門職志向

の高い方は、良いとか悪いとかではなく、その仕事においてコンピテンシーが高い人

かも知れません。ただ、グローバル企業の幹部や事業のリーダー、社長になるのであ

れば、それではおそらくダメだと思います。求められるのは、グローバリゼーション、

グローバル化にふさわしい人になりますから、その見極めの基準として、日々の仕事

だけでは見えてこないような潜在的な力、意識、行動等をはかり、見極めていくこと

になります。難しいことですが、それが英語でいう、ポテンシャル・レイティングや、

ポテンシャル・アセスメントだと思います。

楠田:さっき伊藤さんがおっしゃったように、コンピテンシーの評価は、日本企業でも外資

系企業でも、1 年に 1~2 回していると思いますが、ビジネス自体がレガシーのまま

の企業もありますよね。もしかしたらそれで上手くいくかも知れませんが、最近は変

化が激しく、先が見えない、いわゆる VUCA の時代と言われていますから、新規事

業が立ち上がったり、コンペチターが変わってきたりする中で、コンピテンシー評価

人事だけでやっているとなかなか難しくなりますね。

伊藤:難しいですね。

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楠田:ポテンシャルというのは、どんな競合が出てきても、どんな会社を買っても、勝つた

めには何でもやるんだ!というような、どちらかというと獣のようにやっていく、能

動的な人材なのではないかと思いますね。

長田:そう思います。私は「ポテンシャル」という言葉を、社員に説明しなければいけない

ことがあります。「アビリティ」という言葉と「アジリティ」という言葉はペアで使

いますが、これもまた、多くの社員は明確に違いを分からずに使っています。“この

人は能力がある”という場合、その能力が「アビリティ」か「アジリティ」かを尋ね

ると、良くわからないというわけです。専門家に聞いたり、自らで考えた結果、アジ

リティの定義はおそらく、「自分の経験則の外で、自分が接触する、対応しなければ

いけない時に、そこからつかみ取って、何かを作り出してくる能力」だと思います。

それは、業界が違っても共通で定義できると思います。今、世の中は技術の融合によ

って、全く違ったインフラができそうになってきています。そこにビジネスの潜在的

な市場を見つけていこうとした時に、今までの経験則の外でどうやって生き残ってい

くか、どうやってビジネスを導いていくかという、不確かな中で対応していく、そこ

から答えを導き出せる能力がアジリティだと思います。

楠田:わかりやすいですね。そうすると、ポテンシャルを見極めるのは難しいですね。

伊藤:会社の定期評価で優秀だと言われている人たちのうち、どれだけの人が、いわゆる経

営幹部としてのポテンシャルや能力があるのかを、そこから見極めていくことになり

ます。その会社でそもそも優秀な人達を集め、まずは、その中で将来の社長や経営幹

部にふさわしい人をアジリティやポテンシャルで見極めます。そのために、例えば

我々のような第三者を入れて見極め研修をしたり、主にアメリカで開発された行動特

性を測るツールをします。しかし、研修やツールだけで本当に見極めきれるかという

と、まだ少し信頼性が少し劣りますので、今度は特別な任務を与えて経営の修羅場を

経験してもらうんです。例えば、グループ会社の中でうまくいっていない事業の責任

者にしたり、海外拠点のある会社の場合には、海外駐在させたりします。GE では期

間を決めてやっていましたが、最初に定めた成果(事業の再生や改善等)をプロジェ

クトにおいて出した人を、経営のポテンシャルがあるということで、役員登用してい

くというような GE や欧米企業を手本にしたプロセスを、我々はお薦めしています。

長田:第三者に見極めや評価をしてもらって、仕事が求める要件に対しての強い点や、弱い

点をアセスメントします。そのギャップをレポートでもらって、伊藤さんがおっしゃ

ったように、その人にある具体的な On the job のプロジェクトを任せるのですが、

それだけでは失敗する可能性もあります。できてたら、最初からできてるわけですか

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ら。行動特性からするとできてないから、弱い点として出てるわけです。そこに難し

いプロジェクトをやらせても、同じことを繰り返してしまいます。そこにエグゼクテ

ィブコーチングというのが必要になってくるわけです。

楠田:なるほど。その点についてのお話は次回以降にフォーカスして、もう少し詳しくお話

を聞かせていただきます。

楠田:長田さんは、ファンドとパートナーになって、様々な企業の再生等を手がけていると

思いますが、日本人の経営者は、コンピテンシーやポテンシャル、次世代の社長候補

やサクセッションプラン、と聞くと難しいと思ってしまうのではないでしょうか。今

日のテーマは人事の課題なのですが、人事が理解して、これはいい!と思っても、そ

れを社長に理解してもらえるように伝えるのは、非常に難しく感じました。

長田:カタカナを使うと説明が難しくなるので、私はできるだけ、日本の言葉に置き換えて

説明するようにしています。例えば、以前に私が仕事をさせていただいたカーギルと

いう会社には「Heart of Leadership」というものがあるんです。それはリーダーシッ

プの中の中核を占めるもので、例えば「Courage」「Integrity」等があるのですが、そ

れだけを取り出して、それが「heart of leadership」だと言っても、みんなピンとこな

いんですよ。

楠田:確かに「日本人はみんなできてる」「うちの社員はまじめだから」となるかも知れま

せんね。

長田:社員のひとりが、私に「どういう意味ですか?」と質問してきたんです。私は、「あ

なたは本当に日本の真剣を抜いて、殺し合いをするような喧嘩をしたことがあります

か?」と尋ねました。真剣を抜くのは斬り合う時ですから、後ろに下がらないという

ことです。これは、Conviction がなければできません。ここがそのときだ!と、

Courage を持って自分が言っていること、信じていることをはっきり言わないと

integrity に欠けるんですよ。だから、「本当に真剣に仕事に向かっていますかということ

ですよ」と答えました。

楠田:日本人は、そこが最も苦手ですよね。しゃべらないほうが得というような風潮もあり

ますから。

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長田:そうなんです。最近、忖度なんていう言葉が注目されましたが、「Heart of Leadership」

は真っ向からぶつかるんです。ひとりひとりが価値を持って、そのビジネスに貢献す

るということを、グローバルな組織は求めます。日本人にわかりやすくするためには、

「真剣を抜いて本気で喧嘩するような心で向かっている」ということになりますが、

英語ではマインドセットと言いますね。

楠田:日本企業の人事には、優秀な方が多いんですよ。優秀でなければ、人事の部長にはなれま

せんから。だから、非常に目利きで、それが良いか悪いかという判断力は高いのです。経

営幹部育成の話も非常によく理解しているのですが、それを自社でやろうとしたときの決

断力が少し不足していて、そこが、これからの人事に求められるところだと思います。社

内でできないのであれば、外部のパートナーと一緒になって、経営会議や取締役会、最後

には社長に説明していかなければ、何もしないまま引退になってしまうのではないかと思

いす。長田さん、どう思われますか?

長田:そうですね。私はファンドの再生の仕事をしています。

楠田:ファンドの仕事は、待ったなしですよね。

長田:待ったなしです。だいたい 5 年が満期ですから、最初の 1 年で投資先を探し、最後

の 1 年は抜ける策を立てます。つまり、3 年でビジネスを変えなければなりません。

最初に考えることは、「このビジネスモデルで本当にいいのか」「このマーケットで、

このビジネスモデルで、それを実行する組織の体制はこれでいいのか」ということで

す。次に人がくるわけです。「この人、この人たちで結果を出せるのか」です。

長田:人事部長が「この人はいい人です」と言っても、「結果を出せる人ですか?」あるい

は「変えられる人ですか?」と聞くと、黙ってしまったりします。

楠田:ビジネスは試合と同じですから、勝たなければいけませんからね。スポーツで「この

チームで試合勝てるのか?」というのと一緒ですよね。

長田:そうなんです。それがコンピテンスです。他と比べてできる行動力を持っているとい

うのが、コンピテンスだと思います。

楠田:ビジネスコーチ社では、伊藤さんが講師となって、次世代幹部候補育成セミナーを開

催しているんですよね?

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伊藤:需要が多いので、月に 1 回開催しています。

楠田:ビジネスコーチ社のサイトで検索すればいいのでしょうか?

