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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 第1節 知識構成型ジグソー法の授業デザイン 第2節 小中学校での実践―「新しい学びプロジェクト」― 第3節 高校での実践―「県立高校学力向上基盤形成事業」― 写真 埼玉県立戸田翔陽高等学校での授業の様子

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザインcoref.u-tokyo.ac.jp/newcoref/wp-content/uploads/2012/03/H23houkoku_067... · における協調学習の授業づくりの成果と課題のまとめ及び協調学習を引き起こすためにデザインされ

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

第1節 知識構成型ジグソー法の授業デザイン

第2節 小中学校での実践―「新しい学びプロジェクト」―

第3節 高校での実践―「県立高校学力向上基盤形成事業」―

写真 埼玉県立戸田翔陽高等学校での授業の様子

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

本章では、「新しい学びプロジェクト」、「県立高校学力向上基盤形成事業」の2つの研究連携事業に

おいて、研究推進(委)員 とCoREFが協同で研究してきた協調学習を引き起こす授業のデザインにつ

いて報告する。第1節で2つの連携において授業づくりの基本的な枠組みとして採用している知識構成

型ジグソー法について概説した後、第2節では「新しい学びプロジェクト」研究推進員による小中学校

における協調学習の授業づくりの成果と課題のまとめ及び協調学習を引き起こすためにデザインされ

た知識構成型ジグソー法の教材のリストを紹介し、第3節では同じく「県立高校学力向上基盤形成事業」

研究推進委員による高校における知識構成型ジグソー法の教材のリストを紹介する。

私たちが知識構成型ジグソー法という枠組みに基づいてどのように協調的な学習を引き起こそうと

しているのか。その原理を実際に多様な年齢の子ども、教科で具体化したときどのようなデザインが

可能になるのか。協調学習実践に興味を持って下さっている先生方の授業デザインのヒントになれば

幸いである。

1.知識構成型ジグソー法の授業デザイン

(1)知識構成型ジグソー法が協調学習を引き起こす原理

協調的な学習そのものは教室の内外で自然に発生し得る。学校生活や職場、趣味の場等で、当面の

課題について考えの異なる誰かと相談することでひとまず納得いく答えを持つことができた、自分が

相手に何かを教えてあげる立場になったとき、相手のわからなさに真面目につき合っているうちに自

分の理解の方が深まった、こんな経験は誰にでもあるのではないか。学習科学研究では、幼稚園から

大人まで自然発生的な協調学習がうまく起きた事例を題材に、そこでの学習活動を分析してきた。そ

れらの研究成果 をもとに、協調学習がうまく起きる場にどんな特徴があるのかを抽出すると、次のよ

うなことが見えてくる。

(特徴1)参加者が共通して「答えを出したい問い」を持っている

(特徴2)問いへの答えを、一人ひとりが、少しずつ違う形で最初から持てる

(特徴3)一人ひとりのアイディアを交換し合う場がある、言い換えれば、みんな自分の言いたいこと

があって、それが言える

(特徴4)参加者は、いろいろなメンバーから出てくる多様なアイディアをまとめあげると「答えを出

したい問い」への答えに近づくはずだ、という期待を持っている

(特徴5)話し合いなどで多様なアイディアを統合すると、一人ひとり、自分にとって最初考えていた

のより確かだと感じられる答えに到達できる

(特徴6)到達した答えを発表し合って検討すると、自分なりに納得できる答えが得られる

(特徴7)納得してみると、次に何がわからないか、何を知りたいか、が見えてくる

この7つの特徴を備えた場を教室の中に作りだしてあげるための一つの仕掛けが、私たちが枠組みと

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研究推進を担当する教員を、 新しい学びプロジェクト」では研究推進員、「県立高校学力向上基盤形成事業」では研究推進

委員と呼称している。本報告書では、この二者を同時に示す場合、「研究推進(委)員」という表記を用いることとする。

学習科学における先行研究の知見をまとめたものとしては、佐伯胖監修、渡部信一編(2010)『「学び」の認知科学事典』大

修館書店、S.Vosniadou.ed.、 2008、 International Handbook of Research on Conceptual Change、 Routledgeなどが詳

しい。

平成23年度活動報告書 第2集

して採用している 知識構成型ジグソー法>である。学習者は問いに答えるのに必要な部品をいくつ

か、グループごとに担当して理解し、次に各部品担当者が一人ずつ集まって新しいグループを作りそ

こで部品を交換統合して答えを出す。この基本形で上記の特徴をどう作り出そうとしているか、活動

の流れを追いながら概説しよう。

知識構成型ジグソー法は、学習者に課題として共有された「解くべき問い」を中心とした授業デザ

インである(特徴1)。活動に入る前に、その課題に対する現在の考えを引き出すため、授業の早い段

階で「解くべき問い」について「今、どんな答えを思いつくか」を書いてもらう(特徴2)。何も教わっ

てない状態で何が書けるのか懸念されるかもしれないが、大抵はみな何か書く。また、もし「なにも

書かない」子どもがいたとしても、それは必ずしも何も考えを持っていないとは限らない。同時にこ

の活動には、課題の共有をより確かなものにする効果が見込めることも重要である。

次いで、子どもたちに、「資料」を分担して担当し、その内容を他人に説明できるよう理解すること

を求める。この活動を エキスパート活動>と呼んでいる。エキスパート活動では、「解くべき問い」

の解決に際して、各自が異なるカギを持っている状態を作る。これによって、問いの解決について、

一人ひとりに言いたいことがあり、また一人ひとりが何かを言える状況を準備する(特徴3)。

準備ができたら、それぞれのエキスパート活動を行った学習者がひとりずつ集まって新しいグルー

プを作り、今「資料」で準備した部品を出し合って組合せ、話し合って、はじめに共有した問いに答

えを出す。これを ジグソー活動>と呼ぶ。この活動は、ジグソーという名の通り 知識構成型ジグ

ソー法>の核である。グループのメンバーが、「資料の数だけ人が集まると、最初の問いに答えが出る」

という期待を共有しながら、エキスパート活動で学習した部品を出し合い、活用し合うことが活動の

ポイントとなる(特徴4)。

ここまでのプロセスがうまくいけば、ジグソー活動の過程での個々の学習者は、各自が課題遂行者

やモニター役をこなしつつ多様なアイディアを統合し、エキスパート活動で学習したことや授業前に

持っていた知識を修正して、より納得できる答えを作りだしていくことができる(特徴5)。もちろん、

これは必ずしも正解とは限らないが、授業前の考えよりも質が高くなっているし、この答えの質をさ

らに上げていく機会はまだたくさんある。

ジグソー活動の後、それぞれのジグソー活動グループから当面出てきた答えと、なぜそう考えたか、

を発表してもらう。この活動を クロストーク>と呼ぶ。クロストークでは、クラス全体で解が協調

的に吟味され、各自が自分なりに納得のいく答えを獲得する機会を保障しようとしている(特徴6)。

クロストークの活動そのものは一般的な教室での意見の発表と大差ないが、ここまでのプロセスを経

て一人ひとりが自分なりの考えを深めている場合、学習者個人の中で起こる出来事は一般的な発表と

ずいぶん異なるようである。実際に授業を行ってみると、クロストークの場では、周りの大人には「ほ

とんど同じ」に聞こえる各グループの発表内容に熱心に耳を傾け、「なるほど」などと話し合う生徒の

姿がしばしば見られる。同じ課題についての他者の多様な説明を聞くことで、自分の考えのもやもや

として言葉にならなかった部分の言語化が助けられたりしながら、考えが洗練されていく。

さらに、授業後に教師の周りに集まって新たな疑問をぶつけたり、グループで主題について発展的

な話し合いをしたりする様子も珍しくない。知識構成型ジグソー法による一連の活動は、次の学習へ

のきっかけを生む点でも有効に機能しうる(特徴7)。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

(2)知識構成型ジグソー法の授業をデザインする

以上、知識構成型ジグソー法を枠組みとして協調学習を引き起こす基本的な仕組みについて概観し

た。この枠組みに基づいて実際に授業をデザインする際にポイントとなるのはどのような点なのか。

これまでの教材開発の経験から分かってきたことを紹介したい。

① 授業の柱となる「答えを出してほしい課題」を設定する

知識構成型ジグソー法の授業をデザインする際に出発点となるのは、その授業のゴールとして、「こ

の課題に、このように(例えば「○○というキーワードを中心に」、「○○と●●の観点をおさえて」)

説明したり、表現できたりしてほしい」という視点を定めることである。知識構成型ジグソー法の学

習活動の柱になるのは、 参加者が共通して答えを出したい「解くべき問い」>の課題解決である。こ

の「解くべき問い」は、実際にはそれぞれの資料活動から学んだことを「組み合わせる」ジグソー活

動で取り組む課題ということになる。教材開発者の目線からすると、このジグソーの課題は、 授業の

最後に一人ひとりが自分の言葉で、ひとつのストーリーとして説明できるようになっていて欲しい「答

えを出してほしい課題」>になり、そこが授業づくりの出発点になるわけである。

もしこの問いが十分練られていない漠然とした問いであったとすれば、子どもたちが受け取る「解

くべき問い」が不明瞭になったり、問いのイメージがばらばらになり、その後の協調的な学習の妨げ

となってしまう。課題を伝える発問の精選も重要なポイントである。

「三大和歌集」を題材とした高校1年生の古典の授業を例にすると、教師は、三大和歌集の特徴を歌

集に収められた和歌の作風の違いから理解させることをねらい、「三大和歌集の特徴は何か」を「解く

べき問い」(=「答えを出してほしい課題」)として設定した。もしこの課題が「和歌の特徴を理解し、

日本の文化に親しむ」といった漠然としたものであったならば、学習者は何が「解くべき問い」かを

はっきりとイメージできないだろう。

またこの「答えを出してほしい課題」は、その授業における子どもたちの学びを測る軸にもなる。

課題に対する授業前後での子どもたちの答えの変化が、「子どもたちがその時間に学んだこと」を端的

に示すことになるからである。授業の前後で同じ課題に対する回答を書き留めておいてもらうことに

は、協調学習を引き起こすための仕組みとして、 課題の共有を助け>、 学習者が課題についての考え

を持つことを促し>、 一人ひとりの考えの変化を明らかにする>という3つの重要な側面での効果が見

込めると言える。

② 部品(エキスパート資料の題材)となる知識を決め、資料をつくる。

柱となる課題が決まったら、次はその課題に答えを出すためにどのような知識が必要かを考えるこ

とになる。それらの知識を組み合わせたり解体したりして、柱となる課題に答えを出すための部品と

なる知識(エキスパート資料の題材)>を決める。「三大和歌集」の授業では、エキスパート活動とし

て、『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』を担当する班に分かれ、各歌集の作風の特徴がよく表れ

