9
75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響 (平成25(2013)年夏の海水温上昇) 近年では、局地的な豪雨の増加、夏季の異常高温といった異常気象に対する社会的な関心 が強まっています。さらに、化石燃料の大量消費による大気中の二酸化炭素濃度の増大等に よる地球温暖化の進行に伴い、今世紀末には前世紀末と比べ、日本の年平均気温が2.5~3.5 ℃上昇するとともに大雨や短時間強雨の頻度が増えると予測されています *1 平成25(2013)年の6~8月の西日本の平均気温は統計をとり始めて以降最も高く、東日 本では3番目タイ、沖縄・奄美地方では2番目タイの暑さを記録しました。高い気温の影響 を受け海水温も上昇しており、平成25(2013)年8月の日本近海の平均水温は平年よりもか なり高くなり、昭和60(1985)年以降で最も高くなりました(図Ⅱ−2−1)。 (海水温の上昇等によるとみられる漁業の異変) 海水温の上昇により、高水温を好む魚種が生息・回遊域を北上させる一方で、低水温を好 む魚種は日本周辺水域まで南下しなくなるなどの現象が発生し、各地の漁業に異変をもたら したとみられます(表Ⅱ−2−1)。 暖水性の魚であるブリがオホーツク海沿岸で、クロマグロが道東沿岸のサケマス定置網で 漁獲されています(図Ⅱ−2−2)。一方、冷水を好むサンマは、例年であれば日本近海に 南下を始める8月になっても太平洋の北部にとどまったため、9月半ばに台風18号等の影響 で海水温がある程度下がり魚群が南下を始めるまで本格的な操業の開始時期がずれ込みまし た。また、養殖業においても、夏が産卵期であるカキでは産卵期が長くなり、カキが消耗し て成長が遅れる被害が生じたほか、水温の上昇により餌食いが悪くなって成長が遅れたり、 採苗時期が遅れたり、雑藻類が増加して収穫が困難になるなどの影響が出ています。 *1 地球温暖化予測情報第8巻(気象庁) 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 46N 44N 42N 40N 38N 36N 34N 32N 30N 130E 145E 140E 135E 150E 資料:(独)水産総合研究セン ター資料に基づき水産 庁で作成 図Ⅱ-2-1 我が国周辺の海水温(℃)の変化 〈平成15(2003)年8月12日〉 46N 44N 42N 40N 38N 36N 34N 32N 30N 130E 145E 140E 135E 150E 〈平成25(2013)年8月12日〉

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

75

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き

第1部

第Ⅱ章

(1)漁場環境の保全

ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響(平成25(2013)年夏の海水温上昇) 近年では、局地的な豪雨の増加、夏季の異常高温といった異常気象に対する社会的な関心が強まっています。さらに、化石燃料の大量消費による大気中の二酸化炭素濃度の増大等による地球温暖化の進行に伴い、今世紀末には前世紀末と比べ、日本の年平均気温が2.5~3.5℃上昇するとともに大雨や短時間強雨の頻度が増えると予測されています*1。 平成25(2013)年の6~8月の西日本の平均気温は統計をとり始めて以降最も高く、東日本では3番目タイ、沖縄・奄美地方では2番目タイの暑さを記録しました。高い気温の影響を受け海水温も上昇しており、平成25(2013)年8月の日本近海の平均水温は平年よりもかなり高くなり、昭和60(1985)年以降で最も高くなりました(図Ⅱ−2−1)。

(海水温の上昇等によるとみられる漁業の異変) 海水温の上昇により、高水温を好む魚種が生息・回遊域を北上させる一方で、低水温を好む魚種は日本周辺水域まで南下しなくなるなどの現象が発生し、各地の漁業に異変をもたらしたとみられます(表Ⅱ−2−1)。 暖水性の魚であるブリがオホーツク海沿岸で、クロマグロが道東沿岸のサケマス定置網で漁獲されています(図Ⅱ−2−2)。一方、冷水を好むサンマは、例年であれば日本近海に南下を始める8月になっても太平洋の北部にとどまったため、9月半ばに台風18号等の影響で海水温がある程度下がり魚群が南下を始めるまで本格的な操業の開始時期がずれ込みました。また、養殖業においても、夏が産卵期であるカキでは産卵期が長くなり、カキが消耗して成長が遅れる被害が生じたほか、水温の上昇により餌食いが悪くなって成長が遅れたり、採苗時期が遅れたり、雑藻類が増加して収穫が困難になるなどの影響が出ています。