伊藤:次世代とかサクセッションプランなどのキーワードを入れてもらえれば、すぐに出て

くると思います。

楠田:番組の続きは、実際に伊藤さんに会って、セミナーを聞いて、最後に個別に質問する、

ということですね。

伊藤:そうですね。具体的に我々がどのようにお手伝いさせていただくか、それぞれの会社

に合わせて様々なパターンがありますが、その成功事例や方法の代表的なものをお伝

えできます。

楠田:ぜひ興味があれば、ビジネスコーチ社のサイトにアクセスして、セミナーに行ってい

ただければと思います。

楠田:ちょうど時間になりましたので、今日は終わりたいと思います。次回は、各論に入っ

て「人材の見極めと育成」、特にポテンシャル・アセスメントについて、お話を伺っ

ていきます。シェフラージャパンの長田さん、ビジネスコーチの伊藤さん、どうもあ

りがとうございました。

長田・伊藤:ありがとうございました。

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ビジネスコーチ・伊藤善博が登壇するセミナー案内

----------------------------------------

『次世代経営幹部候補育成セミナー』

サクセッション・プランニングとポテンシャル・アセスメント

社員の将来性や、いわゆるポテンシャル(潜在能力)の見極めの難しさについては、多くの

企業のお悩みを頂戴しています:

●人材の見極め:選抜・登用・採用のプロセスや基準があいまいのまま、或いはない

●幹部候補者、経営承継者の目処が立たない

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●サクセッション・プランニングという言葉を聞いたが、どうしたらいいかわからない

●いわゆる「大企業病」的風土感が蔓延し、平時の危機感を持つ経営人材が

育たない(業績がいい中小企業においても「大企業病」は起こりうる)

本セミナーでは、このような課題の解決策について、GE やミスミなどで、人事責任者人事

担当役員として活躍し、現在は経営人事コンサルタントとして数多くの企業様の経営人事を

サポートする伊藤講師が解説いたします。

https://www.businesscoach.co.jp/seminar/s171206_ngl.html

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【テーマ】 次世代経営幹部候補育成 <第2回> 人材の見極めと育成 その1:ポテンシャル・アセスメント

<出演者>

シェフラージャパン株式会社 人事部 シニアディレクター

ジャパンエグゼクティブボード 長田 一幸氏

ビジネスコーチ株式会社 エグゼクティブコンサルタント 伊藤 善博

パーソナリティ 楠田 祐氏

楠田:前回からお送りしているテーマは「次世代経営幹部候補育成」です。2 回目の今日は、

「人材の見極めと育成 その1」として、特にポテンシャル・アセスメントについて、

お話を伺いたいと思います。伊藤さん、まずは口火を切っていただけますか?

伊藤:前回も少しお話しましたが、そもそも仕事ができる人の中から、さらに将来の経営幹

部や社長になれる人を見極めるのは、簡単なことではありません。コンサルタントと

して受ける相談の多くは、そもそもの仕事ができるかどうかを見極めるための評価制

度が機能しない、あるいは評価はしていても、「打てども響かず」で困っている、と

いうような内容です。そのような状態の中で、将来の経営幹部をどうやって見極めて

いくのか悩んでいる会社や、評価制度は改定を重ねて一応機能しているのですが、次

期社長、次期役員を誰にするのかということについては、答えが出ていないという会

社もあります。また、毎回、取締役会あるいはオーナー社長が、役員を登用したり、

社長を決定するプロセスを当たり前のように行っているけれども、それでいいのかと

いう疑問を持つ社長さんもいます。そういう場合の、ポテンシャルの見極めというの

は極めて難しいのです。今回は、そのポテンシャルの見極めについて、お話をしてい

きたいと思っています。

楠田:ありがとうございます。同じ質問ですが、長田さんいかがですか?

長田:私はまず、「パフォーマンス」と「ポテンシャル」いう言葉の定義から入ります。

楠田:お願いします。

長田:パフォーマンスとポテンシャルを評価した、と言って出てくる結果をみると、何をベ

ースにやったのか、本当にパフォーマンスとポテンシャルが何かを分かってやったの

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か、疑問が起こるケースが非常に多いんです。今ある仕事で求められる成果に対して、

自分がどれだけうまくやっているか、これがパフォーマンスです。たまたま上手くい

ったのであれば、それはくじに当たったのと同じで、パフォーマンスとは言いません。

ですから、パフォーマンスという言葉を成果(result)と解釈してしまうと、英語と

は違うコンセプトになってしまうんです。「パフォーマンスが良い」と言うのは、必

ずシナリオがあって、そのシナリオに基づいて演じた結果、良かった、ということで

す。たまたま演じたら良かった、というのは、パフォーマンスと言いません。

楠田:棚からぼた餅のようなことですね。

長田:私をはっきり皆に言います。「パフォーマンスは、今もしくは過去から今にあたるこ

とで、ポテンシャルは将来のことだ」と。今までやってきたことの延長線であれば、

これはパフォーマンスの予測であって、ポテンシャルではありません。これまでと全

く違う分野、あるいは全く経験したことのない仕事をしたときに、なんとか答えを出

す能力をポテンシャルもしくは潜在能力と定義すると、パフォーマンスとは全く違う

軸になります。そのことをはっきりさせて、ディスカスしていきます。

楠田:日本企業の歴史の中では、過去に実績を挙げたとか、言うことを良く聞くとか、声が

大きそうだとか、そういう少し過去形のことで次のレイヤーに上げてしまうというケ

ースが非常に多かったと思います。しかし、将来に向けてと考えたときに、過去に実

績を挙げたからといって、未来にも通じるわけではないですからね。それを誰が見極

めるのですか?

伊藤:私はポテンシャル・アセスメントあるいはサクセッションプランをテーマとして、昨

年からいくつかの企業にコンサルティングをさせていただいています。その中の 1

社、誰でも知っているような一部上場の大きな会社の社長さんが「自分たちが将来性

のある幹部候補を見極めるには限界がある。自分たちが育ってきた同じ土壌の中で育

ってきた人間が見る見方(悪い言い方をすると色眼鏡がかかった見方)をしていては

限界がある」とおっしゃったんです。なぜならば、今までの評価や、声が大きいとか、

初(うい)やつだとか、そういう主観がどうしても入ってしまうからです。つまり、

外部の第三者、我々のようなコンサルタントや、あるいは社外役員や取締役等、それ

まで全くその会社と関わっていなかった人がニュートラルに見極めることが必要だ

と思います。それに加えて、客観的なツールも必要です。もちろん、そのツールの結

果に頼りすぎてはいけないのですが、ある一定のバランス、パーセントでそのツール

の結果も加味しながら見極めていきます。

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楠田:ツールの結果を見ながら、議論ができるんですね。

伊藤:議論もできますし、その人の行動や将来性を見極めるための裏付けにもなります。

楠田:計画も立てられるかも知れませんね。

伊藤:やはりポテンシャルを見るためには、客観性が必要だということです。中で同じ人た

ちが議論しても、ある種の主観にとらわれていたり、あるいは同じ物や人の見方をし

ているかも知れません。ポテンシャル・アセスメントというのは客観性なんだと、私

はその言葉から、確信しました。

楠田:内部にいると、なかなか客観視できませんからね。私には息子が 3 人いるんですが、

一緒に住んでいても、それぞれのポテンシャルが良くわかりません。妻のほうが客観

視しているかもしれないですね。家族でもわからないのですから、会社の社員につい

ては、なおさらわからないと思います。そうすると、ポテンシャルは声が大きいとか、

いいやつだとか、過去に大きな受注をとったとか、誰もが「そうですよね」と言って

くれるような定性事項を持ってきてしまいますね。

伊藤:その社長さんは、他の役員の前で私に対して「自分たちがこれ以上、人を見極めて選

んでいっても、無理なんだ」とおっしゃいました。「だから、コンサルタントも入れ

て、ツールも使えばいい」と。最終的に、全社でポテンシャル・アセスメントを展開

させていただくことになりました。

楠田:長田さん、今の話を聞いていかがですか?