ていると考えられる恋の歌2首について、「現代語訳を作る」、「述べられている心情を想像する」、「用

いられている表現技法とその効果を検討する」という活動を行った。違う歌集に収められた同じテー

マの歌を同じ方法で鑑賞することによって、後から各歌集の作風の違いに焦点をあてやすくなること

が資料設定のねらいである。

資料の難易度の設定について、すべての子どもがエキスパート活動中に自分のエキスパート資料を

100%理解する必要はない。ポイントは、どの子どもも資料からなんとなく自分の「言いたいこと」が

持てることである。ある程度「言いたいこと」を持っていれば、それが例え「ここが分からなかった」

70

平成23年度活動報告書 第2集

ということであっても、ジグソーグループで協調的な学習が引き起こされる契機となりうる。「三大和

歌集」でも、最も難解だった『新古今和歌集』の歌の解釈についてジグソーグループで議論が起こっ

たことが、課題に対するグループの説明を深化させるきっかけになった。また、ジグソーでストーリー

の全体像が見えてくることによって、個別の資料の理解が後から深まることもしばしば起こることで

ある。

このエキスパート資料を準備する時に最も重要なことは、それぞれの部品を合わせれば、柱となる

課題に答えが出せるかどうか>、逆に それぞれの部品を集めて初めて、課題についてあるストーリー

がはっきりと見えてくるかどうか>をしっかり確かめておくことである。場合によっては、資料に合

わせて課題やねらいを調整することもありうる。

③ 子どもの学習をシミュレートする

課題と資料が決まったら、「導入」「エキスパート活動」「ジグソー活動」「クロストーク」など、そ

れぞれの場面にどのくらいの時間を割り当てるか、どんな言葉かけをして、どんな作業をしてもらう

かなどを考えることになる。その際重要なのは、子どもにどのような認識を持ってその活動に取り組

んでほしいか、どのような発問、声かけをすればそれが子どもに伝わるかを意識することである。こ

れは課題や資料についても同様である。

ジグソー法を用いた授業を初めて試してみる場合なら、授業の最初に、柱となる課題を共有し、「そ

れぞれがエキスパートで勉強してくることは、この課題を解決するためのパーツになる(あわせて初

めて答えが出る)」ことを確認することや、エキスパート活動では「次のグループでこの資料について

知っているのは自分だけ」であるとともに、「問いに答えを出すのにみんなの担当部品が不可欠」であ

ることを意識させることはまずポイントになってくるだろう。

知識構成型のジグソー法は、協調学習を通じて一人ひとりが自分なりの道筋で考え、自分なりに理

解を深化させることを支援することを目的とした枠組みである。個別具体の子どもに焦点化して、こ

の発問にこの子ならどう考えるか、このグループではどんな相互作用を見せそうか、具体的にシミュ

レートしてみることはどのような授業形式においても有効な方法である。特に知識構成型ジグソー法

の枠組みを用いる場合、このようなシミュレーションを行うことによって、協調的な学習を引き起こ

すための授業デザインの洗練が可能になると同時に、シミュレーションした予想との比較から授業中

の子どもの学習の事実をより深くとらえ、その事実から学ぶことで授業デザインを省察し、継続的な

授業改善を行っていくことが期待できる。

2.小中学校での実践―「新しい学びプロジェクト」―

本節では、「新しい学びプロジェクト」で研究推進員が取り組んだ協調学習を引き起こす授業づくり

の成果物を紹介する。次ページ以降の第1項では、今年度研究推進員が教科ごとにまとめた知識構成

型ジグソー法を用いて協調学習を引き起こす授業づくりの成果と課題を収録した。続く第2項では、2

年間の研究連携において「新しい学びプロジェクト」研究推進員が作成した知識構成型ジグソー法を

用いた教材のリストを掲載する。

掲載した教材は、平成22年度開発分が国語4、数学3、理科4、社会3の計14教材、平成23年度開発分

が国語12、算数13、数学4、理科8、社会10の計47教材、総計61教材である。これ以外にも実践例はあ

るが、原則としてCoREFが直接あるいは映像で参観したもの、教材開発に携わったものを中心に、必

要なデータがそろっている教材を収録した。

71

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

なお、リストに収録されている教材の授業案、実施教材(エキスパート資料、ワークシート等)、実

践者の授業後コメントについては、本報告書付属のDVDに収録した。また、いくつかの教材では、実

際に授業で子どもが書いたものもあわせて収録している。

以下、教材リストの見方について説明する。

「教科・No」は本報告書における当該教材の識別番号である。「A」は「新しい学びプロジェクト」、

「S」は「県立高校学力向上基盤形成事業」の開発教材をそれぞれ表している。また、百の位の数字「1」

は「平成22年度」、「2」は「平成23年度」の開発教材を表しており、下2ケタは原則実践順を示す教科

ごとの年度内の通し番号である。

「教材作成者」は教材を作成した研究推進(委)員の作成当時の所属、氏名であり、学年、単元も実

践当時のものである。中には複数の学年、単元で実践された教材もあるが、ここではオリジナルの教

材作成者による最初の実践時のデータのみ記載している。

「テーマ」は、CoREFが設定したその教材のタイトルである。

「ジグソー課題」はその授業の中心となるジグソーグループで取り組む課題であり、「期待する回答

の要素」はその課題に対して授業の最後に出してほしい答えの要素である。

「エキスパートABC」とあるのは、「ジグソー課題」に答えを出すための部品であり、それぞれの

エキスパートグループがこの内容について分担して学んでくることになる。エキスパートの数は多く

の教材で3つだが、2つのものや4つのものも存在する。

「所感」の欄には、実際の授業の様子や子どもの記述、アンケート結果についてのCoREFの所感及

び実践者の授業後の振り返りコメントからの抜粋が含まれる。

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平成23年度活動報告書 第2集

(1)教科別授業づくりの成果と課題

平成23年度 新しい学びプロジェクト

「協調学習」研究の成果と課題【 国語科 】

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果>

○子どもたちの学習における成果

【聞き合う学びの習慣づくり】

・他の教科や日頃の生活でも「友達の考えを聞

いてみる」という習慣が生かされる。

・普段の授業でも「なぜ 」という疑問を持つ

ようになってきた。

・全員の参加を保障できる。主体的に参加させ

たいという願いに合っている。「ああそっか」「私

もこう思う」と自分の立場を持って参加できる。

認め合うことでさらに参加が促進される。

【協調による理解深化】

・伝える方も聞く方も伝える意識・聞く意識が

できてきている。共感的に聞ける。学習訓練じゃ

なくて、必要感から聞ける(←他の人の視点を

知らなくて、新鮮)。そういった場を保障するこ

とができている。

⇒子ども同士の言葉の方が聞きあえる。グルー

プなら同じ話を何回も繰り返す。それがいろん

な学習進度の子にも自分なりの納得のタイミン

グを与えている。

・普段の話とは違う知的なもの(教材)を媒介に

した話し合いを、小学校1年生でも求めている。

⇒逆に一斉の授業は、普段の話し合いのように

教材を媒介に話すことを難しくしている(「正解

を読み取らないと」)かもしれない。

○教員の教材研究等における成果

【教材の見方の変化】

・文学教材の見方が変わった。このテキストは

子どもたちの読みに耐えられるのか。一斉で授

業する時もその目線で考えるようになったの

で、普段授業で扱うテキストも精選するように

なった。

・説明文でも「説明文を教える」のではなく、「こ

れで何を学ばせるか」を考えるようになった。

⇒ジグソーで授業を作ってみると「これで何を

教えるか」をいつも意識できるようになる。

・読み解く⇒言語活動ではなく、言語活動を通

じた読み解き。

・教員も楽しく学べる。

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題>

●子どもたちの学習における課題

【協調活動のベース】

・活動に入る前に自分なりの考えを持つことが

大事。それがないと始まらない。

・相手の言葉を聴く力、自分の意見と比較する

力などの基礎が課題。

【話し合える教室づくり】

・自分の意見を通したいという子が議論をリー

ドしてしまい、自分の意見が採用されない不満

を持つ子がいる。

・多数決の考えで安易に流れるところがある。

これまでの学びの経験、学習組織づくりで「あ

の子が言うのが正しい」をつくってしまうと特

にそうなる。

⇒回数を重ねるごとにみんなの考えをみられる

ようになってくる。

●教員の教材研究等における課題

【学習支援の課題】

・子ども一人ひとりの学習(どのくらい変わっ

たか)をみとるのが難しい。

・授業中どこまで支援をしてよいか迷う。

・子どもたちを信用することが課題。

・板書をうまく使う方法を考えたい。

73

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【授業デザインの課題】

・クロストークをどうやっていくか。評価の形。

クロストークが課題到達に必要な共有化の場面

かと思うので充実させたい。

・エキスパート・ジグソーを通じて過度に抽象

化され、すっきりしすぎて面白くなくなってし

まうと盛り下がってしまう。

国語科における協調学習の授業づくり研究の展望>

◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント

課題設定>

【テキストの設定】

・多様な読みに耐えられるようなテキストを扱う。

・発達段階に応じて、小さい子どもだったら自

分の生活経験・既有知識に結び付けられるよう

なテキストでのジグソーが適切。

【課題設定の留意点】

・テキストに戻れるような課題設定。

・協調を起こすことと、文学の教材の読みを深

めることという目的を両立させるような課題。

・こちらが目を向けさせたいことに目を向けさ

せる課題。

・(特にエキスパートで)課題は具体的で取っつ

きやすいものがよさそう(比較など)。誰でもひ

とまず自分の考えを持てることが大事。

授業デザイン>

【学習の流れを作る】

・子どもの読みが過度に抽象化しないための工

夫として、1時間の授業というより流れで考える

必要がある。エキスパート⇒ジグソー⇒クロス

トークで終わりではなく、その知識を活用した

次の問いにつなげていく。

・次の授業で生徒に学習の成果がどう表れる

か。次の時間、次の課題で個人の理解をみるよ

うな授業の流れをつくってあげる必要がある。

⇒結局個人の理解の変容を見ること。それが話

し合いの中で深まった子どもの学習の評価。

【グルーピングの工夫】

・これまでの子どもたちの関係を踏まえて、そ

の子が自由に発言できて考えられるようなグ

ループの組み方をする必要がある。

⇒究極的にはランダムで組めるようにしたい。お

世話役をつくってしまわない方が子どもが学ぶ。

⇒恣意的にグループを組むにしろ、ランダムに

組むにしろ、「この子とこの子ならこういう学び

が起きそう」といった目で子どもを捉える、そ

れに即した支援ができることが重要。

【課題を伝える発問】

・シンプルにやってほしいことが伝わるような

発問の工夫。

◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫

・学校ぐるみ、複数の教科でやってみた場合、子どもたちの学び方の文化が形成され、いろんな場面

で学び合いが見られるだろう。

・「おさえておかないといけない」ことが多いとされる難しい教材で子どもたちが協調でどこまででき

るかやってみたい。

・どれぐらいエキスパートの足場を外せるか。ワークシートを簡素にしてみる。自由に子どもが答え

を出せるような環境をより工夫したい。

・最終的には一斉授業で協調的な学びを起こしたい。ジグソーはそのためにきたえているのかも。

・古典は教師主導型になりがちなので、実践をしてみたい。『平家物語』で「無常観とは 」など比べ

読みでやるとおもしろいかもしれない。

・他教科でやってみたい。国語のデザインにも新たな発見になりそう。

平成23年度活動報告書 第2集

74

平成23年度 新しい学びプロジェクト

「協調学習」研究の成果と課題【 算数・数学科 】

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果>

○子どもたちの学習における成果

【知識の定着と活用】

・自分たちで知識を構成することで、一斉で教

えるより残っていく。

・導入で協調学習を行えば全体像を理解して単

元の学習に取り組める。「この前やったときにも

出てきたね」という参照できる効果。次の学習

への意識のつながりが生まれる。

【主体的な学習の習慣形成】

・授業が終わったあとに子どもたちが議論を続

けている。協調学習のあとは特に活発に議論を

続けるが、協調学習を取り入れて以後、一斉授

業でもその姿がみられる。

・「話し合って考えが深まる」という意識自体が

他教科の学習に転移

・考えを交流して深まるという経験ができるこ

とがポイント。そこを大事にすると授業もつく

りやすくなる。

・子どもが責任感を持って授業に取り組める。

いい意味のプレッシャーで参加を保障できる。

【学力の高い子、低い子にそれぞれ効果がある】

・学力が低い子どもも参加の余地がある。「メイ

ンの課題を直接出されたらわからなくても、ヒ

ント(エキスパートの学習)があればなんとか

なる」。

・学力の高い子の場合、伝えることの難しさの

実感を通して、「どうやったら目の前のこの子に

うまく伝えられるか」を考えることで理解が深

まっていく。

【言語活動と理解深化の結びつき】

・言語活動の充実に効果がある。単純に話せる

だけでなく、理解を言葉にして伝えさせてみる

ことによって、もやもやしている理解をはっき

りさせられる。⇒言語活動と理解の力は結びつ

いている。

・担当してない資料の学習についての不安が言

われるが、結論を導く時には3つの知識がないと

できないので、ジグソーで課題の探究をすれば

授業後にはそれぞれ同じくらいの知識を得るの

ではないか。

【集団づくりへの効果】

・クラスが仲良くなるのは間違いない(変わっ

た子、課題のある子が受け入れられたりする)。

人に聞く習慣を育成できる。休み時間や総合の

時間、行事などでも話し合ったりして一緒にや

る感じ。

・「持ちよれば解決できる」、「持ちよらないと解

決できない」という意識の共有は、支持的文化

の基礎になる。

○教員の教材研究等における成果

【子どもの捉え直し】

・子どものよさを見られる。「こういう学び方も

あったんだ」ということを子どもから教えても

らえる。

・既習事項の理解の程度が見える。

【教材の捉え直し】

・教材デザインを視野広くできるようになっ

た。「やらなければいけないからジグソー法でや

る」から「子どもがどんな風に活動するか 」

「こんなことができるようになるのではない

か 」という視点で授業をデザインするように

なった。

・協調学習の課題設定をするにあたって、単元

全体の流れ、さらには次の学年の学習とのつな

がりを考えるチャンスになった。

【授業づくりのたのしさ】

・生徒全員が「たのしかった」、「またやってみた

い」という授業にしてみたいという意欲がわく。

・新しいやり方を軸に教師がたのしく教材研究

できる。板書、発問、など手順的に教材研究す

るのではなくて、課題の内容自体を深められる。

・授業を進める際、(その場で子どもの発言を

拾ったりできないからこそ)子どもの考えの価

値づけ意味づけをどのようにするかということ

を真剣に考える。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

75

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題>

●子どもたちの学習における課題

・学級経営のベース(男女関係等)も重要になる。

・資料の読み取りでどこが大事なのかわからな

い、伝えられない

⇒経験と慣れが必要。順序だった説明が難しい

場合、使う言葉を与えてみるのが効果的かもし

れない。

・式や図を言葉で説明するところのハードルが

高い。式、図、具体物操作の3つを関連づける

のが難しい。

・教員からみると探究が深まっていても、わか

らない時に満足感が低くなる。

⇒学習を教員が意味づけていくのも重要。

●教員の教材研究等における課題

・準備は大変。いかに教材をつくるか。

・子どもが実際どう活動しそうかをシミュレー

トするのが難しい。

・子どもたちの授業中の発言をよいタイミング

で拾いにくい。

・この取組を普及させていく上で、成果を評価

するスパンがドリルより長いので、納得しても

らいにくい。

⇒先生たちが自分なりに納得して実践できるよ

うな、成果の検証、発表が必要(評価基準)。特

に算数・数学では「1人で3種類やればいい」と

いう主張にどうこたえるか。

・受験勉強とのかねあい。

・年間指導計画のなかでの位置づけ。

教科における協調学習の授業づくり研究の展望>

◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント

課題設定>

【課題のレベル】

・学力が低い子が「自分も学ばなければ」とい

う風に思えるとともに、学力が高い子は「話し

合ってよくなる」という実感が得られる、その

両方を考えつつの課題のレベル設定をする必要

あり。

・課題に魅力があれば(少し難しいのが意欲を

喚起)子どもの活動はうまく進む。最終的にど

こへ持っていきたいのか、そこへ向かうために

この授業でどこまでいってほしいのかというイ

メージを持って、単元全体のデザインの中で課

題を設定する必要がある。

【組み合わせ型:3つの部品を持ち寄ってはじ

めて答えが出るパターン】

・ジグソー課題をみんなで解決することになる

のでエキスパートで責任感が出るし、ジグソー

で論議がおきやすく、一人ひとりが全体像を描

ける…導入での実践向け

・特に【組み合わせ型】のときは、エキスパー

ト資料を関連付けることを促すような課題の設

定、教員の支援が肝となる。

・研究授業はまとめの部分に設定しがちだが、

導入でやった事例で協調学習の意義が見えやす

かった。ただし、導入で協調学習をやってみよ

うというのは、学力の厳しい子にとって大変で

はないかなど初めての先生には抵抗ある。導入

の課題設定では既習事項とつなげてぎりぎりど

うにかできるところの見極めが大事。一通り

ルールを習った後、導入2時間目に協調というア

イディアもありそう。

【多思考型:課題への多様な考え方を持ち寄る

パターン】

・発展課題をメインとして、そのための考え方

をあらかじめさらっておくイメージ…発展や応

用での実践向け

⇒「発展の課題」と言われているところの探究

がメイン(「やってみる」がないとわくわくしな

い)であり、エキスパートはそれを考えるため

のヒントという発想。

・数学は「いろんな考え方があるよ」というパ

ターンがやりやすい。ただし、いろんな考え方

をエキスパートに設定するパターンは、 ジグ

ソーで取り組ませる課題>がカギで、そこがう

まくいかないと尻すぼみの授業になる。

平成23年度活動報告書 第2集

76

授業デザイン>

【ジグソーでの課題探究を中心としたデザイン】

・数学では、いろんな考え方をシェアして比較

検討することができればいいのではと感じる。

エキスパートして報告会して、というのが間延

びする。エキスパートをヒントとして、ジグソー

での課題探究中心のデザインができれば。むし

ろ報告会の部分はいらなくて、ジグソーの課題

を解くときにいろんな考え方を比較して「これ

で解ける こっちか 」などとなればよい。

・メインの課題は手応えがあるものにし、エキ

スパートはあくまでヒント。エキスパートをよ

くばらないことが大事。エキスパートでできな

かったことが、むしろ探究のきっかけになるこ

とも。

・ジグソーで「いま何の課題を探究しているの

か」というコンセンサスを持たせることがポイ

ント。

【単元全体を視野に入れた学習デザイン】

・同じ教材でも、単元のどこにいれるか(何を

ねらうか)で効果が変わりそう。

・45分1コマだけで考えると窮屈になる。前時で

見通しを持たせておくなど、広い視野で授業を

組み立てたい。勇気を持って2時間もあり。家庭

学習との連鎖も考えたい。

→1つの単元全体のデザインの中で、見通しを持っ

て協調学習の授業をデザインする必要がある。

【子どもの学習をシミュレートしておく】

・グループ編成を意図的にするかどうか。ラン

ダムの場合、難しい子が集まったら支援は必要

であるが、ふだん活躍できない子に活躍の場を

保障できる。要は「この3人だとどういうことが

起きそうか」を教員がイメージすることがカギ。

【エキスパート課題の設定】

・3つの資料のパーツのバランス(難易差)は、生

徒は授業者が懸念するほどには気にしていない。

・エキスパートの難易度の差の埋め方はいろい

ろ。隣のグループに聞いてみる、先生が支援す

るなど。

・エキスパートを設定するとき、課題の性質と

子どもが課題を解くときの実態的な困難(子ど

もが問いをどのように捉えるかなど)を踏まえ

ることも必要。

【クロストークの機能】

・クロストークでの共有を発表会形式でやる

と、たくさんの考えを交流するのが難しいので

エキスパートに戻して交流するのがいいのでは

ないかと考えている。⇔ジグソーのあとにどう

いう理解状態になっているかによる。あまりわ

かってない子が多ければ全体での共有の方がよ

さそう。

・あるいは全体でのクロストークのあと、子ど

もたち同士で話す時間をとるとよいのではない

か。モニターをしている子が話し手になれそう

なタイミングでグループに戻してやると、自分

なりの納得をつくることに貢献しそう。

・全体共有で「クラスで同じ方向に向かって探

究を進めている」という意識を持ちながら、自

分なりの探究を進めていくというということが

できればベスト。

◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫

・新傾向の入試問題などでも問われているのは知識量ではない。1つの題材に重点を置いて(他の単元

にも使えるような)ものごとの構造を把握しておくという目的のために使えれば。

・ジグソー法以外で協調学習を引き起こせる方法の提案(普及と関連して、他の方法も紹介できたほ

うがよい)

・普段の授業で取り組むことができる協調学習の方向性の模索

⇒グループを組みかえて議論を交流という形は日々の授業でも取り入れられる。

・6年間の学習のなかで、協調学習の効果を考えたい。学習意欲の喚起、学習環境、知識理解の系統制

などを考慮しつつ、各学年の実態に応じた授業のデザインを模索する必要。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

77

平成23年度 新しい学びプロジェクト

「協調学習」研究の成果と課題【 社会科 】

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果>

○子どもたちの学習における成果

【学習への満足感】

・話す場、参加したという充実感、達成感がある。

特に普段あまり話さない子どもについて顕著。

・エキスパート→ジグソーの組み換えで視点を

変えて飽きがこない。子どもがやる気を出す。

【知識の定着・活用】

・「仲間に聞いた」という形で知識を得ること、

語句を使う機会がたくさん作れることによっ

て、知識の定着に効果的。

・学習したことの核となる視点が定着し、次の

学習に活かされている。例えば、3つの視点から

見るという考え方は朝鮮侵略、日清戦争でも同

じ。自力解決の手段を学べる。同様に、米づく

りの授業では、続く漁業等の単元でも「高齢化」

などのキーワードを子どもが覚えていた。「米の

ときもそうだった」という声が出た。

【記述型問題での効果】

・資料がいくつか提示されていて「あなたの考

えは 」というタイプの問題について、複数の

資料を統合して答えを出せる。また、米づくり

の授業の後のテストでは、「食糧生産を今後どう

すればいいか 」という問いに、「耕地面積」、

「働く人」などのいろんな視点が、ジグソーを

やってない例年の子どもと比べて多くでてき

た。

・次につながる学び。たとえば、「説明せよ」と

いう問題に考えてこたえられる子が増えた。

【学び合う関係づくり】

・男女関係が微妙な中学生でも、「だれだれ君の

意見がよかった」などお互いに評価できて認め

あえるようになってきた。

○教員の教材研究等における成果

・子ども中心の授業を組織するためのすごく大

事な技だと思う。

・こういう方法があると、「言語活動の充実」と

いった新しい目標にも安心して取り組める。

・教材研究を深められる。扱おうとする問題へ

の視野が広がる。教材内容の要素を分類しよう

というくせがついた。

・学級経営にも有効に作用する。

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題>

●子どもたちの学習における課題

【資料読解】

・資料からポイントになるようなことを自分の

言葉で抽象化できるかが鍵となる。資料を読む、

話を聞いて「こういうことね」を引き出すには

どうすればよいか。線の引き方、メモの取り方、

要約のしかたなど「文章の読み方」を教える必

要があるかも。

・グラフや年表から考える、読みとって自分の

言葉で伝えるということをしてほしい。必要な

情報とそうでない情報の振りわけ。

【話し合える教室づくり】

・「わからない」の表明をできるような習慣をつ

くりたい。ある程度話し合いをパターン化して

やるという支援も必要か。

・授業規律(先生との約束が守れる、話がきけ

る)がないと難しい。日々の学級指導が効いて

くる。雰囲気のよくない子ども同士をグループ

にすると大変。

(⇔ただしジグソーの経験を重ねることで学級

の雰囲気がよくなる側面も)

78

平成23年度活動報告書 第2集

●教員の教材研究等における課題

【資料の妥当性の検証】

・資料づくりの妥当性を検討する仕組みがほし

い(偏っていないか、その学年でどこまで教え

るか。

【授業の見通しを持っておく】

・子どもの学習への不安をどう取り去るか。「話

し合って答えが出れば(自分が完ぺきでなくて

も)よい」という自覚(=授業の着地点が見え

る)をどう持たせられるか。1つの正解を出した

い(出してほしい)という意識と活動の兼ね合

い。

・落とし所(授業のゴール)をどう意識させる

か。教師が落とし所に迷っていると、子どもに

もそれが伝わる。「何をわかってほしいか」を絞

る。

【年間指導計画での位置づけ】

・年間計画のなかに位置づけられて、普段の授

業のかかわりで見通しを持って準備できるとよ

い。

・実践者としてというより、周りの教員へ協調

学習を普及させる上での課題として、普段の授

業の中でできるイメージをどう持ってもらえる

か。子どもの学びがうまくいった授業を見ても

らう。

教科における協調学習の授業づくり研究の展望>

◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント

課題設定>

【課題設定の方法】

・「3つの資料を組み合わせないと答えが出な

い」ということを意識して資料をつくる必要が

ある。そうでないと議論がかみ合わない。その

ような資料を作るためには、教材内容の構造を

教員が把握して各資料間の対立など比較のポイ

ントを資料に組み込んでおくことが必要。要素

を箇条書きしてそれを膨らますというような手

順で資料を作成するのも一案。

・どの辺の子を対象にすればよいかという具体

的なイメージができると課題が設定できる。

・この課題は「ジグソーで学ぶのが効果的だ」

ということを意識して課題を設定したい。

【社会科のジグソー法で扱いやすい課題】

・「多面的に考えて答えを導く」というタイプの

課題は社会のねらいとよく合う。

・単元末発展でのオープンエンドな課題はやり

やすい。逆に「なぜ 」の問いは子どもが誤解

して終わったり、偏った結論を出したりする懸

念がある。

・子どもが一斉授業のときにも疑問を持つこと

が課題になりうる(子どもが知りたいこと、わ

からないこと)⇒鎌倉幕府はなぜ鎌倉 伊能忠

敬はなぜ詳細な地図を作ったの など具体的で

子どもたちが探究したい課題

・元寇、朝鮮侵略、日清戦争など歴史的構造を

とらえるビッグアイディアの様なものが使える

ところ。学び方を学ぶ方法として役立つのでは

ないか。

・生活と結びつく(日常やっていることと、教

科内容の比較検討ができるような)課題。

授業デザイン>

【授業デザインのタイプ】

・普段使いのジグソー(日々の疑問に即して簡

単な資料を用意する、先行実践、教科書の内容

などを使う)とより大規模なジグソー(主に単

元の導入や発展として大きな効果を狙う)と2種

類ありそう。

・50分でかっちりおさめるタイプのデザイン

と、資料をゆっくり読み込んで2時間使うタイプ

のデザインがありそう。

【子どもの活動を活かすための支援】

・教師があまり口出すとよくないという認識が

あったが、エキスパート→ジグソーに入ってか

79

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

らの発問など、停滞しているときのアドバイス

の緻密なイメージを持っておかないといけない

だろう。個々の子どもがどういう活動をしそう

かを想定しておく必要がある。(その想定との差

異で教材のとらえ直しにもなる)

・教師が教えるというより、グループ内で学習

をつなぐようなかたちの支援が重要。子どもの

発言を拾って他のグループとつなぐなどの支援

を重ねて、子どもたち自身が拾いあえるように

なるようなサポート。子どもの「わかったこと」

や「感想」を次時に子どもに返すのも有効な支

援になりそう。

・子どもたちのあらかじめの権力関係をどう壊

すか。「できる子の考えが絶対的に正しいわけで

もない」と気づくような支援。「核になる子」が

相互作用を促進する動きができるか、ひとりで

進めてしまうかがグループの学習の分かれ目に

なりそう。

・子どもの事前の予想と学んだことの比較とい

うところまでいきたい。「あ、違うぞ」と気づい

てくれれば。

◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫

・地域理解、たとえば「和歌山が果樹生産高1位な理由」、「棚田と普通の水田の違い」などやってみた

い。

・協調的な学びのあり方にとにかく慣れさせる。「教科書を3つに分けて説明しあう」といった手軽に

できるもので、「ジグソーっぽい」活動を経験させる、ゲーム的なジグソーを組んでみるなどで生徒の

抵抗感を減らす必要があるかもしれない。

・教材の共有。ジグソーっぽい授業を重ねる。回数を重ねると支援のポイントも見えてくる。他の先

生が「やれそうだな」と思うような教材ができるといい。やってみた後でもいいので「このぐらいで

こういうことしました」という共有があると「やってみよう」と思うかもしれない。

・課題だけ、素材だけを出してみて教材を作りあうというような検討ができてもよい。

・エキスパートを調べ学習でやって、持ち寄って答えが出るパターンにもチャレンジしたい、「与えら

れた資料を読むだけ」という批判にも応えられる。

・資料の難易度の感覚、「このくらいの生徒にとってこのくらいの分量と内容の資料が適当」というイ

メージを持ちたい。

・他の先生の授業を見たりして、具体的な子どもを想定して資料をつくって何度か実践をして調整し

ていくとよいか

・教材を公開、共有する際のチェックシステム(引用したデータの妥当性の確認など)があるとよい

かもしれない。

80

平成23年度活動報告書 第2集

平成23年度 新しい学びプロジェクト

「協調学習」研究の成果と課題【 理科 】

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果>

○子どもたちの学習における成果

【知識理解・定着】

・記憶の保持がよい。ジグソーの授業の4カ月後

に「理由を説明せよ」という形で同じ課題を出

してみたら、すごく細かいところまで残ってい

て驚いた。教科書にのってない内容だし、テス

ト勉強として特別な指導はしてないのに。授業

自体は若干低調だったので、驚きも倍。

・話しながら知識を組み替えていくので、断片

的でなく、記憶に残っていく。

・自分の言葉で説明しながら理解を深めていく

ので、記憶に残りやすい。

・自分で扱えるモデルを準備すると、試行錯誤

しながら考えることができ、さらに理解したこ

とが具体化されるため、より定着しやすい。

・ジグソー法を用いた授業を数時間連続でした

際、知識を積み上げながら、新しい知識を獲得

することができ、そのことがより意欲的に自分

の考えを伝えていこうとする積極性に結びつい

ていた。

・単元の導入でジグソー法を使うと、その後の

授業の子どもの興味や関心の度合いが高くな

り、理解を深めることができる。

【伝えあい聞き合う関係づくり】

・伝え合う、学び合うしかけがあるので、子ど

もの表現力が高まった。

・自分で伝えるという活動をくりかえすと自尊

感情が高まる。その次に人の意見をきくように

なるので、お互いの関係性がよくなって学習の

基盤、学校生活の基盤ができる。

⇒生徒指導の面でも効果がありそう。

【学習参加の促進】

・学力に関係なくまたやりたいという意見が多

い。

・課題とゴールが明確にあるため、全員が意欲

的に参加できる。苦手な子どもと不得意な子ど

もも参加せざるをえない。

・お互いに自分なりの言葉で説明し、理解する

ことができるため、授業に参加しやすい。

・ランダムで対等なグループ編成のため、「自分

がやらなければ」という意識が芽生え、より意

欲的に授業に取り組もうとする姿勢が感じられ

た。

・グループ編成をジグソー法の授業のたびに組

み替えたため、様々な人と交流できることが意

欲を高めることにつながった。

○教員の教材研究等における成果

・普段の授業でも話し合い活動を意識して授業

に取り入れるようになった。

【教材を捉える視点の変化】

・3つの資料を準備するため、教材をいままでと

違った視点から見てみようというふうに考える

ようになった。

・メーリングリストを活用した意見交換をする

ことで、これまでとは違った視点や意見をいた

だき、授業づくりにとても参考になった。

・淡々と無難に流していった教科書の授業を反

省する機会になった。

【子どもを意識した授業デザインの洗練】

・発問の仕方をすごく気にするようになった。

ジグソー法の授業では、子どもたちの自発的な

活動に移るので、言いなおす機会が少ない。

・資料を準備する前に、授業のねらいや発問を、

これまで以上に意識するようになった。

・授業の中で、子どもたちが思考している様子

を観察することができる。次の教材をつくる際

に参考にすることができた。

81

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題>

●子どもたちの学習における課題

・慣れが必要(話す、聞く、まとめる)

・エキスパート活動に時間をとられがちにな

り、時間配分が思うように進みにくい。

・グループを組みかえるために、子どもの移動

するための物理的空間がある程度必要になる。

・学級の人間関係や個々の性格等をある程度把

握しておく必要がある。学級づくりも大切。わ

からないことを気軽に聞ける、教えあえる子ど

も同士の人間関係ができていると授業しやすい。

・自分なりの言葉で理解したことと、一般的な

説明とのギャップをどこまで許容できるか。

・連続したジグソー法での授業は、かなり頭を

使うことを強いられるので、かなり疲れた様子

が見られた。

●教員の教材研究等における課題

・教材研究には、まとまった時間が必要。

・普段から様々なことに興味を持ち、幅広い知

識があると、資料をつくりやすい。

・まず何かの教材で実践してみることが大切。

教科における協調学習の授業づくり研究の展望>

◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント

課題設定>

・課題は少し難しいほうがいいかもしれない。

教科書にはない、一歩踏み込んだ新たな課題と

いうところに協調学習の可能性があるのではな

いか(具体的には、3分の2くらいわかるレベル

がちょうどいいのでは)。

・いろんなとらえ方ができる単元で実践すれ

ば、エキスパートで選ぶ内容に差をつけられる。

・単発の授業で、ずっと前に習ったことを見て

みるという課題も有意義。

・単元の流れの中で教材がジグソーにできれば

どこでやってもいい。資料の組み方次第で何で

もありという気がする。

・ジグソーをするからといって、特別なことを

身につけさせるということではなく、普段の授

業をジグソーで行なうということ。

授業デザイン>

【主発問の重要性】

・主発問をいかに練って考えるかが教材づくり

の肝で、それをつくるためにはこの授業で何を

子どもたちに身につけてほしいかを明確にして

おく必要がある。

・ジグソー課題は発問の仕方も明確にするべき。

【子どもの学習をイメージした授業計画】

・ジグソーの際、発散してしまっても困るし、

自発的に考えられなくなっても困る、支援の仕

方が難しい。

⇒子どもの思考の流れを具体的にイメージする

必要。

・エキスパート活動に時間をとられがちになっ

てしまう。どれくらいの理解でジグソー活動に

移ることができるのか、事前に考えておく必要

がある。

・すとんと落ちるところまで授業でいけるよう

流れを工夫したい。

・1時間に詰め込まず、2時間連続でじっくりと

考えさせながら進めることも必要。

◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫

・淡々とした授業になりがちな単元を協調学習にできるとよい。

・他の先生が作った教材を共有して改訂してということによって時間の短縮ができる。

・実践の結果「この資料をこう変えたくなった」などを共有し、資料をどんどん他の人に改善してほ

しい。

82

平成23年度活動報告書 第2集

(2)教材リスト【国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A101宮沢賢治 教材作成者 廣津望都(南小国町立市原小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 読書の世界を広げよう

テ ー マ 読書の世界を広げよう―宮沢賢治作品での実践―

ジグソー課題 宮沢賢治作品に共通する書き方の特色や、作者のものの見方や考え方とは

期 待 す る回答の要素

擬音語、擬態語、方言などを多用した表現や、自然や動物の丁寧な描写を味わうとともに、生き物への思いやりや命の大切さといったメッセージを読みとる。

エキスパートA 『よだかの星』

エキスパートB 『虔十公園林』

エキスパートC 『なめとこ山のくま』

所 感

個別支援を要する子どもも含め、多くの子どもが自分の考えを積極的に話していた。ジグソーでは話し合いが深まり、各自のノートを並べて比較しながら、「死の描かれ方」、「音や色が見える」といった、宮澤賢治作品の本質にせまるようなポイントに気づいていった。また、授業の後もう一度作品を読んでみたくなったという感想もきかれた。

教 科 ・ № 国語 A102意見文 教材作成者 宮成 努(香春町立勾金小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 自分の考えを発信しよう

テ ー マ 意見文を書こう

ジグソー課題 マンガのよさを伝える意見文のパーツを作ろう

期 待 す る回答の要素

体験談やデータ、インタビュー具体例などの材料を、自分の意見を伝える文章に活用する。

エキスパートA 反対意見、体験談のはいった意見文

エキスパートB データ・具体例のはいった意見文

エキスパートC 体験談・インタビューのはいった意見文

所 感

この授業では、資料から「説得力のある文章を作るための効果的な材料」を抽出し、それを活用して意見文づくりを行った。児童は集中して活動を行い、アンケートでは高い満足度が示されている。「わからなかったこと、もっと知りたくなったこと」の記述をみると、本時で学んだ知識を活用して説得力のある意見文を書くために何が必要かが、児童の自身の言葉で書かれており、次の学びへつながる学習だったことがうかがえる。

教 科 ・ № 国語 A103表現 教材作成者 廣津望都(南小国町立市原小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 物語を作ろう

テ ー マ 表現の工夫

ジグソー課題 「比喩」と「擬人法」の効果とはどのようなものか

期 待 す る回答の要素

身近で想像しやすい何かにたとえる「比喩」や、人でないものを人の様子や動作にみたてたりする「擬人法」により、文章の印象や感じとられることが変わる面白さに気づく。

エキスパートA 比喩を使った文とそうでない文を比較し、工夫と効果について考える

エキスパートB 擬人法を使った文とそうでない文を比較し、工夫と効果について考える

所 感

「わかったこと」の記述からは、児童が、擬人法や比喩の効果について自分なりの言葉で抽象化できたことが読み取れる。児童は、「読書の世界を広げよう(A101)」に続き、ジグソー型授業の経験は二度目である。アンケートの結果、授業への満足度(たのしかった)は前回より下がっていたにもかかわらず、学習方法への満足度(またやりたい)は前回よりも高まっており、児童の中でこの学習方法への期待感が高まっていることがうかがわれた。

83

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A104ごんぎつね 教材作成者 津奈木考嗣(五ヶ瀬町立三ヶ所小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 『ごんぎつね』

テ ー マ 『ごんぎつね』

ジグソー課題 ごんと兵十の気持ちはどこで近づいたのだろうか

期 待 す る回答の要素

ごんと兵十の心情を、叙述をもとに読みとりながら2人の関係をとらえ、自分なりに物語の全体像を描く。

エキスパートA ごんの行動描写や会話文から兵十に近づこうとする心情を読みとる

エキスパートB 兵十の行動描写や会話文からごんに対する気持ちの変化を読みとる

所 感

この授業では、単元全体を協調学習で構想した。2時間で一斉授業での通読を行ったうえで、ごん班と兵十班に別れ、場面ごとにそれぞれの登場人物の気持ちを読みとるエキスパート活動を4時間かけて行い、次に読みとった内容を伝え合って課題に取り組むジグソー活動を1時間行った。更に発展的な課題として、物語の続きを考える活動を1時間行った。一連の活動を通して、生徒たちはゆとりを持って豊かな読みを作っていくことができた。