*1 地球温暖化予測情報第8巻(気象庁)

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き

46N44N42N40N38N36N34N32N30N

130E 145E140E135E 150E

資料:(独)水産総合研究センター資料に基づき水産庁で作成

図Ⅱ-2-1 我が国周辺の海水温(℃)の変化

〈平成15(2003)年8月12日〉

46N44N42N40N38N36N34N32N30N

130E 145E140E135E 150E

〈平成25(2013)年8月12日〉

Page 2: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

76

第1部

第Ⅱ章

 このほか、近年日本海側でサワラが豊漁となっている一方で、スルメイカの漁獲量が大きく減少し主漁期も短縮化している要因についても、海水温の上昇の影響が指摘されています。 また、近年多発している集中豪雨により、漁場に泥水が流れ込んで藻場が枯れたり、多量の降雨により海の塩分濃度が一時的に薄まり、養殖魚に大きな被害を出す事例も発生しています。

(気候変動の水産業への影響) 海水温が上昇し低水温を好む魚種の漁場が遠くなると、それに関係する漁業では漁場に航海するための燃油や漁船員の拘束時間が長くなり、経営に大きな影響を与えます。平成25

(2013)年のサンマ漁の操業の遅れは、漁期の初めにサンマが北方の海域にとどまったため、サンマ漁業者がサンマの魚価と燃油等の経費を勘案した結果です。 また産地市場においても、流通業者はこれまで漁獲されてきた魚種の取引を目的としているため、思わぬ魚種が水揚げされても当該地域では需要がないか、加工できず生鮮で販売せざるを得ない魚として安値で取引されるなど、漁業経営にも悪影響を与えています。さらに、地元で多く水揚げされる漁獲物の加工に特化している水産加工業者は、従来と異なる漁獲物には対応できず、原料の確保が困難になる可能性があります。 地域で盛んな漁業種類は、地域で古くから漁獲される魚を利用してきた結果であり、また、漁業者の知る漁場特性もこれまでの経験から得たものであるので、温暖化で別の魚種の資源が増えても、漁業者は思うように漁獲できなくなります。このため、環境の変化による魚種の変化は、地域の漁業経営に対して大きな影響を与えるものと考えられます。

(気候変動がもたらす影響への対応) 気候変動による水産業への影響は、海洋環境の変化に伴い生物の生息・回遊場所が変わることで発生します。特に回遊性の魚種の場合は、海水温の変動により漁場の場所や時期が変化することから、過去の経験や知識だけでは漁場の探索等に支障を来していくことになると考えられます。このため、出漁に際しては最新の海水温情報や直近の漁況等の漁海況情報も取り入れた漁場の探索が必要になるものと考えられます。現在では各種機関が漁海況情報を提供していることから、長年培った知見だけでなく、これらの情報も勘案して漁場を的確に把握していくことが重要です。

•北海道日本海側でのブリの漁獲量が近年増加するとともに網走でも水揚げ

•我が国沿岸へのサンマの南下が遅れ、漁期が短縮

•産卵期が長期化し、体力が消耗して身が大きくならず

•クロマグロの来遊がまれである北海道東部太平洋のごく沿岸に設置されたサケマス定置網においてクロマグロを水揚げ

表Ⅱ-2-1 海水温の上昇によるとみ       られる漁業の異変事例       (平成25(2013)年)

資料:(独)水産総合研究センター資料に基づき水産庁で作成 資料:北海道庁「北海道水産現勢」に基づき水産庁で作成

ブ   リ

クロマグロ

サ ン マ

カ   キ

図Ⅱ-2-2 北海道でのブリの漁獲量の       推移

8,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,000

0

トン

平成15(2003)