長田:いま、私が仕事をさせていただいている会社では、キーポジションに対して人材をア

サインするにあたっては、必ず外部の評価を入れています。

楠田:先ほど伊藤さんがおっしゃいましたが、いまは非常勤取締役や監査役が増えています。

それは法律で決まってきているからでもあるのですが、やはり登用については、プロ

のアセッサーを外から入れることがスタンダードになり始めているんですね。

長田:そうですね。外部の評価を入れる時には、会社側がその人をアセスするだけではなく、

本人に対するフィードバックもきちんとしています。時として、会社がその人をつけ

ようと思っているポジションを、本人が望んでいない場合もあって、それがアセスメ

ントで出てきてしまうのです。それはきちんと話さなくてはなりません。アセスメン

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トを受けました、でも何もありません、では話にならないわけです。逆に悪い結果が

出てしまうんですよ。ですから、きちんとフィードバックをします。求められる要件

とその人に強みにギャップがある場合には、どのようにしてそれを埋めていくのか、

ということになります。ギャップが大きい場合には、やはり外部のコーチをつけます。

私たちの会社でコーチと言えば、社内のコーチではなく、外部のコーチのことです。

楠田:社内のコーチでは、客観視できませんからね。

伊藤:その通りだと思います。実は私は GE の時に、GE の認定資格としての社内のエグゼ

クティブコーチになりました。GE の日本で第一号のエグゼクティブコーチです。

楠田:すごいですね。

伊藤:GE でエグゼクティブコーチになった人は、違うビジネス、場合によっては違う国の

役員やコーチングが必要な人をコーチするのが決まりです。これも客観性を重視して

いるからです。同じ事業の誰かのコーチをしてしまうと、どうしても主観が入ってし

まうので、コーチとして機能しないのです。GE は巨大企業で、何百という事業を世

界中でやっていますから、私の場合には全く違う事業の日本人の社長にコーチしまし

た。その人のことを知らない、関係のない人をコーチにつけるというのが基本だと思

います。

楠田:外部のコーチ、エグゼクティブコーチをつけることの良さは、客観視できるというこ

ともありますが、人事が社内でトレーニングをして、コーチができるようになって、、

他の事業部の後任者のコーチをやることによって、他の部門の HR ビジネスパートナ

ーになれる可能性があるという点にもありますね。かなり Outside Doing できますし、

事業や事業のお客様も分かってきますから。これから、HR ビジネスパートナーは非

常に必要だと思っているのですが、そういう形でインターナルでも少しクロスして、

事業が違うところのコーチができるようになれば、HR ビジネスパートナーとして機

能しますね。現在、多くの日本企業は HRBP と名刺に書いてあっても、実態は御用

聞きになっているケースがほとんどですからね。

長田:HRBP の切り口は非常に面白いと思います。

楠田:今日のテーマからは外れますが、重要なので話しましょう。

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長田:ビジネスパートナーといったときに、これまた「ビジネス」とは何か、「パートナー」

とは何かを社員に問います。お客様の求めるものを deliver して、そこにお客様から

付加価値を認めてもらって、収益をいただく、これが「ビジネス」です。「パートナ

ー」は、同じことを共有することです。つまり、お客様とのリレーションシップをマ

ネージする人、それをやる人材のリソースを供給する人、それぞれの役割は違います

が、同じビジネスを共有しているのです。

あるビジネスパートナーをやっていたときに、そのビジネスリーダーから、どっちが

ビジネスリーダーかわからないと言われたことがあります。ビジネスモデルを違う方

向に変えようとしている時に、今いる人たちのスキルと今度やろうとしていることに

はギャップがあるから、それをどうやって埋めるかを考えないとできないという話を

します。どういう時間の枠で、どういうステップでそれを変えていくのか、もしくは

ギャップを埋めるのか。人のスキルのギャップを埋めるための、選択肢はそんなにあ

りません。Develop するか Replace するかです。しかも、時間の枠を 1 年とか 2 年

と区切ったときには、非常に具体的に出てきます。ビジネスでこういう利益をいつま

でに達成するということを共有するのが、ビジネスパートナーですから、ヒューマン

キャピタル、ヒューマンリソースのスペシャリストとしてパートナーを組むなら、そ

こは嘘をついたり、忖度したりしてはいけないわけです。「現実にこれでいかないと

できません」ということですよね。

それが HR のビジネスパートナーだと思います。「やっておいて」と言われたことを

しているのであれば、それはサービスプロバイダー、アドミニストレーターであり、

本当の意味でビジネスパートナーではありません。欧米でいう、パートナーというの

は、本当に共有するんです。でも、日本ではその共有が、共有ではなくなって、アシ

スタントというふうにとられてしまうんです。ビジネス担当アシスタントです。言わ

れたことを deliver していればいい、と。そこはきちんとわけておかなければなりま

せん。今は間違ったコンセプトで、ビジネスパートナーという言葉が使われ出してき

ているように思います。

楠田:おっしゃる通りですね。CoE は採用や育成など、意外とわかりやすくて、日本の企

業も比較的しっかりやっています。給与計算なども、シェアードサービスの会社をつ

くったり、BPO に依頼したりして、しっかりやってるんですよね。でも HRBP は、

何をすればいいのか、自分たちでもわからなくなっていて、御用聞きになっているよ

うな気がしますね。

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長田:HRBP の役目は、ビジネスを展開するときに、どこに人のスキルのギャップがある

か、どうやって埋めるかを、非常に具体的に戦略化して計画を立てることです。組織

化することなんですね。それは、ファイナンスのビジネスパートナーであるファイナ

ンシャルコントローラーも同じで、ビジネスを展開していくときに、どこに資金の必

要性があるのか、いくらなのか、どうやって調達するのかについて、具体的なプラン

を出す必要があります。それをとりまとめて、どうやってマーケットに、またはお客

様のところに突っ込んでいくか、これを考えるのがビジネスのリーダーの役割ではな

いでしょうか。非常に現実的なんですよ。人事の調達の戦略が決まった場合に、ビジ

ネスのリクルートのチームに deliver してもらうんです。

楠田:そうすると、HRBP はパートナーとして、各事業の SBU のリーダー、次のリーダー

は誰なのかということも、ポテンシャルも含めて、見極める能力がこれから必要にな

りますね。事業責任者もコーポレートに上げると思いますが、HRBP もコーポレー

トの HR に上げられるようにしていかないと、パイプラインができないですね。

伊藤:HRBP という言葉自体が、戦略的経営人事そのものなんですよね。長田さんがいま、

戦略とおっしゃいましたが、私は HRBP という言葉を個人的にはそんなに使ってい

ません。

楠田:GE では使っていませんね。

伊藤:今、欧米企業は BP と言いますが、私は昔から「経営人事」という言葉を使っていま

す。経営人事は、給与計算や採用のプロセスを扱う人事部とは少し機能的に違います。

経営人事は、長田さんが説明してくれたように、ビジネスパートナーとして人事の観

点から経営を考え、その結論、結果を採用チーム、トレーニングのチーム、あるいは

コンペセーションと言われる給与等のチームに伝えて、人事部の機能としてやっても

らうということです。しかし、戦略的経営人事というのは、まさに今の言葉でいう

HRBP がやるべきです。パートナーですから、経営者と対等の立場ですよね。今ま

での人事は、ともすると管理部門だから、営業や事業をやっている人のほうが偉いと

いう位置付けになってしまい、下請けのような状態になりがちでした。でも、これか

らの人事は、経営のパートナーなのです。

私がミスミという会社にいたときに、経営戦略の中で一番大事なのは人事戦略だと良

く言われました。そう言ってもらえるのは、人事の責任者としては仕事もやりやすく

なりますから、とてもありがたかったわけですが、本当に HRBP という言葉は戦略

的経営人事の言葉、用語だなと思っています。

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楠田:日本の 100 年、150 年以上の歴史をもつ製造業の HRBP を見たり、話を聞いたりする

と、かつての工場の勤労を、ホワイトカラーに持ってきてしまったような状態の会社

が、非常に多いと感じます。「安心・安全」とか、マズローの第一段階的なところし

か見ていない感じがしますね。

長田:それは本来の HRBP ではありませんね。

楠田:他にも部門人事のような形で、事業部長に言われたことだけをする HRBP もいます

ね。1 日中、評価の集計のためにエクセルを打っている人もいるんですよ。

長田:肩書きをかっこよく変えただけですよね。

楠田:それはシェアードサービスの仕事じゃないか、と思うようなこともありますね。

長田:最近は「ヒューマンキャピタル」という言葉を使いますよね。その前は、「ヒューマ

ンリソーシーズ」、その前は「パーソネル」だったんです。その前は幹部の秘書の方々

が給料を払っていたので、それを表す言葉がありませんでした。そこから「パーソネ

ル」「ヒューマンリソーシーズ」「ヒューマンキャピタル」となってきたわけですが、

全く違うんですよ。「ヒューマンキャピタル」というのは、リターンを求めます。フ

ァイナンシャルキャピタルとヒューマンキャピタルをどう使うか考えるのが、ビジネ

スリーダーです。どういうビジネスモデルで、それをどう deliver するために、組織

を作るかを検討して組織の形を作りますが、それを作るのも人間です。「誰ができる

のか」というのが、ヒューマンキャピタルです。できたら、リターンがくるわけです

から、それを目指して、ヒューマンをセレクトしていくわけです。それをきちっとフ

ァシリテートするのが、HRBP だと思います。

楠田:ビジネスで勝つためにきた、ということですよね。キャピタルですから。前回も含め

て、これまでの話を聞いて思ったのは、スポーツの世界と似ているなということです。

誰を一軍に持っていこうとか、層を厚くしていこうとか。

伊藤:戦略という言葉そのものが、そもそも戦争用語からはじまっていますからね。要は勝

つための戦略です。

楠田:戦争からスポーツの世界にいって、それが今ビジネスにきているんですね。

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伊藤:スポーツも様々な解釈の仕方があると思いますが、当然のことながら勝ち負けがあり

