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第2章 DCモータの理論
本稿掲載のWebページhttp://mybook-pub-site.sakura.ne.jp/Motor Drive note/index.html
古橋 武
目次 1
目次
第 2章 DCモータの理論 2
2.1 DCモータの構造とトルクの発生 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
2.2 逆起電力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
2.3 マブチモータ(RE-280RA)の構造とトルクの発生 . . . . . . . . . . . . 12
2.4 モータの等価回路と制御系のブロック線図 . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
2.5 DCモータのシミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
2.5.1 DCモータのパラメータの計測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
2.5.2 DCモータのシミュレーション式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
2.5.3 インバータの出力電流対出力電圧特性 . . . . . . . . . . . . . . . 27
2.6 インバータの回転数制御系のボード線図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
参考文献 45
2 第 2章 DCモータの理論
第2章
DCモータの理論
2.1 DCモータの構造とトルクの発生
図 2.1は永久磁石のN極と S極が向き合い,磁束密度B[T]の一様な磁界中に辺の長さ
が a, b[m]のコイルが置かれ,そのコイルには電流 I[A]が流れている様子を示す. コイ
ルに働く力はフレミングの左手の法則により説明される.
図 2.1: トルク発生の様子 (1)
図 2.2: フレミングの左手の法則
2.1. DCモータの構造とトルクの発生 3
図 2.3: トルク発生の様子 (2)
図 2.4: トルク発生の様子 (3)
図 2.2のように左手の親指,人差し指,中指を互いに 90 °となるように立てると,人差
し指の方向に磁束密度B[T],中指の方向に電流 I[A]があるとき親指の方向に力 F [N]が
発生する.従って,図 2.1のコイルには図 2.3に示すように,b[m]の長さのコイル辺にそ
れぞれ図示の方向に力F [N]が発生する.図中の×印は電流が紙面に垂直に表側から裏側
へと流れていることを表す.矢の羽を後ろから見た絵を連想されたい.また,・印は反対
に裏側から表側へ流れていることを表す.矢の頭を前から見たイメージである.これら
の力は図の例では反時計方向にコイルを回転させる力となる. a[m]のコイル辺でも力
は発生しているが,それぞれ真反対の方向に引っ張る力であり打ち消しあっている.
図 2.4の位置にコイルがあるときに発生する力は時計方向の回転力となる.
4 第 2章 DCモータの理論
一辺のコイルに発生する力 F [N]はBli則により
F = BbI [N ] (2.1)
である.回転力に寄与する成分は図 2.5のようにコイルの回転角度 θを定めると,F cos θ
で与えられる.二辺のコイルに発生するトルク τ [Nm]は
τ = 2F cos θ × a
2= BabI cos θ[Nm] (2.2)
となる.この回転力成分は反時計方向の回転力を正とする.同図には回転角度 θとトル
ク τ の関係を示してある.T0 = BabIである.
図 2.5: トルクと回転角度 θの関係
図 2.6: ブラシ・整流子の効果
2.1. DCモータの構造とトルクの発生 5
図 2.7: ブラシ・整流子の機構
図 2.8: ブラシ・整流子によるコイル電流の向き
コイルに回転角度 θ方向に回転できる機構を設け,さらに,コイルを一定方向に回転
し続けられるようにするには図 2.6に示すように破線の左右で電流の向きを切り替えて
やればよい.すなわち,−π/2 < θ < π/2の範囲では×, π/2 < θ < 3π/2の範囲では・
の向きに電流が流れるようにすればよい.この切り替えを実現する機構がブラシと整流
子である.図 2.7にその構造を示す.整流子は円筒が左右対称に2等分されていて,それ
ぞれコイルの両端に連結されている.整流子はコイルと一体となって θ方向に回転する.
ブラシは電源に接続され,整流子表面に接触するように設置されている.ブラシは回転
しないように固定されている.この機構によりコイルに流れる電流の向きは図 2.8のよう
になり,図 2.6の切り替えを実現する.回転力成分 F cos θは図 2.9に示すように常に正
の値となる.整流子が回転することで θ = π/2, 3π/2の位置に来たときには,整流子の切
れ目の両端が同じブラシに接する,もしくは両端とも離れる事態となるが,これは無視
している.