24(2012)

23(2011)

22(2010)

21(2009)

20(2008)

19(2007)

18(2006)

17(2005)

16(2004)

306 671

3,428

1,329

2,242

5771,1652,166

7,1407,182

Page 3: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

77

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き

第1部

第Ⅱ章

 また、養殖業においては、過密養殖等の無理な飼育を避け漁場環境を清浄に保つことで個体の健康を維持し抵抗力をつけるとともに、育種により高水温に強い系統を作出し、既存の漁場で引き続き養殖ができるようにすることが重要です。

イ 漁場環境の変化と復旧(藻場・干潟等の消失による水産資源への影響) 藻場は、繁茂した海藻が水中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、産卵場所や幼生の隠れ家を提供し、植食性の水産動物やこれらを餌とする水産動物の餌場となるなど、水産資源の増殖に大きな役割を果たしています。また、干潟は、二枚貝等泥中に住む水産動物の生育の場を提供するほか、海域の水質浄化や陸域から流入する栄養塩濃度の急激な変動を抑える緩衝地帯として重要な役割を果たしています。しかし、このような藻場や干潟は磯焼けや沿岸域の開発により面積を縮小しています。 磯焼けの原因は、海流の変化、特定の栄養塩の不足、植食性動物(ウニ、アイゴ等)による過剰な食害等様々な説が出されています。また異常な海水温の上昇や集中豪雨による泥水の流入による影響も指摘されています。 また、干潟は陸上に近接しているため埋め立てしやすいことから、多くの干潟が埋め立てにより消失しました。現存する干潟においても、陸上からの砂や栄養塩の供給の低下等の環境変化等による生産力の低下が続いており、各地でアサリ等干潟に生息する二枚貝の生産量の減少がみられています。 我が国の漁業生産量の減少は、このような藻場・干潟の減少も原因の一つであるとの認識から、漁業関係者、研究機関、地域住民等の連携により、藻場や干潟の再生に向けた取組が各地でみられるようになってきました。このため、国では「磯焼け」や干潟の消失への対応策をまとめた「磯焼け対策ガイドライン」及び「干潟生産力改善のためのガイドライン」を作成するとともに、漁業者や地域住民等が行う藻場・干潟等の保全活動を支援しています。さらに、磯焼けの原因の一つとも指摘されている植食性動物を食材として積極的に活用することにより、藻場の保全と地域振興を両立させようとする動きもみられます。

気候変動に適応した漁業をめざして((独)海洋研究開発機構ほか)

 気候変動により水産業は様々な影響を受けていますが、これに対応するためには気候変動等に伴って変

化していく水産資源の分布や回遊域を正確に把握し、これまでと違う場所で形成されていると予想される

漁場を的確に探し当てることが重要となっています。

 (独)海洋研究開発機構は関連の大学・研究機関と連携し、文部科学省が実施している気候変動への適応

研究*1の一環として、気候変動に伴う水産資源及び海況変動の適応策の立案に必要な環境シミュレーシ

ョンと、それをアカイカに応用した漁場探索技術及び水産資源変動推定の手法の開発に取り組んでいます。

 現在では、三陸沖で操業するいか釣り漁船の協力の下、計算上予想された漁場における漁獲量のデータ

を収集し、漁場予測技術の改善と実用化を進めています。

事 例

*1 気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)

Page 4: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

78

第1部

第Ⅱ章

(内水面における水産資源の増殖と漁場管理) 河川や湖沼等の内水面は、多様な淡水魚介類を対象とした漁業生産の場であるだけでなく、遊漁を始めとするレクリエーションを通じて国民が憩い、自然とふれあう場としても重要です。内水面は、海面と比べて面積が小さく有用魚種の資源量も少ないこと等から、内水面において漁業権(第5種共同漁業権)の免許を受けた内水面漁業協同組合等には、漁業法により水産動植物の増殖義務が課せられています。内水面漁業協同組合等は、釣り人から納付される遊漁料や組合員から納付される漁業権行使料等を用いて、漁業権対象魚種の放流や漁場の管理を行い、内水面の水産資源の維持増大と遊漁を含めた利用との両立を図っています。