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A201たんぽぽ 教材作成者 廣津望都(南小国町立市原小学校)

学 年 小学校2年生 単元・題材 説明文『たんぽぽのちえ』

テ ー マ 『たんぽぽのちえ』―4つの知恵は何のため ―

ジグソー課題 たんぽぽは何のために4つの知恵をはたらかせているのだろうか

期 待 す る回答の要素

4つのちえに共通する「あちこちに種をとばす」ことによって、「仲間をふやす」という目的を読みとる。

エキスパートA たんぽぽが「どんな時に」、「どんな知恵」をはたらかせているかを読みとる(ちえ2)

エキスパートB たんぽぽが「どんな時に」、「どんな知恵」をはたらかせているかを読みとる(ちえ3)

エキスパートC たんぽぽが「どんな時に」、「どんな知恵」をはたらかせているかを読みとる(ちえ4)

所 感

ジグソー後の子どもの記述例としては、「(たんぽぽは、この4つのちえを)げん気なたねをつくって、まだ花が1本もはえていない町にたくさんのたんぽぽをはやす(ためにはたらかせているのです)」といったものがあった。子どもたちはジグソー課題を視点として説明文の内容をとらえ直し、自分なりの表現を出し合いながら、たんぽぽが知恵を働かせる目的を言葉にしていったと考えられる。全ての児童から、期待する2つの要素を含む回答が出た。

教 科 ・ № 国語 A202擬態 教材作成者 津奈木考嗣(五ヶ瀬町立三ヶ所小学校)

学 年 小学校3年生 単元・題材 説明文『にせてだます』

テ ー マ 『にせてだます』―擬態の目的を読みとる―

ジグソー課題 こん虫は、何のために「ぎたい」(にせてだます)をするのだろうか

期 待 す る回答の要素

擬態とは、「身を守ったり、えものをとったりするため」=「生きるため」に、他の動物の目をだますことであることを本文中の記述に基づいて説明できる。

エキスパートA 具体例が全て抜いてある文章

エキスパートB 擬態の定義と具体例②が省略された文章

エキスパートC 擬態の定義と具体例①が省略された文章

所 感

本文を3つに分けたテキストを各エキスパートが要約し、ジグソーで3つのエキスパートが担当した文章を並べ替える活動を行うことで、内容理解と同時に文章構成についての理解を深めることをねらった授業だった。ふたつの課題を設定したことで子どもの思考にブレが生まれたが、次時で内容理解に特化する形でプランを修正したことで子どもたちの思考を再び活性化させることができ、子どもたちが高い満足度と理解を示す学習となった。

平成23年度活動報告書 第2集

84

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A203五重塔 教材作成者 財前由紀子(豊後高田市立高田中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 『五重塔はなぜ倒れないか』

テ ー マ 『五重塔はなぜ倒れないか』

ジグソー課題 五重塔が倒れないわけを3つの点で相手にわかるように話そう

期 待 す る回答の要素

五重塔を作る木のしなやかさが、地震のエネルギーを吸収すること/木の組み方の工夫によって、塔はきしみ、地震のエネルギーが減っていくこと/塔全体の構造が重箱構造になっており、重箱構造を支える心柱がかんぬきの役目をしていること。

エキスパートA 本文より「木のしなやかさについて」の部分

エキスパートB 本文より「免震構造→差し込み接合」の部分

エキスパートC 本文より「重箱構造と心柱のかんぬき作用」の部分

所 感

実践者の反省によれば、ジグソー活動で、自分の説明をしたところで終わってしまったようなところもあったため、他の人の話を聞き入れる、または聞かないと答えが出せないという課題の設定が必要であろうとのことであった。生徒のわかったことには、「五重の塔が揺れても倒れない理由」という記述が多く、文章の内容をポイントをおさえて自分なりに読みとったことがうかがわれる。

教 科 ・ № 国語 A204ゼブラ 教材作成者 平岡香澄(高浜市立南中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 『ゼブラ』

テ ー マ 『ゼブラ』

ジグソー課題 ゼブラにとってウィルスンはどんな人物か

期 待 す る回答の要素

・新しいものの見方や前向きに生きる姿勢を教えてくれた人物。・人と人が出会うことによってもたらされる人間的な成長のすばらしさ。

エキスパートA ウィルスンとの出会いの場面を読み、ゼブラの心情や行動の変化をとらえる

エキスパートB ウィルスンの授業の場面を読み、ゼブラの心情や行動の変化をとらえる

エキスパートC ゼブラの旅立ちの場面を読み、ゼブラの心情や行動の変化をとらえる

所 感

生徒の記述例「ゼブラにとって、ウィルスンさんは違う見かたを教えてくれた人だとわかった。1人で考えていたときは、そんな意見は全く浮かんでこなかったけど、みんなと一緒に意見出し合ったら、自分なりの答えを見つけることができた」。子どもたちにとっては初めてのジグソー法の授業であったが、主体的に集中して活動に取り組み、3分の2以上の生徒から、期待する要素を含む回答が出てきた。

教 科 ・ № 国語 A205だれが 教材作成者 恒任珠美(九重町立南山田小学校)

学 年 小学校1年生 単元・題材 『だれがたべたのでしょう』

テ ー マ 『だれがたべたのでしょう』―「問い」と「答え」の関係を読みとる―

ジグソー課題 このお話では、食べたあとを見ると、どんなことがわかると書いていますか

期 待 す る回答の要素

穴のあいたクルミの殻や芯だけになった松ぼっくり、ちぎれた木の葉など食べたあとをよく見ると、どんな動物が暮らしているのかがわかる。

エキスパートA 本文より、芯だけになった松ぼっくりとリスの部分を読みとる

エキスパートB 本文より、ちぎれた木の葉とむささびの部分を読みとる

所 感

小学校1年生での実践のため、エキスパートを2種類にし、ペアで教え合う形で授業を進めた。実践者によれば、一人一人がやる気を持って学ぶ姿が見られたとのことである。また、子どもたちは授業を通して、本文の内容のみならず「~でしょう 」「~のです」といった「問い」と「答え」の関係を表現する文型を自分のものとし、「虫クイズ」を作るなど、調べ学習などに活用していたという報告もあった。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

85

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A206お手紙 教材作成者 廣津望都(南小国町立市原小学校)

学 年 小学校2年生 単元・題材 『お手紙』

テ ー マ 『お手紙』―気持ちが伝わる音読をしよう―

ジグソー課題 音読を聞き合い、自分の役(がまくん・かえるくん)がセリフを聞いてどう思うか考えよう

期 待 す る回答の要素

がまくんの悲しそうな様子と、それにつられてだんだんと悲しい気分になっていくかえるくんの様子→がまくんを早く喜ばせたいと思い、すぐにお手紙を書くかえるくんの様子→お手紙なんか来ないとすねた様子のがまくんと、対照的に、早く来ないかと待ちわびるかえるくんの様子→幸せな気分になる二人の様子

エキスパートA がまくん役として場面ごとの気持ちや心の中の声を想像して、音読の仕方を考える

エキスパートB かえるくん役として場面ごとの気持ちや心の中の声を想像して、音読の仕方を考える

所 感

音読劇という目標を設定し、役で分けてエキスパート活動を行い、ジグソー法でやりとりをすることで、登場人物二人の気持ちの移り変わりを読み取ることがき、相手意識をもった語りかけるような音読につながった。低学年での実践のため、学習の進め方の手引きを使って学習を進めた。実践者によれば、これにより手順に関する支援が必要なくなり、課題に対する支援を行うことできたとのことである。

教 科 ・ № 国語 A207やまなし 教材作成者 南 紳也(湯浅町立湯浅小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 『やまなし』

テ ー マ 『やまなし』―5月と12月の物語にこめられたもの―

ジグソー課題 宮沢賢治が「五月」と「十二月」で、それぞれどのような思いを描こうとしているかを考えよう

期 待 す る回答の要素

五月は、自然の厳しさ、死の世界、命を奪う、悲しみの世界などを描こうとしている。十二月は、自然の恵み 生の世界、命を与える、喜びの世界などを描いている。やまなしのように次に命をつなぐ死がある。希望をもつことが大切である。など。

エキスパートA かにたちの会話文からイメージされる世界を考える

エキスパートB 上からやってきたもの(五月かわせみ、十二月やまなし)の話から考える

エキスパートC 川底の様子の描写から考える

所 感

五月と十二月の風景の比較を通じ、子どもたちは課題に迫ろうと試行錯誤していた。あるグループでは、年表から『やまなし』執筆時の賢治の関心を妹トシの病と死に結びつけ、「上から突然くるカワセミは突然妹の命を襲った病気のことなんじゃない 」など、自分たちの読みの世界を楽しんでいた。逆に、事後の感想で賢治の気持ちが「わからなかった」「もっと知りたい」と表現した子どもが多かったのも、主体的な学びの成果だと言える。

教 科 ・ № 国語 A208椋鳩十 教材作成者 多田俊朗(加西市立九会小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 『大造じいさんとガン』

テ ー マ 読書の世界を広げよう―椋鳩十作品での実践―

ジグソー課題 椋鳩十の作品から伝わってくるメッセージをはっきりさせよう

期 待 す る回答の要素

厳しい自然の中で必死に生きている姿、命の大切さ尊さ、動物のすばらしい姿に素直に感動していく人間としての高まりに気付く。

エキスパートA 『月の輪グマ』

エキスパートB 『金色のあしあと』

エキスパートC 『片耳の大シカ』

所 感

子どもたちは、エキスパートでは既習の『大造じいさんとガン』と比較しながら、ジグソーでは3つの作品を比較しながら、椋鳩十の作品から伝わってくるメッセージを自分なりの言葉でまとめた。「みんなと助け合って生きるというのが大切だなと思った。なぜかというと助け合うほうが何事もはやく楽しくできるから」といった生徒の記述は、考えを出し合って学ぶジグソー法の特徴と椋鳩十作品のメッセージを重ねて考えを深めていることがうかがわれ、興味深い。

平成23年度活動報告書 第2集

86

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A209お手紙シリーズ 教材作成者 廣津望都(南小国町立市原小学校)

学 年 小学校2年生 単元・題材 『お手紙』

テ ー マ 『お手紙』シリーズ―がまくんとかえるくん―

ジグソー課題 がまくんとかえるくんはどんな性格なんだろう。お手紙シリーズを読んでつきとめよう

期 待 す る回答の要素

がまくんにもかえるくんにも長所と短所があるが、お互いに同じように思い合い、お互いが大好きで、大切な友達同士であることをつかませたい。

エキスパートA 『おちば』

エキスパートB 『クリスマス・イブ』

エキスパートC 『はるがきた』

所 感

子どもたちは、登場人物に親しみを持って意欲的に活動に取り組み、教科書の『お手紙』で学んだがまくんとかえるくんの性格についての知識をベースに、複数のお話を比較しながら登場人物の性格に多角的に迫ることができた。授業者の反省としては、『お手紙』からわかったことと3つのお話からわかることを区別して比較検討しながら考えを深めることが難しい場面もあったとのことである。

教 科 ・ № 国語 A210メロス 教材作成者 三重野修(県立都城泉ヶ丘高等学校附属中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 『走れメロス』

テ ー マ 『走れメロス』―メロスを走らせたものは何か 詩『人質』との比較から―

ジグソー課題 作者は「人質」と「走れメロス」の違いによって何を表現したかったのだろうか

期 待 す る回答の要素

作者が「人質」から書き加えていった所に主題をつかむヒントが隠れていると仮定し、その中 から、王の心を揺り動かしたもの、メロスを走らせたものをみつける。

エキスパートA メロスの視点から「人質」と「走れメロス」を比較読みする

エキスパートB 王の視点から「人質」と「走れメロス」を比較読みする

エキスパートC その他の登場人物の視点から「人質」と「走れメロス」を比較読みする

所 感

『走れメロス』のモチーフとなった『人質』の詩との比較を通じ、作者太宰治の表現したかったことを追究した。それぞれの登場人物について丁寧に比較することで「メロスの帰路に盗賊を差し向けた王は、本当はメロスが戻ってくると思っていた」といった気づきが生まれた。また、王の人物像に迫ることで、「王は太宰そのものだ」、「『メロス』を書くことで、言葉では伝えられない自分の「変わりたい」思いを表現した」といった読みをするグループもあった。

教 科 ・ № 国語 A211組み立て 教材作成者 榎本さち(広川町立南広小学校)

学 年 小学校3年生 単元・題材 組み立てを考えて書こう

テ ー マ 組み立てを考えて書こう

ジグソー課題 「時」「場所」「人物」「出来事」を表す言葉をたくさん集めて、文を作ろう。

期 待 す る回答の要素

・時、場所、人物、出来事を表す言葉がたくさんあることに気づく。・それぞれの語句には役割があり、その組み合わせ方を変えることで、幾通りもの文が作れることに気づく。

エキスパートA 時を表す言葉を集める

エキスパートB 場所を表す言葉を集める

エキスパートC 人物を表す言葉を集める

エキスパートD 出来事を表す言葉を集める

所 感

実践者によれば、子どもたちは授業を楽しみ、時・場所・人物・出来事を表す言葉を多く集めることが出来たとのことである。アンケートには、発言力のある児童が活動を主導してしまったために自分の意見が反映されずに疎外感を感じたという子どもの声もあった。文づくりにテーマを設定するなど、課題を共有して考えを出し合うための工夫が必要であろう。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

87

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 A212メロス 教材作成者 平岡香澄(高浜市立南中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 『走れメロス』

テ ー マ 『走れメロス』―王とメロスの人物像に迫ろう―

ジグソー課題 メロスと王において、作品を通して一貫している人物像と変化した人物像はどんなところか

期 待 す る回答の要素

メロス:〔一貫〕人を疑うことが嫌いな人・正義感が強い人・友達想いな人〔変化〕信じ合うという人間の本来あるべき姿に気づいた人

主:〔一貫〕繊細な人・人を信じたいと心のどこかで思い続けている人〔変化〕人を信じていいかもしれないと思えるようになった人

エキスパートA 「初めの日」の場面を読み、メロスと王の人物像を読みとる

エキスパートB 「王城を出て1日目と2日目」の場面を読み、メロスと王の人物像を読みとる

エキスパートC 「3日目(約束の日)」の場面を読み、メロスと王の人物像を読みとる

所 感

ジグソーでは、各自の資料を間に置き、内容を比較しながら考えを交流し、直観的にイメージを描くことが得意な生徒や物語の構造的な把握が得意な生徒など、多様な学び方をする生徒たちが互いの特性を生かし合いながら課題に取り組んでいた。クロストークでは、他班の発表をきいてグループでテキストを見直すなど、最後まで意欲的に学習していた。

【数学 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 A101変化の割合 教材作成者 杉田和代(五ヶ瀬町立鞍岡中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 関数y=ax

テ ー マ なぜ変化の割合はa(p+q)で求められる

ジグソー課題 なぜ変化の割合はa(p+q)で求められるのか

期 待 す る回答の要素

「変化の割合の公式」、「共通因数を含む因数分解」、「分数の約分を含んだ文字式の計算」の3つを組み合わせて、変化の割合の公式がどのようにして出てくるのかを説明する。

エキスパートA 変化の割合の公式

エキスパートB 共通因数を含む因数分解

エキスパートC 分数の約分を含んだ文字式の計算

所 感

生徒の反応は概ね好意的であり、二次関数の変化の割合がa(p+q)という公式で簡単に求められるのだということを理解したようであった。ただし「最初から先生に公式を教えてもらいたくさん練習問題を解いた方が良かった」という意見が一名あった。「人と話合わないと解けない程度」に課題の難易度を調整することが課題である。

教 科 ・ № 数学 A102二次方程式 教材作成者 甲斐一陽(宮崎市立住吉中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 二次方程式の利用

テ ー マ X人で握手をすると ―二次方程式の応用―

ジグソー課題 X人で握手をすると握手の回数は何回か

期 待 す る回答の要素

「対戦表」、「多角形」、「樹形図」の3つの方法からのアプローチを比較検討して、立式と解答、過程の説明を目指す。

エキスパートA 対戦表で握手の回数を求める

エキスパートB 多角形を使って握手の回数を求める

エキスパートC 樹形図を使って握手の回数を求める

所 感

生徒の反応は概ね好意的であり、ほとんどの生徒が「X人で握手をするときの握手の回数」を(x(x-1))/2と表すことができた。立式の過程を説明する部分では、式の3つのアプローチの比較検討から統合的な説明をつくるまでには至らず、どれか1つのアプローチに基づいて説明するものが多かった。しかしアンケートには、「何個もの出し方があることがわかりました」といった記述もみられた。

平成23年度活動報告書 第2集

88

【数学 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 A103変化の割合 教材作成者 粟津政夫(安芸太田町立加計中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 関数y=ax

テ ー マ なぜ変化の割合はa(b+c)で求められる

ジグソー課題 なぜ変化の割合はa(b+c)で求められるのか

期 待 す る回答の要素

「式の値」、「共通因数」、「除法」の3つのワークで学んだことを持ち寄って説明を作る

エキスパートA 代入

エキスパートB 共通因数

エキスパートC 文字式の除法

所 感

数学A101の「なぜ変化の割合はa(p+q)で求められる 」と課題は同じだが、先に「a(b+c)」の式を与えてから「なぜそういった式が出たかを説明させる(途中式を完成させる)」かたちでデザインされている。こちらでは生徒から「難しい」という意見が多く出た。

【算数 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 算数 A201足し算 教材作成者 堀 真朋(五ヶ瀬町立鞍岡小学校)

学 年 小学校1年生 単元・題材 足し算

テ ー マ 足し算

ジグソー課題 りんごが4つあります。お店で4つ「買う」と全部で何個になりますか。

期 待 す る回答の要素

増加の場面に関して、言葉や式、図、ブロック、手などを使って足し算をし、解を求めることができる。

エキスパートA 車が5台あります。3台「増える」と何台になりますか

エキスパートB 鳥が6羽います。2羽「飛んでくる」と何羽になりますか

エキスパートC 折り紙が7枚あります。1枚「もらう」と何枚になりますか

所 感

実践者の記録によれば、最初両手を使って足し算をしていた子どもが、授業後には全員片手を使って足し算をしていたとのことで、「増加」のイメージを描けるようになったと考えられる。ワークのノートでは、エキスパートで「車の絵」で図示していた子どもが、ジグソーで「○」で図示できるようになるという思考の抽象化の様子も見られた。小学校1年生でも、デザインの工夫により協調学習を通して思考を深めることができたようである。

教 科 ・ № 算数 A202概数 教材作成者 渡邊久美(竹田市立竹田小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 概数を使った計算

テ ー マ どの方法で見積もる ―切り捨て、切り上げ、四捨五入―

ジグソー課題 3つの見積もり法それぞれの特徴をまとめ、具体的な場面で適切な見積もり法を選ぶ

期 待 す る回答の要素

切り捨ては少なく見積もればいいときに使う。ある数以上になるかどうかを見積もる。切り上げは多めに見積もればいいときに使う。ある数以下になるかどうかを見積もる。四捨五入はより近いがい数、およそで見積もるときに使う。

エキスパートA 切り捨てで300ぴき以上になるか見積もる。(学年ごとの集めたホタルの数の表)

エキスパートB 切り上げで1000円以内になるか見積もる。(ノート、ペン、本の代金の絵)

エキスパートC 四捨五入でおよそ何mか見積もる。(駅から学校までの道のりを表した地図)

所 感

実践者の振り返りによれば、子どもたちは意欲的に活動に取り組んだ。アンケートでは「四捨五入、切り上げ、切り捨てはどういうふうに使えばいいかわかった」といった意見や、「切り上げの時、切り捨てをしていたので気をつけたい」といった自分の学習を見直す声もきかれた。子どもたちは総じて「たのしかった、またやりたい」という肯定的な評価をしていた。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

89

【算数 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 算数 A203線分図 教材作成者 萩原英子(安芸太田町立修道小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 ちがいに目をつけて

テ ー マ ちがう量にわける―線分図を使って―

ジグソー課題全部で1000羽の折り鶴を作るとき、高学年の方が低学年より400羽多く作ることにすると低学年と高学年はそれぞれ何羽作ればいいでしょうか。

期 待 す る回答の要素

線分図を使って違いを明示化し、違いを最初に引くか足すかして、同じ量にしてから2で割り、片方の量を求める。その後条件に応じてもう一方の量を求める。

エキスパートA 線分図の書き方

エキスパートB ものを分ける方法

エキスパートC 違いを埋める方法

所 感

あるグループでは、誤答を主張する子どもが2人、正答を主張する子どもが1人の状況が生じたが、2人の子どもは自分と考えの違う1人に線分図を示しながら具体例をひきつつ説明する過程で、むしろ自分の解が間違っていたことに気づいていった。同一中学校区内の4小学校合同での授業だったので、次時は各校での授業であった。実践者の振り返りにでは、次時には類題を線分図を使ってスムーズに解いていたという報告もきかれた。

教 科 ・ № 算数 A204三角形合同 教材作成者 佐々木挙匡(浜田市立波佐小)/高井邦彰(加西市立泉小)

学 年 小学校5年生 単元・題材 合同な図形

テ ー マ 合同な三角形を描いてみよう

ジグソー課題 課題の五角形(3つの三角形を組み合わせた図形)と合同な図形を描く

期 待 す る回答の要素

三角形の構成要素に着目して、合同な三角形の描き方と必要な構成要素を理解し、合同な三角形や三角形の複合図形をかくことができる。

エキスパートA 3辺の長さが示された三角形を見て、合同な図形を作図する

エキスパートB 2辺の長さと間の角の大きさが示された三角形を見て、合同な図形を作図する

エキスパートC 1辺の長さとその両端の角の大きさが示された三角形を見て、合同な図形を作図する

所 感

実践者らによれば、どちらの実践でもエキスパート活動に時間を要し、時間内に合同条件を整理して五角形を描けるまでには至らなかった。しかし子どもたちは主体的に授業に取り組んでおり、自分なりに合同な三角形の構成要素をイメージしていたとのことである。次時に五角形の課題を提示した際には、「2つの角の大きさはわかってるけど、辺の長さがわからないからここからは書けない」など議論をしながらどの班も作図を完了することができた。

教 科 ・ № 算数 A205比 教材作成者 堀 真朋(五ヶ瀬町立鞍岡小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 比とその利用

テ ー マ どちらが甘い ―比とその利用―

ジグソー課題 レモン水とはちみつの比が6:2のジュースと18:6のジュースはどちらが甘い

期 待 す る回答の要素

2つの比が等しい関係かどうかを3つの方法を活用して判断し、3つの方法を関連づけて判断の妥当性を説明するとともに、比の性質を利用して発展的な課題に答えを出すことができる。

エキスパートA 6:2と18:6の関係を簡単な比にして考える

エキスパートB 6:2と18:6、それぞれの比の値を求めて考える

エキスパートC 掛け算を使い、6と18、2と6をそれぞれ比べて考える

所 感

実践者によれば、エキスパート活動では、子どもたちは図や式を書きながら課題に取り組んでいた。更に、ジグソーでは、1つの課題に対して3つの解法を比較することで、自分が担当しなかった解法についても理解を深めたようである。「900mlのレモン水がある場合、先ほどと同じ濃さのジュースを作るのにはちみつはどれだけ必要か 」という発展的な課題にも、全員がどの解法を使うかを意識しながら答えを出していたとのことである。

平成23年度活動報告書 第2集

90

【算数 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 算数 A206体積 教材作成者 吉野了太(宮崎市立赤江小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 立体の体積

テ ー マ 体積を求める公式を作ろう

ジグソー課題 横に倒して置かれた三角柱の体積を求める

期 待 す る回答の要素

立体の底面はどこかを判断し、図から必要な情報を読みとって、「底面積×高さ」の公式を使って体積を求める。

エキスパートA 「底面を積み上げる」ことを考え、図形の置き換えをする

エキスパートB 「たて×よこ×高さ」を復習し、「底面積×高さ」によって体積が求められることを確認する

エキスパートC 与えられた図形から求積するために必要な情報を取り出す

所 感

授業中の子どもたちは「底面積の積み上げ」としての体積のイメージを自分たちで言葉にすることに苦戦している様子であったが、ジグソー、クロストークを経て、授業後のアンケートでは、「底面積がわかった」旨の記述も多く表れていた。この授業は、子どもたちにとって4度目のジグソー法による授業であった。実践の積み重ねにより、当初は意見の発表に消極的だった子どもも、時間切れで発表できなかったことを悔しがるほどに変化したという。

教 科 ・ № 算数 A207複合図形 教材作成者 萩原英子(安芸太田町立修道小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 複合図形の面積