ます。経営にもやっぱり勝ち負けがあると思います。私が従事したミスミの二代目の

社長である三枝 匡さんは、経営戦略を信条とするプロフェッショナルです。我々も

何回も「戦略というのは戦争用語であって、勝つか負けるかだ。そんなお粗末な戦略

をつくっていたら負けるぞ。戦争で負けたらどうなるんだ?お前達、死ぬんだぞ。」

と言われていました。前回、長田さんがおっしゃっていた「真剣にやっているか」と

いう話にもつながってくるわけです。

長田:私も似たような経験があります。あるビジネスユニットで、日本におけるビジネス拡

大の戦略をつくるため、トップとその 1 階層下の人間が全員集まって、泊まりがけ

で戦略会議を開くことになりました。私も依頼を受けて、ファシリテーターとして参

加しました。会議の最初に、私は「これまでに戦略を作ったことがある人は、手を挙

げてください」と言いました。すると、誰もいませんでした。次に私が言ったのは「戦

略を作ったことがない人が、1泊 2 日で作った戦略で、あなた方は勝てる、食って

いけると思っているんですか?どうやってそれを保証するんですか?」です。ビジネ

スユニットの戦略ですと言って、作ったプランを上にあげると、お金が下りてきます

が、それを保証できますか?ということですね。リターンを求められているのですか

ら。誰も自信を持って「うん」とは言いませんでした。そこで私が「外部の専門家に

頼んで、ビジネスの戦略を作ってもらったことはありますか?」と聞くと、ひとり手

が挙がりました。詳しく聞いたところ、その戦略を使って、5 年食えたと言うんです。

費用を聞くと、結構、高い金額でしたが、5 年間で利益をずっとあげてきたのですか

ら、Pay してるわけですよ。戦略というのは、本当にマーケットの動きと自分たちの

まさしく SWOT を本当にわかって作ったもので、どうやって勝つかを保証するよう

なものでなければいけないと思いますね。

楠田:一夜漬けの戦略では勝てませんね。

長田:その戦略の中には人の要素というのが、かなり入ってきます。誰ができるのか。違う

分野にいこうとしたらなおさらです。みんなやったことがないのですから。

楠田:どこの会社でも、こういうことを議論することが重要ですね。

楠田:時間になりましたので、今日は終わりにしたいと思います。来週は、今日の続きで方

法や事例のお話を伺いたいと思います。シェフラージャパンの長田さん、ビジネスコ

ーチの伊藤さん、どうもありがとうございました。

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長田・伊藤:ありがとうございました。

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楠田 祐の人事放送局 有名企業の人事にズバリ聞く

【テーマ】 次世代経営幹部候補育成 <第3回> 人材の見極めと育成 その2:方法と事例

<出演者>

シェフラージャパン株式会社 人事部 シニアディレクター

ジャパンエグゼクティブボード 長田 一幸氏

ビジネスコーチ株式会社 エグゼクティブコンサルタント 伊藤 善博

パーソナリティ 楠田 祐氏

楠田:「次世代経営幹部候補育成」、3 回目の今日は、「人材の見極めと育成 その2」とし

て、特に方法と事例について、お話を伺いたいと思います。

楠田:前回は非常に面白かったです。やはりポテンシャル・アセスメントは、客観視が重要

であり、外部の第三者がやらないとダメだということですよね。エグゼクティブコー

チの話も出てきましたが、以前、この番組にマーシャル・ゴールドスミスさんに出て

いただいたことがあります。そのときに「2020 年の東京オリンピックには、金メダ

ルをとるためにコーチをつけたアスリートが世界中からやってきますが、スポーツの

アスリートがコーチをつけるのと、エグゼクティブがコーチをつけるのは似ています

か?」と尋ねたところ、「いいね」と言っていました。コーチングの神様がいいと言

うのですから、たぶんそうなんでしょうね。

それでは、外部のポテンシャル・アセスメントの方法と事例について、伊藤さん、レ

クチャーをお願いします。

伊藤:我々がポテンシャル・アセスメントによって、人材の見極め、幹部候補人材の見極め

のお手伝いをさせていただくときのステップは大きく 3 つあります。1 つ目は、1 回

目からお話ししている通り、その会社の評価において優秀な人、仕事ができる人を選

抜、集めることです。世代や層の絞り込みをしてもらい、通常の評価で 1 回につき

10 名前後集めて、個人面談を行います。10 名前後の場合、コーチは 3 名であたらせ

ていただくことが多いですね。我々は第三者ですから、プライベートなことも場合に

よってはお伺いしますが、それを会社に直接、報告することはありません。長田さん

もおっしゃっていたように、会社が優秀だと認めていても、必ずしも本人も社長や役

員になるキャリアをイメージしたり、望んでいるとは限りません。自分は専門職で生

きていきたいと思っていることもありますし、そのあとのポテンシャル・アセスメン

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トでは、そこそこ優秀だけれども社長にはちょっと・・・という人が、絶対に社長にな

りたい!と思っているケースもあるかもしれません。個人面談は、その方々のことを

知らない我々がキャリアインタビューのような形で行うものです。

楠田:それは重要ですね。社長にはなれない理由が、親の介護がはじまりそうだから、とい

うこともあるかもしれませんが、それは人事に報告することではないですから。

伊藤:あるいは製造業や技術職、理系の方が多い会社の場合、マネジメントやリーダーの仕

事ができても、やりたくないという人が意外と多かったりするんです。

楠田:ありますね。ずっと研究者でいたいという人もいますよね。

伊藤:キャリアインタビューは、そういうキャリアの方向性や志向を聞くために行うもので

すが、次に行う見極め研修のコンテンツを決めるためのものでもあります。研修では

課題に対する議論やプレゼンテーションをしてもらうのですが、レベル感がわからな

いと、与えた課題が難し過ぎて、議論が進まなかったり、逆に易し過ぎて参加してい

る方の期待に添えない結果となってしまいます。そうならないように、密かにレベル

感を吟味するためにも、参加者の方ひとりひとりに会っています。見極め研修には、

講師 1 人と、コーチ 2 人で臨みますね。

楠田:なぜ、コーチが 2 人もつくのですか?

伊藤:1~2 日の研修の間、その 10 名を後ろで観察して、スコアシートに細かく記録し、ひ

とりひとりの行動評価をしています。

楠田:プロ野球のようですね。

伊藤:例えば、チームワークゲームや、ビジネスケースに関する議論、グループプレゼンテ

ーションの中での言動や、グループワーク時の役割等を細かくみています。

楠田:それによって、何が見えてくるのでしょうか?

伊藤:ポテンシャルです。スコアシートに、リーダーシップ、チームワーク、コミュニケー

ションに関する経験則による細目が何十とあって、それをコーチが評点しています。

楠田:それは最終的に、本人にフィードバックするのですか?

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伊藤:様々な考え方があると思いますが、私が経験してきた欧米企業では、ポテンシャル・

アセスメントの結果を、ダイレクトに本人にフィードバックすることはありませんで

した。通常の評価の場合、5・4・3・2・1 や、「期待通り」「期待を上回っている」「期

待を下回っている」というような評価レイティングを本人に示して、あなたはここが

いい、ここが弱いとフィードバックしますよね。でも、ポテンシャルを評価する場合、

見極め研修と個人面談、リーダーシップの研修の結果、あなたのポテンシャルはこれ

だけあります、ありませんといったフィードバックはしません。なぜならば、前回、

長田さんがおっしゃったように、その人の将来性を見るものだからです。優秀な人に

対して、「あなたは将来性がありません」とは言えないですよね。逆に、「あなたは将

来性がありますよ。社長になれるかも知れません」とも言えません。誰も保証できま

せんから。

楠田:「社長になれますよ」というのは、保証書ではありませんからね。

伊藤:見極め研修、キャリアインタビューに加え、客観的な行動特性を分析するツールも使

用します。ツールの大部分はアメリカで生まれたもので、 ProfileXT 等、いろいろあ

ります。これらのうちのひとつを入れて、その結果も評価に加えていきます。キャリ

アインタビュー、見極め研修、行動特性分析ツールの結果について我々の経験則から

配点を決めて、バランススコア方式で評点をつけています。

ポテンシャル・アセスメント、ポテンシャル・レイティングというのは、不確実性の

高いものです。ですから、その評価点が高かった人が「この会社で社長になれますよ」

と言い切れないんです。その見極めのプロセスを経て、さらに優秀と判定された人に

は、次のステップとして、経営の修羅場のようなものを経験してもらいます。ある期

間、難しいプロジェクトのリーダーをやってもらうとか、海外駐在経験のない若い人

の場合には、海外駐在させて、その拠点のリーダーをさせるとか、大きな会社の場合

には、不振事業の立て直しや、新規事業の完成といったものを課します。GE の場合

には、シックスシグマ推進の部門であるクオリティ部や、コーポレートオーディット

スタッフといういろんな国に行って、事業監査をやる部門に配属されました。選ばれ

た人間はすなわち、将来の幹部候補生だな、と分かってしまうのですが、2 年間で一

定の成果を収めないと卒業できないんです。

楠田:トレーニーのような感じですね。

伊藤:極めてハイレベルな優秀なトレーニーという感じですね。会社の状況や、任命するよ

うな難しいプロジェクトも事業もそう簡単にないという場合には、もう少し時間軸を

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長くするかも知れませんが、それまでのいわゆる定型的な、その会社で決まった業務

以外のことをやることによって、見極めをする、見極めが完成する、終了するという

プロセスになります。

楠田:面白いですね。

伊藤:これをひとつのパッケージとして、具体的な見極めの方法として、お薦めしています。

あとは会社の規模や、候補者の数などの状況に応じて、時間軸等を調整しています。

楠田:長田さん、いかがですか?