図 2.9の回転力によりモータを反時計方向に回転させ続けることができる.しかし,回
転力は角度 θに大きく依存する.回転力を平滑化する工夫の一つを図 2.10に示す.コイ
ルを 3つ設け,整流子は図示のように円周を 6等分して,それぞれコイルの端に連結す
る.これらコイルと整流子が一体となって回転角度 θの方向に回転する機構とする.この
6 第 2章 DCモータの理論
図 2.9: ブラシ・整流子による回転力
図 2.10: ブラシ・整流子の機構 回転力の平滑化
工夫により,図示のように水平の位置に近いコイルにのみ電流が流れ,回転力は図 2.11
に示すように平滑化される.
しかし,図 2.10の機構では 2/ 3のコイルは回転力に全く寄与していない.さらなる
工夫を図 2.12に示す.3つのコイルに 1, 2, 3の番号を付け,例えばコイル 1の両端は 1,
1’と記してある.整流子は円周を 3等分してある.各コイルの端を図示のように整流子
と連結する.なおブラシはこれまでの位置から回転角度 θ方向に 90 °回転させた位置に
固定してある.同図 (a)には電流の経路を矢印で示してある.例えば上側のブラシから
入った電流はコイル端の 1と 3’に分流し,1から入った電流は 1’から出てきて下側のブ
ラシを通って電源Eに帰って行く.3’から入った電流は 3から出てきて,2’に入り,2か
ら出てきて下側のブラシを通って電源Eに帰って行く.電源Eと各コイル端との接続状
態は同図 (b)のようになる.ここで,同図 (a)の矢印に示すようにコイル・整流子が反時
計方向に回転するとする.この回転によるコイルと電源の接続状態における移動方向の
イメージを同図 (b)に矢印で示す.図 2.12の位置からコイル・整流子が 60 °回転した場
合を図 2.13に示す.電源とコイルの接続状態は同図 (b)に示すとおりとなる.コイルに
流れる電流は,上下のブラシを通る直線で左右を分けたとき,右反面にあるコイル辺に
2.1. DCモータの構造とトルクの発生 7
図 2.11: ブラシ・整流子の機構 回転力の平滑化の効果
図 2.12: ブラシ・整流子の機構 回転力の平滑化(その2)
おいて×方向であり,左反面にあるコイル辺では・方向となる.この構造により,全て
のコイルに常に電流が流れ,どのコイルの発生する回転力も反時計方向の回転に寄与す
る.総合的な回転力は各コイル辺の回転力成分の総和となる.図 2.14にその概形を示す.
図 2.11の場合の 2倍の回転力が得られている.
図 2.14の発生トルクにおいて,脈動成分を無視すれば,トルク τ は回転角度に無関係
となり,
τ ∝ BabI [Nm] (2.3)
と与えられる.BabはDCモータの構造と永久磁石の磁力により決まる定数であるので,
比例定数をKτ とすると
τ = KτI [Nm] (2.4)
となる.Kτ はトルク定数と呼ばれる.
8 第 2章 DCモータの理論
図 2.13: ブラシ・整流子の機構 回転力の平滑化(その2 ’)
図 2.14: ブラシ・整流子の機構 回転力の平滑化の効果(その2)
2.2 逆起電力
導体が磁界中を移動すれば,導体内に電圧が誘起される.図 2.15は図 2.1と同じ構造
において,コイルを反時計方向に回転させた様子を示す.磁界内の導体の移動により導
体内に誘起される電圧はフレミングの右手の法則により説明される.図 2.16のように.
