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3 Ⅰ-1 第3章感染症対策各論 Ⅰ.薬剤耐性菌の感染対策 1.MRSAについて MRSAmecA遺伝子の獲得によりペニシリン結合蛋白PBP2’を作りメチシリン(あるい は類似のオキサシリン)に対して耐性となった黄色ブドウ球菌である。MRSAは殆ど全て のβラクタム剤やその他の多くの抗生剤にも耐性を示す。mecA関連の遺伝子はSCC mec という転移性の遺伝子カセットに存在する。5種類のSCCmecの解析と分子タイピング法 による比較研究からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の多数のクローンにSSCm ecが持ち込まれて、それらが世界に拡散したと考えられている(Deurenberg RH et al C lin Microbiol Infect 2007 13:222)。病原性はMSSAと同程度であり、健常者の皮膚や 粘膜に定着しても通常は無症状である。しかし易感染状態では、創傷感染や敗血症等の 難治性のMRSA感染症を起こし、ショック症状や多臓器不全を経て死亡することも少なく ない。 1)MRSAの動向 MRSA感染症は5類感染症定点把握疾患に指定されており、全国約500カ所の基幹定点よ り毎月報告がなされている。1997—1999年の疫学調査で、MRSAの黄色ブドウ球菌全体に 占める割合は、米国が32.4%、ヨーロッパが26.3%の検出率あるのに対し、日本は66.8% であり特に深刻な状況であった(Deurenberg RH et al Clin Microbiol Infect 2007 1 3:222)。近年は、日本の状況は改善され、むしろ欧米の方がより深刻な状況にある。 市中に定着する新しい型のCA-MRSAが出現し、また病院に定着しやすいHA-MRSAの市中へ の広がりが欧米で問題になっているが、日本では問題になっていない。しかし、SSCmec を有するメチシリン耐性のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)が日本では市中で増 加しているとの報告もあり警戒が必要である (Jamaluddin TZ et al J Clin Microbio l 2008 46:3778)MRSAの世界的な広がりにより、抗MRSA薬であるバンコマイシンやテイコプラニンの消 費が増え、最も恐れていたバンコマイシン耐性のMRSAVRSA; MIC ≥16 µg/mL)が米国 で7株分離された。これまでVRSAは世界的な広がりは見せていないが、バンコマイシン の治療効果が得られにくいMRSA感染症が増えつつあり、バンコマイシン耐性が中等度(i ntermediate)のMRSAVISA; MIC 4—8 µg/mL)や、感受性が不均一(heterogeneousの集団からなるMRSAhVISA; MIC ≥4 µg/mL)が漸増しており、警戒されている。テイ コプラニンに対しても同様な耐性(グリコペプチド耐性)を示すGISA, hGISAも報じら れている(Appelbaum PC Int J Antimicrob Agents 2007 30:398)。したがってVRE治療薬であるリネゾリドの使用頻度が増加する可能性があるが、VREの最終治療薬であ るため、厳重な適正使用の必要性が指摘されている。2006年に発見されたプラテシママ イシンに期待が寄せられているが、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性の過去の歴史を考えれば、 MRSAの院内感染制御の問題は今後も極めて重要となるであろう。 2)抗MRSA薬の使用の原則

第3章感染症対策各論mrsa/infection_control/manual/pdf/manual3...第3 章 Ⅰ-1 第3章感染症対策各論 Ⅰ.薬剤耐性菌の感染対策 1.MRSAについて MRSAはmecA遺伝子の獲得によりペニシリン結合蛋白PBP2’を作りメチシリン(あるい

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第 3 章 Ⅰ-1

第3章感染症対策各論

Ⅰ.薬剤耐性菌の感染対策

1.MRSAについて

MRSAはmecA遺伝子の獲得によりペニシリン結合蛋白PBP2’を作りメチシリン(あるい

は類似のオキサシリン)に対して耐性となった黄色ブドウ球菌である。MRSAは殆ど全て

のβラクタム剤やその他の多くの抗生剤にも耐性を示す。mecA関連の遺伝子はSCC mec

という転移性の遺伝子カセットに存在する。5種類のSCCmecの解析と分子タイピング法

による比較研究からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の多数のクローンにSSCm

ecが持ち込まれて、それらが世界に拡散したと考えられている(Deurenberg RH et al C

lin Microbiol Infect 2007 13:222)。病原性はMSSAと同程度であり、健常者の皮膚や

粘膜に定着しても通常は無症状である。しかし易感染状態では、創傷感染や敗血症等の

難治性のMRSA感染症を起こし、ショック症状や多臓器不全を経て死亡することも少なく

ない。

1)MRSAの動向

MRSA感染症は5類感染症定点把握疾患に指定されており、全国約500カ所の基幹定点よ

り毎月報告がなされている。1997—1999年の疫学調査で、MRSAの黄色ブドウ球菌全体に

占める割合は、米国が32.4%、ヨーロッパが26.3%の検出率あるのに対し、日本は66.8%

であり特に深刻な状況であった(Deurenberg RH et al Clin Microbiol Infect 2007 1

3:222)。近年は、日本の状況は改善され、むしろ欧米の方がより深刻な状況にある。

市中に定着する新しい型のCA-MRSAが出現し、また病院に定着しやすいHA-MRSAの市中へ

の広がりが欧米で問題になっているが、日本では問題になっていない。しかし、SSCmec

を有するメチシリン耐性のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)が日本では市中で増

加しているとの報告もあり警戒が必要である (Jamaluddin TZ et al J Clin Microbio

l 2008 46:3778)。

MRSAの世界的な広がりにより、抗MRSA薬であるバンコマイシンやテイコプラニンの消

費が増え、最も恐れていたバンコマイシン耐性のMRSA(VRSA; MIC ≥16 µg/mL)が米国

で7株分離された。これまでVRSAは世界的な広がりは見せていないが、バンコマイシン

の治療効果が得られにくいMRSA感染症が増えつつあり、バンコマイシン耐性が中等度(i

ntermediate)のMRSA(VISA; MIC 4—8 µg/mL)や、感受性が不均一(heterogeneous)

の集団からなるMRSA(hVISA; MIC ≥4 µg/mL)が漸増しており、警戒されている。テイ

コプラニンに対しても同様な耐性(グリコペプチド耐性)を示すGISA, hGISAも報じら

れている(Appelbaum PC Int J Antimicrob Agents 2007 30:398)。したがってVREの

治療薬であるリネゾリドの使用頻度が増加する可能性があるが、VREの最終治療薬であ

るため、厳重な適正使用の必要性が指摘されている。2006年に発見されたプラテシママ

イシンに期待が寄せられているが、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性の過去の歴史を考えれば、

MRSAの院内感染制御の問題は今後も極めて重要となるであろう。

2)抗MRSA薬の使用の原則

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第 3 章 Ⅰ-2

参照 抗MRSA 薬使用の手引き(日本感染症学会・社団法人日本化学療法学会)

(1)感染症の治療に十分な知識と経験を持つ医師またはその指導のもとで行うこと

(2)原則として抗MRSA 薬および他の抗菌薬に対する感受性(耐性)を確認すること

(3)投与期間は、感染部位、重症度、患者の症状等を考慮して適切な時期に抗MRSA 薬

の継続投与が必要か判定し、治療上必要最小限の期間にとどめなければならない。

・原則としてMRSA感染症に対しては抗MRSA 薬(他の薬剤に感受性がある場合には

その薬剤を含めて考慮)を投与し、保菌者に対しては通常使用しない。

・使用した抗MRSA 薬の有効性ならびに安全性を確認するために、血中濃度の測定

が可能なグリコペプチド系薬剤(バンコマイシン、テイコプラニン)、アミノグ

リコシド系薬剤(アルベカシン)では、治療薬物モニタリング(TDM)を実施し、

至適用法・用量を確認する。

・耐性菌発生の抑制の意味から、院内での抗MRSA 薬の使用状況を把握し、必要に

応じて抗MRSA 薬使用の許可制、届出制を検討する必要がある。

3)MRSAの感染経路

MRSAの主たる感染経路は接触感染である。接触感染には、皮膚同士の直接感染

や、汚染された環境と間接接触による感染がある。医療従事者の手に一過性細菌叢と

して存在するため、手洗いの徹底が最も重要である。MRSA は乾燥した環境で数週間

生存でき、医療従事者の衣服、医療機器や環境を介した間接的な接触感染によるMRSA

の伝播が注目を集めるようになった。現在では、患者、医療従事者、環境の3者がM

RSAのリザーバーになると考えられている。(参考文献:MRSAとVREの院内伝播防止の

ためのSHEA ガイドライン)

4)MRSA保菌者(患者及び病院職員)のスクリーニング

MRSAは、常在菌として保菌状態が見られることがある。他施設から転入してき

た患者は、保菌者である可能性が高いため入院時にスクリーニング(鼻腔、咽頭、ソ

ケイ部皮膚)を行っておくことが望ましい。菌が検出されても直ちに感染症を意味す

るものではなく、感染症なのか保菌状態なのかを医師は診断する必要がある。発熱や,

白血球の増加,CRPの上昇がなく,菌のみが検出される場合は,保菌状態と判断で

きる。しかし,発熱や,白血球の増加,CRPの上昇があり,本来の無菌材料(血液,

胸水,腹水,髄液,関節液)からMRSAが検出されれば感染症と考えられる。しか

し,喀痰や便など無菌でない材料から検出された場合は,発熱などあっても,すぐM

RSA感染症とはならない。材料のグラム染色で好中球に貧食された菌体を証明する

ことが必要で,自ら検査するか細菌検査室で検査してから判断する。

5)接触感染予防対策

MRSAの院内感染対策は標準予防策+接触予防策を講じる。

(1)手指衛生

①入室時、退室時、患者に接触後などの手指衛生を確実に行う。

(2)防護具の着用

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第 3 章 Ⅰ-3

①入室時に手袋を着用する。

②患者および患者周囲環境に接触する場合は、ビニールエプロンを着用する。

③手袋・ビニールエプロンは、部屋に入る時着用し、退室前に脱ぐ。

④手袋・ビニールエプロンを脱ぐ際は自身の白衣や周囲を汚染しないよう気を付

ける。

⑤防護具を脱いだ後、手指衛生を行う。

(3)器具,器材,カルテ

①可能なかぎりディスポ製品を使用する。

②直接患者に触れる聴診器,血圧計,体温計は患者専用とする。

③使用した器具,器材は適切な消毒剤で消毒を行なう。

④カルテは病室に持ち込まない。

(4)リネン

①使用後,専用ビニール袋に入れ,枚数を記載して洗濯に出す。

②ベットマットはあらかじめビニールの防水布で覆っておく。覆いきれなかった

部分を薬液で清拭消毒をする。

※汚染リネンから汚染が拡散しないように注意を払う。

(5)患者退室後

①患者が高頻度に接触した場所はアルコール消毒剤を用いて清拭する。

②室内に持ち込んでいた器材,器具は廃棄する。再使用が可能な物品は、一次消

毒後乾燥させる。滅菌が必要なものは再滅菌する。

③カーテンを交換しカーテンレールの清掃を行う。

(6)患者配置

①肺炎,気管切開,広範囲熱傷、腸炎による下痢など環境を汚染させる可能性の

ある患者は、個室収容とする。

個室収容の必要性の高いものの順位として

ⅰ 広範な熱傷患者,または化膿性びらんを伴う皮膚疾患患者

ⅱ 下痢を伴うMRSA腸炎患者

ⅲ 気管切開や気管内挿管をしたMRSA肺炎患者

ⅳ 褥創部感染患者

ⅴ ドレーンやカテーテル挿入部位に感染巣がある患者

ⅵ 術後創部感染患者

ⅶ MRSA肺炎患者

肺炎か咽頭保菌かの鑑別は重要。

発熱等の臨床所見以外に喀痰のグラム染色を行う。

ⅷ 感染源が不明な菌血症患者

②MRSAが鼻腔や咽頭などに定着している全身状態の保たれている患者では、

本人に手指衛生を充分行ってもらい、医療従事者が標準予防策を遵守すること

を前提にして個室隔離の必要はない。

③隔離病床のドアは開放してもよい。

④個室解除

一週間以上の期間をおいて,連続3回細菌培養検査で陰性であること。

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第 3 章 Ⅰ-4

(7)患者移送

①MRSA陽性患者が検査あるいは治療のために他科受診するのは問題ない。該

当部署へは前もって通知しておく。

②気管切開、広範囲な皮膚落屑物のある患者の移送は、汚染が拡大しないように

注意して移送する。(患者の肩や身体をシーツ等で覆う)慢性呼吸器疾患など

で、咳や痰が多い場合はサージカルマスクを着用してもらう。

③リハビリは、原則として病室で行う。鼻腔のみの保菌であれば,理学療法部に

て行う。(詳細は,理学療法部のMRSA取扱基準に従う。)

(8)保清

①個室隔離が必要な患者は、清拭またはシャワー浴とし、入浴順は最後にして、

浴槽やタイル床は、洗浄後高温のお湯(60℃)を十分かけ表面を洗い流す。

4)医療従事者の対応

(1)患者に接触後は、手洗いまたはアルコール手指消毒剤を用いて手指消毒を行う。

(2)排菌の有無にかかわらず、創部やカテーテル類を処置する場合は手袋を着用す

る。

(3)手荒れがひどい医療従事者は手袋を着用する。ハンドクリーム等で皮膚のケア

を行う。

(4)排菌患者に直接接触する場合や、下痢便の処置など著しい汚染の可能性がある

場合は袖つきビニールエプロンを着用する。

5)環境整備

(1)床面など接触機会の少ない箇所は1日1回の通常の清掃を行う。

(2)ベッド柵、床頭台、オーバーテーブル、ドアノブなど接触機会の多い箇所は、

1日1回、0.2%両性界面活性剤(テゴー51)またはアルコール消毒剤で清拭する。

6)患者・家族への説明

(1) 医療従事者が、統一した内容の情報を提供し、患者・家族の不安を取り除く

とともに、MRSA拡散の予防にも理解と協力が得られるように説明、指導を

行う。

(2)説明の留意点

①MRSAの性質・概要説明

②治療方針の説明

③二次感染予防の手段

④プライバシーの厳守等

(3)面会者への注意

①通常は、面会人がMRSA感染症を生じることはない。

②マスク、予防衣を着用する必要はない。

③病室を出る時に、手洗いまたはアルコール手指消毒を行う。

7)退院時の注意事項

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第 3 章 Ⅰ-5

(1)患者の搬送については、担当医が責任を持って受け入れ先にMRSA感染の状

況について通知する。

(2)自宅に戻る場合、在宅看護の必要がある場合は、保健師等に連絡を行う。

(3)外来診療を続ける場合は、定期的に検出状況を確認する。

8)その他の予防策

原則的には標準予防策と接触予防策を遵守するが,各部門の特殊性もあり,部門

ごとの予防策が必要である。

(1) 職員の保菌検査

定期的には行わない。アウトブレイク発生時の対策として実施する場合がある。

(2) 患者の保菌検査

①特に,救急に入院した患者や,他院からの紹介患者については,入院直後,

鼻腔と咽頭拭い液の培養を行う(持ち込みか院内感染かを区別するため)。

②開胸,開腹,開頭手術をうける患者は,術前に鼻腔培養を行う。その他,術

中大量出血が予想される手術,高齢者等の手術の際にも,術前の培養検査を

行う。

(3) 環境の菌検査

アウトブレイクなどの事例がなければ,原則として行わない。

9)MRSA感染症発生時の対応

(1)上記MRSA対策に基づき、個室隔離などの感染予防対応を行い、感染拡大の

防止に努める。

(2)MRSAの感染発症報告書を感染対策室に提出する。

(3)抗MRSA薬を使用する場合は、抗MRSA薬開始届を薬剤部に提出する。

10)MRSA感染症の治療

(1)治療の原則

保菌状態や予防的MRSA抗菌薬の投与は原則として行わない。

(2)MRSA抗菌薬の予防投与

外科手術患者のうち鼻腔保菌が分かっている患者が、人工物植え込み手術、開

心術、あるいは心内膜炎を起こす可能性のある手術、手技を受ける際には、術直

前あるいは術中に投与する。

(3) MRSAの除菌

MRSAは鼻腔咽頭から検出されることが最も多い。除菌は保菌状態から感染

に至ることを防止することと、菌の拡散を防ぐことにおいて重要である。

①除菌対象:

保菌の医療従事者

大手術(開胸,開腹,開頭,出血の多い手術)を受ける保菌患者。

ムピロシン軟膏(鼻腔)、イソジンうがい(咽頭)、イソジン液(皮膚)にて

局所の除菌を行う。全身的な除菌が必要な場合には、バクタ、リファンピシン

等の内服を併用する。

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第 3 章 Ⅰ-6

②除菌方法:

鼻腔内-バクトロバン軟膏(Pseudomonic acid)3回/日塗布,3日間。

尚、本剤は鼻腔以外に使用してはいけない。使用期間を厳守する

口腔内-イソジンガーグルうがい(3回/日,3日間)

こと。

③MRSAが除菌できない職員について

通常の抵抗力を有する患者の診療には支障がないが、手洗いをしっかり行い、

鼻腔保菌の場合はマスクを着用して、手が鼻に触れないように知る。皮膚に障害

がある場合は治療する。

④除菌の判定

除菌終了後1週間を経過して、MRSAを検出していた場所から3回連続して培養

陰性となれば,除菌できたと判定する。医療従事者に除菌を行った場合、4 週間

後には26%に、6 か月後には48%に再保菌がみられたとの報告がある。したがって、

除菌終了後も標準予防策を遵守することが重要である。職員の置かれている勤務

状況に応じて、再度のスクリーニング検査を行う。

(参考文献:MRSAとVREの院内伝播防止のためのSHEAガイドライン)

(4)保菌の医療従事者に対するバクトロバン(ムピロシン)軟膏の使用

配布対象者:MRSA鼻腔内保菌者で感染対策室が治療の必要を認めた者

配布方法:感染対策室で軟膏を購入し、対象者に配布する。

MRSA 保菌者に対する治療要領

MRSA保菌者に対する職員の健康管理並びに附属病院内での二次感染防止のため

下記事項にご協力ください。

1.治療要領は次のとおりです。

(1)バクトロバン軟膏を 1 日 3 回、3 日間綿棒で鼻腔内に塗布してください。

軟膏塗布方法

①綿棒の先にチューブから小豆粒大の軟膏をとる。

②まず、片方の鼻腔内に塗布し、次にもう片方の鼻腔内にも同じ量塗布します。

③薬剤を均一にのばすため、塗布後両側の鼻翼の上からよくマッサージします。

(2)イソジンガーグルで 1 日3~4回、3 日間うがいをしてください。

2.治療開始後、1 週間毎に 3 回、鼻腔にて検体採取のうえ、検査部細菌検査室に

提出してください。(検体採取については、各自細菌検査室において容器を受け

取るとともに、その場で採取し検体を提出してください。)

培養結果が 3 回連続で陰性となれば、完治とします。

3.勤務中は以下のことに注意してください。

(1)一患者一行為毎に手洗いを励行してください。

(2)患者に接するときは必ずマスクを着用し、手が鼻に触れないようにしてください。

注)バクトロバン軟膏は、3 日以上は塗布しないでください。また、皮膚への塗布は

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第 3 章 Ⅰ-7

耐性菌を生じやすいので行わないでください。

2.VRE(Vancomycin Resistant Enterococci)について

VREとは,バンコマイシン(VCM)に対し耐性を獲得した腸球菌の総称で,主な菌種は E.