長田:そうですね。私は 3 社で、この見極めということをやらせていただいたんですが、

やはり第三者を使うということにおいては共通です。また、その会社の将来のビジネ

スモデル、どういう事業を主体としているのか、またはどういうところに次の可能性

を秘めているのか、見ているかということを、良く咀嚼して、それを反映するような

物差しを作ってもらい、それに基づいて、第三者の機関にアセスをしてもらうという

点も共通していると思います。

伊藤さんの話を少し補完すると、候補者を選ぶための見極めというものもありますよ

ね。複数の候補者に、経営の修羅場というか、実際の仕事をやらせてみて、それぞれ

がどう動くか、どういう結果を持ってくるかという点で比較をして、見極め、選抜し

ます。そのときには、エグゼクティブコーチはあまり使いません。ところが、この人

をこのポジションにつけようと、ある程度ターゲットを決めて、アセスメントを通し

て、ギャップを見出す場合には、そのギャップを埋めてもらわないといけないわけで

すから、そのときは同じように難しい仕事につけますが、さらにエグゼクティブコー

チをつけます。

楠田:そこから、エグゼクティブコーチなんですね。スポーツで言うと、国体に出るならコ

ーチいらないけど、アジア大会だからつけよう、というようなことでしょうか。

長田:いよいよ本戦で勝ちに行くときには、コーチをつけるわけです。それでも、本人のキ

ャパシティ、もしくはポテンシャルが開花しない場合には、やっぱり経営陣にはなれ

ません。だから、プロミスではないんです。

楠田:しかし、もう 1 回チャレンジすることもなきにしもあらず、ですよね。

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長田:そうですが、そこまでに十分に見極めてきていますからね。

伊藤:日本企業で説明をすると、よく「最終的に見極めで落ちた人は、またチャレンジでき

るんですか?」とか、「そういう人はどうするんですか?」と質問されます。日本の

人事、日本の経営は、どちらかというと人に対して温情があるんですよね。ところが、

欧米の企業は、長田さんが言ったように、もう十分な見極めのプロセスと本人へのフ

ィードバックは与えているんだから、二度はない、という考えです。そこまではっき

りと言うかどうかは別ですが。

楠田:本人もトレーニーでどこかに行くとなったときには、本気でやらなければいけません

ね。ビジネスは命がけで、福利厚生で遊びに行くのではないということですね。

長田:私が知り得る限りでは、 MBA や専門の勉強をしてきた人を多くのお金と労力をかけ

てキャンパスで新卒採用したら、早くて 2 年、時間をかけても 5 年で、実際の管理

者に任命します。

楠田:早いですね。

長田:その期間、もちろん、コーチもやりますし、仕事もアサインしますから、そこで、花

開かなければいけないんです。

楠田:すごい期待ですが、プレッシャーもありますね。

長田:ビジネスの時間軸で考えると、それが最適なスピードだと思います。

楠田:日本企業は 22 歳で入社して、15 年経たないと管理職に登用しない会社が多いですね。

37 歳とか 39 歳じゃないでしょうか。その話を人事部長にすると、「最近少し遅れて、

42 歳なんだよね。でもそれじゃダメだから、35 歳くらいのやつも 2 人くらい出たか

な」とか言ってるんですよね。

長田:ビジネスのサービスの内容や、商品の在り方は、何十年もかかって変わっていきませ

んよね。

楠田:おっしゃる通りですね。

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長田:そうすると、今ある商品が売れているけど、次はどうなの?ということになるわけで

す。

楠田:いろんな産業でダメになっていくことがあると聞きます。

長田:ですから、自分たちの成功体験をベースにして、次のリーダーを選ぶというところに、

不安と危険性を感じるんです。

伊藤:もちろん日本の企業の文化もありますし、考え方もあるので、早ければいいというも

のではありません。私は最初からアメリカ企業であるシティバンクに就職しました。

入社式に来た、CEO にあたる当時のチェアマン、ジョン・リードは、そのとき 35

歳でした。世界の大銀行のトップが 35 歳だったんです。私が社会人になって最初の

驚きでしたね。自分はとても 35 歳でこんなに偉くなれないな、日本の企業だったら

おそらくあり得ないな、と思いました。

楠田:どういうキャリアを積んできたんでしょうね。

長田:金融とは全く関係のないエンジニアです。世の中が、これから EB(エレクトロニッ

ク・バンキング)にシフトしていくという時代に、シティバンクで初めて、若くして

EB のベースを作った人です。

伊藤:そういう人材のポテンシャルを見極める仕組みが、30 年以上前にあったということ

です。

楠田:ちょっと待ってください。今日は、日本企業は 30 年遅れてますね、という番組では

ありませんよね?でも、あったということがすごいですね。

長田:時間差はあると思います。経営の主体が国境を越えたビジネスモデルになっているか

どうか。当時 30 代だった、シティバンクのジョン・リードは、グローバルネットワ

ークを作り、そこで集めた資金を、資金を必要とするであろうところに再投資するた

めに、銀行ネットワークをつくると言っていました。

伊藤:私がシティバンクに入ったのは 1983 年ですが、まだパソコンもなく、E メールもな

かった当時、すでにシティバンクの中には、シティメールというメールのはしりのよ

うなものがあり、それでコミュニケーションをしていました。彼ひとりではないと思

いますが、いま思うと、そういう基盤を築けたのは、ポテンシャル・アセスメントの

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中でいう先見性のようなものが強くあったんだろうなと思いますね。

楠田:年齢とか年次管理の世界ではありませんね。

長田:ありませんね。

楠田:日本企業は、もう年次管理はやめましょう。今でも「何年入社」と言っていますから

ね。「何年入社が次は課長だな」とか。

楠田:私の長男がサンフランシスコに留学しているときに、毎月の生活費の送金に利用して

いたのはシティバンクでした。入金するとすぐに、向こうで引き落としができて、便

利でしたね。その基本を作った人かもしれないですね。

伊藤:そうですね。

楠田:日本の銀行で送金すると、すぐに下ろせないんですよ。「お父さん、もう生活費ない

んだけど」と電話がかかってきて、「入れたよ、もう」とか言ってましたね。

伊藤:当時の日本の銀行は送金しようとすると、アメリカならアメリカの提携銀行にお金を

送り、その提携銀行がさらにその支店にお金を送り、それからようやく本人の口座に

入るという仕組みでした。その経由する銀行それぞれで手数料を取るわけです。

楠田:そうだったんですか?だから手数料が高かったんですね。

伊藤:しかも、その経由するポイントが多ければ多いほど、時間もかかりますよね。今はど

の銀行もたぶん直接できるようになっているのかも知れませんが、シティバンクはそ

の当時から国内の本支店間の送金と同じようにできたわけです。

楠田:その原点を 35 歳のジョン・リードが考えていたという可能性はありますね。それは

60 歳の人では無理ですね。事業が変わっていく、特に今は IoT など、第四次産業革

命とか言っていますよね。そういう時代はもっと若い人を登用してやっていかなけれ

ばなりませんね。

長田:本当にそうだと思いますよ。

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楠田:そういうポテンシャルがある人を、第三者がアセスメントして、きちっと早く登用し