テ ー マ 複合図形の面積を求めてみよう

ジグソー課題 長方形を組み合わせたL字型の面積の求め方に名前をつけ、求め方のコツをまとめよう

期 待 す る回答の要素

複合図形の面積を求めるには、長方形(これまでに学習した図形)を見つけて、足したり、引いたり、2で割ったりすれば、求められる。

エキスパートA 大きい長方形から小さい長方形を引く方法

エキスパートB 元の図形を2つ分で大きい長方形の面積を求め、最後に÷2をする方法

エキスパートC 等積変形して、長方形を作り求める方法

所 感

導入部分で、2つの長方形に分ける方法を全体で確認したことで、子どもたちは見通しを持ってグループ活動に取り組めた。式や計算の意味を言葉で説明するのは、子どもたちにとってレベルの高い活動であった。しかしジグソーで自分の考えを説明し、「この÷2は何 」といった仲間の質問に図を活用して答えようとしたり、「長方形にして引き算方式」といった求積法の名称を考える活動を行うことを通じて、ほとんどの児童がそれぞれの求積法の考え方を発展問題で活用できるようになっていった。

教 科 ・ № 算数 A208複合図形 教材作成者 時枝博文(豊後高田市立高田小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 複合図形の面積

テ ー マ 複合図形の面積―広さを調べよう―

ジグソー課題 フィンランドの国旗の白い部分の面積を求める「うまい方法」を考えよう

期 待 す る回答の要素

複合図形の求積法を比較し、十字の部分を動かして長方形を作る「動かす方法」が、速くて簡単で正確(うまい方法)であることをつかむ。

エキスパートA 凹の面積を「うまい方法」で求める→「引く方法」

エキスパートB 凸の面積を「うまい方法」で求める→「分ける方法」

エキスパートC フランスの国旗から白を引いた部分の面積を「うまい方法」で求める→「動かす方法」

所 感

実践者によれば、Cの資料では、3つの方法がどれも適用できたため、「うまい方法」に戸惑う班もあった。しかしジグソー課題では、「動かす方法」が「うまい方法」であることに多くの班がスムーズに気づいていたとのことである。更に、ジグソー後の発展的な課題では、より複雑な図形の求積に「動かす方法」を使ってうまく解くことができ、感激する子どもたちの様子もみられた。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

91

【算数 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 算数 A209一筆書き 教材作成者 水谷隆之(飯塚市立片島小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 一筆書き

テ ー マ 一筆書きができるのはどんな時

ジグソー課題 輪が4つの図で一筆書きをする方法を説明しよう

期 待 す る回答の要素

ねじり点を寄り道のスタートにする考え方や、2つや3つの輪に分ける考え方を使って、輪を組み合わせた図で一筆書きをする方法を説明する。

エキスパートA 3つの輪を組み合わせた図で一筆書きができる理由を、ひもを使って説明する。

エキスパートB 3つの輪を組み合わせた図で一筆書きができる理由を、輪をつなげた教具を使って説明する。

所 感

エキスパートでは教具を活用しながら、「こっちの輪は寄り道の輪なんだよ」、「じゃあここがスタートか」など、重要な概念を具体物とつなげて話し合いながら思考を深めていく様子が見られた。ジグソーでは1つのホワイトボードをグループで共有し、図示と言葉による説明を行き来することにより、エキスパートから持ち寄った具体的な説明を抽象化し、期待する回答に迫っていった。子どもたちは授業を大変たのしみ、クロストークまで集中力を切らすことなく取り組んでいた。

教 科 ・ № 算数 A210三角形面積 教材作成者 高井邦彰(加西市立泉小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 三角形の面積

テ ー マ 三角形の面積を求める公式を作ろう

ジグソー課題 三角形の面積はどうすれば求められると言えるか

期 待 す る回答の要素

・三角形の面積は長方形の面積の半分になっている。・長方形の面積の公式のように、三角形の面積でも公式ができそうだ。

エキスパートA 三角形を2つの直角三角形に分けて求めた計算式を見て、求め方の説明を作る

エキスパートB 三角形を長方形の半分とみなして求めた計算式を見て、求め方の説明を作る

エキスパートC 三角形の一部を切り取って長方形に置き換えて求めた計算式を見て、求め方の説明を作る

所 感

ジグソー活動では、言葉で公式を作るより「三角形の面積を求める」ことに重点を置いて学習を進めることになったグループが多かった。しかしクロストークでは、ほとんどのグループが、「三角形の面積はどうすれば求められるか」の問いについて、「底辺×高さ÷2」、「三角形の面積は長方形の半分」といった期待する回答の要素を含む答えを発表したとのことである。

教 科 ・ № 算数 A211台形面積 教材作成者 佐々木挙匡(浜田市立波佐小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 四角形や三角形の面積

テ ー マ 台形の面積を求める公式を作ろう

ジグソー課題 台形の面積を求める“ことばの式”をつくりましょう

期 待 す る回答の要素

台形の面積は、等積変形や倍積変形、分割をすることによって、既習の面積の公式を用いて求めることができる。そして、それぞれの面積の求め方から“ことばの式”をつくって整理していくと、一般化(公式化)することができ、様々な台形の面積を求めるときに使える。

エキスパートA 台形を平行四辺形に等積変形した図を見て、台形の面積を求め、求め方を説明する

エキスパートB 台形を平行四辺形に倍積変形した図を見て、台形の面積を求め、求め方を説明する

エキスパートC 台形を2つの三角形に分割した図を見て、台形の面積を求め、求め方を説明する

所 感

エキスパート資料は、前時の子どもの考えをふまえて作り、担当したいものを選択した。ジグソー活動では、各班が、「底辺×高さ÷2×2」のように既習事項に基づいた説明を作ると同時に、「何かおかしい」という疑問も共有していたようである。この疑問は、クロストークで教師が示した「上底・下底」の概念によって解決されたようで、授業後の「わかったこと」として「上底・下底の意味」という記述が目立った。

平成23年度活動報告書 第2集

92

【算数 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 算数 A212概数 教材作成者 萩原英子(安芸太田町立修道小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 がい数の表し方

テ ー マ 目的を考えて見積もろう

ジグソー課題 場面に即して最適な見積もり方法を考える

期 待 す る回答の要素

およその数を知りたいときは、「四捨五入」、足りるかどうかを知りたいときは、多めに見積もる「切り上げ」、ある数以上になるかどうかを知りたいときは、少な目に見積もる「切り捨て」というように、目的に応じて見積もり方法を選ぶ必要がある。

エキスパートA 「だいたい」を知りたい時、3つ方法による見積もり結果を実数と比較し、最適な方法を探す

エキスパートB 「足りるか」を知りたい時、3つ方法による見積もり結果を実数と比較し、最適な方法を探す

エキスパートC 「以上か」を知りたい時、3つ方法による見積もり結果を実数と比較し、最適な方法を探す

所 感

実践者によれば、ジグソー活動が特に活発であり、具体的な問題を考えながら、最適な見積もり法を選び、理由を説明できるようになっていった。1人では説明が難しい子どもも方法は選べており、クロストークや次時の振り返りで説明できるようになる例もみられたようである。改善点として、「見積もった値」と「正確な値」の位置関係を図示することが、見積もり法の特徴を言葉で表現することの支援になりそうだという指摘があった。

教 科 ・ № 算数 A213見積もり 教材作成者 高井邦彰(竹田市立竹田小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 見積もりを使って

テ ー マ 見積もりを使って―さしひき、切り捨て、切り上げ―

ジグソー課題 3つの見積もりの方法は、それぞれどんなときに使うとよいかを考えよう

期 待 す る回答の要素

「さしひき」は端数が少ない場合に正確な見積もりをしやすい、「切り捨て」は元の値より少なく見積もるので基準数値を超えているかどうかを安全に判断でき、「切り上げ」は元の値より多く見積もるので基準数値に収まっているかどうかを安全に判断できる。

エキスパートA 見積もりの式(切り上げ)を見て、どの見積もり法でどう見積もったかを説明する

エキスパートB 見積もりの式(切り捨て)を見て、どの見積もり法でどう見積もったかを説明する

エキスパートC 見積もりの式(さしひき)を見て、どの見積もり法でどう見積もったかを説明する

所 感

4年生で習ったがい数の考え方を使って、どの場面でどの見積もりが最適かを考える活動を行った。グループでの学習を細かく見ると、がい数の考え方自体が定着していない子どもは、その部分を自分なりに納得いくまで追求することができていたし、また「使ってみる」段階はスムーズにこなせる子どもたちは、最適な見積もりの方法を抽象的に説明する課題に取り組むなど、仲間との相互作用を通じて一人ひとりが自分の理解を深めていた。

【数学 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 A201二次方程式 教材作成者 甲斐一陽(宮崎市立久峰中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 二次方程式

テ ー マ 「お父さんの帰国日はいつ ―二次方程式を作って考えよう―」

ジグソー課題 カレンダーで、ある日の真上の日の数と真下の日の数をかけ合わせると176になる日を見つける

期 待 す る回答の要素

求めたい数をXと置いて、文章題中の数値の関係を二次方程式に表し、二次方程式を解く。更に2つの解から問題条件に合う回を選択する。

エキスパートA 平方根の考え方で解ける二次方程式で、解が2つあり、条件によって1つに絞れる

エキスパートB 方程式、平方根、展開と因数分解の考え方を利用し、二次方程式を解く

エキスパートC 文章問題において、求めたい数やその他の数との関係をxを用いて表すことを確認する

所 感

二次方程式の導入段階での授業であったが、子どもたちは既習事項に基づいて議論しながら集中して活動に取り組み、ジグソー活動後には多くの班が正しい解を導いていた。解にたどりつけなかったグループも、クロストークで「わかった 」と式を修正する様子が見られた。実践者によれば次時以降、単元を通して学習への意欲が高かったとのことである。

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

93

【数学 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 A202平方根 教材作成者 粟津政夫(安芸太田町立加計中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 平方根

テ ー マ 平方根の加減

ジグソー課題 平方根の加減の計算方法を導き出す

期 待 す る回答の要素

平方根の足し算引き算は、どんな場合に可能であり、どのように計算すればよいかを考え、実際に例題を解く。

エキスパートA 概数の利用

エキスパートB 根号を外すことのできる数

エキスパートC 正方形を分割した面積

所 感

生徒の分かったことの例:「 4+ 9は 13にならないことを知りました」「ルートの加減は中の数字が同じものだけする。ルートの前の数字を計算する。文字式とよく似ていること」実践者によれば、思っていた以上に話し合いは活発で、3つの資料をつき合わせながら意欲的に課題に取り組んでいたとのことである。

教 科 ・ № 数学 A203相似 教材作成者 橋爪英雄(飯塚市立飯塚第一中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 図形の相似

テ ー マ 図形の相似

ジグソー課題 円周角の定理、三角形の相似、相似比を用いて、円に内接する三角形の辺の長さを求める。

期 待 す る回答の要素

2つの三角形が円に内接することから、円周角の定理を用いて2組の角がそれぞれ等しいことに気づき、2つの三角形が相似であることを証明する。2つの三角形が相似であることから、相似比(対応する辺の比が等しい)により辺の長さを求める。

エキスパートA 円周角の定理により、大きさの等しい角を見つける

エキスパートB 2つの三角形が相似であることを証明する。相似条件(2組の角がそれぞれ等しい)

エキスパートC 2つの三角形が相似であることから相似比を利用し、辺の長さを求める

所 感

子どもたちは真剣に学習に取り組んでおり、「わからない」生徒が「わかる」生徒にその場で直接説明をきくことで、お互いの理解度が深まるとともに、意欲的に学習していたとのことである。教材の工夫としては、確認問題や発展問題をあらかじめ用意しておき、グループごとの学習のスピードの違いに対応した点がある。

教 科 ・ № 数学 A204比例 教材作成者 粟津政夫(安芸太田町立加計中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 比例と反比例

テ ー マ 比例と反比例

ジグソー課題 束全体の厚さが15㎝、40枚分の厚さが2㎜のとき、コピー用紙の束の枚数を求める

期 待 す る回答の要素

問題の事象が比例もしくは、反比例、どちらでもないのかを判断し、対応表、式、グラフを活用して答えを出すことができる。

エキスパートA 対応表を使って課題に取り組む

エキスパートB 比例の式を作って課題に取り組む

エキスパートC グラフを書いて課題に取り組む

所 感

エキスパートでは、特にグラフの班で答えまでたどりつけない班が見られた。しかし、ジグソー活動を通して多くのグループでエキスパート活動での理解の不十分さは自然にカバーされていった。例えばある班では、エキスパートで答えまでたどりつけなかったグラフの方法に全員で取り組む中で、各解法を比較しながら「比例定数ってグラフではここ 」などの議論が起き、各自が比例という関数を自分なりの言葉で理解していった。

平成23年度活動報告書 第2集

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【理科 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 A101消化 教材作成者 亀岡圭太(安芸太田町立筒賀中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 動物のくらしとなかま

テ ー マ デンプンの消化と吸収のしくみを説明しよう

ジグソー課題 デンプンの消化と吸収のしくみを説明しよう

期 待 す る回答の要素

デンプンの消化と吸収のしくみを、消化の目的(栄養の吸収)、機能(十分小さい物質に変える)、方法(消化液や酵素のはたらき)という観点を組み合わせて適切に説明できる。

エキスパートA デンプンの変化

エキスパートB 吸収

エキスパートC 栄養素の大きさ

所 感

デンプンの消化の仕組みについて生徒の事前の考えは、「口→食道→胃→腸を通って消化される」というようにルートに着目したものが多かった。授業を通してその考えに、「デンプンが別の物質に変わるのが消化である」という化学的な理解が統合され、ほぼ全ての生徒から、期待する3つの観点を統合した説明が出てきた。「新規な知識の獲得」とともに、このような「既存の知識のとらえ直し」も重要であろう。

教 科 ・ № 理科 A102電磁誘導 教材作成者 亀岡圭太(安芸太田町立筒賀中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 電流とその利用

テ ー マ 電磁調理器の上の豆電球に流れた電流はどうやって発生した

ジグソー課題 電磁調理器の上にコイルにつないだ豆電球を置くと点灯するのはどうしてか

期 待 す る回答の要素

「交流電流」、「電流による磁界の発生」、「電磁誘導」の3つの内容を組み合わせて現象を説明する。

エキスパートA 交流電流

エキスパートB 電流による磁界の発生

エキスパートC 電磁誘導

所 感

ジグソー前後で生徒の説明を比較すると、ジグソー前には「電磁調理器には、交流電流が流れる」という断片的な回答が、「電磁調理器のコイルは交流です。だから、電流の流れる向きは変わるので、磁界の向きも変わります。その変化に応じて電流を流そうとする電圧が生じてコイルに電流が流れます。だから豆電球が点灯します」と変化している例などがみられた。難しい課題にもかかわらず、生徒の達成度と満足度は高かった。

教 科 ・ № 理科 A103地震 教材作成者 福園祐基(国富町立木脇中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 大地がゆれる

テ ー マ 日本にはなぜ地震が多いのだろうか

ジグソー課題 日本にはなぜ地震が多いのだろうか

期 待 す る回答の要素

「プレート」という概念を使い、「地球内部のつくりとプレートの移動」、「世界のプレートの配置と地震の分布」、「プレートの動きと地震が起こるしくみ」の3つの資料を合わせて、日本で地震が多く起こるメカニズムを説明する。

エキスパートA 地球内部のつくりとプレートの移動

エキスパートB 世界のプレートの配置と地震の分布

エキスパートC プレートの動きと地震が起こるしくみ

所 感

生徒たちの、授業前の課題に対する考えは、「山がおおいから」や「プレートがぶつかっているから」など多様であり、既有知識の差がうかがわれる。しかし既有知識の多少にかかわらず、生徒の授業後の回答は「プレート」という概念を中心にした豊かな説明に変化していた。また、授業への満足度、学習方法への満足度もともに高かった。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【理科 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 A104地軸 教材作成者 堀 公彦(竹田市立久住中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 四季の星座と季節の変化

テ ー マ 太陽の動きはなぜ場所によって違う

ジグソー課題 場所による太陽の見かけの動きの違いはどうして起こるのか

期 待 す る回答の要素

地球上では場所によって太陽の動きが違い、それは地球の地軸が公転面に対して傾いていることによって起きている現象であることを、モデルを使って説明することができる。

エキスパートA 日本と南アフリカでの太陽の動きの違いを、太陽と地球の模型を使って説明する

エキスパートB 日本と赤道上での太陽の動きの違いを、太陽と地球の模型を使って説明する

エキスパートC 日本と北極での太陽の動きの違いを、太陽と地球の模型を使って説明する

所 感

この授業は「天体」という中学校理科の中でも難しい単元を対象にしたにも関わらず、生徒の授業に対する満足度は突出して高かった。ジグソー法の授業を何度か体験した生徒たちであったこと、模型(具体物)という媒介の存在によって協調が起きやすかったことなどが理由であろう。生徒の理解度も高く、授業後の「わかったこと」では、「地軸の傾き」と太陽の動きを結びつけた記述が多くみられた。

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 A201摩擦力 教材作成者 堀 公彦(竹田市立久住中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 運動とエネルギー

テ ー マ 摩擦力の大きさは、何に関係しているのだろうか

ジグソー課題 摩擦力の大きさは、何に関係しているのだろうか

期 待 す る回答の要素

摩擦力は物体の運動を妨げる力であること知り、物体と接触する面の材質と物体にかかる重力(面を垂直に押す力)に関係し、ふれあう面積には無関係である。

エキスパートA 接触面が木の板の場合で、おもり(1つ・2つ)の摩擦力を5回計測し、平均値を求める

エキスパートB 接触面がアクリルの場合で、おもり(1つ・2つ)の摩擦力を5回計測し、平均値を求める

エキスパートC 接触面がゴムの場合で、おもり(1つ・2つ)の摩擦力を5回計測し、平均値を求める

所 感

エキスパートでは、道具を媒介にして操作者、記録者、モニターの役割分担が自然と発生し、それぞれ異なる視点から実験結果を吟味していた。ジグソーでは異なる材質を使った実験結果を比較検討することを通して、全ての班が、摩擦力が「物体と接触する面の材質と物体にかかる重力」と関係することについて説明できた。クロストークでは、自分たちと少しずつ異なる他班の説明にうなづきながら、回答を修正する姿も多かった。

教 科 ・ № 理科 A202大気圧 教材作成者 亀岡圭太(安芸太田町立筒賀中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 身の回りの不思議

テ ー マ 少量の水を入れて加熱した空き缶にふたをして冷やすと

ジグソー課題 水を少量入れた空き缶を熱し、その後、水をかけて冷やすとどうなるか

期 待 す る回答の要素

「気体⇔液体」の状態変化、真空、大気圧の3つのキーワードを用いて、水を少量いれた空き缶を熱し、その後水をかけて冷やすとどうなるかを説明できる。

エキスパートA 状態変化と温度(エタノールの膨張実験と解説資料)

エキスパートB 真空(ポンプで真空にしたビンの質量を測る実験と解説資料)

エキスパートC 大気圧(水を満たしたコップにシートでふたをして逆さまにしてみる実験と解説資料)

所 感

空き缶を用いた実験の結果を、科学的な根拠を持って予想することが中心的な課題であった。ジグソー後(実験直前)には、ほとんどの学習者が自分なりに納得できる予想を作りあげていたため、実験結果に対して、「驚き」よりも「自信」の表情が多く見られた。教師は実験後の解説をしなかったが、「ペットボトルの中に少量のお湯をいれて振った後、水道水で冷やすとどうなるか」という発展課題には、6名中5名が科学的に正しいと言える説明を書けていた。

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平成23年度活動報告書 第2集

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 A203霧 教材作成者 黒木 亨(県立都城泉ヶ丘高等学校附属中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 天気の変化

テ ー マ 霧はどのようにしてできるか

ジグソー課題 霧はどのようにしてできるか

期 待 す る回答の要素

雲一つない晴れた日の夜には、昼間暖められた地表から赤外線が雲にさえぎられることなく宇宙に出ていくので、気温が下がる。気温が下がると、飽和水蒸気量が小さくなることになり、気温が露点になると空気中の水蒸気量が水滴となって空気中に浮かんだのが霧である。

エキスパートA 地表の温まり方(雲のない日は、赤外線が宇宙へ逃げる)

エキスパートB 霧ができるところ(雲のない晴れた日にできる)

エキスパートC 空気に含まれる水蒸気と温度(飽和水蒸気量は温度によって変化する)

所 感

実践者によれば、初めての協調学習で、流れにとまどう生徒もいたが、活動は総じて意欲的であったとのことである。エキスパート資料の難易度は、AがB・Cに比べて高かった。しかし、内容が難しいことは読みとりへの動機づけとなり、ジグソー活動ではAの資料を中心として答えをまとめて行く様子が見られたようである。授業の流れとしては、時間があれば効果的な実験を行いたかったとの反省があった。

教 科 ・ № 理科 A204雲 教材作成者 黒木 亨(県立都城泉ヶ丘高等学校附属中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 天気の変化

テ ー マ 雲が出来る仕組みを説明しよう

ジグソー課題 雲が出来る仕組みを説明しよう

期 待 す る回答の要素

空気が暖められたり、山の斜面にそって上昇すると周りの気圧が低くなるため、膨張する。空気が膨張すると空気温度が下がり、やがて露点よりも低くなると、空気中の水蒸気の一部が小さな水滴になる。これが雲である。

エキスパートA 空気の上昇(空気が上昇する理由)

エキスパートB 空気の膨張(空気が膨張する理由)

エキスパートC 膨張した空気の温度(へこませて栓をしたペットボトルを膨らませ、温度の変化を見る)

所 感

実践者によれば、2回目のジグソー法で、生徒たちはスムーズに活動に取り組んだようである。ジグソー活動では、前回の「霧のでき方」で使用したエキスパート学習の内容「飽和水蒸気量・露点」を活用して課題を解決する班も多かったとのことで、ジグソー法による学習が既習事項の有益な活用機会となる可能性もある。実践の工夫としては、授業の最後に雲を作る実験を取り入れて、内容の定着を図った点とのことである。

教 科 ・ № 理科 A205天気図 教材作成者 黒木 亨(県立都城泉ヶ丘高等学校附属中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 天気の変化

テ ー マ 天気図から天気を予想しよう

ジグソー課題 今日の天気図から、明日の都城の天気がどうなるか予報をしよう

期 待 す る回答の要素

今日の天気図から、一日経過すると、低気圧・高気圧が西から東に約1000km移動する。明日は、都城付近に低気圧が移動する。前線の影響で、雨が降る。

エキスパートA 前線の構造と雲

エキスパートB 前線と天気

エキスパートC 日本付近における低気圧や高気圧の動き

所 感

授業は2時間を使って行われた。教材の工夫としては、エキスパート資料に内容把握のための課題(天気図に雲の種類を書き込む、天気図から気圧団の移動方位を読みとるなど)を設けた点である。実践者によれば、課題を解く中で生徒同士の話し合いが活発になり、とてもよかったとのことである。授業後の反省としては、ジグソー課題で晴雨のみに子どもたちの注目が集まってしまい、気温や雨の強さに注目がいかなかった点が挙げられた。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 A206呼吸 教材作成者 堀 公彦(竹田市立久住中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 呼吸

テ ー マ 呼吸の仕組み

ジグソー課題 身体に取り込む酸素は、どのようにして二酸化炭素に変わりはき出されるのか追跡しよう。

期 待 す る回答の要素

肺を膨らませて肺胞から酸素を血液中に取り込み、細胞でエネルギーを取り出すと二酸化炭素に変わる。その二酸化炭素が血液によって肺に送られ、空気中にはき出される。

エキスパートA 外呼吸:肺胞で酸素が血液中に取り込まれ、二酸化炭素が出される。

エキスパートB 肺が膨らむしくみ:肋間筋や横隔膜のはたらきによって肺が膨らんだり縮んだりする

エキスパートC 細胞の呼吸:細胞に送られた酸素は、エネルギーを取り出され、二酸化炭素に変わる。

所 感

エキスパート資料に読みとりのための課題を加えたことで、課題に即して議論が深まっている様子であった。肺が膨らむしくみについてのグループでは、身ぶり手ぶりを交えながら互いに説明しあう姿もみられた。ジグソー活動では課題に対する説明を文章にまとめるのに時間を要したが、子どもたちは集中力を切らさずに取り組んでいた。

教 科 ・ № 理科 A207秋の自然 教材作成者 林田恭二(国富町立八代小学校)