(種苗放流による資源造成の推進) 多くの水産動物は、ふ化直後の幼生の段階でその多くが捕食されるため、産卵量は多いも

 豊かな干潟を取り戻すための活動が各地で活発化しています。

 大分県宇佐市の北に広がる豊前海では、広大な干潟や浅場を活かしたカレイ類、スズキ、エビ類、ガザ

ミ及びアサリ等の魚介類を対象とした漁業が行われています

が、近年、様々な原因により干潟域の環境が変化し、アサリ

を始めとした漁獲量が減少しています。このことに危機感を

もった地元の漁師達は、平成21(2009)年に「宇佐干潟保

全の会」を結成し、干潟機能の改善を目指し、柳ヶ浦・長洲・

和間の3地区で、干潟の耕うん、二枚貝を捕食するナルトビ

エイの駆除及びアサリの放流等を行っています。その結果、

アサリ稚貝の発生や資源量が増加する場所が現れるなど一定

の効果がみられています。平成25(2013)年度からは国の

「水産多面的機能発揮対策事業」による支援を受け、豊かな

干潟を取り戻すための取組を一層加速させる方針です。アサリへのナルトビエイの食害を防ぐための被覆ネットの敷設。

少雨によるとみられるアユの減少(淀川水系)

 平成25(2013)年に大阪湾から淀川大おお

堰ぜき

を経て淀川水系に遡そ

上じょう

するアユの数が、約163万匹であっ

た前年の2%弱に当たる約3万匹にまで激減したことが分かりました。明確な原因は不明ですが、春の少

雨が遡そ

上じょう

数減少の原因となっているとの指摘があります。アユの遡そ

上じょう

数と遡そ

上じょう

期の雨量との相関関係

は以前から経験則として認知されており、海に流れ込む淡水の量がアユの遡そ

上じょう

に何らかの影響を及ぼし

ている可能性があります。新淀川を遡そ

上じょう

できなかったアユは大川や堂島川等いわゆる旧淀川から遡そ

上じょう

た可能性もありますが、旧淀川には魚道が整備されていないため、上流への遡そ

上じょう

は限定的なものと考え

られます。産卵個体数の減少により、来年以降への更なる影響も危惧されています。

干潟機能の改善のための取組(大分県 宇佐干潟保全の会)事 例

コラム

Page 5: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

79

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き

第1部

第Ⅱ章

のの、成魚になる割合はごく少数です。このため、一定の大きさになるまで人間の保護下で生育させ、ある程度の大きさになってから放流すると成魚になる割合が大きく高まります。このことを利用し、水産資源を積極的に増大させる取組が各地で行われています。放流された水産動物は、自然の中で成長し、漁獲の対象となることで漁業者の経営の安定に貢献しますが、遊漁の対象となったり、種の多様性を維持するのに貢献するなど、その効果の受益者は漁業者だけではなく、国民や生態系全体が受けています。 種苗放流は、(独)水産総合研究センターや都道府県が中心となって実施されており、漁獲需要が大きい魚種や、成長が遅く養殖に適さない魚種を中心に、対象種は約80種に及びます

(表Ⅱ−2−2、図Ⅱ−2−3)。 水産生物に境界はないので、遊泳力が強い魚種ほど自由に回遊し、その分布域を広げていきます。このため、このような魚種は放流した地域の漁業者が恩恵を受けにくくなる問題があります。したがって、広域的に回遊する種については、関係者が所属する組織を超えて連携して事業に取り組むことが必要です。このため、全国の6海域に「海域栽培漁業推進協議会」が設立されており、広域種についての資源造成型栽培漁業や関係都道府県が連携した種苗の生産・放流体制の構築等が進められています。

表Ⅱ-2-2 種苗放流の主な対象種・放流尾数(単位:万尾・万個)

10年度(1998)

平成5年度(1993)

昭和63年度(1988)

15年度(2003)

20年度(2008)

21年度(2009)

22年度(2010)

23年度(2011)

