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つきあい方を科学する ~かけひきと合意の論理~ 稲垣 耕作 (筆名:逢沢 明) 京都大学情報学研究科 (挿絵:小山混・木内俊彦松尾かおる)

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つきあい方を科学する~かけひきと合意の論理~

稲垣 耕作

(筆名:逢沢 明)

京都大学情報学研究科

(挿絵:小山混・木内俊彦・松尾かおる)

つきあい方…ゲーム理論とは?

世の中、1人で生きているのではない

世の中も人間も、どちらも複雑である

利害関係のある相手がいる社会

「かけひき」と「戦略」の理論交渉を有利に運ぶ…元は戦闘的な理論

経済学の理論として出発した

ジョン・フォン・ノイマン(1944年)

源流は「室内遊戯」の数学(1926年)

従来の科学と異なり、一筋縄でいかぬ

明快な解答のない問題が多い

本の紹介

2003年

かんき出版

10万部

今日の私の立場はとても弱い

By 小山混

つきあいはWin-Win協力

戦闘型の生兵法は危ない!実社会ではなかなかうまく使いこなせない

何が勝ちか?世の中は非常に複雑であるため決めにくい

因果応報…巡り巡って結局負けるなど ホリ●モン?

Win-Winの協力型ゲームがより安全である自:他=100:120くらいで相手は公平と思う

『他人を見下す若者たち』(現代新書)…風潮?やる気がなく、他人を軽視し、すぐキレる、自分に甘い

自分に厳しくないとゲーム巧者になれないかも

柔軟で視野が広く、漏れのない発想を養うべしいろいろな作戦・戦略・アイデアがある 頭の体操として

基本は「多様な戦略」

By 小山混

答えはたくさん発見すべし

織田信長 尾張の「うつけ」

今川義元が攻めてきた。

織田軍2000余り 今川軍4万

「殿、今川軍が攻めてきました」

「うむ」

「戦いますか? それとも逃げますか?」

★二分法でなく答えを考えてください

答えの例

戦う

逃げる

城にたてこもる

今川軍と交渉して取引する

どこかへ援軍を頼みに行く

とりあえず時間稼ぎをする

部下の質問には答えない

◎信長は答えなかった部下を観察、覚悟を見る

スパイのおそれ、敵を欺く

答えをたくさん考える重要性

自然科学では答えが1つだと思いがち

理科系の欠点?

技術系企業で文科系の役員が多いなど

人間相手の生のゲームでは「無数の解」

ゲーム理論はオモチャのような問題を扱うが

多数の解を研究者が研究する

ゲーム理論の本では典型的な解しかない

読んだだけでは生兵法 視野を広く

研究者がゲーム巧者であるわけではない

9歳で奉公に出て(松下幸之助氏)

給料は月10銭

親方の赤ん坊の守りをしつつバイ競技力を入れすぎた拍子に赤ん坊を落とす

コブをつくり泣きやまない みんな見ている

ひどくしかられる?

菓子屋で饅頭を買って与えた給料3日分の1銭

帰って正直に話したらたいして叱られず「えらい散財をしたもんやなあ」と笑われた

◎人間同士の信頼関係の構築

松下電器の遵奉すべき精神

産業報国の精神(昭和8年・命知2年)

公明正大の精神

和親一致の精神

力闘向上の精神

礼節謙譲の精神(礼節を尽すの精神)

順応同化の精神(昭和12年)

感謝報恩の精神(昭和12年)

◎シナジー効果の出る人材 ピンチのとき

基本:非協力ゲームの練習(1)

「先読み」が重要

基本:非協力ゲームの練習(2)

ゲーム理論の大枠

ケインズ以来の最も重要な経済学の業績

関連研究でノーベル経済学賞が多数

対戦相手も合理的に考える 賢い

完全合理性?

基本は利己性 利益追求

各人が利己的だと社会は発展? 利他性にも

対戦のしかたは多数

協力、インセンティブ

脅し、ペナルティ

交渉、信用

囚人のジレンマ―非協力と困難

By 小山混

囚人のジレンマ―黙秘か自白か?

囚人のジレンマ―解法

Aの立場:問題を分割

(1)Bが黙秘自白が有利

(2)Bが自白自白が有利

ゆえに自白が有利

ジレンマの発生―非協力ゲーム

不合理な「黙秘-黙秘」がより有利

ムカデのゲーム―非協力ゲーム

ムカデのゲーム

最良の判断が最悪の結末へ

By 木内俊彦

完全に合理的な判断の結末?