学 年 小学校4年生 単元・題材 生き物のくらし⑶秋の自然

テ ー マ 動植物の様子が秋に変化するのは何のため

ジグソー課題 水温や気温が下がって、秋の生き物の様子が変わったのはなぜだろう。

期 待 す る回答の要素

秋になって気温や水温が下がると、生き物の数が減ったり、活動がにぶくなったりしている。これは、生き物に合った冬への準備をしていると考えられる。

エキスパートA サクラ:葉が落ちて、枝に芽がついているのはなぜかを考える。

エキスパートB ヘチマ:成長が止まり、たねを作っているのはなぜかを考える。

エキスパートC カマキリ:カマキリが、卵(たまご)をうんで死んでしまうのはなぜかを考える。

所 感

生徒たちは多くの参観者に囲まれて緊張した様子で活動に取り組んだが、アンケートの主観評価では、全員が「とてもたのしかった」、または「たのしかった」と答えていた。多くのグループから、「春に新しい命をうむための準備をしながら冬を過ごす」、「種や卵で命をつなぐ」といった期待を超える見解が出てきた。しかしいくつかのグループでは、話し合いの形式にこだわって、議論がうまくつながらない様子も見受けられた。

教 科 ・ № 理科 A208原発 教材作成者 堀 公彦(竹田市立久住中学校)

学 年 中学校3年生 単元・題材 科学技術と人間

テ ー マ 原発は必要か

ジグソー課題 原子力発電の必要性について様々な角度から考えよう。

期 待 す る回答の要素

原子力発電について様々な角度から調べたことを交流することにより、原子力発電に関する確かな知識をふまえて、その必要性について自分なりに考えを持つことができる。

エキスパートA 原子力発電の仕組みについて原料、炉の仕組み、安全対策、立地条件の観点で調査

エキスパートB 世界と日本のエネルギー資源や事情について調査

エキスパートC エネルギーに関する法律など、人々の暮らしと原子力発電の関係について調査

所 感

この実践は、原子力発電についての調べ学習にジグソー法の形式を取り入れたもので、全7時間を使って行われた。エキスパート活動は4時間をかけ、担当する課題について自分自身でインターネットを使って調べ、調査結果をまとめたあとで同じ課題の担当者が集まって班の課題にせまった(各2時間)。その後、ジグソー活動を行い、「原発は必要か」という問いについて、ABCの調査結果を比較検討しながら、各自が自分の答えを作った。

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平成23年度活動報告書 第2集

【社会 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 社会 A101ハイブリッドカー 教材作成者 大久保朋広(五ヶ瀬町立上組小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 自動車をつくる工業

テ ー マ なぜ今、日本の自動車産業はハイブリッドカーで勝負しているのか

ジグソー課題 なぜ今、日本の自動車産業はハイブリッドカーで勝負しているのか

期 待 す る回答の要素

ガソリン車、ハイブリッドカー、電気自動車のメリット、デメリットを学ぶことや、日本の自動車技術について学ぶ活動を通して、日本の自動車産業に対する取組を知る。

エキスパートA 自動車のしくみと環境

エキスパートB 車の普及台数

エキスパートC 日本の自動車技術

所 感

「環境」、「普及台数」、「技術」の3つの観点から、ガソリン車、ハイブリッドカー、電気自動車を3段階で評価し、比較検討を行った。どのジグソーグループも評価結果は「同じ」になったが、その理由は多様であった。また授業後のアンケートでは、「どうして石油が未来になくなるのか」、「外国でハイブリッドカーの値段はなぜ高いのか」といった新しい課題も多様に出てきた。自分なりの納得は、自分なりの疑問を生み、次の学びへとつながる。

教 科 ・ № 社会 A102元寇 教材作成者 原島秀樹(南小国町立南小国中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 モンゴルの襲来と日本

テ ー マ 元寇から学ぼう―人権教育の視点から―

ジグソー課題 元寇で日本が勝ったのはなぜか

期 待 す る回答の要素

元寇を多面的に考察し、公正に判断する活動を通して、「争うことは人権侵害の一つ」であることに気づき、「人間関係」について自分の考えを持つ。

エキスパートA 元軍の構成

エキスパートB 元と東アジアの国々との争乱

エキスパートC 日本の人たちのはたらき

所 感

この授業は、人権教育研究指定校の研究発表として、元寇を通じて「人のまとまり」の大切さを学ぶことを目標にデザインされた。A103元寇の教材と比較していただくと、同じ「元寇」の単元でジグソー法を用い、多国間の関係に焦点をあてた授業でも、ねらいや「柱となる課題」の設定によって、多様な授業展開があり得ることがわかる。

教 科 ・ № 社会 A103元寇 教材作成者 面矢和弥(有田川町立石垣中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 元の襲来と鎌倉幕府のおとろえ

テ ー マ 元寇はなぜ起こったのか

ジグソー課題 元寇はなぜ起こったのか

期 待 す る回答の要素

元・高麗・鎌倉幕府のそれぞれの立場から元寇を多面的・多角的に考察し、元寇が起こった理由を説明できる。

エキスパートA 元の事情

エキスパートB 高麗の事情

エキスパートC 鎌倉幕府の事情

所 感

資料の難度が高く生徒の理解が不安視されたが、生徒たちは、各国の政策や国内事情などの諸要素を、囲みや矢印を使って図式化しながら、元寇の起こった理由について構造的な説明を作っていった。この教材は、大学生や大人を対象に実施した事例でも、それぞれの既有知識に応じて充実した学習が展開されている。

99

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【社会 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 社会 A201馬 教材作成者 面矢和弥(有田川町立石垣中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 日本の古代国家の形成

テ ー マ 大谷古墳から馬につける が出土したのはなぜだろうか

ジグソー課題 大谷古墳から馬につける が出土したのはなぜだろうか

期 待 す る回答の要素

「大和でもかなり位の高い和歌山の王が、朝鮮半島に出陣しその戦利品として手に入れ、権威を象徴するものとして墓に飾られた」、「大和でもかなり位の高い和歌山の王と、朝鮮半島の国 (々カヤ)とは、交易などで親しい関係であった。友好の印に馬 をプレゼントされ、権威を象徴するものとして墓に飾られた」など。

エキスパートA 大和王権と和歌山についての資料

エキスパートB 和歌山と東アジアの国々との関係についての資料

エキスパートC 和歌山における渡来人についての資料

所 感

生徒のアンケート「わかったこと」の例:紀ノ川が「1つのげんかん」だというのがけっこう意外でした。馬ちゅうは身分の高い人しか持ってなかったから、身分の高い人の墓(古墳)から出てきたと思いました。難しい資料だったが生徒たちは限られた時間で読みこみ、普段大人しいという生徒もふくめ大変意欲的に発言していた。授業後は「頭を使って疲れた」という感想がきかれた。

教 科 ・ № 社会 A202米 教材作成者 大久保朋広(五ヶ瀬町立上組小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 米づくりのさかんな庄内平野

テ ー マ 日本の米づくり

ジグソー課題 なぜ、日本の米の生産量は減っているのだろうか

期 待 す る回答の要素

農業人口が減少するとともに、農家の高齢化も進んだことで、米の生産量が減っている。パンの消費量が増えるなど、日本人の食生活も欧米化している。さらに、国が減反や転作などを農家に奨励したことにより、作付面積も減ってきた。生産量が減った原因は、色々な立場の事情が複雑にからみあっている。

エキスパートA 農業人口の減少・高齢化についての資料(生産者の立場)

エキスパートB 日本人の食生活の欧米化についての資料(消費者の立場)

エキスパートC 生産調整による作付面積の減少についての資料(国の立場)

所 感

授業内容は子どもたちの印象に強く残ったようで、アンケートの記述量はどの生徒も非常に多かった。特に「もっと知りたくなったこと」の欄に豊富な記述がみられたのは特徴的である。例としては「なぜ生産調整を行ってお米が減ってきてもお米づくりを再開せずにいたのか」、「お米は、いつの時代から作られはじめたか」などがあり、ジグソー法による授業の経験が次なる学習への動機づけとして機能している様子がうかがわれる。

教 科 ・ № 社会 A203島原 教材作成者 吉住 聡(九重町立飯田中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 江戸幕府の成立と鎖国

テ ー マ 島原の乱

ジグソー課題 なぜ江戸幕府は、島原・天草一揆に12万余りの大軍を送り、徹底的に討伐したのだろう

期 待 す る回答の要素

幕府は支配体制確立のために、身分制度に反するキリスト教の教えを弾圧したかった。プロテスタントで布教を望まないオランダと交易を行うことで、南蛮貿易からの利益を失うことに対する懸念もなくなったので、島原・天草一揆を徹底的に弾圧することが可能だった。

エキスパートA 身分制度の幕府にとっての重要性についての資料

エキスパートB カトリック諸国の布教と植民地化の脅威についての資料

エキスパートC キリスト教諸国との貿易の莫大な利益についての資料

所 感

実践者によれば、エキスパートの資料が「少しだけ難しく、時間が足りなかった」ために、「文章を減らして、視角的な資料から読み取れる時間を確保すべきだった」とのことであった。しかし生徒たちは真剣に授業に取り組み、コミュニケーションの苦手な学力的に厳しい生徒にも発言の機会があり、懸命に読みとこうと努力する姿が見られたという。

100

平成23年度活動報告書 第2集

【社会 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 社会 A204エネルギー 教材作成者 南畑好伸(有田市立文成中学校)

学 年 中学校2年生 単元・題材 資源・エネルギーからみた日本

テ ー マ 資源とエネルギー

ジグソー課題 日本は今後どの発電に力を入れるべきか~火力・原子力・自然エネルギー~

期 待 す る回答の要素

持続可能な社会を構築するためには、火力・原子力・自然エネルギーの特性を理解し、バランスよく組み合わせることが大切だ。

エキスパートA 火力発電についての資料(メリットとデメリット)

エキスパートB 原子力発電についての資料(メリットとデメリット)

エキスパートC 自然エネルギー発電(メリットとデメリット)

所 感

子どもたちのアンケートの「知りたくなったこと」の欄には、「各班が 自然エネルギー>を一位にした理由が少しわからなかった」というように他のグループの考えに興味を持つものや、「世界の発電がもっと知りたくなった」といったコメントがあった。実践者によれば、エキスパートの資料の構造をそろえ、ジグソー活動で他者から情報を得ることへと動機づける工夫を行ったことで、相互作用を促し、多面的な思考が可能になったとのことであった。

教 科 ・ № 社会 A205日米開戦 教材作成者 加藤裕邦(五ヶ瀬町立坂本小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 長く続いた戦争と人々の暮らし

テ ー マ 太平洋戦争開戦の理由

ジグソー課題 中国と戦っていた日本が、真珠湾(アメリカ)を攻撃したのはなぜだろう。

期 待 す る回答の要素

領土拡大を狙いつつ資源をアメリカからの輸入に頼っていた日本の事情、西欧諸国とともに日本の大陸進出を警戒するアメリカの利害対立をふまえ、日米開戦の理由を説明する。

エキスパートA 日本の状況

エキスパートB 日本とアメリカの関係

エキスパートC 日本と当時の世界状況

所 感

課題は子どもたちにとってレベルの高いものであり、課題解決への意欲を引き出すことができた。エキスパート活動では、内容豊富な資料を出来る限り理解しようと集中して取り組む様子が見られたが、それだけにジグソー活動で課題解決に必要な情報の取捨選択が難しくなる傾向もあった。エキスパート資料にジグソーと一貫した問いを設けるなど、読解の視点を与えて読みとりを支援するような工夫が必要かもしれないという反省があった。

教 科 ・ № 社会 A206日清・日露 教材作成者 間瀬智広(高浜市立翼小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 世界に歩み出した日本

テ ー マ 日清・日露戦争はなぜ起きた ―ビゴーの絵から考えよう―

ジグソー課題 日本と中国、日本とロシアは、なぜ戦争をしたのか

期 待 す る回答の要素

朝鮮に対する主導権をめぐり、日清戦争が起こった。戦後、清は朝鮮への影響力を失う。様子をうかがっていたロシアは、満州、さらには朝鮮へと影響力を拡大する。ロシアへの反発を強める日本は、日英同盟を結ぶ。ロシアは、イギリスとも日本とも対立していた。朝鮮と満州をめぐり、日露戦争が起こった。

エキスパートA 日本の立場からの資料(日清戦争・日露戦争)

エキスパートB 中国の立場からの資料(日清戦争)

エキスパートC ロシアの立場からの資料(日露戦争)

所 感

エキスパート資料は情報量が豊富で難易度は比較的高かったが、情勢をわかりやすく擬人化したビゴーの絵が、内容を自分なりに言葉にするための適切な足場かけになったようであった。実践者によれば、事前事後のワークノートにおける子どもの記述や事後アンケートは「なぜ戦争が起こったのか」、「どこをめぐって戦争をしたのか」をおさえられており、ねらいを達成できたとのことであった。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【社会 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 社会 A207工業地帯 教材作成者 川口勝寛(有田川町立鳥屋城小学校)

学 年 小学校5年生 単元・題材 工業の発達とわたしのたちのくらし

テ ー マ 工業地帯はなぜ海沿いか

ジグソー課題 なぜ日本の工業は太平洋ベルトに集中しているのだろうか。

期 待 す る回答の要素

原料やエネルギー資源は、海外から船によって輸入されている。工業地帯で製造された工業製品の多くはコンテナ船によって海外へと輸出されている。また、主な工業地帯・工業地域の誘致・発達により、人口が集中している。

エキスパートA 原料の輸入方法についての資料

エキスパートB 工業製品輸出方法についての資料

エキスパートC 日本の人口についての資料

所 感

実践者によれば、資料に社会見学での経験や工業地帯、工業地域名や太平洋ベルトといった既習事項をのせておいたことは、子ども自身が既有知識と新しい学習内容を結びつけて理解を深めることに効果的だったようである。子どものアンケートからは「全都道府県の人口を知りたくなった」、「輸出入に飛行機を使わないのはなぜか」など、次の学習につながる問いが生まれている様子がうかがえた。

教 科 ・ № 社会 A208兵農分離 教材作成者 原島秀樹(南小国町立南小国中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 ヨーロッパ人との出会いと全国統一

テ ー マ 豊臣秀吉はどんな社会を作ろうとしたのか

ジグソー課題 豊臣秀吉はどのような社会をつくったのだろうか

期 待 す る回答の要素

豊臣秀吉は太閤検地や刀狩、身分統制の政策を行って、全国の土地を調査記録させたり、武器を取り上げたりして旧勢力の権力を奪い、土地や人々を支配下に置いた。結果的に、秀吉は兵農分離という、新しい社会の仕組みをつくった。

エキスパートA 太閤検地についての資料

エキスパートB 身分統制令についての資料

エキスパートC 刀狩令についての資料

所 感

生徒の「わかったこと」より:秀吉は太閤検地、刀狩令、身分等整理を出したことで、年貢を確実におさめさせ、経済を安定させたことがわかりました。農民は一揆もおこせずに苦しくなって、どんな思いなんだろうと思いました。実践者によれば、50分を貫く学習課題を設定できたことで、終始、生徒は1つの課題に対する自分の考えを追い求めることができ、満足感を得ることができたとのことである。

教 科 ・ № 社会 A209太平洋戦争 教材作成者 間瀬智広(高浜市立翼小学校)

学 年 小学校6年生 単元・題材 長く続いた戦争と人々の暮らし

テ ー マ 太平洋戦争はなぜ起きた ―日・米・英の立場から―

ジグソー課題 日露戦争で協力していたイギリスやアメリカと、日本はなぜ戦争することになったのだろうか

期 待 す る回答の要素

日本が、中国や東南アジアでの利益をめぐってイギリスやアメリカと対立を深めて戦争に至るプロセスについて、「三国同盟」、「武器や資源の輸出入」、「英・米と他の西欧諸国の関係」といったポイントをふまえて説明する。

エキスパートA 20世紀初期~太平洋戦争開始までの日本の動き

エキスパートB 20世紀初期~太平洋戦争開始までのイギリスの動き

エキスパートC 20世紀初期~太平洋戦争開始までのアメリカの動き

所 感

教材作成者は、単元を通して、豊富な資料を読んで自分なりの説明を作るという活動を重視した授業を計画しており、その一環として知識構成型ジグソー法の実践が行われた。子どもたちは、自身の記述について「こういうこと 」と確認したり、資料や記述を見せ合うなどの活動を通して、回答を深化させていく様子がみられた。

102

平成23年度活動報告書 第2集

【社会 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 社会 A210豊臣秀吉 教材作成者 髙垣和生(有田市立初島中学校)

学 年 中学校1年生 単元・題材 ヨーロッパ人との出会いと全国統一

テ ー マ 豊臣秀吉が最も強い思いを持って行った政策は

ジグソー課題 豊臣秀吉が最も強い思いを持って行った政策は

期 待 す る回答の要素

「兵農分離」「朝鮮出兵」「大坂城築城」という3つの政策を通して秀吉が作ろうとした、豊臣氏が長期政権として君臨できる社会のイメージを、自分の言葉で語る

エキスパートA 兵農分離についての資料

エキスパートB 朝鮮出兵についての資料

エキスパートC 大坂城築城についての資料

所 感

生徒の「わかったこと」より:大坂城のことがわかった/豊臣秀吉は刀狩りなどをしていたので頭のいい人だと分かった。生徒の「わかったこと」には、授業で提示された3つの政策のうち1つに触れたものが多かったのはジグソー活動で3つの政策を比較検討することを促す課題を出したことが影響しているかもしれない。生徒の授業満足度は概して高かった。

103

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

3.高校での実践―「県立高校学力向上基盤形成事業」―

本節では、「県立高校学力向上基盤形成事業」で研究推進委員が取り組んだ協調学習を引き起こす授

業づくりの成果物として、2年間で作成された知識構成型ジグソー法を用いた教材のリストを掲載す

る。「県立高校学力向上基盤形成事業」における各教科の協調学習の授業づくり研究の成果と課題とし

ては、あわせて本報告書第2章第3節4項の各教科担当指導主事による振り返りを参照されたい。

掲載した教材は、平成22年度開発分が国語7、外国語6、数学4、理科1、地歴1、美術2の計21教材、

平成23年度開発分が国語12、外国語8、数学7、理科と数学のコラボレーション1、理科11、地歴4、公

民4、美術5、家庭科3の計55教材、総計76教材である。これ以外にも実践例はあるが、原則としてCoREF

が直接あるいは映像で参観したもの、教材開発に携わったものを中心に、必要なデータがそろってい

る教材を収録した。

なお、リストに収録されている教材の授業案、実施教材(エキスパート資料、ワークシート等)、実

践者の授業後コメントについては、本報告書付属のDVDに収録した。また、いくつかの教材では、子

どもの記述もあわせて収録している。

以下、教材リストの見方について説明する。

教科・No」は本報告書における当該教材の識別番号である。「A」は「新しい学びプロジェクト」、

「S」は「県立高校学力向上基盤形成事業」の開発教材をそれぞれ表している。また、百の位の数字

「1」は「平成22年度」、「2」は「平成23年度」の開発教材を表しており、下2ケタは原則実践順を示す

教科ごとの年度内の通し番号である。

教材作成者」は教材を作成した研究推進(委)員の作成当時の所属、氏名であり、学年、単元も実践

当時のものである。中には複数の学年、単元で実践された教材もあるが、ここではオリジナルの教材

作成者による最初の実践時のデータのみ記載している。

テーマ」は、CoREFが設定したその教材のタイトルである。

ジグソー課題」はその授業の中心となるジグソーグループで取り組む課題であり、「期待する回答

の要素」はその課題に対して授業の最後に出してほしい答えの要素である。

エキスパートA B C」とあるのは、「ジグソー課題」に答えを出すための部品であり、それぞれの

エキスパートグループがこの内容について分担して学んでくることになる。エキスパートの数は多く

の教材で3つだが、2つのものや4つのものも存在する。

所感」の欄には、実際の授業の様子や子どもの記述、アンケート結果についてのCoREFの所感及び

実践者の授業後の振り返りコメントからの抜粋が含まれる。

104

平成23年度活動報告書 第2集

(1)教材リスト【国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S101わたしが一番きれいだったとき 教材作成者 寺嶋 毅(春日部女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 『わたしが一番きれいだったとき』

テ ー マ 『わたしが一番きれいだったとき』

ジグソー課題 茨木のり子が『わたしが一番きれいだったとき』の詩を通して言いたかったことは何か

期 待 す る回答の要素

作者の生き方や作品の時代背景、表現の特徴をふまえ、詩のテーマを多角的かつ主体的に読みとり、この詩の魅力を効果的に伝えるキャッチコピーを考える。

エキスパートA 詩の時代背景

エキスパートB 表現の特徴

エキスパートC 作者の生き方

所 感

作品に対する生徒の読みは、詩の語句自体をとらえた直観的なものから、詩に書かれていない作者のメッセージを感じとるまでに深まった。また、学習課題を超えて新たな疑問を見出している生徒も多く、主体的に学習に取り組んだ様子がうかがわれる。

教 科 ・ № 国語 S102三大和歌集 教材作成者 板谷大介(浦和高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 和歌

テ ー マ 三大和歌集の特徴を比べてみよう

ジグソー課題 三大和歌集の特徴を比べてみよう

期 待 す る回答の要素

それぞれの和歌集の特徴をふまえた具体的な歌の鑑賞をふまえ、三大和歌集の作風や特徴を理解する。

エキスパートA 『万葉集』の恋の歌の鑑賞

エキスパートB 『古今和歌集』の恋の歌の鑑賞

エキスパートC 『新古今和歌集』の恋の歌の鑑賞

所 感

生徒の活動は非常に活発であった。課題に対する生徒の理解は、授業前には収録歌数や「日本最古」といった各歌集についての<情報>が中心だが、授業後には収録されている和歌の特徴と結びついたものへと変化している。また、<文化としての和歌>のように、教材に含まれていない視点が出てくるなど、生徒たちは他教科での学習とも結びつけながら、課題についてそれぞれイメージをふくらませていた。

教 科 ・ № 国語 S103漢詩鑑賞 教材作成者 竹部伸一(越ヶ谷高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 漢詩

テ ー マ 漢詩の鑑賞法

ジグソー課題 漢詩鑑賞のための方略を言葉でまとめ、実際に漢詩を鑑賞してみる

期 待 す る回答の要素

漢詩の鑑賞を深めるためには、書かれた言葉から、作品内の視点を見つけ、そこから見える情景を想像し、さらにその情景を見ている語り手や登場人物の心情を想像すると良いということを理解する。

エキスパートA 「自分なりの発見」をすることで短歌を読むことが楽しくなったと述べてある文章

エキスパートB 情景を理解するには、登場人物や語り手の視点を設定してみるとよいと述べてある文章

エキスパートC 心情を理解するには、登場人物や語り手が見ている「見え」を生成してみると良いと述べている文章

所 感

生徒たちは、鑑賞法についての文章を読み、考えを出し合ったうえで実際の漢詩の観賞を行うことにより、観賞法が自分なりの言葉でまとめなおされて記憶することができたようである。「想像」というキーワードは多くの生徒のアンケート記述に出てきていた。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S104歌物語 教材作成者 藤井嘉子(吉川高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 短歌

テ ー マ 歌物語を作ってみよう

ジグソー課題 歌物語を作る

期 待 す る回答の要素

短歌の表現に即して和歌を解釈し、その解釈をふまえて歌物語を作る活動を通して短歌を味わう。

エキスパートA 歌物語のテーマを考える

エキスパートB 歌物語の種を見つける

エキスパートC 物語の成立条件=物語の骨組みを作る

所 感

アンケート結果より、生徒たちは概ね、互いに意見を出して聴き合うことで、歌物語を作る楽しさや、他者との視点の違いを実感できたと考えられる。一方で、学習方法の満足度に2以下を選択している生徒が計2名いた。物語作りという、自分の感性を表現することに抵抗がある生徒への対応が、今後の課題として考えられる。

教 科 ・ № 国語 S105ジェンダー 教材作成者 飯島 健(戸田翔陽高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 意見文

テ ー マ ジェンダーとは何か

ジグソー課題 ジェンダーとは何か

期 待 す る回答の要素

「刷り込み」「呪縛」「こだわり」の3つの概念を中心にジェンダーとは何かを理解し、望ましい「あり方・生き方」について考える。

エキスパートA 「拒食・過食 男たちがヤバイ」(AERA 2000.5.1)

エキスパートB 「週刊文春」「女性自身」新聞広告見出し 2010.6.10東京新聞

エキスパートC 「恋愛しない女たち」(AERA 1999.12.6)

所 感

参加した生徒たちは「ジェンダー」によって社会や個人の生き方が無自覚に規定されていることの問題を自分なりの言葉でとらえ、それをふまえて自分の生き方について考えることができたようである。欠席者が多かった点からは、グループ活動そのものに抵抗感を持つ生徒をどのように巻き込んでいくかという課題も見えてきた。

教 科 ・ № 国語 S106高瀬舟 教材作成者 畑 文子(富士見高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 『高瀬舟』