ア ワ ビ 類 2,058 2,391 2,805 2,681 2,414 2,470 2,318 1,362 地先種 ウ ニ 類 2,005 7,152 8,141 7,958 6,781 6,618 7,066 5,799 ホタテガイ 302,797 312,377 275,529 304,286 326,668 326,369 318,334 318,095 マ ダ イ 1,737 2,061 2,285 1,976 1,402 1,407 1,424 1,223 広域種 ヒ ラ メ 887 1,947 2,628 2,544 2364 2,191 1,994 1,589 クルマエビ 32,396 30,424 22,513 15,326 10,519 10,727 10,634 10,795 205,000 205,300 186,800 181,700 180,900 185,200 119,900 165,200サ   ケ

資料:水産庁、(独)水産総合研究センター、(公社)全国豊かな海づくり推進協会「栽培漁業種苗生産、入手・放流実績」注:東日本大震災の影響により放流尾数が不詳のため、サケの平成22(2010)年度は本州太平洋側県分を含んでいない。

図Ⅱ-2-3 地域ごとの主要放流対象種

マダイ神奈川、千葉

トラフグ静岡、愛知、三重

ヒラメ青森、岩手、宮城、福島、茨城

マツカワ北海道、青森、岩手、福島、宮城

マダラ北海道、青森

ヒラメ北海道、青森、秋田、山形、新潟、富山

クルマエビ山口、福岡、大分

マダイ・ヒラメ熊本、鹿児島

カサゴ宮崎、大分

サワラ大阪、兵庫、岡山、香川、広島、愛媛、和歌山、徳島

トラフグ山口、愛媛、大分、福岡

ヒラメ石川、福井、京都、兵庫、鳥取、島根、山口

マダラ新潟、富山、石川

オニオコゼ等大阪、兵庫、和歌山、香川

Page 6: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

80

第1部

第Ⅱ章

(2)野生生物等による漁業被害

(海面における漁業被害と対応) 近年、主に北海道周辺でトド、アザラシ類等による漁獲物の食害や漁具の破損等の被害が発生しています。北海道が行った聞き取り調査の結果では、平成24(2012)年度に道内で発生した海獣類(トド、アザラシ類及びオットセイ)による漁業被害の総額は23億円で、このうち、トドによるものが約16億円とされています(表Ⅱ−2−3)。 このほか、有明海等ではナルトビエイによる二枚貝の食害、北海道等ではザラボヤ*1による養殖ホタテガイの被害等が依然として続いています。 一方、底びき網漁業や定置網漁業等に被害をもたらす大型クラゲは、平成22(2010)年以降、我が国周辺での大規模な出現はみられていませんが、依然として東シナ海等において出現が確認されている状況にあります。 このような広域に発生し漁業被害をもたらす生物について、国では出現状況把握及び漁業関係者への情報提供、漁業関係者が取り組む駆除活動、これらの生物による混獲及び漁具破損を回避するための改良漁具の導入、またトドについては、漁業被害の軽減及び防止を図るための効果的な追い払い手法や強化刺し網の実証試験等の被害防止対策への支援を行っています(図Ⅱ−2−4)。

33回目を迎えた全国豊かな海づくり大会

 水産資源の回復のため、漁業関係者はふ化放流事業を中

心とする栽培漁業や海岸域等の清掃、魚うお

つき保ほ

安あん

林りん

の保護

を始めとした様々な取組を行い、内水面も含めた水産資源

の維持・培養を図るための活動を実施しています。全国豊

かな海づくり大会は、このような活動の大切さを広く国民

に訴え、つくり育てる漁業の推進を通じて我が国水産業の

振興と発展を図ることを目的として、天皇皇后両陛下御臨

席の下、昭和56(1981)年から毎年開催されています。

平成25(2013)年には「育もう 生命かがやく 故郷の

海」をテーマに熊本県で開催され、平成26(2014)年は

第34回大会が「ゆたかなる 森がはぐくむ 川と海」を

テーマに奈良県で開催される予定です。

ヒラメやカサゴの稚魚をご放流になる天皇皇后両陛下。(写真提供:熊本県)