て、しっかりトレーニーに出して、経験させることが重要ですね。

伊藤:そういう登用のシステムが当たり前になるまでは、第三者というか、客観視できる機

能、存在がないとなかなか難しいと思います。既成概念を打ち破るというのは、誰に

とっても難しいことだと思います。偉そうに言っていますが、私自身もそうだと思う

んですよね。人から言われて「ああ、そうか」と思う部分が、人間は必ずあると思い

ますから、それを評価に入れていかないとポテンシャルの評価はできないように思い

ます。

楠田:なるほど。しかし、そういう外部のアセスメントの在り方というのは、だんだんスタ

ンダードになっているのでしょうか。

長田:必要だという認識が広がってきていると思います。ただ、運用上は、外部の評価だけ

に頼るわけではありません。私も外部のコーチとタッグを組みますが、普段の行動特

性などは、社員からいろんなフィードバックが来ますから、そういうことを総合的に

聞きながら、外部のコーチと話して、そのうえでフィードバックしていきます。

楠田:最後に素朴な質問をお二人にしたいと思うんですが、今日、番組を聴いている人事の

方が、「それ、いいね。外部のアセッサーを使おう!」と思ったときに、社長にそれ

をどう言えばいいのか、もう一度、教えてください。

長田:私の場合、ラッキーなことに、それぞれの会社のトップがその必要性を十分に感じて

いました。

楠田:いい社長さんだったんですね。でも、多くの社長は「次の社長は俺が決めるんだ!」

「あそこの事業部長は俺が決めるんだ!」と言って決めてしまうのではないでしょう

か。

伊藤:そういう状況が一番難しいですね。でも、「これでいいのかな」「なかなかいないな」

と悩んでいる社長も多いと思います。そこで、人事担当者や人事担当役員の方に、「次

どうするか、選び方を提案してくれ」というような切り口があると、我々も説明しや

すいですね。

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長田:少し前までは、日本では銀行が第三者でした。お金を貸したら、継続的にその企業に

発展し続けてもらわないといけませんから、コーチングとかアセスメントとかいう、

いわゆる外部の機能を、日本の場合は銀行が果たしていたように思います。

楠田:20 世紀は絶対にそうでしたね。

長田:本当に客観的に、外部から意見が入ってきていたと思んです。ただ、銀行が直接投資

に変わってきて、ファンドが入ってきて、短期でできる人、できない人とに選別をし

て経営をやっていくようになりました。

楠田:そうなると、確かにスピーディにやっていかないといけないですね。経営の手法も変

わってきていますからね。

長田:そうすると、銀行からではなくて、第三者機関にお金を出して頼んで、アセスしても

らうほうが速い、ということになります。しかもそれは日本だけではなくて、自分た

ちが投資している世界のいろんなところで、同じ機関でやれる、比較ができるという

発想だと思います。

楠田:それから、長田さんとか伊藤さんのような、そういう外部のアセッサーをやるプロフ

ェッショナルが育ってきたということですよね。

長田:そうですね。

楠田:20 世紀にはなかったですよね?

伊藤:まずないと思いますね。

楠田:インターナルでやってきて、いま、育ってきてるんですよ。それをやっぱりパートナ

ーとして使わない手はありませんね。

伊藤:おっしゃる通りで、人事コンサルタントの役割も変わってきていますよね。今の話を

聞いていて気がついたんですが、本当に人事制度の構築や労務問題を解決するお手伝

いが主流だったところから、経営人事や HRBP 等の機能をサポートする人事コンサ

ルティングになってきています。次世代の幹部候補の見極め・育成というのは、まさ

に経営人事のテーマになっているんです。需要があるから、それを扱うコンサルティ

ングが増えてきているということだと思います。

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楠田:アウトソーシングでアセッサーをつけてやっていくと、やがては自分もコーチングが

できるようになりますよね。そうすると、その人事の人の次のキャリアとして、皆さ

んのようなコンサルタントとしていろんな企業のパートナーになるというパイプラ

インができてきますね。

長田:できてくると思います。

楠田:それは面白いと思いますね。

楠田:時間になりましたので、今日は終わりたいと思います。次回は、最終回ですが、「サ

クセッション・プランニング」ついて、お二人にお伺いしたいと思います。シェフラ

ージャパンの長田さん、ビジネスコーチの伊藤さん、どうもありがとうございました。

長田・伊藤:ありがとうございました。

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ビジネスコーチ・伊藤善博が登壇するセミナー案内

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『次世代経営幹部候補育成セミナー』

サクセッション・プランニングとポテンシャル・アセスメント

社員の将来性や、いわゆるポテンシャル(潜在能力)の見極めの難しさについては、多くの

企業のお悩みを頂戴しています:

●人材の見極め:選抜・登用・採用のプロセスや基準があいまいのまま、或いはない

●幹部候補者、経営承継者の目処が立たない

●サクセッション・プランニングという言葉を聞いたが、どうしたらいいかわからない

●いわゆる「大企業病」的風土感が蔓延し、平時の危機感を持つ経営人材が

育たない(業績がいい中小企業においても「大企業病」は起こりうる)

本セミナーでは、このような課題の解決策について、GE やミスミなどで、人事責任者人事

担当役員として活躍し、現在は経営人事コンサルタントとして数多くの企業様の経営人事を

サポートする伊藤講師が解説いたします。

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楠田 祐の人事放送局 有名企業の人事にズバリ聞く

【テーマ】 次世代経営幹部候補育成 <第4回> サクセッション・プランニング

<出演者>

シェフラージャパン株式会社 人事部 シニアディレクター

ジャパンエグゼクティブボード 長田 一幸氏

ビジネスコーチ株式会社 エグゼクティブコンサルタント 伊藤 善博

パーソナリティ 楠田 祐氏

楠田:最終回の今日は「サクセッション・プランニング」について、お話を伺いたいと思い

ます。サクセッション・プランニングは、まだ、馴染まない日本企業が多いと思うの

ですが、外資系企業では結構、使っていますよね。

伊藤:私が 1999 年に GE に入社したとき、サクセッション・チャートという組織図に似た

ものがすでにありました。会社の中の重要なポジション、一般的な役職でいうところ

の部長職以上くらいは、今、そのポジションにいる人の名前の横に、もうひとつ名前

を書く欄があって、そこに、次期部長の候補者の名前を、必ず入れなければなりませ

んでした。

楠田:名前を入れられた本人は知らないのですか?

伊藤:知らないですが、研修の機会や様々な含みがありますから、わかってしまうと思いま

す。でも、GE の日本では非常に空欄が多かったですね。

楠田:なぜ、空欄だったのでしょうか?

伊藤:候補者がいないんです。でも、ずっといない状態でいいわけではありません。やがて、

この部長自身が「どうして、後継者の欄がいつまでも空欄なんだ?」と言われてしま

うわけです。後継者を育てるのは、その職にあたるポジションにいる人、上級管理職

の役割・義務だからです。ですから、いつまでたっても空欄だと、本人が問われて、

評価に影響します。

リシュモングループというヨーロッパのラグジュアリーブランドグループの日本の

人事部長が、私の人事部長現役最後のキャリアなのですが、私が就任してから、サク

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セッションプランというのを、日本で本格的に始めました。でも、最初はなかなかそ

の欄が埋まらないんですよね。いますぐ後任にはなれなくても、2 年後ならなれる、

5 年後ならなれるというような期限もいれて候補者をあげるように言って、何度も何

度もやっているうちに、ようやく後継者候補の箱が埋まるようになりました。それで

も 5 年くらいはかかりましたね。そのくらい、会社が主導してしっかりやらないと

いけないのです。とはいえ、候補者をあげろ、あげろと言っているだけではダメです。

難しいとは思いますが、そのインフラを作っていかなければならないのです。

楠田:2 年、5 年かけてというお話でしたが、やはりリーダーは、自分のサクセッサーに対

して、仕事をストレッチしてアサインしたり、ちゃんとできているかどうかインタビ

ューしたり、フィードバックしたりしていかなければならないですね。

伊藤:当然、どうやってサクセッサーをつくるのか、見極めるのかというトレーニングもし

ます。そこまでやらないとあがってきませんし、それをやらないとどうなるのかとい

うことも啓蒙していかなければなりません。そうしなければ、例えばその部長職の人

が辞めてしまったり、あるいは本社の意向で他に異動してしまったときに、サクセッ

サーがいなければ外部採用をすることになります。いつまで経っても外部採用をして

いて、キーポジションが全部外部採用で埋まるとなると、今度は下にいる人たちのモ

チベーションが上がらなくなってしまいます。

楠田:変なガラスの天井を見てしまいますね。

伊藤:ですから、いわゆるサクセッション・プランニング、後継者が下から上がってくる仕

組みというのは、モラル的にも重要なものだと思います。

楠田:日本企業は育成重視とかよく言いますが、そういうのはあまりやらずにきましたね。

OJT と研修はしている気がします。

伊藤:人事や役員会で、「全社で課長職に次になれる人は何人」というような、部長候補や

課長候補のプール方式のようなものは、結構やっている気がします。

楠田:そこに年次管理も入ってますよね。

伊藤:入ってますね。何年経ったから、何年次の人たちのうち、評価で優秀な人をここのプ

ールに入れておこうと。でも、基本的にそのやり方だと、ポジションが空かないと、

そこから昇格しませんよね。先に組織のポジションありきですから。

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楠田:私は良く言ってるんですが、プールしても、ポジションがなくて、プール人材が茹で