テ ー マ 『高瀬舟』―喜助の行為をどう意味づけるか―

ジグソー課題 「お奉行様」として主人公喜助に対する判決文を考える

期 待 す る回答の要素

小説『高瀬舟』の登場人物(喜助)の人となりや行動を読解した上で、彼のとった行為を意味づけ、評価することができるようになる。

エキスパートA 「貧困と自殺」

エキスパートB 「安楽死の是非」

エキスパートC 「親族殺人/自殺幇助」

所 感

エキスパート活動の資料の内容が比較的難しく、分量も多かったため、はじめはあまり活発に話し合いが起こらなかった。しかしジグソー活動が始まると説明と質問の交換を通して徐々に話し合いが活発化し、全グループが喜助の行いと内面の葛藤を自分なりに理解したうえで判決を導き出すことができた。

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平成23年度活動報告書 第2集

【国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S107漢詩創作 教材作成者 小池 章(秩父高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 漢詩

テ ー マ 漢詩の創作

ジグソー課題 「晩秋即事」という題で漢詩を創作する

期 待 す る回答の要素

漢詩作成の手順とルールをふまえて漢詩を完成させる。

エキスパートA 「詩語表の見方」

エキスパートB 「漢詩作成上の注意点」

エキスパートC 「漢詩作成の手順」

所 感

この授業では、詩語表から漢字を選んで漢詩を創作するジグソー活動において、特に活発に話し合いが起き、全グループが個性的な『晩秋即事』を完成させた。「特定の音の漢字群から漢字を選んで、各グループなりの詩句をつくる」というような「規則のある表現活動」は、活発な話し合いを引き起こすのに適した課題と考えられる。

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S201茨木のり子 教材作成者 藤井嘉子(吉川高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 詩の観賞

テ ー マ 茨木のり子の詩を鑑賞する

ジグソー課題 茨木のり子の詩の特徴を理解し、作者への手紙の形式で自分たちの感想を書く。

期 待 す る回答の要素

茨木のり子の前向きで時代に流されない生き方を詩から読み取り、それに対する自分の思いを表現する。

エキスパートA 『わたしが一番きれいだったとき』

エキスパートB 『自分の感受性くらい』

エキスパートC 『椅りかからず』

所 感

ジグソー活動で、作者の年譜を参照しながら、詩の特徴をまとめていく過程で、生徒たちは茨木のり子の自立的な生き方と詩に込められたメッセージを読み取っていった。感想を「手紙形式」で書かせたことで、読み手を意識した具体的で豊かな文章を書くことができた。

教 科 ・ № 国語 S202こころ 教材作成者 板谷大介(浦和第一女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 こころ

テ ー マ 『こころ』-先生・K・お嬢さんの視点から-

ジグソー課題 先生・K・お嬢さんはそれぞれのどのような人物か

期 待 す る回答の要素

各々の登場人物について生徒が他の生徒と話し合いを行い、それを通じて、生徒が作品解釈、考え、意見、感想等を提示し、その根拠・理由なども述べる。

エキスパートA 先生はどのような人物として描かれているか

エキスパートB Kの自殺の原因は

エキスパートC お嬢さんはどのような人物として描かれているか

所 感

生徒は、エキスパート、ジグソー、クロストークと自分の考えを発展させるのに使えそうな他者の考えをどんどん取り入れて読みを深めていった。例えばある生徒は、授業前には『こころ』は「エゴイズム」の小説だとまとめていたが、授業後には「私」の人間らしさが多様な面から見られ」ることや「人物像がはっきりしている」ところに魅力を感じると回答していた。

107

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S203メディア 教材作成者 赤沼佳幸(上尾鷹の台高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 現代文「実用の文書」

テ ー マ 現代文「実用の文書」―メディアリテラシーを身につける―

ジグソー課題 マスメディアの情報に隠れている「作り手側の“何か”」とは何か

期 待 す る回答の要素

メディアを通して知る情報は「作り手の主観・視点によって構成された出来事の一部」であることに気付かせるとともに、メディア情報に対し、少々の「疑いの目」も必要なのではないかという意識を喚起する。

エキスパートA 同一の火事について報じた新聞記事を読み比べる

エキスパートB 同一の事件について報じた新聞記事の見出しを比べる

エキスパートC 同一人物について異なる観点から説明した2つの文章を比べる

所 感

多くの生徒が、作り手の主観によって新聞などの文章から受ける印象が異なることを知ることができ、期待する要素を含んだ回答を書いていた。実際の新聞記事などを素材とした資料は、生徒の興味をひいていた様子である。会話はあまり活発ではなかったが、プリントを見せ合うなどしてグループ内で回答を比較検討している姿が見受けられた。

教 科 ・ № 国語 S204死の哲学 教材作成者 寺嶋 毅(春日部女子高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 評論「癒しとしての死の哲学」(小浜逸郎)

テ ー マ 『癒しとしての死の哲学』―末期患者への告知はどうあるべきか―

ジグソー課題 末期患者に対する「告知」はどうあるべきか。

期 待 す る回答の要素

・病気の「告知」が末期患者の人生の最期を豊かなものとした「条件」(一人称的視点)・夫の病状を「告知」されなかった妻の「死の受容」について(二人称的視点)・望ましい「告知」のあり方とは(三人称的視点)

エキスパートA 一人称の死(「告知」による「死の受容」と「豊かな生」の実現)

エキスパートB 二人称の死(夫の病状を「告知」されなかった妻の「死の受容」)

エキスパートC 三人称の死(他者としての医師と「告知」のあり方)

所 感

生徒達は、ガン告知という重いテーマに対し、真剣に向き合って、どうあるべきかを探っていた。ジグソー活動へ移行した際もすぐに話し合いに取りかかり、生徒たちの関心が高まっていることが見受けられた。あるグループでは、それぞれが発表した後で、「とりあえず告知はした方がいい」という立場を決め、では、どうあるべきか、という、本時のポイントに取りかかることができていた。

教 科 ・ № 国語 S205原発 教材作成者 竹部伸一(越ヶ谷高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 小論文の書き方

テ ー マ 小論文を書く「原発は必要か」

ジグソー課題 原子力発電を推進すべきかどうかについて、あなたの意見を述べなさい。

期 待 す る回答の要素

「なるほど、そういう考え方もあるかもしれないけれど、やっぱり私は、こう思う」(反論に配慮して、自分の意見を書く)

エキスパートA 原子力発電はコストがかからない。

エキスパートB 原子力発電はCOを輩出しない。

エキスパートC 原子力発電所が建設される地元を豊かにする。

所 感

最初、生徒のほとんどは原発に反対であったが、原発賛成の文章をエキスパート活動で読むことによって、原発の利点を理解し、それに対する反論を考えていた。ある生徒は、賛成側の立場を取っていたが、話し合う中で、反対側の意見も知っておくことは大事、という発言をグループ内でしていた。授業の終わりには、多くの生徒が、もっと原発について知る必要がある、という課題意識を持つようになった。

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平成23年度活動報告書 第2集

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S206源氏物語 教材作成者 畑 文子(富士見高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 源氏物語

テ ー マ 古典講読『源氏物語』

ジグソー課題 若紫への思いの丈を綴るラブレターを、光源氏に成り代わって作成する

期 待 す る回答の要素

須磨蟄居を決意したのは、自らの保身のためだけではなく、若紫、夕霧、東宮を守りたいという自覚が芽生えつつあること。男性として成長していく光源氏、女性として成長していく若紫の二人が、運命の赴くままにひかれあう様。

エキスパートA 須磨行きを決意した契機・目的・心残り

エキスパートB 須磨とのいう場所について・そこで体験した3月の不思議な出来事

エキスパートC 若紫とのやり取り・彼女の悲しみと成長

所 感

このクラスでは、1年間を通じてジグソーによる源氏物語の講読を行っている。基礎学力に課題のあると言われる生徒たちだが、注釈のついた古文をグループで相談しながら読み解き、その都度彼らの実態に合わせた課題に答えを出す活動を繰り返すことを通じて、自分たちなりの『源氏物語』理解を深め、『源氏物語』の世界を楽しんで味わうことができるようになってきている。

教 科 ・ № 国語 S207こころ 教材作成者 畑 文子(富士見高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 こころ

テ ー マ 『こころ』―X年後の奥さんの手紙―

ジグソー課題 「すべてを知っていた」奥さんを仮定し、その立場からX年後私への告白手記を書く

期 待 す る回答の要素

その後の『こころ』の展開として、顔の見えない登場人物である「奥さん」が実は全てを見抜いていたという設定でプロットを再構成し、この奥さんの立場から他の登場人物との関係について語る。

エキスパートA 年表から「先生」について振り返る

エキスパートB 年表から「K」について振り返る

エキスパートC 年表から「奥さん(お嬢さん)」について振り返る

所 感

『こころ』全編を通読した後、読後感の熟成をねらって行われた。特に学力的に困難な生徒の多いクラスであったが、ジグソーグループでは、告白文を作成する作業を通じて物語の全体像が見えてきたのか、登場人物についての自分たちのイメージをつぶやきながら、こだわりを持って文章を作成する様子が見られた。

教 科 ・ № 国語 S208自動販売機 教材作成者 飯島 健(戸田翔陽高校)

学 年 高校複式 単元・題材 意見を述べる

テ ー マ 意見文「なぜ自動販売機はこんなにたくさんあるのか」

ジグソー課題 何故学校の近くに7台も自動販売機があるのか。それについてどう考えるか。

期 待 す る回答の要素

自動販売機は、「売ること」だけでなく、購買意欲を喚起する広告的役割を果たしていることを考えさせたい。大量消費社会で生きる上ではそのような企業戦略もあり、静観することの必要性に気づかせたい。

エキスパートA 2010年自動販売機稼働台数・販売比率の変遷

エキスパートB 自販機設置・減価償却可能な売上本数計算╱企業による自動販売機設置案内

エキスパートC 2011年上半期広告費

所 感

生徒たちは、AとBの資料を対照することで「自動販売機を設置しても設置者にはほとんど利益が見込めない」ことに気づいたり、それとCの資料を組み合わせて「企業には広告というメリットがあり、近隣に多く設置することでのメンテナンス等のコスト面のデメリットは薄いが、設置者にはデメリットだらけ」といった結論を自分たちで導きだしたりすることで、「大人でもこのことを知らない人の方が多いよね」と知的な興奮を味わっている様子だった。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S209筒井筒 教材作成者 千代卓行(南稜高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 伊勢物語

テ ー マ 伊勢物語『筒井筒』

ジグソー課題 『筒井筒』のレビューを作成する

期 待 す る回答の要素

本文の記述に基づいて男、筒井筒の女、高安の女それぞれの人物像を描き、それをふまえて、「模範」の読みを超えた『筒井筒』のレビューを作成する。

エキスパートA 主人公の男の人物像に迫る

エキスパートB 筒井筒の女の人物像に迫る

エキスパートC 高安の女の人物像に迫る

所 感

エキスパートやジグソーでは、自分自身のイメージに基づいて豊かに想像を膨らませたり、これまでの授業で学んできた「古文常識」に即してそれぞれの登場人物の行動を論理的に解釈するなど、様々な観点から登場人物の人物像に迫る様子がみられた。クロストークでは、発表されたレビューに対して、他のグループから自然と感嘆の声が出ていた。

教 科 ・ № 国語 S210であること 教材作成者 皆川裕紀(川越女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 『「である」ことと「する」こと』(丸山真男)

テ ー マ 日本の近代化の特色は ―丸山真男『「である」ことと「する」こと』への導入―

ジグソー課題 明治の日本の「近代化」とはどのようなものであったか

期 待 す る回答の要素

日本では西洋に比べて近代化が急激に進み、西洋から取り入れた社会制度や科学技術などの物的な進化に精神性が追いつかなかったという特徴を持っていることをとらえる。

エキスパートA 夏目漱石『現代日本の開化』(抜粋)

エキスパートB 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(抜粋)

エキスパートC 鈴木孝夫『教養としての言語学』(抜粋)

所 感

エキスパート活動では、個人でテキストを読み込んでから課題に対する答えを見せ合ったり、最初から考えを出し合いながらグループ内で協力して読み進めるなど、グループごとに自分たちのペースで読みを深める姿が見られた。ジグソーでは、「夏目さんの考えはこうで…」などと、生徒たちが各論者の主張を自分なりに理解して議論しており、授業の終わりにはどのグループからも期待する要素を含む回答が出された。

教 科 ・ № 国語 S211川柳 教材作成者 小池 章(秩父高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 川柳

テ ー マ 川柳の創作

ジグソー課題 いくつかの前句を提示し、それに対応する川柳を作る

期 待 す る回答の要素

川柳の形式と表現技法をふまえ、グループで内容と語句を吟味して川柳を作る。

エキスパートA 川柳の文学史的背景と、前句付け

エキスパートB 比喩・擬人法・断定の使い方

エキスパートC サラリーマン川柳の解釈

所 感

川柳に初めて触れた生徒がほとんどであったにもかかわらず、ジグソー活動では全てのグループが、学校や日常生活に題材をとった自分たちなりの川柳を作ることができた。普段活発に発言することがあまり多くないクラスでの実践とのことであったが、前句に合う場面や使用する言葉について話し合いながら、川柳の完成度を上げていく様子が見られた。

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平成23年度活動報告書 第2集

【国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 国語 S212異境訪問譚 教材作成者 松本靖子(伊奈学園総合高校)

学 年 高校1,2年生 単元・題材 国語総合・「桃花源記」

テ ー マ 異境訪問譚

ジグソー課題 異境を訪ねる物語に「通路に共通性がある」事から、「定型」があることを理解し、他の共通性も探索する

期 待 す る回答の要素

「入り口と通路」という共通因子でいろいろな物語がくくれて、比較・分類できることのおもしろさを感じる。中国の六朝小説が、日本の昔話や小説、アニメーション、イギリスの童話にも当てはまるのはなぜか。異境に夢や希望を求めるなど、人の考えることは共通するものがあるのではないか。

エキスパートA 「桃花源記」の異境への入り方。陶淵明はなぜこの物語を書いたか。

エキスパートB 「おむすびころりん」「千と千尋の神隠し」の異境への入り方。宮崎駿はなぜこのアニメを作ったか。

エキスパートC 「ハリーポッターと賢者の石」の異境への入り方。J.K.ローリングはなぜこの物語を書いたか。

所 感

エキスパート活動では、生徒たちは、それぞれのテキストを読み込んで、書かれた内容に戻りながら課題に取り組んでいた。ジグソー活動の発展的な課題では、一転して、大変多様な意見や感覚が語られていた。、クロストークでは「空間の移動は狭い通路を通ることが多く、時間の移動は広い通路、例えば浦島の海のような、を通って語られることが多いのではないか」といった一段高い考察も出されていた。

【外国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 英語 S101関係代名詞 教材作成者 平山 努(越ヶ谷高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 関係代名詞

テ ー マ 『who/whom/which/whose/that』ってどんな言葉

ジグソー課題 “who/whom/which/whose/that”は本来どのような使いかたをされるのか

期 待 す る回答の要素

“who/whom/which/whose/that”の使い分けについて、文法規則をふまえて説明し、本来疑問詞と関係代名詞の使い方の区別はなく、同じであることを知る。

エキスパートA “who/whom”の使い方を探る

エキスパートB “which”の使い方を探る

エキスパートC “whose”の使い方を探る

所 感

アンケート結果から、生徒は話し合いを楽しみながら、各関係代名詞の使い分けについて理解を深めることができたようである。関係代名詞の種類ごとに分けるエキスパート教材の組み方が、関係代名詞の使い分けについての理解を促していたと考えられる。ただし、関係代名詞thatの使い方について疑問を提示する生徒の記述もいくつかあったことから、本教材におけるthatの扱いや位置づけに関し、今後検討する必要があると考えられる。

教 科 ・ № 英語 S102一日3食 教材作成者 安田やよい(春日部女子高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 リーディング

テ ー マ 人間が1日3食食べるのはなぜ ―英文を読んで考えよう―

ジグソー課題 「人間が1日3食食べるのはなぜ 」という問いに対して、英語で回答を作文する

期 待 す る回答の要素

資料からわかったことを組み合わせ、適切な英文で問いに対する正しい回答を作成する。

エキスパートA 「グリコーゲンの役割」についての英文

エキスパートB 「人間の体内時計」についての英文

エキスパートC 「肥満」についての英文

所 感

授業では、エキスパートとジグソーの両方で、「日本語で考えて話し合い、英語で表現する」というかたちで活動を行った。<文法に即して和文を英訳する>のでなく、<考えたことを伝える英文をつくる>活動としての英語表現を目指した授業と言える。生徒の感想からは、授業を通して自分の考えを自分たちなりの英語で表現するために考えをめぐらせていた様子がうかがえる。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【外国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 英語 S103カレンダー 教材作成者 小河園子(浦和高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 リーディング

テ ー マ カレンダーはなぜ必要か ―英文を読んで考えよう―

ジグソー課題 「カレンダーはなぜ必要か」という問いに対して、英語で回答を作文する

期 待 す る回答の要素

資料からわかったことを組み合わせ、適切な英文で問いに対する正しい回答を作成する。

エキスパートA 「ロビンソンクルーソー」(抜粋)の英文

エキスパートB 「逆回りの時計」についての英文

エキスパートC 「宇宙の標準時」についての英文

所 感

3つの英文資料の読解、統合を通じて、生徒は文明社会における「共通の基準」の必要性を見出し、各自の言葉で問いへの答えとしてそれを表現することができた。また、話合いの中で「なぜ時計は右回りなのか」などの新たな問いも生まれた。1年後に同じ問いについて回答を英語で書かせた追跡調査では、授業を通して得た知識が保持されていることが明らかになった。

教 科 ・ № 英語 S104健康 教材作成者 池野智史(浦和高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 リーディング

テ ー マ 健康を保つためには ―英文を読んで考えよう―

ジグソー課題 「健康を保つためには何が効果的か 」という問いに対して、英語で回答を作文する

期 待 す る回答の要素

資料からわかったことを組み合わせ、適切な英文で問いに対する正しい回答を作成する。

エキスパートA 「各国の伝統的な栄養食」についての英文

エキスパートB 「家族の健康法」についての英文

エキスパートC 「睡眠と健康」についての英文

所 感授業はALTを交えたオーラル・コミュニケーションの授業として実施され、英語を使用したコミュニケーションにより力点が置かれた。授業前後の記述の変化は比較的小さかったが、活動は活発で生徒の満足度は高かった。

教 科 ・ № 英語 S105宝探し 教材作成者 安田やよい(春日部女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 英語表現

テ ー マ ジミーの宝探し

ジグソー課題 地図の情報を組み合わせて宝の位置を特定し、宝までの道筋を教える英文を作る

期 待 す る回答の要素

道順についての英語表現を使って話し合い、宝の位置を特定し、宝にたどりつく行き方を教える英文を作る。

エキスパートA 家と木の配置が記入されている地図

エキスパートB 宝の場所とそれに一番近い木の位置関係が読み取れる図

エキスパートC 宝の場所とそれに一番近い家の位置関係が読み取れる図

所 感

ジグソー活動の際、「ABCの資料のもとが1つの地図からできていること」を理解することが活動をうまく進めるポイントのようであった。ジグソーでは全てのグループが宝の位置を正しく特定し、単語リストを活用しながら道順を説明する英文を作ることができた。

112

平成23年度活動報告書 第2集

【外国語 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 英語 S106未来の車 教材作成者 小河園子(浦和高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 英文読解

テ ー マ 未来の車はどんなものになるか

ジグソー課題 「未来に必要な車はどんなものか」という問いの回答と回答の理由を英文で書く

期 待 す る回答の要素

3つの自動車のデザインについてメリットとデメリットを比較検討したうえで、適切な英文で問いに対する正しい回答を作成する。

エキスパートA 日産自動車の新モデルについての英文(生徒にはUrawa1として提示)

エキスパートB 米国テスラー車の新モデル(生徒にはUrawa2として提示)

エキスパートC ベンチャー企業BugE 社の新モデル(生徒にはUrawa3として提示)

所 感

単語や熟語に詳しい生徒、自動車デザインに興味のある生徒、英作文が得意な生徒などが、各自の特性を発揮して授業に参加し、活発な活動が展開した。また、班の意見発表では「反対意見を言う時の切り出し方」などの表現形式を活用し、英語の得意でない生徒も含め、英語を使って論点の明快な討論を行うことができた。

【外国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 英語 S201 ing 教材作成者 中山厚志(松山女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 進行形、動名詞、現在分詞

テ ー マ 3つの「ing」

ジグソー課題 3枚の絵の状況を、進行形、動名詞、現在分詞を使った文でそれぞれ表現する

期 待 す る回答の要素

状況に応じて、進行形、動名詞、現在分詞を使い分け、それぞれの文法的規則にのっとった文を作ることができる。

エキスパートA 進行形の定義の確認、進行形を使った英文の研究と作文

エキスパートB 動名詞の定義の確認、動名詞を使った英文の研究と作文

エキスパートC 現在分詞の定義の確認、現在分詞を使った英文の研究と作文

所 感

3つの文法事項は既習であるにもかかわらず、授業の最初には3つの「ing」を使い分けて適切な英文を書ける生徒は少なかった。しかし3つの文法事項を比較研究する過程で、生徒たちはそれぞれの特徴と使い方を理解し、授業の最後には作文の数と質の両方が向上した。また、「私たちって、これまで英語どうやってたんだろう」という言葉がきかれるなど、英作文についてメタ的に考える視点が生まれるといった発展的な成果もあった。

教 科 ・ № 英語 S202免許 教材作成者 小河園子(浦和高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 課題英作文

テ ー マ 「免許を持っていない友人に自動車を貸してくれと頼まれたら」

ジグソー課題 友人を助けたいからこそ、あえて依頼を断るための話の組み立てを考える

期 待 す る回答の要素

親しい人に頼まれても絶対にだめだと断るべき場合はあり、そのほうが相手のためになることがある。

エキスパートA 無免許運転を禁止する道路交通法

エキスパートB 無免許運転幇助を禁止する道路交通法

エキスパートC 危険運転過失致死傷の構成要件

所 感

生徒達は、グループの中で、書く人、話す人、聴く人、辞書で調べる人という自然な役割分担や役割交代が生まれ、互いの分かったこと、分からないことを共有して、難しい課題に取り組んでいた。最終的にできあがった説明は、グループ間でもグループ内でも多様であり、最後の5分間に取り組んた入試問題に対する真剣さが、授業でどれだけ考えていたかを物語っていた。

113

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【外国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 英語 S203説明 教材作成者 池野智史(浦和高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 英作文

テ ー マ 納得できる説明

ジグソー課題 他者を納得させる上で配慮すべきこと・必要なことは何か

期 待 す る回答の要素

自分の選択した芸術科目の利点について、理由を示す文や比較を用いて、自分なりに説得力のある説明を英語で表現する。

エキスパートA 自分の選択した芸術科目の利点:音楽

エキスパートB 自分の選択した芸術科目の利点:美術

エキスパートC 自分の選択した芸術科目の利点:工芸

所 感

身近な題材を英語で話し合うことで、生徒たちの生の感覚が英語になっていた。中には、最初、英語が苦手だということを率直に語っていた生徒もいたが、身近な題材とグループの作りに支えられて、最後まできちんと話し合いに参加できていた。中には、内向きの説得と外向きの説得の違いに気づいた生徒もいた。

教 科 ・ № 英語 S204 the last leaf 教材作成者 小澤祐介(上尾鷹の台高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 『The last leaf』

テ ー マ The last leaf―“masterpiece”とは何か―

ジグソー課題 物語に登場する“masterpiece”とは何かを考える

期 待 す る回答の要素

ツタの葉に対するJohnsyの気持ちの変化を読み取り、Johnsyの心を動かした「最後の一葉」の絵がこの物語における“masterpiece”であることを把握する。

エキスパートA 1、2日目におけるJohnsyのツタの葉に対する考えを読み取る

エキスパートB 3、4日目におけるJohnsyのツタの葉に対する考えを読み取る

エキスパートC Behrmanがどのような人物かを読み取る

所 感いくつかのグループが、masterpieceが「最後の一葉の絵」であること、「人の心を動かすもの」であることに言及できた。授業後アンケートでは、グループで考えを比較しあうことの良さがわかったという記述がみられた。

教 科 ・ № 英語 S205book review 教材作成者 安田やよい(春日部女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 英語Ⅱ(Reading1ThedayI Met MyMother)

テ ー マ How to Write a Book Review

ジグソー課題 英文を書く際、読み手に伝えるためにどの点に注意して書けばよいのか

期 待 す る回答の要素

一つの英文の中に主語と動詞が必要であり、適切な動詞を使うと共に正しい形で用いる。単文で読みづらい文章を、接続詞を使って複文や重文に書きかえる。一つ一つの英文の順番を整える。