faecalis と E. faecium である。VCM 耐性の遺伝子には,感受性試験や PCR により識別可能な

A, B, C など6型がある。そのうち院内感染では,VCM とテイコプラニンに高度耐性を示す vanA

型と,VCM のみに耐性を示すことが多い vanB 型が問題になる。vanC 型も届け出の対象となっ

ている。MRSA など他の菌への耐性遺伝子の伝播が警戒されている。

腸球菌は腸管に常在するものの,健常人に感染症を起こすことはほとんどない。しかし易感

染状態では,尿路感染,血管留置カテーテル感染,創部感染をきたすことがある。アンピシリン感

受性の場合はアンピシリン,耐性であればVCMが用いられる。VREでは,バンコマイシンのみな

らず,ほぼ全ての抗菌薬が無効なことが多い。

1)VREの動向

20年前の米国におけるVREの検出率は腸球菌全体の0.4%に過ぎなかった。その後急激に

増加し,2004年のCDCの調査では,ICUなどから分離されるVREは腸球菌の30%に達している。

韓国でもVREは増加し,病院での分離率が10%を超えている。我が国のVREの分離率は未

だ0.1%以下と低いが,VRE感染症は全国的に漸増状態にある。またある都道府県でのVRE保

菌者の調査によると,VREが検出される病院,施設が増加している。その背景として,施設内伝

播による増加と,病院・病院間や病院・施設間の患者の移動による増加が考えられる。

2)VRE感染対策の特徴

VREは保菌者の腸管に長期間定着していることが多く,糞便中に高濃度に含まれることが多

い。また,尿路感染症あるいは健康保菌者の尿から分離されることも多い。このため保菌者の

便・尿から繰り返し排泄される状態が生じる。VREが患者から検出され,感染対策が遅れた場

合,病院環境が広範囲に汚染される危険性がある。

したがって,VREの院内感染対策の基本は,早期発見,広がりの監視,接触者や介護者への伝

播の防止(手袋の使用,手指の消毒,手洗いの励行),適切な汚物処理,トイレの消毒,他の重症

患者への感染拡大の防止である。

3)VRE感染予防対策の原則

(京都におけるVRE感染対策指針 version 070221 参照)

(1)腸球菌は腸管の常在菌であり,積極的にVREスクリーニングを行わない限り保菌者の発

見は困難である。したがってVRE保菌の有無を問わず,標準予防策をとる必要がある。

(2)VREは医療従事者の手指,医療器材を介して伝播するので,接触予防策を行う。また,環境

から手指を介して伝播するリスクも高いので,患者や医療従事者の接触する箇所の十分

な清掃が必要である。

(3)VRE の除菌は容易でないので,陰性化した後も継続的な注意が必要である。

(4)リネゾリド(ザイボックス)耐性菌の出現,アウトブレイクの報告があるので,除菌目的で本剤

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第 3 章 Ⅰ-8

を使用しない。

4)感染防止対策

(1)VRE保菌者は,個室もしくはコホート隔離をする。下痢の場合,尿から検出される場合は,ポ

ータブルトイレを使用する。

(2)VRE保菌者の病室はVREで広範囲に汚染されているので,病室に入るときは手袋を着

用する。患者のケアをしているとき,VREで汚染されているもの(便や尿)に触れたら,新し

い手袋に換える。

(3)以下の場合にはビニールエプロンを着用する。

①VRE保菌者あるいは,病室の環境表面とかなりの接触が予想される場合

②失禁状態の場合

③下痢をしている場合,回腸瘻や結腸瘻がある場合。ドレッシングに含ませることができな

い創部からの排液がある場合。

(4)病室を出る前にビニールエプロンと手袋を脱ぐ。手袋を脱いだら直ちに手指衛生を行う。V

REで汚染されている可能性のあるドアノブやカーテンに,衣服や手を接触させないようにす

る。

(5)聴診器,体温計,血圧計などは患者専用あるいは病室専用とする。

(6)VRE保菌者と同室の患者の便を培養し,保菌者かどうかをチェックする。

(7)処置・検査・リハビリは病室内で行う。室外で行う場合は実施部局に連絡する。

(8)処置により環境を汚染するおそれがある場合は,使い捨てシートを使用する。

(9)保菌者の診療や処置は出来るだけ最後に行う。

(10)環境整備については,以下の点に注意する。

①ドアノブ,手すり,スイッチ,病室専用の医療器具は最低1回/日,アルコール消毒する。

②ストレッチャー,車いすは使用後にアルコール消毒する。

③尿器・便器・ポータブルトイレは専用とし,使用後は中性洗剤で洗浄後乾燥する。週1回

は0.1%次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。

④吸引チューブは,毎回使い捨てとし,吸引ビンの洗浄消毒時は,周囲を汚染させないように

注意する。

⑤リネン類は感染性リネンとして扱う。

5)隔離予防対策解除の基準

培養検査でVREが検出されたり検出されなかったりして定着状態が続くので,1週間以

上間隔をあけて3回連続して陰性となるまでとする。隔離予防策解除後も保菌経験者は,

繰り返し保菌しやすいので,継続的な保菌検査、注意が必要である。

6)監視体制

潜在的保菌者を発見すべく,臨床検査に提出された便検体をVRE 選択培地に接種して,定

期的にVRE 保菌検査を行うことことが好ましい。臨床的に感染症起因菌として有意と考えら

れた腸球菌が検出された場合にはバンコマイシン感受性を試験する。なお,選択培地で生育し

た菌はVRE疑い菌とし,遺伝子検査,感受性試験により確定する。

保菌検査を行う場合,以下の項目において該当する者を優先する。

Page 9: 第3章感染症対策各論mrsa/infection_control/manual/pdf/manual3...第3 章 Ⅰ-1 第3章感染症対策各論 Ⅰ.薬剤耐性菌の感染対策 1.MRSAについて MRSAはmecA遺伝子の獲得によりペニシリン結合蛋白PBP2’を作りメチシリン(あるい

第 3 章 Ⅰ-9

(1)集中治療室や MRSA 感染者の多い病室に入室している者

(2)バンコマイシンやテイコプラニンの投与を 2 週以上受けた者

(3)6ヶ月以内に他の病院への入院歴,介護施設への入所歴のある者

(4)VRE検出歴のある者

(5)基礎疾患を有する者,カテーテル類を留置している者

(補)京都におけるVRE感染対策指針version 070221 から抜粋,一部修正

1)特別な対応

(1) ICU, CCU, NICU でVRE 保菌者が発見された場合には,同患者が退院(転院)するま

で,その他の全患者が潜在的保菌者と考えて,全処置時手袋を着用して診療にあたる(uni

versal glove policy)。

(2)患者が退院した後の部屋は,丁寧な拭き掃除等を実施し,手指の触れる部分は丁寧に消

毒用アルコールで清拭した後,次の患者を入れる。

(3)VRE 保菌者の転院時は,転院先の病院に連絡する。

2)VRE 陰性化後の対応

(1)標準予防策を遵守する。

(2)排便後の便器は消毒用アルコールで清拭するよう指導する(あるいは職員が行う)。

(3)抗菌薬投与(抗菌薬の種類,点滴・経口の別は不問)や侵襲的処置(手術)など,再排菌リ

スクが高くなった場合は,適宜便または直腸スワブのVRE 保菌検査を実施する。再排菌

が認められれば,保菌者としての対応を再開する。

3)VRE 保菌歴のある患者が再入院した場合

(1)VRE 保菌者として,入院時から上記感染対策に準じた対応を行う。

(2)入院後VRE 保菌検査を行い,陽性であれば上記対応を実施する。

4)VRE 保菌者発見時の対応

(1) 所管の保健所に連絡する。

(2) VRE 保菌調査

同定できていない保菌者が存在すると,その患者から新たな伝播が起こり続け,新たな保菌

者の発生を止めることができない。

<初回保菌調査>

① 直ちに,広範囲に実施する。同病棟入院全患者を対象とし,保菌者が転棟患者の場合,以

前の病棟も対象に含める。

② 非保菌者(未検査患者)に対しても標準予防策が必要である。

③ 保菌調査の結果がでるまでの間は,発見された保菌者と同病室の患者に対してもVRE

保菌者とみなして接触予防策を実施する。また,同病室患者の病室移動は行わない。転棟

が必要な場合,原則として個室とする。

④ 職員・家族の保菌調査は原則不要である。

Page 10: 第3章感染症対策各論mrsa/infection_control/manual/pdf/manual3...第3 章 Ⅰ-1 第3章感染症対策各論 Ⅰ.薬剤耐性菌の感染対策 1.MRSAについて MRSAはmecA遺伝子の獲得によりペニシリン結合蛋白PBP2’を作りメチシリン(あるい

第 3 章 Ⅰ-10

• 「患者→職員の手指→患者」「患者・職員の触れた物品→職員の手指→患者」の伝播が

ほとんどである。

• 職員の腸管VRE保菌自体は起こりにくく,"職員の便→患者" の伝播の可能性は極めて

低い。(職員の鼻腔・上気道から手指を介して患者への伝播が起こりやすい MRSA と異

なる)

<VRE保菌者入院中の継続保菌調査>

VRE保菌者が入院中は新たな保菌者が発生するリスクが続くため非保菌者に対して保

菌調査を継続する。

• 感染対策が有効に働いていることを証明するために,VRE保菌者入院中は保菌調査を継

続して行う必要がある。

• VRE保菌者がいない状態が確認されるまでは新たなVRE保菌者発生のリスクがあるとみ

なす。

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第 3 章 Ⅰ-11

3. 多剤耐性緑膿菌について

多剤耐性緑膿菌(Multiple‐Drug‐Resistant Pseudomonas aeruginosa; MDRP)の意味するとこ

ろは,時代により異なる。最近は,緑膿菌に抗菌活性の強いフルオロキノロン(シプロフロキサシ

ンやレボフロキサシンなど),カルバペネム(イミペネムなど),抗緑膿菌性アミノ配糖体(アミカシ

ンなど)の3系統の抗菌薬に耐性を有する緑膿菌を MDRP と称している。

感染症法では,イミペネム,シプロフロキサシン,アミカシンの3種類の抗菌薬全てに耐性と判

定された緑膿菌による感染症について「薬剤耐性緑膿菌感染症」(5類感染症)として,定点施

設に対し届け出が求められている。しかし,上記の3系統のいずれかの薬剤に全てに耐性(例:

ゲンタマイシン耐性,レボフロキサシン耐性,メロペネム耐性など)と判定されるような緑膿菌に

ついても,臨床的には,監視と拡散防止対策が必要と考えられる。[国立感染症研究所 多剤耐

性緑膿菌(MDRP)感染症 参照]

1)MDRPの動向

国内の血液から分離された緑膿菌に関する調査(2000年実施)からは,上記の3系統の薬剤

に対する耐性株の分離率は5−20%(アミカシン耐性は約5%)に達している。米国においても同

程度に高い分離率であり警戒されている。加えてわが国では,近年3系統全てに耐性を示す

MDRPが漸増しており問題になっている。現在,国内の分離率は1~数%程度と推定されている

が,施設により状況は異なっており,警戒が必要である。MDRPの場合は有効な治療薬が殆どな

いため,蔓延は阻止しなければならない。そのため2003年から5類感染症定点把握疾患に指定

され,指定医療機関は週単位で発生状況の報告が義務づけられている。

2)緑膿菌としての特徴

微量の有機物があれば増殖が可能であり,蒸留水の容器中ですら,混入したわずかな有機物

を栄養源として増殖することが可能である。したがって,湿潤な環境(流し,尿関連器具,吸入器,

花瓶など)が汚染・増殖の場となる。感染は外因感染(環境,医療従事者,医療器具を介する感

染)と内因感染(保菌者の体内感染)がある。後者の場合,長期の抗菌薬投与による耐性化と

緑膿菌の選択的増殖が原因である。耐性を示す抗菌薬は,中断し感受性の回復を期待すべき

である。

3)薬剤耐性の特徴

多剤耐性の機構として,(1)~(5)の内因性と,(6)(7)の外因性の耐性機構がある。

(1)透過孔 D2 ポリンの減少などによる外膜の透過性の低下・変化:イミペネム耐性

(2)薬剤排出ポンプの機能亢進:キノロン系の耐性,消毒薬抵抗性

(3)ジャイレース,トポイソメラーゼなどの変異:フルオロキノロン耐性

(4)AmpC 型β-ラクタマーゼなど分解酵素の過剰産生:広域セフェム系耐性

(5)莢膜多糖を主成分とするバイオフィルムの産生増加による薬剤の浸透性低下

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第 3 章 Ⅰ-12

(6)メタロ‐β‐ラクタマーゼの産生:広域セフェム耐性,カルバペネム耐性

(7)アミノグリコシドアセチル化酵素など修飾不活化酵素の産生:アミノ配糖体耐性

内因性の機構とは,特定の抗菌薬を使い続けることにより,細菌の染色体の遺伝子が変化し

耐性化する機構であり,外因性(もしくは獲得性)耐性機構とは,異種の菌もしくは同種の異なる

菌株からプラスミド等を受け取り耐性化する機構である。

したがってフルオロキノロンを使用すれば,フルオロキノロン耐性緑膿菌が出現する。一方,ア

ミカシン耐性遺伝子や MBL の遺伝子の場合は,これを保有した何らかの耐性菌が院内に侵入

し,その遺伝子が1剤または2剤耐性の緑膿菌に伝達してはじめて耐性化する。MBL を産生す

る MDRP が同一施設内で複数の患者さんから検出された場合は,細菌学的には「院内感染で

広がった」と考えて対策を講じる必要がある。[国立感染症研究所 多剤耐性緑膿菌(MDR

P)感染症 参照]

4)MDRP の拡散防止の重要性

(1)MDRP は多くがメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を産生する。MBL 産生性の MDRP による感

染症が発生した場合 ,殆どすべてのβラクタム剤は無効 ,他の抗菌剤も殆ど無効であ

り,MRSA やVREよりも危険である。

(2)グラム陰性菌に共通の性質としてエンドトキシン(内毒素)を有するため,肺炎や敗血症な

どを起こした場合,多臓器不全や播種性血管内凝固などにより重症化しやすく,易感染者に

は致命的となることが多い。

(3)緑膿菌の性質として水周りやヒトの腸管内に定着しやすいため,医療環境から排除するこ

とは困難であり拡散防止は容易でない。

5)MDRP の院内感染防止

(1) MDRP の保菌者は,個室管理やコホーティングを行い,MRSA やVREの場合と同様に,標準

予防策や接触感染予防策を正しく実施する。特に,吸痰処置や陰部の清拭,尿道カテーテ

ルの操作時,喀痰処置,陰部の清拭,汚物の処理の際は,手洗いや消毒,グローブやガウン

の着用など,接触感染予防策の徹底が必要である。

(2)MDRP が検出される検体としては,尿検体(特に尿道カテーテル留置例)が多く,採尿,畜尿,

尿検体,汚物処理室での取り扱い後の手洗い,容器の厳重な消毒などの徹底が必要とな

る。自動尿測定装置を使用する場合,蓋の表と裏,尿投入槽等の汚れは2回/日,タッチパ

ネルは2回/日70%アルコールで消毒する。特に尿から MDRP が検出されている場合は,

室内のトイレで尿を廃棄するなど注意が必要である。

(3)尿検体に次いで喀痰検体から検出される事例も最近増えてきている。喀痰などに MDRP

が混じっており,咳などが激しい場合には,飛沫が周囲に飛散して広がる場合もあるので,

飛沫感染予防策が必要となる。

(4)カルバペネム,フルオロキノロン,抗緑膿菌性アミノ配糖体に対する耐性菌の拡散の選択圧

とならないために,抗菌薬の適正使用を図る。

(5)外部からの持込み例が増加しているので,地域全体の医療施設と情報の共有と取り組み

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第 3 章 Ⅰ-13

が必要となる。

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第 3 章 Ⅱ-1

第3章 感染症対策各論

Ⅱ.AIDS(HIV感染)予防策

HIV(human immunodeficiency virus、ヒト免疫不全ウイルス)を病原体とする

感染の全経過をHIV感染症と呼ぶ。この感染症はHIV感染後まもなく一部の患者

に急性期症状を認めることもあるが、急性期症状の有無にかかわらず、これに続く無

症状感染から、さらに病期が進行して細胞性免疫能の低下を来たし、特異な日和見感

染症を発症したり、二次性悪性腫瘍の発生、あるいは神経障害を発現するなど、多彩

な様相を呈するものである。この感染症の本質は、HIVがCD4陽性細胞(主とし

てリンパ球)に感染し、免疫担当細胞の機能障害や破壊を来す結果、免疫不全に陥る

ことにある。

AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)は、HIV感染症の経過の終末像

で、日和見感染症(ニューモシスチスカリニ肺炎、カンジダ症、サイトメガロウイル

ス感染症、トキソプラズマ感染症など)や二次性日和見悪性腫瘍(カポジ肉腫、非ホ

ジキンリンパ腫など)あるいは神経障害(脊髄症や痴呆など)を伴う病態に相当する。

1.感染経路

HIVはHIV感染者の血液、精液、膣分泌液、母乳、脳脊髄液などの体液の他、

組織や臓器に存在する。これらが健常者の粘膜や外傷のある皮膚等に直接接触する場

合、たとえばHIV感染者との性的接触、特に男性同性愛行為の肛門性交、HIV感

染者の母親と胎児の胎盤、産道接触、あるいは輸血、血液製剤等の治療的使用により

感染する。血液や精液が粘膜ないし外傷のある皮膚等から直接進入しない限り HIVは

ほとんど伝播しない。

2.予防の原則

(1)感染源を正しく取り扱う。

(2)抗HIV抗体陽性者とそれに接触する人および家族などに、感染経路などについて

正しい指導をし、感染経路を遮断する。

3.検査の実施

医師が問診の結果等からHIV検査の必要があると判断したときは、事前にその趣

旨を説明し、本人の同意を得た上で検査を行う。なお、意識を喪失した救急患者等の

ように同意が得られない場合には、医師の判断に置いて行うことも認められる。患者

が HIV検査の実施について了解しない場合は、感染している可能性があることを前提

として対応する。

4.患者の診療および告知

1)患者等が発生した場合は、本マニュアルに従い診療を行う。また、診療に関する疑

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第 3 章 Ⅱ-2

問に対しては HIV・AIDS特別委員会(以下「特別委員会」という)に相談する。

2)二次感染予防の観点から、本人に告知することを原則とする。ただし、告知は医師

が陽性者の心理状態等を充分配慮して慎重を期し、必要に応じて委員会に相談する。

また、抗HIV抗体陽性者の家族に対する告知は、陽性者本人の承諾を得て行う。

3)担当医は二次感染予防の観点から、日常生活での注意事項の徹底を図るとともに、

陽性者本人を通じて、性的接触者等が速やかに医療機関を受診し、相談、検査を受

けるように指導する。

5.報告

診断の結果、抗体陽性者が発症した場合は、主治医は感染症発生報告書に記載し速

やかに感染対策室に報告する。

院外については、感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法

律に基づき、主治医はHIV感染者を診療した場合、所定の様式(別記様式5-

7)にて診療後 7日以内に香川県東讃保健福祉事務所に報告する。

注)「後天性免疫不全症候群発生届」は、感染対策室(内線3055)で取り扱う。

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第 3 章 Ⅱ-3

HIV/AIDS 患者の診療・報告体制(入院患者)

入院患者

HIVスクリーニング検査陽性(HIV抗体検査)