右手の親指,人差し指,中指を互いに 90 °となるように立てると,人差し指方向の磁束
密度B[T]の中を親指の方向に速度 V [m/s]で導体が移動すると,導体内には中指の方向
に起電力E[V]が発生する.従って,図 2.15のコイルには図 2.17に示すように,b[m]の
長さのコイル辺にそれぞれ図示の方向に起電力 e[V]が発生する.図 2.18の位置にコイル
があるときに発生する起電力は図 2.17とは逆向きになる.図 2.19に示すように回転角度
θにおいて,コイルの円周方向の速度を v [m/s]とすると,長さが b [m]のコイル辺が磁
界を垂直に横切る速度成分は v cos θにより与えられる.よって,Blv則により,長さが
2.2. 逆起電力 9
図 2.15: 起電力の発生 (1)
図 2.16: フレミングの右手の法則
b [m]のコイル辺に発生する起電力 ebは
eb = Bbv cos θ [V ] (2.5)
コイルの回転数を n [rps] (revolution per second もしくは rotation per second のこ
と.1秒間の回転数. round per secondと呼ばれることもある. )とする.最近は1秒間
の回転数の単位は [s−1]が用いられている.これは周波数 [Hz]と同じ次元である.本書で
は筆者が慣れ親しんだ [rps]を用いる.コイルの円周方向の速度 vは
v = 2πa
2× n [m/s] (2.6)
となる.式 (2.5)の電圧は一辺のコイル辺に発生する電圧であるので,コイル全体で発生
する電圧 eaは
ea = 2eb
= 2Bbv cos θ
= 2πnBab cos θ [V] (2.7)
と与えられる.回転角速度 ω = 2πnとすると
ea = ωBab cos θ [V] (2.8)
10 第 2章 DCモータの理論
図 2.17: 起電力の発生 (2)
図 2.18: 起電力の発生 (3)
である.
図 2.12の機構とすることで,コイルに誘起される電圧 eaは図 2.20のように平滑化さ
れる.eaに含まれる脈動成分を無視すれば,eaは回転角度 θとは無関係になる.この電
圧をEaとすると
Ea ∝ Bab ω [V] (2.9)
と与えられる.比例定数をKeとすると
Ea = Keω [V] (2.10)
である.Keは起電力定数とよばれる.
この電圧はモータの外から印加する電源電圧Eの逆向きに発生することから逆起電力と
呼ばれる.電源電圧Eを印加することで電流 Iが流れ,それによりコイルにトルク τ が
発生して回転し,その結果としてコイルに電源電圧に反発する逆起電力Eaが発生する.
2.2. 逆起電力 11
図 2.19: 起電力の発生 (4)
図 2.20: ブラシ・整流子の効果(逆起電力の平滑化)
12 第 2章 DCモータの理論
2.3 マブチモータ(RE-280RA)の構造とトルクの発生
図 2.21: DCモータのキャップを外したところ
図 2.22: DCモータを分解したところ
前項の説明がほとんどの教科書に出てくるDCモータの構造とトルク発生の原理であ
る.では図 1.85のマブチモータはどのような構造をしているのか?分解してみた.図 2.21
はプラスチックのキャップを外してモータ内部を見たところとキャップの内側の写真であ
る.外枠の金属の円筒の内側に二つの円弧状の永久磁石が配置され,その内側に三つの円
弧状の形状を持つ鉄心からなる電機子がある.外枠と永久磁石がステータ(固定子)で
あり,電機子がロータ(回転子)である.電機子の三つの鉄心にはコイルが巻かれてい
る.これは電機子コイルと呼ばれる.キャップの内側には少し斜めにブラシが設けられて
いる.図 2.22はロータを抜き出したところである.ロータの軸には整流子が設けられて
いる様子が分かる.
図 2.23は DCモータの模式図である.左側のブラシから流入した電流 I1 + I2は図中
の下の電機子コイルへの電流 I1と左の電機子コイルへの電流 I2に分流し,左の電機子コ
イルから出てきた電流 I2は整流子を介して右上の電機子コイルへと流入している.電流
I1と I2は右側のブラシで合流して電源へと帰って行く.各電機子コイルには右ねじの法
則の向きに磁界が発生し,各鉄心表面には図示のようにN, Sの磁極が現れる.図 2.24は
2.3. マブチモータ(RE-280RA)の構造とトルクの発生 13
図 2.23: DCモータの構造 (RE-280RA)
これらのN, S磁極による回転力の発生の様子を示す.ステータ側の永久磁石表面には図
示のように右側がN極,左側が S極の磁極が現れている.右上の鉄心は右側の磁石と反
発する.下の鉄心は右側の磁石に引きつけられ,さらに左側の磁石から反発力を受ける.