*1 ノルウェーから地中海が原産域とされる単体性のホヤ。

コラム

Page 7: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

81

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き

第1部

第Ⅱ章

(内水面における生態系や漁業への被害) 我が国の湖沼や河川では、遊漁目的での放流や、飼育ができなくなって捨てられるなどの理由により、地域により外来魚が多く生息するようになりました(表Ⅱ−2−4)。この中には、オオクチバス(ブラックバス)やブルーギル等魚食性が強いものも多く、在来魚の生息を脅かしており、固有の生態系が破壊されかねない状況になっています。このため、国では「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律*1」に基づきオオクチバス等魚類13種類やウチダザリガニ等水生無脊椎動物8種類等を特定外来生物に指定し、これらを許可無く飼ったり、輸入、譲渡、放流等をした場合には、懲役刑又は罰金刑に処されることとされています。また、水産庁では「健全な内水面生態系復元等推進事業」により、漁業協同組合等が行うこれら生物の駆除等の取組を支援しています。 また、1980年代頃からカワウの個体数が増えるとともに分布域が拡大し、その食害が問題視されるようになりました。このため、水産庁では「健全な内水面生態系復元等推進事業」により、漁業協同組合等が行うカワウの駆除や追い払い等の取組を支援しています。また、カワウは広い範囲を移動するため、その対策については、一つの都道府県による取組では限界があります。このため、地域ごとに都道府県が集まり、関東カワウ広域協議会及び中部近畿カワウ広域協議会が設立され、広域指針の作成をするなどの広域的な取組が進められています。 さらに、琵琶湖では、南米原産の水草であるオオバナミズキンバイが異常繁殖したため、鮒寿司の原料として重要なニゴロブナが産卵場所まで到達できず、資源量が減少するおそれがあります。

*1 平成16(2004)年法律第78号

表Ⅱ-2-3 トドによる漁業被害額(単位:百万円)

平成20年度(2008)

21年度(2009)

22年度(2010)

23年度(2011)

24年度(2012)

1,386 1,354 1,608 1,498 1,612 資料:北海道庁調べ

図Ⅱ-2-4 強化刺し網の構造

資料:(独)水産総合研究センター「水産技術第6巻第1号」

身網:通常の刺網

浮子綱

強化網外網 沈子綱

Page 8: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

82

第1部

第Ⅱ章

(3)実効ある資源管理のための取組

(我が国の沿岸・沖合における漁業関係法令違反等の取締り) 実効ある資源管理のためには、実効ある取締活動が不可欠です。我が国では、海上保安官及び警察官と共に、水産庁職員等から任命される漁業監督官や都道府県職員から任命される漁業監督吏員が任務に当たっています。これと並行して、各地の漁業者も漁業協同組合を中心として漁場の監視や通報等の密漁防止活動を行っています。 さらに、我が国周辺水域における沖合漁業と沿岸漁業の漁業調整の円滑化のため、必要な漁船に衛星船位測定送信機(Vessel Monitoring System(VMS))の設置を義務付け、漁船の位置を確認できるようにして、漁業取締りの効率化を図っています。 水産庁が各都道府県を通じてとりまとめた調査結果によると、平成24(2012)年における全国の海上保安部、警察署及び都道府県における漁業関係法令違反の検挙件数は、1,850件(うち海面1,720件、内水面130件)となっています。 特に磯根資源*1は高価である一方、容易に採捕できることから犯罪組織が資金源として密漁を行う事件が多発しています。なかでも、東日本大震災による被害を受けた地域において、地元の監視の目が緩んでいる隙を狙った磯根資源等の密漁が多発しています。この地域の磯根資源は、震災後の地域経済の復旧・復興上特に重要であり、特に厳しい取締活動が必要です。