HIV確認検査(HIVウエスタンブロット法および

HIV RT-PCR法)と CBC、血液像、CD4/8比の検査

陽性 診療科長等

感染対策室に連絡

(内線 3055)

HIV/AIDSの発症報告(院外報告書)

看護部長

香川県東讃保健福祉事務所

(担当医、病棟看護師長)

感染対策室に連絡

感染対策看護師

(PHS5736、内線 3058)

感染症発生報告書の提出

HIVの診療は HIV担当医が協力する

合併疾患(日和見感染等)の診療は、当該科の医師が当該科の病棟にて行う

HIV/AIDS

特別委員会

委員長

病院長

(感染対策委

員会委員長)

下記の HIV担当医に連絡

(①→②の順番で連絡を取る)

①窪田良次(PHS 5670、内線 2606)

②田中輝和(PHS 5771、内線 3802)

HIV/AIDS 患者の診療・報告体制(外来患者)

外来患者

HIVスクリーニング検査陽性(HIV抗体検査)

HIV確認検査(HIVウエスタンブロット法および

HIV RT-PCR法)と CBC、血液像、CD4/8比の検査

陽性 看護部長

(担当医、外来看護師長)

下記の HIV担当医に連絡

(①→②の順番で連絡を取る)

①窪田良次(PHS 5670、内線 2606)

②田中輝和(PHS 5771、内線 3802)

感染対策室に連絡

感染対策看護師

(PHS5736、内線 3058)

感染症発生報告書の提出

病院長

(感染対策委

員会委員長)

HIV/AIDS

特別委員会

委員長

診療科長等

感染対策室に連絡

(内線 3055)

HIV/AIDSの発症報告(院外報告書)

香川県東讃保健福祉事務所

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第 3 章 Ⅱ-4

6.秘密保持

患者およびその家族のプライバシーと人権を保護するとともに、他の入院および外来

患者への影響を考慮して、秘密保持には、格別の配慮を払い、以下の点に留意する。

1)抗体陽性者に対する指示、指導、連絡等は、医師が直接本人に伝える。

抗体陽性者本人以外からの電話等による、抗体陽性者に関する問い合わせには一切

応じない。

2)抗体陽性者の病状等に関わる証明書等の交付は、原則として抗体陽性者本人以外の

者に対しては行わない。

3)電話等および来院者の窓口相談は患者サービス課医事係で対応する。

7.院内感染の予防

患者発生時の院内感染予防策については,B型肝炎予防策に準じる。

1)HIV感染症患者取り扱いの実際

(1)一般的注意事項

(2)主治医は本マニュアルに従い患者の診療にあたる。

(3)カルテ(入院診療録裏表紙(2ページ目)の特記事項欄および外来診療録裏表紙)

に「HIV」と赤で記載する。

(4)陽性患者の移動(検査、手術等の観血的処置含む)には、必ず関係部局へ連絡す

る。ただし、その表示に関しては、差別を助長するなどの人権上の問題もあるの

で、各部局の責任者はその点に特に配慮すること。

(5)環境

通常の環境での感染リスクは低く、消毒より清掃が大切で、清潔を保つため考慮

する。

①病室

ふつうの接触では感染しないため、通常は隔離する必要はないが、患者のプライ

バシー・人権保護のため原則的に個室が望ましい。

②個室収容の適応

a血液を介する感染のおそれがあるとき

b.消化器症状の悪化があるとき

c.意識障害、精神・神経系の症状出現時

d.白血球減少、免疫機能低下など易感染状態の進行

e.分娩患者の場合

③個室収容患者への対応

a.血液・体液・排泄物などを取り扱う場合は、ゴム手袋を着用する。

b.症状が悪化し重症の場合、曝露の可能性がある場合は、患者の状況に応じて

ゴーグル、マスク、プラスチックエプロンを着用する。

④患者の病室の準備

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第 3 章 Ⅱ-5

a.個室であれば感染性廃棄容器(バイオハザードマーク)・ゴミ専用・針専用

b.ゴム手袋

c.日常使用するもの(体温計・聴診器など)・・・原則的に専用は不要

※室内の清掃は、血液汚染などを次亜塩素酸ナトリウム液でふき取るが、通常は

一般の清掃方式で問題ない。

(6)リネン類

①血液などの汚染がない場合は通常の洗濯方法でよい。

②血液などで汚染された場合は使用場所で専用ビニール袋に入れ、80℃の熱水で

10分以上洗濯する。あるいは 0.5%次亜塩素酸ナトリウムに 30分浸漬する。

③手術、検査で大量の血液・体液で汚染された場合はそのまま廃棄する。廃棄の

場合はビニール袋に入れ、感染性廃棄容器に廃棄処理する。

※原則的に処置などの時は、ディスポーザブル器材を使用する。

(7)食器類

原則的に区別する必要はない。

(8)器具・器材類

HIVは消毒薬や熱に対する抵抗性が弱いため、B 型肝炎ウイルスに準じた処理

法がなされていれば問題ない。HIV 患者の血液が付着した器具などを洗浄した廃

液は、浄化槽へ廃棄して差し支えない。

(9)ゴミ処理

すべての汚染廃棄物は、バイオハザードマークが明示されている感染性廃棄容器

に入れる。一般ゴミは通常の方法と同様。

(10)患者に対する指導

①患者には、日常生活で,血液や体液が他の人に直接触れないような対応を患者

自身が実施できるよう指導する。

a.鼻出血やちょっとした外傷などは、できるだけ自分で止血し、止血確認後傷

口が露出しないようにガーゼや絆創膏で覆う。血液の付いたガーゼは自分で処

理しビニール袋に入れて処分する。

b.水洗トイレに流せる液体の汚物は、血液が混じっていてもトイレに流してよ

い。血液で汚染された生理用品は、ビニール袋に入れ指定の場所に廃棄する。

周りを汚したときはできるだけ自分で掃除を行い、他のヒトが汚染しないよう

に注意する。

c.インシュリンや製剤注射で使用した注射器や針は専用の容器に入れ病院に持

参する。

d.血液等の体液により周囲を汚染したときは消毒用エタノールあるいは次亜塩

素酸ナトリウム(ハイター等)で消毒後、布等で拭き取る。

e.排便、排尿後は石けんを用いて流水で十分手洗いをした後、速乾性手指消毒剤

で消毒する。

f.カミソリ、歯ブラシ、タオル等日常生活用品は患者専用とする。ひげ剃りは電

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第 3 章 Ⅱ-6

動の物をすすめ、本人専用とする。

g.血液や浸出液のついた衣類や寝具は次亜塩素酸ナトリウム(ハイター等キャッ

プ 1杯を 3リットルの水に入れ 30分くらい浸す)で消毒後洗濯をする。血液

や浸出液のついていない洗濯物は通常の洗濯でよい。

h.分泌物はティッシュペーパーにとり、小ビニール袋に入れ、封を行い、感染性

廃棄物として処理する。

i.救急車を呼んだときや病院では、HIV感染していることと通院中の医療機関

を知らせる。

②性生活について

性生活では相手の感染防止のため、体液が直接触れないように注意する。(コン

ドームは指示された使用方法が厳重に守られれば感染の予防に有効である。)

③歯科・他科・他施設受診について

受診時は,担当医の紹介を受け必要な診療が受けられるようにする.また、治

療により使用禁忌薬剤や感染防止の視点からHIV感染を告げて受診するよう

説明しておく。

④予防接種について

免疫力が低下している場合、ウイルスや細菌に感染しやすい状態であり、予防接

種を受けることで感染予防や症状軽減につながるメリットがある。しかし、免疫

力が低下している場合、ワクチンそのものが病気を起こす原因になることがある

ため、予防接種を希望する場合は主治医に相談する。

⑤検査・治療・処置時の留意点

医療従事者が血液、体液の曝露により抗体陽性となった例は、わずかであると報

告されている。その大部分が針刺し事故である。皮膚や粘膜が汚染されることは、

針刺し事故より多いと考えられるが、物理的バリア作用や、血液内に入りにくいこ

とを考えると、感染性はさらに低いと考えられる。そのため血液・体液・排泄物・

臓器など、適切な処置や取り扱いをすることで、感染を防止できる。

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第 3 章 Ⅱ-7

医療処置・看護ケアから見た感染防御レベル

防御

レベル

医療処置 看護ケア 内容

Ⅰ 非観血的医療行為(血液・体液に触

れない日常業務)

検温・清拭

洗髪、足浴など

必要なし

Ⅱ 小規模な観血的医療行為(採血、注

射、点滴、点滴抜針等)

患者の血液や体液に接触する行為

(腰椎穿刺、肺生検、肝生検、皮膚

生検、骨髄穿刺等)

鼻・口腔内出血

などのケア

スキンケア(皮膚症

状のある)

摘便、肛門ケア

ディスポ手袋

必要時マスク・ガウン・

ゴーグル

Ⅲ 中規模以上の観血的診療を行う医療

行為

(CVカテーテル挿入、内視鏡検査、

胸腔ドレナージなど)

吐血、喀血、

下血時のケア

ディスポ手袋

マスク、ガウン

必要時ゴーグル、キャッ

Ⅳ 大規模な観血的診療を伴う医療行為

(手術、血液透析、分娩等)

大量出血による室内汚染のある患者

および精神・神経症状・痴呆などに

より自分で清潔を保てない患者に対

する医療行為

ディスポ手袋、マスク、

ガウン、

靴カバー、ゴーグル

キャップ

(11)検体の取り扱い

①検体を扱う場合は、ディスポ手袋を着用する。

②採血は、真空採血を原則とする。

③採血針はリキャップせず、所定の容器に廃棄する。

④ディスポ注射器使用時は、針をはずすことなく、リキャップせず速やかに所定の

容器に廃棄する。

⑤動脈採血などでリキャップを必要とする場合、安全装置を的確に作動させる。

(12)消毒方法

HIVは消毒薬や熱に対する抵抗性が弱いため、B 型肝炎ウイルスに準じた処理法

がなされていれば問題ない。

消毒薬として次亜塩素酸ナトリウム、グルタラール、エタノール、イソプロパノー

ル、ポビドンヨードなどによる処理が、感染性不活化に有効である。HIV 感染症患

者の血液が付着した器具などを洗浄した廃液は、浄化槽に廃棄しても差し支えない。

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第 3 章 Ⅱ-8

消毒方法

対象物 消毒液 方 法

手指 擦式アルコール消毒剤

消毒用エタノール

イソジン

石鹸と流水で 30 秒以上かけて洗浄し、その後イソ

ジンまたは消毒用エタノールで消毒する。

速乾性擦式アルコール消毒剤による手指消毒

眼 10%ポビドンヨード

(生理食塩水で4~5 倍に

希釈して使用)

眼に血液等が入ったときは、左記による消毒と多量

の水による洗浄を行う。

口腔 イソジンガーグル 30秒以上かけて数回含嗽

体温計 消毒用エタノールによる清

0.5%次亜塩素酸ナトリウム

2回

汚染の無い場合、10~30分浸漬後洗浄、薬液は毎日

交換

器具類 2%グルタールアルデヒド 30~60分浸漬後洗浄

なるべくウォッシャーディスインフェクターなど

の自動洗浄機を使用する。

衣類・リネン 0.1%次亜塩素酸ナトリウム 血液、体液等付着時のみ 30 分浸漬、または熱水洗

濯(80℃10分間)。汚染の無い場合不要。

食器 0.1%次亜塩素酸ナトリウム 消毒不要

血液が付着した場合は、30 分浸漬または熱水処理

(80℃10分間)

排泄物 1%次亜塩素酸ナトリウム 下血のある場合 1時間浸漬

無い場合は不要

尿器・便器 熱水 ベットパンウォッシャーで洗浄

床・環境 1%次亜塩素酸ナトリウム 血液汚染時、1%次亜塩素酸ナトリウム清拭、また

は 0.5%で 30分放置後清拭。

※器械・器具の場合温熱洗浄機(ベットパンウォッシャーなど)を使用すれば、消毒薬は不要。

8.病院各部署での対策

1)外科系

(1)HIV感染症患者に対する一般的取り扱い

血液や浸出液などに直接触れないように注意し、医療行為のレベルによっては、

適宜、ディスポ手袋、防水ガウン、マスク、ゴーグルなどを着用する。ただし、手

術時等の装備については、必要以上に過剰になると操作を鈍くし、手術等に支障を

来すほか、感染の危険性をかえって増加させることに注意しなければならない。

①通常の診察などの非観血的な医療行為では、防御用具は不要である。患者の剃

毛は必要最小限とし、できれば脱毛剤を用いる。

②生検、ルンバール、内視鏡検査などの小規模な観血的治療・検査を伴う医療行

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第 3 章 Ⅱ-9

為では、滅菌手袋の着用が必要である。

③手術をはじめ、血液などの飛沫や骨粉の飛散する可能性の高い場合などでは、滅

菌手袋(2重にすることにより、感染の危険性を低下させる)、マスク、防水ガウ

ンなどの着用をはじめ、眼の防御にゴーグルが必要である。

④可能な限りディスポーザブルの器具を使用することが望ましい。使用後は廃棄が

原則であるが、各種処置後その器材によっては、消毒の再利用が可能である。

⑤手術処置を行う場合は、関係各部署に陽性である旨を連絡する。

⑥陽性者の血液・体液などで手、指が汚染された場合は、直ちに流水で十分に洗浄

し、消毒用エタノールで清拭する。

(2)手術室の管理上の対策

①その日の最後に手術を行う。限定された区域を汚染域として使用し、汚染の拡大

を防止する。

②汚染域に入る場合は、手袋、ガウン、マスク、ゴーグルなどとともに足カバーを

着用する。

③必要最低限の人数が手術に関係するものとし、手術中の出入りは制限する。

④手術室の機器は必要最低限とし、可能な限りディスポーザブル製品を使用する。

⑤メス、針など鋭利な器具の受け渡しは、一度トレーなどにおいて間接的に行う。

⑥血液、体液の高度の飛散が予測される手術では、手術台、その他の備品は必要に

応じて防水性のシートで覆う。

⑦汚染域の外に出る場合は、手袋、マスク、ガウン、ゴーグル、足カバーや、その

他血液、体液の付着した可能性のあるものはすべて脱ぐかあるいは取り外す。

(3)手術機器・手術用具等の汚染物への対策

①汚染物の取り扱いは、必ず手袋を着用して行う。汚染した手袋で他のものに触れ、

汚染を拡大しないよう注意する。

②使用後の手術器械類は、蛋白分解酵素剤に浸漬後密閉容器に入れ材料部に提出し、

ウォッシャーディスインフェクターで洗浄後滅菌を行う。

③血液、組織片等で汚染した床、壁などの表面は、1%次亜塩素酸ナトリウム清拭、

または 0.5%で 30分放置後清拭する。

④使用後のディスポーザブル製品などは、感染性廃棄物として当院のマニュアルに

従い処理する。

⑤手術野の汚染は、消毒用エタノールで十分清拭し、手術創は閉鎖的に被覆する。

ドレーン類は閉鎖式を使用し、解放創からの血液・分泌物による周辺への汚染が

起こらないよう十分注意する。

(4)救命救急センターでのHIV感染症取扱い

①感染の有無が不明な患者が少なくないので、常に医療従事者のHIV感染防止

体制で臨む。(外科系 HIV感染症患者に対する一般的取り扱い、手術室の管理上

の対策、手術機器・手術用具等の汚染物への対策に準じる。)

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第 3 章 Ⅱ-10

2)歯科系

(1)医療従事者の感染予防対策

歯科・口腔外科診療においては、抜歯、切開等の外科的処置および歯周療法等の

観血的な処置を行う頻度が高い。HIV感染予防策としては、基本的には前述の外

科系の対応と同じである。しかし、歯科・口腔外科診療では歯牙の切削、印象採得

(歯あるいは歯槽堤の型を取ること)等の他領域にはない治療法がある。以下、こ

れらの治療法および治療機器に関する感染予防策を概説する。

①歯牙の切削

歯科治療ではエアータービン、エンジン(歯牙および骨の切削機器)、スプレー

等を多用し、これらの機器使用時には術者の顔に血液、唾液の混在した飛沫粒子

を浴びることが多い。したがって、これらの機器を使用する場合は、手袋、ガウ

ン、ゴーグル、マスクあるいはフェイスシールドを着用する。

②デンタルチェアーおよびユニット(歯科用診療椅子)

HIV に限らず感染症患者専用のユニットが確保されることが望ましい。テーブ

ルにはディスポーザブルのシートを使用し、診療後は破棄する。また、デンタル

チェアーは、診療後消毒用エタノールまたは 0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭す

る。

③印象採得

印象物(歯および歯槽堤の型を取ったもの)には血液や唾液が付着しているので、

印象採得後直ちに水洗し、0.5%次亜塩素酸ナトリウムに 30 分浸す。また、印象

材は印象表面の荒れ、寸法変化が考えられるので、アルギン酸系印象材よりラバ

ー系印象材を用いる方がよい。

3)妊婦・新生児・小児のHIV

(1)HIV感染妊婦の管理

妊娠継続例においては、通常妊娠管理に加え、母体の疾患管理、母子感染予防、

他者への感染防止が問題になる。母体の HIV 感染の状態を、CD4 陽性細胞数、血漿

中 HIV・RNA レベル、抗レトロウイルス療法の既往、在胎週数などから、評価する。

また、4 週ごとに血中ウイルス量、CD4陽性リンパ球数、薬剤耐性検査を行うこと

が望ましい。また、担当産科医はHIVを専門とする内科医と連携して、母体への

ケアを行う必要がある。

① HIV感染妊婦の分娩時の対応

ⅰ入院時に HIV抗体検査を行う。

ⅱ原則として個室を使用する。

ⅲ診察時は感染扱いとし、手術用手袋に内診用手袋を 2重に使用する。

ⅳ診察時に破水の可能性があれば防水ガウン、キャップ、フェイスシールドを着

用する。

ⅴ帝王切開時は手術室の感染対策に準ずる。

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第 3 章 Ⅱ-11

ⅵ介助者の準備

直接介助産科医、帝王切開施術産科医、直接介助助産師:キャップ、フェイ

スシールドマスク、ビニールエプロン+滅菌ガウン、2重手袋、防水足袋

間接介助助産師、手術室看護師:フェイスシールドマスク、ビニールエプロ

ン、滅菌ガウン、防水足袋、2重手袋立ち会い新生児科医:キャップ、フェイ

スシールドマスク、ビニールエプロン+滅菌ガウン、防水足カバー、2重手袋

ⅶ分娩室での廃棄物は、感染廃棄物容器に破棄する。すべて HBの感染扱いに準

ずる。手術器具、児の蘇生器具の扱いに関しては、他手術の際のマニュアルに準

ずる。

ⅷ胎盤娩出、縫合まで医師が実施する。

(2)HIV感染妊婦より出生した新生児の管理

①分娩時における児のケア

ⅰ.スタッフの着衣、蘇生台、蘇生器具等は前記参照。血液や羊水との接触には十

分注意を払う。

ⅱ.出生児、新生児に付着した血液を直ちに拭き取る。新生児の気道、胃内吸引は

血液を除去する程度で可とし、吸引による粘膜損傷は避ける。胃内吸引が血性の

時は、温生食による胃洗浄を行う。

ⅲ.臍帯はクリップで結紮し、断端はポビドンヨードで消毒する。

ⅳ.出生時点眼には生理食塩水で洗眼後に通常のエコリシン点眼を行う。

ⅴ.通常は 36 週頃の早産となるため、保育器収容の上でバイタルサインの監視を

行う。その後、異常がなければ母子同室とする。

ⅵ.使用したリネン類、器具類の扱いは手術室の感染マニュアルに準じる。経膣分

娩となった場合には、使用したリネンをビニールに入れて分別し、廃棄物は感染

性廃棄物容器に廃棄し、HB扱いと同様に処理する。

ⅶ.母乳保育は行わない。

②日常の児のケア・検査

ⅰ.新生児の体液は感染扱いとし、血液の扱いは B型肝炎管理に準じる。

ⅱ.沐浴は一般児と同様に行うが、他の児の後とする。

ⅲ.採血、注射、点滴などの処置については観血的管理(リキャップしない、静脈

留置針内筒の扱いなど)に準じて行い、検体は感染扱いとする。

ⅳ.レントゲン検査についても一般児と同様に行うが、原則としてポータブル撮影

とする。

ⅴ.未熟児など眼底検査を要する場合は、開瞼器の消毒に注意する。

ⅵ.交換輸血については、NICU内で手術に準じて取り扱う。

ⅶ.使用したリネン類はビニールに入れて分別する。廃棄物は感染用ゴミ箱に廃棄

する。

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第 3 章 Ⅲ-1

第3章感染症対策各論

Ⅲ 結核対策

1.結核症の診断

抗酸菌感染症であることの診断、さらに結核症と非結核性抗酸菌症の鑑別を正確かつ

迅速に行うことは、治療と感染対策において極めて重要である。患者の基礎疾患、臨床

症状、あるいは種々の画像診断といったものから、臨床医の判断によってある程度は診

断が可能であるが、最終的には起炎菌を検出し、その細菌学的な同定により診断が確定

する。迅速な起炎菌の決定のために、従来からの検体の塗抹・培養・同定検査に加え、

最近では遺伝子検査が応用されている。また、治療薬の選択のために薬剤感受性検査が

行われる。

1) ツベルクリン反応(ツ反)