エキスパートA 主語と動詞を読み取り、正しくかつ適した動詞に修正する

エキスパートB 単文のみの段落から接続詞の必要性を読み取る

エキスパートC 英文を正しい順序に並べ替える

所 感

生徒たちにとっては慣れない課題で難しくはあったが、英文を丁寧に読み取り、英文の意味を踏まえて間違いを直したり、より文章の意味が通るように修正したりする活動が協力して取り組まれていた。ジグソー活動では、各エキスパートで学んだことを活かして間違いを直していくだけでなく、より良い英文を目指して文章の順番を大きく修正する場面も見られた。生徒達が学んだことを積極的に活用しており、今後の学習への応用が期待される。

114

平成23年度活動報告書 第2集

【外国語 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 英語 S206mermaid balloon 教材作成者 横田純一(庄和高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 The Mermaid Balloon

テ ー マ ジグソーリーディング―The Mermaid Balloon―

ジグソー課題 ストーリーの流れに合うように絵を並べ替える

期 待 す る回答の要素

情報が欠落してたり理解が不十分であっても、自分の中での推測や想像、あるいは他者の持っている理解や情報を活用することで、物語全体が理解できること。

エキスパートA ディジーの父親が亡くなっているという情報が欠落した英文

エキスパートB ディジーが風船に手紙をつけて送ったという情報が欠落した英文

エキスパートC 誰が、どうして風船に手紙をつけて送ったという情報が欠落した英文

所 感

基礎的な英語の能力に不十分なところもある生徒が多い中、単語単語を拾って意味を確認する生徒、それを聞きながら文章の意味を推測する生徒など、グループで協力しながらテキストを読み進めていった。ジグソーでは、自分の担当した部分を丁寧に掘り下げる生徒や全体像を把握しようとする生徒など、それぞれの学び方の個性がうまく活かされていた。生徒も「友達と一緒にやると、分からないところも分かる」など充実感を得ていた。

教 科 ・ № 英語 S207比較 教材作成者 中山厚志(松山女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 比較

テ ー マ どのレストランでランチする ―様々な比較表現を使いこなそう―

ジグソー課題 3つのレストランの良さを、様々な比較表現を使った文で説明する

期 待 す る回答の要素

as~as/比較級/最上級などの比較表現を使って、値段・カロリー・人気・立地等の情報をふまえ、それぞれのレストランの良さを、他と比較しながら適切な英文で説明できる。

エキスパートA 日本料理レストランについての情報を読み取り、良さを主張する英文を作る

エキスパートB イタリアン料理レストランについての情報を読み取り、良さを主張する英文を作る

エキスパートC 中華料理レストランについての情報を読み取り、良さを主張する英文を作る

所 感

授業の最初には、「better than…」といった熟語を機械的にあてはめた文を作る例が多く、生徒の英語表現は思い出せる単語や文法に制約されてしまっていたように感じられた。しかし、様々な情報や他のレストランの情報との比較を行う過程で、「“the best of all”って使えそうじゃない 」といった言葉が聞かれるなど、既習の文法事項と説明したい内容を結び付けて、英語表現を豊かにしていく様子が見られた。

教 科 ・ № 英語 S208クローン 教材作成者 小河園子(浦和高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 リーディング

テ ー マ クローン技術について考えよう

ジグソー課題 事故でペットを失った娘にクローンを与えたいという投書に回答する

期 待 す る回答の要素

生命の一回性について考える。教科書で学んだ題材をより多角的に捉える。

エキスパートA biologistの立場からクローン技術について書かれた英文

エキスパートB priestの立場からクローン技術について書かれた英文

エキスパートC editorの立場からクローン技術について書かれた英文

所 感

ジグソー活動で生徒たちは、各エキスパートで得てきた知識やクローン技術についての既有知識を出し合い、それらをうまく統合しながら結論を導き出そうとしていた。【生徒回答例】Weproposeyounot togiveher clonedpet.Aclonedpetisdifferentfromthedonor

in some ways. Its character is not only modified by the DNA,but also by the enviroment and

surroundings in which she grow.And your daughter may be happy when she first get the cloned

pet.But when she realize that it’s not exactly the same one,she will be disappointed in the end.

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【数学 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 S101解と係数の関係 教材作成者 癸生川大(越谷北高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 解と係数の関係

テ ー マ 解と係数の関係―式とグラフの関連―

ジグソー課題 二次方程式が異なる2つの負の解を持つ条件について解と係数の関係から見た解とグラフから見た解の関連を説明する

期 待 す る回答の要素

二次方程式の解と係数の関係を式とグラフの関連に基づいて理解する。

エキスパートA 判別式とグラフのy座標の関係

エキスパートB 解の和α+βとグラフの軸との関係

エキスパートC 解の積αβとグラフの切片との関係

所 感

生徒たちからは、「二次方程式」と「二次関数」の関連に驚いている感想が出てきた。ふだん数学を学ぶ際に単元と単元の関連をあまり意識していないことがうかがわれる。1つの主題を異なる角度から見て説明してみるという本実践のような授業はそのような問題に対して有効かもしれない。「話し合いを中心とした授業であること」また特に「ジグソー法」独特の形式に肯定的な評価をする感想がしばしば見られたのも興味深い。

教 科 ・ № 数学 S102極限 教材作成者 大久保貴章(吉川高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 極限

テ ー マ x=1とx→1はどう違う―「極限」とは何か―

ジグソー課題 x→1のとき、x -5x+4/x -3x+2が近づく値は

期 待 す る回答の要素 x=1とx→1の違いを具体的な計算を通して言葉で説明できる。

エキスパートA 電卓を使って極限値を概数で求める①

エキスパートB 電卓を使って極限値を概数で求める②

エキスパートC 2次式の因数分解の復習

所 感

基礎学力に課題がある高校での実践であったが、電卓という道具の操作を媒介に、考えを出し合いながら意欲的に活動に取り組むことができた。ジグソー後、「x=1を代入すると0/0となるはずの式が、電卓で0.9、0.99、0.999…」と近づけていくと「3」に近付くことの不思議さについて、「ぴったりじゃない。だけど、これが数学なんだよ」という発言がきかれるなど、数学の面白さや不思議さを自分なりに言葉にしている生徒の様子が印象的であった。

教 科 ・ № 数学 S103理想の答案 教材作成者 野崎亮太(浦和高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 答案作成

テ ー マ 理想の答案

ジグソー課題 理想の答案に求められる条件とは何か

期 待 す る回答の要素

数学答案の「伝える」役割を自覚し、問題の背後にある数学的構造を過不足なく表現するために必要な条件を理解する。

エキスパートA 答案を採点・加筆修正する

エキスパートB 答案を要約する

エキスパートC 芸術点の採点基準を作る

所 感

理想の答案の書き方について、生徒たちはエキスパート資料から観点を得ると共に、他者の答案に対する考え方を媒介にして、自分の答案の書き方について振り返ることができたようである。「今回は理想の解答についてだったが、解法についても話してみてもいいかも。」という記述から、生徒の中に新しい興味が湧いていることも確認された。

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平成23年度活動報告書 第2集

【数学 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 S104解法のコツ 教材作成者 山野井俊介(浦和高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 数学

テ ー マ 逆向きにたどる―解法のコツをつかもう―

ジグソー課題 問題を解くために役立つ考え方とは何か

期 待 す る回答の要素

3つの問題の解答の過程を比較検討することによって、3つに共通する「到達点を意識して逆向きにたどる」という解法の有効性を認識する。

エキスパートA 少なくとも1つが1であることの証明

エキスパートB 放物線と2本の接線で囲まれた面積

エキスパートC 数の大小

所 感

生徒の授業満足度は高く、また、数学の問題を解く上で、「逆向きにたどる」ことの有効性には概ね気づいたようである。この意味で、授業のねらいは達成されていた。「他の問題でもためしてみたい。」という記述から、授業で理解したことを次の学習につなげる萌芽が見られる。ただし、数名の生徒が、エキスパートの各問題について、疑問が残ったようであり、エキスパート資料について、今後さらに検討の余地はあるだろう。

【数学 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 S201積分 教材作成者 癸生川大(越谷北高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 積分

テ ー マ 積分と面積

ジグソー課題 y=xのグラフとx軸、直線x=1とで囲まれた部分の面積を求める

期 待 す る回答の要素

区分求積の考え方をもとに、自然数の二乗の和や極限の計算などの手法を用いて放物線と直線で囲まれた部分の面積を求める。

エキスパートA 区分求積の考え方

エキスパートB 自然数二乗の和

エキスパートC 極限n→∞の扱い

所 感

積分の単元の導入として行われた授業であった。生徒たちは、「区分し、近似して面積を求める」という考え方を軸に、数列の単元などでの既習事項を結び付け、問題を解く過程で「積分」という概念を理解していった。ジグソー活動では資料を見せ合いながら活発な議論が交わされ、ほとんどのグループが正しい答えに到達した。事前にジグソー課題を提示し、面積を予想しておいたのも、活動への効果的な動機づけになっていた。

教 科 ・ № 数学 S202ベクトル 教材作成者 癸生川大(越谷北高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 ベクトル

テ ー マ ベクトルで考える

ジグソー課題 平行四辺形OABCにかかわる3点O、D、Eが一直線上にあることをベクトルを用いて示す

期 待 す る回答の要素

どんなベクトルでも2つのベクトルで表せることをふまえて、3点が一直線上にあることを自分でも証明できる。

エキスパートA ベクトルの実数倍、並行および3点が一直線上にある条件

エキスパートB ベクトルの和、分解、一次結合

エキスパートC ベクトルの差、内分点を表すベクトル

所 感

「積分」と同様に導入での実践であった。慣れないベクトルを使った式を図、言葉での説明と結び付けて解釈するのは生徒たちにとってハードルの高い作業であったが、生徒たちは活発に話し合い、図や式を書き、示し合いながら協力して課題を解決していた。授業後には「頭使った、頑張った」といった声がいくつも聞かれ、生徒たちが主体的に学習に取り組んだ充実感を得たことがうかがわれた。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【数学 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 S203オイラー線 教材作成者 結城真央(越ヶ谷高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 平面図形「オイラー線」

テ ー マ オイラー線の証明

ジグソー課題 3つのパーツに別れていた証明を組み合わせてオイラー線の性質を証明する

期 待 す る回答の要素

難しそうな課題であっても、図形の基礎的性質を用いて証明ができること。図形の性質を一つ一つ理解していることが大切であること。

エキスパートA オイラー線の証明のうち、円周角の定理、中点連結定理利用部分

エキスパートB オイラー線の証明のうち、円周角の定理、垂線の性質利用部分

エキスパートC オイラー線の証明のうち、平行線の性質、垂線の性質利用部分

所 感

導入で、三角形の外心、重心、垂心を3グループで別々に作図し、3名が持ち寄った3心の図を重ねて光にかざしてみることで、3点が1直線上に並ぶという性質に生徒自らに気付かせた。ほぼ全ての班がこのオイラー線の性質に気付いたことで、証明に対する意欲が高まった。エキスパートの証明には、やや手こずっていたが、ジグソー活動に入るとそれぞれの資料を組み合わせて、活発に証明に取り組み、達成感を味わっていた。

教 科 ・ № 数学 S204ノート術 教材作成者 野崎亮太(浦和高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 2次関数

テ ー マ ノートの役割を考えよう「ミスを防ぐノート術」

ジグソー課題 平方完成を、計算の技術の観点から練り上げ、理想の途中式を完成させる

期 待 す る回答の要素

計算を誤りなく処理するためには、技術的な工夫が必要であり、その工夫を自分なりに把握する。

エキスパートA 「1行1動作」:計算に含まれる数学的な要素を分節化する

エキスパートB 「くくりだし」:計算の基本技術の習得

エキスパートC 「浦技の発見」:記述の空間的配置が概念の理解と不可分である

所 感

エキスパート活動では、資料に盛り込まれた計算過程の工夫を、それぞれの観点から発見していった。1年次での取組という点で、まだそれほど複雑な計算過程になれていないこともあり、ジグソー活動の課題には、多くの班が手を焼いていた。課題が複雑で難しいため、結果にたどり着けた班は、技術的な工夫の大切さにも気付いたようであった。「計算ミスを防ぐ工夫」には授業後により多くの記述があった。

教 科 ・ № 数学 S205二次方程式 教材作成者 大久保貴章(吉川高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 2次方程式

テ ー マ 二次方程式のいろいろな解法

ジグソー課題 二次方程式を早く、正確に解くためにはどうしたらよいか

期 待 す る回答の要素

問題に応じて、解き方を変えることによって、早く、正確に解くことができる。

エキスパートA 代入により解を見つける方法

エキスパートB 因数分解による解法

エキスパートC 平方完成による解法(「解の公式」を導く手順)

所 感

授業者によると、多くの生徒たちが、理解しようとエキスパート活動に懸命に取り組んでいた、その結果、エキスパート活動の活動時間が予想したとおり長引いてしまったということである。また、授業者は改善点について、エキスパートA班の活動をもう少し生かす問題設定ができれば良かったとしている。

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平成23年度活動報告書 第2集

【数学 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 数学 S206二次不等式 教材作成者 小柴雄三(狭山緑陽高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 二次関数(二次不等式)

テ ー マ 二次不等式の解法の仕組み

ジグソー課題 二次不等式を解く

期 待 す る回答の要素

二次不等式の解を求めるまでの流れ

エキスパートA 二次方程式を解く(因数分解、解の公式)

エキスパートB 平方完成をし、グラフを書く。二次方程式とグラフの関係を理解する。

エキスパートC f(x)>0、f(x)<0が表している部分を探す。(一次不等式、二次不等式で)

所 感

授業者によると、授業中の生徒の様子は、普段話をしてしまう生徒が協議に意識が向き、授業の内容での協議が良くできていて、苦手な生徒は周りの友達にきく姿勢が良く取れていたということである。また、それぞれエキスパートの活動では、まず基礎知識練習(ウォーミングアップや復習レベルの問題)を取り入れたことで、取組やすくなったのではないかと考えている。

教 科 ・ № 数学 S207ベクトル 教材作成者 朝見浩和(白岡高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 ベクトル(中線定理)

テ ー マ ベクトル―「中線定理」を証明する―

ジグソー課題 ベクトルを用いて「中線定理」を証明する

期 待 す る回答の要素

今までに学んだ内容(基礎)の重要さに気付いて、発展問題が解ける。

エキスパートA ベクトルの加法・減法

エキスパートB 内積の性質

エキスパートC 内分点の位置ベクトル

所 感

授業者によると、授業中の生徒の様子は、予想した以上にグループの仲間で意見を交わしていて、会話の中で「そういうことだったんだ」など理解する言葉を聞くことができた、その一方で単独で作業を行う生徒もいたということである。また、エキスパートの活動の前に証明の仕方について説明したことが良かったと考えている。

【数学・理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 数理 S201pH 教材作成者 若林剛・荒田啓嗣(上尾鷹の台高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 化学Ⅱ 酸と塩基

テ ー マ pHの公式

ジグソー課題 対数を使って、0.02mol/lの塩酸のpHを求める

期 待 す る回答の要素 pHとpH=-log[H+]の公式をみつけ、0.02mol/lの塩酸のpHを計算する。

エキスパートA [H+]=1.0╳10-n[mol/L]のときpH=nを使っていくつかの物質のpHを求める

エキスパートB 常用対数と桁数の関係をつかむ計算問題

所 感授業は数学と化学の教員のT.T.で実践され、異なる観点からグループ活動の支援が行われた。課題は生徒にとって難しかったようであるが、活動を通して数学と理科の結び付きを意識できたという声がきかれた。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【理科 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 S101遺伝子 教材作成者 下山尚久(越ヶ谷高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 遺伝

テ ー マ 遺伝子の組み換えと染色体地図

ジグソー課題①組み換え価をもとに、連鎖している遺伝子の染色体地図を作成する②生まれてくる確率の低い表現型が存在する理由を説明する

期 待 す る回答の要素

染色体地図の作成の仕方を理解し、実際にデータをもとに作成できる。染色体地図を活用して、遺伝子の連鎖と組み換えに関する問題を解くことができる。

エキスパートA 「染色体地図とは」

エキスパートB 「遺伝子の組換えはどのように起こるか」

エキスパートC 「連鎖と独立をどう見分けるか」

所 感

生徒のアンケート結果より、染色体地図とその書き方について、多くの生徒が理解できたようである。生まれてくる確率の低い表現型という発展的な課題を考える過程で、染色体地図を活用してみることによって、染色体地図とは何かについて生徒たちは理解を深めていた。ただし、課題②については、消化不良感が残ったようである。課題設定やグループ支援の方法について、今後の検討が必要であろう。

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 S201ろ過 教材作成者 前田雄太ら(草加西高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 理科総合 混合物の分離

テ ー マ 混合物の分離

ジグソー課題 塩・砂・インクが混ざった混合物から塩だけを取り出してみよう

期 待 す る回答の要素

各エキスパートで学んだ3つの実験の知識を活かし、班で協力しながら作業手順を考え、混合物を分離する実験を行う。

エキスパートA ろ過(実験の原理と手順について)

エキスパートB 吸着(実験の原理と手順について)

エキスパートC 蒸発乾固(実験の原理と手順について)

所 感

ジグソー活動において、生徒たちは「塩・砂・インクが混じった混合物から塩だけを取り出す」という課題に向けて、それぞれがエキスパートになってきた実験手順を責任を持って行っていた。また、各手順をどのような順番で行えばよいかをグループで考えながら実験に取り組み、直接そのとき手を動かしていない生徒も目や頭を動かし、思ったことを口にしながら自分なりの考察を深める実験の授業となっていた。

教 科 ・ № 理科 S202エネルギー問題 教材作成者 若林剛、漆原元博(上尾鷹の台高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 化学Ⅰ・物理Ⅰ「エネルギー」

テ ー マ 日本のエネルギー政策はどうあるべきか

ジグソー課題 発電方法によるメリット・デメリットから自らの意見を述べる。

期 待 す る回答の要素

各エキスパートの資料を基に、多様な考えに理由をつけて意見が述べられる。

エキスパートA 現在主力の火力発電と、水力発電のメリットとデメリット

エキスパートB 再生可能エネルギーによる発電のメリットとデメリット

エキスパートC 新エネルギーによる発電のメリットとデメリット

所 感

エキスパート活動では、それぞれの資料を基にメリットとデメリットを検討して、そのカテゴリーの中でもっとも普及が望まれる発電方法を、理由を含めて検討した。ジグソー活動では、エキスパート活動に比べて、活発な議論が交わされ、それぞれの主張が出された班が多かった。事前学習にあった原子力発電を今後進めるべき発電方法とする生徒もいて、多様な意見が述べられた。

120

平成23年度活動報告書 第2集

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 S203天秤 教材作成者 前田雄太ら(草加西高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 理科総合 原子量・分子量の導入

テ ー マ 天秤秤―軽い物質を測る―

ジグソー課題 天秤を用いて錘となるティッシュ片を作り、羽毛の羽の重さを計測する

期 待 す る回答の要素

自分たちで作成した天秤とティッシュ片の錘を用いて、電子天秤では測定できない羽毛の羽根の重さを測定する。

エキスパートA 天秤の腕をどうするか

エキスパートB 軽い物質をはかるための重りの基準

所 感

自作の天秤の調整がうまくいかないグループもあったが、どのグループも天秤がちょうど釣り合うと納得いくまで試行錯誤を繰り返していた。その中で、天秤を釣り合わせようと頑張る生徒、それを見ながら錘の重さを計算する生徒など、課題に向けてそれぞれが役割を果たしていた。クロストークの際、グループで中心的に作業していた男の子が先生に指名されてなかなか答えられないときに、向かいの大人しい感じの女の子が一生懸命助け船を出していた姿が印象的だった。

教 科 ・ № 理科 S204酸塩基 教材作成者 下山尚久(皆野高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 化学Ⅰ 酸・塩基

テ ー マ 紫キャベツで焼きそばを作ったら ―酸・塩基と中和―

ジグソー課題①紫キャベツでヤキソバを作ると何色の焼きそばができるか②赤色のヤキソバを作るために必要な調味料は何か

期 待 す る回答の要素

①かん水の塩基性のため紫キャベツに含まれるアントシアンが青色に変色し、青いヤキソバができる。②アントシアンは酸性で赤に変色するので、酸性の調味料が必要。

エキスパートA 酸性・塩基性とは何か、及び身近な物質の酸性と塩基性

エキスパートB アントシアンの性質

エキスパートC 中和とはどのような現象か

所 感

ジグソー課題は生徒たちの興味を喚起し、活動は活発に行われた。ジグソー課題に対する授業前の回答では、酸性・塩基性・中和といった概念に言及した生徒はほとんどいなかったが、授業後の回答では多くの生徒がこれらの概念に言及し、次時の実験後にはその割合はさらに増加した。「色の変わるお菓子も同じ仕組み 」といった新しい問いが生まれた班もあり、身近なものと科学の世界を結び付けて理解を深めることができていた。

教 科 ・ № 理科 S205状態変化 教材作成者 澤本純一(熊谷西高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 物理Ⅰ 熱とエネルギー

テ ー マ 状態変化とエネルギー

ジグソー課題 定圧変化と定積変化それぞれについて文章問題を解く

期 待 す る回答の要素

定圧変化、定積変化、についてP-Vグラフを作成し、気体に加えた熱量Q、内部エネルギーの変化ΔU、気体がする仕事Wを導く。

エキスパートA ボイル・シャルルの法則

エキスパートB 気体の内部エネルギー

エキスパートC 熱力学の第一法則、気体が外部にする仕事

所 感

授業者によれば、今回の内容は一斉授業で1時間以上を要する分量とのことである。生徒たちはジグソー活動で活発な話し合いを行い、仲間と教え合いながら問題を解く過程で、自分の担当していない内容についても、具体的な問題状況にひきつけて理解を進めたようであった。

121

第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 S206発芽 教材作成者 吉田健二(熊谷西高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 生物Ⅰ 種子の発芽調節

テ ー マ 種子の発芽とジベレリンのはたらき

ジグソー課題 胚を含む部位と含まない部位で、イネ種子のデンプン分解作用がどう変わるかを予想する

期 待 す る回答の要素

種子が発芽する際、胚ではジベレリンが合成される。ジベレリンは糊粉層に作用し、アミラーゼの合成を誘導する。アミラーゼは胚乳中のデンプンを分解し、糖を作る。胚は、この糖を利用し成長する。そこで胚を含まない部位では、ヨウ素デンプン反応が生じない。

エキスパートA デンプンと酵素アミラーゼ、ヨウ素デンプン反応について

エキスパートB 種子の構造、胚・胚乳・糊粉層とその役割

エキスパートC 植物ホルモンについて、ジベレリンとその作用

所 感

ジグソーでの議論は活発で、男女の別なく頭を突き合わせて課題に取り組む様子が印象的であった。ほとんどのグループが、種子の発芽のメカニズムをふまえたうえで実験結果を正しく予測することができた。結果はあまり鮮明に表れなかったが、生徒たちはむしろ意欲的に、授業を通して学んだ知識を活用して、「実験結果が鮮明でない理由」について探究を深めていた。

教 科 ・ № 理科 S207物質量 教材作成者 前田雄太ら(草加西高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 理科総合 物質量

テ ー マ 物質量

ジグソー課題 オオカナダモの光合成によって発生した酸素の体積から、二酸化炭素の質量を求める

期 待 す る回答の要素

体積や質量を物質量に変換することによって、未知の反応物や生成物の体積や質量を比較したり計算によって導き出すこと

エキスパートA モルと質量

エキスパートB モルと体積

エキスパートC 化学反応式の係数

所 感

ジグソーグループでは、分からない部分がどのエキスパートにあたるのかを推測し、それぞれが資料に戻りながら課題を進めていった。うまく自分の資料が理解できていない生徒がいるグループでも、他の生徒が自分も分からないながら声をかけ、協力して試行錯誤しながら答えを導くことができていた。

教 科 ・ № 理科 S208遺伝 教材作成者 茂木尚美(松山女子高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 生物Ⅰ 遺伝

テ ー マ 二遺伝子雑種の検定交雑

ジグソー課題 二遺伝子雑種の検定交雑についての入試問題を解く

期 待 す る回答の要素

一遺伝子雑種と同様の「優位の法則」を基本に、形質ごとの分離比に視点をあてる二遺伝子雑種の交雑パターンを確認し、調べたい個体の配偶子の遺伝子型の分離比が、生じた子の表現化型の分離比と一致するという検定交雑の意味を理解する。

エキスパートA 一遺伝子雑種の交雑と優性の法則

エキスパートB 検定交雑とは何か(一遺伝子雑種の場合)

エキスパートC 二遺伝子雑種と配偶子

所 感

生徒は、前時までの学習内容を頻繁に参照しながら活動に取り組み、課題解決の過程で新しい学習内容とそれまでの学習内容を結び付けて理解し直す様子がみられた。授業後残って教師に質問をしながら学習を続けるグループもあった。授業者からは、グループ支援の過程で既習事項の定着の様子を見ることができるのも、ジグソー型授業の1つの効果ではないかというコメントが出された。