ガエルになってしまうのではダメですよね。

伊藤:いろいろな難しさがありますし、サクセッション・プランニングの考え方がないわけ

ではないのですが、その方法論が問われる時期になってきているという気がしますね。

楠田:長田さん、方法論についてお願いします。

長田:まず、マルチナショナルといま多くの日本企業が運用している制度とには、人事制度

の基本的な立てつけに違いがあると思います。ひとつは、欧米、特にマルチナショナ

ルでは、ビジネスとビジネスの結果、成果についての責任は、ビジネスのリーダーが

問われます。アカウンタビリティーとよく言われますよね。ゆえにそのリーダーにヒ

ト・モノ・カネを使う権限を与えています。人事部ではありません。ビジネスのため

のリソースであり、ビジネスのための人材です。そのリソースにどういう成長をさせ

ていこうかというときに、後継者を探して考えるのは、ビジネスのリーダーの責任で

す。

楠田:そうすると、人事は何をするのでしょうか?

長田:人事は、ビジネスマネージャーが選んだ人材が本当に適切かどうかということを、客

観的にアセスするお手伝いをします。

楠田:そうすると、プロフェッショナルにならないといけませんね。

長田:そうです。心構えということについて、先ほど伊藤さんも少し触れていましたが、私

も 1990 年代に、スイス銀行(後に UBS)にうつって、最初に驚いたのは、ライン

マネージャーが着任して最初に手をつける仕事が、後継者選びだったことです。自分

が次に移っていこうとすると、自分の代わりがいなかったら移れません。次にどのポ

ジションに移りたいかは自由に言っていいのですが、自分の後継者は自分で探せ、作

れ!ということです。自分のデベロップメントと、自分のサクセスをつくるというこ

とは表裏なんです。

楠田:日本企業では後任者を作ってしまうと、自分のポジションを取られてしまうんじゃな

いか・・・というような、自分沈没論みたいなものがあるように思いますが、どう思わ

れますか?

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伊藤:日本の人事は、言ってみれば会社主導型です。だから「自分の次の行き先も後継者も

全部、会社・人事が決めるのだから、別に自分が後継者なんか選ばなくてもいい」と

なってしまうのです。ところが、いま長田さんがおっしゃったように、欧米企業は、

自分のキャリアは自分でつくるんです。もっと偉くなりたかったり、違う仕事をした

いのであれば、いまのポジションをやる人間を自分で作っておかないといけません。

そういう自主性のようなものが、そもそも日本企業では求められてきませんでした。

楠田:日本企業も 20 世紀の終わりくらいから「これからは、自分のキャリアは自分でつく

る」と言ってきましたが、あれから人事は結局、何もやってこなかったような気がし

ます。やってきたのは年齢のキャリアの節目の研修と、最近では副業を認めようかと

か、リカレント教育を出そうかなとか、そういうことだけだった気がしますね。

伊藤:キャリアプランやキャリアデベロップメントという言葉が、カタカナのまま誰もが知

っているような言葉になって久しいですが、決してひとつの会社の中でキャリアを自

分で選べないのが実態です。いっそ転職するという道はあると思いますが、まだ会社

が人事を、次を決めているという意識があると思います。

楠田:そこで人事がつくったのは FA 制度なんですが、誰も手を挙げない・・・という状態で

すよね。

長田:日本の人事制度から生まれてくるマインドセットというか、社員の心構えみたいなと

ころですね。外資で仕事をしていたときに、社員たちに言ったことがあるんですよ。

「ビジネスというのは、まさしく需要と供給。そこで価値を生みだしているわけだか

ら、会社に生きていると思わずに、その市場でどれだけ自分が付加価値つくれるか、

自分の価値を考えてごらんなさい」と。「自分が本当に好きなことを、今の会社でそ

れをやらせてくれない制約があるんだったら、飛び出して、自分がもっと付加価値が

作れると思うことを、その市場でやってごらんなさい」と。こんなことを日本の会社

で言ったら、会社に対する反逆ですよね。

楠田:もちろんそうですね。

長田:でも、そう言うことによって、社員は本気でやりたいことを探しますよ。まずは自分

の会社から探して、なかったら本当に出て行きますが、今度は逆に自分の会社に魅力

を感じて、参加したいという人も出てきます。そうすると、人の流動性が高まるんで

す。

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楠田:健全なる流動化が高まりますね。

長田:そうです。つまり、仕事に対するエネルギーレベルが高い人たちが、だんだん増えて

いくのです。それを考えずに離職率とかで、会社の社員のマネジメントの成果をみる

と、失敗すると思います。興味がない、でも生活のためになんとかやっていこうと思

う社員は、マーケットで生きていこうというエネルギーレベルはそう高くありません。

楠田:マーケットバリューがない、ということですか?

長田:マーケットバリューがあるかどうかは別にしても、自分そこに行って、「よし、やっ

てやろう!」という意欲がないんです。

楠田:外に行って意欲がないなら、社内でも新しいことをやろうという意欲がなくなるかも

しれませんね。

長田:そうなんです。そうすると、そこそこやっている人たちがたまって来始めます。その

中から後継者を選ぶのは難しいですよね。

楠田:そういうストーリーなんですね。わかりやすいですね。伊藤さん。

伊藤:おっしゃる通りですね。コンサルタントをやっていても、離職率はよく問われるんで

すよ。確かに離職率が 30%、40%という会社は問題だと思います。そういう場合は

まず、経営人事をきちんとやって、まず離職率を下げます。「適正な離職率は何%で

すか?」と聞かれて答えられませんが、誰も辞めないから一概に良い会社と言い切れ

るかと言うと、それは大いに疑問です。いわゆる良い意味での新陳代謝が組織として

できているかどうか、ですね。定年で辞めて行く人は別として、非常に仕事ができる

人が巣立っていってしまうということがあるかもしれません。でもやっぱり、外に出

られないから、我慢してここに一生いようという人がどんどんたまっていってしまう

と、決して良い事業、良いビジネスができる組織にはなりません。とても難しいです

が、新陳代謝がきちんとできる組織でなければいけませんし、だからといって、バタ

バタ人が辞めていく組織は決して良くありません。それはまた別の話として、そうい

うところまで慮れるような人が、経営幹部になるべきだろうとは思います。

楠田:先ほど、伊藤さんが次の候補者の名前を書くと話されていましたが、名前を書けない

人が書けるようになる、そこのデベロップメントのヒントを紐解きたいと思います。

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伊藤:やはり、愚直に管理職教育、啓蒙をし続けることだと思っています。今、管理職に求

められているのは、自分のところの仕事を上手く管理する、回すことだけではなくて、

リーダーとしてのリーダーシップです。その中には、人を育てる、という意識と実際

の行動が必要です。これをきちんとやって、かつ部下のキャリア、自分のキャリアを

考えていれば、自ずと「次に誰がこのポジションをやるのか、誰がこの仕事をやるの

か」ということに想いがいくはずなんです。

我々が直接お手伝いできるのは研修ですが、その研修を通じて、単に通り一遍の管理

職としての心得を教えるだけではなくて、コーチングのスキルも応用しながら、人を

育成する、人の成長というものをより一層意識するようになってもらえるようにして

います。それが、事業の成功や組織の活性化、サクセッション・プランニングにつな

がっていくからです。急にサクセッションプランができるようにはなりません。もち

ろん、会社が主導しなければいけない部分もありますが、「自分が後継者を育てる」

という意識を持ってもらうのは、とても大変なんです。

楠田:エネルギーも必要ですね。

伊藤:これは、繰り返し繰り返し啓蒙していくしかありません。

楠田:日常の中で、リーダー、マネージャーが部下や自分のサクセッサーとして選んだ人に

きちんとコーチしていけば、今度はその人が次にそのポジションについたときに、そ

のやり方を自分の部下にやることによって、パイプラインができるような気がします。

伊藤:おっしゃる通りです。ですから、サクセッションプランそのものを意識するというよ

りは、自分のサブ、自分の代わりになる人を作るということです。もっと端的に言え

ば、サクセッションプランまで行かなくても、1 週間、何の心配もなく有給休暇をと

れるのか、という話です。

楠田:働き方改革的にも、1 週間休みたいのであれば後任者をつくっておくというのは、重

要だと思いましたね。土日しか休めない、有給とれないと言ってるマネージャーは多

いですから。

伊藤:安心して任せられる人がどれだけチームにいるか、ということですね。

楠田:安心して任せられるカルチャーがあれば、在宅勤務でも問題ないと思いますが、日本

はどうしても、目の前に部下がいないと安心しないというようなカルチャーがありま

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すからね。いま日本では働き方改革や在宅勤務等、様々なことをやろうやろうと言っ

ていますが、かけ声だけではなくて、サクセッションプランというものも、同時にや

らなければならないと思いましたね。長田さん、いかがですか?