(1)ツ反は結核菌感染後の免疫獲得を示すものにすぎず、結核症発病の判定に用い

ることはできない。

(2)ツ反は結核菌感染以外にも、BCG接種によっても陽性になる。

(3)ツ反陰性であっても、結核症を完全には否定できない。

2)喀痰の採取

(1)良質の膿性喀痰の採取に努める。

(2)外来患者は採痰ブース内で喀痰を採取する。

(3)早朝の 3日連続喀痰を検査室に提出する。

(4)検体の運搬時には密閉容器を用いる。

(5)喀痰採取が困難な時は誘発喀痰あるいは胃液が代用される。

3) 喀痰の塗抹検査

(1)迅速(1時間以内)に結果が判明する。

(2)検出感度は培養検査や核酸増幅検査に劣る。

(3)塗抹陽性結果は排菌量が多いことを意味する。

(4)結核菌と非結核性抗酸菌との鑑別はできない。

4)喀痰の培養検査

(1)陽性結果を得るのに数週間を要する。

(2)優れた検出感度を有している。

(3)結核菌と非結核性抗酸菌との鑑別はできない。

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第 3 章 Ⅲ-2

5) 核酸増幅検査(PCR)

(1)数時間で結果が判明する。

(2)検出感度は液体培養検査にやや劣る。

(3)結核菌と非結核性抗酸菌との鑑別が可能である。

6)検査室の安全管理

(1)検査中に結核菌を含んだエロゾールの吸入によって感染が起こり得る。

(2)結核菌検査室は感染防止策が施されていなければならない。

2.結核菌の感染と感染予防策

結核は、空気感染により伝播する伝染性疾患である。空気感染とは、微生物を含む

直径 5ミクロン以下の飛沫核が、長時間空中を浮遊し空気の流れによって広範囲に伝

播される感染様式をいう。感染予防策には空気予防策が適用される。

1) 結核患者の感染性

(1)患者の感染性は、喀痰中の排菌量が多いほど、咳の持続期間が長いほど高い。

(2)飛沫が発生しない肺外結核では、空気予防策は不要である。

2)結核患者の病室管理

(1)結核病棟を有する専門治療施設(国立療養所高松病院、香川県立中央病院)

にて加療が可能である患者については、原則として転院とする。

(2)当院における専門治療が必要である患者については、個室隔離とする。

(3)感染性の結核が疑われる患者は、結核が否定されるまで個室隔離が望ましい。

(4) 多剤耐性菌による結核患者は、結核病棟を有する専門治療施設へ転院させる。

3) 結核患者管理病室

(1)患者が入室している部屋の空気は、他の病室へ流出させてはならない。

(2)HEPAフィルタによる空気濾過が可能な陰圧空調個室が望ましいものの、当院に

おいてはそのような個室がないため、ポータブルの HEPAフィルタ内蔵空気清浄機

(感染対策室にて保管)を設置する。

4)患者の移送

(1)感染性結核症と診断された患者は、個室隔離を行い病室からの外出を制限する。

(2)患者が病室外に出るときは、サージカルマスクを着用させる。

(3)患者を転院させる場合には、公共交通機関を使用させない。

5)隔離の解除

(1)薬剤感受性菌による感染症では、治療経過とともに感染性は急速に低下する。

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第 3 章 Ⅲ-3

(2)臨床症状の改善とともに、3日間連続の喀痰塗抹陰性により隔離を解除してもよ

い。

(3)多剤耐性菌の場合は、一旦排菌が停止しても慎重に対応する。

6)結核患者のケアと環境整備

(1)医療従事者あるいは家族が病室に入るときには、タイプ N95微粒子用マスクを

着用する。

(2)聴診器や血圧計などを患者専用にする必要はない。カルテを病室内に持ち込んで

もよい。

(3)手袋、ガウン、あるいはゴーグルの着用は必要ない。

(4)食器や残飯、ゴミ、タオルやリネン類は通常の処理でよい。部屋の掃除やカー

テン類の洗濯も通常の方法でよい。

3. 医療従事者の健康管理プログラム

近年、医療機関での医療従事者結核感染が問題となっている。とくに、30歳代以

下では結核未感染者がほとんどであるため、集団感染事例に発展しやすい。定期健康

診断での胸部レントゲン撮影が、結核発病の早期発見に有用である。その他、感染の

指標としてのツベルクリン反応検査、感染予防としての BCGワクチン接種、発病予防

としての予防薬内服が、それぞれの施設で行われているが、その適応や判断基準は必

ずしも一定したものではなく、現場の判断に任されているため、混乱が生じているの

が現状であろう。

1)ツベルクリン反応(ツ反)

(1)熟練した医療従事者により、精製ツベルクリン 0.1 ml(5単位)を皮内に接種

する。

(2)48~72時間後に判定を行い、発赤径 9mm以下を陰性、10mm以上を陽性とする。

(3)短期間の繰り返しにより反応が増強される(ブースター効果)。

(4)陽性結果から BCGによる反応か結核感染によるものかの鑑別はできない

(5)個人のツ反のベースライン値を知ることは、感染事故の対応時に有用な場合

がある。

2)BCG

(1)小児の重症結核に対する予防効果は示されているが、成人に対しては評価が定

まっていない。

(2)ツ反陰性の医療従事者に対して、一律に接種することは推奨されない。

(3)結核患者をケアする病棟の医療従事者や病理・微生物担当の検査技師には接種

を考慮してもよい。

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第 3 章 Ⅲ-4

3)化学予防

(1)感染から発病に至るのは約 10%である。

(2)発病は感染後 1年以内が最も多く、徐々にその率は低下していく。

(3)感染が強く疑われた場合、抗結核薬の予防内服が勧められる。

4.病棟で入院患者あるいは医療従事者が結核を発病した場合(含定期外検診)

一般病棟おいて、入院患者あるいは医療従事者が結核を発病した場合は、他の患者

や職員への感染の拡大を防ぐために、必要な対策を迅速に行わなければならない。特

に免疫不全患者が多く入院している大学病院においては、感染拡大の危険性が高い。

1)感染拡大防止

(1)直ちに排菌患者に対し空気感染予防策を実施する。

(2)診断後直ちに所管(住民票のある)の保健所に届け出る。

2)感染者のスクリーニングとフォロー

(1)所轄保健所の指導のもと定期外検診(結核感染の診断のための検診)を行う。

(2)結核患者と同室の患者およびケアに関わった職員が検診の対象となる。

(3)検診の内容は、問診、感染の有無の検査(QFT検査、ツ反検査)、発病の有無

の検査(胸部レントゲン撮影、喀痰検査)からなる。

(4)感染が強く疑われる場合は化学予防の適応となる。

3)医療従事者の職場復帰

(1) 症状と胸部レントゲン所見が改善し、結核菌培養陰性が確認されてからが望

ましい。

(2)薬剤耐性菌の場合は、排菌停止後も慎重に対応する。

5.治療の必要性から肺結核患者の転院受け入れを計画するとき

1)主治医(科長含む)は、呼吸器専門の Infection Control Doctor(ICD呼吸器

内科)と相談し、その危険性を正しく評価する。

2)ICDは感染対策室員会議を招集する。

3)感染対策室長は、具体的な状況を病院長に報告する。

4)最終的には、病院長の承認を得て転院の手続きをとる。病院長に連絡が取れな

い時は、診療担当の病院長補佐の承認を得る。

5)感染対策看護師は、病棟看護師長と相談の上、必要に応じて環境整備、および

N95マスク配布などを行う。

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第 3 章 Ⅲ-5

6.結核患者の病室管理

結核患者が発生した場合、結核病棟を有する専門治療施設(国立療養所高松病院、

香川県立中央病院など)に原則として転院とするが、当院で専門治療が必要など直ち

に転院することが困難な場合は、以下のように個室隔離とする。

1)患者入室前の場合

(1)感染対策看護師が管理課整備係(2101)に連絡し、病室天井の給気口と排

気口を閉鎖および、HEPAフィルター内蔵空気清浄機(ホスピガード)の取り付け

を行うよう依頼し、修繕依頼書を提出する。

(ホスピガードは感染対策室で管理)

(2)上記の作業は医療従事者立会いのもと、整備係職員が行う。

(3)ホスピスガードを作動させ、陰圧個室になっていることを確認後、患者を入室

させる。

(4)部屋のドアは閉じておき、患者は室内に制限する。

(5)医療従事者が部屋に入るときは N95マスクを着用する。

(6)患者の湿性生体物質(血液、体液、分泌物、排泄物など)で衣服が汚染される

可能性があればガウンやプラスチックエプロンを着用する。

(7)飛沫汚染が起こりうる場合はフェイスカバーを着用する。

(8)湿性生体物質に接触するときには手袋を着用し、使用後には手洗いをする。

(9)患者を移送するときは外科用マスクを着用させ拡散を防ぐ。

2)患者がすでに入室している場合

(1)感染がわかった時点で空調機による他室への空気感染予防のため、その系統の

空調機停止を整備係に依頼する。

(2)感染対策看護師が管理課整備係(2101)に連絡し、病室天井の給気口と排

気口を閉鎖および、ホスピガードの取り付けを行うよう依頼し、修繕依頼書を

提出する。(ホスピガードは感染対策室で管理)

(3)整備係職員が部屋に入室するときは医療従事者が立ち会い、N95マスクを着用し

入室し、作業を行う。

(4)ホスピガードを作動させ、陰圧個室になっていることを確認する。

その後停止した空調機の運転を開始する。

(5)部屋のドアは閉じておき、患者は室内に制限する。

(6)医療従事者が部屋に入るときは N95マスクを着用する。

(7)患者の湿性生体物質(血液、体液、分泌物、排泄物など)で衣服が汚染される

可能性があればガウンやプラスチックエプロンを着用する。

(8)飛沫汚染が起こりうる場合はゴーグルを着用する。

(9)湿性生体物質に接触するときには手袋を着用し、使用後には手洗いをする。

(10)患者を移送するときは外科用マスクを着用させ拡散を防ぐ。

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第 3 章 Ⅲ-6

3)患者退室後の処置

(1)患者退室後は、窓を 1時間以上開放し、十分な換気を行った後通常の清掃を行

う。

(2)室内の清掃終了後ホスピガードの取り外しを整備係に依頼する。

(3)床や床頭台など環境表面の過剰な消毒は必要ないが、湿性生体物質で汚染され

ている可能性があれば、0.5%テゴで清拭消毒する。

(4)痰などの湿性生体物質で汚染されたリネンは感染症用のビニール袋に入れ洗濯

に出す。

(5)人工呼吸器を使用した場合、ディスポーザブル回路を使用し、本体は消毒用

エタノールで清拭消毒する。

4)その他

(1)ホスピガードの取り扱いは別紙説明書による。

(2)室内陰圧は、0.1㎜ H2O以上とする。

(3)2)の場合は、空調機を停止するまで他室へ結核菌が広まっていることが考え

られるので、他室の状況確認等の対応を必要とする。

(4)N95マスク、フェイスカバーは感染対策室で管理する。

7.結核発生時の対応フローチャート

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第 3 章 Ⅲ-7

8.病院内各部署での対策

結核が疑われる 診断と治療 感染対策

空気予防策の実施

結核の診断(呼吸器内科コンサルト)

喀痰塗抹・培養・PCR検査・胸部 X-P

ツベルクリン反応検査

感染対策室へ連絡・巡回

喀痰塗抹検査

陽性 陰性

PCR 検査 PCR 検査

陰性 陽性 陰性

結核症 非結核性

抗酸菌症

非結核性抗酸菌症

または

軽症の結核

原則として結核療養

施設へ転院する (当院での治療継続

が必要な場合は個室

隔離)

非 結 核 性

抗 酸 菌 症

の治療

他疾患

の治療

当院での治療継続

結核患者発生届*1

感染症発生報告書*2

提出

入院当初より感染対策を実施

接触者スクリ

ーニング必要

なし

YES

接触者の

ベースライン

ツ反値の確認

NO

ツ反検査または

QFT検査

発赤径 20mm 以上増大

または発赤径 40mm以上

QFT検査 陽性

胸部 X-P 撮影

陰影なし

胸部 X-P(定期検診時)

直接撮影が望ましい

INH

予防内服

発病

結核の

治療

YES

結核患者に接触した患者への対応:

接触者健診は、保健所と協議し実施する。

(所管(住民票がある)の保健所が対応)

NO

*1別記様式

*2別紙

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第 3 章 Ⅲ-8

1)外来部門

(1)持続する発熱と咳があり結核が疑われる患者は、診察受付において診察順を

優先させる。

(2)結核が疑われる患者にはサージカルマスクを提供する。

2)気管支鏡検査室

(1)空気予防策が実施できる空調設備を備えておくことが望ましい。

(2)結核が疑われる患者の検査時は、術者と介助者はタイプ N95型微粒子用マス

クと予防衣を着用する。

(3)検査終了後も咳が続く患者には、サージカルマスクを着用させる。

3)微生物検査室

結核症の診断の項に記載した。

4)病理部門および剖検室

(1) 結核が疑われる患者の場合は、執刀医や介助者はタイプ N95型微粒子用マス

クを着用する。

(2)バイオハザード対策解剖室が望ましい。

5)呼吸機能検査室

(1)空気予防策が実施できる空調設備を備えることが望ましい。

(2)結核または結核が疑われる患者は検査を控える。

6)手術室

(1)可能であれば感染性が消失するまで手術を延期すべきである。

(2)やむをえず手術を行う場合は、陰圧空調が設置された部屋で行う。

(3)手術の順番をその日の一番最後にする。

(4)手術に携わる医療従事者は、必要最小限の人数に限定する。

7)精神科病棟

(1)入院前に胸部レントゲン撮影を行い、入院中も定期的に実施する。

8)小児の結核

(1)乳幼児では感染源との接触の度合い、排菌の度合いが低い場合でも感染する可

能性があるので注意が必要である。

①乳幼児では学童、成人の結核と比べると病像の伸展が早く、粟粒結核や結核

性髄膜炎などの重篤な病状に陥ることがあるので注意が必要である。

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第 3 章 Ⅲ-9

② BCG接種は重症結核に対する予防効果は示されているが、初期変化群肺結核

に対する効果は不確定である。

③BCG未接種のツベルクリン反応が中等度以上陽性例は感染の疑いがあり精査

が必要である。

(2)小児結核の培養陽性率は成人と比べて低いため注意が必要である。

(3)乳幼児や喀痰の採取が出来ない場合は、早朝の胃液採取を行う。胃液の採取は

子供を覚醒させ、歩き回ったり、朝食を採る前に経鼻チューブを挿入して採取

する。検体は 3日連続採取する。

(4)胸部単純撮影で診断が困難な時に胸部CTが診断の助けとなる事がある。

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第 3 章 Ⅳ-1

第3章感染症対策各論

Ⅳ.感染症別予防策

1. 水痘・帯状疱疹

水痘および免疫不全患者の播種性帯状疱疹の患者に対しては、空気予防策+標準予

防策を適用する。通常の帯状疱疹患者は、接触予防策+標準予防策を適用する。

1)隔離対策

(1)患者は、すべての水疱が痂皮形成(発疹出現後 5~7 日)するまで個室隔離す

る。その際、周囲の区域に対し、陰圧に設定されている個室に収容することが

望ましい。

(2)患者が病室外に出ることを最小限にする。やむを得ず病室外に出る場合は、外

科用マスクを着用させる。

(3)抗体陰性者の面会を制限する。抗体陰性者が入室するときは N95マスクを着用

する。

(4)床や壁は通常の清掃を行う。ベッド柵、オーバーテーブルなど高頻度接触表面

は清拭消毒を行う。

(5)患者退院後は、病室の窓を開けて 2時間以上換気を行う。

2)感染防止対策

(1)患者のケアは水痘・帯状疱疹ウイルスに対して抗体を有する者が優先して行

う。やむを得ず抗体陰性者がケアする場合には、N95微粒子用マスクを着用する。

(2) 痂皮化されていない水疱との接触を避けるため、患者および臥床環境に密接

に接触する場合には、手袋、ビニールエプロンを着用する。

(3)患者処置、ケア後、マスク・手袋・ビニールエプロンを外した後に、石鹸と流

水またはアルコール手指消毒剤で手指衛生を図る。

(4)2次感染予防

①暴露者リスト作成と抗体検査

ⅰ発端患者の発症 2 日前~水疱がすべて痂皮形成(水疱出現 5 日まで)する

までは感染性があるので、この期間接触した入院患者と家族、医療従事者、

外注職員、学生などを対象にリスト作成を行う。

ⅱ既往歴およびワクチン接種歴を確認し、「既往なし」、「ワクチン未接種者」

に対し IgG抗体検査を実施する。

②予防処置(抗体検査が-、±の場合)

ⅰ免疫不全のない患者

暴露後 3 日以内であれば、ワクチン接種、γグロブリン接種により予防ま

たは軽症化が可能である。

ⅱ免疫不全患者に対しては、アシクロビル、γグロブリンの予防投与を行う。

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第 3 章 Ⅳ-2

③2次感染する可能性がある患者隔離

最初の暴露日から 11日目~最後の暴露日から 21日目まで隔離し経過観察を

する。

(5)職員の就業

①発症した医療従事者は、すべての発疹が痂皮形成するまで就業停止とする。

②抗体陰性者は、最初の暴露から 11日目、最終の暴露から 21日目まで就業し

ないこととする。

(6)帯状疱疹

脊髄後根の知覚神経節に潜伏感染し、再活性化により発生するため、気道粘膜

での増殖がなく、接触感染が主体である。そのため感染力は弱いが、免疫不全患

者の多い病棟では隔離が必要である。免疫不全患者にみられる播種性帯状疱疹に

対しては水痘に準じた対応が必要である。

(7)原則として抗体陰性の病院職員は、ワクチンを接種する。

2.麻疹

患者に対しては空気予防策+標準予防策を適用する。

1) 隔離対策

(1)水痘・帯状疱疹に準ずる。

発疹出現後 7日まで隔離する。抗体陰性者が入室するときは N95マスクを着用

する。

2)感染防止対策

(1) 患者のケアは、抗体を有する者が優先して行う。やむを得ず抗体陰性者がケ

アする場合には、N95微粒子用マスクを着用する。

(2)2次感染予防

①暴露者リスト作成と抗体検査

ⅰ発端者の発症 3 日前~発疹出現後 7 日目までに接触した入院患者、家族、

医療従事者、外注職員、学生などを対象にリストを作成する。

ⅱ既往歴およびワクチン接種歴を確認し、「既往なし」、「ワクチン未接種者」

に対し IgG抗体検査を実施する。

②予防処置(抗体検査が-、±の場合)