瀬戸際戦略の例―ゲーム木

瀬戸際戦略の解答

キューバ危機の瀬戸際戦略

米ソ冷戦時代の危機

1962年 キューバにミサイル基地

ケネディ大統領の決断

海上封鎖

「全面戦争もやむなし」

水面下での交渉

トルコのアメリカ側ミサイル撤去など

くせの悪い同僚(松下幸之助)

自転車屋の丁稚時代 店の品物を盗む同僚

主人 発覚したが一度は許してやろう

幸之助 主人と掛け合う「そういう不都合な者とともに働くことはできません。

おいておくのであれば、私はお暇をちょうだいします」

公明正大の精神宅急便のミカン ヤマト運輸・小倉昌男

瀬戸際戦略勝てると読めなければやってはいけない

交渉相手についてもよく知るべし 人間学

めったに使わない手

囚人のジレンマ―アクセルロッドの実験

繰り返し囚人のジレンマ

政治学者アクセルロッドの実験

200回繰り返し×5回

コンテスト

15のコンピュータプログラム

でたらめ戦略プログラムを含む

アクセルロッドの結果

「しっぺ返し」が優勝最初は協調で始める

相手が裏切ったときは次回に裏切る

心理学者ラポポートたった4行のプログラム

最初は協調

後は相手をまねるだけ

2回目のコンテストでも優勝

63プログラム(200回に近い不定回に設定)

「しっぺ返し」は最強か?

総合点で優勝

「紳士的」で「憤慨」し「寛容」(アクセルロッド)

「しっぺ返し」はどの相手にも勝たず

「負け」か「引き分け」ばかり

他者の総合点が低かったので僅差で優勝

誰にも勝たないが最強という戦略

しっぺ返し型同士ひたすら協調し続ける

他は強者に勝つが総合点で負ける者など

いくつかの教訓

無抵抗主義ではいけない

相手が忘れないうちに反撃せよ

「仏の顔も三度」戦略もよい

相手からの情報が間違って伝わる場合

誤解によるいさかいを避ける

人間同士のゲームは裏切る傾向が強い

経済学部の学生で実験すると裏切る

いさかいは損失が大きい

By 松尾かおる

民主的合意の投票問題

A、B、Cの誰を取締役に選ぶ?

勝ち抜き多数決で選出 三すくみ

A:B=2:1……Aの勝ち

A:C=1:2……Cが取締役に選出される

B:C=2:1……Bの勝ち

A:B=2:1……Aが取締役に選出される

もっと異常な多数決

全員の多数決でGを選ぶ

A:B=1:2

B:C=1:2

C:D=1:2

D:E=1:2

E:F=1:2

F:G=1:2

Gが最高?

最善を尽くして最悪へ

他人がいると避けがたい

ゲーム理論によって初めて体系的に分析

多様な価値観

多様な利害

多様な戦略

By 小山混

裁判における多数決

1.現行式の場合

最初に有罪・無罪を決め、量刑決定

A:有罪、 B:有罪、 C:無罪

A:死刑、 B:終身刑、 C:死刑

2.ローマ式の場合

重い刑から軽い刑へと順に判断

死刑: A:○、 B:×、 C:×

終身刑: A:○、 B:○、 C:×

3.罪刑決定式の場合

有罪の場合の刑を最初に決定

A:死刑、 B:終身刑、 C:死刑

A:死刑、 B:無罪、 C:無罪

ノーベル経済学賞

ケネス・アロー 1972年

厚生経済学

「最大多数の最大幸福」はない

アマーティア・セン 1998年

貧困の経済学

「自由と平等」は両立しない

脳の仕組みは多数決である

ニューロンは多数決の原理で判断する

脳の中で投票のパラドックスが起こる

ロボットの脳でも多分・・・

人間とロボットとの未来の“ゲーム”

勝ち抜き多数決への対策(1)

A:B=2:1 A:C=1:2

最初に大株主がBに投票すると

A:B=1:2 B:C=2:1

勝ち抜き多数決への対策(2)

動議によって採決順を変更する

B:C=2:1 A:B=2:1

正解のない世界

ゲーム理論の宿命である

これほど矛盾の多い理論体系はなかった

社会も人間も無矛盾ではない

矛盾をてなずけ、矛盾と同居する

ユートピアはどこにも存在しない

譲歩をどこまでするか

互いに裏切らない

譲り合いの精神を忘れずに

過度のゲーム化

→社会が疲弊

長い物にまかれる

→無気力化

→制度疲労

バランスが大切

By 松尾かおる