長田:伊藤さんがおっしゃったことを、私は今の会社で実施しているんです。まず、個人的

な考え方なんですが、自分のサクセッサーというのは、自分よりも優秀なはずだと思

っています。なぜなら、私は全部その人に渡そうとするわけですが、その人は私より

もさらにその人のものを持っているからです。だから、私よりも幅広く、優秀になる

はずだと思って、いま一生懸命育てるんです。それがひとつですよね。それから、お

っしゃる通り、私がいなくても動く、という状況をつくらないといけないんです。そ

れは自部だけじゃなくて、あらゆる部署でそうでないといけないのですが、私はいま、

3 年間で有給休暇 100%取得というのを目標に進めています。

楠田:長田さんは、日本企業の人事部長のロールモデルですね。

長田:社員にヒアリングしたところ「将来、病気になったり、家族に何かがあったときに休

みをとらないといけないので、有給はとりません」というわけです。

楠田:有給は病欠のときのために、という人は多いですよね。

長田:昔の人事は、病気をしたら有給、という考えでした。そうオリエンテーションしてい

ますから、社員もちゃんとその通り学んでいるわけです。でも私は、有給はリバイタ

ライズのため、新しい分野のことを勉強するなり、自分で足らないことを自分で勉強

するなり、家族のために使ったり、そういう質の高い時間を持つために使ってほしい

と思っています。プロフェッショナリーに職業人としてそうしてほしい、と。そうで

ないと、絶対にいい答えを出してくれません。そのために有給を出しているのですか

ら。

楠田:有給は本来、そういうものですよね。日本企業では、転職するときに早く引継ぎをし

て、2~3 週間休んで有給を消化して、最終日に来て花をもらって辞める、というイ

メージですね。

長田:ファンドで立て直しに行くと、会社が傾いているので、ほとんどの社員が土日なしで

頑張っています。ところが、彼らのエネルギーレベルはそんなに高くありません。以

前、立て直しに行った会社の 1,300 人の社員の前で「1,300 本のろうそくが燃えてい

るけれども、炎の勢いがみんな小さい。私の仕事はこのろうそく 1 本 1 本がものす

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ごく明るく輝くことだから、そのためには休みをとりなさい」と言ったことがありま

す。でも、とらないんですよ。理由を聞いたら、残業代を稼ぐため、と言うんです。

だから、ベースを調べて、残業代として稼いだ分を全部ベースに乗せてから「休みを

とれ」と言ったら、やっと有給を取り始めました。「元気になったら、元気にお客様

にサービスしてくれ」と。本当にそれをやらないと、ずっとその結果というのは上が

ってこないんですよ。

楠田:ろうそくの火が心の火に変わって、燃えていくということですね。

長田:財務上、社員の有給未消化というのは、社員に対する会社の負債ですよね。

伊藤:欧米企業は実際、それをバランスシートに載せますからね。

長田:そうすると年間 2 億、3 億の負債がバランスシートに載ってしまいます。お願いだか

ら、これをゼロにしてほしい、と。ゼロにするには会社に来ないことです。こんなに

楽でバランスシートがクリアにできることなんてありません。いま、社員達に、この

バランスシートの話はしませんが、病気をしたときには特別に休みをあげるから、有

給は 100%とりなさいと言っています。

楠田:社員にとっても、エンゲージメントが高まる気がしますね。

伊藤:多くの会社は社長や上司が休め休め、と言うだけです。でも実際は、システム的に、

気持ち的に休めません。課長や部長にも、休まずにたくさん残業をして働くことが美

徳だと思ってる方が、まだまだいますから、さっき言った啓蒙とか教育というのは、

そういうところから、まず変えていく必要があります。休め、後継者を育てろと言っ

てるだけでは、全くダメなんですよね。給料等、自分にとってのメリットを分かって

もらわないと、やれやれというだけでは、全く上手くいかないんです。

長田:部署の責任者が長期で休めないとなると、次の人間にチャンスを与えられません。1

週間、2 週間で良いテストになるんです。2 週間すら任せられない人を、後継者とし

てノミネートしますか?後継者候補の名前を書いてきたら、私は「本当にそう?」と

聞きます。「そうだ」と言ったら、「やらせろ」と言います。「やらせられない」と言

ったら、「あなたが休めばいいんだよ」と。制度的には整っているんです。あとは、

いかに本気で管理者が後継者を育てるか、ということです。後継者がいなかったら、

本気で探さないといけませんから。

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楠田:今日のテーマは「サクセッション・プランニング」ですが、お二人に 2 つ質問をし

たいと思います。ひとつは、全ての部門にサクセッサーは必要ですか?それともキー

ポジションだけでよいのでしょうか?

伊藤:私の経験からいうと、主要なポジションだけですね。

楠田:その「主要」というのは何で決めるのですか?

伊藤:職位や職掌ですね。

楠田:ビジネスで牽引する部門ということですか?

伊藤:サクセッサーがいらない部門はないと思います。でも、組織である以上、必ず重要な

職位ほど「そのあと誰がやるのか」というのは、必要になりますから。会社によって

基準は違いますが、ある一定の職位以上、職掌以上と決めて、重要なポジションにつ

いては、サクセッション・プランニングが必要とするのが一般的ではないかと思いま

す。

楠田:長田さん、どうですか?

長田:同じですね。どこにサクセッサーの候補者がいるかということにおいては、全ての社

員をレビューします。これは例外がないですね。そのプロセスの中で、それぞれのポ

ジションの後継者を出してもらいます。しかし、トップレベルになると、事業の方向

性等を考えてキーになるところにいなければ、非常にシリアスなディスカッションに

なりますね。そこで、問題になるのが、先ほど伊藤さんがおっしゃっていた人材のプ

ール、層をどこに見つけるかということなんです。日本でひとりひとりを見ていくと

言ったら、日本人だけを見るんですよ。自分たちの商売は日本だけでやってるのかと

言えば、そうではありません。でも、日本以外のタレントを探す術というのが、日本

企業にはないと思います。現地法人に任せてしまいますよね。

楠田:任せるというか、野放しの企業が多い気がします。

長田:それを一緒にして、タレントを同じものとして見ていかないといけないと思います。

楠田:そうですね。だいぶ、変わってきてはいますが、本社だけではなくて、各国でも現地

法人でもサクセッションプランを入れていくということですね。

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長田:そうですね。

伊藤:もちろんです。

楠田:もうひとつ質問です。自分の後任者、サクセッサーは、本人に伝えないというお話が

ありましたが、自分の後任者は変更しても大丈夫ということですか?

伊藤:もちろん大丈夫です。

楠田:やっぱり違った、ということもありますよね。

長田:自分がそのつもりで育てていても、評価のプロセスの中で全く違うところから、ここ

にいる人間がもっとふさわしいと下りてきたら、NO とは言えません。

楠田:名前を書く=固定ではないんですね。

伊藤:将来に対するものなので、誰も保証できませんし、本人にはっきりと、あなたは次に

ここに座るんだよ、というのは言い切らないし、言わない方がいい、ということだと

思いますね。

楠田:ありがとうございました。そろそろ時間になりましたので、4 回にわたってお送りし

た番組は終わりにしたいと思います。伊藤さんは、今回のテーマについて、毎月、セ

ミナーを開催しているんですよね?

伊藤:次世代経営幹部候補育成セミナーです。サクセッション・プランニングや、ポテンシ

ャル・アセスメントについても、実例を含めてお話ししています。1 時間半の短いセ

ミナーですので、まずはお越しいただければと思います。ご希望があれば個別相談会

も無料で行っていますので、そこでさらにいろんなお話をさせていただけると思いま

す。

楠田:ありがとうございます。今日、番組をお聞きの方でもっと深掘りをしたい、伊藤さん

に相談したい、もっと学びたいという方は、いますぐ、ビジネスコーチ社のサイトで

検索していただければと思います。シェフラージャパンの長田さん、ビジネスコーチ

の伊藤さん、どうもありがとうございました。

長田・伊藤:ありがとうございました。

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