ⅰ暴露後3日以内であれば、ワクチン接種、6日以内であればγグロブリン接

種により予防または軽症化が可能である。

③2次感染する可能性がある患者隔離

最初の暴露日から 7日目~最後の曝露日から 13日目まで隔離し経過観察する。

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第 3 章 Ⅳ-3

(3)職員の就業

①発症した医療従事者は、発疹が出現してから 7日間は就業停止とする。

②抗体陰性者は、最初の暴露から 7日目、最終の暴露から 13日目まで就業し

ないこととする。

(4)原則として抗体陰性の病院職員は、ワクチンを接種する。

3.風疹

患者に対して、飛沫感染予防策+標準予防策を適用する。

1)隔離対策

(1)患者を発疹が消失するまで個室に収容する。または、可能であれば退院する。

(2)患者が病室外に出る時は、外科用マスクを着用する。

(3)抗体陰性者の面会を制限する。入室するときは外科用マスクを着用する。

(4)床や壁は通常の清掃を行う。ベッド柵、オーバーテーブルなど高頻度接触表面

は清拭消毒を行う。

(5)患者退院後は、病室の換気を十分に行う。

2)感染防止対策

(1)患者のケアはウイルスに対して抗体を有する者が優先して行う。やむを得ず抗

体陰性者がケアする場合には、外科用マスクを着用する。

(2)2次感染予防

①暴露者リスト作成と抗体検査

ⅰ発端者の発疹出現 7 日前~発疹出現後 5 日目までに接触した入院患者、家

族、医療従事者、外注職員、学生などを対象にリストを作成する。

ⅱ既往歴およびワクチン接種歴を確認し、「既往なし」、「ワクチン未接種者」

に対し IgG抗体検査を実施する。

②γグロブリン、ワクチンなどの効果は不明である。

③2次感染する可能性がある患者隔離

最初の曝露日から 7日目~最後の曝露日から 21日目まで隔離が望ましい。

(3)職員の就業

①発症した医療従事者は、発疹が出現してから 5日間は就業停止とする。

②抗体陰性者は、最初の曝露日から 7日目~最後の曝露日から 21日目まで就業

しないことが望ましい。

(4)原則として抗体陰性の病院職員は、ワクチンを接種する。

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第 3 章 Ⅳ-4

4.流行性耳下腺炎

患者に対して、飛沫感染予防策+標準予防策を適用する。

1)患者隔離

3.風疹に準ずる。耳下腺の腫脹が消失するまで隔離する。

2)感染防止対策

(1)患者のケアはウイルスに対して抗体を有する者が優先して行う。やむを得ず抗

体陰性者がケアする場合には、外科用マスクを着用する。

(2)2次感染予防

①暴露者リスト作成と抗体検査

ⅰ発端者の耳下腺の腫脹出現 9日前~出現後 9日目までに接触した入院患者、

家族、医療従事者、外注職員、学生などを対象にリストを作成する。

ⅱ既往歴およびワクチン接種歴を確認し、「既往なし」、「ワクチン未接種者」

に対し IgG抗体検査を実施する。

②γグロブリン、ワクチンなどの効果は無効である。

③2次感染する可能性がある患者隔離

最初の曝露日か 11日目~最後の曝露日から 21日目まで隔離が望ましい。

(3)職員の就業

①発症した医療従事者は、耳下腺炎後 9日間は就業停止とする。

②抗体陰性者は、最初の曝露日から 11日目~最後の曝露日から 21日目まで就

業制限が望ましい。

(4)原則として抗体陰性の病院職員は、ワクチンを接種する。

5.伝染性紅斑(りんご病)

伝染性紅斑はパルボウイルス B19 によっておこる小児の発疹性疾患である。潜伏

期は 14-21 日である。伝染性紅斑の患者は、紅斑が出現したときには感染性の期間

が過ぎているので、有効な予防対策はない。発症した医療従事者も全身状態がよけ

れば就業してもよい。

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第 3 章 Ⅳ-5

6.インフルエンザ

患者に対しては飛沫感染予防策+接触感染予防策+標準予防策を適用する。

1)患者隔離

(1)患者は個室収容が望ましい。個室収容が困難な場合は、複数患者を一室にまと

めて収容し、ケアの担当職員も限定しておく(コホーティング)。

(2)患者が病室外に出る時は、外科用マスクを着用する。

(3)床や壁は通常の清掃を行う。ベッド柵、オーバーテーブルなど高頻度接触表面

は清拭消毒を行う。

(4)患者退院後は、病室の換気を十分に行う。

2)感染防止対策

(1)原則として病院職員は、インフルエンザ流行前にワクチン接種を行う。ハイリ

スク患者については、ワクチン接種を推奨する。

(2)診察、処置、ケア等で患者の 1m 以内に近づくときは、外科用マスクを着用す

る。

(3)患者処置やケアの後、およびマスク、手袋、ビニールエプロンを外した後は、

石鹸と流水またはアルコール手指消毒剤で手指衛生を図る。

(4)インフルエンザに罹患した医療従事者は、解熱後2日が経過するまで就業制限

とする。

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第 3 章 Ⅳ-6

7.ノロウイルス

ノロウイルス感染症は、冬から春に発生する嘔気・嘔吐をともなう下痢性疾患で、

1~2月がピークになる。人間の腸内で増殖し、便や吐物を介して感染伝播する。

感染力が強く、感染性胃腸炎の原因病原体として大きな割合を占める。

1)外来で下痢・嘔吐の症状のある患者への対応

(1)接触感染予防策

①問診上、ノロウイルス胃腸炎の可能性が高い場合は、患者を一般患者から離

れた場所で待機させ優先診療を行う。

②患者に接触する場合は、手袋、ビニールエプロン、サージカルマスクを着用

する。

③診療の前後には必ず石けんと流水で手洗いを行う。アルコール製剤は効果が

不十分である。

④患者から離れる場合は防護具を外し、感性性廃棄物として処理する。

⑤経口感染するので、食事前には必ず良く手を洗う。

(2)トイレの使用

①患者が使用したトイレの便座やドアノブを使用毎に 0.02%~0.05%次亜塩素

酸ナトリウムで清拭し、10分後水拭きする。

②患者に手指衛生の徹底を指導する。

③ポータブルトイレを使用した場合は、使用毎に洗浄後、0.02%~0.05%次

亜塩素酸ナトリウムで消毒する。

(3)吐物や排泄物による汚染の処理

①吐物や排泄物の処理をする場合は、外科用マスク、手袋、ビニールエプロン

を着用する。

②吐物や排泄物はペーパータオルで拭い取り、ビニール袋に密閉して感染

性廃棄容器に廃棄する。

③吐物や排泄物を除去後、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒する。

(4)診察終了後

①診察台のディスポシーツを交換する。

②環境消毒には、0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒し、10分後水拭きする。

(5) ノロウイルスの潜伏期間は 24~48時間であるので、接触者の症状出現に注意

する。

2)入院患者で下痢・嘔吐のある患者への対応

(1)患者隔離

①原則として個室に入室する。

②トイレ付きが望ましいが、無理な場合はポータブルトイレを使用し、他

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第 3 章 Ⅳ-7

の患者とトイレで交差のないようにする。

(2)接触感染予防策

①患者に接触する場合は、手袋、エプロン、サージカルマスクを着用する。

②診療の前後には必ず石けんと流水で手洗いを行う。アルコールはノロウ

イルスに効果がない。

③患者から離れる場合は防護具を外し、感性性廃棄物として処理する。

④経口感染するので、食事前には必ず良く手を洗う。

⑤食事や経管栄養を扱う場合にも手指衛生を行う。

(3)トイレの使用

①他患者と共用トイレを使用した場合は使用毎にトイレの便座やドアノブ

を 0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。

②患者に石鹸と流水で手洗い後アルコール手指消毒を行うよう手指衛生の

を指導する。

③ポータブルトイレを使用した場合は、使用毎に洗浄後、0.02%~0.05%次

亜塩素酸ナトリウムで 30分以上浸漬消毒をする。

(4)吐物や排泄物による汚染の処理

①吐物や排泄物の処理をする場合は、マスク、手袋、ビニールエプロンを着

用する。

②吐物や汚染物を除去してから、0.05%~0.1%の次亜塩素酸ナトリウムで清

拭消毒する。

(5)患者周囲環境

環境整備には、0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムにて清拭消毒を行う。

(6)リネン類

青ビニール袋に入れ枚数を記載し洗濯に出す。

(7)器材類

通常と同じ。

(8)退院時

0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムにて高頻度接触表面の清拭消毒を行う。

3)ノロウイルス胃腸炎に罹患した職員は、嘔吐、下痢症状が改善するまで就業制

限とする。発症後 1週間~4週間はウイルスが継続的に排出されるので、この期

間は石鹸と流水による手洗いを厳重に行うよう指導する。

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第 3 章 Ⅳ-8

8.流行性角結膜炎

EKCはアデノウィルス 8、19、37の感染により発症するウイルス性結膜炎であり、

眼の充血、眼脂などの臨床症状の他、眼瞼の腫脹や耳前リンパ節の腫脹を伴うことも

ある。感染経路は眼科医療機器、点眼液、医療従事者の手指、手の触れる病院環境を

介しての接触感染である。接触予防策が重要である。

1)隔離対策

(1)EKC罹患患者への十分な説明と、拡大を防ぐための患者の隔離を行う。

(2)EKCは、発症後 2週間は感染源となりうるので、可能であれば外泊あるいは一時

的な退院を勧告する。退院が無理であれば個室収容を行う。

(3)医療従事者が感染者となった場合、発症後 2週間の就業停止とする。

2)感染防止対策

(1)流涙や眼脂に触れた後は、流水と石鹸で 20〜30秒間手洗いをし、ペーパータオ

ルを使用する。

(2)診療器材は患者専用のトレイを作成して、他の患者との共用を避ける。

(3) 眼圧測定、ミラーを用いた眼底、隅角検査、点眼操作などでは、直接眼に接触

しないように工夫する。止むを得ず触れた場合は、手指及び器材を消毒用エタ

ノールで清拭する。

(4)点眼薬の共用は避ける。

EKC発生時の感染対策(個室収容時)

感染対策 内 容

個室収容 個室収容の解除は、1週間後眼科受診で治癒を確認後実施

治療・検査 手術目的の場合は、延期する

検査や外来受診は最小限とする

手指衛生

入室時、退室時、手袋を脱いだ後にアルコール手指消毒を行う

流涙や眼脂に触れた後は石鹸と流水で洗浄後、アルコール手指消毒

を行う

防護具の着用 入室時手袋着用。濃厚接触時は、ビニールエプロン着用

医療器具の専用化 医療器具は患者専用とし、病室外に持ち出さない

環境清掃・消毒

患者病室の高度接触表面、ナースステーションドアノブ、PCキー

ボードなどを消毒用エタノールで清拭消毒する

濃厚汚染箇所は、汚れをふき取り 0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清

拭消毒する

リネン リネン交換は防護具を着用し最後に行う

感染性として洗濯に出す。退院後カーテン交換を行う

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第 3 章 Ⅳ-9

点眼 点眼は、手袋を着用し行う

点眼液は患者専用とする

器材の消毒

鋼製小物:熱水消毒または消毒用エタノール 10分浸漬

スリーミラー、眼圧計のチップ:消毒用エタノール 10分浸漬

0.1%次亜塩素酸ナトリウム

患者・家族指導

病室外への出入りは最小限とする

眼脂を拭いたティシュペーパーは、ビニール袋にひとまとめにして

感染性廃棄容器に廃棄する

眼の周囲を触れた手で周囲を触らない

手洗い方法の指導を行う

乳幼児、小児の面会を制限する

インフルエンザワクチン接種が強く勧告される対象

1. ハイリスク群

① 65歳以上の高齢者

② 老人ホームの居住者及び慢性疾患治療施設に収容されている患者(患者の年齢に関わらず)

③ 慢性の肺疾患および心血管系疾患を持つ成人および小児

④ ワクチン接種の前年、慢性の代謝性疾患(糖尿病を含む)、腎障害、血色素症、免疫不全(医

療行為に伴う免疫抑制を含む)といった理由で、定期的フォローアップあるいは入院を必要と

した成人および小児

⑤ 長期間のアスピリン治療中でそのためにインフルエンザによるReye症候群の危険性の高い

ティーンエイジャー(生後6ヶ月から18才)

2. ハイリスク接触群

① 病院および外来診療施設に勤務する医師、看護師およびその他の従業者

② 養老院および慢性疾患治療施設に収容する患者、居住者と接触するその従業員

③ ハイリスク患者の在宅治療に関係するもの(保健師、ボランティア活動家など)

④ ハイリスク患者の家族(小児も含めて)

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第 3 章 Ⅳ-10

感染

経路 感染症名

潜伏期

(日)

伝染期間

(発病日前後の日) ワクチン

免疫

グロブリン

就業停止期間

(職員の場合)

空気

接触 水痘 10-21 発疹前 2 日から後 5 日

曝露後 72 時間

以内なら有効 有効

水疱が痂皮化

するまで

空気

飛沫 麻疹 8-12 発疹前 5 日から後 4 日

曝露後 72 時間

以内なら有効 有効

発疹出現後

7 日間

飛沫

風疹 15-21 発疹前 7 日から後 7 日 無効 無効 発疹出現後

5 日間

ムンプス 12-25 耳下腺炎腫脹

前 9 日から後 9 日 無効 無効 発症後 9 日間

伝染性紅斑 14-21 発疹前 14 日頃

インフルエンザ 1-3 有症状時 解熱後 2 日

接触

帯状疱疹 10-21 有症状時 曝露後 72 時間

以内なら有効 有効

流行性角結膜炎

(EKC) 7-14 発症後約 2 週間 発症後 2 週間

咽頭結膜熱 5-7 発症後数週間

便から排泄 発症後 2 週間

急性出血性結膜炎

(AHC) 1-2 発症後 3~4 日

発症後 4 日間

注)ワクチンが禁忌(妊娠中、免疫不全など)の場合考慮する。曝露後の抗ウイルス剤(アシクロ

ビル)投与が有効との報告がある。

9.クロストリジウム・ディフィシル

入院中の抗菌薬に伴う下痢の 20~30%、偽膜性腸炎の 90%を占める。保菌者へ抗菌

薬が投与され、腸内細菌叢が乱れることで発症する場合と病院内で発症患者から直接

的または、医療従事者を介して伝播し、発症する場合がある。

便の CDトキシン検査陽性および便培養による検出により診断される。CDトキシンの

感度は必ずしも良くないので、疑われる場合は複数回検査を行う。

1)隔離対策

発症者を個室に収容する。トイレのある個室が望ましい。やむなく多床室で管理

する場合は、ベッド間隔を1m以上十分に確保し、衝立やカーテンで仕切る。

聴診器や血圧計は患者ごとに個別化する。

接触予防策の解除は、10日間の内服治療後に再度 CDトキシン検査を行い、陰性

を確認した後に行う。再発が多いので、回復後2~3か月は抗菌薬の使用や下痢症

ウイルス感染症

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第 3 章 Ⅳ-11

状に注意が必要である。

2)流水下手洗いの徹底

患者への接触時、ケアの前後、個人用防護具を脱いだ後などには、石鹸と流水に

よる手洗いを行い、その後アルコール手指消毒を行う。クロストリジウム・ディフ

ィシルは、芽胞を形成するためアルコール製剤だけでは不十分である。

3)防護具の使用

患者の病室に入室する際は、手袋、ビニールエプロンを着用する。

着用した防護具は、病室内で廃棄する。

4)排せつ物の処理

オムツはその場でビニール袋に入れて封をし、速やかに感染性廃棄物として捨て

る。共用トイレの場合、患者が触れたところ(便座、ドアノブ等)は、患者の使

用頻度に合わせ、1日複数回 0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒後水拭きする。

便で汚染したところは、0.1~0.5%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒する。

5)環境整備

患者周囲(特にベッド柵、床頭台、ドアノブ、水道の取っ手など患者や医療スタ

ッフが触れるところ)は、1日複数回 0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒する。

汚染されにくい環境は、通常清掃でよい。

6)医療器具の取扱い

血圧計、聴診器などは患者専用とする。

医療器具は、十分洗浄または清拭して汚れを落とし、0.1%次亜塩素酸ナトリウム

に浸漬消毒する

7)リネンの取扱い

シーツ等のリネン類は、青ビニール袋に入れ、感染性リネンとして洗濯に出す。

便汚染の著しい場合は、汚れを落とし、0.1%次亜塩素酸ナトリウムに30分浸漬

後、青ビニール袋に入れ洗濯に出す。

10.レジオネラ肺炎

レジオネラは水系環境に生息している。患者が菌体を含む水微粒子(エアロゾル)