これによりロータには反時計方向への回転力が生まれる.左側の鉄心は左側の磁石に引
きつけられるが,その力はロータの回転軸にほぼ垂直の方向であり回転力にはほとんど
寄与しない.
ロータが少し反時計方向に回転したとする.ブラシ・整流子の接触関係がずれ,左側
の電機子コイルの電流の向きが反転する.すなわち,回転力に寄与していない鉄心表面
の磁極が反転するように作られている.ロータ,ステータの位置関係が変わったことで,
上側の鉄心は新たに左側の磁石の吸引力を受ける.下側の鉄心が左側の磁石から受けて
いた反発力は弱まる.
2.1項で説明したモータのトルク発生の原理と本項のトルク発生の原理は異なっている.
にもかかわらず,多くのDCモータの解説書では前項のBli則による説明がなされ,す
でに幾多の経験も経て,その正しいことが確かめられている.本項では前項の説明との
関連を示す.
まず,永久磁石が作る磁束の流れを図 2.26に示す.永久磁石のN極表面から出た磁束
はロータの鉄心を通って反対側の永久磁石の S極表面で終わる.永久磁石とロータ表面
の間のギャップには空気があり,この経路の中で最も透磁率(磁束の通しやすさ)が低
い.このためギャップ中を通る磁束はロータ鉄心と永久磁石の対向面にほぼ垂直となる.
14 第 2章 DCモータの理論
図 2.24: DCモータの構造 (RE-280RA)(その2)
また,対向面内においてほぼ一様に分布する.このことはロータ鉄心を通る磁束の量は
鉄心と永久磁石の対向面積に比例することを意味する.なお,鉄心内での磁束同士の間
隔が不揃いなのは,単に筆者のパワポイントの技量による.従って,図 2.27に示すよう
に,ロータの回転角を θ,鉄心の永久磁石との対向面の回転軸方向の長さを l[m],鉄心表
面の垂直方向の磁束密度をBs[T]とすると,鉄心を通る磁束の変化分 dϕ/dtは
dϕ
dt= Bslr
dθ
dt(2.11)
と与えられる.N 回巻きの電機子コイルの誘起電圧 v [V]は
v = Ndϕ
dt(2.12)
であり,この電圧に逆らってコイルに電流 iを流し込むことは,電力 P [W]をコイルに
注入することになる.
P = Nidϕ
dt
= NBslirdθ
dt(2.13)
電力 P [W]の時間積分は仕事E[J]であり,その角度 θによる微分はトルク τ である.
d∫
Pdt
dθ= NBslir (2.14)
以上により前項のBli則によるトルクの導出と,本項の磁極同士の反発,吸引によるト
ルク発生の原理とが関連づけられた.