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平成23年度活動報告書 第2集

【理科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 理科 S209酸化 教材作成者 白石佐利(戸田翔陽高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 化学Ⅰ 酸化還元の定義

テ ー マ 酸化還元の定義

ジグソー課題 銅原子の立場に立って、新しい「酸化反応」の定義を考える

期 待 す る回答の要素

銅原子を中心として考えれば、酸素以外の化学種と結合することは、酸素原子と結合することと違いはなく、「電子を奪われる」という点では全く同等である。つまり、「酸化=電子を失うこと」という立場で考えれば、すべて「酸化」として扱える。

エキスパートA 銅線の燃焼実験

エキスパートB 銅化合物水溶液に電気を流す実験

エキスパートC 原子から単原子イオンが生成する仕組みを確認

所 感

ジグソー活動では、エキスパートの理解に不安のある生徒もいたが、他の生徒が「どんな実験だったかだけでも教えて」など声をかけながら、少しずつ必要な情報を引き出していった。反対に専門用語を並べて理解した気分になっている生徒には、他の生徒が「それじゃ分からない」「どういうこと 」などと自分たちの言葉で探究を続けることで、改めて理解の見直しを迫っていた。説明し合いが楽しいという声があちこちで聞かれた。

教 科 ・ № 理科 S210光合成 教材作成者 奥間美穂(南稜高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 生物Ⅱ 同化

テ ー マ 葉が緑色に見えるのはなぜか―光合成と光の波長―

ジグソー課題 葉が緑色に見えるのはなぜか

期 待 す る回答の要素

光合成に使わない緑色の波長を跳ね返しているため、私たちの目には葉が緑色に見える。

エキスパートA 色はどうしてみえるのか

エキスパートB 葉緑体と光吸収スペクトル

エキスパートC エンゲルマンの好気性細菌を使った光合成の実験

所 感

課題は生徒たちの興味をひくもので、あまり話さないタイプの生徒も積極的に活動に取り組んでいた。ジグソー活動では理解のしかたの異なる生徒たちが、うまく話し手と聴き手を交代しながら1人ひとり理解を深めていく様子が印象的であった。クロストークではどの班からも3つの資料の内容を組み合わせた適切な回答が出され、他の班の回答を聴いて自分の回答を修正する姿もあちこちで見られた。時間配分も適切であった。

教 科 ・ № 理科 S211スペクトル 教材作成者 野澤優太(浦和高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 化学Ⅰ 有機化学

テ ー マ 有機化合物の構造決定

ジグソー課題 H-NMR、IR、MSの3種類のスペクトルデータを元にして、未知の物質を同定する。

期 待 す る回答の要素

有機化合物の分子構造を確認できるようにしてほしい。

エキスパートA 赤外分光法(IR)による構造決定

エキスパートB 質量分析法(MS)による構造決定

エキスパートC 核磁気共鳴分光法(H-NMR)による構造決定

所 感

大学レベルの内容であり難しい課題であったが、複数のグループが最後に正答を説明できるレベルに到達していた。当初は「スペクトルって何 」という声もあり、見慣れない言葉やグラフに戸惑っていたが、協力して資料を読み取りグラフを見比べ、分かったこと、分からないところを互いに確認しあう中で理解を深めていた。一見、言葉少なく取り組んでいるようでも、隣の人の作業を見ていて途中で議論に参加している場面も見られた。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【地歴 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 地歴 S101中世 教材作成者 福島 巖(越ヶ谷高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 世界史・中世

テ ー マ 中世末期ヨーロッパで権力を握ったのは

ジグソー課題 中世末期のヨーロッパで権力関係はどのように変化したか

期 待 す る回答の要素

中世末期ヨーロッパにおいて「教皇」にかわって「国王」が権力を握ったことを理解し、変化が生じた仕組みを政治・社会上の出来事をふまえて説明できる。

エキスパートA 教皇権の失墜

エキスパートB 百年戦争による諸侯・騎士の没落

エキスパートC ペストの流行による諸侯・騎士の没落

所 感

生徒は、中世の権力争いにより国王が権力を握ることについては、話し合いを楽しみながら理解を深められたと考えられる。一方、今後知りたいこととして、「ジャンヌダルクは何をした 」や農民についての記述があった。生徒の考えをより深めるために、エキスパート資料の内容について、今後検討が必要であろう。

【地歴 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 地歴 S201建武の新政 教材作成者 浅見晃弘(上尾鷹の台高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 建武の新政~南北朝

テ ー マ なぜ建武の新政は短期間で崩れ、内乱が長びいたのか

ジグソー課題 なぜ建武の新政は短期間で崩れ、内乱が長びいたのか

期 待 す る回答の要素

後醍醐天皇によって建武の新政が実現したが、その政策が公家・武士の信頼を得られず、短期間で崩壊したこと。足利尊氏によって室町幕府が開設されたが、長期にわたる南北朝の内乱が日本全土に深刻な影響を与えたこと。

エキスパートA 梅松論 ⇒ 新政について、天皇・公家・武家の立場。恩賞の違い

エキスパートB 二条河原の落書 ⇒ 建武の新政による政治の混乱

エキスパートC 南北朝の動乱 ⇒ 武家の対立と南朝と北朝が並びったった理由

所 感

エキスパート班での資料の読み取りに苦労する生徒が多かったが、ジグソー班に移るとそれぞれが線を引いた個所を読み上げながら報告を行い、他の班の報告した内容を必死で書き写していた。資料の読み取りより、他人の考えを聞いてまとめる活動の方が思考の抽象化を促したためか、最終的に課題に対して各自が答えを書くときには、多くの生徒において自分の担当資料以外のところの方がよく書けているという逆転現象が生じていた。

教 科 ・ № 地歴 S202鎌倉仏教 教材作成者 福島 巖(越ヶ谷高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 鎌倉幕府(鎌倉仏教)

テ ー マ 鎌倉仏教-日本のお坊さんはなぜ結婚しているのか-

ジグソー課題 鎌倉仏教とは何か

期 待 す る回答の要素

鎌倉仏教を生んだ僧たちは官僧と異なり、多くが遁世し個人の救済を目指していた。そのため、念仏・題目・座禅などかんたんな方法をおこなった。けがれを気にしないで、病人の救済や葬式をおこなっている。

エキスパートA 鎌倉仏教以前の僧は、国家に仕えた官僧である。

エキスパートB 鎌倉仏教を生んだ僧たちは遁世し、個人の救済を目指した。

エキスパートC 遁世僧は死の穢れを気にしないで活動できるようになっていた。

所 感

鎌倉仏教という暗記中心になりがちなテーマであったが、生徒達は、エキスパート活動、ジグソー活動、クロストークを通して、鎌倉時代までの仏教と鎌倉仏教の違いとその背景について理解を深めていた。クロストークでは各グループがそれぞれのグループの出した答えに耳を傾け、より良い説明の構築が促されていた。今後、生徒達が仏教について学習する中で本時の授業で学んだことが活きてくると思われる。

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平成23年度活動報告書 第2集

【地歴 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 地歴 S203岩倉使節団 教材作成者 近藤隆行(鳩ヶ谷高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 岩倉使節団

テ ー マ 岩倉使節団見聞録―何を観て、何を伝え、何を選んだか―

ジグソー課題 もし自分が使節団だったらどの国の精神に倣い国づくりをするか

期 待 す る回答の要素

「未発の可能性」として明治日本に「小国主義」選択の可能性があったこと、そして「大国主義」選択がもたらす結果、すなわちアジア・太平洋戦争への道筋とその敗戦とは、「大国主義の破綻」であることにまで思考を巡らせること。

エキスパートA 自治・自由の精神―アメリカ合衆国―

エキスパートB 大国主義の精神―ドイツ―

エキスパートC 小国主義の精神―ベルギー・オランダ・スイス―

所 感

「日本は領土も小さいし軍事力もあまりないので、「知」を育てて他の国に負けないようにしないと」いけないので「小国主義」を選ぶなど、史料から読み取った情報で自分たちの既有知識を組み合わせて課題に取り組んでいた。また、授業後の感想では、多くの生徒が「実際日本はどの主義を選んだのか」、「ドイツの政策をもっと詳しく知りたい」など、次の探究につながる自分なりの疑問をもつことができていた。

教 科 ・ № 地歴 S204パレスティナ 教材作成者 大野圭一(市立川口高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 第一次世界大戦

テ ー マ パレスティナは誰のもの

ジグソー課題 イギリス人はパレスティナを誰のものにしようと考えていたか

期 待 す る回答の要素

(例1)イギリスは戦争に勝利するため、それぞれに都合のいいことを約束し、戦後に起こりうる新たな問題には目をつぶった。(例2)イギリスの帝国主義的圧力で、パレスティナはイギリスのものとなり、戦後の問題は解決できると考えていた。

エキスパートA フサイン・マクマホン協定

エキスパートB サイクス・ピコ協定

エキスパートC バルフォア宣言

所 感

はっきりと答えが出ない課題であるため、生徒は自分たちなりのより確からしい答えを導こうと、それぞれの条約の細かな文言を対照しながら課題を追求していった。最終的に「イギリスのもの」「誰のものでもない」「ユダヤのもの」「英仏露のもの」など、それぞれの根拠に基づいて多様な考えが交流された。「本当は誰のものなのか」という疑問が多くの生徒に残ったが、この疑問が次の学習への動機づけになることが期待される。

【公民 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 公民 S201南北問題 教材作成者 菅野祥憲(越谷北高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 環境・国際関係

テ ー マ 南北問題」 環境」―マレーシア・マハティール首相の手紙―

ジグソー課題 環境保護を訴えるイギリスの少年に、マレーシアの首相の立場で返信してみよう

期 待 す る回答の要素

マレーシアの森林伐採を一握りの金持ちのための醜いことだとして環境保護を訴えるイギリス人の10歳の少年に対して、マレーシアのマハティール首相(1987年当時)の立場から、発展途上国の実態を多角的に踏まえた回答を行う。

エキスパートA 発展途上国の歴史と国内紛争

エキスパートB 発展途上国の経済

エキスパートC 発展途上国の生活

所 感

授業の前後で生徒に手紙を書く活動をしてもらっている。授業前でも約3/4の生徒が、国民の生活のために森林伐採が必要なことを主張しているが、授業後には全ての生徒がこの立場から手紙を書いた。またその主張の根拠についても、授業前には 生活がかかっている」などが主だったが、授業後には途上国と先進国の歴史的な関係や途上国の産業の弱さ、生活の実態など、各エキスパートの内容を組み合わせた回答になっている。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【公民 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 公民 S202フリーター 教材作成者 木下真介(狭山経済高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 今日の雇用問題と対策(非正規雇用をめぐる問題)

テ ー マ 今日の労働問題―なぜフリーターじゃいけないの―

ジグソー課題 非正規雇用の中にある大きな問題点とは何かということについて複眼的に捉える。

期 待 す る回答の要素

一義的には賃金やそこから派生する様々な生活上の格差、また雇用の不安定さという個人的問題に気づき、さらには一個人の問題であると同時に非正規労働者が増加することによる社会保障制度の圧迫という国家レベルでの問題点についても考察させたい。

エキスパートA フリーターの落とし穴(生涯年収の格差、健康保険の未加入など)

エキスパートB 派遣労働者の生活と派遣切りの実態

エキスパートC 正規雇用者と非正規雇用者の推移、社会保障の危機

所 感

生徒たちは、エキスパート活動の資料を読み解き、グループによっては、各自が持っている知識を用いて、資料の情報を超えた深い話し合いを展開していた。ジグソー活動では、普段おとなしい生徒も積極的に話し合いに参加し、互いに支え合い、知識をつなぎ合わせ、非正規雇用の問題点について深めていた。最も難しかった国家レベルでの問題について気づいているグループも多く見られた。

教 科 ・ № 公民 S203政治哲学 教材作成者 倉成恭代(戸田翔陽高校)

学 年 高校複式 単元・題材 はじめての政治哲学

テ ー マ はじめての政治哲学―「自由」か「平等」か―

ジグソー課題 「自由」と「平等」。誰もが安心して生活できる世の中に大事なのはどちらか

期 待 す る回答の要素

政治制度の概要を知り、事例から学ぶとともに、メリット・デメリットを考察し、増税の有無、社会保障の行く末など、生活を左右する問題について、自分の納得する意見を持ってほしい。

エキスパートA 「みな平等だといけないのか 」社会主義の特徴、ソ連型社会主義経済が崩壊した原因

エキスパートB 「国家はどこまで面倒を見るべきか 」福祉国家、国民皆保険制度のないアメリカの事例

エキスパートC 「民主党政権・歴代首相の政治哲学」民主党歴代首相の政治哲学の共通点、中庸

所 感

生徒の既有知識の多様性が活かされるテーマだった。知識の多い生徒が資料から議論を発展させたり、逆にあまり知識のない生徒が「分からない」ところにこだわることで議論を深めたりすることができていた。実践者は普段あまり接点のない生徒同士が活発に議論したり、普段授業に積極的に参加しない生徒が楽しそうにしていたのが印象的だったとのこと。

教 科 ・ № 公民 S204ブラック企業 教材作成者 水村晃輔(富士見高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 労働問題(ブラック企業を例にとって)

テ ー マ 労働基本法と労働3法―ブラック企業とはどんな会社か―

ジグソー課題 ブラック企業とはどんな企業なのか、ということを考えさせる。

期 待 す る回答の要素

ブラック企業とは、あらゆる部分で“常識的な”労働条件からかけ離れた企業のことである。しかし、どの職業にも“ブラックな”部分は多かれ少なかれ存在している。それを理解した上で、我慢すべき辛さと、戦うべき問題を見分ける力を身につける。

エキスパートA 賃金と勤務時間の問題

エキスパートB パワハラの問題

エキスパートC 仕事のやりがい

所 感

「ブラック企業」という言葉について、生徒の知識レベルは多様であったが、最初のウォームアップ時に話し合う中でそれぞれの知識を持ち寄って補い合っていた。エキスパート活動では、ブラック企業の具体的事例に対して、1つ1つ具体的に思い浮かべ実感を持って理解を深めるグループも見られた。ある企業事例について「ブラックではないがグレー」といった発言も見られ、クロストークでは、労働基準法に触れるグループもあった。

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平成23年度活動報告書 第2集

【美術 平成22年度開発教材】

教 科 ・ № 美術 S101鑑賞の心得 教材作成者 高濱 均(大宮光陵高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 西洋美術史

テ ー マ 『鑑賞の心得』をつくろう

ジグソー課題 『鑑賞の心得』をつくる

期 待 す る回答の要素

美術作品の鑑賞において、わからない作品を敬遠するのではなく、感受する糸口を探り、主体的に鑑賞しようとする態度を育む。

エキスパートA “わかる”ということ

エキスパートB “リアリティー”について

エキスパートC これって未完成

所 感

生徒のアンケート結果より、話し合いによって、鑑賞についても多様な考え方があることや、他者の意見を聴くことで視野が広がることを、生徒たちは概ね実感したようである。一方、「やりたくない」と答えた生徒も複数いた。説明のために資料をまとめることや、多様な意見をつなげることが難しかったことが要因かもしれない。エキスパート資料の組み方に検討が必要であろう。

教 科 ・ № 美術 S102日本の美術 教材作成者 岩崎浩之(大宮光陵高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 美術史

テ ー マ 私たちは日本の美術を知っているか

ジグソー課題 日本の美術の特徴とは

期 待 す る回答の要素

日本の美術の特徴を西洋の美術における自然主義、写実主義と比較し、日本の風土の中で培われた特有の美的感覚、日本特有の美術について自分なりに説明できる。

エキスパートA 日本と西洋の絵画の比較

エキスパートB 日本と西洋の彫刻の比較

エキスパートC 日本と西洋の陶器の比較

所 感

授業後には、「自然の素朴」、「想像力」などのキーワードを用い、多くの生徒が、「日本の美術」の特徴を自分なりに説明できていた。ただしグループによっては、ジグソー活動において3人の説明をメモしあうだけに終わってしまい、議論が深まらない例もあった。「話し合いを通して理解を深める」ことへ動機づけるために、課題の工夫が重要ではないかと考えられる。

【美術 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 美術 S201デッサン 教材作成者 岩崎浩之(大宮光陵高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 デッサン(「空間」の表現方法)

テ ー マ 「空間」の表現方法

ジグソー課題 「空間」の表現方法について話し合い、その特徴、要素、重要点等を理解する

期 待 す る回答の要素

「自分の制作には○○の部分が不十分なので、次回の制作では△△をすることによって「空間」を表現できるのではないか」というように、生徒各々が自身の課題を整理、発見し、解決の方法を想定する。

エキスパートA デッサンにおけるモチーフのきわ(回り込み)

エキスパートB 台(床)の平行間、奥行きを意識し、モチーフが台(床)にうつす陰影

エキスパートC モチーフの面の動きを意識した質感

所 感

生徒たちはエキスパート活動で、絵の空間性を出すための描き方について、実例での描かれ方を詳細に見たり、自分でも実際に書いてみたりして、深めていた。ジグソー活動では、各エキスパートで学んだことに加え、自身と他者の作品を相互に見比べ、空間性を実際の製作に結びつけているグループもあった。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【美術 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 美術 S202抽象 教材作成者 高濱 均(大宮光陵高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 西洋美術史(抽象画の鑑賞)

テ ー マ 抽象なんか怖くない(西洋美術史)

ジグソー課題 抽象的表現の作品について積極的に鑑賞する技能を身につける

期 待 す る回答の要素

抽象表現の意図や効果及び様々な観点に気付きながら、自らの感受性を通して作品の表現意図を読み取り、その意味について恐れずに自身の考えを述べる。

エキスパートA 抽象美術はいつ始まった

エキスパートB 音楽は抽象

エキスパートC 惹きつける力―創造性の根源

所 感

当初、抽象画について「全然分からない」という声も見られたが、最後のクロストークでは、いくつかの抽象画を自分自身の視点から鑑賞を述べることができていた。エキスパート活動で、生徒達は馴染みのない抽象画について、資料を協力して読み進めていくことで、知識を身につけ、抽象画の見方を学んでいった。ジグソー活動では、互いに学んできたことをゆるやかに統合し使うことで、多様な視点で意見を交流していた。

教 科 ・ № 美術 S203ビジュアルブック 教材作成者 矢嶋 渉(富士見高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 修学旅行のビジュアルブック

テ ー マ 修学旅行のビジュアルブック

ジグソー課題 装丁、ビジュアル資料の活用法、素材等の表現方法の要素を統合・展開し、1つのまとまった作品へ昇華する

期 待 す る回答の要素

エキスパート活動を通じて得られた様々なアイデアソースや表現、参考となるデザインなどをグループで統合・再構成させ、多角的な視点から美しい表現へと発展させることが出来る。

エキスパートA 装丁・テンプレートの例

エキスパートB ビジュアル資料の活用法の例

エキスパートC 素材(材料)

所 感

多様で豊富な素材を前にして、生徒たちは制作への期待を高めていた。素材を見て、「これ好き」「いいね」といった会話から、話し合い、各エキスパートの視点に基づいてメモを作る作業ができていた。各エキスパート活動でメモしてきたことを元に、ジグソー活動では、各視点を統合して、より良いビジュアルブックの作成に取り組んでいた。

教 科 ・ № 美術 S204家紋 教材作成者 城所佳葉子(浦和第一女子高校)

学 年 高校1年生 単元・題材 日本の伝統文化

テ ー マ 「家紋」のデザイン

ジグソー課題 家紋の存在意義を踏まえ、家紋の今後を話し合い、学校の家紋をデザインする

期 待 す る回答の要素

古いものを理解し、デザインの趣旨を理解した上で、時代に合わせ再提案する。コンセプトをたて、企画し、形にするというプロセスを経験する。

エキスパートA 家紋の発祥:家紋はなぜ生まれ、発展したのか

エキスパートB 家紋のデザイン:家紋の特徴はどのように出来上がったか

エキスパートC 家紋に込められた祈り:家紋はどのような意味を持つか

所 感

制作作業を中心としたジグソーの実践であったが、実践者からは、生徒の充実感と学ばせたいことがはっきりしたことが成果として挙げられた。また、同じテーマについて話し合った上でクロストークでお互いの班の作品の交流をすることにより、同じ目的のものを作っても違った結果になることが見てわかり、かつ説明を聞くと納得できるという状況を担保できたということである。

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平成23年度活動報告書 第2集

【美術 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 美術 S205パッケージ 教材作成者 工藤久仁子(越谷東高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 パッケージデザイン

テ ー マ パッケージデザインについて考えよう

ジグソー課題 客の目を引くパッケージデザインに必要な要素は何か

期 待 す る回答の要素

現代の商品パッケージが他社との差別化を図るために備えているインパクト性について理解する。内容を魅力的に伝えるためのパッケージの工夫の仕方を知り、生産者の立場から客の心をつかむような作品の製作に役立たせる。

エキスパートA 色について

エキスパートB 形について

エキスパートC レイアウトについて

所 感

「オリジナルパッケージをつくろう」というテーマでこのような商品があったらいいなと思える商品を考えさせ、そのパッケージを作成させる制作活動への導入として行われた。実践者によれば、幾つかのクラスで実践を行う中で、エキスパート活動で全てのグループに実物を与える、エキスパートを自分たちで選ばせる、といった工夫を行ってみることで、生徒の意見交換を活性することができたとのことである。

【家庭科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 家庭 S201中華 教材作成者 白井里佳子(越谷総合技術高校)

学 年 高校2年生 単元・題材 中国料理の食文化

テ ー マ 中国料理の食文化

ジグソー課題 与えられたシチュエーションから、適する系統の料理店、お勧め料理を選択する

期 待 す る回答の要素

中国は、領土が広いため、気候や風土により料理の特徴も異なる。料理名に 食材」「調理法」「風味」地名」などが含まれており、特徴が現れている。これらを踏まえて、各系統の特徴を意識してシチュエーションにあった選択をすることができる。

エキスパートA 上海料理

エキスパートB 北京料理

エキスパートC 広東料理

エキスパートD 四川料理

所 感

生徒たちはエキスパート、ジグソーと熱心に探求を続けていた。課題に対しては、「女子会」というシチュエーションに即して、「男性の前では食べにくいが健康的でコラーゲンたっぷりな上海料理のすっぽんの醤油煮」、「広東料理は見た目が美しく、淡白で日本人好みなので広東料理のフカヒレスープ」など、多様な考えがでてきた。

教 科 ・ № 家庭 S202子育て 教材作成者 山盛敦子(浦和高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 共に生きる

テ ー マ 子育ては誰がするのか

ジグソー課題 子育ては誰がするのか

期 待 す る回答の要素

子育ては、その子の親が中心となり、身内(祖父母等)、地域の人々、周りのたくさんの人々が支えていくこと。それぞれの立場の人が、適材適所で関わることが必要である。

エキスパートA 電車の中で泣いている赤ちゃん⇒赤ちゃんの泣く理由

エキスパートB 電車の中で泣いている赤ちゃんの親⇒親の対応方法と気持ち

エキスパートC 電車の中で泣いている赤ちゃんとその親を見ている周りの人⇒対応方法と気持ち

所 感

授業後には、すべてのグループから、「社会全体」、「両親と周りの人」が育てるという回答が出てきた。具体的な状況をシミュレーションすることを通じて、自分にできることを「子どもが泣いていてもにらまない」といった今すぐできるレベルから、「子育てしやすい環境を作る」といった将来の構想まで、一人ひとりが子育てに関わる一人の社会人としての自分について、自分なりの考えを深めることができた。

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第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン

【家庭科 平成23年度開発教材】

教 科 ・ № 家庭 S203遊びの意義 教材作成者 佐藤美穂(川口青陵高校)

学 年 高校3年生 単元・題材 乳児の生活と保育

テ ー マ 遊びの意義

ジグソー課題 子どもにとって遊びはどのような意義があるものなのか

期 待 す る回答の要素

子供たちにとって、遊びとは心身の発達を促し、知的能力や社会性などを学んで行く重要なものである。また、その活動を支えるために、周囲の大人の、子供たちの自発的欲求を尊重し、生き生きと楽しむことのできる適切な援助が大切である。

エキスパートA 運動遊び

エキスパートB ごっこ遊び

エキスパートC 自然と関わる遊び

所 感

3つのエキスパートで扱った具体的な事例から、生徒たちは子どもにとっての遊びの意義や保育者の援助のポイントを捉え、最終的にそれを自分たちの言葉としてまとめあげていた。実践者によれば、普段から自分の考えを他人に伝えることに慣れていない生徒たちだが、「はじめから正しい答えを求めようとしなくて良い。話し合う中で答えを出して行けば良いよ」と声をかけることで、伝えよう、考えようという姿勢は見られるようになったという。

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平成23年度活動報告書 第2集