を吸入する事により肺炎を発症する。ヒト-ヒト感染は通常はないと考えられている。

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第 3 章 Ⅳ-12

1) 診断と治療

(1)悪性腫瘍や腎不全など免疫不全状態の患者は発病リスクが高い。

(2)喀痰などの検体から本菌を分離するか、血清抗体価の上昇を確認するか、

あるいは尿中より抗原を検出すれば診断が確定する。

(3)治療薬はマクロライド系またはフルオロキノロン系が主として用いられる。

2) 感染防止対策

(1)25-42℃の温度で菌は増殖するため、給湯温度は 60℃以上に、水温は 20℃以

下に保ち、年 4回給湯水の細菌検査を実施する。

(2)クーリングタワーの清掃を定期的に実施する。

(3)浴室や洗面台などの水回りは、清掃し乾燥させる。

(4)レジオネラが確認された環境は、使用禁止とし適切な消毒を行う。

11.アスペルギルス肺炎

アスペルギルスは土壌、水系環境、腐敗野菜、花弁などに広く存在する真菌であ

る。免疫抑制状態にある患者においては、呼吸器感染症を惹起し致命率が高い。

1)診断と治療

(1)好中球減少患者(特に骨髄移植に伴う)が本感染症の高リスク群である。

(2)生検により肺組織中に菌糸を証明すれば確定診断できる。

(3)治療はブイフェンド(ボリコナゾール)またはミカファンギン(ファンガー

ド)の点滴静注または内服である。

2)感染防止対策

(1)空調設備など環境の日常的な細菌検査は必要ない。

(2)建造物の改修工事などに伴う塵埃の飛散は、著明に菌体胞子の増加をもたら

すため塵埃の飛散を防止する対策が重要である。

(3)骨髄移植患者は HEPAフィルタ-および LAF(laminar air flow)の装備され

た移植病室に入室させる。

12.百日咳

百日咳は百日咳菌という細菌によって引き起こされる急性呼吸器感染症で、感染力が大変

強く、咳による飛沫で感染する。最初は普通のかぜ症状と変わらないが、1~2 週間が過ぎる

とだんだんと激しい咳に変わり、特徴的な咳きこみ発作を起こす。

三種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチン未接種者を中心に幼児で散発しているが、

最近では成人の百日咳が問題になっている。これは小児期に受けたワクチンの効果が年とと

もに弱くなり、抗体価が下がることによって百日咳に感染してしまうためである。

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第 3 章 Ⅳ-13

ワクチン接種後の抗体価は 6~10年で減衰し、成人で 3週間以上続く咳の原因の 2割弱が

百日咳だと報告されている。好発季節は春から秋、特に 8、9 月に多く発生する。

確定診断は鼻咽頭からの百日咳菌の分離同定が必要であるが、検出率が低い。

核酸増幅法(PCR 法、LAMP 法)は、培養より感度がよく、時間的にも早く、死菌でも検出で

きる。専用増幅器があれば今後日常検査として実施できる可能性がある。

血清診断法では、凝集素価が広く利用され、対血清で流行株(山口株)4 倍以上の上昇が

基本である。三種混合ワクチン接種児や成人の場合、発症後 4 週間以降の場合などは抗体

価が上昇している症例も多く、解釈が容易でない。

1)隔離対策

(1)百日咳疑いまたは百日咳と診断された患者は、個室に収容する。

個室収容が困難な場合は、コホーティングを行う。

収容期間は、抗菌薬治療が開始されてから7日間とする。抗菌薬治療ができなかった場

合は、咳嗽症状の出現から 21 日後までとする。

2)感染防止対策

(1)マスクの着用

標準予防策に加えて、患者から1m以内にいる際や、処置やケアを行う場合、患者の

病室に入るときは、外科用マスクを着用する。

(2)抗菌薬治療

抗菌薬は、特徴的な咳が出る前であれば、症状の軽症化は可能であるが、家族内感染

などに限られる。多くは、典型的な咳が出はじめた頃、あるいは長引く咳の場合に初めて

百日咳と疑われる。この時期の抗菌薬治療は、症状改善効果は低いが、除菌することで

周囲への感染を防ぐことができる。通常、治療開始後 5~7 日で百日咳菌は陰性となる。

①百日咳患者(成人)の場合の投与量

ⅰエリスロマイシン 1600mg(エリスロシン 1600mg 8 錠)×14 日間

ⅱクラリスロマイシン 800mg(クラリシッド 800mg 4 錠)×7 日間

ⅲアジスロマイシン(ジスロマック 500mg 2 錠)×5 日間

②百日咳患者と密接に接触した患者および医療従事者に対しては、感染対策室が予

防投与の必要性を検討し、投与が必要な患者および職員へ薬剤の払い出しを行う。

ⅰエリスロマイシン 1000mg(エリスロシン 1000mg 5錠)×14 日間

ⅱクラリスロマイシン 800mg(クラリシッド 800mg 4 錠)×7 日間

ⅲアジスロマイシン(ジスロマック 500mg 2 錠)×5 日間

(3)医療従事者が罹患した場合、または疑われる場合の就業制限

抗菌薬治療開始から 7 日間就業停止とする。

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第 3 章 Ⅳ-14

13.疥癬

1)疥癬とは

疥癬はヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei )が皮膚の最外層である角皮層

に寄生し、人から人へ感染する疾患である。非常に多数のダニの寄生が認められる

ノルウェー疥癬(角化型疥癬)と、少数寄生であるが激しい痒みを伴う普通の疥癬

とがある。

角化型疥癬は、桁違いに多数のヒゼンダニが感染した疥癬の重症型である。患部

は、肥厚した灰白色~帯黄白色の角質増殖と痂皮に覆われた状態になり、亀裂も生

じる。ダニの数は通常の疥癬では数十匹であるが、角化型では 100 万~200 万匹と

いわれている。

疥癬虫の雄は交尾後,死に至る。疥癬虫の雌は 0.3mm~0.5mm 程の体長で、雄と

交尾 ・受精後に皮膚の角層にトンネルを掘って潜り込み、毎日少しずつ角層内で 1

日に約 2mm トンネルを掘り進みながら、1 日 1~3 個の卵を 1~2 か月間産み続けた

後、死に至る。卵は 3~5 日で幼虫になり、幼虫は 2 週間程で成虫になる。幼虫や

雄は皮膚の表面をうろついているだけである。疥癬虫は,人肌から離れて温度が下

がるとほとんど動かなくなる。また、乾燥に弱く、虫体は人肌から離れると 2~3

日で死ぬ。ただし、湿度などの条件が良いと 2週間程度生存する場合もある。この

ようなことから疥癬は、直接肌と肌が触れ合うような環境や、布団、寝具、衣類な

どを介して感染することになる。

2) 疥癬の治療と対策

病 型 通常疥癬

隔 離 不要

室内の駆虫 不要

治 療 イベルメクチン単回内服*a

クロタミトン軟膏*bまたは硫黄軟膏*cの1~2週間塗布

内服単独、外用単独、(内服+外用薬)の併用、の 3つの選択が

ある。外用薬は 1日1~2回、入浴後、頚部以下全身にくまなく

塗布

対症療法 抗ヒスタミン剤など止痒剤の内服

職員・同室者の

予防的処置

軟膏塗布は不要

患者と接触する場合は手袋、ビニールエプロンを着用する

手洗いの励行

衣類・シーツ類

の処置

通常の洗濯でよい

布団は日光に干す

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第 3 章 Ⅳ-15

病 型 角化型疥癬

隔 離 個室隔離

室内の駆虫 必要

床、壁、カーテン、ベッド、洋式トイレ、浴室などの脱衣場における殺

虫剤*dの1回散布、および落下した鱗屑の掃除機による除去(毎日)

治 療 イベルメクチン単回~2(3)回内服*a

クロタミトン軟膏*bまたは硫黄軟膏*cの2(~4)週間塗布

内用+外用薬の併用治療を実施する

外用薬は、頭部も含め1日1回全身くまなく塗布する

対症療法 通常疥癬の場合と同じ

職員・同室者の

予防的処置

必要

頚部以下全身にクロタミトン軟膏または硫黄軟膏を7日間塗布

感染が証明された場合は、イベルメクチン単回内服

入室および患者に接触する場合は、手袋と非透過性のガウンまたは

袖つきビニールエプロンを着用する

手洗いの励行

衣類・シーツ類

の処置

毎日交換し、熱処理(熱湯をかける)を実施。(50℃10分間で死滅)

布団は乾熱滅菌またはビニール袋に入れ1週間放置

*a イベルメクチン:商品名ストロメクトール錠3mg:200μg/kg、成人通常量3~4錠/回、

空腹時1回内服

*b 商品名オイラックス軟膏(10%クロタミトン親水軟膏)。ステロイド配合製剤は

使用しない *c 硫黄軟膏:2~10%硫黄含有ワセリン軟膏。 *d 殺虫剤:有機リン系のスミチオン乳剤、粉剤、ピレスロイド系のペルメトリンのくん煙剤、

蒸散剤など

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第 3 章 Ⅳ-16

14.プリオン対策

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、ヒトの伝達海綿状脳症(プリオン病)と

言われる。中枢神経系の感染症で,神経症状から症状が始まり状々に進行して,最後

に筋硬直を生じる。この疾患の病原体の本体はまだ明らかではなく、臨床症状が出現

して初めて診断が可能になる。スクリーニング法がまだ存在せず、発症前の診断する

ことができない。プリオンは熱にも消毒薬にも強い抵抗性を示すことが大きな問題で

ある。

医療従事者への感染の可能性としては、手の汚染(傷口からの感染)注射針等の刺

傷,感染物の眼への飛沫や汚染した手で眼をこすることなどがある。したがって、CJ

D患者の採血、腰椎穿刺による髄液採取、口腔清拭時の咬傷や爪によるひっかき傷、

飛沫による眼の汚染などに注意する。

1) 予防対策

(1)手洗い

①標準予防策に準じる。

(2)手袋

①標準予防策に準じる。

②手に創傷や炎症がある場合には手袋を着用する。

③手袋を外したあと必ず手洗いをする。

(3)マスク、ゴーグル、フェイスシールド

標準予防策に準じる。

(4)ガウン

標準予防策に準じる。

(5)器具、器材

①原則としてディスポを用い再使用はしないようにする。使用後は廃棄する。

②患者の血液、脳脊髄液や組織に直接触れた気管切開用具なども廃棄する。

③廃棄できない器具は、血液が付着しないようにあらかじめビニールなどで覆う。

④診察用具は専用にする。

(6)リネン

①血液や脳脊髄液が付いたものは廃棄する。

②清拭タオルは専用として、0.5%次亜塩素酸ナトリウムに1時間浸し、専用ビニ

ール袋に入れて洗濯に出す。

(7)患者配置

原則として個室の必要はない。ただし、吐血、下血、重症の下痢や気管切開を

している場合、痰が多く飛沫がある場合は個室に収容する。

(8)面会

家族などの面会は特に制限する必要はない。

(9)汚染された局所の消毒法

①血液や脳脊髄液その他の組織で汚染された皮膚はできるだけ早く流水で十分洗

った後、0.5%次亜塩素酸ナトリウムにて5分~10分洗浄する。

②口腔内はよくうがいをする。

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第 3 章 Ⅳ-17

③眼が飛沫で汚染された場合は、直ちに水あるいは生理食塩水で洗眼する。

(10)その他

①医療廃棄物の取り扱い

使用後の注射器は針を外さず、リキャップをせずに所定の専用容器に廃棄する。

②検体の取り扱い

血液や脳脊髄液や組織の検体は注意して取り扱う。

③室内消毒

ⅰベッド、床頭台、床が血液や脳脊髄液で汚染されたらティッシュペーパーで

血液を拭き取り、その後1%次亜塩素酸ナトリウム液を浸して清拭する。

ⅱ血液を拭き取ったティッシュペーパーと雑巾はポリエチレン袋(赤色)に入

れ、廃棄する。この時必ず手袋を装着する。

④便器,尿器

ⅰ糞便、尿、体液を介しての伝播はないと考えられているので、特別扱いは

ないが、排泄物を取り扱うときは手袋を装着する。

ⅱ手袋を外したら必ず手を洗う。

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第 3 章 Ⅳ-18

15.感染症と病態に必要な予防策の様式と実施期間 感染症および病態 様式 実施期間 あ RSウイルス(Respiratory syncytial virus)感染、新生児、小児

アクチノミセス病 Actinomycosis アスペルギルス症 Aspergillosis アデノウイルス(Adenovirus)感染症(乳幼児) アメーバ症 Amebiasis

接触 標準 標準 飛沫、接触 標準

罹患期間 罹患期間

い 胃腸炎 Gastroenteritis ウイルス性(他の箇所でカバーされていなければ) エルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica) キャンピロバクター属(Campylobacter sp.) クリプトスポリジウム属(Cryptosporidium sp.) クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile) コレラ Cholera サルモネラ属(Salmonella sp. チフス菌 S.typhi を含む) ジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia) ロタウイルス(Rotavirus) オムツあるいは失禁状態 赤痢菌(Shigella sp.) オムツあるいは失禁状態 大腸菌(Echerichia coli) 腸管出血性(Enterohemorrhagic,O157:H7) オムツあるいは失禁状態 その他の菌種

腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus) インフルエンザ Influenza

標準*1 標準*1 標準*1 標準*1 接触 標準*1 標準*1 標準*1 標準*1 接触 標準*1 接触 標準*1 接触

標準*1 標準*1 飛沫*2

罹患期間

罹患期間

罹患期間

罹患期間

罹患期間

ウイルス性肝炎 Vial hepatitis A 型 オムツあるいは失禁状態 B型(HBs 抗原陽性) C 型と他の特定されていない非 A,非 B 型 E 型 ウイルス疾患 Virl diseases 呼吸器(他の箇所でカバーされていない場合) 成人 幼児または小児(呼吸器感染症 急性を参照)

標準

接触 標準 標準 標準 標準

*3

え HIV 感染症 HIV infection エイズ Acquired immunodeficiency syndrome(AIDS) エキノコックス病 Echinococcosis エコーウイルス Echovirus(腸管ウイルス感染を参照) 壊死性腸炎(Necrotizing enterocolitis) 壊疽 Gangrene (ガス壊疽 Gas gangrene) エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus) (伝染性単核症 infectious mononucleosis を含む) エボラウイルス出血熱 エルシニア(Yersinia enterocolitica)胃腸炎 (胃腸炎を参照) エンテロコッカス属(Enterococcus sp.) (疫学的問題があるかバンコマイシン耐性であれば多剤耐性病原体を

参照)

標準 標準 標準 標準 標準 標準 接触

罹患期間

お オウム病 Psitacocis(鳥類病 ornithosis) 標準 か 回帰熱 Relapsing fever

疥癬 Scabies

標準 接触

有効な治療開始後

24 時間まで

標準=標準予防策のみで対応できるもの 空気=標準予防策に空気感染予防策を付加するもの 飛沫=標準予防策に飛沫感染予防策を付加するもの 接触=標準予防策に接触感染予防策を付加するもの

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第 3 章 Ⅳ-19

回虫症 Ascariasis 灰白脊髄炎 Poliomyelitis 川崎病 Kawasaki disease カンジダ症 Candidasis(皮膚粘膜型を含むすべての型)

標準 標準 標準 標準

き Q 熱 Q fever キャンピロバクター(Campylobacter)(胃腸炎参照) 狂犬病 Rabies 蟯虫 Pinworn infection 蟯虫症 Enterobiasis ギランバレー症候群

標準 標準 標準 標準 標準

く クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis) 結膜 性器 呼吸器 クリプトコッカス Cryptococcosis クリプトスポリジオーシス Cryptosporidiosis(胃腸炎を参照) クループ Croup(乳幼児では呼吸器感染症を参照) クロイツフェルトヤコブ病 Creutzfelt-Jakob disease クロストリジウム属 Clostridium ウェルシュ菌(C.perfringens) ガス壊疽 Gas gangrene 食中毒 Food poisoning クロストリジウム・ディフィシル C.difficile ボツリヌス菌

標準 標準 標準 標準 標準*4 標準 標準 接触 標準

罹患期間

け 結核 Tuberculosis 肺、確診、疑診、喉頭病変を含む 肺外、髄膜炎*5 肺外、排膿病変(るいれき scrofula を含む) 結核菌感染者 結膜炎 Conjunctivitis クラミジア Chlamydia 急性ウイルス性 Acute viral(急性出血性 Acute hemorrhagic) 急性細菌性 Acute bacterial 淋菌性 Gonococcal 下痢、急性感染性が疑われる(胃腸炎参照)

空気 標準 標準 標準 標準 接触 標準 標準

有効な治療を受け

ている結核患者が

臨床的に改善して

おり、異なる日に

採取した 3 回の喀

痰検査が抗酸菌陰

性の場合もしくは

結核が除外された

場合にのみ予防策

は中止される 罹患期間

こ 呼吸器感染症 Respiratory infection disease,急性(他でカバーされていない場 合)

成人 乳幼児 抗菌薬関連大腸炎 Antibiotic associated colitis(C.difficile 参照) 鉤虫症 Hookwoun disease(ancylostomiasis,uncinariasis) 喉頭蓋炎 Epiqlottitis,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)による コクシジオイデス症 Coccidioidomycosis(valley fever) 肺炎 排膿病変 コクサッキーウイルス Coxsackie virus(腸管ウイルス感染を参照) コレラ Cholera(胃腸炎を参照) コロラ Colorado tick fever

標準 接触 標準 飛沫 標準 標準

罹患期間

有効な治療開始後

24 時間まで

さ 細気管支炎 Brondhiolitis(乳幼児では呼吸器感染症参照) 在郷軍人病 Legionnaire’s disease サイトメガロウイルス Cytomegalovirus 感染、新生児または免疫不全者

標準 標準

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第 3 章 Ⅳ-20

サルモネラ症 Salmonellosis(胃腸炎を参照) 塹壕性口内炎 Trench mouth(ワンサン・アンギーナ Vincent’s angina)

標準

し 子宮内膜炎 Endometritis ジフテリア 喉頭 皮膚 住血吸虫症 Schistosomiasis(ビルハイツ吸虫病 bilharziasis) 出血熱 Hemorrhagic fever(たとえばラッサ熱 Lassa fever) 条虫病 Tapeworm disease 有鉤条虫 矮小条虫 その他 小腸結腸炎 Enterocolitis(C.difficile による) 褥瘡性潰瘍 Decubitus ulcer(感染性) 大きい病変(包帯をしていない。もしくは包帯が膿を十分封じ込

めていない) 小さい病変(包帯が膿を包んで十分に封じ込めている) 食中毒 Food Poisoning ウェルシュ菌(Clostridium perfringens) ブドウ球菌性標準 Staphylococcal ボツリヌス中毒 Botulism シラミ症 Pediculosis

標準 飛沫 接触 標準 接触 標準 標準 標準 接触 接触 標準 標準 標準 標準 接触

抗生剤中止後 2 回

の培養が陰性とな

るまで 罹患期間

入院期間

排膿期間

有効な治療開始後

24 時間まで す 水痘 Chickenpox

髄膜炎 Meningitis インフルエンザ菌 結核性 細菌性、グラム陰性、新生児 真菌性 髄膜炎菌、疑いを含む 無菌性(非細菌性、またはウイルス性) リステリア症 他の同定された細菌 髄膜炎菌 肺炎 Meningococcal pneumonia 敗血症 Meningococcemia スポロトリコーシス Sporotrichosis

空気、接触 飛沫 標準 標準 標準 飛沫 標準 標準 標準 飛沫 飛沫 標準

*6 有効な治療開始後

24 時間まで

せ 性病性リンパ肉芽腫 Lymphogranuloma venereum 赤痢 Shigellosis(胃腸炎を参照) 接合菌症(藻菌症 phycomycosis,ムコール菌症 mucormycosis) 節足動物媒介ウイルス性脳炎 Arthropodborme viral encephalitides 節足動物媒介ウイルス性熱 Arthropodborme vira fever (デング熱、黄熱、コロラドダニ熱) せつーブドウ球菌性 Furunculousis staphylococcal,乳幼児 先天性風疹 Congential rubella 旋毛虫病 Trichinosis

標準 標準 標準*7 標準*7 接触 接触 標準

罹患期間

生後 3 ヶ月後の鼻

咽頭と尿の培養が

陰性でなければ、1歳までの入院時は

感染対策を要する

そ 創感染症 大きい(包帯をしていない。もしくは包帯が膿を十分封じていない) 小さい(包帯が膿を包んで十分に封じ込めている) ソケイ肉芽腫(ドノヴァン症、花柳病肉芽腫) 鼠咬症 Rat-bite fever

接触 標準 標準 標準

罹患期間

た 帯状疱疹 Herpes zoster 播種性病変または免疫不全患者での限局性病変 免疫が正常な患者の限局性病変 耐性細菌感染または定着(多剤耐性病原体を参照)

空気、接触 標準*8

罹患期間

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第 3 章 Ⅳ-21

大腸菌性胃腸炎(胃腸炎を参照) 多剤耐性病原体 Multidrug-resistant organism,感染あるいは定着 呼吸器 肺炎球菌性 消化管 皮膚、創部、熱傷 タムシ Tinea(皮膚真菌症、白癬) 単純ヘルペス Herpes simplex 新生児 脳炎 皮膚粘膜、再発性(皮膚、口、性器) 皮膚粘膜、播種または原発性、重症 炭疽病 Anthrax 肺 皮膚