2.3. マブチモータ(RE-280RA)の構造とトルクの発生 15
図 2.25: DCモータの構造 (RE-280RA)(その3)
図 2.26: 磁束の流れ
図 2.28はマブチモータRE-280RAを2個連結して,一方をモータとし,他方を発電機
として,発電機の発電電圧を測定した結果を示す.この波形は図 2.20の波形とほとんど
重なる.両者を重ねた図を図 2.29に示す.図 2.27では,ロータ鉄心表面の磁束密度 Bs
はロータの回転角度に無関係にほぼ一様としたが,そうであれば実測波形には平坦な部
分が見られるはずであるが,正弦波を基に作図した模式図と良く合っている.このこと
から,実機のBsは cos θに近い分布になっていると推定される.また,電圧が最低値を
とる時点が少し遅くなっている.これはブラシの位置が図 2.24の θ = 0の位置のよりも
少し傾いていることによる.このブラシの位置のずれは図 2.21のキャップの内側の写真
により確認できる.このずれにより,整流子の切り替えのタイミングは,図 2.24から図
2.25への切り替えの例よりも遅れている.写真のようにブラシの位置をずらすのは電機
子反作用の影響を相殺するためである.電機子反作用とは電機子電流の影響によりロー
16 第 2章 DCモータの理論
図 2.27: Blrdθ
図 2.28: DCモータ (RE-280RA)の起電力の測定例
タ鉄心表面の磁束密度の分布が変化することを言う.図 2.30(a)に示すように整流子が切
り替わる瞬間に,ブラシは二つの整流子を短絡する.この二つの整流子につながってい
るコイルも短絡する.このコイルに電圧が発生しているとこのコイルには短絡電流が流
れ,次に一方の整流子がブラシから離れる瞬間に火花が出る.これはブラシ,整流子を痛
め,これらの寿命を縮めてしまう.そこで,電機子電流が流れている状態では,同図 (b)
に示すようにブラシの位置をずらして,コイルに電圧が発生していないタイミングで整
流子を切り替えるようにすれば、短絡電流が流れない.このタイミングは電機子電流の
値に依存する.そのため,(適切な)電流値におけるタイミングに合わせてある.発電機
に抵抗をつないで発電機の電機子コイルに電流を流すと,この切り替え点が変わること
を確認できる.図 2.31はその測定例である.このときの電機子電流は約 80 [mA]であっ
た.回転数を変えてより詳細な測定をしなければ,正確なことは言えない.
2.3. マブチモータ(RE-280RA)の構造とトルクの発生 17
図 2.29: 実測波形と模式波形を重ねたところ
図 2.30: 電機子反作用に対するブラシ位置の影響
18 第 2章 DCモータの理論
図 2.31: 発電機から電流を取り出したときの起電力の測定例
2.4. モータの等価回路と制御系のブロック線図 19
2.4 モータの等価回路と制御系のブロック線図
図 2.32: 漏れ磁束のイメージ図
図 2.33: DCモータの等価回路
DCモータの等価回路は電気子抵抗Raと電機子インダクタンス Lzおよび逆起電力 ea
により表される.記号の添え字の aは電機子の英語Armatureに由来する.電気子抵抗は
電機子コイルの持つ抵抗であり,電機子インダクタンスは電機子コイルの漏れ磁束によ
るインダクタンスである.図 2.32は漏れ磁束のイメージ図を示す.電機子コイルを通る
磁束の中には永久磁石を通る経路から外れて(漏れて),図のように電機子コイルのみ
を通る磁束がわずかながらある.なお,図中の漏れ磁束の経路は厳密ではない.漏れ磁
束はトルク τ の発生,逆起電力 eaの発生に寄与しない.しかしながら,空間には漏れ磁
束の持つ磁気エネルギが蓄えられる.等価回路としてはこれはインダクタンスとして表
される.
図 2.33はDCモータの等価回路である.voにはインバータの出力電圧が印加され,ea
20 第 2章 DCモータの理論
は式 (2.10)のモータの逆起電力,Keは起電力定数である.ただし,ここでは大文字のEa
ではなく,小文字で eaと表している.本書では,大文字は直流成分について論じるとき
に用い,小文字は瞬時値について論じるときに用いている.ただし,いずれも逆起電力
に含まれるリップルは無視している.
この等価回路においては以下の式が成り立つ.
vo = Ladiadt
+Raia + ea
ea = Keω (2.15)
図 2.34: DCモータの機械的負荷
図 2.34はDCモータにより回される機械的負荷を示す.ωはモータの回転数 [rad/s],τ
はモータのトルク [Nm],Kτ はトルク定数,Jmは慣性モーメント [Nms2/rad],Dmは摩
擦係数 [Nms/rad],τLは外部から加わるトルクである.図 1.1の実験装置においては,Jm
はモータ自身の慣性モーメントと発電機の慣性モーメントの和である.Dmもモータ自
身と発電機を合わせた摩擦である.この機械的負荷においては以下の式が成り立つ.
