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第33回北海道マルチメディア理科教育研究協議会実施報告北理研マルチメディア研究委員会
代表 立命館慶祥高等学校 杉山剛英
1.はじめに
本研究会は、「わかる授業実現のため、新教材・素材を用いた実験・授業のあり方を実践研
究する」を研究主題としている。毎年2月にその成果を研修会の形で発表し、参加者にも実際
に体験してもらい、その普及を図っている。今回も全道各地から教員のみならず、大学教授、
教職を志す大学生の参加もあり熱気に溢れる1日となった。また学生時に参加し、教員となっ
て再び参加してこられた方もあり、つながり伝える事の重要さを改めて認識することとなった。
2.実施報告
(1)概要
主 管:北理研マルチメディア研究委員会
日 時:平成30年2月10日(土)9:20~16:10
場 所:立命館慶祥高等学校 参加者:107名
(2)研修内容
本研修会は、参加者の専門科目に関わりなく、全領域を研修することを旨としている。多く
の科目の知識が備わると、自分の専門科目につながり、より広い視野で学習指導が出来るよう
になるという共通認識の元に運営している。
①「蒸気圧・分圧に関する実験」
小林真奈美(函中部)、高橋さおり(岩内)
気体の性質は、センター・二次試験で頻出の分野です。グラフを伴う問題は、苦手な生徒
も多い ところです。そこで、新作実験を加えて合計10の実験で、圧力・蒸気圧・分圧を
実感し理解を深める実習を行います。特に、最後のメスシリンダーとエーテルを使った分圧
実験は、「おもしろ実験 ものづくり事典」の編著者としても有名な内村浩先生からも「化
学グランプリの題材にしたい」と絶賛を受けたものです。圧力計なしで実感できる分圧を体
験してください。百聞は一見に如かず。百見は一触に如かず。
②「フラスコ藻・藍色細菌の観察」
岩城里奈(慶祥)
オオカナダモを使った原形質流動の観察はなかなかうまくいかないこ
ともあります。そこで今 回は、シャジクモの仲間で生卵器がフラスコ状
の「フラスコ藻」を使って観察します。1列に並 んだ葉緑体と細胞内を
流れる果粒には目を奪われます。仕組みを理解することで、原形質流動の
向きや速さの違いも納得。細胞の大きさゆえに、原形質分離も一目瞭然
です。 フラスコ藻を育 てていると水槽に紐状に細胞が並んだシアノバクテ
リアが大発生したので、これも観察します。地球 上で最初に酸素を作
ったシアノバクテリアは、以前はラン藻類と呼ばれていたため藻類と混同され
て いましたが、現在は藍色細菌と言われ、
原核生物の光合成細菌です。藻類や植物と
同時に扱 うことで違いを明確にさせます。
③「コケの観察」
梶田頼子(鹿追)
コケ植物は、陸上に進出した最初の植物と考えられ、系統分類学的に重要な位置を占めて
います。身近なコケ植物の種を同定する事は難しいですが、観察自体は容易です。コケ植物
を観察すると、茎と葉を区別する事はできますが、維管束や根、気孔など、他の陸上植物に
はある器官が発達していない事がわかります。体のつくりは非常に原始的ですが、体が小さ
いことを生かし、上手く陸上生活に適応していることが実感できるはずです。
④「無機化学指令実験」
児玉紗也香(慶祥)、山形 慶(羽幌)
25種の薬品をプチボトルで用意します。無機化学で習った知識を総動員して指令をクリ
アしてください。銅イオンで深青色を作れ、水酸化亜鉛を作り濃NaOHで溶けるか、硫化
マンガンを作れ、サハラの砂に鉄分はあるか、3億年前の二酸化炭素を出せなど。授業では、
予め生徒に宿題としてプリントを渡しておきます。みんなでワ イワイガヤガヤ、正しい方
法を探っていくでしょう。知識を試すことは楽しいことです。
⑤「回転盤を使った転向力の実験」
佐藤 誠(札西)、武田幸大(穂別)
地球は自転しており、それに伴い転向力という見かけの力がはたら
いています。この力は、 貿易風の進行方向や海流の流れ、あるいはミ
サイルの軌道にまで影響しています。地学基礎 では発展的な内容です
が、大気や海洋の循環を正しく理解するためには、必要不可欠の概念
です。回転盤に非弾性ボールを転がし、その軌道を観察することで、転
向力について知識だ けでなく、視覚的な考察をすることができます。
⑥「ガウス加速器と位置エネルギー」
井原教博(札西)、松田淳二(慶祥)
ゆっくり近づいた鋼球が磁石に吸い寄せられた途端に、反対側の鋼球が勢いよく飛び出す。
教室で行えば、誰もがあっと驚く実験です。運動量の法則やエネルギー保存の法則をしっか
り理解しなおすのに最適な教材です。最近はやりのアクティブラーニング形式などやらなく
とも、あっという間に脳が活性化されます。オプションとして鋼球以外にビーズも用意しま
した。どうなるか予想してから皆で楽しく実験しましょう。
⑦「光と太陽電池を使った実験」
大畑真人(旭丘)、関原加奈(北海)
太陽電池を使った実験をまとめて紹介します。光源からの距離が2倍になると明るさは何
倍?緯度と太陽の入射量の関係は? H2Oは赤外線を吸収している? やってみれば一目瞭
然です。懐かしのアナログ光通信や光ピックアップのエレキギターの実験も行います。
⑧「世界経済と科学技術Ⅹ」
杉山剛英(慶祥)
スポーツも科学も、今や経済なしでは語れません。実例なしの授業では机上の学問となり、
世界で最も授業でやることは役に立たないと思っている日本の学生には響きません。「天才を