接触 標準 接触 接触 標準 接触*10 標準 標準 接触 標準 標準

抗生物質中止後培

養が陰性となるま

で 罹患期間

罹患期間

ち 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)胃腸炎を参照 腸管ウイルス感染 成人 幼児と小児 腸チフス Typhoid 胃腸炎を参照

標準 接触

罹患期間

て 手足口病 Hand,foot,and mouth disease 腸管ウイルス感染を参照 デング熱 Dengue 伝染性紅斑 Erythema infectiosum 伝染性単核症 Infectious mononucleosis 伝染性軟属腫 Molluscum contagiosum

標準*7 標準 標準 標準

と トキシックショック症候群 トキソプラズマ症 Toxoplasmosis 突発性発疹 (急性)トラコーマ トリコモナス症

標準 標準 標準 標準 標準

な 軟性下疳 Chancroid 標準 に 尿路感染

(腎盂腎炎を含む)尿カテーテルあり、またはなし 標準

ね 猫ひっかき病 Catscratch fever 熱傷皮膚症候群、ブドウ球菌性

標準 標準

の 膿痂疹 Impetigo 膿瘍 Abscess 少量排膿(包帯が膿を包んで封じ込めている) 大量排膿(包帯をしていない。または包帯が膿を封じ込めていない) ノカルジア症、排膿病変もしくは他の症状

接触 標準 接触 標準

排膿期間

は 肺炎 Pneumoniae アデノウイルス インフルエンザ菌 成人 幼児と子供 ウイルス 成人 幼児と子供(呼吸器感染症、急性を参照) ニューモシスティス・カリニ クラミジア ブルクホルデリア・セパチア A 群溶連菌 成人 幼児と子供 黄色ブドウ球菌

真菌 髄膜炎菌

飛沫、接触 標準 飛沫 標準 標準*11 標準 標準*12 標準 飛沫 標準 標準 飛沫

罹患期間

有効な治療開始後

24 時間まで 有効な治療開始後

24 時間まで 有効な治療開始後

24 時間まで

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第 3 章 Ⅳ-22

多剤耐性菌(多剤耐性病原体を参照) 肺炎球菌 マイコプラズマ Mycoplasma(原発性非定型肺炎) レジオネラ Legionella 他に列挙されていない細菌(グラム陰性菌を含む) 梅毒 Syphilis 潜在性、梅毒反応陽性で無症状 皮膚と粘膜、先天性、原発性、二次性 破傷風 Tetanus バベジア症 Babesiosis パラインフルエンザ感染症、幼児と子供の呼吸器 パルボウイルス ParvovirusB19 ハンタウイルス肺症候群

標準 飛沫 標準 標準 標準 標準 標準 標準 接触 飛沫 標準

罹患期間

罹患期間 免疫不全患者に慢

性疾患が生じたと

きは、入院期間中

感染対策を継続す

る。一時的な骨髄

無形成もしくは赤

血球癆のときは 7日間継続する

ひ ヒストプラズマ症 Histoplasmosis 百日咳 Whooping cough

標準 飛沫

有効な治療が始ま

ってから 5 日間 ふ 風疹 Rubella(先天性風疹を含む)

ブルセラ病 Brucellosis 分芽菌症 糞線虫症

飛沫 標準 標準 標準

発疹が始まってか

ら 7 日まで*13

へ 閉鎖腔感染症 少量排膿 排膿なし ペスト Plague 腺ペスト 肺ペスト ヘリコバクターピロリ ヘルパンギーナ(腸管ウイルス感染を参照) 鞭毛虫病

標準 標準 標準 飛沫 標準 標準

有効な治療開始後

72 時間まで

ほ 蜂窩織炎 胞虫症 ボツリヌス中毒

接触 標準 標準

排膿期間

ま マイコプラズマ肺炎 麻疹 Measles マラリア マ-ルブルグ病

飛沫 空気 標準 接触

罹患期間 罹患期間

罹患期間

み ミコバクテリア Mycobacteria、非結核性 創部 肺

標準 標準

む ムコール症 標準

や 野兎病 Tularemia 肺 排膿病変

標準 標準

よ 羊鵞口瘡 標準 ら

ライ症候群 らい病 ライム病 ラッサ熱

標準 標準 標準 接触

罹患期間

り リウマチ熱 Rheumatic fever リケッチア痘瘡

標準 標準

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第 3 章 Ⅳ-23

リケッチア熱 Rockettsial fever ダニ伝播 リステリア症 Listeriosis リッター病(ブドウ球菌性熱傷皮膚症候群) 流行性胸痛症 (腸管ウイルス感染を参照) 流行性耳下腺炎 Mumps 淋菌性新生児眼炎(淋菌性眼炎、急性新生児眼炎) リンパ球性脈絡髄膜炎 淋病 Gonorrhea

標準 標準 標準 飛沫 標準 標準 標準

腫脹が始まってか

ら 9 日間

る 類鼻疸 Melioidosis、すべての型 標準

レンサ球菌感染症 A 群レンサ球菌 咽頭炎、乳幼児 子宮内膜炎(産褥敗血症) 猩紅熱 肺炎 皮膚、創傷、熱傷 大きい(包帯をしていない。包帯が膿を封じ込めていない) 小さい(包帯が膿を包んで封じ込めている) B 群レンサ球菌、新生児 非 groupA or B レンサ球菌、他の箇所でカバーされていない場合 レジオネラ(在郷軍人病を参照) レプトスピラ症 Leptospirosis

飛沫 標準 飛沫 飛沫 接触 標準 標準 標準 標準

ロタウイルス感染症(胃腸炎参照) ロッキー山猩紅熱 Rocky Mountain spotted fever

標準

わ ワンサン・アンギーナ Vincent’s angina 標準

Ⅵ.病態別マニュアル

第3章感染症対策各論

(注釈) *1:罹患中は、患者の状況により身辺の衛生を保ちがたい場合、特に 6 歳以下のオムツ使用・失禁のある小児の場合は

接触予防策を適用する。 *2:「院内肺炎防止ガイドライン」(CDC1997)は、サーベイランスの実施、ワクチン接種、抗ウイルス薬の投与およ

びインフルエンザが確定または疑いの患者の陰圧個室への収容を推奨している。個室が足りなければコホーティン

グを考えるが、ハイリスク患者との部屋共有は避ける。 *3:入院中は、3 歳以下の小児には予防策を適用する。3~12 歳では症状が見られてから 2 週間、その他は症状が見ら

れてから 1 週間継続する。 *4:特別な追加予防策が、感染が確定または疑われる患者からの血液、体液、組織、汚染された器具の取扱いと除菌に

必要である。 *5:(活動性)肺結核の有無について検査する。もし、証拠が見られたら付加的な予防策が必要である。 *6:すべての病変が痂皮化するまで予防策を続ける。水痘の潜伏期は 10~21 日(平均 10~16 日)である。適切な場

合には Varicella-zoster 免疫グロブリンを投与し、可能であれば感受性のある患者を退院させる。曝露後の感受性

のある患者には曝露 10 日後から空気感染予防策を開始し、最後の曝露後 21 日まで予防策を継続する。免疫のあ

る医療従事者が患者を担当する。 *7:流行地域に置いては、窓とドアにスクリーンを設置する。 *8:水痘に感受性のある人は帯状疱疹の病変のある患者に曝露すると水痘となる危険性がある。そのため抗体陽性の職

員が対応する。 *9:感染対策プログラムによって、臨床的および疫学的に特別な意義があると判定された耐性菌。 *10:母親が活動性感染であり、羊膜が破裂して 4~6 時間以上経過した経膣分娩または帝王切開にて出産した新生児。 *11:免疫不全患者との同室は避ける。 *12:B.cepacia が発症・定着していない嚢庖性繊維症の患者との集団隔離や同室を避ける。 *13:先天性風疹の場合は、生後 3 ヶ月以後に咽頭や尿培養がウイルス陰性であったも、1 歳になるまでは入院するた

びに乳児を予防策下に置く。

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第 3 章 Ⅴ-1

第3章 感染症対策各論

Ⅴ 病態別マニュアル

1. 尿路感染防止、尿道カテーテル管理

1) 尿路感染症

尿路感染症は病院感染の約 40%を占め、そのうち 66〜86%が尿道カテーテルなど

の器具が原因となっている。尿道カテーテルの適正使用および管理が、最も重要な

尿路感染症対策である。一般的には、尿路感染症は重篤化することなく、全身状態

のよい患者では無症状に経過し、症状があってもカテーテルの抜去で改善すること

が多い。しかしながら、まれにリスクの高い患者においては、膀胱炎、腎盂炎、さ

らに敗血症に至ることがある。

腸管内に常在する細菌(大腸菌や腸球菌など)が原因菌となることが多いが、そ

の他、医療従事者や汚染器具を介して抗菌薬耐性の環境常在菌(緑膿菌やセラチア

など)によるものもみられる。

(1)カテーテルの使用

尿道カテーテルの留置期間はできる限り短くする。

(2) カテーテルの挿入

① 尿道留置カテーテルの挿入は、無菌手技と滅菌器具を用いて行う。

② 尿道損傷のリスクを最小限にするために、可能な限り細いカテーテルを使用

し、無理に挿入しない。挿入後はカテーテルを適切に固定する。

③術者は正しい挿入技術と尿路カテーテル挿入時合併症についてのトレーニン

グを受ける。

(3) カテーテル・集尿バックの管理

① 尿道カテーテル・集尿バッグは閉鎖系を用いる。

② 尿の流れが閉塞しないようにする。カテーテル・集尿バックのチューブがね

じれていないか観察し、集尿バッグは常に膀胱より低位置に置く。

③ 集尿バックの交換は、カテーテルと集尿バックの連結部を消毒した後、無菌

操作で行う。

④ 集尿バックの尿の廃棄は、バッグの排液管を開け、排尿口と集尿器を接触さ

せないように行い、排液後は排尿口をアルコール綿で清拭する。

⑤ 閉塞や感染がなければ、留置カテーテルは定期的に交換しなくてもよい。

⑥ 尿道口を局所抗菌薬または消毒薬で処置はしない。

(4)膀胱洗浄・灌流

① 前立腺や膀胱の術後の出血などで閉塞が予想される場合を除いて、日常的な

膀胱洗浄は行わない。

② カテーテルの閉塞予防を目的とする場合には、閉鎖系を維持できる持続的灌

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第 3 章 Ⅴ-2

流・膀胱洗浄を行う。

③ 凝血塊や粘液などによるカテーテルの閉塞を解除する場合は間欠的膀胱洗浄

を行う。

④ 頻回の膀胱洗浄を行わないとカテーテルが閉塞し、カテーテルそのものが閉塞

に関与していると考えられる場合には、カテーテルを交換する。

⑤ 膀胱洗浄は無菌手技で行い、洗浄液は滅菌した生理食塩水を用いる。

⑥ 抗菌薬や消毒薬を用いた膀胱洗浄は、日常的な感染予防策としては行わない。

(5) 検体の採取

① 検査のために新鮮尿が少量必要な場合、カテーテルの遠位端またはサンプリン

グポートを消毒した後、尿を滅菌注射針とシリンジで吸引する。

② 特殊な検査のために大量の尿を採取する場合には、集尿バックから無菌的に採

取する。

(6) 抗菌薬の投与

① 尿道カテーテル留置患者に対して、抗菌薬の予防投与は行わない。

② 尿道カテーテル留置に伴う無症候性細菌尿に対して、抗菌薬投与は行わない。

(7)治療

①症候性細菌尿に対しては抗菌薬を投与する。

②抗菌薬を投与する場合は、開始前にカテーテルを交換するか抜去する。

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第 3 章 Ⅴ-3

2. 人工呼吸器関連肺炎(Ventilator‐associated pneumonia,VAP)防止

1) 定義

VAP は気管内挿管による人工呼吸開始 48 時間以降に発症する肺炎と定義される。

ただし気管内挿管、人工呼吸管理前には肺炎のないことが条件である。

早期発症型:挿管 48時間~6時間以内に発症

晩期発症型:挿管 96時間を越えて発症

2)発症機序

VAP の発症には口腔内の病原微生物の定着(コロニゼーション)が重要視され、

気管内挿管チューブの外側を介して声門下の口腔内分泌物の流入、さらに気管内挿

管チューブでバイオフィルムを形成、人工呼吸によって気道末梢へ播種されること

が予測される。さらに、胃内容物の逆流によっても気道内へ播種される。

3) 診断

(1)確定診断

臨床的に①発熱、白血球増加、PaO2の低下、②胸部 X 線写真での異常陰影の出

現と持続、③膿性気道分泌物があり、加えて 1)肺病変からの直接吸引で細菌を

証明、2)開胸肺生検で組織学的および細菌定量培養で 103CFU/g肺組織の何れか

を満足した場合。

(2)VAPの可能性

上記の臨床的症状、所見と、加えて 1)気管支鏡による BAL、あるいは PSB に

よる細菌定量培養でそれぞれ>104、>103CFU/ml、2)血液培養が陽性で、下気

道からの細菌と一致、3)胸水の培養が陽性で、下気道からの細菌と一致、の何

れかを満足した場合。

注)気道分泌物の採取法別の感受性、特異性を表に示した。BAL では細菌貪食

細胞が 2%以上の場合 95%の特異性が報告されている。直接吸引では特異性は低

いが、最も簡便で安全であること、VAP の予後は適切な抗菌薬の早期投与による

ことがら、直接吸引が一般的であり推奨される。

4) 宿主防御能

(1) 咳

抑制因子;鎮静薬、オピオイド鎮痛薬、筋弛緩薬

(2)粘液綿毛クリアランス

抑制因子;高濃度酸素吸入、吸入気湿度低下、気管内挿管自体

(3) 気道;気道損傷は組織修復、細菌の定着を促進

(4) 肺胞;最大の殺菌が得られるのは 10bacteria/1好中球

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第 3 章 Ⅴ-4

5)治療

(1)抗菌薬の選択

原則は原因菌をカバーする十分な抗菌薬投与である。培養結果の評価にあたっ

て、気道分泌物が明らかに下気道由来の証拠として塗抹標本上好中球 25個以上、

扁平上度細胞 10個以下/LPFであることがあげられる。

VAPが疑われた場合には、より早期に予測される病原菌に対する抗菌薬の投与

が望ましい。長期人工呼吸管埋が施行され、また広範囲抗菌薬が VAP発症前に投

与されている場合には、病原菌として耐性菌の可能性を考慮すること。特に

Pseudomonas aeruginosa、Acinetobactor species、 Stenotrophomonas maltophilia が

重要である。また,MRSAも 5日以上の人工呼吸管理、あるいは入院第 5病日以降

の患者、副腎皮質ホルモン剤投与中の患者、器質的な肺疾患、免疫抑制剤の投与

患者では考慮し、抗 MRSA 用抗菌薬も投与薬剤に加える必要性がある。いずれに

せよ VAP の原因菌として耐性菌のリスクが高い患者では、作用機序の異なった 2

種類の抗菌薬の投与が望ましい。ICU では他病棟と比較して耐性菌も多く検出さ

れ、また医療施設毎での耐性菌の動向も異なることから、日頃からの菌動向の把

握がきわめて重要である。耐性菌の発現を最小限とするためにも、培養結果でよ

り狭域の抗菌薬へ変更したり、感染症が否定的であれば中止するなどの考慮が必

要となる。

6) 人工呼吸器関連肺炎防止策

(1) 器具の消毒

①人工呼吸器の本体を滅菌、消毒する必要はない。

②ただし、VAP の原因であることが疑われるときは、直ちに呼吸器内部の回路

を含めて本体表面の細菌検査を行い滅菌、消毒を行う。

③人工呼吸器回路を再使用する場合は、滅菌する。

④人工呼吸器回路を同一患者に使用する際は、1 週間以内であれば定期的に交

換しなくてもよい。

⑤人工呼吸器に関連したディスポ製品の再利用は行わない。

⑥回路内の結露は、患者側へ流入しないように除去する。

⑦周辺器具の消毒は、通常の分類に従って行う。

⑧セミクリティカル物品(喉頭鏡のブレード、フェイスマスク、マウスピース、

エアウェイ、スタイレット等)は、滅菌し、清潔に保管する。

(2)バクテリアフィルター付きの人工鼻

①成人症例では、加温加湿器に比べて、肺炎の合併率が低いため人工鼻を使用

する。

②人工鼻および周辺機器は、48時間ごとに交換する。

(3)周辺機器や手技・操作の衛生管理

①ネブライザーの薬液注入部は、0.01%次亜塩素酸ナトリウムによる浸漬消毒

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第 3 章 Ⅴ-5

(1時間)を行い、滅菌水で洗浄後に空気乾燥を行う。

②吸入薬剤は、無菌的に混合する。

③加温加湿器には滅菌水を使用する。

(4)気管内吸引

①気管内吸引操作は、マスク、手袋、ビニールエプロン、ゴーグルを着用し、

清潔操作で行い、必要最小限にとどめる。

②吸引チューブの洗浄には滅菌水を使用する。

③吸引回路及び吸引ビンは患者専用とする。

④アンビューバックやジャクソンリースは患者毎に定期的に交換する。

⑤閉鎖式吸引システムを使用してもよい。

(5)気管切開

①気管切開を行う場合は、高度バリアプリコーション(清潔手袋、ガウン、マ

スク、帽子、大きな清潔覆布)で行う。

②気管切開チューブの交換を行うときは、清潔操作で行う。

(5)栄養管理

①経管栄養の目的以外の経鼻胃管チューブは出来るだけ早期に抜去する。

②経管栄養中は消化管運動や、チューブ先端の位置を確認し、注入時に可能で

あれば上体を 30~45度挙上させる。

(6)経口挿管と経鼻挿管

①カフ上部の貯留物を吸引するための側孔付きの気管内チューブを使用する。

②気管チューブの抜管時または気管チューブを動かす前にはカフ上部の分泌

物を吸引した後に行う。

(7)選択的腸内殺菌(Selective Decontaminetion of the Digestive Tract:SDD)

人工呼吸器関連肺炎防止の目的で非吸収性抗菌薬の消化管投与(SDD)はルー

チンに行わない方がよい。

(8)ストレス潰瘍予防薬

①ストレス潰瘍の危険性の少ない患者に対して、H2-Blockerを投与しない。

②ストレス潰瘍の危険性が高い患者には、胃の pH を上げない薬剤を使うほう

が良い。

(9)体位変換

可能であれば、上体を 45度挙上した体位で人工呼吸器管理を行う。

(10)口腔ケア

①口腔ケアを2~3回/日行う。ブラッシング後なるべく大量の水で洗浄する。

②口腔ケアを行う前に、口唇周囲を清拭し、気道への分泌物流入防止のため、

一時的にカフ圧を 30~40mmHgにする。

(11)予防的抗生物質の投与

人工呼吸器装着患者に対する予防的抗菌薬投与は行わない。

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第 3 章 Ⅴ-6

3.手術部位感染予防策

手術部位感染(Surgical site infection:SSI)とは、手術操作の加わった深部臓

器や体腔を含め、手術中に汚染を受けた一次閉鎖した手術部位の感染である。術後の

ドレーンからの逆行性感染や遠隔部位感染は含まない。

米国 CDC の手術部位感染の概念には、1)切開部表層 SSI、2)切開部深層 SSI、

3)臓器/腔 SSIがあり、手術 30日以内(インプラントのある場合は 1年以内)に起

きた感染をいう。

1) 術前スクリーニング

(1) 術前患者の鼻腔のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)スクリーニング監視

培養検査は、感染リスクや手術の重篤性などを考慮して行う。

(2)手術前に一律にムピロシン軟膏を塗布する必要はない。

(3)バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクがあり、スクリーニングが

必要な場合は直腸内採取便検査が有用である。

2) 手術患者に対する術前対応

(1) 待機手術では遠隔部位に感染症がある場合は、あらかじめ治しておく。

(2) 手術野の体毛が邪魔にならなければ、手術前に除毛(剃毛)しない。

(3) 除毛が必要な場合は、手術用クリッパー(surgical clipper)を使って手術の

直前に行う。

(4) 血糖値レベルを適切に管理し、周術期の高血糖状態(>200mg/dl)を避ける。

(5) 待機手術の術前1月間は禁煙する。

(6) 皮膚消毒をする前に切開する部位および周辺を十分に洗浄清浄化して大きな

汚れを取り除く。

(7)待機手術の術前 1ヶ月間は禁煙する。

(8) 皮膚消毒には適切な消毒薬を用いる。健常皮膚にはアルコール配合剤を用いる

ことが望ましい。

(9) 皮膚消毒は執刀予定部位から同心円状に周囲に向かって十分広い領域に対し

て行う。

(10) 適切な術前準備ができる範囲内で、手術前の入院期間を短くする。

3) 術者の手指消毒(手術時手洗い)