アメリカナマズ アメリカナマズ チャネルキャットフィッシュ(アメリカナマズ) カワカマス カワカマス ノーザンパイク マスキーパイク カダヤシ カダヤシ カダヤシ ブルーギル ブルーギル サンフィッシュ オオクチバス コクチバス(ブラックバス) オオクチバス(ブラックバス) モロネ モロネ ストライプトバス(シマスズキ) ホワイトバス ペルカ ペルカ ヨーロピアンパーチ ザンダー パイクパーチ(ザンダー) ケツギョ ケツギョ ケツギョ コウライケツギョ(ソガリ、斑ケツギョ) ザリガニ アスタクス アスタクス属の全種 パキファスタクス ウチダザリガニ(タンカイザリガニを含む) アメリカザリガニ オルコネクテス ラスティークレイフィッシュ ミナミザリガニ ケラクス ケラクス属の全種 モクズガニ モクズガニ モクズガニを除く、モクズガニ属の全種 イガイ カワヒバリガイ カワヒバリガイ属の全種 カワホトトギス ドレイセナ カワホトトギスガイ(ゼブラガイ) クワッガガイ

表Ⅱ-2-4 我が国の特定外来生物(魚類・甲殻類・貝類)

科 名 属 名 名    称

魚 類(13種類)

甲殻類(5種類)

貝 類(3種類) 資料:環境省「特定外来生物等一

覧」に基づき水産庁で作成

*1 磯に根付いて生活する水産資源のこと。ウニ、アワビ、サザエ、海藻類などがある。

Page 9: 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き - maff.go.jp...75 第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き 第1部 第Ⅱ章 (1)漁場環境の保全 ア 我が国周辺水域での気候変動と漁業への影響

83

第2節 我が国の漁場環境をめぐる動き

第1部

第Ⅱ章

(外国漁船の取締り) 韓国漁船、中国漁船及びロシア漁船は、それぞれ二国間協定に基づき、農林水産大臣が我が国排他的経済水域内での操業を許可していますが、特に韓国及び中国漁船による違法操業がみられます。 平成25(2013)年の水産庁による外国漁船の拿

捕ほ

件数は19件、立入検査数は118件、違法設置漁具(刺し網、カニかご等)の押収件数は21件です(図Ⅱ−2−5)。違反内容の内訳をみると無許可操業(6件)が最も多く、続いて操業日誌不実記載(5件)、漁獲量超過(2件)、漁具(光力)規制違反(2件)、操業日誌不記載(2件)、禁止海域内操業(1件)、操業水域違反(1件)、網目規制違反(1件)、許可証不備付(1件)、船倉図面等不保持(1件)となっています*1。また、海上保安庁による外国漁船の検挙件数は11隻となっており、違反の内容別にみると、「外国人漁業の規制に関する法律*2」違反が2隻(領海内違法操業)、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使に関する法律*3」違反が6隻(無許可操業)、漁業法違反(立入検査忌避)が3隻となっています。 外国漁船の中には、取締船に見つからないように浮標を付けずに漁具を設置したり、取締船の接近をできるだけ早く発見できるよう高性能のレーダーを搭載したりするなど、巧妙かつ悪質な違法操業を行っているものがあります。 外国漁船による違反操業は、我が国周辺水域における水産資源管理の障害になっているだけでなく、外国漁船の密漁漁具が我が国漁船の網に絡むなど我が国漁船の操業に直接的な被害ももたらしていることから、水産庁、海上保安庁等の関係機関が連携し、監視・取締りを強化しています。

図Ⅱ-2-5 水産庁による外国漁船の拿捕・立入検査等の件数の推移

資料:水産庁調べ

40

35

30

25

20

15

10

5

0

140

120

100

80

60

40

20

0平成21(2009)

22(2010)

23(2011)

25(2013)

24(2012)

拿捕及び漁具押収件数

立入検査件数

韓国漁船中国漁船台湾漁船漁具押収件数立入検査件数

拿捕件数

12

1719

12 11

19

13

1132

25

9

6

441

105

35 120

103 29

130

28

22 21

115 118

韓国はえ縄漁船の検査に臨む漁業監督官(長崎県五島列島西方沖)

だ ほ

*1 1件の拿だ

捕ほ

で複数の違反が摘発される場合があるため、拿だ

捕ほ

件数と一致しない。*2 昭和42(1967)年法律第60号*3 平成8(1996)年法律第76号