使いこなせ」「AIで世界制覇」「顧客を奪え」「GEからダイソンへ」「ゴミを都市油田に」「透
明テレビ」「行きたい大学がない」など、今と未来の話題をレクチャー。昨年の「Li全固体
電池」は各方面で報道され、EVの不可欠要素になっています。全固体の次は「Li空気電池」
です。
(3)アンケート結果
回収84枚、平均評価4.71(5点満点)
(4)感想
①分圧実験の奥深さにまいりました。混合気体のややこしい部分がすべて含まれて
いるのでおもしろいです。なんとなくでは、すまされない実験でした。
最後の実験では計算どおりでびっくりした。盛り沢山でたくさん勉強になった。
大学入試にもよく出される分圧・蒸気圧を理解するのに適した実験だと感じた。
②顕微鏡で観察しようと思ったことがなかったので、見ておどろきました。
1層で細胞が並ぶコツボゴケは美しく、観察しやすかった。
初めて顕微鏡でコケを観察した。葉緑体などよく見えた。
③構造がとても鮮明に見え、材料としての優秀さがよくわかった。
シアノバクテリアが美しかった。めずらしいものが見られた。
原形質流動、原形質分離、細胞が大きい分見やすい材料だと思いました。
④いろいろな反応を一度に見るので、楽しいですが、しっかり整理をしないとつ
いていくのに精一杯でした・・
分野外でしたが、ミッションという考え方から物質の性質を確認できるという
ところがとても興味深く、楽しめた実験でした。
あれを1時間でできちゃう指導ができるのが、すごいと思った。
味の素のグルタミン酸錯体は初めてだったが、家で構造を確認してみようと思
った。
本校の生徒にやらせるには2時間かかりそうですが、金属の反応はほぼ網羅で
きる内容で良かったと思います。
⑤太陽電池だけであんなにたくさんの実験ができると知って驚いた。
音と光の関係(電気も)を知る良い実験でした。
知らないものばかりでした。物理科に伝えます。
輪ゴムギターが面白かった
水による吸収の実験をもっと深く考えたいと思った
⑥転向力がよくわかり、南半球と北半球から気象(地学)についての理解が深ま
る実験でした。
理解のむずかしい転向力のモデル化として、重要な実験です。
ボールの投げ込みが意外と難しいことがわかった。
カメラでスロー撮影したものが、とてもキレイに動きが見えて素晴らしいと思
った。
⑦ 驚いた。そしてとても頭を使った。どこの学校にもある衝突球を使って、さ
らに考え、理解を深められる実験だと思った。
万有引力による位置エネルギーなどとからめて実践していきたい。
⑧なぜ学ぶのか、学んだことがどう活きるのかについて考えさせられた。
理科以外のものに目をつける、そういう視点が必要不可欠だと感じました。
あのような話が私自身も生徒にできたらと感じた。
毎年楽しみにしている。日本も国をあげて教育・研究にもっと力を入れるべきだといつも思
い知らされる。
⑨全体を通して
今回で2回目の参加でしたが、すべての実験に驚くばかりです。まだ教壇には
立っていませんが、ここで学んだことを活かしていきたいと思います。
今回の研究会も新しい発見がたくさんあり、充実した時間を過ごせました。
実験が盛りだくさんで実験をこなすので精一杯の部分があるので、もう少しゆ
っくりできれば良かった。やはり実験は大事だと感じました。
刺激を受けて自校に戻ることができる。自校に戻って早速活かせるものも多く
感謝いている。
3.おわりに
入試改革が迫っているが試験内容を見る限り、「二次試験をセンターに持ってきた」「大学で
学ぶ内容を思考力を試すという名目で出題」しているように見えてしまう。日本人は傾向と対
策が大好きなので、すぐにその対策問題集や参考書が出版され、結局は今までと大して変わら
ない状態になってしまうのではと私は危惧している。その予想を覆すためには、教員の基本能
力と教育技術の向上、大学側の選抜方法の研究と検証が必要である。しかし、予算削減しかさ
れない日本の教育界では負担ばかりが増して、未来と世界に通用する人材育成が出来なくなっ
てしまうのではないかと考えもする。だが、どんな世の中に変わろうと人間社会は信頼と向上
によって成り立っていることに違いはない。我々は教壇に立つ40年ほどの時間のうちに多く
の先達・仲間・生徒からも智恵と工夫を受け継いでいる。直接・関節に恩を受けているのであ
る。その恩は、受けた人に直接返すことはあまりない。受けた恩は返すのではなく、次の世代
に渡していくものである。渡すときには、自分の工夫と志が加わればなお良くなるであろう。
我々人間は『恩渡し』を受け、続く後輩に引き継いでいくことを繰り返している。日常の『恩
渡し』は読書であろうか。教員となったからには、いつかは自分の成果を1冊の本としてみた
いものである。手にした者は、2時間で著者の数十年の成果を得ることが出来る。人が賢くな
ったのは文字と本のお陰であり、それはこれからも変わらないであろう。AIがどんなに進化
しても、人間の先生に優るものはないと胸を張って言えるように精進しようではないか。
予 告
第34回北海道マルチメディア理科教育研究協議会
日 時:平成31年2月9日(土)9:20~16:15
場 所:立命館慶祥高等学校
連絡先:北理研マルチメディア研究委員会 代表
立命館慶祥高等学校 マイスター教諭 杉山剛英
各校への案内は11月中旬に送付予定。連絡先:[email protected]
(反応速度と反応次数、蜃気楼、、他)