(1) 爪を短く切り、手洗い前に爪の内側を清潔にする。手や腕に装身具をつけては

ならない。

(2) 持続活性のある抗菌性手指スクラブ剤入によるスクラブ(ブラシを用いた手洗

い)、またはアルコール含有手指消毒薬によるラビング(擦り込み)による手洗

いを行う。

(3) 抗菌性手指スクラブ剤による手洗いを行う場合は、手及び前腕を2~6 分スク

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第 3 章 Ⅴ-7

ラブする。10分以上行う必要はない。

(4) アルコール含有手指消毒薬を使用する場合は、まず非抗菌性石けんであらかじ

め手と前腕を洗い、完全に乾かした後、消毒薬によるラビングを数分間行う。そ

して再び完全に乾かした後手袋をはめる。

4)無菌操作

(1) 滅菌物の術野への補充に際しては、包装開封時の無菌操作手技に熟練しておく。

(2) 血管内カテーテル留置、脊髄麻酔、硬膜外麻酔、静脈注射などは無菌操作で行

う。

(3) 滅菌物への薬液注入は使用直前に行う。

(4) 術中の体位変換などの際は、汚染を生じないように注意する。

5) 手術手技

(1) 手術対象臓器は丁寧に扱い壊死組織や異物はできる限り除去し死腔をなくす。

(2) 手術部位の汚染が著しい場合は、創の二次閉鎖を考慮する。

(3) ドレーンは必要な場合にのみ用い、できるだけ早く抜去する。

(4) ドレーンは手術創以外の創から挿入し、なるべく閉鎖式ドレーンを用いる。

(5) 術中に手袋汚染や破損があった場合は、直ちに交換する。

(6) 皮下組織への消毒剤の使用を避け、生食での洗浄を行なう。

6) 予防的抗菌薬投与

(1) 抗菌薬は手術対象臓器に関わりの深い病原菌に感受性を持つ薬剤を選択する。

(2) 抗菌薬の初回投与は,執刀時に組織内濃度が高まるように術前 30 分前ごろか

ら経静脈的に投与する。

(3) 薬剤の有効血中濃度の推移を考慮して追加投与を行う。

(4) 手術後は遠隔部位感染防止も念頭に置いて投与期間を決める。清潔手術では手

術当日のみ、その他の手術では 3日間程度を投与の目安とする。

(5) 汚染手術や感染部位の手術では、当初より治療的抗菌薬投与を考慮する。

(6) 大腸直腸手術では腸管の機械的準備に加えて、非吸収性抗菌薬を術前日のみに

限定して複数回経口投与してもよい。

(7)バンコマイシンを日常的に予防的抗菌薬として使用してはならない。

7)手術時の服装と覆布類

(1) 手術中の手術室もしくは滅菌器械が展開されている部屋では、口と鼻を完全に

覆う手術用マスクと頭髪を完全に覆う帽子を着用する。

(2) 血液や体液による飛散が予想される場合には、フェイスシールドやゴーグルを

着用する。

(3) 手術部位感染防止上は、靴カバーの着用や履物の交換の必要はない。

(4) 手術用ガウンや覆布には、液体や微生物のバリアー効果の優れた素材を用いる。

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第 3 章 Ⅴ-8

8) 手術器械の洗浄、滅菌、保管

(1) 使用器材はウォッシャーディスインフェクタなどを使用して、汚染が拡大しな

いように適切に洗浄する。

(2) 手術用器械の滅菌には、滅菌バリデーションが確実に行われている滅菌器を使

用し、熟練した担当者が行う。

(3) 滅菌包装は滅菌対象物や滅菌方法に適した方式で行う。

(4) 非耐熱性の物品の滅菌には、酸化エチレンガス滅菌、過酸化水素低温ガスプラ

ズマ滅菌法、または化学滅菌剤を用いる。

(5) 滅菌物の使用期限は、滅菌法、包装法、保管状況などの諸条件を考慮して決め

る。

(6) ハイスピード滅菌(フラッシュ滅菌)は、不注意で落とした器具の再処理など

直ちに使用する器械のみについて適用できる。

(7) シングルユース器材(単回使用器材:SUDs)は適切に廃棄する。

9) 手術後の対応

(1) 創は滅菌した被覆材(ドレッシング)で術後 48時間は保護する。

(2) ドレーンは出来る限り早期に抜去する。

(3) 包帯交換する前後には衛生的手洗い後手袋を着用し、無菌操作の破綻がないよ

うにする。

(4) 退院に際しては、患者に感染の徴候や症状を教え、その対応について説明して

おく。

手術創分類

クラスⅠ/

Clean

感染していない手術創で炎症はないもの。ただし、呼吸器、消化器、

生殖器、感染していない尿路は含まない。さらに、清潔創が一期的

に閉鎖されて、必要な場合には閉鎖ドレーンが入っている場合。

非貫通性(鈍的)外傷後の切開創も基準を満たせばここに含む。

クラスⅡ 呼吸器、消化器、生殖器、尿路の手術で、良く管理され異常な汚染

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第 3 章 Ⅴ-9

Clean-Contaminated がないもの。特に明らかな感染が無く、手術で大きな損傷を起こし

ていない場合は、胆道、虫垂、膣、口腔咽頭の手術もここに含める。

クラスⅢ

Contaminatid

開放性の新鮮な偶発的な創。加えて滅菌操作を行う操作(開胸心マ

ッサージ)、消化管からの大きな漏出や非化膿性の急性炎症部位の切

開創はここに含める。

クラスⅣ

Dirty-Infected

処置の遅れた壊死組織のある陳旧性外傷および臨床的な感染症の存

在や内臓穿孔がある場合。この定義は術後感染を引き起こす細菌が、

手術前から術野に存在することを示唆している。

アメリカ麻酔学会(ASA)身体状態分類

分類 患者の状態

1 一般的に健康な患者

2 中等度の全身状態

3 重症の全身疾患があるが、日常生活は可能

4 常に生命を脅かすような重症の全身疾患がある

5 手術の有無にかかわらず 24時間以内に死亡すると思われる

6 脳死患者で移植のドナーとして

4.血管留置カテーテルに関連した血流感染対策

1) 中心静脈カテーテルの衛生管理

(1) 高カロリー輸液を行う際の原則

①栄養管理が必要な場合には可能な限り、中心静脈栄養よりも経腸栄養を使用する。

②高カロリー輸液製剤への薬剤の混合は、可能な限り薬剤部で無菌環境下に行う。

③高カロリー輸液を投与するにあたっては、混合する薬剤の数量を最小化し、回路

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第 3 章 Ⅴ-10

の接続などの作業数を最小限にする。

(2) 使用器具の衛生管理

① カテーテルの内腔数は必要最小限となるようにする。

② カテーテルは使用目的によって選択する。

(3) カテーテル挿入時の注意点

① カテーテル挿入部位は鎖骨下静脈を第一選択とする。

②中心静脈カテーテル挿入時は、必ず高度バリアプレコーション(清潔手袋、滅菌

ガウン、マスク、帽子と大きな清潔覆布)を行う。

③ スワンガンツカテーテル挿入時にはハンズオフカバーを使用する。

④中心静脈カテーテル挿入に伴う予防的抗生物質投与は行わない。

⑤穿刺に先立って挿入部の剃毛は行わない。除毛が必要な場合は電気バリカンを用

いる。

⑥カテーテル挿入部の消毒は、0.5%クロルヘキシジンアルコールまたは 10%ポビド

ンヨードを用いる。

(4)カテーテル挿入部の皮膚の管理

① カテーテル挿入部位の消毒薬は、0.5%クロルヘキシジンアルコールまたは 10%

ポビドンヨードを用いる。

②抗生物質含有軟膏は使用しない。

③ポビドンヨードゲルは用いない。

④ ドレッシングは滅菌されたガーゼ型ドレッシングまたはフィルム型ドレッシン

グを使用する。

⑤ドレッシング交換の頻度は週1~2回、曜日を決めて定期的に行う。

(5)輸液ラインの管理

① 輸液ラインとカテーテルの接続部消毒には消毒用エタノールを用いる。ただし、

器具に亀裂が入ることがあるので注意を必要とする。

② 輸液ラインを多目的使用することは避ける。

③ 三方活栓から側注する場合は厳重な消毒操作が必要であり、手袋を着用し輸液

ラインをカテーテルハブに接続する場合と同様の消毒操作(消毒用エタノール)

を行う。

④ 輸液セットは曜日を決めて週 2回定期的に交換する。

⑤ インラインフィルターを必ず使用する。

⑥ 脂肪乳剤の投与に使用する点滴ラインは、可塑剤である DEHP(フタル酸ジー 2-エチル

ヘキシル)を含まない材質の製品を用い、24時間以内に交換する。

⑦ ヘパリンロックは原則として行わない。

フィルター使用上注意を要する薬剤・フィルター上流から投与できない薬剤

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第 3 章 Ⅴ-11

原液のままではフィルターを

目詰まりさせる可能性がある

ので、注入前後にフラッシュを

要する薬剤

ファンギゾン注(ブドウ糖液によるフラッシュ)

ラシックス注、ソルメドロール、ソルコーテフ、

ソルダクトン、アレビアチン注射液、イソゾー

ル、ラボナール注(生理食塩液によるフラッシ

ュ)

フィルターを通過しないか、あ

るいはフィルターに吸着する

薬剤

リポ化製剤(リプル、パルクス、ロピオン、デ

ィプリバン注など)、

油性製剤(ビタミンA、ビタミンD、サンディ

ミン注など)、

脂肪乳剤(イントラリポス、ミキシッドなど)

G-CSF製剤(ノイトロジン、グラン、ノイ

アップなど)

セルロース系フィルターを溶

解する可能性のある薬剤

ラステット

(6) カテーテルの入れ替え

① 刺入部の感染を伴うか否かにかかわらず、臨床症状からカテーテル感染が疑

われた場合は速やかにカテーテルを入れ替える。

(7) 病棟における薬剤混合法

① 薬剤の混合はなるべく薬剤部で無菌的に行う。

② 病棟での混合薬剤数は極力少なくする。

③ 混合場所は専用スペースで行う。

④ 作業面の消毒は消毒エタノールなどを使用する。

⑤ 混合操作時はマスクをつけ、手洗い後非滅菌手袋を着用して作業を行う。

⑥ 薬剤の混合にあたっては、その作業に専念できるようにする。

(8)高カロリー輸液製剤調整時の管理

① 高カロリー輸液製剤は、混合後 28時間以内に投与を終了する。調整後の製剤

は必ず冷蔵庫で保存する。

② 脂肪乳剤を含んだ製剤は、三方活栓にひび割れを生じさせることがあるので、

接続部の液漏れや汚染に注意する。

③ 高カロリー輸液施行に際しては、総合ビタミン剤を使用する。

④ ビタミン剤を添加する場合は、遮光カバーを使用する。

⑤ 高カロリー輸液製剤の外包装は、投与直前まで開封しない。

⑥ 細菌の増殖が高まるため、高カロリー輸液には、アルブミン製剤や脂肪乳

剤を加えない。

2)末梢静脈カテーテルの衛生管理

(1)カテーテルおよび留置部位の選択

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第 3 章 Ⅴ-12

①血管外に漏出すると周辺組織の壊死を引き起こす薬剤の注入は,カテーテル先

端が血管内に確実に存在し、周囲に炎症所見がないことを確認して行う。

②可能な限り上肢の静脈を使用する。

③カテーテルは可能な限り細径のものを使用する。

(2)カテーテル留置期間中の管理

①静脈炎のリスクを減らすため、通常、末梢静脈カテーテルは 72 時間以上留置

しないほうがよい。

②末梢静脈カテーテルの輸液ラインは、カテーテル入れ替え時に交換する。

③原則としてヘパリンロックは行わない。

④静脈炎の徴候(発赤、腫脹、疼痛)がある場合は、速やかにカテーテルを抜去

する。

⑤カテーテル挿入部は滅菌のドレッシングで被覆する。

3) 末梢動脈カテーテルと血圧モニタリングシステムの衛生管理

(1)カテーテルを 4日以内に入れ替える必要はない。

(2)留置部位による感染リスクに差はない。

(3)ドレッシング交換は、週1~2回、曜日を決めて定期的に実施する。

(4)ディスポーザブルのモニタリングセットを使用する。

(5)ヘパリン加生食液の交換は最低 96時間毎に行う。

(6)圧モニタリングセットを 4日以内に交換する必要はない。

4) 血液浄化用の中心静脈カテーテルの衛生管理

(1) 血液浄化用中心静脈カテーテルにはダブルルーメンのダクロンカフ付きシ

リコン製を使用する。

(2) 留置部位は内頸静脈か鎖骨下静脈を選択したほうがよい。

(3) カテーテル刺入部の管理はイソジンを用いて行い、ポピドンヨードゲルを塗

布してドレッシングで被覆し、密封状態を保つ。

5.食中毒

1)食中毒とは

食中毒原因微生物には、表に示すように国が指定する 16種類の食中毒原因菌と

3類感染症の細菌性赤痢、コレラ、腸チフス、パラチフス、さらにウイルスのロタ

Page 69: 第3章感染症対策各論mrsa/infection_control/manual/pdf/manual3...第3 章 Ⅰ-1 第3章感染症対策各論 Ⅰ.薬剤耐性菌の感染対策 1.MRSAについて MRSAはmecA遺伝子の獲得によりペニシリン結合蛋白PBP2’を作りメチシリン(あるい

第 3 章 Ⅴ-13

ウイルス、ノロウイルスがある。食中毒菌は発生機構によって、感染侵入型、感染

毒素型、生体外毒素型の3つに分類できる。前 2者は、細菌が体内に入って食中毒

を起こすもので、「感染型」と総称され、発熱、腹痛、嘔吐、下痢などの臨床症状

がある。後者は細菌の毒素によって食中毒を起こすもので、「毒素型」と総称され

る。毒素型のボツリヌス菌は複視、発語障害、呼吸障害などの神経症状がみられる。

また、腸管出血性大腸菌感染症では、溶血性尿毒症症候群と脳症に注意を要する。

2)食中毒発生時の対応

(1)院内で食中毒が疑われたら、直ちに対策本部を設置し、直ちに保健所に届出す

る。原因の究明、厨房の消毒、使用停止、再開などについては保健所の指示に従

う。

(2)ほとんどの食中毒は患者排泄物からの二次感染はないが、少量の菌量(数~数

百個)で感染が成立する細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症および感染力が強

いノロウイルス、ロタウイルスおよび腸チフス、パラチフスは排泄物から二次感

染が起こりうるので、予防対策を行う。

3)二次感染予防対策

(1)接触予防策を遵守する。

(2)複数の患者が発生すれば、1つの病室に集めてケアする(コホーティング)。

(3)医療従事者および入院患者は、患者のケアの前後、排便後と食事前に石鹸と流

水で十分に手洗いを行う。

(4)糞便と吐物は、手袋、マスクおよびディスポエプロンを着けて処理する。

(5)排泄物が付着していないリネン類は通常の処理でよい。排泄物が付着している

リネン類は熱水洗濯(80℃10 分間)するか、低レベル消毒薬に約 30 分浸漬した

のち洗浄する。

(6)糞便と尿は水洗トイレに流して良い。

(7)洋式トイレの便座、フラッシュバルブ、水道蛇口、ドアノブは、使用後 0.02~

0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。金属部分は、次亜塩素酸ナトリウムで

清拭後十分に水拭きで拭き取りを行う。

(8)便器やポータブルトイレを使用する際は、便器の処理はベッドパンウォッシャ

ーで熱水消毒を行う。

(9)食器は通常の処理でよい。

食中毒の原因微生物

原因微生物 発症機構 主な分布 潜伏期 主な感染源

黄色ブドウ球菌 A ヒト鼻咽喉 3 時間 食品全般

ボツリヌス菌 A 土壌 10-40 時間 嫌気性食品(瓶、缶

詰)

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第 3 章 Ⅴ-14

腸炎ビブリオ B 海産魚介類 5-20 時間 海産魚介類

サルモネラ C 動物・ヒト(腸管) 10-72 時間 卵、肉

セレウス菌 B 土壌 5-24 時間 肉、乳製品

ウェルシュ菌 B 土壌、動物、ヒト(腸管) 8-24 時間 肉

下痢原性大腸菌

腸管侵入性大腸菌 C 動物・ヒト(腸管) 12-72 時間 食品、飲料水

(腸管)毒素性大腸菌 B 動物・ヒト(腸管) 12-24 時間 食品、飲料水

腸管病原性大腸菌 B 動物・ヒト(腸管) 2-9 日 食品、飲料水

腸管出血性大腸菌 B 動物・ヒト(腸管) 不明 肉、飲料水

腸管凝集付着大腸菌 B 動物・ヒト(腸管) 12-24 時間 肉、飲料水

エロモナス・ヒドロフィラ B 河川・淡水魚介類 12-24 時間 河川、淡水魚介類

エロモナス・ソブリア B 河川・淡水魚介類 2-7 日 河川・淡水魚介類

カンピロバクター・コリ B 動物・ヒト(腸管) 2-7 日 鶏肉、飲料水

カンピロバクター・ジェジュニ B 動物・ヒト(腸管) 12-24 時間 鶏 肉 、 飲 料 水 、

生牛乳

プレシオモナス・シゲロイデス B 河川・淡水魚介類 5-24 時間 河川、淡水魚介類

ナグビリオ B 海産魚介類 5-24 時間 海水、海産魚介類

ビブリオ・フルビアーリス B 海産魚介類 5-24 時間 海水、海産魚介類

ビブリオ・ミミカス B 海産魚介類 5-24 時間 海水、海産魚介類

エルシニア・エンテロコリチカ C 動物・ヒト(腸管) 1-7 日 豚肉、ペット動物

細菌性赤痢 C ヒト(腸管)・水系 1-3 日 サラダ、飲料水

コレラ B 河川・淡水魚介類 7-14 日 河川、淡水魚類、貝

腸チフス・パラチフス ヒト(腸管) 24-48 時間 飲料水、肉、 患

者便

ノロウイルス 5-24 時間 二枚貝、患者便

ロタウイルス 12-48 時間 患者便

A:毒素型(生体外毒素型) B:感染毒素型(生体内毒素型) C:感染侵入型