τ = Jmdω
dt+Dmω + τL
τ = Kτ ia (2.16)
式 (2.15),(2.16)をラプラス変換すると
Vo(s) = sLaIa(s) +RaIa(s) + Ea(s)
Ea(s) = KeΩ(s)
T (s) = sJmΩ(s) +DmΩ(s) + TL(s)
T (s) = KτIa(s) (2.17)
となる.ここでの大文字の表記はラプラス変換された変数であることを意味する.これ
2.4. モータの等価回路と制御系のブロック線図 21
らをそれぞれ IaおよびΩに関して求めると
Ia(s) =1
sLa +Ra
(Vo(s)−KeΩ(s)) (2.18)
Ω(s) =1
sJm +Dm
(KτIa(s)− TL(s)) (2.19)
である.これより図 2.35に示すDCモータのブロック線図を得る.ただし,図において
Fe(s) =1
sLa +Ra
(2.20)
Fm(s) =1
sJm +Dm
(2.21)
と置いている.
図 2.35: DCモータのブロック線図
図 2.36: DCモータ制御系のブロック線図
式 (1.68)をラプラス変換すると
Vcom(s) = Kp(Ωcom(s)− Ωdet(s)) +Ki
s(Ωcom(s)− Ωdet(s))
=
(Kp +
Ki
s
)(Ωcom(s)− Ωdet(s)) (2.22)
22 第 2章 DCモータの理論
となる.また,回転数検出用のモータの起電力定数をKe2とすると
Ωdet = Ke2Ω (2.23)
である.マイコンによるPI制御系を含むDCモータ制御系のブロック線図を図 2.36に示
す.KINV はインバータのゲインである.マイコンの中では離散値による処理がなされて
いるが,タイマ 1によるサンプリング周期は 1 [ms]であるのに対して,図 1.103,1.107
の実験結果における回転数の応答は 10 [ms]以上を要している.このため,図 2.36では
連続系で近似している.
積分ゲインKi = 0としてみる.結果を図 2.37に示す.ωdetにオーバーシュートは見ら
れなくなったが,回転数指令値 ωcomと検出値 ωdetを一致させられなくなっている.積分
ゲインの有無による定常偏差(回転数指令値に変化がないときの指令値と検出値の誤差)
の違いと制御系のブロック線図の関係については文献 [2]の 7章に詳述してある.参照さ
れたい.
図 2.37: DCモータ回転数制御の実験結果Kp = 32, Kidt = 0
以降の内容は,古橋武「モータドライブノート II(DC モータの理論)」アマゾ
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参考文献 45
参考文献
[1] 後閑哲也「改訂版 C言語による PICプログラミング入門」技術評論社,2009.
[2] 古橋武「パワーエレクトロニクスノート」コロナ社,2008.
46 索引
索引
Bli則, 3
Blv則, 8
DCモータの等価回路, 19
rps, 8
安定性, 30
位相余裕, 36
永久磁石, 2
回転角速度, 9
回転子, 12
回転数, 8
回転力の平滑化, 5
開ループ伝達関数, 28
角速度, 9
慣性モーメント, 20
起電力定数, 10, 20
逆起電力, 10
ゲイン余裕, 36
コイル, 2
固定子, 12
磁束密度, 2
ステータ, 12
整流子, 4, 12
電機子, 12
電機子インダクタンス, 19, 23
電機子コイル, 12
電気子抵抗, 19, 23
電機子反作用, 15
透磁率, 13
トルク定数, 7, 20
トルク, 4
ブラシ, 4, 12
フレミングの左手の法則, 2
フレミングの右手の法則, 7
ブロック線図, 21
ボード線図, 28
摩擦係数, 20
右ねじの法則, 12
漏れ磁束, 19
ラプラス変換, 20
ルンゲ・クッタ法, 26
ロータ, 12
索引 47
2012年 8月
著者
古橋 武
名古屋大学工学研究科情報・通信工学専攻
本稿の内容は,著作権法上で認められている例外を除き,著者の許可なく複写するこ
とはできません.